説明

動電型スピーカーおよびこれを用いるディスプレイ装置

【課題】 全高が低い薄型の動電型スピーカーであって、第1振動板と略直交する方向に振動する第2振動板を備える動電型スピーカーに関し、音声再生能力に優れ、ディスプレイ等の機器に取り付けるのに適する薄型の動電型スピーカーおよびこれを用いるディスプレイ装置を提供する。
【解決手段】
動電型スピーカーは、第1振動板および第1ボイスコイルと、第1の軸方向と略直交する第2の軸方向に振動する第2振動板および第2ボイスコイルと、マグネットと、第1ヨークと、第2ヨークと、を含み、第1磁気空隙、および、第2磁気空隙を有する磁気回路と、を備え、磁気回路が、第1ヨークと第2ヨークとの間に第1磁気空隙を形成し、第1ヨークの底部から外周側に延設されて形成される第1延設部と第2ヨークの外周側に延設されて形成される第2延設部との間に第2磁気空隙を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
全高が低い薄型の動電型スピーカーであって、第1振動板と略直交する方向に振動する第2振動板を備える動電型スピーカーに関し、音声再生能力に優れ、ディスプレイ等の機器に取り付けるのに適する動電型スピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
音声を再生するスピーカーを取り付けるディスプレイ等の音響機器においては、スピーカーを取り付けるのに要する空間を小型化することが要望されている。液晶ディスプレイ等のデザインを重視する場合には、前面視する場合の液晶表示部の周囲の枠部を極力小さくするために、動電型スピーカーの振動板が液晶ディスプレイの背面側から露出するようにして、前面側に露出しないようにして取り付ける場合さえもある。特に、前面側のフレームの前端部分から背面側の磁気回路までの距離である全高を薄くするように薄型化を図る動電型スピーカーでは、スピーカー振動板の形状、あるいは、ボイスコイルの中心支持の構造によって限界がある場合がある。
【0003】
具体的には、薄型化によりボイスコイルを中心支持するダンパーが磁気回路に近づいても、磁気回路に接触して異音を発生しないように配慮する必要がある。動電型スピーカーでは、振動系が大きく変位する最低共振周波数f0以下の周波数において、ダンパーが磁気回路に衝突して異音を発生し易くなる、という問題がある。したがって、従来には、このような問題を解決するために様々な動電型スピーカーが提案されている。
【0004】
従来には、内周側に平行な2つの直線部を有する環状のトッププレートと、内周側にアンダープレートから切り起こされた2つの突起部を有するポールと、トッププレートおよびポールのアンダープレートの間に狭持され、同一方向に着磁される2つの棒状のマグネットと、を備え、ポールの2つの突起部がトッププレートの2つの直線部にそれぞれ対向して、2つの棒状のマグネットの間に配置される2つの磁気空隙を形成し、ポールの2つの突起部が、それらの間に貫通孔を形成し、トッププレートとアンダープレートと2つの棒状のマグネットとが、貫通孔に連通する2つの内部空間を形成するスピーカー用磁気回路を備える動電型スピーカーがある(特許文献1)。
【0005】
また、従来には、直線状の磁気空隙を形成する矩形断面を有する棒状のマグネットと、マグネットと取付部において連結するU字状もしくは環状のヨークと、を備えるスピーカー用磁気回路であって、ヨークが、取付部を含まない部分の断面が略矩形状に形成され、取付部を含む部分の断面が略L字状に形成されて、取付部が、矩形断面を有するマグネットが係合する矩形状の空間を形成する凹状部であるスピーカー用磁気回路を備える動電型スピーカーがある(特許文献2)。
【0006】
また、従来には、平角線を巻軸に対してずらすことなく多層巻きした平板状の空芯コイルである第1コイルおよび第2コイルを、それぞれの巻軸が一致するようにそれぞれのコイル端面同士を貼り合わせて形成し、かつ、貼り合わされた第1コイルおよび第2コイルが、同一方向に音声信号電流が流れるように直列接続または並列接続して構成するボイスコイルであって、第1コイルおよび第2コイルが貼り合わされて形成される内周端部が規定する内周空間に収容され、かつ、その外周端部が内周端部に係合する補強板を備えるボイスコイルを含む動電型スピーカーがある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−103891号公報(図1〜図9)
【特許文献2】特開2010−272988号公報(図1〜図6)
【特許文献3】特開2011−114857号公報(図1〜図7)
【0008】
しかしながら、上記特許文献1〜3の動電型スピーカーを、振動板が前面側に露出しないようにディスプレイ装置に取り付ける場合には、中高音域の再生レベルが低下しやすいという問題がある。例えば、上記特許文献1〜3の動電型スピーカーを、背面側に振動板が露出するように、つまり、背面側に音放射するようにディスプレイ装置に取り付けると、ディスプレイ装置の薄型化を図ることが出来る一方で、前面側に回り込みにくい中高音域の再生レベルが低くなり、再生音質が低下するという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、全高が低い薄型の動電型スピーカーであって、第1振動板と略直交する方向に振動する第2振動板を備える動電型スピーカーに関し、音声再生能力に優れ、ディスプレイ等の機器に取り付けるのに適する薄型の動電型スピーカーおよびこれを用いるディスプレイ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の動電型スピーカーは、第1の軸方向に振動する第1振動板と、第1振動板に連結する第1ボイスコイルと、第1の軸方向と略直交する第2の軸方向に振動する第2振動板と、第2振動板に連結する第2ボイスコイルと、マグネットと、マグネットの底面側に連結する第1ヨークと、マグネットの天面側に連結する第2ヨークと、を含み、第1ボイスコイルが第1の軸方向に振動可能に配置される第1磁気空隙、および、第2ボイスコイルが第2の軸方向に振動可能に配置される第2磁気空隙を有する磁気回路と、を備え、磁気回路が、第1ヨークの底部から切り起こされて形成される第1側壁部と第2ヨークの内周端部との間に第1磁気空隙を形成し、第1ヨークの底部から外周側に延設されて形成される第1延設部と第2ヨークの外周側に延設されて形成される第2延設部との間に第2磁気空隙を形成する。
