説明

動力伝達装置

【課題】装置の大型化や部品点数が増大する事態を招来することなく、動力の断続をスムーズに行うことができるとともに、動力を断続する際のショックを低減すること。
【解決手段】共通の回転軸心Cを中心としてそれぞれ回転可能に配設した駆動円板10及び従動円板20と、駆動円板10において回転軸心Cを中心とした円周上となる部位に配設した永久磁石12と、従動円板20において駆動円板10の永久磁石12に対向する部位に配設し、駆動円板10に対して従動円板20が相対的に回転した場合に誘導起電力が発生するコイル22bと、コイル22bを一要素とする電気回路を閉回路と開回路とに切り替える第1スイッチ及び第2スイッチとを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の回転体と第2の回転体との間において動力の伝達を行う装置に関するもので、特に、動力を断続することのできる動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の動力伝達装置としては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。この動力伝達装置は、プーリーの回転をファンに伝達するもので、プーリーによって駆動される駆動軸に導体が設けられている。一方、ファンが取り付けられた従動体には、導体に対向するように永久磁石が設けられている。
【0003】
この動力伝達装置では、駆動軸を回転させると、導体と永久磁石との相対回転により導体にうず電流が流れて磁界が発生し、その磁気作用で生じる吸引力により導体が永久磁石に吸引される。この結果、従動体が駆動軸と同方向に回転し、ファンを駆動することができるようになる。
【0004】
【特許文献1】特許第4062485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した動力伝達装置によれば、導体と永久磁石との間の磁気的な吸引力によってプーリーの回転がファンに伝達されることになるため、動力の断続をスムーズに行うことができるとともに、動力を断続する際のショックを低減することが可能となる。
【0006】
しかしながら、相対回転する導体と永久磁石との間には常時うず電流が流れて吸引力が作用することになるため、動力の断続を行うためには、専用の機構が必須となる。つまり、特許文献1に記載された動力伝達装置においては、プーリーと駆動軸との間に電磁クラッチ機構を介在させ、電磁クラッチ機構がONされた場合にのみプーリーによって駆動軸を回転させるように構成することで動力の断続を行うようにしている。この結果、動力伝達装置としては、導体と永久磁石との間の吸引力により動力を伝達する機構と、動力を断続させる電磁クラッチ機構とが必要となり、装置が大型化する事態や部品点数が増大する事態を招来することになる。
【0007】
本発明の目的は、上記実情に鑑みて、装置が大型化する事態や部品点数が増大する事態を招来することなく、動力の断続をスムーズに行うことができるとともに、動力を断続する際のショックを低減することのできる動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に係る動力伝達装置は、共通の回転軸心を中心としてそれぞれ回転可能に配設した第1の回転体及び第2の回転体と、前記第1の回転体において前記回転軸心を中心とした円周上となる部位に配設した永久磁石と、前記第2の回転体において前記第1の回転体の永久磁石に対向する部位に配設し、前記第1の回転体に対して前記第2の回転体が相対的に回転した場合に誘導起電力が発生する電磁誘導体と、前記電磁誘導体を一要素とする電気回路を閉回路と開回路とに切り替える切替手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2に係る動力伝達装置は、上述した請求項1において、前記永久磁石及び前記電磁誘導体は、それぞれ前記回転軸心を中心とした円周上に沿って複数配設したものであり、一の永久磁石と一の電磁誘導体とが正対した場合に他の永久磁石と他の電磁誘導体とが正対からずれるように配置したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3に係る動力伝達装置は、上述した請求項2において、複数の永久磁石は互いに同一の形状を有し、前記回転軸心を中心とした円周上に等間隔に配設したものであり、複数の電磁誘導体は互いに同一の形状を有し、前記回転軸心を中心とした円周上に等間隔に配設したものであり、前記永久磁石と前記電磁誘導体とは配設した数が互いに異なることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項4に係る動力伝達装置は、上述した請求項1において、前記第1の回転体及び前記第2の回転体は、前記回転軸心に直交する端面を互いに対向させた円