説明

動力義肢の制御方法、及び当該方法が適用された動力義肢

【課題】患肢に装着した動力義肢において、従来は不可能であった巧緻な随意的運動を実現可能とする動力義肢の制御方法及びこれを適用した動力義肢を提供する。
【解決手段】上肢若しくは下肢の一部若しくは全部を欠損した患肢Aと、随意的に動かし得る関節Hとを有する人体に適用される動力義肢1を制御するための方法であって、随意的に動かし得る関節の一又は複数の関節変位を、計測手段3により第1の関節変位として計測するステップと、第1の関節変位の一般化座標空間から動力義肢1の関節変位の一般化座標空間への適切な写像を演算手段5により演算し、第2の関節変位として算出するステップと、第2の関節変位を目標値として、制御手段4、10、20により患肢に適用した動力義肢の一又は複数の関節変位制御を行なうステップと、からなることを特徴とする動力義肢の制御方法及びこれを適用した動力義肢とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力義肢の制御方法、及びこれが適用された動力義肢に関する。
【背景技術】
【0002】
はじめに、義肢適用の対象となるのは、上肢若しくは下肢の全部あるいは一部を欠損し(患肢)、その一方で随意的に動かすことのできる関節を有する人(以下、装着者と呼ぶ)である。本発明で対象とする動力義肢は、指令に応じて各関節の角度・角速度・トルク等の制御が可能な装置が内蔵されているものである。
【0003】
義肢の一例として義手を挙げると、従来、義手としては、i)全く動かない装飾用のもの、ii)作業用のフックのようなもの、あるいはiii)動力義手(主に筋電義手)が案出され、提供されている。動力のないフックでも大部分の作業はできるが、「器用な手」としての機能は望むべくもない。また、筋電義手を思い通りに動かすためには練習が必要であり、練習の後に動かせるようになったとしても、予め準備された少数の動作パターンから一つを選択し再現する程度の大雑把な動きしかできない。
【0004】
上記した筋電義手については多様なバリエーションがあるが、基本構成及び動作原理としては、筋電センサによって患肢の適当な部位の表面筋電位を感知し、その出力(あるいは出力の積分値)が一定の閾値を超えることでスイッチをオン、オフさせて動作させるものである。このとき、義手に内蔵されたモータにより、掌を握る、開く等の動作ができ、擬似的に装着者の意思で動く上肢や掌を再現している。
【0005】
これまでの筋電義手の操作要領については、切断者、また断端の位置或いは(先天的若しくは後天的)欠損箇所によっても異なるが、断端等に残存する筋をスイッチとして操作するものが大半である。
例えば手首を切断した場合、手首の掌屈(掌側へ手首を曲げること)時に発生する表面筋電位を「握る」、背屈(手の甲側へ手首を曲げること)時に発生する表面筋電位を「開く」といったように、義手の動きと表面筋電位の発生方法に一定のルールを設けることで操作を行なう(図6参照)。
あるいはオンオフではなく、筋電位に応じた比例速度制御あるいは比例把持力制御によって動力義手を駆動する手法もある(特許文献2参照)。
また、筋電位ではなく筋の圧力によって動力義手の制御を行なう手法もある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−201782号
【特許文献2】特開2005−334675号
【特許文献3】特開2008−67852号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】人間支援型ロボット実用化基盤技術開発「リハビリ支援ロボット及び実用化技術の開発」(イメージトレーニング機能付き手指上肢リハビリ支援システムの研究開発)に関する研究,平成17年度〜平成19年度成果報告書,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構,平成20年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ここでスイッチとして使用する表面筋電位は極めて微弱であることから、筋電センサによる検知が容易でないことも手伝って、筋電義手を使いこなすまでに至るには時間が掛かるという問題があった。また、使いこなしにはコツも必要であり、誰もが思い通りに筋電義手を操ることは困難であった。
【0009】
さらに、筋電義手の制御は、計測ノイズが大きく信頼性の低い筋電情報にもとづいて行なわれるため、巧緻な制御は原理的に困難である。
【0010】
すなわち、上記したような、掌を握る、開くといった単純なオンオフ制御等、予め準備された少数の動作パターンから一つを選択し再現する程度であれば、有意な信号を採り得る限り義手の制御はなし得る。
ところが、近年の筋電義手に対しては、義手に負担させる、又はさせたい仕事の種類、ニーズが多様化しており、義手に要求される動作パターンは多岐にわたっている。
【0011】
他方、筋電義手を複雑に制御しようとすればする程、筋電の微妙な変化をより高精度に検知する必要性が高まる。これは、極めて高度な技術を伴うものであり、義手の高コスト化を招来する。また同時に、このようなものを実際に装着者の患肢に適用した際に、装着者の意思を違和感無く遂行し得るものを完成させ、実際に供用しようとするにあたっては、一々装着者ごとに、筋電センサの適合調整や制御プログラムのパラメータ調整等を行なう必要があり、非常に手間が掛かっていた。
さらに、義手や筋電センサは常時装着しているものではなく、入浴や就寝のたびに脱着を繰り返すものであることから、義手に対する装着者の意思が同じであったとしても、義手の適合性の良否や筋電センサと皮膚との密着性の状況、発汗の有無等によって筋電信号の差が生じ得、義手の動作が異なり得るといった例からも明らかなように、筋電の微妙な変化を高精度な制御のための情報源とするというのはそもそも信頼性に欠け、巧緻な動作には適さないという問題点があった。
【0012】
これまでの検討で明らかな通り、現在に至るまで、筋電義手は多くの問題を抱えているにもかかわらず、そのニーズから研究が続けられている。
しかしながら、やはりその基本構造は筋電情報にもとづいて選択された有限個数のパターンを再生するものに過ぎない。また、仮に義手が装着者の意思にもとづいて何らかのパターンを選択するとしても、ノイズが大きく信頼性の低い筋電を情報源とする以上、そのパターン選択アルゴリズム(パターン認識)の信頼性も完全にはなり得ない。
【0013】
さらに、パターン認識のためには、まずある程度の時間幅の筋電情報を取得することが必要であるので、筋電情報からパターン認識を行ない、複数のパターンから一つを選択し、筋電義手を実際に動かすに至るまでに生じるタイムラグは不可避であり、その長さも無視できない。その上、このような時間遅れが生じると、装着者の意思を十分反映せず、義手が不可解な動作を行なうという結果を招来していた。有限個数のパターンを認識させ、これを再生させるという形態については、ニューラルネットワークを用いて再生パターンを抽出するといった非ルールベースの手法による改良等も試みられているが、パターン認識に相当するタイムラグが発生することに何等変わりはなく、本質的な問題の解決には至っていない。
