説明

動物生産物を追跡するためのシステム

【解決すべき課題】
動物及び動物生産物を個体識別するための遺伝子検査システムを発見すること。
【解決手段】
本発明は、動物及び食品の完全な追跡可能性を保証する遺伝子検査システムに関するものであり、データ収集、記録管理及び検索目的で動物を唯一のものとして同定する方法を含む。これには個々の動物の親子関係のDNAフィンガープリントを用いて動物の出生から消費までの完全な追跡可能性を提供する新規な遺伝子分析法が含まれる。具体的には、該動物生産物の試料を採取する工程、DNAマーカーに基づくシステムを利用して該動物生産物の遺伝子型を決定して該動物生産物の遺伝子型情報を取得する工程、該動物生産物の遺伝子型情報を参照データベースと比較する工程、該遺伝子型情報を該参照データベースで分析して該生産物のおおもとのシステム若しくは農場を決定する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正確かつ費用効果の良い方法で、データの収集、記録の管理、及び検索目的のために、唯一の結果を与える動物の個体識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動物の個体識別と登録は、ここ数年関心が増加している分野である。一般的に言えば、動物の個体識別と登録には、動物の個体特性や履歴が追跡可能なように、個々の動物のライフサイクル全体にわたってのデータを収集することが必要である。このデータには、出生日と出生地、系統、性別、地理的移動、健康と治療の履歴、及び他の生産記録が含まれるが、これらに限定されない。とりわけ畜産業及び食品加工産業は、家畜管理における生産性と収益性を高めるだけでなく、食品安全性及び家畜の感染症突発の分野における危機の特定、追跡、及び管理のための戦略を開発することを目指してこの分野で大いに努力してきた。健康と安全性の検討には、食品の起源が透明であることが要求される。加えて、今や消費者は、品質保証の検査及び監視工程が有効に且つ信頼性をもって実施できるようにするため、肉製品の起源が追跡可能であることを要求しており、一部の国々はそれを要求している。紙ベースの記録若しくは追跡のシステムは、おおもとのシステム若しくは農場にまで遡って肉製品を追跡するには十分であろう。それにもかかわらず、紙は紛失する場合があり、ラベルは冷凍庫での貯蔵中に劣化する場合があり、記録ミスが起きる場合もある。この要求されたシステムには、結果が疑わしい場合、又は議論の余地がある場合には、独立した第三者がその問題の試料を再検査することができるという利点がある。しかしながら、充分な特異性をもって動物を個体識別しそして追跡するための、統一的なシステムが今のところ存在しないという重大な難題が存在する。統一の代わりに、長年かかって動物の個体識別及び登録の慣行が沢山発展してきたが、これらは家畜事業の地理的位置、及び/又は特定の動物追跡システムの製造者などの要因に依存して大きく変化する。その一例は、米国で顕著な地理的位置に基づく統一性の欠如であり、それぞれの州がその州内にある畜産場に対してその州自体の動物の個体識別計画を定めている。別の例は、屠殺工程から消費者へ届くまでの間を通して、産地からのバッチ/委託貨物に、バッチ/委託貨物番号を適用することによりバッチベース又は委託貨物ベースで肉製品の個体特定と産地を保証しようという試みで様々な方法及び方法の組み合わせが現在用いられていることである。しかしながら、これらの例は現在の方法が如何に時間がかかり煩わしいものであるか、農場、加工業者、及び政府若しくは他の機関からの情報を如何に多く必要とするかを示している。従って、この統一性の欠如は、ある特定の動物に関する情報を遡って追跡することが益々難しくなるという点で問題である。従って収集したデータの有用性は危うくなり、そのため生産性の向上や動物をそのライフサイクル全体にわたっての追跡などの産業界の目標の価値を下げてしまう。また、それは、人間への露出及び食品安全性の潜在的な問題を遡って追跡し、一方である特定の状況では人間を予防可能な健康危機にさらに曝し、次いで大量の動物の廃棄につながり得る抑制可能な動物の病気の拡大をもたらす可能性のある感染症の拡大を制限するために要する時間も増加する。危機管理は十分に機能する動物操作が既に配備されているデータ収集システム及び情報管理システムと明らかに結び付いている。
【0003】
小売段階からおおもとの農場若しくは生産システムに遡って食品を識別及び追跡する可能性は、人類の安全性の問題に取り組むためには不可欠な過程となりつつある。食品を追跡するためのシステムの重要性は、果物や野菜に含まれる残留物質、家禽類のダイオキシン及び大腸菌0157汚染、及び牛製品の牛海綿状脳症(BSE)による問題を含む、近年の多数の例により実証される。それはまた、食品の健全性を消費者に保証するため、小売業者からの要望も増加している。現在及び将来、製品の品質を証明することの必要性が高まると見られる。本発明は、当分野におけるこの積年の必要性と要望を満たすものである。
【0004】
遺伝子研究及びゲノム研究が食品生産へその影響を拡大するにつれ、恩恵が享受できるところまで連鎖を通して特定の遺伝子型を選択することの利点が得られるよう、該連鎖の完全性を維持することが必要となっている。今日では、生産者及び消費者が判断したとき肉質又は食感品質が向上している肉をもたらす、ウシ及びブタの特定の対立遺伝子を選択することが可能である。従って、これらの対立遺伝子/遺伝子が特定される可能性があり、該連鎖の構成員は結果として生じる主張が証明できるという確認を必要とすることになりそうである。現在、特定の屠殺体特性及び肉質特性を伝えるべく形式化されたプログラム若しくはパッケージの一部であると言われている遺伝的特性を明確に識別する必要性がある。
【0005】
現在では、個々の動物の出生から屠殺までを追跡し、タグ、又は網膜像のような動物識別の他の形態と結び付く紙若しくは電子式のパスポートを用いてこのような追跡可能システムを導入することが可能である。しかしながら、これらのシステムは、二つの要素(パスポートと動物)を結び付けるための技術が開発されつつあるものの、不正の対象となる可能性がある。それにもかかわらず、このような手順及び今日利用できる技術では、動物を部分肉、関節などに切り分ける場所である解体台までしか屠殺体を追跡することができない。これらの部分肉をいったん別の骨抜き台に置くと、少なくとも個々の屠殺体それぞれからの製品同一性及びパスポートは失われてしまう。これらのロット間で明確な区別を保つことは難しく誤りを免れないが、ロット若しくはバッチを未だに含むことができ、これが生産コストを大きく増やす。加えて、さらに加工するために製品を他の工場に頒布することも問題を大きくする。
【0006】
