説明

動物用排泄物処理シート及びその製造方法

【課題】シート表面に拡散する排泄物の面積を狭めることができる動物用排泄物処理シートを提供すること。
【解決手段】この動物用排泄物処理シート10は液透過性の表面シート20と、液不透過性の裏面シート30と、表面シート20と裏面シート30との間に配置され吸水性樹脂42と親水性繊維41とを含む吸水層40と、を備え、吸水層40は、好ましくは吸水性樹脂42より親水性繊維41に対して高い親和性を有する疎水化剤を更に含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、犬や猫等のペットの糞尿を処理するための動物用排泄物処理シート、及びその製造方法に関する。より詳しくは、液透過性の表面シートと、液不透過性の裏面シートと、両シートの間に配置され吸水性樹脂と親水性繊維とを含む吸水層と、を備える動物用排泄物処理シートに関する。
【背景技術】
【0002】
犬や猫等のペットの糞尿を処理するための動物用排泄物処理シートは、液透過性の表面シートと、液不透過性の裏面シートと、両シートの間に配置される吸水層とを基本構成としている。吸水層は、一般的に吸水性樹脂とパルプ等の親水性繊維とからなる。ここで、吸水性樹脂は高い吸水量と吸水保持力を有するが吸水速度の面で親水性繊維に劣る。一方、親水性繊維は、吸収量は低いが吸水速度の面では吸水性樹脂より早い。この両者の長所短所を組み合わせて、吸水初期には親水性繊維が主となって吸収拡散することで排泄物をキャッチし、その後に吸水性樹脂がそれを保持するという役割と担っている。
【0003】
ところで、動物は、動物用排泄物処理シート上のどの位置に排泄するかわからない。これは吸収性物品における排泄位置が通常特定されるヒト用の吸収性物品との大きな相違点であり、動物用排泄物処理シートが持つ固有の事情である。そして、当然ながら1枚のシートで複数の排泄を可能とすることが取替えの手間や経済性から好ましい。しかしながら、上記のようにシート上のどこに排泄するかがわからないうえに、動物は濡れた場所での排泄を嫌うために、一度排泄した場所では再度の排泄をしない傾向がある。
【0004】
このことから、一枚のシートで複数回の排泄を行うことを可能とするには、一度の排泄によってシート表面に拡散する排泄物の面積を狭めることが必要となる。つまり、排泄物の拡散を抑制するような吸収層の構成が、動物用排泄物処理シートにおいて求められる新規な要求性能、すなわち新たな課題として浮かび上がってくることになる。
【0005】
一般論として、下記の特許文献1に示すようにパルプ等の疎水化処理はいわゆるサイズ剤として公知である。しかしながら、サイズ剤は本来親水性の繊維に撥水性を付与するものであり、動物用排泄物処理シートのような排泄物を対象とする吸水性物品における親水性繊維の弱疎水化処理に適用することは知られていない。
【0006】
また、下記の特許文献2には、身体に接触するための吸収性物品において、吸収性樹脂を疎水処理することが記載されている。しかしながら、この目的は吸収性樹脂の吸収速度を低下させることで初期のゲルブロッキングを防止することにある。すなわち、特許文献2では、吸収性樹脂の吸収速度を低下させることで親水性繊維への拡散を図る構成となっており、上記のような排泄物の親水性繊維への拡散を抑制する思想は開示も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−25074号公報
