説明

動物モデルを使用して医薬品副作用を予測する方法

本発明は、一般的に、医薬産業における標的検証の方法に関する。分子標的を検証する方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般的に、医薬産業における標的検証の方法に関する。
【0002】
背景
医薬産業は、ヒトにおける中毒作用の発見のため、臨床開発の初期段階で多くの化合物を放棄する。ヒトにおけるテストを先行する何年もの動物テストのため、これは高価な喪失である。費用を減らすために、副作用を持つ化合物を早期に同定し、それらをさらなる開発から排除することが望ましい。加えて、もし副作用がより早く同定されれば、より初期の段階で、より安全な化合物を構築することが可能であり、すなわち、安全かつ効果的な薬物を開発するのに必要な時間を有意に加速することができる。潜在的な問題を同定する1つの初期段階は、新たな薬物によって阻害されるかあるいは刺激される分子標的の選択の間である。この工程は「標的検証」と呼ばれる。
【0003】
薬物開発の現在の経路による1つの問題は、テスト動物が、均一の、注意深く制御された環境に保たれることである。これによって、再現可能かつ科学的に正確なデータ収集が可能になるが、人々が同時に起こる病、生理学的ストレス、外傷、栄養問題、および他の一般的な生理学的摂動に暴露されるヒト状況を正確には再現しない。
【0004】
ここに、我々は、標的検証が、規定された摂動および結果を分析する明白に規定され、測定され、かつ迅速な方法を用いて、動物において効率的にテストされ得る方法を提案する。
【0005】
【表1−1】