パターン認識ではなく、特許文献2のように筋電位に応じた比例速度制御あるいは比例把持力制御を行なう場合には、筋電情報のノイズ除去の如何によっては、タイムラグを少なくして意志を反映できる可能性がある。しかし、複数の筋からの筋電情報を分離することは困難であるとともに、装着者が複数の筋電位を独立に生じさせることも難しく、高々1〜2自由度の制御が限界であった。したがって、この手法でも、巧緻な動作には適さないという問題点があった。
特許文献1では、感圧素子を用いて皮膚表面の圧力を計測し、その情報によって動力義手が駆動されている。感圧素子は筋電センサに比べてノイズが少なく、特許文献1の手法によれば筋電情報にもとづくよりも信頼性が高い制御が可能である。しかし、この場合も、複数の筋の圧力を別々に取得するためには、多数の感圧素子を備えなければならず、また装着者が複数の筋の圧力を独立に生じさせることも難しく、巧緻な動作にはやはり適さない。
【0014】
ところで、特許文献3および非特許文献1には、次のような手指上肢リハビリ支援システムが開示されている。
非特許文献1の図1には、健側にデータグローブ等からなる計測器を、患側にロボットハンドからなるリハビリ補助機器を備えてなる構成が開示されている。また、同文献の図12には、図1に開示された構成を利用して、装着者自身が、麻痺のない健側で麻痺のある患側を動かすサポートをしている状況が開示されている。同文献によれば、このようなシステムを用いることにより、装着者自身によるリハビリ支援を実現できる可能性があることが報告されている。
さらに、同文献の図6には、患者と隔離された、医者やセラピストの所在する遠隔地にロボットハンドと遠隔モニタを備えた制御装置を、患者側にロボットハンドからなるリハビリ支援ハンドを備えてなる構成が開示されている。また、同文献の図17には、図6に開示された構成を利用して、医者やセラピストが、遠隔モニタを確認、診断しながら遠隔地に所在する、麻痺のある患者の手指のリハビリをサポートしている状況が開示されている。同文献によれば、このようなシステムを用いることにより、医者やセラピストによる遠隔地からのリハビリ支援を実現できる可能性があることが報告されている。
ただ、これらの開示ではいずれも、実際に物体を把持したり、離したりする、或いは第三者や物体に触れるのはやはり装着者自身の掌、指や上肢である。同文献に記載のロボットアームやロボットハンドは、あくまでも装着者の生身の掌、指や上肢のリハビリを支援するためのものに過ぎず、ロボットアームやロボットハンド自体が装着者の義手として作業をなし得るものではない。
【0015】
このように、動力義肢について、これまでの義肢の延長線上にあるものでは本質的な問題点を払拭できず、関連技術を見回したところでも、やはり十分なものは世の中に存在しなかった。今後年々高まる一方であるユーザーの要望に応え得る動力義肢を提供するためにも、動力義肢に対する技術革新をもたらす必要がある。
【0016】
したがって本発明は、可能な限り計測ノイズの少ない情報源にもとづいて制御され、患肢に装着した動力義手をはじめとする義肢において従来は不可能であった巧緻な随意的運動を実現可能な動力義肢の制御方法、及び当該方法が適用された動力義肢を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決すべく、本願発明者は、片方の上肢若しくは下肢の一部若しくは全部を欠損し(患肢)、その一方で随意的に動かすことのできる関節を有する人(装着者)を対象に、随意的に動かし得る関節の一又は複数の関節変位を計測手段により第1の関節変位として計測し、上記第1の関節変位の一般化座標空間から動力義肢の関節変位の一般化座標空間への適切な写像を演算手段により演算して第2の関節変位として算出するとともに、上記第2の関節変位を目標値として制御手段により患肢に適用した動力義肢の一又は複数の関節変位制御を行なうことにより、患肢に装着した動力義肢において、従来は不可能であった巧緻な随意的運動を実現させ得ることを見い出して本発明を完成した。
さらに本願発明者は、患肢に適用した動力義肢を上記要領にて制御することに加え、患肢を筋電義肢とし、患肢断端等の筋電情報を筋電センサにて別途取得することで、より多様な患肢の制御をなし得ることをも見い出した。
【0018】
上記課題を解決可能な本発明の動力義肢の制御方法は、(1)上肢若しくは下肢の一部若しくは全部を欠損した患肢と、随意的に動かし得る関節と、を有する人体に適用される動力義肢を制御するための方法であって、
前記随意的に動かし得る関節の一又は複数の関節変位を、計測手段により第1の関節変位として計測するステップと、
前記第1の関節変位の一般化座標空間から動力義肢1の関節変位の一般化座標空間への適切な写像を演算手段により演算し、第2の関節変位として算出するステップと、
前記第2の関節変位を制御手段に入力し、前記患肢に適用した前記動力義肢の制御を行なうステップと、
からなることを特徴とするものである。
【0019】
また本発明の動力義肢の制御方法は、(2)さらに、前記動力義肢の一又は複数の関節変位を保持する制御を行なう位置決め手段により前記動力義肢の一又は複数の関節変位を保持し得るようになっており、
前記制御手段による前記動力義肢の制御を行なうステップと、前記位置決め手段による前記動力義肢の一又は複数の関節変位を保持するステップとを、第1の切替手段により任意に切り替えて実行し得るようにしたことを特徴とするものである。
【0020】
また本発明は、前記(1)又は(2)の動力義肢の制御方法において、(3)さらに、前記人体の適切な部位の筋電情報を筋電センサにより取得するステップを備えるとともに、
前記第2の関節変位を前記制御手段に入力し、前記動力義肢の制御を行なうステップと、
前記筋電情報を前記制御手段に入力し、前記動力義肢の制御を行なうステップとを、第2の切替手段により任意に切り替えて実行し得るようにしたことを特徴とするものである。
【0021】
また本発明は、前記(1)〜(3)の動力義肢の制御方法において、(4)さらに、前記人体の適切な部位の筋電情報を筋電センサにより取得するステップを備えるとともに、
前記第2の関節変位に加えて前記筋電情報をも前記制御手段に入力し、前記動力義肢の制御を実行し得るようにしたことを特徴とするものである。
【0022】
制御方法と同様に、上記課題を解決可能な本発明の動力義肢は、(5)上肢若しくは下肢の一部若しくは全部を欠損した患肢と、随意的に動かし得る関節と、を有する人体に適用される動力義肢であって、
