説明

動力伝達装置

【課題】切替機構により電動式ポンプの油路を遮断しているときにその油路内の油圧を適正な状態に保持する。
【解決手段】C1リレーバルブ70に、入力ポート72b(リニアソレノイドバルブSLC1の出力ポート用油路53)と出力ポート72d(クラッチC1のC1用油路56)とを連通すると共に入力ポート72c(電磁ポンプ60の吐出ポート用油路55)と出力ポート72dとの連通を遮断しているときに入力ポート72cに連通するドレンポート72eを形成し、このドレンポート72eにドレン用油路59を介してチェック弁82を取り付ける。これにより、入力ポート72c側に高圧の油の洩れ込みが生じても、その油をドレンポート72e,ドレン用油路59,チェック弁82を介してドレンすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原動機を備える車両に搭載され、該原動機からの動力を油圧駆動の摩擦係合要素を介して駆動輪側に伝達する動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の動力伝達装置としては、アイドルストップ機能付きの自動車に搭載され、エンジンの動力により作動する機械式ポンプと、機械式ポンプからの吐出圧を調圧するリニアソレノイドSLC1と、電磁ポンプと、機械式ポンプから油圧(モジュレータ圧)により作動しリニアソレノイドSLC1の出力ポートと発進用のクラッチC1(油圧サーボ)との接続と電磁ポンプの吐出ポートとクラッチC1との接続とを選択的に切り替える切替バルブと、を備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、エンジンのアイドルストップ中には、エンジンの運転停止に伴って作動を停止している機械式ポンプに代えて電磁ポンプを駆動して油圧(ストロークエンド圧)をクラッチC1に作用させておくことにより、次のエンジン始動時に機械式ポンプの吐出圧が立ち上がったときに直ちにクラッチC1を係合させることができ、車両の発進をスムーズに行なうことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−175039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した動力伝達装置では、切替バルブが電磁ポンプの吐出ポートとクラッチC1との接続を遮断しているときには、電磁ポンプの吐出ポートと切替バルブとの間の油路内は閉空間となるが、バルブボディーの接合面や各種バルブの摺動面を介して隣接する高圧油路から油の洩れ込みが生じる場合がある。こうした油の洩れ込みは、切替バルブがリニアソレノイドSLC1の出力ポートとクラッチC1との接続を遮断しているときにリニアソレノイドSLC1の出力ポートと切替バルブとの間の油路内でも同様に生じる。リニアソレノイドSLC1では、排出ポートを備えているから、出力ポートに作用している油圧を排出ポートから排出することができるが、排出機構を備えない電磁ポンプでは、洩れ込む油を排出することができないから、油路内が予期しない過大な油圧となる場合がある。こうした状況は、電磁ポンプに代えて電動機の動力により作動する電動ポンプを備える動力伝達装置でも同様に生じ得る。
【0005】
本発明の動力伝達装置は、切替機構により電動式ポンプの油路を遮断しているときに油路内の油圧を適正な状態に保持することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の動力伝達装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の動力伝達装置は、
原動機を備える車両に搭載され、該原動機からの動力を油圧駆動の摩擦係合要素を介して駆動輪側に伝達する動力伝達装置であって、
前記原動機からの動力により駆動して油圧を発生させる機械式ポンプと、
該機械式ポンプからの油圧を調圧する調圧弁と、
電力の供給を受けて駆動して油圧を発生させる電動式ポンプと、
1以上の切替弁により構成され、前記調圧弁から出力された油が流れる調圧弁用油路と前記電動式ポンプから吐出された油が流れる電動式ポンプ用油路と前記摩擦係合要素の油圧サーボに連通する油圧サーボ用油路とに接続され、前記調圧弁用油路と前記油圧サーボ用油路とを連通すると共に前記電動式ポンプ用油路と前記油圧サーボ用油路との連通を遮断する第1の状態と前記調圧弁用油路と前記油圧サーボ用油路との連通を遮断すると共に前記電動式ポンプ用油路と前記油圧サーボ用油路とを連通する第2の状態とを選択的に切り替える切替機構と、
設定圧以上の油圧が作用したときに開弁して油を排出する排出弁と、
を備え、
前記切替機構は、さらに、前記排出弁が取り付けられた排出用油路に接続され、前記第1の状態にあるときに前記電動式ポンプ用油路と前記排出用油路とを連通し、前記第2の状態にあるときに前記電動式ポンプ用油路と前記排出用油路との連通を遮断するよう構成されてなる
ことを要旨とする。
【0008】
この本発明の動力伝達装置では、1以上の切替弁により構成され、調圧弁から出力された油が流れる調圧弁用油路と電動式ポンプから吐出された油が流れる電動式ポンプ用油路と摩擦係合要素の油圧サーボに連通する油圧サーボ用油路とに接続され、調圧弁用油路と油圧サーボ用油路とを連通すると共に電動式ポンプ用油路と油圧サーボ用油路との連通を遮断する第1の状態と調圧弁用油路と油圧サーボ用油路との連通を遮断すると共に電動式ポンプ用油路と油圧サーボ用油路とを連通する第2の状態とを選択的に切り替える切替機構を設けると共に、設定圧以上の油圧が作用したときに開弁して油を排出する排出弁を設け、切替機構を、さらに、排出弁が取り付けられた排出用油路に接続され、第1の状態にあるときに電動式ポンプ用油路と排出用油路とを連通し、第2の状態にあるときに電動式ポンプ用油路と排出用油路との連通を遮断するよう構成する。これにより、切替機構が電動式ポンプ用油路と油圧サーボ用油路との接続を遮断しているときには、電動式ポンプ用油路と排出弁が取り付けられた排出用油路とが接続されるから、電動式ポンプ用油路内の油圧は排出弁によって調圧される。この結果、切替機構により電動式ポンプの油路を遮断しているときに油路内の油圧を適正な状態に保持することができる。ここで、「電動式ポンプ」には、電動機からの動力により作動する通常の電動ポンプや電磁ポンプが含まれる。
【0009】