板状部材であり、一方の端面に配設した永久磁石と他方の端面に配設した電磁誘導体とを対向させたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項5に係る動力伝達装置は、上述した請求項1において、前記第2の回転体は、両端面がそれぞれ前記回転軸心に直交する円板状を成し、前記両端面からそれぞれ露出する態様で電磁誘導体を貫通配置したものであり、前記第1の回転体は、前記第2の回転体のそれぞれの端面に対向する態様で配設した一対の円板状部材であり、前記第2の回転体の端面に対向する端面にそれぞれ永久磁石を備えたものであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項6に係る動力伝達装置は、上述した請求項1において、前記第1の回転体及び前記第2の回転体は、前記回転軸心を中心とした周面を互いに対向させた円筒状部材であり、一方の周面に配設した永久磁石と他方の周面に配設した電磁誘導体とを対向させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、切替手段により電磁誘導体を一要素とする電気回路を閉回路に切り替えた場合にのみ電磁誘導体と永久磁石との間に磁気的な吸引力が作用することになる。従って、別途動力を断続するための機械的なクラッチ機構を要することなく、動力の断続をスムーズに行うことができるとともに、動力を断続する際のショックを低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る動力伝達装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態1である動力伝達装置を示したもので、駆動円板(回転体)10と従動円板(回転体)20との間において動力の伝達を行うものを例示している。駆動円板10は、円形の平板状を成すもので、互いの軸心Cを合致させた状態で駆動軸30の先端部に固着し、駆動軸30と一体に回転することが可能である。駆動軸30は、図には明示していないが、エンジン等、回転駆動源に接続された円柱状部材であり、回転駆動源が駆動した場合に自身の軸心Cを中心として回転する。従動円板20は、駆動円板10と同じ外径を有した円形の平板状部材であり、ベアリング20aを介して駆動軸30の外周部に配設し、自身の軸心Cを駆動軸30の軸心Cに合致させた状態で駆動軸30の軸心Cを中心として回転することが可能である。本実施の形態1で例示する従動円板20としては、駆動円板10に対して2倍程度の板厚を有したものを適用している。従動円板20の板厚としては、必ずしも駆動円板10に対して2倍程度の板厚を有している必要はなく、後述する永久磁石(12)との間において所望の誘導起電力を発生することのできる大きさのコイル(22b)を収容できれば良い。
【0017】
図からも明らかなように、これら駆動円板10及び従動円板20は、軸心Cに直交する端面11,21を互いに近接対向させた状態で駆動軸30に配設してある。駆動円板10において従動円板20に対向する一方の端面(以下、「対向端面11」という)には複数の永久磁石12が配設してある一方、従動円板20には駆動円板10に対向する一方の端面(以下、「対向端面21」という)に露出する態様で複数のコイルユニット22が配設してある。
【0018】
永久磁石12は、図1及び図2に示すように、互いに同一形状の平板状を成すもので、駆動円板10の対向端面11において軸心Cを中心とした半径aから半径bまでの円周領域上に互いに等間隔に配設してある。本実施の形態1では、駆動円板10の対向端面11に12個の永久磁石12が配設してある。これらの永久磁石12は、隣接するものの磁極が互いに異なるようにN極とS極とが交互に配置してある。
【0019】
コイルユニット22は、図1、図3及び図4に示すように、鉄心22aと、鉄心22aの周囲に導線を多数巻回して構成したコイル(電磁誘導体)22bとを備えたもので、鉄心22aの一端面を駆動円板10の対向端面11に対向させた状態で、従動円板20において軸心Cを中心とした半径aから半径bまでの円周領域上に互いに等間隔に埋設してある。本実施の形態1では、コイル22bの外形形状を駆動円板10の永久磁石12と略同一に構成した12個のコイルユニット22が従動円板20に配設してある。図には明示していないが、各コイルユニット22は、従動円板20の対向端面21から見た場合にコイル22bの巻回方向が互いに同一となるように配設してある。各コイル22bを構成する導線の2つの端部22b1,22b2は、それぞれ従動円板20において駆動円板10から離反した側のもう一方の端面(以下、「背面23」という)から外部に導出してある。コイル22bの一方の端部22b1は、従動円板20の外周側から延出してある一方、コイル22bの他方の端部22b2は、従動円板20の内周側から延出してある。
【0020】