【特許文献2】特開2003−88551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、従来技術においては、動物用排泄物処理シートにおいて排泄物の拡散面積を抑制するという課題がそもそも存在しないことから、これを解決する手段も知られていない。本発明は、上記のように動物の排泄行動から来る特有の事情に鑑み、一枚のシートで複数回の排泄を行うことを可能とするという従来に無い課題を解決することを目的としている。このような課題は動物用排泄物処理シートに特有の課題であり、排泄位置が特定される人用の吸収性物品からはそもそも生じない新規なものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討したところ、吸水層に、吸水性樹脂より親水性繊維に対して高い親和性を有する疎水化剤を更に含有することにより、吸水性樹脂の吸収速度や吸収量等の本来もつ物性を維持しつつも、親水性繊維を弱疎水化することができ、これによって、排泄物の広がりを抑えて排泄面積を小さくでき、1枚のシートで複数回の排泄を可能とすることを見出し本発明を完成するに至った。具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1)液透過性の表面シートと、液不透過性の裏面シートと、前記表面シートと前記裏面シートとの間に配置され吸水性樹脂と親水性繊維とを含む吸水層と、を備え、
前記吸水層は、前記親水性繊維を疎水化する疎水化剤を更に含有する動物用排泄物処理シート。
【0011】
(2)前記疎水化剤は前記親水性繊維の表面に存在する(1)記載の動物用排泄物処理シート。
【0012】
(3)前記疎水化剤が、高級脂肪族アルコール又は高級脂肪族アミンである(1)又は(2)記載の動物用排泄物処理シート。
【0013】
(4)前記高級脂肪族アルコール又は高級脂肪族アミンの炭素数が14以上20以下である(1)から(3)いずれか記載の動物用排泄物処理シート。
【0014】
(5)前記高級脂肪族アルコール又は高級脂肪族アミンの融点が30℃以上70℃未満である(1)から(4)いずれか記載の動物用排泄物処理シート。
【0015】
(6)前記疎水化剤の前記吸水層への添加量が、前記親水性繊維におけるパルプに対する質量%で0.11%以上1.1%以下である(1)から(5)いずれか記載の動物用排泄物処理シート。
【0016】
(7)直径60mmの円筒中に80ccの生理食塩水を10秒で滴下して2分後の表面シート側から見た拡散面積が300cm以下である(1)から(6)いずれか記載の動物用排泄物処理シート。
【0017】
(8)(1)から(7)に記載の動物用排泄物処理シートの製造方法であって、前記親水性繊維の表面に前記疎水化剤を付着させる工程を備える動物用排泄物処理シートの製造方法。
【0018】
(9)(1)から(7)に記載の動物用排泄物処理シートの製造方法であって、前記吸水性樹脂と前記疎水化剤とを、前記疎水化剤の融点以上の温度で混合して混合物を得る工程と、前記混合物を吸水層に配置する工程と、所定の温度と時間の経過によって、前記疎水化剤を前記親水性繊維の表面に移行させる工程と、を備える動物用排泄物処理シートの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、吸水性樹脂の吸収速度や吸収量等の本来もつ物性を維持しつつも、親水性繊維を弱疎水化することができる。そして、従来は吸水性樹脂が吸収開始する数秒の間に親水性繊維が吸水してしまうために排泄物の拡散が発生してしまうところ、本発明では親水性繊維の弱疎水化によってこの拡散速度が低下して拡散が抑制される。この状態で吸水性樹脂が吸収開始できるので、結果として排泄物の拡散が抑制でき、シート表面に拡散する排泄物の面積を狭めることができる。この作用は吸水速度の速い吸水性樹脂と組み合わせるとより効果的である。このため、1枚の動物用排泄物処理シートで複数回の排泄が可能となり、使用者が排泄物処理シートの使用期間を延ばして交換頻度を減らすことができるので経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の動物用排泄物処理シートを示す全体斜視図である。
【図2】図1のX−X線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することが出来る。
【0022】
[動物用排泄物処理シートの全体構造]
