説明

勾配推定装置、勾配推定方法、及び勾配推定プログラム

【課題】路面が他の物体に覆われていても路面の勾配を算出することができる勾配推定装置、勾配推定方法、及び勾配推定プログラムを提供する。
【解決手段】特徴点抽出部は、撮影手段が撮影した画像上の特徴点を抽出し、物体検知部は、前記撮影手段が撮影した画像から物体を表す画像を検知し、勾配算出部は、物体検知部が検知した物体を表す画像における特徴点抽出部が抽出した特徴点の座標と、特徴点の座標の予め定められた時間における移動量と、に基づいて、物体が位置する路面の勾配を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、勾配推定装置、勾配推定方法、及び勾配推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両を安全に運転するために、車両の周囲の情報を運転者に提示する技術が提案されている。周囲の情報の一形態として、カメラが撮影した静止物の特徴点の座標や、路面に表された区画線の幅に基づいて路面の勾配を算出する技術がある。
例えば、特許文献1に記載の路面勾配検出装置は、路面を撮像する撮像手段と、前記撮像手段によって撮像された時刻が異なる複数の撮像画像同士について、任意の領域の対応関係を検出する対応関係検出手段と、前記対応関係検出手段によって検出された対応関係に基づき前記路面の勾配を計算する勾配度検出手段とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−33781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の路面勾配検出装置では、路面の一部又は全部が他の物体(例えば、先行車両)に覆われている場合に、路面を撮影することができず、路面の勾配を算出できないことがあった。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、路面が他の物体に覆われていても路面の勾配を算出できる勾配推定装置、勾配推定方法、及び勾配推定プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の一態様は、撮影手段が撮影した画像上の特徴点を抽出する特徴点抽出部と、前記撮影手段が撮影した画像から物体を表す画像を検知する物体検知部と、前記物体検知部が検知した物体を表す画像における前記特徴点抽出部が抽出した特徴点の座標と、前記特徴点の座標の予め定められた時間における移動量と、に基づいて、前記物体が位置する路面の勾配を算出する勾配算出部と、を備えることを特徴とする勾配推定装置である。
【0007】
(2)本発明のその他の態様は、前記勾配算出部は、前記物体検知部が検知した物体を表す画像における前記特徴点抽出部が抽出した特徴点の座標と、前記特徴点の座標の予め定められた時間における移動量の比を示す座標変化比の2つの特徴点間の差分に対する前記2つの特徴点の組間の総和を、前記移動量の逆数の2つの特徴点間の差分に対する前記2つの特徴点の組間の総和で除算して勾配を算出することを特徴とする(1)の勾配推定装置である。
【0008】
(3)本発明のその他の態様は、前記物体検知部は、自己との相対速度が予め設定された速度よりも小さい物体を検知することを特徴とする(1)の勾配推定装置である。
【0009】
(4)本発明のその他の態様は、前記勾配算出部は、前記2つの特徴点間の座標の差分の絶対値が予め設定された閾値よりも大きい特徴点の組を選択することを特徴とする(2)の勾配推定装置である。
【0010】
(5)本発明のその他の態様は、勾配算出装置における方法において、前記勾配算出装置が、撮影手段が撮影した画像上の特徴点を抽出する第1の過程と、前記勾配算出装置が、前記撮影手段が撮影した画像から物体を表す画像を検知する第2の過程と、前記勾配算出装置が、前記検知した物体を表す画像における前記抽出した特徴点の座標と、前記特徴点の座標の予め定められた時間における移動量と、に基づいて、前記物体が位置する路面の勾配を算出する第3の過程を有することを特徴とする勾配推定方法である。
【0011】
