説明

匂い発生装置

【課題】低揮発性香気成分を含む広範囲の匂いを提示することが可能な匂い発生装置を提供する。
【解決手段】匂い発生装置1Aは、揮発性香気成分を含有する液体が貯蔵される貯蔵部と、多孔質材に電圧が印加されることによって、貯蔵部に貯蔵された液体を多孔質材を介して外部へ排出する出口部と、を備える電気浸透流ポンプ10X,10Y,10Zと、出口部から排出された液体を霧化するSAW素子70Aと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、匂い発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バーチャルリアリティの分野において、ユーザに嗅覚情報を提示する試みが始まっている。特許文献1には、要素臭ガスを供給する要素臭容器を複数用意し、要素臭容器に接続された配管に設けられた電磁弁を開閉制御することによって、所望の量の要素臭ガスを調合し、所望の匂いを生成する匂い調合装置(嗅覚ディスプレイ)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/122879号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、かかる匂い調合装置は、低揮発性香気成分をユーザに提示するのに十分な性能を有していないものであった。かかる低揮発性香気成分は、低濃度でもユーザが感知することができる匂いであるため、嗅覚ディスプレイには必須な成分である。
【0005】
本発明は、前記した事情に鑑みて創案されたものであり、低揮発性香気成分を含む広範囲の匂いを提示することが可能な匂い発生装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明の匂い発生装置は、揮発性香気成分を含有する液体が貯蔵される貯蔵部と、多孔質材に電圧が印加されることによって、前記貯蔵部に貯蔵された前記液体を前記多孔質材を介して外部へ排出する出口部と、を有する電気浸透流ポンプと、前記出口部から排出された前記液体を霧化又は気化する霧化又は気化部と、を備えることを特徴とする。
【0007】
かかる構成によると、霧化又は気化部が揮発性香気成分を強制的に揮発させるので、自然に揮発した香気成分を用いる従来技術と比べて、ユーザに対して低揮発性香気成分を容易に提示することができる。また、貯蔵部が一体化された電気浸透流ポンプを用いるので、小型化が可能であり、液体に気泡が発生した場合であっても駆動可能であり、さらには、液体回路を容易に構成することができる。
【0008】
また、前記霧化又は気化部は、前記出口部から排出された前記液体を霧化する弾性表面波素子又は超音波振動子であってもよく、前記出口部から排出された前記液体を加熱することによって気化するヒータであってもよい。
【0009】
また、匂い発生装置は、異なる揮発性香気成分を含有する液体が前記貯蔵部に貯蔵された複数の前記電気浸透流ポンプを備え、複数の前記電気浸透流ポンプの駆動を制御する制御部をさらに備える構成であってもよい。さらに、匂い発生装置は、複数の前記電気浸透流ポンプの前記出口部にそれぞれ接続されて前記液体が流通する複数の配管と、前記複数の配管と接続されて前記液体が合流して流通し、当該液体を前記霧化又は気化部へ排出する合流配管と、複数の前記電気浸透流ポンプのそれぞれから排出されて複数の前記配管のそれぞれを流通する前記液体の量を検出する複数の液体量センサをさらに備え、前記制御部は、複数の前記液体量センサの検出結果に基づいて、複数の前記電気浸透流ポンプの駆動をフィードバック制御する構成であってもよい。
【0010】
また、匂い発生装置は、揮発性香気成分を含有する液体又は固体が貯蔵される第二の貯蔵部と、前記第二の貯蔵部に空気を供給するポンプと、前記第二の貯蔵部に接続されて前記第二の貯蔵部内の気体が流通する第二の配管と、前記第二の配管に設けられ、前記気体を前記霧化又は気化部によって霧化又は気化された前記液体と合流する位置へ排出する第一の状態と、前記気体をバイパスへ排気する第二の状態と、を切換可能な三方弁と、をさらに備える構成であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低揮発性香気成分を含む広範囲の匂いを提示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は本発明の第一の実施形態に係る匂い発生装置を示す模式図であり、(b)は合流配管を示す断面図である。
