説明

包み揚げ食品

【課題】具材を包被する皮の階層構造に基づいて、油ちょう後の包み揚げ食品のパリパリ感を効果的に維持することのできる包み揚げ調理用食品及びそれを油ちょうして得られる包み揚げ食品、並びにこれらの製造方法を提供すること。
【解決手段】具材と、具材を包み込んでいる皮部とを有する包み揚げ食品における皮部の少なくとも1部を皮の層の10層以上の重ね合わせからなる階層構造として形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、春巻等、具材を皮で包被した包み揚げ調理用食品及びそれを油ちょうして得られる包み揚げ食品、並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
具材を皮で包被して油ちょうする包み揚げ食品としては、春巻き、その類似製品、あるいは各種の包み揚げなど多くの食品がある。春巻等の包み揚げ食品では皮のパリパリした食感が品質の良否を決定する要素として重要視されている。
【0003】
しかしながら、春巻を油ちょう後、食するまでに時間が経過したり、油ちょう後冷凍保存された春巻をマイクロ波加熱調理を行うと、春巻の皮が具材等の水分を吸収し、パリパリとした食感が失われてしまう。
【0004】
そこで、春巻の皮の配合組成を検討する事により皮のパリパリ感を持続させる方法(特許第3682505号、特許第3682514号、特許第3995573号)が知られている。更に、皮の焼成・成形方法を検討する方法(特許第3186523号)、焼成した皮と具材の間に疎水性物質を含む食材でコーティングし、中種からの水分移行を防止する方法(特許第3179955号、特許第3672668号、特開2007-209206)、さらには巻き方の工夫により皮のパリパリ感を持続させる方法(特開平7-213261、特許第4157354号)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3682505号明細書
【特許文献2】特許第3682514号明細書
【特許文献3】特許第3995573号明細書
【特許文献4】特許第3186523号明細書
【特許文献5】特許第3179955号明細書
【特許文献6】特許第3672668号明細書
【特許文献7】特開2007-209206号公報
【特許文献8】特開平7-213261号公報
【特許文献9】特許第4157354号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の各特許文献により開示される発明は、春巻の皮の配合組成や皮の焼成・成形方法に関する改良や、1枚の皮による具材の包み方によってパリパリ感を得るものである。従って、先に挙げた各特許文献における包み揚げ食品では、いずれも公知の方法のよる巻き方と比較して皮部の階層構造が増加する事は無く、階層構造を増加させる事により食感を向上させる方法についての報告は未だ見当らない。また、上述した各特許文献では、いずれも1枚の皮で巻き上げた際にいかにパリパリした食感を持続させるかの検討であり、皮を幾枚か重ね合わせてから具材を巻くといった検討がなされていない。
【0007】
そこで本発明の目的は、具材を包被する皮の階層構造に基づいて、油ちょう後の包み揚げ食品のパリパリ感を効果的に維持することのできる包み揚げ食品及びその製造方法を提供することにある。本発明の他の目的は、かかる包み揚げ食品を油ちょうにより製造するための包み揚げ調理用食品およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、従来提案されている方法では、油ちょう調理後、パリパリした食感が長時間に亘って継続される事が難しい場合があり、特に油ちょうされた春巻を凍結し、マイクロ波にて加熱調理した際には顕著であった。この原因について検討した結果、油ちょうまたはマイクロ波加熱調理後に中種からの水分を吸収し皮同士がくっ付き、例えば8層になるように巻き上げたとしても実質は半分以下の4層程度となってしまい、層を砕くようなクリスピーな食感が得られない事が判明した。