説明

包接化合物、硬化触媒、硬化樹脂形成用組成物及び硬化樹脂

【課題】低温での硬化反応を抑制して、一液安定性の向上を図ると共に、加熱処理により、効果的に樹脂を硬化させることができる硬化触媒(包接化合物)を提供する。
【解決手段】式(I)


[Rは、C1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基、ニトロ基又は水酸基]で表されるイソフタル酸化合物とイミダゾール化合物とからなる包接化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な包接化合物、該包接化合物を含有する硬化触媒、該硬化触媒を用いた硬化樹脂形成用組成物、該硬化樹脂形成用組成物を用いた硬化樹脂の製造方法、及び該製造方法により得られた硬化樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、優れた機械特性、熱特性を有するため様々な分野で広く用いられている。かかるエポキシ樹脂を硬化させるための硬化剤として、イミダゾールが用いられているが、エポキシ樹脂−イミダゾールの混合液は、硬化の開始が早く、一液安定性が極めて悪いという問題がある。
【0003】
そこで、硬化剤として、イミダゾールにヒドロキシ安息香酸を付加したイミダゾール酸付加塩を用いること(特許文献1参照。)や、テトラキスフェノール系化合物(例えば、1,1,2,2,−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(以下、TEPという。))とイミダゾールとの包接体を用いること(特許文献2参照。)が提案されている。かかるイミダゾール酸付加塩や包接体は、一定の効果を奏するものであるが、これと同等の機能を有するものや更に機能の向上したものの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平4−2638号公報
【特許文献2】特開平11−71449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、低温での硬化反応を抑制して、一液安定性の向上を図ると共に、加熱処理を施すことにより、効果的に樹脂を硬化させることができる硬化触媒(包接化合物)を提供することにある。また、本発明は、かかる硬化触媒を用いた硬化樹脂形成用組成物、該硬化樹脂形成用組成物を用いた硬化樹脂の製造方法、及び該製造方法により得られた硬化樹脂を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定のイミダゾールと特定の酸とを少なくとも含む包接化合物を用いることにより、上記課題を解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、(1)式(I)
【0008】
【化1】

【0009】
[式中、Rは、C1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基、ニトロ基又は水酸基を表す。]で表されるイソフタル酸化合物と、式(II)
【0010】
【化2】

【0011】
[式中、Rは、水素原子、C1〜C10のアルキル基、フェニル基、ベンジル基又はシアノエチル基を表し、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、置換基を有してもよいC1〜C20のアルキル基、フェニル基、ベンジル基又はC1〜C20のアシル基を表す。]で表されるイミダゾール化合物とを少なくとも含むことを特徴とする包接化合物や、(2)式(I)で表されるイソフタル酸化合物が、5−t−ブチルイソフタル酸又は5−ニトロイソフタル酸であることを特徴とする上記(1)に記載の化合物や、(3)式(II)で表されるイミダゾール化合物が、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、又は2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の化合物や、(4)式(II)のRが、水素原子であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の化合物や、(5)粉体状であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の化合物や、(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の包接化合物を含有することを特徴とするエポキシ樹脂用硬化触媒に関する。
【0012】
また本発明は、(7)下記(A)成分と(B)成分とを含有することを特徴とするエポキシ硬化樹脂形成用組成物
(A)エポキシ樹脂
(B)式(I)
【0013】
【化3】

【0014】
[式中、Rは、C1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基、ニトロ基又は水酸基を表す。]で表されるイソフタル酸化合物と、式(II)
【0015】
【化4】

【0016】
[式中、Rは、水素原子、C1〜C10のアルキル基、フェニル基、ベンジル基又はシアノエチル基を表し、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、置換基を有してもよいC1〜C20のアルキル基、フェニル基、ベンジル基又はC1〜C20のアシル基を表す。]で表されるイミダゾール化合物とを少なくとも含むことを特徴とする包接化合物や、(8)(A)成分であるエポキシ樹脂のエポキシ環1モルに対して、(B)成分中の式(II)で表されるイミダゾール化合物を0.01〜1.0モル含有することを特徴とする上記(7)に記載のエポキシ硬化樹脂形成用組成物や、(9)式(I)で表されるイソフタル酸化合物が、5−t−ブチルイソフタル酸又は5−ニトロイソフタル酸であることを特徴とする上記(7)又は(8)に記載のエポキシ硬化樹脂形成用組成物や、(10)式(II)で表されるイミダゾール化合物が、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、又は2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールであることを特徴とする上記(7)〜(9)のいずれかに記載のエポキシ硬化樹脂形成用組成物に関する。
【0017】
さらに本発明は、(11)上記(7)〜(10)に記載のエポキシ硬化樹脂形成用組成物を加熱処理して硬化させることを特徴とするエポキシ硬化樹脂の製造方法や、(12)加熱処理の加熱温度が、60〜250℃であることを特徴とする上記(11)に記載のエポキシ硬化樹脂の製造方法や、(13)上記(11)又は(12)の製造方法により得られたことを特徴とするエポキシ硬化樹脂に関する。
【0018】
またさらに本発明は、(14)少なくとも、式(I)
【0019】
【化5】

