説明

包接体およびその製造方法

【課題】 セサミンはゴマに含まれる主要なリグナン化合物の一種であり、ゴマ中には0.5−1%程度含まれている。セサミンには多くの生理活性があることが知られ、例えば、抗酸化作用、抗高血圧作用、抗炎症作用等が公知である。また、セサミン類とガンマ−オリザノールとを含有する組成物がセサミンの生理活性を高めるという技術も開示されている。本発明の課題は、セサミンが有する生理活性を顕著に高めた物質およびその製造方法を提供することである。
【解決手段】 セサミン類と、該セサミン類を包接する包接化合物とからなる包接体。セサミン類と、該セサミン類を包接する包接化合物とを水中で混合する工程を有する包接体を製造する方法。セサミン類が、リポソームに内包されてなる複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包接体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セサミンはゴマに含まれる主要なリグナン化合物の一種であり、ゴマ中には0.5−1%程度含まれている。セサミンには多くの生理活性があることが知られ、例えば、抗酸化作用、抗高血圧作用、抗炎症作用等が公知である。
一方、特許文献1にはセサミン類とガンマ−オリザノールとを含有する組成物が開示され、ガンマ−オリザノールがセサミンの生理活性を高めるという内容が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−73749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、セサミン類が有する生理活性を顕著に高めた物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、セサミン類を包接化合物により包接した包接体あるいはセサミン類をリポソームにより内包してなる複合体が、セサミン類のみを用いる場合よりも、顕著に優れた各種生理活性を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。なお本発明の包接体において、包接化合物とはホスト分子を意味し、セサミン類、ビタミンEはゲスト分子である。
【0006】
請求項1に記載の発明は、セサミン類と、該セサミン類を包接する包接化合物とからなる包接体である。
請求項2に記載の発明は、セサミン類と、ビタミンEと、該セサミン類およびビタミンEを包接する包接化合物とからなる包接体である。
請求項3に記載の発明は、前記包接化合物が、シクロデキストリン化合物である請求項1または2に記載の包接体である。
請求項4に記載の発明は、セサミン類と、該セサミン類を包接する包接化合物とを水中で混合する工程を有する請求項1に記載の包接体を製造する方法である。
請求項5に記載の発明は、セサミン類と、ビタミンEと、該セサミン類およびビタミンEを包接する包接化合物とを水中で混合する工程を有する請求項2に記載の包接体を製造する方法である。
請求項6に記載の発明は、セサミン類が、リポソームに内包されてなる複合体である。
なお本発明において、「・・・と、・・・とからなる包接体」とは、包接化合物に包接されているゲスト分子が前記「・・・」で示される化合物に限定されることを意図したものではなく、少なくとも「・・・」で示される化合物が包接されていればよく、任意のその他のゲスト分子(例えばCoQ10等)が包接化合物に包接されていてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、セサミン類を包接化合物により包接またはリポソームに内包したので、セサミン類のみを用いる場合よりも、セサミン類が有する各種生理活性を飛躍的に高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(セサミン類)
本発明に用いることができるセサミン類としては、セサミン及びその類縁体を含むものであり、セサミン類縁体としては、エピセサミンの他、例えば特開平4−9331号公報に記載されたジオキサビシクロ〔3.3.0〕オクタン誘導体がある。セサミン類の具体例としては、セサミン、セサミノール、エピセサミノール、セサモリン等を例示できる。なかでも、セサミン及びエピセサミンが好ましい。
【0009】
なお、セサミン類の代謝体も、本発明の効果を示す限り、本発明のセサミン類に含まれるセサミン類縁体であり、本発明に使用することができる。
本発明に用いるセサミン類は、その形態や製造方法等によって、何ら制限されるものではない。例えば、セサミン類としてセサミンを選択した場合には、通常、ごま油から公知の方法(例えば、特開平4−9331号公報に記載された方法)によって抽出したセサミン(セサミン抽出物または精製物という)を用いることができる。
【0010】
本発明で使用される包接化合物は、とくに制限されないが、シクロデキストリン化合物が好適に用いられる。
シクロデキストリン化合物としては、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン等が挙げられ、中でもγ−シクロデキストリンが好ましい。
【0011】
