説明

動物解体面の保護方法および保護膜形成剤

【課題】 各種の動物を解体したときに露出する解体面からの血液等の液体の浸出、腐敗の進行、腐敗臭の拡散を防止して、動物の検査あるいは解体作業の環境を改善する。
【解決手段】 動物10を解体して内部組織を露出させた解体面12、22を保護する方法であって、前記解体面12、22に露出する動物内部組織に対する接合性を有する保護膜30で解体面12、22を覆う工程(a)を含む。解体面12、22が、死亡牛10のBSE検査のために切開された首部20の解体面12、22であり、工程(a)が、解体面12、22に粉体状の保護膜形成剤を散布し、解体面12、22に露出する動物の内部組織から浸出する液体との接触により保護膜30を形成させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物解体面の保護方法および保護材に関し、詳しくは、死亡牛のBSE検査において、検査用の内部組織を採取するために切開された動物の解体面など、解体面が露出した動物を一定期間保管しておくときに、この解体面を保護しておく方法と、このような保護方法に用いる保護膜形成剤とを対象にしている。
【背景技術】
【0002】
死亡牛のBSE検査では、死亡牛の首部を切開して、内部組織が露出した解体面から頭部側に採取具を挿入して、脳部分の延髄などの検査試料を採取する。採取された検査試料は、所定の検査、通常は簡易検査を行う。検査の結果、BSE陰性であれば、死亡牛は、利用できる部位を取り出したり加工したりする通常の解体処理に送られたり、焼却などの廃棄処分に送られたりする。検査の結果、BSE陽性の疑いがある場合は、さらに詳しい検査に送られたり、厳重に管理された状態で焼却処分が行われたりする。
前記した首部の切開を行う解体処理の際には、死亡牛を吸液シートや吸液マットの上に載せておき、解体面から出る血液等の体液が、周辺に散乱したり、床に付着したりしないようにしている。
【0003】
例えば、特許文献1には、柔軟な合成樹脂などの非透液シート材料で形成された浅い皿状をなす保持シートの上に、不織布片などが充填された吸液袋が収容された構造の吸液マットが提案されている。吸液マットの上に死亡牛の頭部を載せた状態で解体処理を行えば、解体時に大量に発生する血液等の体液を、吸液袋が効率的に吸収するとともに、保持シートの内部に溜まった体液が保持シートの外側に漏れたり作業場の床を汚したりすることが防止できる。作業終了後には、吸液袋とともに保持シートを焼却処分することができる。
なお、前記した説明からも判るように、死亡牛は、BSE検査のために首部が解体されたあと、少なくともBSE検査の結果が出るまでは、次の処理に送ることはせずに、一時的に保管される。この保管期間は、通常、数時間から1日あるいはそれ以上かかることもある。保管中の死亡牛は、徐々に腐敗が進んだり、内部組織から血液等の体液が浸出したりする。通常、大型の冷蔵倉庫などで保管することで、腐敗の進行や体液の浸出を抑えるようにしている。また、保管中の死亡牛の下には前記したような吸液シートを敷いておくことも行われる。
【特許文献1】特開2004−187553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
BSE検査の結果待ちのために保管中の死亡牛は、冷蔵倉庫などで保管していたとしても、腐敗の進行を完全に止めることはできず、腐敗は徐々に進行する。また、首部の解体面からは、血液などの体液の浸出が続く。腐敗によって発生する腐敗臭が、保管場所およびその周辺の環境を損なう。保管作業や保管場所からの移動作業、その後の処理作業を行う作業者にとって、耐え難い悪臭に悩まされる。特に、前記解体面から浸出した液体および解体面に露出する生体組織の腐敗が甚だしい。外部に露出している解体面から内部へと腐敗が進行し易い。
保管中の死亡牛の下に吸液シートを敷いていたとしても、吸液シートに吸収された浸出液は腐敗し悪臭を発生することになる。また、保管期間が長くなると、浸出液の量が多くなるため、吸液シートで吸収保持できずに、床面などに漏れてしまうこともある。
【0005】
以上の説明は、死亡牛のBSE検査について説明したが、同様の問題は、牛に限らず、豚などの家畜その他の動物を、各種検査のために一部を解体した状態のままで保管しておく必要がある場合にも発生することである。
