説明

動物性タンパク質の乳酸発酵物、その製造方法、ならびにこの乳酸発酵物を含む食品及び健康食品

【課題】血液中及び肝臓中の脂質濃度低下能を有する動物性タンパク質の乳酸発酵物、その製造方法、ならびにこの乳酸発酵物を含む食品及び健康食品を提供する。
【解決手段】ストレプトコッカス属、エンテロコッカス属、ロイコノストック属、ラクトコッカス属、ラクトバチルス属、及びペディオコッカス属のいずれかに属する乳酸菌から選択される少なくとも1種類の乳酸菌を用いて動物性タンパク質を乳酸発酵することにより、血液中及び肝臓中の脂質濃度低下能を有し、かつ/又は乳酸菌の菌体を含まない状態で胆汁酸結合能を有する乳酸発酵物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生活習慣病の予防に関連する保健機能を有する新規な動物性タンパク質の乳酸発酵物、その製造方法、ならびにこの乳酸発酵物を含む食品及び健康食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨーグルト、チーズ等の乳酸発酵食品は、血圧降下能(例えば、特許文献1参照)、血清脂質の低減効果(例えば、特許文献2参照)、整腸作用(例えば、特許文献3参照)、免疫賦活活性(例えば、特許文献4参照)、抗酸化能(例えば、特許文献5参照)等の、発酵過程で産生される物質に起因する様々な保健機能(いわゆるプロバイオティクス)を有することが知られている。
【0003】
強い血圧上昇活性を有するアンジオテンシンIIの産生に関与するアンジオテンシン変換酵素(以下「ACE」と略称することがある)の活性を阻害する物質を含む乳酸発酵食品が知られている。このような乳酸発酵食品は血圧降下機能を有することが期待される。
近年、乳酸発酵食品を含む種々の食品中からACE阻害ペプチドが見出され、牛乳カゼイン、発酵乳、魚肉の加水分解物由来のペプチドがACE阻害活性を有することが知られている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0004】
また、乳酸発酵食品に含まれる乳酸菌には、その生菌又は死菌の菌体が腸管内で胆汁酸(コール酸等)と結合し、その再吸収を抑制するものが存在する。胆汁酸の生合成には、コレステロールが原料として用いられるため、このような乳酸発酵食品は血中コレステロール低下作用を有することが期待される。
このような乳酸菌の胆汁酸結合能を利用した機能性食品も提案されている(特許文献6参照)。
【0005】
動物性タンパク質由来の乳酸発酵食品としては、なれずし等が古くから知られており、現在も地方特産品として親しまれている。
なれずし等における発酵は、桶や倉等の環境中に存在する未知の微生物が作用したものであるのに対し、選択した微生物を魚介類(特許文献7〜9参照)及び畜肉(特許文献10、11参照)に作用させ、その効果を利用しようとする試みも行われている。
【0006】
【特許文献1】特開平8−283173号公報
【特許文献2】特開平6−165655号公報
【特許文献3】特開2003−210105号公報
【特許文献4】特開平5−252900号公報
【特許文献5】特開平6−41191号公報
【特許文献6】特開2003−235501号公報
【特許文献7】特開平7−16079号公報
【特許文献8】特開平8−116928号公報
【特許文献9】特開2004−229502号公報
【特許文献10】特開平9−275937号公報
【特許文献11】特開2003−102427号公報
【非特許文献1】ハンス・メイゼル(Hans Meisel)、「ペプタイド・サイエンス(Peptide Science)」、(米国)、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ社(JohnWiley & Sons)、1997年、第43巻、第2号、p.119−128
【非特許文献2】山本直之、「ペプタイド・サイエンス(PeptideScience)」、(米国)、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ社(John Wiley & Sons)、1997年、第43巻、第2号、p.129−138
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、なれずしや、特許文献7〜11に開示された水産品及び畜肉(食肉)の加工食品における乳酸菌等の微生物の利用は、保存性の改善、独特の風味の付与、すり身等におけるゲル強度、弾力性等の物性の改善や、風味等の官能性の付与、酵素処理後の二次処理等を目的とするものであり、保健機能の付与を目的にしたものではない。
また、積極的に選択した乳酸菌等の微生物により魚介類及び畜肉等の動物性タンパク質を発酵させた発酵物の保健機能については、これまで殆ど知られておらず、食品等への応用もなされていない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、生活習慣病の予防に関連する保健機能を有する動物性タンパク質の乳酸発酵物、その製造方法、ならびにこの乳酸発酵物を含む食品及び健康食品を提供することを目的とする。
【0009】
本発明者らは、これまであまり知られていない動物性タンパク質の乳酸発酵物の保健機能に着目し、選択した乳酸菌で魚肉及び畜肉を発酵させた乳酸発酵物の保健機能とその製造方法について鋭意検討した結果、胆汁酸結合能を有する乳酸発酵物を一定の品質で容易に製造できること、及び該乳酸発酵物が、食品(魚肉練製品、飲料、調味料、菓子等)、及び健康食品として利用できるという新たな可能性を見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的に沿う第1の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物は、動物性タンパク質を、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、及びペディオコッカス(Pediococcus)属のいずれかに属する乳酸菌群から選択される少なくとも1種類の乳酸菌を用いて乳酸発酵させることにより得られ、肝臓中の脂質量を低下させる活性を有する。