(6)本発明のその他の態様は、勾配算出装置のコンピュータに、撮影手段が撮影した画像上の特徴点を抽出する手順、前記撮影手段が撮影した画像から物体を表す画像を検知する手順、前記検知した物体を表す画像における前記抽出した特徴点の座標と、前記特徴点の座標の予め定められた時間における移動量と、に基づいて、前記物体が位置する路面の勾配を算出する手順、を実行させるための勾配推定プログラムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、路面が他の物体に覆われていても路面の勾配を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る勾配推定装置12の構成を示す概略図である。
【図2】本実施形態に係る勾配算出処理の一例を示すフローチャートである。
【図3】本実施形態に係る比相対速度算出方法の一例を示すフローチャートである。
【図4】本実施形態に係る特徴点探索処理を示すフローチャートである。
【図5】本実施形態に係るカメラと被写体の位置関係を示す概念図である。
【図6】本実施形態に係る被写体の位置変化を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る勾配推定装置12の構成を示す概略図である。
本実施形態に係る勾配推定装置12は、特徴点抽出部121、物体検知部122、勾配算出部123及び情報出力部124を含んで構成される。
即ち、勾配推定装置12は、カメラ1(撮影手段)が撮影した画像上の特徴点を抽出する特徴点抽出部121と、カメラ1が撮影した画像から物体を表す画像を検知する物体検知部122と、物体検知部122が検知した物体を表す画像における特徴点抽出部1が抽出した特徴点の座標と、特徴点の座標の予め定められた時間における移動量と、に基づいて、物体が位置する路面の勾配を算出する勾配算出部123とを備える。
【0015】
ここで、物体検知部122は、自己との相対速度が予め設定された速度よりも小さい物体を検知してもよい。
勾配算出部123は、物体検知部122が検知した物体を表す画像における特徴点抽出部121が抽出した特徴点の座標と、特徴点の座標の予め定められた時間における移動量の比を示す座標変化比の2つの特徴点間の差分に対する2つの特徴点の組にわたる総和を、移動量の逆数の2つの特徴点間の差分に対する2つの特徴点の組にわたる総和で除算して勾配を算出する。
また、勾配算出部123は、2つの特徴点間の座標の差分の絶対値が予め設定された閾値よりも大きい特徴点の組を選択する。
【0016】
以下、構成部毎の処理について説明する。
カメラ11は、車両の周囲、例えば正面前方の画像を撮影して画像信号を生成し、生成した画像信号を勾配推定装置12の特徴点抽出部121に出力する。
カメラ11は、例えば、光軸の方向が車両の正面前方になるように設置された車載用ビデオカメラである。
特徴点抽出部121は、カメラ11から画像信号を予め設定された時間間隔(例えば、1/30秒)でフレーム毎に入力される。フレームとは、1枚の画像を表す画像信号の単位であり、1フレームの画像信号には画素毎の輝度値を含む。
【0017】
特徴点抽出部121は、フレーム毎に入力された画像信号から特徴点を抽出する。特徴点とは、画像中で近傍への移動先を一意に決定可能な点である。特徴点は、例えば、輝度のピーク点や輪郭のコーナー点が該当する。特徴点抽出部121は、例えばHarris法(参考文献;C. Harris and M. Stephans,“A combined corner and edge detector,” Proc. 4th Alvey Vision Conf., pp.147−151,Manchester, U.K., Aug. 1988)を利用して特徴点を抽出してもよい。Harris法を用いる場合、特徴点抽出部121は、画像信号の各座標(i,j)における勾配の大きさを表す指標値としてHarris作用素Mを算出する。Harris作用素Mは、式(1)で表される。
【0018】
【数1】

【0019】