こうした本発明の動力伝達装置において、前記切替機構は、前記調圧弁用油路に接続された信号圧用ポートと前記電動式ポンプ用油路に接続された第1の入力用ポートと前記排出用油路に接続された排出用ポートとが形成されると共に、前記第1の入力用ポートおよび前記排出用ポートの連通と遮断とを行なうスプールと該スプールを付勢する付勢部材とを有し、前記信号圧用ポートに設定圧以上の油圧が作用しているときには該油圧により前記スプールを一端側に移動させることにより前記第1の入力用ポートと前記排出用ポートとを連通し、前記信号圧用ポートに前記設定圧以上の油圧が作用していないときには前記付勢部材の付勢力により前記スプールを他端側に移動させることにより前記第1の入力用ポートと前記排出用ポートとの連通を遮断するよう構成されてなるものとすることもできる。この態様の本発明の動力伝達装置において、前記切替機構は、さらに、前記調圧弁用油路に接続された第2の入力用ポートと前記油圧サーボ用油路に接続された出力用ポートとが形成され、前記信号圧用ポートに前記設定圧以上の油圧が作用しているときには該油圧により前記スプールを一端側に移動させることにより前記第1の入力用ポートと前記出力用ポートとの連通を遮断すると共に前記第2の入力用ポートと前記出力用ポートとを連通し、前記信号圧用ポートに前記設定圧以上の油圧が作用していないときには前記付勢部材の付勢力により前記スプールを他端側に移動させることにより前記第1の入力用ポートと前記出力用ポートとを連通すると共に前記第2の入力用ポートと前記出力用ポートとの連通を遮断する1つの切替弁により構成されてなるものとすることもできる。こうすれば、切替機構の各機能を1つの切替弁により実現することができるから、装置をより小型化することができる。
【0010】
また、電動式ポンプを電磁ポンプとして構成した態様の本発明の動力伝達装置において、前記電磁ポンプは、電磁力を発生させて可動子を移動させる電磁部と、前記可動子に連動しシリンダ内を摺動するピストン部と、前記ピストン部を電磁力による前記可動子の移動方向とは逆方向に付勢する付勢部材と、前記ピストン部と前記シリンダとにより囲まれる空間に接続された吸入用逆止弁と、前記ピストン部に内蔵された吐出用逆止弁と、を備え、前記電磁部と前記付勢部材とにより前記ピストン部を往復動させることにより前記吸入用逆止弁を介して油を前記空間内に吸入すると共に該吸入した油を前記吐出用逆止弁を介して吐出するピストンポンプであるものとすることもできる。こうしたタイプの電磁ポンプでは、電動式ポンプ用油路に高圧が作用すると、高圧によりピストン部が押圧され、電磁部や付勢部材などに過大な負荷が作用する場合があるが、本発明を適用することにより、こうした不都合の発生を防止することができる。ここで、可動子とピストン部とは、一体として構成されたものであってもよいし、それぞれ別体として構成されたものであってもよい。さらにこの態様の本発明の動力伝達装置において、前記電磁ポンプは、前記可動子を支持するケースを備え、前記付勢部材の付勢力による前記ピストン部の移動に伴って油圧を発生可能なポンプであり、前記可動子と前記ピストン部は、それぞれ別体として構成されてなるものとすることもできる。このタイプの電磁ポンプでは、電動式ポンプ用油路に高圧が作用すると、高圧により付勢部材の収縮を伴ってピストン部が押圧され、可動子がフリーの状態となり、ケースと干渉する場合があるが、本発明を適用することにより、こうした不都合の発生を防止することができる。
【0011】
さらに、本発明の動力伝達装置において、前記機械式ポンプが作動しているときには該機械式ポンプからの油圧が前記油圧サーボに供給されるよう前記調圧弁を制御し、前記機械式ポンプが作動していないときには前記電動式ポンプからの油圧が前記油圧サーボに供給されるよう該電動式ポンプを制御する制御手段を備えるものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例としての動力伝達装置20を搭載する自動車10の構成の概略を示す構成図である。
【図2】実施例の動力伝達装置20の作動表を示す説明図である。
【図3】変速機構30の各回転要素の回転速度の関係を示す共線図である。
【図4】油圧回路40の構成の概略を示す構成図である。
【図5】電磁ポンプ60の構成の概略を示す構成図である。
【図6】エンジン回転速度Neとライン圧PLとC1リレーバルブ70の動作状態と電磁ポンプ60の動作状態とC1圧の時間変化の様子を示す説明図である。
【図7】クラッチC1を係合して走行しているときの油圧回路40の作動状態を示す説明図である。
【図8】変形例の油圧回路140の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0014】
図1は本発明の一実施例としての動力伝達装置20を搭載する自動車10の構成の概略を示す構成図であり、図2は変速機構30の作動表を示す説明図である。
【0015】
自動車10は、図1に示すように、ガソリンや軽油などの炭化水素系の燃料の爆発燃焼により動力を出力する内燃機関としてのエンジン12と、エンジン12を運転制御するエンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)15と、エンジン12のクランクシャフト14に接続されると共に左右の車輪19a,19bの車軸18a,18bに接続されてエンジン12からの動力を車軸18a,18bに伝達する動力伝達装置20と、動力伝達装置20を制御する自動変速機用電子制御ユニット(ATECU)16と、車両全体をコントロールするメイン電子制御ユニット(メインECU)90とを備える。なお、メインECU90には、シフトポジションセンサ92からのシフトポジションSPやアクセルペダルポジションセンサ94からのアクセル開度Acc,ブレーキスイッチ96からのブレーキスイッチ信号BSW,車速センサ98からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。また、メインECU90は、エンジンECU15やATECU16と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU15やATECU16と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0016】
動力伝達装置20は、図1に示すように、エンジン12のクランクシャフト14に接続された入力側のポンプインペラ24aと出力側のタービンランナ24bとからなるロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ24と、トルクコンバータ24のタービンランナ24bに接続された入力軸21と車軸18a,18bにギヤ機構26とデファレンシャルギヤ28とを介して接続された出力軸22とを有し入力軸21に入力された動力を変速して出力軸22に出力する有段の変速機構30と、この変速機構30を駆動するアクチュエータとしての油圧回路40(図4参照)と、を備える。なお、実施例では、エンジン12のクランクシャフト14と変速機構30との間にトルクコンバータ24を介在させるものとしたが、これに限られず、種々の発進装置を採用し得る。
