説明

動的圧力イオン源を用いる質量分析計

質量分析計は、パルス状イオン源と、パルス状イオン源によって生成されたイオンを閉じ込める第1のイオントラップであって、第1のイオントラップから続いて放出される閉じ込められたイオンの位置を特定するための第1のイオントラップ(10)とを有する。冷却ガスのパルスは、第1のイオントラップ(10)がイオンを閉じ込めることを可能にするのに適しているピーク圧において、第1のイオントラップ(10)に導かれる。ターボ分子ポンプ(17)は、閉じ込められたイオンが、第1のイオントラップ(10)から分析のための第2のイオントラップ(20)の方へ放出される前に、冷却ガスの圧力を減らす。パルス状イオン源は、第1のイオントラップ(10)の端壁を形成する試料プレート(14)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析計に関し、特に、マトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)イオン源などのパルス状イオン源を有する質量分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
MALDIイオン源は、生化学分析において広く使われてきた。典型的には、MALDIイオン源は、試料プレートの表面に置かれたマトリックスを形成するように放射線吸収性材料を混合された試料を含む。これは、レーザパルスによるマトリックスの照射に続いて、試料をイオン化するのを助ける。
【0003】
既存の機器として、飛行時間(TOF)質量分析計と結合したMALDIイオン源を含むものがある。しかしながら、このような計測器では、単純なMS分析を実行できるだけである。MALDIイオン源を他の質量分析器のより用途が広いタイプに結合するように、タンデム型質量分析を行うことに適しているハイブリッド・システムを開発するために、異なる種類のMALDI−MSインターフェースが、過去の10年にわたって開発されてきた。一般に、パルス状イオン源(例えばMALDIイオン源)によって、発生するイオンは、それらの質量に比例したエネルギーを有し、最も高い質量を有するイオンは最も広いエネルギー分布を有する。例えば、質量10,000Daを有し、最大速度1200m/secを有するイオンは、75eVと同じ程度の運動エネルギーを持ち得る。そのような高エネルギー・イオンは、MALDIイオン源等のパルス状イオン源と質量分析器との間のインターフェースを設計するときには問題となる。
【0004】
米国特許第6,576,893号は、パルス状遅延電圧の印加による高い真空静電レンズを経て、イオントラップにMALDIイオン源によって、発生するイオン・パルスを導く方法を記載する。
この方法は、高い大量のイオンがイオントラップの質量分析を受けるかまたはTOF分析器の次の分析のためのイオントラップから放出されることを可能にする。パルス状遅延電圧は、イオンの運動エネルギーを減らすためには効果的であるが、イオン化プロセスの結果としてイオンが獲得した内部エネルギーを減らすことはできない。また、これは、閉じ込められたイオンの望ましくない分裂を引き起こす可能性がある。
【0005】
米国特許第6,331,702号は、異なる技術を記載している。MALDIイオン源によって発生するイオンが、多重ポールイオン・ガイドを含むイオン経路を経て直交TOF分析器に送られるものである。イオン・ガイドは、MALDIイオン源および質量分析器の間のインターフェースとして機能して、パルス状イオンを準連続イオンビームに変換するのに効果的である。イオンの準連続イオンビームは、四重ポール分析器または速いパルスの直交TOFのために必要とされる。対照的に、四重ポールイオントラップへのイオンの連続導入は、困難である。
【0006】
高質量タンパク質イオン(例えば10,000Daを超える質量を有するイオン)は、イオンが多重ポール・イオン・ガイドに受け入れられることが可能となる前に、顕著に減少しなければならないような高い運動エネルギーを有する。これは、イオンを冷やして、エネルギーを減らすためにイオン経路に冷却ガスを提供することを必要とする。しかしながら、これを達成するためには、冷却ガスは比較的高い圧力(典型的には10−2ミリバールより大きな圧力)に維持することを必要とする。そして、イオン・ガイドの放電などの問題を引き起こすことがあり得る。この問題を解決するために、源領域よりも低いガス圧をイオン・ガイドにおいて使うことができるようにするために、差動ポンプが採用される。しかし、これはシステムの複雑さおよびコストを増加させる。さらに、10−2ミリバールの低さの圧力でさえ、イオン・ガイド内のイオンの軸運動は停止に事実上至り、イオンを分析のための分析器へ移す効率を顕著に減らす。米国特許出願公開第2005/0092912号は、移送効率を改善するためにイオン・ガイドに沿ってイオンを加速するのに用いる軸電界の供給を記載しているが、これもまた、より多くの複雑さおよびコストをシステムに加える。
【0007】
欧州特許出願公開第0964427号、米国特許第5,965,884号および米国特許第6,946,653号も、MALDIイオン源によって発生するイオンの運動エネルギーと内部エネルギーの両方を減らすための周囲ガスの使用を記載している。効果的な静電レンズシステムは、高圧が存在する源領域に組み込むことができないので、移送の高効率は達成するのが困難である。また、源のパルス状の性質は保存されず、この技術は、イオントラップ質量分析器のために用いることができない。
【0008】
論文、P. Kofer、「Matrix Assisted Laser Desorption/Ionisation Using a New Tandem Quadrupole Ion Storage Trap, Time of Flight Mass Spectrometer」、Rapid Communications in Mass Spectrometry Vol.10, 658-662, 1996 は、双曲面三次元イオントラップのMALDIイオン源によって発生するイオンを冷やすためのパルス状ガスの使用について記載している。この場合、MALDI試料は、双曲面三次元イオントラップの入口エンド・キャップ電極に取り付けられる試料プローブの先端に置かれる。しかしながら、このような仕組みは、分析のための試料の量および空間分布を制限し、特に、同じセッションの間に多数の試料の分析をできなくするので、満足できるものではない。さらに、イオントラップの環状電極およびエンド・キャップ電極の表層の汚染が起こりがちであり、それは、イオントラップの分析性能を劣化させる。
