動脈コンプライアンスを増加させるためのレラキシンの使用
【課題】動脈コンプライアンスを増加させるための方法を提供すること。
【解決手段】この方法は、一般的に投与を必要とする個体に有効量のレラキシンを投与する工程を包含する。本発明は、I型糖尿病またはII型糖尿病を有する個体に置ける動脈コンプライアンスを増加させる方法をさらに提供する。本発明は、閉経周辺期、閉経期または閉経後の女性における動脈コンプライアンスを増加させる方法をさらに提供する。本発明は、年齢関連の動脈の硬化を有するか、発症する危険性を有する個体における動脈コンプライアンスを増加させる方法をさらに提供する。
【解決手段】この方法は、一般的に投与を必要とする個体に有効量のレラキシンを投与する工程を包含する。本発明は、I型糖尿病またはII型糖尿病を有する個体に置ける動脈コンプライアンスを増加させる方法をさらに提供する。本発明は、閉経周辺期、閉経期または閉経後の女性における動脈コンプライアンスを増加させる方法をさらに提供する。本発明は、年齢関連の動脈の硬化を有するか、発症する危険性を有する個体における動脈コンプライアンスを増加させる方法をさらに提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願に対する相互参照)
本出願は、2004年3月19日に出願された米国特許出願第60/554,716号に対する優先権を主張し、その教示は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(連邦政府の後援研究に関する記述)
米国政府は、米国国立衛生研究所により資金援助された助成金番号RO1HL67937に従って、本発明における一部の権利を有し得る。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、動脈コンプライアンス、特に動脈コンプライアンスを増加させるためのレラキシンの使用の分野に属する。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
動脈コンプライアンスは明白な心臓血管疾患を有さない健常個体においても年齢とともに低下する。加齢に伴って大型および小型の動脈が圧力増加に応答して拡張する能力の低下が観察される。動脈コンプライアンスの年齢と結びついた低下は心臓血管疾患の発生の独立した危険因子であり、多くの他の病理学的状態に関連している。例えば、低下した動脈コンプライアンスはまたI型糖尿病およびII型糖尿病の両方に関連している。糖尿病の動脈は、非糖尿病個体の動脈と比較して加速された速度で老化するようであることが報告されている。例えば、非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;特許文献1;特許文献2を参照のこと。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,251,863号明細書
【特許文献2】米国特許第6,211,147号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Arnettら、「Am J Epidemiol.」、1994年、第140巻、p.669−682
【非特許文献2】Rowe、「Am J Cardiol.」、1987年、第60巻、p.68G−71G
【非特許文献3】Cameronら、「Diabetes Car.」、2003年、第26巻、第7号、p.2133−8
【非特許文献4】Kassら、「Circulation」、2001年、第104巻、p.1464−1470
【非特許文献5】Avolioら、「Circulation」、1983年、第68巻、p.50−58
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
動脈コンプライアンスを増加させる方法、および、低下した動脈コンプライアンスに伴うかそれにより生じる障害の処置に対する必要性がこの分野に存在する。本発明はこれらの必要性に取り組む。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、レラキシンレセプターアゴニストを含有する有効量の処方物で減少した動脈コンプライアンスを有する個体を処置する方法を提供する。好ましい実施形態において、レラキシンレセプターアゴニストは組換えヒトレラキシン、例えばヒトH2レラキシンである。
【0009】
本発明の1つの実施形態において、本発明は、被験体における動脈コンプライアンスを増加させる方法を提供し、この方法は以下:この被験体における全体的な動脈コンプライアンスを測定する工程;この全体的な動脈コンプライアンスが健常被験体における全体的な動脈コンプライアンスと比較してこの被験体において減少していることを決定する工程;および、この被験体における動脈コンプライアンスを増加させるためにレラキシンを含有する薬学的処方物をこの被験体に投与する工程を包含する。1つの実施形態において、全体的な動脈コンプライアンスは、面積法を用いて大動脈圧波形の拡張期の減衰から測定され得る。別の実施形態において、全体的な動脈コンプライアンスは、一回拍出量の脈圧に対する比として計算され、そしてこの一回拍出量は心拍出量の心拍数に対する比として定義される。
【0010】
関連する実施形態において、被験体の局所的動脈コンプライアンスまたは限局的な動脈コンプライアンスは、全体的な動脈コンプライアンス測定に加えて、またはその代替として測定され得、そして、局所的または限局的な動脈コンプライアンスが同様の状況下の健常個体で期待される局所的または限局的な動脈コンプライアンスと比較して減少している場合に、レラキシンが投与されてその個体における動脈コンプライアンスを増加させ得る。
【0011】
さらに別の実施形態において、レラキシンが投与される被験体は以下の障害:アテローム性動脈硬化症、I型糖尿病、II型糖尿病、冠状動脈疾患、硬皮症、脳卒中、拡張期機能不全、家族性高コレステロール血症、孤立性収縮期高血圧、原発性高血圧、二次性高血圧、左室肥大、長期間喫煙に関連する動脈壁の硬化、肥満に関連する動脈壁の硬化、年齢に関連する動脈壁の硬化、全身性エリテマトーデス、子癇前症および高コレステロール血症の1つ以上に罹患している。関連する実施形態において、本発明は閉経周辺期、閉経期または閉経後の女性における、そして上記の障害の1つの危険性を有する個体における、動脈コンプライアンスを増加させる方法を提供する。
【0012】
本発明のさらなる実施形態において、レラキシンの投与は、投与前に測定された動脈コンプライアンスと比較して少なくとも10%、15%、20%またはそれより多く動脈コンプライアンスを増加させる。なおさらなる実施形態において、本発明は、減少した動脈コンプライアンスを有する個体への、0.5〜80ng/mlの血清レラキシン濃度を維持するような所定の速度でのレラキシンの投与を提供する。1つの実施形態において、レラキシンは組換えヒトレラキシンである。なお別の実施形態において、レラキシンは組換えH2レラキシンである。関連する実施形態において、レラキシンは毎日、注射可能な処方物中で、徐放性処方物として、または、連続注入として投与され得る。
例えば、本発明は以下を提供する:
(項目1)
被験体における動脈コンプライアンスを増加させるための方法であって、該方法は、以下:
該被験体における全体的な動脈コンプライアンスを測定する工程;
該全体的な動脈コンプライアンスが健常被験体における全体的な動脈コンプライアンスと比較して該被験体において減少していることを決定する工程;および
該被験体における動脈コンプライアンスを増加させるためにレラキシンを含有する薬学的処方物を該被験体に投与する工程、
を包含する、方法。
(項目2)
前記全体的な動脈コンプライアンスが面積法を用いて大動脈圧波形の拡張期の減衰から測定される、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記全体的な動脈コンプライアンスが一回拍出量の脈圧に対する比として計算され、そして該一回拍出量が心拍出量の心拍数に対する比として定義される、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記被験体における前記全体的な動脈コンプライアンスが、該被験体への前記薬学的処方物の投与後少なくとも10%増加する、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目5)
前記被験体における前記全体的な動脈コンプライアンスが、該被験体への前記薬学的処方物の投与後15〜20%増加する、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目6)
前記薬学的処方物が、レラキシンの血清中濃度を0.5〜80ng/mlに維持するように所定の速度で前記被験体に投与される、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目7)
前記レラキシンが組換えヒトレラキシンである、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目8)
前記薬学的処方物が毎日投与される、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目9)
前記薬学的処方物が注射可能な処方物である、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目10)
前記薬学的処方物が徐放性処方物である、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目11)
前記薬学的処方物が連続注入により送達される、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目12)
前記被験体が、アテローム性動脈硬化症、I型糖尿病、II型糖尿病、冠状動脈疾患、硬皮症、脳卒中、拡張期機能不全、家族性高コレステロール血症、孤立性収縮期高血圧、原発性高血圧、二次性高血圧、左室肥大、長期間喫煙に関連する動脈壁の硬化、肥満に関連する動脈壁の硬化、年齢に関連する動脈壁の硬化、全身性エリテマトーデス、子癇前症および高コレステロール血症からなる群より選択される1つ以上の病気と診断される、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目13)
前記被験体が閉経周辺期の女性、閉経期の女性または閉経後の女性である、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目14)
被験体における動脈コンプライアンスを増加させるための方法であって、該方法は、以下:
該被験体における局所的な動脈コンプライアンスを測定する工程;
該局所的な動脈コンプライアンスが、健常被験体における全体的な動脈コンプライアンスと比較して該被験体において減少していることを決定する工程;および
該被験体における動脈コンプライアンスを増加させるためにレラキシンを含有する薬学的処方物を該被験体に投与する工程、
を包含する、方法。
(項目15)
前記被験体における前記局所的な動脈コンプライアンスが前記薬学的処方物の投与後少なくとも10%増加する、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記被験体における前記動脈コンプライアンスが前記薬学的処方物の投与後15〜20%増加する、項目14に記載の方法。
(項目17)
前記薬学的処方物が、レラキシンの血清濃度を約0.5〜80ng/mlに維持するように所定の速度で前記被験体に投与される、項目14に記載の方法。
(項目18)
前記レラキシンが組換えヒトレラキシンである、項目14に記載の方法。
(項目19)
前記薬学的処方物が毎日投与される、項目14に記載の方法。
(項目20)
前記薬学的処方物が注射可能な処方物である、項目14に記載の方法。
(項目21)
前記薬学的処方物が徐放性処方物である、項目14に記載の方法。
(項目22)
前記薬学的処方物が連続注入により送達される、項目14に記載の方法。
(項目23)
前記被験体が、アテローム性動脈硬化症、I型糖尿病、II型糖尿病、冠状動脈疾患、硬皮症、脳卒中、拡張期機能不全、家族性高コレステロール血症、孤立性収縮期高血圧、原発性高血圧、二次性高血圧、左室肥大、長期間喫煙に関連する動脈壁の硬化、肥満に関連する動脈壁の硬化、年齢に関連する動脈壁の硬化、全身性エリテマトーデス、子癇前症および高コレステロール血症からなる群より選択される1つ以上の病気と診断される、項目14に記載の方法。
(項目24)
前記被験体が閉経周辺期の女性、閉経期の女性または閉経後の女性である、項目14に記載の方法。
(項目25)
被験体における動脈コンプライアンスを増加させるための方法であって、該方法は、以下:
該被験体における限局的な動脈コンプライアンスを測定する工程;
該被験体における限局的な動脈コンプライアンスが健常被験体における全体的な動脈コンプライアンスと比較して該被験体において減少していることを決定する工程;および
該被験体における動脈コンプライアンスを増加させるためにレラキシンを含有する薬学的処方物を該被験体に投与する工程、
を包含する、方法。
(項目26)
前記限局的な動脈コンプライアンスが脈波速度を用いて測定される、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記被験体における前記限局的な動脈コンプライアンスが、該被験体への前記処方物の投与後少なくとも10%増加する、項目25に記載の方法。
(項目28)
前記被験体における前記限局的な動脈コンプライアンスが、該被験体への前記薬学的処方物の投与後15〜20%増加する、項目25に記載の方法。
(項目29)
前記薬学的処方物が、レラキシンの血清濃度を約0.5〜80ng/mlに維持するように所定の速度で前記被験体に投与される、項目25に記載の方法。
(項目30)
前記レラキシンが組換えヒトレラキシンである、項目25に記載の方法。
(項目31)
前記薬学的処方物が毎日投与される、項目25に記載の方法。
(項目32)
前記薬学的処方物が注射可能な処方物である、項目25に記載の方法。
(項目33)
前記薬学的処方物が徐放性処方物である、項目25に記載の方法。
(項目34)
前記薬学的処方物が連続注入により送達される、項目25に記載の方法。
(項目35)
前記被験体が、アテローム性動脈硬化症、I型糖尿病、II型糖尿病、冠状動脈疾患、硬皮症、脳卒中、拡張期機能不全、家族性高コレステロール血症、孤立性収縮期高血圧、原発性高血圧、二次性高血圧、左室肥大、長期間喫煙に関連する動脈壁の硬化、肥満に関連する動脈壁の硬化、年齢に関連する動脈壁の硬化、全身性エリテマトーデス、子癇前症および高コレステロール血症からなる群より選択される1つ以上の病気と診断される、項目25に記載の方法。
(項目36)
前記被験体が閉経周辺期の女性、閉経期の女性または閉経後の女性である、項目25に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1A〜Cは、低用量の組換えヒトレラキシン(rhRLX;4μg/h)、高用量のrhRLX(25μg/h)またはビヒクルを投与した雌性ラットにおける心拍出量(図1A)、心拍数(図1B)および一回拍出量(図1C)に関するベースラインからのパーセント変化を示す。
【図2】図2A〜Dは、低用量rhRLX、高用量rhRLXまたはビヒクルを投与した雌性ラットにおける全身血管抵抗(図2A)、平均動脈圧(図2B)、全体的な動脈コンプライアンス(図2C)および一回拍出量の脈圧に対する比に関するベースラインからのパーセント変化を示す。
【図3】図3Aおよび図3Bは、1匹のラットから得た代表的な動脈圧の追跡結果(図3A);および、浸透圧ミニポンプの移植後10日における3群(ビヒクル、低用量rhRLXおよび高用量rhRLX)に関する全体的平均動脈圧波形(図3B)を示す。
【図4】図4Aおよび4Bは、5日間rhRLXまたはビヒクルを処置したラットから単離した小腎動脈に関する周囲ストレス(σ)−壁中央の半径(Rm)(図4A);および漸増弾性率(Einc)−Rm(図4B)の関係を示す。
【図5】図5は、雄性および雌性のラットにおける低用量(4μg/h)組換えヒトレラキシン投与に応答した全身血液力学の一時的変化を示す。心拍数(A)、一回拍出量(B)、心拍出量(C)および平均動脈圧(D)のデータをベースラインのパーセントとして表示する。*P<0.05は、ベースラインに対してである(事後Fisherの最小有意差法)。SVにおける有意な漸増は第6日、第8日および第10日にのみ観察された。
【図6】図6は雄性および雌性のラットにおける低用量(4μg/h)の組換えヒトレラキシン投与に応答した全身動脈特性の一時的変化を示す。全身血管抵抗(A)および全体的な動脈コンプライアンスの2測定値、ACarea(B)およびSV/PP(C)、のデータをベースラインのパーセントとして表示する。*P<0.05は、ベースラインに対してである(事後Fisherの最小有意差法)。ACareaおよびSV/PPにおける有意な漸増は第8日および第10日にのみ観察された。
【図7】図7は、雌性ラットにおける組換えヒトレラキシン投与の3つの用量:低用量(4μg/h)、中程度の用量(25μg/h)および高用量(50μg/h)に応答した全身血液力学の一時的変化を示す。心拍数(A)、一回拍出量(B)、心拍出量(C)および平均動脈圧(D)のデータをベースラインのパーセントとして表示する。*P<0.05は、ベースラインに対してである(事後Fisherの最小有意差法)。
【図8】図8は、雌性ラットにおける組換えヒトレラキシン投与の3用量:低用量(4μg/h)、中程度の用量(25μg/h)および高用量(50μg/h)に応答した全身血液力学の一時的変化を示す。全身血管抵抗(A)および全体的な動脈コンプライアンスの2測定値、ACarea(B)およびSV/PP(C)、のデータをベースラインのパーセントとして表示する。*P<0.05は、ベースラインに対してである(事後Fisherの最小有意差法)。
【図9】図9は、雌性ラットにおける短期間高用量の組換えヒトレラキシン投与に応答した全身血液力学の一時的変化を示す。心拍数(A)、一回拍出量(B)、心拍出量(C)および平均動脈圧(D)のデータをベースラインのパーセントとして表示する。*P<0.05は、ベースラインに対してである(事後Fisherの最小有意差法)。
【図10】図10は、雌性ラットにおける短期間高用量組換えヒトレラキシン投与に応答した全身動脈特性の一時的変化を示す。全身血管抵抗(A)および全体的な動脈コンプライアンスの2測定値、ACarea(B)およびSV/PP(C)、のデータをベースラインのパーセントとして表示する。
【図11】図11は、低用量組換えヒトレラキシン(4μg/h)を投与した雄性ラットおよび雌性ラットにおける全身血管抵抗(A)および全体的な動脈コンプライアンスの2測定値、ACarea(B)およびSV/PP(C)の複合的なベースラインからのパーセント変化とベースライン値との間の関係を示す。これらの関係は性別非依存性であった。各パネルの実線は直線回帰により得られた関係のプロットに相当する(雄性および雌性ラットを組み合わせた)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(定義)
本明細書中で交換可能に使用される用語「被験体」、「宿主」、「個体」および「患者」は、診断または治療が望まれる任意の被験体、特に哺乳動物被験体、特にヒトを指す。他の被験体としては、ウシ、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマなどが挙げられ得る。多くの実施形態において被験体は、低下した動脈コンプライアンスに関連するか、その結果生じる疾患または状態に対する処置が必要なヒトである。
【0015】
「処置」、「処置する」、「治療」などの用語は、本明細書中で、一般的に所望の治療上の効果、薬理学的効果または生理学的な効果が得られることを指す。効果は疾患またはその症状を完全または部分的に予防する点で予防的なものであってもよく、そして/または、疾患および/または疾患に起因する有害な効果に対する部分的または完全な治癒の点で、治療的であってもよい。本明細書において使用される場合、「処置」とは、哺乳動物、例えばヒトにおける疾患の任意の処置を包含し、そして、(a)疾患に罹患しやすいがまだ疾患を有すると診断されていない被験体において疾患が生じることを防止すること;(b)疾患を抑制、すなわちその発生を停止させること;および(c)疾患を軽減、すなわち疾患の後退を引き起こすことを包含する。
【0016】
本明細書中で使用される場合、用語「単離された」および「実質的に精製された」は、本明細書中で交換可能に使用され、「単離されたレラキシン」の文脈で使用される場合、レラキシンポリペプチドが天然に存在する環境とは異なる環境に存在するレラキシンポリペプチドを指す。本明細書中で使用される場合、用語「実質的に精製された」は、その天然の環境から取り出されており、天然には伴っている他の成分が少なくとも60%非含有、好ましくは75%非含有、最も好ましくは90%非含有のレラキシンポリペプチドを指す。
【0017】
本発明をさらに説明する前に、本発明は記載した特定の実施形態に限定されないと理解されるべきである。本発明の範囲は、添付する特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0018】
在る範囲の数値を提供する場合、それぞれの間の値、文脈が明確に他のものを指示しない限り、下限の単位の10分の1まで、その範囲またはいずれかの他に述べたもの上限と下限との間、または述べた範囲の間の値が本発明に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限および下限は独立してより小さい範囲に包含され、そしてやはり本発明に包含され、記載した範囲の任意の特に除外された限度に従う。記載した範囲が限界の一方または両方を包含する場合は、これらに包含される限度のいずれかまたは両方を排除する範囲もまた本発明に包含される。
【0019】
他に定義しない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語および科学的用語は、本発明の属する分野で当業者に一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載したものと同様または同等である任意の方法および材料もまた本発明の実施または試験において使用され得るが、好ましい方法および材料を記載する。本明細書において言及した全ての出版物は、出版物が引用されている部分と関連する方法および/または材料を開示および説明するために、本明細書中に参考として援用される。
【0020】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、文脈が他に明確に指示しない限り、単数形「a」、「および」、「the」は、複数の参照物を包含することが注意されるべきである。従って、例えば、「レラキシン処方物」との言及は、そのような処方物の複数を包含し、そして「活性な因子」との言及は、当業者に公知の活性な因子およびその等価物の1つ以上に対する言及を包含する。
【0021】
本明細書において考察される出版物は、本出願の出願日の前のその開示に関してのみ提供する。本明細書に記載するもののいずれも、以前の発明によりこのような出版物に先行するものとは本発明が見なされないことを受け入れるものとして解釈されるべきではない。さらに、提供された出版物の日付は、実際に公開された日付とは異なる場合があり、それは、個々に確認される必要がある場合もある。
【0022】
(発明の詳細な説明)
本発明は、動脈の硬化に伴う疾患を処置する方法;動脈コンプライアンスを増加させる方法;個体における動脈の硬化を減少する方法;および個体が低下した動脈コンプライアンスに関わる合併症または障害の1つ以上を発症する危険性を低下させる方法を提供する。本方法は、一般的に有効量のレラキシンレセプターアゴニストを、それを必要とする個体に投与する工程を包含する。いくつかの実施形態において、個体は年齢に関連する動脈壁の硬化を有するか、発症する危険性を有している。他の実施形態において、個体はI型糖尿病またはII型糖尿病を有し、従って、動脈の硬化を発症しているか、発症する危険性を有する。他の実施形態において、個体は閉経周辺期の女性、閉経期の女性または閉経後の女性であり、従って動脈の硬化を発症しているか、発症する危険性を有する。さらに他の実施形態において、個体は子癇前症を発症しているか、発症する危険性を有する女性である。
【0023】
ヒトの妊娠における主要な心臓血管の調節の1つは、ちょうど全身血管抵抗(SVR)が最低に達する最初の3ヶ月の終了時までに最高値に達するレラキシンレベルの増加を伴う全体的な動脈コンプライアンスの増加である。少なくとも理論的には、全体的な動脈コンプライアンスの上昇はいくつかの理由:(1)広範囲のACの上昇は、さもなければSVRの顕著な低下により不安定に低いレベルまで低下する拡張期血圧の過剰な低下を防止すること;(2)上昇はさもなければ妊娠期間中に心臓が必要とし、心臓により消費される全仕事の上昇とは不均衡に上昇する心臓により消耗される拍動性または振動性の仕事を最小限にすること;および(3)全体的なACの上昇は、妊娠期間の過剰動的循環に関わらず血液−内皮の界面において安定した剪断型の応力を保つ(または振動性の剪断型の応力を防止する)ことにより、内皮によるスーパーオキシドおよび他の損傷性反応性酸素物質種ではなく酸化窒素の産生に望ましい状態を作ることにより、妊娠期間の心臓血管のホメオスタシスの維持にとって重要である。全体的なACの増加はSVRの減少と共に循環性の過少充填を生じ得、そしてこれにより早期妊娠期間中の腎臓のナトリウムおよび水の保持および血漿容量拡大に寄与する。
【0024】
(処置方法)
本発明は、有効量のレラキシンレセプターアゴニストを、これを必要とする個体に投与する工程を利用した動脈コンプライアンスを増加させるための方法を提供する。いくつかの実施形態において、個体は、アテローム性動脈硬化症、I型糖尿病、II型糖尿病、冠状動脈疾患、硬皮症、脳卒中、拡張期機能不全、家族性高コレステロール血症、孤立性収縮期高血圧、原発性高血圧、二次性高血圧、左室肥大、長期間喫煙に関連する動脈壁の硬化、肥満に関連する動脈壁の硬化、年齢に関連する動脈壁の硬化、全身性エリテマトーデス、子癇前症および高コレステロール血症を有するか、加齢関連の動脈の硬化を発症する危険性を有する。他の実施形態において、個体は閉経周辺期の女性、閉経期の女性または閉経後の女性であるか、または非加齢関連の理由により(例えば過剰な運動により、または、手術(例えば子宮摘出、卵巣摘出)の結果として)、月経を終止しており、そして動脈の硬化を発症しているか、その発症の危険性を有する女性である。
【0025】
本発明の方法は、一般的にレラキシンの有効量を個体に投与する工程を包含する。いくつかの実施形態において、レラキシンの有効量は、レラキシンを用いた処置の非存在下の動脈コンプライアンスと比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、または少なくとも約50%以上、動脈コンプライアンスを増加させるのに有効である量である。
【0026】
いくつかの実施形態において、レラキシンの有効量は、レラキシンを用いた処置の非存在下の個体の動脈の硬化と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、または少なくとも約50%以上、動脈の硬化を減少するのに有効である量である。
【0027】
いくつかの実施形態において、レラキシンの有効量は、レラキシンを用いた処置の非存在下の個体の動脈の弾性と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、または少なくとも約50%以上、動脈の弾性を増加させるのに有効である量である。
【0028】
動脈の硬化または低下した動脈コンプライアンスに起因するか関連する障害としては、アテローム性動脈硬化症、I型糖尿病、II型糖尿病、冠状動脈疾患、硬皮症、脳卒中、拡張期機能不全、家族性高コレステロール血症、孤立性収縮期高血圧、原発性高血圧、二次性高血圧、左室肥大、長期間喫煙に関連する動脈壁の硬化、肥満に関連する動脈壁の硬化、年齢に関連する動脈壁の硬化、全身性エリテマトーデス、子癇前症および高コレステロール血症が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において特に興味深いものは、I型糖尿病、II型糖尿病、通常の加齢、脳卒中、拡張期機能不全、閉経、肥満、高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症、孤立性収縮期高血圧、長期間喫煙および左室肥大、に関連する動脈の硬化である。
【0029】
動脈コンプライアンスの増加、または動脈の硬化の減少は、減少した動脈コンプライアンスに起因する病理学的状態を個体が発症する危険性を減少する。
【0030】
いくつかの実施形態において、レラキシンの有効量は、低下した動脈コンプライアンスに関連するか起因する病理学的状態を個体が発症する危険性を、レラキシンを用いた処置の非存在下のその状態を発症する危険性と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、または少なくとも約50%以上減少させるのに有効である量である。
【0031】