前記随意的に動かし得る関節の一又は複数の関節変位を、第1の関節変位として計測する計測手段と、
前記第1の関節変位の一般化座標空間から動力義肢1の関節変位の一般化座標空間への適切な写像を演算し、第2の関節変位として算出する演算手段と、
前記第2の関節変位が入力され、前記患肢に適用した前記動力義肢の制御を行なう制御手段と、
からなることを特徴とするものである。
【0023】
また本発明の動力義肢は、(6)さらに、前記動力義肢の一又は複数の関節変位を保持する制御を行なう位置決め手段を備えるとともに、
前記制御手段による前記動力義肢の制御と、
前記位置決め手段による前記動力義肢の一又は複数の関節変位を保持する制御とを任意に切り替え得る第1の切替手段と、
を備えてなることを特徴とするものである。
【0024】
また本発明は、前記(5)又は(6)の動力義肢において、(7)
さらに、前記人体の適切な部位の筋電情報を取得し得る筋電センサを備えるとともに、
前記第2の関節変位を前記制御手段に入力して行なう前記動力義肢の制御と、
前記筋電情報を前記制御手段に入力して行なう前記動力義肢の制御とを任意に切り替え得る第2の切替手段と、
を備えてなることを特徴とするものである。
【0025】
また本発明は、前記(5)〜(7)の動力義肢において、(8)さらに、前記人体の適切な部位の筋電情報を取得し得る筋電センサを備えるとともに、
前記制御手段は、前記第2の関節変位と前記筋電情報の両方の入力にもとづいて、前記動力義肢の制御を実行し得るよう構成されていることを特徴とするものである。
【0026】
なお、前記計測手段は、エンコーダ方式、光ファイバ方式、歪みゲージ方式、若しくは磁気センサ方式又はこれらのいずれかの組み合わせより構成されたデータグローブ、データソックス、若しくはデータスーツからなることが好ましい。
【0027】
[用語について]
ここで、本明細書でいう動力義肢には、指令に応じて各関節の角度・角速度・トルク等の制御が可能な手段、装置が内蔵されているものとする。例えば、以下に解説する通り動力義肢を動力義手としたときには、一般的には、上肢であれば上肢に相当するサイズのロボットアーム、また掌であれば人間の掌サイズのロボットハンドが該当する。ただし、欠損によって失われた機能を補完・代替する機能を持つ動力義肢でさえあれば、そのサイズ、自由度数、運動能力等は、必ずしも人間のそれらに限定されるものではなく、大幅に能力を拡張したり、人間にはない機能を追加するものであっても構わない。
【0028】
また、本明細書において、「関節」は、装着者の身体に存在する複数の関節の内の、一又は複数の任意の関節のことを指し示すものとする。
ここで、装着者に適用される動力義肢の関節の数、すなわち本発明によって制御したい関節の具体的な数については、装着者の症状(≒患肢の断端の位置或いは欠損箇所)や動力義肢の用途等によっても変動する。
例えば、動力義手を想定した場合、装着者の患肢の断端の位置或いは欠損箇所との関係で、掌より先だけを本発明により制御したいのであれば、装着者に適用される動力義手の関節とは、一般的には人間の掌サイズのロボットハンドの関節が該当することとなる。関節の数も当然ロボットハンドの関節の数となる。
一方、肩関節を除いた上肢全てに動力義手が適用される装着者については、動力義手の関節数も上記の例より当然多くなり、動力義手の総関節数は、一般的には(肩関節を除く)肩関節から掌の指の先の関節全ての関節となる。これらは全て、ロボットアーム及びロボットハンドの関節に該当する。
【0029】
また、本明細書において、「鏡像」とは、下記「写像」の一例に相当するものであり、n次元(現実にはn=3)ユークリッド空間にひとつのn−1次元空間(超平面S)を定めたとき、例えばある点p1をこの超平面Sに対して対称な点p2に写像する操作を言うものとする。ここで対称な点とは、この超平面Sに対する垂線上にあり、垂線と超平面Sとの交点からの距離が等しい2点p1、p2のことを指す(図5参照)。
また、この操作で互いに移る2点p1、p2間の関係、つまり超平面Sに対して対称な点p1、p2同士の関係をも鏡像、または鏡映という。
本明細書においては、鏡像も鏡映も2つの点や図形の間の関係を指す。また元の点や図形をその関係にある相手に移す操作を鏡映操作と言うものとする。なお、鏡像については、その関係にある相手の図形のことをも指すが、この意味では鏡像又は鏡像体の語も用いるものとする。
本明細書においても、鏡面が完全に平坦ならば鏡像は元の図形と合同になるが、凹面鏡や凸面鏡のように曲面の場合はその限りではないことを確認しておく。
そして、本明細書における「写像」或いは「写像操作」は、上記「鏡像」の上位概念に相当するものであり、或る対象を新しい対象に変換する操作のことを指し示すものとする。写像とは、ある集合Xに属する要素xに、ある集合Yに属する要素yを対応させるとき、この対応関係を、集合Xから集合Yへの写像とよぶ。写像は関数と呼ばれることもある。例えば本明細書においては、集合Xを、随意的に動かし得る関節の一又は複数の関節変位の組とし、集合Yを、動力義肢の関節変位の組とし、すべての組xに対応する組yを決定することで、集合Xから集合Yへの写像を定義することが出来る。
したがって、本発明の演算部(演算手段)において適切な写像が定義されてさえいれば、例えば片方の上肢の一部が欠損し(患肢)、動力義手が適用されている装着者について、随意的に動かし得る下肢関節の一又は複数の関節変位(第1の関節変位)の写像として演算した第2の関節変位を目標値として患肢に適用した動力義肢の一又は複数の関節変位制御を行なうことも可能である。
また、本明細書において「一般化座標空間」とは、装着者が随意的に動かし得る関節若しくは動力義肢の関節いずれかにおける、一又は複数の関節変位の組のすべてを包含する集合として定義される空間であるとする。ただし、関節変位の次元(関節変位を表現する単位)は、必ずしも単一である必要はないことをもって、一般化座標として定義している。換言すれば、直動関節や回転関節などが混在していても良い、ということでもある。
従って、写像の前記解説における、集合Xおよび集合Yはそれぞれ一般化座標空間であり、具体的な関節変位の組である要素xおよび要素yは、一般化座標空間上の点として表現される。このとき、一般化座標空間X上のすべての点xを、一般化座標空間Y上の対応する点yに移し替える対応関係が、前記写像である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、患肢の制御は可能な限り計測ノイズの少ない情報源にもとづいて行なわれるため、患肢に装着した動力義手をはじめとする義肢においても、従来は不可能であった巧緻な随意的運動を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例の全体構成図を示す正面図である。
【図2】コンピュータユニットの構成を示す図である。
【図3】本体部の構成を示す図である。