【0011】
また、本発明の動電型スピーカーは、第1ボイスコイルが、その振動方向と一致する第1巻軸に対して丸線もしくは平角線を斜めにずらせてボビンに巻き回して形成される略円筒状のコイルを含み、第2ボイスコイルが、その振動方向と略直交する第2巻軸に対して平角線をずらすことなく多層巻きして形成される平板状のコイルを含み、第1ボイスコイルおよび第2ボイスコイルが、直列接続若しくは並列接続されている。
【0012】
また、本発明の動電型スピーカーは、磁気回路の第1磁気空隙および第2磁気空隙が、ともに直線状の空隙であり、第1ボイスコイルおよび第2ボイスコイルが、それぞれ第1磁気空隙および第2磁気空隙に配置される直線部を含むトラック形状に形成される。
【0013】
また、本発明の動電型スピーカーは、磁気回路の第1磁気空隙が、平行に配置される一対の直線状の空隙として構成され、トラック形状の第1ボイスコイルの一対の直線部がそれぞれ振動可能に配置される。
【0014】
また、本発明の動電型スピーカーは、磁気回路に連結するフレームと、第1振動板の外周端側およびフレームに連結する第1エッジと、第2振動板の外周端側およびフレームに連結する第2エッジと、をさらに備える。
【0015】
また、本発明の動電型スピーカーは、第1ボイスコイルのボビンに連結する内周固定部と、フレームに連結する外周固定部と、内周固定部および外周固定部との間に形成される支持可動部と、を有する第1ダンパーと、第2ボイスコイルに連結する内周固定部と、フレームに連結する外周固定部と、内周固定部および外周固定部との間に形成される支持可動部と、を有する第2ダンパーと、をさらに備える。
【0016】
また、本発明のディスプレイ装置は、上記のいずれかの動電型スピーカーを備えるディスプレイ装置であって、ディスプレイ装置の筐体の角部を構成する略直交する2面に、それぞれ第1振動板と第2振動板とが露出するように動電型スピーカーを取り付ける。
【0017】
以下、本発明の作用について説明する。
【0018】
本発明の動電型スピーカーは、第1の軸方向に振動する第1振動板と、第1の軸方向と略直交する第2の軸方向に振動する第2振動板と、を有する動電型スピーカーである。なお、第1および第2の軸方向は任意に設定できるが、第1の軸方向は、例えば、動電型スピーカーの全高ないし厚みを規定する方向とすることができ、また、第2の軸方向は、動電型スピーカーを側面視する方向とすることができる。
【0019】
この動電型スピーカーは、第1振動板に連結する第1ボイスコイルと、第2振動板に連結する第2ボイスコイルと、マグネットと、マグネットの底面側に連結する第1ヨークと、マグネットの天面側に連結する第2ヨークと、を含み、第1ボイスコイルが第1の軸方向に振動可能に配置される第1磁気空隙、および、第2ボイスコイルが第2の軸方向に振動可能に配置される第2磁気空隙を有する磁気回路と、を備える。なお、磁気回路に連結するフレームと、第1振動板の外周端側およびフレームに連結する第1エッジと、第2振動板の外周端側およびフレームに連結する第2エッジと、をさらに備えていればよい。
【0020】
具体的には、磁気回路は、第1ヨークの底部から切り起こされて形成される第1側壁部と第2ヨークの内周端部との間に第1磁気空隙を形成し、第1ヨークの底部から外周側に延設されて形成される第1延設部と第2ヨークの外周側に延設されて形成される第2延設部との間に第2磁気空隙を形成する。したがって、本発明の動電型スピーカーは、略直交する関係になる第1および第2の軸方向それぞれに音声再生が可能な第1振動板および第2振動板を有するので、ディスプレイ等の機器に取り付けるのに適する薄型の動電型スピーカーを実現できる。
【0021】
すなわち、スピーカーを取り付けるのに要する空間を小型化することが要望されているディスプレイ装置などでは、同等の体積または表面積のスピーカーに比較して、第1振動板に第2振動板を加えて振動板面積を大きくすることができるので、動電型スピーカーの再生音圧レベルを高めることができる。ディスプレイ装置の筐体の角部を構成する2面に、それぞれ第1振動板と第2振動板とが露出するように、つまり、角部を構成する2面にそれぞれ平行な2つの方向に音放射するようにディスプレイ装置に取り付けると、動電型スピーカーを取り付けることができるので、制約の多い取付条件であっても、音声再生の条件を向上できる。例えば、動電型スピーカーを振動板が前面側に露出しないようにディスプレイ装置に取り付ける場合に、第1振動板がディスプレイ装置の背面側に露出するようにディスプレイ装置に取り付けたとしても、第1振動板に対して略直交する方向に振動可能な第2振動板が、ディスプレイ装置の厚みを規定する面側(背面に対して略直交する上方向、下方向、横方向のいずれかの方向の面側)に露出することになる。したがって、背面側に配置された第1振動板の中高音域の再生レベルの低下を、もう一方の第2振動板によって補うことができ、再生音質を高めることができる。
【0022】
ここで、第1ボイスコイルが、その振動方向と一致する第1巻軸に対して丸線もしくは平角線を斜めにずらせてボビンに巻き回して形成される略円筒状のコイルを含み、第2ボイスコイルが、その振動方向と略直交する第2巻軸に対して平角線をずらすことなく多層巻きして形成される平板状のコイルを含むようにするのが好ましい。第2ボイスコイルは、第1ボイスコイルと巻軸方向が平行な関係になる平板状のコイルなので、巻軸方向に沿った厚みが極めて薄い平板状のコイルにすることができる。したがって、本発明の動電型スピーカーは、全高を規定する第1の軸方向の寸法が小さい薄い動電型スピーカーであっても、第1の軸方向に略直交する第2の軸方向に振動する第2振動板および第2ボイスコイルを設けることができる。なお、第1ボイスコイルおよび第2ボイスコイルは、直列接続若しくは並列接続されていればよい。
【0023】
具体的には、磁気回路の第1磁気空隙および第2磁気空隙は、ともに直線状の空隙であり、第1ボイスコイルおよび第2ボイスコイルが、それぞれ第1磁気空隙および第2磁気空隙に配置される直線部を含むトラック形状に形成されるのが好ましい。第1磁気空隙および第2磁気空隙を、ともに全高を規定する第1の軸方向に略直交する直線状の空隙として、これらに対応するトラック形状の第1ボイスコイルおよび第2ボイスコイルを配置することで、動電型スピーカーの全高を高くすることなく磁気空隙中に配置されるコイル長を長くすることができる。また、磁気回路の第1磁気空隙を、平行に配置される一対の直線状の空隙として構成し、トラック形状の第1ボイスコイルの一対の直線部がそれぞれ振動可能に配置されるようにすれば、薄型の動電型スピーカーであっても、第1ボイスコイルに生じる駆動力を十分に高めることができる。
