説明

動力伝達装置

【課題】動力伝達装置の耐久性や作動品質を確保しつつ燃費性能を向上させる。
【解決手段】エンジン11には入力径路19が接続され、駆動輪14f,14rには出力径路26が接続される。入力径路19と出力径路26との間には、無段変速機39を備えた無段変速径路30とギヤ列45を備えたギヤ列径路31とが並列に設けられる。モードクラッチ50のシンクロスリーブ52をスプライン歯53に噛み合わせると入力径路19は無段変速径路30に接続され、シンクロスリーブ52をスプライン歯54に噛み合わせると入力径路19はギヤ列径路31に接続される。入力径路19の接続先をギヤ列径路31から無段変速径路30に切り換える際には、電動モータ91によって無段変速機39が回転駆動される。これにより、燃費向上のために無段変速機39を停止させても、モードクラッチ50は滑らかに切り換えられ、動力伝達装置の耐久性や作動品質が確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機を備える動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される無段変速機(CVT)として、一対のプーリに対してチェーンやベルトを巻き掛けるようにしたベルトドライブ式無段変速機や、一対のディスク間にパワーローラを挟み込むようにしたトロイダル式無段変速機がある。これらの無段変速機は変速比を無段階に調整することができるため、車両の動力性能や燃費性能を向上させることが可能となる。しかしながら、無段変速機を備える動力伝達装置においては、例えばオーバードライブ側で変速比を一定に保持しながら走行する場合、つまり無段変速を実行せずに走行する場合であっても、無段変速機に対して作動油を供給し続けることが必要となっていた。このように、無段変速機に作動油を供給し続けることは、オイルポンプを駆動するエンジンの燃費性能を低下させる要因となることから、無段変速機とギヤ列とを並列に配置するようにした動力伝達装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この動力伝達装置は、低中車速領域では無段変速機を介して動力を伝達する一方、高車速領域では無段変速機を用いることなくギヤ列を介して動力を伝達している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−220754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の動力伝達装置は、ギヤ列から無段変速機に動力伝達径路を切り換える際に、無段変速機に対する負荷の急激な増大を回避するため、高車速領域においても無段変速機を無負荷で空転させ続けていた。これにより、無段変速機の耐久性を向上させるととともに、動力伝達径路を切り換える際のショックを防止することが可能となる。しかしながら、無段変速機を無負荷で空転させる場合であっても、チェーン等のスリップを防止する必要があることから、無段変速機に対する作動油の供給を継続する必要がある。このように、無段変速機を無負荷で空転させ続けることにより、動力伝達径路を切り換える際の負荷変動を抑制し、動力伝達装置の耐久性や作動品質を向上させることは、車両の燃費性能を低下させる要因となっていた。
【0005】
本発明の目的は、動力伝達装置の耐久性や作動品質を確保しつつ、車両の燃費性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の動力伝達装置は、エンジンに接続される入力径路と、駆動輪に接続される出力径路とを備える動力伝達装置であって、前記入力径路と前記出力径路との間に設けられ、前記入力径路から前記出力径路に無段変速機を介して動力を伝達する無段変速径路と、前記入力径路と前記出力径路との間に設けられ、前記入力径路から前記出力径路に固定伝達比で動力を伝達する固定伝達径路と、前記無段変速径路および前記固定伝達径路と前記入力径路との間に設けられ、前記入力径路と前記無段変速径路とを接続する第1締結状態と、前記入力径路と前記固定伝達径路とを接続する第2締結状態とに切り換えられる入力側クラッチと、前記入力側クラッチを第2締結状態から第1締結状態に切り換える際に、前記無段変速機の回転体を回転させる電動モータとを有することを特徴とする。
【0007】
本発明の動力伝達装置は、前記無段変速機と前記出力径路との間に設けられ、前記入力側クラッチが第2締結状態となるときに解放状態に切り換えられ、前記無段変速機を停止させる停止クラッチを有することを特徴とする。