春巻のパリパリしたクリスピーな食感は、春巻の皮の階層構造に由来するものであり、この階層構造を少なくとも10層以上の構造が1ヶ所でも有する多層構造にする事により、油ちょうまたはマイクロ波加熱調理後長時間経過しても食感が維持される事を見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明の包み揚げ調理用食品は、具材と、具材を包み込んでいる皮部とを有し、該皮部少なくとも1部が、10層以上の皮の層の重ね合わせからなる階層構造を有することを特徴とする包み揚げ調理用食品である。
【0010】
本発明の包み揚げ食品は、上記の包み揚げ調理用食品を油ちょうして得られることを特徴とする包み揚げ食品である。
【0011】
本発明の包み揚げ調理用食品の製造方法は、具材を皮部で包み込んだ包み揚げ調理用食品の製造方法において、
前記具材を皮で包み込むことにより、前記具材を包み込む皮部の少なくとも1部を、10層以上の皮の層の重ね合わせからなる階層構造として形成することを特徴とする包み揚げ調理用食品の製造方法である。
【0012】
本発明の包み揚げ食品の製造方法は、上記の包み揚げ調理用食品を油ちょうすることを特徴とする包み揚げ食品の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の包み揚げ食品は皮部の階層構造が10層以上形成されている為、油ちょう調理後、皮の経時的な食感低下が抑制され、油ちょう調理直後のパリっとしたクリスピーな食感を維持する事が可能である。また、本発明品を油ちょう調理後、常温保存、冷蔵保存、冷凍保存したものに関しては、電子レンジで再加熱してもパリっとしたクリスピーな食感を食する事が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明にかかる春巻きの厚さ方向における断面構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明にかかる包み揚げ食品は、具材を皮で包み込んで得られた包み揚げ調理用食品を油ちょうして得られるものである。この包み揚げ食品には、春巻き、その類似製品、あるいは、えび等の各種魚介類、チーズなどの固形乳製品、各種野菜、各種肉類これらの2以上の混合物の各種包み揚げ(例えば、えび包み揚げ、チーズ包み揚げ、枝豆包み揚げ、揚げシューマイ等)が含まれる。なお、本発明にかかる包み揚げ食品は、包み揚げ食品の形態を維持している範囲内で、具材全体が皮部で覆われておらず、具材の一部が露出していてもよい。
【0017】
本発明の包み揚げ食品では、具材を包み込んでいる皮部の少なくとも一部に、皮からなる層が10層以上積層した階層構造として設けられている。
【0018】
本発明にかかる包み揚げ食品の一例である春巻きの厚さ方向の模式的断面図を図1に示す。図1に示す春巻きでは、多層階層構造形成部3において、春巻き用の具材(中具または中種)が内包されている中空部1が、皮部2により形成されており、皮部2は、1枚の皮からなる層2−1の重ね合わせからなる階層構造を有するように具材を包み込んでいる。図1に示す例では、皮の層2−1が12層に積層されている。
【0019】
本発明によれば、上記のように、包み揚げ食品の皮部の少なくとも1部が10層以上の皮の層の重ね合わせからなる階層構造を有することによって、油ちょう後のパリパリ感を維持することができ、包み揚げ食品の冷凍保存後の加熱処理を行った場合でもパリパリ感を得ることができる。特に、本発明においては、10層以上の皮の階層構造を皮部の少なくとも1部に形成することによって、油ちょうによって各層の積層構造が維持されるとともに、層間に空気が入り込んだ状態となって層間の癒着や付着が抑制され、油ちょう後のパリパリ感の維持が可能となる。
【0020】
このような多層階層構造は、1枚の皮生地を0.1mm〜0.6mmの範囲の厚さのシート状に焼成または圧延成形し、重ね合わせた部分の厚さが1.0mm以内となるように幾枚か重ね合わせてから巻き上げる事により可能となる。