また、上記動力伝達装置には、駆動軸30において従動円板20の背面23に対向する部位にコイル接続板40が配設してあるとともに、コイル接続板40にブラシ基板50が付設してある。
【0021】
コイル接続板40は、図1及び図5に示すように、従動円板20と同じ大きさの円板状を成すもので、従動円板20と一体に回転する態様で駆動軸30に配設してある。このコイル接続板40には、従動円板20から離反した側の端面に4本の導電パターン41,42,43,44が設けてある。これらの導電パターン41,42,43,44は、駆動軸30の軸心Cを中心として同心円上に敷設した導電性部材であり、上述したコイル22bの導線に選択的に接続してある。具体的に説明すると、外周側に設けた2つの導電パターン41,42には、コイル22bの一方の端部22b1が交互に接続してあり、内周側に設けた2つの導電パターン43,44には、コイル22bの他方の端部22b2が交互に接続してある。便宜上、外周側から順に第1導電パターン41、第2導電パターン42、第3導電パターン43、第4導電パターン44と称すると、図5に示した例では、第1導電パターン41と第3導電パターン43とを接続した場合、コイルユニット22のコイル22bが一つ置きに閉回路になり、第2導電パターン42と第4導電パターン44とを接続した場合、先とは異なるコイルユニット22のコイル22bが一つ置きに閉回路となるように、それぞれのコイルユニット22が導電パターン41,42,43,44に接続してある。
【0022】
ブラシ基板50は、図1及び図6に示すように、コイル接続板40に設けた4本の導電パターン41,42,43,44の一部を覆う態様で設けた矩形状の平板状部材である。このブラシ基板50には、個々の導電パターン41,42,43,44に対向する部位に接触子51,52,53,54が設けてある。接触子51,52,53,54は、従動円板20に向けて突出し、個々の先端部が対向する導電パターン41,42,43,44に接触している。第1導電パターン41に接触する第1接触子51と、第3導電パターン43に接触する第3接触子53との間は、第1スイッチ(切替手段)61を介して互いに接続してある。第2導電パターン42に接触する第2接触子52と、第4導電パターン44に接触する第4接触子54との間は、第2スイッチ(切替手段)62を介して互いに接続してある。第1スイッチ61及び第2スイッチ62は、図示せぬ制御手段からの開閉指令に応じて同期して開閉されるものである。
【0023】
上記のように構成した動力伝達装置では、回転駆動源(図示せず)を駆動すると、駆動軸30が自身の軸心Cを回転軸心として回転するとともに、駆動円板10が駆動軸30と一体に回転する。これに対して駆動軸30と従動円板20との間には、ベアリング20aが介在しているため、駆動軸30の回転によっては従動円板20が回転することはなく、駆動円板10と従動円板20とが相対回転することになる。
【0024】
駆動円板10と従動円板20とが相対回転すると、従動円板20に設けたコイルユニット22のコイル22bに対して駆動円板10の永久磁石12が変位するため、コイル22bを通過する磁束が変化して個々のコイル22bに誘導起電力が発生する。従って、この状態において第1スイッチ61及び第2スイッチ62を閉じると、個々のコイルユニット22のコイル22bが閉回路となってコイル22bに電流が流れることになる。この場合、上記実施の形態1においては、異なる磁極の永久磁石12を交互に配設しているが、コイルユニット22のコイル22bに関しても一つ置きのもの同士を接続してあるため、コイル22bに流れる電流が相互に打ち消される事態が生じることはない。
【0025】
コイルユニット22のコイル22bに流れる電流は、それぞれの磁束の変化を打ち消す方向に流れるものである。従って、コイル22bに流れる電流による磁力作用によりコイルユニット22が駆動円板10の永久磁石12に吸引され、駆動円板10の回転に呼応して従動円板20が連れ動くようになる。上述した駆動円板10の永久磁石12と、従動円板20のコイルユニット22の間に作用する吸引力は、駆動円板10と従動円板20とが相対回転している間に継続して発生する。この結果、駆動円板10と従動円板20との間において動力が伝達されることになり、例えば従動円板20の周囲に巻回したファンベルトを駆動することができるようになる。
【0026】
一方、上述の状態から第1スイッチ61及び第2スイッチ62を開くと、個々のコイルユニット22のコイル22bが開回路となる。この結果、駆動円板10と従動円板20とが相対回転した場合に、コイルユニット22に誘導起電力は発生するものの、コイル22bに電流が流れることはない。従って、コイルユニット22と永久磁石12との間に吸引力が作用することもなく、駆動円板10から従動円板20への動力伝達が遮断されることになる。
【0027】
