説明

動物用の免疫増強剤

酵母、その他の真菌または細菌の細胞壁から免疫増強剤を産生するための簡便な方法を提供し、動物飼料への添加物としてさまざまな感染症に対する抵抗性を高めワクチンの効果を増強するためのその用途を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、生物学的に活性な糖質(これはβ(1→6)グルカン側鎖の付いたβ(1→3)グルカン主鎖からなり、化学的にはポリ-(1-3)-β-D-グルコピラノシル-(1-6)-β-D-グルコピラノースであって、より簡単にはβ-1,3/1,6-D-グルカンとよばれる)の真菌または細菌細胞壁からの大量抽出のための方法に関する。本発明はまた、免疫系を強化するため、感染症に対抗するため、および動物に通常存在する細菌負荷を減少させるため、成長促進剤として抗生物質に代わる動物飼料添加物としてのβ-1,3/1,6-D-グルカンの使用に関する。
【0002】
関連出願
本出願は、2003年1月29日付で出願した米国特許仮出願第60/443,806号の米国特許法第119条(e)項に基づく優先権に依拠する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
感染症は米国では心臓病およびがんに続く死亡原因の第三位であり、抗生物質が感染症の治療に必要になることが多い。しかしながら、反復使用される抗生物質に対し、細菌により引き起こされる感染症を治療するのにかつては効果的であった抗生物質がもはやその細菌に対して致死性ではなくなるように、細菌は耐性を発現することができる。そのような抗生物質耐性は、ヒトの深刻な健康問題であり、感染症を治療する費用の増大の一因になっている。研究によれば、農業での抗生物質の使用が病気の原因となる細菌の抗生物質耐性株の出現と関連付けられている。抗生物質は、動物および食用植物の病気を治療するおよび予防するためにならびに動物の成長率を向上させる飼料添加物として農業で使用される。
【0004】
動物に見出され、ヒトで病気を引き起こすことが知られている最も一般的な細菌は、サルモネラ菌(Salmonella)、カンピロバクター菌(Campylobacter)および大腸菌(Escherichia coli)である。これらの食品媒介病原体の病的影響は一般に軽度であるが、毎年、数千人が重篤な病気にかかり、そのような細菌にさられさる結果、死亡している。米国ではおよそ800,000件から400百万件のサルモネラ菌感染症例が毎年発生し、8000件から18,000件は入院を要し、500件は死に至る。同様に、大腸菌感染症は、米国で毎年50件から100件の死亡を引き起こしている。さらに、米国で毎年カンピロバクター菌に感染する2百万から4百万人のうち、1000人中1人がギラン・バレー(Guillan-Barr)症候群、つまり麻痺に関連する病気にかかっている。
【0005】
米国ではヒトでの抗生物質耐性感染症の最初の事例は、フルオロキノロン耐性カンピロバクター菌により引き起こされ、フルオロキノロンが家禽用に承認された直後の、1996年に観察された(米国会計検査院、報告書番号: RCED-99-74)。
【0006】
最近、New England Journal of Medicineに掲載された三つの研究によれば、(1) 食料品店で販売される肉には、抗生物質耐性サルモネラ菌株が含まれている(White et al., N. Engl. J. Med., 345:1147-1154, 2001)および(2) 鶏肉および豚肉由来のエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)の抗生物質耐性菌株は直接ヒトに移る(McDonald et al., N. Engl. J. Med., 345:1155-1160, 2001 and Sorensen et al., N. Engl. J. Med., 345: 1161-1166, 2001)と報告している。
【0007】
農業での抗生物質の使用がヒトに感染し得る抗生物質耐性細菌をもたらすという欧州連合の懸案事項により、欧州では農業目的の成長促進用抗生物質の使用が禁止されることになった。米国では、疾病管理センターおよび保健省(the Center for Disease Control and the Department of Health)は同様に、農業での抗生物質の使用の禁止または縮小を支持している。しかしながら、業界代表らは、成長促進用抗生物質の使用の禁止が飼育動物の価格を増大させ、食品の価格を上昇させ、食料供給を減少させることになると主張している。
【0008】
成長促進用抗生物質の使用に代わるものを開発するための努力が行われている;しかしながら、今日まで、抗生物質の満足のいく代用品は存在していない。非特異的な免疫増強剤は、細菌、ウイルス、真菌などを含む、さまざまな微生物による感染症に対抗するのに有用となることが繰り返し提唱されてきた。ヒトおよび動物の免疫系の活性を高めるために研究されてきた免疫増強剤のなかには、多糖類、つまりβ-グルカン、特に酵母サッカロミセス・セルビジエ由来のβ-グルカンがある。