図1に示すように、本発明に係る動物用排泄物処理シート10は、全体として平面状に形成される。図1及び図2に示すように、動物用排泄物処理シート10は、液透過性の表面シート20と、液不透過性の裏面シート30と、これら表面シート20と裏面シート30との間に配置され、排泄物等の液体を吸収して保持する吸水層40と、を備える。動物用排泄物処理シート10の外周縁は、表面シート20と裏面シート30とがホットメルト接着剤により接合されている。
【0023】
動物用排泄物処理シート10の大きさは、対象動物や収容するケージの大きさによって適宜選択可能であり、特に限定されないが、長手方向(LD)が30から120cm、幅方向(WD)が20から100cmであることが好ましい。平面視における面積としては600cm以上12000cm以下が好ましい。
【0024】
表面シート20は、吸水層40を覆うように配置され、排泄物等の液体を吸水層40側に透過させる。表面シート20は液体が透過するものであれば特に限定されないが、例えば液透過性の不織布である。具体的には、親水ポリプロピレン繊維によるサーマルボンド不織布を用いることができる他、ポイントボンド不織布、スルーエア不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布等を用いることができる。
【0025】
裏面シート30は、吸水層40に対して表面シート20の反対側に配置され、動物用排泄物処理シート10において防漏層を構成する。裏面シート30は、実質的に液不透過性であればよく、具体的には、ポリエチレン非通気フィルムを用いることができる他、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の従来公知のフィルム材料を用いることができる。
【0026】
[吸水層]
本発明においては、吸水層40は親水性繊維41と吸水性樹脂42とから構成されている。図2に示すように、表面シート20側から、上層吸収紙413/上層吸水性樹脂421/上層親水性繊維411/下層吸水性樹脂422/下層親水性繊維412/下層吸水紙414、の順に積層されている。下層吸水紙414は吸水層40の全体を包み込むようにして両側辺が上層吸収紙413の両端部と重なるように配置されている。
【0027】
なお、図2において上層吸水性樹脂421は、上層吸収紙413と上層親水性繊維411の界面に均一に散布され、下層吸水性樹脂422は、上層親水性繊維411と下層親水性繊維412の界面に均一に散布されている。なお、この図は模式的なものであり、実際には吸水性樹脂42は親水性繊維41の繊維間に入り込んだ状態となっている。
【0028】
この実施形態においては、上層吸収紙413と上層親水性繊維411と下層親水性繊維412と下層吸水紙414とが本発明の親水性繊維41を構成し、上層吸水性樹脂421と下層吸水性樹脂422とが本発明の吸水性樹脂42を構成するが、本発明においては、吸水層40は親水性繊維41と吸水性樹脂42とを含んでいればよくこのような層構成に限定されない。
【0029】
上層吸収紙413と下層吸収紙414には、好ましくは、坪量(目付け量)が10〜35g/mの吸水紙を用いることができる。坪量が10g/m以上であると強度に優れ破れにくいので好ましく、35g/m以下であると過度に水分を吸収しないため好ましい。坪量のより好ましい範囲は12〜25g/mである。具体的には、針葉樹晒クラフトパルプを原料とするティッシュを用いることができる。
【0030】
親水性繊維41の一部を構成する上層親水性繊維411と下層親水性繊維412は、保水量が4倍以下の親水性材料、吸収性素材を用いることが好ましい。具体的には、動物用排泄物処理シート10における親水化繊維41の全体量が40g/mから400g/mのフラッフパルプその他のパルプ、再生パルプ、木粉等のセルロース系繊維、ポイントボンド、スルーエア等の不織布、発泡素材等を用いることができる。ここで、「保水量」とは親水性繊維41として用いる材料5gを水に10分間漬け込み、150Gで90秒間の遠心/脱水させたときの残吸水量をいう。なお、この親水性繊維41には後に詳細を示す方法によって表面に弱疎水化処理を行う。