【0020】
[式中、Rは、C1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基、ニトロ基又は水酸基を表す。]で表されるイソフタル酸化合物と、式(II)
【0021】
【化6】

【0022】
[式中、Rは、水素原子、C1〜C10のアルキル基、フェニル基、ベンジル基又はシアノエチル基を表し、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、置換基を有してもよいC1〜C20のアルキル基、フェニル基、ベンジル基又はC1〜C20のアシル基を表す。]で表されるイミダゾール化合物とを溶媒に溶解又は懸濁して加熱した後、得られうる化合物や、(15)式(I)で表されるイソフタル酸化合物と、式(II)で表されるイミダゾール化合物とを溶媒に溶解又は懸濁して加熱した後、結晶化させて得られうる上記(14)に記載の化合物や、(16)式(I)
【0023】
【化7】

【0024】
[式中、Rは、ニトロ基又はC4のアルキル基を表す。]で表される包接化合物用ホスト化合物や、(17)C4のアルキル基が、t−ブチル基であることを特徴とする上記(16)に記載のホスト化合物に関する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の硬化触媒(包接化合物)によれば、低温での硬化反応を抑制して、一液安定性の向上を図ると共に、加熱処理を施すことにより、効果的に樹脂を硬化させることができる。

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例1に係る包接体の熱分析(TG/DTA)チャートである。
【図2】本発明の実施例1に係る包接体の温度変化による熱分析(DSC)チャートである。
【図3】本発明の実施例1に係る包接体の温度固定(80℃)での熱分析(DSC)チャートである。
【図4】本発明の実施例2に係る包接体の熱分析(TG/DTA)チャートである。
【図5】本発明の実施例2に係る包接体の温度変化による熱分析(DSC)チャートである。
【図6】本発明の実施例2に係る包接体の温度固定(80℃)での熱分析(DSC)チャートである。
【図7】本発明の実施例4に係る包接体の熱分析(TG/DTA)チャートである。
【図8】本発明の実施例4に係る包接体の温度変化による熱分析(DSC)チャートである。
【図9】本発明の実施例4に係る包接体の温度固定(80℃)での熱分析(DSC)チャートである。
【図10】2−ウンデシルイミダゾールのみの熱分析(TG−DTA)チャートである。
【図11】本発明の実施例5に係る包接体の熱分析(TG/DTA)チャートである。
【図12】2−ウンデシルイミダゾールとエポキシ樹脂の温度変化による熱分析(DSC)チャートである。
【図13】本発明の実施例5に係る包接体とエポキシ樹脂の温度変化による熱分析(DSC)チャートである。
【図14】2−ヘプタデシルイミダゾールのみの熱分析(TG−DTA)チャートである。
【図15】本発明の実施例6に係る包接体の熱分析(TG/DTA)チャートである。
【図16】2−ヘプタデシルイミダゾールとエポキシ樹脂の温度変化による熱分析(DSC)チャートである。
【図17】本発明の実施例6に係る包接体とエポキシ樹脂の温度変化による熱分析(DSC)チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の包接化合物としては、式(I)で表されるイソフタル酸化合物と、式(II)で表されるイミダゾール化合物とを少なくとも含む包接化合物であれば特に制限されるものではなく、溶媒等の第3成分を含んでもよく、該第3成分は、40モル%以下であることが好ましく、35モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることがさらに好ましく、10モル%以下であることが特に好ましく、第3成分を含まない式(I)で表されるイソフタル酸化合物と式(II)で表されるイミダゾール化合物とからなる包接化合物であることが最も好ましい。本発明において包接化合物とは、2種又は3種以上の分子が共有結合以外の結合により結合した化合物をいい、より好ましくは、2種又は3種以上の分子が共有結合以外の結合により結合した結晶性化合物をいう。式(I)で表されるイソフタル酸化合物と、式(II)で表されるイミダゾール化合物とを含む本発明の包接化合物は、式(I)で表されるイソフタル酸化合物と、式(II)で表されるイミダゾール化合物とから形成される塩とも言うことができる。
本発明の包接化合物は、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ・ポリエステル樹脂等の樹脂硬化剤として使用することができ、特にエポキシ樹脂の硬化剤として好適に使用することができる。また、本発明の包接化合物は、溶媒に溶解した液状のものであってもよいが、(溶媒中で析出する)粉体状のものが好ましい。粉体状であることにより、例えば、粉体塗料に使用することができる。