【0009】
β-グルカンは、天然に広く分布している多糖類の一員である。今日までに単離されているβグルカンは、抗真菌活性、抗細菌活性(Babineau et al. Randomized phase I/II trial of a macrophage specific immunomodulator (PGG-glucan) in high-risk surgical patients. Ann. Surg. 220:601-609, 1994)、および抗腫瘍活性((Mansell et al. Clinical Experiences with the use of glucan. 「Immune Modulation and Control of Neoplasia by Adjuvant Therapy.」中 M. A. Chirgos ed., 1978. Raven Press, N.Y., pp. 255-280; Ueno, H. Beta-1,3-D-Glucan, its Immune Effect and its Clinical Use. Japanese Journal Society Terminal Systemic Diseases. 6:151-154, 2000 ; および(U. S, Patent no. 4,138,479))のような、さまざまな生物活性を有する。これらの活性は、βグルカンの特異的構造、すなわちさまざまな位置にさまざまな量でβ(1→6)側鎖の付いたβ(1→3)グルカンに関連すると思われ、それらはポリ-(1-3)-β-D-グルコピラノシル-(1-6)-β-D-グルコピラノースという化学名を有する。β(1→6)側鎖の分布および量は、活性の強さに影響を及ぼすと思われる。これらの修飾βグルカンの多くがさまざまな程度にさまざまな供給源から精製されている。
【0010】
多くの治療活性は、これらの修飾βグルカンによるものとされており、多数の特許請求が為されている。これらの特許請求の多くの妥当性を評価することは困難である。研究者らは異なる精製度のおよび異なる方法論により得た調製物を使用しており、研究者のなかには効果なしかまたは他者により報告されたものとは逆の効果を報告するものもいたからである。
【0011】
酵母からのβグルカンの精製および使用に関する多くの報告がなされており、それらには化粧品での(U.S. Patent No. 5,223,491)、水生動物の病気に対する抵抗性を高めるための(U.S. Patent No. 5,401,727)、ならびにヒトおよび動物の栄養補給剤としての(U.S. Patent No. 5,576,015)その使用が含まれる。これらの特許に記述されている方法は時間がかかり、記述の手順では収量が少ない。大量製造により得る場合、これらの方法のいずれかにより、活性なβグルカンを産生できるかどうかは分からない。
【0012】
例えば、不溶性のβグルカンを調製するための多数の手順が報告されている。これらの手順のほとんどは、酵母、細菌、真菌、またはこれらの生物の細胞壁のアルカリ抽出、続く酸抽出とその後のさまざまな有機溶媒による抽出に基づいている。これらの手順では通常、グルカンの収量が少なく、生物活性が考慮されていないことがほとんどである。例えば、U.S. Patent No. 5,401,727は、サッカロミセス・セルビジエ500グラムからのβグルカンの精製について記述している(収量は示されず); U.S. Patent No. 5,223,491は、サッカロミセス・セルビジエを500グラムおよび200グラムを用い、その結果、精製βグルカンをそれぞれ50グラムおよび20グラム得る二通りの手順について記述している; U.S. Patent No. 6,242,594は、出発原料としてサッカロミセス・セルビジエ 400グラムを用いるグルカンの調製について記述している。そのような量のグルカンを調製するのに必要とされる時間は、最小限の8時間から数日まで変化する。
【0013】
従って、当技術分野において、農業で用いるのに必要とされる大量の活性βグルカンの新たな且つより良い調製方法、例えば、野外ならびに研究室で免疫活性剤として活性であるβグルカンの大きな工業規模生産が必要である。
【発明の開示】
【0014】
発明の概要
本発明は、真菌および細菌より選択される生物、特にそのような生物の細胞壁由来の活性のある、免疫調節性のβグルカンの大量製造のための、再現性が高く効率的かつ迅速な手順を提供することにより、当技術分野におけるこれらのおよび他の問題を克服する。大量産生のための本発明の方法により製造される場合、サッカロミセス・セルビジエの細胞壁からのβグルカンは、免疫系の強力な活性剤となり、実験室ならびに野外で感染症に対抗する際に効果的である。より一般的には、本発明は、免疫調節剤としての活性のあるβ(1→6)分岐β(1→3)グルカンの大量製造のための方法の発見に基づいており、そのβグルカンを、例えば、食餌から抗生物質を取り除くためかもしくは抗生物質の使用を減少させるために、感染症に対する抵抗性を高めるためにおよびワクチンの効果を増強するために、飼育動物用の飼料の添加物として使用できるだけ十分に費用効率が高い。