セサミン類をシクロデキストリン化合物により包接するには、セサミン類とシクロデキストリン化合物との混合物に水と少なくとも1種以上の有機溶媒を適当割合で配合し、公知の混練法、液相混合法、溶媒蒸発法を利用して包接する方法が挙げられる。該有機溶剤としては、好ましくは粉末化の最終段階で除去しやすいものであり、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール等のアルコール類、酢酸エチル等のエステル類、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭素水素、アセトン、エーテル等から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。セサミン類とシクロデキストリン化合物との割合は、例えばセサミン類1質量部に対し、シクロデキストリン化合物0.5〜100質量部が挙げられる。また、セサミン類1質量部に対し、前記有機溶媒は0.5〜10重量部、水は1〜20重量部が好ましい。
続いて、得られた包接化合物は、洗浄、乾燥工程を経て粉末化することができる。
上記技術は、セサミン類を使用することを除き、例えば特開2002−348275号公報に記載されている。
【0012】
これとは別に、水中において、セサミン類とシクロデキストリン化合物とをホモジナイザーによって混合する方法も挙げられ、本発明では当該方法がとくに好ましい。この方法において、セサミン類とシクロデキストリン化合物との割合は、例えばセサミン類1質量部に対し、シクロデキストリン化合物0.5〜100質量部であり、水の量は、セサミン類とシクロデキストリン化合物とを良好かつ効率的に混合可能な量であればよく、とくに制限されないが、例えばシクロデキストリン化合物1質量部に対し、1〜100質量部が好ましい。
ホモジナイズ後に得られた乳化液は、乾燥工程を経て粉末化することができる。
上記技術は、セサミン類を使用することを除き、例えば特開2008−291150号公報に記載されている。
【0013】
また本発明においては、ビタミンEをさらに包接化合物に包接させてもよい。これにより、セサミン類の有する生理活性向上効果がさらに向上する。
本発明でいうビタミンEとは、誘導体類も含むものであり、その例としては、アルファ−トコフェロール、ベータ−トコフェロール、ガンマ−トコフェロール、デルタ−トコフェロール、アルファ−トコトリエノール、ベータ−トコトリエノール、ガンマ−トコトリエノール、デルタ−トコトリエノール、酢酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール等が挙げられる。
ビタミンEの使用量は、セサミン類を1としたとき(質量基準)、ビタミンEを0.5〜1.5の割合で配合するのが好ましい。
また、ビタミンEを使用する形態において、セサミン類およびビタミンEを包接する工程は、前記のセサミン類をシクロデキストリン化合物により包接する工程と同様であり、そこにビタミンEを好適には上記使用量でもって添加することができる。
【0014】
また、セサミン類をリポソームに内包するには、公知の各手段を採用することができ、とくに制限されない。
例えば、構成成分としてはリン脂質、本発明の有効成分および水が挙げられる。リン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン等の天然リン脂質、ジオレオイルホスファチジルコリン等の合成リン脂質、前記リン脂質の不飽和炭素鎖を水素により飽和とした水素添加リン脂質、あるいはその他大腸菌等の微生物から抽出されるリン脂質等が挙げられる。これらリン脂質は、一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。この中で、水素添加卵黄リン脂質、水素添加大豆リン脂質、水素添加ホスファチジルコリン、水素添加ホスファチジルセリンから選ばれる一種またはニ種以上が好ましい。
また、リポソーム調製時には、界面活性剤、防腐剤、油剤、着色剤、水溶性高分子、酸類、塩類等を必要に応じて添加してもよい。
得られたリポソームの粒径は、エクストルーダー、高圧乳化機、超音波等を用いて調整可能であり、例えば1nm〜1000nm、好ましくは5nm〜500nm、さらに好ましくは10nm〜200nmである。
【実施例】
【0015】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明は下記例に限定されるものではない。
【0016】
実施例1
セサミン類としては、セサミン(セサミン:エピセサミン=1:1)を用いた。
ビタミンEは、アルファ−トコフェロールを使用した。
【0017】
セサミン 20gを500mLビーカーへ入れ、そこに脱気した脱イオン水150mLを添加した。このビーカーにγ−シクロデキストリン 85gを加え、高速ホモジナイザーを用い、10,000−12,000rpmにて30分間攪拌した。得られた乳化液を凍結乾燥機によって乾燥し、粉末とした。この粉末は、セサミンがγ−シクロデキストリンにより包接された包接体であり、セサミンの含有量は約2%である。これを試料1とする。
【0018】
セサミン 20gおよびビタミンE 3gを500mLビーカーへ入れ、そこに脱気した脱イオン水を200mL添加した。このビーカーにγ−シクロデキストリン100gを加え、高速ホモジナイザーを用い、10,000−12,000rpmにて30分間攪拌した。得られた乳化液を凍結乾燥機によって乾燥し、粉末とした。この粉末は、セサミンおよびビタミンEがγ−シクロデキストリンにより包接された包接体であり、セサミンおよびビタミンEの含有量はそれぞれ約2%である。これを試料2とする。
【0019】
常法に従い、下記表1に示される各成分をホモジナイザーを用いて攪拌し、粒径約200nmの、セサミン(本発明の有効成分ともいう)が内包されたリポソームを調製した。これを試料3とする。
【0020】
【表1】