【0011】
「肝臓中の脂質量」とは、肝臓内部で合成され、貯蔵されている中性脂肪(トリグリセリド)、コレステロールの量をいう。肝臓中の脂質量の低下には、過剰な脂質の代謝の促進、又は過剰な脂質の合成の抑制等が関与していると考えられる。したがって、慢性肝疾患の原因となる脂肪肝の軽減や、長期的には血中脂質濃度の低減等の効果が期待される。
【0012】
第2の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物は、動物性タンパク質を、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、及びペディオコッカス(Pediococcus)属のいずれかに属する乳酸菌群から選択される少なくとも1種類の乳酸菌を用いて乳酸発酵させることにより得られ、前記乳酸菌の菌体を含まない状態で胆汁酸結合能を有している。したがって、胆汁酸の再吸収の抑制を通じて、血中コレステロール濃度を低下させる活性を有することが期待される。
【0013】
第2の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物において、前記乳酸菌が、ラクトバチルス属に属する乳酸菌を含んでいることが好ましい。
また、第2の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物において、前記動物性タンパク質が魚肉又は畜肉であることが好ましい。
【0014】
第3の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法は、ストレプトコッカス属、エンテロコッカス属、ロイコノストック属、ラクトコッカス属、ラクトバチルス属、及びペディオコッカス属のいずれかに属する乳酸菌群から選択される少なくとも1種類の乳酸菌を用いて動物性タンパク質を発酵させる発酵工程を有する。
【0015】
第3の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法において、前記乳酸菌が、ラクトバチルス属に属する乳酸菌を含んでいることが好ましい。
また、第3の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法において、前記動物性タンパク質が魚肉又は畜肉であることが好ましい。
【0016】
第3の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法において、前記発酵工程を行う前に、前記動物性タンパク質を70〜120℃で加熱殺菌する加熱殺菌工程を行ってもよい。
【0017】
第3の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法において、前記乳酸菌がバクテリオシン産生菌を含んでいてもよい。
【0018】
第3の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法において、前記発酵工程を行う前に、前記動物性タンパク質をタンパク分解酵素により処理する酵素処理工程を行ってもよい。
【0019】
第4の発明に係る食品は、第1の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物を含んでいる。
【0020】
第5の発明に係る健康食品は、第1の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物を含んでいる。
【発明の効果】
【0021】
第1及び第2の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物、並びに第3の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法においては、乳酸発酵物は、選択された乳酸菌の発酵により製造されるため、品質が一定で生産が容易である。また、この乳酸発酵物は、乳酸による優れた保存性や独特の風味、ハム、ソーセージ、すり身、練り製品等に加工した際の優れた質感等と保健機能とを併せ持つ。そして、種々の形態に加工することができると共に種々の味を付与すること、さらに、健康食品の有効成分として利用することが可能である。また、生活習慣病の予防に関連する保健機能である、肝臓中の脂質量、血中脂質濃度及び血中コレステロール濃度のいずれか1つ又は2つ以上を低下させる機能を有する乳酸発酵物を提供できる。
【0022】
第1の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物は、肝臓中の脂質量を低下させる活性を有するので、血中脂質濃度低下機能を有する食品や健康食品に応用することができる。
【0023】
第2の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物は、乳酸菌の菌体を含まない状態で胆汁酸結合能を有するので、血中コレステロール濃度低下作用を有する食品や健康食品に応用することができる。
【0024】
第2の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物及び第3の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法において、乳酸発酵に用いる乳酸菌がラクトバチルス属に属する乳酸菌を含んでいる場合、スターターの調製が容易であると共に、乳酸発酵物の胆汁酸結合能を向上させることができる。
【0025】
第2の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物及び第3の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法において、乳酸発酵に用いる動物性タンパク質が魚肉又は畜肉である場合、胆汁酸結合能を向上させることができる。
