説明

動脈瘤治療用ステント

【課題】確実な塞栓と内膜肥厚を抑制し、しかも、分枝血管の分枝口を塞ぐことなく、末梢側の細い分枝血管への血流が確実に確保できる動脈瘤治療用ステントを提供する。
【解決手段】拡径可能な管状のステント1本体の内外両表面に、柔軟なポリマーフィルム2が密着して被覆され、かつ該ポリマーフィルム2に直径100〜600μmの多数の微細孔3が略均一な間隔をおいて設けられた動脈瘤治療用ステント1であって、該ポリマーフィルム2に設けられた多数の微細孔3の開孔率が10〜60%である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内に留置されて動脈瘤を閉塞して治療を行なう動脈瘤治療用ステントに関するものであり、動脈瘤の発症部位や大きさ、形状等に係らず、動脈瘤の治療を安全、かつ確実に行なうことができる動脈瘤治療用ステントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
臨床医学が発展した現在もなお重篤な血管疾患の代表として動脈瘤がある。動脈瘤は、血管壁の脆弱化による局所的な拡張によって起こる。脳動脈瘤では通常直径1〜6mmのおおきさのものから、場合によっては25mm以上の大きさをしたものがあり、成人の2〜6%(100人あたり数人)が有していると言われている。一度できた動脈瘤は自然に縮小することがなく、年間5%〜10%程度づつ拡大することが報告されている。脳動脈瘤の破裂の危険性は1%程度と低いが、未処置のまま放置して直径が10mm以上になると破裂の危険性が高くなる。また、破裂してクモ膜下出血を発症すると、死亡率は約40%と非常に高い。生存できた場合でも約30%が重い後遺症に悩まされる。そのため破裂する前に安全かつ確実に治療することが重要である。
【0003】
現在のところ、動脈瘤を投薬などの内科的に治療する方法は確立されておらず、外科的に治療することが一般的である。外科的治療法としては、腹部や胸部大動脈部においては、開腹や開胸して動脈瘤部の血管を取り除き人工血管で置き換える人工血管置換術、頭蓋内血管においては開頭して動脈瘤を露出し、動脈瘤の頚部(根元)をクリップで挟着して動脈瘤への血流を阻止して、破裂防止を図る閉塞術などがある。しかしながら、人工血管置換術やクリップによる閉塞術などの外科的手術は、いずれも開腹、開胸、開頭による大きな切開を伴ない侵襲が大変大きいものである。
【0004】
また、血管内手術法として近年開発されたコイルによる脳動脈瘤閉塞術は経皮経管的な低侵襲療法として注目されているが、動脈瘤内にコイルを完全に詰めるのが難しく、途中で動脈瘤壁を破って出血を引き起こす危険があり、また、血管の内部にコイルの一部が飛び出したり、頚部の大きい動脈瘤内に詰められたコイルが血管に脱出してしまう恐れがある。さらに、動脈瘤内に完璧にコイルを詰めたとしても、動脈瘤内には半分程度の空間が残っているため血液の流れで動脈瘤内の血液が血栓化しないという問題を抱えており、必ずしも万全な治療法とはいえない。
【0005】
コイルによる動脈瘤閉塞術とおなじ低侵襲な血管内手術法として、冠動脈手術に多く使用されているステントの動脈瘤閉塞治療への適用が検討されている。ステントによる動脈瘤閉塞治療法は、ステントを血管の動脈瘤発生部位に運び、動脈瘤発生部位でその直径を拡張して内側から血管を支持し、動脈瘤の瘤口部を遮ることで動脈瘤内に流入する血液を邪魔することにより動脈瘤内での血液を血栓化させることで動脈瘤を消滅させる治療法である。
【0006】
しかしながら、金属製ステントは血液中のアルブミンやフィブリノーゲンなどの血液蛋白と接触して血小板の粘着から凝血が起こり、また血管内に金属製ステントを留置することにより血管内膜の肥厚を促し、再狭窄の原因の一つとなっている。さらに、ステントのみでは瘤内の血液を血栓化させることはほとんどの場合不十分であるため、コイルをさらに併用することで確実性の向上が行われている。この方法は治療成績には有利であるが、治療方法が煩雑になるため医師への負担を増すため、より簡便な治療法が臨床現場から望まれている。かかる問題を解決するため金属製ステント本体の外表面を多数の微細孔を有する柔軟なポリマーフィルムで被覆したステントが提案された(特許文献1参照)。
【0007】
特許文献1のステントはステント本体の内周面がポリマーフィルムで被覆されていないため、内周面において、血栓発生、金属アレルギー、金属による細胞の刺激、錆発生等の問題がある。特にステント内周面で発生した血栓が剥離して血流に乗って末梢側へと流れていくことによって末梢側の細い血管を梗塞したり、血栓中の血小板から放出される血小板由来増殖因子などが血管細胞を刺激して内膜の肥厚を惹起する問題がある。
【0008】
本発明者らは、ステント本体の内周面と外表面の両面に多数の微細孔を有する柔軟なポリマーフィルムを被覆することによって特許文献1に記載されたステントの問題点を解決したステントを提案した(特許文献2〜3参照)。血管などの内表面は、内皮細胞と呼ばれる細胞層に覆われている。この内皮細胞はその表面に抗凝固作用、線溶促進作用を有する膜蛋白質であるトロンボモジュリンが存在していることと、内皮細胞自体がプロスタグランジンのような血小板の活性化を抑える物質を分泌するために、生体組織では血栓などが起きにくい。特許文献2〜3で提案されたステントは、多数の微細孔を有するポリマーフィルムで金属製ステント本体の内外表面を被覆することで細胞の内皮化を促進させて血栓の発生を低下させる画期的な提案である。
また、本発明者らは、上記金属製ステント本体の内外表面に柔軟なポリマーフィルムを被覆する方法も併せて提案した(特許文献4〜5参照)。
【0009】
【特許文献1】特開平11−299901号公報
【特許文献2】特開2004−261567号公報
【特許文献3】特開2007−229123号公報
【特許文献4】特許第4325259号
【特許文献5】特許開4395553号
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2〜3に記載されたステントは金属製ステント本体の内外表面に多数の微細孔を有する柔軟なポリマーフィルムで被覆されているため内膜肥厚が抑制された優れたステントである。しかしながら、ポリマーフィルムに設けられた微細孔の開口率が小さいため、動脈瘤を塞ぐことは可能であるが、動脈瘤の発生部位付近に多く分枝する血管の分枝口も同時に塞いで末梢側の細い血管を梗塞するという致命的な問題があった。開口率を大きくすると内膜肥厚のさらなる抑制と分枝血管の温存が期待されるものの、瘤内へ流れ込む血液量が増えるため塞栓能が大幅に低下するため開口率を小さくする必要があると考えられていた。