【0021】
更に、皮生地を0.1mm〜0.6mmの範囲内の厚さのシート状に焼成または圧延成形し、焼成または圧延した皮に具材を搭載した後に別な皮で覆い、重ね合わせた部分の厚さが1.0mm以内である皮を用いて巻き上げる方法によっても、上述した多層階層構造を得ることができる。この場合の後から覆う皮は、一枚のシート状の皮であっても、複数枚の皮が重ね合わされたものでもよい。
【0022】
更に、上記の方法における重ね合わせは、一枚のシート状の皮を折りたたんで形成したもの、複数枚のシート状の皮を重ねて形成したもの、更には、これらの組合せから形成したものでもよい。
【0023】
具材と接する皮部の最内層部は中種からの水分を皮が吸収し、皮同士が付着し易い傾向があり、皮同士が付着し厚くなると噛み切る為に多くの力を必要とし、結果的にパリパリ感の無く、歯切れの悪い食感と感じてしまう。そこで、上述したように、皮による巻き込み前の具材を載せる部分を皮の重ね合わせ部分とし、かつ、その総厚を1mm以下と薄くしておくことで、具材からの水分吸収による外側層への水分の影響の低減と、パリパリ感の低下の防止を、より効果的に行うことができる。
【0024】
本発明の包み揚げ食品に用いられる具材としては、春巻きなどの包み揚げ食品の形態に応じて選択されたものを用いることができる。具材配合は特に限定されず、公知の配合においても多層構造にする事により効果が発揮される。なお、公知の具材配合は水分含量をなるべく少なくした、例えば、野菜等を炒めた水分含量が少ない具材を用いる場合が多いが、本発明にかかる多層階層構造により、加水率50%と極端に水分含量の高い具材においても油ちょう調理後の経時変化に強く、パリパリの春巻に仕上げることが可能となる。
【0025】
皮としても、春巻き、揚げシューマイなどの包み揚げ食品の形態に応じて選択されたものを用いることができる。代表的には、小麦粉を主体とする麺帯を皮として利用することができる。
【0026】
皮生地の配合は特に限定されるものではなく、既に公知のように、小麦粉、澱粉、加工澱粉、米粉、油脂類、たんぱく質、糖、還元糖類、糖アルコール、塩類、増粘剤、ゲル化剤、乳化剤、アミノ酸類、色素、かんすい、各種エキス類、調味料等から包み揚げ食品の形態に応じて選択された材料を配合する事が出来る。
【0027】
焼成により得られる皮はバッター液をドラム等の表面に薄く塗布する事により連続的に製造でき、皮の厚さはバッター液をドラムに送り込む量、バッター液を塗布する厚さおよびドラムの回転速度により自在に可変させる事が出来る。
【0028】
圧延により得られる皮は皮生地をローラー等により段階的に薄く延ばしていく事により連続的に製造可能であり、皮の厚さはローラー間の幅により自在に可変させる事が出来る。この際、皮の厚さが0.1mmを下回ると、皮調製時における皮切れ、具材を巻き上げる際の皮の割れ、油ちょう調理時における皮の割れ等が発生し、機械適性が悪く、かつ、喫食した際の食感もパリッとしたクリスピーな食感にはならない等の問題が生じる場合がある。また、皮の厚さが0.6mmを上回る、若しは、巻き込み前の重ね合わせた皮の厚さが1.0mmを上回ると喫食した際の食感は歯切れが悪く、クリスピーな食感にはならない等の問題が生じる場合がある。
【0029】
従って、包み揚げ調理用食品の調製時における多層階層構造中の各層を構成する1枚の皮の厚さは0.1mm〜0.6mm、好ましくは、0.2mm〜0.5mmの範囲から選択することが好ましい。また、具材を巻き込む前の皮の厚さ(複数枚を重ね合わせた場合には、重ね合わせた部分の厚さ)は、1.0mm以下が好ましく、0.4〜0.7mmの範囲とすることがより好ましい。
【0030】
10層以上の多層階層構造の層数は24以下とすることが好ましい。更に、多層階層構造を形成する部分の包み揚げ製品の外周面全体に対する割合は、25%以上であることが好ましく、50%以上とすることがより好ましい。
【0031】