一般的には、上で議論した通り、レラキシンの有効量は動脈コンプライアンスを増加させるのに有効な量である。「増加させる」という用語は本明細書において、「刺激する」および「促進する」と交換可能に使用される。実施例は、ラットにおいて使用される有効量の一般的手引きを提供する。当業者は実施例の手引きに基づいてヒト被験体において使用するための有効量を容易に決定し得る。一般的に、レラキシンの用量は一日当たり約0.1〜500μg/kg体重、一日当たり約6.0〜200μg/kg体重、または一日当たり約1.0〜100μg/kg体重である。体重70kgの人間への投与のためには、投薬量の範囲は、一日当たり約7.0μg〜3.5mg、一日当たり約42.0μg〜2.1mg、または一日当たり約84.0〜700μgである。いくつかの実施形態において、ヒトへの投与のためには、有効量は約5μg/kg体重/日〜約50μg/kg体重/日、または約10μg/kg体重/日〜約25μg/kg体重/日である。投与されるレラキシンの量は、当然のことながら、被験体の体格、性別および体重、ならびに、疾患または状態の重症度、投与の様式および計画、疾患再発の可能性、ならびに、担当医の判断に依存する。各々の場合において、一日の用量は、所望の作用および個体の状況の相違に依存して、単回のボーラスよりもむしろ、一定時間に渡って投与され得る。
【0032】
いくつかの実施形態において、レラキシンは、レラキシンの血清濃度を約0.01ng/ml〜約80ng/ml、例えば約0.01ng/ml〜約0.05ng/ml、約0.05ng/ml〜約0.1ng/ml、約0.1ng/ml〜約0.25ng/ml、約0.25ng/ml〜約0.5ng/ml、約0.5ng/ml〜約1.0ng/ml、約1.0ng/ml〜約5ng/ml、約5ng/ml〜約10ng/ml、約10ng/ml〜約15ng/ml、約15ng/ml〜約20ng/ml、約20ng/ml〜約25ng/ml、約25ng/ml〜約30ng/ml、約30ng/ml〜約35ng/ml、約35ng/ml〜約40ng/ml、約40ng/ml〜約45ng/ml、約45ng/ml〜約50ng/ml、約50ng/ml〜約60ng/ml、約60ng/ml〜約70ng/mlまたは約70ng/ml〜約80ng/mlに維持するような所定の速度で個体に投与される。
【0033】
(有効性の決定)
所定のレラキシン処方物またはレラキシンの所定の投薬量が動脈コンプライアンスを増加させること、動脈の硬化を減少すること、または、動脈の弾性を増加させることにおいて有効であるか否かは、任意の公知の方法を用いて決定され得る。動脈の硬化は実施例に議論する方法を含む当業者に公知のいくつかの方法により測定され得る。
【0034】
全体的な動脈コンプライアンスの1つの尺度はACarea値であり、これは後述する実施例において記載するとおり、面積法(Liuら、(1986)Am.J.Physiol.251:H588−H600)を用いて大動脈圧波形[P(t)]の拡張期の減衰から計算される。全体的な動脈コンプライアンスの別の尺度は後述する実施例において記載するとおり、一回拍出量の脈圧に対する比(Chemlaら、(1998)Am.J.Physiol.274:H500−H505)として計算される。
【0035】
局所的動脈コンプライアンスは、侵襲的または非侵襲的な手段を用いて特定の点における動脈壁の弾性を測定することにより決定され得る。例えば米国特許第6,267,728号を参照のこと。限局的コンプライアンスは、動脈セグメントにおけるコンプライアンスを記載するものであるが、これは、動脈容量および伸展性から計算され得、そして主に、脈波速度を用いて測定される。例えばOgawaら、Cardiovascular Diabetology(2003)2:10;Safarら、Arch Mal Coer(2002)95:1215−18を参照のこと。動脈コンプライアンスを測定する他の適切な方法は文献に記載されており、任意の公知の方法が使用され得る。例えば、Cohn,J.N.、「Evaluation of Arterial Compliance」、Hypertension Primer,Izzo,J.L.およびBlack,H.R.(編)、Council on High Blood Pressure Research、American Heart Association、pp.252−253、(1993);Finkelstein,S.M.ら、「First and Third−Order Models for Determining Arterial Compliance」、Journal of Hypertension、10(補遺6)S11−S14、(1992);Haidet,G.C.,ら、「Effects of Aging on Arterial Compliance in the Beagle」、Clinical Research、40、266A、(1992);McVeigh,G.E.ら、「Assessment of Arterial Compliance in Hypertension」、Current Opinion in Nephrology and Hypertension、2、82−86、(1993)を参照のこと。
【0036】
(レラキシンレセプターアゴニスト)
本発明の方法は、薬学的に活性なレラキシンレセプターアゴニストを含有する処方物の投与を包含する。本明細書中で使用する場合、「レラキシンレセプターアゴニスト」および「レラキシン」という用語は、組換えまたはネイティブの(例えば天然に存在する)供給源に由来する生物学的に活性な(本明細書中では、「薬学的に活性な」ともいわれる)レラキシンポリペプチド;レラキシンポリペプチド改変体(例えばアミノ酸配列改変体);合成のレラキシンポリペプチド;および非ペプチドレラキシンレセプターアゴニスト(例えばレラキシン模倣物)を指すために交換可能に使用される。
【0037】
天然に存在する生物学的に活性なレラキシンは、ヒト、ネズミ(例えばラットまたはマウス)、ブタまたは他の哺乳動物の供給源に由来し得る。「レラキシン」という用語はヒトH1プレプロレラキシン、プロレラキシンおよびレラキシン;H2プレプロレラキシン、プロレラキシンおよびレラキシン;組換えヒトレラキシン(rhRLX);およびH3プレプロレラキシン、プロレラキシンおよびレラキシンを包含する。H3レラキシンは当該分野で記載されている。例えばSudoら、(2003)J Biol Chem.7;278(10):7855−62を参照のこと。ヒトレラキシンのアミノ酸配列は当該分野で記載されている。例えばヒトレラキシンアミノ酸配列は、以下のGenBank登録番号:Q3WXF3、ヒトH3プロレラキシン;P04808、ヒトH1プロレラキシン;NP_604390およびNP_005050、ヒトH2プロレラキシン;AAH05956、ヒトレラキシン1プレプロタンパク質;NP_008842、ヒトH1プレプロレラキシンなどの下に見出される。「レラキシンレセプターアゴニスト」という用語は上記した配列のいずれか1つに由来するヒトレラキシンを包含する。
【0038】
「レラキシンレセプターアゴニスト」という用語はまた、N末端および/またはC末端切断を有するA鎖およびB鎖を含むレラキシンポリペプチドを包含する。例えば、H2レラキシンにおいては、A鎖はA(1−24)からA(10−24)に、そしてB鎖はB(1−33)からB(10−22)に変化させることができ;そしてH1レラキシンにおいては、A鎖はA(1−24)からA(10−24)に、そしてB鎖はB(1−32)からB(10−22)に変化させることができる。
【0039】
「レラキシンレセプターアゴニスト」という用語の範囲にさらに包含されるものは、1つ以上のアミノ酸残基の挿入、置換または欠失を含むレラキシンポリペプチド、グリコシル化改変体、非グリコシル化レラキシン、有機および無機の塩、レラキシンの共有結合的に修飾された誘導体、プレプロレラキシンおよびプロレラキシンである。野生型(例えば天然に存在する)配列とは異なるアミノ酸配列を有するレラキシンアナログも用語に包含され、これらとしては、米国特許第5,811,395号および米国特許第6,200,953号に開示されているレラキシンアナログが挙げられるが、これらに限定されない。他の適切なレラキシンおよびレラキシン処方物は、米国特許第5,945,402号に記載されている。インビボでの半減期が増加するように修飾されたレラキシンポリペプチド(例えばPEG化レラキシン(すなわちポリエチレングリコールに結合体化されたレラキシン)などもまた包含される。
【0040】
レラキシンポリペプチドアミノ酸残基に対する可能な修飾としては、N末端を含む遊離アミノ基のアセチル化、ホルミル化または同様の保護、C末端基のアミド化、またはヒドロキシル基またはカルボキシル基のエステルの形成(例えばホルミル基の付加によるB2におけるトリプトファン(Trp)残基の修飾)が挙げられる。ホルミル基は容易に除去できる保護基の代表的な例である。他の可能な修飾としては、B鎖および/またはA鎖内の天然のアミノ酸の1つ以上を異なるアミノ酸(天然アミノ酸のD型を含む)で置換すること(、B24におけるMet部分をノルロイシン(Nle)、バリン(Val)、アラニン(Ala)、グリシン(Gly)、セリン(Ser)またはホモセリン(HomoSer)で置換することが挙げられるが、これらに限定されない)が挙げられる。他の可能な修飾としては、鎖からの天然のアミノ酸の欠失、または、鎖への1つ以上の余分なアミノ酸の付加が挙げられる。さらなる修飾としては、プロレラキシンのB/CおよびC/A接合部におけるアミノ酸の置換(この修飾はプロレラキシンからのC鎖の切断を促進する);および天然に存在しないCペプチドを含む改変体レラキシン(例えば米国特許第5,759,807号に記載のもの)が挙げられる。
【0041】
レラキシンポリペプチドおよび異種ポリペプチドを含む融合ポリペプチドは、「レラキシンレセプターアゴニスト」という用語にまた包含される。異種ポリペプチド(例えば非レラキシンポリペプチド)融合相手は、融合タンパク質のレラキシン部分に対してC末端またはN末端であってもよい。異種ポリペプチドとしては、免疫学的に検出可能なポリペプチド(例えば「エピトープタグ」);検出可能なシグナルを発生し得るポリペプチド(例えば緑色蛍光タンパク質、酵素(例えばアルカリホスファターゼ)および他の当該分野で公知のもの);治療用ポリペプチド(サイトカイン、ケモカインおよび成長因子が挙げられるがこれらに限定されない)が挙げられる。
【0042】
改変体を生じるレラキシン分子の構造におけるこのような改変または変異の全てはレラキシンの機能的(生物学的)活性が維持される限り、本発明の範囲内に包含される。一般的に、レラキシンアミノ酸配列または構造のいずれかの修飾は、レラキシン改変体を用いて処置した個体においてその免疫原性を増加させないものである。記載した機能的活性を有するレラキシンの改変体は本明細書中に考察した方法を用いて容易に同定され得る。
【0043】
(レラキシン処方物)
本発明の方法において使用するのに適したレラキシン処方物は、薬学的に活性のレラキシンの治療有効量および薬学的に受容可能な賦形剤を含有する薬学的処方物である。処方物はいくつかの実施形態において、注射可能であり、そして、いくつかの実施形態において静脈内注射可能に設計される。
【0044】
レラキシンが薬学的に活性である限り、任意の公知のレラキシン処方物も本発明の方法に使用され得る。「薬学的に活性な」レラキシンとは、個体への投与時に増加した動脈コンプライアンスを生じるレラキシンの形態である。
【0045】
レラキシンはポリペプチドとして、または、レラキシンをコードする配列を含むポリヌクレオチドとして投与され得る。本発明の方法において使用するのに適したレラキシンは、天然供給源から単離され得るか、化学的または酵素的に合成され得るか、または、当該分野で公知の標準的組換え技術を用いて製造され得る。組換えレラキシンを製造する方法の例は、種々の出版物(例えば米国特許第4,835,251号;同第5,326,694号;同第5,320,953号;同第5,464,756号および同第5,759,807号が挙げられる)に見出される。
【0046】
使用に適したレラキシンとしては、ヒトレラキシン、組換えヒトレラキシン、非ヒト動物に由来するレラキシン、例えばブタレラキシン、および当該分野で公知のレラキシンの種々の改変体が挙げられるが、これらに限定されない。レラキシン、薬学的に活性なレラキシン改変体、およびレラキシンを含有する薬学的処方物は当該分野で周知である。例えば米国特許第5,451,572号;同第5,811,395号;同第5,945,402号;同第5,166,191号;および同第5,759,807号を参照のこと。その内容はレラキシン処方物に関する教示、および、レラキシン製造に関する教示について、その全体が参考として援用される。本明細書に記載する実施例において、組換えヒトレラキシン(rhRLX)は、24アミノ酸のA鎖および29アミノ酸のB鎖からなるヒトH2遺伝子の天然に存在する産物とアミノ酸配列において同一である。
【0047】
レラキシンはレラキシンをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドの形態で個体に投与され得る。レラキシンをコードするヌクレオチド配列は当該分野で公知であり、そのいずれも本明細書に記載した方法において使用され得る。例えばGenBank登録番号AF135824;AF076971;NM_006911;およびNM_005059を参照のこと。本発明のレラキシンポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、遺伝子送達ビヒクルにより細胞に導入され得る。遺伝子送達ビヒクルは、ウイルス起源または非ウイルス起源であってもよい(例えば一般的にJolly、Cancer Gene
Therapy(1994)1:51−64;Kimura(1994)Human Gene Therapy 5:845−852;Connelly(1995)Human Gene Therapy 1:185−193;およびKaplitt(1994)Nature Genetics 6:148−153を参照のこと)。本発明のポリヌクレオチドのコーディング配列を含む構築物の送達のための遺伝子療法ビヒクルは、局所または全身のいずれかで投与され得る。これらの構築物は、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターのアプローチを利用し得る。このようなコーディング配列の発現は、内因性の哺乳動物または異種のプロモーターを用いて誘導され得る。コーディング配列の発現は構成的であるか、または調節的のいずれかであり得る。
【0048】
本発明は、目的の選択された核酸分子を保持または発現するように構築された組換えレトロウイルスを使用し得る。使用され得るレトロウイルスベクターとしては、EP415731;WO90/07936;WO94/03622;WO93/25698;WO93/25234;米国特許第5,219,740号;WO93/11230;WO93/10218;VileおよびHart(1993)Cancer Res.53:3860−3864;VileおよびHart(1993)Cancer Res.53:962−967;Ramら、(1993)Cancer Res.53:83−88;Takamiyaら、(1992)J.Neurosci.Res.33:493−503;Babaら、(1993)J.Neurosurg.79:729−735;米国特許第4,777,127号;およびEP345,242に記載されているものが挙げられる。
【0049】
上記のレトロウイルスベクター構築物と共に使用するのに適したパッケージング細胞株は容易に調製され得(PCT公開WO95/30763およびWO92/05266を参照のこと)、そして、組換えベクター粒子の製造のためのプロデューサー細胞株(ベクター細胞株とも称される)を作製するために使用され得る。パッケージング細胞株はヒト細胞株(例えばHT1080細胞)またはミンクの親細胞株から作製され、これにより、ヒト血清中における不活性化を残存させ得る組換えレトロウイルスの製造が可能となる。
【0050】
遺伝子送達ビヒクルはまた、アデノ関連ウイルス(AAV)ベクターのようなパルボウイルスを使用し得る。代表例としては、Srivastava、WO93/09239、Samulskiら、(1989)J.Vir.63:3822−3828;Mendelsonら、(1988)Virol.166:154−165;およびFlotteら、(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:10613−10617により開示されるAAVベクターが挙げられる。
【0051】
目的のアデノウイルスベクターはまた、例えば、Berkner、Biotechniques(1988)6:616−627;Rosenfeld ら、(1991)Science 252:431−434;WO93/19191;Kollsら、(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:215−219;Kass−Eislerら、(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:11498−11502;WO94/12649;WO93/03769;WO93/19191;WO94/28938;WO95/11984およびWO05/00655に記載のものである。
【0052】
他の遺伝子送達ビヒクルおよび方法も使用され得、死滅したアデノウイルス単独に連結された、または連結されないポリカチオン性縮合DNA、例えばCuriel(1992)Hum.Gene Ther.3:147−154;リガンド連結DNA(例えばWu(1989)J.Biol.Chem.264;16985−16987を参照のこと);真核生物細胞送達ビヒクル細胞;光重合ヒドロゲル物質の付着;手持ち式の遺伝子移入パーティクルガン(米国特許第5,149,655号に記載される);イオン化放射線照射(米国特許第5,206,152号およびWO92/11033に記載される);核電荷中和または細胞膜との融合が挙げられる。さらなるアプローチは、Philip(1994)Mol.Cell.Biol.14:2411−2418およびWoffendin(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.91:1581−1585に記載されている。
【0053】
ネイキッド(naked)DNAもまた使用され得る。例示的なネイキッドDNA導入方法は、WO90/11092および米国特許第5,580,859号に記載されている。取り込みの効率は生体分解性のラテックスビーズを用いて改善され得る。DNAコーティングラッテクスビーズは、ビーズによるエンドサイトーシスの開始の後に細胞に効率的に輸送される。その方法は、疎水性を増加させてそれによってエンドソームの破壊および原形質へのDNAの放出を促進するようにビーズを処理することによりさらに改善され得る。遺伝子送達ビヒクルとして作用し得るリポソームは、米国特許第5,422,120号;PCTWO95/13796、WO94/23697およびWO91/14445;およびEP524968に記載されている。
【0054】
使用に適したさらなる非ウイルス送達としては、Woffendinら、(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:11581−11585に記載されているアプローチのような機械的送達系が挙げられる。さらに、コーディング配列およびその発現産物は、光重合ヒドロゲル物質の沈着を介して送達され得る。コーディング配列の送達のために使用され得る遺伝子送達のための他の簡便な方法としては、例えば、手持ち式の遺伝子移入パーティクルガンの使用(米国特許第5,149,655号に記載される);移された遺伝子の活性化のためのイオン化放射線照射の使用(米国特許第5,206,152号およびWO92/11033に記載される)が挙げられる。
【0055】
動脈コンプライアンスを増加させるためのレラキシンの使用において、任意の薬学的に受容可能な様式の投与が使用され得る。レラキシンは単独または他の薬学的に受容可能な賦形剤と組み合わせて、例えば固体、半固体、液体またはエアロゾルの剤型、例えば錠剤、カプセル、粉末、液体、ゲル、懸濁液、坐剤、エアロゾルなどのいずれかで投与され得る。レラキシンはまた、好ましくは正確な投薬量の単回投与に適した単位投薬形態における、所定の速度での延長された投与のための、徐放性または制御放出投薬形態(例えば緩徐放出の生体分解性の送達系を使用する)(例えば蓄積注射、浸透圧ポンプ(例えばAlza製造のAlzetインプラント)、丸薬、皮膚用または経皮用(電子輸送が挙げられる)パッチなどが挙げられる)により投与され得る。
【0056】
いくつかの実施形態において、レラキシンは移植可能な薬物送達系(例えばレラキシンの投与を提供するようにプログラム可能な系)を用いて送達される。例示的なプログラム可能な移植可能な系としては、移植可能な注入ポンプが挙げられる。例示的な移植可能な注入ポンプまたはそのようなポンプと組み合わせて使用されるデバイスは、例えば米国特許第4,350,155号;同第5,443,450号;同第5,814,019号;同第5,976,109号;同第6,017,328号;同第6,171,276号;同第6,241,704号;同第6,464,687号;同第6,475,180号;および同第6,512,954号に記載されている。本発明における使用に適合され得るさらなる例示的なデバイスは、同調させた注入ポンプ(Medtronic)である。
【0057】
組成物は代表的には、従来の薬学的なキャリアまたは賦形剤およびレラキシンを含有する。さらに、これらの組成物は、他の活性剤、キャリア、アジュバントなどを含有し得る。一般的に、意図される投与様式に依存して、薬学的に受容可能な組成物は、約0.1重量%〜90重量%;約0.5重量%〜50重量%、または約1重量%〜約25重量%のレラキシンを含有し、残余は適切な薬学的賦形剤、キャリアなどである。このような投薬形態を製造するための実際の方法は当業者に公知であるか、明らかであり;例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton,Pa.、第15版、1995または最新版を参照のこと。米国特許第5,451,572号に記載されているヒトレラキシンの処方物は本発明の方法で使用され得る適切な処方物の非限定的な例である。
【0058】
非経口投与は一般的に皮下、皮内、筋肉内または静脈内または皮下のいずれかの注射を特徴とする。注射可能物質は、液体の溶液または懸濁液、注射直前に溶液または懸濁液とするのに適する固体形態、またはエマルジョンのいずれかの従来の形態に調製され得る。適切な賦形剤は例えば水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどである。さらに所望の場合、投与すべき薬学的組成物は少量の非毒性の補助的物質(例えば湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、溶解度増強剤など、例えば酢酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、オレイン酸トリエタノールアミン、シクロデキストリンなど)を含有し得る。
【0059】
そのような非経口組成物に含有されるレラキシンの比率は、その特定の性質、ならびに被験体の必要性に大きく依存する。しかし、溶液中の0.01%〜10%の活性成分の比率が使用され得、そして組成物が後に上記比率まで希釈される固体である場合はより高くなる。一般的に、組成物は溶液中にレラキシン0.2〜2%を含有する。
【0060】
非経口投与は、持続放出または徐放性の系の移植を用いてもよく、これにより定常レベルの投薬量が維持される。徐放性を制御するため、および、レラキシンのような活性な因子の放出の速度を継続的に減少させるための種々のマトリックス(例えばポリマー、親水性ゲルなど)は当該分野で公知である。例えば米国特許第3,845,770号(基本的浸透圧ポンプを記載);米国特許第3,995,651号、同第4,034,756号および同第4,111,202号(小型浸透圧ポンプを記載);米国特許第4,320,759号および同第4,449,983号(プッシュ−プルおよびプッシュ−メルト浸透圧ポンプと称されるマルチチャンバーの浸透圧系を記載);および米国特許第5,023,088号(種々の投薬単位の逐次的時間指定供給のためのパターン化浸透圧ポンプを記載)を参照のこと。
【0061】
本発明の方法に従ってレラキシンを投与するために使用するのに適した薬物放出デバイスは、種々の作動様式のいずれかに基づき得る。例えば薬物放出デバイスは、拡散系、対流系または侵食系(例えば侵食に基づく系)に基づくことができる。例えば薬物放出デバイスは、浸透圧ポンプ、電気浸透圧ポンプ、蒸気圧ポンプ、浸透圧バーストマトリックス(例えば薬物がポリマーに取り込まれ、そのポリマーが薬物含浸ポリマー物質(例えば生体分解性の薬物含浸ポリマー物質)の分解と同時に薬物処方物の放出を提供するもの)であり得る。他の実施形態において、この薬物放出デバイスは、電気拡散系、電解ポンプ、発泡性ポンプ、圧電ポンプ、加水分解系などに基づく。
【0062】
機械的または電気機械的な注入ポンプに基づく薬物放出デバイスもまた本発明と共に使用するのに適している。このようなデバイスの例としては、例えば米国特許第4,692,147号;同第4,360,019号;同第4,487,603号;同第4,360,019号;同第4,725,852号などに記載されるものが挙げられる。一般的に、本発明の処置方法は、種々の再充填可能な非交換型のポンプ系のいずれかを用いて達成され得る。浸透圧ポンプは文献に十分に記載されている。例えば、WO97/27840;および米国特許第5,985,305号および同第5,728,396号を参照のこと。
【0063】
レラキシンは種々の因子、例えば動脈の硬化の程度などに依存して、数時間、数日間、数週間、数ヶ月間または数年間の期間に渡って投与され得る。例えばレラキシンは、約2時間〜約8時間、約8時間〜約12時間、約12時間〜約24時間、約24時間〜約36時間、約36時間〜約72時間、約3日間〜約1週間、約1週間〜約2週間、約2週間〜約1ヶ月間、約1ヶ月間〜約3ヶ月間、約3ヶ月間〜約6ヶ月間、約6ヶ月間〜約12ヶ月間、または約1年間〜数年間の期間、投与される。投与は一定、例えば数時間、数日間、数週間、数ヶ月間、数年間などに渡って一定の注入であってもよい。あるいは、投与は間欠的であってもよく、例えばレラキシンを数日間の期間に渡り1日1回、数時間の期間に渡り1時間に1回、または、いずれかの他の適当と思われる計画で投与され得る。
【0064】
レラキシンの処方物はまた、ネブライザーのための鼻吸入用または肺吸入用のエアロゾルまたは溶液として、または、吸入のための微小粉末として、単独、または、不活性のキャリア(例えばラクトース)と、または、他の薬学的に受容可能な賦形剤と組み合わせて呼吸管に投与され得る。そのような場合、処方物の粒子は好都合には50μm未満、好ましくは10μm未満の直径を有する。
【0065】
(複合療法)
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、少なくとも1つのさらなる治療因子の投与を含むように改変される。適切なさらなる治療因子としては、エストロゲンレセプター調節因子、抗高血圧因子(例えばカルシウムチャンネルブロッカー)、エンドセリンレセプターアンタゴニスト、アンジオテンシンI変換酵素(ACE)インヒビター、α−アドレナリン遮断薬、血管拡張薬、利尿薬、β−アドレナリン遮断薬、レニンインヒビターおよびアンジオテンシンレセプターアンタゴニスト;ナトリウム排泄増加ペプチド(例えば心房性ナトリウム排泄増加ペプチド、脳ナトリウム排泄増加ペプチド、およびC型ナトリウム排泄増加ペプチド);コレステロール産生を遮断する物質(例えばスタチン)および糖尿病を処置するための因子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
(エストロゲンレセプター調節因子)
適切なエストロゲンレセプター調節因子は、種々のエストロゲン化合物、ならびに選択的エストロゲンレセプター調節因子(「SERM」)のいずれかを包含する。SERMとしては、タモキシフェン、ラロキシフェン、ドロロキシフェン、イドキシフェン、ラソフォキシフェン、CP−336,156、GW5638、LY353581、TSE−424、LY353381、LY117081、トレミフェン、フルベストラント、4−[7−(2,2−ジメチル−1−オキソプロポキシ−4−メチル−2−[4−[2−(1−ピペリジニル)エトキシ]フェニル]−2H−1−ベンゾピラン−3−イル]−フェニル−2,2−ジメチルプロパノエート、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン−2,4−ジニトロフェニル−ヒドラゾンおよびSH646が挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
適切なエストロゲン化合物としては、メストラノール、エストラジオールのエステル、ポリエストリオールホスフェート、エストロンサルフェート、天然エストロゲン、合成エストロゲン、結合体化エストロゲン、エストラジオール、エストラジオールサルファメート、エストラジオールバレレート、エストラジオールベンゾエート、エチニルエストラジオール、エストロン、エストリオール、エストリオールサクシネートおよび結合体化エストロゲン、非結合体化ウマエストロゲン、エストロンサルフェート、17β−エストラジオールサルフェート、17α−エストラジオールサルフェート、エクイリンサルフェート、17β−ジヒドロエクイリンサルフェート、17α−ジヒドロエクイリンサルフェート、エクイレニンサルフェート、17β−ジヒドロエクイレニンサルフェートおよび17α−ジヒドロエクイレニンサルフェートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