本願発明の課題は、各種の動物を解体したときに露出する解体面からの血液等の液体の浸出、腐敗の進行、腐敗臭の拡散を防止して、動物の検査あるいは解体作業の環境を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる動物解体面の保護方法は、動物を解体して内部組織を露出させた解体面を保護する方法であって、前記解体面に露出する動物内部組織に対する接合性を有する保護膜で解体面を覆う工程(a)を含む。
〔対象動物および解体面〕
本発明の対象となる動物は、産業上の処理工程において、解体面を一定の期間にわたって腐敗や内部からの液体浸出を防ぐことが求められる動物である。
例えば、BSE検査が義務付けられている死亡牛のほか、食肉用などで一部が解体されて一時的に保管される牛も含まれる。牛以外の家畜、例えば、豚や羊、馬などが含まれる。鶏や鴨などの家禽類も含まれる。愛玩用動物や動物園、生物研究施設において飼育されている動物も含まれる。
【0007】
解体面は、動物の一部を切開したり切り取ったりしたあとに露出する動物の内部組織の露出部分である。解体面には、動物の筋肉組織、骨組織、血管組織その他の各種内部組織が混在して露出する。解体面は、解体の仕方によって、平坦な面であったり、曲面であったり、段差がついていたりする。骨と筋肉などの内部組織の違いによって凹凸が生じる場合もある。解体面は、動物の1個所だけに存在する場合と、複数の個所に存在する場合とがある。
〔保護膜〕
解体面を覆い、解体面に露出する動物の内部組織に対する接合性を有する。
【0008】
接合性とは、保護膜が動物の内部組織に対して、物理的あるいは化学的に一体的に接合されるものであってもよいし、粘着力によって接合するものや、動物内部組織から浸出する液体によって保護膜が解体面に貼り付くものであってもよい。接合力としては、自重で落下することがないことは勿論、動物を動かしたり外力を加えたりしても容易には剥がれないことが望ましい。
解体面を覆った状態で血液等の浸出を阻止する非透液性に優れたものが好ましい。臭いの漏れを阻止するには非通気性のものが望ましい。解体面と保護膜の間に、血液等が漏れるような隙間が生じないように密着できるものが望ましい。解体面の曲面や凹凸に沿う形態を取ることが望ましい。柔軟に変形したり伸縮したりすることで、解体面に沿わせることができるものでもよい。外部から解体面への空気や雑菌の侵入を阻止できるものが好ましい。
【0009】
保護膜の材料は、前記のような基本的機能が果たされれば、特に限定されない。保護膜の形態によっても、使用される材料や配合は変わる。合成材料あるいは天然材料からなる成膜材料が使用できる。
具体的には、土、泥、漆喰、石灰、セメント、合成あるいは天然材料からなる接着剤、糊、紙類、海苔、寒天、澱粉、糖類、硬質または軟質の発泡ウレタン、高分子保水剤、綿糸、化学繊維質類、木類、塗料類、洗剤、油脂類、アルコール類、鉄あるいは非鉄金属類、鉱物類、糖類などが挙げられる。複数の材料を組み合わせることもできる。
保護膜の材料は、保護膜を取り去った解体面あるいは動物に次の処理を施す際に悪影響を及ぼし難い材料を用いることが望ましい。例えば、次に別の検査を行う際に、検査の結果を誤らせる化学物質が含まれないほうがよい。動物を加工処理して利用する場合には、利用目的にとって有害な物質が含まれないほうがよい。動物を焼却などの廃棄処理に送る場合も、廃棄処理に悪影響を与えず環境汚染を起こし難い材料が望ましい。
【0010】
具体的には、保護膜の材料として、食品安全性が確認されている材料を使用すれば、解体面に保護膜の一部が残ったままの動物を、再利用するのに適している。畜産あるいは水産分野で、飼料などとして使用が認められている材料が好ましい。
保護膜の厚みは、目的とする機能が十分に発揮できる程度の厚みが確保されていればよい。保護膜を形成した動物の移動や取り扱い中に、保護膜の一部が損傷したり剥がれたりしない程度の厚みが必要である。保護膜の形態や材料によっても異なるが、通常は、0.1〜0.7mm程度の保護膜を形成しておく。保護膜の厚みは、全体が均一でなくても構わない。
【0011】
保護膜は、予め膜状に製造された保護膜フィルム、保護膜シートであってもよいし、解体面に供給したあとで膜が形成されるものであってもよい。
