説明

動脈硬化性疾患治療剤

【目的】 新規な動脈硬化性疾患治療剤(高脂血症だけでなく、高血圧症にも罹っている人に特に有用な動脈硬化性疾患治療剤)を提供することを目的とする。
【構成】 下記式[I]で表わされる1,4−ジヒドロピリジン誘導体またはその酸付加塩を有効成分とする動脈硬化性疾患治療剤。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、動脈硬化症の治療や予防に利用される動脈硬化性疾患治療剤に関する。
【0002】
【従来の技術】動脈硬化性疾患は、その死亡率の高さから臨床的に最も注目されている疾患の一つである。その疾患には、周知のように、血清中の脂質分、特に血漿コレステロールが関与している。つまり、それら成分の動脈壁への蓄積量が増加すると、動脈硬化を引き起こす可能性が高まる。したがって、血清中の脂質分(特に、コステロール)が高い高脂血症患者は、高脂状態から回避することが望まれ、そのため、幾つかの動脈硬化性疾患治療剤が開発されている。
【0003】例えばコレステロール合成酵素であるヒドロキシメチルグルタリル(HMG)CoA還元酵素を阻害し血中コレステロールを低下させる薬剤(例えばコンパクチンなど)、多くの作用機序で抗コレステロール作用を示す、プロブコール等を挙げることができる。
【0004】一方、カルシウム拮抗薬として知られている1,4−ジヒドロピリジン誘導体の脂質代謝に対する影響も調べられている(例えば、「診療と新薬」第27巻、第7号 1(1135)(1990年)参照)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、それらの動脈硬化性疾患治療剤は、治療作用の機序や強度、副作用、製造や入手の容易さ等、様々な要因を検討すると、なんらかの面で欠点を持っている。その欠点を解消する新薬の開発が目標とされ、現在、各種動脈硬化性疾患治療剤の開発が望まれている。また、従来の1,4−ジヒドロピリジン誘導体は高血圧症の治療に用いることができるものの、動脈硬化性疾患には使用できるものではなかった。
【0006】動脈硬化性疾患治療においては、特に血漿コレステロール中の高比重リポ蛋白(HDL)コレステロールが、組織からコレステロールを除去して肝に輸送する作用を有することから、HDLコレステロールを高める薬剤が臨床的に有意である。アポ蛋白の中でもアポ蛋白A−Iは、HDLの主要な構成蛋白であり、またコレステロールのエステル化酵素であるレシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)の活性化因子として機能している。そこでアポ蛋白A−Iの増加とLCATの活性化をもたらす薬剤も動脈硬化症の治療に有用と言うことができる。
【0007】したがって、上記のような作用を発揮する治療剤の開発が特に望まれている。
【0008】動脈硬化症患者には、他の病気、例えば高血圧症を合せ持っている者など、様々な人がいる。このような様々な人に、よりふさわしい動脈硬化性疾患治療剤を投与するためにも、従来とは違った化合物の動脈硬化症の治療薬の開発が望まれている。
【0009】更に、正常人もそのコレステロールなどの脂質分が増加しないように予防する必要があるので、その予防薬も要請されている。
【0010】本発明は、以上のような要請に答える新しい動脈硬化性疾患治療剤を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段及び作用】上記の目的は、以下の発明によって達成できる。即ち、本発明は、下記式[I]で表わされる1,4−ジヒドロピリジン誘導体またはその酸付加塩を有効成分とする動脈硬化性疾患治療剤である。
【0012】
【化2】