【図4】データグローブの構成を示す図である。
【図5】本明細書における鏡像及び鏡映操作について説明する正面図である。
【図6】筋電義手の操作要領について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面にもとづき、本発明の一実施形態に付き、実施例を挙げ詳細に説明する。
これより解説する実施例は、片方の上肢の一部が欠損し(患肢)、動力義手が適用されている装着者について、随意的に動かし得る上肢(健肢)関節の一又は複数の関節変位(第1の関節変位)をもとに演算した第2の関節変位を目標値として患肢に適用した動力義肢の一又は複数の関節変位制御を行なうことを目的に構成された動力義手(システム)1である。
なお、本発明において一般化された形で規定される、「第1の関節変位の一般化座標空間から動力義肢の関節変位の一般化座標空間への適切な写像を演算手段により演算して第2の関節変位として算出する」過程に関しては、本実施例においては写像の下位概念に相当する鏡像を求めることに相当し、例えば、「第1の関節角度を計測した各関節に係る鏡像の各関節角度を演算手段により演算し、第2の関節角度として算出する」様な形で規定され得る。鏡像(或いは鏡映操作)に関する詳細に関しては別途、後段にて詳述する。すなわち、これより行なう動力義手のミラーリング制御の解説は、本発明において一般化された形で規定される写像演算にもとづく制御の一つの例として理解されるものである。
本実施例に係る動力義手1は、図1に示す通り、健肢Hに装着され得るデータグローブ3、患肢Aに適用される動力義手1の本体部2、及び両者を連繋して制御するコンピュータユニット4から基本的に構成される。
【実施例】
【0033】
[基本構成]
図3に示す通り、本実施例では、動力義手1の本体部2は上肢に相当するサイズのロボットアーム部10と人間の掌サイズのロボットハンド部20とからなっている。ここで、本体部2に関しては、装着者の患肢Aの断端位置によっても外形や内包する総関節数が異なる、いわばオーダーメイドのものである。図1や図3の形状には限定されない。図1及び図3に記載した装着者は、肩関節11aと肘関節12aとの間に断端(欠損箇所の末端でもよいが、以下では断端とする)Eがある。このとき、本体部2は、肩関節11a以外の全ての関節(肘関節12aから掌の各指の関節全て)の機能を、自身に内蔵したロボットアーム部10及びロボットハンド部20に担当させる構成となっている。
【0034】
図3に示す通り、ロボットアーム部10とロボットハンド部20とはいずれも、コンピュータユニット4からの指令に応じて夫々が有している各関節の角度等の制御が可能な手段、装置である。ロボットアーム部の各関節12a、13aにはサーボモータが内装されている。またロボットハンド部の各関節21−1a、21−2a(親指)、22−1a、22−2a、22−3a(人差し指)、23−1a、23−2a、23−3a(中指)、24−1a、24−2a、24−3a(薬指)、および25−1a、25−2a、25−3a(小指)は、各指の根元側に内装された夫々のサーボモータと一々連繋されたリンク機構によって駆動される。なお、患肢Aに適用した動力義手1の本体部2を健肢Hの動きに合わせてミラーリング制御する、本発明に係るミラーリングによる動力義手1の制御方法自体については、後段で別途改めて説明する。
【0035】
ロボットアーム部10とロボットハンド部20とはいずれも、本体部2の外層31内に内蔵されている。本体部2の外層31は、色、質感及び触感その他人間に限りなく近いハイレベルで製作されている。その態様は、これまでの筋電義手と同様と考えてよい。
【0036】
図2に示す通り、コンピュータユニット4は、入力部41と、演算部5と、出力部42の基本構成からなっている。後述するとおり、図2に示すコンピュータユニットでは、補正部6と、位置決め部7も備えられている。両者の動作及び機能については、後段で別途改めて説明する。各ブロックの接続関係については、図2に示す通りである。
【0037】
図2に示す通り、コンピュータユニット4は、ロボットアーム部10とロボットハンド部20と同様、本体部2の外層31内に内蔵されている。コンピュータユニット4は、ロボットアーム部10とロボットハンド部20と有線接続され、信号通信可能な構造となっている。より具体的には、コンピュータユニット4は、ロボットアーム部10の各関節12a、13aに内装された夫々のサーボモータと、そしてロボットハンド部20の各指の根元側に内装された、夫々の関節21−1a、21−2a(親指)、22−1a、22−2a、22−3a(人差し指)、23−1a、23−2a、23−3a(中指)、24−1a、24−2a、24−3a(薬指)、および25−1a、25−2a、25−3a(小指)駆動用のサーボモータと接続されている。
【0038】
他方、コンピュータユニット4は、データグローブ3と無線通信し得るようになっている。したがって本実施例では、第1の関節角度はデータグローブ3から無線通信によりコンピュータユニット4に入力される。
コンピュータユニット4は、第1の関節角度を計測した各関節に係る鏡像の各関節角度を演算し、第2の関節角度として算出する。なお、本発明において当該算出過程は、「第1の関節変位の一般化座標空間から動力義肢の関節変位の一般化座標空間への適切な写像を演算手段により演算し、第2の関節変位として算出する」過程として一般化された形で規定され得る。
コンピュータユニットは、第2の関節角度を目標値として、該当する各関節のサーボモータに対して駆動信号を送出する。
【0039】
図4に示す通り、データグローブ3は、健肢Hに装着され得る構造となっているとともに、健肢Hの一又は複数の各関節角度を計測して、第1の関節角度として外部に出力し得る様な構造となっている。第1の関節角度として計測し、出力される関節角度の数については、患肢Aに適用された動力義肢1の関節の数と対応している。
【0040】
本実施例に係るデータグローブ3では、装着された際に健肢の各関節21−1h、21−2h(親指)、22−1h、22−2h、22−3h(人差し指)、23−1h、23−2h、23−3h(中指)、24−1h、24−2h、24−3h(薬指)、および25−1h、25−2h、25−3h(小指)と対応する位置に、複数個(例えば20個前後)の角度センサが備え設けられている。本実施例では角度センサはロータリエンコーダからなっている。これにより、細かな動きもリニアかつ正確に出力することが可能となっている。
さらに、本実施例では、角度センサの数を適宜増減することで、健肢Hの手首、肘、そして肩の各関節13h、12h、11hの角度を検出し得る構成としている。
【0041】
このほかにも、データグローブ3に適用される指の曲がり具合の基本測定要領は、これまで多様な提案がなされており、その中でも代表的な光ファイバ方式、歪みゲージ方式、若しくは磁気センサ方式又はこれらの組み合わせを適用し得る。
