説明

動力伝達装置

【課題】効率よく、かつ高い精度で動力の伝達経路を切り替えることができる動力伝達装置を提供することにある。
【解決手段】第1摩擦部材と第2摩擦部材を含み、第1摩擦部材と第2摩擦部材とが接触することで係合状態となる係合部と、係合部を接触可能な接触部を備える剛体と、剛体に対して、接触部が係合部と接触する位置に移動する方向の力を加える弾性体と、剛体に対して、接触部が係合部と接触する位置に移動する方向の液体の圧力を加える第1押圧機構と、剛体に対して、接触部が係合部と接触しない位置に移動する方向の液体の圧力を加える第2押圧機構、を有することで上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達するか否かを切り替える機構を有する動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車としては、駆動源としてエンジンと電動機(電動モータ)とを有するハイブリッド自動車がある。また、このようなハイブリッド自動車では、駆動源となる電動機をスタータとしても使用する自動車がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、エンジンと、トルクコンバータを介して駆動される変速機と、トルクコンバータ側に回転駆動力を伝達する中間出力軸と、中間出力軸の外周側に固定されたロータを有する電動モータと、エンジンのクランク軸とロータの内周面との間に配設されるクラッチ機構と、を備える。クラッチ機構は、クランク軸と一体回転する外輪部を有するハブ部材と、ハブ部材外周とロータ内周面に配設され、板バネで圧接されるクラッチ板の組を有し、エンジンのクランク軸と中間出力軸とを連結し、走行可能とするとともに、変速機側の負荷を無くした状態で電動モータによってエンジンのクランク軸を駆動する再始動制御を可能とする車両用駆動装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−137406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているように、板ばねでクラッチを係合(連結)状態とし、エンジンのクランク軸と中間出力軸とを連結しておくことで、電動モータで発生させた回転をエンジンに伝達することができる。これにより、電動モータをスタータとして用いることができる。
【0006】
しかしながら、特許文献1の装置では、クラッチにかかる負荷が大きくなっても係合状態を維持するために、板ばねとして押し付け荷重の大きいスプリングを用いる必要がある。このため、大きな板ばねを用いる必要が生じ、装置が大型化するという問題がある。また、押し付け荷重の大きい板ばねを用いると、荷重のばらつきが大きくなるため、係合、解放の切り替えのための荷重制御が難しいという問題もある。また、クラッチを解放状態とするために必要な荷重も大きくなり、解放のために使用するエネルギ量も多くなるという問題がある。つまり、動力の伝達経路の切り替えに必要なエネルギ量が多くなるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、効率よく、かつ高い精度で動力の伝達経路を切り替えることができる動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、第1駆動機により回転される第1回転体と、第2駆動機により回転される第2回転体と、前記第1回転体と前記第2回転体との係合状態と解放状態とを切り替えるクラッチ機構とを有し、前記クラッチ機構は、前記第1回転体に連結された第1摩擦部材、及び、前記第2回転体に連結され、前記第1摩擦部材と対面して配置された第2摩擦部材を含み、前記第1摩擦部材と前記第2摩擦部材とが接触することで、前記第1回転体と前記第2回転体とを係合状態とさせる係合部と、前記第1摩擦部材または前記第2摩擦部材と接触可能な接触部を備え、前記接触部が前記第1摩擦部材または前記第2摩擦部材と接触する位置から、前記第1摩擦部材及び前記第2摩擦部材とに接触しない位置まで移動可能な剛体と、前記剛体に対して、前記接触部が前記第1摩擦部材または前記第2摩擦部材と接触する位置に移動する方向の力を加える弾性体と、前記剛体に対して、前記接触部が前記第1摩擦部材または前記第2摩擦部材と接触する位置に移動する方向の液体の圧力を加える第1押圧機構と、前記剛体に対して、前記接触部が前記第1摩擦部材及び前記第2摩擦部材と接触しない位置に移動する方向の液体の圧力を加える第2押圧機構、を有することを特徴とする。
【0009】
ここで、前記剛体は、前記第1摩擦部材と接触し、前記第1摩擦部材と前記第2摩擦部材と接触させる位置に配置されていることが好ましい。
【0010】
また、前記第1摩擦部材は、複数の板状の第1摩擦体で構成され、前記第2摩擦部材は、複数の板状の第2摩擦体で構成され、前記第1摩擦体と前記第2摩擦体とは、交互に配置されていることが好ましい。
【0011】
また、前記第1押圧機構と前記第2押圧機構とは、供給する液体の量及び液体の圧力の少なくとも一方を調整することで、前記剛体に加える力を調整可能であることが好ましい。
【0012】
さらに、前記第2回転体と連結したトルクコンバータを有し、前記第1押圧機構は、前記液体の圧力として、前記トルクコンバータの循環流体が前記剛体に付加する圧力を使用することが好ましい。
【0013】
さらに、前記第2回転体と連結したトルクコンバータを有し、前記第2押圧機構は、前記液体の圧力として、前記トルクコンバータの循環流体が前記剛体に付加する圧力を使用することが好ましい。
【0014】
また、前記係合部、前記剛体及び前記弾性体は、前記トルクコンバータの内部に配置されていることが好ましい。
【0015】
また、前記第1押圧機構は、前記係合部が解放状態の場合は、前記接触部が前記第1摩擦部材または前記第2摩擦部材と接触する位置に移動する方向の液体の圧力を設定された圧力値以下とすることが好ましい。
【0016】