累積的で包括的及び動的なデータベース管理システムに遺伝データを発展させ、それにより健康予測性、及び動物の寿命を拡大する必要がある。この請求されたシステムには、おおもとのシステム又は農場まで肉製品を追跡するためにDNA情報を用いるという明確な利点がある。本発明では、データベースに入力される参照として、全ての予測可能な親の遺伝子型を得て、次いで子の試料をこのデータベースと比較し、それぞれの子に対して予想される親を同定することにより個々の動物を識別するための手段として、DNAマーカーを用いる方法が提示される。同様に、DNAマーカーを用いた親子分析は、(子である)屠殺体、及び肉の個々の切り身の供給源を特定の農場(親)まで同定するシステムにおいて用いることができる。本発明は、同一性に基づく既存のDNA追跡システムよりもコストが低い。これは本発明では全屠殺体動物の試料を保存する必要も、全ての屠殺体動物をDNAフィンガープリント法にかける必要もないためである。将来、畜産業でクローニングが使用されることがあれば、本発明のシステムはまた、得られたクローンがある特定のシステム/農場に固有のものであるとすれば、効果的となるであろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上で述べた理由のため、効果的で費用効率の良いDNAマーカー法により動物を追跡するシステムが必要である。本発明の方法は、個体識別及び管理を、食物連鎖を通して食物生産物を追跡できるようにする、ブタなどの動物のための独自の普遍的な個体識別システムを提供する第一工程を含む。
【0008】
従って、本発明の第一の目的は、DNAフィンガープリント法を用いる動物生産物連鎖のための完全な追跡可能性をもたらす遺伝子分析法である。これにより親試料の採取が必要となり、子グループの試料は将来使うために必要なデータベースを提供する。
【0009】
本発明の別の一目的は、血統のDNAプロフィール決定によりその動物の特性を決定する、動物の健康プロフィール決定である。
【0010】
本発明のさらなる一目的は、動物の健康評価データから健康、疾病、及び障害の可能性を予測する分析を可能にする動物の遺伝データを含む、動物の健康プロフィール決定である。
【0011】
本発明のまた別の一目的は、生産物連鎖全体に対する追跡可能性システムを可能にする、普遍的なデータベースを提供するために、動物の遺伝データを利用する方法である。
【0012】
上記の目的の各々を遂行する方法および手段は、後述の発明の詳細な説明から明らかになるであろう。本発明のさらなる目的及び利点も、一部は詳細な説明で述べられ、一部は実施例から明白となるであろう。或いは本発明を実施することにより分かるであろう。本発明の目的及び利点は、特に本発明の請求の範囲に示される、手段及び組み合わせにより、得られるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の概要
本発明は、DNAマーカー技術により、おおもとのシステム若しくは農場までの動物生産物連鎖に対する完全な追跡可能性を費用効率よく提供する目的で利用される親子関係システムを使用して肉製品を追跡することができる、動物を個体識別するための方法及びシステムを開示する。このシステムは、個々の動物の親子関係を特定し、屠殺体及び肉の個々の切り身の出所、及び選択された動物についての正確なおおもとのシステム若しくは農場を特定するための手段として用いられるDNAマーカーを必要とする。親試料の収集、子グループ、祖父母試料の収集、連鎖内の様々な制御ポイントにおける統計に基づく試料採取、及びチェーン全体にわたって起源を遺伝的及び試料の部位の両方について実証するためのDNA確認システムが、本発明を有効に実施及び確認するために必要とされる。遺伝子型情報が入力され、次いで、それはファイルアップロードやデータベースリンクなど、当業者らに良く知られている手段によりアップロードされるであろう。次に、遺伝子型情報及び試料採取情報がデータベースから抽出され、実施例に記載するデータ分析ソフトウェアで処理する。親子関係分析については、これは当業者らに知られている市販のプログラムを用いて行うことができる。このシステムは、ウェブベースの結果報告と個体識別を用いるなどの情報管理技術との統合により、さらに増強することができる。
【0014】
こうした慎重な識別が明確なコンポーネントを利用するこのシステムを創出することにより、本発明は動物生産物のための費用効率の良い同一性の保存を提供する。このシステムは、生産物連鎖全体における使いやすさ及び実施コストの点で、既存システムを上回る特有の利点がある。さらに、本システムは該連鎖の各ポイントでの要求に沿うように作り変えることが可能であり、それにより不正に対するシステムの堅牢性が増強される。これらの要因は有用性を高め、該連鎖に関与する人々が求める導入及び実施を保証する際に重要である。本発明のさらなる側面、特徴、及び利点は、開示の目的で記す下記の本発明の現時点での好ましい実施態様の説明から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、DNA技術の正確性を利用して、おおもとのシステム若しくは農場にまで遡って生産物単位などの個々の動物や動物群まで追跡可能なシステムを教示する。本システムにより、保険専門家、生産者、加工業者、及び小売業者が、病気や障害の存在及び発生率を推定し、望ましい遺伝形質を特定し、そして精密な統一システムを精緻化する目的で、特定の動物とその子についての情報を得ることが可能になる。
【0016】
生体は、そのDNAにそれぞれ異なる独自のフィンガープリントを表す。従ってDNAは、出生から消費までの追跡可能性を維持できる可能性を提供する。しかしながら実用的な観点からは、この目的でのDNA技術の現在の使用は、同一性試験に基づくものであるため、徹底的な管理と比較的高い費用を要する大変な作業である。同一性に基づくシステムはアイルランドのアイデンティゲン(IdentiGen)やニュージーランドのイージートレース(Easi−trace)などのように牛肉やラム用に開発されてはいるが、これらは正確にはブタには適用できない。試料収集、遺伝子型の特定、データ分析、費用対屠殺体の価値、及び類型に分ける必要があるであろう動物の純粋な数が、イヌ、ウシ、ネコ、ウマ、及びヒツジなどの種にこの技術を適用する妨げとなっていた。
【0017】