【0008】
本発明の動力伝達装置は、前記無段変速径路および前記固定伝達径路と前記駆動輪との間に設けられ、前記電動モータによって前記回転体を回転させる際に解放状態に切り換えられ、前記エンジンと前記駆動輪とを切り離す出力側クラッチを有することを特徴とする。
【0009】
本発明の動力伝達装置は、前記入力側クラッチは噛合クラッチであることを特徴とする。
【0010】
本発明の動力伝達装置は、前記停止クラッチは噛合クラッチであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、入力側クラッチを第2締結状態から第1締結状態に切り換える際に、電動モータによって無段変速機の回転体を回転させるようにしたので、締結ショックを抑制しながら入力側クラッチを第1締結状態に切り換えることが可能となる。これにより、入力径路から無段変速径路を切り離して無段変速機を停止させてから、再び入力側クラッチを切り換えて入力径路に無段変速機を接続する場合であっても、動力伝達装置の耐久性や作動品質を確保することができるため、無段変速機を積極的に停止させて車両の燃費性能を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態である動力伝達装置を示すスケルトン図である。
【図2】動力伝達装置の一部を制御系とともに示す概略図である。
【図3】(a)は無段変速モードに設定された動力伝達装置を示す概略図であり、(b)は固定ギヤモードに設定された動力伝達装置を示す概略図である。
【図4】目標変速比を設定する際に参照される変速特性マップの一例を示す線図である。
【図5】(a)および(b)は固定ギヤモードから無段変速モードに切り換えられる際の動力伝達装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施の形態である動力伝達装置10を示すスケルトン図である。図1に示すように、車両に搭載される動力伝達装置10は、エンジン11、トルクコンバータ12、前後進切換機構13および駆動輪14f,14rを有している。エンジン11のクランク軸15にはトルクコンバータ12が連結されており、トルクコンバータ12のタービン軸16にはギヤ列17を介して共通入力軸18が連結されている。このようなトルクコンバータ12、タービン軸16、ギヤ列17、共通入力軸18等により、エンジン11に接続される入力径路19が構成されている。また、前輪(駆動輪)14fには、前輪出力軸20およびギヤ列21を介して前後進出力軸22が連結されており、後輪(駆動輪)14rには、後輪出力軸23およびトランスファクラッチ24を介して前後進出力軸22が連結されている。さらに、前後進出力軸22には前後進切換機構13を介して共通出力軸25が連結されている。このような前輪出力軸20、ギヤ列21、後輪出力軸23、トランスファクラッチ24、前後進出力軸22、前後進切換機構13、共通出力軸25等により、前輪14fおよび後輪14rに接続される出力径路26が構成されている。また、入力径路19と出力径路26との間には、無段変速径路30とギヤ列径路(固定伝達径路)31とが並列に設けられている。そして、後述するモードクラッチ50を制御することにより、車両の走行モードを、無段変速径路30を介して変速しながら動力を伝達する無段変速モードと、ギヤ列径路31を介して固定伝達比で動力を伝達する固定ギヤモードとに切り換えることが可能となる。なお、車両発進時には無段変速モードが設定されており、その後の走行状況に応じて無段変速モードから固定ギヤモードに切り換えられるようになっている。
【0014】
無段変速径路30は、共通入力軸18の径方向外方に回転自在に配置される中空のプライマリ軸32と、プライマリ軸32に対して平行に配置されるセカンダリ軸33とを有している。プライマリ軸32にはプライマリプーリ(回転体)34が設けられており、プライマリプーリ34の背面側にはプライマリ油室35が区画されている。セカンダリ軸33にはセカンダリプーリ(回転体)36が設けられており、セカンダリプーリ36の背面側にはセカンダリ油室37が区画されている。また、プライマリプーリ34とセカンダリプーリ36とには駆動チェーン38が巻き掛けられている。このように、プライマリ軸32とセカンダリ軸33とは無段変速機39を介して連結されており、プライマリ油室35およびセカンダリ油室37の油圧を制御することにより、プライマリ軸32からセカンダリ軸33に対する無段変速が可能となる。また、無段変速径路30は、セカンダリ軸33に対して平行に配置されるとともに、共通出力軸25に対して同軸上に配置される変速出力軸40を有している。この変速出力軸40とセカンダリ軸33とは、ギヤ列41を介して連結されている。また、無段変速径路30に対して並列となるギヤ列径路31は、共通出力軸25に対して平行に配置されるとともに、共通入力軸18に対して同軸上に配置されるギヤ軸42を有している。ギヤ軸42には駆動ギヤ43が固定されており、共通出力軸25には駆動ギヤ43に噛み合う従動ギヤ44が固定されている。これらの駆動ギヤ43と従動ギヤ44とによって、ギヤ軸42から共通出力軸25に固定伝達比(一定の変速比)で動力を伝達するギヤ列45が構成されている。