また、前記係合部は、前記弾性体が前記剛体を押す力のみが作用する状態のとき、前記第1回転体と前記第2回転体とが係合状態となることが好ましい。
【0017】
また、前記第1駆動機は、燃焼機関であり、前記第2駆動機は、電動機であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる動力伝達装置は、効率よく、かつ高い精度で動力の伝達経路を切り替えることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、動力伝達装置を備える駆動装置の一例の概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、動力伝達装置の作動油の循環経路を示す模式図である。
【図3】図3は、動力伝達装置を備える駆動装置の他の一例の概略構成を示す模式図である。
【図4】図4は、動力伝達装置を備える駆動装置の他の一例の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、動力伝達装置を備える駆動装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。なお、下記で説明する駆動装置は、主に四輪自動車の駆動装置として用いるものであるが、四輪自動車以外の自動車、例えば、二輪自動車の駆動装置としても用いることができる。また、船舶、飛行機の駆動装置等、種々の装置の駆動装置として用いることもできる。
【実施例1】
【0021】
図1は、動力伝達装置を備える駆動装置の一例の概略構成を示す模式図であり、図2は、動力伝達装置の作動油の循環経路を示す模式図である。駆動装置1は、エンジン2、モータ3、動力伝達装置4と、で構成されている。ここで、エンジン2及びモータ3は、駆動源であり、動力伝達装置4は、エンジン2及びモータ3から出力された駆動力を他の部材に伝達する。なお、他の部材としては、変速機構等が例示される。駆動装置1は、エンジン2、モータ3から出力した駆動力を、動力伝達装置4を介して他の部材に伝達し、他の部材を回転、動作させる。これにより、駆動装置1を備える装置は、駆動され、移動可能な状態となったり、出力可能な状態となったりする。
【0022】
エンジン2は、ガソリン、軽油、バイオエタノール等の燃力を燃焼し、熱を機械的動力として出力する。なお、エンジン2としては、内燃機関、外燃機関等の種々の燃焼機関を用いることができる。エンジン2は、動力を動力伝達装置4に伝達する。
【0023】
モータ3は、いわゆるモータジェネレータであり、供給された電力を機械的動力に変換する電動機としての機能と、入力された機械的動力を電力に変換する発電機としての機能と、エンジン2を始動させるスタータとしての機能を備えている。モータ3は、ステータ10と、ステータ10に対して回転自在のロータ12とで構成されている。モータ3は、電力を供給されることで、ロータ12をステータ10に対して回転させる。また、外部の動力により、ロータ12がステータ10に対して回転されることで、この回転により発生する機械的動力を電力として取り出す。モータ3は、ロータ12が動力伝達装置4と連結されている。
【0024】
動力伝達装置4は、エンジン2及びモータ3から出力された機械的動力を他の部材に伝達する装置であり、入力軸20と、出力軸22と、トルクコンバータ24と、クラッチ機構26と、動力伝達装置4の各部の動作を制御するECU(Electronic Control Unit)28と、を有する。なお、動力伝達装置4は、必要に応じて、モータ3から出力された機械的動力をエンジン2にも伝達する。
【0025】
入力軸20は、エンジン2と連結されており、エンジン2の回転部とともに回転する。
【0026】
出力軸22は、他の部材及びトルクコンバータ24と連結されており、トルクコンバータ24の一部とともに回転し、トルクコンバータ24から伝達された機械的動力を他の部材に伝達する。
【0027】
トルクコンバータ24は、ポンプインペラ30と、タービンランナ32と、ステータ34と、ロックアップクラッチ機構36と、循環油供給手段38と、ロックアップ油供給手段40と、フロントカバー49とを有する。なお、トルクコンバータ24の各部は、フロントカバー49で覆われた領域内に配置されている。また、フロントカバー49は、モータ3のロータ12と連結されており、ロータ12とともに回転する。
【0028】
トルクコンバータ24は、ポンプインペラ30からの機械的動力を、トルクを増大させてタービンランナ32に伝達可能な流体伝動機構である。具体的には、トルクコンバータ24は、ポンプインペラ30で受けた機械的動力を、作動流体(循環油、例えば、ATF:自動変速機用フルード)を介してタービンランナ32に伝達する。ポンプインペラ30からタービンランナ32に流れた作動流体は、ステータ34により流動方向を変えられて、再びポンプインペラ30に流入する。これにより、トルクコンバータ24は、ポンプインペラ30からタービンランナ32に伝達されるトルクを増大させつつ(トルクの増大に比例して回転数は減少させつつ)、動力を伝達させる。なお、トルクコンバータ24内を流れる作動流体(循環油)は、循環油供給手段38により供給される。
【0029】
なお、ポンプインペラ30は、フロントカバー49を介して、モータ3のロータ12と連結されており、ロータ12とともに回転する。つまり、ポンプインペラ30とフロントカバー49とロータ12とはともに回転する。また、タービンランナ32は、出力軸22連結されており、出力軸22とともに回転する。
【0030】
ロックアップクラッチ機構36は、フロントカバー49に伝達された機械的駆動力をトルクコンバータ24内の作動流体を介さずに直接出力軸22に伝達することを可能にする機構である。ロックアップクラッチ機構36は、摩擦係合部36aと、摩擦係合部36aを支持した支持部36bと、支持部36bをタービンランナ32側に付勢するばね36cとを有する。ここで、支持部36bは、タービンランナ32に対して回転方向に直交する方向に移動可能である。また、支持部36bの壁面とタービンランナ32の壁面の間には油室36dが形成されている。
