説明

動物固定具

【課題】動物の頭部を短時間で簡単に固定することができ、さらに、動物を傷つけることなく固定することができる動物固定具を提供することを課題とする。
【解決手段】動物の頭部を固定するための動物固定具1であって、一端に開口部2aを有するケース部2と、前記ケース部2内の任意の位置で固定され、前記動物の前歯を掛止して固定する前歯掛止部3aと、前記前歯掛止部3aを収めることができ、且つ前記動物の鼻腔と口腔を塞がないよう所定の容積をもって形成され、前記頭部の一部と当接する当接部4dを有する鼻口カバー部4cを前記開口部2a側に有し、前記ケース部2内を往復動可能に設けられた頭部固定部4と、前記頭部固定部4が、前記開口部2aに近接するように当該開口部方向に圧力を付与する圧力付与部5と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査等において動物の頭部を固定する動物固定具に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴映像法((Magnetic Resonance Imaging)MRIと称す。)、ポジトロン放射形断層撮影法((Positron Emission Tomography)PETと称す。)、単一光子放射形コンピュータ断層撮影法((Single Photon Emission Computed Tomography)SPECTと称す。)X線コンピュータ断層撮影((X-Ray Computed Tomography)X線CTと称す。)などにより動物の生体内を撮影する際に、動物が動くと鮮明な画像を得ることができないので動物を固定する必要がある。従来より、動物の頭部固定は一般に両耳と歯を固定する3点固定が用いられている。なお、これらの撮影方法で撮影することを説明の便宜上、MRI撮影等という。
【0003】
このような動物固定具として、例えば、特許文献1が開示されている。特許文献1に記載された動物固定具を図13に示す。特許文献1に記載された動物固定具は、動物の両耳を固定するための第1固定部材w1、w2と、動物の前歯を固定するための第2固定部材w3と、前記第1固定部材w1、w2及び第2固定部材w3を支持する基台w4と、を備える構成となっている。
第1固定部材w1、w2は、動物の両耳穴に挿入される挿入ピンe1、e2と、挿入ピンe1、e2を圧接して固定するネジn1、n2と、を備える。ネジn1、n2を緩めることにより挿入ピンは固定が解除されるので、耳穴への突出量を調整することができる。
第2固定部材w3は、動物の前歯を引っ掛けるための引っ掛けピンhと、引っ掛けピンhの上下位置を調整するネジn3、n4と、第2固定部材w3の前後位置を調整するネジn5と、動物を麻酔状態にするためのガスを注入するための麻酔ガス注入筒mと、を備える。
【0004】
次に、図13を参照して、特許文献1に記載の動物固定具による固定動作を説明する。まず、動物を基台w4の所定位置に置いた後に麻酔ガスを麻酔ガス注入筒mより注入する。次に、第1固定部材w1、w2が備えるネジn1、n2を緩めた状態で挿入ピンe1、e2を動物の各耳穴に挿入する。この状態で、ネジn1、n2を締め付けて、挿入ピンe1、e2を固定する。次に、第2固定部材w3が備えるネジn5を緩めて第2固定部材w3を前後方向に位置調整することで引っ掛けピンhの前後位置を定めた後、ネジn5を締め付けて第2固定部材w3を固定する。次に、第2固定部材w3が備えるネジn3、n4を回転させ、引っ掛けピンhの上下位置を調整した後に、動物の前歯を引っ掛けピンhに引っ掛けることで固定動作が完了する。動物の前歯と引っ掛けピンhとの引っ掛け、及び挿入ピンe1、e2の耳穴への挿入によって動物の頭部は固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−252292号公報(段落0023〜0040、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、MRI撮影等の際には動物の頭部を両耳と歯の3点固定することが通例であるが、ピンを耳の穴に入れた後に、ピンを固定するためのネジ締め操作が必要となり作業が面倒である。その為、動物の頭部を容易に固定できる動物固定具の開発が望まれている。
また、近時の実験動物のMRI撮影等では、一度に複数の動物を撮影することも稀ではなく、動物を固定する時間の短縮が強く望まれている。
【0007】
さらに、従来の両耳と歯の3点固定では、両耳でしっかりと固定しようとした場合に、ピンを動物の耳穴の奥まで挿入しなければならない。人間の感覚のみで動物の耳穴にピンを挿入するので、どのくらい奥まで挿し込んでよいか分かりづらく、ピンを挿入しすぎると動物を傷つけてしまう。また逆に、ピンの挿入が浅すぎるとうまく固定されない。このように、従来の両耳と歯の3点固定では、固定作業に一定の熟練を要していた。その為、動物を傷つけることなく操作が簡単な動物固定具の開発が望まれている。
【0008】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、動物の頭部を短時間で簡単に固定することができ、さらに、動物を傷つけることなく固定することができる動物固定具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る動物固定具は、動物の頭部を固定するための動物固定具であって、一端に開口部を有するケース部と、前記ケース部内の任意の位置で固定され、前記動物の前歯を掛止して固定する前歯掛止部と、前記前歯掛止部を収めることができ、且つ前記動物の鼻腔と口腔を塞がないよう所定の容積をもって形成され、前記頭部の一部と当接する当接部を有する鼻口カバー部を前記開口部側に有し、前記ケース部内を往復動可能に設けられた頭部固定部と、前記頭部固定部が、前記開口部に近接するように当該開口部方向に圧力を付与する圧力付与部と、を有し、前記圧力付与部の圧力によって、前記頭部固定部の前記当接部が、前記前歯掛止部に前歯を掛止した前記動物を、前記開口部方向に押圧して固定することを特徴とする。