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,576,893号
【特許文献2】米国特許第6,331,702号
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0092912号
【特許文献4】欧州特許出願公開第0964427号
【特許文献5】米国特許第5,965,884号
【特許文献6】米国特許第6,946,653号
【非特許文献1】P. Kofer、「Matrix Assisted Laser Desorption/Ionisation Using a New Tandem Quadrupole Ion Storage Trap, Time of Flight Mass Spectrometer」、Rapid Communications in Mass Spectrometry Vol.10, 658-662, 1996
【発明の開示】
【0010】
本発明の目的は、MALDIイオン源のようなパルス状イオン源を有する質量分析計を提供し、少なくとも前述の課題を軽減することである。さらに詳細に述べると、イオンが質量分析のための質量分析計のイオントラップに、効率的に移送され、閉じこめられるように、パルス状イオン源によって、発生するイオンの運動エネルギーと内部エネルギーを減らすことが、本発明の目的である。
本発明の一態様によれば、
パルス状イオン源、
パルス状イオン源によって生成されたイオンを閉じ込める第1のイオントラップであって、前記第1のイオントラップから続いて放出される閉じ込められたイオンの位置を特定するための第1のイオントラップと、
第1のイオントラップが前記イオンを閉じ込めることを可能にするのに適しているピーク圧において、冷却ガスのパルスを前記第1のイオントラップに導くためのガス吸気手段と、
前記閉じ込められたイオンが、前記第1のイオントラップから放出される前に、前記冷却ガスの圧力を減らすためのポンプ手段と、
第1のイオントラップから放出されたイオンを受け取り分析するための第2のイオントラップと、を備える質量分析計であって、
前記パルス状イオン源が、試料が堆積し第1のイオントラップの端壁を形成する平坦な試料プレートを含み、パルス状イオンが第1のイオントラップ内部で発生する、質量分析計が提供される。
【0011】
減少されたガス圧は有益である。なぜなら、閉じ込められたイオンが、第1のイオントラップ低いエネルギー領域に、移動を可能にするからである。第1のイオントラップからは、イオンが比較的短い時間幅で放出される。したがって、この方法は、閉じ込められたイオンが第2のイオントラップに第1のイオントラップから移送される効率を改善できる。減少したガス圧は、また、質量分析を、差動ポンプを使用することなく、同じ真空室を共有する第2のイオントラップにおいて、実行することを可能とする。
【0012】
前記ポンプ手段は、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプであってもよい。
【0013】
前記ガス吸気手段は、ソレノイド・バルブ等の電磁気駆動弁またはピエゾ素子駆動弁を含むことができる。典型的には、前記ガス吸気手段は、5×10−2ミリバールから1ミリバールの範囲のピーク圧で、第1のイオントラップに冷却ガスの前記パルスを導き、前記ポンプ手段は圧力を、5×10−3ミリバール未満の圧力まで下げる。
【0014】
前記弁は、前記ポンプ手段によって得られるポンブダウン時定数より少ない期間の間、好ましくは5ms未満の間、開いているまま保たれる。
【0015】
好ましくは、前記ガス吸気手段の起動および前記パルス状イオン源の次の起動間に予め設定された遅延が存在する。
【0016】
好適な実施形態において、前記パルス状イオン源は、MALDIイオン源である。
【0017】
第1のイオントラップは、イオントラップの縦軸周辺に対称的に配列した複数の極を有する多ポール線形イオントラップ(好ましくは、四重ポール線形イオントラップ)であってもよい。多重ポール(好ましくは四重ポール)であってもよい。
【0018】
本発明の好適な実施形態において、前記多ポール線形イオントラップは、前記第1のイオントラップの後端に位置するゲート電極を有し、前記電極は、イオンを反射するか放出するために選択的にバイアスしている。
【0019】
第1のイオントラップにおいて軸方向DCポテンシャル井戸をつくるように前記ゲート電極がバイアスしており、それによって、第1のイオントラップからの放出の前に第1のイオントラップにおける前記閉じ込められたイオン雲の位置を決める。多ポール線形イオントラップは、分割された多重ポール(例えば四重ポール)線形イオントラップであってもよく、各ポールが、第1のイオントラップの後端に隣接した比較的短いセグメントを含み、前記DC軸方向ポテンシャル井戸を増大するために、前記後端に隣接した比較的短いセグメントがバイアスしている。あるいは、環状電極は、ゲート電極と、多ポール線形イオントラップのポールとの間で提供されてもよく、前記DC軸方向ポテンシャル井戸を増大するために、環状電極がバイアスしている。
【0020】
このバイアスの段取りで、閉じ込められたイオンは,冷却ガスが前記ポンプ手段によって減少すると、多ポール線形イオントラップ内で軸方向に移動でき、前記DCポテンシャル井戸の底に溜まることになり、そこに集合して短い卵形イオン雲を形成し、第1のイオントラップからただちに放出され得る。前記ゲート電極は、ゲート電極に向かう静電的な加速力に従うイオンの方に、バイアスされ得て、第1のイオントラップから第2のイオントラップに向かって放出を引き起こす。
【0021】