皮を予め重ね合わせる際、皮の平面形状におけるサイズ、厚さは同一であるのが望ましいが、皮の平面形状におけるサイズは巻き上げた際に皮部の階層構造が10層以上の構造を1箇所でも有せられるサイズであれば特に限定はされず、また、厚さが異なっても本発明の効果は発揮する。
【0032】
上記方法にて得られた皮を重ね合わせる方法は、目的のサイズと同サイズの皮を重ね合わせる方法と、予め目的のサイズより大きく調製し、折り畳む事により目的のサイズに調整する方法のどちらでも良い。
【0033】
また、皮を重ね合わせる際、皮と皮の間に油脂、澱粉、糖類または還元糖類、増粘多糖類、乳化剤等を利用して得られる組成物を塗布する事により、皮同士の付着が抑制され、また具材を搭載する前に、上記組成物を塗布する事により、中具から皮への水分移行が防止される為、本発明の効果がより発揮される。例えば、かかる付着防止機能を有する油脂の1g〜3gを典型的な包み揚げ用のサイズの皮全体の50〜100%の範囲に噴霧する方法を用いることが好ましい。
【0034】
本発明の包み揚げ食品を製造するための材料としての包み揚げ調理用食品は、皮に所望の具材を搭載し、公知の方法により巻き上げて成形する事により得ることができる。更に、上述したとおり、重ね合わせた皮に所望の具材を搭載し、公知の方法により巻き上げる方法や、重ね合わせた皮に所望の具材を搭載し、更に別の皮で具材の露出面を覆い、公知の方法により巻き上げる方法などによって具材を皮部で包み込み、所望とする包み揚げ食品に応じた形状に成形することによって得ることができる。
【0035】
こうして得られた包み揚げ調理用食品は、必要に応じて冷凍または冷蔵貯蔵することができる。この包み揚げ調理用食品を油ちょう処理することで、包み揚げ食品を得ることができ、得られた包み揚げ食品はパリパリ感が維持される好ましい食感を有するものとなる。更に、得られた包み揚げ食品も冷蔵または冷凍により保存する事が可能であり、保存後に加熱調理した場合にも、パリパリ感が維持される好ましい食感を有するものとなる。
【0036】
すなわち、本発明の包み揚げ食品は油ちょう調理後に常温保存、冷蔵保存、冷凍保存しても良く、喫食する際には通常の電子レンジ等のマイクロ波加熱により再加熱をする事により食する事が出来る。
【実施例】
【0037】
以下に本発明の実施例および比較例について更に詳細を説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、全ての実施例、比較例は以下に示した配合にて検討を行った。
(1)焼成皮の調製
小麦粉(準強力粉)100重量部、食塩2重量部、水110重量部をバッターミキサーにて充分に混練して、バッター液を調製した。得られたバッター液を5℃で12時間以上保管した後、春巻皮成形機(型式:HRT-15;大英技研社製)を用いて公知の方法にて焼成、切断し目的の皮生地を得た。
(2)圧延皮の調製
小麦粉(準強力粉)100重量部、食塩1重量部、水35重量部を麺帯ミキサー(型式:MVH-02;トーキョーメンキ社製)にて充分に混捏して、麺生地を調製した。得られた麺生地を5℃で1時間保管した後、製麺圧延機(型式:Richman LM-5062;大和製作所社製)を用いて公知の方法にて圧延、切断し目的の皮生地を得た。
(3)中具の調製
豚挽肉15重量部、キャベツ10重量部、竹の子5重量部、人参3重量部、椎茸3重量部をサラダ油20重量部で良く炒めた後、砂糖1重量部、中華スープ0.8重量部、食塩0.5重量部、うまみ調味料0.2重量部、醤油2重量部、オイスターソース0.5重量部で味付けを行い、添加水50重量部、春雨2.5重量部、馬鈴薯澱粉3.5重量部を加えとろみを付けを行い、沸騰した後にごま油1重量部にて香り付けを行い、中具を調製した。調製した中具は5℃で12時間以上保管した後、30gを約110mm×25mm×10mmの大きさに成型したものを中具として使用した。
(実施例1)
前述(1)の方法にて焼成、切断し200mm×200mm、皮厚0.18mmの春巻の皮1を得た。皮1を各辺が平行となるように3枚重ね合わる際、皮と皮の間にパーム油(融点40℃)を1g塗布し、200mm×200mm、皮厚0.57mmの皮2を得た。皮2にパーム油(融点40℃)を1g塗布した後、前述(3)で調製した具材を搭載し、公知の方法にて巻上げ、皮部の階層構造が最大21層、最小12層の油ちょう調理用の春巻を得た。