【0011】
したがって、本発明の目的は、動脈瘤の発症部位や動脈瘤の瘤口部の形状及び大きさに係らず、瘤内での血流速度の抑制による血栓化によって瘤内での確実な塞栓を促進することと、血管壁細胞の早期の内腔面への誘導化によって内膜肥厚を抑制することが可能な動脈瘤治療用ステントを提供することである。
本発明の他の目的は、動脈瘤を確実に塞ぐとともに、動脈瘤の発生部位付近に多く分枝する血管の分枝口を塞ぐことなく、末梢側への分枝血管への血流を確実に確保できる動脈瘤治療用ステントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ステント本体の内周面と外表面の両面に被覆された柔軟なポリマーフィルムに設けられた多数の微細孔の大きさと開口率に着目して、多数の微細孔の開口率の異なるポリマーフィルムが動脈瘤内の血液流れに与える影響についてモデル実験による検討を行なった。先ず、ステント本体にポリマーフィルムが被覆されていない場合は、血液は動脈瘤の瘤口部の下流から瘤内に流入し、瘤の内壁に沿って上流方向に一回転して瘤口部の上流から流出する瘤内流れパターンを示した。この流れパターンは多数の微細孔の開口率が大きい場合も同様であった。一方、逆に多数の微細孔の開口率が小さい場合には、血液は動脈瘤の瘤口部の上流から瘤内に流入し、瘤の内壁に沿って下流方向に一回転して瘤口部下流から流失する瘤内流れパターンを示した。つまり、先の開口率が大きい場合の動脈瘤内の流れパターンとは全く逆の流れパターンになることを見いだした。また、これら全ての場合において、瘤内の流れの早さは血液の流れの早さに応じて変化するため、微細孔の開口率が大きい場合と小さい場合は、動脈瘤内での血液の流れ(流速)は制御できなかった。
【0013】
本発明者らは、微細孔の開口率が大きい場合と小さい場合で動脈瘤内での流れパターンが反転している、つまり流れの方向が逆転していることに注目し、ある一定の範囲の開口率において流れ方向が均衡する、つまり瘤内での流れが止まる範囲があるのではないかとの仮定を立て、開口率と流れの関係について更に鋭意検討した。その結果、微細孔の開口率が特定範囲であれば、瘤内全域での血流をほぼ停止することができることを見いだした。さらに、瘤内での流れは瘤口部に限定され、瘤壁面では完全に停止していた。動脈瘤内での血液の流れ(流速)が抑制されると、血液は瘤内で滞留するため血栓化が起こりやすくなり、動脈瘤が閉塞されやすくなる。一方、開口率を一定以上に保つことで分枝血管の分枝口を塞ぐことなく、末梢側の細い分枝血管への血流が確保できることを見出し本発明に到達したものである。動脈瘤内の流速を遅くするためには、単に開口率を小さくして血液の流入量を少なくすることが常識的には考えられるが、小さくすると内膜の形成を遅らせ内膜肥厚を生じ、さらに分枝血管を塞いでしまう。逆に大きくすると内膜肥厚や分枝血管の塞栓は起こらないが動脈瘤の塞栓は不完全になる。しかし、特定の開口率とすることで、動脈瘤の確実な塞栓と分枝血管の温存の両立をなし得ることを見いだし、本発明に至った。
【0014】
すなわち、本発明の請求項1に係る発明は、拡径可能な管状のステント本体の少なくとも内外両表面に、柔軟なポリマーフィルムが密着して被覆され、かつ該ポリマーフィルムに直径100〜600μmの多数の微細孔が略均一な間隔をおいて設けられた動脈瘤治療用ステントであって、該ポリマーフィルムに設けられた多数の微細孔の開孔率が10〜60%であることを特徴とする動脈瘤治療用ステントである。
【0015】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、該ポリマーフィルムに設けられた多数の微細孔の直径が200〜500μm、開孔率が20〜50%であることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項3に係る発明は、請求項1〜2のいずれかに記載の発明において、該ポリマーフィルムに設けられた多数の微細孔の開孔率が、動脈瘤の瘤口部領域で20〜50%、その他の領域で50%以上であることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項45係る発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、該柔軟なポリマーフィルムが、ポリウレタン系ポリマーフィルム、ポリオレフィン系ポリマーフィルム、シリコーン系ポリマーフィルム、生体分解性ポリマーフィルムから選ばれた1つであることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項5に係る発明は、請求項4に記載の発明において、該柔軟なポリマーフィルムが、平滑筋細胞の増殖を抑制する薬物、あるいは血液凝固を抑制する薬物の一方、あるいは両方が含有、または塗布されてなることを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項6に係る発明は、請求項1〜3記載の発明において、該柔軟なポリマーフィルムが、柔軟な生体分解性ポリマーフィルムによって被覆されたポリウレタン系ポリマーフィルム、ポリオレフィン系ポリマーフィルム、シリコーン系ポリマーフィルムでから選ばれた1つであることを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項7に係る発明は、請求項6記載の発明において、該生体分解性ポリマーフィルムが平滑筋細胞の増殖を抑制する薬物、あるいは血液凝固を抑制する薬物の一方、あるいは両方を含有、または塗布されてなることを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項8に係る発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の発明において、該ステント本体の内表面に密着して被覆された柔軟なポリマーフィルムと、外表面に密着して被覆された柔軟なポリマーフィルムが、各々平滑筋細胞の増殖を抑制する薬物、あるいは血液凝固を抑制する薬物の一方、あるいは両方を含有、または塗布されてなることを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項9に係る発明は、請求項1〜8記載の発明において、該柔軟なポリマーフィルムの厚さが10〜100μmであることを特徴とする。