本発明の別の好適な実施形態では、前記第1のイオントラップは、縦軸を有する環状電極を含む円筒状イオントラップであり、前記平坦な試料プレートは、その前面にイオントラップの前記端壁を形成し、ゲート電極はその後端に、イオントラップの端壁を形成する。
【0022】
円筒状イオントラップの場合、DCバイアス手段は、第1のイオントラップから閉じ込められたイオンの放出を引き起こすために、前記平坦な試料プレートと前記ゲート電極との間に双極電界を確立するように配置され、前記第2のイオントラップが、放出されたイオンを妨害するために、更なる双極電界を確立するように配置される。
【0023】
第2のイオントラップは、放出されたイオンを受けることができ、受け取られるイオンの質量分析を実行することができるのに適切などのような形式であっても良く、分割された四重ポール線形イオントラップまたは双曲面三次元イオントラップのような四重ポール線形イオントラップを含む。
【0024】
第1のイオントラップおよび第2のイオントラップは両方とも線形イオントラップであってもよく、分割された線形イオントラップであってもよい。いくつかの実施形態では、第1のイオントラップおよび第2のイオントラップが、共通の縦軸上に連続に配置され、他の実施形態では、第1のイオントラップおよび第2のイオントラップは、並んで相互の平行軸上に配置され、第1のイオントラップから、第2のイオントラップへ前記平行軸に対して直交の方向にイオンを放出するために、閉じ込められたイオン放出手段が、配置される。
【0025】
第1のイオントラップないし第2のイオントラップが、RFドライブおよびDCバイアス電圧が使用のために印加される電気的伝導トラックを持つプリント回路基板から形成されたトンネル構造を備えている。
【0026】
本発明の実施形態が、添付の図面を参照して、実施例として記載される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1を参照する。質量分析計は、真空エンクロージャ3の内に存在するイオン化領域1および質量分析領域2を有する。以下に記載する全ての実施形態は、真空エンクロージャを含むことはいうまでもないが、説明を簡単にするために、図1においてのみ示すだけであることに留意する。イオン化領域1は、パルス状イオン源によって発生されたイオンを閉じ込めるために用いる第1のイオントラップ10を含み、質量分析領域2は、第1のイオントラップ10から放出されるイオンを受け取り、分析するのに効果的な第2のイオントラップ20を含む。質量分析領域2はまた、第2のイオントラップ20から放出されるイオンを検出するためのイオン検出器Dを含む。
【0028】
本発明による本実施形態において、第1のイオントラップ10は、四重ポール線形イオントラップであり、第2のイオントラップ20は、環状電極21および2本のエンド・キャップ電極22、23を備える双曲面三次元イオントラップである。
【0029】
2つのイオントラップ10、20は、共通の縦軸X−X上の連続的に配置される。
四重ポール線形イオントラップは、縦軸周辺に対称的に配置された4つの相互に平行なポール11を備える。ポール11には、使用中に、高電圧デジタルスイッチ回路の形の駆動ユニット12によって、生成した高周波矩形波形デジタル駆動電圧が供給される。正弦波形駆動電圧等の高周波駆動電圧の他のいかなる適切な形式のものも、代替として使用できることに留意する。正弦波形駆動電圧は、無線周波数から可聴周波数(非常に高い質量電荷比を有するイオンに適している)まで範囲の周波数を有することができる。更に詳細に後述するが、駆動電圧は、イオントラップ内部で放射イオン運動を拘束するのに効果的である高周波四重ポールフィールドを生成する。
【0030】
第2のイオントラップ20は同様にして駆動されるが、質量分析のためのより制御されたスキャン機能が提供される。
【0031】
イオン化領域1は、パルスレーザ13を備えるパルス状イオン源を含み、パルスレーザ13は、レーザ放射のパルスを、イオン・パルスを起こすのに適切な光学システムを経て試料Sに向けるように配置されている。試料Sは、第1のイオントラップ10の端壁を形成する電気伝導性の試料プレート14に置かれる。したがって、試料Sのパルス状照射によって発生するイオンは、イオントラップ内部で実際に生成され、これは、閉じ込めの効率を向上させる。試料プレート14は、モーター駆動X−Y操作卓(図示せず)を使用して、レーザー・ビームに対して適切に配置される。この装置によって、試料プレートに置かれる多数の試料を、試料を再ロードせずに個々に分析することができる。
【0032】
本発明の特にこの実施形態において、パルス状イオン源は、好適なMALDIイオン源であり、試料材料が、レーザ放射のパルスに露出するように試料プレート14に置かれるマトリックスを形成するために放射線吸収性材料を混ぜ合わせられる。この仕組みは、イオン化プロセスを助ける。代替的に、パルス状イオン源の他の既知のもの、例えば、パルス状2次イオン放出、高速原子衝撃、電子励起イオン化源等が使用できる。
【0033】
イオン化領域1はまた、電磁気駆動ソレノイド・バルブ15(または代替的に、ピエゾ素子駆動弁)を含む。冷却ガス(例えばArまたはHeガス)の高圧パルスを局所的に第1のイオントラップ10の内部へ、イオントラップのフロントエンドの近くに位置する注入チューブ16を介して注入するためである。ターボ分子ポンプのような高速のポンプ17が、続いて、イオントラップ内で5×10−3ミリバール未満まで、冷却ガスの圧力を減らす。ガスが、弁15と第1のイオントラップ10との間で移動する距離は、できるだけ短くなければならない。チューブ16の長さは、注入されたガスが急速にポンプで排出できてより短い圧力減衰時間に結果としてなるように、チューブの直径の20倍より小さくなければならない。
【0034】
第1のイオントラップ10は、イオントラップの後端に位置する円錐ゲート電極18を備えている。後述するように、ゲート電極18はイオンをイオントラップから放出するために用いられ、また、囲い込みプロセスを助けるためにも用いられる。
【0035】
