説明

動物用塗布剤

【課題】動物、特に犬の耳のマラセチア感染症に対して、即効性かつ持続性のあり、かつ使用が簡単な皮膚薬を提供する。
【解決手段】尿素およびクロルヘキシジン、好ましくはさらにグリセリンを含んでなる動物用塗布剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物用医薬品に関する。より具体的には、本発明は、犬の耳および体表に発生する皮膚病を治療するための動物用塗布剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
犬の飼い主は、自分が飼っている犬の耳からの異臭の発生をしばしば経験する。この病気の原因は、主にマラセチアという酵母菌(カビ)の繁殖によるものである。このカビは水虫に類縁する種であって、高温多湿の環境でよく繁殖する。この病気の治療には、まず患部である耳を掃除して清潔にした上で、患部に抗真菌剤や抗菌剤及びステロイド等を含む薬を塗布したり、当該病気の犬に抗真菌剤や抗菌剤を内服させるといった方法が従来からとられてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
患部に治療薬を塗布する方法は、内服させる方法に比べて直接的で即効性があるため、比較的よく用いられるが、通常、患部には厚い皮膚がまとわりついているため、薬の効きが悪く、2週間くらい毎日続けて病院に通って高価な薬を処方してもらう必要があり、また、そのようにすれば一時的には効果がみられるものの、処方をやめるとすぐにもとに戻ってしまうことが多いという問題がある。また、病院に行って薬の処方してもらう前に毎回シャンプーを行えば即効性及び持続性において改善された効果がみられるが、飼い主にとって毎日シャンプーを行う煩雑さは耐えがたいという問題がある。本発明は、これらの問題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、尿素およびクロルヘキシジンを含んでなる動物用塗布剤を提供するものである。本発明の動物用塗布剤は、尿素を2〜15重量%、クロルヘキシジンを0.05〜5重量%含む水溶液の形態で用いることが好ましい。また、本発明の動物用塗布剤は、さらにグリセリンを含むことが好ましい。この場合、本発明の動物用塗布剤は、尿素を2〜15重量%、クロルヘキシジンを0.05〜5重量%、グリセリンを0.05〜25重量%含む水溶液の形態で用いることが好ましい。なお、本発明の動物用塗布剤は、さらにTTオイルを0.1〜0.5重量%含む水溶液の形態で用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0005】
本発明の動物用塗布剤を、飼い主が自分で当該病犬の患部に塗布するようにすれば、処方のために毎日病院に通う必要はなく、また処方前に毎回シャンプーを行わなくても即効性及び持続性において改善された薬効が得られるため、上記の問題はいずれも解決されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の動物用塗布剤は、尿素およびクロルヘキシジンからなる組成物である。尿素を2〜15重量%、クロルヘキシジンを0.05〜5重量%含む水溶液の形態で用いることが好ましい。また、本発明の動物用塗布剤は、さらにグリセリンを含むことが好ましい。この場合、尿素を2〜15重量%、クロルヘキシジンを0.05〜5重量%、グリセリンを0.05〜25重量%含む水溶液の形態で用いることが好ましい。水で希釈して上記濃度になるように各成分を配合した濃縮液の形態で頒布するようにしてもよい。
【0007】
上記組成物中、尿素は、硬くなった患部の皮膚を柔らかくする効果がある。また、尿素はかなり深部まで浸透し、耳の中の軟骨までも柔らかくする。尿素の濃度が2重量%未満では効果が少なく、一方、15重量%を越えると余剰角質層の急速な融解により痒痛が生じるという問題がある。
【0008】
クロルヘキシジンは消毒剤であり、0.05重量%以上の濃度で含まれることにより、皮膚表面又は内部に繁殖するカビを殺すはたらきをもたらす。一方、クロルヘキシジンの濃度が5重量%を超えると、耐性菌は生じないものの過敏性を誘発する惧れが生じる。なお、クロルヘキシジンとは、下記式で表わされる1,6−ジ(4’−クロロフェニルジグアニド)ヘキサンの慣用名である。これには各種の酸付加体が存在するが、好適な酸付加体はグルコン酸クロルヘキシジンである。
【化1】