【図2】図1の電気浸透流ポンプを示す断面図である。
【図3】本発明の第一の実施形態に係る匂い発生装置によって発生した匂いを水晶振動子ガスセンサによって検出した例を示すグラフである。
【図4】本発明の第一の実施形態に係る匂い発生装置によって発生した匂い、及び、比較例に係る匂い発生装置によって発生した匂いを水晶振動子ガスセンサによって検出した例を示すグラフである。
【図5】(a)は本発明の第二の実施形態に係る匂い発生装置を示す模式図であり、(b)は合流配管を示す断面図である。
【図6】(a)は本発明の第三の実施形態に係る匂い発生装置を示す模式図であり、(b)は合流配管を示す断面図である。
【図7】本発明の第三の実施形態に係る匂い発生装置によって発生した匂いを水晶振動子ガスセンサによって検出した例を示すグラフである。
【図8】本発明の第三の実施形態に係る匂い発生装置の電気浸透流ポンプの駆動時間とセンサ応答との関係を示すグラフである。
【図9】本発明の第三の実施形態に係る匂い発生装置を示す模式図である。
【図10】本発明の第四の実施形態に係る匂い発生装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら説明する。同様の部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
<第一の実施形態>
まず、本発明の第一の実施形態に係る匂い発生装置について、図1及び図2を参照して説明する。図1(a)は、本発明の第一の実施形態に係る匂い発生装置を示す模式図であり、図1(b)は、合流配管を示す断面図である。図2は、図1の電気浸透流ポンプを示す断面図である。
【0015】
図1(a)に示すように、本発明の第一の実施形態に係る匂い発生装置1Aは、複数の電気浸透流ポンプ10(10X,10Y,10Z)と、複数の配管20X,20Y,20Zと、合流配管30と、複数の液体量センサ40X,40Y,40Zと、電源部50と、スイッチ部60と、表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave)素子70Aと、RF(Radio Frequency)増幅器80と、送風部90と、制御部100と、を備える。
【0016】
複数の電気浸透流ポンプ10X,10Y,10Zは、電気浸透流現象を利用して液体を排出する直径7[mm]程度の小さいポンプであり、小さい駆動電圧(例えば、2〜24[V])で、大きい排出圧力(100[kPa]以上)を実現することができる。本実施形態において、複数の電気浸透流ポンプ10X,10Y,10Zは、制御部110による制御によって、揮発性香気成分を含有する液体をSAW素子70A上へ供給する。
【0017】
図2(a)に示すように、電気浸透流ポンプ10は、貯蔵部11と、多孔質材12a及び電極12b,12cを有する出口部12と、を備える。貯蔵部11には、揮発性香気成分を含有する液体Lが貯蔵される。出口部12の多孔質材12aは、貯蔵部11の下方に設けられており、電極12b,12cに電圧が印加されると、図2(b)に示すように電界が発生し、図2(c)に示すように、多孔質材12a内の孔部(空隙)に液体Lの流れが生じ、液体Lが出口部12から排出されるように構成されている。
【0018】
図1(a)に戻り、複数の配管20X,20Y,20Zは、複数の電気浸透流ポンプ10X,10Y,10Zとそれぞれ液体流通可能に接続されている。
【0019】
合流配管30は、複数の配管20X,20Y,20Zと液体流通可能に接続されている。これら複数の配管20X,20Y,20Z及び合流配管30は、例えば、内径100[μm]程度のステンレス製チューブで構成される。また、図1(b)に示すように、合流配管30は、その先端部に設けられたオリフィス31を備えており、液体Lを液滴として排出するように構成されている。
【0020】
複数の液体量センサ40X,40Y,40Zは、複数の配管20X,20Y,20Zにそれぞれ設けられており、配管20X,20Y,20Zを流通する液体量を検出し、検出結果を制御装置110へ出力する。
【0021】
電源部50は、複数の電気浸透流ポンプ10X,10Y,10Zへ電力を供給する直流電源である。
【0022】
スイッチ部60は、複数の電気浸透流ポンプ10X,10Y,10Z及び電源部50間の電気的接続状態を切り替えるためのスイッチである。
【0023】