DC電圧源(図示せず)は、第1のDCポテンシャルにおいて、ポール11上の平均的軸方向DCポテンシャルに関し試料プレート14をバイアスする。また、第2のDCポテンシャルにおいて、当該ポール上の平均的軸方向DCポテンシャルに関しゲート電極18をバイアスする。イオンが第1のイオントラップにおいて、閉じ込められている一方、第1および第2のDCポテンシャルは、両方とも、閉じ込められたイオンがそれぞれ正に荷電したイオンであるか負に荷電したイオンであるかどうかに依存して、ポール上の平均的DCポテンシャルより正であるか、より負である。したがって、正に荷電したイオンである場合には、ポール11上の平均的DCポテンシャルより正であるDCポテンシャルにおいて、平坦な試料プレート14とゲート電極18は、両方ともバイアスされる。DCバイアス電圧は、閉じ込められるイオンの質量範囲と線形イオントラップ10の長さに依存して、数十ボルトから数百ボルトの範囲にあり得る。そして、ゲート電極18上のDCポテンシャルは、必須ではないが好適には、試料プレート14上のDCポテンシャルより低い。平坦な試料プレート14上のDCポテンシャル、ゲート電極18およびポール11は、第1のイオントラップ10の縦軸上にポテンシャル井戸をつくるようなものであり、ポテンシャル井戸の底が、図2の曲線21で示すように、ゲート電極18に隣接して位置する。
【0036】
すでに、説明したように、パルス状イオン源によって発生された高質量イオン(例えば、10,000Daより大きな質量を有するイオン)は、一般に、典型的には100eVにおよぶような、高い運動エネルギーを有する。そして、このエネルギーは、イオンが第1のイオントラップ10内に能率的に閉じ込めることができる前に、減少しなければならない。そのために、冷却ガスの高圧パルスが、イオントラップに、チューブ16を介して、注入される。これによって、運動エネルギーと内部エネルギー減少させるような、パルス状イオンの迅速な冷却を生じさせ、イオンが、ポール11に印加される矩形波デジタル駆動電圧によって発生する四重ポール電界の影響を受けて、第1のイオントラップ10内に閉じ込められることを可能にする。
【0037】
イオンを閉じ込めるため、特に、高エネルギー、高質量イオンを閉じ込めるために、冷却ガスのパルスは、高いピーク圧を持たなければならず、ポンプで急速に減圧して、次の注入のため、イオンが容易に第1のイオントラップ内の適切な場所に移動できるようにしなければならない。
【0038】
急速にガス圧を高めるために、高圧ガスが、弁15の入口に供給される。典型的には、1気圧以上のヘリウムガスまたはアルゴンガスが用いられる。弁15を開いた状態に保つために用いる電気起動パルスは、100マイクロ秒程の短いものでよく、弁を連続的に開放に保つのに必要な電圧の10倍より高い電圧であってもよい。実際の弁の開放時間は、バルブヘッド回復時間に依存しているが、真空システムのポンブダウン時定数より少なくなければならず、典型的には5ms未満である。吸気弁15が開いている間、真空システムの内のガス圧は急速に増加する。理論的には、真空システムはポンプダウン時定数後、平衡圧に達する。これは、実効的ポンプ速度によって区分されるイオントラップ室の容量として規定される。例えば、真空室の容積が1リットルで、実効的ポンプ速度が、50リットル/秒であると仮定すると、ポンプダウン時定数は、20msである。この時間は、吸気弁15が開けられたときから、平衡圧に達するまでに必要な時間である。吸気弁の高圧ヘッドは、10−1ミリバールを超える圧力とする結果としてなるかもしれず、これは、吸気弁15が連続的に開いた状態に保たれている場合に、ターボ分子ポンプが作動するのを防止こととなる。しかしながら、吸気弁15は、平衡圧力に達する十分前に閉じる(典型的には、5ms未満)。それゆえ、最初の高圧力にさらされる第1のイオントラップ室の領域のみが、ガス注入チューブ16のすぐ近くにあり、この圧力は、吸気弁15が閉じると直ちに、低下し始める。
【0039】
ポンプダウン時定数20msの下で、イオントラップ室の中の圧力は、5×10−2つのミリバールから、約60msの間に、1×10ミリバールまで落ちることができる。この時間評価は、イオントラップ室中の詳細な構造や吸収/脱着の影響を考慮しておらず、実際には、より長い時間が必要かもしれないことに留意する。それにもかかわらず、記載された操作の手順は、短い高圧ガス・パルスが生成され、イオントラップ内で、差動ポンプを必要とせずにパルス状イオン源により生成された高運動エネルギー・イオンの迅速な冷却を引き起こすことを可能とする。冷却ガスのパルスが真空システムに注入されたあと、ガス圧が増加するために、パルス状イオン源が活性化するまでに、遅延(典型的には10ms)がある。通常、ガス圧をポンプで引くのに、60ms以上かかる。それゆえ、その間、同じ分析サイクルの間に、分析のための追加的なイオンを生成するために、連続したレーザパルスを試料Sの上に向けることが可能である。
【0040】
冷却ガスの圧力がポンプによって減少するにつれて、閉じ込められたイオンが、前述のポテンシャル井戸の底に向かって、移動することが可能である。ポテンシャル井戸の底では、短い卵形イオン雲を形成するように集合し、閉じ込められたイオンは、次に、この低いエネルギー領域から放出される。
【0041】
第1のイオントラップ10からいかなるイオンが放出される前に、第2のイオントラップ20に供給される矩形波デジタル駆動電圧は、放出されたイオンが第2のイオントラップ20のトラップボリュームに入ることを可能にするために、全く切断されるか、分析されるべきイオンの質量範囲により決定されるレベルより低いレベルにセットされる。この点に関しては、電圧を直ちに切断することが可能であるので、スイッチ回路によって生成した高周波の矩形波デジタル駆動電圧の使用が有利である。
【0042】
閉じ込められたイオンを第1のイオントラップ10から放出するために、ゲート電極18は、ポール11上の平均的DCポテンシャルより正でない(正に荷電したイオンのために)あるいは、より負でない(負に荷電したイオンのために)DCポテンシャルでバイアスされる。図2の曲線22は、放出プロセスの間、第1のイオントラップの軸に沿ったDCポテンシャルのバリエーションを図示し、曲線22から明らかなように、ゲート電極18上のDCポテンシャルは、ポール11上のDCポテンシャルの十分下である(典型的には、数十から数百ボルト低い)。それによって、第1のイオントラップから迅速な放出を引き起こしているゲート電極18の方へ、閉じ込められたイオンに加速力をかける。