【0017】
変速機構30は、6段変速の有段変速機構として構成されており、シングルピニオン式の遊星歯車機構とラビニヨ式の遊星歯車機構と三つのクラッチC1,C2,C3と二つのブレーキB1,B2とワンウェイクラッチF1とを備える。シングルピニオン式の遊星歯車機構は、外歯歯車としてのサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車としてのリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31はケースに固定されており、リングギヤ32は入力軸21に接続されている。ラビニヨ式の遊星歯車機構は、外歯歯車の二つのサンギヤ36a,36bと、内歯歯車のリングギヤ37と、サンギヤ36aに噛合する複数のショートピニオンギヤ38aと、サンギヤ36bおよび複数のショートピニオンギヤ38aに噛合すると共にリングギヤ37に噛合する複数のロングピニオンギヤ38bと、複数のショートピニオンギヤ38aおよび複数のロングピニオンギヤ38bとを連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア39とを備え、サンギヤ36aはクラッチC1を介してシングルピニオン式の遊星歯車機構のキャリア34に接続され、サンギヤ36bはクラッチC3を介してキャリア34に接続されると共にブレーキB1を介してケースに接続され、リングギヤ37は出力軸22に接続され、キャリア39はクラッチC2を介して入力軸21に接続されている。また、キャリア39は、ワンウェイクラッチF1を介してケースに接続されると共にワンウェイクラッチF1と並列に設けられたブレーキB2を介してケースに接続されている。
【0018】
変速機構30は、図2に示すように、クラッチC1〜C3のオンオフ(係合と非係合)とブレーキB1,B2のオンオフとの組み合わせにより前進1速〜6速と後進とニュートラルとを切り替えることができるようになっている。後進の状態は、クラッチC3とブレーキB2とをオンとすると共にクラッチC1,C2とブレーキB1とをオフとすることにより形成することができる。また、前進1速の状態は、クラッチC1をオンとすると共にクラッチC2,C3とブレーキB1,B2とをオフとすることにより形成することができる。この前進1速の状態では、エンジンブレーキ時には、ブレーキB2がオンとされる。前進2速の状態は、クラッチC1とブレーキB1とをオンとすると共にクラッチC2,C3とブレーキB2とをオフとすることにより形成することができる。前進3速の状態は、クラッチC1,C3をオンとすると共にクラッチC2とブレーキB1,B2とをオフとすることにより形成することができる。前進4速の状態は、クラッチC1,C2をオンとすると共にクラッチC3とブレーキB1,B2とをオフとすることにより形成することができる。前進5速の状態は、クラッチC2,C3をオンとすると共にクラッチC1とブレーキB1,B2とをオフとすることにより形成することができる。前進6速の状態は、クラッチC2とブレーキB1とをオンとすると共にクラッチC1,C3とブレーキB2とをオフとすることにより形成することができる。また、ニュートラルの状態は、クラッチC1〜C3とブレーキB1,B2のすべてをオフとすることにより形成することができる。なお、図3に、変速機構30の各変速段における各回転要素の回転速度の関係を説明する説明図を示す。図中のS1軸はサンギヤ33の回転速度を示し、CR1軸はキャリア34の回転速度を示し、R1軸はリングギヤ32の回転速度を示し、S2軸はサンギヤ36bの回転速度を示し、S3軸はサンギヤ36aの回転速度を示し、CR2軸はキャリア39の回転速度を示し、R2軸はリングギヤ37の回転速を示す。
【0019】
変速機構30におけるクラッチC1〜C3のオンオフ(係合と非係合)とブレーキB1,B2のオンオフは、油圧回路40により行なわれる。油圧回路40は、図4に示すように、エンジン12からの動力により作動しストレーナ41を介して作動油を吸引してライン圧用油路51に圧送する機械式オイルポンプ42と、機械式オイルポンプ42から圧送された作動油を調圧してライン圧PLを生成するレギュレータバルブ44と、ライン圧PLから図示しないモジュレータバルブを介して生成されるモジュレータ圧PMODを調圧して信号圧として出力することによりレギュレータバルブ44を駆動するリニアソレノイドバルブSLTと、ライン圧用油路51に接続された入力ポート46aとドライブ圧用油路52に接続されたD(ドライブ)ポジション用出力ポート46bとR(リバース)ポジション用出力ポート46cなどが形成されDポジションにシフト操作されているときには入力ポート46aとDポジション用出力ポート46bとを連通すると共に入力ポート46aとRポジション用出力ポート46cとの連通を遮断しRポジションにシフト操作されているときには入力ポート46aとDポジション用出力ポート46bとの連通を遮断すると共に入力ポート46aとRポジション用出力ポート46cとを連通しN(ニュートラル)ポジションにシフト操作されているときには入力ポート46aとDポジション用出力ポート46bおよびRポジション用出力ポート46cとの連通を遮断するマニュアルバルブ46と、ドライブ圧用油路52に接続された入力ポート48aと出力ポート用油路53に接続された出力ポート48bとドレンポート48cとが形成されDポジション用出力ポート46bからの出力圧であるドライブ圧PDを入力ポート48aから入力し一部をドレンポート48cからドレンしながら調圧して出力ポート48bから出力するリニアソレノイドバルブSLC1と、吸入ポート用油路54を介してストレーナ41に接続された吸入ポート62aと吐出ポート用油路55に接続された吐出ポート62bとが形成されソレノイド61による電磁力によりピストン66を往復動させることにより作動油を吸入ポート62aから吸入すると共に吸入した作動油を吐出ポート62bから吐出する電磁ポンプ60と、リニアソレノイドバルブSLC1からの出力圧であるSLC1圧をクラッチC1の油圧サーボに供給するモードと電磁ポンプ60からの吐出圧をクラッチC1の油圧サーボに供給するモードとを選択的に切り替えるC1リレーバルブ70などにより構成されている。ここで、図4では、クラッチC1に対する油圧の供給系についてのみを図示するものとしたが、クラッチC2,C3やブレーキB1,B2に対する油圧の供給系も周知のソレノイドバルブやリレーバルブにより同様に構成することができる。