【0015】
図1に示すように、無段変速径路30およびギヤ列径路31と入力径路19との間には、モードクラッチ(入力側クラッチ)50が設けられている。このモードクラッチ50は、噛合クラッチであるシンクロメッシュ機構によって構成されている。モードクラッチ50は、共通入力軸18に固定されるシンクロハブ51と、これに常時噛み合うシンクロスリーブ52とを備えている。また、モードクラッチ50は、プライマリ軸32に固定されるスプライン歯53と、ギヤ軸42に固定されるスプライン歯54とを備えている。後述する電動アクチュエータ84によってシンクロスリーブ52を矢印a方向にスライドさせることにより、シンクロスリーブ52とスプライン歯53とが噛み合う一方、シンクロスリーブ52とスプライン歯54との噛み合いを外すことが可能となる。これにより、モードクラッチ50は第1締結状態に切り換えられ、入力径路19を構成する共通入力軸18と無段変速径路30を構成するプライマリ軸32とが接続される。一方、シンクロスリーブ52を矢印b方向にスライドさせることにより、シンクロスリーブ52とスプライン歯54とが噛み合う一方、シンクロスリーブ52とスプライン歯53との噛み合いを外すことが可能となる。これにより、モードクラッチ50は第2締結状態に切り換えられ、入力径路19を構成する共通入力軸18とギヤ列径路31を構成するギヤ軸42とが接続される。なお、図1に示すように、シンクロスリーブ52をスプライン歯53,54の間で停止させることにより、モードクラッチ50を解放状態に切り換えることができ、共通入力軸18からプライマリ軸32とギヤ軸42との双方を切り離すことも可能となる。
【0016】
また、無段変速径路30と出力径路26との間には停止クラッチ60が設けられている。この停止クラッチ60は、噛合クラッチであるシンクロメッシュ機構によって構成されている。停止クラッチ60は、共通出力軸25に固定されるシンクロハブ61と、これに常時噛み合うシンクロスリーブ62とを備えている。また、停止クラッチ60は、変速出力軸40に固定されるスプライン歯63を備えている。後述する電動アクチュエータ84によってシンクロスリーブ62を矢印a方向にスライドさせることにより、シンクロスリーブ62とスプライン歯63とを噛み合わせることが可能となる。これにより、停止クラッチ60は締結状態に切り換えられ、無段変速径路30を構成する変速出力軸40と出力径路26を構成する共通出力軸25とが接続される。一方、シンクロスリーブ62を矢印b方向にスライドさせることにより、シンクロスリーブ62とスプライン歯63との噛み合いを外すことが可能となる。これにより、停止クラッチ60は解放状態に切り換えられ、無段変速径路30を構成する変速出力軸40と出力径路26を構成する共通出力軸25とが切り離される。なお、無段変速機39よりも出力径路26側の無段変速径路30に停止クラッチ60を設置しても良い。
【0017】
また、出力径路26に設けられる前後進切換機構13は、遊星歯車列70を備えている。遊星歯車列70は、共通出力軸25に固定されるリングギヤ71と、これの径方向内方に配置されるサンギヤ72とを備えている。リングギヤ71とサンギヤ72との間には相互に噛み合うプラネタリピニオンギヤ73が設けられている。プラネタリピニオンギヤ73はキャリア74に支持されており、サンギヤ72には前後進出力軸22が固定されている。また、前後進切換機構13は、共通出力軸25とサンギヤ72との間に前進クラッチ(出力側クラッチ)75を有している。この前進クラッチ75は油圧式の摩擦クラッチであり、締結油室76に作動油を供給することで締結状態に切り換えられる一方、締結油室76から作動油を排出することで解放状態に切り換えられる。また、前後進切換機構13は、ハウジング77とキャリア74との間に後退ブレーキ78を有している。この後退ブレーキ78は油圧式の摩擦ブレーキであり、締結油室79に作動油を供給することで締結状態に切り換えられる一方、締結油室79から作動油を排出することで解放状態に切り換えられる。