【0026】
第3の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法において、動物性タンパク質を70〜120℃で加熱殺菌する加熱殺菌工程を行う場合には、乳酸発酵時に雑菌や魚肉に由来する他の乳酸菌の繁殖を抑制することができる。
【0027】
第3の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法において、乳酸菌がバクテリオシン産生菌を含む場合には、乳酸発酵時における雑菌の繁殖を抑制すると共に、乳酸発酵物の保存性を改善することができる。
【0028】
第3の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法において、動物性タンパク質をタンパク分解酵素により処理する酵素処理工程を行う場合には、乳酸発酵の際に保健機能を有する物質の産生を助けると共に、アミノ酸やペプチドが生成するため乳酸発酵物の風味を改善することができる。
【0029】
第4の発明に係る食品は、第1の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物を含むため、生活習慣病の予防に関連する保健機能を有する。
【0030】
第5の発明に係る健康食品は、第1の発明に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物を含むため、生活習慣病の予防に関連する保健機能を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について説明を行うが、これらはあくまで例示であり、何ら本発明を限定するものではない。
本発明の一実施の形態に係る動物性タンパク質の乳酸発酵物(以下「乳酸発酵物」という)は、ストレプトコッカス属、エンテロコッカス属、ロイコノストック属、ラクトコッカス属、ラクトバチルス属、及びペディオコッカス属のいずれかに属する乳酸菌群から選択される少なくとも1種類の乳酸菌を用いて動物性タンパク質を乳酸発酵させることにより得られる。
これらの乳酸菌のうち、ラクトバチルス属に属する乳酸菌、ペディオコッカス・アシディラクティシィ(Pediococcus acidilactici)、及びエンテロコッカス・フェーカリス(Enterococcus faecalis)が好適に用いられ、ラクトバチルス・ヘルベティクス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)等のラクトバチルス属に属する乳酸菌が特に好適に用いられる。
【0032】
また、腐敗菌の繁殖により乳酸発酵物が腐敗するのを防止するために、抗菌ペプチドの一種であるバクテリオシンを産生するバクテリオシン産生菌を単独で又は他の菌株と組み合わせて使用してもよい。
また、発酵に使用する乳酸菌は、予め乳酸菌スターターの形態で調製しておいてもよい。スターターの調製に用いることができる培地としては、MRS等の合成培地以外に、スキムミルクが挙げられるが、好ましくはスキムミルク培地である。
【0033】
動物性タンパク質としては、ホッケ、タラ、スケソウダラ、サケ、マグロ、カツオ、イトヨリ、タチウオ等の、海水産及び淡水産の任意の魚肉、ブタ、ウシ、ヒツジ等の任意の畜肉、及びこれらに由来するタンパク質を使用することができるが、ホッケ、スケソウダラ、イトヨリ、タチウオ、及びブタが好ましい。
魚肉及び畜肉は、必要に応じて切り身、すり身、ミンチ等の任意の形態で用いることができる。
また、必要に応じて、さらに空ずり、塩ずり等のらいかい処理を行ってもよい。らいかい処理は、食品、特に練り製品の製造に用いられる任意の手段により行うことができる。また、必要に応じて、発酵基質としてさらに糖類を添加してもよい。
【0034】
健康食品の原料として使用する場合等には、魚肉及び畜肉の代わりに魚肉及び畜肉由来動物性タンパク質の抽出液を製造原料として使用することもできる。この場合にも、必要に応じて、発酵基質としてさらに糖類を添加してもよい。
【0035】
雑菌の繁殖を抑制するために、乳酸発酵を行うまえに加熱殺菌を行ってもよい。加熱温度及び時間は、動物性タンパク質として用いられる肉の種類や加工品の形態により適宜選択(例えば加熱温度70〜120℃)される。例えば、動物性タンパク質としてホッケすり身を用いる場合、好ましい加熱温度及び時間の組み合わせは、(1)加熱温度70℃で、中心温度が70℃に達してから15分間加熱殺菌、あるいは(2)加熱温度120℃で、中心温度が120℃に達してから4分間加熱殺菌、のいずれかである。
加熱は、レトルト、オートクレーブ等の食品製造分野において用いられる任意の手段により行うことができる。
【0036】
また、必要に応じて、乳酸発酵を促進するために、タンパク分解酵素による前処理(酵素処理工程)を行い、タンパク質を部分的に加水分解してもよい。酵素としては、食品、医薬品及び化粧品製造に使用される任意のタンパク分解酵素を使用することができる。
酵素の添加量は、使用される酵素の種類に応じて適宜選択されるが、通常、魚肉の質量の0.01〜0.1質量%である。
酵素反応の温度及び時間も、使用される酵素の種類に応じて適宜選択(例えば、25〜40℃、5〜30分間)されるが、たとえば40℃で5分間である。所定の反応時間経過後、加熱することにより酵素を失活させて酵素反応を停止させる。なお、加熱による酵素の失活処理を上述の加熱殺菌と同時に行ってもよい。
【0037】
発酵温度及び発酵時間は使用する菌株に応じて異なるため、事前に確認することが好ましい。例えば、ロイコノストック属に属する乳酸菌の場合、好適な発酵温度は20〜30℃であり、最も好適な発酵温度は25℃である。それ以外の乳酸菌(例えば、ペディオコッカス・アシディラクティシィ及びエンテロコッカス・フェーカリス)の場合、好適な発酵温度は35〜40℃である。好適な発酵時間は、いずれの乳酸菌についても24〜72時間である。
【0038】