【0043】
質量10,000Daを有する分析対象イオンに対して、放出されたイオンが第2のイオントラップの中心に着くために必要とされる時間は、40〜50マイクロ秒であり、これより、高い質量のイオンあるいは低い質量のイオンは、より長いあるいはより短い時間を要求する。図2の曲線22に示すように、第2のイオントラップ20の入口エンド・キャップ電極22上のDCポテンシャルは、放出されたイオンに、第2のイオントラップにおいて、妨害する力をかけるようにためにセットされる。第2のイオントラップ20の縦軸上のDCポテンシャルのバリエーションは、図2に示すように、実質的に、逆にされた二次形式を有するようにすることができ、したがって、最初に第2のイオントラップに入る、より軽い、より速いイオンを減速させて、より重い、より遅いイオンが、追いつくことができるようにし、それによって、第2のイオントラップに閉じ込められることができるイオンの質量範囲を広げ、移送効率を改善することができる。実質的に全ての放出されたイオンが第2のイオントラップ20の中心に到達すると、高周波の矩形波デジタル駆動電圧は、オンに戻されるか、正常レベルに戻され、そして、移送されたイオンを閉じ込める擬ポテンシャル井戸をつくる。これは、図2の曲線23により表される。
【0044】
冷却ガスが第1のイオントラップ10に供給されて、ポンプで排出されている間に、いくらかの冷却ガスが、第2のイオントラップ20に拡散する可能性がある。イオンが第1のイオントラップ10から第2のイオントラップ20まで移されるときに、第2のイオントラップ20の冷却ガスの圧力は、約1×10−3ミリバールの圧力に達することがあり得え、イオンを冷却して、質量分析処置を実行することに全く適している。このような質量分析処置は、前駆体隔離、衝突誘導分離および質量従属放出を含み、当業者には周知である。
【0045】
図1を参照して記載されている第1のイオントラップ10は、ポール11の単一の組を有し、ポール11が比較的短くない限り、イオントラップの軸に沿ってDCポテンシャルのバリエーションを満足するように、調整することはむずかしいことが分かる。
【0046】
図3(a)は、この問題を軽減する本発明の別の実施形態を示し、他の全ての点において、その動作は、図1に関して記載されている実施形態と実質的に同様である。図3(a)に示される構成要素の多くは、図1に示す、同様の参照番号を割り当てられたものと共通である。
【0047】
図3(a)を参照する。各ポール11は、分割され、比較的長い部分11’と、ゲート電極18に隣接したより短い部分11”とを備える。
【0048】
本実施形態において、高周波の矩形波デジタル駆動電圧は、容量カップリング30を経て両方の部分11’、11”に供給され、DC電圧源31は、より長い部分上の両方の軸方向のDCポテンシャルに関するセングメント上のDCポテンシャルを減らしているより短い部分11”に、DCバイアス電圧を供給し、これにより、ゲート電極18に、比較的短いイオンのパケットが閉じ込められる比較的狭いポテンシャル井戸をつくる。イオンのパケットが、第1のイオントラップ10から放出されるときには、ゲート電極18上のDCポテンシャルは、第1のイオントラップ10から第2のイオントラップ20に向かってイオン・パケットの急速な加速を引き起こしているより短い部分11”上のDCポテンシャルより低くされる。
【0049】
分割された線形イオントラップを使用することの更なる効果は、フリンジ場の効果が非常に減少するということであり、不必要なイオンの除去をより容易なものにする。冷却ガスの圧力が、10−3ミリバールより低い圧力になったあと、不必要なイオンは、適切な質量選択放出プロセスの適用によって、イオントラップから放出できる。これは、ポールへの四重ポールDC電圧の印加を含むことができ、高周波駆動電圧の振幅ないし周波数が、第2のイオントラップ20の次の分析のために、選択された質量電荷比のイオンのみを保持するように、調整され、それにより、前駆体イオン選択(数百まで)のための、許容される質量分解能を達成する。代替的に、質量選択放出プロセスは、例えば、既知の「SWIFT」または「FNT」技術を使用して、ブロードバンド補助駆動電圧の使用を含むことができる。
【0050】
図3(b)に示されている、異なる実施形態において、第1のイオントラップ10は、ポール11およびゲート電極18の間に位置する環状電極32を含む。DC電圧源31は、環状電極32の中心に軸方向ポテンシャル井戸をつくっているポール11上の平均的軸方向のDCポテンシャルより数ボルト低いDCポテンシャルを持つ環状電極32をバイアスする。冷却ガスによって冷やされたイオンは、着実にこの位置に移動して、ポール11に供給される高周波駆動電圧によって生成された、フリンジ四重ポール場により半径方向にかなり拘束されたDCポテンシャルによって、軸方向に閉じ込められる。そして、すでに記載したようにしてゲート電極18上のDCポテンシャルを減らすことによって、第1のイオントラップ10から放出されるまで、ポテンシャル井戸に留まる。
【0051】
図4は、本発明のさらに別の実施形態を示す。図4に示される構成要素の多くは、また、図1および3に示した同様の参照番号を割り当てられたものと共通である。本実施形態において、円筒状イオントラップ40は、図1および3に関して記載されている実施形態の線形イオントラップ10を置き換えたものである。
【0052】
円筒状イオントラップ40は、適切な高周波駆動電圧を供給される円筒状環状電極41を備え、高周波駆動電圧は、高周波矩形波デジタル駆動電圧あるいは正弦波形駆動電圧であってもよい。
【0053】
