説明

動力伝達装置

【課題】2つの軸部材の間において更なる伝達力の向上を図ること。
【解決手段】互いに軸心がねじれの関係にある2つの軸部材10,20を適用対象とし、一方の軸部材10に設けた螺旋状の磁気作用部12と他方の軸部材20に設けた螺旋状の磁気作用部22との間に作用する磁気吸引力により、一方の軸部材10が自身の軸心回りに回転した場合に他方の軸部材20を自身の軸心回りに回転させるようにした動力伝達装置であって、横断面が円形で、かつ両端部から軸方向の中央部に向けて漸次外径が減少する凹曲面状の周面11a,21aを有した柱状を成す動力伝達部11,21を互いの周面11a,21aが対向する態様でそれぞれの軸部材10,20に構成し、個々の動力伝達部11,21に磁気作用部12,22を設けるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに軸心がねじれの関係にある2つの軸部材を適用対象とし、磁気吸引力を利用した非接触式の動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動力伝達装置としては、ギヤ等の機械要素を直接噛み合わせたり、ベルト等の動力伝達要素を介して機械要素の間を接続した接触式のほか、磁気吸引力を利用した非接触式のものが既に提供されている。この種の動力伝達装置は、接触式動力伝達装置に比べて、動作中の騒音がきわめて小さい、摩耗しない、過大な入力があった場合にも損傷を来す虞れがない、等々の利点がある。しかしながら、非接触式動力伝達装置は、一方の軸部材から他方の軸部材への伝達力を考慮した場合、接触式動力伝達装置に比べて劣るのは否めず、如何に伝達力の向上を図るかが重要な課題となっている。
【0003】
例えば、特許文献1では、それぞれの軸部材に円柱状の動力伝達部と、円錐状の動力伝達部とを設けるようにしたものが提供されている。円錐状の動力伝達部は、細径となる部分を円柱状の動力伝達部に向けた状態でその両側に配置されている。それぞれの動力伝達部には、螺旋状の磁気作用部が設けられている。
【0004】
上記のように構成された動力伝達装置では、一方の軸部材に設けた円柱状の動力伝達部に対して他方の軸部材に設けた円柱状の動力伝達部及び2つの円錐状を成す動力伝達部がそれぞれ点で対向することになる。この結果、2つの軸部材にそれぞれ円柱状の動力伝達部を設けた動力伝達装置では1点でのみ磁気吸引力が作用するだけであるが、特許文献1の動力伝達装置では複数の点で磁気吸引力が作用するため、2つの軸部材の間において伝達力を向上させることができるようになる。
【0005】
さらに、特許文献1には、一方の軸部材に設けた円柱状の動力伝達部に対して他方の軸部材に凹曲面を有した動力伝達部を設けるようにしたものも提供されている。凹曲面は、円柱状の動力伝達部に対してそれぞれが一定の間隔をおいて対向するように構成されている。
【0006】
この動力伝達装置では、一方の軸部材の動力伝達部と他方の軸部材の動力伝達部とが他方の軸部材の軸方向に沿った一線上において対向するようになり、両軸部材の間の伝達力をさらに向上させることができるようになる。
【0007】
【特許文献1】特開2006−129664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のように2つの動力伝達部が点、若しくは線で対向するようにした動力伝達装置にあっては、これら点や線を増やすことによる磁気吸引力の向上にも限界があり、更なる伝達力の向上を図るのは困難である。
【0009】
本発明の目的は、上記実情に鑑みて、2つの軸部材の間において更なる伝達力の向上を図ることのできる動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述した2つの動力伝達部において対向する点や線の数を増やすという発想の限界に鑑み、動力伝達部に設けた磁気作用部の対向面積とそれらの間に作用する磁束密度との積によって両者間の磁気吸引力が決定されるのであり、2つの動力伝達部を面で対向させれば両者間の伝達力が飛躍的に向上する筈である、という全く異なる着眼点から本発明を創作するに至った。すなわち、本発明の請求項1に係る動力伝達装置では、互いに軸心がねじれの関係にある2つの軸部材を適用対象とし、一方の軸部材に設けた螺旋状の磁気作用部と他方の軸部材に設けた螺旋状の磁気作用部との間に作用する磁気吸引力により、一方の軸部材が自身の軸心回りに回転した場合に他方の軸部材を自身の軸心回りに回転させるようにした動力伝達装置であって、横断面が円形で、かつ両端部から軸方向の中央部に向けて漸次外径が減少する凹曲面状の周面を有した柱状を成す動力伝達部を互いの周面が対向する態様でそれぞれの軸部材に構成し、個々の動力伝達部に前記磁気作用部を設けるようにしている。
【0011】