式(1)において、det(A)は、行列Aの行列式である。trace(A)は、行列Aのトレース、即ち対角成分の総和である。κは、予め定められた実数、例えば0.04である。行列Aは、Harris行列である。Harris行列Aの各成分は、例えば式(2)で示される。
【0020】
【数2】

【0021】
式(2)において、w(u,v)は、各座標(i,j)から(u,v)だけずれた座標における重みを表す窓関数である。Iは、座標(i,j)における輝度値の水平方向(x方向)への差分値である。座標Iは、座標(i,j)における輝度値の垂直方向(y方向)への差分値である。
【0022】
特徴点抽出部121は、算出した指標値が最も大きい点から予め設定された数(例えば、10個)の座標を特徴点として抽出する。なお、特徴点抽出部121は、算出した指標値が予め設定された値よりも大きい座標を特徴点として抽出してもよい。
特徴点抽出部121は、抽出した特徴点の座標を表す特徴点情報を物体検知部122に出力する
【0023】
物体検知部122は、カメラ11から入力された画像信号が表す物体(例えば、先行車両、障害物)を検知し、検知した物体が表された領域を示す物体情報を生成する。ここで、物体検知部122は、物体情報を生成するために、例えば、エッジ検出を行う。その場合、物体検知部122は、入力した画像信号を空間的に平滑化して空間周波数が予め設定された閾値よりも高い成分を除去する。物体検知部122は、平滑化した画像信号に含まれる隣接画素間の勾配(水平方向、垂直方向)の絶対値を指標値として画素毎に算出する。物体検知部122は、算出した指標値が予め設定された閾値よりも大きい画素をエッジとして検出する。物体検知部122は、検出したエッジのうち、空間的に隣接するエッジに囲まれる領域を、物体を表す画像と定め、この画像を占める領域毎に各物体を識別する情報を物体情報として生成する。
【0024】
物体検知部122は、物体を表す画像毎に、その物体のカメラ11に対する相対速度を表す指標値を算出する。物体検知部122は、カメラ11との間の距離がほぼ一定となる物体に対応する物体情報を選択する。ここで、物体検知部122は、特徴点抽出部121から入力された特徴点情報に基づき、算出した指標値の絶対値が、予め設定された閾値εよりも小さい物体を表す物体情報を選択する。物体検知部122は、相対速度の指標値として、例えば比相対速度を算出する。比相対速度とは、相対速度と定数倍の関係がある変数である。比相対速度は、例えば、物体サイズの時間変化率である。比相対速度の算出方法については後述する。また、選択される物体情報は、例えば勾配推定装置12を搭載する自車両に先行する先行車両を表す画像である。
【0025】
物体検知部122は、選択した物体情報が表す物体の画像上の特徴点であって、前フレームの画像信号における特徴点と対応関係がある特徴点情報を抽出する。物体検知部122は、前フレームの画像信号における特徴点と対応関係がある特徴点情報を確実に抽出するために、物体検知部122が、選択された物体情報が表す物体の数が予め定めた閾値m(例えば、m=2)よりも大きい場合、当該特徴点情報を抽出するようにしてもよい。このような特徴点情報を上述の相対速度算出処理を行う過程で抽出する場合、物体検知部122は、その過程で抽出した特徴点情報を保持してもよい。なお、前フレームの画像信号における特徴点と対応関係がある特徴点情報を抽出する特徴点探索処理については、後述する。
物体検知部122は、抽出した特徴点情報及び生成した物体情報を勾配算出部123に出力する。
【0026】
勾配算出部123は、物体検知部122から入力された特徴点情報に基づき、前フレームにおける特徴点の座標から現フレームにおける対応する特徴点の座標を差し引いた値を表す移動ベクトルを算出する。算出した移動ベクトルの垂直成分(y軸成分)を表す要素値を垂直方向移動量と呼ぶ。勾配算出部123は、移動ベクトルを算出する際に、前フレームまたは現フレームのいずれかの特徴点座標に対し、カメラ11の回転に伴う座標の変化を補償してもよい。補償をしない場合には、勾配算出部123は、直進時にのみ勾配を算出し(後述)、左折又は右折時には勾配の算出を行わない。勾配算出部123は、例えば、車両が搭載するジャイロセンサーにより計測した角速度が予め定めた値よりも小さいことで、車体の回転運動が無いと判断された状態を直進と判断する。あるいは、勾配算出部123は、複数の特徴点について移動ベクトルが、車両の直進方向を表す消失点から放射方向であるとき直進と判断する。