このようにして得られる乳酸発酵物は、必要に応じて、切り身状、すり身状、ペースト状、液状(抽出液、又は静置もしくは遠心分離により得られる上清液)、凍結乾燥粉末、フレーク等の、食品又は食品原料として通常使用される任意の形態を取りうる。
【0039】
また、乳酸発酵物は、乳酸菌の菌体を含まない状態で胆汁酸結合能を有すると共に、ラット等において、肝臓中の中性脂肪及びコレステロールの量を低減させる作用、並びに肝臓中の脂肪細胞等における中性脂肪及びコレステロール含有量を低下させる作用を有する。そのため、乳酸発酵物は、血中コレステロール濃度低下機能を有する食品及び健康食品の有効成分として用いることができる。
なお、「胆汁酸結合能」とは、タウロコール酸塩等の胆汁酸に結合する活性をいい、後述する方法により求められる胆汁酸結合率によって定量的に表される。
【0040】
また、当該乳酸発酵物を含む食品としては、魚肉ソーセージ等の魚肉加工品のみならず、食パン、麺類(生麺及び乾麺)、ビスケット、スナック等の菓子類、各種スープ類、ドレッシング、マヨネーズ等の調味料等が挙げられる。これらの食品の製造は、通常用いられる原料の配合に対し、風味や食感、製造時の加工性やハンドリングを損なわない範囲内で任意の量の乳酸発酵物を加え、通常用いられる方法により行うことができる。
必要に応じて、原料の配合や加工工程に対し適宜変更を加えてもよい。
【0041】
また、乳酸発酵物を有効成分として健康食品中に配合することができる。健康食品としては、粉末、顆粒、タブレット、ペースト、液体その他の任意の形態において使用することができる。乳酸発酵物の含有量は、たとえば健康食品の合計重量の1〜5質量%である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例について説明を行う。
【0043】
実施例1:胆汁酸結合能を有する乳酸発酵物の調製及び胆汁酸結合能の評価
(1)乳酸菌スターターの調製[1]
供試菌株であるペディオコッカス・アシディラクティシィの保存培地から1白金耳をそれぞれMRS培地5mLに接種して37℃、1日間培養した。培養液から1白金耳を同培地に接種し、37℃、1日間の継代培養を数回繰り返すことにより生育を安定させた。その後、遠心分離(3,000rpm、10分)により菌体を回収後、さらに生理食塩水5mLに懸濁することにより、ペディオコッカス・アシディラクティシィの乳酸菌スターターを得た。
【0044】
(2)乳酸菌スターターの調製[2]
供試菌株の保存培地から1白金耳を、スキムミルク及びグルコースにて調製した培地(以下スキムミルク培地とする)5mLに接種して、37℃で1日間培養した。培養液から1白金耳を同培地に接種し、37℃で1日間の継代培養を数回繰り返すことにより生育を安定させた。その後遠心分離等の処理を行わず、試験管内にて培地を懸濁したものをスターターとした。なお、スキムミルク培地は、スキムミルク10重量%、グルコース1.5重量%となるように蒸留水にて調整し、試験管へ5mLずつ分注後、121℃で15分間加熱という条件でオートクレーブ滅菌を施し作成した。
【0045】
(3)ホッケすり身を発酵基質とする乳酸発酵物の調製[1]
予め冷凍しておいたホッケすり身を解凍し、10gをケーシングに充填後両端を結さつし、121℃のオートクレーブ中で15分間加熱殺菌した。クリーンベンチ内で、D−グルコース及びラクトース各75mgを含む滅菌済の糖溶液1mL、及び上記(1)の方法で調製したペディオコッカス・アシディラクティシィの乳酸菌スターター0.2mLを加え、均一に撹拌しながら35℃で48時間培養した。その後、沸騰水中で15分間加熱殺菌し、凍結乾燥した。
また、対照サンプルとして、ペディオコッカス・アシディラクティシィの乳酸菌スターターの添加及び培養を行わず、他の処理は上記と同様に行ったホッケすり身凍結乾燥物を調製した。
【0046】
(4)ホッケすり身を発酵基質とする乳酸発酵物の調製[2]
解凍したホッケすり身を適当量量り取り、フードプロセッサでカットし、ホッケすり身重量の3倍重量の蒸留水を加えホモゲナイズしたものを10gずつ試験管に分注し、121℃のオートクレーブ中で15分滅菌を施した。クリーンベンチ内で、D−グルコース及びラクトース各75mgを含む滅菌済みの糖溶液1mL、及び上記(2)記載の方法で調整したラクトバチルス・アシッドフィルス、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ヘルベティクスの乳酸菌スターター0.2mL(発酵基質に対して2重量%)を加え均一に攪拌し、35℃で48時間培養した。その後、沸騰水中で15分加熱殺菌し、凍結乾燥を施した。また、対照サンプルとして、乳酸菌スターターの添加及び培養を行わず、他の処理は上記と同様に行ったホッケすり身の凍結乾燥物を調製した。
【0047】
(5)胆汁酸結合能の測定法
(3)及び(4)で調製した乳酸発酵物凍結乾燥粉末及び対照サンプル凍結乾燥粉末各50mgを、1.5mLマイクロチューブ内で1.25mMタウロコール酸ナトリウム水溶液(10mMリン酸緩衝溶液、pH6.8)1mLと混合し、37℃で2.5時間インキュベートした。インキュベート後、遠心分離(10,000rpm、10分間、4℃)を行い、上清中に残留したタウロコール酸ナトリウムの濃度を、酵素反応法(和光純薬製、胆汁酸テストワコーキットを使用)により定量した。
上清の560nmにおける吸光度を測定し、下記の式より胆汁酸結合能(%)を求めた。
【0048】
胆汁酸結合能(%)=(A−B)/(A−C)×100
ここで、
Aは、乳酸発酵物凍結乾燥粉末及び対照サンプル凍結乾燥粉末のいずれも添加せず、リン酸緩衝液に溶解した胆汁酸のみを上記のように処理した溶液(上清)の560nmにおける吸光度を、
Bは、乳酸発酵物凍結乾燥粉末又は対照サンプル凍結乾燥粉末を添加し、上記のように処理した溶液(上清)の560nmにおける吸光度を、
Cは、乳酸発酵物凍結乾燥粉末、対照サンプル凍結乾燥粉末、タウロコール酸ナトリウムいずれをも含まない緩衝溶液を上記のように処理した溶液(上清)の560nmにおける吸光度をそれぞれ表す。
【0049】