フィルムやシートの形態の保護膜は、解体面に沿って変形できる柔軟性を有するものが望ましい。なお、使用前は平坦な板状あるいは平面状であっても、解体面に貼り付けたときに、解体面に存在する水分などを吸収して柔軟化したり、解体面への接合性が生じたりするものであってもよい。例えば、水溶性あるいは水膨潤性の材料であれば、水分を吸収することで解体面に密着したり接合力が発生したりする。フィルムやシートは、解体面の全体を覆う大きさのものを1枚で使用してもよいし、解体面よりも小さな形状のものを複数枚、並べたり一部を重ねたりして使用するもできる。水分を吸収して接合力が生じるフィルムやシートであれば、重ねておくだけでも、互いに接合されて一様な保護膜になる。ロール状や大判状で供給されたフィルムやシートを、解体面の形状に合わせて切り取って使用することもできる。
【0012】
保護膜の材料を溶解あるいは分散させた保護膜形成液あるいは保護膜形成クリームあるいは保護膜形成ペーストなども使用できる。このような液状あるいはクリーム状、ペースト状の保護膜形成材料は、動物の解体面に、刷毛で塗布したりスプレー吹き付けしたりしたあと、化学反応や乾燥、冷却などの作用で膜を形成させることができる。
粉体状の保護膜形成剤を、解体面に散布し、散布された保護膜形成剤に解体面上で膜を形成させることもできる。
〔粉体状保護膜形成剤〕
粉体状保護膜形成剤は、供給形態は粉体状であるが、解体面に付着したときに解体面に存在する水分を吸収することで、粉体同士が結合したり溶解したりして、解体面を覆う膜を形成する。任意の形状や形態をなす解体面に散布することで、比較的に容易に、良好な保護膜を形成することができる。解体面に凹凸や曲面、段差などがあっても、粉体であれば、凹凸や曲面の全体に付着させて保護膜を形成させることができる。
【0013】
粉体状保護膜形成剤の材料としては、前記した合成および天然の材料が使用できる。
より具体的には、植物あるいは動物由来の有機物質が使用できる。例えば、穀物等の植物の粉、植物から抽出される澱粉、穀物を製造する際に発生する穀物殻などが使用できる。穀物殻には、米糠、麦糠、きび糠などの糠類が含まれる。木材加工において生成する木屑やおが屑、木粉を使用することもできる。動物由来の材料として、牛、豚、魚類などから得られるゼラチンがある。食肉製品の製造時に使用されている食肉接着剤が使用できる。食品用の防腐剤その他の添加剤も使用できる。さらに、防腐剤としてL−アスコルビン酸ナトリウム、食肉接着剤としてリン酸水素二ナトリウム(無水)、二リン酸ナトリウム(10水和物)、硫酸アンモニウムアルミニウム(12水和物)などが挙げられる。これらの材料を単独あるいは複数組み合わせて使用することができる。
【0014】
具体例として、ゼラチン、澱粉、食肉接着剤および麦糠を組み合わせることができる。ゼラチンは、動物由来の材料であるから、解体面への親和性に優れ、水分を吸収して膨潤し良好な膜を形成する。澱粉は、水分を吸収して溶解し良好な成膜性を発揮し、粘りのある膜を形成して、成膜状態でも解体面に対して良好な接合力を発揮する。保護膜の乾燥を防止する機能もある。食肉接着剤は、解体面と保護膜との接合力を向上させる。麦糠は、繊維質を多量に含み、成膜後の保護膜にさらなる水分吸収能力を与え、経時的に解体面から浸出する液体の吸収保持に有用である。これらの材料は全て、食品安全上、廃棄処理上の問題もない。具体的な配合として、ゼラチン30〜90重量%と、澱粉4〜60重量%と、食肉接着剤1〜10重量%と、麦糠5〜65重量%とを含むものが、各材料の機能を有効に発揮させることができる。より好ましくは、ゼラチン30〜70重量%、澱粉10〜50重量%、食肉接着剤2〜8重量%、麦糠5〜50重量%の配合である。
【0015】
粉体状保護膜形成剤は、粒径を適切に調整することで、取り扱い性や成膜性能を向上できる。使用する材料によっても異なるが、通常、平均粒径0.5〜5μmに設定できる。好ましくは、平均粒径0.5〜3μmである。
〔粉体状保護膜形成剤の使用〕
粉体状保護膜形成剤は、所定の材料を粉砕したり混合したり、混合粉砕したりして製造される。通常は、所定の材料が配合された混合粉体の形態で、販売流通および保管を行うことができる。非透湿性の袋や容器に収容した状態で取り扱うことが望ましい。粉体状保護膜形成剤に、防腐剤が配合されていれば、輸送保管における変質や劣化を防ぐことができる。
【0016】
動物の解体現場では、動物の一部を切開して解体面が形成され、検査などの所定の作業が終われば、直ちに、解体面に粉体状保護膜形成剤を散布することができる。解体面が血液等で濡れている状態で散布すればよい。解体面の存在する余分な血液等の水分を取り除いてから散布してもよい。乾燥状態の解体面に水分を供給してから粉体状保護膜形成剤を散布することもできる。
