説明

動物実験装置

【課題】従来数週間から数カ月の訓練期間を要していたオペラント学習実験装置の問題を解決し、極めて短時間で学習が可能で、かつ、操作が容易な動物実験装置を提供する。
【解決手段】被検動物のオペラント学習行動を観察するための動物実験装置であって、被検動物の一方の前肢で操作する操作部に報酬を供給するための報酬供給口が形成された操作供給部と、操作供給部の動きを感知して制御部に信号を発信するセンサーと、センサーからの信号を受信し、受信した信号に基づいて予め設定されたプログラムに従ってポンプを駆動させる信号を発信する制御部と、制御部からの信号に基づいて貯蔵部から操作供給部に報酬を移送するための動力を与えるポンプと、報酬が貯蔵された貯蔵部と、を備えた、動物実験装置により解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物実験装置に関し、殊に、ラット、モルモット又はマウス等の被検動物に実験目的に応じた行動等をさせて脳機能の測定等を行う動物実験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検動物に特定の行動を学習させて実験を行う装置として、オペラント学習実験装置が知られている。一般的なオペラント学習実験装置は、レバーと、該レバーの反応に応じて報酬を与える供給部を備え、被検動物がレバー押し行動を学習する過程を心理学的に評価するための装置である。
【0003】
例えば、被検動物にレバーを動かす行動を学習させるオペラント学習実験装置(いわゆるスキナー箱)では、スキナー箱に絶食させておいたネズミを入れ、ブザーが鳴ったとき平板形状のレバーを押すと報酬供給部からエサがもらえるようにしておくと、やがて、ネズミはブザーの音に反応してレバーを押すようになり、ブザーが鳴った直後にネズミがレバーを押す頻度(確率)が増加していく。
【0004】
オペラント学習実験装置では、被検動物が偶然にレバーに接触することを契機に学習が始まり、偶然にレバーに接触することを繰り返して試行錯誤により、被検動物はレバーを動かすことと報酬を得ることとの相関を学習する。
【0005】
このようなオペラント学習実験装置としては、例えば、特開2008−200007号公報に、被検動物の胴部に沿う寸法の保定部内に被検動物が侵入するための入口部と被検動物の頭部がでる頭部開口部とを有する保定部と、被検動物の頭部を固定する頭部固定部と、被検動物が前肢で操作する操作部と、操作部の動作に応じて被検動物に報酬を供給する固定型の給水スパウトを備えた動物実験装置が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−200007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
被検動物に特定の行動を学習させる場合、従来のオペラント学習実験装置では、被検動物が偶然にレバーに触れるまでの時間を要するため、学習開始に時間がかかること、偶然にレバーに触れることを繰り返す試行錯誤によりレバーの動作と報酬の供給との相関を学習するまでに時間がかかること等の問題があった。例えば、上記特許文献1のように頭部を固定するオペラント学習実験装置を用いた場合、特定の行動を被検動物に学習させるための時間として、数週間から数ヶ月の訓練期間を要していた。
【0008】
また、神経生理学では、脳に電極を刺入して、被検動物の感覚や運動機能に対する脳の神経活動の応答を電極から検出して記録する。そのため、脳に電極を刺入する際、または電極からの応答を検出する際には、脳定位固定装置に被検動物の頭部を固定する必要があった。しかしながら、上述のように従来のオペラント学習実験装置では訓練に長期間を要していたため、頭部が固定されている被検動物にとって長期間の実験は強いストレスの原因となる。そのため、実験期間の長期化により研究開発の効率が著しく低下するのみならず、頭部の手術部位の皮膚・筋肉・骨組織に炎症や腫脹や出血や感染などの異常が生じやすくなって周辺組織ごと脆弱化するために、脳に電極を刺入することさえできなくなってしまうという問題があった。
【0009】
さらに、従来のオペラント学習実験装置(特許文献1)では、被検動物に報酬を供給する報酬部の位置を調節することが難しく、実験者自身に熟練した技術を要していた。
【0010】