【0010】
このように、本発明に係る動物固定具は、前歯掛止部に動物の前歯を掛止して、圧力付与部が頭部固定部に対してケース部の開口部方向に圧力を付与することで、動物の頭部を頭部固定部の当接部で開口部方向に押圧して固定することができる。
【0011】
また、本発明に係る動物固定具は、前記ケース部が、有底筒状に形成しているか、又は二以上の支持部材を平行に並設していることを特徴とする。
【0012】
このように、本発明に係る動物固定具は、前歯掛止部に動物の前歯を掛止して、圧力付与部によってケース部の開口部に近接するように圧力が付与された頭部固定部の鼻口カバー部が有する当接部によって、動物の頭部の一部を当接させるだけで動物の頭部を固定することができる。
【0013】
また、本発明に係る動物固定具は、前記ケース部が、前記有底筒状のケース部である場合は、前記圧力付与部が、弾性体又は媒体に圧力を加える加圧装置であることを特徴とする。
さらに、本発明に係る動物固定具は、前記ケース部が、前記二以上の支持部材を平行に並設しているケース部である場合は、前記圧力付与部が、弾性体であることを特徴とする。
このように、本発明に係る動物固定具は、適度な圧力で動物を固定することが可能となる。
【0014】
また、本発明に係る動物固定具は、前記前歯掛止部が、U字形状、V字形状、T字形状又はL字形状であることを特徴とする。
このように、本発明に係る動物固定具は、前歯掛止部の形状を動物の前歯の形状に合わせて形成することができる。また、U字やV字とすれば、動物の歯を所定の位置に位置決めすることができるので、より高精度かつ安定して動物の頭部を固定することができる。
【0015】
また、本発明に係る動物固定具は、前記前歯掛止部及び前記頭部固定部の少なくとも一方の、前記鼻腔及び前記口腔の近傍となる位置に、麻酔ガスを供給するための麻酔ガス供給口を設けたことを特徴とする。
このように、本発明に係る動物固定具は、鼻腔及び口腔の近傍となる位置に麻酔ガスを供給するための麻酔ガス供給口を設けているので、動物に麻酔ガスを確実に供給することができる。
【0016】
また、本発明に係る動物固定具は、前記頭部固定部が、前記動物との接触面に圧力センサを設けたことを特徴とする。
このように、本発明に係る動物固定具は、圧力センサを設けたことにより、動物と頭部固定部の接触面における圧力を測定することができる。
【0017】
また、本発明に係る動物固定具は、非磁性材料で製作されていることを特徴とする。
このように、本発明に係る動物固定具は、非磁性材料で製作すれば、これらの選択された材料は磁性を帯びないので、MRI撮影等で好適に撮影することができる。また、加工の容易性、コスト、リサイクル可能であるか及び使い捨て可能であるか等を考慮した動物固定具を製作することができる。
【0018】
本発明に係る動物固定具は、動物の頭部を固定するための動物固定具であって、一端に前記動物を挿入する動物挿入部を有する基部と、前記基部内を往復動可能に設けられ、前記動物の前歯を掛止して固定する前歯掛止部と、前記前歯掛止部が、前記動物挿入部から遠ざかるように当該動物挿入部から離間する方向に圧力を付与する圧力付与部と、を有し、前記基部は、前記前歯掛止部を収めることができ、且つ前記動物の鼻腔と口腔を塞がないよう所定の容積をもって形成され、前記頭部の一部と当接する当接部を有する鼻口カバー部を前記動物挿入部側に備え、前記前歯掛止部に前歯を掛止した前記動物を、前記圧力付与部の圧力によって前記動物挿入部から離間する方向に牽引することで、前記鼻口カバー部の前記当接部に抑圧して固定することを特徴とする。
【0019】
このように、本発明に係る動物固定具は、前歯掛止部に前歯を掛止した動物を、圧力付与部によって動物挿入部から遠ざかるように圧力を付与し、動物を動物挿入部から離間する方向に牽引することで、動物の頭部の一部と当接部とを当接させ抑圧して固定することができる。
【0020】
また、本発明に係る動物固定具は、前記前歯掛止部が、制止部により往復動動作を所定位置で制止され、この所定位置で制止されている状態から解放されることを特徴とする。
このように、本発明に係る動物固定具は、制止部を備えているので、前歯掛止部を所定位置で固定及び固定位置から開放することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、動物の頭部を短時間で簡単に固定することができる。さらに、動物を傷つけることがない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る動物固定具の一部断面を含む斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る動物固定具が備える前歯掛止部の斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る動物固定具の固定動作を示す要部縦断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る動物固定具の固定動作を示す要部縦断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る動物固定具の固定動作を示す要部縦断面図である。
【図6】(a)〜(g)は、前歯掛止部の変形例を示す斜視図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る動物固定具の縦断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る動物固定具の縦断面図である。