【0023】
本発明の請求項10に係る発明は、請求項5、7、8のいずれかに記載の発明において、該薬物が、ヘパリン、ヒルジン、アルガトロバン、フォルマコリン、パピプロスト、プロスタモニン、プロスタキリン同族体、デキストラン、ローフェプローアルグクロロメチルケトン、デイピリダモール、グリコプロテインの血小板膜レセプタ抗体、組み換え型ヒルジン、トロンビン抑制剤、脈管ペプチン、脈管テンシン転換酵素抑制剤、ステロイド、繊維芽細胞成長因子アンタゴニスト、フィッシュオイル、オメガ3−脂肪酸、ヒスタミン、アンタゴニスト、HMG−CoAリダクテース抑制剤、セラミン、セロトニン阻止抗体、チオブロテイース抑制剤、トリマゾールピリデイミン、インターフェロン、血管内皮増殖因子(VEGF)、ラパマイシンなどの免疫抑制剤、タキソールなどの抗癌剤、及びFK506、ならびにそれらの誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする。
【0024】
本発明の請求項11に係る発明は、請求項1に記載の発明において、該拡径可能な管状のステント本体が、メッシュ状の金属材料または高分子材料からなることを特徴とする。
【0025】
本発明の請求項12に係る発明は、請求項1、11のいずれかに記載の発明において、該該メッシュ状の金属材料または高分子材料が生分解性材料からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の、ステント本体が特定の開口率を有する柔軟なポリマーフィルムで被覆された動脈瘤治療用ステントは、動脈瘤の瘤口部付近に留置され、動脈瘤の瘤口の形状及び大きさにとらわれることなく、瘤口に蓋をしつつ、その付近における所望領域を覆う。血管内を流れる血液は、ステント本体の内外表面に密着して被覆された柔軟なポリマーフィルムに設けられた多数の微細孔によって、瘤内への血液の流れが抑制されることにより血栓化して動脈瘤を閉塞するとともに、ポリマーフィルムによって、動脈瘤の内部で発生した血栓の親血管内への侵出を阻止する。さらに、ポリマーフィルムに設けられた多数の微細孔により、動脈瘤の発生部位付近に多く分枝する末梢側の細い血管への血流が確保されることで、分枝血管が塞梗されるという問題も解消される。
【0027】
したがって、本発明の動脈瘤治療用ステントによって、はじめて、動脈瘤の発症部位や、動脈瘤の瘤口形状、大きさ、分枝血管の位置に関わらず、動脈瘤を確実に閉塞させるとともに、末梢側の細い分枝血管の分枝口を塞ぐことのない動脈瘤治療用ステントが提供できたのである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の動脈瘤治療用ステントについての一実施例について、図面にて説明する。図1はステントの斜視図であり、図に示すように本発明は、拡径可能な管状のステント本体1と、該ステント本体の内外表面に被覆された多数の微細孔3が設けられた柔軟なポリマーフィルム2で構成されている。
【0029】
管状のステント本体1は、長さが2〜40mm程度であり、直径が長さの1/10〜1/2程度の管状であることが好ましい。また、ステント本体の厚さ(管状部の肉厚)は、通常10〜2000μmであり、好ましくは51〜500μm、より好ましくは101〜300μmである。このステント本体1は、柔軟に拡径しうるようにメッシュ(網目)状であることが好ましく、例えば図2のように斜格子状で、かつ格子の延在方向が螺旋方向となるものが好ましい。本発明に用いられるステント本体1は柔軟に拡径しうるようにメッシュ状であり、そのデザインおよび支柱の形状については、ステント内狭窄を助長する要因、例えば血管内壁近傍での血流の乱れや支柱屈曲部の突出によるフレア現象による血管への機械的刺激が平均以下であれば、特別な制限はない。
【0030】
ステント本体1を構成する素材については、従来から知られている金属材料、セラミックや高分子材料が用いられるが、なかでも高剛性、かつ耐腐食性の金属であることが好ましい。具体例としてステンレス鋼、タンタル、ニッケル−チタン合金(ニチノールを含む)、生分解性マグネシュウム合金およびコバルト合金(コバルト−クロム−ニッケル合金を含む)などが挙げられる。
【0031】
高分子材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、架橋型エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアリレーンサルファイド等の熱可塑性樹脂が挙げられる。特に延伸可能な高分子材料が好ましい。
なかでも、生体内で分解され、かつ、分解物が毒性を示さない生分解性高分子材料が好ましい。生体内で分解する高分子材料としては、例えば、ポリ乳酸、ポリ(乳酸−グリコール酸)、ポリグリコール酸、ポリ(乳酸−ε−カプロラクトン)、ポリ(グリコール酸−ε−カプロラクトン)、ポリ−p−ジオキサノン、ポリ(グリコール酸−トリメチレンカーボネート)、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸などが挙げられる。
【0032】
ステント本体の構造としては、外表面と内表面とを有する円筒形状を有しており、バルーン拡張型、金属製のステント本体を熱処理して、形状記憶させた自己拡張型、およびそれらの組合せであってよい。また、ステント表面にポリマーフィルムを被覆するにあたっては、溶剤が揮発した後に残る被覆層がステント表面に密着する必要があるので、ステント本体の表面はポリマーフィルムの被覆作業の前に、必要に応じて、洗浄や表面活性化処理をおこなうのが好ましい。表面処理法としては、酸化剤やフッ素ガスなどによる薬品処理、表面グラフト重合、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、UV/オゾン処理、電子線照射などが挙げられる。ステント本体はレーザー加工機等により加工し、研磨により表面仕上げを行うことにより形成できる。
【0033】