【0038】
(実施例2)
実施例1と同様の方法にて200mm×400mm、皮厚0.25mmの春巻の皮1を得た。得られた皮の長辺を2等分する位置で折り畳む際、皮と皮の間にパーム油(融点40℃)を1g塗布し、200mm×200mm、皮厚0.55mmの皮2を得た。皮2にパーム油(融点40℃)を1g塗布した後、前述(3)で調製した具材を搭載し、公知の方法にて巻上げ、皮部の階層構造が最大14層、最小8層の油ちょう調理用の春巻を得た。
【0039】
(実施例3)
実施例1と同様の方法にて200mm×200mm、皮厚0.45mmの春巻の皮1と160mm×160mm皮厚0.25mmの皮2を得た。皮1にパーム油(融点40℃)を1g塗布し、皮2の中心が皮1の中心となり、かつ皮の各辺が平行となるように重ね合わせ、中央部が皮厚0.75mm、端部が皮厚0.45mmとなる200mm×200mmの皮3を得た。皮3にパーム油(融点40℃)を1g塗布した後、前述(3)で調製した具材を搭載し、公知の方法にて巻上げ、皮部の階層構造が最大12層、最小7層の油ちょう調理用の春巻を得た。
【0040】
(実施例4)
実施例1と同様の方法にて200mm×400mm、皮厚0.55mmの春巻の皮1を得た。得られた皮の長辺を2等分する位置で折り畳む際、皮と皮の間にパーム油(融点40℃)を1g塗布し、200mm×200mm、皮厚1.15mmの皮2を得た。皮2にパーム油(融点40℃)を1g塗布した後、前述(3)で調製した具材を搭載し、公知の方法にて巻上げ、皮部の階層構造が最大14層、最小8層の油ちょう調理用の春巻を得た。
【0041】
(実施例5)
実施例1と同様の方法にて200mm×200mm、皮厚0.65mmの春巻の皮1と皮厚0.25mmの皮2を得た。皮1にパーム油(融点40℃)を1g塗布し、各辺が平行となるように皮2を重ねあわせ200mm×200mm、皮厚0.95mmの皮3を得た。皮3にパーム油(融点40℃)を1g塗布した後、前述(3)で調製した具材を搭載し、公知の方法にて巻上げ、皮部の階層構造が最大14層、最小8層の油ちょう調理用の春巻を得た。
【0042】
(比較例1)
実施例1と同様の方法にて200mm×200mm、皮厚0.55mmの春巻の皮を得た。得られた皮にパーム油(融点40℃)を1g塗布した後、前述(3)で調製した具材を搭載し、公知の方法にて巻上げ、皮部の階層構造が最大7層、最小4層の油ちょう調理用の春巻を得た。
【0043】
(評価1)
実施例1〜5および比較例1をそれぞれ-20℃で2ヶ月間冷凍保存した後、170〜180℃のサラダ油で5分間油ちょう調理を行い、室温にて放置し、油ちょう10分後、油ちょう3時間後、油ちょう6時間後の食感を10名のパネルにより官能評価にて確認した。
【0044】
この官能評価は以下の評価基準に則り、皮のパリパリ感と歯切れの良さについて評価し、10名の平均点を品質の評価点とした。
【0045】
<評価点数の基準>
(1)皮のパリパリ感
1点:パリパリ感無し
2点:ややパリパリ感無し
3点:パリパリ感有り
4点:パリパリ感がかなり有り良好
5点:油ちょう直後と同等のパリパリ感で極めて良好
(2)皮の歯切れの良さ
1点:ヒキがかなり強く、歯切れが悪い
2点:ヒキがやや強く、歯切れが悪い
3点:ヒキが多少あるが歯切れは良い
4点:ヒキが殆ど無く歯切れが良い
5点:ヒキが全く無く歯切れも極めて良好
その結果、公知の製法にて調製した比較例1は油ちょう10分後においてはパリパリとした食感であったが、油ちょう調理後の時間経過と共にパリパリした食感が失われ、歯切れの悪いガミーな食感となったのに対し、実施例1〜3は油ちょう6時間経過後も油ちょう直後の食感を維持しており、1枚の皮厚が薄い程、油ちょう調理後の時間が経過しても歯切れの良い食感を維持していた。
【0046】