【0013】本発明の前記化合物[I]を投与すると、一般に、血清中の総コレステロール、トリグリセリド量に大きな変化を見られないが、血清中のHDL(高比重リポ蛋白)コレステロールの量が増加する。HDLコレステロールは、末梢からコレステロールを肝臓に運搬するコレステロール逆転送系の主要なリポ蛋白であることから、これが増加することは、コレステロールの動脈壁への沈着を予防することとなる。本発明による動脈硬化症の改善には、いろいろな要因が影響していると思われるが、HDLコレステロールの増加が主に寄与していると考えられる。
【0014】本発明の前記化合物[I]は、2−メトキシエチル (E)−3−フェニル−2−プロペン−1−イル (±)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(3−ニトロフェニル)ピリジン−3,5−カルボキシレートであり、たとえば特公平3−14307号に記載の方法により製造することができる。
【0015】本発明の化合物の投与量は、1日当り有効成分1〜200mgの用量の範囲で投与することができる。その投与量は、患者の体重、症状及び当業者が認める他の因子によって変化させることができる。
【0016】本発明の化合物の投与形態の任意であるが、有効成分に加えて、医療上許容し得るベヒクル、担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、防腐剤、安定剤、香味剤等と共に一般的に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することができる。これらの組成物又は製剤中の有効成分の量は、指示された範囲の適当な用量が得られるように適宜決められる。
【0017】本発明の治療剤の投与経路は、特に限定されないが、好ましくは経口投与又は吸入投与される。また皮下、筋肉又は静脈内投与することも可能である。
【0018】本発明の治療剤の形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、吸入液、注射液等が挙げられる。
【0019】
【発明の効果】本発明の治療剤は、以下の実施例からも明らかなように、高脂血症、ひいては動脈硬化性疾患に対して有効に働く。本発明の動脈硬化性疾患治療剤は、高血圧症に対しても有効であるため、特に、動脈硬化症ばかりでなく高血圧症にも罹っている者に対して特に有効である。
【0020】
【実施例】以下、本発明を実施例によって、より具体的に説明する。
【0021】WHO基準の第I期、第II期の本態性高血圧症患者35例に前記化合物[I]を1日1回、5〜20mg、12週間投与した。
【0022】前記化合物[I]の血清脂質に対する作用を検討するために、投与開始時及び投与終了時の空腹時に採血を行い、次の成分の量を測定した。
【0023】
・総コレステロール ・トリグリセライド ・リン脂質・遊離脂肪酸 ・LCAT(レシチン−コレステロールアシルトランスフェラーゼ)
・リポ蛋白分画(リポ蛋白コレステロール分画、リポ蛋白トリグリセリド、リポ蛋白リン脂質分画)
・HDL2 −コレステロール ・HDL3 −コレステロール・アポ蛋白(A−I,A−II,B,C−II,C−III,E)
なお、化合物[I]は本願出願人の特公平第3-14307号に開示してあるように、降(血)圧効果を有しているが、その降圧効果は、投与開始時と投与終了時との血圧値を比較し、降圧薬の臨床評価ガイドライン(金子好宏他:降圧薬の臨床評価方法に関するガイドライン,医薬品研究,20, 902-919,1989)に従って評価した。また、安全性の評価も所定の臨床検査値の変動及び副作用の発現の有無を指標とし、前述のガイドラインにしたがって、評価した.統計学的検討はWilcoxon singed rank test により行った。
【0024】結果を表1,表2と図1、2とに示す。
【0025】
【表1】


【0026】
【表2】


【0027】考 察前記化合物[I]の投与によって血清中の総コレステロール、トリグリセライド量は、大きな変化を示していないが、遊離脂肪酸は低下傾向を示した。リン脂質は増加した。リポ蛋白分画に関しては、HDL−リン脂質の増加が認められ、また、HDL−コレステロールの増加傾向も認められた。HDL−コレステロールの亜分画に注目すると、HDL2 −コレステロールの増加傾向が認められた。LCAT活性も増加した。アポ蛋白分画については、A−I及びA−IIの増加が認められた。
【0028】なお、HDLは、肝、小腸を初め、カイロミクロン、VLDLの代謝の過程でも作られ、LCATの働きにより、コレステロールエステルを取り込みながら、幼若なHDLよりHDL3 ,HDL2 へと成熟するものである。また、アポ蛋白A−I,A−IIは、HDLを構成する主要なアポ蛋白であり、A−IはLCAT活性化作用をもつ。
【0029】前記のように、HDL−コレステロールは、リポ蛋白代謝の中で、末梢組織からコレステロールを肝臓に運搬するコレステロール逆転送系の主要なリポ蛋白であり、その作用から血清中の脂質代謝の改善に寄与するものである。したがって、前記化合物[I]の投与で認められたHDLを中心とした結果によれば、前記化合物[I]は脂質代謝に対して好ましい方向に作用し、高脂血症剤として機能する。そして、動脈硬化に抑制的に働くと考えられる。
【0030】なお、降圧効果は、93.5%と優れていた。
【0031】副作用は、3例(8.6%)に認められたものの、いずれも(抗高血圧薬等として利用される)カルシウム拮抗薬投与によって認められるのと同様の症状(ふらふら感、発疹、皮膚掻痒、冷感)であり、臨床検査の成績も含めて、臨床上特に問題となるものはない。
【0032】以上のように、軽・中等度の本態性高血圧症患者に対して、1日1回5〜20mg投与で、優れた降圧効果と高い安全性とが認められた上に、血清脂質に対しては他のカルシウム拮抗薬では見られない脂質代謝に対する作用、つまり抗高脂血症作用が認められ、抗動脈硬化作用が臨床上観察された。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例の結果(化合物[I]投与前後での脂質分の増減)を示す図。
【図2】実施例の結果(化合物[I]投与前後での脂質分の増減)を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 式
【化1】


で表わされる1,4−ジヒドロピリジン誘導体またはその酸付加塩を有効成分とする動脈硬化性疾患治療剤。

【図1】
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【図2】
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