【0024】
また、本発明の動電型スピーカーは、第1ボイスコイルのボビンに連結する内周固定部と、フレームに連結する外周固定部と、内周固定部および外周固定部との間に形成される支持可動部と、を有する第1ダンパーを、あるいは、第2ボイスコイルに連結する内周固定部と、フレームに連結する外周固定部と、内周固定部および外周固定部との間に形成される支持可動部と、を有する第2ダンパーを、さらに備えていてもよい。第1ダンパーならびに第2ダンパーは、それぞれ第1磁気空隙に対する第1ボイスコイルの中心保持と、第2磁気空隙に対する第2ボイスコイルの中心保持と、を行なうので、ボイスコイルおよび振動板を含む振動系と磁気回路とが衝突する際に発生する異音を抑え、音声再生能力に優れる薄型の動電型スピーカーを実現できる。
【発明の効果】
【0025】
全高が低い薄型の動電型スピーカーに関し、音声再生能力に優れ、ディスプレイ等の機器に取り付けるのに適する薄型の動電型スピーカーおよびこれを用いるディスプレイ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1を説明する図である。(実施例1)
【図2】本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1を説明する斜視図である。(実施例1)
【図3】本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1の構成を説明する展開図である。(実施例1)
【図4】本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1を説明する断面図である。(実施例1)
【図5】本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1を構成する磁気回路10を説明する斜視図である。(実施例1)
【図6】本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1を備えるディスプレイ装置20を説明する背面図である。(実施例2)
【図7】本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1を備えるディスプレイ装置20を説明する断面図である。(実施例2)
【図8】本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1を備えるディスプレイ装置20を説明する斜視図である。(実施例2)
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカーについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0028】
図1〜図5は、本発明の好ましい実施形態による動電型スピーカー1を説明する図である。図1(a)は、動電型スピーカー1を図示するZ軸側から見た平面図であり、図1(b)は、X軸側から見た側面図であり、図1(c)は、Y軸側から見た側面図である。また、図2は、動電型スピーカー1の斜視図であり、図3は、動電型スピーカー1の構成を説明する展開図である。また、図4は、動電型スピーカー1の断面図であり、図5は、動電型スピーカー1を構成する磁気回路10を説明する斜視図である。なお、後述するように、動電型スピーカー1の一部の構造や、内部構造等は、省略している。また、Z軸が延びる方向が全高ないし厚みを規定する高さ方向であり、Y軸(長軸)が延びる方向が長径方向であり、また、X軸(短軸)が延びる方向が短径方向である。
【0029】
本実施例の動電型スピーカー1は、長径方向長が約150.0mm、短径方向長が約52.5mm、全高が11.0mmであり、細長形で薄型の動電型スピーカーである。動電型スピーカー1は、Z軸方向に振動する第1振動板2aと、Z軸方向と直交するX軸方向に振動する第2振動板2bと、を有する。動電型スピーカー1では、第1振動板2aおよび第2振動板2bが互いに独立した振動板であるものの、フレーム6およびこれに連結する磁気回路10は、共通する構成になっている。フレーム6は、トラック形のそれぞれの振動板2aおよび2bに対応した細長形状であり、フレーム6に収容されるように固定される磁気回路10も、短径方向の幅が狭い細長形状を有している。したがって、動電型スピーカー1は、ディスプレイ等の機器が有する表示部の側面ないし縁部など、スピーカーを取り付ける幅が少ない機器に適するスピーカーである。フレーム6の背面側には、音声信号電流が供給される(図示しない)ターミナル7が取り付けられ、磁気回路10の一部が露出している。
【0030】
第1振動板2aは、第1エッジ3aによってその外周端を支持されており、第1エッジ3aの外周端は、フレーム6の第1フレーム部6aに固定されている。一方、第2振動板2bは、第2エッジ3bによってその外周端を支持されており、第2エッジ3bの外周端は、フレーム6の第2フレーム部6bに固定されている。第1振動板2aの背面側には、第1ボイスコイル4aが連結しており、第1ダンパー5aにより振動可能に支持されている。また、第2振動板2bの背面側には、第2ボイスコイル4bが連結しており、第2ダンパー5bにより振動可能に支持されている。
【0031】
動電型スピーカー1の第1振動板2aは、スピーカー振動板の軽量化を図るために発泡させた熱可塑性樹脂を形成して構成されている。本実施例の場合には、押出成形された熱可塑性樹脂発泡シート(具体的には、ポリスチレンペーパー)を、プラグアシスト成形を併用した真空成形法を用いることで、凹凸を有する第1振動板2aを得ている。すなわち、長径方向長と短径方向長が著しく異なる細長形の第1振動板2aは、長径方向の分割振動の影響が顕著になりやすいので、短径方向断面形状が一部で略U字形を含む形状になるようにして、長径方向に剛性を有する形状とされている。第1振動板2aは、その外周端に第1エッジ3aの内周側が接着されており、また、中央背面にはボイスコイル4を構成するボビンが接着される。なお、第1振動板2aは、紙繊維を抄紙して成形した紙材を基材とする基体を含んで構成されるものでもよい。