乳酸発酵物凍結乾燥粉末及び対照サンプル凍結乾燥粉末を含む測定用サンプルを各3検体ずつ調製し、3つずつの検体について上記の方法により胆汁酸結合能を測定し、それぞれ平均値を求めた。
上記の測定法により胆汁酸結合能を測定した結果、上記(2)記載の方法にて調整した乳酸発酵物を添加した場合について76.5%、対照サンプルを添加した場合について25.6%という値が観測された。また、上記(B)記載の方法にて調整した乳酸発酵物を添加した場合についてラクトバチルス・アシッドフィルスを用いた場合は85.8%、ラクトバチルス・プランタラムを用いた場合は82.3%、ラクトバチルス・ヘルベティクスを用いた場合は87.7%であり、対照サンプルを添加した場合について22.4%という値が観測された。このことから、ホッケすり身の胆汁酸結合能は、乳酸発酵を行うことにより向上することがわかる。
【0050】
ホッケすり身の代わりに牛乳(成分無調整牛乳)10gを発酵基質として用い、上記の方法により胆汁酸結合能を測定した結果、乳酸発酵物を添加した場合について56.9%、対照サンプルを添加した場合について19.2%という測定値が観測された。
さらに、豆乳10gを発酵基質として用い、上記の方法により胆汁酸結合能を測定した結果、乳酸発酵物を添加した場合について14.5%、対照サンプルを添加した場合について−0.3%という測定値が観測された。
このことから、ホッケすり身の乳酸発酵物は、発酵乳よりも高い胆汁酸結合能を有していることがわかる。
【0051】
乳酸菌の中には、その菌体が高い胆汁酸結合能を有するものが存在することが知られている。そこで、乳酸発酵物について観測された胆汁酸結合能が、乳酸発酵物に含まれる乳酸菌の菌体に由来するものであるか否かについて確認するため、下記の実験を行った。
ペディオコッカス・アシディラクティシィを10mLのMRS培地上で48時間培養後、加熱殺菌した。3,000rpmで10分間遠心分離することにより沈殿を回収後、凍結乾燥した。このようにして得られたペディオコッカス・アシディラクティシィの死菌体10mg(乾燥重量)について、上記の方法により胆汁酸結合能を測定した。
その結果、観測された胆汁酸結合能は8.56%であった。
このことから、乳酸発酵物について観測された胆汁酸結合能の大部分は、乳酸発酵生成物に由来するものであることが確認された。
【0052】
(6)すり身の種類による胆汁酸結合能の差異
イトヨリ、ヒメジ、タチウオ、グチ、タラ、エソ、アジ落とし身、スケソウダラ(有リン)、スケソウダラ(無リン)、ホッケ(有リン)、及びホッケ(無リン)の冷凍すり身を原料として、上記(2)記載の方法によってペディオコッカス・アシディラクティシィを接種及び培養し、凍結乾燥を施した各種すり身の乳酸発酵物の凍結乾燥粉末を調製した。ここで、「有リン」とは、すり身の製造時にリン酸塩を添加したものをいい、「無リン」とは、添加していないものをいう。
また、対照サンプルとして、ペディオコッカス・アシディラクティシィの乳酸菌スターターの添加及び培養を行わず、他の処理は上記と同様に行った前記各種すり身の凍結乾燥物を調製した。
この様にして得られた乳酸発酵物凍結乾燥粉末及び対照サンプル凍結乾燥粉末について、上記(5)に記載の方法により胆汁酸結合能を測定した。
こうして得られた乳酸発酵物及び対照サンプルのpH及び胆汁酸結合能を表1〜表4に示す。なお、表1〜表4において、「乳酸菌接種群」及び「対照群」は、それぞれ乳酸発酵物及び対照サンプルを表す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
イトヨリ、ヒメジ、タチウオ、グチ、タラ、エソ、アジ落とし身、スケソウダラ(有リン)、スケソウダラ(無リン)、ホッケ(有リン)、及びホッケ(無リン)を発酵基質として乳酸発酵させた生成のpHはそれぞれ5.8、4.9、4.5、5.3、5.4、4.9、4.6、5.2、5.1、5.0、4.6であり、胆汁酸結合能はそれぞれ33.58%、56.68%、60.52%、31.05%、42.29%、45.85%、53.05%、42.91%、49.69%、48.05%、72.31%であった。
このことからすり身の種類によってpH、胆汁酸結合能に差があり、特にホッケ(無リン)すり身において高い胆汁酸結合能が観測された。
【0058】
(7)乳酸菌の種類による胆汁酸結合能の差異
上記(1)及び(2)記載のように調製したエンテロコッカス・フェーカリス、ペディオコッカス・アシディラクティシィ、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・アシッドフィルス、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ヘルベティクス、ロイコノストック属に属する4菌株(CM307、AB202、AB203、及びBM301株)の乳酸菌スターター及び予め冷凍してあったホッケすり身を用いて、乳酸発酵物凍結乾燥粉末及び対照サンプル凍結乾燥粉末を調製した。調製の方法は、乳酸菌スターターの添加量がホッケすり身に対して1重量%及び10重量%である点、及びロイコノストック属に属する4菌株の発酵温度が25℃である点以外は上記(3)及び(4)に記載の方法と同一である。
このようにして得られた乳酸発酵物凍結乾燥粉末及び対照サンプル凍結乾燥粉末について、上記(5)に記載の方法によりpH及び胆汁酸結合能を測定した。
こうして得られた乳酸発酵物のpH及び胆汁酸結合能(%)を表5〜表8に示す。なお、表5〜表8において、「乳酸菌接種群」及び「対照群」は、それぞれ乳酸発酵物及び対照サンプルを表す。
【0059】
【表5】

【0060】
【表6】

【0061】
【表7】

【0062】
【表8】

【0063】
ロイコノストック属以外のスターターを用いて得られた乳酸発酵物については、いずれも高い胆汁酸結合能が観測された。菌株の相違による顕著な胆汁酸結合能の変化は観測されなかったが、ラクトバチルス属については接種量が少ない場合にも85%以上の胆汁酸結合能が観測された。
【0064】
(8)ブタ腕肉を発酵基質とする乳酸発酵物の調製及び胆汁酸結合能の測定