【0015】
従って、ある態様において、本発明はβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの大量産生のための方法であって、真菌および細菌から選択される生物の細胞壁を乾燥重量で少なくとも1200ポンド、ならびにアルカリ金属またはアルカリ土類金属水酸化物の0.5 Nから5.0 Nアルカリ溶液を含む混合物を約30分間撹拌しながら約45℃から約80℃の温度まで加熱する方法を提供する。その後、混合物を約15分から約120分間、約100℃から約121℃の範囲の温度で約5 psiから約30 psiまで加圧する。加圧処理後、固形物を混合物から分離して、固形物と酸溶液との比が約1:1から約1:10の酸溶液に15分から約2時間、約50℃から約100℃の温度まで加熱しながら供する。酸処理段階から分離される固形物は、乾燥重量で少なくとも75%のβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンを含む。
【0016】
別の態様において、本発明は、本発明の方法により調製したβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンを、少なくとも動物の成長期の間、飼料を摂取する動物の成長を促進するのに有効な量で含む動物飼料を提供する。
【0017】
さらに別の態様において、本発明は、サッカロミセス・セルビジエの細胞から産生されたβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの有効量を、成長中の家禽の飼料に添加し、それにより家禽の成長を促進することにより、家禽の成長を促進するための方法を提供する。
【0018】
発明の詳細な説明
ある態様において、本発明はβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの大量産生のための方法を提供する。大量の細菌または真菌の細胞または細胞壁、通常、乾燥重量1200ポンドから約1600ポンドの細胞壁が出発原料である。この出発原料を水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムのような、アルカリ金属またはアルカリ土類金属水酸化物の0.5 Nから5.0 Nアルカリ溶液と混合して、約30分間撹拌しながら約45℃から約80℃の温度まで加熱する。次いで、混合物を約15分から約120分間、約100℃から約121℃の範囲の温度で約5 psiから約30 psiまで加圧する。次いで、混合物を冷却して、固形物を例えば、多段階の洗浄および工業規模の遠心分離機による遠心を利用して、混合物から分離する。分離された固形物を、固形物と酸溶液との比が約1:1から約1:10の酸処理に15分から約2時間、約50℃から約100℃の温度まで加熱しながら供する。酸処理段階から分離される固形物は、乾燥重量で少なくとも75%のβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンを含む。
【0019】
本発明の大量産生方法で用いる細胞壁の好ましい原料は、酵母サッカロミセス・セルビジエであり、その細胞壁から乾燥重量で約85%のβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンを得ることができる。
【0020】
この方法は任意で、このように得られた乾燥固形物を動物に対して毒性のない滅菌技術、例えば、放射線照射(irradiation)により滅菌する段階をさらに含む。
【0021】
サッカロミセス・セルビジエのような酵母に加えて、本発明の方法を利用して、例えば、ブラゼイアガリクス(Blazei agaricus)茸のような、他の真菌から、ならびにブラゼイアガリクスおよびさまざまなカワラタケ(Yunzhi)からβグルカンを調製することができる。
【0022】
動物での健全成長の促進に用いるβグルカンの「有効量」とは、以下の少なくとも一つを促進するのに十分な量である: 動物での細菌負荷(bacterial load)の阻害; 家禽での壊死性腸炎の発症の予防または減少; 動物での免疫応答の刺激; 飼料またはそれ以外の方法で動物に投与される抗生物質およびワクチンの効果の増大; 投与した飼料の量あたりの成長率の増大など。当業者は、例えば、有効量を決定するため、低用量から始めて、その用量を滴定することによって動物に合った有効量を決定するうえで、動物の年齢、活動水準、ホルモンバランス、および全般的健康のような要因を考慮する。
【0023】