そこで、本発明の目的は、従来数週間から数カ月の訓練期間を要していたオペラント学習実験装置の問題を解決し、極めて短時間で学習が可能で、かつ、操作が容易な動物実験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、従来のオペラント学習実験装置におけるレバーと報酬を供給する部品を一体型に形成することにより、被検動物が動作と報酬との関係を直感的に学習し、訓練期間が顕著に短縮されるとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づきなされたものであり、被検動物のオペラント行動を観察するための動物実験装置であって、被検動物の一方の前肢で操作する操作部に報酬を供給するための報酬供給口が形成された操作供給部と、操作供給部の動きを感知して制御部に信号を発信するセンサーと、センサーからの信号を受信し、受信した信号に基づいて予め設定されたプログラムに従ってポンプを駆動させる信号を発信する制御部と、制御部からの信号に基づいて貯蔵部から操作供給部に報酬を移送するための動力を与えるポンプと、報酬が貯蔵された貯蔵部と、を備えた、動物実験装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る動物実験装置によれば、従来それぞれ分離していた操作部と報酬部を合一化した操作供給部を有するため、前肢で掴んで舌で舐めるという自然な動作をさせることが可能となり、動物は動作と報酬の関係を、極めて短期間で直感的に学ぶことができる。
【0013】
また、従来の動物実験装置(特許文献1)は、被検動物に報酬を供給する報酬部の位置を調節する点に熟練した技術を要していたが、本発明に係る動物実験装置によれば、動物自ら操作供給部を掴んで舐めやすい位置に動かすため、報酬部の人為的な位置調節が不要となり、実験者は熟練した技術を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る動物実験装置の基本構成を示した図である。
【図2】操作供給部10周辺の動作の一例を説明するための部分拡大図である。
【図3】被検動物(ラット)100の頭部に被検動物装着金具82を装着し、頭部固定部80に被検動物の頭部を固定する様子を示す概略図である。
【図4】実験に用いたスキナー箱を示す図である。
【図5】ラットのレバー押し回数の結果を示す図である。
【図6】ラットが1時間のうち、レバーに触れた回数を示す図である。
【図7】実験に使用した動物実験装置の構成を示す図である。
【図8】実験で採用したスパウトレバー操作課題を示す図である。
【図9】実験1日目、2日目、3日目の各反応速度とタスク試行回数の関係をプロットした図である。
【図10】実験1日目、2日目、3日目のスパウトレバーのストロークの軌跡を示す一例である。
【図11】実験中の被検ラットがスパウトレバーを操作する様子を撮影した動画の連続写真である。
【図12】被験ラット(計8頭)が合図音の直後にスパウトレバーを操作したことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の動物実験装置を実施するための形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る動物実験装置の基本構成を示した図である。図1に示すように、本実施形態の動物実験装置1は、操作供給部10と、センサー20と、制御部30と、ポンプ40と、貯蔵部50を備えている。
【0017】
本実施形態に係る動物実験装置に適用可能な動物としては、例えば、ラット、マウス、モルモット、イヌ、ネコ、サル等を挙げることができる。特に、本実施形態に係る動物実験装置は、学習能力は高くないと考えられるが、医学生物学研究に最も多用されているラットやマウスのような下等な哺乳動物にも適用できる。
【0018】
操作供給部10は、被検動物の一方の前肢で操作する操作レバー12と、報酬Rを供給するための報酬供給口14が一体的に形成されたものである。操作供給部10を設置する位置は、被検動物が操作供給部10を引きつけて口元に報酬供給口14が届く位置であれば特に限定されないが、基本的には被検動物の左右どちらか一方の前肢で水平方向に引く/押す動作が可能な位置に設置されることが好ましい。その他、垂直方向に上下する動作が可能な位置に設置してもよく、斜め方向の動作が可能な位置に設置してもよい。
【0019】
本実施形態では1つの操作供給部10を備えた例を示しているが、操作供給部10の数は複数設置してもよい。例えば、報酬Rの種類や供給量が異なる複数の操作供給部10を設置しておけば、被検動物の報酬Rの種類に応じた行動(嗜好性)や運動の調節の仕組みを観察する研究に応用することができる。
【0020】