【0021】
STD DDY 雄性マウス(5週齢:各群n=3〜4)に対し、上記試料1〜3のいずれかを経口摂取させた。
試料1〜3を摂取させた試験区ではいずれも、セサミンの摂取量が5mg/kg体重となるように調整した。したがって試料2を摂取させた試験区では、ビタミンEの摂取量も5mg/kg体重となる。なお、コントロール群1のマウスには、オリーブ油のみを摂取させて試験を行った。コントロール群2のマウスには、セサミンをオリーブ油に分散したものを摂取させて試験を行った。
【0022】
摂取から30分後に、マウスを深さ80センチの水槽に入れて、無動に至るまでの時間を計測した。各試験群のマウス(各群n=3〜4)の無動に至るまでの時間の平均値として、コントロール群1は約100秒、コントロール群2は約180秒であったのに対し、試料1投与群は約350秒、試料2投与群は、約400秒、試料3投与群は約350秒であった。
以上から、セサミンをシクロデキストリンで包接した包接体およびセサミンをリポソームで内包した複合体は、セサミンの抗疲労効果を著しく高めていることが判明した。また、この効果はビタミンEを併用するとさらに高まることも判明した。
【0023】
実施例2
実施例1の試料1〜3のいずれかを、脳卒中易発症性高血圧自然発症ラット(SHR−SP)に経口投与した。飼料は、一般市販飼料を用いた。試料1〜3の試験区をそれぞれ1〜3区とする。対照区1は、いずれの試料も投与せず、前記一般試料を用いて飼育した。対照区2は、セサミンのみを経口投与した。なお飼料は自由摂取とした。
試験区1〜3ではいずれも、1日につき、セサミンの摂取量を5mg/kg体重とした。したがって試験区2では、1日につき、ビタミンEの摂取量も5mg/kg体重となる。なお、対照区2は、1日につき、セサミンの摂取量を5mg/kg体重とした。
それぞれの飼料で5週齢の雄性SHR−SPを各区6匹ずつ7週間飼育し、12週齢に達した時の血圧値と体重の変化について調べた。
その結果、下記表2に示すように、セサミンをシクロデキストリンで包接した包接体およびセサミンをリポソームで内包した複合体は、セサミンの血圧低下効果をさらに高めていることが判明した。また、この効果はビタミンEを併用するとさらに高まることも判明した。
【0024】
【表2】