【図9】本発明の第4実施形態に係る動物固定具の縦断面図である。
【図10】本発明の第5実施形態に係る動物固定具の縦断面図である。
【図11】本発明の第6実施形態に係る動物固定具の縦断面図である。
【図12】本発明の第6実施形態に係る動物固定具(制止時)の縦断面図である。
【図13】従来技術における上方から見た動物固定具の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
図1〜図5を参照して第1実施形態に係る動物固定具について説明する。
図1に示す、第1実施形態に係る動物固定具1は、マウス10(図2参照)を固定するための頭部固定具である。なお、本実施形態では、マウス10を対象としているが、本発明はマウスに限定されず、例えば、ラット、猿、犬及び猫等を対象としてもよく、マウス以外の動物に幅広く適用できる。
【0024】
図1に示す動物固定具1は、一端に開口部2aを有する有底筒状のケース部2と、ケース部2内の任意の位置で固定され、動物(マウス)10の前歯を掛止して固定する前歯掛止部3aと、前歯掛止部3aを収めることができ、且つ動物(マウス)10の鼻腔と口腔を塞がないよう所定の容積をもって形成され、頭部の一部と当接する当接部4dを有する鼻口カバー部4cを開口部2a側に有し、ケース部2内を往復動可能(図1のα1及びα2方向)に設けられた頭部固定部4と、頭部固定部4に対して、開口部2aに近接するように開口部2a方向に(図1のα1方向)圧力を付与する圧力付与部5と、を備える。
また、図1に示す動物固定具1は、前歯固定部3をケース部2に固定するネジ6と、頭部固定部4のα1方向への可動によるケース部2との分離を防止するストッパ7と、麻酔ガス供給手段(麻酔ガス供給口3e及び麻酔ガス供給路3f)と、を備える。
【0025】
動物固定具1の材料に制限はない。すなわち、著しく強度が弱い等、マウス10の頭部を固定することが困難でなければ、どんな材料であってもよい。例えば、樹脂、ゴム等の高分子素材、木、紙及び金属等でよい。
ただし、マウス10を固定後にMRI撮影等を行うのであれば、磁気を帯びる磁性金属は使用しないのがよい。磁性金属は撮影画像を乱すので、正常な撮影に障害をきたすためである。その為、MRI撮影等を前提とした動物固定具1を製作するのであれば、非磁性材料である高分子素材、木、紙及び非磁性金属が好適である。
【0026】
ケース部2は、一端に開口部2aを有するとともに他端に底面部2bを有する有底筒状をしている。本実施形態では、ケース部2を円筒状としているが、これに限定されるものではない。例えば、少なくとも一つの角を有する角筒であってもよい。開口部2aと底面部2bとは同一形状である必要はない。また、ケース部2の大きさは、動物10の頭部の大きさにより決定する。なお、本実施形態では有底筒状に形成しているケースを例示したが、有底筒状のケース以外の、二以上の支持部材を前歯固定部3と平行に並設しているケースとしてもよい。
ケース部2の内側には頭部固定部4のα2方向への可動を制限するストッパ2cが形成されている。また、ケース部2の底面部2bには前歯固定部3と、ストッパ7と、を設置するための穴部2d、2eを形成しており、底面部2bに近い周面には前歯固定部3をケース部2に固定するためのネジ6を設置するための穴部2fを形成している。
【0027】
前歯固定部3は、図2に示すように、四角形の開口部3cが形成される突起部3bと麻酔ガス供給口3eとを有する前歯掛止部3a、及び麻酔ガス供給路3fを有する前歯固定部材3dを備える。前歯掛止部3aが有する突起部3bに形成される開口部3cに、マウス10の前歯が掛止される。また、外部から注入される麻酔ガスが麻酔ガス供給路3fを通って麻酔ガス供給口3eから放出される。
【0028】
前歯掛止部3aは、突起部3bに四角形の開口部3cを形成する形状としているが、これに限定されるものではない。前歯掛止部3aの形状は、動物10の歯を所定の位置で固定することができればよく、動物10の歯の形状などを考慮して適宜に決定することができる。前歯掛止部3aの変形例は後述する。また、前歯掛止部3aが有する突起部3bの位置は、ケース部2の口径に対する中心から少しずれた位置に設置されている。突起部3bの位置は、固定する動物10の前歯の位置と、鼻腔の位置と、麻酔ガス供給口3eと、を考慮して適宜に決定することができる。
【0029】
麻酔ガス供給口3eは、マウス10が動物固定具1に固定された際の、マウス10の鼻腔及び口腔の近傍に設置されている。その為、マウス10に麻酔ガスを確実に供給することができる。麻酔ガスは外部から注入され、麻酔ガス供給路3fを通って麻酔ガス供給口3eから放出される。これにより、マウス10を麻酔ガスで眠らせることができる。本実施形態では、麻酔ガス供給口3eを前歯掛止部3aに備えているが、これに限定されるものではない。麻酔ガス供給手段の変形例は後述する。
また、麻酔ガス回収口(図示せず)は、鼻腔カバー部4c内の任意の位置に設置する。麻酔ガスは麻酔ガス回収口から前歯固定部3に沿って設置する麻酔ガス回収路(図示せず)を通るようにして回収すればよい。麻酔ガス回収路は、小径のシリコンチューブ等を用いる。麻酔ガスはポンプ等で強制的に注入されるので、麻酔ガスの回収は、麻酔ガス供給口を設置しさえすれば自動的に行われる。その為、麻酔ガスの回収は、特にポンプ等を用いる必要はなく、単に経路を設けるだけでよい。
【0030】