すでに述べたように、試料プレート14は、イオントラップ40の前端で、端壁を形成し、本実施形態において、ゲート電極18も、イオントラップ40の後端で、端壁を形成する。また、パルス状イオン源はMALDIイオン源であり、本実施形態において、レーザパルスは、第1および第2のイオントラップの縦軸X−Xに沿って、試料S上に向けられる。代替的に、レーザパルスは、円筒状環状電極41において形成された適切なウインドウを経て試料上に向けることができる。試料マスク42もまた、提供される。レーザパルスに露出される試料Sの一部は、試料マスク42の開口部43に整合し、試料Sの他の部分は、そのような露出および、イオン化プロセスの結果として発生したイオンへの露出から保護されている。レーザパルスのタイミングは、円筒状環状電極41に印加される駆動電圧の波形に関して、好ましくは予め定められた位相関係を有している。図5にて図示したように、正に荷電するイオンの生成に最適のタイミングは、矢印51により表されるように、駆動電圧の位相が270度と350度との間にあるときである。矢印52により表されるように、負に荷電したイオンの生成に最適のタイミングは、駆動電圧の位相が90度および170度の間にある時であるのに対して、これらの位相は、各波形のあがる部分での零交差点時間である、0度の位相に関して参照されている。
【0054】
前述のように、冷却ガスのパルスはチューブ16を経て、第1のイオントラップ40の内部に注入され、冷却ガスの圧力は、その後、ポンプによって減少する。試料Sのパルス状照射のタイミングと、冷却ガスの注入のタイミングとは、また、冷却ガスは注入された後の短い遅延をもって同期する。この結果、イオン雲は、第1のイオントラップ40の中心に閉じ込められる。
【0055】
閉じ込められたイオンを放出するために、双極電界が、試料プレート14および、第2のイオントラップ20の方向に閉じ込められたイオンに加速力をかけているゲート電極18の間で、急速に確立される。同時に、反対の極性の、双極電界が、第2のイオントラップ20の2つのエンド・キャップ電極22、23の間で確立されて、第2のイオントラップ20の閉じ込め領域に入るイオンが妨害され、イオントラップの中心の近くで停止にすることになる。イオンがこのような方法で移送されている一方、両方のイオントラップに供給される高周波駆動電圧が、オフにされるか、または低いレベルにセットされる。追加的な静電レンズ44が、移送されているときに、イオンを集中させるために、第1および第2のイオントラップ40、20の間に備えられる。
【0056】
軸X−X上の軸方向のDCポテンシャルは、第1のイオントラップ40の試料プレート14、ゲート電極18、環状電極41、および、第2のイオントラップ20の2つのエンド・キャップ電極22、23と環状電極21を適切にバイアスすることにより修正することができる。そして、これは、イオンがイオントラップの間で移送される効率を改善するのか、ないし、移送されるイオンの質量を増加するのかという、イオン移送の特徴づけをするために用いることができる。
【0057】
PCT/CA2005/00086に、イオン閉じ込めに必要な電界を生成するのに用いることができる電気伝導トラックを運んでいる印刷回路基板(PCB)から形成されるトンネル構造を有するイオントラップ装置と、装置の閉じ込め部分と分析部分との間のイオンの移送と、イオン分析について記載されている。
【0058】
図6は、この種の装置に基づく、本発明の他の実施形態を示す。
【0059】
図6を参照する。質量分析計は、共通の縦軸X−X上の連続して配置された第1の線形イオントラップ61および第2の線形イオントラップ71を備える。
【0060】
すでに記載したように、2つのイオントラップ61,71はトンネル構造を有し、適切な高周波駆動およびDCバイアス電圧を供給される電気伝導トラックを持つPCB62から形成される。すでに述べたように、第1のイオントラップ61はパルス状イオン源によって発生するイオンを閉じ込めるために用い、第2のイオントラップ71は、第1のイオントラップ61から放出されるイオンを受けて、分析するために用いる。また、パルス状イオン源は、好適なMALDIイオン源である。レーザパルスは、軸X−Xに沿って方向付けられ、第1のイオントラップ61の前端に端壁を形成する試料プレート65に置かれる試料Sの上に、適切なレンズシステム69によって、フォーカスされる。
【0061】
2つの線形イオントラップ61,71は、オリフィスを有するゲート電極63によって、分けられている。パルス状イオン源によって発生するイオンは、上述の実施形態に関してすでに記載されているような方法で、チューブ67を介して、第1のイオントラップ61の内部に導入されるパルス状冷却ガスの助けを借りて、第1のイオントラップ61内に閉じ込められる。すでに述べたように、冷却ガスの圧力は、ポンプによって、減少する。
【0062】
適切な高周波駆動電圧およびDCバイアス電圧が供給されるときには、電気伝導トラックは、半径方向にイオンを閉じ込めるための閉じ込め多重ポール場と、イオンを閉じ込めて、トンネル構造を軸方向に移送するためのDC場と、を生成することができる。この手段によって、第1のイオントラップ61に閉じ込められたイオンは、既知の方法で、直ちに分析のために、第2のイオントラップ71へ移送される。第2のイオントラップ71は、軸X−Xに対して直交に質量選択放出技術を用いることにより、第2のイオントラップ71から放出されたイオンを検出するイオン検出器64を含む。
【0063】
図7は、図6に関して記載されている実施形態と同様のトンネル構造を有する本発明の代替の実施形態を示す。この実施形態は、図6に関して記載されている実施形態と共通の構成要素を有し、それらは同様の参照数字を割り当てられる。
【0064】