SAW素子70Aは、霧化又は気化部の一例であり、表面の液体に弾性表面波を伝搬することによって、液体中に縦波を生じさせ、液体を霧化する。本実施形態に係るSAW素子70Aは、制御部100による制御によって、複数の電気浸透流ポンプ10X,10Y,10ZからSAW素子70Aの表面に排出された液体Lを霧化する。
【0024】
RF増幅器80は、制御部110から出力された交流電圧(RFバースト波)を増幅してSAW素子70Aへ印加するためのアンプである。
【0025】
送風部90は、霧化した液体Lから揮発して放出された揮発性香気成分をユーザPに届けるための風を発生するファンである。
【0026】
制御部100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory、ROM(Read-Only Memory)及び入出力回路から構成されたFPGA(Field Programmable Gate Array)であり、スイッチ部60の電気的接続状態を切り替えることによって、複数の電気浸透流ポンプ10X,10Y,10Zの駆動を制御したり、RF増幅器80を介してSAW素子70Aに交流電圧を印加したり、送風部100の駆動を制御したりする。かかる制御部100は、ユーザPによるキーボード、マウス、ボタン等からなる入力部の操作によって生成されて制御部100に入力される信号や、外部装置から出力されて制御部100に入力される信号に基づいて、複数の電気浸透流ポンプ10X,10Y,10Z、SAW素子70A及び送風部100の駆動を制御することができる。
【0027】
本発明の第一の実施形態に係る匂い発生装置1Aにおいて、制御部100は、所望の匂いを発生してユーザPに提示するため、スイッチ部60を駆動して複数の電気浸透流ポンプ10X,10Y,10Zのそれぞれの電極に印加される電圧のデューティ比を制御し、複数の電気浸透流ポンプ10X,10Y,10Zから排出されてSAW素子70Aの表面に供給される液体の比率を調節することによって、所望の匂いを発生してユーザPに提示することができる。
また、制御部100は、スイッチ部60に設けられた可変抵抗(図示せず)を制御して、複数の電気浸透流ポンプ10X,10Y,10Zのそれぞれの電極に印加される電圧の大きさを制御し、複数の電気浸透流ポンプ10X,10Y,10Zから排出される液体の比率を調節することによって、所望の匂いを発生してユーザPに提示することができる。
【0028】
なお、複数の電気浸透流ポンプ10X,10Y,10Zに代えて複数のインクジェットを用いることも考えられるが、この場合には、液体圧力を細かく調節する必要があり、また、吐出した後に複数の液体Lから気化した揮発性香気成分が混合することになるので、匂いが一様にならないおそれがある。また、インクジェットを用いる場合には、インクジェットの先端部まで液体Lを満たしておく必要があり、気泡があると液体を吐出することができない。これに対し、本発明の第一の実施形態に係る匂い発生装置1Aは、合流配管30で複数の液体Lが混合されるので、一様となった匂いをユーザPに提示することができる。さらに、本発明の第一の実施形態に係る匂い発生装置1Aは、呼び水が不要であり、電気浸透流ポンプ10の内部に気泡がある場合であっても液体Lを吐出することができる。
【0029】
また、制御部100は、液体量センサ40X,40Y,40Zの検出結果に基づいて、複数の電気浸透流ポンプ10X,10Y,10Zの駆動をフィードバック制御する。このようにすることで、一の電気浸透流ポンプ10からの液体Lの流れで生じる負圧による、他の電気浸透流ポンプ10から排出される液体Lの量への影響を抑えることができる。
【0030】
本発明の第一の実施形態に係る匂い発生装置1Aの動作結果について、図3を参照して説明する。図3は、本発明の第一の実施形態に係る匂い発生装置によって発生した匂いを水晶振動子ガスセンサによって検出した例を示すグラフである。図3の例は、一の電気浸透流ポンプ10から排出された液体を霧化した場合を示す例であり、電気浸透流ポンプ10の駆動電圧は8[V]、電気浸透流ポンプ10のデューティ比は20[%]、SAW素子70Aの弾性表面波の周波数は61.4[MHz]、送風部90の駆動電圧は1.4[V]であり、低揮発性香気成分であるβ−iononeを液体Lであるエタノールを用いて体積比で10[%]となるように希釈したしたものを用いた。制御部100は、15,105,194,284,364[s]の時点の前に10[s]間電気浸透流ポンプ10を駆動することによって、15,105,194,284,364[s]の時点で液体Lを液滴としてSAW素子70A上へ排出して霧化させた。水晶振動子ガスセンサは、AT−CUT、20[MHz]の水晶振動子及びセンサ感応膜としてTCP(Tricresyl Phosphate)を採用したセンサである。