前歯固定部3は、前歯固定部3が備える前歯固定部材3dを介してネジ6によりケース部2に固定される。本実施形態では、前歯固定部3は棒状をしているが、これに限定されるものではない。前歯固定部3の変形例は後述する。前歯固定部3は、ネジ6を緩めることによりα1及びα2方向に進退可能になり、前歯固定部3は、ネジ6を締めることによりケース部2内の任意の位置で固定される。その為、マウス10の大きさや頭部形状に合わせて前歯掛止部3aの位置を、ケース部2内でα1又はα2方向に移動させることができる。
【0031】
図1に示す頭部固定部4は、圧力付与部5(詳細は後述)による圧力を受ける圧力被付与部4aと、前歯掛止部3aが挿通される内孔4bと、マウス10の前頭部に沿った形状の略円錐状の鼻口カバー部4cと、を有し、ケース部2内をα1及びα2方向に往復動可能である。また、本実施形態では鼻口カバー部4cは、略円錐状をしているがこれに限定されるものではない。鼻口カバー部4cの形状は、動物10の頭部の形状に合わせて決定する。例えば、半球状としてもよく、また、角を有する形状であってもよい。本実施形態では、鼻口カバー部4cの形状を、マウス10の頭部の形状に合わせて略円錐状としている。なお、鼻口カバー部4cのうちマウス10と当接する部分を当接部4dという。
【0032】
頭部固定部4はストッパ7と接合している。これにより、圧力付与部5から圧力被付与部4aに圧力を加えられた際に、頭部固定部4がケース部2の開口部2aを越えてα1方向へ移動することを防止している。他の手段として、例えば、ケース部2の内側の開口部2a近傍にストッパを設置する構成にしてもよい。詳細は後記する。
【0033】
図1に示す圧力付与部5は、頭部固定部4に対して、α1方向に圧力を付与する。本実施形態では、圧力付与部5は弾性体として圧縮コイルばねを用いているが、これに限定されるものではない。弾性体であれば、圧縮コイルばね以外のばね、ばね以外のゴム、スポンジ等であってもよい。すなわち、所定の押圧力が得られれば弾性体は圧縮コイルばねに限定されない。圧力付与部5の構成は、圧力の強さ等を考慮して適宜選択可能である。本実施形態で用いる圧縮コイルばね以外の構成は、第2実施形態で詳細に説明する。また、圧力とは、弾性体による力、流体による圧力等を含んだものを意図する。
【0034】
圧縮コイルばねによるマウス10を固定するための圧力は、ばね定数及びばねの変形量により決定される。ばね定数は、ばねの材料、線材の径、コイルの有効径、コイルの有効巻数の組み合わせにより決定される。その為、マウス10の状態により、前記材料、線材の径、コイルの有効径、コイルの有効巻数及び変形量を選択する。例えば、マウス10の体重が重い場合は、ある程度の圧力を必要とするし、逆に、マウス10の状態によっては、一定以上の圧力を加えてはならない場合もあるので、動物の状態によって圧縮コイルばねのばね定数、変形量を決定する。
【0035】
(第1実施形態に係る動物固定具の固定動作)
次に、前述した第1実施形態に係る動物固定具1におけるマウス10の固定動作について、図3から図5を参照して説明する。固定動作の詳細については後述するが、簡略的にいうと、マウス10の前歯を前歯掛止部3aに掛止する動作と、マウス10の頭部を頭部固定部4で固定する動作の二つに分けられる。
【0036】
なお、マウス10はあらかじめ麻酔しておくとよい。マウス10に麻酔が効いている状態だと、マウス10を動物固定具1により容易に固定することができる。
【0037】
マウス10の前歯を前歯掛止部3aに掛止する方法を説明する。
図1に示すように、何も手を加えない状態では、前歯掛止部3aは頭部固定部4に収められているので、このままの状態では前歯を前歯掛止部3aに掛止することができない。その為、頭部固定部4をα2方向に移動させて、頭部固定部4から前歯掛止部3aを外に出す必要がある。そこで図3に示すように、頭部固定部4を開口部2a側より手で押して、ケース部2の底面部2b方向に頭部固定部4を近接させることにより、頭部固定部4に収容されていた前歯掛止部3aを、頭部固定部4から外に出す。この頭部固定部4を押す作業により、前歯掛止部3aへの掛止が可能になる。
ここで、頭部固定部4が底面部2b方向に近接された状態は、ケース部2内の圧縮コイルばね5が収縮変形することによる弾性力を蓄えている状態である。圧縮コイルばね5が弾性力を蓄えている状態のまま、マウス10の前歯を前歯掛止部3aに掛止する。この状態では、マウス10の頭部はまだ固定されていない。
【0038】
次に、マウス10の頭部を頭部固定部4により固定する方法を説明する。
マウス10の前歯を前歯掛止部3aに掛止した状態のまま、手で押している頭部固定部4から手を離す。すると、図4に示すように、圧縮コイルばね5の伸長変形による弾性力により頭部固定部4が開口部2a方向に押し戻される。そして、図5に示すように、マウス10の頭部の一部と頭部固定部4が有する鼻口カバー部4cの当接部4dとが当接する。
この状態では、マウス10と頭部固定部4とが当接した分、圧縮コイルばね5がまだ収縮しており、圧縮コイルばね5は収縮による弾性力を頭部固定部4の圧力被付与部4aに付与している状態である。そして、圧縮コイルばね5の収縮による弾性力が、頭部固定部4を介してマウス10の頭部をケース部2の開口部2a方向へと押す力となる。マウス10は、前歯を前歯掛止部3aに掛止されているので、頭部固定部4により開口部2a方向へ押されても移動することはなく、圧縮コイルばね5の収縮による弾性力がそのまま、マウス10を固定する圧力となる。
これにより、第1実施形態に係る動物固定具1における、マウス10の固定動作は完了する。
【0039】
図5の状態で、マウス10のMRI撮影等が可能である。さらに、MRI撮影等の間、麻酔ガスを外部から麻酔ガス供給路3fに注入し、麻酔ガス供給路3fを通じて麻酔ガス供給口3eから放出してもよい。
【0040】
(第1実施形態に係る前歯掛止部の変形例)
第1実施形態に係る前歯掛止部3aの変形例を、図6に示す。