【0020】
C1リレーバルブ70は、図4に示すように、各種ポートが形成されたスリーブ72と、スリーブ72内を摺動して各ポート間の継断を行なうスプール74と、スプール端面を押圧するスプリング76と、を備える。スリーブ72には、各種ポートとして、モジュレータ圧PMODをスプール端面がスプリング76の付勢力と逆方向に押圧される信号圧として入力する信号圧用ポート72aと、出力ポート用油路53に接続されSLC1圧を入力する入力ポート72bと、吐出ポート用油路55に接続され電磁ポンプ60からの吐出圧を入力する入力ポート72cと、クラッチC1のC1用油路56に接続された出力ポート72dと、チェック弁82が取り付けられたドレン用油路59に接続されたドレンポート72eと、ドライブ圧用油路52にバイパス油路の上流側57を介して接続された連絡ポート72fと、バイパス油路の下流側58に接続された連絡ポート72gとが形成されている。バイパス油路の下流側58には、チェック弁84を介して電磁ポンプ60の吐出ポート用油路55が接続されている。このチェック弁84は、バイパス油路の下流側58から吐出ポート用油路55への油の流出は許容するが、吐出ポート用油路55からバイパス油路の下流側58への油の流入は禁止するようになっている。
【0021】
このC1リレーバルブ70では、信号圧用ポート72aにスプリング76の付勢力に打ち勝つ圧力(設定圧)以上のモジュレータ圧PMODが作用しているときには、モジュレータ圧PMODによりスプリング76が収縮する方向(図4中の右半分に示す位置)にスプール74を移動させる。この状態では、入力ポート72bと出力ポート72dとを連通し、入力ポート72cと出力ポート72dとの連通を遮断し、入力ポート72cとドレンポート72eとを連通し、連絡ポート72f,72g間の連通を遮断するため、リニアソレノイドバルブSLC1の出力ポート48bが出力ポート用油路53,入力ポート72b,出力ポート72d,C1用油路56を順に介してクラッチC1(油圧サーボ)に連通され、電磁ポンプ60の吐出ポート62bとクラッチC1との連通が遮断され、電磁ポンプ60の吐出ポート62bが吐出ポート用油路55,入力ポート72c,ドレンポート72e,ドレン用油路59を介してチェック弁82に連通され、バイパス油路の上流側57とバイパス油路の下流側58との連通が遮断されることになる。一方、信号圧用ポート72aにスプリング76の付勢力に打ち勝つ圧力(設定圧)以上のモジュレータ圧PMODが作用していないときには、スプリング76の付勢力によりスプリング76が伸張する方向(図4中の左半分に示す位置)にスプール74を移動させる。この状態では、入力ポート72bと出力ポート72dとの連通を遮断し、入力ポート72cと出力ポート72dとを連通し、入力ポート72cとドレンポート72eとの連通を遮断し、連絡ポート72f,72g間を連通するため、リニアソレノイドバルブSLC1の出力ポート48bとクラッチC1との連通が遮断され、電磁ポンプ60の吐出ポート62bが吐出ポート用油路55,入力ポート72c,出力ポート72d,C1用油路56を順に介してクラッチC1に連通され、電磁ポンプ60の吐出ポート62bとチェック弁82との連通が遮断され、ドライブ圧用油路52がバイパス油路の上流側57,連絡ポート72f,72g,バイパス油路の下流側58,チェック弁84を介して吐出ポート用油路55に連通されることになる。
【0022】
チェック弁82は、ドレーン用油路59の油圧が設定圧以上のときに排出口を開放してドレーン用油路59の油をドレンし、ドレーン用油路59の油圧が設定圧未満のときに排出口を遮断するよう構成されている。このチェック弁82は、詳細には図示しないが、弁体と、弁体に対してその受圧面を排出口に押し付ける方向の推力を発生させるスプリングと、を備えており、バルブボディーのバルブ穴に収納されている。こうして構成されたチェック弁82では、前述したように、ドレーン用油路59がC1リレーバルブ70(入力ポート72c,ドレンポート72e)を介して吐出ポート用油路55に接続されているが、チェック弁82の逆止機能により、排出口から電磁ポンプ60の第2のポンプ室69b側へのエアの流入が防止される。また、電磁ポンプ60が駆動されている状態においては、第2のポンプ室69bと排出口が連通しないようにC1リレーバルブ70で入力ポート72cとドレンポート72eとの連通を遮断するため、電磁ポンプ60から吐出された油が排出口から流出することはない。
【0023】
図5は、電磁ポンプ60の構成の概略を示す構成図である。電磁ポンプ60は、図示するように、電磁力を発生させるソレノイド61と、中空円筒状のシリンダ62と、シリンダ62内に挿入されソレノイド61からの電磁力による押圧を受けて摺動可能なピストン66と、シリンダ62の端部に取り付けられたエンドプレート64と、エンドプレート64とピストン66との間に介在しピストン66に対してソレノイド61の電磁力の向きとは逆向きに付勢力を付与するスプリング68と、を備え、ソレノイド61を間欠的に駆動してピストン66を往復動させることにより油圧を発生させるピストンポンプとして構成されている。エンドプレート64には、吸入ポート62aからの作動油の流入は許可するがその逆流は禁止する吸入用の逆止弁が内蔵されており、ピストン66には、吐出ポート62bへの作動油の流出は許可するがその逆流は禁止する吐出用の逆止弁が内蔵されている。
【0024】
ソレノイド61は、底付き円筒部材としてのケース61aに電磁コイル61b,可動子としてのプランジャ61c,固定子としてのコア61dが配置されており、電磁コイル61bに電流を印加することにより形成される磁気回路によってプランジャ61cを吸引することによりプランジャ61cの先端に当接するシャフト61eを押し出す。
【0025】
シリンダ62は、その内壁とエンドプレート64とピストン66とにより囲まれる空間により第1のポンプ室69aが形成されている。シリンダ62は、ソレノイド61の電磁力によりピストン66が押し出されている状態から電磁力が解除されてスプリング68の付勢力によりピストン66が押し戻されると、第1のポンプ室69a内の容積が大きくなる方向に変化するため、第1のポンプ室69aが吸入ポート62a側の圧力よりも減圧されて作動油を吸入し、ソレノイド61の電磁力によりピストン66が押し出されると、第1のポンプ室69a内の容積が小さくなる方向に変化するため、第1のポンプ室69aが吐出ポート62b側の圧力よりも増圧されて作動油を吐出する。