【0032】
動電型スピーカー1の第2振動板2bは、スピーカー振動板の軽量化を図るために紙繊維を抄紙して成形した紙材を基材とする基体を含んで構成されている。本実施例の場合には、第2振動板2bは、第1振動板2aよりも振動板面積が小さく、剛性が高い略コーン形状の振動板であって、本実施例の場合には、具体的には、紙繊維を抄紙して成形した紙材を基材とする基体が成形されたスピーカー振動板である。第2振動板2bは、略コーン形状の第1振動板2aと同様に、長径方向の分割振動の影響が顕著になりやすいので、短径方向断面形状が略U字形を含むコーン形状になるようにして、長径方向に剛性を有する形状とされている。第2振動板2bは、断面がコーン形状になる振動板面に、前面側に凸状の稜線部を規定し、かつ、稜線部の背面側の一部にボイスコイルが係合する係合凹部を規定するリブと、を有していてもよい。つまり、このリブは、第2振動板2bの長軸方向に形成されるリブであって、中央背面側に第2ボイスコイルが係合する係合凹部を形成するとともに、前面側に凸状の稜線部を規定するリブであればよい。また、第2振動板2bは、その外周端に第2エッジ3bの内周側が接着されている。
【0033】
第1エッジ3aおよび第2エッジ3bは、本実施例では、柔軟性を有する発泡ゴムを金型内に注入して加熱発泡して形成したものである。第1エッジ3aは、第1振動板2aの長径方向に直線状に延びるトラック形の長辺では、第1振動板2aを自由支持するように薄肉のコルゲーション(またはロール)によるフリーエッジが形成され、短径方向に円弧状になるトラック形の短辺では、第1振動板2aを固定支持するように厚肉で自由に振動しないフィックスドエッジが形成される。その結果、細長形の第1振動板2aは、短径方向ではエッジ3のフリーエッジ部のコンプライアンスで柔軟に支持される一方で、長径方向では第1振動板2aを形成する熱可塑性樹脂の発泡シートの柔軟性によって、曲げ振動可能にされている。一方、第2エッジ3bは、トラック形の全周に渡って第2振動板2bを自由支持するように薄肉のコルゲーション(またはロール)によるフリーエッジを形成する。なお、第1エッジ3aおよび第2エッジ3bは、発泡していないニトリルゴム(NBR)、等の弾性体で構成してもよい。
【0034】
第1ボイスコイル4aは、トラック形に形成したボビンと、その一端側に巻回されて音声電流が供給されるトラック形のコイルと、から形成される。本実施例の場合には、第1ボイスコイル4aは、長径方向長が約33.0mmで、短径方向長が約14.5mmのトラック形である。ボビンは、コイルが巻回されない他端側が第1振動板2aの背面中央に接着剤により連結される。コイルは、その振動方向であるZ軸方向と一致する第1巻軸に対して丸線もしくは平角線を斜めにずらせてボビンに巻き回して形成される略円筒状のコイルである。第1ボイスコイル4aのトラック形のボビンおよびコイルは、長径方向に沿った2つの直線部を含むので、コイルの2つの直線部は、それぞれ後述する磁気回路10の磁気空隙13aおよび13bに配置される。
【0035】
第2ボイスコイル4bは、後述する磁気回路10に対応して、第2振動板2bが振動するX軸方向に対して、ほぼ直交するZ方向に巻軸方向を有する平板状のコイルであって、長径方向長が約36.0mmで、短径方向長が約8.0mmのトラック形で、厚み4tが約0.5mmのコイルである。具体的には、第2ボイスコイル4bは、平板状に形成した2つの空芯のコイル41および42と、後述する補強板43とを含む。コイル41および42は、それぞれ、太さ寸法が0.11mm×0.22mmの銅クラッドアルミ平角線を巻軸に対してずらすことなく多層巻きにして、厚み(41tないし42t)が平角線の太さ寸法約0.22mmにほぼ等しく、巻層厚寸法が約0.5mmである平板状に形成した空芯のコイルである。本実施例の第2ボイスコイル4bを構成するコイル41および42は、それぞれ巻数がほぼ等しいコイルである。第2ボイスコイル4bは、接着剤(若しくはワニス)でコイル41および42の巻軸が一致するようにそれぞれのコイル端面同士を貼り合わせて形成し、かつ、貼り合わされたコイル41および42が、同一方向に音声信号電流が流れるように直列接続して構成するボイスコイルである。コイル41および42は、平角線を巻軸に対してずらすことなく多層巻きしているので、それぞれ単独では反って変形し易いという問題を有するものの、それぞれのコイル端面同士を貼り合わせると、変形を防止してフラットな平板状を保つことができる。
【0036】
コイル41および42が貼り合わされるトラック形状の第2ボイスコイル4bでは、一方の直線部と、他方の直線部と、一方の円弧部と、他方の円弧部と、が形成されて、トラック形状の内周端部の内周側には、トラック形状の孔である内周空間が形成される。したがって、コイル4では、この内周空間に収容される補強板43の外周端部が、トラック形状の内周端部に係合する。補強板43は、その外周端部が第2ボイスコイル4bのトラック形状の内周端部に係合し、接着剤で接着されている。つまり、補強板43の外周端部は、コイル41および42の最も内周側の巻線の内周面に係合する。本実施例の補強板43は、その厚み43tが約0.14mmのアルミ板であり、長径方向長が約31.5mmで、短径方向長が約3.5mmのトラック形である。補強板43の厚み43tは、コイル41および42を貼り合わせた厚みで規定されるボイスコイル厚み寸法4tよりも小さくされるので、補強板43は、第2ボイスコイル4bの内周空間から突出しない。補強板43は、第2ボイスコイル4bの剛性を高めるので、平板状の第2ボイスコイル4bが反るような変形を抑制する。なお、補強板43は、銅、ジュラルミン、あるいは、アルミ合金等の非磁性の金属から構成されていればよいが、ABS、PI、PETなどの樹脂で形成されていてもよい。また、補強板43の形状は、本実施例のような平板状に限らない。
【0037】
なお、(図示しない)錦糸線は、フレーム6に固定される(図示しない)ターミナル7と、ターミナル7から第1ボイスコイル4aまたは第2ボイスコイル4bのそれぞれのコイルの引出線とを、ハンダづけして導通させて、コイルに音声電流を供給する。ただし、錦糸線は、第1振動板2aに金属ハトメを設けてターミナル7まで導通させるようにしてもよい。本実施例では、第1ボイスコイル4aおよび第2ボイスコイル4bが、直列接続されているが、並列接続されていてもよい。