本発明の動物飼料の消化およびβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの有効量を含む飼料による処置から利益を享受できる動物は、例えば、ニワトリ、カモ、ガチョウ、シチメンチョウ、ウズラ、ゲームヘンなどを含む、あらゆるタイプの飼育家禽である。本明細書に記述されるβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの有効量を含む飼料から利益を享受できる他の飼育動物には、例えば、肉牛および乳牛、ブタ、ヤギ、サケ科魚類などが含まれる。
【0024】
A. β(1→3)/(1→6)-D-グルカンの大量調製のための方法
乾燥酵母もしくは他の真菌または乾燥酵母の細胞壁を0.5Nから5.0 Nの範囲のNaOH、および好ましくは1.5 N NaOHと混合する。次いで、混合物を撹拌しながら、約45℃から80℃、および好ましくは約60℃まで加熱して、撹拌しながら約30分間この温度に保持する。その後、温度を約100℃から約121℃の範囲まで上昇させて、混合物を約5 psiと約30 psiとの間の圧力下、より好ましくは約121℃で約15 psiの圧力下に約15分から約120分間置く。次いで、混合物を冷却し、液体を固形物から分離する。固形物を1容量から約10容量の水で1回から約3回洗浄する。
【0025】
洗浄した固形物を液体から分離して、塩酸または酢酸のような酸を添加する。例えば、約3%酢酸を固形物と酸との比が約1:1から約1:10で添加することができる。次いで、混合物を15分から約2時間約50℃と100℃との間に加熱する。より好ましくは、混合物を約45分間85℃まで加熱する。加熱混合物を冷却させて、固形物(約80%のβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンからなる)を液体から分離し、再び1容量から約10容量の水で1回から約3回洗浄する。
【0026】
固形物を液体から分離して、周囲温度もしくは暖気で乾燥させるか、オーブン中で加温するか、または噴霧乾燥させるが、噴霧乾燥が好ましい。次いで、乾燥させた精製β(1→3)/(1→6)-D-グルカンを例えば、放射線照射により滅菌することができる。上記のように調製した場合、噴霧乾燥したβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンには、核磁気共鳴により分析されるように、約85%から約98%のβ(1→3)結合を含み、残りはβ(1→6)結合である。
【0027】
生物学的に、β(1→3)/(1→6)-D-グルカンは、第二補体活性化経路を活性化して、インビトロのマクロファージからの酸化窒素の放出を刺激する。
【0028】
B. 家禽用の飼料におけるβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの使用
動物の飼育の成功および肉の低価格は、動物飼料に添加される抗生物質の使用および動物の間に起こる疾患を処置するための抗生物質の使用に依存する。しかしながら、抗生物質の過剰使用は、その使用によりヒトに感染できる耐性細菌株が生み出されてしまうので、ヒトにとってかなり有害になり得る。β(1→3)/(1→6)-D-グルカンが抗生物質の代わりになり得るかどうかを決定するため、β(1→3)/(1→6)-D-グルカンを飼料1トンあたり5グラムから約500グラム、例えば、1トンあたり20グラムから40グラムの範囲の濃度でニワトリ飼料に添加した。ニワトリに出荷齢時までこの食餌を与えた。体重、飼料転換率、死亡率および廃棄処分率(condemnation rate)を記録して、抗生物質を含む通常の食餌ならびに生菌類を含む食餌、または成長促進用添加物を含有しない食餌を与えたニワトリのものと比較した。
【0029】
C. ニワトリの壊死性腸炎を予防するためのβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの使用
壊死性腸炎は、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens) A型およびC型により引き起こされるニワトリの腸毒血症である。この疾患は、下痢の突然発症、爆発的死亡率、および小腸の融合性粘膜壊死により特徴付けられる。その症状は深刻なうつ病および急死を引き起こし、死亡率は1日あたり1%を超える。クロストリジウム・パーフリンジェンスは、環境中に広まっていると考えられる。クロストリジウム属(Clostridia)は胞子を作り出すことができ、これらの胞子が環境条件に極めて耐性であるので、感染症が共通して見られる。胞子は、感染群が維持される家のなかにとどまる。胞子は飼料にも生じ得る。ペレット形成ニワトリ飼料に加えられる熱では胞子を破壊できないと思われる。その結果、感染する群れの危険性が高いと考えられる。
【0030】