【0031】
ロックアップクラッチ機構36は、後述するロックアップ油供給手段40により油室36dに作動油(ロックアップ油)が供給され、油室36d内の圧力が一定圧力以上となると、油室36d内の圧力により、支持部36bがタービンランナ32から離れる方向に移動される。これにより、摩擦係合部36aがフロントカバー49または、フロントカバー49とともに回転する部材と接触する。このように、摩擦係合部36aとフロントカバー49とが直接または、間接で連結されることで、ポンプインペラ30とタービンランナ32と一緒に回転する状態となる。これにより、フロントカバー49に伝達された駆動力は、そのまま、出力軸22に伝達される。
【0032】
また、ロックアップクラッチ機構36は、ロックアップ状態ではない場合は、フロントカバー49と非接触であるため、上述したように、フロントカバー49に伝達された駆動力は、ポンプインペラ30、作動流体、タービンランナ32を介して、出力軸22に伝達される。
【0033】
なお、油室36dに供給される作動油は、トルクコンバータ24のうち、油室36d内にのみ充填され、他の部分には、供給されない。つまり、作動流体(循環油)とは異なる領域に供給される。
【0034】
次に、循環油供給手段38は、トルクコンバータ24のフロントカバー49に覆われている内部に作動流体(循環油)を供給する供給装置であり、供給口42と、供給口42と連結された油路44と、油路44に作動流体を供給する循環油供給ポンプ48とを有する。循環油供給手段38は、循環油供給ポンプ48から、油路44、供給口42を介して、トルクコンバータ24のフロントカバー49内に作動流体を供給することで、フロントカバー49内には、作動油が充填された状態となる。なお、フロントカバー49内は、作動流体の供給口42と排出口以外からは、作動流体が出ない構成となっている。循環油供給手段38からトルクコンバータ24のフロントカバー49内に作動流体を供給し続けることで、フロントカバー49内の作動流体を循環させることができる。
【0035】
ロックアップ油供給手段40は、油室36dに作動油(ロックアップ油)を供給する供給装置であり、油室36dと連結した供給口46を有する。また、図示は省略したが、ロックアップ油供給手段40は、供給口46と連結した、油路と、作動油を供給する供給ポンプを備える。
【0036】
次に、クラッチ機構26は、フロントカバー49と入力軸20との係合、解放とを切り替える切り替え機構である。つまり、クラッチ機構26は、フロントカバー49に連結されているモータ3と、入力軸20に連結されているエンジン2とが、係合されている状態と、係合していない状態とを切り替える機構である。また、入力軸20に連結されているエンジン2と、トルクコンバータ24(フロントカバー49)とが係合されている状態と、係合していない状態とを切り替える機構でもある。クラッチ機構26は、係合部50と、ピストン52と、弾性体54と、仕切り板55と、作動油供給手段56とを有する。ここで、係合部50と、ピストン52と、弾性体54と、仕切り板55とは、フロントカバー49の内部に配置されている。
【0037】
係合部50は、第1摩擦部材58と、第2摩擦部材60と、第1保持部62と、第2保持部64と、とを有する。第1摩擦部材58は、複数の第1摩擦板で構成されている。第2摩擦部材60も複数の第2摩擦板で構成されており、第1摩擦部材58と対面して配置されている。具体的には、複数の第1摩擦板と、複数の第2摩擦板とがそれぞれ互い違い、つまり交互に積層されて配置されている。したがって、第1摩擦板の2つ面(板状部材の面積が最も広い2つ面)は、それぞれ第2摩擦板と対面して配置されている。
【0038】
第1保持部62は、第1摩擦部材58、具体的には、第1摩擦板の端部を保持(固定)しており、フロントカバー49に固定されている。これにより、第1保持部62と第1摩擦部材58は、フロントカバー49とともに回転する。第2保持部64は、第2摩擦部材60、具体的には、第2摩擦板の端部を保持(固定)しており、入力軸20に固定されている。これにより、第2保持部64と第2摩擦部材60は、入力軸20とともに回転する。係合部50は、外力が作用していない状態では、第1摩擦部材58と、第2摩擦部材60とが非接触、または実質的に非接触となる。この状態では、第1摩擦部材58と第2摩擦部材60との間で力の伝達は生じず、夫々が独立して回転する。これに対して、外力が作用し、具体的には後述するピストン52により第1摩擦部材58が押され、第1摩擦部材58と、第2摩擦部材60とが接触状態となると、第1摩擦部材58と第2摩擦部材60との間で摩擦が発生し、第1摩擦部材58と第2摩擦部材60との間で力の伝達は生じる。このように力の伝達が発生すると、第1摩擦部材58と第2摩擦部材60とがつれまわり、一緒に回転する。なお、外力の大きさによっては、第1摩擦部材58と第2摩擦部材60の間で回転差が生じる場合、いわゆる半クラッチ状態となる場合もある。なお、係合部50は、第1摩擦部材58と第2摩擦部材60とが積層されている部分の、ピストン52と接触する面とは反対側の面は、剛性の高い部材が配置されており、ピストン52によって押された力により、第1摩擦部材58と第2摩擦部材60とがたわむことを抑制している。
【0039】
ピストン52は、剛体で構成されており、一方の端部が第1摩擦部材58の端の第1摩擦板(具体的には、タービンランナ32から最も遠い第1摩擦板の第2摩擦板と対面している面とは反対側の面)と接触し、第1摩擦部材58と接触している側とは反対側の端部(他方の端部)がフロントカバー49に支持されている。ピストン52は、少なくとも第1摩擦部材58と接触している端部が、回転方向に直交する方向に移動可能な状態でフロントカバー49に支持されている。また、ピストン52のフロントカバー49側の面には、フロントカバー49内を流れる作動流体が充填されている。
【0040】