操作供給部10の操作レバー12は管状に形成され、内部は液体又は気体が通過可能な空洞になっている。空洞の直径は被検動物の種類又は実験の目的に応じて適宜設計することが可能であるが、例えば、ラット、マウス、モルモットを被検動物とする場合は、空洞の直径を1〜2mmとすることが好ましい。操作供給部10の長さについても、被検動物の種類又は実験の目的に応じて適宜設計することが可能である。
【0021】
操作供給部10の一部には、報酬供給口14が形成され、この報酬供給口から液体状又は気体状の報酬Rが供給されるようになっている。報酬Rの種類は、被検動物の種類や実験の目的に応じて適宜変更することができるが、液体状の報酬としては、例えば、水、糖類を含有する水、人工甘味料を含有する水、アルコールや経口薬剤を含有する水などを挙げることができる。また、気体状の報酬としては、例えば、タバコの煙やシンナーなど、常習性の物質を含有する空気などが挙げられる。
【0022】
本実施形態においては、報酬供給口14が操作レバー12の先端に形成されている例を示したが、これに限定されることはなく、例えば、操作レバー12の根元付近に形成しても、両端部の中間の位置に形成してもよい。
【0023】
さらに、報酬供給口14の数は1つに限定されることもなく、複数個形成されていてもよい。例えば、異なる複数個所の報酬供給口を設け、それぞれ異なる量の報酬Rが供給されるようにしておけば、被検動物はある報酬供給口を舐めるのと別の報酬供給口を舐めるように操作レバー12の位置を被検動物自らが調整する行動をとるため、被検動物の運動の調節の仕組みを観察する研究に応用することができる。
【0024】
本実施形態において、操作供給部10は棒状に形成された例を示したが、これに限定されず、操作供給部10の全部又は一部が変形可能に形成されてもよい。例えば、操作供給部の中間を前上方へ湾曲させることにより、反対側の前肢では決して操作供給部に触らせないことが可能である。このことにより、従来のスキナー箱や動物実験装置などでは不可能であった、左右どちらか一方の前肢に限定して確実にレバーを操作させることを実現できる。また、棒状のままであっても、被験動物が操作しやすいように取っ手を付けたりグリップ状に太く変形してもよい。
【0025】
操作供給部10は支持部60に固定され、支持部60は後述するセンサー20に軸支され、この軸を中心に回動可能となっている。これにより、被検動物が操作供給部10のストロークと共に支持部60も移動するようになっている。このとき、支持部の両側面に一対のマグネット62(62a、62b)を装着し、これに対面する一対のマグネット64(64a、64b)を設置することにより、被検動物が操作供給部10を離した場合にマグネットの反発力によって所定の中立位置(ニュートラルポジション)に戻るため、被検動物が操作供給部10をストロークしているか否かが容易に判別できるようになる。また、マグネット64(64a、64b)の位置を調整することにより、操作供給部の中立位置や操作に必要な力を任意に変更することができる。なお、マグネットの代わりにバネやオモリを用いてもよい。
【0026】
また、支持部60はX軸Y軸Z軸の3軸の粗動マニピュレータとなっており、被検動物の口元に操作供給部10の報酬供給口14が近づくように、前後、上下、左右を調節できるようになっている。さらに、操作供給部10の水平方向の角度の変更も可能であり、被検動物から見て、操作供給部10が斜め前方から伸びてくる、真横から伸びてくる、などを任意に調節できるようにもなっている。
【0027】
操作供給部10の位置を検出するためには、支持部60にセンサー20を取り付け、操作供給部10の移動角度及び速度を検出して制御部に信号を発信するような構成とする。センサーとしては、例えば、エンコーダを使用し、操作供給部10又は支持部60の移動角度を電気信号に変換してコンピュータ等の制御部30に認識させることにより検出することができる。
【0028】
センサー20は制御部30に電気的に接続されており、制御部30がセンサー20からの信号を受信し、受信した信号に基づいて予め設定されたプログラムに従って、ポンプ40を駆動させる信号を発信する。
【0029】
ポンプ40は、制御部30からの信号に基づいて貯蔵部50から操作供給部10に報酬Rを移送するための動力を与えるためのものである。ポンプ40の種類は被検動物の種類や実験の目的に応じて適宜変更することができるが、例えば、ラット、マウス、モルモットを被検動物とする場合は、μl(マイクロリットル)単位で液体状又は気体状の報酬Rを移送することができるマイクロポンプを用いることが好ましい。
【0030】
