説明

動物用忌避剤

【課題】人体や環境に悪影響を与えることなく、猫や犬に対する高い忌避効果を長時間に亘って得られるようにする。
【解決手段】忌避成分として、サリチル酸メチル及びサリチル酸エチルの少なくとも一方と、ペッパーオイルとを含むことを特徴とする動物用忌避剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、猫及び犬を対象とした動物用忌避剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、猫や犬を対象とした忌避剤が知られており、特許文献1の忌避剤は、サリチル酸メチルを含んでいる。特許文献1には、猫や犬がサリチル酸メチルの香気成分を嫌い、これによって忌避効果が得られるとの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−48903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のような忌避剤を使用した場合、その忌避剤に初めて接する猫等は、サリチル酸メチルの独特の香気によって忌避行動をとる。これは猫等が持つ強い警戒心によるものである。すなわち、猫等は、嗅覚刺激を通じて「いつもと違う」をいう感じを持ち、それが不安感を起こさせ、その結果、忌避行動をとる。しかしながら、猫等は学習能力が高く、何らかの危害が加わる恐れが無いと分かると、サリチル酸メチルの香気に慣れて不安感を感じなくなり、忌避行動をとらなくなることが考えられる。
【0005】
また、猫等は、おかれている環境に慣れる性質が強く、いわゆる自分の縄張りを持っている。自分の縄張りには何度も訪れるので、縄張り内に特許文献1の忌避剤が置かれていても、その香気成分に1日で慣れてしまう可能性が高い。
【0006】
一方、猫等の忌避のために人体に危険な薬剤や環境を汚染する薬剤を使用することはできないという制約もある。
【0007】
つまり、猫等の比較的かしこい動物に対して、高い忌避効果を長時間持続させるのは困難であった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、人体や環境に悪影響を与えることなく、猫や犬に対する高い忌避効果を長時間に亘って得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、忌避成分としてペッパーオイルを利用した。
【0010】
第1の発明は、忌避成分として、サリチル酸メチル及びサリチル酸エチルの少なくとも一方と、ペッパーオイルとを含むことを特徴とするものである。
【0011】
この構成によれば、サリチル酸メチル及びサリチル酸エチルの少なくとも一方の特有の香気成分と、ペッパーオイルの特有の香気成分とが混ざった状態で忌避剤から放出されることになる。これら2種類の香気成分が一緒に存在することは、一般の猫等が行動する自然界にはなく、従って、猫等は嗅覚刺激を通じて不安感を感じ、忌避行動をとる。
【0012】
一方、上記2種類の香気成分が混合すると、猫等が何度嗅いでも慣れにくい特有の香りになる。これにより、忌避剤を猫等の縄張りに置いて使用しても、忌避剤の周りに猫等が近寄って来なくなる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、忌避成分としてメントールを含むことを特徴とするものである。
【0014】
この構成によれば、メントールの香気成分が、サリチル酸メチル及びサリチル酸エチルの少なくとも一方の香気成分と、ペッパーオイルの香気成分に加わることで、より一層独特な香りになり、猫等が確実に忌避行動をとるようになる。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明によれば、サリチル酸メチル及びサリチル酸エチルの少なくとも一方の特有の香気成分と、ペッパーオイルの特有の香気成分とが混ざった特有の香りが放出されるので、人体や環境に悪影響を与えることなく、猫や犬に対する高い忌避効果を長時間に亘って得ることができる。
【0016】
第2の発明によれば、メントールの香気成分が加わることで、より高い忌避効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】試験室の見取り図である。
【図2】本発明にかかる忌避剤と比較例1〜3の薬剤の忌避効果とを比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0019】
本発明にかかる動物用忌避剤は、例えば猫を対象としたものである。表1に示すように、忌避剤は、忌避成分と、忌避成分をしみ込ませたゼオライトとを有している。