弾性体54は、ピストン52とフロントカバー49との間に配置されており、ピストン52をフロントカバー49から離れる方向に押している。つまり、弾性体54は、ピストン52とフロントカバー49との距離が広がる方向、ピストン52が第1摩擦部材58を押す方向に付勢力を作用させる。弾性体54としては、板ばね、スプリング等種々の弾性部材を用いることができる。
【0041】
仕切り板55は、ピストン52の弾性体54が配置されている面とは反対側の面に配置された板状部材であり、ピストン52と、フロントカバー49とに支持されている。仕切り板55は、仕切り板55のピストン52と対向する面と、フロントカバー49の仕切り板55とピストン52との間の部分とで囲われた領域に油室66を形成している。この油室66は、作動油供給手段56から供給される作動油が充填される。つまり、ピスト52と仕切り板55とで囲われて形成された油室66には、循環油供給手段38から供給された作動流体が入らない。
【0042】
作動油供給手段56は、供給口70と、油路72と、作動油供給ポンプ74とを有する。供給口70は、油室66と連通した開口であり、油路72と繋がっている。油路72は、作動油供給ポンプ74と連結している。作動油供給手段56は、作動油供給ポンプ74から排出した作動油を、油路72、供給口70を介して油室66に供給する。このように、作動用供給手段56により油室66に作動油を供給することで、油室66を作動油が充填された状態とすることができる。クラッチ機構26の各部は以上のような構成である。
【0043】
クラッチ機構26は、ピストン52とフロントカバー49との間には、循環油供給手段38から供給された作動流体(トルクコンバータ24を循環する作動流体)が充填し、ピストン52と仕切り板55との間には、作動油供給手段56から供給された作動油が充填した状態となる。これにより、ピストン52は、循環油供給手段38から供給された作動流体により、第1摩擦部材58を押す方向に押され、作動油供給手段56から供給された作動油により、第1摩擦部材58から離れる方向に押される。また、ピストン52は、弾性体54により、第1摩擦部材58を押す方向に押されている。係合部50は、第1摩擦部材58がピストン52により押されることで、第1摩擦部材58と第2摩擦部材60とが接触し、係合した状態となる。
【0044】
これにより、摩擦板の摩擦係数をμとし、摩擦板の枚数(第1摩擦板と第2摩擦板の総枚数)をNとし、摩擦板の内径をDとし、摩擦板の外径をDとし、弾性体54がピストン52を押す力をFspとし、循環油供給手段38から供給された作動流体が充填した室内の圧力をPとし、作動油供給手段56から供給された油室66内の圧力をPK0とすると、クラッチ機構26で発生するトルク(係合部50が係合されることで発生するトルク)Tは、
T=(2/3)×μ×N×(D−D)/(D−D)×(Fsp+P×A−PK0×A)・・(式1)
と表すことができる。
【0045】
ここで、弾性体54がピストン52を押す力Fspは、設計により決まるため、クラッチ機構26は、循環油供給手段38から供給された作動流体が充填した室内の圧力Pと、作動油供給手段56から供給された油室66内の圧力PK0を調整することで、クラッチ機構26のトルクを制御することができる。例えば、クラッチ機構26は、圧力Pを大きくするか、圧力PK0を小さくすることで、トルクTを大きくすることができる。つまり、循環油供給手段38から供給する作動流体の量を多くするまたは供給圧を大きくするか、作動油供給手段56から供給する作動油の量を少なくまたは供給圧を小さくすることで、トルクTを大きくすることができる。また、クラッチ機構26は、圧力Pを小さくするか、圧力PK0を大きくすることで、トルクTを小さくすることもできる。また、トルクを0とすることで、上述したように係合部を非接触状態とすることができ、動力を伝達しない状態とすることができる。
【0046】
また、クラッチ機構26は、弾性体54がピストン52を押す力Fspが作用しているため、作動油が供給されていない状態では、第1摩擦部材58がピストンにより一定の力で押されて、係合状態となり、フロントカバー49と入力軸20との間で動力が伝達する状態となっている。
【0047】
このように、本実施例の動力伝達装置4によれば、流体の圧力が作用していない状態でも、弾性体54がピストン52を押す力Fspが作用しているため、クラッチ機構26を係合状態とすることができる。これにより、エンジン2の始動時に、各油供給手段を作動させなくても、モータ3から出力した機械的駆動力を、フロントカバー49、クラッチ機構26、入力軸20を介してエンジン2に伝達することができる。これにより、エンジン2を回転させることができ、エンジン2を始動させることができる。
【0048】
また、駆動時は、作動油供給手段56と循環油供給手段38から供給する作動油(または作動流体)を調整することで、クラッチ機構26のトルクを調整することができる。つまり、トルクを大きくすることも小さくすることもできる。これにより、クラッチ機構26のトルク許容量を大きくすることができ、クラッチ機構26で大きなトルクを伝達することができる。
【0049】
また、循環油供給手段38によりクラッチ機構26のトルクを大きくすることができるため、弾性体54の押す力を小さくすることができる。具体的には、スタータ時に必要なトルクを伝達できる程度の押す力とすればよい。このように弾性体54の押す力を小さくできることで、弾性体54を小さくすることができる。また、弾性体54ごとの押す力の誤差が制御に与える影響を小さくすることができる。例えば、Fspを1000N単位とし、P×Aを数万N単位とすることができるため、Fspに10%程度の誤差(弾性体の性能の差)があっても、クラッチ機構26の係合、解放動作に与える影響を小さくすることができる。これにより、高い精度での制御、つまりクラッチの解放、係合の切り替えによる動力伝達経路の切り替えが可能となる。
【0050】