本発明の方法は、収集したデータに素早く簡単にアクセスできるDNA技術を用いて、統一的で一貫した方法で動物を唯一の結果を与える個体識別能力、及び従って肉生産物をおおもとのシステム若しくは農場にまで遡って追跡する能力を提供する。この請求された追跡可能性システムは、おおもとの管理システム若しくは農場の外から動物を個体識別するために10個から100個の間のミクロサテライトマーカーを使用して作り上げることができるが、20個から50個の間のミクロサテライトマーカーを使用することが好ましい。従って本発明は、疾病を遡って追跡するのに必要な時間を最小限にし、それにより病気でない動物が感染する危険性を減少させ、人への関連のある健康上の危機を減少させる。本発明の方法には、家畜業者が採用した特定の動物追跡システムの製造者とは無関係に、動物を識別できる能力を提供するという利点もある。本発明は、データベースと試料記憶のシステムを利用することになる。このシステムはまとめて、容易に入手できる分析用ソフトウェアを用いた容易に使用できるフォーマットの形で使用することができる。さらに本発明は、既に利用されている同一性に基づくDNAシステムよりも費用がかからない。これは本発明では全ての屠殺したブタの試料を保存しておく必要がなく、全動物のDNAフィンガープリントを採る必要もないからである。これは、請求されたこのシステムが親子関係に基づくものであり、そのため屠殺後の肉試料のみを用いて実施できるという事実によるものである。本発明の別の特有の利点は、システム若しくは農場における遺伝的に異なる雄親の有効数が有意に減少し、それによりマーカーの数を減らすことができ、従ってこの請求された追跡可能性システムは費用を大きく削減するであろうという事実である。これにより、家畜の生産者(単数又は複数)及び食品加工業者らが、より簡単にそのライフサイクルを通じて個々の動物についてのデータを収集及び追跡することが可能になり、生産性の増加を、作業者、消費者、及び動物の全般的健康及び健康状態を保護する。
【0018】
本発明は、食物生産物の原料となる動物を個体識別する方法である。この方法は、動物組織の試料を採取する工程、その試料から遺伝物質を抽出する工程、抽出した遺伝子物質について遺伝分析を行いそして分子的遺伝子分析の結果をコード化する工程、その試料情報及び遺伝子分析をコード化したものをデータベースに入力する工程、及び動物の分子的遺伝子分析を識別するために該試料情報を検索できるようにする工程を含む。本発明は、親子関係試料、子の参照試料、及び多数のDNAマーカーを迅速且つ同時に分析することを可能にする他の形状の核酸配列分析を用いたDNAマーカー分析の改良された方法を開示する。請求された本システムは、それが父系に基づいているという点で独特である。当業界では雌親よりもずっと少ない数の雄親を使用するので、これは費用効率が極めて良いシステムとなる。1群の雄親がシステム若しくは農場内で専ら使用されるとすれば、例えば、このシステム若しくは農場から出た屠殺されたブタから採れた肉は、効率的にこのシステム若しくは農場まで遡って追跡することができる。それでもなお、請求されたこの発明は、雄ブタを他のシステム若しくは農場と共用(AI(人工授精)による)したシステム若しくは農場にも同様に適用できる。この場合、このシステムは母系に基づくことになろう。このような状況では、参照セットの試験(フィンガープリント法)の量を増やす必要があるであろう。何故なら、この参照セットにはシステム若しくは農場にいる全ての母獣(雄親とは対照的に)が含まれるからである。そのため全体の費用はいくらか増加するであろう。しかし請求されたこの発明は、肉若しくは肉生産物をそのおおもとのシステム若しくは農場まで明白に追跡する能力を向上させることができるであろう。このシステムで予想される高度な情報量は、多様な遺伝分析を容易にし、正当化されるならば部分的な追跡可能性などの、別の追跡可能性の選択肢を提供する改良されたより統一的な追跡可能性システムを可能とするであろう。本発明は、異なる生体試料から抽出された核酸を取得するための改良法をも提供する。個体の同一性は「DNAタイピング」により評価し、次いで特定の個体に結び付く遺伝子を同定し、染色体上の特定の部位に位置づけする。DNAフィンガープリント法のこのプロセスでは、ある一つの種の異なる個体間におけるDNA配列の変化(DNA配列多型性)は、異なる個体から調製したDNA断片と数百〜数千個のオリゴヌクレオチドプローブとの結合の定量的な結合パターンにおける差異によって明らかになる。
【0019】
本発明のシステムは生産物連鎖の要求に基づいて構成されるが、基本的な単位は個々の農場などといった生産単位である。システムに供給するために雌の動物(母獣)を選別し、DNA試料を採取して、参照試料だけでなく個体識別記録(IDタグ番号など)も備えた個体パスポートの一部として蓄積する。当業者らは、このパスポートと動物を結び付けるのに電子トランスポンダーや網膜スキャンシステム、虹彩スキャンシステムを含む様々な方法が使用できることを認めるであろう。次に、これらの母獣と交尾させるために雄の動物(雄親)を選別する。これらの雄の動物は、通常は当該システム若しくは関連システムの中だけで使用するために選別されることになる。母獣と同様に、参照用に雄親の試料を採取する。必要な識別力を備えた何らかのDNAマーカーに基づくシステムを用いて、これらの親動物に対するDNAプロフィールを作成する。一例では、雄親を単一の生産システム内でのみ使用するために隔離し、母獣は決まった農場にだけいるか、又は決まった時間にのみ特定の農場にいるという運用に依存することが必要であるかもしれない。マーカーは多型性であり、それにより個々の異なる個体に識別可能で追跡可能な独自性を与える。このようなマーカーは、ミクロサテライト、単一ヌクレオチド多型(SNP)、AFLPマーカー、又はゲノムDNA配列の一部若しくは全部の欠失又は挿入から選択することができる。マーカーの種類は特に重要ではないが、これらのマーカーは最も効率的なシステムが得られるように選択されるであろう。例えば、多型性が高いミクロサテライトマーカーを使用することにより、父母の試料も入手できれば、動物の親子関係を容易に証明することができる。ある状況では、特異的なSNPマーカーで極めて効率的な第一段階識別を行うことができる。例えば、あるブタ生産者は肉質特性が一部の市場で好まれるので、デュロックの雄親を使いたがるかもしれない。デュロックブタのMC1R遺伝子には、この血統に特徴的な特有の多型があるので、このシステムから出荷されたブタはデュロック対立遺伝子を少なくとも一つ含んでいなければならない。このデュロック対立遺伝子が陰性である試料は全て、このシステムから排除することができる。このアプローチは、米国である生産者らがハロセン(Halothane)遺伝子が存在しないことを特定する場合のように、特定された他の遺伝子の対立遺伝子に適用できる。このようなシステムでは、ハロセン遺伝子を保有するあらゆるブタを排除することができる。これは本発明の重要な特徴である。なぜならこの個体の特定の遺伝子型がシステム要求との整合性を実証するために利用され、その動物から得られる将来の製品(肉)がこの特異的な遺伝子型に基づいて評価される可能性があるからである。マーカーを同定するためにどんな技術が必要なのか、及び、本発明がこのような例示的な実施態様や機作に制限されることを意図するものではなく、添付の請求項で定義する本発明の範囲又は精神を逸脱することなく変更の余地があることは、当業者らに明らかであろう。
【0020】