【0031】
上層吸水性樹脂421と下層吸水性樹脂422とからなる吸水性樹脂42には、高分子吸収体が用いられる。例えば、ポリアクリル酸系ポリマー、デンプン−アクリル酸系ポリマー等の一般的に吸収性の高い樹脂を用いることができる。ここで、吸収性樹脂42の吸収速度は高いほうが好ましく、具体的には実施例にて説明するボルテックス法において20秒以下であることが好ましい。本発明の特徴は主に疎水化剤にあるが、これにより親水性繊維が弱疎水化される分、吸収性樹脂42の吸収速度を速くすることで、排泄物の拡散をより効果的に防止できる。この点、本発明の本質は、親水性繊維と吸水性樹脂との吸水速度と量のバランスを、動物用排泄物シートにおける排泄物の拡散という観点から最適化したものだということができる。
【0032】
[疎水化剤]
次に、本発明の特徴である吸水層40に含まれる疎水化剤について説明する。疎水化剤は親水性繊維41を弱疎水化するためのものである。そのためには、疎水性物質であり、かつ吸収性樹脂42より親水性繊維41に対して高い親和性を有するものが適している。前記疎水化剤として、具体的には高級脂肪族アルコールや高級脂肪族アミンを用いることができる。これらは、高級脂肪族の側鎖部分で疎水性を発揮しつつ、アルコールやアミンが、アクリル酸等の吸収性樹脂42に比べて親水性繊維41に対して高い親和性を有するため、吸収性樹脂42の吸水性を阻害せずに、親水性繊維41を弱疎水化できる。一方、高級脂肪族炭化水素(高級アルカン)は、親水基が全く無いので親水性繊維に対する親和性がなく好ましくない。また、高級脂肪酸(高級脂肪族カルボン酸)は、同じくカルボン酸を有する吸水性樹脂との親和性が高く好ましくないが、本発明においては後述するような付着方法等によってその効果が異なるために、一概にこれらを排除するものではなく、上記物質はあくまでより好ましい態様の例示である。
【0033】
また、後に実験例を挙げて詳述するが、本発明の疎水化剤は、この親水性繊維41への親和性を利用して、たとえ初期に疎水化剤を吸水性樹脂42に付着させたとしても、その後、経時的により高い親和性を有する親水性繊維41へ疎水化剤が移行して親水性繊維の疎水化処理が可能になるという優れた特徴を有している。そして、この方法によれば、疎水化剤の量が少なくても吸収性樹脂42の全体に均一に付着し、そこから均一に親水性繊維41へ疎水化剤が移行するので、親水性繊維41への直接噴霧方式に比べて同じ配合量であっても低拡散性を得ることができる。
【0034】
疎水化剤に用いる高級脂肪族アルコールや高級脂肪族アミンは炭素数が14以上20以下であることが好ましい。炭素数が14未満では液状化し易く取り扱いが困難であり親水性繊維からの脱落等により疎水処理が不十分となる恐れがあるので好ましくなく、炭素数が20を越えると液状化し難く親水性繊維への付着が困難となるので好ましくないが、本発明においては後述するような付着方法等によってその効果が異なるために、一概にこれらを排除するものではなく、上記炭素数はあくまでより好ましい態様の例示である。
【0035】
前記疎水化剤の融点については30〜70℃の間のものを用いることができるが、好ましくは40℃〜65℃である。この範囲内であれば、低温度環境下での吸収性樹脂42より親水性繊維41への移行性も充分であり、高温環境中での過剰な移行も抑制できるので好ましい。
【0036】
疎水化剤の量は、前記親水性繊維におけるパルプに対する質量%で0.11%以上1.1%以下が好ましく、より好ましくは0.28%以上1.1%以下である。また、前記動物用排泄物処理シートの単位面積あたりでは0.13g/m以上1.3g/m以下が好ましく、より好ましくは0.33g/m以上1.3g/m以下である。この範囲内とすることにより、親水性繊維に適度な弱疎水化を付与することができる。
【0037】
[疎水化剤の付与方法]