【0026】
また、シリンダ62は、ソレノイド61が取り付けられた付近に、全周に亘って彫り込まれた溝63aを挟んでピストン66の本体部分66aが摺動する摺動面63bとこの摺動面63bよりも小さい内径でピストン66のシャフト部66bが摺動する摺動面63cとが段差をもって形成されており、ピストン66が挿入された状態で溝63aとピストン66の本体部分66aの背面とにより囲まれる空間(第2のポンプ室69b)を形成する。この空間は、ソレノイド61の電磁力によりピストン66が押し出されると、容積が大きくなる方向に変化し、スプリング68の付勢力によりピストン66が押し戻されると、容積が小さくなる方向に変化する。また、ピストン66は、第1のポンプ室69a側から圧力を受ける受圧面積が第2のポンプ室69b側から圧力を受ける受圧面積よりも大きくなるため、ピストン66が往復動したときの第1のポンプ室69aの容積変化は第2のポンプ室69bの容積変化よりも大きくなる。したがって、ソレノイド61の電磁力によりピストン66が押し出されると、第1のポンプ室69aの容積が減少する分と第2のポンプ室69bの容積が増加する分との差分に相当する量の作動油が第1のポンプ室69aからピストン66に内蔵されている吐出用の逆止弁,第2のポンプ室69bを介して吐出ポート62bから吐出されることになり、ソレノイド61の電磁力を解除してスプリング68の付勢力によりピストン66が押し戻されると、第2のポンプ室69bの容積が減少する分の作動油が第2のポンプ室69bから吐出ポート62bから吐出されることになる。これにより、ピストン66の一回の往復動により吐出ポート62bから作動油を2回吐出することができるから、吐出ムラを少なくすることができると共に吐出性能を向上させることができる。
【0027】
こうして構成された実施例の自動車10では、シフトレバーをDポジションとして走行しているときに、車速Vが値0,アクセルオフ,ブレーキスイッチ信号BSWがオンなど予め設定された自動停止条件の全てが成立したときにエンジン12を自動停止する。エンジン12が自動停止されると、その後、ブレーキスイッチ信号BSWがオフなど予め設定された自動始動条件が成立したときに自動停止したエンジン12を自動始動する。こうしたエンジン12の自動始動制御や自動停止制御は、メインECU90が各種検出信号を入力して自動始動条件の成立や自動停止条件の成立を判定し、判定結果に応じた制御指令をエンジンECU15やATECU16に送信することにより行なわれる。
【0028】
いま、自動停止条件が成立してエンジン12を自動停止し、その後、自動始動条件が成立してエンジン12を自動始動する場合を考える。図6に、エンジン回転速度Neとライン圧PLとC1リレーバルブ70の動作状態と電磁ポンプ60の動作状態とC1圧の時間変化の様子を示す。時刻t1に自動停止条件が成立してエンジン12が自動停止すると、エンジン12の回転速度の低下に伴ってライン圧PL(モジュレータ圧PMOD)も低下し、時刻t2にモジュレータ圧PMODがC1リレーバルブ70の設定圧未満(ライン圧PLが所定圧Pv未満に相当)となると、C1リレーバルブ70がリニアソレノイドバルブSLC1の出力ポート48bとクラッチC1とを連通した状態から電磁ポンプ60の吐出ポート62bとクラッチC1とを連通した状態に切り替わる。したがって、電磁ポンプ60を駆動しておくことにより、クラッチC1に油圧を作用させることができる。実施例では、クラッチC1のクラッチピストンをストロークエンドで保持するために必要な油圧をクラッチC1に作用させるものとした。そして、時刻t3にエンジン12の自動始動条件が成立すると、図示しないスタータモータによりエンジン12のクランキングが開始され、エンジン12の回転速度の上昇に伴ってライン圧PL(モジュレータ圧PMOD)も上昇する。このとき、C1リレーバルブ70はモジュレータ圧PMODが設定圧以上となるまで電磁ポンプ60の吐出ポート62bとクラッチC1とを連通すると共にリニアソレノイドバルブSLC1の出力ポート48bとクラッチC1との連通を遮断した状態のままとなっているため、この間はリニアソレノイドバルブSLC1からのSLC1圧をクラッチC1に供給することはできないが、このC1リレーバルブ70の状態ではドライブ圧用油路52をバイパス油路の上流側57,連絡ポート72f,72g,バイパス油路の下流側58,チェック弁84を介して吐出ポート用油路55に連通させているため、ライン圧PL(ドライブ圧PD)が吐出ポート用油路55に導入されると共に吐出ポート用油路55から入力ポート72c,出力ポート72d,C1用油路56を介してクラッチC1に供給される。時刻t4にモジュレータ圧PMODが設定圧以上となると、C1リレーバルブ70はリニアソレノイドバルブSLC1の出力ポート48bとクラッチC1とを連通するため、リニアソレノイドバルブSLC1からのSLC1圧がクラッチC1に作用することになり、クラッチC1が完全に係合される。このようにエンジン12が自動停止している最中に電磁ポンプ60からクラッチC1に油圧を供給してクラッチC1をストロークエンド圧で待機させておくことにより、エンジン12が自動始動した直後にクラッチC1を迅速に係合させることができるから、発進をスムーズに行なうことができる。
【0029】
いま、クラッチC1を係合して発進する際にC1リレーバルブ70のスプール74が電磁ポンプ60の吐出ポート62bとクラッチC1とを連通した状態でスティック(固着)している場合を考える。この場合、C1リレーバルブ70では、入力ポート72bと出力ポート72dとの連通の遮断により、リニアソレノイドバルブSLC1の出力ポート48bとクラッチC1とを遮断しているから、リニアソレノイドSLC1からのSLC1圧ではクラッチC1を係合させることはできない。しかしながら、この状態では、C1リレーバルブ70は入力ポート72cと出力ポート72dとを連通すると共に連絡ポート72f,72g間を連通し、ドライブ圧用油路52がバイパス油路の上流側57,連絡ポート72f,72g,バイパス油路の下流側58,チェック弁84,吐出ポート用油路55,入力ポート72c,出力ポート72d,C1用油路56を順に介してクラッチC1に連通した状態となるから、ドライブ圧PDがリニアソレノイドバルブSLC1をバイパスしてクラッチC1に供給される。したがって、C1リレーバルブ70のスプール74がスティックしてもクラッチC1を係合して発進することができる。
【0030】