壊死性腸炎の発症を予防または減少させるため、β(1→3)/(1→6)-D-グルカンを飼料1トンあたり約5グラムから約500グラムの、例えば、1トンあたり約10グラムから約100グラムのまたは約20グラムから約40グラムの濃度でニワトリ飼料に添加する。通常、ニワトリに出荷齢時までこの食餌を与える。従って、別の態様において、本発明は、本発明の大量(産生)方法により調製したβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンを、少なくとも動物の成長期の間に飼料を摂取する動物の成長を促進するのに有効な量で含む動物飼料を提供する。成長を促進するためのβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの有効量は、例えば、飼料1トンあたり約5グラムから約500グラムの範囲に、飼料1トンあたり約10グラムから約100グラムの範囲に、または飼料1トンあたり約20グラムから約40グラムの範囲にすることができる。本発明の動物飼料は、対象とする動物に対して選択される、当技術分野において公知の主成分をさらに含む。例えば、ニワトリの場合、本発明の飼料は、ニワトリの飼料に適すると当技術分野において考えられる構成物質のいずれかをさらに含むことができる。
【0031】
さらに別の態様において、本発明は、サッカロミセス・セルビジエの細胞から産生された、本明細書に記述されるような、β(1→3)/(1→6)-D-グルカンの有効量を、少なくとも家禽の成長期の間に成長中の家禽の家禽飼料に添加し、それにより家禽の成長を促進することにより、家禽の成長を促進するための方法を提供する。本明細書では「成長を促進する」という用語は、家禽の壊死性腸炎を処置する、すなわち、阻害するか、予防するか、または治療し、家禽での細菌負荷を低下させ、家禽の免疫系を高めるような特定の利点を含むよう意図される。
【0032】
さらに別の態様において、本発明は、β(1→3)/(1→6)-D-グルカンを含む動物飼料添加物であって、本発明の方法により産生される動物飼料添加物を提供する。飼料添加物β(1→3)/(1→6)-D-グルカンは、サッカロミセス・セルビジエの細胞から産生されることが好ましい。
【0033】
本発明を以下の非限定的な例によりさらに説明する。
【0034】
実施例1 酵母細胞壁からのβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの大量分離
撹拌しながら、酵母細胞壁1600 lbを1.5 N NaOH 1300ガロンと混合した。混合物を撹拌しながら60℃まで加熱し、撹拌しながら60℃で30分間保持した。その後、温度を121℃まで上昇させて、混合物を含む容器を15分〜45分間撹拌しながら15 psiまで加圧した。次いで、混合物を安全な取り扱い温度まで冷却して、17%〜27%の固形物に調整した。混合物をWestfalia分離機、モデルSC-35 (Westfalia A.G., Oelde, Germany)により分離した。分離した固形物をZA4遠心混合機(Westfalia A. G., Oelde, Germany)により約26%の固形物まで水で希釈して洗浄し、Westfalia分離機にて再度分離した。この水洗を1〜2回および好ましくは2回行う。固形物を3%酢酸 約100ガロンと混合して、85℃の3%酢酸 800ガロンを含むタンクに移した。混合物を85℃まで45分間加熱した。混合物を再び安全な取り扱い温度まで冷却して、17%〜27%の固形物に調整した。混合物を再びWestfalia分離機、モデルSC-35により分離して、分離した固形物を約26%の固形物まで水で希釈して洗浄し、Westfalia分離機にて再度分離した。
【0035】
βグルカンの収量は110 kgであり、上記の調製に必要とされた平均時間は約25時間であった。この方法により調製された典型的なロットの核磁気共鳴分析によると、このβグルカンは80%の糖質および具体的にはβ(1→6)に対するβ(1→3)比が10のβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンを含むことが示される。
【0036】
実施例2
本明細書に開示の方法により調製されたβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンは、生物学的に活性である産物をもたらし、その生物活性はロット間で再現性がある。生物活性を決定するため、本発明者らは、第二補体活性化経路の活性化を測定した。このアッセイ法は、検査センター(The Complement Laboratory, National Jewish Medical and Research Center, Denver, CO, USA)により行われた。アッセイ法は、βグルカンの懸濁液1部をヒト血清9部と混合することからなる。37℃で30分のインキュベーション後、混合物を遠心して、Bb、つまり補体タンパク質B因子の活性化により放出されるタンパク質断片について定量的に分析する。
【0037】
(表1)

【0038】
