説明

動力伝達装置

【課題】ベルトの交換時期を高精度に検出できる動力伝達装置を提供する。
【解決手段】クランクシャフトプーリ10、吸気カムシャフトプーリ11および排気カムシャフトプーリ12に巻き掛けられ、磁性体樹脂が歯布の表面に塗布されたタイミングベルト13を備えた動力伝達装置1は、タイミングベルト13の磁気を検出する磁気検出回路16と、磁気検出回路16により検出されたタイミングベルト13の磁気の大きさに基づき、タイミングベルト13が交換時期に達したか否かを判定するECU100とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のプーリに巻き掛けられたベルトにより複数のプーリ間で動力の伝達を行う動力伝達装置に関し、特に、ベルトの寿命を検出することによりベルトの交換時期を検出可能な動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、オーバヘッドカムシャフト式のバルブ機構を有したエンジンなどの内燃機関では、エンジン下部に配置されたクランクシャフトの回転をエンジン上部に配置されたカムシャフトに伝達する必要がある。またバルブ機構が適正に作動するためにはクランクシャフトの回転とカムシャフトの回転を同期させる必要がある。このため、クランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達する手段としてタイミングベルトが多用されている。
【0003】
これにより、クランクシャフトの回転とカムシャフトの回転とが同期されている。しかしながら、例えば経年劣化によりタイミングベルトが寿命に達した場合には、クランクシャフトの回転とカムシャフトの回転とが同期されなくなる可能性がある。したがって、タイミングベルトを寿命到達前の適切な時期に交換する必要がある。
【0004】
従来、タイミングベルトを適切な時期に交換するため、タイミングベルトが寿命に達する少し前に交換時期に達したことを運転者に知らせる機能を有する動力伝達装置が提案されている。この種の動力伝達装置として、例えば、エンジン回転数および運転時間に基づいてタイミングベルトの疲労度を算出し、該疲労度が基準値を超えたときに、タイミングベルトの交換を促す警告を発するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この動力伝達装置によれば、車両の走行距離のみによりタイミングベルトの交換時期が判断される場合と比較して、タイミングベルトの交換時期が適切に判断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−239802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の従来の動力伝達装置にあっては、タイミングベルトの疲労状態を直接測定することなく、エンジン回転数および運転時間に基づいてタイミングベルトの疲労度を算出して交換時期を推定しているに過ぎない。また、算出した疲労度と実際の疲労度とが必ずしも一致するとは限らない。例えば、同一のエンジン回転数および運転時間であっても、高負荷の運転が多かったものと低負荷の運転が多かったものとでタイミングベルトの疲労度は異なる。また、タイミングベルトの疲労度は、タイミングベルトの使用環境によっても左右され、例えば寒冷地で使用されるか、あるいは高温多湿の環境下で使用されるかによっても異なる。したがって、上述した従来の動力伝達装置では、タイミングベルトの交換時期の判断精度が十分に高いとは言えず、未だ改善の余地があった。
【0008】
また、ベルトの交換時期の判断精度が高くないという課題は、タイミングベルトだけの課題には限られない。すなわち、複数のプーリに巻き掛けられたベルトにより複数のプーリ間で動力を伝達する動力伝達装置の全般で、上述と同様の課題が想定される。
【0009】
本発明は、上述のような従来の課題に鑑みてなされたもので、ベルトの交換時期を高精度に検出できる動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る動力伝達装置は、上記目的達成のため、(1)複数のプーリと、前記複数のプーリに巻き掛けられ、磁化された磁性体材料を含有するベルトと、前記ベルトの磁気を検出する磁気検出手段と、前記磁気検出手段により検出された前記ベルトの磁気の大きさに基づき、前記ベルトが交換時期に達したか否かを判定する交換時期判定手段と、を備えた構成を有する。
【0011】
この構成により、本発明に係る動力伝達装置は、ベルトの摩耗度合などに応じて変化するベルトの磁気を検出することで、ベルトの状態を直接検出することができる。このため、ベルトの交換時期を高精度に検出することができる。
【0012】