微粉化された形態のエストロゲン、例えば微粉化エストラジオール、微粉化エストラジオールスルファメート、微粉化エストラジオールバレレート、微粉化エストラジオールベンゾエート、微粉化エストロンまたは微粉化エストロンサルフェートまたはこれらの混合物、特に微粉化エストラジオール、微粉化エストラジオールバレレート、微粉化エストラジオールベンゾエートまたは微粉化エストラジオールサルファメートもまた使用に適している。
【0069】
エストロゲンの有効投薬量は従来どおりであり、当該分野で周知である。経口投与用の代表的なおよその投薬量は、例えばエチニルエストラジオール(0.001〜0.030mg/日)、メストラノール(5〜25mg/日)、エストラジオール(17.β.エストラジオールを含む)(0.5〜6mg/日)、ポリエストリオールホスフェート(2〜8mg)および結合体化エストロゲン(0.3〜1.2mg/日)である。送達の他の手段のための投薬量は、当業者に明らかである。例えば経皮投薬量は、使用するビヒクルの吸収効率に従って変動する。
【0070】
エストロゲン化合物は、種々の従来の様式のいずれか(例えば経口(例えば溶液、懸濁液、錠剤、糖剤、カプセルまたは丸薬)、非経口(皮下注射または静脈内、筋肉内または胸骨内の注射もしくは注入の技術が挙げられる)、吸入スプレー、経皮投与、直腸投与または膣内(例えば膣内環またはクリームによる)投与により投与され得る。
【0071】
(抗高血圧因子)
適切なACEインヒビターとしては、ベナゼプリル(Lotensin(登録商標))、カプトプリル(Capoten(登録商標))、エナラプリル、エナラプリラット、フォシノプリル(Monopril(登録商標))、リシノプリル(Zestril(登録商標);Prinivil(登録商標))、ペントプリル、キナプリル(Accupril(登録商標))、キナプリラット、ラミプリル(Altace(登録商標))、トランドラプリル(Mavik(登録商標))、ゾフェノプリル、モエキシプリル(Univasc(登録商標))、ペリンドプリル(Coversyl(登録商標);Aceon(登録商標))、Vasotec(登録商標)、シラザプリル(Inhibace(登録商標))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
適切な利尿薬としては、アセタゾラミド;アミロリド;ベンドロフルメチアジド;ベンズチアジド;ブメタニド;クロロチアジド;クロルタリドン;シクロチアジド;エタクリン酸;フロセミド;ヒドロクロロチアジド;ヒドロフルメチアジド;インダクリノン(ラセミ混合物、または(+)もしくは(−)のエナンチオマーのいずれか単独、または操作された比、例えばそれぞれ9:1のそのエナンチオマー);メトラゾン;メチクロチアジド;ムゾリミン;ポリチアジド;キネタゾン;ナトリウムエタクリネート;ナトリウムニトロプルシド;チクリナフェン;トリアムテレン;およびトリクロルメチアジドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
適切なα−アドレナリン遮断薬としては、例えば、ジベナミン;フェントラミン;フェノキシベンザミン;プラゾシン;プラゾシン/ポリチアジド(Minizide(登録商標));トリアゾリン;ドキサゾシン(Cardura);テラゾシン(Hytrin(登録商標));タムスロシン(Flomax(登録商標));およびアルフゾシン(Uroxatral(登録商標))が挙げられる。
【0074】
適切なβ−アドレナリン遮断薬としては、Betapace(ソタロール)、Blocadren(チモロール)、Brevibloc(エスモロール)、Cartrol(カルテオロール)、Coreg(カルベジロール)、Corgard(ナドロール)、Inderal(プロプラノロール)、Inderal−LA(プロプラノロール)、Kerlone(βキソロール)、Levatol(ペンブトロール)、Lopressor(メトプロロール)、Normodyne(ラベタロール)、Sectral(アセブトロール)、Tenormin(アテノロール)、Toprol−XL(メトプロロール)、Trandate(ラベタロール)、Visken(ピンドロール)およびZebeta(ビソプロロール)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
適切な血管拡張剤としては、例えばジアゾキシド、ヒドララジン(Apresoline(登録商標))、ミノキシジル、ニトロプルシド(Nipride(登録商標))、ナトリウムニトロプルシド、ジアゾキシド(HyperstatIV)、ベラパミルおよびネフィジピンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
適切なカルシウムチャンネルブロッカーとしては、アムロジピン(Norvasc(登録商標))、フェロジピン(Plendil(登録商標))、ニモジピン、イスラジピン、ニカルジピン、ニフェジピン(Procardia(登録商標))、ベプリジル(Vascor(登録商標))、ジルチアゼム(Cardiazem(登録商標))およびベラパミル(Isoptin(登録商標);Calan(登録商標))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
適切なアンジオテンシンIIレセプターブロッカーまたはインヒビターとしては、サララシン、ロサルタン(Cozaar)、シクロシドミン、エプロサルタン、フロセミド、イルベサルタンおよびバルサルタンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
適切なレニンインヒビターとしては、例えば、ペプスタチンおよびジペプチドレニンインヒビターまたはトリペプチドレニンインヒビター;エナルクレイン、RO42−5892(Hoffman LaRoche)、A65317(Abbott)、CP80794、ES1005、ES8891、SQ34017;米国特許第6,673,931号に開示されている化合物などが挙げられる。
【0079】
本発明において有用な適切なエンドセリンアンタゴニストとしては、アトラセンタン(ABT−627;Abbott Laboratories)、VeletriTM(テゾセンタン;Actelion Pharmaceuticals,Ltd.)、シタキシセンタン(ICOS−Texas Biotechnology)、エンラセンタン(GlaxoSmithKline)、ダルセンタン(LU135252;Myogen)、BMS−207940(Bristol−Myers Squibb)、BMS−193884(Bristol−Myers Squibb)、BMS−182874(Bristol−Myers Squibb)、J−104132(Banyu Pharmaceutical)、VML588/Ro61−1790(Vanguard Medica)、T−0115(Tanabe Seiyaku)、TAK−044(Takeda)、BQ−788(Banyu Pharmaceutical)、BQ123、YM−598(Yamanouchi Pharma)、PD145065(Parke−Davis)、A−127722(Abbott Laboratories)、A−192621(Abbott Laboratories)、A−182086(Abbott Laboratories)、TBC3711(ICOS−Texas Biotechnology)、BSF208075(Myogen)、S−0139(Shionogi)、TBC2576(Texas Biotechnology)、TBC3214(Texas Biotechnology)、PD156707(Parke−Davis)、PD180988(Parke−Davis)、ABT−546(Abbott Laboratories)、ABT−627(Abbott Laboratories)、SB247083(GlaxoSmithKline)、SB209670(GlaxoSmithKline);および当該分野で考察されているエンドセリンレセプターアンタゴニスト(例えばDavenportおよびBattistini(2002)Clinical Science 103:15−35、Wu−Wongら、(2002)Clinical Science 103:1075−1115ならびにLuescherおよびBarton(2000)Circulation 102:2434−2440に記載のもの)が挙げられるが、これらに限定されない。適切なエンドセリンレセプターアンタゴニストは、TRACLEERTM(ボセンタン;Actelion Pharmaceuticals,Ltd.製造)である。TRACLEERTMは経口活性の二重エンドセリンレセプターアンタゴニストであり、そのレセプターであるエンドセリンレセプターAおよびエンドセリンレセプターBの両方に対するエンドセリンの結合を遮断する。TRACLEERTMは一般的に4週間にわたって62.5mgの用量を1日2回経口投与し、その後、維持用量として125mgを1日2回経口投与する。
【0080】
他の適切な抗高血圧因子としては、例えばアミノフィリン;クリプタナミンアセテートおよびクリプタナミンタンネート;デセルピジン;メレメトキシリンプロカイン;パルギリン;クロニジン(Catapres);メチルドパ(Aldomet);レセルピン(Serpasil);グアネチジン(Ismelin);およびトリメタファンカムシレートが挙げられる。
【0081】
(スタチン)
適切なスタチンとしては、Crestor、Lipitor、Lescol、Mevacor、Pravochol、Zocorのような製品および関連の化合物、例えばRev.Port.Cardio.(2004)23(11);1461−82;Curr Vasc Pharmacol.(2003)3:329−33に記載されているもの挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
(I型糖尿病またはII型糖尿病を処置するための治療因子)
レラキシンとの複合療法において使用するための他の適切な因子としては、I型糖尿病を処置するための治療因子およびII型糖尿病を処置するための治療因子(例えばインスリン感受性を増加させる因子)が挙げられる。
【0083】
I型糖尿病を処置するための治療因子としては、インスリンが生物学的に活性な限り、すなわち、インスリンがインスリンに応答する個体において血中グルコース濃度を減少させるのに有効である限り、任意の形態のインスリンが挙げられる。いくつかの実施形態において、組換えヒトインスリン(「レギュラー」インスリン)または組換えヒトインスリンアナログを使用する。特定の実施形態において、インスリンアナログはインスリンのモノマー形態、例えばヒトリスプロである。いくつかの例において、他の形態のインスリンを単独または組換えヒトインスリンと組み合わせて、または相互に使用する。本明細書中で使用するのに適したインスリンとしては、レギュラーインスリン(Humulin R、Novlin Rなど)、セミレンテ、NPH(イソファンインスリン懸濁液;Humulin N、Novolin N、Novolin N PenFill、NPH Ilentin II、NPH−N)、レンテ(インスリン亜鉛懸濁液;Humulin−L、Lente Ilentin II、Lent L、Novolin L)、プロタミン亜鉛インスリン(PZI)、ウルトラレンテ(インスリン亜鉛懸濁液、膨張;Humulin U Ultralente)、インスリングラルジン(Lantus)、インスリンアスパート(Novolog)、アシル化インスリン、モノマーインスリン、スーパーアクティブインスリン、肝選択性インスリン、リスプロ(HumalogTM)および任意の他のインスリンアナログまたは誘導体、および上記のいずれかの混合物が挙げられる。一般的に使用される混合物としては、以下のパーセント:70%/30%、50%/50%、90%/10%、80%/20%、60%/40%などのNPHおよびレギュラーインスリンを含有するNPHとレギュラーインスリンとの混合物が挙げられる。本明細書中で使用するのに適したインスリンとしては、米国特許第4,992,417号;同第4,992,418号;同第5,474,978号;同第5,514,646号;同第5,504,188号;同第5,547,929号;同第5,650,486号;同第5,693,609号;同第5,700,662号;同第5,747,642号;同第5,922;675号;同第5,952,297号;および同第6,034,054号;ならびにPCT公開出願WO00/121197;WO90/10645;およびWO90/12814に開示されているインスリンの形態が挙げられるが、これらに限定されない。インスリンアナログとしては、スーパーアクティブインスリンアナログ、モノマーインスリンおよび肝特異的インスリンアナログが挙げられるが、これらに限定されない。
【0084】
スーパーアクティブインスリンアナログは、天然のヒトインスリンを超えた高い活性を有している。従って、そのようなインスリンは血清グルコースレベルを低下することに関して実質的に同じ効果を得ながら、実質的により少量で投与され得る。スーパーアクティブインスリンアナログとしては、例えば10−アスパラギン酸−Bヒトインスリン;デスペンタペプチド(B26−B30)→AspB10、TyrB25−α−カルボキサミドヒトインスリン;(B26−B30)→gluB10、TyrB25−α−カルボキサミドヒトインスリン;デストリペプチドB28−30インスリン;A13Leu−A14Tyrで置換されたγ−アミノ酪酸を有するインスリン;および式デス(B26−B30)→XB10、TyrB25−α−カルボキサミドヒトインスリン(ここで、XはB鎖の10位で置換している残基)のさらなるインスリンアナログが挙げられる。これらのインスリンアナログは、天然のヒトインスリンの11〜20倍程度の力価を有する。上記のインスリンアナログの全ては天然のヒトインスリンのA鎖またはB鎖に沿ったアミノ酸置換を含んでおり、これが化合物の力価を増加させるか、または、化合物の他の特性を変化させている。モノマーインスリンとしては、リスプロが挙げられるが、これに限定されない。
【0085】
インスリン誘導体としては、例えばアシル化インスリン、グリコシル化インスリンなどが挙げられるが、これらに限定されない。アシル化インスリンの例としては、米国特許第5,922,675号に開示されるもの、例えばグリシン、フェニルアラニンまたはリジンのα−アミノ酸またはε−アミノ酸においてC6−C21脂肪酸(例えばミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸またはステアリン酸)で誘導体化したインスリンが挙げられる。
【0086】
(インスリン感受性を増加させる因子)
いくつかの実施形態において、II型糖尿病を有する個体を処置するための本発明の処置レジメンはさらに、インスリン抵抗性を減少させる(例えばインスリン感受性を増加させる)さらなる因子を投与する工程を包含する。インスリン抵抗性を処置する適切な因子としては、ビグアニド(例えばMetformin(例えば一日当たり3回500mgまたは850mgの量で投与))、Phenforminまたはその塩;チアゾリジンジオン化合物(例えばトログリタゾン(例えば米国特許第4,572,912号を参照のこと))、ロシグリタゾン(SmithKlineBeecham)、ピオグリタゾン(Takeda)、Glaxo−WelcomeのGL−262570、エングリタゾン(CP−68722、Pfizer)またはダルグリタゾン(CP−86325、Pfizer、イサグリタゾン(MCC−555;Mitsubishi;例えば米国特許第5,594,016号を参照のこと)、レグリタザール(JTT−501)、L−895645(Merck)、R−119702(Sankyo/WL)、NN−2344、YM−440(Yamanouchi)、Ragaglitazar(NNC61−0029またはDRF2725;NovoNordisk)、ファルグリタザール(GI262570)、テサグリタザール(AZ242)、KRP−297など;および複合物(例えばAvandametTM(ロシグリダゾンマレエートとメトホルミン−HCl))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
(処置に適した被験体)
本発明の方法による処置に適した個体としては、いずれかの理由により動脈の硬化(または低下した動脈コンプライアンス)を有する任意の個体が挙げられる。このような個体としては、減少した動脈コンプライアンスに関連または起因する障害(アテローム性動脈硬化症、I型糖尿病、II型糖尿病、冠状動脈疾患、硬皮症、脳卒中、拡張期機能不全、家族性高コレステロール血症、孤立性収縮期高血圧、原発性高血圧、二次性高血圧、左室肥大、長期間喫煙に関連する動脈壁の硬化、肥満に関連する動脈壁の硬化、年齢に関連する動脈壁の硬化、全身性エリテマトーデス、子癇前症および高コレステロール血症が挙げられるが、これらに限定されない)を有する個体が挙げられる。
【0088】
処置に特に適しているのは、同様な状況下にある健常個体と比較して測定された全体的な動脈コンプライアンスが低下している個体である。また処置に特に適しているのは、同様な状況下にある健常個体において予測される局所的動脈コンプライアンスと比較して測定された局所的動脈コンプライアンスが減少している個体である。同様な健常個体において予測される限局的な動脈コンプライアンスと比較してその測定値が減少している個体も処置に特に適している。いくつかの例において、異なる時点において、ある個体の広範囲の、局所的なまたは限局的な動脈コンプライアンスが測定され得、その個体における動脈コンプライアンスが減少し、介入が適切であることを示すレベルに近づいているか否かを決定するために比較され得る。
【0089】
本発明の方法による処置に適した個体としては、年齢に関連する動脈の硬化を発症しているか、発症の危険性を有する個体が挙げられる。そのような個体としては、50歳を超えたヒト、例えば約50歳〜約60歳、約60歳〜約65歳、約65歳〜約70歳、約70歳〜約75歳、約75歳〜約80歳、またはそれより高齢のヒトが挙げられる。
【0090】
また本発明の方法による処置に適した個体は、閉経周辺期の女性、閉経期の女性または閉経後の女性、および、非加齢関連の理由により、例えば手術(例えば子宮摘出、卵巣摘出)の結果として、月経を終止しており、そしてこれにより動脈の硬化を発症しているか、その発症の危険性を有する女性である。このような女性は、レラキシンおよびエストロゲンを使用した複合療法により処置され得る。このような女性はまた、レラキシン、エストロゲンおよび抗高血圧因子を使用した複合療法により処置され得る。
【0091】
また本発明の方法による処置に適した個体は、I型糖尿病と診断された個体である。また本発明の方法による処置に適した個体は、II型糖尿病と診断された個体である。インスリン抵抗性である個体は、以下の基準:1)2.5より高いHOMA−IR値(空腹時インスリン(mU/ml)×空腹時グルコース(mmol/l)/22.5の計算に基づく);2)約20μU/mLより高い、または、約25μU/mLより高い空腹時血清インスリンレベル;3)約3.5ng/mLより高い、または約4.5ng/mLより高い空腹時血清Cペプチド濃レベル、の1つ以上によって同定される。
【実施例】
【0092】
以下の実施例は、当業者に対して本発明の製造および使用の方法の完全な開示および説明を提供するために記載するものであり、本発明者らがその発明とみなしている範囲を限定する意図はなく、また、以下の実験が行なわれた全てまたは唯一の実験であることを示す意図もない。使用した数値(例えば量、温度など)に関しては正確を期したが、実験上の誤差および偏差は許容されなければならない。他に示さない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏であり、そして圧力は大気圧近傍である。標準的な略記方法を使用しており、例えばbpは塩基対;kbはキロベース;plはピコリットル;sまたはsecは秒;minは分;hまたはhrは時間;aaはアミノ酸;kbはキロベース;bpは塩基対;ntはヌクレオチド;i.m.は筋肉内;i.p.は腹腔内;s.c.は皮下などである。
【0093】
(実施例1:全身動脈抵抗およびコンプライアンスに対するレラキシンの効果)
(方法)
(動物)
12〜14週齢のLong−Evans雌性ラットを、Harlan Sprague−Dawley(Frederick,Maryland USA)から購入した。これらには0.48%ナトリウムを含有するPROLAB RMH2000飼料(PME Feeds Inc.,St.Louis,MO USA)および水を自由摂取させた。ラットは12時間の明期/暗期サイクルで維持した。Institutional Animal Care and Use Committee of the Magee−Womens Research Instituteは全ての動物手順を認可している。
【0094】
(外科的調製)
手短には、ラットをNalgene代謝ケージ(VWR Scientific Products)に1週間馴化させ、その後、代謝ケージ内において、ハーネス/7.5cmスプリングアセンブリに対してさらに1週間馴化させた(Harvard Apparatus,Holliston,MA USA)。動物をイソフラン麻酔下にハーネスにフィットさせた。この馴化期間の後、ラットを、60mg/kgケタミンを筋肉内および21mg/kgペントバルビタール腹腔内で麻酔し、そして加熱パッド上に腹臥位に置いた。70%エタノールおよびベタジンを全ての露出した皮膚領域に適用した後、アンピシリンを皮下投与(125mg/ml溶液を0.2ml)し、アトロピンも皮下投与した(0.4mg/ml溶液を0.075ml)。次にリンゲル液を含有するシリンジに連結した滅菌tygonカテーテル(18インチ長、0.015インチ内径、0.030外径)ならびに滅菌熱希釈マイクロプローブ(22cm長、F#1.5;Columbus Instruments、Columbus、OH USA)をスプリングの内側に通した。その後、tygonカテーテルをハーネス内の孔に通し、次に18ゲージのトロカールを用いて耳後部の小切開部に出るように肩甲骨中間地点から皮下を貫通させた。
【0095】
熱希釈カテーテルはまたハーネスアセンブリに通し、次に左肋下縁の皮膚切開部に出るように肩甲骨中間地点から皮下を貫通させた。次にスプリングをハーネスに再度取り付けた。ラットを再度仰臥位とした。1.0cmの皮膚切開部を左鼡径部に作製した。外部腸骨動脈を単離し、カテーテル挿入用に調製した。次に熱電対を皮下に貫通させ、鼡径部の切開部から出した。次に熱電対を外部腸骨動脈内に吻側方向に挿入し、これにより内部の腸骨動脈を容易に通過してその後大動脈にいたるようにした。4.0cmにおいて、熱電対は左腎動脈の約1.0cm下となった。次に水平方向の2.0cm切開部を輪状切痕の1.0cm上の気管上に作製した。
【0096】
この切開部を通して、大型の皮下ポケットを首部の左肩上部に切開した。次に右頚静脈および頚動脈を単離し、カテーテル挿入用に調製し、後者はガーゼの小ロールを頚部下に入れてこの深構造を上昇させることにより容易に行えるようにした。18ゲージトロカールを用いて、tygonカテーテルを右耳後部の小切開部から皮下に貫通させ頚部切開部から出した。tygonカテーテルを右頸静脈3.0cmに移植し、これによりカテーテルの先端が前大静脈と右心耳の交会部に配置するようにした。滅菌マウス圧力カテーテルのバッテリー/トランスミッター(TA11PA−C20;ca.F#1.2;Data
Sciences International,St.Paul,MN USA)を皮下ポケットに挿入した。次にマウス圧力カテーテルを右頚動脈2.8cmに移植し、これによりカテーテルの先端が右頚動脈と大動脈弓の交会部に位置するようにした。全ての創傷部を4−0シルクまたはオートクリップで閉鎖した。頸静脈カテーテルにヘパリン溶液0.05mlを滴加し、ストレートピンでプラグした後、ラットを代謝ケージに入れ、2日間飲料水によりアンピシリンを与えた(デキストロース小さじ2杯で100mg/50ml)。ケージ上部から出ているスプリングおよびカテーテルは固定した。
【0097】
ラットが麻酔から十分回復した後すぐに、テルブトロールを術後鎮痛剤として皮下投与した。10日間組換えヒトレラキシンの低用量投与(4.0μg/h rhRLX)のために、2個のAlzetモデル2002浸透圧ミニポンプ(Durect Corporation、Curpertino、CA USA)をイソフラン麻酔下に動物の背部に皮下挿入した。10日間の高用量投与(25μg/h)のために、1個のAlzetモデル2ML2浸透圧ミニポンプを移植した。最終時点の測定終了後、ラットを60mg/kgペントバルビタールの静脈内により麻酔した。rhRLXレベル、浸透圧およびヘマトクリット用に腹部大動脈から採血した。右心房に相対的な頸静脈カテーテルの位置、大動脈弓に相対的な圧力カテーテルの配置、および、左腎動脈に相対的な熱電対の位置を記録した。
【0098】
(インビボ研究:血液力学的特性および全身動脈機械的特性)
時間コントロール研究を、まず5匹のラットにおいて行うことにより手術後17日間に渡る全身の血液力学の安定性を実証した。測定は、術後4〜5日、7〜8日、9〜10日、13〜14日および16〜17日に記録した。低用量および高用量のrhRLXプロトコルは、それぞれラット6匹および7匹を要した。さらにrhRLX用のビヒクル(20mM 酢酸ナトリウム、pH5.0)を別のラット6匹に投与した。術後第5日および7日の全身血液力学の2ベースライン測定の後、低用量または高用量のいずれかのrhRLXまたはビヒクルを浸透圧ミニポンプにより投与した。全身血液力学は再度、rhRLXまたはビヒクル注入開始後3日、6日、8日および10日に評価した。
【0099】
各測定はラットが睡眠または安静時に得た心拍出量および血圧波形の4〜6個の記録からなるものとした。記録の間は最低10分間設けた。これらの測定値は午前9時〜午後3時の間に得た。
【0100】
心拍出量。心拍出量を測定するために、本発明者らは熱希釈技術を用いた。Osbornら、(1986)Am.J.Physiol.251:H1365−H1372。既知の容量および温度のリンゲル液を、Micro Injector400(Columbus Instruments)を用いて前大静脈内に注射した。心拍出量は血液温度の変化から計算した(Cardiotherm400R、Columbus Instruments)。Cardiotherm400Rにより測定された心拍出量は以下の通り計算した:
【0101】
【数1】
ここで、BTは血液温度(腹部大動脈に移植した熱電対により記録)、ITは注射物の温度(室温)、VIは注射物の容量(150μL)、そして、BT(t)は時間の関数としての血液温度である。
【0102】
血圧。瞬間的大動脈圧を、血圧テレメトリーシステム(Data Sciences International,St.Paul,MN USA)を用いて記録した。Millsら、(2000)J.Appl.Physiol.88:1537−1544。大動脈圧は、右頚動脈を介して大動脈弓内に移植した圧力カテーテルにより記録し、外部レシーバーに伝達した。定常状態の大動脈圧は16ビットの解像度および2000Hzのサンプリング速度でPC系のデータ取得システムを用いてオンラインでデジタル化し、テキストファイルとして保存してオフライン分析用とした。各測定は30秒間のサンプリング持続時間からなるものとした。
【0103】
大動脈圧の分析。取得したデータの分析および全体的なACの計算を、MATLABソフトウエア(MathWorks Inc.,Natick,MA USA)を用いて開発された専用のコンピュータープログラムにより実施した。手短には、心拍出量の測定直前の大動脈圧の記録の10秒から個々の拍動を選択した(3〜15サイクル)。全体をBurattiniら、((1985)Comput.Biomed.Res.18:303−312)に記載の通りに平均して各試行に関する単一の代表的拍動を求めた。平均動脈圧(MAP)、最高収縮期血圧(Ps)および拡張末期血圧(Pd)を、この平均拍動から計算した。脈圧(PP)を、Ps−Pdとして計算した。全身血管抵抗性(SVR)は、COでMAPを割ることにより計算した。
【0104】
全体的な動脈コンプライアンス。全体的な動脈コンプライアンスの2測定値を計算した。第1(ACarea)を、面積法(2):ACarea=Ad/[SVR(P1−P2)]を用いて大動脈圧波形[P(t)]の拡張期の減衰から計算し、ここで、P1およびP2はそれぞれ拡張期の減衰曲線の開始時および終了時の圧力であり、そしてAdはこの領域にわたるP(t)波形下の面積である。全体的な動脈コンプライアンスの第2の測定を、一回拍出量の脈圧に対する比として計算した(Chemlaら、(1998)Am.J.Physiol.274:H500−H505)。一回拍出量を、CO/HRとして定義した。
【0105】
(インビトロ研究:動脈の受動的機構)