【0031】
図3に示すように、本発明の第一の実施形態に係る匂い発生装置1Aは、低揮発性香気成分を用いる場合であっても、液体Lの排出後速やかに匂いを発生することができる。また、液体Lの排出停止後速やかに匂いの発生を停止することができる。
【0032】
ここで、比較例に係る匂い発生装置の動作結果について、図4を参照して説明する。図4は、本発明の第一の実施形態に係る匂い発生装置によって発生した匂い、及び、比較例に係る匂い発生装置によって発生した匂いを水晶振動子ガスセンサによって検出した例を示すグラフである。図4の第一の実施形態の動作結果は、図3と同様の条件によるものであり、図4の比較例の動作結果は、特許文献1に記載された匂い調合装置を用いてβ−iononeを提示した場合を示すものである。水晶振動子ガスセンサは、図3の動作結果と同様、AT−CUT、20[MHz]の水晶振動子及びセンサ感応膜としてTCPを採用したセンサである。図4の動作結果において、第一の実施形態に係る匂い発生装置1Aは、20[s]の時点の前に10[s]間電気浸透流ポンプ10を駆動することによって、20[s]の時点で液体Lを液滴としてSAW素子70A上へ排出して霧化させた。また、図4の動作結果において、比較例に係る匂い発生装置は、20[s]の時点で10[s]間電磁弁を開弁することによって、要素臭容器内で揮発したβ−iononeを水晶振動子ガスセンサへ向けて排出した。
【0033】
図4に示すように、比較例に係る匂い発生装置は、低揮発性香気成分の匂いを提示し始めてから(水晶振動子ガスセンサが匂いを検出し始めてから)ピークに達するまでに時間がかかり、また、一旦提示した匂いが消えるのにも時間がかかるため、低揮発性香気成分の場合には実用に適さないものであることがわかる。
【0034】
本発明の第一の実施形態に係る匂い発生装置1Aは、SAW素子70Aが低揮発性香気成分を強制的に揮発させるので、自然に揮発した香気成分を用いる従来技術と比べて、ユーザPに対して低揮発性香気成分を容易に提示することができる。
また、本発明の第一の実施形態に係る匂い発生装置1Aは、貯蔵部11が一体化された電気浸透流ポンプ10を用いるので、ユーザPの鼻元に設置するように小型化が可能であり、液体Lに気泡が発生した場合であっても駆動可能であり、さらには、液体回路を容易に構成することができる。
また、本発明の第一の実施形態に係る匂い発生装置1Aは、低揮発性香気成分を用いる場合であっても、液体Lの排出後速やかに匂いを発生することができる。また、液体Lの排出停止後速やかに匂いの発生を停止することができる。
また、本発明の第一の実施形態に係る匂い発生装置1Aは、SAW素子70Aを用いて液体Lを霧化するので、後記するようにヒータを用いて液体Lを気化する場合(加熱に時間を要する)と比べて、消費電力を抑えるとともに、早期に液体Lを霧化して匂いを発生することができる。
また、本発明の第一の実施形態に係る匂い発生装置1Aは、SAW素子70Aを用いて液体Lを霧化するので、周囲に熱の影響を及ぼすことなく、SAW素子70Aの表面の液体Lのみを好適に霧化することができる。
【0035】
<第二の実施形態>
続いて、本発明の第二の実施形態に係る匂い装置について、図5を参照して、第一の実施形態に係る匂い発生装置1Aとの相違点を中心に説明する。図5(a)は、本発明の第二の実施形態に係る匂い発生装置を示す模式図であり、図5(b)は、合流配管を示す断面図である。
【0036】
図5(a)に示すように、本発明の第二の実施形態に係る匂い発生装置1Bは、SAW素子70Aに代えて、超音波振動子70Bを備える。
【0037】
超音波振動子70Bは、霧化又は気化部の一例であり、表面の液体に超音波を伝搬することによって、液体中に振動を生じさせ、液体を霧化する。本実施形態に係る超音波振動子70Bは、制御部100による制御によって、複数の電気浸透流ポンプ10X,10Y,10Zから超音波振動子70Bの表面に排出された液体Lを霧化する。気化した液体Lから揮発して放出された揮発性香気成分は、送風部90によって発生された風によってユーザPに届けられる。
【0038】
本発明の第二の実施形態に係る匂い発生装置1Bは、第一の実施形態に係る匂い発生装置1Aと同様の作用効果を奏することができる。
【0039】
<第三の実施形態>