上記(1)に記載の動力伝達装置において、(2)前記ベルトは、前記磁性体材料がベルト表面に塗布されることにより磁化され、前記交換時期判定手段は、前記磁気検出手段により検出された前記ベルトの磁気に応じた電流値を取得する電流値取得部を有し、予め設定された基準値と前記電流値とを比較し、前記電流値が前記基準値より小さくなったとき、前記ベルトが交換時期に達したと判定する構成を有する。
【0013】
この構成により、本発明に係る動力伝達装置は、磁性体材料がベルト表面に塗布されているので、ベルトの摩耗が進行すると磁性体材料が削り剥がれることとなる。このため、磁性体材料が削り剥がれることによって変化する電流値が基準値より小さくなったとき、ベルト交換を要する程にベルトの摩耗が進行したと判断することができる。
【0014】
上記(1)に記載の動力伝達装置において、(3)前記ベルトは、前記磁性体材料がベルト内部に埋め込まれることにより磁化され、前記交換時期判定手段は、前記磁気検出手段により検出された前記ベルトの磁気に応じた電流値を取得する電流値取得部を有し、予め設定された基準値と前記電流値とを比較し、前記電流値が前記基準値より大きくなったとき、前記ベルトが交換時期に達したと判定する構成を有する。
【0015】
この構成により、本発明に係る動力伝達装置は、磁性体材料がベルト内部に埋め込まれているので、ベルトの摩耗が進行すると磁性体材料が露出する状態となる。このため、磁性体材料が露出することによって変化する電流値が基準値より大きくなったとき、ベルト交換を要する程にベルトの摩耗が進行したと判断することができる。
【0016】
上記(1)ないし(3)に記載の動力伝達装置において、(4)前記交換時期判定手段により前記ベルトが交換時期に達したと判定されたとき、前記ベルトの交換を促すための警告を報知する報知手段を備えた構成を有する。
【0017】
この構成により、本発明に係る動力伝達装置は、交換時期判定手段によりベルトが交換時期に達したと判定された際には、報知手段により警告を報知するので、ベルトの寿命到達前にベルトを交換することができる。
【0018】
上記(1)ないし(4)に記載の動力伝達装置において、(5)内燃機関に取り付けられ、前記ベルトを覆うベルトカバーを備え、前記ベルトは、前記内燃機関のクランクシャフトからカムシャフトに動力を伝達するタイミングベルトで構成されており、前記ベルトカバーは、前記タイミングベルトの磁気を遮蔽する磁気シールドを有する。
【0019】
この構成により、本発明に係る動力伝達装置は、磁化されたタイミングベルトを覆うベルトカバーが磁気シールドを有するので、タイミングベルトの磁界変化に起因してベルトカバー外部に配設された制御ユニットなどが誤作動してしまうことを防止することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ベルトの交換時期を高精度に検出できる動力伝達装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置の概略を示す正面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置の概略を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る動力伝達装置のカバーを切断した状態を示す側面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るタイミングベルトを一部切断した状態を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るECUで実行されるタイミングベルトの寿命警告制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の動力伝達装置の実施の形態について、図面を参照して説明する。本実施の形態では、本発明の動力伝達装置を車両用の内燃機関本体に取り付けた例について説明する。
【0023】
図1に示すように、動力伝達装置1は、内燃機関としてのエンジン3の前端部に取り付けられ、車両に搭載されたECU(Electronic Control Unit)100と、警告装置200とを含んで構成されている。
【0024】
ここで、図1および図2に示すように、エンジン3は、ピストンが2往復する間に吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる一連の4行程を行う、いわゆる4サイクルのガソリンエンジンによって構成されている。本実施の形態では、直列4気筒のガソリンエンジンを採用した例を示す。
【0025】