後退ブレーキ78を解放状態に切り換えて前進クラッチ75を締結状態に切り換えることにより、共通出力軸25の回転がそのまま前後進出力軸22に伝達され、車両を前進走行させることが可能となる。また、前進クラッチ75を解放状態に切り換えて後退ブレーキ78を締結状態に切り換えることにより、キャリア74を固定して前後進出力軸22の回転方向を逆転させることができ、車両を後退走行させることが可能となる。なお、前進クラッチ75および後退ブレーキ78を解放状態に切り換えることにより、共通出力軸25と前後進出力軸22とは切り離され、前後進切換機構13は前後進出力軸22に動力を伝達しないニュートラル状態となる。
【0018】
図2は動力伝達装置10の一部を制御系とともに示す概略図である。まず、図1に示すように、動力伝達装置10は、ポンプインペラ80およびチェーン機構81を介してエンジン11に連結されるオイルポンプ82を有している。図2に示すように、プライマリ油室35、セカンダリ油室37、締結油室76、締結油室79等に作動油を供給制御するため、動力伝達装置10内には複数のソレノイドバルブを備えたバルブユニット83が設けられている。オイルポンプ82とバルブユニット83とは図示しない油路を介して接続されており、オイルポンプ82から吐出される作動油は、バルブユニット83を経て無段変速機39や前後進切換機構13等に供給される。
【0019】
図2に示すように、動力伝達装置10は、モードクラッチ50および停止クラッチ60の作動状態を切り換える電動アクチュエータ84を有している。電動アクチュエータ84は、アクチュエータ本体85に対して伸縮自在となるロッド部材86を有している。ロッド部材86には、モードクラッチ50のシンクロスリーブ52に係合するフォーク部材87が固定されるとともに、停止クラッチ60のシンクロスリーブ62に係合するフォーク部材88が固定されている。電動アクチュエータ84のロッド部材86を矢印a方向に引き込むことにより、モードクラッチ50は第1締結状態に切り換えられ、停止クラッチ60は締結状態に切り換えられる。一方、電動アクチュエータ84のロッド部材86を矢印b方向に押し出すことにより、モードクラッチ50は第2締結状態に切り換えられ、停止クラッチ60は解放状態に切り換えられる。
【0020】
また、セカンダリ軸33には従動ギヤ90が固定されており、この従動ギヤ90の近傍には電動モータ91が設けられている。電動モータ91は従動ギヤ90に噛み合うピニオンギヤ92を有しており、ピニオンギヤ92は突出位置および退避位置に移動自在となっている。ピニオンギヤ92を破線で示した突出位置に移動させることにより、ピニオンギヤ92を従動ギヤ90に噛み合わせることができ、電動モータ91を用いてセカンダリプーリ36を回転させることが可能となる。一方、ピニオンギヤ92を実線で示した退避位置に移動させることにより、ピニオンギヤ92と従動ギヤ90との噛み合いを外すことが可能となる。
【0021】
前述した無段変速機39、前後進切換機構13、電動アクチュエータ84、電動モータ91等の各作動部を制御するため、動力伝達装置10には制御ユニット93が設けられている。また、制御ユニット93には車両状態を検出する各種センサが接続されている。制御ユニット93に接続される各種センサとしては、アクセルペダルの操作状況を検出するアクセルペダルセンサ94、ブレーキペダルの操作状況を検出するブレーキペダルセンサ95、車速を検出する車速センサ96、エンジン回転数(クランク軸15の回転速度)を検出するエンジン回転数センサ97、セレクトレバーの操作位置を検出するインヒビタスイッチ98、プライマリ回転数(プライマリ軸32の回転速度)を検出するプライマリ回転数センサ99、セカンダリ回転数(セカンダリ軸33の回転速度)を検出するセカンダリ回転数センサ100、入力回転数(共通入力軸18の回転速度)を検出する入力回転数センサ101等がある。なお、制御ユニット93は、制御信号等を演算するCPU、制御プログラム、演算式、マップデータ等を格納するROM、一時的にデータを格納するRAM等を備えている。
【0022】