これらの間、上記動力伝達装置によれば、駆動円板10と従動円板20とが直接接触することがなく、コイルユニット22と永久磁石12との間に作用する吸引力によって駆動円板10と従動円板20との間の動力を断続させるようにしているため、動力の断続をスムーズに行うことができるとともに、動力を断続する際のショックを低減することが可能となる。
【0028】
しかも、第1スイッチ61及び第2スイッチ62を切り替えてコイルユニット22のコイル22bを閉回路にした場合にのみコイルユニット22と永久磁石12との間に磁気的な吸引力が作用する。換言すれば、第1スイッチ61及び第2スイッチ62により、コイル接続板40の導電パターン41,42,43,44に接触する接触子51,52,53,54の間を断続させれば駆動円板10と従動円板20との間の動力伝達状態を切り替えることが可能となる。従って、従前の動力伝達装置が必須の構成とする電磁クラッチのような機械的なクラッチ機構を設ける必要がなく、動力伝達装置が大型化する事態や部品点数が増大する事態を招来する恐れもない。
【0029】
尚、上述した実施の形態1では、一つの駆動円板(回転体)10と一つの従動円板(回転体)20との間において動力の伝達を行う動力伝達装置を例示しているが、必ずしも回転体の数はこれに限らない。
【0030】
図7〜図9は、動力伝達装置の実施の形態2を示したもので、二つの駆動円板(回転体)110と一つの従動円板(回転体)120との間において動力の伝達を行う動力伝達装置を例示している。駆動円板110は、それぞれ円形の平板状を成すもので、互いの軸心Cを合致させた状態で駆動軸130の先端部に固着し、駆動軸130と一体に回転することが可能である。駆動軸130は、図には明示していないが、エンジン等、回転駆動源に接続された円柱状部材であり、回転駆動源が駆動した場合に自身の軸心Cを中心として回転する。従動円板120は、駆動円板110と同様に円形の平板状部材であり、ベアリング120aを介して駆動軸130の外周部に配設し、自身の軸心Cを駆動軸130の軸心Cに合致させた状態で駆動軸130の軸心Cを中心として回転することが可能である。本実施の形態2で例示する従動円板120としては、駆動円板110に対して3倍程度の板厚を有したものを適用している。従動円板120の板厚としては、必ずしも駆動円板110に対して3倍程度の板厚を有している必要はなく、後述する永久磁石(112)との間において所望の誘導起電力を発生することのできる大きさのコイル(122b)を収容できれば良い。
【0031】
図からも明らかなように、これら駆動円板110及び従動円板120は、軸心Cに直交する端面111,121を互いに近接対向させ、かつ二つの駆動円板110の間に従動円板120を位置させた状態で駆動軸130に配設してある。駆動円板110において従動円板120に対向する一方の端面(以下、「対向端面111」という)には複数の永久磁石112が配設してある一方、従動円板120には駆動円板110に対向する二つの端面121に露出する態様で複数のコイルユニット122が配設してある。
【0032】
永久磁石112は、図7及び図8に示すように、互いに同一形状の平板状を成すもので、駆動円板110の対向端面111において軸心Cを中心とした半径cから半径dまでの円周領域上に互いに等間隔に配設してある。本実施の形態2では、駆動円板110の対向端面111に8個の永久磁石112が配設してある。これらの永久磁石112は、各駆動円板110において隣接するものの磁極が互いに異なるようにN極とS極とが交互に配置してある。また、図には明示していないが、一方の駆動円板110と他方の駆動円板110とでは、互いに異なる磁極の永久磁石112が正対するようにそれぞれの永久磁石112が配設してある。
【0033】
コイルユニット122は、図7及び図9に示すように、鉄心122aと、鉄心122aの周囲に導線を多数巻回して構成したコイル(電磁誘導体)122bとを備えたもので、鉄心122aの各端面をそれぞれ駆動円板110の対向端面111に対向させた状態で、従動円板120において軸心Cを中心とした半径cから半径dまでの円周領域上に互いに等間隔に貫設してある。本実施の形態2では、同一の外形形状を有した12個のコイルユニット122を従動円板120に配設してある。尚、図には明示していないが、各コイルユニット122は、従動円板120の一方の端面121から見た場合にコイル122bの巻回方向が互いに同一となるように配設してある。また、図には示していないが、各コイル122bを構成する導線の2つの端部は、それぞれ従動円板120から外部に導出してあり、それぞれの間が個別のスイッチ(図示せず)を介して互いに接続してある。
【0034】
上記のように構成した実施の形態2の動力伝達装置では、回転駆動源(図示せず)を駆動すると、駆動軸130が自身の軸心Cを回転軸心として回転するとともに、駆動円板110が駆動軸130と一体に回転する。これに対して駆動軸130と従動円板120との間には、ベアリング120aが介在しているため、駆動軸130の回転によっては従動円板120が回転することはなく、駆動円板110と従動円板120とが相対回転することになる。