エンジン3は、シリンダブロックおよびシリンダヘッドを含むエンジン本体6と、エンジン本体6に燃焼用空気を供給する図示しない吸気装置と、エンジン本体6からの排気を外部に排出する図示しない排気装置とを備えている。エンジン本体6のシリンダブロック内部には、図示しない4本のシリンダが形成されている。各シリンダには、図示しないピストンが上下方向に往復動可能に設けられている。したがって、シリンダブロック内部には、シリンダとシリンダヘッドとピストンとによって図示しない燃焼室が形成されている。また、エンジン3は、図示しないコネクティングロッドを介してピストンに連結された駆動軸としてクランクシャフト31を備えている。エンジン3は、燃焼室において燃料と空気との混合気を所望のタイミングで燃焼させることによりピストンを往復動させ、コネクティングロッドを介してクランクシャフト31を回転させるようになっている。
【0026】
また、エンジン本体6のシリンダヘッドには、吸気装置の吸気通路と燃焼室とを連通する図示しない吸気ポートと、燃焼室と排気装置の排気通路とを連通させる図示しない排気ポートとが形成されている。エンジン3は、吸気ポートを開閉する吸気バルブ32と、吸気バルブ32を作動させる吸気カムシャフト33と、排気ポートを開閉する排気バルブ34と、排気バルブ34を作動させる排気カムシャフト35とを備えている。本実施の形態における吸気カムシャフト33および排気カムシャフト35は、本発明に係るカムシャフトを構成している。
【0027】
吸気カムシャフト33は、エンジン本体6に対して回転可能に取り付けられ、吸気バルブ32の上端に当接する吸気カム33aを有している。吸気バルブ32は、吸気カムシャフト33の回転に応じて吸気カム33aが回転することにより昇降し、吸気ポートと燃焼室との間を開閉するようになっている。すなわち、吸気バルブ32は、吸気装置から燃焼室への燃焼用空気の導入を制御するようになっている。
【0028】
排気カムシャフト35は、エンジン本体6に対して回転可能に取り付けられ、排気バルブ34の上端に当接する排気カム35aを有している。排気バルブ34は、排気カムシャフト35の回転に応じて排気カム35aが回転することにより昇降し、燃焼室と排気ポートとの間を開閉するようになっている。すなわち、燃焼室から排気装置への排気の排出を制御するようになっている。
【0029】
図1〜図3に示すように、動力伝達装置1は、クランクシャフトプーリ10と、吸気カムシャフトプーリ11と、排気カムシャフトプーリ12と、ベルトとしてのタイミングベルト13と、テンションローラ14と、ベルトカバーとしてのタイミングベルトカバー15と、磁気検出回路16とを備えている。これら各プーリ10〜12、タイミングベルト13、テンションローラ14および磁気検出回路16は、タイミングベルトカバー15の内部に配置される。本実施の形態におけるクランクシャフトプーリ10、吸気カムシャフトプーリ11および排気カムシャフトプーリ12は、本発明に係る複数のプーリを構成している。
【0030】
クランクシャフトプーリ10は、クランクシャフト31の前端部に取り付けられ、クランクシャフト31の回転と同期して回転するようになっている。また、クランクシャフト31の前端部には、クランクシャフトプーリ10とともに補機用プーリ17が取り付けられている。この補機用プーリ17は、タイミングベルトカバー15の外部に配置される。
【0031】
吸気カムシャフトプーリ11は、吸気カムシャフト33の前端部に取り付けられ、回転位相差可変アクチュエータ11aを有している。回転位相差可変アクチュエータ11aは、吸気カムシャフト33が吸気カムシャフトプーリ11に対して回転位相差を生ずるように吸気カムシャフト33を回転させるようになっている。回転位相差可変アクチュエータ11aは、運転状況に応じて、クランクシャフト31および吸気カムシャフト33の間の回転位相差を調整するようになっている。なお、図1では、回転位相差可変アクチュエータ11aを取り外すことにより、吸気カムシャフトプーリ11が露出した状態を示している。
【0032】
排気カムシャフトプーリ12は、排気カムシャフト35の前端部に取り付けられ、排気カムシャフト35の回転と同期して回転するようになっている。
【0033】
タイミングベルト13は、クランクシャフトプーリ10と吸気カムシャフトプーリ11と排気カムシャフトプーリ12とに巻き掛けられ、クランクシャフト31から吸気カムシャフト33および排気カムシャフト35に動力を伝達するようになっている。これにより、クランクシャフト31の回転に応じて吸気バルブ32および排気バルブ34が昇降し、吸気ポートおよび排気ポートをそれぞれ開閉するようになっている。
【0034】
図4に示すように、タイミングベルト13は、ゴム製の歯付きベルトからなり、芯材となる芯線51と、歯側を構成する歯側ゴム52と、背側を構成する背側ゴム53と、歯側ゴム52の表面に取り付けられた歯布54とを備えている。歯布54は、ナイロン(登録商標)およびアラミド繊維からなる。タイミングベルト13の歯55は、歯側ゴム52により形成されている。
【0035】