表1のImmustim(登録商標) (IM)の10ロットの平均活性は、48.36 μg 放出Bb/mg Immustim(登録商標)である。本アッセイ法で使用した陽性対照は、30%から40%のβ-1,3/1,6-D-グルカンを含む酵母サッカロミセス・セルビジエのアルコール抽出物であるザイモサン(Zymosan)とした。ザイモサンはImmustim(登録商標)のβ-1,3/1,6-D-グルカンを40%〜50%含むにもかかわらず、ザイモサンの平均活性がわずかに9.6 μg 放出Bb/mgであったことから、酵母細胞壁のβ-1,3/1,6-D-グルカンは、補体を活性化させるのに利用できないことが示唆される。
【0039】
実施例3 ニワトリの成長に対するImmustim(登録商標)の効果を示す野外試験
これらの研究は、47箇所の農場にてニワトリ計1,402,015羽で行われた。ニワトリに抗生物質バージニアマイシン(20 g/トン)とサリノマイシン(60 g/トン)とを含む標準的食餌を与えるか、またはニワトリに抗コクシジウム剤Amprol(250 ppm)およびβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンであるImmustim(登録商標)を最初の2週間は40グラム/トン、その後の4週間は20グラム/トンを含む食餌を与えた。6週間の終了時に、成績を以下の判定基準、つまり死亡率、体重、飼料転換、廃棄処分率を用いて評価した。下記表2に要約されているこの実験の結果から、この2通りの飼料計画で育てられたニワトリにおける同程度の成長パラメータが明らかであり、抗生物質なしでニワトリを飼育可能であることが示唆される。
【0040】
(表2)ニワトリの成長に対するβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの効果

1 サリノマイシン(Alpharma, Fort Lee, N.J., USA)およびAmprol(Merial社, Athens, GA, USA)は、抗コクシジウム剤、つまり細胞内寄生体コクシジウム類の制御用の薬剤である。
2 飼料転換は、収縮、DOC、トリ全体および部分の廃棄処分後、正味の売却可能な肉ベースに基づいている。
【0041】
実施例4 β(1→3)/(1→6)-D-グルカンによる細菌負荷の低下
家禽での細菌負荷を減少させる際のβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの効果を決定するため、シチメンチョウに、生菌類を含む対照の食餌または最初の6週間は飼料1トンあたり(1→3)/(1→6)-D-グルカンであるImmustim(登録商標)を40グラム、その後1トンあたり20グラムを含む食餌を与えた。早朝、盲腸糞を回収して、サルモネラ菌およびカンピロバクター菌のレベルを決定した。この実験の結果は、下記表3に要約されている。
【0042】
(表3)シチメンチョウでの細菌負荷に対するβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの効果

【0043】
表3のデータから、細菌負荷がβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンで処理したシチメンチョウでは、生菌類で処理したシチメンチョウでの細菌負荷と比べて、約150%減少することが示唆される。
【0044】
実施例5 家禽での壊死性腸炎に対するβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの効果
壊死性腸炎、つまりニワトリの腸に影響を及ぼす疾患は、臨床的に現れると、高い死亡率を引き起こし、臨床的に無症状であると、この疾患は発育不良を引き起こす。壊死性腸炎は、成長中のニワトリで、特に成長促進用抗生物質がない場合には大きな問題である。野外試験でβグルカン飼料補給物の効果を試験するため、ニワトリに抗生物質フラボマイシン(2 g/トン)とイオノフォアbiocox(60 gm/トン)とを含む標準的食餌を与えるか、またはニワトリにフラボマイシン(2 g/トン)に加えてβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンを最初の2週間は40グラム/トン、その後の4週間は20グラム/トン含む食餌を与えた。下記表4に要約されているこれらの研究の結果から、β(1→3)/(1→6)-D-グルカンは壊死性腸炎を予防するのに効果的であったことが明らかである。
【0045】
(表4)ニワトリの壊死性腸炎に対するβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの効果
抗生物質と抗生物質+Immustim(登録商標)との比較

1 フラボマイシン(Hoescht Roussel GmbH, Germany)
【0046】
実施例6 ニワトリでの壊死性腸炎に対するβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの効果