続いて、車両発進時に設定される無段変速モードと、その後の走行状況に応じて設定される固定ギヤモードとの切り換え手順について説明する。図3(a)は無段変速モードに設定された動力伝達装置10を示す概略図であり、図3(b)は固定ギヤモードに設定された動力伝達装置10を示す概略図である。なお、図3(a)および(b)には前進走行時の動力伝達装置10が示されている。また、図4は目標変速比を設定する際に参照される変速特性マップの一例を示す線図である。前述したように、車両発進時の走行モードとしては、無段変速機39を介して動力を伝達する無段変速モードに設定されている。図3(a)に示すように、無段変速モードにおいては、モードクラッチ50が第1締結状態に切り換えられ、停止クラッチ60が締結状態に切り換えられる。これにより、入力径路19と出力径路26とが無段変速径路30を介して連結されるため、白抜きの矢印で示すように、入力径路19から出力径路26に無段変速機39を経て変速された動力が伝達される。この無段変速モードにおいては、所定時間毎に車速とアクセル開度(アクセルペダルの踏み込み量)に基づき図4の変速特性マップを参照し、無段変速機39の目標変速比を決定している。
【0023】
図4に示すように、変速特性マップには、最大変速比を示す特性線Lowと、最小変速比を示す特性線Highとが設定されている。また、変速特性マップには、特性線Low,Highの間に、アクセル開度に対応した複数の特性線A1〜A8が設定されている。アクセル開度が全閉の場合には特性線A1が参照され、アクセル開度が大きくなるにつれて特性線A2〜A7が参照され、アクセル開度が全開の場合には特性線A8が参照される。このような変速特性マップを、制御ユニット93は車速とアクセル開度に基づき参照し、プライマリプーリ34の目標回転数である目標プライマリ回転数を決定する。次いで、制御ユニット93は、セカンダリ回転数センサ100によって検出される実セカンダリ回転数と、変速特性マップから求められた目標プライマリ回転数とに基づいて、無段変速機39の目標変速比を算出する。そして、制御ユニット93は、無段変速機39を目標変速比に向けて制御すべく、プライマリ油室35に供給するプライマリ圧と、セカンダリ油室37に供給するセカンダリ圧とを設定し、バルブユニット83に対して制御信号を出力する。
【0024】
このような無段変速モードにおいて、例えば、高車速領域でアクセルペダルが所定値以下で操作されることにより、目標変速比が最小変速比(特性線High)に設定された状況が継続されると、制御ユニット93は、無段変速モードから固定ギヤモードへの切り換えを決定する。無段変速モードから固定ギヤモードに切り換える際には、図3(b)に示すように、モードクラッチ50が第2締結状態に切り換えられ、停止クラッチ60が解放状態に切り換えられる。これにより、入力径路19と出力径路26とがギヤ列径路31を介して連結されるため、白抜きの矢印で示すように、入力径路19から出力径路26にギヤ列45を介して固定伝達比で動力が伝達される。ここで、ギヤ列径路31に設けられるギヤ列45のギヤ比は、無段変速機39の最小変速比と同じ変速比に設定されている。すなわち、無段変速モードにおいて無段変速機39が最小変速比(特性線High)に制御されている場合には、共通入力軸18(シンクロスリーブ52)の回転速度に対してギヤ軸42の回転速度が同期した状態となる。このため、シンクロスリーブ52をスライドさせるだけで、モードクラッチ50を第1締結状態から第2締結状態に滑らかに切り換えることが可能となる。
【0025】
そして、図3(b)に示すように、固定ギヤモードにおいては、モードクラッチ50が第2締結状態に切り換えられるとともに、停止クラッチ60が解放状態に切り換えられることから、入力径路19と出力径路26との双方から無段変速径路30を切り離すことが可能となる。これにより、固定ギヤモードによる走行中であっても、プライマリプーリ34やセカンダリプーリ36の回転を停止させることができ、無段変速機39に対する作動油の供給量を大幅に引き下げることが可能となる。したがって、オイルポンプ82の負荷を大幅に低減することができ、オイルポンプ82を駆動するエンジン11の燃料消費量を抑制することが可能となる。また、モードクラッチ50や停止クラッチ60は作動状態を維持するための油圧を必要としない噛合クラッチによって構成されており、この点からもエンジン11の燃料消費量を抑制することが可能となっている。なお、無段変速機39が最小変速比に制御された状態のもとで、入力径路19および出力径路26から無段変速径路30が切り離されることから、固定ギヤモードで停止する無段変速機39は最小変速比のまま停止されている。また、無段変速モードに復帰する際の応答性を高めるため、固定ギヤモードにおいてもプライマリ油室35やセカンダリ油室37を作動油で満たすように少量の作動油が無段変速機39に供給されている。
【0026】