【0035】
駆動円板110と従動円板120とが相対回転すると、従動円板120に設けたコイルユニット122のコイル122bに対して駆動円板110の永久磁石112が変位するため、コイル122bを通過する磁束が変化する。ここで、上述したように、二つの駆動円板110には、互いに異なる磁極のものが相互に対向するように永久磁石112が配設してある。このため、駆動円板110と従動円板120との相対回転による磁束の変化が相互に打ち消されることはなく、実施の形態1と同様に、個々のコイルユニット122のコイル122bに誘導起電力が発生する。従って、この状態において各コイル122bに設けた図示せぬスイッチを閉じると、個々のコイルユニット122のコイル122bが閉回路となってコイル122bに電流が流れることになり、上述した実施の形態1と同様、この電流による磁気作用によって駆動円板110の回転に呼応して従動円板120が連れ動くようになる。上述した駆動円板110の永久磁石112と、従動円板120のコイルユニット122の間に作用する吸引力は、駆動円板110と従動円板120とが相対回転している間に継続して発生する。この結果、駆動円板110と従動円板120との間において動力が伝達されることになり、例えば従動円板120の周囲に巻回したファンベルトを駆動することができるようになる。
【0036】
一方、上述の状態から図示せぬスイッチを開くと、個々のコイルユニット122のコイル122bが開回路となる。この結果、駆動円板110と従動円板120とが相対回転した場合にコイルユニット122に誘導起電力は発生するものの、コイル122bに電流が流れることはない。従って、コイルユニット122と永久磁石112との間に吸引力が作用することもなく、駆動円板110から従動円板120への動力伝達が遮断されることになる。
【0037】
これらの間、上記動力伝達装置によれば、駆動円板110と従動円板120とが直接接触することがなく、コイルユニット122と永久磁石112との間に作用する吸引力によって駆動円板110と従動円板120との間の動力を断続させるようにしているため、動力の断続をスムーズに行うことができるとともに、動力を断続する際のショックを低減することが可能となる。
【0038】
しかも、図示せぬスイッチを切り替えてコイルユニット122のコイル122bを閉回路にした場合にのみコイルユニット122と永久磁石112との間に磁気的な吸引力が作用する。従って、従前の動力伝達装置が必須の構成とする電磁クラッチ等の機械的なクラッチ機構を設ける必要がなく、動力伝達装置が大型化する事態や部品点数が増大する事態を招来する恐れもない。
【0039】
さらに、本実施の形態2においては、コイルユニット122の両端部にそれぞれ永久磁石112が作用することになるため、実施の形態1と比較して、駆動円板110と従動円板120との間に作用する磁気的な吸引力も大きなものとなり、伝達トルクを増大させることが可能となる。
【0040】
またさらに、本実施の形態2においては、等間隔に配設した同一形状の永久磁石112と等間隔に配設した同一形状のコイルユニット122とが互いに異なる数であるため、一の永久磁石112と一のコイルユニット122とが正対した場合に他の永久磁石112と他のコイルユニット122とが正対からずれるように配置されることになる。従って、複数のコイルユニット122と複数の永久磁石112との間が互いに異なる状態となるため、コギングが原因となる回転変動が抑制される。
【0041】
尚、上述した実施の形態1及び実施の形態2では、いずれも互いに対向する円板の端面に永久磁石及びコイルユニットを配設するようにしているが、回転体としては、必ずしも円板を適用する必要はない。例えば、図10に示す実施の形態3のように、回転軸心Cを中心とした周面を互いに対向させた2つの円筒状部材(回転体)210,220を適用し、一方の円筒状部材210の周面に永久磁石212を配設する一方、他方の円筒状部材220の周面にコイルユニット222を配設するようにしても良い。この場合、実施の形態2と同様に、永久磁石212及びコイルユニット222の数に関しても互いに同一である必要はない。上記のように構成した実施の形態3においても駆動軸230を介して一方の円筒状部材210を回転させ、この状態から図示せぬスイッチによってコイルユニット222のコイル(電磁誘導体)を開回路から閉回路に切り替えると、永久磁石212とコイルユニット222との間の磁気的な吸引力によって他方の円筒状部材220が回転することになる。
【0042】
また、上述した実施の形態1及び実施の形態2では、永久磁石を設けた駆動円板の回転を電磁誘導体を設けた従動円板に伝達するようにしているが、逆の態様で動力を伝達するようにしても構わない。この場合、必ずしも従動側の回転体がベアリングを介して駆動軸に配設されている必要はなく、駆動軸とは別個の従動軸に固着するようにしても良い。