なお、光ファイバ方式は、手袋の外面に樹脂製の光ファイバを這わせ、手元の発光部からの光が指の屈曲に応じて減少した光量を指先で折り返され戻ってきたもう一端の受光部で測り、指の屈曲度合いの情報を得ることを基本原理とするものである。好ましくは、測定すべき屈曲部で特に屈曲に対する減少が大きくなるように作られる。ここで、各指の第1指と第2指に対応する2往復のファイバが手袋に内蔵されると、指の第1関節と第2関節の曲がり具合を個別に測定し得る。
歪みゲージ方式は、グローブ内に埋め込まれた複数個(例えば20個前後)の、薄く柔軟性があって、抵抗素子に相当する歪みゲージを用いることにより、各指の関節ごとの屈曲、各指同士の開き具合、掌の曲げ、手首の動きをリニアに計測する方式である。
また、磁気センサ方式は、磁気センサをグローブの手首の甲側に埋め込んで、外部の発信コイルから磁界を捉えることで3次元空間中での位置と姿勢の情報を得るものである。
【0042】
[鏡像及び鏡映操作について]
ここで、本発明のミラーリング制御の基本動作原理でもある鏡像及び鏡映操作について説明する。図5は、本明細書における鏡像及び鏡映操作について説明する図である。
【0043】
図5に示す通り、本実施例において「鏡像」とは、3次元ユークリッド空間にひとつの2次元空間(超平面S。本実施例では超平面Sは、体軸を貫くとともに、これを境に装着者の左右の上肢を健肢H側と患肢A側とに分断する平面を指し示すものとする)を定めたとき、例えばある点p1をこの超平面Sに対して対称な点p2に写像する操作である。ここで対称な点とは、この超平面Pに対する垂線上にあり、垂線と超平面Pとの交点からの距離が等しい2点p1、p2のことを指す。
以上に述べた鏡像の基本原理、及び本実施例における超平面Sの設定状況を前提として、患肢Aに適用した動力義手1の本体部2は、健肢Hの動きに合わせてミラーリング制御される。
【0044】
なお本実施例では、「鏡面」と仮想する超平面Sは完全に平坦なものであるとしている。その結果、得られる鏡像(又は鏡像体)は元の図形と合同になっている。
【0045】
以下、ミラーリング制御に係る制御信号の生成及びそれによって動力義手1の本体部2が制御される処理の流れについて説明する。
はじめに、コンピュータユニット4に入力された第1の関節角度については、コンピュータユニット内で、第1の関節角度を計測した各関節に係る鏡像の各関節角度が演算処理される。演算結果は、第2の関節角度として算出される。ここで言う鏡像に関しては上記した通りである。
【0046】
次に、コンピュータユニット4からは、算出された第2の関節角度を目標値として、(第1の関節角度が計測された健肢H側の各関節に対応する)動力義肢1の各関節に係るサーボモータを駆動するよう指令がなされる。
第1の関節角度が計測された健肢側の各関節に対応する動力義肢の各関節は、コンピュータユニットからの指令にもとづき、第2の関節角度を目標値として駆動される。
【0047】
なお、コンピュータユニット4に入力される第1の関節角度に係る信号は、データグローブ3からの出力値に相当する。一般にデータグローブについては、計測ノイズが少なく、高精度の計測データを出力し得るものと考えて構わない。
【0048】
ここで、上記の一連の制御に関しては、PD制御、PID制御等のフィードバック制御によって動力義肢1の各関節に内装したサーボモータが駆動される、すなわち、コンピュータユニット4からの指令にもとづき、動力義肢1の各関節に内装したサーボモータが目標値である第2の関節角度に向かって逐次的にフィードバック制御される構成としても構わない。
【0049】
このように、本実施例の動力義肢1に係るロボットアーム10とロボットハンド20の一方又は双方は、第2の関節角度を目標値として駆動される。本実施例により、患肢Aに適用した動力義手1は健肢Hの動きに合わせてミラーリング制御され、動力義手1は健肢Hの鏡像の動きをすることとなる。
【0050】
[その他機能]
以上の構成及び基本動作原理からなる本実施例の動力義手1は、さらに、次の機能を備えている。
【0051】
図2に示す通り、本実施例のコンピュータユニット4では、補正部6と、位置決め部7も備えられている。なお、補正部の内蔵メモリ6aには動力義手の各関節可動範囲が予め記憶、格納されている。
【0052】
補正部6は、演算部5によって算出された第2の関節角度を、第1の関節角度の鏡像の各関節角度から、健肢Hの各関節可動範囲と患肢A側に適用された本体部2に係るロボットアーム10又はロボットハンド20の各関節可動範囲とが一致する角度範囲に補正する。当該補正後の第2の関節角度を目標値として、ロボットアーム10又はロボットハンドに内装された各サーボモータは駆動される。
このような、当該補正後の第2の関節角度を目標値として、患肢Aに適用した動力義手1の一又は複数の各関節の角度制御を行なう構成は、健肢Hと動力義手1の可動範囲が大幅に異なるような場合に特に有用である。
【0053】
補正部6の働きにより、健肢Hの動きに合わせてミラーリング制御され、健肢Hの鏡像動作をするに止まっていた、(制御される対象である)動力義手1の破壊を防止し、長寿命化を図ることができる。
【0054】
位置決め部7は、動力義手1の一又は複数の各関節の角度を保持する制御を行なうものである。本実施例では、入力部41に接続された第1の切替手段8により、位置決め部7による動力義手1の一又は複数の各関節の角度を保持する制御を行なうか、或いはデータグローブ3から得た第1の関節角度にもとづき本体部2の各関節角度をミラーリング制御するかの切り替えを行ない得るよう構成されている。
ここで、第1の切替手段8からの切替信号は、入力部41に入力されるところ、第1の切替手段8の一例としては、音声、或いは下肢を活用した振動、下肢に備え設けた夫々専用のスイッチ(押しボタン、スライドスイッチ、トグルスイッチその他)等の手段が挙げられる。後出の第2の切替手段9についても同様である。
【0055】
位置決め部7により、健肢Hの動きに合わせてミラーリング制御され、健肢Hの鏡像動作をするに止まっていた、患肢Aに適用された動力義手1と、健肢Aとの動きを夫々別にすることができる。
すなわち、位置決め部7を機能させることにより、必要に応じ、左右の上肢を別々の姿勢にすることもできる。
位置決め部7を機能させることにより例えば、i)動力義手1と健肢Hの双方でコーヒーカップを載せた皿を持ち上げ、ii)動力義手1で皿を保持したまま、iii)健肢Hでスプーンを持ち、コーヒーカップ内でスプーンを回す、といった動作も可能となる。このとき、i)では健肢Hの動きに合わせてミラーリング制御が行なわれている。ii)、iii)では、患肢A側は位置決め手段7による動力義手1の一又は複数の各関節の角度を保持する制御が行なわれている。このとき、健肢H側はフリーである。ミラーリング制御を行なうか、位置決め手段7による各関節の角度を保持するホールディング制御を行なうかは、第1の切替手段8により、ii)、iii)に入る前に予め切り替えられていることによる。