また、弾性体54を設けることによりノーマリークローズ、つまり、制御信号が無い状態ではクラッチ機構26が係合した状態とすることができる。これにより、上述したように油圧が作用していないスタータ時にモータ3で発生させた動力をエンジン2に伝達することができる。これにより、モータ3をスタータとして利用することができ、別途スタータ用のモータを設ける必要がなくなる。さらに、ノーマリークローズであるため、始動時に油圧系を駆動させる必要がなくなるため、油圧系を駆動させるための電源の省略することができる。また、ノーマリークローズであるため、作動油を供給する手段が故障している時もエンジン2で発生させた動力を入力軸20、トルクコンバータ24を介して出力軸22に伝達することができ、走行可能となる。
【0051】
また、弾性体54が押す力を小さくすることができ、さらに、循環油供給手段38から供給される作動流体の圧力も調整により小さくすることができるため、駆動時にクラッチ機構26を解放するために必要な、作動油供給手段56から供給する作動油の圧力を小さくすることができる。つまり、一方の方向の圧力を弾性体の押す力とし、他方の方向の圧力を作動油の力とした場合は、(式1)の(Fsp+P×A−PK0×A)が(Fsp−PK0×A)となる。ここで、係合するための力は、クラッチ機構の最大トルクを伝達可能とするため、(Fsp−PK0×A)の構成では、Fspを大きくする必要がある。そのため、クラッチを解放するためのPK0も大きな力とする必要がある。これに対して、本実施例では、(式1)の(Fsp+P×A−PK0×A)に示すように、クラッチを係合する力をPで調整できるため、Fspの力を小さくすることができる。また、クラッチの解放時は、Pを小さくすることで、解放に必要なPK0、つまり、Fsp+P×Aに打ち勝つ力を小さくすることができる。このように、圧力を小さくできることで、ポンプにより発生させる圧力を小さくすることができる。これにより、動力伝達装置4で消費するエネルギを少なくすることができ、駆動装置1で発生させたエネルギや、蓄えられているエネルギを効率よく利用することができる。
【0052】
また、本実施例のようにクラッチ機構26をトルクコンバータ24の内部に設け、循環油供給手段38で供給される作動流体を利用することで、必要な油圧供給手段を少なくすることができる。これにより、装置構成を簡単にすることができる。
【0053】
また、ピストン52を係合部50の第1摩擦部材58と接触させる構成とすることで、ピストン52を回転差なく接触させることができ、ピストン52や第1摩擦部材58の磨耗を抑制することができる。つまり、フロントカバー49と連結され、一緒に回転する部材同士を接触させることで、駆動時に発生する磨耗を少なくすることができる。
【実施例2】
【0054】
次に、図3を用いて実施例2について説明する。ここで、図3は、動力伝達装置を備える駆動装置の他の一例の概略構成を示す模式図である。なお、図3に示す駆動装置100は、動力伝達装置104のクラッチ機構110の構成を除いて、他の構成は、図1に示す駆動装置と同様である。そこで、実施例1と同様の部分には、同一の符号を付してその詳細な説明を省略し、以下、実施例2に特有の点を重点的に説明する。
【0055】
クラッチ機構110は、係合部50と、ピストン120と、第1仕切り板122と、弾性体124と、第2仕切り板126と、作動油供給手段128とを有する。ここで、係合部50と、ピストン120と、第1仕切り板122と、弾性体124と、第2仕切り板126とは、フロントカバー49の内部に配置されている。また、係合部50は、上述した実施例1のクラッチ機構26の係合部50と同様の構成である。また、作動油供給手段128は、フロントカバー49に形成され、油路72とフロントカバー49内部とを繋げる2つの供給口140、142が設けられている点を除いて他の構成は作動油供給手段56と同様である。なお、供給口140と供給口142とは、油路72と連結する端部が途中で合流している。
【0056】
ピストン120は、剛体で構成され、断面がL字形状となる部材である。ピストン120は、L字の一方の線分120aの端部に、直角に延びた突起部120b(L字がU字となる方向に延びた突起部)を有し、その突起部120bが第1摩擦部材58の端の第1摩擦板(具体的には、タービンランナ32から最も近い第1摩擦板の第2摩擦板と対面している面とは反対側の面)と接触している。また、L字の他方の線分120cの端部は、フロントカバー49に支持されている。また、ピストン120は、少なくとも第1摩擦部材58と接触している端部が、回転方向に直交する方向に移動可能な状態でフロントカバー49に支持されている。また、線分120aと線分120cとの連結部は、移動可能な状態で、第1保持部62と接触している。なお、接触部には、オイルシール等が配置され、接触部を介して流体が移動しない状態となっている。また、ピストン120は、線分120aの線分120aと線分120cとの連結部の近傍で、接触部よりも突起部120b側に、開口120dが設けられている。
【0057】
第1仕切り板122は、ピストン120の線分120cと略平行な向きで、かつ、突起部120bと線分120cとの間に配置されている。第1仕切り板122は、一方の端部がフロントカバー49に固定され、他方の端部がピストン120の線分120aと接触している。なお、ピストン120の線分120aと接触している端部は、接触を維持したまま移動可能に支持されている。
【0058】
弾性体124は、ピストン120の線分120cと第1仕切り板122との間に配置されており、線分120cと第1仕切り板122とを、線分120cと第1仕切り板122とが離れる方向に押している。
【0059】
第2仕切り板126は、ピストン120の線分120cと略平行な向きで、かつ、突起部120bと第1仕切り板122との間に配置されている。第2仕切り板126は、一方の端部がフロントカバー49に固定され、他方の端部がピストン120の線分120aに固定されている。
【0060】