【0027】
勾配算出部123は、現フレームにおける特徴点情報が表す特徴点のうち、物体検知部122から入力された物体情報が示す各1つの物体の画像が占める領域に含まれる2点の特徴点からなる組を選択する。勾配算出部123は、各1つの物体の画像が占める領域に含まれる2点の特徴点からなる組のうち、特徴点間における座標の垂直成分の絶対値が予め設定された閾値よりも大きくなる組だけを選択するようにしてもよい。これにより、特徴点の座標の誤差による影響を低減することができる。
勾配算出部123は、選択した組の特徴点k、jにおける垂直方向の座標値y、y、及び垂直方向移動量Δy、Δyに基づいて、例えば式(3)を用いて勾配aを算出する。k、jは、1又は1よりも大きく、かつNobj又はNobjよりも小さい整数である。Nobjは、その物体の画像が占める領域に含まれる特徴点の数である。
【0028】
【数3】

【0029】
式(3)において、Σk>jは、1つの物体の画像が占める領域に含まれる特徴点k、jの組のうち、特徴点k>jとなる特徴点の組にわたる総和を表す。これにより、特徴点の組の重複を避け、特徴点k、jの順序が逆転することで、値が相殺することを避けるためである。
式(3)の右辺の分子は、ある特徴点の組に属する一方の特徴点kの座標値yの移動量Δyに対する比(座標変化比)y/Δyから、他方の特徴点jの座標値yの移動量Δyに対する比y/Δyを減算して得られる第1の差分値の、現フレームにおける特徴点の組にわたる総和である。式(1)の右辺の分母は、ある組に属する一方の特徴点kの座標値yの移動量Δyの逆数1/Δyから、他方の特徴点jの移動量Δyの逆数1/Δyを減算して得られる第2の差分値の、現フレームにおける特徴点の組にわたる総和である。
即ち、式(3)によれば、勾配算出部123は、第1の差分値の特徴点の組にわたる総和を、第2の差分値の特徴点に組にわたる総和で除算して、勾配aを算出する。式(3)を用いて勾配aを算出する原理については、後述する。
勾配算出部123は、算出した勾配aを表す勾配情報を情報出力部124に出力する。
【0030】
情報出力部124は、勾配算出部123から入力された勾配情報を勾配推定装置12が備える記憶部(図示せず)に出力して記憶する。情報出力部124は、入力された勾配情報に基づいてカメラ11が撮影する画像情報が表す物体の状態を判定し、判定結果を勾配推定装置12の外部に出力するようにしてもよい。
【0031】
例えば、情報出力部124は、ある物体が表す画像の垂直方向の座標値と入力された勾配情報に基づいて、その物体までの距離を推定するようにしてもよい。一般に、車載カメラが撮影した画像情報が表す物体までの距離が大きくなるほど垂直方向の座標値が大きくなるが、同時に路面の勾配が急になるほど垂直方向の座標値が大きくなる。そのため、垂直方向の座標値のみに基づいて勾配をもつ路面上の物体までの距離を推定すると、実際の距離よりも小さい距離が推定されることがある。情報出力部124は、上述の勾配情報も考慮することで、その物体までの距離を、より正確に推定できる。情報出力部124は、推定した距離が予め設定された閾値よりも小さいとき、警告情報(例えば、警告音)を運転者に提示するようにしてもよい。これにより、物体に接近したことに対して運転者に注意を喚起し、走行の安全を確保することができる。
【0032】
ここで、本実施形態に係る勾配算出処理について説明する。
図2は、本実施形態に係る勾配算出処理の一例を示すフローチャートである。
(ステップS101)特徴点抽出部121及び物体検知部122は、カメラ11から画像信号を予め設定された時間間隔でフレーム毎に入力される。その後、ステップS102に進む。
(ステップS102)特徴点抽出部121は、フレーム毎に入力された画像信号から特徴点を抽出する。特徴点抽出部121は、抽出した特徴点の座標を表す特徴点情報を物体検知部122に出力する。その後、ステップS103に進む。