【0056】
また、本実施例の動力義手1は、患肢Aの断端Eの筋電情報を取得する筋電センサ30を、本体部2における患肢Aの断端Eとの接合端部分に備えている。したがって本実施例の動力義手1は、取得した筋電情報にもとづいて例えば握力等の力制御をなし得る、いわゆる筋電義手ともなっている。
【0057】
図2に示す通り、筋電センサ30からの筋電情報は、コンピュータユニット4の入力部41に入力される。
ここで、入力部41は、第2の切替手段9とも接続されている。第2の切替手段9からの切替信号は、入力部41に入力される。本実施例では、この第2の切替手段9により、筋電センサ30からの筋電情報にもとづき握力の制御を行なうか、或いはデータグローブ3から得た第1の関節角度にもとづき本体部2の各関節角度をミラーリング制御するかの切り替えを行ない得るよう構成されている。
握力制御を行なう場合、例えば前記コーヒーカップの例で言えば、ii)動力義手1で皿を保持する際に、単なる位置決めのホールディング制御ではなく、弱く握りすぎて皿を取り落とさないよう、また強く握りすぎて皿を割らないように、適切な握力制御を行なうことが求められる。そこで、まずは前記i)で、皿を適切に把持できる形状に動力義手1をミラーリング制御しておき、ii)に入る前に予め第2の切替手段9によって、筋電情報にもとづく握力制御に切り替える。筋電情報にもとづく握力制御では、演算部5に入力された筋電情報を、演算部5に接続されたメモリ5aに予め格納された力制御則にもとづき、サーボモータに対するトルク指令として出力部42を介してロボットハンド部20に送出する。ロボットハンド20はトルク指令を受けて握力の力制御を行なう。第2の切替手段9に関しては、上記の通り、事情に合わせて適当なものを選択して構わない。
これまで知られていた筋電義手は、筋電センサから得られる筋電信号が微弱でノイズが多く、パターン認識に極めて困難性を伴う一方で、筋電義手に要求される動作パターンは多岐にわたるというアンバランスに起因して、その実用性に課題が生じていた。
本実施例によれば、筋電信号によって制御する要素を、例えば握力という一自由度の情報に、大幅に低減することが可能となる。患肢の断端等の適切な部位に備えられた筋電センサにより取得された、どの程度力を入れているかというアナログ情報(離散的なオンオフ情報ではなく)に限定すれば筋電センサの信頼性は比較的高く、筋電のアナログ情報にもとづく制御は十分可能である。
そのため、筋電信号によるアナログ情報にもとづく制御(アナログ筋電制御)と、ミラーリング制御とを第2の切替手段により切り替えて実行し得る様にしたとしても、装置全体として見たときは十分実用性を発揮した状態で、本実施例の適用された動力義手を用いることができる。
ここで、本実施例の一つのポイントは、筋電情報を、パターン認識のような離散情報として用いるのではなく、連続的なアナログ値として使うことにある。これも、ミラーリングと切り替えるからこそ生きてくるものである。従来も筋電をアナログ情報として使う試みはあったが、せいぜい1〜2個のアナログ情報にしか分離できないので、巧緻な制御はできなかった。しかし、切り替えるならば、1〜2個のアナログ情報でも、例えば握力制御指令として上手く使えば十分役立ち得る。
【0058】
なお、上述した第2の切替手段9からの切替信号を利用する構成に代えて、装着者自身の意志に依拠して、a)データグローブ3から得た第1の関節角度にもとづき本体部2の各関節角度をミラーリング制御すると同時に、b)筋電センサ30からの筋電情報にもとづき、動力義肢で行なわれているフィードバック制御のフィードバックゲインを変更する構成とすることもできる。すなわち本例は、上記動力義手1の制御方法において、さらに、筋電センサ30により上記患肢Aの断端E等の適切な部位の筋電情報を取得するようにしたとともに、上記動力義手1の一又は複数の関節制御を、a)上記演算によって算出した健肢Hの鏡像の関節目標角度と、b)上記筋電センサ30からの取得情報、の双方にもとづいて行ない得るようにしたものである。
本実施例を適用することにより、必要に応じ、動力義手1のフィードバックゲイン(例えば前記PD制御では、バネダンパ係数に相当するインピーダンス)を、装着者の意志によって調整することができ、健肢H、患肢Aのミラーリング動作における力の入れ具合を別々にすることができる。さらに、本実施例を適用することにより、例えば患肢についてはi)一旦何かを把持した姿勢のまま、ii)把持力を別途筋電にて制御することが可能となる。
このように、第2の切替手段9からの切替信号を利用する構成に代えて、データグローブ3から得た第1の関節角度にもとづき本体部2の各関節角度をミラーリング制御するとともに、筋電センサ30からの筋電情報にもとづき、動力義肢で行なわれているフィードバック制御のフィードバックゲインを変更し得るよう構成することにより例えば、切替手段を用いずに対象物をミラーリング制御によって把持する場合に有用となる。
一般に、同じ形の対象物(すなわち動力義手1が取るべき姿勢は同じ)でも、それが重くて壊れにくい場合には動力義手1の関節制御を固くして持ち上げる必要があるが、軽くて壊れやすい場合には逆に動力義手1の関節制御を柔らかくして持ち上げる必要がある。このような場合に、筋電情報によってフィードバックゲインを変更し得る構成であれば、関節制御を固くしたい場合は上記患肢Aの断端Eの筋肉に随意的に力を入れ、その筋電情報に応じて例えば比例的にミラーリング制御のPDフィードバックゲインを上げる。すると、ミラーリング制御は固いバネダンパで目標値である第2の関節角度に結合されている様な挙動となり、関節制御は固くなり、重いものを持ち上げることが容易となる。逆に断端Eの筋肉の力を抜いて、ミラーリング制御のPDフィードバックゲインを下げれば、ミラーリング制御は柔らかいバネダンパで第2の関節角度に結合されている様な挙動となり、壊れやすいものを持ち上げることが容易となる。
なお、上記構成は、ミラーリング制御の制御ゲイン調整を筋電情報によって行なう方法であるので、ミラーリング制御はもちろん、前記ホールディング制御や第2の切替手段9からの切替信号を利用する構成と併用することは可能である。
【0059】
[本実施例の有用性]
本実施例によれば、動力義手の巧緻な制御が可能になるため、動力義手の新たなニーズを開拓することが可能である。また本実施例によれば、基本的に両手が鏡像として同じ(対称な)動作をすることとなるが、両手が同じ動作をするだけでも、片手ではできなかったことの大部分ができるようになる。これは、例えば現在広く用いられている作業用のフック義手でほとんどすべての作業がこなせることからも明確である。
加えて、本実施例によれば、例えば人間の掌に相当する患肢のロボットハンドを、色、質感及び触感その他人間に限りなく近いハイレベルで製作することによって、動作だけでなく見た目の問題をも同時に解決することが可能である。