ピストン120と、第1仕切り板122と、第2仕切り板126と上述したフロントカバー49は、以上のように配置されており、ピストン120と第1仕切り板122とで囲われる領域が第1油室130となり、第1仕切り板122と第2仕切り板126とで囲われる領域が第2油室132となり、ピストン120の線分120c(弾性体124と接触している面とは反対側の面)と、フロントカバー49とで囲われた領域が、第3油室134となる。ここで、第1油室130、第2油室132、第3油室134は、それぞれ、油室を囲う領域の部材の連結部にオイルシール等が配置されており、流体の供給口以外からは、液体が漏れない構成となっている。
【0061】
ここで、第1油室130には、上述した開口120dと連通しており、フロントカバー49内を流れる循環油が充填される。また、第2油室132は、供給口140と連通しており、第3油室134は、供給口142と連通している。第2油室132と、第3油室134には、作動油供給ポンプ74から排出され、油路72を流れる作動油が供給される。
【0062】
クラッチ機構110は、以上のような構成であり、第1油室130には、循環油供給手段38から供給された作動流体(トルクコンバータ24を循環する作動流体)が充填し、第2油室132、第3油室134には、作動油供給手段128から供給された作動油が充填した状態となる。
【0063】
これにより、ピストン120は、循環油供給手段38から供給された作動流体により、第1摩擦部材58を押す方向に押される。具体的には、循環油供給手段38から供給された作動流体が第1油室130に供給され、第1油室130内の圧力が高くなると、第1油室130の体積を大きくしようとする力が働く。ここで第1仕切り板122は、フロントカバー49に固定されているため、移動しないのに対して、ピストン120は、移動可能に支持されている。このため、第1油室130内の圧力は、線分120cを第1仕切り板122から離れる向きに押し、第3油室134の体積を減らす方向にピストン120を移動させる力として働く。これにより、ピストン120は、第1摩擦部材58を押す方向に押される。
【0064】
また、ピストン120は、作動油供給手段128から供給された作動油により、第1摩擦部材58から離れる方向に押される。具体的には、作動油供給手段128から供給された作動油が第2油室132に供給され、第2油室132内の圧力が高くなると、第2油室132の体積を大きくしようとする力が働く。ここで、第2仕切り板126は、ピストン120に対して固定されているため、第1油室130と第2油室132の合計体積は一定となり変化しない。また、上述したように第1仕切り板122は、フロントカバー49に固定されているため移動しないのに対して、ピストン120は、移動可能に支持されている。このため、第2油室132内の圧力は、第2仕切り板126を第1仕切り板122から離れる向きに移動させるように働く。つまり、第2油室132の体積を増やす方向(第1油室130の体積を減らす方向)に第2仕切り板126を押す力が働く。
【0065】
ここで、第1仕切り板122は、固定されている。このため、この第1仕切り板122に対して第2仕切り板126を離す方向にピストン120を動かす力が、ピストン120を第1摩擦部材58から離す方向に働く力となる。
【0066】
さらに、作動油供給手段128から供給された作動油が第3油室134に供給され、第3油室134内の圧力が高くなると、第3油室134の体積を大きくしようとする力が働く。ここで、フロントカバー49は移動しないのに対して、ピストン120は、移動可能に支持されている。このため、第3油室134内の圧力が、ピストン120を第1摩擦部材58から離す方向に働く力となる。
【0067】
また、ピストン120は、弾性体124により、第1摩擦部材58を押す方向に押されている。なお、弾性体124がピストン120を押す原理は、上述の第1油室130の油圧と同様である。
【0068】
クラッチ機構110も、弾性体124及び循環油供給手段38から供給された作動流体により、ピストン120に第1摩擦部材58を押す方向の力を作用させ、作動油供給手段128から供給された作動油により、ピストン120に第1摩擦部材58から離れる方向の力を作用させることができ、実施例1と同様の効果を得ることができる。なお、油室の数等が異なるため、ピストンのトルクを算出する式は、変化する。このため、クラッチ機構110の解放させるための油圧のバランス、係合させるための油圧のバランスは異なる。
【0069】
また、クラッチ機構26及びクラッチ機構110に示すように、ピストンが係合部に接触する位置、弾性体の配置位置は、種々の配置位置とすることができる。
【実施例3】
【0070】
次に、図4を用いて実施例3について説明する。図4は、動力伝達装置を備える駆動装置の他の一例の概略構成を示す模式図である。なお、図4に示す駆動装置200は、動力伝達装置204の構成を除いて、他の構成は、図1に示す駆動装置と同様である。そこで、実施例1と同様の部分には、同一の符号を付してその詳細な説明を省略し、以下、実施例3に特有の点を重点的に説明する。
【0071】
動力伝達装置204は、エンジン2及びモータ3から出力された機械的動力を他の部材に伝達する装置であり、入力軸20と、出力軸(図示省略)と、トルクコンバータ206と、クラッチ機構210と、動力伝達装置204の各部の動作を制御するECU(Electronic Control Unit)と、を有する。なお、本実施例では、ECUの図示は省略する。また、トルクコンバータ206は、内部にクラッチ機構210の各部が配置されていない点を除いて他の構成は、トルクコンバータ24と同様である。トルクコンバータ206の各部の説明は省略する。
【0072】
クラッチ機構210は、係合部212と、ピストン220と、弾性体224と、作動油供給手段226と、を有する。係合部212は、第1保持部214と第2保持部216の位置を除いて他の構成は、上述した実施例1の係合部50と同様の構成である。なお、第1保持部214は、ロータ12と連結し、入力軸20に回転自在に保持されている。第2保持部216は、入力軸20と連結している。なお、ロータ12は、トルクコンバータ206と連結されている。
【0073】