続いて、固定ギヤモードから無段変速モードに切り換える際の手順について説明する。ここで、図5(a)および(b)は固定ギヤモードから無段変速モードに切り換えられる際の動力伝達装置10を示す概略図である。固定ギヤモードにおいて、例えば、低車速領域に車速が低下したり、アクセルペダルが所定値を超えて踏み込まれたりすると、制御ユニット93は、固定ギヤモードから無段変速モードへの切り換えを決定する。すなわち、図4の変速特性マップにおいて、無段変速機39の目標変速比が最小変速比よりも大きく設定される走行状況になると、固定ギヤモードから無段変速モードへの切り換えが決定される。そして、図5(a)に示すように、制御ユニット93は、前進クラッチ75を解放状態に切り換えるとともに、エンジン11の図示しない補機類を制御してエンジン回転数を低下させる。さらに、制御ユニット93は、電動モータ91のピニオンギヤ92を突出位置に移動させるとともに、共通入力軸18の回転速度にプライマリ軸32の回転速度が達するまで電動モータ91のピニオンギヤ92を回転駆動する。このように、電動モータ91を用いてセカンダリプーリ36およびプライマリプーリ34を回転させ、共通入力軸18とプライマリ軸32との回転速度を同期させた後に、制御ユニット93は、モードクラッチ50を第1締結状態に切り換えるとともに停止クラッチ60を締結状態に切り換える。そして、モードクラッチ50および停止クラッチ60の切り換えが完了すると、電動モータ91のピニオンギヤ92は退避位置に移動して停止するとともに、前進クラッチ75は再び締結状態に切り換えられる。
【0027】
前述したように、固定ギヤモードから無段変速モードに復帰させる際には、電動モータ91を用いてプライマリプーリ34およびセカンダリプーリ36を回転させるようにしたので、締結ショックを招くことなくモードクラッチ50や停止クラッチ60を切り換えることが可能となる。すなわち、車両の燃費性能を向上させるため、固定ギヤモードにおいて無段変速機39を停止させているが、無段変速モードへの復帰時には電動モータ91を用いて回転を同期させるようにしたので、モードクラッチ50や停止クラッチ60を滑らかに切り換えることができ、動力伝達装置10の耐久性や作動品質を確保することが可能となる。また、電動モータ91を用いて回転を同期させる際に、前進クラッチ75を解放するとともにエンジン回転数を引き下げている。これにより、共通入力軸18の回転速度を引き下げることができるため、電動モータ91によるプライマリ軸32の回転速度の引き上げ目標値を低下させることが可能となる。すなわち、共通入力軸18にプライマリ軸32を素早く同期させることができ、固定ギヤモードから無段変速モードに素早く切り換えることが可能となる。
【0028】
また、前述の説明では、ギヤ列径路31に組み込まれるギヤ列45のギヤ比を、無段変速機39の最小変速比に設定しているが、これに限られることはない。例えば、ギヤ列径路31に組み込まれるギヤ列45のギヤ比を、無段変速機39の最大変速比(特性線Low)に設定しても良く、無段変速機39の最大変速比よりも大きな変速比に設定しても良い。これにより、例えば、荷物積載用や登坂走行用にエクストラローが設定される動力伝達装置において、エクストラローが選択されたときに固定ギヤモードを実行することが可能となる。また、ギヤ列径路31に組み込まれるギヤ列45のギヤ比として、無段変速機39の最小変速比よりも小さな変速比に設定しても良く、無段変速機39の最大変速比と最小変速比との間の変速比に設定しても良い。
【0029】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、前述の説明では、固定伝達径路としてギヤ列45を備えたギヤ列径路31を設けているが、これに限られることはなく、スプロケットにチェーンを巻き掛けることによって固定伝達比で動力を伝達する固定伝達径路であっても良く、プーリにベルトを巻き掛けることによって固定伝達比で動力を伝達する固定伝達径路であっても良い。また、前述の説明では、ピニオンギヤ92を突出位置と退避位置とに移動させるようにした電動モータ91を用いているが、これに限られることはなく、例えば、一方向クラッチを組み込むことで従動ギヤ90にピニオンギヤ92を常時噛み合わせるようにした電動モータを用いても良い。
【0030】
また、前述の説明では、電動モータ91を用いて回転を同期させる際に、前進クラッチ75を解放するとともにエンジン回転数を引き下げているが、これに限られることはなく、前進クラッチ75を締結状態に維持しても良く、前進クラッチ75を滑り状態に制御しても良く、エンジン回転数を維持しても良い。また、前述の説明では、モードクラッチ50および停止クラッチ60をシンクロメッシュ機構によって構成しているが、これに限られることはなく、ドグクラッチや摩擦クラッチを用いてモードクラッチ50および停止クラッチ60を構成しても良い。また、前述の説明では、前進クラッチ75を摩擦クラッチによって構成しているが、これに限られることはなく、シンクロメッシュ機構やドグクラッチを用いて前進クラッチ75を構成しても良い。