アメリカ産白ブタの腕肉(CL78)をフードプロセッサでカットし、3倍容の蒸留水を加えホモゲナイズした後、10gずつ試験管に取り、121℃のオートクレーブ中で15分間加熱殺菌した。クリーンベンチ内で、D−グルコース及びラクトース各75mgを含む滅菌済の糖溶液1mL、及び上記(1)に記載の方法で調製したエンテロコッカス・フェーカリス、ペディオコッカス・アシディラクティシィ、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・アシッドフィルス、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ヘルベティクス、ロイコノストック属に属する4菌株(CM307、AB202、AB203、及びBM301株)の乳酸菌スターター0.2mL(発酵基質に対して2重量%)を加え、均一に撹拌しながら、ロイコノストック属に属する4菌株を添加した試料は25℃、他の乳酸菌を添加した試料は35℃で48時間培養した。その後、沸騰水中で15分間加熱殺菌し、凍結乾燥した。
また、対照サンプルとして、乳酸菌スターターの添加及び培養を行わず、他の処理は上記と同様に行ったアメリカ産白ブタの腕肉凍結乾燥物(対照サンプル凍結乾燥粉末)を調製した。
このようにして得られた乳酸発酵物凍結乾燥粉末及び対照サンプル凍結乾燥粉末について、上記(5)に記載の方法によりpH及び胆汁酸結合能を測定した。
こうして得られた乳酸発酵物のpH及び胆汁酸結合能(%)を表9〜表12に示す。なお、表9〜表12において、「乳酸菌接種群」及び「対照群」は、それぞれ乳酸発酵物及び対照サンプルを表す。
【0065】
【表9】

【0066】
【表10】

【0067】
【表11】

【0068】
【表12】

【0069】
アメリカ産白ブタ腕肉を用いた場合、対照サンプルについても、ホッケすり身に比べ高い胆汁酸結合能(約30%)を示すが、乳酸発酵により胆汁酸結合能の顕著な増加が観測された。
ホッケすり身の乳酸発酵物の場合と異なり、ロイコノストック属のスターターを用いて得られた乳酸発酵物についても、約70%という高い胆汁酸結合能が観測された。他のスターターを用いた場合には、約90%という極めて高い胆汁酸結合能が観測され、菌株の相違による顕著な胆汁酸結合能の変化は観測されなかった。
【0070】
(9)70℃加熱殺菌した発酵基質を用いた乳酸発酵生成物の調製
冷凍ホッケすり身を解凍し、フードカッターで1分間空ずり後、すり身の重量の500%の蒸留水を添加しホモゲナイズを行ったものを試験管へ分注し、中心温度70℃達温より15分間加熱した。その後、上記(3)記載の方法で基質へ糖溶液及びペディオコッカス・アシディラクティシィの乳酸菌スターターを接種し、培養、殺菌、及び凍結乾燥を行った。
また、対照サンプルとして、ペディオコッカス・アシディラクティシィの乳酸菌スターター接の添加及び培養を行わず、他の処理は上記と同様に行ったホッケすり身凍結乾燥物を調製した。
調製した凍結乾燥サンプルを50mg測り取り、上記(5)記載の方法によって胆汁酸結合能を測定した結果、乳酸菌発酵物の胆汁酸結合能平均値は60.78%(n=3)であり、対照サンプルの胆汁酸結合能平均値は12.67%(n=3)であった。このことから、ホッケすり身基質へ70℃加熱殺菌を施した場合、乳酸発酵によって胆汁酸結合能が向上することがわかる。
【0071】
実施例1に記載の方法により調製された乳酸発酵物を含む食品の製造例を、以下の実施例2〜8に示す。なお、原料の配合、加工条件等は一例であり、乳酸発酵物の性状、添加量等に応じて適宜調節するものとする。なお、下記の配合において「%」は質量%を表す。また、製造後の包装工程等については省略する。
【0072】
実施例2:乳酸発酵物を含む魚肉ソーセージの製造例
主原料(魚肉すり身65%、豚脂肪7%)を凍結のままブロックカッターにかけ、チョッパー(チョッパー目6mm)に通し、高速バキュームサイレントカッターに入れた。この時、水18.3%、食塩1.6%、香辛料1%、砂糖2%、大豆タンパク5%、色素液0.1%を加え、さらに、適量の乳酸発酵物(すり身、上清液又は凍結乾燥物)を加え、練り肉を作成した。なお、必要に応じて、結着力を増大させるために、大豆タンパクを増量あるいはさらにデンプン3〜5%を追加してもよい。こうして得られた練り肉を、ケーシングに定量自動充填(100g/本)し、クーラーに入れ、熱水レトルト(120℃、4分間)後、冷却処理を行うことにより、魚肉ソーセージを得た。
【0073】
実施例3:乳酸発酵物を含む麺類(生うどん)の製造例
原料(小麦粉25%、ポリリン酸0.1%、乳酸0.05%、プロピレングリコール0.5%、食塩1%、水7%)、さらに、適量の乳酸発酵物(すり身、上清液又は凍結乾燥物)を混合撹拌混練機に入れてよく混練し、生地を作った。麺質を向上させる為にフィダー中で熟成させた。複合機によって生地帯状の物を2枚作りその後2枚を1枚にする事によって生地の組織を均一にした。その後、圧延機により数度圧延を行い、所定の厚さの麺生地を得た。こうして得られた麺生地を、切出機で所定の幅にカットした。
【0074】
実施例4:乳酸発酵物を含む食パンの製造例
原料(小麦粉70%)を篩通しし、水38%、その水の一部にイースト2%とイースト・フード0.13%を十分に懸濁した液、さらに、適量の乳酸発酵物(すり身、上清液又は凍結乾燥物)をミキサーに入れ、混合しグルテンが十分に発展するまで混合した。なお、捏上温度は24℃〜25℃が標準である。その後発酵槽に移し、室温25〜26℃、湿度70〜80%に保たれた第一発酵室で3〜4時間発酵させ中種を得た。中種は残りの小麦粉30%と水22%及び副原料(食塩2%、砂糖3%、D−グルコース3%、ショートニング3%、脱脂粉乳2%)、さらに、適量の乳酸発酵物(すり身、上清液又は凍結乾燥物)と共にミキサーで混捏した。生地の捏上温度は27〜28℃が標準である。捏ね上がった生地はトローに移し、室温で10〜20分間寝かせた後、ディバイダーで所定量の生地片に分割し、生地丸め機で団子状に丸めてから中間発酵機(28℃〜30℃)で10〜20分間寝かせて、生地の伸びをよくした。寝かせ終わった生地は、生地成型機でガス抜き整形し、焼型に詰めた。焼型に詰めた生地を、温度40℃前後、湿度80〜90%の最終発酵室に入れ、40〜50分間の発酵を行った。その後オーブンに入れ温度220〜230℃、時間40〜50分間で焼いた。型から取り外し、中心が常温になるまで冷却し、必要に応じてスライサーで所定の厚さにスライスした。