図3は、本発明の動脈瘤治療用ステントの模式的断面図であり、上記のような円筒状ステント本体1の内表面Aと外表面Bの両面に、柔軟なポリマーフィルム2が被されている。4はメッシュ状ステントを構成するステントストラッドである。柔軟なポリマーフィルム2に用いる材料としては、柔軟性の高い高分子エラストマーが好適であり、例えばポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系、シリコーン系、ウレタン系、フッ素樹脂系、天然ゴム系などの各種エラストマー及びそれらの共重合体またはそれらのポリマーアロイを用いることができる。それらの中でもセグメント化ポリウレタン、ポリオレフィン系ポリマー、シリコーン系ポリマーが好ましく、特に柔軟性が高くて強度の強いセグメント化ポリウレタンが好ましい。高分子材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、架橋型エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアリレーンサルファイド等の熱可塑性樹脂が挙げられる。特に延伸可能な高分子材料が好ましい。
なかでも、生体内で分解され、かつ、分解物が毒性を示さない生分解性高分子材料が好ましい。生体内で分解する高分子材料としては、例えば、ポリ乳酸、ポリ(乳酸−グリコール酸)、ポリグリコール酸、ポリ(乳酸−ε−カプロラクトン)、ポリ(グリコール酸−ε−カプロラクトン)、ポリ−p−ジオキサノン、ポリ(グリコール酸−トリメチレンカーボネート)、ポリ−β−ヒドロキシ酪酸などが挙げられる。
【0034】
セグメント化ポリウレタンは、ソフトセグメントとして柔軟なポリエーテル部分と、ハードセグメントとして芳香環とウレタン結合とが豊富な部分を有し、このソフトセグメントとハードセグメントが相分離して微細構造を作っているものである。このセグメント化ポリウレタンポリマーは、抗血栓性に優れている。また、強度、伸度等の特性に優れており、ステントが拡径される際にも破断することなく充分伸張できる。
このセグメント化ポリウレタンフィルムの厚さ(図3のd)は、通常1μm〜100μmの厚みが必要である。通常5μm〜50μの範囲内にあるのが好ましい。フィルムの厚みが100μmを超えると、血管壁細胞の移動距離が増えるために血管壁細胞がステント内腔面へ到達することが困難になり、血栓形成を起こしやすくなる。さらにステント内腔が小さくなる懸念があるので、厚さとしては、100μmを超えないようにすることが好ましい。
【0035】
ポリマーに起因する慢性炎症から血管組織を早期に回復させることが要求される場合には、血液との接触面に生分解性ポリマーを用いるのが好ましく、さらに、半年以内に生体内で分解・消失するものがより好ましい。そのためステント本体の両表面に被覆された柔軟なポリマーフィルム2の表面を、生体分解性ポリマーフィルムで被覆することが好ましい。また、上述の柔軟なポリマーフィルム2の代わりに生体分解性ポリマーフィルムでステント本体を被覆してもよい。
【0036】
本発明で用いられる生分解性ポリマーとしては、上述の生分解性材料が使用される。なかでも、ポリ(乳酸−グリコール酸)、ポリ(乳酸−ε−カプロラクトン)、ポリ(グリコール酸−ε−カプロラクトン)はガラス転移温度が−20〜60℃の範囲にあり、しかも、半年以内に生体内で分解消失するので、本発明において好ましく使用される。
【0037】
また、この生体分解性ポリマーに抗血小板剤、抗血栓剤、増殖促進剤、増殖阻止剤、免疫抑制剤などの治療薬を担持させることが好ましい。この治療薬は、生体分解性ポリマーの分解に伴って体内に放出され、血栓の生成を制御したり、平滑筋細胞を抑制して狭窄を予防したり、ガン化した細胞の増殖を抑制したり、内皮細胞の増殖を促進して早期に内皮化を得るのに有効である。
【0038】
この治療薬としては、ヘパリン、低分子量ヘパリン、ヒルジン、アルガトロバン、フォルマコリン、バピプロスト、プロスタモリン、プロスタキリン同族体、デキストラン、ローフェプローアングクロロメチルケトン、ディピリダモール、グリコプロティンの血小板膜レセプタ抗体、組み換え型ヒルジン、トロンビン抑制剤、脈管ペプチン、脈管テンシン転換酵素抑制剤、ステロイド、繊維芽細胞成長因子アンタゴニスト、フィッシュオイル、オメガ3−脂肪酸、ヒスタミン、アンタゴニスト、HMG−CoAリダクテース抑制剤、セラミン、セロトニン阻止抗体、ネオプロティース抑制剤、トリマゾールピリデイミン、インターフェロン、血管内皮増殖因子(VEGF)、ラパマイシンなどの免疫抑制剤、タキソールなどの抗癌剤、FK506等、ならびにそれらの誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1つの薬剤が挙げられる。
【0039】
薬剤を担持させる方法としては、薬剤と生体分解性ポリマーとを適当な溶剤に溶かして調製したコーティング液中にステントを浸漬し、引き上げて溶剤を乾燥させることによってフィルム作製時にフィルム内に含有させるディッピング法、薬剤とポリマーとを溶解した溶液を霧状化してステントフィルムに吹き付けるスプレイ法、薬剤とポリマーを別々な溶剤に溶解し2本のノズルから同時にステントフィルムに吹き付ける2重同時スプレイ法などが挙げられ、本発明においては上記のいずれの方法も適用可能であるが、薬剤を分散(分子分散を含む)させたポリマーのコート層をステント表面に形成する方法が、薬剤の放出速度の制御がしやすいので好ましい。また、薬剤担体となるポリマーを用いずに薬剤のみを単に溶液としてステントフィルム表面に塗布、乾燥させる方法も臨床上十分な効果が得られれば製造上簡便で好ましい。この場合、ステントフィルム内外面で異なる薬剤を選択してもよい。通常、内腔面では血液凝固を抑制する効果が、外表面では血管平滑筋細胞の増殖を抑制する効果や炎症を抑制する効果が要求されるからである。
【0040】
ステント本体の外表面と内表面に被覆された生体分解性ポリマーフィルムに担持させる薬剤は、同一の薬剤であっても、外表面と内表面に異なる薬剤を担持させてもよい。生体分解性ポリマーフィルム層の膜厚は、0.5〜5μmの範囲にあることが好ましい。0.5μm未満では、膜の均一性が確保できなくなり、薬剤放出速度の抑制機能が発揮できない。逆に、5μmを超える厚さになると、薬剤放出速度を遅くしすぎる危険性がある。また、薬剤を塗布する場合の塗布層の厚みは、通常0.3〜3μmである。
【0041】