ピストン220は、剛体で構成されており、入出力軸の回転方向における内径側の端部と外径側の端部がともに第1保持部214に支持され、回転軸に平行な方向において、第1保持部214と係合部212との間に配置されている。また、ピストン220は、第1保持部214に対して、回転軸に平行な方向に移動可能に支持され、外径側の端部が第1摩擦部材58に対面している。また、第1保持部214とピストン220とで囲われた領域は、第1油室230となる。また、ピストン220と第2保持部216とで囲われた領域は、第2油室232となる。
【0074】
弾性体224は、油室230に配置されており、回転軸に平行な方向において、第1保持部214とピストン220とが互いに離れる方向に両者を押している。なお、第1保持部214が固定されているため、弾性体224は、ピストン220を移動させる力を作用させることになる。ここで、弾性体224は、本実施例では、コイル状のばね(スプリング)を用いたが、これに限定されず、板ばね等、種々の弾性体を用いることができる。
【0075】
作動油供給手段226は、第1油室230に作動油を供給する手段であり、作動油供給ポンプ74から、油路240、供給口242を介して第1油室230に作動油を供給する。ここで、油路240は、第1保持部214と入力軸20の一部に形成されており、供給口242は、第1保持部214に形成されている。なお、油路240の各回転部の連結部は、例えば、一方の回転部の全面に作動油の通路を形成し、他方の回転部に穴状の通路を形成することで、作動油を移動させることができる。
【0076】
また、第2油室232には、循環油供給手段38がトルクコンバータ206に供給する作動流体(循環油)の一部が供給されている。具体的は、循環油供給ポンプ48とトルクコンバータ206の内部とを繋げる油路250の一部に分岐管250aを設けられている。分岐管250aは、油路250と第2油室232を連結させており、トルクコンバータ206の内部の圧力に比例した圧力の作動油を第2油室232に供給する。
【0077】
クラッチ機構210は、以上のような構成であり、第1油室230には、作動油供給手段226から供給された作動油が充填した状態となり、第2油室232には、循環油供給手段38から供給された作動流体(トルクコンバータ206を循環する作動流体)が充填した状態となる。また、クラッチ機構210は、回転軸に平行な方向において、第1保持部214と、第2保持部216は、移動しない状態で、ピストン220のみ移動可能な状態となっている。
【0078】
これにより、ピストン220は、作動油供給手段226から第1油室230に供給された作動油により、第1摩擦部材58を押す方向に押され、循環油供給手段38から第2油室232に供給された作動流体により、第1摩擦部材58から離れる方向に押される。また、ピストン220は、弾性体224により、第1摩擦部材58を押す方向に押されている。また、係合部212は、第1摩擦部材58がピストン220により押されることで、第1摩擦部材58と第2摩擦部材60とが接触し、係合した状態となる。
【0079】
このように、クラッチ機構210は、弾性体224及び作動油供給手段226から第1油室230に供給された作動油により、ピストン220に第1摩擦部材58を押す方向の力を作用させ、循環油供給手段38から供給された作動流体により、ピストン220に第1摩擦部材58から離れる方向の力を作用させることができる。
【0080】
これにより、クラッチ機構210も、作動油、作動流体が供給していない状態では、弾性体224により、ピストン220に第1摩擦部材58を押す方向の力を作用させて、クラッチ機構210を係合状態とすることができる。また、作動油、作動流体の供給を調整することで、クラッチ機構210の係合状態と解放状態を切り替えることができる。このように、駆動装置200も実施例1と同様の効果を得ることができる。なお、駆動装置200も油室の数、作動油を供給する位置等が異なるため、ピストンのトルクを算出する式は、変化する。このため、クラッチ機構210の解放させるための油圧のバランス、係合させるための油圧のバランスは異なる。具体的には、クラッチを解放状態とするためには、循環油がピストンに作用させる力を、作動油がピストンに作用させる力と弾性体がピストンに作用させる力の合計よりも大きくすればよい。なお、この時、作動油供給手段226を停止させ、作動油がピストンに作用させる力を0にして、循環油がピストンに作用させる力を、弾性体がピストンに作用させる力よりも大きくすればクラッチ機構210を解放状態にすることができる。
【0081】
また、循環油の圧力を、ピストン220に第1摩擦部材58から離れる方向の力を作用させるようにしても、同様の効果を得ることができる。なお、油路の配置方法は特に限定されず、設計により種々の経路とすることができる。また、油路を設置するための機構が必要となるが、クラッチ機構210をトルクコンバータのフロントカバーの外側に設けても循環油を利用することができる。
【0082】
ここで、クラッチ機構は、要求されるトルクに応じて、作動油または作動流体を供給する油圧供給手段の供給量を調整し、ピストンにかかる圧力(油圧)を調整することが好ましい。つまり、要求されるトルクが大きい場合は、ピストンを第1摩擦部材に押し付ける方向の力を作用させる油圧供給手段の供給量を多く、または、ピストンを第1摩擦部材から離す方向の力を作用させる油圧供給手段の供給量を少なくする。また、要求されるトルクが小さい場合は、ピストンを第1摩擦部材に押し付ける方向の力を作用させる油圧供給手段の供給量を少なく、または、ピストンを第1摩擦部材から離す方向の力を作用させる油圧供給手段の供給量をより多くする。これにより、クラッチ機構に必要以上のトルクを与えることを抑制することができ、供給する作動油、作動流体の量を少なくすることができる。これにより、クラッチ機構を駆動させるエネルギを効率よく利用することでき、消費エネルギを少なくすることができる。
【0083】