図6(a)は、U字形状の突起部613bを有する前歯掛止部613aである。図6(b)は、V字形状の突起部623bを有する前歯掛止部623aである。前歯掛止部613a及び623aは、特にげっ歯類の動物の歯を固定するのに好適である。すなわち、げっ歯類の動物は、中央2本の前上歯が出っ張っているので、突起部613b先端のU字状内側及び突起部623b先端のV字状内側に前歯を掛止することができる。それにより、前歯が左右に移動することがなく所定の位置に位置決めすることができる。その為、高精度かつ安定して動物の頭部を固定することができる。
【0041】
図6(c)は、T字形状の突起部633bを有する前歯掛止部633aである。図6(d)は、略T字形状の突起部643bを有する前歯掛止部643aである。図6(e)は、L字形状の突起部653bを有する前歯掛止部653aである。図6(f)は、略L字形状の突起部663bを有する前歯掛止部663aである。これらの前歯掛止部633a〜663aは、特に猿、犬及び猫のような動物の歯を固定するのに好適である。すなわち、猿、犬及び猫のような動物は中央の前歯の出っ張りが少ないので、前歯掛止部613a及び623aでは前歯を掛止することが困難である。その為、動物の前上歯の奥に各前歯掛止部633a〜663aを掛止することで、前歯が左右に移動することがなく所定の位置に位置決めすることができる。その為、高精度かつ安定して動物の頭部を固定することができる。
【0042】
図6(g)は、T字形状の突起部673bの両端に強度がある糸状部材673dを結んだ前歯掛止部673aである。前歯掛止部673aは、特に霊長類の歯を固定するのに好適である。動物の上の歯及び下の歯の少なくともいずれか一方に前歯掛止部673aの糸状部材673dを掛止する。
【0043】
(第2実施形態)
図7に示す第2実施形態の動物固定具701は、圧力付与部705を媒体に圧力を加える加圧装置(媒体加圧装置)11により実現した構成である。また、圧力付与部705には圧力計(図示せず)を、頭部固定部704にはマウス10への頭部固定部704の押圧力を測定するための圧力センサ13を備えている。さらに、麻酔ガス供給手段(麻酔ガス供給口703e及び麻酔ガス供給路703f)が第1実施形態と異なる。
【0044】
ここで、第2実施形態は説明の便宜上、第1実施形態における各構成部の他形態を同一実施形態内に記載したものであり、第2実施形態における圧力付与部705、圧力センサ13及び麻酔ガス供給手段(麻酔ガス供給口703e及び麻酔ガス供給路703f)を必ずしも全て同一実施形態内で実現する必要はない。すなわち、第2実施形態の麻酔ガス供給手段の替りに、第1実施形態の麻酔ガス供給手段を用いても構わないし、第1実施形態に圧力センサ13のみを備える構成としてもよい。なお、説明の記載において、同様の機能の部位については同じ符号を付して説明する。
【0045】
第2実施形態の動物固定具701は、外装をなすケース部702と、マウス10の前歯を掛止するための開口部703cが形成される突起部703bを有する前歯掛止部703a及び前歯固定部材703dを備える前歯固定部703と、α1方向に圧力を付与する圧力付与部705と、圧力付与部705に媒体を供給するための媒体加圧装置11及び媒体供給路12と、圧力付与部705の圧力を圧力被付与部704aに受けることでα1方向に可動する頭部固定部704と、マウス10への頭部固定部704の押圧力を測定するための圧力センサ13と、前歯固定部703をケース部2に固定するネジ6と、ストッパ7と、麻酔ガス供給手段(麻酔ガス供給口703e及び麻酔ガス供給路703f)と、を備える。なお、Oリング(オーリング)S1、S2、S3及びS4でケース702内部の媒体の漏れを防いでいる。
【0046】
ケース部702は、底面部2bに近い位置に媒体供給路12を設置するための穴を形成している以外は第1実施形態と同じである。また、ネジ6とストッパ7は第1実施形態と同じである。
【0047】
前歯固定部703及び頭部固定部704は、麻酔ガス供給手段(麻酔ガス供給口703e及び麻酔ガス供給路703f)が異なる以外は第1実施形態と同じである。また、頭部固定部704が備える鼻口カバー部704cの当接部704dに圧力センサ13が設置してある。
【0048】
圧力付与部705は、媒体に圧力を加える加圧装置(媒体加圧装置)11による媒体の供給により実現される。媒体としては、空気、水及び油等を使用すればよい。媒体加圧装置11による媒体の供給は、媒体供給路12を通じて行われる。それにより、圧力付与部705内の圧力は上昇し、上昇した圧力を開放しようとして頭部固定部704の圧力被付与部704aを開口部2a方向に押す力が発生する。圧力付与部705をこのような構成にすれば、圧力付与部705内への媒体の流入量を調整することで動物10の頭部を適度な圧力で固定することができる。
【0049】
なお、圧力付与部705内に弾性材料でできている容器、例えば、風船のような容器を設置して、その中に媒体を注入する構成としてもよい。
【0050】
圧力センサ13は、頭部固定部704と動物との接触面に設置する。具体的には、頭部固定部704の鼻口カバー部704cが備える当接部704dに設置する。それにより、頭部固定部704と動物との接触面における圧力を測定することができる。そして、媒体加圧装置11で構成される圧力付与部705と、圧力センサ13とを同一実施形態内に設置することで実際に動物10の頭部に加えられる圧力を測定しながら、その圧力に応じて圧力付与部705の媒体の流入量を調整することが可能になる。圧力センサ13が所定値になると、圧力付与部705への媒体の供給が停止される構成にしてもよい。それにより、動物10の頭部をより適度な圧力で固定することができる。
【0051】
