説明

動物用ミネラル補給剤

【課題】従来のミネラル補給剤の貧弱な吸収性を改善すると共に、多くの微量ミネラルを均一に混合するために必要な、煩雑な製造方法を単純化する。
【解決手段】水酸化マグネシウム結晶中に、微量ミネラルを原子レベルで分散させた固溶体にすることにより、さらに一部の超微量ミネラルは、該固溶体に吸着させることにより、微量ミネラルと超微量ミネラルが水酸化マグネシウムに近い良好な吸収性を示し、製造製剤も簡略化出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物用ミネラル補給剤に関する。更に詳しくは、微量ミネラル―鉄、亜鉛、銅およびマンガン―および超微量ミネラル―クロム、コバルト、ニッケル―を固溶した水酸化マグネシウム系固溶体を主成分とする動物用ミネラル補給剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の著しい無機生物化学の進歩により、微量金属が動物の健康と疾病に深く係わっていることが明らかになってきた。動物に必須の微量金属とは、1日の摂取必要量が約1〜10mgのFe,Zn,CuおよびMnと、それよりも必要摂取量が約1ケタ少ない(超微量金属―Se(セレン),I(ヨウド),Mo(モリブデン),Cr(クロム),Co(コバルト)―等である。これ等必須の微量ミネラルをそれぞれの必要量食物から摂取するためには、数多くの食材をバランス良く摂る必要がある。しかし、現在の一般人の生活は多忙になり、上記条件を満足させられない人が多くなっている。そのため、栄養補助食品として、種々のミネラル剤が販売されている。例えば、酸化亜鉛、酸化第2銅、クエン酸鉄ナトリウム、グルコン酸第1鉄、炭酸マンガン、亜鉛、マンガン、セレン、銅、クロムおよびモリブデンの酵母等である。以上の如き各種ミネラル成分を炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の比較的多量必要とされるミネラルと一緒にし、微結晶セルロース等の賦形剤と共に混合し、錠剤に成型し、1日当たり2〜4g服用させることが一般的に行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
微量金属は、比較的多量必要とされる必須ミネラル−CaとかMg−が、吸収性が良好であるのに対し、一般的に吸収性が悪い欠点がある。微量〜超微量ミネラルは、個々に1日に必要とされる最適量があり、その量より少ないと種々の欠乏症を発生すると共に、逆に多すぎると種々の過剰症を発生させる。そのため、1錠当たり約400mg〜3g中に約10種類近いミネラルを正確に混合、均質化する必要があり、その生産は煩雑である。且つ精密性が要求され、コストが掛かる問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、(a)下記式(1)
【0005】
【化1】

(但し、式中、FeとMnは2価または2価と3価であり、M1はCr3+,Co2+,Co3+,Ni2+の少なくとも1種以上を示し、x〜x4,x,yおよびzはそれぞれ次の範囲にある、0<x<0.1、好ましくは0.006≦x≦0.04,0<x2<0.2、好ましくは0.007≦x2≦0.05,0<x3<0.02、好ましくは0.001≦x3≦0.009,0<x4<0.04、好ましくは0.002≦x4≦0.02,0<x<0.15、好ましくは0.01≦x≦0.1、特に好ましくは0.02≦x≦0.08,x+x2+x3+x4=1,0≦y<0.01、好ましくは0.0002≦y≦0.004,0≦z<0.05)で表される水酸化マグネシウム系固溶体、または該固溶体に(b)セレン、ヨウ素、モリブデン含有化合の少なくとも1種以上を吸着または均一混合した物を有効成分として含有する動物用ミネラル補給剤を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、一般に吸収性が悪い微量ミネラル及び超微量ミネラルの吸収性を改善できると共に、便通が大幅に良くなる。さらに、必須とされる殆どの微量、超微量ミネラルが、水酸化マグネシウム結晶中に、それぞれの必要最適量分子レベルで分散させることが出来、煩雑な計量と困難な混合を含む製剤工程を省略または簡素化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の式(1)で表されるミネラル補給剤は、水酸化マグネシウム結晶中に必須ミネラルが原子状で分散した、いわゆる固溶体であり、X線回析パターンは水酸化マグネシウムだけを示す物質である。微量および超微量ミネラルは、それぞれ1日当たりの必要量があり、各ミネラルが適正の範囲で固溶していることが好ましい。したがって、x〜x4,xおよびyの好ましい範囲は0.006≦x≦0.04,0.007≦x≦0.05,0.001≦x3≦0.009,0.002≦x≦0.02,0.01≦x≦0.1,0.90≦1−x−y−z≦0.99,0.0002≦y≦0.004である。また、式(1)の固溶体に吸着または均一混合する(b成分)セレン、ヨウ素、モリブデンの合計モル量の好ましい範囲は、式(1)の固溶体1モルに対し、0.0002〜0.004モルである。
【0008】
本発明で用いるセレン、ヨウ素およびモリブデン含有化合物としては、例えば亜セレン酸ナトリウム、亜セレン酸ナトリウム、セレン酵母、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸アンモニウム等を挙げることができる。