ここで、クラッチ機構の解放動作時は、ピストンを第1摩擦部材に押し付ける方向の力を作用させる油圧供給手段によって、作動油を供給しない状態または、作動油の供給量を低減することが好ましい。つまり、ピストンを第1摩擦部材に押し付ける方向に押す油圧を0または低減することが好ましく、設定された基準値以下の圧力とすることがより好ましい。具体的には、実施例1及び実施例2は、循環圧を低減するようにすることが好ましい。これにより、クラッチ機構の解放のために供給する作動油の油圧を小さくすることができ、より小さい力でクラッチ機構を解放状態にすることができる。
【0084】
また、上記実施例では、流体を供給する機構を少なくすることができ、かつ、装置の駆動に必要なエネルギを少なくすることができるため、いずれもトルクコンバータに供給する作動流体をピストンに接触させ、ピストンを一方の方向に移動させる力としたが、これに限定されない。例えば、作動油供給手段を2つ設けた構成とし、それぞれの作動油供給手段から供給する作動油によりピストンを双方向に移動させるようにしてもよい。なお、独立して作動油を供給することで、トルクコンバータとクラッチ機構とを油路で接続する必要がなくなり、クラッチ機構をトルクコンバータから離して配置することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上のように、本発明にかかる動力伝達装置は、駆動源の動力を伝達する装置として用いるのに有用であり、特に、自動車のスタータの動力をエンジンに伝達するのに適している。
【符号の説明】
【0086】
1、100、200 駆動装置
4、104、204 動力伝達装置
26、110、210 クラッチ機構
38 循環油供給手段
48 循環油供給ポンプ
49 フロントカバー
50、212 係合部
52、120、220 ピストン
54、124、224 弾性体
55 仕切り板
56、226 作動油供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1駆動機により回転される第1回転体と、
第2駆動機により回転される第2回転体と、
前記第1回転体と前記第2回転体との係合状態と解放状態とを切り替えるクラッチ機構とを有し、
前記クラッチ機構は、前記第1回転体に連結された第1摩擦部材、及び、前記第2回転体に連結され、前記第1摩擦部材と対面して配置された第2摩擦部材を含み、前記第1摩擦部材と前記第2摩擦部材とが接触することで、前記第1回転体と前記第2回転体とを係合状態とさせる係合部と、
前記第1摩擦部材または前記第2摩擦部材と接触可能な接触部を備え、前記接触部が前記第1摩擦部材または前記第2摩擦部材と接触する位置から、前記第1摩擦部材及び前記第2摩擦部材とに接触しない位置まで移動可能な剛体と、
前記剛体に対して、前記接触部が前記第1摩擦部材または前記第2摩擦部材と接触する位置に移動する方向の力を加える弾性体と、
前記剛体に対して、前記接触部が前記第1摩擦部材または前記第2摩擦部材と接触する位置に移動する方向の液体の圧力を加える第1押圧機構と、
前記剛体に対して、前記接触部が前記第1摩擦部材及び前記第2摩擦部材と接触しない位置に移動する方向の液体の圧力を加える第2押圧機構、を有することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記剛体は、前記第1摩擦部材と接触し、前記第1摩擦部材と前記第2摩擦部材と接触させる位置に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記第1摩擦部材は、複数の板状の第1摩擦体で構成され、
前記第2摩擦部材は、複数の板状の第2摩擦体で構成され、
前記第1摩擦体と前記第2摩擦体とは、交互に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記第1押圧機構と前記第2押圧機構とは、供給する液体の量及び液体の圧力の少なくとも一方を調整することで、前記剛体に加える力を調整可能であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
さらに、前記第2回転体と連結したトルクコンバータを有し、
前記第1押圧機構は、前記液体の圧力として、前記トルクコンバータの循環流体が前記剛体に付加する圧力を使用することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項6】
さらに、前記第2回転体と連結したトルクコンバータを有し、
前記第2押圧機構は、前記液体の圧力として、前記トルクコンバータの循環流体が前記剛体に付加する圧力を使用することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記係合部、前記剛体及び前記弾性体は、前記トルクコンバータの内部に配置されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項8】
前記第1押圧機構は、前記係合部が解放状態の場合は、前記接触部が前記第1摩擦部材または前記第2摩擦部材と接触する位置に移動する方向の液体の圧力を設定された圧力値以下とすることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項9】
前記係合部は、前記弾性体が前記剛体を押す力のみが作用する状態のとき、前記第1回転体と前記第2回転体とが係合状態となることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項10】
前記第1駆動機は、燃焼機関であり、
前記第2駆動機は、電動機であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−144876(P2011−144876A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6228(P2010−6228)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】