非妊娠雌性ラットにrhRLX(4μg/h)またはビヒクルを、浸透圧ミニポンプを用いて5日間投与した。腎臓を摘出し、氷冷HEPES緩衝生理食塩水(PSS、改変Kreb’s緩衝液)中に入れた。HEPES−生理食塩水溶液の組成(mmol/L)は、塩化ナトリウム142、塩化カリウム4.7、硫酸マグネシウム1.17、塩化カルシウム2.5、リン酸カリウム1.18、HEPES10、グルコース5.5からなり、37°CでpH7.4であった。Gandleyら、((2001)Am.J.Physiol.280:R1−R7)の記載に従ってステレオ切開顕微鏡、微小鉗子および虹彩切除ハサミを用いて葉間動脈を単離した(未加圧内径100〜200μm)。次に動脈切片を等圧動脈造影デバイス(Living Systems Instrumentation,Burlington,VT USA)に移し、チャンバー内に懸垂した2つのガラスマイクロカニューレ上にマウントした。残余の血液を動脈管腔から洗浄した後、遠位のカニューレを閉塞して流動を防止した。近位のカニューレを圧力変換器、圧力サーボコントローラーおよび蠕動ポンプに連結した。サーボコントローラーは段階的様式で変化する選択された管腔内圧力を維持した。電子寸法分析システムにより動脈直径測定値を得た。
【0106】
血管をカルシウム非含有HEPES PPS中10−4M パパベリンおよび10−2M EGTAを含む浴中でインキュベートした。30分の平衡期間の後、経壁圧を0mmHgで開始し、150mmHgまで14段階に増加させた。各圧力段階の後、血管が定常状態に達した時点で内径および外径ならびに壁圧を測定した。壁中央の半径(Rm)および周囲壁応力(σ)を前に記載の通りにこれらのデータから計算した(Cholleyら、(2001)J.Appl.Physiol.90:2427−2438)。血管壁の弾性は、漸増量の弾性率(Einc)として定量し、これはσ−Rmの関係から計算した(Paganiら、(1979)Circ.Res.44:420−429)。
【0107】
(血清の測定)
血清の浸透圧を、凝固点低下機器浸透圧計を用いて測定した(Model 3 MO;Advanced Instruments、Needham Heights、MA USA)。血清中のrhRLXのレベルを、以前に記載されている通り定量的サンドイッチイムノアッセイにより測定した(Jeyabalanら、(2003)Circ Res.93(12):1249−57)。
【0108】
(rhRLXの調製)
2個のモデル2002の浸透圧ミニポンプ(Durect Corporation、Cupertino、CA USA)を用いて10日間4μg/hの用量でrhRLXを送達し、これにより、ラットの早期〜中期の妊娠期間に測定される循環レラキシン濃度、すなわちこの種において妊娠に誘導される腎血管拡張が最大となる時期の10〜20ng/mlと類似する循環レラキシン濃度を生じた。1個のモデル2ML2浸透圧ミニポンプを用いて、この種においてCOがさらに増加しSVRが低下する中期〜後期の妊娠期間に記録される数値に匹敵する循環ホルモン濃度が生じることが予測される25μg/hの用量で10日間rhRLXを送達した。20mM 酢酸ナトリウム、pH5.0中の5.0mg/ml溶液として提供されたrhRLX(Connetics、Palo Alto、California USA)を、同じ緩衝液中に希釈した。
【0109】
(統計学的分析)
データを平均+SEMとして表示する。反復測定一元配置ANOVAまたは反復測定二元配置ANOVA(Zar(1984)Biostatistical Analysis、Englewood Cliffs、NJ:Prentice Hall)を用いて種々の群間の平均値を比較した。有意な主効果または相互作用が観察された場合は、群間の比較をFisherの最小有意差法またはDunnett検定を用いて行った。対応のあるスチューデントt検定を用いてrhRLXの注入の間の複合平均値(すなわちrhRLX注入の間の全時点に渡って平均された値)をベースラインと比較した。最小二乗法による回帰分析をσ−RmおよびEinc−Rmの関係について行った。過分散(または自乗の過総和)の分析を用いてビヒクルとレラキシン処置群との間のこれらの関係を比較した。p<0.05を有意と見なした。
【0110】
(結果)
(インビボ研究)
時間コントロール。コントロールラットにおける術後17日間にわたる全身動脈血液力学的および負荷の安定性(表1)。心拍数は前に報告されている通り訓練効果により有意に低下した(ConradおよびRuss(1992)Am.J.Physiol.31.R472−477)。一回拍出量はCOが未変化となるように相互に増加した。全ての他の変数は、術後17日間の期間にわたって有意に変化せず、従って、この覚醒ラットモデルは次に記載する実験条件下で意味のあるデータを得るために使用され得る(表1)。
【0111】
【表1】
平均±SEM。N=5匹のラット。ΔTは右心臓内へのリンゲル液の注入後の血液の温度の変化;COは心拍出量;HRは心拍数;SVは一回拍出量;ACareaは面積法を用いて計算した全体的な動脈コンプライアンス;SVRは全身血管抵抗;MAPは平均動脈圧である。*反復測定一元配置ANOVAによりP<0.05。
【0112】
ビヒクル投与ラット(rhRLX用)。これらの結果は、1μl/hの注入速度でrhRLX用のビヒクルを投与したラット3匹から、そして、5μl/hの注入速度でrhRLX用のビヒクルを投与した別のラット3匹から得られた。(これらはそれぞれrhRLXの低用量および高用量の投与の流量に相当する。)結果は比較可能であり、従って組み合わせた。図1および図2は、全身血液力学および他の変数に関するベースラインからのパーセント変化を示す。時間コントロール研究と同様、心拍数には有意な低下が観察され、これはCOが未変化に維持されるように有意でない一回拍出量増加により相殺された。他の全ての変数は比較的一定に維持された。ビヒクルの投与の間の時点の全てを合わせると、CO、広範囲のACおよびSVRの全体的変化は、それぞれベースラインの−1.4+1.3%、2.2+4.6%および0.4+3.4%であった(全てのPは、NS 対 ベースライン)。予測された通り、血清中には測定可能なrhRLXは観察されず、浸透圧は309+6mOsm/kg水であった。
【0113】
低用量rhRLX(4μg/h)投与ラット。全身血液力学および他のパラメーターに関する絶対値は表2に示す通りであり、そして図1および図2はベースラインからのパーセント変化の一時的パターンを示す。
【0114】
【表2】
平均±SEM。N=6匹のラット。2回のベースライン測定を術後第5日および第7日に実施した。これらの結果を各ラットにつき平均した。略記については表1を参照のこと。
【0115】
低用量rhRLXは、ベースラインおよびビヒクル注入と比較してCOを有意に増加させた(図1A)。rhRLXの注入は、HRにおいて通常観察される低下を防止し(ビヒクルと比較、図1B)、そしてホルモンは有意にSVを増加させた(図1C)。従って、SVおよびHRの両方の増加は複合されて、ビヒクル注入ラットと比較してCOを上昇させた。全身血管抵抗は、ベースラインおよびビヒクル注入と比較して有意に低下(図2A)したが、MAPは未変化のままであった(図2B)。
【0116】
広範囲のACはベースラインおよびビヒクル注入と比較して有意に増加した(図2C)。脈圧には有意な変化はなかったが、一回拍出量の脈圧に対する比、動脈コンプライアンスの別の指標は、ベースラインおよびビヒクル注入と比較して低用量rhRLXの注入の間に、有意に増加した(図2D)。低用量rhRLX投与により有意な変化(すなわちレラキシンおよび/または相互作用に関する有意なF値)を示した変数の経時変化をさらに試験した。種々の時点におけるデータの事後対比較によれば(Fisherの最小有意差法)COおよびSVは共に第3日にはベースラインより有意に高かった。SVは第8日まで増加し続けた(p<0.05、第8日 対 第3日)(図1C)が、第3日以降はCOには有意な経時変化は観察されなかった(図1A)。これは第3日から第8日へのHRの小規模であるが非有意の低下の結果であった(図1B)。
【0117】
SVRおよび広範囲のACの両測定値は第3日に有意に変化し、その後はそれ以上の有意な変化は観察されなかった(図2)。一般的に低用量rhRLX投与後の動脈の血液力学および機械的特性の最大の変化は、試験の最も早い時点(第3日)において観察され、その後の一時的変化は観察されない。低用量rhRLXの投与の間の全時点を組み合わせれば、COおよび広範囲のACの全体的増加は、それぞれ、19.2+4.8%および21.4+3.6%ベースラインより高く、SVRの全体的低下は15.5+2.4%ベースラインより低かった(全てP<0.01は、ベースラインに対してである)。血清のrhRLXおよび浸透圧はそれぞれ14+2ng/mlおよび284+2mOsm/kg水であった。後者はビヒクル注入と比較して有意に低下していた。
【0118】
高用量rhRLX(25μg/h)投与ラット。全身血液力学および他の変数に関する絶対値は表3に示す通りであり、そして図1および図2はベースラインからのパーセント変化の一時的パターンを示す。高用量注入の結果は、方向性は低用量投与に匹敵するものであったが、程度が多少小さかった。
【0119】
【表3】
平均±SEM。N=7匹のラット。2回のベースライン測定を術後第5日および第7日に実施した。これらの結果を各ラットにつき平均した。略記については表1を参照のこと。
【0120】
高用量rhRLXによる個々の変数の変化の一時的分析は、低用量rhRLXの場合と同様の様式で実施した。もう一度述べると、CO(図1A)、SV(図1C)、SVR(図2A)および広範囲のAC(SV/PP法)(図2D)は、試験の最も早い時点(第3日)までに最大に変化し、その後の有意な変化は観察されなかった。面積法により計算した広範囲のACの一時的応答(図2C)は、この一般的パターンからは若干偏位しており、第6日のACareaはベースラインのものと差がなかった。これは異常計測の可能性があり、その理由は第2の測定の全時点における広範囲のAC(図2D)および第3日、第8日および第10日におけるACarea(図2C)がベースラインより有意に高かったためである。高用量rhRLXの投与の間の全時点を組み合わせれば、COおよび広範囲のACの全体的増加は、それぞれ、14.1+3.2および15.6+4.7%ベースラインより高く、SVRの全体的低下は9.7+2.4%ベースラインより低かった(全てP<0.02)。血清中のレラキシンおよび浸透圧はそれぞれ36+3ng/mlおよび287+1mOsm/kg水であった。後者はビヒクル注入と比較して有意に低下していた。
【0121】
動脈圧波形。ベースラインおよびrhRLX投与後の1匹のラットから得た代表的な動脈波形を図3Aに示す。これらはマウスの圧力カテーテル(TA11PA−C20)が広範囲のACの測定に必要な高い忠実度の記録を与えることを示している。Burattiniら、(前出)の提案した方法を用いて誘導した全体的平均の動脈圧波形を、注入の第10日におけるラット3群について図3Bに示す。上で考察した通り、rhRLX投与後のSVは有意に増加し、SVRは有意に減少した(表2および3)。これらが唯一の変化である場合、圧力波形形態の明確な変化:増加した脈圧および加速された動脈圧拡張期の減衰の観察を期待できる。しかし、図3Bに示す通り、rhRLXの投与は圧力波形形態に有意に影響せず、これは未変化の脈圧および拡張期の減衰が示す通りである。増加SVおよび減少SVRの存在下のこの不変の圧力波形形態は広範囲のACにおける同時増加と一致している。
【0122】
(インビトロ研究)
動脈の受動的機序。これらのインビトロの実験を、血管壁の受動的(すなわち活性な平滑筋の緊張の非存在下)機械的特性に対するrhRLX投与の効果を調べるために実施した。上述した通り(方法の節)、主要な測定は、管腔内圧力の種々のレベルにおける血管の内径および外径からなるものとした。周囲壁応力(σ)および壁中央の半径(Rm)をこれらの主要測定値から計算し、σ−Rmの関係を用いて血管壁弾性挙動(例えば漸増弾性率、Einc)を定量した。小腎動脈に関わるσ−Rm(図4A)およびEinc−Rm(図4B)の関係は2群間で有意に異なり(過分散の分析によりp<0.001)、これによりσおよびEincはレラキシン処置群の所定のRmについてはより小さかった。対照的に、非応力のRm、Rmo(すなわちσ=0におけるRm)は2群間で差がなかった(レラキシン処置:105±5μm;ビヒクル処置:98±6μm)。従って、Rm軸は周囲壁応力と考えることができる。これらのデータは、レラキシン処置が適合したRm(緊張)値において血管壁の硬化(Einc)を有意に低下させることを示している。この減少した受動的壁硬化は、レラキシン処置した覚醒動物において観察される上昇した全体的ACに寄与している(上出)。
【0123】
(実施例2:覚醒ラットにおける全身動脈血液力学的特性および機械的特性に対するレラキシンの効果:性別依存性および用量応答)
(方法)
(動物)
12〜14週齢のLong−Evans雄性および雌性ラットをHarlan Sprague−Dawley(Frederick、Maryland USA)から購入した。これらには0.48%ナトリウムを含有するPROLAB RMH2000飼料(PME Feeds Inc.,St.Louis,MO USA)および水を自由摂取させた。ラットは12時間:12時間の明期−暗期サイクルで維持した。この研究は、米国国立衛生研究所により公開されている実験動物の管理と使用に関する指針(NIH Publication No.85−23,1996年改定)に合致している。
【0124】
(組換えヒトレラキシン(rhRLX)の投与)
rhRLX(BAS、Palo Alto、California USA)は緩衝液(20mM 酢酸ナトリウム、pH5.0)中の5.0mg/ml溶液として提供された。これを必要に応じて同じ緩衝液中に希釈した。低用量注入プロトコルについては、2個のモデル2002の浸透圧ミニポンプ(Durect Corporation、Cupertino、CA USA)を用いて10日間4μg/hの用量でrhRLXを送達した。この用量は、ラットの早期〜中期の妊娠期間に測定される循環レラキシン濃度、すなわち10〜20ng/mlと類似する循環レラキシン濃度を生じるように設計した(Sherwood OD、Endocrinol Rev 25(2):205−234、2004)。高用量注入プロトコルについては1個のモデル2ML2浸透圧ミニポンプを用いて、この種においてCOがさらに増加しSVRが減少する時期(Gilsonら、Am J Physiol 32:H1911−H1918、1992;Slangenら、Am J Physiol 270:H1779−1784、1996)の後期の妊娠期間に記録される数値に匹敵する血清濃度がもたらされることが予測される50μg/hの用量で6日間rhRLXを送達した(Sherwood OD、Endocrinol Rev 25(2):205−234,2004)。最後に第3のプロトコルにおいて、rhRLXを3分間にわたって静脈内ボーラスにより投与し(13.4μg/ml)、その後4時間静脈内連続注入した。
【0125】
(外科的調製)
実施例1のように、ラットを、60mg/kgケタミンを筋肉内および21mg/kgペントバルビタールを腹腔内で麻酔した。次いでこれらを、滅菌技術を用いて、以下の通りに機器処置に付した:(i)tygonカテーテルを前大静脈および右心房の接合部に先端が位置するように右頸静脈内に移植し、(ii)熱希釈マイクロプローブ(36cm長、F#1.5;Columbus Instruments、Columbus、OH USA)を左腎動脈の1.0cm下に先端が位置するように左大腿動脈を介して腹部大動脈内に移植し、そして(iii)マウス圧カテーテル(TA11PA−C20;F#1.2;Data Sciences International、St.Paul、MN USA)を右頚動脈および大動脈弓の接合部に先端が位置するように右頚動脈内に移植した。rhRLXの急性投与のためには、別のtygonカテーテルを右腎動脈の1.0cm下に先端が位置するように左大腿動脈を介して下大静脈内に移植した。
【0126】
頸静脈カテーテルにヘパリン溶液0.05mlを滴加し、ストレートピンでプラグした後、ラットに2日間飲料水によりアンピシリンを与えた(デキストロース小さじ2杯で100mg/50ml)。テルブトロールを術後鎮痛剤として皮下投与した。
【0127】
雄性ラットにおける10日間の低用量組換えヒトレラキシンの慢性投与(4.0μg/h rhRLX)のために、2個のAlzetモデル2002浸透圧ミニポンプ(Durect Corporation、Curpertino、CA USA)をイソフラン麻酔下に動物の背部に皮下挿入した。6日間の雌性ラットにおける慢性高用量投与(80μg/h)のために、1個のAlzetモデル2ML2浸透圧ミニポンプを移植した。高用量rhRLXをまた別の群の雌性ラットに対し、急性には3分間にわたる静脈内ボーラス投与(13.4μg/ml)、ついで4時間の連続注入により投与した。
【0128】
最終時点の測定終了後、ラットを60mg/kgペントバルビタールの静脈内により麻酔した。血漿のrhRLXレベル測定用に腹部大動脈から採血した。右心房に相対的な頸静脈カテーテルの位置、大動脈弓に相対的な圧力カテーテルの配置、および、左腎動脈に相対的な熱電対の位置を記録した。
【0129】
(血液力学的特性および全身動脈機械的特性)
低用量および高用量のrhRLXプロトコルはそれぞれ雄性ラット7匹および雌性ラット9匹を要した。術後第5日および第7日の全身血液力学の2ベースライン測定の後、低用量または高用量のいずれかのrhRLXを浸透圧ミニポンプにより投与した。全身血液力学は再度、レラキシン注入開始後、低用量雄性ラットでは第3日、6日、8日および10日に、そして高用量雌性ラットでは3日および6日に測定した。各測定はラットが睡眠または安静時に得た心拍出量および血圧波形の4〜8個の記録からなるものとした。記録の間は7〜10分間設けた。これらの測定値は午前9時〜午後3時の間に得た。
【0130】
高用量rhRLXの急性投与については、雌性ラット5匹を使用した。4時間の高用量rhRLXの静脈内注入の後に全身血液力学のベースライン測定を行った。全身血液力学的特徴は4時間の注入中継続して評価した。
【0131】
本発明者等は心拍出量を測定するために、熱希釈技術を用いた(Osbornら、Am.J.Physiol.251:H1365−H1372、1986)。瞬間的大動脈圧波形を、血圧テレメトリーシステム(Data Sciences International、St.Paul、MN USA)を用いて記録した(Millsら、J Appl Physiol 88:1537−1544、2000)。大動脈圧は大動脈弓内に移植した圧力カテーテルにより記録し、外部レシーバーに伝達した。定常状態の大動脈圧は16ビットの解像度および2000Hzのサンプリング速度でPC系のデータ取得システムを用いてオンラインでデジタル化し、テキストファイルとして保存してオフライン分析用とした。各測定は30秒のサンプリング持続時間からなるものとした。
【0132】
取得したデータの分析および全体的なACの計算を、Matlabソフトウエア(MathWorks Inc.、Natick、MA USA)を用いて開発された専用のコンピュータープログラムにより実施した。手短には、心拍出量の測定直前の大動脈圧の記録の10秒から個々の拍動を選択した(3〜15サイクル)。全体をBurattiniら、(2)に記載の通りに平均して各試行に関する単一の代表的拍動を求めた。平均動脈圧(MAP)、最高収縮期血圧(Ps)および拡張末期血圧(Pd)を、この平均拍動から計算した。脈圧(PP)を、Ps−Pdとして計算した。全身血管抵抗性(SVR)は、COでMAPを割ることにより計算した。
【0133】
全体的な動脈コンプライアンスの2測定値を計算した。第1(ACarea)を、面積法(18):
ACarea=Ad/[SVR(P1−P2)]
を用いて大動脈圧波形[P(t)]の拡張期の減衰から計算し、ここで、P1およびP2はそれぞれ拡張期の減衰曲線の開始時および終了時の圧力であり、そしてAdはこの領域に渡るP(t)波形下の面積である。全体的な動脈コンプライアンスの第2の測定を、一回拍出量の脈圧に対する比、SV/PPとして計算した(Chemlaら、Am J Physiol 274:H500−H505、1988)。一回拍出量を、CO/HRとして定義した。
【0134】
(血清の測定)
血清の浸透圧を、凝固点低下機器浸透圧計を用いて測定した(Model 3 MO;Advanced Instruments、Needham Heights、MA USA)。血清中のrhRLXのレベルを、以前に記載されている通り定量的サンドイッチイムノアッセイにより測定した(Jeyabalanら、Circ Res 93:1249−1257、2003)。
【0135】
(統計学的分析)
データを平均±SEMとして表示する。低用量および中程度の用量のrhRLXを雌性ラットに投与した以前の試験(Conradら、Endocrinology 145(7):3289−3296、2004;実施例1)のデータを比較のために含める。反復測定二元配置ANOVA(Zar JH、Biostatistical Analysis.Englewood Cliffs:Prentice Hall、1984)を用いて種々の時点における低用量の雄性ラットと雌性ラットとの間の平均値を比較した。同じ分析を、種々の時点での雌性ラットにおけるrhRLXの低用量、中程度の用量および高用量間の平均値を比較するために実施した。反復測定一元配置ANOVA(Conradら、Endocrinology 145(7):3289−3296、2004)を用いて高用量rhRLX急性注入開始後の種々の時点における平均値をベースライン値と比較した。有意な主効果または相互作用が観察された場合は、群間の対比較をFisherの最小有意差法試験を用いて行った。対応のあるスチューデントt検定を用いてrhRLXの慢性注入の間の複合平均値(後に定義)をベースラインと比較した。p<0.05を有意と見なした。最後に直線回帰を用いてレラキシン注入に応答した個々のラットの各動脈特性の変化の程度とその特性のベースライン値との関係を分析した。直線回帰パラメーターにおける群の差を、ダミー変数を用いた多重直線回帰として行われるANCOVAを用いて検査した(Gujarati D、Am Statistician 24:18−22、1970)。
【0136】
(結果)
低用量rhRLXを投与した雄性ラット(4μg/h)。ベースラインの数値のパーセントとして表示したいくつかの全身血液力学の変数の一時的パターンは図5に示す通りであり、これらの変数の絶対値を表4に示す。比較のために雌性ラットにおける4μg/hでのrhRLX注入の効果を試験した本発明者等の以前の試験(Conradら、Endocrinology 145(7):3289−3296、2004)のデータも図5に示す。低用量rhRLXは、雄性ラットにおいてベースラインと比較してCOを有意に増加させた。わずか(約6%)であるが統計学的に有意なHRの上昇がレラキシン処置雄性ラットにおいて観察された(図5A)。しかし、より大きなSVの上昇(図5B)が観察され、これは、COの上昇は大部分がSV増加に起因しており、そしてHRの上昇に起因する程度は低かったこと示唆している。平均動脈圧はrhRLX注入の間有意に変化しなかった(図5D)。最終時点(すなわちrhRLX注入開始後10日)において、雄性ラットおよび雌性ラットの全身血液力学に対するrhRLX投与の効果には統計学的有意差はなかった。
【0137】
ベースライン値のパーセントとして表示した雄性ラットにおける全身動脈特性に対するrhRLX注入の一時的作用を図6に示す。これらの変数の絶対値はやはり表4に示す通りであり、雌性ラットから得たデータも比較のために図6に示す。全身血管抵抗はベースラインと比較して有意に低下(図6A)していたが、動脈コンプライアンスの両方の尺度(ACareaおよびSV/PP)は有意に増加していた(図2Bおよび2C)。最終時点(すなわちrhRLX注入開始後10日)において、動脈特性の変化は、雄性ラットと雌性ラットとの間で統計学的有意差はなかった。
【0138】
【表4】
平均±SEM。N=7匹のラット。ΔTは右心臓内へのリンゲル液の注入後の血液の温度の変化;COは心拍出量;HRは心拍数;SVは一回拍出量;ACareaは面積法を用いて計算した全体的な動脈コンプライアンス;SVRは全身血管抵抗;MAPは平均動脈圧である。*反復測定一元配置ANOVAによりP<0.05。
【0139】
本発明者らは、ベースラインからの有意な変化により特徴付けられ、相互には有意差がないrhRLX注入の間の全ての連続時点における値(即ち定常状態)を平均することにより各変数に対するベースラインからの複合的平均変化を計算した。これによりCOおよびACの全体的増加は、それぞれ、ベースラインから20.5±4.2%および19.4±6.9%となり、そしてSVRの全体的減少はベースラインから12.7±3.9%となった(ベースラインに対して全てP<0.05)。雄性ラットのこれらの結果と報告された雌性ラットの結果との間には統計学的差はなかった(実施例1)。血清中rhRLXは17.7±1.1ng/mlであり、これは同じrhRLXレジメンで投与した雌性ラットで以前に観察された数値、14.0±2.0ng/mlと類似していた。
【0140】
高用量rhRLX(50μg/h)を投与した雌性ラット。全身血液力学および動脈特性の絶対値は表5に列挙し、rhRLX注入開始後のその一時的パターンを、図3および4に示す。比較のために、雌性ラットにおいて低用量(血清濃度=14±2ng/ml)および中程度の用量(血清濃度=36±3ng/ml)のrhRLX注入の効果を試験する実施例1のデータも図3および4に示す。低用量および中程度の用量のrhRLX注入は、主にSVを増加させることにより、COを有意に増加させた。両方の用量とも有意にSVRを低下させ、そしてACを増加させた(Conradら、Endocrinology 145(7):3289−3296、2004)。これらの変化は全て試験した最も早期の時点、すなわちrhRLX投与開始後3日に観察された。この研究における高用量注入に関する血清rhRLX濃度は71.5±1.6ng/mlであった。しかし、全身血液力学および動脈特性のいずれにおいてもベースラインからの変化はなかった(図3および図4)。従って、全身血液力学的特性および動脈特性に対するrhRLXの効果は、見かけ上は二相性であった。
【0141】
【表5】
平均±SEM。N=8匹のラット。ΔTは右心臓内へのリンゲル液の注入後の血液の温度の変化;COは心拍出量;HRは心拍数;SVは一回拍出量;ACareaは面積法を用いて計算した全体的な動脈コンプライアンス;SVRは全身血管抵抗;MAPは平均動脈圧である。*反復測定一元配置ANOVAによりP<0.05。
【0142】
rhRLX投与開始後3日よりも早期の時点において高用量rhRLX処置に応答した全身血液力学的特性および動脈特性における有意な変化があるか否かを決定するために、さらに5匹の雌性覚醒ラットに4時間にわたってrhRLXを急性静脈内注入で処置した。血清中rhRLX濃度は64.1±1.0ng/mlであった。ベースライン値のパーセントで表示した雌性ラットにおける全身血液力学的特性および動脈特性に対する短期高用量rhRLX注入の一時的効果を図5および図6に示す。心拍数は、2時間および4時間の両方の時点において有意に増加した(約13%)(図9A)。このHRの増加は、SVの低下(統計学的に有意ではない)により相殺され(図9B)、COの有意な変化は生じなかった(図9C)。わずか(約8%)であるが統計学的に有意なMAPの増加が観察された(図9D)。全身動脈特性のいずれにもベースラインからの統計学的に有意な変化は観察されなかった(図9)。
【0143】
上記のデータは、低用量rhRLXの注入に応答した個々のラット(雌性または雄性)の動脈特性の変化の程度がその特定の特性のベースライン値に依存していたことを示唆している。この傾向を確認するために、SVR、ACareaおよびSV/PPのベースライン値とそれぞれのrhRLX注入の間のベースラインからの複合パーセント変化との間の関係を分析した。直線回帰分析により、SVR(図9A)およびACに対するrhRLX注入の効果(すなわちベースラインからのパーセント変化)は、ACarea(図9B)およびSV/PP(図9C)により測定した場合、全てそのベースライン値に高度に依存していることが明らかになった。特に、ベースラインにおいて低ACであったラットはレラキシン処置に応答したACのより大きい増加を特徴としていた。同様に、ベースラインにおいて高いSVRを有していたラットはSVRのより大きな低下を伴うレラキシンへ応答していた。さらなる解析(ANCOVA)は、これらの直線的関係は雌雄のラット間で差がなかったことを示した。
【0144】
上記の結果は、レラキシンが伝統的には雌性ホルモンであると考えられており、雄性ラットにおいては循環しないと考えられていた(Sherwood OD,Endocrinol Rev 25(2):205−234、2004)にも関わらず、雄性および雌性のラットの両方において全身血液力学的特性および動脈特性に対して同様の効果を誘発することを示す。
【0145】
本発明はその特定の実施形態を参照して記載されたが、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、種々の変更が可能であり、等価物による代替が可能であることが当業者により理解されるべきである。さらに、本発明の目的、精神および範囲に対し、特定の状況、材料、物質の組成物、プロセス、プロセスの工程または工程を適合させるべく多くの改変がなされ得る。このような改変は全て本明細書に添付した特許請求の範囲の範囲内に包含されることが意図される。
【技術分野】
【0001】
(関連出願に対する相互参照)
本出願は、2004年3月19日に出願された米国特許出願第60/554,716号に対する優先権を主張し、その教示は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(連邦政府の後援研究に関する記述)