【0006】
【表1−2】

【0007】
発明の概要
本発明は、1つの態様において:
(a)標的遺伝子の過剰発現または過小発現のいずれかを呈する遺伝子工学作成非−ヒト哺乳動物を供し;
(b)哺乳動物において所望の生理学的ストレスを引き起こすあらかじめ選択された摂動に、該哺乳動物を付し、次いで
(c)その後、哺乳動物のメタボノミックプロファイルを決定することによって、該遺伝子工学作成哺乳動物の応答を評価することを含み、ここに該メタボノミックプロファイルは、あらかじめ選択された摂動と併せて、標的に影響を及ぼす薬物への有害な応答の指標であることを特徴とする動物モデルの応答を評価することによって、標的遺伝子に対する薬物への有害な応答を予測する方法を含む。
【0008】
本発明は:
(a)各々が実質的に同一の非−ヒト哺乳動物であり、このうちの1つが、該標的遺伝子の過剰発現または過小発現のいずれかを呈する遺伝子工学作成哺乳動物よりなり、他方が該標的遺伝子の実質的に正常な発現、つまり、実質的な過剰発現でも過小発現でもない発現を呈する少なくとも2つの群の応答を比較し;
(b)該哺乳動物において所望の生理学的ストレスを引き起こす実質的に同一の、あらかじめ選択された摂動に、該哺乳動物を付し;
(c)該哺乳動物のメタボノミックプロファイルを決定し、次いで
(d)その後、該プロファイルを比較して、標的遺伝子の発現およびあらかじめ選択された摂動に関する有害な応答を評価することを含む標的遺伝子に対する薬物への有害な応答を決定する方法を含む。
【0009】
前述に加えて、本発明は、さらなる態様として、具体的に上記した変化よりも、多少なりとも範囲のより狭い本発明の具体例を含む。
【0010】
発明の詳細な記載
前述は、出願人の発明の理解をさらに促すために提供されるが、出願人の発明の範囲を制限するようには意図されていない。
【0011】
定義
用語「遺伝子工学作成非−ヒト哺乳動物」(便宜上、「作成動物」と、下記で呼ぶこともある)は、ゲノムが、特異的な所定の遺伝子産物の発現レベルまたはパターンを改変するために、ヒトの介入によって改変されているヒト以外のクラス哺乳類の全員を指す。本発明で利用される遺伝子工学作成非−ヒト哺乳動物は、家畜(ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ウサギ等)、齧歯類(例えば、ネズミ、ハツカネズミ)、および家畜(例えば、ネコおよびイヌ)を含むが、これらに限定されるものではない。齧歯類は、小さいサイズのため、好まれることもある。
【0012】
用語「遺伝子工学作成非−ヒト哺乳動物」は、特定の遺伝子産物の発現のレベルを改変するノックアウトおよびトランスジェニック動物の両方を網羅する。遺伝子発現を改変するための哺乳動物の遺伝子操作の方法は、当該分野でよく知られている。また、さらに下記するように、特定の所定の遺伝子産物の時間的または空間的制御が改変されている非−ヒト哺乳動物を含む。
【0013】
核酸分子を、様々な手段によって、胚に導入して、作成動物を生成することができる。例えば、全能性幹細胞または多能性幹細胞は、マイクロインジェクション、リン酸カルシウム媒介沈殿、リポソーム融合、レトロウィルス感染または他の手段によって、形質転換することができる。次いで、形質転換された細胞は胚に導入され、その中で組み込まれて、作成動物を形成する。1つの方法において、発達している胚を、レトロウィルスベクターで感染させ、作成動物を、感染された胚から形成することができる。しかしながら、もう1つの方法において、本発明のDNA分子は、好ましくは単細胞段階にて、成熟した作成動物へと発達することができる胚に注入される。しかしながら、本発明はこれらの方法のいずれかに制限されないが、作成動物を作る他の方法を、例えば、Transgenic Animal Generation and Use by L. M. Houdebine, Harwood Academic Press, 1997に記載のように、使用することができる。また、例えばCampbellら, Nature 380: 64-66 (1996) and Wilmutら, Nature 385: 810-813 (1997)に記載のように、核酸導入または胚または成熟細胞系統を用いるクローニングの方法を使用して、作成動物を発生させることができる。さらに、DNAの細胞質注入を利用する技術を、米国特許第5,523,222号に記載のように使用することが可能である。
【0014】
作成動物の「メタボノミックプロファイルを決定する」という用語は、パターン認識技術と連結した典型的には高解像度H核磁気共鳴(NMR)または質量分光学を用いて、動物から得られた体液における追跡分子のパターンを決定する手順を指す。該技術は、Robertsonらによって記載されている。該技術を用する際の体液は、尿、乳、血漿および血清を含むが、これらに限定されるものではない。
【0015】
我々は、ここで、作成動物が一連の摂動に暴露され、該摂動に対するそれらの応答が、尿、血清、または血漿のメタボノミックプロファイリング分析によって、定量的に評価される方法を記載する。
【0016】
標的検査、薬物開発の初期段階の間、作成動物(齧歯類であることが多い)を使用して、薬物の効果を模倣し、薬物安全性を評価する(Braytonら; Sundbergら; Wardら)。例えば、ノックアウト哺乳動物、つまり特異的な遺伝子が欠失している哺乳動物を使用して、特異的な遺伝子産物(標的)の作用を妨げる阻害薬物の効果を予測することができる。つまり、関心のある標的遺伝子が欠失しているノックアウト哺乳動物は、標的分子を阻害するように薬物を与えられた動物の有害な副作用を含む効果を予測するモデルである。同様に、特異的な遺伝子を過剰発現するトランスジェニック非−ヒト哺乳動物を使用して、特異的な遺伝子産物の作用を増加させる作用薬物の効果を予測することができる。加えて、作成動物は、特定の時間(時間的制御)または特定の臓器または組織(空間的制御)においてのみ、関心のある遺伝子を過小発現または過剰発現するように作ることができる。この目的のために作成動物を使用する利点は、有効な化合物または薬物が合成される前でも、検査およびテストすることができることである。
【0017】
しかしながら、重要なことには、作成動物を分析または「表現型検査する」この便宜な方法は、さもなければ健康な、ストレスを受けていない動物において行われる。これらのテストからの結果は、しばしば複数の病気および様々なストレス、栄養問題、および有害なライフスタイルの選択から苦しむヒトにおいての安全性を予測することはできない。
【0018】
我々は、作成動物から、薬物効果に関するより良い情報を得るために、2つのアプローチを提案する。
【0019】