【0009】
また、グリセリンは保湿剤としての作用をもたらし、これが含まれると、皮膚に適度な湿分を保持させることにより、尿素やクロルヘキシジンの浸透を促すのに役立つため、好ましい。この効果は、グリセリンを0.05重量%以上含むことで現れる。一方、25重量%を超えると粘稠性が高くなりすぎて取り扱いにくくなるという問題が生じる。
【0010】
本発明の動物用塗布剤は、上記2成分または3成分の協同作用により治療の効果をもたらすものである。尿素だけでは、皮膚の融解が進行し、逆に皮膚が悪くなる場合がある。また、尿素+グリセリンでは、皮膚の融解の後、グリセリンの保湿性により治療の効果が現れる場合があるが、その場合であっても、一次感染がひどくなり痒みによる自虐行為にのって症状が悪化することが多い。なお、クロルヘキシジン単体では、感染に対する作用により患部に塗布すると一時的に症状が収まるが、再発しやすいという問題がある。
【0011】
本発明の動物用塗布剤は、好ましくは、さらにTTオイル(Tee Tree Oil)を含む。TTオイルは天然の抗生剤とでもいえるものであり、他の成分と相俟って抗真菌作用を強化するはたらきもあるが、むしろ、本発明の動物用塗布剤に好ましい香りを付与する目的で転化されるものである。そのためには、TTオイルが0.1〜0.5重量%の濃度で含まれることが好ましい。
【実施例1】
【0012】
尿素を5重量%、グリセリンを2重量%、クロルヘキシジン(グルコン酸の付加物)を0.1重量%含む水溶液を調製した。これを、実施例2〜4(治療例)において塗布剤として用いた。
【実施例2】
【0013】
パグ(5歳オス)は、耳が肥厚し、耳穴は綿棒を通すことができないほどで、耳上皮には感染が見られていた。1年間抗真菌剤の内服により治療を続けていたが、いっこうに治療の効果が現れていなかった。この犬の患部に、実施例1で調製した塗布剤を毎日塗布した。1ヶ月ほどで治療の効果がみられた。耳は柔らかくなり、発赤や腫脹も収まり、耳穴も開いてきた。
【実施例3】
【0014】
キャバリア(4歳メス)は、耳が腫脹し、耳上皮に感染が見られた。このような症状はキャバリアにはしばしば見られるものである。この犬の患部に、実施例1で調製した塗布剤を毎日塗布した。3週間ほどで、腫れや臭いの改善が認められ、耳穴も開口して、呼びかけによく応じるようになった。
【実施例4】
【0015】
シーズー(5歳オス)は、全身にマラセチアの感染によると思われる腫れが見られた。2年間シャンプーと抗生剤による治療を続けたが、症状の改善が見られなかった。この犬に、実施例1で調製した塗布剤を毎日塗布した。2週間ほどで治療の効果が現れ、痒みも収まってきたようである。ただし、痒みが再発しやすい状況なので、その後も定期的に塗布を続けている。塗布後は痒みが収まるようである。
【実施例5】
【0016】
M・ダックス(8歳メス)は、耳および四肢全体の皮膚が肥厚し、脱毛していた。尿素を5重量%、クロルヘキシジン(グルコン酸の付加物)を2重量%含む水溶液を調製し、これを1日3回塗布することにより治療を開始したところ、改善が見られた。さらに、保湿のため、グリセリンの2重量%水溶液を1日1回塗布したところ、さらなる改善が見られ、肥厚していた皮膚が柔らかくなり、臭いが消え、毛も生えてきた。
【実施例6】
【0017】
実施例1と同様にして、各成分の濃度が異なる2種類の塗布剤を調製した。その1は、尿素を3重量%、クロルヘキシジン(グルコン酸の付加物)を4重量%、グリセリンを20重量%含む水溶液である。これは、腋下部や膝下部など局部重度の状態や、病歴が長く慢性化している状態への一時的な使用の場合に用いるものである。その2は、尿素を10重量%、クロルヘキシジン(グルコン酸の付加物)を0.075重量%、グリセリンを1重量%含む水溶液である。これは、シャンプーをまめにできない動物(長毛種など)の皮膚の衛生管理や、暖房器具を好む小型動物での皮膚上の高温多湿状態での皮膚病予防に用いるものである。これらを実施例2〜4と同様にして塗布したところ、いずれの場合も2週間〜3ヶ月ほどで治療の効果が現れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素およびクロルヘキシジンを含んでなる動物用塗布剤。
【請求項2】
尿素を2〜15重量%、クロルヘキシジンを0.05〜5重量%含む水溶液の形態である請求項1記載の動物用塗布剤。
【請求項3】
水で希釈したときに尿素を2〜15重量%、クロルヘキシジンを0.05〜5重量%含む水溶液となるような濃縮水溶液の形態である請求項1記載の動物用塗布剤。
【請求項4】
さらにグリセリンを含んでなる請求項1記載の動物用塗布剤。
【請求項5】
尿素を2〜15重量%、クロルヘキシジンを0.05〜5重量%、グリセリンを0.05〜25重量%含む水溶液の形態である請求項4記載の動物用塗布剤。
【請求項6】
水で希釈したときに尿素を2〜15重量%、クロルヘキシジンを0.05〜5重量%、グリセリンを0.05〜25重量%含む水溶液となるような濃縮水溶液の形態である請求項4記載の動物用塗布剤。
【請求項7】
さらに、TTオイルを含んでなる請求項1または4記載の動物用塗布剤。
【請求項8】
尿素を2〜15重量%、クロルヘキシジンを0.05〜5重量%、TTオイルを0.1〜0.5重量%含む水溶液の形態である請求項7記載の動物用塗布剤。
【請求項9】
水で希釈したときに尿素を2〜15重量%、クロルヘキシジンを0.05〜5重量%、TTオイルを0.1〜0.5重量%含む水溶液となるような濃縮水溶液の形態である請求項7記載の動物用塗布剤。
【請求項10】
尿素を2〜15重量%、クロルヘキシジンを0.05〜5重量%、グリセリンを0.05〜25重量%、TTオイルを0.1〜0.5重量%含む水溶液の形態である請求項7記載の動物用塗布剤。
【請求項11】
水で希釈したときに尿素を2〜15重量%、クロルヘキシジンを0.05〜5重量%、グリセリンを0.05〜25重量%、TTオイルを0.1〜0.5重量%含む水溶液となるような濃縮水溶液の形態である請求項7記載の動物用塗布剤。

【公開番号】特開2006−143618(P2006−143618A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333306(P2004−333306)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(504426229)
【Fターム(参考)】