本発明の追跡可能性システムには、他の重要な利点もある。例えば、このシステム若しくは農場で遺伝的欠陥をもって生まれたどんなブタの雄親も、すぐに追跡することができる。これらの雄ブタ(正当化されれば母獣も)の選択除去は、システム若しくは農場で先天的な欠陥の発生率を減少させるという利点をもたらす。次のものは、これまで知られていなかった遺伝的心臓欠陥を有するAI雄ブタを同定するために、DNAフィンガープリント法ツールをここに請求されたように使用した典型的一例である。ある特定の種畜から得た精液を用いた農場で、「フットボール」ブタとして知られる状態にある仔ブタが注目された。しかしこの種畜は、商用のAI投与量を得るために複数の雄親からの精液を用いたため、原因となる雄ブタが一頭なのか複数頭なのか、これが感染症なのか、又は環境中の何物かにより生じたものなのか、誰も特定することができなかった。親子関係と追跡可能性ツールに基づくシステムを用いたここに請求された発明は、ある一頭の雄ブタがその発症していたブタの種親であったことを明らかにした。
【0021】
ここに請求されたシステムの利点のもう一つの例は、システム若しくは農場で種親の繁殖能力を監視できることである。これは例えば、屠殺後にブタの試料採取及びフィンガープリント法を行い、次に所定の雄ブタが種親となった子の実際の比率と、このシステム若しくは農場で使用されたAI用量へのこの雄ブタの既知の貢献度に基づいて予測されるこのブタが種親となったであろう子の推定比率とを比較することにより達成できる。これにより、これまで診断できなかった繁殖力が劣る雄ブタ若しくは繁殖できない雄ブタの、特定及び選択除去が可能になる。これにより、該システム若しくは農場の全体的繁殖力を向上させるという明確な利点も得られる。現在では、種畜である雄ブタは、精子の濃度、運動性、及び形態の点からその精液の質を監視される。AI用量とするために他の雄豚の精液と混合してしまうと、その豚の繁殖能力を確認できない。雄の哺乳動物の精子の濃度、運動性及び形態が正常であるように見えるがその雄の繁殖力は乏しい(例えば、精子/卵子認識に関わる遺伝子における相互転座、突然変異)という状態が多く知られている。
【0022】
ここに請求された追跡可能性システムには、父系や母系を利用するものとは異なって、祖父母及び曾祖父母に基づくシステムを編み出す独自の能力もある。これは、データベース内で必要な参照動物のフィンガープリント数を大幅に削減し、コストの削減にもつながるという別の利点をも可能にする。このアプローチでは、個体は各遺伝子座でその曾祖父母と対立遺伝子を共有する必要がないため、異なるアプローチが必要となる。従って、候補となっている祖父母を排除することは、遺伝子座に合致する対立遺伝子が存在しない場合には候補となる親を排除できないのと同様に、不可能である。ここに請求された発明は、父系の祖父母又は母系の祖父母のペアを採取した場合に、排除のアプローチを採ることを可能にする。個体は、父系側の2頭の祖父母にある四つの対立遺伝子の組と共通の対立遺伝子を少なくとも一つ、及び母系側の2頭の祖父母にある四つの対立遺伝子の組と共通の対立遺伝子を一つ、持たねばならない。排除の可能性は、親/子の場合と同様に計算される。例えば、二つの対立遺伝子マーカーについては、次の結果が得られるであろう。
【0023】


1111の祖父母と22の孫、又は2222の祖父母と11の孫の組み合わせのみが、この二つの祖父母のこの組み合わせを排除するであろう。無関係な個体に対する排除の可能性(頻度が等しい二つの対立遺伝子をもつマーカーを使用)は次のとおりである。
【0024】
2×(頻度1)4×(頻度2)2=2×.5×.5×.5×.5×.5×.5=2×0.0625×.25
=0.01325
1111対立遺伝子を有する番いである2頭の祖父母はそれぞれ、依然として別の1頭の祖父母候補と共に真の祖父母である可能性があり、従って、祖父雄雄+祖母母獣の全ての可能な組み合わせを試験することが必要である。
【0025】
祖父母又は曾祖父母を、1頭ずつ個体に割り当てるための他の選択肢があった。最近の出版物で、ミリガン(2003)はマーカー遺伝子型のみに基づいて任意の2頭の個体間の関係を推定する尤度推定器を開発し、他の方法を再考した。ミリガン,ブルックG.,「関連性の最尤度推定」(Maximum-Likelihood Estimation of Relatedness), Genetics;
163, 1153-1167 (2003)。この尤度法は、曾祖父母とその曾孫と同程度の血縁関係である従兄弟程度に遠い血縁関係では有効であり、無関係な個体間ですら有効であった。ここに請求された追跡可能性システムでは、ある個体がどの世代に属するのかが分かる。これは、0.25の血縁関係、例えば半兄弟姉妹(halfsibs)、にある個体の対に対して極めて有益である。本発明では試料採取された個体がどの世代に属するのかを追跡し続けることが可能となり、従って半兄弟姉妹と祖父母を区別する必要がない。それでもなお、0.25(真の祖父母)と0.125(真の祖父母にとっての完全な兄弟姉妹)を区別する必要があり、これを行うために必要なマーカー数は30個以上程度まで増加するが、入手は容易である。さらに、参照遺伝子型の数を減らすことが必要である。これは全体的に費用が少なくてすむシステムをもたらす。祖父母分析については、この分析は、上で親子分析について述べたのと同様なコンピュータプラグラムを用いて実施することができる。このようなシステムを考案できることが、ここに請求された発明に特有のまた別の実施態様である。
【0026】
ここに請求された発明のシステムでは、試料は子からも採取するが、その場合にはそれらの試料を分類する必要はない。そうではなく、これらのサンプルは、問題に遭遇した場合又は検証の水準を高める必要がある場合のために試料として蓄積される。状況によっては、これらの試料を個別にコード化する必要すらなく、その代わりにブタの同腹仔、豚舎(building)、生まれた日、週、月などといった出生の区分で分類することができる。これは、全ての個体を分類する必要があるこれまでの製品を上回る、本発明の重要かつ独特の利点である。
【0027】
例えば、製品の異物汚染やそのような他の問題の結果などにより、個々の肉片や小売包装をシステムまで遡って追跡する必要がある場合、これを2段階システムの一部として効率的に行うことができる。包装や販売文書から得られるロットやシステムに関する情報を生体試料と組み合わせて分析用のDNAを提供し、それを参照研究所に送る。ここでDNAプロフィールが決定され、それは該システムへの合致が存在するかどうかを判定するため、親試料と照合される。これは、親子テストのここに請求された形態を表している。これは、該動物の出生日及び/又は生産日を基に、さらに精緻化できることに注意すべきである。もし該システムに合致するものがあれば、ブタについての同腹仔など可能性のある群の同定につながることになる。一度これを行えば、全部の屠殺体を個別に分類するよりもずっと効率的かつ費用効率の良いやり方で、より正確な照合を個体レベルで行うことができる。本発明では、試料は個体に対して特定の同一性について検索する。同一でない個体について適合性が得られる確率は、このアプローチを用いることにより無限に小さくなる。
【0028】