【0075】
実施例5:乳酸発酵物を含むソフトビスケットの製造例
主原料である小麦粉(全原料の85%)は、シフターを通し異物を除去した後計量した。これに、他の諸原料(デンプン15%、粉糖30%、加糖練乳5%、水あめ1%、ショートニング25%、膨張剤0.8%、食塩1%、香料:適量、色素:適量、水15〜20%)及び適量の乳酸発酵物(すり身、上清液又は凍結乾燥物)と共にミキサーで混合した。得られた混合物をラミネーターによって展延積層し、ゲージロールによって必要な厚さに圧延した。続いてカッティングマシンによって型抜きを行い、オーブンで焼成した。
【0076】
実施例6:乳酸発酵物を含むスープの製造例
スープ製品には、洋風、和風、中華風、あるいはエスニック風等の多くの種類があり、その性状も、液体、固体、ペースト、粉末等様々であるが、例として液体状のクリーム・トマトスープの製造例について記載する。
肉類(骨付き牛脛肉3kg、骨付き鶏肉2kg)、野菜類(香味野菜類0.4kg)を水から煮熟し、冷却後ろ過しスープストックを得た。バター0.6kgで小麦粉0.8kgを炒め、これを、牛乳3.6kg及びスープストックでのばし、トマトピューレ4kg、香辛料0.006kgを加えて煮込んだ後、適量の乳酸発酵物(すり身、上清液又は凍結乾燥物)を加え裏漉した。これに生クリーム1.2kgを良く混和し、味を調整して仕上げを行った。
【0077】
実施例7:乳酸発酵物を含むドレッシングの製造例
ここではフレンチドレッシングの製造例について説明する。
原料(でん粉10%、砂糖3%、適量の食酢(所望の酸味が得られるよう、乳酸発酵物の添加量に合わせて調整する)、水25%、適量の乳化剤、及び適量の乳酸発酵物(上清液又は凍結乾燥粉末))をスラリータンクに入れ十分に混合し熱交換器に送り、でん粉の糊化を行った。なお、この工程は、同時に殺菌工程も兼ねている。ここでさらに食酢10%、卵黄5%、調味香辛料10%、植物油12%、サラダ油10%を十分混合した。この工程で乳化の為にプレミックスを行った。ついで乳化機で十分乳化することにより、ドレッシングを得た。
【0078】
実施例8:乳酸発酵物を含むマヨネーズの製造例
原料の卵黄8kg、食塩1kg、砂糖1.5kg、適量の食酢(所望の酸味が得られるよう、乳酸発酵物の添加量に合わせて調整する)、香辛料2kg、及び適量の乳酸発酵物(上清液又は凍結乾燥粉末)をミキサーに投入した。混合物を撹拌しつつサラダ油80kgを入れ簡単な乳化を行った後、コロイドミルを通して仕上げの乳化を行った。ミキサーでの撹拌は常圧下、真空下、不活性ガス中のいずれかの条件下で、15〜20℃で行った。このようにしてマヨネーズを得た。
【0079】
実施例1に記載の方法により調製された乳酸発酵物を含む健康食品の製造例を、以下の実施例9〜11に示す。
【0080】
実施例9:乳酸発酵物を含む錠剤の製造例
下記組成により、常法にしたがって1錠あたり200mgの錠剤を得た。
乳酸発酵物凍結乾燥粉末 10mg
コーンスターチ 140mg
カルボキシメチルセルロース 40mg
ポリビニルピロリドン 5mg
ステアリン酸マグネシウム 5mg
合計 200mg
【0081】
実施例10:乳酸発酵物を含む顆粒剤の製造例
下記組成により、常法に従って1包あたり1000mgの顆粒剤を得た。
乳酸発酵物凍結乾燥粉末 100mg
水溶性食物繊維 500mg
乳糖 400mg
合計 1000mg
【0082】
実施例11:乳酸発酵物を含む飲料の製造例
下記組成により、常法に従って1瓶あたり30mLの飲料を製造した。
乳酸発酵物凍結乾燥粉末 300mg
クエン酸 160mg
ビタミンC 4mg
ブドウ糖果糖液糖 3000mg
蒸留水 適量
合計 30mL
【0083】
実施例12:ラット肝臓中のトリグリセライド(中性脂肪)及びコレステロール値に及ぼす乳酸発酵物の効果の検討
(1)乳酸発酵凍結乾燥粉末の調製
ホッケすり身100kg以上を、中心温度が95℃に到達後15分間、湯浴中にて加熱殺菌し、チョッパー処理(チョッパー目1.8mm)を行った。チョッパー処理したすり身100kgを発酵用ニーダーに仕込み、水を100kg加え2倍重量とした。ニーダー投入口をアルミ製の蓋及びパウチにて密閉し、攪拌を行いながら、中心温度が95℃に到達後、15分間加熱殺菌工程を行った。冷却後、グルコース1kg及びラクトース1kgを含む、加熱殺菌済の糖溶液10kgを添加し、更に、実施例1の(2)に記載の方法を用いて調製した乳酸菌スターター(ラクトバチルス・ヘルベティクス使用)2kgを添加し、攪拌しながら37℃で48時間培養した。培養後、中心温度が95℃に到達後15分過熱殺菌を行い、凍結乾燥処理を行い、乾燥粉体約26kgを得た。
【0084】
(2)対照(コントロール)サンプル作成
乳酸菌スターターの代りに糖溶液及び乳酸菌を含まないスキムミルク培地を添加し、培養を行わない以外は上記(1)と同様の条件でホッケすり身を処理し、対照サンプルを作製した。
【0085】
(3)混餌飼料作成
実験用動物飼料CE−2(日本クレア)に、コレステロールを1.5%、コール酸ナトリウムを0.5%、及び上記(1)に記載の方法を用いて調製した乳酸発酵凍結乾燥粉末を20%配合添加し、魚肉乳酸発酵物を含む特殊高コレステロール飼料(魚肉乳酸発酵物混餌飼料)とした。また、コレステロール、コール酸ナトリウムを同等に配合し、上記(2)にて記載した方法で作成した対照サンプルを20%配合添加し、対照用特殊高コレステロール飼料(対照用混餌飼料)とした。
【0086】
(4)ラット試験詳細
(イ)実験概要