【0033】
(ステップS103)物体検知部122は、入力された画像信号が表す物体の画像を検知し、検知した物体の画像が表された領域を示す物体情報を生成する。その後、ステップS104に進む。
(ステップS104)物体検知部122は、検知した物体毎のカメラ11に対する相対速度を表す指標値を算出する。物体検知部122は、入力された特徴点情報に基づき、算出した指標値の絶対値が、予め設定された閾値εよりも小さい物体を表す物体情報を選択する。その後、ステップS105に進む。
(ステップS105)物体検知部122は、選択された物体情報が表す物体の総数が予め定めた閾値mよりも大きいか否か判断する。物体検知部122は、選択された物体情報が表す物体の総数が予め定めた閾値mよりも大きいと判断した場合(ステップS105 Y)、ステップS106に進む。
物体検知部122は、選択された物体情報が表す物体の総数が予め定めた閾値mに等しい、又はmよりも小さいと判断した場合(ステップS105 N)、処理を終了する。
【0034】
(ステップS106)物体検知部122は、特徴点抽出部121から入力された特徴点情報に基づき、選択した物体情報が表す物体の画像上の特徴点であって、現フレームにおける特徴点に対応する前フレームにおける特徴点を抽出する。物体検知部122は抽出した特徴点情報と生成した物体情報を勾配算出部123に出力する。その後、ステップS107に進む。
(ステップS107)勾配算出部123は、前フレームにおける特徴点から現フレームにおける対応する特徴点までの座標の差を表す移動ベクトルを算出する。勾配算出部123は、現フレームにおける特徴点情報が表す特徴点のうち各1つの物体の画像の領域に含まれる2点の特徴点からなる組を選択する。その後、ステップS108に進む。
(ステップS108)勾配算出部123は、その物体の画像の領域に含まれる各組の特徴点における垂直方向の座標値及び垂直方向移動量に基づいて、例えば式(1)を用いて勾配aを算出する。勾配算出部123は、算出した勾配aを表す勾配情報を情報出力部124に出力する。その後、処理を終了する。
【0035】
次に、本実施形態に係る比相対速度算出方法について説明する。
図3は、本実施形態に係る比相対速度算出方法の一例を示すフローチャートである。
(ステップS301)物体検知部122は、検知した物体毎にその物体上の2点を選択する。選択した2点は、例えば、前述の抽出した特徴点のうちの2つである。その後、ステップS302に進む。
(ステップS302)物体検知部122は、選択した2点間の各座標軸(x軸(水平)方向又はy軸(垂直)方向)方向の距離d、dを算出する。その後、ステップS303に進む。
【0036】
(ステップS303)物体検知部122は、算出した各座標軸方向の距離に対する微分値d’、d’を算出する。ここで、物体検知部122は、現フレームtにおける特徴点に対応する前フレームt−1における特徴点を探索する。特徴点を探索する処理については後述する。物体検知部112は、現フレームtにおける距離d(t)、d(t)から前フレームt−1における対応する特徴点間の距離d(t−1)、d(t−1)を各々フレーム間の時間間隔Δtで、それぞれ除算して微分値d’、d’を算出する。その後、ステップS304に進む。
【0037】
(ステップS304)物体検知部122は、算出した各座標軸方向の距離の微分値(速度)d’、d’をそれぞれ現フレームtにおける距離d(t)、d(t)で正規化した値d’/d(t)、d’/d(t)を算出する。物体検知部122は、算出した値d’/d(t)、d’/d(t)の平均値を比相対速度として算出する。この比相対速度は、直接的にはカメラ11が撮影した物体のサイズの時間変化率を示すが、カメラ11から物体までの相対速度も示す指標値である。その後、処理を終了する。
【0038】
次に、本実施形態において、物体検知部122が行う現フレームtにおける特徴点に対応する前フレームt−1における特徴点を探索する処理について説明する。
図4は、本実施形態に係る特徴点探索処理を示すフローチャートである。