ステントの外周面側のポリマーフィルムは、人体内の細かな血管内での移動をスムースにするために、外表面が潤滑性物質によって被覆されていてもよい。そのような潤滑性物質としてはグリセリンのような低分子量親水性、ヒアルロン酸やゼラチンのような生体親和性物質、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリビニルピロリドンなどの合成親水性ポリマー、生体内に存在する油脂成分、あるいは医療で用いられる植物性などの油脂成分などが挙げられる。
【0042】
このポリマーフィルム2には、多数の微細孔3が設けられている。この微細孔はランダムに配置されていてもよいが、通常略均一の間隔で微細孔が穿孔される。略均一の間隔とは、間隔が均一であるという意味ではなく、間隔が制御された方法で微細孔がほぼ一定の間隔に配置されているという意味である。したがって、略均一の間隔には一見するとランダムに配置されているように見える斜め状、円状、楕円状の配置なども含まれる。
【0043】
微細孔3の大きさは、内皮細胞が出入りできる大きさであればどのような大きさや形状でもよい。分枝血管への血流確保と内皮肥膜形成抑制のためには、通常直径が100μm以上必要であり、その形状は通常円形である。微細孔の直径が100μm未満では内皮細胞のステント内側への出入りが困難なため、ステント内側への細胞増殖が不十分である(内膜肥厚が厚い)という問題がある。また600μmを超えるとポリマーフィルムの強度が低下するという問題がある。好ましくは、微細孔3の大きさは200〜500μmである。また、微細孔3形状は、直径200〜500μmの円形面積と同じ面積で、短辺が100μm以上あれば、楕円形、正方形、長方形、さらにそれらの組み合わせなどの他の形状であってもかまわない。
【0044】
上記微細孔3の形状は、ステントが拡張された後の状態である。しかし、微細孔の形状はステントが均質に拡張された場合を想定しており、血管の形状などによってステントの拡張偏在などが起これば、微細孔の形状はそれに従って変化することがある。そのためステントが拡張される前の微細孔の形状及び寸法は、予めステントが均質に拡張された場合を予測して決定される。
【0045】
また、ポリマーフィルムに設けられた多数の微細孔の直径と開口率は動脈瘤内への血液の流入を抑制して、動脈瘤を閉塞させるため及び動脈瘤の近くにある分枝血管への血流を確保するため重要なファクターである。微細孔の直径が100〜600μmでは微細孔の開口率は通常20〜60%、好ましくは20〜50%である。20%未満では、動脈瘤の発生部位付近に多く分枝する末梢血管への血流が確保できない上、血液が動脈瘤の瘤口部から瘤内に流入して、瘤の内壁に沿って瘤口部の下流から流出する。一方開口率が60%を超えると血液が動脈瘤の瘤口部の下流から瘤内に流入し、瘤の内壁に沿って瘤口部の上流から流出する、言い換えれば開口率が20%未満及び60%を超えると動脈瘤内への血液の流れが抑制できない。意外なことに、開口率が20〜60%の範囲で、動脈瘤内への血液の流れが大幅に抑制されることがわかった。動脈瘤内への血液の流れが抑制されると、動脈瘤内の血液を血栓化して動脈瘤を閉塞させることができる。
【0046】
ステント本体の内外表面に多数の微細孔を有する柔軟なポリマーフィルムで被覆された本発明の動脈瘤治療用ステントは、例えば、特許文献1〜5に記載の方法により製造される。
【0047】
まず、マンドレルをポリマー溶液中に浸漬した後、鉛直方向に引き上げて内側ポリマーフィルムを形成し、次に、この内側ポリマーフィルムを有するマンドレルに外嵌めするようにしてステント本体を装着し、ステント本体を装着したマンドレルをポリマー溶液中に浸漬した後、引き上げて外側ポリマーフィルムを形成し、その後、マンドレルを引き抜き、ステント本体からはみだした余分な部分を切除する。
【0048】
なお、生体分解性ポリマーを被覆する場合は、内側ポリマーフィルムを被覆する前、または外側ポリマーフィルムを被覆後にマンドリルを生体分解性ポリマー溶液に浸漬して、上記と同様に被覆処理を行なう。この生体分解性ポリマー溶液に薬剤を配合しておけば、薬剤を担持した生体分解性ポリマーフィルムが被覆される。このとき生体分解性ポリマーの種類、分子量、被覆厚さなどを調整することにより、薬剤が体内に放出される時期や時間が設定できる。また潤滑性ポリマーフィルムについても、同様な被覆可能である。
【0049】
ポリマーフィルム(生体分解性ポリマーフィルム、潤滑性ポリマーフィルムを含む)に設けられる多数の微細孔は、マンドリルの引き抜き前、または引き抜き後に、内側ポリマーフィルム及び外側ポリマーフィルムを貫通するようにレーザー加工等により設けることができる。
【0050】
次に、上記のようにして製造された本発明の動脈瘤治療用ステントによる動脈瘤の治療方法を図4〜図7にて説明する。
まず、図4に示すように、カテーテル11の先端に本発明の動脈瘤治療用ステント10を収容する。このカテーテル11の先端には、血管13内で放射状に拡張する管状のステント10と、さらに、ステントの内部において膨張可能な拡張用バルーン12を備える。なお、14は動脈瘤であり、15は動脈瘤の近くの分岐血管である。
【0051】
カテーテル11としては、柔軟で血管の屈曲に対して容易に追随可能なものがよく、通常脳血管内治療用に用いられているマイクロカテーテルが使用される。また、マイクロカテーテルとしては、血管内にガイドワイヤーを先行させ、このガイドワイヤーに追従させて用いるワイヤーガイドカテーテルでも、血流に乗せて誘導するフローガイドカテーテルなど公知のカテーテルが使用できる。
【0052】
なお、カテーテル11の少なくとも先端部は、白金や菌、銀、タングステン等の金属や合金などのX線不透過材料で構成され、X線での透視で造影機能を備えておくことが好ましい。これにより、カテーテルの操作において、その先端位置が確認できる。
【0053】
次いで、図5に示すように、動脈瘤治療用ステント10が収容されたカテーテル11を血管13内に挿入し、カテーテルを操作して動脈瘤治療用ステント10を動脈瘤14の位置に移送する。
【0054】
ついで、図6に示すように、血管13内に挿入した動脈瘤治療用ステント10はその位置を保った状態で、カテーテル11の流体供給管(図示せず)より、例えば生理食塩水を供給して拡張用バルーン12を膨張させ、該膨張した拡張用バルーン12により、ステント10が動脈瘤の瘤口部を覆うように拡張される。膨張したバルーン12によって拡張されたステントは、動脈瘤14に蓋をするように、動脈瘤の瘤口部を覆った状態で留置される。