貯蔵部50は報酬を貯蔵するためのものであり、一時的に報酬Rを貯蔵することができるものであれば、その形状や材質に限定はない。貯蔵部50に貯蔵されている報酬Rは、チューブ70を介して、ポンプ40により一定量の報酬Rが操作供給部10に移送されるとともに、報酬供給口14から報酬Rが供給されるようになっている。
【0031】
図2は、操作供給部10周辺の動作の一例を説明するための部分拡大図である。なお、図2の説明は操作供給部10周辺を上方から見た場合を想定している。図2(A)に示すように、操作供給部10に負荷がかかっていない状態の場合、すなわちニュートラルポジションにある場合は、マグネット(62aと64a、62bと64b)同士の反発力により、操作供給部10が図示した位置に静止している。なお、上述のように、操作供給部10の一方の端部にはチューブ70が接続されており、操作供給部10が支持部60に固定され、さらに、支持部60にはセンサー20が回動可能に軸支されている。
【0032】
図2(B)に示すように、実験動物が操作供給部10に対して押し出す力(図面下方向)を加えると、センサー20を軸として操作供給部10が固定されている他の部品(チューブ70、支持部60、センサー20)とともに図面下方向に回動する。移動角度は実験動物が操作供給部10を押し出す力に応じるが、マグネット64bがいわゆるストッパーの役割も果たすため、最大移動角度はマグネット64bの設置位置により画定される。なお、このときの移動角度や速度はセンサー20により検知される。
【0033】
図2(C)に示すように、実験動物が操作供給部10に対して引き寄せる力(図面上方向)を加えると、センサー20を軸として操作供給部10が固定されている他の部品(チューブ70、支持部60、センサー20)とともに図面上方向に回動する。この場合はマグネット64aがストッパーの役割を果たし、最大移動角度が画定される。また、このときの移動角度や速度もセンサー20により検知される。そして、プログラムで、押す(Push)〜引く(Pull)というスパウトレバー操作課題をクリアした場合に報酬Rが供給されるように設定した場合は、このときに報酬Rが報酬供給口14から報酬Rが供給される。その後、実験動物が操作供給部10から手を離すと、再び図2(A)に示すニュートラルポジションに操作供給部10が戻る。
【0034】
本実施形態の動物実験装置によれば、操作供給部10が操作レバー12に報酬供給口14が形成されているため、被検動物が操作供給部10をストロークして口元に引き寄せた際に報酬が供給されていることを即時に認識することができる。その結果、被検動物に動物実験装置のオペラント学習行動を学習させるための時間が従来の動物実験装置と比較して顕著に短縮することができる。
【0035】
本実施形態の動物実験装置は、被検動物の頭部を固定する頭部固定部80を備えることもできる。図3は、被検動物(ラット)100の頭部に被検動物装着金具82を装着し、頭部固定部80に被検動物の頭部を固定する様子を示す概略図である。なお、図3の説明は本実施形態の動物実験装置1を側面から見た場合を想定している。
【0036】
頭部固定部80は、手術によって予め被検動物(ラット)100の頭部に装着されている被検動物装着金具82と、被検動物装着金具82を頭部固定部80に固定する金具固定部84とを備える。金具固定部84は、金具固定部支持部86を介して、プレート88に設置されている。被検動物装着金具82は、被検動物(ラット)100の頭骨に2本のアルミ製パイプ82aを取り付け、さらに固定用フレーム82bを該パイプ82aに通して固定する手術を施すことにより、被検動物(ラット)100の頭部に装着される。
【0037】
なお、本実施形態の動物実験装置は、図1に示すように、スピーカー90を備えることもできる。ネズミの可聴域(聞こえる音の高さ)には超音波も含むため、超音波も出力可能なスピーカー90を選択することが好ましい。なお、音を発するタイミング、音量又は周波数等は、制御部30により制御することができる。
【実施例】
【0038】
1.頭部非拘束条件下における行動実験
(1)被検動物
Long−Evans系SPFラット(オス、体重150−250g)を飼育アイソラック内の個別ケージ(室温23℃、湿度55%、明暗12時間切替え)に搬入後、実験者や実験環境に数日間馴化させた。
【0039】
行動実験の2日前より、被検ラット(計10頭)に飼育ケージ内の飲水制限を課しておいた。
【0040】
(2)実験方法
図1に示す動物実験装置1と図4に示すスキナー箱を用いた。図4(A)はスキナー箱の内側から見た図であり、図4(B)はスキナー箱の外側から見た図である。スキナー箱の開口部に操作供給部10としてのスパウトレバーが位置するよう、スパウトレバーを湾曲形成してある。