米国政府は、米国国立衛生研究所により資金援助された助成金番号RO1HL67937に従って、本発明における一部の権利を有し得る。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、動脈コンプライアンス、特に動脈コンプライアンスを増加させるためのレラキシンの使用の分野に属する。
【背景技術】
【0004】
(発明の背景)
動脈コンプライアンスは明白な心臓血管疾患を有さない健常個体においても年齢とともに低下する。加齢に伴って大型および小型の動脈が圧力増加に応答して拡張する能力の低下が観察される。動脈コンプライアンスの年齢と結びついた低下は心臓血管疾患の発生の独立した危険因子であり、多くの他の病理学的状態に関連している。例えば、低下した動脈コンプライアンスはまたI型糖尿病およびII型糖尿病の両方に関連している。糖尿病の動脈は、非糖尿病個体の動脈と比較して加速された速度で老化するようであることが報告されている。例えば、非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;特許文献1;特許文献2を参照のこと。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,251,863号明細書
【特許文献2】米国特許第6,211,147号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Arnettら、「Am J Epidemiol.」、1994年、第140巻、p.669−682
【非特許文献2】Rowe、「Am J Cardiol.」、1987年、第60巻、p.68G−71G
【非特許文献3】Cameronら、「Diabetes Car.」、2003年、第26巻、第7号、p.2133−8
【非特許文献4】Kassら、「Circulation」、2001年、第104巻、p.1464−1470
【非特許文献5】Avolioら、「Circulation」、1983年、第68巻、p.50−58
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
動脈コンプライアンスを増加させる方法、および、低下した動脈コンプライアンスに伴うかそれにより生じる障害の処置に対する必要性がこの分野に存在する。本発明はこれらの必要性に取り組む。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、レラキシンレセプターアゴニストを含有する有効量の処方物で減少した動脈コンプライアンスを有する個体を処置する方法を提供する。好ましい実施形態において、レラキシンレセプターアゴニストは組換えヒトレラキシン、例えばヒトH2レラキシンである。
【0009】
本発明の1つの実施形態において、本発明は、被験体における動脈コンプライアンスを増加させる方法を提供し、この方法は以下:この被験体における全体的な動脈コンプライアンスを測定する工程;この全体的な動脈コンプライアンスが健常被験体における全体的な動脈コンプライアンスと比較してこの被験体において減少していることを決定する工程;および、この被験体における動脈コンプライアンスを増加させるためにレラキシンを含有する薬学的処方物をこの被験体に投与する工程を包含する。1つの実施形態において、全体的な動脈コンプライアンスは、面積法を用いて大動脈圧波形の拡張期の減衰から測定され得る。別の実施形態において、全体的な動脈コンプライアンスは、一回拍出量の脈圧に対する比として計算され、そしてこの一回拍出量は心拍出量の心拍数に対する比として定義される。
【0010】
関連する実施形態において、被験体の局所的動脈コンプライアンスまたは限局的な動脈コンプライアンスは、全体的な動脈コンプライアンス測定に加えて、またはその代替として測定され得、そして、局所的または限局的な動脈コンプライアンスが同様の状況下の健常個体で期待される局所的または限局的な動脈コンプライアンスと比較して減少している場合に、レラキシンが投与されてその個体における動脈コンプライアンスを増加させ得る。
【0011】
さらに別の実施形態において、レラキシンが投与される被験体は以下の障害:アテローム性動脈硬化症、I型糖尿病、II型糖尿病、冠状動脈疾患、硬皮症、脳卒中、拡張期機能不全、家族性高コレステロール血症、孤立性収縮期高血圧、原発性高血圧、二次性高血圧、左室肥大、長期間喫煙に関連する動脈壁の硬化、肥満に関連する動脈壁の硬化、年齢に関連する動脈壁の硬化、全身性エリテマトーデス、子癇前症および高コレステロール血症の1つ以上に罹患している。関連する実施形態において、本発明は閉経周辺期、閉経期または閉経後の女性における、そして上記の障害の1つの危険性を有する個体における、動脈コンプライアンスを増加させる方法を提供する。
【0012】
本発明のさらなる実施形態において、レラキシンの投与は、投与前に測定された動脈コンプライアンスと比較して少なくとも10%、15%、20%またはそれより多く動脈コンプライアンスを増加させる。なおさらなる実施形態において、本発明は、減少した動脈コンプライアンスを有する個体への、0.5〜80ng/mlの血清レラキシン濃度を維持するような所定の速度でのレラキシンの投与を提供する。1つの実施形態において、レラキシンは組換えヒトレラキシンである。なお別の実施形態において、レラキシンは組換えH2レラキシンである。関連する実施形態において、レラキシンは毎日、注射可能な処方物中で、徐放性処方物として、または、連続注入として投与され得る。
例えば、本発明は以下を提供する:
(項目1)
被験体における動脈コンプライアンスを増加させるための方法であって、該方法は、以下:
該被験体における全体的な動脈コンプライアンスを測定する工程;
該全体的な動脈コンプライアンスが健常被験体における全体的な動脈コンプライアンスと比較して該被験体において減少していることを決定する工程;および
該被験体における動脈コンプライアンスを増加させるためにレラキシンを含有する薬学的処方物を該被験体に投与する工程、
を包含する、方法。
(項目2)
前記全体的な動脈コンプライアンスが面積法を用いて大動脈圧波形の拡張期の減衰から測定される、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記全体的な動脈コンプライアンスが一回拍出量の脈圧に対する比として計算され、そして該一回拍出量が心拍出量の心拍数に対する比として定義される、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記被験体における前記全体的な動脈コンプライアンスが、該被験体への前記薬学的処方物の投与後少なくとも10%増加する、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目5)
前記被験体における前記全体的な動脈コンプライアンスが、該被験体への前記薬学的処方物の投与後15〜20%増加する、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目6)
前記薬学的処方物が、レラキシンの血清中濃度を0.5〜80ng/mlに維持するように所定の速度で前記被験体に投与される、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目7)
前記レラキシンが組換えヒトレラキシンである、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目8)
前記薬学的処方物が毎日投与される、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目9)
前記薬学的処方物が注射可能な処方物である、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目10)
前記薬学的処方物が徐放性処方物である、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目11)
前記薬学的処方物が連続注入により送達される、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目12)
前記被験体が、アテローム性動脈硬化症、I型糖尿病、II型糖尿病、冠状動脈疾患、硬皮症、脳卒中、拡張期機能不全、家族性高コレステロール血症、孤立性収縮期高血圧、原発性高血圧、二次性高血圧、左室肥大、長期間喫煙に関連する動脈壁の硬化、肥満に関連する動脈壁の硬化、年齢に関連する動脈壁の硬化、全身性エリテマトーデス、子癇前症および高コレステロール血症からなる群より選択される1つ以上の病気と診断される、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目13)
前記被験体が閉経周辺期の女性、閉経期の女性または閉経後の女性である、項目1〜3のいずれかに記載の方法。
(項目14)
被験体における動脈コンプライアンスを増加させるための方法であって、該方法は、以下:
該被験体における局所的な動脈コンプライアンスを測定する工程;
該局所的な動脈コンプライアンスが、健常被験体における全体的な動脈コンプライアンスと比較して該被験体において減少していることを決定する工程;および
該被験体における動脈コンプライアンスを増加させるためにレラキシンを含有する薬学的処方物を該被験体に投与する工程、
を包含する、方法。
(項目15)
前記被験体における前記局所的な動脈コンプライアンスが前記薬学的処方物の投与後少なくとも10%増加する、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記被験体における前記動脈コンプライアンスが前記薬学的処方物の投与後15〜20%増加する、項目14に記載の方法。
(項目17)
前記薬学的処方物が、レラキシンの血清濃度を約0.5〜80ng/mlに維持するように所定の速度で前記被験体に投与される、項目14に記載の方法。
(項目18)
前記レラキシンが組換えヒトレラキシンである、項目14に記載の方法。
(項目19)
前記薬学的処方物が毎日投与される、項目14に記載の方法。
(項目20)
前記薬学的処方物が注射可能な処方物である、項目14に記載の方法。
(項目21)
前記薬学的処方物が徐放性処方物である、項目14に記載の方法。
(項目22)
前記薬学的処方物が連続注入により送達される、項目14に記載の方法。
(項目23)
前記被験体が、アテローム性動脈硬化症、I型糖尿病、II型糖尿病、冠状動脈疾患、硬皮症、脳卒中、拡張期機能不全、家族性高コレステロール血症、孤立性収縮期高血圧、原発性高血圧、二次性高血圧、左室肥大、長期間喫煙に関連する動脈壁の硬化、肥満に関連する動脈壁の硬化、年齢に関連する動脈壁の硬化、全身性エリテマトーデス、子癇前症および高コレステロール血症からなる群より選択される1つ以上の病気と診断される、項目14に記載の方法。
(項目24)
前記被験体が閉経周辺期の女性、閉経期の女性または閉経後の女性である、項目14に記載の方法。
(項目25)
被験体における動脈コンプライアンスを増加させるための方法であって、該方法は、以下:
該被験体における限局的な動脈コンプライアンスを測定する工程;
該被験体における限局的な動脈コンプライアンスが健常被験体における全体的な動脈コンプライアンスと比較して該被験体において減少していることを決定する工程;および
該被験体における動脈コンプライアンスを増加させるためにレラキシンを含有する薬学的処方物を該被験体に投与する工程、
を包含する、方法。
(項目26)
前記限局的な動脈コンプライアンスが脈波速度を用いて測定される、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記被験体における前記限局的な動脈コンプライアンスが、該被験体への前記処方物の投与後少なくとも10%増加する、項目25に記載の方法。
(項目28)
前記被験体における前記限局的な動脈コンプライアンスが、該被験体への前記薬学的処方物の投与後15〜20%増加する、項目25に記載の方法。
(項目29)
前記薬学的処方物が、レラキシンの血清濃度を約0.5〜80ng/mlに維持するように所定の速度で前記被験体に投与される、項目25に記載の方法。
(項目30)
前記レラキシンが組換えヒトレラキシンである、項目25に記載の方法。
(項目31)
前記薬学的処方物が毎日投与される、項目25に記載の方法。
(項目32)
前記薬学的処方物が注射可能な処方物である、項目25に記載の方法。
(項目33)
前記薬学的処方物が徐放性処方物である、項目25に記載の方法。
(項目34)
前記薬学的処方物が連続注入により送達される、項目25に記載の方法。
(項目35)
前記被験体が、アテローム性動脈硬化症、I型糖尿病、II型糖尿病、冠状動脈疾患、硬皮症、脳卒中、拡張期機能不全、家族性高コレステロール血症、孤立性収縮期高血圧、原発性高血圧、二次性高血圧、左室肥大、長期間喫煙に関連する動脈壁の硬化、肥満に関連する動脈壁の硬化、年齢に関連する動脈壁の硬化、全身性エリテマトーデス、子癇前症および高コレステロール血症からなる群より選択される1つ以上の病気と診断される、項目25に記載の方法。
(項目36)
前記被験体が閉経周辺期の女性、閉経期の女性または閉経後の女性である、項目25に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1A〜Cは、低用量の組換えヒトレラキシン(rhRLX;4μg/h)、高用量のrhRLX(25μg/h)またはビヒクルを投与した雌性ラットにおける心拍出量(図1A)、心拍数(図1B)および一回拍出量(図1C)に関するベースラインからのパーセント変化を示す。
【図2】図2A〜Dは、低用量rhRLX、高用量rhRLXまたはビヒクルを投与した雌性ラットにおける全身血管抵抗(図2A)、平均動脈圧(図2B)、全体的な動脈コンプライアンス(図2C)および一回拍出量の脈圧に対する比に関するベースラインからのパーセント変化を示す。
【図3】図3Aおよび図3Bは、1匹のラットから得た代表的な動脈圧の追跡結果(図3A);および、浸透圧ミニポンプの移植後10日における3群(ビヒクル、低用量rhRLXおよび高用量rhRLX)に関する全体的平均動脈圧波形(図3B)を示す。
【図4】図4Aおよび4Bは、5日間rhRLXまたはビヒクルを処置したラットから単離した小腎動脈に関する周囲ストレス(σ)−壁中央の半径(Rm)(図4A);および漸増弾性率(Einc)−Rm(図4B)の関係を示す。
【図5】図5は、雄性および雌性のラットにおける低用量(4μg/h)組換えヒトレラキシン投与に応答した全身血液力学の一時的変化を示す。心拍数(A)、一回拍出量(B)、心拍出量(C)および平均動脈圧(D)のデータをベースラインのパーセントとして表示する。*P<0.05は、ベースラインに対してである(事後Fisherの最小有意差法)。SVにおける有意な漸増は第6日、第8日および第10日にのみ観察された。
【図6】図6は雄性および雌性のラットにおける低用量(4μg/h)の組換えヒトレラキシン投与に応答した全身動脈特性の一時的変化を示す。全身血管抵抗(A)および全体的な動脈コンプライアンスの2測定値、ACarea(B)およびSV/PP(C)、のデータをベースラインのパーセントとして表示する。*P<0.05は、ベースラインに対してである(事後Fisherの最小有意差法)。ACareaおよびSV/PPにおける有意な漸増は第8日および第10日にのみ観察された。
【図7】図7は、雌性ラットにおける組換えヒトレラキシン投与の3つの用量:低用量(4μg/h)、中程度の用量(25μg/h)および高用量(50μg/h)に応答した全身血液力学の一時的変化を示す。心拍数(A)、一回拍出量(B)、心拍出量(C)および平均動脈圧(D)のデータをベースラインのパーセントとして表示する。*P<0.05は、ベースラインに対してである(事後Fisherの最小有意差法)。
【図8】図8は、雌性ラットにおける組換えヒトレラキシン投与の3用量:低用量(4μg/h)、中程度の用量(25μg/h)および高用量(50μg/h)に応答した全身血液力学の一時的変化を示す。全身血管抵抗(A)および全体的な動脈コンプライアンスの2測定値、ACarea(B)およびSV/PP(C)、のデータをベースラインのパーセントとして表示する。*P<0.05は、ベースラインに対してである(事後Fisherの最小有意差法)。
【図9】図9は、雌性ラットにおける短期間高用量の組換えヒトレラキシン投与に応答した全身血液力学の一時的変化を示す。心拍数(A)、一回拍出量(B)、心拍出量(C)および平均動脈圧(D)のデータをベースラインのパーセントとして表示する。*P<0.05は、ベースラインに対してである(事後Fisherの最小有意差法)。
【図10】図10は、雌性ラットにおける短期間高用量組換えヒトレラキシン投与に応答した全身動脈特性の一時的変化を示す。全身血管抵抗(A)および全体的な動脈コンプライアンスの2測定値、ACarea(B)およびSV/PP(C)、のデータをベースラインのパーセントとして表示する。
【図11】図11は、低用量組換えヒトレラキシン(4μg/h)を投与した雄性ラットおよび雌性ラットにおける全身血管抵抗(A)および全体的な動脈コンプライアンスの2測定値、ACarea(B)およびSV/PP(C)の複合的なベースラインからのパーセント変化とベースライン値との間の関係を示す。これらの関係は性別非依存性であった。各パネルの実線は直線回帰により得られた関係のプロットに相当する(雄性および雌性ラットを組み合わせた)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(定義)
本明細書中で交換可能に使用される用語「被験体」、「宿主」、「個体」および「患者」は、診断または治療が望まれる任意の被験体、特に哺乳動物被験体、特にヒトを指す。他の被験体としては、ウシ、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマなどが挙げられ得る。多くの実施形態において被験体は、低下した動脈コンプライアンスに関連するか、その結果生じる疾患または状態に対する処置が必要なヒトである。
【0015】
「処置」、「処置する」、「治療」などの用語は、本明細書中で、一般的に所望の治療上の効果、薬理学的効果または生理学的な効果が得られることを指す。効果は疾患またはその症状を完全または部分的に予防する点で予防的なものであってもよく、そして/または、疾患および/または疾患に起因する有害な効果に対する部分的または完全な治癒の点で、治療的であってもよい。本明細書において使用される場合、「処置」とは、哺乳動物、例えばヒトにおける疾患の任意の処置を包含し、そして、(a)疾患に罹患しやすいがまだ疾患を有すると診断されていない被験体において疾患が生じることを防止すること;(b)疾患を抑制、すなわちその発生を停止させること;および(c)疾患を軽減、すなわち疾患の後退を引き起こすことを包含する。
【0016】
本明細書中で使用される場合、用語「単離された」および「実質的に精製された」は、本明細書中で交換可能に使用され、「単離されたレラキシン」の文脈で使用される場合、レラキシンポリペプチドが天然に存在する環境とは異なる環境に存在するレラキシンポリペプチドを指す。本明細書中で使用される場合、用語「実質的に精製された」は、その天然の環境から取り出されており、天然には伴っている他の成分が少なくとも60%非含有、好ましくは75%非含有、最も好ましくは90%非含有のレラキシンポリペプチドを指す。
【0017】
本発明をさらに説明する前に、本発明は記載した特定の実施形態に限定されないと理解されるべきである。本発明の範囲は、添付する特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0018】
在る範囲の数値を提供する場合、それぞれの間の値、文脈が明確に他のものを指示しない限り、下限の単位の10分の1まで、その範囲またはいずれかの他に述べたもの上限と下限との間、または述べた範囲の間の値が本発明に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限および下限は独立してより小さい範囲に包含され、そしてやはり本発明に包含され、記載した範囲の任意の特に除外された限度に従う。記載した範囲が限界の一方または両方を包含する場合は、これらに包含される限度のいずれかまたは両方を排除する範囲もまた本発明に包含される。
【0019】
他に定義しない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語および科学的用語は、本発明の属する分野で当業者に一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載したものと同様または同等である任意の方法および材料もまた本発明の実施または試験において使用され得るが、好ましい方法および材料を記載する。本明細書において言及した全ての出版物は、出版物が引用されている部分と関連する方法および/または材料を開示および説明するために、本明細書中に参考として援用される。
【0020】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、文脈が他に明確に指示しない限り、単数形「a」、「および」、「the」は、複数の参照物を包含することが注意されるべきである。従って、例えば、「レラキシン処方物」との言及は、そのような処方物の複数を包含し、そして「活性な因子」との言及は、当業者に公知の活性な因子およびその等価物の1つ以上に対する言及を包含する。
【0021】
本明細書において考察される出版物は、本出願の出願日の前のその開示に関してのみ提供する。本明細書に記載するもののいずれも、以前の発明によりこのような出版物に先行するものとは本発明が見なされないことを受け入れるものとして解釈されるべきではない。さらに、提供された出版物の日付は、実際に公開された日付とは異なる場合があり、それは、個々に確認される必要がある場合もある。
【0022】
(発明の詳細な説明)
本発明は、動脈の硬化に伴う疾患を処置する方法;動脈コンプライアンスを増加させる方法;個体における動脈の硬化を減少する方法;および個体が低下した動脈コンプライアンスに関わる合併症または障害の1つ以上を発症する危険性を低下させる方法を提供する。本方法は、一般的に有効量のレラキシンレセプターアゴニストを、それを必要とする個体に投与する工程を包含する。いくつかの実施形態において、個体は年齢に関連する動脈壁の硬化を有するか、発症する危険性を有している。他の実施形態において、個体はI型糖尿病またはII型糖尿病を有し、従って、動脈の硬化を発症しているか、発症する危険性を有する。他の実施形態において、個体は閉経周辺期の女性、閉経期の女性または閉経後の女性であり、従って動脈の硬化を発症しているか、発症する危険性を有する。さらに他の実施形態において、個体は子癇前症を発症しているか、発症する危険性を有する女性である。
【0023】
ヒトの妊娠における主要な心臓血管の調節の1つは、ちょうど全身血管抵抗(SVR)が最低に達する最初の3ヶ月の終了時までに最高値に達するレラキシンレベルの増加を伴う全体的な動脈コンプライアンスの増加である。少なくとも理論的には、全体的な動脈コンプライアンスの上昇はいくつかの理由:(1)広範囲のACの上昇は、さもなければSVRの顕著な低下により不安定に低いレベルまで低下する拡張期血圧の過剰な低下を防止すること;(2)上昇はさもなければ妊娠期間中に心臓が必要とし、心臓により消費される全仕事の上昇とは不均衡に上昇する心臓により消耗される拍動性または振動性の仕事を最小限にすること;および(3)全体的なACの上昇は、妊娠期間の過剰動的循環に関わらず血液−内皮の界面において安定した剪断型の応力を保つ(または振動性の剪断型の応力を防止する)ことにより、内皮によるスーパーオキシドおよび他の損傷性反応性酸素物質種ではなく酸化窒素の産生に望ましい状態を作ることにより、妊娠期間の心臓血管のホメオスタシスの維持にとって重要である。全体的なACの増加はSVRの減少と共に循環性の過少充填を生じ得、そしてこれにより早期妊娠期間中の腎臓のナトリウムおよび水の保持および血漿容量拡大に寄与する。
【0024】
(処置方法)
本発明は、有効量のレラキシンレセプターアゴニストを、これを必要とする個体に投与する工程を利用した動脈コンプライアンスを増加させるための方法を提供する。いくつかの実施形態において、個体は、アテローム性動脈硬化症、I型糖尿病、II型糖尿病、冠状動脈疾患、硬皮症、脳卒中、拡張期機能不全、家族性高コレステロール血症、孤立性収縮期高血圧、原発性高血圧、二次性高血圧、左室肥大、長期間喫煙に関連する動脈壁の硬化、肥満に関連する動脈壁の硬化、年齢に関連する動脈壁の硬化、全身性エリテマトーデス、子癇前症および高コレステロール血症を有するか、加齢関連の動脈の硬化を発症する危険性を有する。他の実施形態において、個体は閉経周辺期の女性、閉経期の女性または閉経後の女性であるか、または非加齢関連の理由により(例えば過剰な運動により、または、手術(例えば子宮摘出、卵巣摘出)の結果として)、月経を終止しており、そして動脈の硬化を発症しているか、その発症の危険性を有する女性である。
【0025】
本発明の方法は、一般的にレラキシンの有効量を個体に投与する工程を包含する。いくつかの実施形態において、レラキシンの有効量は、レラキシンを用いた処置の非存在下の動脈コンプライアンスと比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、または少なくとも約50%以上、動脈コンプライアンスを増加させるのに有効である量である。
【0026】
いくつかの実施形態において、レラキシンの有効量は、レラキシンを用いた処置の非存在下の個体の動脈の硬化と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、または少なくとも約50%以上、動脈の硬化を減少するのに有効である量である。
【0027】
いくつかの実施形態において、レラキシンの有効量は、レラキシンを用いた処置の非存在下の個体の動脈の弾性と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、または少なくとも約50%以上、動脈の弾性を増加させるのに有効である量である。
【0028】
動脈の硬化または低下した動脈コンプライアンスに起因するか関連する障害としては、アテローム性動脈硬化症、I型糖尿病、II型糖尿病、冠状動脈疾患、硬皮症、脳卒中、拡張期機能不全、家族性高コレステロール血症、孤立性収縮期高血圧、原発性高血圧、二次性高血圧、左室肥大、長期間喫煙に関連する動脈壁の硬化、肥満に関連する動脈壁の硬化、年齢に関連する動脈壁の硬化、全身性エリテマトーデス、子癇前症および高コレステロール血症が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において特に興味深いものは、I型糖尿病、II型糖尿病、通常の加齢、脳卒中、拡張期機能不全、閉経、肥満、高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症、孤立性収縮期高血圧、長期間喫煙および左室肥大、に関連する動脈の硬化である。
【0029】
動脈コンプライアンスの増加、または動脈の硬化の減少は、減少した動脈コンプライアンスに起因する病理学的状態を個体が発症する危険性を減少する。
【0030】
いくつかの実施形態において、レラキシンの有効量は、低下した動脈コンプライアンスに関連するか起因する病理学的状態を個体が発症する危険性を、レラキシンを用いた処置の非存在下のその状態を発症する危険性と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、または少なくとも約50%以上減少させるのに有効である量である。
【0031】
一般的には、上で議論した通り、レラキシンの有効量は動脈コンプライアンスを増加させるのに有効な量である。「増加させる」という用語は本明細書において、「刺激する」および「促進する」と交換可能に使用される。実施例は、ラットにおいて使用される有効量の一般的手引きを提供する。当業者は実施例の手引きに基づいてヒト被験体において使用するための有効量を容易に決定し得る。一般的に、レラキシンの用量は一日当たり約0.1〜500μg/kg体重、一日当たり約6.0〜200μg/kg体重、または一日当たり約1.0〜100μg/kg体重である。体重70kgの人間への投与のためには、投薬量の範囲は、一日当たり約7.0μg〜3.5mg、一日当たり約42.0μg〜2.1mg、または一日当たり約84.0〜700μgである。いくつかの実施形態において、ヒトへの投与のためには、有効量は約5μg/kg体重/日〜約50μg/kg体重/日、または約10μg/kg体重/日〜約25μg/kg体重/日である。投与されるレラキシンの量は、当然のことながら、被験体の体格、性別および体重、ならびに、疾患または状態の重症度、投与の様式および計画、疾患再発の可能性、ならびに、担当医の判断に依存する。各々の場合において、一日の用量は、所望の作用および個体の状況の相違に依存して、単回のボーラスよりもむしろ、一定時間に渡って投与され得る。
【0032】