【0055】
さらに、図7に示すように、膨張されたバルーン12によって拡張したステントが血管内に固定された後、膨張したバルーンを萎縮させて、ステント内より後退させて、血管13内より取り除く。
【0054】
そうすると、動脈瘤14の瘤口部を覆った状態で留置されたステント10の本体に被覆された多数の微細孔を有するポリマーフィルム(図示せず)によって、動脈瘤14内に流入する血液の流れが抑制される。そして、流れが抑制された動脈瘤内の血液は血栓化し、動脈瘤を閉塞することになる。
【0056】
動脈瘤14の近くの分枝血管15へはポリマーフィルムに設けられた多数の微細孔によって、血液の流路が確保されるため、分枝血管への血液が抑制されて閉塞することはない。動脈瘤の近くに分岐血管が確認された場合は、ポリマーフィルムに設けられた多数の微細孔は、ステント中央部の少なくとも動脈瘤の瘤口部領域が開孔率20〜50%で、その他の領域は開孔率50%以上のステントを使用するのが好ましい。動脈瘤の瘤口部領域とその他の領域で開孔率の異なるステントは、動脈瘤の瘤口部を確実に塞ぐとともに、分枝血管への血流も確実に確保される。開口率60%以上とは、開口率が100%、言い換えればステント本体にポリマーフィルムが被覆されていない状態を示している。例えば、ステント本体の動脈瘤の瘤口部に位置する領域に円周状にフィルムが被覆されるか、または瘤口部に蓋をするようにステント本体の一部分にポリマーフィルムを被覆したステントであり、その他の領域にはポリマーフィルムが被覆されていない。
【0057】
特に、ステント本体の一部分にポリマーフィルムが被覆されたステントは、図11に示すような血管分岐部の股の部分に発生した動脈瘤20の治療に適している。このステントは、血管分枝部の股の部分に発生した動脈瘤20の瘤口部21に、ステント22のポリマーフィルム被覆部分23を移動して、ステントに蓋をするように留置する。瘤口部21から動脈瘤への血液流れが抑制されると、動脈瘤内の血液が血栓化し、動脈瘤が閉塞する。一方親血管24内を流れる血液は、ステント本体のポリマーフィルムが被覆されていない部分からステントを経て分岐血管に流れるため、分枝血管の閉塞が防止される。
【0058】
次に、ステント本体に被覆されたポリマーフィルムの多数の微細孔の開口率と、動脈瘤内の血液流れとの関係を模擬実験により調査した。
まず、多数の微細孔を有するポリマーフィルムが動脈瘤内のどの程度抑制するかを調べるため、定常流での動脈瘤モデル内流れの可視化を行なった。流入条件は次式で定義される。流体のレイノズル(Re)数をヒトの脳動脈の範囲を含むようにRe=200〜1000とした。Uは主流平均流速、Dは管断面の水力平均直径として計算した。
Re=uD/v
【0059】
動脈瘤14と血管13のモデル16の寸法を図8に、模擬実験装置を図9に示す。可視化の方法は、流入流跡法を用い、フラッシュアイ(密度1.95g/cm3、平均粒径 約20μm)をトレーサー粒子として作動流体に混入させた。作動流体にはヒト血液と動粘度がほぼ等しい45wt%グリセリン水溶液を用いた。Arレーザー(波長524.5nm)17を光源としたレーザーシートを流路のほぼ中央断面に照射し、トレーサー粒子を高輝度化させデジタルカメラ18でモデル16の正面から流線が得られるように露光時間を調節しながら撮影した。微細化薄膜はボロンEXのフィルムにレーザーマーカーを使用し、孔を1cm×1cmの範囲に加工することで製作した。19はオーバーフロータンクである。
【0060】
ポリマーフィルムに設けられた微細孔の開口率と動脈瘤内の血液流れとの関係を表1に示す。ポリマーフィルムに設けられた多数の微細孔の開口率は、フィルムなし(開口率100%)と、微細孔の孔径または開口率の異なる3種類のフィルム(1.孔径100μ、開口率20% 2.孔径200μ、開口率40% 3.孔径400μ、開口率50%)について流れの状態を示している。
【0061】
【表1】

【0062】
フィルムを被覆していないステントでは、血管を流れる血液は、動脈瘤の瘤口部の下流から瘤内に流入し、瘤の内壁に沿って上流方向に逆転して瘤口部の上流から流出するが、一部の血液は瘤内部で渦巻状に回転している。この状態での動脈瘤内部を流れる血液の流速は30〜40mm/sであった。
【0063】
微細孔の孔径100μ、開口率が20%のフィルムおよび孔径200μ、開口率40%のフィルムでは、どちらの場合も血液が動脈瘤の瘤口部の上流側から瘤内に流入して、瘤の内壁に沿って下流方向に回転して瘤口部の下流側から流出しているが、瘤内を流れる血液の流速は、1〜2mm/sと7〜8mm/sであり、フィルムなしのケースと比べて瘤内の血液の流れが明らかに抑制されている。また、微細孔の孔径400μ、開口率50%では、動脈瘤内を流れる血液の流速が2〜3mm/sとほぼ停滞状態である。動脈瘤内を流れる血液の流れを2〜10mm/sの範囲、好ましくは2〜8mm/sの範囲、さらに好ましくは2〜5mm/sの範囲に抑制すると、動脈瘤内へ流れる血液流量が抑制されて、動脈瘤内の血液を血栓させて動脈瘤を閉塞させることができる。
【0064】
動脈瘤内へ流れる血液流量を抑制する微細孔の孔径、開口率から微細孔の配置間隔としては、ステントの軸線方向に直線上に200〜1000μmの間隔、通常300〜800μmの間隔で配置される。また、円周方向にも軸線方向と同様な間隔で配置される。図10はポリマーフィルムに設けられた微細孔の配置をモデル的に示した図である。図に示すように微細孔のピッチをaμm、直径をdμmで示している。また開口率はAp/aで計算される。
である。
【0065】
表2は、模擬実験装置に使用した4種類のポリマーフィルムに設けられた微細孔の開口率が12.6%、23.6%、36%、48%のときの微細孔の直径と微細孔のピッチを示している。表1に示す動脈瘤内へ流れる血液流量を抑制する微細孔の孔径、開口率から微細孔の配置間隔としては、ステントの軸線方向に直線上に200〜1000μmの間隔、通常300〜800μmの間隔で配置される。また、円周方向にも軸線方向と同様な間隔で配置される。図10はポリマーフィルムに設けられた微細孔の配置をモデル的に示した図である。図に示すように微細孔のピッチをaμm、直径をdμmで示している。また開口率はAp/aで計算される。
である。
【0066】