次に、クラッチC1を係合して走行する場合を考える。なお、クラッチC1を係合して走行する場合としては実施例では前進1速,前進2速,前進3速が該当する(図2の作動表参照)。この場合の油圧回路40の状態を図7に示す。この状態では、図7に示すように、C1リレーバルブ70はリニアソレノイドバルブSLC1の出力ポート48bとクラッチC1とを連通すると共に電磁ポンプ60の吐出ポート62bとクラッチC1との連通を遮断している。C1リレーバルブ70は、スリーブ72の内壁にスプール74の外壁を摺動させながらスプール74を移動させて各ポートの連通と遮断とを行なう構造上、スリーブ72の内壁とスプール74の外壁との間に若干のクリアランスが存在する。このため、リニアソレノイドバルブSLC1からの高圧のSLC1圧が入力ポート72bと出力ポート72dに作用すると、入力ポート72bや出力ポート72dに隣接する入力ポート72cに油が洩れ込み、入力ポート72cに接続されている吐出ポート用油路55や電磁ポンプ60の吐出ポート62bに高圧が作用する場合が生じる。油の洩れ込みは、上述のケースに限られず、隣接する油路から図示しないバルブボディーの接合面を介して生じる場合も考えられる。電磁ポンプ60は油圧に逃げ場がなく、吐出ポート62bに油圧が導入されると、油圧によりスプリング68が収縮する方向にピストン66が押圧され、ソレノイド61のシャフト61eやプランジャ61cがフリーの状態となるため、ケース61aとの干渉により異音の発生や破損の原因となり得る。また、吐出ポート用油路55に高圧が作用しているときにエンジン12の運転停止に伴ってC1リレーバルブ70が吐出ポート用油路55側の入力ポート72cとC1用油路56側の出力ポート72dとを連通した状態に切り替わると、吐出ポート用油路55からの高圧がクラッチC1に作用し、クラッチC1が意図せずに係合してしまう場合が生じる。実施例では、C1リレーバルブ70に、入力ポート72cと出力ポート72dとの連通を遮断しているときに入力ポート72cに連通するドレンポート72eを形成し、このドレンポート72eにドレン用油路59を介してチェック弁82を取り付けているから、入力ポート72c側に高圧の油の洩れ込みが生じても、その油はドレンポート72e,ドレン用油路59,チェック弁82を介してドレンされることになる。したがって、吐出ポート用油路55内を常に適正な油圧に保持することができ、上述した不都合が生じることはない。
【0031】
以上説明した実施例の動力伝達装置20によれば、C1リレーバルブ70に、入力ポート72b(リニアソレノイドバルブSLC1の出力ポート用油路53)と出力ポート72d(クラッチC1のC1用油路56)とを連通すると共に入力ポート72c(電磁ポンプ60の吐出ポート用油路55)と出力ポート72dとの連通を遮断しているときに入力ポート72cに連通するドレンポート72eを形成し、このドレンポート72eにドレン用油路59を介してチェック弁82を取り付けているから、入力ポート72c側に高圧の油の洩れ込みが生じても、その油をドレンポート72e,ドレン用油路59,チェック弁82を介してドレンすることができる。したがって、吐出ポート用油路55内は、チェック弁82の設定圧以上の油圧が作用することがなく、常に適正な油圧に保持することができ、吐出ポート用油路55に過大な油圧が作用することによる不都合の発生を防止することができる。
【0032】
実施例の動力伝達装置20では、リニアソレノイドバルブSLC1(出力ポート用油路53)とクラッチC1(C1用油路56)との連通と電磁ポンプ60(吐出ポート用油路55)とクラッチC1との連通との切り替えと、吐出ポート用油路55とドレン用油路59の連通と遮断との切り替えを単一のバルブ(C1リレーバルブ70)により行なうものとしたが、これらの切り替えを別々のバルブにより行なうものとしてもよい。変形例の油圧回路140を図8に示す。変形例の油圧回路140は、図示するように、C1リレーバルブ70に代えて、C1リレーバルブ170とドレン切替バルブ270とを備える。C1リレーバルブ170は、各種ポートが形成されたスリーブ172と、スリーブ172内を摺動して各ポート間の継断を行なうスプール174と、スプール端面を押圧するスプリング176と、を備える。スリーブ172には、各種ポートとして、モジュレータ圧PMODをスプール端面がスプリング176の付勢力と逆方向に押圧される信号圧として入力する信号圧用ポート172aと、出力ポート用油路53に接続されSLC1圧を入力する入力ポート172bと、吐出ポート用油路55に接続され電磁ポンプ60からの吐出圧を入力する入力ポート172cと、クラッチC1のC1用油路56に接続された出力ポート172dと、ドライブ圧用油路52にバイパス油路の上流側57を介して接続された連絡ポート172fと、バイパス油路の下流側58に接続された連絡ポート172gとが形成されている。一方、ドレン切替バルブ270も、同様に、各種ポートが形成されたスリーブ272と、スリーブ272内を摺動して各ポート間の継断を行なうスプール274と、スプール端面を押圧するスプリング276と、を備える。スリーブ272には、各種ポートとして、モジュレータ圧PMODをスプール端面がスプリング176の付勢力と逆方向に押圧される信号圧として入力する信号圧用ポート272aと、吐出ポート用油路55に接続され電磁ポンプ60からの吐出圧を入力する入力ポート272cと、チェック弁82が取り付けられたドレン用油路59に接続されたドレンポート272eとが形成されている。
【0033】
実施例の動力伝達装置20では、電磁ポンプ60として、スプリング68の付勢力によりピストン66が押し戻されたときにエンドプレート64に内蔵されている吸入用の逆止弁を介して第1のポンプ室69aに作動油を吸入すると共に第2のポンプ室69bの作動油を吐出ポート62bから吐出し、ソレノイド61の電磁力によりピストン66が押し出されたときに第1のポンプ室69aの作動油をピストン66に内蔵されている吐出用の逆止弁,第2のポンプ室69bを介して吐出ポート62bから吐出するよう構成、即ち、ピストン66の一回の往復動により吐出ポート62bから作動油を2回吐出するよう構成するものとしたが、ピストン66の一回の往復動により吐出ポート62bから作動油を1回だけ吐出するよう構成するものとしてもよい。具体的には、ソレノイド61の電磁力によりピストン66が押し出されたときにポンプ室に作動油を吸入し、スプリング68の付勢力によりピストン66が押し戻されたときにポンプ室の作動油を吐出するタイプの電磁ポンプとして構成するものとしてもよいし、スプリング68の付勢力によりピストン66が押し戻されたときにポンプ室に作動油を吸入し、ソレノイド61の電磁力によりピストン66が押し出されたときにポンプ室の作動油を吐出するタイプの電磁ポンプとして構成するものとしてもよい。前者のタイプの電磁ポンプでは、吐出ポート用油路55に高圧が作用したときにプランジャ61cやシャフト61eがフリーの状態となりケース61aと干渉する実施例と同様の不都合が生じ、後者のタイプの電磁ポンプでは、吐出ポート用油路55に高圧が作用したときにプランジャ61cやシャフト61eがケース61aに高圧をもって押し付けられ変形などの不都合が生じ得る。