この試験では、ニワトリに、エアロゾル形態のCocci Vacワクチン(Schering-Plough Animal Health社, Kenilworth, N.J., USA)、つまりコクシジウム類(細胞内寄生体)に対するワクチンを投与するか、またはCocci Vac (Cocci Vac I、単位用量で流通している生物ワクチン; 1動物に1用量を使用する)および最初の2週間は40グラム/トン、その後の4週間は20グラム/トンのβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンを添加した食餌を与えた。この比較研究の結果は、下記表5に要約されている。
【0047】
(表5)ニワトリの壊死性腸炎に対するβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの効果
抗生物質なしとImmustim(登録商標)との比較

1 Cocci Vacは、コクシジウム寄生虫に対してニワトリを防御するためのワクチンである。
【0048】
上記表5のデータから、本明細書に開示の方法により調製したβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンは、飼料中に抗生物質が存在していても存在していなくても壊死性腸炎を予防するのに非常に効果的であることが示唆される。
【0049】
実施例7
本明細書に開示の方法により調製したβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンは同様に、水生動物を感染症から防御するのにも効果的である。水生動物で感染症を予防する際のβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの効果を決定するため、ホワイトスポットシンドロームウイルス(WSSV)を感染させて、本明細書に記述されるように調製したβ(1→3)/(1→6)-D-グルカン 0グラム、50グラム、100グラム、または500グラム/トンを含む食餌を与えたエビ(L. バナメイ(L. vannamei))の生存について研究した。この研究の結果は、下記表6に示されている。
【0050】
(表6)WSSVに感染させ、異なる量のβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンを含む食餌を与えたエビの生存

【0051】
表6のデータは明らかに、本明細書に記述されるように調製したβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンは、WSSVを感染させたエビの生存を大幅に増加させるのに効果的であることを示している。さらに、このデータから、高用量では、おそらく受容体の発現減少の結果であると思われるが、その効果が失われてしまうので、用量を評価することが必要なのは明らかである。
【0052】
本発明を現在好ましいとされる態様に関して記述してきたが、当然のことながら、本発明の意図から逸脱することなくさまざまな変更を加えることができる。従って、本発明は、先の特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β(1→3)/(1→6)-D-グルカンの大量産生のための方法であって、以下の段階を含む方法:
a) 真菌および細菌から選択される生物の細胞壁を乾燥重量で少なくとも1200ポンド、およびアルカリ金属またはアルカリ土類金属水酸化物の0.5 Nから5.0 Nアルカリ溶液を含む混合物を、約30分間撹拌しながら約45℃から約80℃の温度まで加熱する段階;
b) 混合物を約15分から約120分間、約100℃から約121℃の範囲の温度で約5 psiから約30 psiの圧力まで加圧する段階;
c) b)の混合物から分離された固形物を、固形物と酸溶液との比が約1:1から約1:10の酸溶液に15分から約2時間、約50℃から約100℃の温度まで加熱しながら供する段階; ならびに
d) c)から得られる固形物を分離する段階であって;固形物は、乾燥重量で少なくとも75%のβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンを含む段階。
【請求項2】
段階a)の温度が約60℃でありアルカリ溶液がNaの溶液である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
細胞壁がサッカロミセス・セルビジエ(Saccharomyses cerevisiae)から得られ、乾燥重量で約85%のβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンが段階d)で分離される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
真菌が1つまたは複数の酵母である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
細胞壁が細菌から得られる、請求項1記載の方法。