袋などの容器から取り出した粉体状保護膜形成剤は、手作業で解体面に均等に付着するように散布することができる。解体面が水平状態でなくても、解体面に存在する水分によって粉体状保護膜形成剤を解体面に付着させることができる。手作業であれば、解体面を観察して、不足している個所に追加散布したりする調整が行い易い。
【0017】
粉体材料の散布器や散布装置を用いることもできる。空気を圧縮して粉体散布用の圧力空気流を作りだしたり、粉体を空気流と混合して噴射したりする機構を備えた機器が使用できる。手動式の粉体散布ポンプなどが利用できる。粉体の薬剤を散布する技術が適用できる。このような機械的な散布は均等な散布が行い易い。
解体面に散布された粉体状保護膜形成剤は、解体面に存在する水分あるいは動物内部組織から浸出してくる水分を吸収することで、膨潤したり溶解したりしたあと、一様な膜すなわち保護膜を形成する。十分な範囲および厚さで保護膜が形成されるまで、解体面をそのままにしておくことが望ましい。保護膜の形成が不十分な個所には追加の粉体状保護膜形成剤を供給することもできる。
【0018】
粉体状保護膜形成剤は、保護膜を形成するのに必要十分な量を散布してもよいし、少し余分に散布しておくことができる。余分に供給された粉体状保護膜形成剤は、保護膜の形成後にも経時的に解体面に浸出してくる液体を吸収保持するのに有効である。
なお、粉体状保護膜形成剤と同様の材料配合に水などの液体を加えて、ペースト状の保護膜形成剤を調製しておき、このペースト状保護膜形成剤を解体面に塗布することで、保護膜を形成させることも可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる動物解体面の保護方法では、解体作業によって動物内部組織が露出した解体面を保護膜で覆っておくので、血液等の体液が外部に漏れることが確実に防止できる。浸出液からの悪臭の発生も抑えられる。解体面が覆われていれば、解体面からの腐敗臭の拡散も起こらず、解体面から内部に腐敗が進行することも防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1〜4に示す実施形態は、死亡牛のBSE検査における解体面の保護技術を示す。
〔BSE検査用の解体処理〕
図1に示すように、飼育農家などで死亡牛10が発生すると、直ちに、検査機関に持ち込まれ、BSE検査のための解体処理を行う。具体的には、死亡牛10のうち、頭部20の後付近の首部を切開Cする。切開部Cの長さは、死亡牛10の大きさによっても異なるが、通常、30cm程度である。切開部Cの両面は、動物の内部組織が露出した解体面12、22となる。なお、この解体処理時には、前記した特開2004−187553号公報に開示された吸液マットを使用することで、作業時に発生する大量の血液等の液体を回収することができ、作業場の床面などを汚すことが防止できる。
【0021】
図2は、解体面12、22を展開した状態を、模式的に単純化して示している。解体面12、22の大きさは、幅が約20cm程度で、長さは前記した切開部Cの長さの約2倍になる。両方の解体面12、22には、動物の内部組織が露出する。具体的には、皮18で囲まれた内側に筋肉などの内部組織が露出する。切開部Cで切断された首部分の骨14の切断面が露出する。骨14の内部を通る血管16も露出する。
頭部側の解体面22には、頭骨24の一部が露出している。頭骨24の下付近から採取具(図示せず)を差し込んで、脳部分の延髄を採取する。採取された検査試料は、BSE検査部門に送られる。
【0022】
検査試料の採取が終わった死亡牛10は、検査結果によって、その後の処理作業が違ってくる場合があるので、検査結果が判明するまで、一時的に保管される。通常、死亡牛10を大型冷蔵倉庫などに搬入して保管する。
〔解体面の保護作業〕
図3、4に示すように、検査試料の採取が終わった直後の死亡牛10に対して、解体面12、22を保護膜30で覆う作業を行う。
具体的には、粉体状保護膜形成剤を、解体面12、22の全体に散布する。保護膜形成剤の配合を以下に例示する。
【0023】

<保護膜形成剤の配合>
食品用ゼラチン粉末(粒径3μm):50重量部
澱粉(粒径1μm) :30重量部
食肉接着剤(粒径0.5μm) : 4重量部
麦糠(粒径0.1μm) :15重量部
食品用防腐剤(粒径0.1μm) : 1重量部