この実施形態は、第1および第2のイオントラップ61,71が相互の平行軸X−X、Y−Y上に、並んで配置されるという点で、図6の実施形態と異なる。すでに述べたように、第1のイオントラップ61は、チューブ67を介してイオントラップの内部に導入されるパルス状高圧の冷却ガスの助けを借りてパルス状イオン源(再びMALDIイオン源)によって発生するイオンを閉じ込めるために用いられる。また、試料プレート65は第1のイオントラップ61の端壁を形成し、レーザパルスは軸X−Xに沿って試料Sにフォーカスされる。閉じ込められたイオンは、第1のイオントラップ61から放出されて、分析のために、軸X−XおよびY−Yに対して直交の方向に、第2のイオントラップ71に適切なスリットまたは穴を経て移送される。これは、図3に関して記載した放出プロセスと同様にして、第1のイオントラップ61における双極加速および第2のイオントラップ71における双極遅延を用いて達成できる。本実施形態において、要求される横断電界は、適切なパルス状電圧を、PCB構造上の電気伝導トラックに印加することによって生成される。図6に関して記載した実施形態の場合と同様に、第2のイオントラップ71は、軸X−XおよびY−Yに対して直交の質量選択放出技術を用いることにより、第2のイオントラップ71から放出されたイオンを検出するイオン検出器64を含む。さらに、第1のイオントラップ61内の冷却ガスの圧力が、ポンプにより適当なレベルに減少するとすれば、選択質量範囲のイオンは、質量選択共鳴放出を用いて、第2のイオントラップ71に移送することができ、そこで、タンデム型質量分析を実行することができる。
【0065】
一般に、記載した実施形態は、パルス状イオン源を、イオン移送におけるイオンの移動性の改善とともにイオンの高効率な冷却を可能とする動的なガス圧と結合して、採用しており、これにより、装置のコストと複雑さを増大する差動ポンプの必要性を減少あるいは除去しており、また、第1のイオントラップにイオンを閉じ込め、その後第2のイオントラップにイオンを質量分析のために放出する効率を改善する。いくつかの実施形態が正に荷電したイオンに関して記載されていたのであるが、当業者には明らかであるように、必要に応じて単に極性を逆転することにより、負に荷電したイオンについても、直ちに適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明による質量分析計の長手方向断面表現の概略図である。
【図2】図1の質量分析計の第1のイオントラップおよび第2のイオントラップでの、イオンの閉じ込めと、イオンの放出の両方における、軸方向DCポテンシャルの変化を示す図である。
【図3A】本発明による他の質量分析計の縦の断面表現の概略図である。
【図3B】本発明による他の質量分析計の縦の断面表現の概略図である。
【図4】本発明による、さらにもう1つの質量分析計の縦の断面表現の概略図である。
【図5】図4を参照して記載されている円筒状イオントラップの環状電極に印加される矩形波形駆動電圧および正弦波形駆動電圧に関するレーザ放射のパルスの最適なタイミングを説明する図である。
【図6】本発明による、さらに他の質量分析計の縦の断面表現の概略図である。
【図7】本発明による、さらに他の質量分析計の縦の断面表現の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス状イオン源と、
前記パルス状イオン源によって生成されたイオンを閉じ込め、閉じ込められたイオンの位置を特定する第1のイオントラップであって、前記放出は、閉じ込めに続く第1のイオントラップからの放出である、第1のイオントラップと、
第1のイオントラップが前記イオンを閉じ込めることを可能にするのに適しているピーク圧において、冷却ガスのパルスを前記第1のイオントラップに導くためのガス吸気手段と、
前記閉じ込められたイオンが、前記第1のイオントラップから放出される前に、前記冷却ガスの圧力を減らすためのポンプ手段と、
第1のイオントラップから放出されたイオンを受け取り分析するための第2のイオントラップと、を備える質量分析計であって、
前記パルス状イオン源が、試料が置かれる第1のイオントラップの端壁を形成する平坦な試料プレートを含み、前記パルス状イオンが第1のイオントラップ内部で発生する、質量分析計。
【請求項2】
前記パルス状イオン源が、レーザおよび、前記試料上へレーザ放射のパルスを向けるための手段を含む、請求項1に記載の質量分析計。
【請求項3】
前記パルス状イオン源が、マトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)イオン源である、請求項2に記載の質量分析計。
【請求項4】
前記ポンプ手段が、真空ポンプである、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項5】
前記ポンプ手段が、ターボ分子ポンプである、請求項4に記載の質量分析計。
【請求項6】
前記ガス吸気手段が、電磁気駆動弁を含む、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項7】
前記ガス吸気手段が、ピエゾ素子駆動弁を含む、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項8】
前記ガス吸気手段が、5×10−2ミリバールから、1ミリバールまでの範囲のピーク圧で、第1のイオントラップに冷却ガスの前記パルスを導く、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項9】
前記ポンプ手段が、前記圧力を、5×10−3ミリバールより小さい圧力に下げる、請求項8に記載の質量分析計。
【請求項10】
前記弁が、前記ポンプ手段によって得られるポンブダウン時定数より少ない期間の間開いている、請求項6又は請求項7に記載の質量分析計。
【請求項11】
前記期間が5ミリ秒未満である、請求項10に記載の質量分析計。
【請求項12】
前記ガス吸気手段の起動および前記パルス状イオン源の次の起動間に予め設定された遅延が存在する、請求項1ないし11のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項13】
前記第1のイオントラップが多ポール線形イオントラップである、請求項1ないし12のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項14】
前記多ポール線形イオントラップが、前記第1のイオントラップの後端に位置するゲート電極を含み、前記電極は、イオンを反射するか放出するために選択的にバイアスしている、請求項13に記載の質量分析計。
【請求項15】