また、本発明の請求項2に係る動力伝達装置は、上述した請求項1において、前記2つの軸部材は、一方の軸部材に直交する平面に対して他方の軸部材が直交する態様で配設したものであり、前記磁気作用部は、それぞれ軸心に対して45°の傾斜角度をもって螺旋状に構成したものであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項3に係る動力伝達装置は、上述した請求項1において、動力伝達部の凹曲面状を成す周面は、両端部に規定した2つの基準円の間を同一の傾斜角度を有して連結する複数の傾斜連結直線を含むように構成したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、一方の軸部材に設けた動力伝達部の周面と他方の軸部材に設けた動力伝達部の周面とを共に凹曲面状に構成しているため、個々の周面に設けた磁気作用部を互いに面で対向させることができるようになる。これにより、従前のように点、若しくは線において磁気吸引力が作用する動力伝達装置に比べて2つの軸部材の間の伝達力を著しく向上することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る動力伝達装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態である動力伝達装置を示したものである。ここで例示する動力伝達装置は、互いにねじれの関係にある2つの軸部材10,20を対象とするもので、特に、一方の軸部材10の軸心を含む平面に対して他方の軸部材20の軸心が直交する態様で配設した2つの軸部材10,20の間において動力を伝達するものを例示している。
【0016】
図1からも明らかなように、この動力伝達装置には、それぞれの軸部材10,20に動力伝達部11,21が設けてある。動力伝達部11,21は、横断面が円形状を成し、かつ両端部から軸方向の中央部に向けて漸次外径が減少する凹曲面状の周面11a,21aを有した柱状部材であり、個々の軸部材10,20と一体に回転するように構成してある。一方の軸部材10に設けた動力伝達部11と他方の軸部材20に設けた動力伝達部21とは、互いに同一の形状に構成してあり、それぞれの周面11a,21aに複数の磁気作用部12,22を有している。磁気作用部12,22は、図1〜図3に示すように、個々の軸心を中心とした螺旋状を成す帯状の永久磁石であり、隣接するものが互いに異極となるように複数条設けてある。本実施の形態では、それぞれの磁気作用部12,22が軸部材10,20の軸心に対して45°の傾斜角度(リード角)をもった互いに同一の幅の螺旋となるように構成してある。磁気作用部12,22を設ける場合には、動力伝達部11,21を磁性体によって構成し、これに直接着磁するようにしても良いし、可撓性を有する薄膜状の永久磁石を動力伝達部11,21の周面11a,21aに貼り付けるようにしても構わない。後者の場合、必ずしも動力伝達部11,21を磁性体によって構成する必要はない。尚、動力伝達部11,21に設けた磁気作用部12,22に関しても、一方の軸部材10に設けたものと他方の軸部材20に設けたものとは、個々の幅やピッチ等、同一となるように構成してある。
【0017】
図4は、上述した動力伝達部11,21の詳細構成を説明するためのものである。すなわち、本実施の形態で適用する動力伝達部11,21は、両端部に規定した2つの基準円A,Bの間を同一の傾斜角度を有して連結する複数の傾斜連結直線Cを含むように構成してある。
【0018】
具体的に説明すると、基準円A,Bは、それぞれ軸部材10,20の軸心Dを中心として互いに同一の半径Eを有したものとして規定してある。2つの基準円A,Bの軸方向に沿った相互間距離Fは、基準円Aに頂角45°となる二等辺三角形を描画した場合の底辺Gと同一の長さとなるように規定してある。二等辺三角形における基準円A上の2つの交点H,Jをそれぞれ軸方向に沿って他方の基準円Bに投影させると、4つの点H,J,K,Lで正方形が規定されることになり、その対角線として軸方向に対して45°の傾斜角度をもった傾斜連結直線Cを規定することができる。
【0019】
軸部材10,20の軸心Dを中心として、二等辺三角形を所定角度ずつ回転させ、上記の手順を繰り返し実施すると、2つの基準円A,Bの間が同一の傾斜角度をもった複数の傾斜連結直線Cで連結されることになり、これら複数の傾斜連結直線Cにより、2つの基準円A,Bから軸方向の中央部に向けて漸次外径が減少する凹曲面状の周面11a,21aを有した動力伝達部11,21を構成することができる。この場合、図3に示すように、凹曲面状を成す周面11a,21aは、その縦断面による円弧が上述した基準円A,Bとほぼ同じ曲率の円弧となる。
【0020】