解体面12、22に散布された保護膜形成剤は、解体面12、22に露出する内部組織に含まれる水分および内部組織から浸出してくる液体を吸収して、膨潤したり溶解したり化学的に反応したりして、粉体同士が結合したり一様な膜を形成したりする。保護膜形成剤に含まれる成分は、解体面12、22に露出している筋肉や骨その他の動物内部組織に対して、化学的あるいは物理的に接合される。
【0024】
解体面12、22を、図2のように完全に展開した状態で保護膜形成剤を散布すれば、散布は行い易い。但し、解体面12、22がある程度の角度まで開いた状態であれば、両側の解体面12、22のそれぞれに向けて保護膜形成剤を付着させるように散布すればよい。図1、2では、解体面12、22は平滑な平面状に表されているが、実際の切開部Cは正確な平面にはならず、湾曲していたり凹凸があったり段差があったりする。特に、骨14、24と筋肉など異なる組織部分の間には段差や凹凸が付き易い。保護膜形成剤は、このような解体面12、22の凹凸を有する面の全体に付着するように散布する。
解体面12、22の大きさが、前記した幅20cm、全長60cm程度の場合、保護膜形成剤を500g程度の量で散布する。
【0025】
保護膜形成剤は、全量が解体面12、22に付着せず、一部は、保護膜30の表面に付着したままになったり、床面などに脱落したりする場合もある。保護膜30に付着した粉体は、そのまま付着させておけば、経時的に解体面12、22から浸出してくる液体の吸収保持に利用される。床面などに脱落した保護膜形成剤は、水で流したり拭い取ったりすることで容易に除去できる。保護膜形成剤は、食品に使用できる安全性の高い材料を組み合わせて構成されているので、保護膜形成剤が床面や排水を汚染する心配はない。死亡牛10の一部に保護膜形成剤が付着しても、その後の検査や利用処理に問題が発生することもない。
【0026】
〔保護膜の機能〕
保護膜形成剤が散布されてから一定の時間がたつと、解体面12、22の全体を隙間なく覆う保護膜30が形成される。例えば、解体面12、22の表面温度が20〜35℃程度の場合、保護膜形成剤の散布後、約1〜5分程度で、良好な保護膜30を形成させることができる。保護膜30の厚みは、保護膜形成剤の散布量によっても異なり、場所によって厚みの違いが出ることもあるが、例えば、約5mmの厚みになる。この段階では、散布された保護膜形成剤のうち、全量が一体となって保護膜30を形成しておらず、一部の保護膜形成剤は粉体のままで保護膜30の内部や表面に存在している状態であってもよい。
【0027】
保護膜30が形成されると、解体面12、22の内部から浸出してくる血液などの体液が、保護膜30の外に漏れ出ることが確実に阻止される。死亡牛10の解体面12、22から経時的に浸出する血液等の圧力はそれほど高くないので、解体面12、22に保護膜30が貼り付けられている程度で、十分に浸出を阻止することができる。保護膜30に、十分な水分吸収能力があれば、経時的に浸出してくる液体を吸収保持することができる。保護膜30は、臭いが外部に漏れることも防ぐ。外部から雑菌や蝿などが侵入することも遮断する。
特に、前記した配合の保護膜形成剤から形成された保護膜30には、膜形成能力に優れた澱粉、液体の吸収保持能力に優れた麦糠、動物由来の物質であって解体面12、22との親和性に優れ膜形成能力も高いゼラチン、解体面12、22との接着性が高い食肉接着剤を組み合わせているので、解体面12、22に迅速かつ強固な保護膜30が形成される。保護膜30は、解体面12、22の内部組織と強力に接合されるので、血液などの浸出を確実に防止できる。死亡牛10の姿勢を変えたり移動させたりしたときに外力や振動が加わっても、解体面12、22から保護膜30が剥がれることはない。
【0028】
〔その後の処理〕
<保 管>
解体面12、22が保護膜30で覆われた死亡牛10は、通常は、解体処理場所でそのまま保管されることは少なく、別の保管場所へと搬送される。
死亡牛10の解体面12、22は、保護膜30で覆われているので、保管場所への移動作業中に、解体面12、22から血液などが漏れたり、こぼれ落ちたりすることが防止できる。
保管場所は、通常、大型の冷蔵倉庫や冷蔵室あるいは冷凍庫が使われる。保管中に死亡牛10の体温が下がるが、死亡牛10の表面から内部までが、腐敗の進行を止められる温度まで下がるには、長い時間がかかる。したがって、保管中もある程度は腐敗が進行する。しかし、解体面12、22が保護膜30で覆われていれば、腐敗の進行は少なくなるとともに、腐敗臭が保管施設内に拡がることが防止できる。保護膜30は、通常の保管温度の下限である−20℃程度の環境では、解体面12、22との接着性を失って剥がれ落ちたり、脆くなって割れたりするような問題は起こらない。