しかしながら、圧力センサ13の設置は必ずしも媒体加圧装置11で構成される圧力付与部705と同一実施形態で構成しなければならないものではない。図1に示す第1実施形態に係る動物固定具1の頭部固定部4の鼻口カバー部4cに圧力センサ13を設けてもよい。その場合、第2実施形態に係る動物固定具701の頭部固定部704の鼻口カバー部4cと同じ位置に設置する。
【0052】
図7に示す麻酔ガス供給手段(麻酔ガス供給口703e及び麻酔ガス供給路703f)は、図1に示す第1実施形態の麻酔ガス供給手段(麻酔ガス供給口3e及び3f)の他形態である。図7に示すように、麻酔ガス供給口703eを鼻口カバー部704cと内孔704bのほぼ中間地点に設置し、麻酔ガス供給路703fが頭部固定部704内を通るように設置してもよい。
【0053】
(第2実施形態に係る動物固定具の固定動作)
図7を参照して、第2実施形態に係る動物固定具701の固定動作を説明する。
動物固定具701に、何も手を加えない状態では、前歯掛止部703aは頭部固定部704に収められているので、このままの状態では前歯を前歯掛止部703aに掛止することができない。その為、頭部固定部704をα2方向に移動させて、頭部固定部704から前歯掛止部703aを外に出す必要がある。そこで、媒体加圧装置11で圧力付与部705内の媒体を吸引する。すると、圧力付与部705内の圧力は下降し、下降した圧力の作用により頭部固定部704が底面部2b方向に近接されるように移動する。それにより、前歯を前歯掛止部703aへ掛止することが可能になる。この状態で、マウス10の前歯を前歯掛止部703aに掛止するが、マウス10の頭部はまだ固定されていない。
次に、前歯を掛止した状態のまま、媒体加圧装置11で圧力付与部705内に媒体を供給する。すると、圧力付与部705内の圧力は上昇し、上昇した圧力の作用により頭部固定部704が開口部2a方向に近接されるように移動する。そして、マウス10の頭部の一部と頭部固定部704が有する鼻口カバー部704cの当接部704dとが当接する。
これにより、第2実施形態に係る動物固定具701の固定動作は完了する。
【0054】
(第3実施形態)
図8に示す第3実施形態の動物固定具801は、図8に示す前歯固定部803の形状が図1に示す第1実施形態における前歯固定部3と異なっている。すなわち、本実施形態の前歯固定部803は、ケース部802と一体型となっている点で第1実施形態と異なる。なお、説明の記載において、同様の機能の部位については同じ符号を付して説明する。
【0055】
第3実施形態の動物固定具801は、外装をなすケース部802と、マウス10の前歯を掛止するための開口部803cが形成される突起部803bを有する前歯掛止部803aを備える前歯固定部803と、α1方向に圧力を付与する圧力付与部805と、圧力付与部805の圧力を圧力被付与部804aに受けることでα1方向に可動する頭部固定部804と、ストッパ7と、麻酔ガス供給手段(麻酔ガス供給口803e及び麻酔ガス供給路803f)と、を備える。
【0056】
ケース部802は、前歯固定部803が一体型に形成されている。その他に、ケース部802は、図1に示すケース部2の底面部2bに前歯固定部3を設置するための穴部2dと、底面部2bに近い周面にネジ6を設置するための穴部2fが形成されていない点が第1実施形態のケース部2と異なる。
【0057】
頭部固定部804には、前歯固定部803が設置できるようにスリット804eが形成されている。スリット804eは、頭部固定部804が往復動することを考慮して形成する。例えば、図8に示すように、ケース部802の長手方向と平行な方向に切り欠きを入れる。
【0058】
(第3実施形態に係る動物固定具の固定動作)
図8を参照して、第3実施形態に係る動物固定具801の固定動作を説明する。
動物固定具801に、何も手を加えない状態では、前歯掛止部803aは頭部固定部804に収められているので、このままの状態では前歯を前歯掛止部803aに掛止することができない。その為、頭部固定部804をα2方向に移動させて、頭部固定部804から前歯掛止部803aを外に出す必要がある。そこで、頭部固定部804を開口部2a側より手で押して、ケース部802の底面部2b方向に頭部固定部804を近接させることにより、前歯掛止部803aを収容されていた頭部固定部804から外に出す。この頭部固定部804を押す作業により、前歯を前歯掛止部803aへ掛止することが可能になる。この状態で、マウス10の前歯を掛止するが、マウス10の頭部はまだ固定されていない。
次に、マウス10の前歯を前歯掛止部803aに掛止した状態のまま、手で押している頭部固定部804から手を離す。すると、圧縮コイルばね805の伸長変形による弾性力により頭部固定部804が開口部2a方向に押し戻される。そして、マウス10の頭部の一部と頭部固定部804が有する鼻口カバー部804cの当接部804dとが当接する。
これにより、第3実施形態に係る動物固定具801の固定動作は完了する。
なお、頭部固定部804のα2方向への移動を、スリット804eで制限することが可能である。それにより、ケース部802にストッパ802cを設けなくてもよい。
【0059】
(第4実施形態)
図9に示す第4実施形態に係る動物固定具901は、第1実施形態の動物固定具1(図1参照)と比較して、ストッパ7の替りにストッパ907を備えている以外は、構成は同じである。ストッパ907は、圧力付与部5から圧力被付与部4aに圧力を加えた際に、頭部固定部4がケース部2の開口部2aを越えてα1方向へ移動することを防止している。なお、第1実施形態と同様の機能の部位については同じ符号を付して説明する。
【0060】
ストッパ907は、リング形状をしており、ケース部2の内側の開口部2a近傍に設置される。ストッパ907は、ケース部2の所定の位置に接合されていればよく、例えば、接着剤により接合する。ただし、ストッパ907はリング形状でなくともよい。