【0038】
第1ダンパー5aは、柔軟性を有する繊維の織布を基材としてフェノール樹脂を含浸して成形する細長形状のコルゲーションダンパーを切断して、全体の形状を形成したものである。具体的には、第1ダンパー5aは、ボビンのコイルが巻回される端側に連結する2つの内側固定部と、磁気回路10のトッププレート11に固定される外側固定部と、内側固定部と外側固定部とを連結する2つの可動部と、2つの内側固定部を連結する内側平坦部と、を備える。長径方向に位置するダンパーの2つの可動部は、略扇形の形状であってコルゲーションを有し、後述するように、磁気回路10の内部空間16aおよび16bにそれぞれ配置される。また、ダンパーの内側平坦部は、細長の短冊形状の平面部分であって、2つの内側固定部を、長径方向に沿って磁気回路10の貫通孔14を横切って連結する。
【0039】
第2ダンパー5bは、薄板状の樹脂板に切欠部分(スリット部分)を設けて、第2ボイスコイル4bに連結する内側固定部と、フレーム6の第2フレーム部6bに連結する外側固定部と、内側固定部と外側固定部とを連結するアーム状の可動部と、を備えるようにしたダンパーである。具体的には、第2ダンパー5bは、厚さが約0.2mmのPC樹脂板をプレス加工して形成する部材であり、内側固定部には、第2ボイスコイル4bの円弧部と、第2ボイスコイル4bの補強板43とが差し込まれて固定されるスリットを有する。第2ダンパー5bは、第2ボイスコイル4bまたはフレーム6と、接着剤により連結される。なお、第2ダンパー5bは、樹脂を射出成形して形成するダンパーであっても良く、また、柔軟性を有する繊維の織布を基材としてフェノール樹脂を含浸して成形するものであってもよい。
【0040】
フレーム6は、それぞれの振動板形状に対応して細長形のバスケット状にプレス成型された第1フレーム部6aおよび第2フレーム部6bを含む鉄板フレームである。フレーム6は、さらに磁気回路10を固定する固定部と、これらの固定部を連結する連結部と、複数の連結部の間に規定される窓と、(図示しない)ターミナル7を取り付ける取付孔と、を備える。第1フレーム部6aおよび第2フレーム部6bは、第1エッジ3aまたは第2エッジ3bを固定する略矩形の固定部と、後述するディスプレイ装置への取付部と、をそれぞれ含む。したがって、第1振動板2a、第1エッジ3a、第1ボイスコイル4a、および、第1ダンパー5aからなるスピーカー振動系は、第1フレーム部6aおよび磁気回路10に対してZ軸方向に振動可能に支持される。また、第2振動板2b、第2エッジ3b、第2ボイスコイル4b、および、第2ダンパー5bからなるスピーカー振動系は、第2フレーム部6bおよび磁気回路10に対してX軸方向に振動可能に支持される。したがって、後述するように、この動電型スピーカー1は、ディスプレイ装置の筐体の角部を構成する2面に、それぞれ第1振動板と第2振動板とが露出するように取り付けることができる。
【0041】
磁気回路10は、細長形のトッププレート11と、細長形のポール12と、同一方向に着磁された2つの棒状のマグネット15aおよび15bと、から構成される。磁気回路10は、第1ボイスコイル4aがZ軸方向に振動可能に配置される第1磁気空隙13aならびに13b、および、第2ボイスコイル4bがX軸方向に振動可能に配置される第2磁気空隙13cを有する。磁気回路10を構成する各部材は、接着剤で固定される。また、磁気回路10も、フレーム6の固定部に接着剤で固定される。磁気回路10は、全高が約6.8mmの薄型の磁気回路であって、ほぼその全体がフレーム6の内側に収容されるので、動電型スピーカー1を薄型化することができる。
【0042】
トッププレート11は、厚さ1.6mmの軟鉄の鋼材を、内周側に平行な2つの直線部11aおよび11bを有する環状に形成し、さらに、X軸方向の一方の外周側に延設されて形成される延設部11cを有するように形成する部材である。2つの直線部11aおよび11bは、長径方向に沿って設けられており、それぞれ24.0mmの長さであって、後述する磁気空隙13aおよび13bを形成する。つまり、トッププレート11の内周側は、矩形環状の内周側から長径方向に沿った長い2つの直線部11aおよび11bが、台形状にせり出したような形状を有しており、2つの直線部11aおよび11b以外の環状の内周側は、ボイスコイル4に対して駆動力を発生する磁気空隙として作用しない。また、トッププレート11の外周側には、後述する磁気空隙13cを形成する延設部11cが延設されている。
【0043】
また、ポール12は、内周側にアンダープレートから切り起こされた2つの突起部12aおよび12bと、外周側にトッププレート11の延設部11cに対応する延設部12cを有する部材である。具体的には、アンダープレートを構成する厚さ1.6mmの軟鉄の鋼材の内周側に略H字形状の孔を設け、これらを内周側から切り起こして、2つの突起部12aおよび12bを有するように形成し、さらに、外周側に後述する磁気空隙13cを形成する延設部12cが延設されている部材である。ポール12では、2つの突起部12aおよび12bが、トッププレートの2つの直線部にそれぞれ対向するように、略H字形状の孔を構成する横棒部分の直線形状の孔が、長径方向に沿った方向に配置される。上記のポール12は、抜き曲げ起こしという一つの工程で実施してもよい。
【0044】
2つの棒状のマグネット15aおよび15bは、それぞれ長径方向長50.0mm、短径方向長6.0mm、厚さ3.0mmの希土類磁石であり、フェライト系磁石であってもよい。なお、希土類磁石とは、Nd−Fe−B系のネオジウム磁石、もしくは、Sm−Co系のサマリウムコバルト磁石であって、磁石の最大エネルギー積(BH)maxが大きな値をとる磁石であり、残留磁化および保磁力がさらに大きく、小さい体積でも保磁力の強いNd−Fe−B系の希土類磁石であってもよい。
【0045】
したがって、磁気回路10では、ポール12の2つの突起部12aおよび12bが、トッププレート11の2つの直線部11aおよび11bにそれぞれ対向して、2つの棒状のマグネット15aおよび15bの間に配置される2つの磁気空隙13aおよび13bを形成する。第1ボイスコイル4aをZ軸方向に振動可能にする2つの磁気空隙13aおよび13bは、長径方向であるY軸方向に沿って設けられ、また、ポール12の2つの突起部12aおよび12bが、それらの間に略矩形状の貫通孔14を形成する。そして、トッププレート11とポール12のアンダープレートと2つの棒状のマグネット15aおよび15bとが、貫通孔14に連通する2つの内部空間16aおよび16bを形成する。細長形の本実施例の磁気回路10では、2つの内部空間16aおよび16bは、長径方向に沿って貫通孔14を間に挟んで配置されている。