(ステップS401)物体検知部122は、前フレームt−1から現フレームtまでの各特徴点の物体毎の並進移動量の初期値を、例えばゼロと設定する。物体検知部122は、この初期値を、ゼロの代わりに前回算出した並進移動量(例えば、フレームt−2からフレームt−1までの特徴量間の並進移動量)を設定してもよい。また、物体検知部122は、現フレームtの特徴点から前フレームt−1の特徴点を探索する範囲を設定する。その後、ステップS402に進む。
【0039】
(ステップS402)物体検知部122は、各特徴点の物体毎の並進移動量が設定した値の範囲内か否かを判断する。物体検知部122は、並進移動量が設定した値の範囲内と判断したとき(ステップS402 Y)、ステップS403に進む。物体検知部122は、物体毎の並進移動量が設定した値の範囲内と判断したとき(ステップS402 N)、ステップS406に進む。
【0040】
(ステップS403)物体検知部122は、前フレームt−1の各特徴点の座標に、物体毎の並進移動量を加算して現フレームtの各特徴点の座標を推定する。その後、ステップS404に進む。
(ステップS404)物体検知部122は、ステップS403において推定した現フレームtで特徴点から予め設定された距離よりも近接する領域(特徴点近傍)にあるサンプル点の補間画素値と前フレームt−1での特徴点近傍にあるサンプル点の補間画素値の差分を、各サンプル点について算出する。前フレームt−1のサンプル点は、例えば前フレームt−1での特徴点近傍に含まれる各画素の中心点である。現フレームtでのサンプル点は、前フレームt−1のサンプル点に並進移動量を加算して推定した座標である。特徴点は必ずしも各画素の中心点上にあるとは限らないため、物体検知部122は、各フレームにおいて当該補間画素値を、特徴点近傍にある各画素の中心点と特徴点の位置関係に基づいて算出する。その後、ステップS405に進む。
(ステップS405)物体検知部122は、ステップS404において算出した差分について、その二乗和を最小化する並進移動量を、例えば非線形最小二乗法に基づいて求めることで並進移動量を更新する。その後、ステップS402に進む。
【0041】
(ステップS406)物体検知部122は、ステップS404において算出した差分に基づく二乗誤差が最小となる前フレームt−1の特徴点を現フレームtの特徴点に各々対応する前フレームt−1の特徴点と決定する。その後、処理を終了する。
【0042】
次に、勾配算出部123が、式(3)を用いて勾配aを算出する原理について説明する。
図5は、本実施形態に係るカメラ11と撮影される物体(被写体)である先行車両2の位置関係を示す概念図である。
図5において、左側に示す車両がカメラ11を備える自車両1、右側に示す車両がカメラ11による被写体となる先行車両2である。Z軸はカメラ11の光軸方向を示し、Y軸はカメラ11の光軸方向に垂直な方向を示す。
自車両1、先行車両2の右側に示す太い矢印は、それぞれ自車両1の進行方向、先行車両2の信号方向を示す。自車両1の進行方向、先行車両2の進行車両のZ軸成分は、共にZ座標の正方向である。また、自車両1が進行する路面の勾配よりも先行車両2が進行する路面の勾配のほうが大きい。
【0043】
カメラ11は、少なくとも先行車両2の後部の一部を表す画像を撮影する。先行車両2の後方に示される黒丸は、現フレーム時刻tにおける特徴点kの位置を示す。特徴点kの近傍に示すYは、特徴点kにおけるY軸成分の座標値を示す。先行車両2の後方に示される黒丸は、前フレーム時刻t−1における特徴点kの位置を示す。この黒丸からZ軸方向に延びる一点破線とvΔtは、前フレーム時刻t−1から現フレーム時刻tまでの間に特徴点kがZ軸方向に距離vΔtだけ移動することを示す。ここで、vは、移動速度、Δtは、フレーム時間間隔である。この一点破線の終点から特徴点に延びる一点破線とΔYは、前フレーム時刻t−1から現フレーム時刻tまでの間に特徴点kがY軸方向に距離ΔYだけ移動することを示す。即ち、図5は、世界座標系における特徴点kの座標変化を示す。
【0044】
図6は、本実施形態に係る被写体である先行車両2の位置変化を示す概念図である。
図6において中央部の矩形の枠は、カメラ11が撮影する各フレーム画像の外枠を示す。