本システムは、ウェブによる結果報告や同定を用いるなどの情報管理技術との統合により、さらに向上させることができる。試料情報はファイルアップロードやウェブインターフェース、又は当業界で知られている他の手段を介して入力できる。試料情報には、試料採取日、動物の所在(例えば、農場番号、畜舎)、動物の状態(例えば、親、屠殺ブタ)、試料出荷情報、及び試料保管情報を含むが、これらに限定されない。遺伝子型情報を入力し、次いでファイルアップロードやデータベースリンクなど、当業者らによく知られている手段でアップロードする。次に、遺伝子型と試料採取情報をデータベースから抽出し、実施例に記すデータ分析ソフトウェアで処理する。親子分析については、これは当業者らに知られている市販のプログラムを用いて実施できる。祖父母分析については、これは上述のものと同様のコンピュータプログラムにより実施できる。
【0029】
このシステムを使用することにより、単に個体の個性を使用するだけでは不可能な、完全な食物連鎖の追跡可能性への費用効率の良いアプローチを得ることができることが分かる。本発明のシステムでは、ウシと比べた場合のブタなどのように大量に収穫され屠殺価値が比較的低い種に向けた効率的なシステムを供給できるよう、高水準の組織だけでなく、特定の動物遺伝子型(選択された親)や異なるDNAマーカーシステムとデータ管理技術及び転送技術とを組み合わせる能力が必要とされる。このシステムは独特であり、本明細書に記載する本発明は、生産物連鎖における動物製品、とりわけ高品質な肉製品の追跡可能性についての大きな進歩を表している。加えて、ウシなどの価値が高く量が少ない動物製品にも、潜在的な優位性が適用されることが分かる。
【0030】
本発明は、ここに請求された発明を実施する者が得るいくつかの利点を教示する。これには、現在及び将来の規制要件、産業のイメージの改良、食の安全性を保証し、特定の遺伝子型による食品の品質などの製品要求(product claim)を実証することによる産業の透明性を介しての信頼性、食品供給源の安全性の記述、例えば有機農法であるとか福祉に優しいなどといった農場システムに対する要求の実証、及び品質と価値がより高いことを示す、又は規格に適合していることを示す特定の遺伝子の存在(遺伝マーカーで証明されるような)による製品価値の向上を満たす、より高い能力が含まれる。
【0031】
結論として、本発明は個々の動物を出生から消費まで追跡するためのシステムを開示する。さらに、本発明は、遺伝子やゲノムの高度な調査データの使用、及び人間の食の安全性に関する問題の改善を可能にする正確で費用効率の良い方法による、このような目的の遂行を教示する。
【0032】
定義
本出願の目的のため、次の用語の定義を本明細書に列挙する。単位、指数、及び記号はSIで容認されている形式で記述されていることがある。特に断らない限り、核酸は左から右へ、5’から3’の方向に、アミノ酸配列は左から右へ、アミノからカルボキシの方向にそれぞれ書く。数の範囲は、その範囲を定義する数を含み、定義された範囲内の各整数を含む。アミノ酸は、本明細書では一般に知られている3文字記号、又はIUPAC−IUMの生化学命名委員会で推奨されている1文字記号のいずれかで表す。同様に、ヌクレオチドは一般的に容認されている一文字の記号で表してよい。本明細書で用いるとき、ソフトウェア、電気及び電子に関する用語は、特に断らない限り、ニュー IEEE スタンダード ディクショナリー オブ エレクトリカル アンド エレクトロニクス ターム(第5版,1993)で定義されているように用いる。以下に定義する用語は、明細書を全体として参照することにより、さらに完全に定義される。
【0033】
本明細書で用いるとき、「動物」は、人間が消費又は動物が消費するためにその肉が市販される全ての種である。動物種には、ウシ、魚、ヤギ、ヒツジ、ブタ、家禽、貝類、及びエビが含まれるが、これらに限定されない。
【0034】
本明細書で用いるとき、「基本単位」は、母獣及び/又は雄親が決まった農場に配属される、又は決まった時間にある特定の農場に配属される、個々の農場などといった生産単位である。
【0035】
本明細書で用いるとき、「マーカー」は染色体上の唯一の位置を特定するのに役立つ染色体上の遺伝子座への言及を含む。「多型性マーカー」は、形が異なるマーカーが相同的な対となっている場合に、その対の各染色体のそれぞれの伝達が連続することが可能なように、複数の形状(対立遺伝子)で現れるマーカーへの言及を含む。遺伝子型は一つ又は複数のマーカーの使用により定義されうる。
【0036】
本明細書で用いるとき、「核酸」は、一本鎖又は二本鎖のいずれかの形状のデオキシリボヌクレオチド高分子、又はリボヌクレオチド高分子への言及を含み、特に断らない限り、それらが自然発生するヌクレオチド(例えば、ペプチド核酸)と同様に一本鎖核酸とハイブリダイズするという点で、天然ヌクレオチドの必須要素を有する既知の類似体を包含する。
【実施例】
【0037】
緒論
追跡可能性スキームに向けた試験プロジェクトは、共通の雄豚群(boar stud)(BS1)の精液を利用する二つの繁殖単位(sow unit)(SU1とSU2)を中心に設計した。このBS1雄豚群は、約25頭のPIC系統の337の雄親を収容する。SU1とSU2は共に、PIC・C22の親雌を利用する600繁殖単位(一週あたり25頭の一腹仔を繁殖)である。どちらの農場も良好な農場生産記録を維持している。
【0038】
組織試料は、無関係な生産システム(システムII)を起源とする無関係なPIC337×C22の屠殺ブタからも採取した。これらの試料は上述のシステムを起源とするブタに対する負の対照として利用した。
【0039】
個々の動物の親子関係を特定するための手段として、DNAマーカーを提案する。加えて、DNAマーカーによる親子分析は、屠殺体及び個々の肉片の出所を特定の農場まで同定するシステムとして評価すべきであった。
【0040】
材料
試料
農場での試料採取を行い、試料採取時にBS1に居た雄ブタ21頭からと、SU1及びSU2の二つの各繁殖単位のそれぞれにつき同腹仔13頭の仔ブタ(それぞれ4頭)とその母ブタから、DNA試料を採取した。システムIIからは、テストシステムとは無関係なブタについて、50個のDNA試料が得られた。
【0041】
屠殺場では、SU1とSU2により供給されたことが特定された屠殺体から試料を採取した。各農場からの屠殺体50体から皮膚及びロインの試料を採取し、そして各農場につきハムの試料を15個採取した。両方の農場では、試料を採取した屠殺体の親であると推定された雌ブタもさらに試料採取した。
【表1】

【0042】
マーカー