次に、疎水化剤の吸水層40への付与方法について説明する。本発明においては、疎水化剤の吸水層40への付与方法は特に限定されず、直接に親水化繊維41に付与してもよく、間接的に親水化繊維41に付与してもよい。間接的に付与する一例としては、吸水性樹脂42と疎水化剤をあらかじめ混合して、吸水性樹脂42と前記疎水化剤との混合物を得てから吸水層40に配置し、その後に疎水化剤が親水性繊維側に移行することによって付与することができる。
【0038】
吸水性樹脂42と疎水化剤を混合する方法の一例について説明する。吸水性樹脂42への疎水化剤の混合比率は適宜設定できるが。例えば吸水性樹脂42に対する質量%で0.5%以上2.0%以下である。まず、吸水性樹脂42と疎水化剤を混合し耐熱容器に入れ、次に、耐熱容器を疎水化剤の融点以上の高温水中で温めながら、吸水性樹脂42と疎水化剤を混合したものを10分間攪拌し、常温で冷却する。以上の処理を必要に応じて2乃至3回繰り返し実行することにより、吸水性樹脂42と疎水化剤との混合物を得ることができる。この状態では、疎水化剤の融点以上で処理するため、吸水性樹脂42の表面に疎水化剤がコーティングされた状態となっている。
【0039】
このコーティングされた吸水性樹脂は、従来公知の方法で例えば図2のように散布される。ここで、このようにして得られた動物用排泄物処理シート10の効果について、後述の実施例1(表3)を参照して説明する。この実施例1は疎水化剤として炭素数18の高級脂肪族アルコールである1−オクタデカノールを使用した結果である。下記表1に示すように、排泄物の拡散は、初期は300cm以上と大きいが、25℃で10日間後には240cmと小さくなっており拡散面積の減少効果が得られている。
【0040】
【表1】

【0041】
表1から明らかなように、本発明の疎水化剤は吸水性樹脂42より親水性繊維41に対して高い親和性を有するため、すなわち、疎水性物質でありながら親水性の官能基をも有するものであるため、所定の温度と時間の経過により、疎水化剤は親水性繊維41の表面へ移行して拡散面積を縮小することを裏付けている。ここで、25℃の10日間は動物用排泄物処理シートの製造後、購入者が使用するまでの期間としては充分な期間である。このことは、実際の製造から販売までの期間を考慮しても、常温流通で上記期間の放置によって親水性繊維41の弱疎水化処理が可能となることを裏付けるものであり実用的なものである。なお、この期間については、50℃×1日後でも充分に減少していることが確認できているため、後述の実施例において、すべて50℃×1日後における拡散面積をもって本発明の効果を確認した。
【0042】
なお、本発明においては、もちろん疎水化剤の親水性繊維41への付与方法はこれには限定されず、例えばトルエン等を溶媒として疎水化剤を溶解し、これを親水性繊維41に直接噴霧してもよい。
【0043】
以上のように、本発明によれば、吸水性樹脂42に混合された疎水化剤が、直接に親水性繊維41の表面に付着されるか、又は間接的に親水性繊維41の表面側に移行し、親水性繊維41が弱疎水化処理される。これにより、瞬間的なパルプ同士による毛細管現象による液拡散速度を低下させることができ、更に好ましくは高速度で吸収する吸水性樹脂42との相互作用により、排泄物の拡散面積を低減できる。そして、これにより1枚のシートで複数回の動物の排泄が実現可能になるという、従来にはない優れた効果を奏するものである。なお、本発明でいうところの拡散面積は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0044】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
[製造例(実施例1)]
下記に示す方法及び材料により、図2に示す構成の動物用排泄物処理シート10を製造した。
【0045】
実施例1においては、吸水層40への疎水化剤の付与方法として、吸水性樹脂42に混合した疎水化剤を親水性繊維41に移行させる方法を使用した。以下、吸水性樹脂42と疎水化剤との混合方法について説明する。
【0046】