図6において、y軸は、図5のY軸に平行な垂直方向を示す。x軸は、y軸に対して垂直な水平方向を示す。
図6の中央下側は、前フレーム時刻t−1において先行車両2の後部を表す画像を示し、その右側の黒丸は特徴点kを示す。図6の中央は、現フレーム時刻tにおいて先行車両2の後部を表す画像を示し、その右側の黒丸は特徴点kを示す。その特徴点kの近傍のyは、現フレーム時刻tにおける特徴点kのy座標がyであることを示す。
前フレーム時刻t−1における特徴点kからy軸方向に延びる一点破線とΔyは、前フレーム時刻t−1から現フレーム時刻tの間に、特徴点kのy座標がΔyだけ変化することを示す。即ち、図6は、カメラ座標系に基づく特徴点kの座標変化を示す。
【0045】
ここで、先行車両2がZ軸方向に進行するときY軸方向の移動量の割合である勾配をaとして、カメラ11のレンズから撮像面までの距離を1と規格化する。
このとき、フレーム時刻t−1から現フレーム時刻tの間に特徴点kがY軸方向に移動する距離ΔYと、y座標の変化Δyは式(4)に示す関係がある。
【0046】
【数4】

【0047】
式(4)において、Zは、特徴点kのZ軸方向の座標値を示す。
現フレーム時刻tにおける特徴点kのY軸方向の座標値Yと、Z軸方向の座標値Zはは式(5)に示す関係がある。
【0048】
【数5】

【0049】
式(5)において、mは全特徴点k共通のY座標の切片を示し、hは、特徴点k毎のmを基準にしたY座標の切片を示す。ここで、mを式(6)のように選択する。
【0050】
【数6】

【0051】
式(5)で表される特徴点kのY座標Yから特徴点jのY座標Yの差分の総和をとり式(6)と連立させると、式(7)に示す関係が得られる。これにより切片mとhが相殺する。
【0052】
【数7】

【0053】
式(7)の右辺のΔy等に式(4)を連立させると、式(3)に示す関係が得られる。
即ち、式(3)によれば、特徴点の各組における特徴量kの座標yと、座標yの予め定められた時間Δtにおける移動量Δyの比である座標変化比y/Δyの特徴点k、j間の差分(y/Δy−y/Δy)に対する組間の総和を、移動量Δyの逆数1/Δyの特徴点k、j間の差分(1/Δy−1/Δy)に対する組間の総和で除算して勾配aを算出することができる。
【0054】
上述では、現フレームの画像信号と、Δtだけ過去に撮影された前フレームの画像信号(計2フレーム)を用いて、勾配算出部123が現フレーム時刻における物体(被写体)が位置する(物体が車両である場合は、走行することも含む)路面の勾配aを算出する例について説明した。本実施形態では、これには限られない。例えば、勾配算出部123が算出した現フレーム時刻tにおける勾配a(t)から(M−1)Δtだけ過去の時刻t−(M−1)Δtにおける勾配a(t−(M−1)Δt)の平均値(例えば、移動平均値)を、現フレーム時刻tにおける勾配a(t)として算出してもよい。これによって、勾配推定装置12を備える車両が位置する路面の凸凹や物体(被写体)が走行する路面の凸凹が平滑化され、より高い精度で勾配aを算出することができる。
【0055】
このように、本実施形態では、撮影手段が撮影した画像信号が表す物体を検知し、検知した物体上の特徴点を抽出し、抽出した特徴点の組を定め、定めた各組における特徴量の座標と、前記座標の予め定められた時間における移動量に基づいて物体が位置する路面の勾配を算出する。これにより、路面上に物体が位置していても、路面の勾配を推定することができる。
また、本実施形態では、さらに自己との相対速度が予め設定された速度よりも小さい物体を検知する。これにより、自己との距離がほぼ一定となる物体が検知され、その物体上の特徴点の位置関係がほぼ一定となる。そのため、勾配の算出において複雑な計算を要さず、演算量を低減できる。
【0056】