PE・AgGenが公表したブタの親子分析用マーカー9個のセットを、マーカー12個のセットに対する基準として用いた。マーカー12個というのが、ABI・genotyper(4色×3マーカーのサイズ範囲)上で一度で処理できる現在の上限である。PE・AgGenセット内のマーカー2個は使用しなかった。SW2160はそのサイズ範囲内では5番目のマーカーであり、SW840はそのセット内の別のマーカーに連結する。ヨーロピアン・バイオダイバーシティ・プロジェクト( HYPERLINK "http://databases.roslin.ac.uk/pigbiodiv" http://databases.roslin.ac.uk/pigbiodiv)で使用されたMSマーカーから5個のマーカーをAgGenセットに加えた。これらの追加した3個のマーカーには3個の判定基準を用いた。第一に、これらは12個のマーカーセットに既に存在するどのマーカーとも連結してはならなかった。第二の基準は、多型性がPIC系統の9個の平均で有益であったということである。第三に、これらのサイズ範囲が残りの位置(同一範囲で最大4)の一つに適合する必要があった。
【0043】
最終的なマーカーセットは次のとおりである。
【表2】

【0044】
表2に示すように、各色に付き正確に3個のマーカーがあるわけではない。これは、これらのマーカーの一つが既に青色染色(Fam)で利用でき、他の3個のマーカーとはこの色では重複しなかったためである。染色体2と4にはそれぞれ2個のマーカーがその上にあるが、これらは少なくとも65cMは離れており、従って本質的に連結されていない。
【0045】
ソフトウェア
遺伝子形分析は、各マーカーの対立遺伝子サイズを呼び出すため、ABIマシンに付属のGenotyper(登録商標)ソフトウェアを用いて行っても良い。このソフトウェアは、完全に自動で動くように構築されているが、この時点ではその結果を手動でチェックすることが必要である。Genotyper(登録商標)の結果出力は、対立遺伝子サイズを2デシマル(decimals)まで塩基対単位で出力するであろう。
【0046】
親子分析: ロックフェラー大学のリンケージソフトウェアのリストで、親子分析ソフトを探した。次のアプリケーションが見つかり、本発明で利用しうる。SALP、Borel、Cervus、Newpat/identity、Kinship)。PC上で動作するときは好ましくはCervusを使用するべきであり、必要であればサポートも受けられる。Cervusでは欠損している遺伝子形、遺伝子型エラーを容易に処理することができ、従って実データを効果的に処理する。データ分析に加え、Cervusには特定の集団パラメータに向けた、ある種のマーカーセットの能力を予測できるシミュレーションツールがいくつか付いている。
【0047】
対立遺伝子貯蔵所(allele bins): SASアプリケーションは、Genotyper(登録商標)の出力結果から、対立遺伝子それぞれで観察された範囲に基づいて、対立遺伝子スコアを整数の対立遺伝子番号へ再コード化するために書かれたものである。あらかじめ定義した範囲外の結果、又は他の使用できない遺伝子型呼び出しは、さらに調査するためにリストに出力する。SASアプリケーションは、使用できる遺伝子型を全て、Cervus入力ファイル及び/又はユーザーにとって理解しやすい出力ファイルに書き出す。
【0048】
遺伝子型の格納: これは、今のところExcelのマスターファイルで行われる。現在では、遺伝子型結果の格納にAccessデータベースを利用することができる。将来的には、このAccessのプロトタイプをOracleデータベースに組み込むことができる。遺伝子型格納のためのこのデータベースは、極めて単純なものになるであろう。必要であれば、試料格納情報などの付加的な項目を付け足すことができる。
【0049】
結果
遺伝子型決定
遺伝子型決定は、表2の12個のマーカーに対し、表1の612個の試料全てについて行った。このうち、S0097という一つのマーカーのPCR増幅及び/又は遺伝子型決定で、Genotyper(登録商標)ソフトウェアでも人手を介しても対立遺伝子サイズを呼出せなくなるという技術的な問題が起きた。
【0050】
303個の試料に対する遺伝子型決定の結果を用いて対立遺伝子貯蔵所の範囲を定義した。これらの遺伝子型に由来する606個の対立遺伝子をサイズ別に仕訳し(Genotyper(登録商標)出力から)、図1に示すように、SW2623とS0301についてプロットした。
【0051】
SW2623で観察された貯蔵所範囲は、異なる範囲間における二つの塩基対の差で容易に解釈できる。各範囲の始点と終点を.10塩基対ずつ伸張させ、次いで対立遺伝子を貯蔵するSASアプリケーションにおける切断ポイントとして使用した。
【0052】
このマーカーにまつわる問題を説明するため、ここでS0301を含める。対立遺伝子サイズ249と255の間では、一塩基対間隔での観察がある。これは他の少数のマーカーについても同様に観察され、この場合、一塩基対内での二つの観察が現実に同一の対立遺伝子であり同一の範囲で貯蔵され得るであろうことが分かった。例えば、TNFBではGenotyper(登録商標)の161又は162の呼び出しは常に162対立遺伝子に再コードすることができる。これは161がこのシステムで稀に起こる単なる「誤り」だからである。S0301については、Genotyper(登録商標)が249を呼び出して終わる場合いくつかあり(真の249対立遺伝子、レッテルが間違っている250対立遺伝子、又は247/251ヘテロ接合体)、これらを明白に区別することができないため、本出願者らはそれほど幸運ではなかった。従って、S0301は親子分析から除かれた。対立遺伝子貯蔵所範囲の結果を表3に挙げる。
【表3】

【表3−1】

BS1で2頭の雄豚の試料を2度採取したため、該試料中の二つ(BVS19とBVS21)は、同一の遺伝子型パターンが種雄1と21、及び種雄2と19について見つかった後に分析から除外した。これで親子分析に用いられる試料として610個が残った。
【0053】
親子分析の開始時点における遺伝子系の欠損比率は2.4%であった。これらの大部分は、対立遺伝子があらかじめ定義した範囲を超えたことによるものである。これらの結果は個別にチェックすることができ、対立遺伝子の貯蔵所範囲を精緻化するのに使用することができるが、これはまだ行っていない。2.4%は既に極めて低いパーセンテージであり、結論に影響を与えることはなさそうである。
【0054】
親子分析
試行計画では3つの試験を実施することが指示されていた。その結果を表4に示す。
【表4】

【0055】
試験1では、3箇所の各農場で生まれた子(それぞれ、56、56及び50)は表4の縦列1に列挙した親候補と照合されることになった。この親候補は表1に挙げた21頭の雄親、並びに表1の雌ブタaの下に挙げた母獣である。SU1とSU2を一緒にすると、112頭の子のうち75頭、即ち67%が試料採取の時点でBS1にいた雄親と一致する(1行目の結果)。言い換えれば、子の33%は別の雄ブタが父親であったということである。これは交配及び20%の試料の間で選択除去された雄ブタのパーセンテージに匹敵する。
【0056】