【請求項6】
酸が塩酸および酢酸から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
酸が3%酢酸である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
段階b)において、温度が約121℃であり圧力が約15 psiである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
段階c)において、約15分間温度が85℃である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
以下の段階をさらに含む、請求項1記載の方法:
e) 乾燥固形物を滅菌する段階。
【請求項11】
乾燥固形物が放射線照射により滅菌される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
分離段階が遠心による、請求項1記載の方法。
【請求項13】
請求項1記載の方法により調製したβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンを、少なくとも動物の成長期の間、飼料を餌とする動物の成長を促進するのに有効な量で含む動物飼料。
【請求項14】
有効量が飼料1トンあたり約5グラムから約500グラムの範囲のβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの濃度である、請求項13記載の動物飼料。
【請求項15】
有効量が飼料1トンあたり約10グラムから約100グラムの範囲のβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの濃度である、請求項14記載の動物飼料。
【請求項16】
有効量が飼料1トンあたり約20グラムから約40グラムの範囲のβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの濃度である、請求項15記載の動物飼料。
【請求項17】
家禽飼料の主成分をさらに含む、請求項13記載の動物飼料。
【請求項18】
家禽飼の主成分がニワトリの飼料およびシチメンチョウの飼料から選択される、請求項17記載の動物飼料。
【請求項19】
食用牛を飼うのに適した飼料の主成分をさらに含む、請求項13記載の動物飼料。
【請求項20】
家禽の成長を促進するための方法であって、
サッカロミセス・セルビジエの細胞から産生されたβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンの有効量を、少なくとも家禽の成長期の間、成長中の家禽の家禽飼料に添加する段階、ならびに
それにより家禽の成長を促進する段階
を含む方法。
【請求項21】
有効量が飼料1トンあたり5グラムから500グラムの間である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
有効量が家禽の成長の最初の2週間は1トンあたり40グラムであり、余生では20グラムである、請求項20記載の方法。
【請求項23】
成長を促進する段階が家禽の壊死性腸炎を処置する段階を含む、請求項20記載の方法。
【請求項24】
有効量が飼料1トンあたり約5グラムから約500グラムの間である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
有効量が家禽の成長の最初の2週間は1トンあたり約40グラムであり、余生では約20グラムである、請求項7記載の方法。
【請求項26】
家禽での細菌負荷(bacterial load)が減少する、請求項25記載の方法。
【請求項27】
家禽の免疫系が強化される、請求項25記載の方法。
【請求項28】
請求項1記載の方法により産生されるβ(1→3)/(1→6)-D-グルカンを含む、動物飼料添加物。
【請求項29】
エビの飼料に添加される、請求項28記載の飼料添加物。
【請求項30】
有効量が飼料1トンあたり25グラムから300グラムである、請求項29記載の飼料添加物。
【請求項31】
有効量が飼料1トンあたり約100グラムである、請求項30記載の飼料添加物。
【請求項32】
β(1→3)/(1→6)-D-グルカンはサッカロミセス・セルビジエの細胞から産生される、動物飼料添加物。

【公表番号】特表2007−524354(P2007−524354A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503072(P2006−503072)
【出願日】平成16年1月26日(2004.1.26)
【国際出願番号】PCT/US2004/002250
【国際公開番号】WO2004/066863
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(505287014)イミュダイン インコーポレーティッド (1)
【Fターム(参考)】