【0031】
また、前述の説明では、電動モータ91によってセカンダリ軸33を駆動しているが、これに限られることはなく、電動モータ91によってプライマリ軸32を駆動しても良い。また、前述の説明では、モードクラッチ50の前後の回転数差から同期状態を判定しているが、これに限られることはなく、停止クラッチ60の前後の回転数差から同期状態を判定しても良い。また、前述の説明では、モードクラッチ50および停止クラッチ60を1つの電動アクチュエータ84で操作しているが、これに限られることはなく、モードクラッチ50と停止クラッチ60とを別個の電動アクチュエータで操作しても良い。また、電動アクチュエータ84に限られることはなく、油圧アクチュエータによってモードクラッチ50および停止クラッチ60を操作しても良い。
【0032】
また、図示する無段変速機39は、ベルトドライブ式の無段変速機であるが、これに限られることはなく、トロイダル式の無段変速機を備えた動力伝達装置に対して本発明を適用しても良い。また、図示する動力伝達装置10は、四輪駆動車用の動力伝達装置であるが、これに限られることはなく、前進駆動車用や後輪駆動車用の動力伝達装置に対して本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0033】
10 動力伝達装置
11 エンジン
14f 前輪(駆動輪)
14r 後輪(駆動輪)
19 入力径路
26 出力径路
30 無段変速径路
31 ギヤ列径路(固定伝達径路)
34 プライマリプーリ(回転体)
36 セカンダリプーリ(回転体)
39 無段変速機
50 モードクラッチ(入力側クラッチ,噛合クラッチ)
60 停止クラッチ(噛合クラッチ)
75 前進クラッチ(出力側クラッチ)
91 電動モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに接続される入力径路と、駆動輪に接続される出力径路とを備える動力伝達装置であって、
前記入力径路と前記出力径路との間に設けられ、前記入力径路から前記出力径路に無段変速機を介して動力を伝達する無段変速径路と、
前記入力径路と前記出力径路との間に設けられ、前記入力径路から前記出力径路に固定伝達比で動力を伝達する固定伝達径路と、
前記無段変速径路および前記固定伝達径路と前記入力径路との間に設けられ、前記入力径路と前記無段変速径路とを接続する第1締結状態と、前記入力径路と前記固定伝達径路とを接続する第2締結状態とに切り換えられる入力側クラッチと、
前記入力側クラッチを第2締結状態から第1締結状態に切り換える際に、前記無段変速機の回転体を回転させる電動モータとを有することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力伝達装置において、
前記無段変速機と前記出力径路との間に設けられ、前記入力側クラッチが第2締結状態となるときに解放状態に切り換えられ、前記無段変速機を停止させる停止クラッチを有することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の動力伝達装置において、
前記無段変速径路および前記固定伝達径路と前記駆動輪との間に設けられ、前記電動モータによって前記回転体を回転させる際に解放状態に切り換えられ、前記エンジンと前記駆動輪とを切り離す出力側クラッチを有することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の動力伝達装置において、
前記入力側クラッチは噛合クラッチであることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の動力伝達装置において、
前記停止クラッチは噛合クラッチであることを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−113338(P2013−113338A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258027(P2011−258027)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】