【0041】
図4(A)に示す板状の部品は、対照として従来の動物実験装置の構成と同じく、板状の標準的なスイッチ(標準レバー)としたものである。このスイッチ(標準レバー)に触れると、スパウトレバーの先端から0.1%サッカリン水(0.005ml)が報酬として噴出するようになっている。この場合、スパウトレバーは固定されている。
【0042】
一方、図4(B)の場合、スパウトレバーは水平方向に可動するようになっており、スパウトレバーを前方に押すとその先端から0.1%サッカリン水(0.005ml)が報酬として噴出するようになっている。この場合、板状の標準的なスイッチ(標準レバー)は固定されている。
【0043】
ラットが図4(B)に示すスパウトレバーを前方に押すとその先端から0.1%サッカリン水(0.005ml)が噴出し、その先端を舐めることができる実験条件をスパウトレバー・グループとし(5頭)、図4(A)に示す標準レバーを押すとすぐ隣のスパウトレバーの先端から同量のサッカリン水を舐めることができる実験条件を標準レバー・グループ(5頭)として、両条件におけるレバー押し回数を比較した。実験は1頭ずつ1日1時間で2日間にわたり実施した。
【0044】
(3)実験結果
実験結果を図5及び図6に示す。図5(A)は標準レバー・グループの代表例としてラット#7のレバー押し回数の結果を示す図であり、図5(B)はスパウトレバー・グループの代表例としてラット#9のレバー押し回数の結果を示す図である。また、図6(A)は標準レバー・グループのラットが1時間のうち、標準レバーに触れた回数を示す図であり、図6(B)は、スパウトレバー・グループのラットが1時間のうち、スパウトレバーに触れた回数を示す図である。
【0045】
図5(A)及び図6(A)に示すように、標準レバー条件では、ラットのレバー押しの回数は伸び悩み、実験2日目もレバーに触れた回数が増加せず、学習効果は認められなかった。一方、図5(B)及び図6(B)に示すように、スパウトレバー条件では、ラットは実験開始後まもなくスパウトレバーを押してサッカリン水を獲得できることを見出し、その後もレバー押し頻度の顕著な増加がみられた。さらに、スパウトレバー条件では、実験2日目の開始直後からレバー押しの反復がみられ、学習の効果が翌日も持続していたことが判明した。
【0046】
このように、標準レバーと比べて、スパウトレバーを使用すると機械的操作により報酬を得るというオペラント学習の効果が劇的に高まることが明らかとなった。
【0047】
2.頭部拘束条件下における行動実験
(1)被検動物
図3に示す被検動物装着金具82をラット100に装着した。すなわち、イソフルラン吸入麻酔下(導入4.5%/維持2−2.5%)、ラット100の頭部を脳定位固定装置にイヤーバーで保定し、ステンレス製ネジと歯科用セメントを用いて、ラット100の頭骸骨に、被検動物装着金具82としてのアルミニウム製固定具を取り付ける外科的手術を施した。
【0048】
手術中は体温・呼吸管理をおこない、滅菌された手術器具類を使用して手術部位を清潔に保つことに注意を払い、手術後数日間は十分な餌料と水を与えて体力を回復させた。
行動実験の2日前より、被検ラット100に飼育ケージ内の飲水制限を課しておいた。
【0049】
(2)実験方法
図7に示す動物実験装置を使用した。すなわち、図1に示す動物実験装置1と図3に示す頭部固定部80を組み合わせた装置を構成し、ラット100の頭部を頭部固定部80に固定して、一日数時間、3日間にわたり聴覚誘発性のスパウトレバー操作課題の学習実験を行った。
【0050】
具体的には、被検ラット100は、頭部固定部80の固定金具部84に頭部を固定され、円筒状の保定器200に胴体を預けることとなる。そして、被検ラット100の口元近くに操作供給部10としてのスパウトレバーを配置すると、ラット100は自然にスパウトレバーを掴み舐めようとする。
【0051】
ラット100はスパウトレバーを適切に操作するたびに、報酬Rとして0.1%サッカリン水(0.005ml)を与えられた。実験期間中は飼育ケージ内の水分補給を制限するが、動物実験装置内において十分量の水分を課題遂行の報酬Rとして獲得でき、その飲水総量と体重変化は常に監視した。また、必要に応じて、飼育ケージ内においても水分を含む寒天塊を与えた。
【0052】