続いて、本発明の第三の実施形態に係る匂い発生装置について、図6を参照して、第一の実施形態に係る匂い発生装置1Aとの相違点を中心に説明する。図6(a)は、本発明の第三の実施形態に係る匂い発生装置を示す模式図であり、図6(b)は、合流配管を示す断面図である。
【0040】
図6(a)に示すように、本発明の第三の実施形態に係る匂い発生装置1Cは、SAW素子70Aに代えて、ヒータ70Cを備える。
【0041】
ヒータ70Cは、霧化又は気化部の一例であり、表面の液体を加熱することによって、液体を気化する。本実施形態に係るヒータ70Cは、制御部100による制御によって、複数の電気浸透流ポンプ10X,10Y,10Zからヒータ70Cの表面に排出された液体Lを気化する。気化した液体Lから揮発して放出された揮発性香気成分は、送風部90によって発生された風によってユーザPに届けられる。
【0042】
本発明の第三の実施形態に係る匂い発生装置1Cの動作結果について、図7及び図8を参照して説明する。図7は、本発明の第二の実施形態に係る匂い発生装置によって発生した匂いを水晶振動子ガスセンサによって検出した例を示すグラフである。図7の例は、一の電気浸透流ポンプ10から排出された液体を気化した場合を示す例であり、電気浸透流ポンプ10の駆動電圧は24[V]、電気浸透流ポンプ10のデューティ比は100[%]、ヒータ70Bの温度は130[℃]、送風部90の駆動電圧は4.5[V]であり、であり、低揮発性香気成分であるβ−iononeを液体Lであるエタノールを用いて体積比で5[%]となるように希釈したしたものを用いた。制御部100は、70,370,670,970,1270[s]の時点の前に10[s]間電気浸透流ポンプ10を駆動することによって、70,370,670,970,1270[s]の時点で液体Lを液滴としてヒータ70C上へ排出させた。水晶振動子ガスセンサは、AT−CUT、20[MHz]の水晶振動子及びセンサ感応膜としてTCPを採用したセンサである。また、図8は、本発明の第三の実施形態に係る匂い発生装置の電気浸透流ポンプの駆動時間とセンサ応答との関係を示すグラフである。図8の例において、電気浸透流ポンプ10の駆動時間以外の条件は、図7の例における条件と同一である。
【0043】
図7に示すように、本発明の第三の実施形態に係る匂い発生装置1Cは、低揮発性香気成分を用いる場合であっても、液体Lの排出後速やかに匂いを発生することができる。また、液体Lの排出停止後速やかに匂いの発生を停止することができる。
【0044】
また、図8に示すように、本発明の第三の実施形態に係る匂い発生装置1Cは、電気浸透流ポンプ10の駆動時間とセンサ応答の絶対値との間に比例関係が成立しており、電気浸透流ポンプ10の駆動時間を調節することによって、ユーザPに提示される匂いの濃度を調節することができる。
【0045】
<第四の実施形態>
続いて、本発明の第四の実施形態に係る匂い発生装置について、図9を参照して、第一の実施形態に係る匂い発生装置1Aとの相違点を中心に説明する。図9は、本発明の第四の実施形態に係る匂い発生装置を示す模式図である。
【0046】
図9に示すように、本発明の第四の実施形態に係る匂い発生装置1Dは、合流配管30及び複数の液体量センサ40X,40Y,40Zを備えておらず、複数の配管20X,20Y,20Zから排出された液体が直接SAW素子70Aの表面に供給される。ここで、複数の配管20X,20Y,20Zは、図1(b)に示す合流配管30と同様、その先端部に設けられたオリフィスを備えており、液体Lを液滴として排出するように構成されている。
【0047】
本発明の第四の実施形態に係る匂い発生装置1Dは、第一の実施形態に係る匂い発生装置1Aと同様の作用効果を奏することができる。
また、本発明の第四の実施形態に係る匂い発生装置1Dは、複数の液体量センサ40X,40Y,40Zを省略するとともに、制御部100によるフィードバック制御を省略することができる。
【0048】
<第五の実施形態>
続いて、本発明の第五の実施形態に係る匂い発生装置について、図10を参照して、第一の実施形態に係る匂い発生装置1Aとの相違点を中心に説明する。図10(a)は、本発明の第五の実施形態に係る匂い発生装置を示す模式図であり、図10(b)は、合流配管を示す断面図である。なお、図10(a)において、電源部50、スイッチ部60及び制御部100は省略されている。
【0049】