【0060】
さらに、本実施例を従来の筋電による制御と併用することによって、鏡像動作である左右対称動作を基本としつつも、(健肢と患肢との間で)多少の動作の差異を設定することが可能である。これによって、よりバリエーションの広い作業が可能となる。
【0061】
従来提供されていた種々の義手では、装飾と作業という二種類のニーズを同時に高いレベルで満たすことは困難であった。また、従来の筋電義手はその一つの解決方法ともなり得るが、あまりも動作が大雑把であり、人間の手が行なうような巧緻な作業には全く向かず、かつ作業を行なうことが困難なものであった。
【0062】
しかし、本実施例によれば、原則として鏡像動作であるが高速高精度な動力義手の制御が可能となる。これは現在の義手に不便な思いをしている切断患者らにとって非常に有用な、現在の技術で考えられるほぼ最高のソリューションを提供することとなる。これ以上の機能は、いわゆるブレイン・マシン・インターフェース(人間の脳神経系と機械を直接接続する技術)が実用レベルに達しない限り、実現できないと考えられる。
【0063】
[変形例]
以上、本発明につき一実施例を用いて詳細に説明したが、本発明は上記実施例の構成に何等限定されることなく、種々の態様で変形実施することが可能である。
【0064】
例えば、本実施例では、計測手段を公知のデータグローブ3からなるものとしたが、計測手段についてはこれに限定されず、空間上における健肢Hの各関節の第1の関節角度情報をコンピュータユニット4に入力可能なものであれば構わない。エンコーダや光ファイバ等を各関節に備える方式であっても良い。
また、データグローブ3による各関節角度の測定要領についても、各指の関節ごとに測定するもののほか、n本の指の曲げ量をn個の数値として出力するもの、各指同士の距離又は開き角度を測定するもの、掌の曲がり具合を測定するもの、手首の曲げを測定するものなど、本実施例で述べた以外の種々の要領からなるものを適用することができる。
なお、空間上における健肢Hの各関節の第1の関節角度の情報のほか、それらの空間位置情報もコンピュータユニット4に入力可能なものであれば、写像動作の精度がより向上する。例えば手の絶対位置や姿勢データは磁気センサや慣性センサといったモーション・トラッカー装置を別途備えることにより計測され得る。これにより、手のロール、ピッチ、ヨーといった角度情報とX、Y、Z軸方向での座標情報も測れるようになる。
【0065】
また本実施例では、コンピュータユニット4は本体部2に内蔵する構成としたが、これに限定されず、両者が分離される構造であっても構わない。
【0066】
また本実施例では、データグローブ3とコンピュータユニット4の間については無線通信、そしてコンピュータユニット4と本体部2の間は有線通信、を行なう構成としたが、これに限定されず、データがうまく通信され得る構成であれば方式には特に限定されない。
【0067】
また本実施例では、第1の切替手段8又は第2の切替手段9の一例として音声、或いは下肢を活用した振動、下肢に備え設けた夫々専用のスイッチ(押しボタン、スライドスイッチ、トグルスイッチその他)等の手段を挙げたが、第1の切替手段8又は第2の切替手段9についてはこれらの各例に何等限定されず、各機能を充足し得るものであれば特に限定されない。
【0068】
また本実施例では、補正手段6を備えるものとしたが、本実施例の構成はこれに何等限定されない。すなわち、動力義手1の各関節可動範囲が健肢Hに匹敵する程度にまで十分広範囲に及ぶ設計となっているようであれば、上記の補正手段6を省略したとしても実用上特に大きな問題は生じ得ない。
【0069】
また本実施例では、筋電センサ30を本体部2における患肢Aの断端Eとの接合端部分に備え、患肢Aの断端Eの筋電情報を筋電センサにより取得する構成としたが、本発明の構成はこれに何等限定されない。すなわち、患肢Aから取得した筋電情報にもとづいて例えば握力等の力制御をなし得る、いわゆる筋電義手を構成し得るのであれば、(本発明の)動力義手1において筋電センサの備えられる位置は特に限定されない。
【0070】
さらに、上記実施例では本発明が適用される動力義肢の一例として動力義手を挙げて種々説明を行なったが、本発明の適用対象は義手だけではなく義足でも構わない。
ここで、本発明の適用対象を動力義肢とした場合には、本実施例では公知のデータグローブからなるものとしていた計測手段を、データソックス或いはデータスーツからなるものとしても良い。
また前記第1の関節変位の計測手段は、適当なノイズフィルタを備えたものであっても良い。例えば、計測したデータにローパスフィルタを適用し、ノイズを除去した後、第1の関節変位として出力することが好ましい。また、ノイズ除去に限らず、健肢の動作に、例えばパーキンソン病によるような不随意的振戦が見られる場合でも、これを前記第1の関節変位の計測手段によって計測する際に、振戦を適切なフィルタによって除去した後にこれを第1の関節変位とすることで、振戦に影響されずに、随意的動作にもとづき第2の関節変位へ写像することが可能となる。
また本実施例では、第1の関節変位の一般化座標空間から第2の関節変位の一般化座標空間への写像の一例として鏡像を用いて種々説明を行なったが、適切な写像であれば鏡像に限定されない。例えば、データグローブからの第1の関節変位を動力義足の第2の関節変位へ写像したり、データソックスからの第1の関節変位を動力義手の第2の関節変位へ写像したり、あるいは人間の関節よりも可動範囲の広い義手の関節変位へ可動範囲を拡大するように写像したり、逆に、精密動作の可能な義手の関節変位へ可動範囲を縮小するように写像したり、拡大と縮小を関節位置によって使い分けるように非線形に写像したり、その他、任意の写像を構成することが可能である。また、それらの写像関係の使い分けも、必ずしも固定されている必要はなく、適宜使い分ける構成になっていてもよい。例えば、拡大縮小の倍率を、義手に設けられたツマミで適宜調節する等である。
また本実施例では、欠損した患肢は、一部が切断されているものとして種々説明を行なったが、本発明の適用対象となる装着者は、切断者のみに限定されない。例えば、サリドマイド等の薬害や遺伝的要因等を原因とする奇形に対しても適用可能である。その場合、例えば、奇形によって異常に小さくなった患肢が随意運動可能な場合、その患肢にデータグローブ、データソックス若しくはデータスーツを装着し、その患肢に被せるように動力義肢を装着して、適切な写像によって動力義肢を制御することが可能である。
【0071】
その他、上記実施例では本発明が適用される動力義肢の一例として、人の手に類似の形状と性能を持つ動力義手を挙げて種々説明を行なったが、本発明においては義肢の構造は、人の手足に類似の形状、性能に何等制限されない。