なお、上述した実施形態における勾配推定装置12の一部、例えば、特徴点抽出部121、物体検知部122、勾配算出部123及び情報出力部124をコンピュータで実現するようにしても良い。その場合、この制御機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現しても良い。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、勾配推定装置12に内蔵されたコンピュータシステムであって、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでも良い。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
また、上述した実施形態における勾配推定装置12の一部、または全部を、LSI(Large Scale Integration)等の集積回路として実現しても良い。勾配推定装置12の各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化しても良い。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現しても良い。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いても良い。
【0057】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【符号の説明】
【0058】
12…勾配推定装置、121…特徴点抽出部、122…物体検知部、123…勾配算出部、124…情報出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影手段が撮影した画像上の特徴点を抽出する特徴点抽出部と、
前記撮影手段が撮影した画像から物体を表す画像を検知する物体検知部と、
前記物体検知部が検知した物体を表す画像における前記特徴点抽出部が抽出した特徴点の座標と、前記特徴点の座標の予め定められた時間における移動量と、に基づいて、前記物体が位置する路面の勾配を算出する勾配算出部と、
を備えることを特徴とする勾配推定装置。
【請求項2】
前記勾配算出部は、前記物体検知部が検知した物体を表す画像における前記特徴点抽出部が抽出した特徴点の座標と、前記特徴点の座標の予め定められた時間における移動量の比を示す座標変化比の2つの特徴点間の差分に対する前記2つの特徴点の組間の総和を、前記移動量の逆数の2つの特徴点間の差分に対する前記2つの特徴点の組間の総和で除算して勾配を算出することを特徴とする請求項1に記載の勾配推定装置。
【請求項3】
前記物体検知部は、自己との相対速度が予め設定された速度よりも小さい物体を検知することを特徴とする請求項1に記載の勾配推定装置。
【請求項4】
前記勾配算出部は、前記2つの特徴点間の座標の差分の絶対値が予め設定された閾値よりも大きい特徴点の組を選択することを特徴とする請求項2に記載の勾配推定装置。
【請求項5】
勾配算出装置における方法において、
前記勾配算出装置が、撮影手段が撮影した画像上の特徴点を抽出する第1の過程と、
前記勾配算出装置が、前記撮影手段が撮影した画像から物体を表す画像を検知する第2の過程と、
前記勾配算出装置が、前記検知した物体を表す画像における前記抽出した特徴点の座標と、前記特徴点の座標の予め定められた時間における移動量と、に基づいて、前記物体が位置する路面の勾配を算出する第3の過程を有すること
を特徴とする勾配推定方法。
【請求項6】
勾配算出装置のコンピュータに、
撮影手段が撮影した画像上の特徴点を抽出する手順、
前記撮影手段が撮影した画像から物体を表す画像を検知する手順、
前記検知した物体を表す画像における前記抽出した特徴点の座標と、前記特徴点の座標の予め定められた時間における移動量と、に基づいて、前記物体が位置する路面の勾配を算出する手順、を実行させるための勾配推定プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−97675(P2013−97675A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241465(P2011−241465)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(300052246)株式会社ホンダエレシス (105)
【Fターム(参考)】