また、タイミングベルト13は、磁化された磁性体材料を含有している。具体的には、タイミングベルト13のベルト表面、すなわち歯布54の表面に磁性体材料として磁性体を混合した合成樹脂(以下、磁性体樹脂56という)が塗布されている。塗布された磁性体樹脂56は、その後、着磁され、磁化される。これによりタイミングベルト13の歯布54の表面から磁気が発せられるようになっている。塗布される磁性体樹脂56としては、例えば酸化鉄・酸化クロム・コバルト・フェライトなど、物理情報として所定強度の磁界を発生する磁性体の粉末を混合した合成樹脂を用いることができる。
【0036】
このように、タイミングベルト13は、歯布54の表面に磁性体樹脂56が塗布されているため、例えば経年劣化により摩耗が進行すると、塗布された磁性体樹脂56が削り剥がれる。このためタイミングベルト13の摩耗が進むと、タイミングベルト13から発生する磁界が変化する。具体的には、磁化されたタイミングベルト13から発せられる磁気が小さくなる。
【0037】
また、タイミングベルト13は、図1中、矢印で示すように、クランクシャフトプーリ10からテンションローラ14、吸気カムシャフトプーリ11、排気カムシャフトプーリ12の順に無端移動するようになっている。したがって、タイミングベルト13の回転方向は、図1中、時計回り方向である。
【0038】
図1に示すように、テンションローラ14は、クランクシャフトプーリ10と吸気カムシャフトプーリ11との間に配置されている。テンションローラ14は、テンションばね14aの付勢力によりタイミングベルト13を背側から押圧することによって、タイミングベルト13に適切な張力を与えるようになっている。すなわち、テンションローラ14の押圧により、タイミングベルト13が吸気カムシャフトプーリ11、排気カムシャフトプーリ12およびクランクシャフトプーリ10から緩んで外れないようになっている。
【0039】
図1および図3に示すように、タイミングベルトカバー15は、エンジン本体6の前端面6aに取り付けられ、タイミングベルト13の全体を覆うようになっている。タイミングベルトカバー15は、透過性の無いプラスチック製で、カバー本体61と、磁気検出回路16を保持する保持部62とを備えている。
【0040】
また、タイミングベルトカバー15は、タイミングベルト13の磁気を遮蔽する磁気シールド61aを有する。磁気シールド61aは、カバー本体61の内面を覆うようカバー本体61の内面に取り付けられている。これにより、タイミングベルトカバー15の内部空間と外部空間とが磁気的に遮断された状態となる。磁気シールド61aとしては、高透磁率の金属磁性材料をカバー本体61の内面に貼り付けた構成を用いることができる。また、高透磁率の金属磁性材料の他、例えば銅箔などをカバー本体61の内面に貼り付ける構成であってもよく、また銅を蒸着させた構成であってもよい。さらに、カバー本体61自体を高透磁率の金属磁性材料(例えば鉄、コバルト、ニッケル)で構成することにより、磁気シールドとして機能させるようにしてもよい。なお、本実施の形態では、磁気シールド61aをカバー本体61の内面に貼り付ける構成としたが、カバー本体61の外面に貼り付ける構成であってもよい。また、本実施の形態では、タイミングベルトカバー15にのみ、磁気シールド61aを設けたが、例えばエンジン3のシリンダブロックがアルミニウム合金からなる場合には、タイミングベルトカバー15の内部空間を画成するエンジン本体6の前端面6aにも磁気シールド61aを設けるのが好ましい。
【0041】
このように、タイミングベルトカバー15が磁気シールド61aを有するので、タイミングベルト13の磁界変化に起因してタイミングベルトカバー15の外部に配設された制御ユニット、例えばECU100などが誤作動してしまうことを防止することができる。
【0042】
保持部62は、テンションローラ14を通過した直後のタイミングベルト13の歯側に対向する位置に設けられている。保持部62は、タイミングベルトカバー15の内面に締結部材を介して取り付けられている。保持部62は、タイミングベルトカバー15の内面に一体形成されるものであってもよい。また、保持部62は、磁気検出回路16の検出方向をタイミングベルト13の歯側に向けるようにして磁気検出回路16を保持している。
【0043】
磁気検出回路16は、図示しない磁気検出用のいわゆるサーチコイルを有しており、このサーチコイルによって変化するタイミングベルト13の磁気を検出するようになっている。特に、サーチコイルは、熱やほこりなどの影響を受けにくいという利点を有するため、好適である。
【0044】
磁気検出回路16は、ECU100に接続され、サーチコイルで検出した磁気(磁界)の大きさに応じた電流値I(A)を検出信号としてECU100に出力するようになっている。
【0045】