また、階層構造が10層以上有していても、皮を重ね合わせた後の巻き込み前の皮厚が1.0mmを越える実施例4、1枚の皮厚が0.6mmを越える実施例5において、油ちょう調理6時間経過しても外側の層はパリパリした食感を維持していた。内側の層においては中具の水分を吸収し、歯切れの悪い食感が得られる場合があった。
【0047】
(評価2)
実施例1〜5および比較例1の油ちょう用春巻をそれぞれ170〜180℃のサラダ油で5分間油ちょう調理を行った後、-40℃で40分間急速凍結を行い、-20℃で1日間および2ヶ月間冷凍保管した。この春巻2本をラップをせずに500Wで2分間マイクロ波加熱調理を行った後、室温にて放置し、調理10分後、調理3時間後、調理6時間後の食感を評価1と同様に評価した。
【0048】
その結果、冷凍保存期間が1日間に関しては評価1と同様の結果であったが、冷凍保存期間が2ヶ月経過したものに関しては、実施例1〜3は薄皮の多層構造により冷凍保存中の中種から水分移行が防止されていた為、マイクロ波加熱調理6時間経過後もパリパリした食感、歯切れの良い食感が維持されていた。
【0049】
また、公知の製法にて調製した比較例1はマイクロ波加熱調理10分後において既にサクサク感と歯切れの良さが失われており、経時的に品質が劣化していた。
【0050】
また、階層構造が10層以上有している実施例4および5に関しては実施例1〜3と同様に冷凍保存中の中種から水分移行が防止され、比較例1と比較してパリパリした食感は維持されていたが、全体的に皮が厚く感じられ歯切れの悪い食感を与える場合があった。
【0051】
(実施例6)
前述(2)の方法にて圧延、切断し200mm×200mm、皮厚0.25mmの麺帯皮1を得た。麺帯皮1を2枚重ね合わる際、皮と皮の間にパーム油(融点40℃)を1g塗布し、200mm×200mm、皮厚0.55mmの麺帯皮2を得た。麺帯皮2にパーム油(融点40℃)を1g塗布した後、前述(3)で調製した具材を搭載し、公知の方法にて巻上げ、皮部の階層構造が最大14層、最小8層の油ちょう調理用の春巻を得た。
【0052】
(実施例7)
実施例6と同様の方法にて200mm×200mm、皮厚0.55mmの麺帯皮1を得た。麺帯皮1を2枚重ね合わる際、皮と皮の間にパーム油(融点40℃)を1g塗布し、200mm×200mm、皮厚1.15mmの麺帯皮2を得た。麺帯皮2にパーム油(融点40℃)を1g塗布した後、前述(3)で調製した具材を搭載し、公知の方法にて巻上げ、皮部の階層構造が最大14層、最小8層の油ちょう調理用の春巻を得た。
【0053】
(比較例2)
実施例6と同様の方法にて200mm×200mm、皮厚0.55mmの麺帯皮を得た。得られた麺帯皮にパーム油(融点40℃)を1g塗布した後、前述(3)で調製した具材を搭載し、公知の方法にて巻上げ、皮部の階層構造が最大7層、最小4層の油ちょう調理用の春巻を得た。
【0054】
(評価3)
実施例6、7および比較例2をそれぞれ-20℃で2ヶ月間冷凍保存した後、170〜180℃のサラダ油で10分間油ちょう調理を行い、室温にて放置し、油ちょう10分後、油ちょう3時間後、油ちょう6時間後の食感を10名のパネルにより官能評価にて確認した。
【0055】
その結果、比較例2及び実施例7は油ちょう10分後においてはパリパリとした食感であったが、油ちょう調理後の時間経過と共にパリパリした食感が失われ、歯切れの悪いガミーな食感となったが、パリパリ感に関しては、実施例7の方が比較例2よりも良好であった。これらに対し、実施例6は油ちょう6時間経過後も油ちょう直後の食感を維持していた。
【0056】
また、歯切れの良さについては実施例6、比較例2は油ちょう10分後の歯切れは良く、実施例7に関しては調理時間の経過に伴い歯切れが悪くなる場合があるのに対し、実施例6は油ちょう6時間経過後もヒキが無く歯切れの良い食感であった。皮を重ね合わせた後の皮厚が1.0mmを越える実施例7においては油ちょう10分後においても歯切れが悪く、油ちょう調理6時間経過後においてはかなりヒキが強く最内層が噛み切れない食感を与える場合があった。
【0057】
(評価4)