図10(a)に示すように、本発明の第五の実施形態に係る匂い発生装置1Eは、複数の第二の貯蔵部110X,110Y,110Z,110Wと、複数の第二の配管120X,120Y,120Z,120Wと、第二の合流配管130と、複数の三方弁140X,140Y,140Z,140Wと、複数のバイパス配管150X,150Y,150Z,150Wと、合流バイパス配管160と、バルブ付流量センサ170,180と、フィルタ190と、ポンプ200と、上流配管210と、をさらに備える。
【0050】
複数の第二の貯蔵部110X,110Y,110Zには、それぞれ異なる揮発性香気成分を含有する液体又は固体が貯蔵されており、揮発性香気成分は、複数の第二の貯蔵部110X,110Y,110Z内で揮発している。第二の貯蔵部110Wには、揮発性香気成分を含有する液体又は固体は貯蔵されていない。かかる第二の貯蔵部110Wは、ユーザPへ提示される揮発性香気成分を希釈するためのものである。
【0051】
複数の第二の配管120X,120Y,120Z,120Wは、複数の第二の貯蔵部110X,110Y,110Z,110Wとそれぞれ気体流通可能に接続されている。
【0052】
合流ガス配管130は、複数のガス配管120X,120Y,120Z,120Wと気体流通可能に接続されている。合流ガス配管130の先端部は、霧化した液体Lと合流する位置であるSAW素子70Aの上方へ揮発性香気成分を含む気体を排出可能に設けられている。
【0053】
複数の三方弁140X,140Y,140Z,140Wは、複数の第二の配管120X,120Y,120Z,120Wにそれぞれ設けられており、制御部100(図1(a)参照)の制御によって、気体をSAW素子70Aによって霧化された液体と合流する位置へ排出する第一の状態(第二の配管:開、バイパス配管:閉)と、気体をバイパス配管150X,150Y,150Z,150Wへそれぞれ排気する第二の状態(第二の配管:閉、バイパス配管:開)と、を切換可能な電磁弁である。
【0054】
複数のバイパス配管150X,150Y,150Z,150Wは、複数の三方弁140X,140Y,140Z,140Wとそれぞれ気体流通可能に接続されている。かかる複数のバイパス配管150X,150Y,150Z,150Wは、複数の第二の貯蔵部110X,110Y,110Z,110Wの内部に空気を通気することによって、複数の第二の貯蔵部110X,110Y,110Z,110Wの内部の気体の濃度変更を防ぐために用いられる。
【0055】
合流バイパス配管160は、複数のバイパス配管150X,150Y,150Z,150Wと気体流通可能に接続されている。
【0056】
バルブ付流量センサ170は、第二の合流配管130に設けられており、第二の合流配管170を流通する気体の流量を検出して表示するセンサと、手動によって気体の流量を調節するためのニードルバルブと、を備える。
【0057】
バルブ付流量センサ180は、合流バイパス配管160に設けられており、合流バイパス配管160を流通する気体の流量を検出して表示するセンサと、手動によって気体の流量を調節するためのニードルバルブと、を備える。
【0058】
フィルタ190は、合流バイパス配管160に設けられており、合流バイパス配管160を流通する匂いを除去して排気するための活性炭等を備える。
【0059】
ポンプ200は、制御部100(図1(a)参照)の制御によって、上流配管210を介して空気を複数の第二の貯蔵部110X,110Y,110Z,110Wへ供給する。複数の第二の配管120X,120Y,120Z及び上流配管210は、複数の第二の貯蔵部110X,110Y,110Zの上部にそれぞれ気体流通可能に接続されており、複数の第二の貯蔵部110X,110Y,110Z内で揮発した揮発性香気成分のガスは、上流配管210によって第二の貯蔵部110X,110Y,110Z内へ供給された空気に乗って、それぞれ複数の第二の配管120X,120Y,120Zに導入される。
【0060】
これら複数の第二の貯蔵部110X,110Y,110Z,110Wないし上流配管210を用いた匂いの提示は、多数成分(〜数十成分)の香気成分を混合(調合)するのに好適である。
【0061】
本発明の第五の実施形態に係る匂い発生装置1Eにおいて、制御部100は、所望の匂いを発生してユーザPに提示するため、複数の三方弁140X,140Y,140Z,140Wを制御し、複数の第二の配管120X,120Y,120Z,120Wの開時間の割合(デューティ比)を調節することによって複数の第二の配管120X,120Y,120Z,120Wを流通する気体の量を調節し、第二の合流配管130を介して霧化又は気化部の一例であるSAW素子70Aによって霧化された液体Lと合流する揮発性香気成分の比率を調節することによって、所望の匂いを発生してユーザPに提示することができる。