吸水性樹脂42としては、ボルテックス16秒、平均粒径300μm、吸水倍率60倍、保水倍率40倍の高分子吸収体を使用した。上層吸水性樹脂421の使用量は、45g/m、下層吸水性樹脂422の使用量は21.6g/mとした。なお、ボルテックス法の数値は以下の手順で測定して得られたものである。
1)0.9%塩化ナトリウム水溶液(試薬1級)を25℃±1℃に設定し、
2)100mlビーカーに回転子を入れて1)の水溶液50gを加えて600rpmで攪拌させ、
3)ここに試験する吸水性樹脂の2gを投入してから、吸水膨潤によって液表面の動きがなくなるまでの時間をボルテックス(Vortex)秒として測定する。
【0047】
疎水化剤としては炭素数18の高級脂肪族アルコールである1−オクタデカノールの粉末状のものを使用した。吸水性樹脂42への疎水化剤の添加量については、吸水性樹脂42に対する質量%を0.5%とした(以下、このような、疎水化剤の吸水性樹脂42等に対する添加量の割合(質量比)を「処理率」という。例えば、本実施例1における処理率は0.5である。)。
【0048】
まず、吸水性樹脂42と疎水化剤を混合して耐熱容器に入れ、耐熱容器を80℃(他の実施例においても疎水化剤の融点以上の温度とした)の高温水中で温めながら、吸水性樹脂42と疎水化剤を混合したものを10分間攪拌した。次に、常温保管により吸水性樹脂42と疎水化剤を混合したものを常温まで冷ました。以上の処理を2乃至3回繰り返し実行することにより、吸水性樹脂42と疎水化剤の混合物を得た。
【0049】
次に、表面シート20と、裏面シート30と、吸水層40とから、動物用排泄物処理シート10を形成する工程について説明する。吸水層40を構成する吸水性樹脂42については、前記工程において得た吸水性樹脂42と疎水化剤の混合物を使用した。
【0050】
他の構成材料としては以下の仕様の部材を使用した。
表面シート20:坪量18g/mの親水ポリプロピレン繊維によるサーマルボンド不織布
裏面シート30:坪量18g/mのポリエチレン非通気フィルム
親水性繊維41:フラッフパルプを坪量60g/mに均一に積層したもの
上層吸収紙413及び下層吸収紙414:坪量14g/mの針葉樹晒クラフトパルプを原料とするティッシュ
【0051】
以上の構成材料を用いて、以下の通り、動物用排泄物処理シート10を製造した。まず、下層吸収紙414の上に下層親水性繊維412を配置し、更にその上に疎水化剤と混合した上記の混合物を下層吸水性樹脂422として均等に散布した。次に、下層吸水性樹脂422を覆うように上層親水性繊維411を重ねて配置した。重ねて配置した上層親水性繊維411の上面部に再度混合物である上層吸水性樹脂421を均等に散布した。次に、上層吸水性樹脂421上に水スプレー0.8gを噴霧して上層吸水性樹脂421の移動を防いだ。更に、上層吸水性樹脂421を覆うように上層吸収紙413を重ねて配置した。
【0052】
このようにして得られた下方から順に、下層吸収紙414、下層親水性繊維412、下層吸水性樹脂422、上層親水性繊維411、上層吸水性樹脂421、上層吸収紙413を重ねて配置した吸水層40全体にエンボスプレートを乗せて、油圧プレスを用い20g/cmで10秒間、プレスした。更に、フラットなアクリルプレートを吸水層40に載せて20g/cmで1秒間プレスした。その後、吸水層40の上層吸収紙413側の面に表面シート20を配置し、吸収体の下層吸収紙414側の面に裏面シート30を配置し、表面シート20と裏面シート30の周縁部同士をホットメルト接着剤を用いて張り合わせた。
【0053】
以上の工程を経て、全体として、LD405mm、WD300mmの大きさで、図1及び図2に示す構成の動物用排泄物処理シート10を製造して実施例1とした。
【0054】
[製造例(比較例、実施例2〜14、参考例1〜7)]