いくつかの実施形態において、レラキシンは、レラキシンの血清濃度を約0.01ng/ml〜約80ng/ml、例えば約0.01ng/ml〜約0.05ng/ml、約0.05ng/ml〜約0.1ng/ml、約0.1ng/ml〜約0.25ng/ml、約0.25ng/ml〜約0.5ng/ml、約0.5ng/ml〜約1.0ng/ml、約1.0ng/ml〜約5ng/ml、約5ng/ml〜約10ng/ml、約10ng/ml〜約15ng/ml、約15ng/ml〜約20ng/ml、約20ng/ml〜約25ng/ml、約25ng/ml〜約30ng/ml、約30ng/ml〜約35ng/ml、約35ng/ml〜約40ng/ml、約40ng/ml〜約45ng/ml、約45ng/ml〜約50ng/ml、約50ng/ml〜約60ng/ml、約60ng/ml〜約70ng/mlまたは約70ng/ml〜約80ng/mlに維持するような所定の速度で個体に投与される。
【0033】
(有効性の決定)
所定のレラキシン処方物またはレラキシンの所定の投薬量が動脈コンプライアンスを増加させること、動脈の硬化を減少すること、または、動脈の弾性を増加させることにおいて有効であるか否かは、任意の公知の方法を用いて決定され得る。動脈の硬化は実施例に議論する方法を含む当業者に公知のいくつかの方法により測定され得る。
【0034】
全体的な動脈コンプライアンスの1つの尺度はACarea値であり、これは後述する実施例において記載するとおり、面積法(Liuら、(1986)Am.J.Physiol.251:H588−H600)を用いて大動脈圧波形[P(t)]の拡張期の減衰から計算される。全体的な動脈コンプライアンスの別の尺度は後述する実施例において記載するとおり、一回拍出量の脈圧に対する比(Chemlaら、(1998)Am.J.Physiol.274:H500−H505)として計算される。
【0035】
局所的動脈コンプライアンスは、侵襲的または非侵襲的な手段を用いて特定の点における動脈壁の弾性を測定することにより決定され得る。例えば米国特許第6,267,728号を参照のこと。限局的コンプライアンスは、動脈セグメントにおけるコンプライアンスを記載するものであるが、これは、動脈容量および伸展性から計算され得、そして主に、脈波速度を用いて測定される。例えばOgawaら、Cardiovascular Diabetology(2003)2:10;Safarら、Arch Mal Coer(2002)95:1215−18を参照のこと。動脈コンプライアンスを測定する他の適切な方法は文献に記載されており、任意の公知の方法が使用され得る。例えば、Cohn,J.N.、「Evaluation of Arterial Compliance」、Hypertension Primer,Izzo,J.L.およびBlack,H.R.(編)、Council on High Blood Pressure Research、American Heart Association、pp.252−253、(1993);Finkelstein,S.M.ら、「First and Third−Order Models for Determining Arterial Compliance」、Journal of Hypertension、10(補遺6)S11−S14、(1992);Haidet,G.C.,ら、「Effects of Aging on Arterial Compliance in the Beagle」、Clinical Research、40、266A、(1992);McVeigh,G.E.ら、「Assessment of Arterial Compliance in Hypertension」、Current Opinion in Nephrology and Hypertension、2、82−86、(1993)を参照のこと。
【0036】
(レラキシンレセプターアゴニスト)
本発明の方法は、薬学的に活性なレラキシンレセプターアゴニストを含有する処方物の投与を包含する。本明細書中で使用する場合、「レラキシンレセプターアゴニスト」および「レラキシン」という用語は、組換えまたはネイティブの(例えば天然に存在する)供給源に由来する生物学的に活性な(本明細書中では、「薬学的に活性な」ともいわれる)レラキシンポリペプチド;レラキシンポリペプチド改変体(例えばアミノ酸配列改変体);合成のレラキシンポリペプチド;および非ペプチドレラキシンレセプターアゴニスト(例えばレラキシン模倣物)を指すために交換可能に使用される。
【0037】
天然に存在する生物学的に活性なレラキシンは、ヒト、ネズミ(例えばラットまたはマウス)、ブタまたは他の哺乳動物の供給源に由来し得る。「レラキシン」という用語はヒトH1プレプロレラキシン、プロレラキシンおよびレラキシン;H2プレプロレラキシン、プロレラキシンおよびレラキシン;組換えヒトレラキシン(rhRLX);およびH3プレプロレラキシン、プロレラキシンおよびレラキシンを包含する。H3レラキシンは当該分野で記載されている。例えばSudoら、(2003)J Biol Chem.7;278(10):7855−62を参照のこと。ヒトレラキシンのアミノ酸配列は当該分野で記載されている。例えばヒトレラキシンアミノ酸配列は、以下のGenBank登録番号:Q3WXF3、ヒトH3プロレラキシン;P04808、ヒトH1プロレラキシン;NP_604390およびNP_005050、ヒトH2プロレラキシン;AAH05956、ヒトレラキシン1プレプロタンパク質;NP_008842、ヒトH1プレプロレラキシンなどの下に見出される。「レラキシンレセプターアゴニスト」という用語は上記した配列のいずれか1つに由来するヒトレラキシンを包含する。
【0038】
「レラキシンレセプターアゴニスト」という用語はまた、N末端および/またはC末端切断を有するA鎖およびB鎖を含むレラキシンポリペプチドを包含する。例えば、H2レラキシンにおいては、A鎖はA(1−24)からA(10−24)に、そしてB鎖はB(1−33)からB(10−22)に変化させることができ;そしてH1レラキシンにおいては、A鎖はA(1−24)からA(10−24)に、そしてB鎖はB(1−32)からB(10−22)に変化させることができる。
【0039】
「レラキシンレセプターアゴニスト」という用語の範囲にさらに包含されるものは、1つ以上のアミノ酸残基の挿入、置換または欠失を含むレラキシンポリペプチド、グリコシル化改変体、非グリコシル化レラキシン、有機および無機の塩、レラキシンの共有結合的に修飾された誘導体、プレプロレラキシンおよびプロレラキシンである。野生型(例えば天然に存在する)配列とは異なるアミノ酸配列を有するレラキシンアナログも用語に包含され、これらとしては、米国特許第5,811,395号および米国特許第6,200,953号に開示されているレラキシンアナログが挙げられるが、これらに限定されない。他の適切なレラキシンおよびレラキシン処方物は、米国特許第5,945,402号に記載されている。インビボでの半減期が増加するように修飾されたレラキシンポリペプチド(例えばPEG化レラキシン(すなわちポリエチレングリコールに結合体化されたレラキシン)などもまた包含される。
【0040】
レラキシンポリペプチドアミノ酸残基に対する可能な修飾としては、N末端を含む遊離アミノ基のアセチル化、ホルミル化または同様の保護、C末端基のアミド化、またはヒドロキシル基またはカルボキシル基のエステルの形成(例えばホルミル基の付加によるB2におけるトリプトファン(Trp)残基の修飾)が挙げられる。ホルミル基は容易に除去できる保護基の代表的な例である。他の可能な修飾としては、B鎖および/またはA鎖内の天然のアミノ酸の1つ以上を異なるアミノ酸(天然アミノ酸のD型を含む)で置換すること(、B24におけるMet部分をノルロイシン(Nle)、バリン(Val)、アラニン(Ala)、グリシン(Gly)、セリン(Ser)またはホモセリン(HomoSer)で置換することが挙げられるが、これらに限定されない)が挙げられる。他の可能な修飾としては、鎖からの天然のアミノ酸の欠失、または、鎖への1つ以上の余分なアミノ酸の付加が挙げられる。さらなる修飾としては、プロレラキシンのB/CおよびC/A接合部におけるアミノ酸の置換(この修飾はプロレラキシンからのC鎖の切断を促進する);および天然に存在しないCペプチドを含む改変体レラキシン(例えば米国特許第5,759,807号に記載のもの)が挙げられる。
【0041】
レラキシンポリペプチドおよび異種ポリペプチドを含む融合ポリペプチドは、「レラキシンレセプターアゴニスト」という用語にまた包含される。異種ポリペプチド(例えば非レラキシンポリペプチド)融合相手は、融合タンパク質のレラキシン部分に対してC末端またはN末端であってもよい。異種ポリペプチドとしては、免疫学的に検出可能なポリペプチド(例えば「エピトープタグ」);検出可能なシグナルを発生し得るポリペプチド(例えば緑色蛍光タンパク質、酵素(例えばアルカリホスファターゼ)および他の当該分野で公知のもの);治療用ポリペプチド(サイトカイン、ケモカインおよび成長因子が挙げられるがこれらに限定されない)が挙げられる。
【0042】
改変体を生じるレラキシン分子の構造におけるこのような改変または変異の全てはレラキシンの機能的(生物学的)活性が維持される限り、本発明の範囲内に包含される。一般的に、レラキシンアミノ酸配列または構造のいずれかの修飾は、レラキシン改変体を用いて処置した個体においてその免疫原性を増加させないものである。記載した機能的活性を有するレラキシンの改変体は本明細書中に考察した方法を用いて容易に同定され得る。
【0043】
(レラキシン処方物)
本発明の方法において使用するのに適したレラキシン処方物は、薬学的に活性のレラキシンの治療有効量および薬学的に受容可能な賦形剤を含有する薬学的処方物である。処方物はいくつかの実施形態において、注射可能であり、そして、いくつかの実施形態において静脈内注射可能に設計される。
【0044】
レラキシンが薬学的に活性である限り、任意の公知のレラキシン処方物も本発明の方法に使用され得る。「薬学的に活性な」レラキシンとは、個体への投与時に増加した動脈コンプライアンスを生じるレラキシンの形態である。
【0045】
レラキシンはポリペプチドとして、または、レラキシンをコードする配列を含むポリヌクレオチドとして投与され得る。本発明の方法において使用するのに適したレラキシンは、天然供給源から単離され得るか、化学的または酵素的に合成され得るか、または、当該分野で公知の標準的組換え技術を用いて製造され得る。組換えレラキシンを製造する方法の例は、種々の出版物(例えば米国特許第4,835,251号;同第5,326,694号;同第5,320,953号;同第5,464,756号および同第5,759,807号が挙げられる)に見出される。
【0046】
使用に適したレラキシンとしては、ヒトレラキシン、組換えヒトレラキシン、非ヒト動物に由来するレラキシン、例えばブタレラキシン、および当該分野で公知のレラキシンの種々の改変体が挙げられるが、これらに限定されない。レラキシン、薬学的に活性なレラキシン改変体、およびレラキシンを含有する薬学的処方物は当該分野で周知である。例えば米国特許第5,451,572号;同第5,811,395号;同第5,945,402号;同第5,166,191号;および同第5,759,807号を参照のこと。その内容はレラキシン処方物に関する教示、および、レラキシン製造に関する教示について、その全体が参考として援用される。本明細書に記載する実施例において、組換えヒトレラキシン(rhRLX)は、24アミノ酸のA鎖および29アミノ酸のB鎖からなるヒトH2遺伝子の天然に存在する産物とアミノ酸配列において同一である。
【0047】
レラキシンはレラキシンをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドの形態で個体に投与され得る。レラキシンをコードするヌクレオチド配列は当該分野で公知であり、そのいずれも本明細書に記載した方法において使用され得る。例えばGenBank登録番号AF135824;AF076971;NM_006911;およびNM_005059を参照のこと。本発明のレラキシンポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、遺伝子送達ビヒクルにより細胞に導入され得る。遺伝子送達ビヒクルは、ウイルス起源または非ウイルス起源であってもよい(例えば一般的にJolly、Cancer Gene
Therapy(1994)1:51−64;Kimura(1994)Human Gene Therapy 5:845−852;Connelly(1995)Human Gene Therapy 1:185−193;およびKaplitt(1994)Nature Genetics 6:148−153を参照のこと)。本発明のポリヌクレオチドのコーディング配列を含む構築物の送達のための遺伝子療法ビヒクルは、局所または全身のいずれかで投与され得る。これらの構築物は、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターのアプローチを利用し得る。このようなコーディング配列の発現は、内因性の哺乳動物または異種のプロモーターを用いて誘導され得る。コーディング配列の発現は構成的であるか、または調節的のいずれかであり得る。
【0048】
本発明は、目的の選択された核酸分子を保持または発現するように構築された組換えレトロウイルスを使用し得る。使用され得るレトロウイルスベクターとしては、EP415731;WO90/07936;WO94/03622;WO93/25698;WO93/25234;米国特許第5,219,740号;WO93/11230;WO93/10218;VileおよびHart(1993)Cancer Res.53:3860−3864;VileおよびHart(1993)Cancer Res.53:962−967;Ramら、(1993)Cancer Res.53:83−88;Takamiyaら、(1992)J.Neurosci.Res.33:493−503;Babaら、(1993)J.Neurosurg.79:729−735;米国特許第4,777,127号;およびEP345,242に記載されているものが挙げられる。
【0049】
上記のレトロウイルスベクター構築物と共に使用するのに適したパッケージング細胞株は容易に調製され得(PCT公開WO95/30763およびWO92/05266を参照のこと)、そして、組換えベクター粒子の製造のためのプロデューサー細胞株(ベクター細胞株とも称される)を作製するために使用され得る。パッケージング細胞株はヒト細胞株(例えばHT1080細胞)またはミンクの親細胞株から作製され、これにより、ヒト血清中における不活性化を残存させ得る組換えレトロウイルスの製造が可能となる。
【0050】
遺伝子送達ビヒクルはまた、アデノ関連ウイルス(AAV)ベクターのようなパルボウイルスを使用し得る。代表例としては、Srivastava、WO93/09239、Samulskiら、(1989)J.Vir.63:3822−3828;Mendelsonら、(1988)Virol.166:154−165;およびFlotteら、(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:10613−10617により開示されるAAVベクターが挙げられる。
【0051】
目的のアデノウイルスベクターはまた、例えば、Berkner、Biotechniques(1988)6:616−627;Rosenfeld ら、(1991)Science 252:431−434;WO93/19191;Kollsら、(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:215−219;Kass−Eislerら、(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:11498−11502;WO94/12649;WO93/03769;WO93/19191;WO94/28938;WO95/11984およびWO05/00655に記載のものである。
【0052】
他の遺伝子送達ビヒクルおよび方法も使用され得、死滅したアデノウイルス単独に連結された、または連結されないポリカチオン性縮合DNA、例えばCuriel(1992)Hum.Gene Ther.3:147−154;リガンド連結DNA(例えばWu(1989)J.Biol.Chem.264;16985−16987を参照のこと);真核生物細胞送達ビヒクル細胞;光重合ヒドロゲル物質の付着;手持ち式の遺伝子移入パーティクルガン(米国特許第5,149,655号に記載される);イオン化放射線照射(米国特許第5,206,152号およびWO92/11033に記載される);核電荷中和または細胞膜との融合が挙げられる。さらなるアプローチは、Philip(1994)Mol.Cell.Biol.14:2411−2418およびWoffendin(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.91:1581−1585に記載されている。
【0053】
ネイキッド(naked)DNAもまた使用され得る。例示的なネイキッドDNA導入方法は、WO90/11092および米国特許第5,580,859号に記載されている。取り込みの効率は生体分解性のラテックスビーズを用いて改善され得る。DNAコーティングラッテクスビーズは、ビーズによるエンドサイトーシスの開始の後に細胞に効率的に輸送される。その方法は、疎水性を増加させてそれによってエンドソームの破壊および原形質へのDNAの放出を促進するようにビーズを処理することによりさらに改善され得る。遺伝子送達ビヒクルとして作用し得るリポソームは、米国特許第5,422,120号;PCTWO95/13796、WO94/23697およびWO91/14445;およびEP524968に記載されている。
【0054】
使用に適したさらなる非ウイルス送達としては、Woffendinら、(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:11581−11585に記載されているアプローチのような機械的送達系が挙げられる。さらに、コーディング配列およびその発現産物は、光重合ヒドロゲル物質の沈着を介して送達され得る。コーディング配列の送達のために使用され得る遺伝子送達のための他の簡便な方法としては、例えば、手持ち式の遺伝子移入パーティクルガンの使用(米国特許第5,149,655号に記載される);移された遺伝子の活性化のためのイオン化放射線照射の使用(米国特許第5,206,152号およびWO92/11033に記載される)が挙げられる。
【0055】
動脈コンプライアンスを増加させるためのレラキシンの使用において、任意の薬学的に受容可能な様式の投与が使用され得る。レラキシンは単独または他の薬学的に受容可能な賦形剤と組み合わせて、例えば固体、半固体、液体またはエアロゾルの剤型、例えば錠剤、カプセル、粉末、液体、ゲル、懸濁液、坐剤、エアロゾルなどのいずれかで投与され得る。レラキシンはまた、好ましくは正確な投薬量の単回投与に適した単位投薬形態における、所定の速度での延長された投与のための、徐放性または制御放出投薬形態(例えば緩徐放出の生体分解性の送達系を使用する)(例えば蓄積注射、浸透圧ポンプ(例えばAlza製造のAlzetインプラント)、丸薬、皮膚用または経皮用(電子輸送が挙げられる)パッチなどが挙げられる)により投与され得る。
【0056】
いくつかの実施形態において、レラキシンは移植可能な薬物送達系(例えばレラキシンの投与を提供するようにプログラム可能な系)を用いて送達される。例示的なプログラム可能な移植可能な系としては、移植可能な注入ポンプが挙げられる。例示的な移植可能な注入ポンプまたはそのようなポンプと組み合わせて使用されるデバイスは、例えば米国特許第4,350,155号;同第5,443,450号;同第5,814,019号;同第5,976,109号;同第6,017,328号;同第6,171,276号;同第6,241,704号;同第6,464,687号;同第6,475,180号;および同第6,512,954号に記載されている。本発明における使用に適合され得るさらなる例示的なデバイスは、同調させた注入ポンプ(Medtronic)である。
【0057】
組成物は代表的には、従来の薬学的なキャリアまたは賦形剤およびレラキシンを含有する。さらに、これらの組成物は、他の活性剤、キャリア、アジュバントなどを含有し得る。一般的に、意図される投与様式に依存して、薬学的に受容可能な組成物は、約0.1重量%〜90重量%;約0.5重量%〜50重量%、または約1重量%〜約25重量%のレラキシンを含有し、残余は適切な薬学的賦形剤、キャリアなどである。このような投薬形態を製造するための実際の方法は当業者に公知であるか、明らかであり;例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton,Pa.、第15版、1995または最新版を参照のこと。米国特許第5,451,572号に記載されているヒトレラキシンの処方物は本発明の方法で使用され得る適切な処方物の非限定的な例である。
【0058】
非経口投与は一般的に皮下、皮内、筋肉内または静脈内または皮下のいずれかの注射を特徴とする。注射可能物質は、液体の溶液または懸濁液、注射直前に溶液または懸濁液とするのに適する固体形態、またはエマルジョンのいずれかの従来の形態に調製され得る。適切な賦形剤は例えば水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどである。さらに所望の場合、投与すべき薬学的組成物は少量の非毒性の補助的物質(例えば湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、溶解度増強剤など、例えば酢酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、オレイン酸トリエタノールアミン、シクロデキストリンなど)を含有し得る。
【0059】
そのような非経口組成物に含有されるレラキシンの比率は、その特定の性質、ならびに被験体の必要性に大きく依存する。しかし、溶液中の0.01%〜10%の活性成分の比率が使用され得、そして組成物が後に上記比率まで希釈される固体である場合はより高くなる。一般的に、組成物は溶液中にレラキシン0.2〜2%を含有する。
【0060】
非経口投与は、持続放出または徐放性の系の移植を用いてもよく、これにより定常レベルの投薬量が維持される。徐放性を制御するため、および、レラキシンのような活性な因子の放出の速度を継続的に減少させるための種々のマトリックス(例えばポリマー、親水性ゲルなど)は当該分野で公知である。例えば米国特許第3,845,770号(基本的浸透圧ポンプを記載);米国特許第3,995,651号、同第4,034,756号および同第4,111,202号(小型浸透圧ポンプを記載);米国特許第4,320,759号および同第4,449,983号(プッシュ−プルおよびプッシュ−メルト浸透圧ポンプと称されるマルチチャンバーの浸透圧系を記載);および米国特許第5,023,088号(種々の投薬単位の逐次的時間指定供給のためのパターン化浸透圧ポンプを記載)を参照のこと。
【0061】
本発明の方法に従ってレラキシンを投与するために使用するのに適した薬物放出デバイスは、種々の作動様式のいずれかに基づき得る。例えば薬物放出デバイスは、拡散系、対流系または侵食系(例えば侵食に基づく系)に基づくことができる。例えば薬物放出デバイスは、浸透圧ポンプ、電気浸透圧ポンプ、蒸気圧ポンプ、浸透圧バーストマトリックス(例えば薬物がポリマーに取り込まれ、そのポリマーが薬物含浸ポリマー物質(例えば生体分解性の薬物含浸ポリマー物質)の分解と同時に薬物処方物の放出を提供するもの)であり得る。他の実施形態において、この薬物放出デバイスは、電気拡散系、電解ポンプ、発泡性ポンプ、圧電ポンプ、加水分解系などに基づく。
【0062】
機械的または電気機械的な注入ポンプに基づく薬物放出デバイスもまた本発明と共に使用するのに適している。このようなデバイスの例としては、例えば米国特許第4,692,147号;同第4,360,019号;同第4,487,603号;同第4,360,019号;同第4,725,852号などに記載されるものが挙げられる。一般的に、本発明の処置方法は、種々の再充填可能な非交換型のポンプ系のいずれかを用いて達成され得る。浸透圧ポンプは文献に十分に記載されている。例えば、WO97/27840;および米国特許第5,985,305号および同第5,728,396号を参照のこと。
【0063】
レラキシンは種々の因子、例えば動脈の硬化の程度などに依存して、数時間、数日間、数週間、数ヶ月間または数年間の期間に渡って投与され得る。例えばレラキシンは、約2時間〜約8時間、約8時間〜約12時間、約12時間〜約24時間、約24時間〜約36時間、約36時間〜約72時間、約3日間〜約1週間、約1週間〜約2週間、約2週間〜約1ヶ月間、約1ヶ月間〜約3ヶ月間、約3ヶ月間〜約6ヶ月間、約6ヶ月間〜約12ヶ月間、または約1年間〜数年間の期間、投与される。投与は一定、例えば数時間、数日間、数週間、数ヶ月間、数年間などに渡って一定の注入であってもよい。あるいは、投与は間欠的であってもよく、例えばレラキシンを数日間の期間に渡り1日1回、数時間の期間に渡り1時間に1回、または、いずれかの他の適当と思われる計画で投与され得る。
【0064】
レラキシンの処方物はまた、ネブライザーのための鼻吸入用または肺吸入用のエアロゾルまたは溶液として、または、吸入のための微小粉末として、単独、または、不活性のキャリア(例えばラクトース)と、または、他の薬学的に受容可能な賦形剤と組み合わせて呼吸管に投与され得る。そのような場合、処方物の粒子は好都合には50μm未満、好ましくは10μm未満の直径を有する。
【0065】
(複合療法)
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、少なくとも1つのさらなる治療因子の投与を含むように改変される。適切なさらなる治療因子としては、エストロゲンレセプター調節因子、抗高血圧因子(例えばカルシウムチャンネルブロッカー)、エンドセリンレセプターアンタゴニスト、アンジオテンシンI変換酵素(ACE)インヒビター、α−アドレナリン遮断薬、血管拡張薬、利尿薬、β−アドレナリン遮断薬、レニンインヒビターおよびアンジオテンシンレセプターアンタゴニスト;ナトリウム排泄増加ペプチド(例えば心房性ナトリウム排泄増加ペプチド、脳ナトリウム排泄増加ペプチド、およびC型ナトリウム排泄増加ペプチド);コレステロール産生を遮断する物質(例えばスタチン)および糖尿病を処置するための因子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
(エストロゲンレセプター調節因子)
適切なエストロゲンレセプター調節因子は、種々のエストロゲン化合物、ならびに選択的エストロゲンレセプター調節因子(「SERM」)のいずれかを包含する。SERMとしては、タモキシフェン、ラロキシフェン、ドロロキシフェン、イドキシフェン、ラソフォキシフェン、CP−336,156、GW5638、LY353581、TSE−424、LY353381、LY117081、トレミフェン、フルベストラント、4−[7−(2,2−ジメチル−1−オキソプロポキシ−4−メチル−2−[4−[2−(1−ピペリジニル)エトキシ]フェニル]−2H−1−ベンゾピラン−3−イル]−フェニル−2,2−ジメチルプロパノエート、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン−2,4−ジニトロフェニル−ヒドラゾンおよびSH646が挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
適切なエストロゲン化合物としては、メストラノール、エストラジオールのエステル、ポリエストリオールホスフェート、エストロンサルフェート、天然エストロゲン、合成エストロゲン、結合体化エストロゲン、エストラジオール、エストラジオールサルファメート、エストラジオールバレレート、エストラジオールベンゾエート、エチニルエストラジオール、エストロン、エストリオール、エストリオールサクシネートおよび結合体化エストロゲン、非結合体化ウマエストロゲン、エストロンサルフェート、17β−エストラジオールサルフェート、17α−エストラジオールサルフェート、エクイリンサルフェート、17β−ジヒドロエクイリンサルフェート、17α−ジヒドロエクイリンサルフェート、エクイレニンサルフェート、17β−ジヒドロエクイレニンサルフェートおよび17α−ジヒドロエクイレニンサルフェートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
微粉化された形態のエストロゲン、例えば微粉化エストラジオール、微粉化エストラジオールスルファメート、微粉化エストラジオールバレレート、微粉化エストラジオールベンゾエート、微粉化エストロンまたは微粉化エストロンサルフェートまたはこれらの混合物、特に微粉化エストラジオール、微粉化エストラジオールバレレート、微粉化エストラジオールベンゾエートまたは微粉化エストラジオールサルファメートもまた使用に適している。
【0069】
エストロゲンの有効投薬量は従来どおりであり、当該分野で周知である。経口投与用の代表的なおよその投薬量は、例えばエチニルエストラジオール(0.001〜0.030mg/日)、メストラノール(5〜25mg/日)、エストラジオール(17.β.エストラジオールを含む)(0.5〜6mg/日)、ポリエストリオールホスフェート(2〜8mg)および結合体化エストロゲン(0.3〜1.2mg/日)である。送達の他の手段のための投薬量は、当業者に明らかである。例えば経皮投薬量は、使用するビヒクルの吸収効率に従って変動する。
【0070】
エストロゲン化合物は、種々の従来の様式のいずれか(例えば経口(例えば溶液、懸濁液、錠剤、糖剤、カプセルまたは丸薬)、非経口(皮下注射または静脈内、筋肉内または胸骨内の注射もしくは注入の技術が挙げられる)、吸入スプレー、経皮投与、直腸投与または膣内(例えば膣内環またはクリームによる)投与により投与され得る。