【0029】
<その後の処理>
死亡牛10から採取された検査試料の検査結果がでれば、死亡牛10のその後の処理方法が決められる。
再度の検査や別の検査が必要であれば、保管されていた死亡牛10を次の検査へと送り出す。次の検査では、必要であれば、解体面12,22から保護膜30を取り剥がしてもよい。保護膜30をつけたままで、別の部位から検査試料を採取することもできる。保護膜30を剥がした解体面12、22から再び検査試料を採取する場合、保護膜30の一部が解体面12、22に残っていても、保護膜30には有害な化学物質等は含まれていないので、検査試料の採取に問題は生じない。
【0030】
BSE陽性の検査結果が出た死亡牛10は、最終的に焼却廃棄処理に送られる。焼却設備への搬送時にも、解体面12、22は保護膜30で覆われているので、感染性のある体液などが外部に漏れ出す心配はない。保護膜30は、通常の焼却処理条件で十分に焼却でき、焼却時に有害な物質が残留したり生成されたりすることもない。
BSE陰性の検査結果が出た死亡牛10は、産業的に利用できる部位については、適切な利用処理設備などへ送られることがある。その際の搬送中も、解体面12、22が保護膜30で覆われていれば、腐敗臭の拡散や腐敗液の漏洩などの周辺環境への悪影響を防止することができる。しかも、食品に添加しても問題のない材料で構成されていて安全性の高い保護膜30は、保護膜30で覆われたままの死亡牛10を利用したり、保護膜30を取り除いたあとに保護膜30の一部が残留したりしても、何らの問題は生じない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明にかかる動物解体面の保護方法は、例えば、死亡牛のBSE検査を実施する際に、検査試料の採取に必要な解体作業を終え、検査結果による以後の処理を待つ間における死亡牛の解体面を保護膜で覆っておくことで、解体面からの血液等の浸出、外部からの雑菌や害虫の侵入、悪臭の発生、腐敗の進行を、良好に防止することが可能になる。その結果、BSE検査の作業環境を良好に維持し、検査後の死亡牛の取り扱いを容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態を表す動物の解体作業を示す模式的側面図
【図2】解体面を示す模式的端面図
【図3】解体面に保護膜を形成した状態を示す模式的側面図
【図4】保護膜を形成した解体面の模式的端面図
【符号の説明】
【0033】
10 死亡牛
12、22 解体面
20 頭部
30 保護膜
C 切開部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物を解体して内部組織を露出させた解体面を保護する方法であって、
前記解体面に露出する動物内部組織に対する接合性を有する保護膜で解体面を覆う工程(a)
を含む動物解体面の保護方法。
【請求項2】
前記動物が、死亡牛であり、
前記解体面が、BSE検査のために切開された首部の解体面であり、
前記工程(a)が、前記解体面に粉体状の保護膜形成剤を散布し、解体面に露出する動物の内部組織から浸出する液体との接触により保護膜形成剤に前記保護膜を形成させる
請求項1に記載の動物解体面の保護方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載された動物解体面の保護方法に用いられ、
前記解体面に散布できる粉体状をなし、
散布状態で水分を吸収して前記保護膜を形成する成膜性を有し、
形成された保護膜は、非透液性および前記解体面に露出する動物の内部組織に対する接合性を示す
保護膜形成剤。
【請求項4】
ゼラチン30〜90重量%と、
澱粉4〜60重量%と、
食肉接着剤1〜10重量%と、
麦糠5〜65重量%とを含み、
平均粒径0.5〜5μmである
請求項3に記載の保護膜形成剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−50977(P2006−50977A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235543(P2004−235543)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(502281161)株式会社環境機器 (8)
【Fターム(参考)】