【0062】
本発明の第五の実施形態に係る匂い発生装置1Eは、中〜高揮発性香気成分に関しては揮発した香気成分ガスとして複数の第二の貯蔵部110X,110Y,110Z内で揮発したものを用いるとともに、低揮発性香気成分に関しては液体として複数の電気浸透流ポンプ10X,10Y,10Zに貯蔵されたものを用いて、所望の匂いを生成してユーザPに提示することができる。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能である。例えば、第五の実施形態に係る匂い発生装置1Eにおいて、電気浸透流ポンプ及び第二の貯蔵部の少なくとも一方は、一つのみである構成であってもよい。また、第一ないし第五の実施形態に係る匂い発生装置1A,1B,1C,1D,1Eの霧化又は気化部の種類、配管及び合流配管の構造等を適宜組み合わせた匂い発生装置を構成することもできる。
【符号の説明】
【0064】
1A,1B,1C,1D,1E 匂い発生装置
10(10X,10Y,10Z) 電気浸透流ポンプ
11 貯蔵部
12 出口部
12a 多孔質材
40X,40Y,40Z 液体量センサ
70A SAW素子(霧化又は気化部)
70B 超音波振動子(霧化又は気化部)
70C ヒータ(霧化又は気化部)
100 制御部
110X,110Y,110Z,110W 第二の貯蔵部
120X,120Y,120Z,120W 第二の配管
130 第二の合流配管
140X,140Y,140Z,140W 三方弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性香気成分を含有する液体が貯蔵される貯蔵部と、多孔質材に電圧が印加されることによって、前記貯蔵部に貯蔵された前記液体を前記多孔質材を介して外部へ排出する出口部と、を有する電気浸透流ポンプと、
前記出口部から排出された前記液体を霧化又は気化する霧化又は気化部と、
を備えることを特徴とする匂い発生装置。
【請求項2】
前記霧化又は気化部は、前記出口部から排出された前記液体を霧化する弾性表面波素子又は超音波振動子である
ことを特徴とする請求項1に記載の匂い発生装置。
【請求項3】
前記霧化又は気化部は、前記出口部から排出された前記液体を加熱することによって気化するヒータである
ことを特徴とする請求項1に記載の匂い発生装置。
【請求項4】
異なる揮発性香気成分を含有する液体が前記貯蔵部に貯蔵された複数の前記電気浸透流ポンプを備える請求項1に記載の匂い発生装置であって、
複数の前記電気浸透流ポンプの駆動を制御する制御部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の匂い発生装置。
【請求項5】
複数の前記電気浸透流ポンプの前記出口部にそれぞれ接続されて前記液体が流通する複数の配管と、
前記複数の配管と接続されて前記液体が合流して流通し、当該液体を前記霧化又は気化部へ排出する合流配管と、
複数の前記電気浸透流ポンプのそれぞれから排出されて複数の前記配管をそれぞれ流通する前記液体の量を検出する複数の液体量センサをさらに備え、
前記制御部は、複数の前記液体量センサの検出結果に基づいて、複数の前記電気浸透流ポンプの駆動をフィードバック制御する
ことを特徴とする請求項4に記載の匂い発生装置。
【請求項6】
揮発性香気成分を含有する液体又は固体が貯蔵される第二の貯蔵部と、
前記第二の貯蔵部に空気を供給するポンプと、
前記第二の貯蔵部に接続されて前記第二の貯蔵部内の気体が流通する第二の配管と、
前記第二の配管に設けられ、前記気体を前記霧化又は気化部によって霧化又は気化された前記液体と合流する位置へ排出する第一の状態と、前記気体をバイパスへ排気する第二の状態と、を切換可能な三方弁と、
を備えることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の匂い発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−184486(P2011−184486A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48365(P2010−48365)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】