上記のように構成した動力伝達装置では、動力伝達部11,21に形成した凹曲面状の周面11a,21aを互いに近接させ、かつそれぞれの磁気作用部12,22が互いに同一の方向に傾斜する態様で対向させた状態で2つの軸部材10,20を配置させる。この状態から一方の軸部材10を自身の軸心回りに回転させると、従前のものと同様に、動力伝達部11に設けた螺旋状の磁気作用部12と、他方の軸部材20の動力伝達部21に設けた螺旋状の磁気作用部22との間に作用する磁気吸引力により、他方の軸部材20が自身の軸心回りに回転することになる。
【0021】
ここで、上記動力伝達装置によれば、動力伝達部11,21に構成したそれぞれの周面11a,21aを互いに近接させた状態で対向させると、図4及び図5〜図7に示すように、一方の動力伝達部11の周面11aと他方の動力伝達部21の周面21aとが広範囲に亘って一定の距離以下に配置されることになる。つまり、2つの動力伝達部11,21が互いに面で対向することになり、図2に示すように、それぞれに設けた磁気作用部12,22も面で対向するようになる。従って、2つの動力伝達部11,21の間に作用する伝達力は、従前のように点、若しくは線において磁気吸引力が作用する動力伝達装置に比べて著しく向上するようになる。
【0022】
しかも、動力伝達部11,21として両端部に規定した2つの基準円A,Bの間を同一の傾斜角度を有して連結する複数の傾斜連結直線Cを含むように構成しているため、磁気作用部12,22も直線状に構成することができるようになる。従って、動力伝達部11,21に磁気作用部12,22を構成するための着磁機の構成が複雑になる事態を招来することがなく、また着磁する作業が困難になる恐れもない。
【0023】
尚、上述した実施の形態では、動力伝達部の凹曲面状を成す周面として、両端部に規定した2つの基準円の間を同一の傾斜角度を有して連結する複数の傾斜連結直線を含むように構成しているが、必ずしもこれに限らず、凹曲面状を成す周面であれば良い。
【0024】
また、上述した実施の形態では、一方の軸部材の動力伝達部と他方の軸部材の動力伝達部とを同一に構成しているが、例えば、一方の動力伝達部と他方の動力伝達部とが軸方向に沿った長さを互いに異なるように構成しても構わない。但し、この場合においても、磁気作用部の傾斜角度、幅、ピッチに関しては、これらを同一に構成することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態である動力伝達装置を概念的に示す斜視図である。
【図2】図1に示した動力伝達装置において2つの動力伝達部に設けた磁気作用部が対向する状態を示す概念図である。
【図3】図1に示した動力伝達装置の側面図である。
【図4】図1に示した動力伝達装置に適用する動力伝達部の詳細構成を説明するための斜視図である。
【図5】図3における V−V 線断面図である。
【図6】図3における VI−VI 線断面図である。
【図7】図3における VII−VII 線断面図である。
【符号の説明】
【0026】
10,20 軸部材
11,21 動力伝達部
11a,21a 周面
12,22 磁気作用部
20 軸部材
A,B 基準円
C 傾斜連結直線
D 軸心
E 半径
F 相互間距離
G 底辺
H,J,K,L 点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに軸心がねじれの関係にある2つの軸部材を適用対象とし、一方の軸部材に設けた螺旋状の磁気作用部と他方の軸部材に設けた螺旋状の磁気作用部との間に作用する磁気吸引力により、一方の軸部材が自身の軸心回りに回転した場合に他方の軸部材を自身の軸心回りに回転させるようにした動力伝達装置であって、
横断面が円形で、かつ両端部から軸方向の中央部に向けて漸次外径が減少する凹曲面状の周面を有した柱状を成す動力伝達部を互いの周面が対向する態様でそれぞれの軸部材に構成し、個々の動力伝達部に前記磁気作用部を設けたことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記2つの軸部材は、一方の軸部材に直交する平面に対して他方の軸部材が直交する態様で配設したものであり、
前記磁気作用部は、それぞれ軸心に対して45°の傾斜角度をもって螺旋状に構成したものである
ことを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
動力伝達部の凹曲面状を成す周面は、両端部に規定した2つの基準円の間を同一の傾斜角度を有して連結する複数の傾斜連結直線を含むように構成したものであることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−112407(P2010−112407A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283672(P2008−283672)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(303049418)株式会社松栄工機 (21)
【出願人】(390021669)椿本興業株式会社 (20)