また、ストッパ7又はストッパ907を用いずに、ケース部2と圧力付与部5とを圧力付与部5a部分で、圧力付与部5と頭部固定部4とを圧力付与部5b部分で、接着剤等により接合してもよい。
【0061】
(第4実施形態に係る動物固定具の固定動作)
図9に示す第4実施形態に係る動物固定具901の動物の固定動作は、図3から図5に示す第1実施形態に係る動物固定具1の固定動作と、概要を同じにする。
【0062】
(第5実施形態)
図10を参照して第5実施形態に係る動物固定具1001について説明する。なお、第4実施形態と同様の機能の部位については同じ符号を付して説明する。
第5実施形態に係る動物固定具1001は、一端に動物挿入部1002aを有する基部1002と、基部1002内を往復動可能(図10のα1及びα2方向)に設けられ、動物(マウス)10(図3参照)の前歯を掛止して固定する前歯掛止部3aと、前歯掛止部3aに対して、動物挿入部1002aから遠ざかるように動物挿入部1002から離間する方向に(図10のα2方向)圧力を付与する圧力付与部5とを有し、基部1002は前歯掛止部3aを収めることができ、且つ動物(マウス)10の鼻腔と口腔を塞がないよう所定の容積をもって形成され、頭部の一部と当接する当接部4dを有する鼻口カバー部4cを動物挿入部1002a側に備える。
【0063】
基部1002は、一端に動物挿入部1002aを有するとともに他端に凹状の押圧部設置部1002bを有する円柱形状をしているが、これに限定されるものではない。基部1002は一つの部材から作成してもよいし、複数の部材を組み合わせて作成してもよい。
基部1002は、動物挿入部1002a側に、前歯掛止部3aが挿通される内孔4bと、マウス10の前頭部に沿った形状の略円錐状の鼻口カバー部4cと、を有する。
なお、鼻口カバー部4cの形状は、第1実施形態の鼻口カバー部4cと同じである。
【0064】
前歯固定部3は、四角形の開口部3cが形成される突起部3bと麻酔ガス供給口3eとを有する前歯掛止部3a、及び麻酔ガス供給路3fを有する前歯固定部材3dを備える。
また、前歯固定部材3dは、圧力付与部5による圧力を受ける圧力被付与部1003g及び固定動作時に作業者によってα1方向に押される押圧部1003hを備える。
なお、前歯掛止部3aの形状が、図10に示すものに限定されないことは、第1実施形態と同様である。
【0065】
圧力付与部5は、前歯固定部3に対して、α2方向に圧力を付与する。本実施形態では、圧力付与部5は弾性体として圧縮コイルばねを用いているが、これに限定されるものではないことは、第1実施形態と同様である。
【0066】
(第5実施形態に係る動物固定具の固定動作)
次に、前述した第5実施形態に係る動物固定具1001におけるマウス10(図3参照)の固定動作について、図10を参照して説明する。なお、図10に示す動物固定具1001は、マウス10の前歯を掛止可能な状態の図である。
動物固定具1001に、何等の操作をしない状態では、前歯掛止部3aは基部1002に収められているので、このままの状態では前歯を前歯掛止部3aに掛止することができない(図示せず)。その為、前歯固定部3をα1方向に移動させて、基部1002から前歯掛止部3aを外に出す必要がある。そこで、押圧部1003hをα1方向に手で押して、動物挿入部1002a方向に前歯掛止部3aを近接させることにより、前歯掛止部3aを収容されていた基部1002から外に出す。この前歯固定部3を押す作業により、前歯を前歯掛止部3aへ掛止することが可能になる(図10に示す状態)。この状態で、マウス10の前歯を掛止するが、マウス10の頭部はまだ固定されていない。
次に、マウス10の前歯を前歯掛止部3aに掛止した状態のまま、手で押している押圧部1003hから手を離す。すると、圧縮コイルばね5の伸長変形による弾性力により前歯固定部3がα2方向に移動し、前歯を前歯掛止部3aに掛止されているマウス10をα2方向に牽引する。そして、マウス10は基部1002が有する鼻口カバー部4cに引き込まれ、マウス10の頭部の一部と当接部4dとが当接し、抑圧される。
これにより、第5実施形態に係る動物固定具1001の固定動作は完了する。
【0067】
(第5実施形態の応用例)
図11を参照して第5実施形態の応用例に係る動物固定具1101について説明する。なお、第5実施形態と同様の機能の部位については同じ符号を付して説明する。
第5実施形態の応用例に係る動物固定具1101は、第5実施形態の動物固定具1001(図10参照)と比較して、基部1002と圧力被付与部1003gと、前歯固定部3との間に制止部1109(1109a、1109b)を備えている以外は、構成は同じである。
【0068】
制止部1109は、前歯固定部3がα1方向に移動し、動物(マウス)10の前歯を掛止可能な位置まで達した後に、前歯固定部3を固定して圧力付与部5の弾性力に抗してα2方向への移動を防止する。本実施形態では、制止部1109は、前歯固定部3に固定される可動部1109aと、基部1002に固定される固定部1109bとで構成されている。本実施形態における制止部1109は、ハートカム機構(ボールペンのノック機構を実現する装置)であるが、これに限定されるものではない。すなわち、前歯固定部3の動作を制止できればよい。例えば、基部1002の側面に内部に貫通する部材を設置し、外部から押すことにより基部1002内部にこの部材が突出するような構成にしてもよいし、又は、基部1002の押圧部設置部1002bに蓋を設置して、前歯固定部3をα1方向に移動させた後に、閉蓋動作により前歯固定部を基部1002内に閉じ込める構成にしてもよい。
【0069】
(第5実施形態の応用例に係る動物固定具の固定動作)