【0020】
【表1】

【0021】
忌避成分は、複数の成分を混合してなるものであり、混合忌避成分と、サリチル酸メチルと、ペッパーオイルとを含んでいる。混合忌避成分は、シンナミックアルデヒド、イソトリデシルアルコール、リモネン、シトロネリルニトリル、α−アミンシンナミックアルデヒド、ジプロピレングリコール、酢酸イソブチル、酢酸エチルである。これら成分のうち、忌避効果を狙って配合しているのは、シンナミックアルデヒド、イソトリデシルアルコール、リモネンである。
【0022】
ペッパーオイルは、コショウオイルとも呼ばれるものであり、刺激系香辛料である。
【0023】
忌避剤中の各成分の配合量は、忌避剤全量を例えば400gとしたとき、混合忌避成分は10g、サリチル酸メチルは20g、ペッパーオイルは0.3g、ゼオライトは369.7gである。
【0024】
忌避剤の製造要領は、混合忌避剤、サリチル酸メチル及びペッパーオイルを混合して忌避成分の混合物を作っておき、この混合物とゼオライトとを混ぜ合わせてゼオライトに混合物をしみ込ませる。
【0025】
上記のようにして得られた忌避剤を例えば屋外に置くと、ゼオライトにしみ込んだ忌避成分がゼオライトから徐々に放出されていき、周囲には、サリチル酸メチルの特有の香気成分と、ペッパーオイルの特有の香気成分とが混ざった香りが漂うことになる。
【0026】
サリチル酸メチル及びペッパーオイルは人体に触れても害はなく、また、環境に悪影響を及ぼすことも殆どない。
【0027】
次に、本発明にかかる忌避剤と比較例1〜3の薬剤との忌避効果の比較試験について説明する。本発明にかかる忌避剤は表1に記載されているとおりに各成分の配合量が設定されている。
【0028】
一方、比較例1〜3の薬剤の成分及びその配合量は表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
比較例1の薬剤は、混合忌避成分のみをゼオライトにしみ込ませたものであり、サリチル酸メチル及びペッパーオイルを含んでいない。
【0031】
比較例2の薬剤は、混合忌避成分とサリチル酸メチルをゼオライトにしみ込ませたものであり、ペッパーオイルを含んでいない。
【0032】
比較例3の薬剤は、混合忌避成分とペッパーオイルをゼオライトにしみ込ませたものであり、サリチル酸メチルを含んでいない。
【0033】
忌避効果の比較試験は、図1に示す試験室で行った。試験室には、入口と窓とが1箇所ずつ設けられている。試験室内には、猫用トイレと水飲み場が設けられるとともに、A〜Dの4箇所の餌置き場が設けられている。
【0034】
A〜Dの各餌置き場には、100gの餌を餌かごに入れて置く。Aに置く餌かごには、本発明にかかる忌避剤を10g入れたメッシュ状の袋を取り付ける。Bに置く餌かごには、比較例1の薬剤を10g入れたメッシュ状の袋を取り付ける。Cに置く餌かごには、比較例2の薬剤を10g入れたメッシュ状の袋を取り付ける。Dに置く餌かごには、比較例3の薬剤を10g入れたメッシュ状の袋を取り付ける。
【0035】
試験室には、6歳の雄猫を2匹入れて放置しておく。
【0036】
試験結果を図2に示す。図2のグラフは、横軸に試験経過日数をとり、縦軸に各餌置き場に置いてある餌の減少量をとる。餌の減少量が少ないほど、猫の忌避効果が高いことを表している。1日経過して餌かご内の餌の重量を測定し、餌が減少していれば補充して100gとし、再び1日経過して餌の重量を測定する。これを繰り返し行った。
【0037】
試験開始1日目は、A〜Dに置いてある全ての餌の減少量は少なく、忌避効果が得られる。これは、本発明にかかる忌避剤及び比較例1〜3の薬剤の全てから香気成分が放出されていて、その香気成分に対して猫が「いつもと違う」をいう感じを持って忌避行動をとったためである。
【0038】
試験開始2日目は、比較例1については100g減少しており、餌かごに入れてあった餌の全量が無くなっている。これは、猫がBに置いてある餌かごに何度も接近しているうちに比較例1の香気成分に慣れてしまったためである。つまり、混合忌避成分中のシンナミックアルデヒド、イソトリデシルアルコール、リモネンは、忌避効果の持続期間が僅かである。
【0039】
比較例3については80g減少しており、餌かごに入れてあった餌の4/5が無くなっている。この理由も、猫が比較例3の香気成分、即ち、ペッパーオイルの香気成分に慣れてしまったためである。
【0040】
比較例2については約30g減少している。猫は、試験2日目で、はやくも比較例2の香気成分、即ち、サリチル酸メチルの香気成分に慣れはじめていることが分かる。
【0041】