【0046】
さらに、磁気回路10は、ポール12の底部から外周側に延設されて形成される延設部12cとトッププレート11の外周側に延設されて形成される延設部11cとの間に第2磁気空隙13cを形成する。第2ボイスコイル4bをX軸方向に振動可能にする磁気空隙13cは、長径方向であるY軸方向に沿って設けられる。なお、本実施例では、第2磁気空隙13cは、X軸方向に延設される延設部11cおよび12cにより形成されているが、Z軸方向に略直交する方向と言える範囲内であれば、延設部11cおよび12cをわずかに所定の方向に曲げて、磁気空隙13aおよび13bに対して、必ずしも直交する関係にならなくても良い。
【0047】
図4は、本実施例の動電型スピーカー1の磁気回路10付近の構成を説明する短径方向に沿ったA−O−A’断面の拡大図である。動電型スピーカー1では、第1ボイスコイル4aのコイルに音声電流が供給されると、磁気空隙13aおよび13bに配置された第1ボイスコイル4aの直線部分には駆動力が作用し、第1ボイスコイル4aはZ軸方向に振動し、連結された第1振動板2aもZ軸方向に振動する。第1振動板2aは、短径方向ではその外周端を支持する第1エッジ3aのフリーエッジ部が柔軟に支持する。その一方で、長径方向では第1振動板2aを形成する熱可塑性樹脂発泡シートの柔軟性によって曲げ振動可能になり、最低共振周波数f0付近若しくはそれ以下の周波数で第1ボイスコイル4aが大きく変位する場合には、長径方向の両端を固定された第1振動板2aは、長径方向に弓状に曲がって変形する。
【0048】
トラック形の第1ボイスコイル4aを振動可能に支持する第1ダンパー5aは、磁気回路10を構成する環状のトッププレート11の平面上にその外側固定部が固定される。第1ダンパー5aの第1ボイスコイル4aと連結する2つの内側固定部は、トラック形状の短径側に対応する円弧状の凹部であって、ボビンのコイルが巻回されている側の端部が載置されるように固定される部分である。したがって、第1ダンパー5aでは、第1ボイスコイル4aの内周側に、長径方向に配置された2つの内側固定部を連結する内側平坦部を、一体に形成することができる。第1ダンパー5aの内側平坦部は、2つの内側固定部を、長径方向に沿って磁気回路10の貫通孔14を横切って連結し、トラック形のボビンを補強する。つまり、本実施例の動電型スピーカー1では、磁気回路10が貫通孔14を有しているので、ダンパー5の内側平坦部によって、ボビンの内周側を長径方向に沿って連結することができ、第1ボイスコイル4aを安定して振動可能に支持することができる。
【0049】
一方で、動電型スピーカー1では、第2ボイスコイル4bに音声電流が供給されると、磁気空隙13cに配置された第2ボイスコイル4bの直線部分には駆動力が作用し、第2ボイスコイル4bはX軸方向に振動し、連結された第2振動板2bもX軸方向に振動する。第2振動板2bは、その外周端を支持する第2エッジ3bが柔軟に支持する。また、トラック形の第2ボイスコイル4bを振動可能に支持する第2ダンパー5bは、第2フレーム部6bにその外側固定部が固定される。したがって、最低共振周波数f0付近若しくはそれ以下の周波数では、第2振動板2bに連結する第2ボイスコイル4bがX軸方向に大きく変位する。
【0050】
本実施例の動電型スピーカー1では、第2ボイスコイル4bは、磁気回路10の直線状の磁気空隙13cにトラック形状の一方の直線部が配置されて、他方の直線部が第2振動板2bの中央部の係合凹部に連結する。また、第2ボイスコイル4bの円弧部および補強板43には、第2ダンパー5bの内側固定部のスリットが連結する。本実施例では、第2ボイスコイル4bを構成する貼り合わせられた2つのコイル41および42は、貼り合わされた部分(例えば、コイル41の一方の直線部およびコイル42の一方の直線部。)に相互に同じ方向に音声信号電流が流れるように直列接続される。もちろん、コイル41および42は、並列接続であってもよい。また、第2ボイスコイル4bに接続する(図示しない)錦糸線は、フレーム6に固定される(図示しない)ターミナルと、ターミナルから第2ボイスコイル4bの引出線とを、ハンダづけして導通させて、第2ボイスコイル4bに音声電流を供給する。ただし、錦糸線は、第2振動板2bに金属ハトメを設けてターミナルまで導通させるようにしてもよい。
【0051】
動電型スピーカー1で第2ボイスコイル4bに音声信号電流が供給されると、磁気回路10の直線状の磁気空隙13cに配置される第2ボイスコイル4bの一方の直線部にX軸方向の駆動力が作用する。この第2ボイスコイル4bは、一方の直線部と他方の直線部との間に係合する上記の(図示しない)補強板43を備えることで、コイル41および42を補強して剛性を高められている。補強板43は、樹脂又は非磁性金属から形成されて、内周空間に収容される最小の体積で実現できるので軽量化が可能であり、また、第2ボイスコイル4bの厚み寸法4tに適した直線状の磁気空隙寸法よりも広くする必要が無くて高い磁束密度を保つことができる。本実施例の補強板43は、加工が容易なトラック形状の平板であるが、貫通孔ないし肉盗みを設けて軽量化を図ってもよい。したがって、音声再生能率を高めて、音声再生能力に優れる動電型スピーカー1にすることができる。第2ボイスコイル4bの磁気回路10の磁気空隙13cに配置される部分(第2ボイスコイル4bの一方の直線部)に作用する駆動力が、第2ボイスコイル4bの他方の直線部に連結する第2振動板2bに十分伝達される。その結果、この第2ボイスコイル4bを用いる動電型スピーカー1は、高域限界周波数を高くして広い音声再生帯域を確保することができる。
【0052】