図8は、この実験で採用したスパウトレバー操作課題を示す図である。この実験で採用したスパウトレバー操作課題は、スパウトレバーを前方に押し(Push)、1秒以上保持すると(Hold>1s)スピーカー90から合図音が鳴り(Cue)、すぐさまスパウトレバーを口元に引き寄せると(Pull)サッカリン水0.005mlが報酬Rとしてスパウトレバー先端から出てくる(Reward)というものである。スパウトレバーの位置、操作タイミング、合図音、報酬供給などの課題条件は、制御部30としてのコンピューターで設定し制御した。
【0053】
(3)実験結果
結果を図9〜図12に示す。図9は、代表的なラット1頭による実験1日目、2日目、3日目の各反応速度とタスク試行回数の関係をプロットした図である。スパウトレバーを保持し始めてから合図音が鳴るまでの時間(Cue onset)を徐々に長くしていくと、実験1日目の1500試行を越えた頃から、合図音を待ってスパウトレバーを引くことを学習しつつあることが示されている。実験2日目では、すでに開始時から保持時間の後に合図音に合わせてスパウトレバーを引く学習が成立しており、3日目には保持1秒後の合図音で1000試行を越える安定したレバー操作の反復がみられた。
【0054】
図10は、実験1日目、2日目、3日目のスパウトレバーのストロークの軌跡を示す一例である。実験1日目ではスパウトレバー操作が不規則で戸惑いがみられるが、2日目と3日目では無駄なく規則的にスパウトレバーを操作していることを示している。
【0055】
図11は、実験中の被検ラットがスパウトレバーを操作する様子を撮影した動画の連続写真であり、1秒間に30フレームで、33ミリ秒(0.033秒)おきに撮像したものである。なお、0秒(0.000")はレバーの引き始めのタイミングを示す。被験ラットは右前肢で自然にスパウトレバーを掴んで、0.1〜0.2秒のわずかな間にうまく口元へ引き寄せていることを示している。
【0056】
図12は、被験ラットが合図音の直後にスパウトレバーを操作したことを示す図である。被験ラット8頭から得られた、実験3日目の後半400試行の実験データの平均値(と標準偏差)であり、大きな単一ピークは、保持時間1秒(1000ミリ秒)の直後に呈示される合図音(Cue)にすぐさま反応してスパウトレバーを引いたことを示している。このように、短期間(3日間)の効率よいレバー操作学習は、実験した8頭すべてで同様に観察された。
【0057】
このように、本発明の動物実験装置を用いて頭部拘束条件下における行動実験を行った場合であっても、特に熟練した技術を必要とせず、極めて効率よく被検動物に学習させることが可能となり、頭部の手術部位の皮膚・筋肉・骨組織に炎症や腫脹や出血や感染などの異常も全く認められなかった。
【符号の説明】
【0058】
1 動物実験装置
10 操作供給部
12 操作レバー
14 報酬供給口
20 センサー
30 制御部
40 ポンプ
50 貯蔵部
60 支持部
62(62a、62b)、64(64a、64b) マグネット
80 頭部固定部
82 被検動物装着金具
82a アルミ製パイプ
82b 固定用フレーム
84 金具固定部
86 金具固定部支持部
88 プレート
90 スピーカー
100 被検動物(ラット)
200 保定器
R 報酬

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検動物のオペラント学習行動を観察するための動物実験装置であって、
被検動物の一方の前肢で操作する操作部に報酬を供給するための報酬供給口が形成された操作供給部と、
操作供給部の動きを感知して制御部に信号を発信するセンサーと、
センサーからの信号を受信し、受信した信号に基づいて予め設定されたプログラムに従ってポンプを駆動させる信号を発信する制御部と、
制御部からの信号に基づいて貯蔵部から操作供給部に報酬を移送するための動力を与えるポンプと、
報酬が貯蔵された貯蔵部と、
を備えた、動物実験装置。
【請求項2】
前記操作供給部が管状に形成された、請求項1に記載の動物実験装置。
【請求項3】
前記操作供給部の端部に前記報酬供給口が形成された、請求項1又は2に記載の動物実験装置。
【請求項4】
前記操作供給部は、変形可能に形成された、請求項1〜3のいずれか1項に記載の動物実験装置。
【請求項5】
前記被検動物の頭部を固定する頭部固定部を備えた、請求項1に記載の動物実験装置。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−5746(P2013−5746A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139810(P2011−139810)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(593171592)学校法人玉川学園 (38)