図1に示すように、ECU100は、中央演算処理装置としてのCPU(Central Processing Unit)と、固定されたデータの記憶を行うROM(Read Only Memory)と、一時的にデータを記憶するRAM(Random Access Memory)と、書き換え可能な不揮発性のメモリからなるEEPROM(登録商標:Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)および入出力インターフェース回路を備えている。
【0046】
ECU100には、上述した磁気検出回路16や、図示しないエンジン回転数センサなどの各種センサやイグニッションスイッチなどが接続されている。ECU100のROMには、タイミングベルト13の交換時期を判定する際に用いられる寿命限界電流値I(A)、タイミングベルト13の寿命警告プログラムなどの各種制御に必要なプログラムやデータが記憶されている。ここで、寿命限界電流値I(A)は、予め実験的に求めて記憶されたものであり、例えば交換が必要と判断される程度にまでタイミングベルト13が摩耗したときのタイミングベルト13の磁気に応じた電流値である。本実施の形態における寿命限界電流値I(A)は、本発明に係る基準値に対応する。
【0047】
また、ECU100は、磁気検出回路16により検出されたタイミングベルト13の磁気の大きさに基づき、タイミングベルト13が交換時期に達したか否かを判定する交換時期判定手段101を備えている。
【0048】
交換時期判定手段101は、電流値取得部110と、交換判定部111とを有している。電流値取得部110は、磁気検出回路16から入力される検出信号に基づき、サーチコイルにより検出された磁気(磁界)の大きさに応じた電流値Iを取得するようになっている。交換判定部111は、電流値取得部110で取得した電流値I(A)と寿命限界電流値I(A)とを比較し、電流値I(A)が寿命限界電流値I(A)より小さくなったか否かを判定するようになっている。さらに、交換判定部111は、電流値I(A)が寿命限界電流値I(A)より小さくなったとき、タイミングベルト13が交換時期に達したと判定するようになっている。
【0049】
警告装置200は、ECU100に接続され、交換判定部111によりタイミングベルト13が交換時期に達したと判定された場合に、運転者にタイミングベルト13の交換を促すための警告を報知するようになっている。警告装置200としては、例えば、運転席に設けられた警告ランプや警告ブザーなどを採用することができる。本実施の形態における警告装置200は、本発明に係る報知手段を構成している。
【0050】
次に、図5に示すフローチャートを参照して、ECU100において実行されるタイミングベルト13の寿命警告制御について説明する。
【0051】
図5に示すフローチャートは、ECU100のCPUによって、RAMを作業領域として実行されるタイミングベルト13の寿命警告プログラムの実行内容を表す。タイミングベルト13の交換判断プログラムの実行処理は、ECU100のCPUによって、イグニッションのオンからオフまでの間に予め定められた時間間隔で実行されるようになっている。ここでの時間間隔は、車種やエンジン3、タイミングベルト13の設定諸元によって適宜選択される。この時間間隔が長すぎると判断の精度が低下するおそれがあり、短すぎると処理が煩雑になることがあるので、これらの条件から時間間隔を適宜設定するようにする。
【0052】
図5に示すように、まずECU100は、エンジン3が始動したか否かを判定する(ステップS1)。例えば、ECU100は、図示しないイグニッションスイッチがONとされたか否かを検出することによりエンジン3が始動されたか否かを判定する。ECU100は、エンジン回転数センサの検出結果に基づき、エンジン3が始動されたか否かを判定してもよい。エンジン3が始動していないと判定した場合には、ECU100は、エンジン始動の監視を継続する。
【0053】
一方、エンジン3が始動されたと判定した場合には、ECU100は、電流値取得部110において磁気検出回路16から電流値I(A)を取得する(ステップS2)。次いで、ECU100は、交換判定部111において、電流値取得部110により取得された電流値I(A)と寿命限界電流値I(A)とを比較し、電流値I(A)が寿命限界電流値I(A)より小さくなったか否かを判定する(ステップS3)。電流値I(A)が寿命限界電流値I(A)以上であると判定した場合には、本ステップを繰り返し実行する。
【0054】
一方、電流値I(A)が寿命限界電流値I(A)より小さくなったと判定した場合には、ECU100は、交換判定部111においてタイミングベルト13が交換時期に達したと判定する。このとき、ECU100は、タイミングベルト13の寿命到来の警告、すなわちタイミングベルト13の交換を促すための警告を報知する旨の信号を警告装置200に出力する。これにより、警告装置200は、運転者にタイミングベルト13の交換を促すための警告を報知する(ステップS4)。なお、警告の報知と同時、またはその前後にタイミングベルト13の寿命到来を示す情報をROMに記憶させ、後のメンテナンスなどの情報を必要とする機会に利用するようにしてもよい。