SU1の子56頭のうち54頭は、この子を産出したと推測される14頭のSU1雌ブタの1頭と適合し、54頭中の1頭のみが、記録にあるものとは異なる雌ブタに割り当てられた。SU2の子は全て14頭のSU2の1頭に適合させることができ、2頭を除く全ての子が母親として記録された雌ブタに割り当てられる。これは、正確な繁殖農場への子の割り当て(四行目の結果)の高い成功率である。この結果の一つの欠点は11SU1雌豚及び8SU2雌豚の誤ったシステムの子への割り当てである。システム2に由来する子5と子7も、SU1とSU2から雌ブタがそれぞれ割り当てられた。
【0057】
最も厳格な試験は、子に対し雄親と雌親の両方を割り当てることである。これはまず雄親を割り当て、その後にその割り当てた雄親を既知の親として使用して雌親を割り当てることにより行った(Cervusマニュアルで提案されている方法)。このように両親2頭の割り当てが成功するのは、割り当てられた雄親をもつ子の比率よりも少ないか同じであるのが常である。SU1の子については、56頭中40頭の子に二親を割り当てることができ(3列目の結果)、SU2については56頭中23頭に二親が割り当てられた。システム2では、予測したとおり、且つ所望したとおりに、BS1雄親とSU1若しくはSU2母獣の両方が指定された子はなかった。
【0058】
試験2と試験3では、SU2とSU1の二つの農場の親と適合させるために、屠殺場で試料採取し、SU2とSU1から供給されたものであると記録された屠殺体、ロイン及びハムが必要であった。この場合、親候補は21頭のBS1雄親プラス表1に挙げた雌ブタ(aとb)全てである。これらの屠殺ブタを産生した交配とBS1における試料採取との時間差が長いので、BS1雄親に適合すると予測される屠殺体のパーセンテージはSU1とSU2で生まれた子のパーセンテージよりも小さい。SU2とSU1で試料採取した限られた数の雌親は、試料採取した屠殺ブタを産出した雌親の比率のみを含むと予測される。また、SU1と比べるとSU2では試料採取した雌親が少なく、これがSU2に由来する屠殺ブタの適合比率の低さ(28/50対38/50)に反映されている。表4の結果がこれらの予測を支持している。雌親のみが割り当てられる場合、かなり高い比率で屠殺ブタが誤った農場の雄ブタと一致している(2行目と4行目)。両方の親が割り当てられる場合、誤った農場資源に割り当てられる屠殺体は極めて少なく、またそのようなハムは全くない。ロイン試料については、分離分析は行わなかった。各農場からのロイン試料の10%の遺伝子型を決定し、それらの対応する皮膚試料と比較した。矛盾は見つからなかった。
【0059】
結論
最も有望な結果から始めると、112頭の仔ブタのうちの110頭が正しい農場の少なくとも1頭の雌ブタに適合させることができた。本出願者らはここで親候補を全て試料採取したことを最も確信しているので、これはこのプロジェクトにおけるマーカーの正確性を示している。少なくとも5頭の雄親が交配と子の試料採取の間で選択除去されたことが分かっており、このことはこの試験には全ての雄親が含まれているわけではないことを意味する。二つの農場の雌ブタへこのシステム内で屠殺体を適合させる場合に、雌ブタの一部、それぞれ600頭中133頭と64頭のみを試料採取したことが本出願者らに分かる。また、親候補の追加があると、屠殺体と誤った農場の雌親との偶然の適合(偽陽性)の可能性が高くなる。
【0060】
得られた結果は、この試行システムでここに適用した追跡可能性システムの力を予測させ、他の(より大きな)システムでの性能を予測させるものである。
【0061】
現行システムの効果
追跡可能性システムにおける主なパラメータは排除の確率(Pe)である。これはマーカーのセットが無作為に選択された親候補が子の実の親ではないことを告げる確率である。これは、一つのマーカーに対立遺伝子が二つある状況で最も簡単に説明される(表5)。ある候補をこの子の親として排除する親と子の組み合わせが二つあり、これは斜体で表される。2頭の動物の無作為のペアでこれが発生する頻度は2/16即ち0.125である。従ってこのマーカーの排除の確率は12.5%である。この二つの対立遺伝子マーカーは、明らかにさほど有益ではなく、そのためミクロサテライトマーカーを使用する。1個、2個など、10個までのマーカーを用いた場合の排除確率を表6に示す。
【表5】

【表6】

【0062】
第一の親に対するPe値は、28頭の候補の中から各仔ブタに割り当てられた雌親の平均数を予測するために使用する。予測値は最終縦列で観察された値と比べると極めて良く持続している。第二の親のPe値は、後により大きなシステムの予測に使用することになる。この第二の親のPeは、第一の親の遺伝子型が分かっているときに、任意の動物を第二の親であることから排除する確率である。
【0063】
予測値が観測結果に極めて近い値をとっているので、本出願人らはより大きな追跡可能性システムについて予測することができる。より大きなシステムとは、候補親の数がより多いことを意味する。候補親の数が多くなると、所定の数のマーカーでその候補の全て(1頭を除く)を排除できる確率が小さくなる。マーカーシステムのPeが95%であるとすると、誤った候補それぞれが95%の排除される確率を有するということになる。これはまた、20候補中の1候補が可能性のある親として割り当てられる(排除ではなく)ということでもあり、したがって、10,000頭の雌ブタを含むシステムでは最終的には500頭の候補親をもつことになる。ある特定のシステムにおけるマーカーセットの値を評価するため、本出願者らはPexを定義する。なお、xは候補親の数である。
【表7】

【0064】
95%のPe500値を持つマーカーシステムは、500頭の集団における全候補、即ちその時点の95%を排除することができる。500頭中499頭のみを排除したい場合がよくあるが結果は極めて類似しており、全候補を排除するために計算するとすれば計算はずっと容易になるであろう。95%のPeでは、Pe10=(.95)10即ち60%であるが、Pe10,000はゼロに極めて近い数である(およそ1.7*10-233)。
【0065】
マーカー10個に対するPe14値は84%であり、これは仔ブタの16%が誤った農場からの雌親に割り当てられると本出願人らが予測することを意味する。これはSU1又はSU2からの雌親に割り当てられたシステムIIの仔ブタで観察された12%に近似しており、別の農場からの雌親に割り当てられたSU1とSU2の仔ブタの17%にも近似している(表3の結果)。22%の1−Pe21に対する値もまた、BS1からの雄親に割り当てられたシステムIIのブタの26%の観察に近似している。
【0066】