実施例1において、疎水化剤を一切使用しないで、つまり疎水化剤を吸水性樹脂42に付与する工程を経ずに製造したものを比較例とした。また、実施例1における疎水化剤の処理率及び疎水化剤を添加する部材を下記の表3のように変更したものを実施例2から10とした。また、実施例1における疎水化剤として使用する高級脂肪族アルコールの炭素数を下記の表4のように変更したものを実施例11から12及び参考例1とした。また、実施例1における疎水化剤として使用する高級脂肪族アルコールを高級脂肪族アミンに変更したものを実施例13とした。また、実施例1における吸水性樹脂42の散布位置を変更したものを実施例14及び参考例2とした。また、実施例1において、疎水化剤として使用する高級脂肪族アルコールを、高級脂肪酸に変更したものを参考例3から5とした。また、実施例1において、疎水化剤として使用する高級脂肪族アルコールを、高級炭化水素に変更したものを参考例6から7とした。
【0055】
[試験例1]
実施例、比較例、及び参考例について、動物用排泄物処理シート10の拡散低減性能効果を評価した結果を表3から表6に示す。
【0056】
なお、動物用排泄物処理シート10の拡散低減性能効果の測定は以下の手順で実施した。
1)50℃恒温室に表面シートを上に向けて無加圧状態で1日放置した動物用排泄物処理シート10の中央部に円筒(直径60mm、55g)を置き、円筒の中央部に80mlを10秒間で滴下する人工尿滴下用ビュレットを動物用排泄物処理シート10上面10mmにセットし、0.9%生理食塩水80cc滴下した。このとき、滴下開始時間を0秒とした。
2)動物用排泄物処理シート10に吸収され円筒と動物用排泄物処理シート10の界面の生理食塩水が無くなるまでの時間を測定し吸収速度とした。
3)滴下後2分後に生理食塩水の拡散長を製品長辺側、短辺側それぞれ測定した。拡散面積算出方法として、以下の手順で実施した。楕円形拡散の長編側最大拡散(a)mmと短辺側最大拡散長(b)mmを測定し、楕円面積公式(拡散面積(cm)=(a)/2×(b)/2×Π×0.01)を用いて算出した。
【0057】
【表2】

【0058】
本試験例において使用した疎水化剤と物質名、炭素数、融点は、上記表2の通りである。以下、各疎水化剤について略号にて区別する。
【0059】
【表3】

【0060】
表3の結果からわかるように、本発明においては、吸水性樹脂42に高級脂肪族アルコールを混合した場合(実施例1から4)には、いずれも比較例(拡散面積298.5cm)と比べて、10%以上の拡散面積の低減が見られた(実施例1における拡散面積は226.7cm)。疎水化剤の処理率が0.2%から2.0%の範囲では、疎水化剤の処理率が増加するほど拡散面積はより小さくなった。なお、表3〜6中の「g/P」は、動物用排泄物処理シート10、1枚当たりの疎水化剤を添加した吸収性樹脂の使用量(g)を表す。
【0061】
なお、実施例2の処理率0.2%では疎水化剤添加量が0.1328g/mであり(A)、パルプの量は坪量60g/mを上下2層有しているため計120g/m(B)である。このため、パルプに対する疎水化剤の質量%はA/B(%)で、(0.1328/120)×100=0.11%となる。同様に実施例1の処理率0.5%で計算するとパルプに対する疎水化剤の質量%は0.28%となり、処理率1.0%では0.55%になり、処理率2.0%では1.11%となる。この結果より0.11%以上1.1%以下がパルプに対する疎水化剤の好ましい質量%範囲である。
【0062】
親水性繊維41に高級脂肪族アルコールで直接疎水化処理を施した場合(実施例5から10)には、上層親水性繊維411に対して疎水化処理を施した場合は処理率が0.5%以上の場合に、比較例と比べて、10%以上拡散面積が低減した。下層親水性繊維412に対して疎水化処理を施した場合にも、処理率が1%以上の場合に、比較例と比べて、10%以上拡散面積が低減した。
【0063】
【表4】

【0064】
表4の結果からわかるように、本発明においては、疎水化剤として使用する高級脂肪族アルコールの炭素数が30より小さい場合(実施例11及び12)には、比較例と比べて、10%以上拡散面積が低減した。炭素数が30の場合(参考例1)には、拡散面積が低減しなかった。
【0065】