【0055】
以上のように、本実施の形態に係る動力伝達装置1は、タイミングベルト13の摩耗度合などに応じて変化するタイミングベルト13の磁気を検出することで、タイミングベルト13の状態を直接検出することができる。このため、タイミングベルト13の交換時期を高精度に検出することができる。
【0056】
また、本実施の形態に係る動力伝達装置1は、磁性体樹脂56がタイミングベルト13の表面、すなわち歯布54の表面に塗布されているので、タイミングベルト13の摩耗が進行すると磁性体樹脂56が削り剥がれることとなる。このため、磁性体樹脂56が削り剥がれることによって変化する電流値I(A)が寿命限界電流値I(A)より小さくなったとき、交換を要する程にタイミングベルト13の摩耗が進行したと判断することができる。
【0057】
また、本実施の形態に係る動力伝達装置1は、ECU100によりタイミングベルト13が交換時期に達したと判定された際には、警告装置200により警告を報知するので、寿命到達前にタイミングベルト13を交換することができる。
【0058】
なお、本実施の形態においては、図1に示すように、磁気検出回路16がテンションローラ14を通過した直後のタイミングベルト13の歯側に対向する位置に配置されているが、これに限られず、タイミングベルト13の磁気を検出可能であれば、他の位置に配置することも可能である。例えば、テンションローラ14と吸気カムシャフトプーリ11との間であって吸気カムシャフトプーリ11の近傍や、吸気カムシャフトプーリ11と排気カムシャフトプーリ12との間、あるいは排気カムシャフトプーリ12とクランクシャフトプーリ10との間、もしくはクランクシャフトプーリ10の通過直後に配置可能である。
【0059】
また、本実施の形態においては、磁気検出回路16をタイミングベルトカバー15の保持部62に保持するよう構成したが、これに限らず、例えばエンジン本体6の前端面6aの面上に固定する構成であってもよい。
また、本実施の形態においては、本発明に係る動力伝達装置をクランクシャフト31の回転を各カムシャフト33、35に伝達する動力伝達機構に適用した例について説明したが、これに限らず、例えば補機駆動用の動力伝達機構に適用することも可能であり、また車両用に限らない。
【0060】
また、本実施の形態においては、タイミングベルト13のような歯付きベルトに適用した例について説明したが、平ベルトやVリブドベルトなど、他の種類のベルトにも適用可能である。
【0061】
また、本実施の形態においては、エンジン3として直列4気筒のエンジンを採用したが、これに限られず、例えば、直列6気筒エンジン、V型6気筒エンジン、V型12気筒エンジン、水平対向6気筒エンジンなどの種々の型式のエンジンを採用することができる。
【0062】
また、本実施の形態においては、エンジン3としてガソリンを燃料とするエンジンを採用したが、例えば、軽油などの炭化水素系の燃料や、エタノールなどのアルコールとガソリンとを混合したアルコール燃料を燃料とするエンジンであってもよい。
【0063】
また、本実施の形態においては、タイミングベルト13の磁気を検出するため、サーチコイルを有する磁気検出回路16を採用したが、これに限らず、磁気検出回路16として例えば磁界の強さに応じたホール電圧を出力するホール素子や、磁界に応じて抵抗値が変化する磁気抵抗素子(MR)、あるいは磁気インピーダンス素子(MI)などの磁気センサを用いることもできる。また、フラックスゲート、超伝導量子干渉素子などを用いることも可能である。この場合、ホール素子などの磁気センサから出力される出力電圧をECU100において電流値に変換して、上述したタイミングベルト13の寿命警告制御を実行する。
【0064】
また、本実施の形態に係るタイミングベルト13の寿命警告制御においては、取得した電流値I(A)と寿命限界電流値I(A)との比較によりタイミングベルト13が交換時期に達したか否かを判定するようにしたが、これに限らず、サーチコイルの両端子間の電位差、すなわち電圧V(V)と寿命限界電圧値V(V)との比較により判定してもよい。この場合、寿命限界電圧値V(V)は、寿命限界電流値I(A)と同様、予め実験的に求めて記憶しておく。また、上述したように磁気検出回路16として各種磁気センサを用いた場合にも、磁気センサから出力される出力電圧V(V)と寿命限界電圧値V(V)とを比較することにより、タイミングベルト13が交換時期に達したか否かを判定することも可能である。
【0065】