上記(1)及び(2)記載の方法で調製したサンプルを20%含有するよう高コレステロール食をそれぞれ作成し、SD系雄ラットへ8週間自由摂取させた。試験飼育期間終了後、肝臓を採取し、全重量を測定すると共に、総コレステロール値、トリグリセライド値、HDLコレステロール値、グルコース値を、富士ドライケムスライドキットを用いて測定した。
魚肉乳酸発酵物を含む飼料を摂取させた群において、総コレステロール値、トリグリセライド値、及びグルコース値の低下が確認された。
【0087】
(ロ)動物及び餌について
5週齢のSD系ラット(平均体重134.0g、SD=3.66)へ、実験動物用飼料CE−2(日本クレア)を7日間与え、馴化及び検疫を行った後、体重によって10例ずつ2群に群分けした。群分け後は、上記(3)に記載の方法で作成した飼料を56日間それぞれ自由摂取させた。なお、試験飼育中は1週間に2回、体重及び摂取量を測定した。
【0088】
(ハ)剖検及び各臓器採取について
56日間の飼育終了後、57日目に剖検及び肝臓採取を行った。採取した肝臓について、目視にて脂肪肝の状態を観察し、採取後全重量を測定し、生理食塩水中にて−60℃以下で保存した。コントロールと比較し、魚肉乳酸発酵物混合飼料摂取群において肝臓での黄色化は抑制された。
【0089】
(ニ)肝臓中の総コレステロール値、トリグリセライド値、グルコース値
上記(ハ)に記載の方法により得られた肝臓から肝臓片1gを量り取り、氷冷した生理食塩水19mLを加え、よくホモゲナイズした後、遠心チューブへ移した。室温で、3000rpm、10分間遠心分離を行い、上清を回収した。回収した上清を、富士ドライケムスライドの各種キットに供し、総コレステロール値、トリグリセライド値、グルコース値を得た。結果を表13に示す。
【0090】
【表13】

【0091】
対照用混餌飼料接種群と比較して、魚肉乳酸発酵物混餌飼料接種群において、総コレステロール値及びトリグリセライド(中性脂肪)値の低下が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物性タンパク質を、ストレプトコッカス属、エンテロコッカス属、ロイコノストック属、ラクトコッカス属、ラクトバチルス属、及びペディオコッカス属のいずれかに属する乳酸菌群から選択される少なくとも1種類の乳酸菌を用いて乳酸発酵させることにより得られ、肝臓中の脂質量を低下させる活性を有することを特徴とする動物性タンパク質の乳酸発酵物。
【請求項2】
動物性タンパク質を、ストレプトコッカス属、エンテロコッカス属、ロイコノストック属、ラクトコッカス属、ラクトバチルス属、及びペディオコッカス属のいずれかに属する乳酸菌群から選択される少なくとも1種類の乳酸菌を用いて乳酸発酵させることにより得られ、前記乳酸菌の菌体を含まない状態で胆汁酸結合能を有することを特徴とする動物性タンパク質の乳酸発酵物。
【請求項3】
請求項2記載の動物性タンパク質の乳酸発酵物において、前記乳酸菌が、ラクトバチルス属に属する乳酸菌を含むことを特徴とする動物性タンパク質の発酵生成物。
【請求項4】
請求項2及び3のいずれか1項に記載の動物性タンパク質の乳酸発酵物において、前記動物性タンパク質が魚肉又は畜肉であることを特徴とする動物性タンパク質の乳酸発酵物。
【請求項5】
ストレプトコッカス属、エンテロコッカス属、ロイコノストック属、ラクトコッカス属、ラクトバチルス属、及びペディオコッカス属のいずれかに属する乳酸菌群から選択される少なくとも1種類の乳酸菌を用いて動物性タンパク質を発酵させる発酵工程を有することを特徴とする動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法において、前記乳酸菌がラクトバチルス属に属する乳酸菌を含むことを特徴とする動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法。
【請求項7】
請求項5及び6のいずれか1項に記載の動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法において、前記動物性タンパク質が魚肉又は畜肉であることを特徴とする動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか1項に記載の動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法において、前記発酵工程を行う前に、前記動物性タンパク質を70〜120℃で加熱殺菌する加熱殺菌工程を行うことを特徴とする動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項に記載の動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法において、前記乳酸菌がバクテリオシン産生菌を含むことを特徴とする動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれか1項に記載の動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法において、前記発酵工程を行う前に、前記動物性タンパク質をタンパク分解酵素により処理する酵素処理工程を行うことを特徴とする動物性タンパク質の乳酸発酵物の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の動物性タンパク質の乳酸発酵物を含む食品。
【請求項12】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の動物性タンパク質の乳酸発酵物を含む健康食品。

【公開番号】特開2008−178398(P2008−178398A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332280(P2007−332280)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000251130)林兼産業株式会社 (16)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】