表4の結果からわかるように、本発明においては、高級脂肪族アミンを使用した場合(実施例13)には、高級脂肪族アルコールを使用した場合と同様にも、比較例と比べて、大幅に拡散面積が低減した。
【0066】
【表5】

【0067】
表5の結果からわかるように、本発明においては、上層吸水性樹脂421にのみ疎水化処理を施した場合(実施例14)には、比較例と比べて、若干、拡散面積が低減した。下層吸水性樹脂422にのみ疎水化処理を施した場合(参考例2)には拡散面積は、比較例と比べて、低減しなかった。
【0068】
【表6】

【0069】
表6の結果からわかるように、本発明においては、高級脂肪酸又は高級炭化水素を疎水化剤として使用した場合(参考例3〜5又は6〜7)には、比較例と比べて、拡散面積は低減しなかった。
【0070】
本発明に係る動物用排泄物処理シート10によれば、吸水性樹脂42より親水性繊維41に対して高い親和性を有する疎水化剤によって親水性繊維41を弱疎水化するという従来にない方法で、動物用排泄物処理シート10上で排泄物が拡散する面積を低減することができる。
【符号の説明】
【0071】
10 動物用排泄物処理シート
20 表面シート
30 裏面シート
40 吸水層
41 親水性繊維
411 上層親水性繊維
412 下層親水性繊維
413 上層吸収紙
414 下層吸収紙
42 吸水性樹脂
421 上層吸水性樹脂
422 下層吸水性樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液透過性の表面シートと、液不透過性の裏面シートと、前記表面シートと前記裏面シートとの間に配置され吸水性樹脂と親水性繊維とを含む吸水層と、を備え、
前記吸水層は、前記親水性繊維を疎水化する疎水化剤を更に含有する動物用排泄物処理シート。
【請求項2】
前記疎水化剤は前記親水性繊維の表面に存在する請求項1記載の動物用排泄物処理シート。
【請求項3】
前記疎水化剤が、高級脂肪族アルコール又は高級脂肪族アミンである請求項1又は2記載の動物用排泄物処理シート。
【請求項4】
前記高級脂肪族アルコール又は高級脂肪族アミンの炭素数が14以上20以下である請求項1から3いずれか記載の動物用排泄物処理シート。
【請求項5】
前記高級脂肪族アルコール又は高級脂肪族アミンの融点が30℃以上70℃未満である請求項1から4いずれか記載の動物用排泄物処理シート。
【請求項6】
前記疎水化剤の前記吸水層への添加量が、前記親水性繊維におけるパルプに対する質量%で0.11%以上1.1%以下である請求項1から5いずれか記載の動物用排泄物処理シート。
【請求項7】
直径60mmの円筒中に80ccの生理食塩水を10秒で滴下して2分後の表面シート側から見た拡散面積が300cm以下である請求項1から6いずれか記載の動物用排泄物処理シート。
【請求項8】
請求項1から7いずれか記載の動物用排泄物処理シートの製造方法であって、
前記親水性繊維の表面に前記疎水化剤を付着させる工程を備える動物用排泄物処理シートの製造方法。
【請求項9】
請求項1から7いずれか記載の動物用排泄物処理シートの製造方法であって、
前記吸水性樹脂と前記疎水化剤とを、前記疎水化剤の融点以上の温度で混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を吸水層に配置する工程と、
所定の温度と時間の経過によって、前記疎水化剤を前記親水性繊維の表面に移行させる工程と、
を備える動物用排泄物処理シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−205984(P2011−205984A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77744(P2010−77744)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000115108)ユニ・チャーム株式会社 (1,219)
【Fターム(参考)】