【0034】
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン12が「原動機」に相当し、クラッチC1〜C3やブレーキB1,B2が「摩擦係合要素」に相当し、機械式オイルポンプ42が「機械式ポンプ」に相当し、レギュレータバルブ44およびリニアソレノイドバルブSLC1が「調圧弁」に相当し、電磁ポンプ60が「電動式ポンプ」に相当し、C1リレーバルブ70が「切替機構」に相当し、チェック弁82が「排出弁」に相当する。なお、「調圧弁」は、より詳細には、クラッチC1に油圧を供給するクラッチ圧供給用の調圧弁として機能する部分についてレギュレータバルブ44とリニアソレノイドSLC1とに相当し、信号圧をC1リレーバルブ70の信号圧用ポート72aに供給する信号圧供給用の調圧弁として機能する部分についてはレギュレータバルブ44と図示しないモジュレータバルブとに相当する。また、第C1リレーバルブ70の信号圧用ポート72aが「信号圧用ポート」に相当し、入力ポート72cが「第1の入力用ポート」に相当し、ドレンポート72eが「排出用ポート」に相当し、スプール74が「スプール」に相当し、スプリング76が「付勢部材」に相当する。さらに、入力ポート72bが「第2の入力用ポート」に相当し、出力ポート72dが「出力用ポート」に相当する。また、ソレノイド61が「電磁部」に相当し、プランジャ61cやシャフト61eが「可動子」に相当し、ピストン66が「ピストン部」に相当し、スプリング68が「付勢部材」に相当し、エンドプレート64に内蔵された吸入用逆止弁が「吸入用逆止弁」に相当し、ピストン66に内蔵された吐出用逆止弁が「吐出用逆止弁」に相当する。ここで、「原動機」としては、内燃機関としてのエンジン12に限定されるものではなく、電動機など、如何なるタイプの原動機であっても構わない。「動力伝達機構」としては、前進1速〜6速の6段変速の変速機構30に限定されるものではなく、4段変速や5段変速,8段変速など、如何なる段数の変速機構を備えるものとしても構わない。また、「動力伝達機構」としては、自動変速機に限定されるものでもなく、例えば、エンジン12のクランクシャフト14にクラッチを介して直接にデファレンシャルギヤ28を介して車輪19a,19bに接続されるなど、摩擦係合要素を介して原動機からの動力を車輪側に伝達できるものであれば如何なるものであっても構わない。「電動式ポンプ」としては、電磁ポンプ60に限られず、電動機からの動力により作動する電動ポンプなど、電力の供給を受けて作動して油圧を発生させるものであれば、如何なるポンプであっても構わない。「調圧弁」としては、ライン圧PLから最適なクラッチ圧を生成してクラッチをダイレクトに制御するダイレクト制御用のリニアソレノイドバルブとして構成するものとしたが、リニアソレノイドをパイロット制御用のリニアソレノイドとして用いて別途コントロールバルブを駆動することによりこのコントロールバルブによりクラッチ圧を生成してクラッチを制御するものとしても構わない。「調圧弁」としては、クラッチ圧供給用の調圧弁として機能する部分についてはレギュレータバルブ44とリニアソレノイドSLC1とにより構成されるものに限定されるものではなく、例えば、リニアソレノイドSLC1を省略してドライブ圧用油路52と出力ポート用油路53とを直接接続することによりレギュレータバルブ44で生成されたライン圧PLを直接にクラッチC1に供給するなどとしてもよい。また、「調圧弁」としては、信号圧供給用の調圧弁として機能する部分についてはレギュレータバルブ44とモジュレータバルブとにより構成されるものに限定されるものではなく、例えば、モジュレータバルブを省略してライン圧用油路51とC1リレーバルブ70の信号圧用ポート72aとを直接接続することによりレギュレータバルブ44で生成されたライン圧PLを直接に信号圧用ポート72aに供給したり、モジュレータバルブに代えてソレノイドバルブを介してライン圧用油路51とC1リレーバルブ70の信号圧用ポート72aとを接続することによりソレノイドバルブで調圧された油圧を信号圧用ポート72aに供給するなどとしてもよい。また、「可動子」としては、プランジャ61cとシャフト61eの2つの部材により構成するものに限定されるものではなく、電磁力により移動するものであれば、単一の部材により構成するものとしてもよい。また、「可動子」としては、ピストン66と別体に構成するものに限定されるものではなく、ピストン66と一体の部材として構成するものものとしてもよい。なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0035】
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、自動車産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
10 自動車、12 エンジン、14 クランクシャフト、15 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、16 自動変速機用電子制御ユニット(ATECU)、18a,18b 車軸、19a,19b 車輪、20 動力伝達装置、21 入力軸、22 出力軸、24 トルクコンバータ、24a ポンプインペラ、24b タービンランナ、26 ギヤ機構、28 デファレンシャルギヤ、30 変速機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、36a,36b サンギヤ、37 リングギヤ、38a ショートピニオンギヤ、38b ロングピニオンギヤ、39 キャリア、40,140 油圧回路、41 ストレーナ、42 機械式オイルポンプ、44 レギュレータバルブ、46 マニュアルバルブ、46a 入力ポート、46b Dポジション用出力ポート、46c Rポジション用出力ポート、48a 入力ポート、48b 出力ポート、48c ドレンポート、51 ライン圧用油路、52 ドライブ圧用油路、53 出力ポート用油路、54 吸入ポート用油路、55 