【0009】
本発明ミネラル補給剤の式(1)の固溶体(a成分)の好ましい代表的組成は、次の如き物である。
Mg0.97Fe0.011Zn0.014Cu0.002Mn0.004Cr0.00007(OH)
Mg0.94Fe0.02Zn0.0026Cu0.0046Mn0.008Cr0.0001(OH)
本発明の好ましい組成としては、上記成分にセレン、ヨウ素およびモリブデンの全てを式(1)の固溶体1モルに対し、0.01モル以下、好ましくは、0.0002モル〜0.004モルの、換言すると約1mg以下の(b)成分を加えたものである。
【0010】
本発明で用いる式(1)の水酸化マグネシウム系固溶体の製造は、目的のモル比に調合された各ミネラルの塩化物、硝酸塩、硫酸塩等の水溶液と、これとほぼ当量以上の水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液とを用い、共沈させる方法により実施できる。共沈反応後、ろ過、水洗、乾燥、粉砕等の工程を適宜選択して製造出来る。
【0011】
(b)成分の好ましい添加方法は、水洗後の式(1)の固溶体スラリーに添加、吸着後、スプレードライ、凍結乾燥等の乾燥方法を適用することである。この方法により、(b)成分を(a)成分に均一に吸着または混合することが出来る。特に、スプレードライが好ましく、この方法で流動性の粉体が得られ、そのまま錠剤に成型可能である。
【0012】
本発明のミネラル補給剤は、水酸化マグネシウム系が主成分であるため、便通が改善される付加価値がある。
【0013】
本発明のミネラル補給剤は、(a)(b)成分以外に、カルシウムを更に補給するために、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、カルシウムのクエン酸とリンゴ酸の複塩等のカルシウム化合物を混合使用することも出来る。これ等カルシウム化合物の添加量は、(a)成分の重量に基づき、10〜300%、好ましくは50〜200%である。
【0014】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
塩化マグネシウム、硫酸第一鉄、塩化亜鉛、硝酸第二銅、硝酸マンガン(II)および三塩化クロムの混合水溶液(Mg=1.944モル/リットル,Fe2+=0.019モル/リットル,Zn=0.024モル/リットル,Cu2+=0.0042モル/リットル,Mn2+=0.0074モル/リットル,Cr3+=0.0002モル/リットル)と4モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液をそれぞれ約100ml/分の流速で計量ポンプにより容量2リットルのオーバーフロー付き反応槽(予め約500ccの水を入れておく)に供給し、pHを水酸化ナトリウムの流量を調節して10.0〜10.4(温度:30〜31℃)に保って共沈反応させた。得られたスラリーをろ過、水洗後、水に再分散させ、スプレードライヤーを用い、入口温度約200℃、出口温度約80℃で乾燥した。この粉末は、流動性が良く、直接打錠が可能であった。この乾燥粉末のX線回析は水酸化マグネシウムのみの回析パターンを示した。したがって、各ミネラルが水酸化マグネシウム結晶に固溶している。乾燥物を塩酸に溶解後、1CPで元素分析を行い、組成を調べた結果は次の通りであった。Mg0.9726Fe0.095Zn0.012Cu0.0021Mn0.0037Cr0.0001(OH)。この粉末1g当たり各ミネラルの含有量を重量で示すとMg=392mg(200〜700mg),Fe=9mg(8〜12mg),Zn=13mg(12〜18mg),Cu=2.3mg(2.2〜2.8mg),Mn=3.4mg(3〜5mg),Cr=0.05mg(0.06〜0.1mg)である。カッコ内は、成人1日当たり必要な摂取量を示す。
【実施例2】
【0016】
実施例1において、ミネラル混合水溶液を以下に示す溶液;塩化マグネシウム、硫酸第一鉄、硝酸亜鉛、硫酸第二銅、塩化マンガン(II)、三塩化クロムおよび硝酸第一コバルトの混合水溶液(Mg2+=1.84モル/リットル,Fe2+=0.054モル/リットル,Zn=0.068モル/リットル,Cu2+=0.011モル/リットル,Mn2+=0.02モル/リットル,Cr3+=0.0003モル/リットル,Co2+=0.0003モル/リットル)に変更する以外は実施例1と同様に行った。乾燥品のX線回析パターンは水酸化マグネシウムのみであった。化学組成は次の通りであった。Mg0.922Fe0.0267Zn0.0342Cu0.0058Mn0.0109Cr0.0001Co0.0001(OH)。この粉末1g当たり各ミネラルの含量はMg=360mg,Fe=24mg,Zn=36mg,Cu=6mg,Mn=10mg,Cr=0.05mg,Co=0.05mgである。この量は、成人でほぼ2日分に必要なミネラル量に相当する。
【実施例3】
【0017】
実施例1で得られた乾燥前のケーキをホモミキサーで水に均一に分散し、水酸化マグネシウム固溶体濃度約200g/リットルのスラリーを10リットル作成した。このスラリーに、セレン酸ナトリウム(NaSeO)を392mg、ヨウ化カリウムを394mg、モリブデン酸(KMoO)50mgを予め500mlの水に溶解した液を攪拌下に加え、約20分間攪拌した。このスラリーを、スプレードライヤーを用い、入口温度200℃、出口温度80℃で乾燥した。乾燥物の分析の結果、実施例1に示すミネラルの種類と量は実質的に変わらず、それ以外にSe=0.07mg,ヨード(I)=0.15mg,Mo=0.01mgが含有されていた。