このような明白な修正及び変更は全て、添付の請求の範囲に定義する本発明の範囲内に含まれることを意図する。請求の範囲は、論旨が特にそうでないことを示さない限り、主張する構成要素と工程を、意図される目的を満たすのに効果的な任意の順序で包含することを意味する。さらに、本明細書における文献等の引用は全て、参照によりそれらの全体が完全にインコーポレートされることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】マーカーSW2623及びマーカーSO301に対する仕分けされた対立遺伝子のサイズ分布を表したものである。X軸=観察番号であり、Y軸はGenotyper(登録商標)ソフトウェアで呼び出した対立遺伝子サイズである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある動物生産物をそのおおもとのシステム若しくは農場まで追跡する方法であって、該動物生産物の試料を採取する工程、DNAマーカーに基づくシステムを利用して該動物生産物の遺伝子型を決定して該動物生産物の遺伝子型情報を取得する工程、該動物生産物の遺伝子型情報を参照データベースと比較する(該参照データベースはシステム若しくは農場又は異なるシステム若しくは農場に特有の親動物、祖父母動物及び曽祖父母動物のDNAマーカープロフィールを含む)工程、該遺伝子型情報を該参照データベースで分析して該生産物のおおもとのシステム若しくは農場を決定する工程を含む方法。
【請求項2】
該遺伝子型の決定が、ミクロサテライト、単一ヌクレオチド多型、増幅断片長多型、及び該DNA配列プロフィールの全て又は一部の欠失及び挿入を含む群から選択されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該DNAマーカーに基づくシステムが、おおもとの管理システム若しくは農場の内部若しくは外部を起源とする選択された動物生産物を特定するために10〜100個のミクロサテライトマーカーを同定する工程を含むものである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
該DNAマーカーに基づくシステムが、おおもとの管理システム若しくは農場の内部若しくは外部を起源とする選択された動物生産物を特定するために20〜50個のミクロサテライトマーカーを同定する工程をさらに含むものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
該試料情報が、試料日付、動物の所在(animal location)、動物の状態、試料出荷情報、及び試料保存情報、並びに動物表現型情報を含む群から選択される情報を含むものである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該参照データベースが、親動物、祖父母動物及び曾祖父母動物の検索可能なゲノムプロフィール、並びに子、兄弟姉妹、半兄弟姉妹及び従兄弟を含む群から選択される追加試料の検索可能なゲノムプロフィールを含むものであり、それが該参照データベースに追加するためのゲノム配列プロフィールの決定を可能にし、他の動物試料との比較を可能にするものである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
該動物生産物が農場で飼育された動物種である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
該動物がウシ、ブタ、家禽、ヒツジ、ヤギ、魚、貝類、及びエビを含む群から選択されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
動物生産物の起源である動物のおおもとの農場若しくはシステムを遺伝的に同定するためのシステムであって、
DNAマーカーに基づくシステムを用いて取得した該動物生産物の遺伝子型決定情報、
該動物生産物の遺伝子型決定情報と参照データベース内にある既知の動物の遺伝子型との比較データであって、該参照データベースはシステム若しくは農場又は異なるシステム若しくは農場に特有の親動物、祖父母動物及び曾祖父母動物のDNAマーカープロフィールを含む、比較データ、並びに
該動物の該参照データベース内で合致する遺伝子型を位置付けして該動物のおおもとのシステム若しくは農場を同定する分析データ、を含むシステム。
【請求項10】
該動物生産物情報が、試料日付、動物の所在、動物の状態、試料出荷情報、及び試料保存情報、並びに動物表現型情報を含む群から選択される情報を含むものである、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
該遺伝子型決定情報が、該親動物、祖父母動物及び曾祖父母動物又は該親動物、祖父母動物及び曾祖父母動物試料に関する遺伝子地図作成、遺伝的背景、若しくは遺伝子スクリーニングの一つ以上に関連するデータから選択されるものである、請求項9に記載のシステム。
【請求項12】
該遺伝子型決定情報が、ミクロサテライト、単一ヌクレオチド多型、増幅断片長多型、及び該DNA配列プロフィールの全て又は一部の欠失及び挿入を含む群から選択されるものである、請求項9に記載のシステム。
【請求項13】
該DNAマーカーに基づくシステムが、おおもとの管理システム若しくは農場の内部若しくは外部を起源とする選択された動物生産物を特定するために10〜100個のミクロサテライトマーカーを同定する工程を含むものである、請求項9に記載のシステム。
【請求項14】
該DNAマーカーに基づくシステムが、おおもとの管理システム若しくは農場の内部若しくは外部を起源とする選択された動物生産物を特定するために20〜50個のミクロサテライトマーカーを同定する工程をさらに含むものである、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
該参照データベースが、親動物、祖父母動物及び曾祖父母動物の検索可能なゲノムプロフィール、並びに子、兄弟姉妹、半兄弟姉妹及び従兄弟を含む群から選択される追加の資料の検索可能なゲノムプロフィールを含むものであり、それが該参照データベースに追加するための、おおもとのシステム若しくは農場に特有のゲノム配列プロフィールの決定を可能にし、他の動物試料との比較を可能にするものである、請求項9に記載のシステム。
【請求項16】
該動物が農場で飼育された動物種である、請求項9に記載のシステム。
【請求項17】
該動物がウシ、ブタ、家禽、ヒツジ、ヤギ、魚、貝類、及びエビを含む群から選択されるものである、請求項9に記載のシステム。

【図1】
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【公開番号】特開2008−142092(P2008−142092A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46272(P2008−46272)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【分割の表示】特願2003−584662(P2003−584662)の分割
【原出願日】平成15年4月8日(2003.4.8)
【出願人】(502089361)ピッグ インプルーブメント カンパニー ユーケイ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】