吐出ポート用油路、56 C1用油路、57 バイパス油路の上流側、58 バイパス油路の下流側、59 ドレン用油路、60 電磁ポンプ、61 ソレノイド、61a ソレノイド、61b 電磁コイル、61c プランジャ、61d コア、61e シャフト、62 シリンダ、62a 吸入ポート、62b 吐出ポート、63a 溝、63b 摺動面、63c 摺動面、64 エンドプレート、66 ピストン、66a 本体部分、66b シャフト部、68 スプリング、69a 第1のポンプ室、69b 第2のポンプ室、70,170 C1リレーバルブ、72,172 スリーブ、72a,172a,272a 信号圧用ポート、72b,172b 入力ポート、72c,172c,272c 入力ポート、72d,172d 出力ポート、72e,272e ドレンポート、72f,72g,172f,172g 連絡ポート、74,174 スプール、76,176 スプリング、82,84 チェック弁、90 メイン電子制御ユニット(メインECU)、92 シフトポジションセンサ、94 アクセルペダルポジションセンサ、96 ブレーキスイッチ、98 車速センサ、270 ドレン切替バルブ、272 スリーブ、274 スプール、276 スプリング、SLT,SLC1 リニアソレノイドバルブ、C1〜C3 クラッチ、B1,B2 ブレーキ、F1 ワンウェイクラッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機を備える車両に搭載され、該原動機からの動力を油圧駆動の摩擦係合要素を介して駆動輪側に伝達する動力伝達装置であって、
前記原動機からの動力により駆動して油圧を発生させる機械式ポンプと、
該機械式ポンプからの油圧を調圧する調圧弁と、
電力の供給を受けて駆動して油圧を発生させる電動式ポンプと、
1以上の切替弁により構成され、前記調圧弁から出力された油が流れる調圧弁用油路と前記電動式ポンプから吐出された油が流れる電動式ポンプ用油路と前記摩擦係合要素の油圧サーボに連通する油圧サーボ用油路とに接続され、前記調圧弁用油路と前記油圧サーボ用油路とを連通すると共に前記電動式ポンプ用油路と前記油圧サーボ用油路との連通を遮断する第1の状態と前記調圧弁用油路と前記油圧サーボ用油路との連通を遮断すると共に前記電動式ポンプ用油路と前記油圧サーボ用油路とを連通する第2の状態とを選択的に切り替える切替機構と、
設定圧以上の油圧が作用したときに開弁して油を排出する排出弁と、
を備え、
前記切替機構は、さらに、前記排出弁が取り付けられた排出用油路に接続され、前記第1の状態にあるときに前記電動式ポンプ用油路と前記排出用油路とを連通し、前記第2の状態にあるときに前記電動式ポンプ用油路と前記排出用油路との連通を遮断するよう構成されてなる
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力伝達装置であって、
前記切替機構は、前記調圧弁用油路に接続された信号圧用ポートと前記電動式ポンプ用油路に接続された第1の入力用ポートと前記排出用油路に接続された排出用ポートとが形成されると共に、前記第1の入力用ポートおよび前記排出用ポートの連通と遮断とを行なうスプールと該スプールを付勢する付勢部材とを有し、前記信号圧用ポートに設定圧以上の油圧が作用しているときには該油圧により前記スプールを一端側に移動させることにより前記第1の入力用ポートと前記排出用ポートとを連通し、前記信号圧用ポートに前記設定圧以上の油圧が作用していないときには前記付勢部材の付勢力により前記スプールを他端側に移動させることにより前記第1の入力用ポートと前記排出用ポートとの連通を遮断するよう構成されてなる
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2記載の動力伝達装置であって、
前記切替機構は、さらに、前記調圧弁用油路に接続された第2の入力用ポートと前記油圧サーボ用油路に接続された出力用ポートとが形成され、前記信号圧用ポートに前記設定圧以上の油圧が作用しているときには該油圧により前記スプールを一端側に移動させることにより前記第1の入力用ポートと前記出力ポートとの連通を遮断すると共に前記第2の入力用ポートと前記出力用ポートとを連通し、前記信号圧用ポートに前記設定圧以上の油圧が作用していないときには前記付勢部材の付勢力により前記スプールを他端側に移動させることにより前記第1の入力用ポートと前記出力ポートとを連通すると共に前記第2の入力用ポートと前記出力用ポートとの連通を遮断する1つの切替弁により構成されてなる
ことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
前記電動式ポンプは、電磁ポンプである請求項1ないし3いずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
請求項4記載の動力伝達装置であって、
前記電磁ポンプは、電磁力を発生させて可動子を移動させる電磁部と、前記可動子に連動しシリンダ内を摺動するピストン部と、前記ピストン部を電磁力による前記可動子の移動方向とは逆方向に付勢する付勢部材と、前記ピストン部と前記シリンダとにより囲まれる空間に接続された吸入用逆止弁と、前記ピストン部に内蔵された吐出用逆止弁と、を備え、前記電磁部と前記付勢部材とにより前記ピストン部を往復動させることにより前記吸入用逆止弁を介して油を前記空間内に吸入すると共に該吸入した油を前記吐出用逆止弁を介して吐出するピストンポンプである
動力伝達装置。
【請求項6】
請求項5記載の動力伝達装置であって、
前記電磁ポンプは、前記可動子を支持するケースを備え、前記付勢部材の付勢力による前記ピストン部の移動に伴って油圧を発生可能なポンプであり、
前記可動子と前記ピストン部は、それぞれ別体として構成されてなる
動力伝達装置。
【請求項7】
前記機械式ポンプが作動しているときには該機械式ポンプからの油圧が前記油圧サーボに供給されるよう前記調圧弁を制御し、前記機械式ポンプが作動していないときには前記電動式ポンプからの油圧が前記油圧サーボに供給されるよう該電動式ポンプを制御する制御手段を備える請求項1ないし6いずれか1項に記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−122560(P2012−122560A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274704(P2010−274704)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】