【表2】

【0067】
表3は、ポリマーフィルムに設けられた微細孔の直径と開口率による動脈瘤内の血液の流速を示している。表3から微細孔の孔径200〜500μm、開口率20〜50%では動脈瘤内の血液の流速が抑制されているのが明らかである。動脈瘤内の血液の流速は2〜10mm/s、好ましくは2〜5mm/sである。
【0068】
【表3】

【0069】
表4(回転方向)は、ポリマーフィルムに設けられた微細孔の直径と開口率による動脈瘤内の血流の方向を示している。表から微細孔の孔径200〜600μm、開口率20〜60%では動脈瘤内において流れがほぼ停止しているのが明らかである。
【0070】
【表4】

【0071】
また、表5(瘤内の流れ域)は、ポリマーフィルムに設けられた微細孔の直径と開口率による動脈瘤内の血流の流れ域を示している。表から微細孔の孔径200〜600μm、開口率20〜60%では動脈瘤内での血液の流れは瘤口部に限定され、瘤内部では血流が完全に停止しているのが明らかである。
【0072】
【表5】

【0073】
比較例
ステント本体として、図1に示す直径4mm、長さ20mm、厚さ0.2mmのメッシュ状ステント本体を採用した。このステント本体1の全表面に次のようにしてセグメント化ポリウレンフィルム2を被覆した。まずマンドレル(SUS316製)をポリウレタン溶液に浸漬してマンドレルの内面にポリウレタンフィルムを被覆した。次に、少し拡張させたステント本体にマンドレルを挿通してポリウレタン溶液へ浸漬して、ステント本体の内外両面にポリウレタンフィルムを被覆させた後、レーザーにより、ステント本体からはみ出た両端のポリウレタンフィルムを切り離した。次いでステントをエタノールに浸漬した後、ステントをマンドレルから抜き出すことにより、内外両表面がセグメント化ポリウレンフィルムで被覆されたステント本体が得られた。
【0074】
ステント本体に被覆されたポリウレタンフィルムにエキシマレーザーで直径100μmの微細孔を250μmの間隔で設けた。長軸方向に一列微細孔を設けた後、回転させながら開口率が12.6%となるよう全周上に設けた。
このようにして得られたステントをX線顕微鏡で撮影した結果、フィルムの厚さは25μmであった。このステントを比較例とした。
【0075】
実施例1
比較例で使用したステント本体1と同じステント本体を実施例に使用し、同じ方法でステント本体の内外両表面にセグメント化ポリウレンフィルム2を被覆した。エキシマレーザーで直径200μmの微細孔を365μmの間隔で設けた。長軸方向に一列微細孔を設けた後、回転させながら開口率が23.6%となるよう全周上に設けたステントを実施例1とした。
【0076】
実施例2
実施例1で使用したステント本体1と同じステント本体を実施例1に使用し、同じ方法でステント本体の内外両表面にセグメント化ポリウレンフィルム2を被覆した。エキシマレーザーで直径400μmの微細孔を511μmの間隔で設けた。長軸方向に一列微細孔を設けた後、回転させながら開口率が48%となるよう全周上に設けたステントを実施例2とした。
【0077】
これらのステントを、頚動脈に瘤口部の大きさが約5mmの動脈瘤を有する実験用兎に移植し、移植1ヶ月後のステントが移植された生体組織の断面を撮影したX線透過像により観察した(図12〜図15参照)。なお、図において、黒い点はステントであり、黒い点を連結する白い線はセグメント化ポリウレンフィルムである。また、中央の白い円は血管であり、血管とセグメント化ポリウレンフィルムの間に内膜肥厚が形成されている。
【0078】
比較例のステントは、動脈瘤内の血液の流速が遅くなり、図12に示すように動脈瘤が消滅しているのが観察されたが、ステント本体の内側に被覆されたセグメント化ポリウレンフィルムに厚い内膜肥厚(406μm)が形成されていた。内膜肥厚が厚いと血栓が形成しやすいという問題がある。実施例1のステントは、図13に示すように、部分的に若干の内膜肥厚(180μm)が認められたが、血栓の形成が抑制された。また動脈瘤が消滅しているのが認められた。実施例2のステントは、図14に示すように内膜肥厚はほとんど認められず、薄く均一な新生内膜層(120μm)が形成されていた。また動脈瘤は完全に消滅しているのが認められた。一方、セグメント化ポリウレンフィルムを被覆しないカバーフィルム無しのテントは、図15に示すように動脈瘤が残存しており、ステントのみでは動脈瘤が塞がらないことが認められた。
【0079】
実施例3
実施例1で使用したステント本体1と同じステント本体を使用し、同じ方法でステント本体の内外両表面にセグメント化ポリウレンフィルム2を被覆した。
予め、頚動脈に動脈瘤を有する実験用兎の瘤口部の大きさと位置を確認した後、ステント本体の動脈瘤の瘤口部位置に対応する位置に被覆したポリマーフィルムにエキシマレーザーで直径300μmの多数の微細孔を開口率が36%となるように設けた。また、その他の領域は同じエキシマレーザーで直径300μmの微細孔を開口率が60%となるよう設けた。
このステントを瘤口部の大きさが約7mmの動脈瘤14と、動脈瘤の近くに2本の分岐血管15を有する実験用兎に留置し、1ヶ月の観察を行なった。図15はステントを挿入する前の頚動脈の写真であり、動脈瘤14の近くに2本の分岐血管15が観察される。図16はステント挿入1ヶ月後の頚動脈の写真であり瘤内への血流が無くなり、図15で観察された動脈瘤14が完全に消滅している。またステント留置部(直線状に太くなっているところ)10から上下にある2本の分岐血管15に血流が確保されているのが観察される。この分岐血管15の直径はステントの拡張径が3mmであることから1mm以下である。
【0080】
以上のように、本発明の動脈瘤治療用ステントは、ステント本体の全表面を被覆したポリマーフィルムに設けられた多数の微細孔の開孔率を20〜60%とすることで、動脈瘤の瘤口部付近に留置されたステントは、動脈瘤の瘤口の形状及び大きさにとらわれることなく、瘤口に蓋をし、その付近における所望領域を覆うため、動脈瘤内への血液の流れが抑制されて、動脈瘤内の血液が血栓化し、動脈瘤が閉塞される。また、動脈瘤の発生部位付近に多く分枝する細い血管への血流が確保されることで、分枝血管の塞梗が防止できる。本発明の動脈瘤治療用ステントにより、動脈瘤治療における動脈瘤の確実な閉塞が解決でき、しかも分枝血管への血流が確保できたのである。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の動脈瘤治療用ステントの斜視図