第1のイオントラップにおいて軸方向DCポテンシャル井戸をつくるように前記ゲート電極がバイアスしており、第1のイオントラップからの放出の前に第1のイオントラップにおける前記閉じ込められたイオン雲の位置を決める、請求項14に記載の質量分析計。
【請求項16】
前記多ポール線形イオントラップが、セグメント化された多ポール線形イオントラップであり、各ポールが、第1のイオントラップの後端に隣接した比較的短いセグメントを含み、前記DC軸方向ポテンシャル井戸を増大するために、前記後端に隣接した比較的短いセグメントがバイアスしている、請求項15に記載の質量分析計。
【請求項17】
前記ゲート電極と前記第1のイオントラップのポールとの間に環状電極を含み、前記DC軸方向ポテンシャル井戸を増大するために、環状電極がバイアスしている、請求項15に記載の質量分析計。
【請求項18】
前記多ポール線形イオントラップが四重ポール線形イオントラップである、請求項13ないし17のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項19】
前記第1のイオントラップが、縦軸を有する環状電極を含む円筒状イオントラップであって、前記平坦な試料プレートが、その前面にイオントラップの前記端壁を形成し、ゲート電極はその後端に、イオントラップの端壁を形成する、請求項1ないし12のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項20】
前記環状電極に供給される高周波駆動電圧の位相が、負に荷電したイオンに対して90度から170度までの範囲にあるときに、正に荷電したイオンに対して270度から340度までの範囲にあるときに、前記パルス状イオン源が起動され、前記位相は、駆動電圧波形の上昇する部分の零交差時間に対して表現される、請求項19に記載の質量分析計。
【請求項21】
イオンが、放出される前に、円筒状イオントラップの幾何学的な中心にイオン雲を形成するように位置する、請求項19又は請求項20に記載の質量分析計。
【請求項22】
前記ゲート電極が、イオンに、第1のイオントラップから第2のイオントラップへイオンの放出を引き起こすゲート電極の方に、静電的加速力をかけるためにバイアスしている、請求項14ないし17のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項23】
第1のイオントラップから閉じ込められたイオンの放出を引き起こすために、前記平坦な試料プレートと前記ゲート電極との間に双極電界を確立するように配置されたDCバイアス手段を含み、前記第2のイオントラップが、放出されたイオンを妨害するために、更なる双極電界を確立するように配置される、請求項19ないし21のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項24】
前記第2のイオントラップが双曲面三次元イオントラップまたは四重ポール線形イオントラップである、請求項1ないし24のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項25】
四重ポール線形イオントラップが、セグメント化したポールを有する、請求項24に記載の質量分析計。
【請求項26】
第1および第2のイオントラップが両方とも線形イオントラップである、請求項1ないし18のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項27】
前記第1および第2のイオントラップが共通の縦軸上に連続的に配置される、請求項1ないし26のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項28】
前記第1および第2のイオントラップが、相互の平行軸上に並んで配置され、閉じ込められたイオンを放出するための手段が、前記平行軸に対して直交の方向に、第1から第2のイオントラップに、イオンを放出するために配置される、請求項1ないし26のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項29】
前記第1のおよび/または前記第2のイオントラップが、RFドライブおよびDCバイアス電圧が使用のために印加される電気的伝導トラックを持つプリント回路基板から形成されたトンネル構造を備えている、請求項1ないし28のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項30】
第1および第2のイオントラップの間に環状または円錐形静電レンズを備える、請求項1ないし29のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項31】
前記第1のおよび/または第2の前記イオントラップが、スイッチ回路によって生成される矩形波デジタル駆動電圧によって、駆動される、請求項1ないし30のいずれか1項に記載の質量分析計。
【請求項32】
実質的に図面を参照してここに記載された質量分析計。

【図1】
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【図2】
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【図3(A)】
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【図3(B)】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−521083(P2009−521083A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546603(P2008−546603)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【国際出願番号】PCT/GB2006/004804
【国際公開番号】WO2007/071991
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(500344585)シマヅ リサーチ ラボラトリー(ヨーロッパ)リミティド (8)
【Fターム(参考)】