【0025】
実施例3
SD系ラット(22週齢)メスの卵巣を外科的に取り除き、骨粗鬆症のモデルラットを作成した。卵巣摘出ラットを7匹ずつ5群に分け、35日間の試験期間中、1日置きに(計17回)、実施例1の試料1〜3のいずれかを経口摂取させた。飼料はオリエンタル酵母株式会社のマウス・ラット・ハムスター用固形飼料CRF−1を用い、給餌および給水方法は自由摂取とした。試験期間中、各群間で、餌の摂取量に差は認められなかった。
試料1〜3を摂取させた試験区をそれぞれ試験区1〜3とする。試験区1〜3ではいずれも、1日につき、セサミンの摂取量を5mg/kg体重とした。したがって試験区2では、1日につき、ビタミンEの摂取量も5mg/kg体重となる。
試験開始後35日目にラットの体重を測定した後、大腿骨を取り出した。大腿骨は、接着組織および筋肉を取り除いて分析に使用した。大腿骨の体積を測定した後、エタノールで3回洗浄し、次にアセトンで3回洗浄したのち、一晩乾燥し、その後、重量を測定して大腿骨の乾燥重量を求めた。体積および乾燥重量から、骨密度(乾燥重量g/体積mm3 )を測定した。なお対照実験としては、前記試料1〜3のいずれも投与しないものとした比較例1、セサミンのみを5mg/kg体重として投与した比較例2とする。結果を表3に示す。
【0026】
【表3】

【0027】
表3の結果から、セサミンをシクロデキストリンで包接した包接体およびセサミンをリポソームで内包した複合体は、セサミンの抗骨粗鬆症効果をさらに高めていることが判明した。また、この効果はビタミンEを併用するとさらに高まることも判明した。
【0028】
実施例4
体重20g前後のICR系雄性マウス(1群5匹)に、高コレステロール−コール酸食餌(71.9%標準餌、15%ショ糖、2%食塩、10%ココナッツオイル、0.6%コレステロール、0.2%コール酸、0.3%塩化コリン)を試験第1日目から第7日目まで給餌(自由摂取)した。試験第6日目と第7日目に、上記実施例1の試料1〜3のいずれかを5mg/kg体重として経口投与した(それぞれ1〜3区とする)。その後、24時間の絶食を行い、試験第8日目にマウスから血液を採取し、血清を分離した。
【0029】
また、採取した血清の一部にヘパリンを添加し沈降させ、低比重リポタンパク(LDL)としてヘパリン沈降リポタンパクを得た。血清中の総コレステロール値及びLDL中のコレステロール値を、シー・シー・アライン(C.C.Allain et al.)らの報告(クリニカル ケミストリイ(Clinical Chemistry)、1974年、20巻、470−475頁)に従って、測定した。
【0030】
血清中の総コレステロール値からLDLコレステロール値を引いた値を、高比重リポタンパク(HDL)コレステロール値として算出した(平均値)。なお対照群1は、上記試料1〜3をいずれも投与していない群であり、対照群2はセサミンのみを5mg/kg体重として投与した群である。
その結果を表4に示した。
【0031】
【表4】

【0032】
表4の結果から、セサミンをシクロデキストリンで包接した包接体およびセサミンをリポソームで内包した複合体は、セサミンのコレステロール低下効果をさらに高めていることが判明した。また、この効果はビタミンEを併用するとさらに高まることも判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セサミン類と、該セサミン類を包接する包接化合物とからなる包接体。
【請求項2】
セサミン類と、ビタミンEと、該セサミン類およびビタミンEを包接する包接化合物とからなる包接体。
【請求項3】
前記包接化合物が、シクロデキストリン化合物である請求項1または2に記載の包接体。
【請求項4】
セサミン類と、該セサミン類を包接する包接化合物とを水中で混合する工程を有する請求項1に記載の包接体を製造する方法。
【請求項5】
セサミン類と、ビタミンEと、該セサミン類およびビタミンEを包接する包接化合物とを水中で混合する工程を有する請求項2に記載の包接体を製造する方法。
【請求項6】
セサミン類が、リポソームに内包されてなる複合体。

【公開番号】特開2010−24240(P2010−24240A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2009−249725(P2009−249725)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(707000691)辻堂化学株式会社 (104)
【Fターム(参考)】