上記のように、第1振動板2aは、第2振動板2bよりも振動板面積が大きいスピーカー振動板である。大きな振動板である第1振動板21は、中低音域再生に優れ、補強板43を含む第2ボイスコイル4bが連結する第2振動板22は、第2ボイスコイル4bに発生する駆動力が直接伝わるので、高音域再生に優れるスピーカー振動系を構成することができる。したがって、第1振動板2aならびに第2振動板2bを備える動電型スピーカー1は、同等の体積または表面積の他のスピーカーに比較して、振動板面積を実質的に約23%増大することができ、動電型スピーカー1の再生音圧レベルを高めることができる。本実施例の場合には、X軸方向に振動する第2振動板2bの方が、第1振動板2aよりも面積の小さなスピーカー振動板であり、高音域再生に適する。Z軸方向に振動する第1振動板2aの放射指向特性は、略直交する方向であるX軸方向では、高音域の音圧レベルが低下するので、第2振動板2bがこの帯域を担うことで、動電型スピーカー1の指向特性を改善することができる。
【0053】
動電型スピーカー1の磁気回路10は、第1ボイスコイル4aのトラック形のコイルをZ軸方向から平面視した場合に投影する領域の外部に棒状のマグネット15aおよび15bが配置される外磁型磁気回路であり、かつ、これらのマグネット15aおよび15bが、トッププレート11またはポール12に連結するそれぞれの平面が異なる磁極性を有するように着磁されるので、直線状の磁気空隙13a、13b、ならびに、13cに高い磁束密度の磁界を発生させる。保磁力の強い棒状のマグネット15aおよび15bが長径方向に延びるように配置されるので、本発明の動電型スピーカー1のような細長形のスピーカーに適する。磁気回路10の最大幅を小さく、ならびに、その全高を低くすることができれば、細長形の第1振動板2aをZ軸方向から見た場合に形成される領域内に磁気回路10が収まり、また、第2振動板2bをX軸方向から見た場合に形成される領域内に磁気回路10が収まるからである。磁気回路10では、長径方向であるY軸方向に沿った直線部11aおよび11b、ならびに、11cを含む磁気空隙13aおよび13b、ならびに、13cの長さは、棒状のマグネット15aおよび15bよりも短くなる。したがって、磁気空隙13aおよび13b、ならびに、13cに磁束が集中して、薄型の磁気回路10であっても高い磁束密度分布を得ることができる。したがって、軽量な第1振動板2aおよび第2振動板2bを採用することを含めて、能率の高い動電型スピーカー1が実現される。
【0054】
加えて、動電型スピーカー1では、磁気回路10に対応して、第1ダンパー5aの2つの可動部が、磁気回路10の内部空間16aおよび16bにそれぞれ配置される。長径方向に位置する第1ダンパー5aの2つの可動部は、略扇形の形状であってコルゲーションを有し、磁気空隙として利用しない内部空間16aおよび16bにそれぞれ配置される部分である。第1ダンパー5aの2つの可動部は、それぞれ磁気回路10に干渉しないように第1ボイスコイル4aを振動可能に支持することができる。したがって、動電型スピーカー1では、動電型スピーカーの磁気回路10の全高を、フレーム6にほぼ全体が収容されるほど低くして、薄型化を図ることができる。振動系の動作が不安定になりやすい細長形の動電型スピーカーであっても、本実施例の動電型スピーカー1は、ボイスコイルが磁気回路の磁気空隙に接触して異音を生じ、動作不良という問題を抑制することができる。
【実施例2】
【0055】
図6、図7、および、図8は、上記実施例の動電型スピーカー1を備えるディスプレイ装置20を説明する図である。具体的には、図6は、ディスプレイ装置20の背面図であり、図7は、ディスプレイ装置20の動電型スピーカー1を取り付けた部分のB−O−B’断面側面図であり、図8は、ディスプレイ装置20を正面斜め下方から見た場合の斜視図である。
【0056】
例えば、ディスプレイ装置20は、筐体21の背面側(図示する矢印B方向)の左右2箇所に、第1振動板2aが露出するように動電型スピーカー1を取り付けたディスプレイ装置20であって、薄型の矩形平面状の筐体21をスタンド22によって床等の載置面から浮かすようにして、動電型スピーカー1からの放射音がディスプレイ装置20の前面側(図示する矢印F方向)にも到達するようにしている。ディスプレイ装置20の筐体21の正面側には、映像を映写するディスプレイ部24が設けられて、その周囲には枠部23が規定されている。それぞれステレオ左右信号に対応する左右の動電型スピーカー1には、筐体21に内蔵された(図示しない)増幅器からそれぞれステレオ左右信号を電力増幅した音声信号電流が供給される。もちろん、ディスプレイ装置20の構成は、スタンド22の形状を含めて、図示されたものに限定されるものではない。
【0057】
本実施例のディスプレイ装置20では、前面側(図示する矢印F方向)から前面視する場合に、動電型スピーカー1が露出しないようにその筐体21の枠部23の下側角部に動電型スピーカー1を取り付けている。上記実施例の動電型スピーカー1は、筐体21の下側角部を構成する2面(背面および底面)に、それぞれ第1振動板2aと第2振動板2bとが露出するように取り付けることができる。つまり、動電型スピーカー1は、角部を構成する背面および底面の2つの方向に音放射するようにディスプレイ装置に取り付けることができる。したがって、デザイン上の理由で動電型スピーカー1を前面視できないようにしたい場合、あるいは、前面視する場合の枠部23を小さくしたい場合、などの制約が多い取付条件であっても、動電型スピーカー1の音声再生の条件を向上できる。
【0058】
例えば、本実施例のように、動電型スピーカー1を振動板が前面側に露出しないようにディスプレイ装置20に取り付ける場合に、第1振動板2aがディスプレイ装置20の背面側に露出するように筐体21に取り付けたとしても、第1振動板2aに対して略直交する方向である下面方向(図示する矢印D方向)に振動可能な第2振動板2aが露出することになる。したがって、動電型スピーカー1は、背面側に配置された第1振動板2aの中高音域の再生レベルの低下を、もう一方の第2振動板2bによって防止することができ、再生音質を高めることができる。上述の通り、第2振動板2bは高音域再生に適する振動板であり、かつ、筐体21の下側面に取り付けられていることで、音波の回折により正面側に回り込みやすいからである。
【0059】
本実施例では、筐体21の下側角部を構成する2面(背面および底面)に、それぞれ第1振動板2aと第2振動板とが露出するように薄型の動電型スピーカー1を取り付けているが、ディスプレイ装置20に取り付ける動電型スピーカー1は、ディスプレイ装置20の筐体21の角部を構成するいずれか2面に、それぞれ第1振動板2aと第2振動板2bとが露出するように取り付けるものであればよい。例えば、動電型スピーカー1の第1振動板2aが筐体21の背面側に配置されるとしても、第2振動板2bが側面側(もしくは、天面側)に配置されるようにしてもよい。あるいは、ディスプレイ装置20の筐体21の厚みがある程度大きい場合には、動電型スピーカー1の第1振動板2aが筐体21の側面側(もしくは、天面側、底面側)に配置されるようにして、第2振動板2bが前面側に配置されるようにしてもよい。