また、本実施の形態においては、タイミングベルト13の歯布54の表面に磁性体樹脂56を塗布することによりタイミングベルト13を磁化させる構成としたが、これに限らず、例えば歯布54自体に磁性体の粉末を混合することによりタイミングベルト13を磁化させる構成としてもよい。
【0066】
また、タイミングベルト13を磁化させる構成としては、上記の他、磁性体樹脂56をタイミングベルト13の内部に埋め込むことにより磁化させる構成であってもよい。この場合、磁性体樹脂56がタイミングベルト13の内部に埋め込まれているので、タイミングベルト13の摩耗が進行すると磁性体樹脂56が露出する状態となる。このため、本構成にあっては、図5に示すステップS3の処理における判定が本実施の形態と異なり、電流値I(A)が寿命限界電流値I(A)より大きくなったか否かを判定することとなる。したがって、磁性体樹脂56が露出することによって変化する電流値I(A)が寿命限界電流値I(A)より大きくなったとき、交換を要する程にタイミングベルト13の摩耗が進行したと判断することができる。また、歯側ゴム52に磁性体の粉末を混合することによりタイミングベルト13を磁化させるようにしてもよい。
【0067】
また、本実施の形態においては、動力伝達装置1を車両のエンジン3に使用したが、これに限られず、複数のプーリ間に掛け回されたベルトにより動力を伝達する動力伝達装置の全般に適用することができる。
【0068】
以上説明したように、本発明に係る動力伝達装置は、ベルトの交換時期を高精度に検出できるという効果を有し、複数のプーリに巻き掛けられたベルトにより複数のプーリ間で動力の伝達を行う動力伝達装置全般に有用である。
【符号の説明】
【0069】
1 動力伝達装置
3 エンジン(内燃機関)
10 クランクシャフトプーリ(プーリ)
11 吸気カムシャフトプーリ(プーリ)
12 排気カムシャフトプーリ(プーリ)
13 タイミングベルト(ベルト)
15 タイミングベルトカバー(ベルトカバー)
16 磁気検出回路(磁気検出手段)
31 クランクシャフト
33 吸気カムシャフト(カムシャフト)
35 排気カムシャフト(カムシャフト)
56 磁性体樹脂(磁性体材料)
61a 磁気シールド
100 ECU(交換時期判定手段、電流値取得部)
200 警告装置(報知手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプーリと、
前記複数のプーリに巻き掛けられ、磁化された磁性体材料を含有するベルトと、
前記ベルトの磁気を検出する磁気検出手段と、
前記磁気検出手段により検出された前記ベルトの磁気の大きさに基づき、前記ベルトが交換時期に達したか否かを判定する交換時期判定手段と、を備えたことを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記ベルトは、前記磁性体材料がベルト表面に塗布されることにより磁化され、
前記交換時期判定手段は、前記磁気検出手段により検出された前記ベルトの磁気に応じた電流値を取得する電流値取得部を有し、予め設定された基準値と前記電流値とを比較し、前記電流値が前記基準値より小さくなったとき、前記ベルトが交換時期に達したと判定することを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記ベルトは、前記磁性体材料がベルト内部に埋め込まれることにより磁化され、
前記交換時期判定手段は、前記磁気検出手段により検出された前記ベルトの磁気に応じた電流値を取得する電流値取得部を有し、予め設定された基準値と前記電流値とを比較し、前記電流値が前記基準値より大きくなったとき、前記ベルトが交換時期に達したと判定することを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記交換時期判定手段により前記ベルトが交換時期に達したと判定されたとき、前記ベルトの交換を促すための警告を報知する報知手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1の請求項に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
内燃機関に取り付けられ、前記ベルトを覆うベルトカバーを備え、
前記ベルトは、前記内燃機関のクランクシャフトからカムシャフトに動力を伝達するタイミングベルトで構成されており、
前記ベルトカバーは、前記タイミングベルトの磁気を遮蔽する磁気シールドを有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1の請求項に記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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