これら比較例1〜3に対し、本発明は、餌減少量が0gであり、餌かごに入れてあった餌に口を付けていない。これは、サリチル酸メチルの特有の香気成分と、ペッパーオイルの特有の香気成分とが混ざった状態で忌避剤から放出されており、これら2種類の香気成分が一緒に存在することは、一般の猫等が行動する自然界にはなく、従って、猫等は嗅覚刺激を通じて不安感を感じ、忌避行動をとり続けているためである。
【0042】
試験開始3日目は、比較例1については100g減少している。また、比較例3については90g減少している。また、比較例2については60g減少しており、比較例2の香気成分に慣れてしまったことが分かる。
【0043】
本発明は、餌減少量が0gのまま継続している。サリチル酸メチル及びペッパーオイルの香気成分が混合すると、猫等が何度嗅いでも慣れにくい特有の香りになるためである。これにより、忌避剤を猫等の縄張りに置いて使用しても、忌避剤の周りに猫等が近寄って来なくなる。
【0044】
このように、猫は、比較例2のサリチル酸メチルの香気成分に試験開始から3日目で慣れてしまい、比較例3のペッパーオイルの香気成分には試験開始から2日目で慣れてしまうのに対し、本発明にかかる忌避剤の場合には、少なくとも3日目においてその餌かごの餌に全く口を付けていないので、猫を100%忌避する効果が長期間持続していることが分かる。すなわち、サリチル酸メチルとペッパーオイルとを忌避成分として含むことで、それら別々に含む比較例2,3の薬剤の忌避効果を単に組み合わせた以上の顕著な忌避効果が確認される。
【0045】
また、ペッパーオイルは天然抽出物でサリチル酸メチルに比べて高価であるが、表1に示すように配合量はサリチル酸メチルに比べて大幅に少なくても十分な効果が得られるので、忌避剤のコストは低く抑えることができる。
【0046】
また、混合忌避成分の配合量は、サリチル酸メチルよりも少ない方が好ましい。これにより、混合忌避成分中のシンナミックアルデヒド、イソトリデシルアルコール、リモネンの香気成分よりもサリチル酸メチルの香気成分が際立つようになり、ペッパーオイルの香気成分との相乗効果によって忌避効果が高まる。
【0047】
また、ペッパーオイルの配合量は、混合忌避成分よりも少ない方が好ましい。
【0048】
以上説明したように、この実施形態にかかる忌避剤によれば、サリチル酸メチルの特有の香気成分と、ペッパーオイルの特有の香気成分とが混ざった特有の香りが放出されるので、人体や環境に悪影響を与えることなく、猫や犬に対する高い忌避効果を長時間に亘って得ることができる。
【0049】
尚、忌避剤の忌避成分としては、サリチル酸メチルの代わりにサリチル酸エチルを使用してもよい。このサリチル酸エチルもサリチル酸メチルと同系の香気成分を持っているので上記したように忌避効果を長時間に亘って得ることができる。
【0050】
また、サリチル酸メチル及びサリチル酸エチルの両方を忌避成分に含めるようにしてもよい。
【0051】
また、忌避成分としてメントールを含んでいてもよい。メントールを含むことで、メントールに特有の香気成分が付加されることになり、この香気成分も一般の猫等が行動する自然界にはないものなので、忌避効果が得られる。
【0052】
また、上記実施形態では、忌避成分をゼオライトにしみ込ませるようにしているが、これに限らず、他の多孔質材にしみ込ませるようにしてもよいし、吸着材料に吸着させてもよい。
【0053】
また、忌避成分を液状にして散布して用いてもよいし、塗布して用いてもよい。
【0054】
また、本発明にかかる忌避剤は、自然界にない特有の香気成分を放出するので、犬に対しても忌避効果を長期間に亘って得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上説明したように、本発明にかかる動物用忌避剤は、例えば、猫や犬に対する忌避剤として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
忌避成分として、
サリチル酸メチル及びサリチル酸エチルの少なくとも一方と、
ペッパーオイルとを含むことを特徴とする動物用忌避剤。
【請求項2】
請求項1に記載の動物用忌避剤において、
忌避成分としてメントールを含むことを特徴とする動物用忌避剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−49636(P2013−49636A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187021(P2011−187021)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000112853)フマキラー株式会社 (155)
【Fターム(参考)】