実施例6、実施例7および比較例2の油ちょう調理用の春巻をそれぞれ170〜180℃のサラダ油で10分間油ちょう調理を行った後、-40℃で40分間急速凍結を行い、-20℃で1日間および2ヶ月間冷凍保管した。この春巻2本をラップをせずに500Wで2分間マイクロ波加熱調理を行った後、室温にて放置し、調理10分後、調理3時間後、調理6時間後の食感を評価1と同様に評価した。
【0058】
その結果、比較例2、実施例7は-20℃で1日間冷凍保存したものは調理3時間が経過すると皮のパリパリ感が減少し、冷凍保存期間が2ヶ月と長くなると調理10分後においてもパリパリ感が失われていたのに対し、実施例6はマイクロ波調理からの経過時間、-20℃での冷凍保存期間が長くなってもパリパリ感を維持しており、歯切れも良好であった。
【0059】
以上の評価1〜4による結果を表1に示す。表1の各実施例及び各比較例における左右に分割された縦の欄の左欄は「パリパリ感」の評価結果を右欄は「歯切れ感」の評価結果を示す。
【0060】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、具材を包被する皮の階層構造に基づいて、油ちょう後の包み揚げ食品のパリパリ感を効果的に維持することのできる包み揚げ調理用食品及びそれを油ちょうして得られる包み揚げ食品、並びにこれらの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 具材収納中空部
2 皮部
2−1 皮(層)
3 多層階層構造形成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
具材と、具材を包み込んでいる皮部とを有し、該皮部の少なくとも1部が、皮の層の10層以上の重ね合わせからなる階層構造を有することを特徴とする包み揚げ調理用食品。
【請求項2】
前記皮の層の厚さが、0.1mm〜0.6mmの範囲にある請求項1に記載の包み揚げ調理用食品。
【請求項3】
皮生地を0.1mm〜0.6mmの厚さのシート状に焼成または圧延成形し、1mm以内の厚さまで重ね合わせた後、具材を包むことにより得られる請求項1に記載の包み揚げ調理用食品。
【請求項4】
皮生地を0.1mm〜0.6mmの厚さのシート状に焼成または圧延成形し、焼成または圧延した皮に具材を搭載した後に別な皮で覆い、皮が重ね合わさった部分を1mm以内として、具材を包むことにより得られる請求項1に記載の包み揚げ調理用食品。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の包み揚げ調理用食品を油ちょうして得られる包み揚げ食品。
【請求項6】
具材を皮部で包み込んだ包み揚げ調理用食品の製造方法において、
前記具材を皮で包み込むことにより、前記具材を包み込む皮部の少なくとも1部を、皮の層の10層以上の重ね合わせからなる階層構造として形成することを特徴とする包み揚げ調理用食品の製造方法。
【請求項7】
前記皮の層の厚さが、0.1mm〜0.6mmの範囲にある請求項6に記載の包み揚げ調理用食品の製造方法。
【請求項8】
皮生地を0.1mm〜0.6mmの範囲内の厚さのシートに焼成または圧延成形し、1mm以内の厚さまで重ね合わせた後、具材を包む請求項6または7に記載の包み揚げ調理用食品の製造方法。
【請求項9】
皮生地を0.1mm〜0.6mmの範囲内の厚さのシート状に焼成または圧延成形し、具材を搭載した後に別の皮で覆い、皮が重ね合わさった部分を1mm以内として、具材を包む請求項6から7のいずれか1項に記載の包み揚げ調理用食品の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の包み揚げ調理用食品を油ちょうする工程を有することを特徴とする包み揚げ食品の製造方法。
【請求項11】
請求項6〜9のいずれか1項に記載の包み揚げ調理用食品の製造方法により得られた包み揚げ調理用食品を、油ちょうする工程を有することを特徴とする包み揚げ食品。

【図1】
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