【図2】ステント本体の斜視図
【図3】ポリマーフィルムによる被覆状態を示す断面模式図
【図4】本発明の動脈瘤治療用ステントによる動脈瘤の治療方法を工程別に示す説明図
【図5】本発明の動脈瘤治療用ステントによる動脈瘤の治療方法を工程別に示す説明図
【図6】本発明の動脈瘤治療用ステントによる動脈瘤の治療方法を工程別に示す説明図
【図7】本発明の動脈瘤治療用ステントによる動脈瘤の治療方法を工程別に示す説明図
【図8】模擬実験装置に使用する動脈瘤と血管モデルの寸法図
【図9】模擬実験装置のフロー
【図10】微細孔の配置をモデル的に示したモデル図
【図11】血管分岐部の股の部分に発生した動脈瘤の治療用ステントの留置状態を示す断面模式図
【図12】ステント移植1ヶ月後の生体組織の断面を撮影したX線透過像
【図13】ステント移植1ヶ月後の生体組織の断面を撮影したX線透過像
【図14】ステント移植1ヶ月後の生体組織の断面を撮影したX線透過像
【図15】ステント移植1ヶ月後の生体組織の断面を撮影したX線透過像
【図16】ステント挿入前の頚動脈の写真
【図17】ステント挿入1ヶ月後の頚動脈の写真
【符号の説明】
【0082】
1:ステント本体
2:ポリマーフィルム
3:微細孔
4:ステントストラッド
10:動脈瘤治療用ステント
11:カテーテル
12:バルーン
13:血管
14:動脈瘤
15:分岐血管
16:動脈瘤と血管のモデル
17:Arレーザー
18:デジタルカメラ
19:オーバーフロータンク
20:動脈瘤
21:瘤口部
22:ステント
23:ポリマーフィルム被覆部
24:親血管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡径可能な管状のステント本体の内外両表面に、柔軟なポリマーフィルムが密着して被覆され、かつ該ポリマーフィルムにステント拡張後において直径100〜600μmの多数の微細孔が略均一な間隔をおいて設けられた動脈瘤治療用ステントであって、該ポリマーフィルムに設けられた多数の微細孔の開孔率が10〜60%であることを特徴とする動脈瘤治療用ステント。
【請求項2】
該ポリマーフィルムに設けられた多数の微細孔の直径が200〜500μm、開孔率が20〜50%であることを特徴とする請求項1に記載の動脈瘤治療用ステント。
【請求項3】
該ポリマーフィルムに設けられた多数の微細孔の開孔率が、動脈瘤の瘤口部領域が20〜50%、その他の領域が50%以上であることを特徴とする請求項1に記載の動脈瘤治療用ステント。
【請求項4】
該柔軟なポリマーフィルムが、ポリウレタン系ポリマーフィルム、ポリオレフィン系ポリマーフィルム、シリコーン系ポリマーフィルム、生体分解性ポリマーフィルムから選ばれた1つであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の動脈瘤治療用ステント。
【請求項5】
該柔軟なポリマーフィルムが、平滑筋細胞の増殖を抑制する薬物、あるいは血液凝固を抑制する薬物の一方、あるいは両方を含有、または塗布されてなることを特徴とする請求項4記載の動脈瘤治療用ステント。
【請求項6】
該柔軟なポリマーフィルムが、柔軟な生体分解性ポリマーフィルムによって被覆されたポリウレタン系ポリマーフィルム、ポリオレフィン系ポリマーフィルム、シリコーン系ポリマーフィルムから選ばれた1つであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の動脈瘤治療用ステント。
【請求項7】
該生体分解性ポリマーフィルムが、平滑筋細胞の増殖を抑制する薬物、あるいは血液凝固を抑制する薬物の一方、あるいは両方を含有、または塗布されてなることを特徴とする請求項6記載の動脈瘤治療用ステント。
【請求項8】
該ステント本体の内表面に密着して被覆された柔軟なポリマーフィルムと、外表面に密着して被覆された柔軟なポリマーフィルムに、各々平滑筋細胞の増殖を抑制する、あるいは血液凝固を抑制する薬物の一方、あるいは両方を含有、または塗布されてなることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の動脈瘤治療用ステント。
【請求項9】
該柔軟なポリマーフィルムの厚さが10〜100μmであることを特徴とする請求項1〜8記載の動脈瘤治療用ステント。
【請求項10】
該平滑筋細胞の増殖を抑制する薬物、あるいは血液凝固を抑制する薬物が、ヘパリン、ヒルジン、アルガトロバン、フォルマコリン、パピプロスト、プロスタモニン、プロスタキリン同族体、デキストラン、ローフェプローアルグクロロメチルケトン、デイピリダモール、グリコプロテインの血小板膜レセプタ抗体、組み換え型ヒルジン、トロンビン抑制剤、脈管ペプチン、脈管テンシン転換酵素抑制剤、ステロイド、繊維芽細胞成長因子アンタゴニスト、フィッシュオイル、オメガ3−脂肪酸、ヒスタミン、アンタゴニスト、HMG−CoAリダクテース抑制剤、セラミン、セロトニン阻止抗体、チオブロテイース抑制剤、トリマゾールピリデイミン、インターフェロン、血管内皮増殖因子(VEGF)、ラパマイシンなどの免疫抑制剤、タキソールなどの抗癌剤、及びFK506、ならびにそれらの誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする請求項5、7、8のいずれかに記載の動脈瘤治療用ステント。
【請求項11】
該拡径可能な管状のステント本体が、メッシュ状の金属材料または高分子材料からなることを特徴とする請求項1記載の動脈瘤治療用ステント。
【請求項12】
該メッシュ状の金属材料または高分子材料が生分解性材料からなることを特徴とする請求項1、11、のいずれかに記載の動脈瘤治療用ステント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−55649(P2012−55649A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212767(P2010−212767)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(510094724)独立行政法人国立循環器病研究センター (52)
【出願人】(504184721)株式会社日本ステントテクノロジー (28)
【Fターム(参考)】