次に、前述した第5実施形態の応用例に係る動物固定具1101におけるマウス10(図3参照)の固定動作について、図11及び図12を参照して説明する。
図11に示すように動物固定具1101に、何も手を加えない状態では、前歯掛止部3aは基部1002に収められているので、このままの状態では前歯を前歯掛止部3aに掛止することができない。その為、前歯固定部3をα1方向に移動させて、基部1002から前歯掛止部3aを外に出す必要がある。そこで、押圧部1003hをα1方向に手で押して、動物挿入部1002a方向に前歯掛止部3aを近接させることにより、前歯掛止部3aを収容されていた基部1002から外に出す。この前歯固定部3を押す作業により、前歯を前歯掛止部3aへ掛止することが可能になる。ここで、前歯固定部3が所定の距離を移動すると、ハートカム機構1109により前歯固定部3は所定の位置に固定される(図12に示す状態)。この状態で、マウス10の前歯を掛止するが、マウス10の頭部はまだ固定されていない。
次に、マウス10の前歯を前歯掛止部3aに掛止した状態のまま、もう一度、押圧部1003hをα1方向に手で押し、ハートカム機構1109の固定状態を解除する。すると、圧縮コイルばね5の伸長変形による弾性力により前歯固定部3がα2方向に移動し、前歯を前歯掛止部3aに掛止されているマウス10をα2方向に牽引する。そして、マウス10は基部1002が有する鼻口カバー部4cに引き込まれ、マウス10の頭部の一部と当接部4dとが当接し、抑圧される。
これにより、第5実施形態の応用に係る動物固定具1101の固定動作は完了する。
【符号の説明】
【0070】
1、701、801 動物固定具
2、702、802 ケース部(案内部)
2a 開口部
2b 底面部
3a、703a、803a 前歯掛止部
613a、623a、633a、643a、653a、663a 前歯掛止部
3e、703e、803e 麻酔ガス供給口
4、704、804 頭部固定部
4c、704c、804c 鼻口カバー部
4d、704d、804d 当接部
5、705、805 圧力付与部
10 マウス(動物)
11 媒体加圧装置
12 媒体供給路
13 圧力センサ
1002 基部
1002a 動物挿入部
1109 制止部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の頭部を固定するための動物固定具であって、
一端に開口部を有するケース部と、
前記ケース部内の任意の位置で固定され、前記動物の前歯を掛止して固定する前歯掛止部と、
前記前歯掛止部を収めることができ、且つ前記動物の鼻腔と口腔を塞がないよう所定の容積をもって形成され、前記頭部の一部と当接する当接部を有する鼻口カバー部を前記開口部側に有し、前記ケース部内を往復動可能に設けられた頭部固定部と、
前記頭部固定部が、前記開口部に近接するように当該開口部方向に圧力を付与する圧力付与部と、を有し、
前記圧力付与部の圧力によって、前記頭部固定部の前記当接部が、前記前歯掛止部に前歯を掛止した前記動物を、前記開口部方向に押圧して固定する
ことを特徴とする動物固定具。
【請求項2】
前記ケース部は、有底筒状に形成しているか、又は二以上の支持部材を平行に並設していることを特徴とする請求項1に記載の動物固定具。
【請求項3】
前記ケース部が、前記有底筒状のケース部である場合は、
前記圧力付与部が、弾性体又は媒体に圧力を加える加圧装置であることを特徴とする請求項2に記載の動物固定具。
【請求項4】
前記ケース部が、前記二以上の支持部材を平行に並設しているケース部である場合は、
前記圧力付与部が、弾性体であることを特徴とする請求項2に記載の動物固定具。
【請求項5】
前記前歯掛止部は、U字形状、V字形状、T字形状又はL字形状であることを特徴とする請求項1から4のうちのいずれか1項に記載の動物固定具。
【請求項6】
前記前歯掛止部及び前記頭部固定部の少なくとも一方の、前記鼻腔及び前記口腔の近傍となる位置に、麻酔ガスを供給するための麻酔ガス供給口を設けたことを特徴とする請求項1から5のうちのいずれか1項に記載の動物固定具。
【請求項7】
前記頭部固定部は、前記動物との接触面に圧力センサを設けたことを特徴とする請求項1から6のうちのいずれか1項に記載の動物固定具。
【請求項8】
非磁性材料で製作されていることを特徴とする請求項1から7のうちのいずれか1項に記載の動物固定具。
【請求項9】
動物の頭部を固定するための動物固定具であって、
一端に前記動物を挿入する動物挿入部を有する基部と、
前記基部内を往復動可能に設けられ、前記動物の前歯を掛止して固定する前歯掛止部と、
前記前歯掛止部が、前記動物挿入部から遠ざかるように当該動物挿入部から離間する方向に圧力を付与する圧力付与部と、を有し、
前記基部は、前記前歯掛止部を収めることができ、且つ前記動物の鼻腔と口腔を塞がないよう所定の容積をもって形成され、前記頭部の一部と当接する当接部を有する鼻口カバー部を前記動物挿入部側に備え、
前記前歯掛止部に前歯を掛止した前記動物を、前記圧力付与部の圧力によって前記動物挿入部から離間する方向に牽引することで、前記鼻口カバー部の前記当接部に抑圧して固定する
ことを特徴とする動物固定具。
【請求項10】
前記前歯掛止部は、制止部により往復動動作を所定位置で制止され、この所定位置で制止されている状態から解放されることを特徴とする請求項9に記載の動物固定具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2010−264068(P2010−264068A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117843(P2009−117843)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)