1.摂動されていない状態でのみ非ヒト哺乳動物を検査する代わりに、様々な剤または状態で、作成動物を摂動または誘発する。例えば、低用量のリポ多糖類(LPS)、グラム陰性菌の外膜の構成要素は、発熱および炎症を含む細菌感染の効果の多くを刺激する。心理学的ストレスに対する生理学的応答の多くは、閃光を発するストロボへの暴露、夜間に光を付け、日中に光りを消すことによる明暗サイクルの逆転、プラスチック管内での20分間の拘束、ネコまたはネズミの臭いへの暴露、および10秒間の足刺激を含む動物行動誘発によって引き起こすことができる(Griebelら)。併用薬物療法、特定の栄養欠乏、または病気の一般的な結果である酸化的ストレスは、グルタチオンを阻害する化合物であるブチオニンスルホキシイミンを与えることによって誘発できる(Robertsonら)。ウィルス感染は、ヒトに対して病原性でなく、通常マウスに最小限の病変のみを誘発するインフルエンザの高度に弱毒な株による実験的な感染を用いてテストすることができる(Warrenら)。
【0020】
2.いくつかの改変は、病気に対して遺伝的素因を持つ個人において副作用を持つだけである。例えば、個人は、酸化的ストレス、癲癇発作、および細菌性疾患またはウィルス病に対する感受性において変動する。病気素因を持つ個人に対する薬物の効果は、特定の障害を発症する増加された感受性を持つ株に、作成動物を育種することによってテストできる。次いで、子孫は、元来の遺伝子修飾(例えば、関心のある特定の遺伝子の欠失)プラス特定の障害に対する増加された感受性の両方を有するだろう。これらの交雑育種非ヒト哺乳動物における表現型異常性を明白にすることは、潜在的な副作用を示し得る。
【0021】
作成動物に対して実施される一連のテストを展開する時、テストが評価される方法を加速させることが非常に望ましい。応答を評価する迅速かつ総合的な方法は、メタボノミックス分析によってである。メタボノミックスの利点は、それが、非特異的な方法で、生物学的液体中の分子サイズの範囲の全ての内生化学物質を同時に測定することである。結果は定量的で、動物の間で比較することができ、個々の化学物質によってよりも(「パターン認識分析」と呼ばれる工程によって)むしろ総合的なパターンとして検査することができる。代謝ケージに非−ヒト哺乳動物を入れることによって尿を収集し、ここに尿を糞便およびこぼした食物から分離し、冷却された収集容器に入れる。別法として、血清または血漿を、メタボノミックス分析に使用することが可能である。体液を、H−核磁気共鳴(NMR)分光学または質量分光学を用いてテストする。スペクトルを、パターン認識分析および主成分分析法によって分析する(Robertsonら)。メタボノミック分析の利点は、それが無作為で広範であることである。つまり、それらの化学物質がこれまでは関心のあるものと考えられていなかったとしても、尿、血清、または血漿中の多種多様な体の内生化学物質における変化を測定することができる。
【0022】
作成動物のほとんどの株のメタボノミックパターンは、野生型とは異なると考えられる(Gavaghanら)。摂動分析において、摂動後のメタボノミックパターンの基本的パターンとの差異を評価する。(a)対応する野生型非−ヒト哺乳動物のメタボノミック応答から著しく増加または減少しているか、あるいは(b)野生型非−ヒト哺乳動物のメタボノミック応答から異なる方向に進むかのいずれかである摂動へのメタボノミック応答を有すると同定され得る作成動物の株は、異常と考えられるだろう(図1参照)。このスクリーニングテストの目的は、摂動に対して異常な応答を有する特異的な遺伝子改変を持つ作成動物を同定することである。これによって、特異的な遺伝子(つまり、改変された遺伝子)によって生成された標的蛋白質を阻害または刺激するように構築された薬物が、何人かのヒトにおいて、生理学的摂動の一般的に遭遇する状況下で危険かもしれないと、早期に予測することが可能になる。つまり、作成動物を使用して、ストレスまたは摂動を経験しているのと同時に薬物を摂取している個人における効果の模範とする。
【0023】
次いで、スクリーニングテストの結果に引き続いて、特定の検体または構造をさらに詳細にテストして、結果をさらに確認するまたは理解することができる。
【0024】
本発明を、前記および実施例において特記したのと別の方法で実施できることが明白であろう。
【0025】
上記教示に鑑みて、本発明の数多くの修飾および変動が可能であり、すなわち、本発明の範囲内のものである。
【0026】
本明細書中に引用した全出版物の全開示は、ここに、引用によって援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)哺乳動物が、標的遺伝子の過剰発現または過小発現のいずれかを呈する遺伝子工学作成非−ヒト哺乳動物を供し;
(b)哺乳動物において所望の生理学的ストレスを引き起こすあらかじめ選択された摂動に、該哺乳動物を付し、次いで
(c)その後、哺乳動物のメタボノミックプロファイルを決定することによって、該遺伝子工学作成哺乳動物の応答を評価することを特徴とする動物モデルの応答を評価することによって、標的に影響を及ぼす薬物に対する副作用を予測する方法。
【請求項2】
遺伝子工学作成非−ヒト哺乳動物が齧歯類である請求項1記載の方法。
【請求項3】
遺伝子工学作成哺乳動物のメタボノミックプロファイルを同じあらかじめ選択された摂動に付されている実質的に同一の非遺伝子工学作成哺乳動物のメタボノミックプロファイルと比較することによって、評価が達成される請求項1記載の方法。
【請求項4】
メタボノミックプロファイルが、尿を用いて決定される請求項1記載の方法。
【請求項5】
メタボノミックプロファイルが血清を用いて決定される請求項1記載の方法。
【請求項6】
メタボノミックプロファイルが血漿を用いて決定される請求項1記載の方法。
【請求項7】
メタボノミックプロファイルが乳を用いて決定される請求項1記載の方法。
【請求項8】
あらかじめ選択された摂動が、低用量のリポ多糖類である請求項1記載の方法。
【請求項9】
あらかじめ選択された摂動が、閃光を発するストロボへの暴露である請求項1記載の方法。
【請求項10】
あらかじめ選択された摂動が、明暗サイクルの逆転である請求項1記載の方法。
【請求項11】
あらかじめ選択された摂動が拘束である請求項1記載の方法。
【請求項12】
あらかじめ選択された摂動が、酸化的ストレスである請求項1記載の方法。
【請求項13】
酸化的ストレスが、ブチオニンスルホキシイミンを与えることを含む請求項13記載の方法。
【請求項14】
あらかじめ選択された摂動がウィルス感染症である請求項1記載の方法。
【請求項15】
あらかじめ選択された摂動が、特定の障害を発達させる感受性を増加させる遺伝材料の導入である請求項1記載の方法。

【公表番号】特表2006−504425(P2006−504425A)
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−547874(P2004−547874)
【出願日】平成15年10月16日(2003.10.16)
【国際出願番号】PCT/IB2003/004604
【国際公開番号】WO2004/040300
【国際公開日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【出願人】(504396379)ファルマシア・アンド・アップジョン・カンパニー・エルエルシー (130)
【Fターム(参考)】