【0071】
(抗高血圧因子)
適切なACEインヒビターとしては、ベナゼプリル(Lotensin(登録商標))、カプトプリル(Capoten(登録商標))、エナラプリル、エナラプリラット、フォシノプリル(Monopril(登録商標))、リシノプリル(Zestril(登録商標);Prinivil(登録商標))、ペントプリル、キナプリル(Accupril(登録商標))、キナプリラット、ラミプリル(Altace(登録商標))、トランドラプリル(Mavik(登録商標))、ゾフェノプリル、モエキシプリル(Univasc(登録商標))、ペリンドプリル(Coversyl(登録商標);Aceon(登録商標))、Vasotec(登録商標)、シラザプリル(Inhibace(登録商標))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
適切な利尿薬としては、アセタゾラミド;アミロリド;ベンドロフルメチアジド;ベンズチアジド;ブメタニド;クロロチアジド;クロルタリドン;シクロチアジド;エタクリン酸;フロセミド;ヒドロクロロチアジド;ヒドロフルメチアジド;インダクリノン(ラセミ混合物、または(+)もしくは(−)のエナンチオマーのいずれか単独、または操作された比、例えばそれぞれ9:1のそのエナンチオマー);メトラゾン;メチクロチアジド;ムゾリミン;ポリチアジド;キネタゾン;ナトリウムエタクリネート;ナトリウムニトロプルシド;チクリナフェン;トリアムテレン;およびトリクロルメチアジドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
適切なα−アドレナリン遮断薬としては、例えば、ジベナミン;フェントラミン;フェノキシベンザミン;プラゾシン;プラゾシン/ポリチアジド(Minizide(登録商標));トリアゾリン;ドキサゾシン(Cardura);テラゾシン(Hytrin(登録商標));タムスロシン(Flomax(登録商標));およびアルフゾシン(Uroxatral(登録商標))が挙げられる。
【0074】
適切なβ−アドレナリン遮断薬としては、Betapace(ソタロール)、Blocadren(チモロール)、Brevibloc(エスモロール)、Cartrol(カルテオロール)、Coreg(カルベジロール)、Corgard(ナドロール)、Inderal(プロプラノロール)、Inderal−LA(プロプラノロール)、Kerlone(βキソロール)、Levatol(ペンブトロール)、Lopressor(メトプロロール)、Normodyne(ラベタロール)、Sectral(アセブトロール)、Tenormin(アテノロール)、Toprol−XL(メトプロロール)、Trandate(ラベタロール)、Visken(ピンドロール)およびZebeta(ビソプロロール)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
適切な血管拡張剤としては、例えばジアゾキシド、ヒドララジン(Apresoline(登録商標))、ミノキシジル、ニトロプルシド(Nipride(登録商標))、ナトリウムニトロプルシド、ジアゾキシド(HyperstatIV)、ベラパミルおよびネフィジピンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
適切なカルシウムチャンネルブロッカーとしては、アムロジピン(Norvasc(登録商標))、フェロジピン(Plendil(登録商標))、ニモジピン、イスラジピン、ニカルジピン、ニフェジピン(Procardia(登録商標))、ベプリジル(Vascor(登録商標))、ジルチアゼム(Cardiazem(登録商標))およびベラパミル(Isoptin(登録商標);Calan(登録商標))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
適切なアンジオテンシンIIレセプターブロッカーまたはインヒビターとしては、サララシン、ロサルタン(Cozaar)、シクロシドミン、エプロサルタン、フロセミド、イルベサルタンおよびバルサルタンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
適切なレニンインヒビターとしては、例えば、ペプスタチンおよびジペプチドレニンインヒビターまたはトリペプチドレニンインヒビター;エナルクレイン、RO42−5892(Hoffman LaRoche)、A65317(Abbott)、CP80794、ES1005、ES8891、SQ34017;米国特許第6,673,931号に開示されている化合物などが挙げられる。
【0079】
本発明において有用な適切なエンドセリンアンタゴニストとしては、アトラセンタン(ABT−627;Abbott Laboratories)、VeletriTM(テゾセンタン;Actelion Pharmaceuticals,Ltd.)、シタキシセンタン(ICOS−Texas Biotechnology)、エンラセンタン(GlaxoSmithKline)、ダルセンタン(LU135252;Myogen)、BMS−207940(Bristol−Myers Squibb)、BMS−193884(Bristol−Myers Squibb)、BMS−182874(Bristol−Myers Squibb)、J−104132(Banyu Pharmaceutical)、VML588/Ro61−1790(Vanguard Medica)、T−0115(Tanabe Seiyaku)、TAK−044(Takeda)、BQ−788(Banyu Pharmaceutical)、BQ123、YM−598(Yamanouchi Pharma)、PD145065(Parke−Davis)、A−127722(Abbott Laboratories)、A−192621(Abbott Laboratories)、A−182086(Abbott Laboratories)、TBC3711(ICOS−Texas Biotechnology)、BSF208075(Myogen)、S−0139(Shionogi)、TBC2576(Texas Biotechnology)、TBC3214(Texas Biotechnology)、PD156707(Parke−Davis)、PD180988(Parke−Davis)、ABT−546(Abbott Laboratories)、ABT−627(Abbott Laboratories)、SB247083(GlaxoSmithKline)、SB209670(GlaxoSmithKline);および当該分野で考察されているエンドセリンレセプターアンタゴニスト(例えばDavenportおよびBattistini(2002)Clinical Science 103:15−35、Wu−Wongら、(2002)Clinical Science 103:1075−1115ならびにLuescherおよびBarton(2000)Circulation 102:2434−2440に記載のもの)が挙げられるが、これらに限定されない。適切なエンドセリンレセプターアンタゴニストは、TRACLEERTM(ボセンタン;Actelion Pharmaceuticals,Ltd.製造)である。TRACLEERTMは経口活性の二重エンドセリンレセプターアンタゴニストであり、そのレセプターであるエンドセリンレセプターAおよびエンドセリンレセプターBの両方に対するエンドセリンの結合を遮断する。TRACLEERTMは一般的に4週間にわたって62.5mgの用量を1日2回経口投与し、その後、維持用量として125mgを1日2回経口投与する。
【0080】
他の適切な抗高血圧因子としては、例えばアミノフィリン;クリプタナミンアセテートおよびクリプタナミンタンネート;デセルピジン;メレメトキシリンプロカイン;パルギリン;クロニジン(Catapres);メチルドパ(Aldomet);レセルピン(Serpasil);グアネチジン(Ismelin);およびトリメタファンカムシレートが挙げられる。
【0081】
(スタチン)
適切なスタチンとしては、Crestor、Lipitor、Lescol、Mevacor、Pravochol、Zocorのような製品および関連の化合物、例えばRev.Port.Cardio.(2004)23(11);1461−82;Curr Vasc Pharmacol.(2003)3:329−33に記載されているもの挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
(I型糖尿病またはII型糖尿病を処置するための治療因子)
レラキシンとの複合療法において使用するための他の適切な因子としては、I型糖尿病を処置するための治療因子およびII型糖尿病を処置するための治療因子(例えばインスリン感受性を増加させる因子)が挙げられる。
【0083】
I型糖尿病を処置するための治療因子としては、インスリンが生物学的に活性な限り、すなわち、インスリンがインスリンに応答する個体において血中グルコース濃度を減少させるのに有効である限り、任意の形態のインスリンが挙げられる。いくつかの実施形態において、組換えヒトインスリン(「レギュラー」インスリン)または組換えヒトインスリンアナログを使用する。特定の実施形態において、インスリンアナログはインスリンのモノマー形態、例えばヒトリスプロである。いくつかの例において、他の形態のインスリンを単独または組換えヒトインスリンと組み合わせて、または相互に使用する。本明細書中で使用するのに適したインスリンとしては、レギュラーインスリン(Humulin R、Novlin Rなど)、セミレンテ、NPH(イソファンインスリン懸濁液;Humulin N、Novolin N、Novolin N PenFill、NPH Ilentin II、NPH−N)、レンテ(インスリン亜鉛懸濁液;Humulin−L、Lente Ilentin II、Lent L、Novolin L)、プロタミン亜鉛インスリン(PZI)、ウルトラレンテ(インスリン亜鉛懸濁液、膨張;Humulin U Ultralente)、インスリングラルジン(Lantus)、インスリンアスパート(Novolog)、アシル化インスリン、モノマーインスリン、スーパーアクティブインスリン、肝選択性インスリン、リスプロ(HumalogTM)および任意の他のインスリンアナログまたは誘導体、および上記のいずれかの混合物が挙げられる。一般的に使用される混合物としては、以下のパーセント:70%/30%、50%/50%、90%/10%、80%/20%、60%/40%などのNPHおよびレギュラーインスリンを含有するNPHとレギュラーインスリンとの混合物が挙げられる。本明細書中で使用するのに適したインスリンとしては、米国特許第4,992,417号;同第4,992,418号;同第5,474,978号;同第5,514,646号;同第5,504,188号;同第5,547,929号;同第5,650,486号;同第5,693,609号;同第5,700,662号;同第5,747,642号;同第5,922;675号;同第5,952,297号;および同第6,034,054号;ならびにPCT公開出願WO00/121197;WO90/10645;およびWO90/12814に開示されているインスリンの形態が挙げられるが、これらに限定されない。インスリンアナログとしては、スーパーアクティブインスリンアナログ、モノマーインスリンおよび肝特異的インスリンアナログが挙げられるが、これらに限定されない。
【0084】
スーパーアクティブインスリンアナログは、天然のヒトインスリンを超えた高い活性を有している。従って、そのようなインスリンは血清グルコースレベルを低下することに関して実質的に同じ効果を得ながら、実質的により少量で投与され得る。スーパーアクティブインスリンアナログとしては、例えば10−アスパラギン酸−Bヒトインスリン;デスペンタペプチド(B26−B30)→AspB10、TyrB25−α−カルボキサミドヒトインスリン;(B26−B30)→gluB10、TyrB25−α−カルボキサミドヒトインスリン;デストリペプチドB28−30インスリン;A13Leu−A14Tyrで置換されたγ−アミノ酪酸を有するインスリン;および式デス(B26−B30)→XB10、TyrB25−α−カルボキサミドヒトインスリン(ここで、XはB鎖の10位で置換している残基)のさらなるインスリンアナログが挙げられる。これらのインスリンアナログは、天然のヒトインスリンの11〜20倍程度の力価を有する。上記のインスリンアナログの全ては天然のヒトインスリンのA鎖またはB鎖に沿ったアミノ酸置換を含んでおり、これが化合物の力価を増加させるか、または、化合物の他の特性を変化させている。モノマーインスリンとしては、リスプロが挙げられるが、これに限定されない。
【0085】
インスリン誘導体としては、例えばアシル化インスリン、グリコシル化インスリンなどが挙げられるが、これらに限定されない。アシル化インスリンの例としては、米国特許第5,922,675号に開示されるもの、例えばグリシン、フェニルアラニンまたはリジンのα−アミノ酸またはε−アミノ酸においてC6−C21脂肪酸(例えばミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸またはステアリン酸)で誘導体化したインスリンが挙げられる。
【0086】
(インスリン感受性を増加させる因子)
いくつかの実施形態において、II型糖尿病を有する個体を処置するための本発明の処置レジメンはさらに、インスリン抵抗性を減少させる(例えばインスリン感受性を増加させる)さらなる因子を投与する工程を包含する。インスリン抵抗性を処置する適切な因子としては、ビグアニド(例えばMetformin(例えば一日当たり3回500mgまたは850mgの量で投与))、Phenforminまたはその塩;チアゾリジンジオン化合物(例えばトログリタゾン(例えば米国特許第4,572,912号を参照のこと))、ロシグリタゾン(SmithKlineBeecham)、ピオグリタゾン(Takeda)、Glaxo−WelcomeのGL−262570、エングリタゾン(CP−68722、Pfizer)またはダルグリタゾン(CP−86325、Pfizer、イサグリタゾン(MCC−555;Mitsubishi;例えば米国特許第5,594,016号を参照のこと)、レグリタザール(JTT−501)、L−895645(Merck)、R−119702(Sankyo/WL)、NN−2344、YM−440(Yamanouchi)、Ragaglitazar(NNC61−0029またはDRF2725;NovoNordisk)、ファルグリタザール(GI262570)、テサグリタザール(AZ242)、KRP−297など;および複合物(例えばAvandametTM(ロシグリダゾンマレエートとメトホルミン−HCl))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
(処置に適した被験体)
本発明の方法による処置に適した個体としては、いずれかの理由により動脈の硬化(または低下した動脈コンプライアンス)を有する任意の個体が挙げられる。このような個体としては、減少した動脈コンプライアンスに関連または起因する障害(アテローム性動脈硬化症、I型糖尿病、II型糖尿病、冠状動脈疾患、硬皮症、脳卒中、拡張期機能不全、家族性高コレステロール血症、孤立性収縮期高血圧、原発性高血圧、二次性高血圧、左室肥大、長期間喫煙に関連する動脈壁の硬化、肥満に関連する動脈壁の硬化、年齢に関連する動脈壁の硬化、全身性エリテマトーデス、子癇前症および高コレステロール血症が挙げられるが、これらに限定されない)を有する個体が挙げられる。
【0088】
処置に特に適しているのは、同様な状況下にある健常個体と比較して測定された全体的な動脈コンプライアンスが低下している個体である。また処置に特に適しているのは、同様な状況下にある健常個体において予測される局所的動脈コンプライアンスと比較して測定された局所的動脈コンプライアンスが減少している個体である。同様な健常個体において予測される限局的な動脈コンプライアンスと比較してその測定値が減少している個体も処置に特に適している。いくつかの例において、異なる時点において、ある個体の広範囲の、局所的なまたは限局的な動脈コンプライアンスが測定され得、その個体における動脈コンプライアンスが減少し、介入が適切であることを示すレベルに近づいているか否かを決定するために比較され得る。
【0089】
本発明の方法による処置に適した個体としては、年齢に関連する動脈の硬化を発症しているか、発症の危険性を有する個体が挙げられる。そのような個体としては、50歳を超えたヒト、例えば約50歳〜約60歳、約60歳〜約65歳、約65歳〜約70歳、約70歳〜約75歳、約75歳〜約80歳、またはそれより高齢のヒトが挙げられる。
【0090】
また本発明の方法による処置に適した個体は、閉経周辺期の女性、閉経期の女性または閉経後の女性、および、非加齢関連の理由により、例えば手術(例えば子宮摘出、卵巣摘出)の結果として、月経を終止しており、そしてこれにより動脈の硬化を発症しているか、その発症の危険性を有する女性である。このような女性は、レラキシンおよびエストロゲンを使用した複合療法により処置され得る。このような女性はまた、レラキシン、エストロゲンおよび抗高血圧因子を使用した複合療法により処置され得る。
【0091】
また本発明の方法による処置に適した個体は、I型糖尿病と診断された個体である。また本発明の方法による処置に適した個体は、II型糖尿病と診断された個体である。インスリン抵抗性である個体は、以下の基準:1)2.5より高いHOMA−IR値(空腹時インスリン(mU/ml)×空腹時グルコース(mmol/l)/22.5の計算に基づく);2)約20μU/mLより高い、または、約25μU/mLより高い空腹時血清インスリンレベル;3)約3.5ng/mLより高い、または約4.5ng/mLより高い空腹時血清Cペプチド濃レベル、の1つ以上によって同定される。
【実施例】
【0092】
以下の実施例は、当業者に対して本発明の製造および使用の方法の完全な開示および説明を提供するために記載するものであり、本発明者らがその発明とみなしている範囲を限定する意図はなく、また、以下の実験が行なわれた全てまたは唯一の実験であることを示す意図もない。使用した数値(例えば量、温度など)に関しては正確を期したが、実験上の誤差および偏差は許容されなければならない。他に示さない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏であり、そして圧力は大気圧近傍である。標準的な略記方法を使用しており、例えばbpは塩基対;kbはキロベース;plはピコリットル;sまたはsecは秒;minは分;hまたはhrは時間;aaはアミノ酸;kbはキロベース;bpは塩基対;ntはヌクレオチド;i.m.は筋肉内;i.p.は腹腔内;s.c.は皮下などである。
【0093】
(実施例1:全身動脈抵抗およびコンプライアンスに対するレラキシンの効果)
(方法)
(動物)
12〜14週齢のLong−Evans雌性ラットを、Harlan Sprague−Dawley(Frederick,Maryland USA)から購入した。これらには0.48%ナトリウムを含有するPROLAB RMH2000飼料(PME Feeds Inc.,St.Louis,MO USA)および水を自由摂取させた。ラットは12時間の明期/暗期サイクルで維持した。Institutional Animal Care and Use Committee of the Magee−Womens Research Instituteは全ての動物手順を認可している。
【0094】
(外科的調製)
手短には、ラットをNalgene代謝ケージ(VWR Scientific Products)に1週間馴化させ、その後、代謝ケージ内において、ハーネス/7.5cmスプリングアセンブリに対してさらに1週間馴化させた(Harvard Apparatus,Holliston,MA USA)。動物をイソフラン麻酔下にハーネスにフィットさせた。この馴化期間の後、ラットを、60mg/kgケタミンを筋肉内および21mg/kgペントバルビタール腹腔内で麻酔し、そして加熱パッド上に腹臥位に置いた。70%エタノールおよびベタジンを全ての露出した皮膚領域に適用した後、アンピシリンを皮下投与(125mg/ml溶液を0.2ml)し、アトロピンも皮下投与した(0.4mg/ml溶液を0.075ml)。次にリンゲル液を含有するシリンジに連結した滅菌tygonカテーテル(18インチ長、0.015インチ内径、0.030外径)ならびに滅菌熱希釈マイクロプローブ(22cm長、F#1.5;Columbus Instruments、Columbus、OH USA)をスプリングの内側に通した。その後、tygonカテーテルをハーネス内の孔に通し、次に18ゲージのトロカールを用いて耳後部の小切開部に出るように肩甲骨中間地点から皮下を貫通させた。
【0095】
熱希釈カテーテルはまたハーネスアセンブリに通し、次に左肋下縁の皮膚切開部に出るように肩甲骨中間地点から皮下を貫通させた。次にスプリングをハーネスに再度取り付けた。ラットを再度仰臥位とした。1.0cmの皮膚切開部を左鼡径部に作製した。外部腸骨動脈を単離し、カテーテル挿入用に調製した。次に熱電対を皮下に貫通させ、鼡径部の切開部から出した。次に熱電対を外部腸骨動脈内に吻側方向に挿入し、これにより内部の腸骨動脈を容易に通過してその後大動脈にいたるようにした。4.0cmにおいて、熱電対は左腎動脈の約1.0cm下となった。次に水平方向の2.0cm切開部を輪状切痕の1.0cm上の気管上に作製した。
【0096】
この切開部を通して、大型の皮下ポケットを首部の左肩上部に切開した。次に右頚静脈および頚動脈を単離し、カテーテル挿入用に調製し、後者はガーゼの小ロールを頚部下に入れてこの深構造を上昇させることにより容易に行えるようにした。18ゲージトロカールを用いて、tygonカテーテルを右耳後部の小切開部から皮下に貫通させ頚部切開部から出した。tygonカテーテルを右頸静脈3.0cmに移植し、これによりカテーテルの先端が前大静脈と右心耳の交会部に配置するようにした。滅菌マウス圧力カテーテルのバッテリー/トランスミッター(TA11PA−C20;ca.F#1.2;Data
Sciences International,St.Paul,MN USA)を皮下ポケットに挿入した。次にマウス圧力カテーテルを右頚動脈2.8cmに移植し、これによりカテーテルの先端が右頚動脈と大動脈弓の交会部に位置するようにした。全ての創傷部を4−0シルクまたはオートクリップで閉鎖した。頸静脈カテーテルにヘパリン溶液0.05mlを滴加し、ストレートピンでプラグした後、ラットを代謝ケージに入れ、2日間飲料水によりアンピシリンを与えた(デキストロース小さじ2杯で100mg/50ml)。ケージ上部から出ているスプリングおよびカテーテルは固定した。
【0097】
ラットが麻酔から十分回復した後すぐに、テルブトロールを術後鎮痛剤として皮下投与した。10日間組換えヒトレラキシンの低用量投与(4.0μg/h rhRLX)のために、2個のAlzetモデル2002浸透圧ミニポンプ(Durect Corporation、Curpertino、CA USA)をイソフラン麻酔下に動物の背部に皮下挿入した。10日間の高用量投与(25μg/h)のために、1個のAlzetモデル2ML2浸透圧ミニポンプを移植した。最終時点の測定終了後、ラットを60mg/kgペントバルビタールの静脈内により麻酔した。rhRLXレベル、浸透圧およびヘマトクリット用に腹部大動脈から採血した。右心房に相対的な頸静脈カテーテルの位置、大動脈弓に相対的な圧力カテーテルの配置、および、左腎動脈に相対的な熱電対の位置を記録した。
【0098】
(インビボ研究:血液力学的特性および全身動脈機械的特性)
時間コントロール研究を、まず5匹のラットにおいて行うことにより手術後17日間に渡る全身の血液力学の安定性を実証した。測定は、術後4〜5日、7〜8日、9〜10日、13〜14日および16〜17日に記録した。低用量および高用量のrhRLXプロトコルは、それぞれラット6匹および7匹を要した。さらにrhRLX用のビヒクル(20mM 酢酸ナトリウム、pH5.0)を別のラット6匹に投与した。術後第5日および7日の全身血液力学の2ベースライン測定の後、低用量または高用量のいずれかのrhRLXまたはビヒクルを浸透圧ミニポンプにより投与した。全身血液力学は再度、rhRLXまたはビヒクル注入開始後3日、6日、8日および10日に評価した。
【0099】
各測定はラットが睡眠または安静時に得た心拍出量および血圧波形の4〜6個の記録からなるものとした。記録の間は最低10分間設けた。これらの測定値は午前9時〜午後3時の間に得た。
【0100】
心拍出量。心拍出量を測定するために、本発明者らは熱希釈技術を用いた。Osbornら、(1986)Am.J.Physiol.251:H1365−H1372。既知の容量および温度のリンゲル液を、Micro Injector400(Columbus Instruments)を用いて前大静脈内に注射した。心拍出量は血液温度の変化から計算した(Cardiotherm400R、Columbus Instruments)。Cardiotherm400Rにより測定された心拍出量は以下の通り計算した:
【0101】
【数1】
ここで、BTは血液温度(腹部大動脈に移植した熱電対により記録)、ITは注射物の温度(室温)、VIは注射物の容量(150μL)、そして、BT(t)は時間の関数としての血液温度である。
【0102】
血圧。瞬間的大動脈圧を、血圧テレメトリーシステム(Data Sciences International,St.Paul,MN USA)を用いて記録した。Millsら、(2000)J.Appl.Physiol.88:1537−1544。大動脈圧は、右頚動脈を介して大動脈弓内に移植した圧力カテーテルにより記録し、外部レシーバーに伝達した。定常状態の大動脈圧は16ビットの解像度および2000Hzのサンプリング速度でPC系のデータ取得システムを用いてオンラインでデジタル化し、テキストファイルとして保存してオフライン分析用とした。各測定は30秒間のサンプリング持続時間からなるものとした。
【0103】
大動脈圧の分析。取得したデータの分析および全体的なACの計算を、MATLABソフトウエア(MathWorks Inc.,Natick,MA USA)を用いて開発された専用のコンピュータープログラムにより実施した。手短には、心拍出量の測定直前の大動脈圧の記録の10秒から個々の拍動を選択した(3〜15サイクル)。全体をBurattiniら、((1985)Comput.Biomed.Res.18:303−312)に記載の通りに平均して各試行に関する単一の代表的拍動を求めた。平均動脈圧(MAP)、最高収縮期血圧(Ps)および拡張末期血圧(Pd)を、この平均拍動から計算した。脈圧(PP)を、Ps−Pdとして計算した。全身血管抵抗性(SVR)は、COでMAPを割ることにより計算した。
【0104】
全体的な動脈コンプライアンス。全体的な動脈コンプライアンスの2測定値を計算した。第1(ACarea)を、面積法(2):ACarea=Ad/[SVR(P1−P2)]を用いて大動脈圧波形[P(t)]の拡張期の減衰から計算し、ここで、P1およびP2はそれぞれ拡張期の減衰曲線の開始時および終了時の圧力であり、そしてAdはこの領域にわたるP(t)波形下の面積である。全体的な動脈コンプライアンスの第2の測定を、一回拍出量の脈圧に対する比として計算した(Chemlaら、(1998)Am.J.Physiol.274:H500−H505)。一回拍出量を、CO/HRとして定義した。
【0105】
(インビトロ研究:動脈の受動的機構)
非妊娠雌性ラットにrhRLX(4μg/h)またはビヒクルを、浸透圧ミニポンプを用いて5日間投与した。腎臓を摘出し、氷冷HEPES緩衝生理食塩水(PSS、改変Kreb’s緩衝液)中に入れた。HEPES−生理食塩水溶液の組成(mmol/L)は、塩化ナトリウム142、塩化カリウム4.7、硫酸マグネシウム1.17、塩化カルシウム2.5、リン酸カリウム1.18、HEPES10、グルコース5.5からなり、37°CでpH7.4であった。Gandleyら、((2001)Am.J.Physiol.280:R1−R7)の記載に従ってステレオ切開顕微鏡、微小鉗子および虹彩切除ハサミを用いて葉間動脈を単離した(未加圧内径100〜200μm)。次に動脈切片を等圧動脈造影デバイス(Living Systems Instrumentation,Burlington,VT USA)に移し、チャンバー内に懸垂した2つのガラスマイクロカニューレ上にマウントした。残余の血液を動脈管腔から洗浄した後、遠位のカニューレを閉塞して流動を防止した。近位のカニューレを圧力変換器、圧力サーボコントローラーおよび蠕動ポンプに連結した。サーボコントローラーは段階的様式で変化する選択された管腔内圧力を維持した。電子寸法分析システムにより動脈直径測定値を得た。
【0106】
血管をカルシウム非含有HEPES PPS中10−4M パパベリンおよび10−2M EGTAを含む浴中でインキュベートした。30分の平衡期間の後、経壁圧を0mmHgで開始し、150mmHgまで14段階に増加させた。各圧力段階の後、血管が定常状態に達した時点で内径および外径ならびに壁圧を測定した。壁中央の半径(Rm)および周囲壁応力(σ)を前に記載の通りにこれらのデータから計算した(Cholleyら、(2001)J.Appl.Physiol.90:2427−2438)。血管壁の弾性は、漸増量の弾性率(Einc)として定量し、これはσ−Rmの関係から計算した(Paganiら、(1979)Circ.Res.44:420−429)。
【0107】
(血清の測定)