【0043】
さらに、上述した実施の形態1及び実施の形態2では、電磁誘導体として、導線を多数巻回することによって構成したコイルを備えたコイルユニットを例示しているが、永久磁石が変位した場合に誘導起電力が発生するものであれば、必ずしもこれに限らない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の形態1である動力伝達装置を示した断面側面図である。
【図2】図1における II−II 線断面図である。
【図3】図1における III−III 線断面図である。
【図4】図1における IV−IV 線断面図である。
【図5】図1における V−V 線断面図である。
【図6】図1における矢視 VI 図である。
【図7】本発明の実施の形態2である動力伝達装置を示した断面側面図である。
【図8】図7における VIII−VIII 線断面図である。
【図9】図7における IX−IX 線断面図である。
【図10】本発明の実施の形態3である動力伝達装置を示した概念図である。
【符号の説明】
【0045】
10 駆動円板
11 対向端面
12 永久磁石
20 従動円板
21 対向端面
22 コイルユニット
22b コイル
30 駆動軸
40 コイル接続板
50 ブラシ基板
61 第1スイッチ
62 第2スイッチ
110 駆動円板
111 対向端面
112 永久磁石
120 従動円板
122 コイルユニット
130 駆動軸
210,220 円筒状部材
212 永久磁石
222 コイルユニット
230 駆動軸
C 軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の回転軸心を中心としてそれぞれ回転可能に配設した第1の回転体及び第2の回転体と、
前記第1の回転体において前記回転軸心を中心とした円周上となる部位に配設した永久磁石と、
前記第2の回転体において前記第1の回転体の永久磁石に対向する部位に配設し、前記第1の回転体に対して前記第2の回転体が相対的に回転した場合に誘導起電力が発生する電磁誘導体と、
前記電磁誘導体を一要素とする電気回路を閉回路と開回路とに切り替える切替手段と
を備えたことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記永久磁石及び前記電磁誘導体は、それぞれ前記回転軸心を中心とした円周上に沿って複数配設したものであり、一の永久磁石と一の電磁誘導体とが正対した場合に他の永久磁石と他の電磁誘導体とが正対からずれるように配置したことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
複数の永久磁石は互いに同一の形状を有し、前記回転軸心を中心とした円周上に等間隔に配設したものであり、
複数の電磁誘導体は互いに同一の形状を有し、前記回転軸心を中心とした円周上に等間隔に配設したものであり、
前記永久磁石と前記電磁誘導体とは配設した数が互いに異なることを特徴とする請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記第1の回転体及び前記第2の回転体は、前記回転軸心に直交する端面を互いに対向させた円板状部材であり、一方の端面に配設した永久磁石と他方の端面に配設した電磁誘導体とを対向させたことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記第2の回転体は、両端面がそれぞれ前記回転軸心に直交する円板状を成し、前記両端面からそれぞれ露出する態様で電磁誘導体を貫通配置したものであり、
前記第1の回転体は、前記第2の回転体のそれぞれの端面に対向する態様で配設した一対の円板状部材であり、前記第2の回転体の端面に対向する端面にそれぞれ永久磁石を備えたものである
ことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記第1の回転体及び前記第2の回転体は、前記回転軸心を中心とした周面を互いに対向させた円筒状部材であり、一方の周面に配設した永久磁石と他方の周面に配設した電磁誘導体とを対向させたことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−278758(P2009−278758A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127138(P2008−127138)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(303049418)株式会社松栄工機 (21)
【出願人】(390021669)椿本興業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】