【実施例4】
【0018】
実施例3において、実施例1で得られた水酸化マグネシウム固溶体の代わりに、実施例2で得られた水酸化マグネシウム固溶体スラリーを用い、且つセレン、ヨード、モリブデンと共にBET比表面積2.6m/gの微粒子沈降炭酸カルシウムを1,400g添加し、十分に攪拌し、均一化後、実施例3と同様にスプレードライした。乾燥物は流動性が良く、そのまま錠剤に成型出来る。乾燥物の1g当たりのミネラル含量はCa=410mg,Mg=210mg,Fe=14mg,Zn=21mg,Cu=3mg,Mn=6mg,Cr=0.03mg,Co=0.03mg,Se=0.04mg,ヨード(I)=0.09mg,Mo=0.006mgであった。
【実施例5】
【0019】
および[比較例1〜4]
[酸に対する溶解性試験]動物による各ミネラルの吸収性は、胃酸による溶解性に依存すると考えられる。理想的な胃内pHが3〜5であるため、pH4におけるミネラルの溶解性を、pHスタットを用いて評価した。pHスタット(東亜電波製)を用い、人間の体温と同じ37℃に保った100mlの水に試料0.1gを添加し、pHを4に維持するために消費される0.1モル/リットル(ほぼ胃酸の濃度に相当)の塩酸量(ml)を経時的に測定した。試料は実施例1および2で得られた水酸化マグネシウム系固溶体[実施例5および6]、酸化亜鉛(試薬一級)[比較例1]、酸化第二銅(試薬一級)[比較例2]、炭酸マンガン(試薬一級)[比較例3]、水酸化二鉄[比較例4]をそれぞれ用いた。評価結果を図1に示す。図1で、塩酸の消費量は試料の溶解量に対応するため、塩酸の消費量が短時間で多く消費されるほど、試料の溶解性が高いことを意味する。
【0020】
図1から明らかな如く、本発明ミネラル補給剤はpH4でも良く溶解する。しかし、従来のミネラル補給剤としてよく使用されている酸化亜鉛は、少し溶解するが、酸化第二銅とか炭酸マンガンは殆ど溶解しない。
【実施例6】
【0021】
実施例1で得られた本発明ミネラル補給剤を毎日1g、3人の便秘性女性に一週間服用してもらった結果、2〜4日目から毎日便通が認められた。
【実施例7】
【0022】
80〜90%白髪の男性(50代)に実施例1で得られた本発明ミネラル補給剤を毎日500mg、二ヶ月間服用してもらった結果、約一ヶ月後から黒い髪が増えていることが観察された。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】pHスタットテスト結果を示す。設定pH=4,温度37℃縦軸:pHを4に維持するために消費された0.1m/lの塩酸量(ml)横軸:経過時間(分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(但し、式中、FeとMnは2価または2価と3価であり、MはCr3+,Co2+,Co3+,Ni2+の少なくとも1種以上を示し、x,x2,x3,x4,x,yおよびZは次の条件を満足する、x+x2+x3+x4=1,0<x<0.1,0<x2<0.2,0<x3<0.02,0<x4<0.04,0<x<0.15,0≦y<0.01,0≦z<0.05)で表される水酸化マグネシウム系固溶体を有効成分として含有する動物用ミネラル補給剤。
【請求項2】
式(1)の固溶体1モルにSe(セレン)、I(ヨウ素)およびMo(モリブデン)化合物の中から選ばれた少なくとも1種以上の超微量ミネラルMを0.01モル以下の量で、吸着または均一混合させた請求項1記載の動物用ミネラル補給剤。
【請求項3】
式(1)のx,x2,x3,x4およびxがそれぞれ次の範囲、0.006≦x≦0.04,0.007≦x2≦0.05,0.001≦x3≦0.009,0.002≦x≦0.02,0.01≦x≦0.1,にあることを特徴とする請求項1記載の動物用ミネラル補給剤。
【請求項4】
式(1)において、x,x2,x3,x4の割合がそれぞれ、x=0.35±0.1,x2=0.44±0.1,x3=0.77±0.016,x=0.136±0.027であることを特徴とする請求項1記載の動物用ミネラル補給剤。
【請求項5】
式(1)の固溶体または請求項2の混合物に、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リンゴ酸カルシウムおよびクエン酸とリンゴ酸の複合カルシウム塩の中から選ばれた少なくとも1種以上を10〜300%混合させた請求項1記載の動物用ミネラル補給剤。
【請求項6】
式(1)の固溶体とセレン、ヨウ素およびモリブデン含有化合物の1種以上を水媒体中で混合した後、スプレードライまたは凍結乾燥することを特徴とする動物用ミネラル補給剤の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−290780(P2006−290780A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112150(P2005−112150)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(391001664)株式会社海水化学研究所 (26)
【Fターム(参考)】