血清の浸透圧を、凝固点低下機器浸透圧計を用いて測定した(Model 3 MO;Advanced Instruments、Needham Heights、MA USA)。血清中のrhRLXのレベルを、以前に記載されている通り定量的サンドイッチイムノアッセイにより測定した(Jeyabalanら、(2003)Circ Res.93(12):1249−57)。
【0108】
(rhRLXの調製)
2個のモデル2002の浸透圧ミニポンプ(Durect Corporation、Cupertino、CA USA)を用いて10日間4μg/hの用量でrhRLXを送達し、これにより、ラットの早期〜中期の妊娠期間に測定される循環レラキシン濃度、すなわちこの種において妊娠に誘導される腎血管拡張が最大となる時期の10〜20ng/mlと類似する循環レラキシン濃度を生じた。1個のモデル2ML2浸透圧ミニポンプを用いて、この種においてCOがさらに増加しSVRが低下する中期〜後期の妊娠期間に記録される数値に匹敵する循環ホルモン濃度が生じることが予測される25μg/hの用量で10日間rhRLXを送達した。20mM 酢酸ナトリウム、pH5.0中の5.0mg/ml溶液として提供されたrhRLX(Connetics、Palo Alto、California USA)を、同じ緩衝液中に希釈した。
【0109】
(統計学的分析)
データを平均+SEMとして表示する。反復測定一元配置ANOVAまたは反復測定二元配置ANOVA(Zar(1984)Biostatistical Analysis、Englewood Cliffs、NJ:Prentice Hall)を用いて種々の群間の平均値を比較した。有意な主効果または相互作用が観察された場合は、群間の比較をFisherの最小有意差法またはDunnett検定を用いて行った。対応のあるスチューデントt検定を用いてrhRLXの注入の間の複合平均値(すなわちrhRLX注入の間の全時点に渡って平均された値)をベースラインと比較した。最小二乗法による回帰分析をσ−RmおよびEinc−Rmの関係について行った。過分散(または自乗の過総和)の分析を用いてビヒクルとレラキシン処置群との間のこれらの関係を比較した。p<0.05を有意と見なした。
【0110】
(結果)
(インビボ研究)
時間コントロール。コントロールラットにおける術後17日間にわたる全身動脈血液力学的および負荷の安定性(表1)。心拍数は前に報告されている通り訓練効果により有意に低下した(ConradおよびRuss(1992)Am.J.Physiol.31.R472−477)。一回拍出量はCOが未変化となるように相互に増加した。全ての他の変数は、術後17日間の期間にわたって有意に変化せず、従って、この覚醒ラットモデルは次に記載する実験条件下で意味のあるデータを得るために使用され得る(表1)。
【0111】
【表1】
平均±SEM。N=5匹のラット。ΔTは右心臓内へのリンゲル液の注入後の血液の温度の変化;COは心拍出量;HRは心拍数;SVは一回拍出量;ACareaは面積法を用いて計算した全体的な動脈コンプライアンス;SVRは全身血管抵抗;MAPは平均動脈圧である。*反復測定一元配置ANOVAによりP<0.05。
【0112】
ビヒクル投与ラット(rhRLX用)。これらの結果は、1μl/hの注入速度でrhRLX用のビヒクルを投与したラット3匹から、そして、5μl/hの注入速度でrhRLX用のビヒクルを投与した別のラット3匹から得られた。(これらはそれぞれrhRLXの低用量および高用量の投与の流量に相当する。)結果は比較可能であり、従って組み合わせた。図1および図2は、全身血液力学および他の変数に関するベースラインからのパーセント変化を示す。時間コントロール研究と同様、心拍数には有意な低下が観察され、これはCOが未変化に維持されるように有意でない一回拍出量増加により相殺された。他の全ての変数は比較的一定に維持された。ビヒクルの投与の間の時点の全てを合わせると、CO、広範囲のACおよびSVRの全体的変化は、それぞれベースラインの−1.4+1.3%、2.2+4.6%および0.4+3.4%であった(全てのPは、NS 対 ベースライン)。予測された通り、血清中には測定可能なrhRLXは観察されず、浸透圧は309+6mOsm/kg水であった。
【0113】
低用量rhRLX(4μg/h)投与ラット。全身血液力学および他のパラメーターに関する絶対値は表2に示す通りであり、そして図1および図2はベースラインからのパーセント変化の一時的パターンを示す。
【0114】
【表2】
平均±SEM。N=6匹のラット。2回のベースライン測定を術後第5日および第7日に実施した。これらの結果を各ラットにつき平均した。略記については表1を参照のこと。
【0115】
低用量rhRLXは、ベースラインおよびビヒクル注入と比較してCOを有意に増加させた(図1A)。rhRLXの注入は、HRにおいて通常観察される低下を防止し(ビヒクルと比較、図1B)、そしてホルモンは有意にSVを増加させた(図1C)。従って、SVおよびHRの両方の増加は複合されて、ビヒクル注入ラットと比較してCOを上昇させた。全身血管抵抗は、ベースラインおよびビヒクル注入と比較して有意に低下(図2A)したが、MAPは未変化のままであった(図2B)。
【0116】
広範囲のACはベースラインおよびビヒクル注入と比較して有意に増加した(図2C)。脈圧には有意な変化はなかったが、一回拍出量の脈圧に対する比、動脈コンプライアンスの別の指標は、ベースラインおよびビヒクル注入と比較して低用量rhRLXの注入の間に、有意に増加した(図2D)。低用量rhRLX投与により有意な変化(すなわちレラキシンおよび/または相互作用に関する有意なF値)を示した変数の経時変化をさらに試験した。種々の時点におけるデータの事後対比較によれば(Fisherの最小有意差法)COおよびSVは共に第3日にはベースラインより有意に高かった。SVは第8日まで増加し続けた(p<0.05、第8日 対 第3日)(図1C)が、第3日以降はCOには有意な経時変化は観察されなかった(図1A)。これは第3日から第8日へのHRの小規模であるが非有意の低下の結果であった(図1B)。
【0117】
SVRおよび広範囲のACの両測定値は第3日に有意に変化し、その後はそれ以上の有意な変化は観察されなかった(図2)。一般的に低用量rhRLX投与後の動脈の血液力学および機械的特性の最大の変化は、試験の最も早い時点(第3日)において観察され、その後の一時的変化は観察されない。低用量rhRLXの投与の間の全時点を組み合わせれば、COおよび広範囲のACの全体的増加は、それぞれ、19.2+4.8%および21.4+3.6%ベースラインより高く、SVRの全体的低下は15.5+2.4%ベースラインより低かった(全てP<0.01は、ベースラインに対してである)。血清のrhRLXおよび浸透圧はそれぞれ14+2ng/mlおよび284+2mOsm/kg水であった。後者はビヒクル注入と比較して有意に低下していた。
【0118】
高用量rhRLX(25μg/h)投与ラット。全身血液力学および他の変数に関する絶対値は表3に示す通りであり、そして図1および図2はベースラインからのパーセント変化の一時的パターンを示す。高用量注入の結果は、方向性は低用量投与に匹敵するものであったが、程度が多少小さかった。
【0119】
【表3】
平均±SEM。N=7匹のラット。2回のベースライン測定を術後第5日および第7日に実施した。これらの結果を各ラットにつき平均した。略記については表1を参照のこと。
【0120】
高用量rhRLXによる個々の変数の変化の一時的分析は、低用量rhRLXの場合と同様の様式で実施した。もう一度述べると、CO(図1A)、SV(図1C)、SVR(図2A)および広範囲のAC(SV/PP法)(図2D)は、試験の最も早い時点(第3日)までに最大に変化し、その後の有意な変化は観察されなかった。面積法により計算した広範囲のACの一時的応答(図2C)は、この一般的パターンからは若干偏位しており、第6日のACareaはベースラインのものと差がなかった。これは異常計測の可能性があり、その理由は第2の測定の全時点における広範囲のAC(図2D)および第3日、第8日および第10日におけるACarea(図2C)がベースラインより有意に高かったためである。高用量rhRLXの投与の間の全時点を組み合わせれば、COおよび広範囲のACの全体的増加は、それぞれ、14.1+3.2および15.6+4.7%ベースラインより高く、SVRの全体的低下は9.7+2.4%ベースラインより低かった(全てP<0.02)。血清中のレラキシンおよび浸透圧はそれぞれ36+3ng/mlおよび287+1mOsm/kg水であった。後者はビヒクル注入と比較して有意に低下していた。
【0121】
動脈圧波形。ベースラインおよびrhRLX投与後の1匹のラットから得た代表的な動脈波形を図3Aに示す。これらはマウスの圧力カテーテル(TA11PA−C20)が広範囲のACの測定に必要な高い忠実度の記録を与えることを示している。Burattiniら、(前出)の提案した方法を用いて誘導した全体的平均の動脈圧波形を、注入の第10日におけるラット3群について図3Bに示す。上で考察した通り、rhRLX投与後のSVは有意に増加し、SVRは有意に減少した(表2および3)。これらが唯一の変化である場合、圧力波形形態の明確な変化:増加した脈圧および加速された動脈圧拡張期の減衰の観察を期待できる。しかし、図3Bに示す通り、rhRLXの投与は圧力波形形態に有意に影響せず、これは未変化の脈圧および拡張期の減衰が示す通りである。増加SVおよび減少SVRの存在下のこの不変の圧力波形形態は広範囲のACにおける同時増加と一致している。
【0122】
(インビトロ研究)
動脈の受動的機序。これらのインビトロの実験を、血管壁の受動的(すなわち活性な平滑筋の緊張の非存在下)機械的特性に対するrhRLX投与の効果を調べるために実施した。上述した通り(方法の節)、主要な測定は、管腔内圧力の種々のレベルにおける血管の内径および外径からなるものとした。周囲壁応力(σ)および壁中央の半径(Rm)をこれらの主要測定値から計算し、σ−Rmの関係を用いて血管壁弾性挙動(例えば漸増弾性率、Einc)を定量した。小腎動脈に関わるσ−Rm(図4A)およびEinc−Rm(図4B)の関係は2群間で有意に異なり(過分散の分析によりp<0.001)、これによりσおよびEincはレラキシン処置群の所定のRmについてはより小さかった。対照的に、非応力のRm、Rmo(すなわちσ=0におけるRm)は2群間で差がなかった(レラキシン処置:105±5μm;ビヒクル処置:98±6μm)。従って、Rm軸は周囲壁応力と考えることができる。これらのデータは、レラキシン処置が適合したRm(緊張)値において血管壁の硬化(Einc)を有意に低下させることを示している。この減少した受動的壁硬化は、レラキシン処置した覚醒動物において観察される上昇した全体的ACに寄与している(上出)。
【0123】
(実施例2:覚醒ラットにおける全身動脈血液力学的特性および機械的特性に対するレラキシンの効果:性別依存性および用量応答)
(方法)
(動物)
12〜14週齢のLong−Evans雄性および雌性ラットをHarlan Sprague−Dawley(Frederick、Maryland USA)から購入した。これらには0.48%ナトリウムを含有するPROLAB RMH2000飼料(PME Feeds Inc.,St.Louis,MO USA)および水を自由摂取させた。ラットは12時間:12時間の明期−暗期サイクルで維持した。この研究は、米国国立衛生研究所により公開されている実験動物の管理と使用に関する指針(NIH Publication No.85−23,1996年改定)に合致している。
【0124】
(組換えヒトレラキシン(rhRLX)の投与)
rhRLX(BAS、Palo Alto、California USA)は緩衝液(20mM 酢酸ナトリウム、pH5.0)中の5.0mg/ml溶液として提供された。これを必要に応じて同じ緩衝液中に希釈した。低用量注入プロトコルについては、2個のモデル2002の浸透圧ミニポンプ(Durect Corporation、Cupertino、CA USA)を用いて10日間4μg/hの用量でrhRLXを送達した。この用量は、ラットの早期〜中期の妊娠期間に測定される循環レラキシン濃度、すなわち10〜20ng/mlと類似する循環レラキシン濃度を生じるように設計した(Sherwood OD、Endocrinol Rev 25(2):205−234、2004)。高用量注入プロトコルについては1個のモデル2ML2浸透圧ミニポンプを用いて、この種においてCOがさらに増加しSVRが減少する時期(Gilsonら、Am J Physiol 32:H1911−H1918、1992;Slangenら、Am J Physiol 270:H1779−1784、1996)の後期の妊娠期間に記録される数値に匹敵する血清濃度がもたらされることが予測される50μg/hの用量で6日間rhRLXを送達した(Sherwood OD、Endocrinol Rev 25(2):205−234,2004)。最後に第3のプロトコルにおいて、rhRLXを3分間にわたって静脈内ボーラスにより投与し(13.4μg/ml)、その後4時間静脈内連続注入した。
【0125】
(外科的調製)
実施例1のように、ラットを、60mg/kgケタミンを筋肉内および21mg/kgペントバルビタールを腹腔内で麻酔した。次いでこれらを、滅菌技術を用いて、以下の通りに機器処置に付した:(i)tygonカテーテルを前大静脈および右心房の接合部に先端が位置するように右頸静脈内に移植し、(ii)熱希釈マイクロプローブ(36cm長、F#1.5;Columbus Instruments、Columbus、OH USA)を左腎動脈の1.0cm下に先端が位置するように左大腿動脈を介して腹部大動脈内に移植し、そして(iii)マウス圧カテーテル(TA11PA−C20;F#1.2;Data Sciences International、St.Paul、MN USA)を右頚動脈および大動脈弓の接合部に先端が位置するように右頚動脈内に移植した。rhRLXの急性投与のためには、別のtygonカテーテルを右腎動脈の1.0cm下に先端が位置するように左大腿動脈を介して下大静脈内に移植した。
【0126】
頸静脈カテーテルにヘパリン溶液0.05mlを滴加し、ストレートピンでプラグした後、ラットに2日間飲料水によりアンピシリンを与えた(デキストロース小さじ2杯で100mg/50ml)。テルブトロールを術後鎮痛剤として皮下投与した。
【0127】
雄性ラットにおける10日間の低用量組換えヒトレラキシンの慢性投与(4.0μg/h rhRLX)のために、2個のAlzetモデル2002浸透圧ミニポンプ(Durect Corporation、Curpertino、CA USA)をイソフラン麻酔下に動物の背部に皮下挿入した。6日間の雌性ラットにおける慢性高用量投与(80μg/h)のために、1個のAlzetモデル2ML2浸透圧ミニポンプを移植した。高用量rhRLXをまた別の群の雌性ラットに対し、急性には3分間にわたる静脈内ボーラス投与(13.4μg/ml)、ついで4時間の連続注入により投与した。
【0128】
最終時点の測定終了後、ラットを60mg/kgペントバルビタールの静脈内により麻酔した。血漿のrhRLXレベル測定用に腹部大動脈から採血した。右心房に相対的な頸静脈カテーテルの位置、大動脈弓に相対的な圧力カテーテルの配置、および、左腎動脈に相対的な熱電対の位置を記録した。
【0129】
(血液力学的特性および全身動脈機械的特性)
低用量および高用量のrhRLXプロトコルはそれぞれ雄性ラット7匹および雌性ラット9匹を要した。術後第5日および第7日の全身血液力学の2ベースライン測定の後、低用量または高用量のいずれかのrhRLXを浸透圧ミニポンプにより投与した。全身血液力学は再度、レラキシン注入開始後、低用量雄性ラットでは第3日、6日、8日および10日に、そして高用量雌性ラットでは3日および6日に測定した。各測定はラットが睡眠または安静時に得た心拍出量および血圧波形の4〜8個の記録からなるものとした。記録の間は7〜10分間設けた。これらの測定値は午前9時〜午後3時の間に得た。
【0130】
高用量rhRLXの急性投与については、雌性ラット5匹を使用した。4時間の高用量rhRLXの静脈内注入の後に全身血液力学のベースライン測定を行った。全身血液力学的特徴は4時間の注入中継続して評価した。
【0131】
本発明者等は心拍出量を測定するために、熱希釈技術を用いた(Osbornら、Am.J.Physiol.251:H1365−H1372、1986)。瞬間的大動脈圧波形を、血圧テレメトリーシステム(Data Sciences International、St.Paul、MN USA)を用いて記録した(Millsら、J Appl Physiol 88:1537−1544、2000)。大動脈圧は大動脈弓内に移植した圧力カテーテルにより記録し、外部レシーバーに伝達した。定常状態の大動脈圧は16ビットの解像度および2000Hzのサンプリング速度でPC系のデータ取得システムを用いてオンラインでデジタル化し、テキストファイルとして保存してオフライン分析用とした。各測定は30秒のサンプリング持続時間からなるものとした。
【0132】
取得したデータの分析および全体的なACの計算を、Matlabソフトウエア(MathWorks Inc.、Natick、MA USA)を用いて開発された専用のコンピュータープログラムにより実施した。手短には、心拍出量の測定直前の大動脈圧の記録の10秒から個々の拍動を選択した(3〜15サイクル)。全体をBurattiniら、(2)に記載の通りに平均して各試行に関する単一の代表的拍動を求めた。平均動脈圧(MAP)、最高収縮期血圧(Ps)および拡張末期血圧(Pd)を、この平均拍動から計算した。脈圧(PP)を、Ps−Pdとして計算した。全身血管抵抗性(SVR)は、COでMAPを割ることにより計算した。
【0133】
全体的な動脈コンプライアンスの2測定値を計算した。第1(ACarea)を、面積法(18):
ACarea=Ad/[SVR(P1−P2)]
を用いて大動脈圧波形[P(t)]の拡張期の減衰から計算し、ここで、P1およびP2はそれぞれ拡張期の減衰曲線の開始時および終了時の圧力であり、そしてAdはこの領域に渡るP(t)波形下の面積である。全体的な動脈コンプライアンスの第2の測定を、一回拍出量の脈圧に対する比、SV/PPとして計算した(Chemlaら、Am J Physiol 274:H500−H505、1988)。一回拍出量を、CO/HRとして定義した。
【0134】
(血清の測定)
血清の浸透圧を、凝固点低下機器浸透圧計を用いて測定した(Model 3 MO;Advanced Instruments、Needham Heights、MA USA)。血清中のrhRLXのレベルを、以前に記載されている通り定量的サンドイッチイムノアッセイにより測定した(Jeyabalanら、Circ Res 93:1249−1257、2003)。
【0135】
(統計学的分析)
データを平均±SEMとして表示する。低用量および中程度の用量のrhRLXを雌性ラットに投与した以前の試験(Conradら、Endocrinology 145(7):3289−3296、2004;実施例1)のデータを比較のために含める。反復測定二元配置ANOVA(Zar JH、Biostatistical Analysis.Englewood Cliffs:Prentice Hall、1984)を用いて種々の時点における低用量の雄性ラットと雌性ラットとの間の平均値を比較した。同じ分析を、種々の時点での雌性ラットにおけるrhRLXの低用量、中程度の用量および高用量間の平均値を比較するために実施した。反復測定一元配置ANOVA(Conradら、Endocrinology 145(7):3289−3296、2004)を用いて高用量rhRLX急性注入開始後の種々の時点における平均値をベースライン値と比較した。有意な主効果または相互作用が観察された場合は、群間の対比較をFisherの最小有意差法試験を用いて行った。対応のあるスチューデントt検定を用いてrhRLXの慢性注入の間の複合平均値(後に定義)をベースラインと比較した。p<0.05を有意と見なした。最後に直線回帰を用いてレラキシン注入に応答した個々のラットの各動脈特性の変化の程度とその特性のベースライン値との関係を分析した。直線回帰パラメーターにおける群の差を、ダミー変数を用いた多重直線回帰として行われるANCOVAを用いて検査した(Gujarati D、Am Statistician 24:18−22、1970)。
【0136】
(結果)
低用量rhRLXを投与した雄性ラット(4μg/h)。ベースラインの数値のパーセントとして表示したいくつかの全身血液力学の変数の一時的パターンは図5に示す通りであり、これらの変数の絶対値を表4に示す。比較のために雌性ラットにおける4μg/hでのrhRLX注入の効果を試験した本発明者等の以前の試験(Conradら、Endocrinology 145(7):3289−3296、2004)のデータも図5に示す。低用量rhRLXは、雄性ラットにおいてベースラインと比較してCOを有意に増加させた。わずか(約6%)であるが統計学的に有意なHRの上昇がレラキシン処置雄性ラットにおいて観察された(図5A)。しかし、より大きなSVの上昇(図5B)が観察され、これは、COの上昇は大部分がSV増加に起因しており、そしてHRの上昇に起因する程度は低かったこと示唆している。平均動脈圧はrhRLX注入の間有意に変化しなかった(図5D)。最終時点(すなわちrhRLX注入開始後10日)において、雄性ラットおよび雌性ラットの全身血液力学に対するrhRLX投与の効果には統計学的有意差はなかった。
【0137】
ベースライン値のパーセントとして表示した雄性ラットにおける全身動脈特性に対するrhRLX注入の一時的作用を図6に示す。これらの変数の絶対値はやはり表4に示す通りであり、雌性ラットから得たデータも比較のために図6に示す。全身血管抵抗はベースラインと比較して有意に低下(図6A)していたが、動脈コンプライアンスの両方の尺度(ACareaおよびSV/PP)は有意に増加していた(図2Bおよび2C)。最終時点(すなわちrhRLX注入開始後10日)において、動脈特性の変化は、雄性ラットと雌性ラットとの間で統計学的有意差はなかった。
【0138】
【表4】
平均±SEM。N=7匹のラット。ΔTは右心臓内へのリンゲル液の注入後の血液の温度の変化;COは心拍出量;HRは心拍数;SVは一回拍出量;ACareaは面積法を用いて計算した全体的な動脈コンプライアンス;SVRは全身血管抵抗;MAPは平均動脈圧である。*反復測定一元配置ANOVAによりP<0.05。
【0139】
本発明者らは、ベースラインからの有意な変化により特徴付けられ、相互には有意差がないrhRLX注入の間の全ての連続時点における値(即ち定常状態)を平均することにより各変数に対するベースラインからの複合的平均変化を計算した。これによりCOおよびACの全体的増加は、それぞれ、ベースラインから20.5±4.2%および19.4±6.9%となり、そしてSVRの全体的減少はベースラインから12.7±3.9%となった(ベースラインに対して全てP<0.05)。雄性ラットのこれらの結果と報告された雌性ラットの結果との間には統計学的差はなかった(実施例1)。血清中rhRLXは17.7±1.1ng/mlであり、これは同じrhRLXレジメンで投与した雌性ラットで以前に観察された数値、14.0±2.0ng/mlと類似していた。
【0140】
高用量rhRLX(50μg/h)を投与した雌性ラット。全身血液力学および動脈特性の絶対値は表5に列挙し、rhRLX注入開始後のその一時的パターンを、図3および4に示す。比較のために、雌性ラットにおいて低用量(血清濃度=14±2ng/ml)および中程度の用量(血清濃度=36±3ng/ml)のrhRLX注入の効果を試験する実施例1のデータも図3および4に示す。低用量および中程度の用量のrhRLX注入は、主にSVを増加させることにより、COを有意に増加させた。両方の用量とも有意にSVRを低下させ、そしてACを増加させた(Conradら、Endocrinology 145(7):3289−3296、2004)。これらの変化は全て試験した最も早期の時点、すなわちrhRLX投与開始後3日に観察された。この研究における高用量注入に関する血清rhRLX濃度は71.5±1.6ng/mlであった。しかし、全身血液力学および動脈特性のいずれにおいてもベースラインからの変化はなかった(図3および図4)。従って、全身血液力学的特性および動脈特性に対するrhRLXの効果は、見かけ上は二相性であった。
【0141】
【表5】
平均±SEM。N=8匹のラット。ΔTは右心臓内へのリンゲル液の注入後の血液の温度の変化;COは心拍出量;HRは心拍数;SVは一回拍出量;ACareaは面積法を用いて計算した全体的な動脈コンプライアンス;SVRは全身血管抵抗;MAPは平均動脈圧である。*反復測定一元配置ANOVAによりP<0.05。
【0142】
rhRLX投与開始後3日よりも早期の時点において高用量rhRLX処置に応答した全身血液力学的特性および動脈特性における有意な変化があるか否かを決定するために、さらに5匹の雌性覚醒ラットに4時間にわたってrhRLXを急性静脈内注入で処置した。血清中rhRLX濃度は64.1±1.0ng/mlであった。ベースライン値のパーセントで表示した雌性ラットにおける全身血液力学的特性および動脈特性に対する短期高用量rhRLX注入の一時的効果を図5および図6に示す。心拍数は、2時間および4時間の両方の時点において有意に増加した(約13%)(図9A)。このHRの増加は、SVの低下(統計学的に有意ではない)により相殺され(図9B)、COの有意な変化は生じなかった(図9C)。わずか(約8%)であるが統計学的に有意なMAPの増加が観察された(図9D)。全身動脈特性のいずれにもベースラインからの統計学的に有意な変化は観察されなかった(図9)。
【0143】
上記のデータは、低用量rhRLXの注入に応答した個々のラット(雌性または雄性)の動脈特性の変化の程度がその特定の特性のベースライン値に依存していたことを示唆している。この傾向を確認するために、SVR、ACareaおよびSV/PPのベースライン値とそれぞれのrhRLX注入の間のベースラインからの複合パーセント変化との間の関係を分析した。直線回帰分析により、SVR(図9A)およびACに対するrhRLX注入の効果(すなわちベースラインからのパーセント変化)は、ACarea(図9B)およびSV/PP(図9C)により測定した場合、全てそのベースライン値に高度に依存していることが明らかになった。特に、ベースラインにおいて低ACであったラットはレラキシン処置に応答したACのより大きい増加を特徴としていた。同様に、ベースラインにおいて高いSVRを有していたラットはSVRのより大きな低下を伴うレラキシンへ応答していた。さらなる解析(ANCOVA)は、これらの直線的関係は雌雄のラット間で差がなかったことを示した。
【0144】
上記の結果は、レラキシンが伝統的には雌性ホルモンであると考えられており、雄性ラットにおいては循環しないと考えられていた(Sherwood OD,Endocrinol Rev 25(2):205−234、2004)にも関わらず、雄性および雌性のラットの両方において全身血液力学的特性および動脈特性に対して同様の効果を誘発することを示す。
【0145】
本発明はその特定の実施形態を参照して記載されたが、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、種々の変更が可能であり、等価物による代替が可能であることが当業者により理解されるべきである。さらに、本発明の目的、精神および範囲に対し、特定の状況、材料、物質の組成物、プロセス、プロセスの工程または工程を適合させるべく多くの改変がなされ得る。このような改変は全て本明細書に添付した特許請求の範囲の範囲内に包含されることが意図される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載される発明。
【請求項1】
本明細書中に記載される発明。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−225616(P2011−225616A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−171393(P2011−171393)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【分割の表示】特願2007−504156(P2007−504156)の分割
【原出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(504279968)ユニバーシティー オブ ピッツバーグ − オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケーション (24)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171393(P2011−171393)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【分割の表示】特願2007−504156(P2007−504156)の分割
【原出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(504279968)ユニバーシティー オブ ピッツバーグ − オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケーション (24)
【Fターム(参考)】
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