【0060】
なお、上記実施例では、Z軸方向に振動する第1振動板2aを含む薄型の動電型スピーカー1であっても、略直交するX軸方向に振動可能な第2振動板2bをさらに備えるように構成されているが、本発明は上記実施例に限定されない。例えば、磁気回路10がX軸方向あるいはY方向にさらに磁気空隙を形成して、X軸方向あるいはY方向に振動可能な振動系を形成して、X軸方向あるいはY方向に音放射可能な振動板をさらに備えてもよい。異なる方向に放射する複数の振動板を備え、また、振動板面積を増大させることで、能率が高く、指向特性に優れる動電型スピーカー1が実現される。
【0061】
また、上記実施例では、Z軸方向に振動する第1振動板2aに連結する第1ボイスコイル4aをトラック形状のボイスコイルとし、X軸方向に振動する第2振動板2bに連結する第2ボイスコイル4bをZ方向に巻軸方向を有する平板状のトラック形状のコイルとしているが、本発明は上記実施例に限定されない。第1ボイスコイル4aは断面が丸形状のボイスコイルでもよく、また、第2ボイスコイル4bはX方向に巻軸方向を有する直線部を含むトラック形状のボイスコイルでもよい。第2ボイスコイル4bのZ方向の厚みを小さくできれば、X軸方向に振動する第2振動板2bを有する薄型の動電型スピーカー1を実現できる。また、第2ボイスコイル4bは、上記実施例のように必ずしも補強板43を含まなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の動電型スピーカーは、ディスプレイ等の映像・音響機器に内蔵するスピーカーとしてのみならず、音声を再生するスピーカーを内蔵するキャビネットを有するゲーム機、スロットマシン等の遊戯機にも適用が可能である。また、本発明のスピーカー用磁気回路を備える動電型スピーカーは、全幅が狭く、小型・薄型のキャビネットで音声を再生するスピーカーシステムが実現できるので、設置空間が限定される車両用のスピーカーに特に適する。
【符号の説明】
【0063】
1 動電型スピーカー
2a、2b 第1振動板、第2振動板
3a、3b 第1エッジ、第2エッジ
4a、4b 第1ボイスコイル、第2ボイスコイル
5a、5b 第1ダンパー、第2ダンパー
6 フレーム
10 磁気回路
11 トッププレート
12 ポール
13a、13b、13c 磁気空隙
14 貫通孔
15a、15b マグネット
16a、16b 内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の軸方向に振動する第1振動板と、該第1振動板に連結する第1ボイスコイルと、該第1の軸方向と略直交する第2の軸方向に振動する第2振動板と、該第2振動板に連結する第2ボイスコイルと、
マグネットと、該マグネットの底面側に連結する第1ヨークと、該マグネットの天面側に連結する第2ヨークと、を含み、該第1ボイスコイルが該第1の軸方向に振動可能に配置される第1磁気空隙、および、該第2ボイスコイルが該第2の軸方向に振動可能に配置される第2磁気空隙を有する磁気回路と、を備え、
該磁気回路が、該第1ヨークの底部から切り起こされて形成される第1側壁部と該第2ヨークの内周端部との間に該第1磁気空隙を形成し、該第1ヨークの該底部から外周側に延設されて形成される第1延設部と該第2ヨークの外周側に延設されて形成される第2延設部との間に該第2磁気空隙を形成する、
動電型スピーカー。
【請求項2】
前記第1ボイスコイルが、その振動方向と一致する第1巻軸に対して丸線もしくは平角線を斜めにずらせてボビンに巻き回して形成される略円筒状のコイルを含み、
前記第2ボイスコイルが、その振動方向と略直交する第2巻軸に対して平角線をずらすことなく多層巻きして形成される平板状のコイルを含み、
該第1ボイスコイルおよび該第2ボイスコイルが、直列接続若しくは並列接続されている、
請求項1に記載の動電型スピーカー。
【請求項3】
前記磁気回路の前記第1磁気空隙および前記第2磁気空隙が、ともに直線状の空隙であり、前記第1ボイスコイルおよび前記第2ボイスコイルが、それぞれ該第1磁気空隙および該第2磁気空隙に配置される直線部を含むトラック形状に形成される、
請求項1または2に記載の動電型スピーカー。
【請求項4】
前記磁気回路の前記第1磁気空隙が、平行に配置される一対の前記直線状の空隙として構成され、前記トラック形状の前記第1ボイスコイルの一対の前記直線部がそれぞれ振動可能に配置される、
請求項3に記載の動電型スピーカー。
【請求項5】
前記磁気回路に連結するフレームと、
前記第1振動板の外周端側および該フレームに連結する第1エッジと、
前記第2振動板の外周端側および該フレームに連結する第2エッジと、
をさらに備える、
請求項1から4のいずれかに記載の動電型スピーカー。
【請求項6】
前記第1ボイスコイルの前記ボビンに連結する内周固定部と、前記フレームに連結する外周固定部と、該内周固定部および該外周固定部との間に形成される支持可動部と、を有する第1ダンパーと、
前記第2ボイスコイルに連結する内周固定部と、該フレームに連結する外周固定部と、該内周固定部および該外周固定部との間に形成される支持可動部と、を有する第2ダンパーと、をさらに備える、
請求項1から5のいずれかに記載の動電型スピーカー。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の前記動電型スピーカーを備えるディスプレイ装置であって、
該ディスプレイ装置の筐体の角部を構成する2面に、それぞれ前記第1振動板と前記第2振動板とが露出するように動電型スピーカーを取り付ける、ディスプレイ装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−21565(P2013−21565A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154237(P2011−154237)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(710014351)オンキヨー株式会社 (226)
【Fターム(参考)】