例えば、データスーツで欠損部以外の全身の随意運動可能なすべての関節変位を計測するようになっていれば、数十自由度という広大な一般化座標空間を構成することができる。その写像によれば、欠損部に装着する義肢も、数十自由度の制御が可能ということになる。
したがってこの場合、義肢として、数十自由度を備える巨大なロボットアームのようなものを使っても良いことになる。想定されるケースとしては、i)普段は人間型の義手を付けているが、ii)仕事をするときは大型のロボットアームに付け替えて力仕事をする、等の適用事例が挙げられる。なお、ここで説明した変形例は、あくまで装着者の欠損部に適用する義肢であることが前提である。
【0072】
以上説明した本発明に係る動力義肢の制御方法、及び当該方法が適用された動力義肢はこの先、動力義肢のメーカ、或いはロボットの応用先を探しているメーカ等、種々の実施先により実施され得る新規かつ有用な発明である。
【符号の説明】
【0073】
A 患肢
H 健肢
1 動力義手
2 本体部
3 データグローブ
4 コンピュータユニット
5 演算部
6 補正部
7 位置決め部
8 第1の切替手段
9 第2の切替手段
10 ロボットアーム部
11a、12a、13a ロボットアーム部の各関節
11h、12h、13h 健肢の各関節
20 ロボットハンド部
21−1a、21−2a ロボットハンド部の各関節(親指)
21−1h、21−2h 健肢の各関節(親指)
22−1a、22−2a、22−3a ロボットハンド部の各関節(人差し指)
22−1h、22−2h、22−3h 健肢の各関節(人差し指)
23−1a、23−2a、23−3a ロボットハンド部の各関節(中指)
23−1h、23−2h、23−3h 健肢の各関節(中指)
24−1a、24−2a、24−3a ロボットハンド部の各関節(薬指)
24−1h、24−2h、24−3h 健肢の各関節(薬指)
25−1a、25−2a、25−3a ロボットハンド部の各関節(小指)
25−1h、25−2h、25−3h 健肢の各関節(小指)
30 筋電センサ
31 外層
41 入力部
42 出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上肢若しくは下肢の一部若しくは全部を欠損した患肢と、随意的に動かし得る関節と、を有する人体に適用される動力義肢を制御するための方法であって、
前記随意的に動かし得る関節の一又は複数の関節変位を、計測手段により第1の関節変位として計測するステップと、
前記第1の関節変位の一般化座標空間から動力義肢1の関節変位の一般化座標空間への適切な写像を演算手段により演算し、第2の関節変位として算出するステップと、
前記第2の関節変位を制御手段に入力し、前記患肢に適用した前記動力義肢の制御を行なうステップと、
からなることを特徴とする動力義肢の制御方法。
【請求項2】
さらに、前記動力義肢の一又は複数の関節変位を保持する制御を行なう位置決め手段により前記動力義肢の一又は複数の関節変位を保持し得るようになっており、
前記制御手段による前記動力義肢の制御を行なうステップと、
前記位置決め手段による前記動力義肢の一又は複数の関節変位を保持するステップとを、
第1の切替手段により任意に切り替えて実行し得るようにしたことを特徴とする請求項1に記載の動力義肢の制御方法。
【請求項3】
さらに、前記人体の適切な部位の筋電情報を筋電センサにより取得するステップを備えるとともに、
前記第2の関節変位を前記制御手段に入力し、前記動力義肢の制御を行なうステップと、
前記筋電情報を前記制御手段に入力し、前記動力義肢の制御を行なうステップとを、
第2の切替手段により任意に切り替えて実行し得るようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の動力義肢の制御方法。
【請求項4】
さらに、前記人体の適切な部位の筋電情報を筋電センサにより取得するステップを備えるとともに、
前記第2の関節変位に加えて前記筋電情報をも前記制御手段に入力し、前記動力義肢の制御を実行し得るようにしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の動力義肢の制御方法。
【請求項5】
上肢若しくは下肢の一部若しくは全部を欠損した患肢と、随意的に動かし得る関節と、を有する人体に適用される動力義肢であって、
前記随意的に動かし得る関節の一又は複数の関節変位を、第1の関節変位として計測する計測手段と、
前記第1の関節変位の一般化座標空間から動力義肢1の関節変位の一般化座標空間への適切な写像を演算し、第2の関節変位として算出する演算手段と、
前記第2の関節変位が入力され、前記患肢に適用した前記動力義肢の制御を行なう制御手段と、
からなることを特徴とする動力義肢。
【請求項6】
さらに、前記動力義肢の一又は複数の関節変位を保持する制御を行なう位置決め手段を備えるとともに、
前記制御手段による前記動力義肢の制御と、
前記位置決め手段による前記動力義肢の一又は複数の関節変位を保持する制御とを、
任意に切り替え得る第1の切替手段と、を備えてなることを特徴とする請求項5に記載の動力義肢。
【請求項7】
さらに、前記人体の適切な部位の筋電情報を取得し得る筋電センサを備えるとともに、
前記第2の関節変位を前記制御手段に入力して行なう前記動力義肢の制御と、
前記筋電情報を前記制御手段に入力して行なう前記動力義肢の制御とを、
任意に切り替え得る第2の切替手段と、を備えてなることを特徴とする請求項5又は6に記載の動力義肢。
【請求項8】
さらに、前記人体の適切な部位の筋電情報を取得し得る筋電センサを備えるとともに、
前記制御手段は、前記第2の関節変位と前記筋電情報の両方の入力にもとづいて、前記動力義肢の制御を実行し得るよう構成されていることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の動力義肢。
【請求項9】
前記計測手段がエンコーダ方式、光ファイバ方式、歪みゲージ方式、若しくは磁気センサ方式又はこれらのいずれかの組み合わせより構成されたデータグローブ、データソックス、若しくはデータスーツからなることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の動力義肢。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−213873(P2010−213873A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63613(P2009−63613)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、知的クラスター創成事業「岐阜・大垣地域(ロボティック先端医療クラスター)構想」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】