【0028】
式(I)で表されるイソフタル酸化合物について説明する。式中、Rは、C1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基、ニトロ基又は水酸基を表す。
【0029】
C1〜C6のアルキル基としては、C1〜C4のアルキル基であることが好ましく、置換基を有していてもよい。C1〜C6のアルキル基としては、具体的に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、シクロプロピルメチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、ネオペンチル基、1−エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、4−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基等を挙げることができる。
【0030】
C1〜C6のアルコキシ基としては、C1〜C4のアルコキシ基であることが好ましく、置換基を有していてもよい。C1〜C6のアルコキシ基としては、具体的に、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペントキシ基、イソペントキシ基、2−メチルブトキシ基、1−エチルプロポキシ基、2−エチルプロポキシ基、ネオペントキシ基、ヘキシルオキシ基、4−メチルペントキシ基、3−メチルペントキシ基、2−メチルペントキシ基、3,3−ジメチルブトキシ基、2,2−ジメチルブトキシ基、1,1−ジメチルブトキシ基、1,2−ジメチルブトキシ基、1,3−ジメチルブトキシ基、2,3−ジメチルブトキシ基等を挙げることができる。
【0031】
具体的に、(I)で表されるイソフタル酸化合物としては、5−t−ブチルイソフタル酸や5−ニトロイソフタル酸を好ましく例示することができる。
【0032】
次に、式(II)で表されるイミダゾール化合物について説明する。式中、Rは、水素原子、C1〜C10のアルキル基、フェニル基、ベンジル基又はシアノエチル基を表し、水素原子であることが好ましい。
【0033】
C1〜C10のアルキル基としては、C1〜C6のアルキル基であることが好ましく、置換基を有していてもよい。C1〜C10のアルキル基としては、具体的に、上記したアルキル基の他に、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等を挙げることができる。また、フェニル基、ベンジル基は、置換基を有していてもよい。
【0034】
〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、置換基を有してもよいC1〜C20のアルキル基、フェニル基、ベンジル基又はC1〜C20のアシル基を表し、より好ましくは、それぞれ独立して、水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、置換基を有してもよいC1〜C17のアルキル基、フェニル基、ベンジル基又はC1〜C17のアシル基を表し、さらに好ましくは、それぞれ独立して、水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、置換基を有してもよいC1〜C10のアルキル基、フェニル基、ベンジル基又はC1〜C10のアシル基を表す。C1〜C20のアルキル基については上述の通りである。置換基を有してもよいC1〜C20のアシル基としては、置換基を有してもよいC1〜C10のアシル基であることが好ましく、置換基を有してもよいC1〜C6のアシル基であることがより好ましく、具体的に、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ベンゾイル基等を挙げることができる。
アルキル基、フェニル基、ベンジル基、アシル基が有していてもよい置換基としては、少なくとも式(I)で表されるイソフタル酸化合物と、式(II)で表されるイミダゾール化合物とを構成要素として含む固体化合物が得られうる限り特に制限されず、例えば、ヒドロキシ基を好ましく例示することができる。
【0035】
具体的に、式(II)で表されるイミダゾール化合物としては、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールを挙げることができ、粉末状の包接化合物の形成の容易さから、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾールが好ましく、さらに一液安定性を考慮すると、2−エチル−4−メチルイミダゾールが特に好ましい。
【0036】
以上のような本発明の包接化合物は、式(I)で表されるイソフタル酸化合物及び式(II)で表されるイミダゾール化合物を溶媒に添加後、必要に応じて攪拌しながら、加熱処理又は加熱還流処理を行い、析出させることにより得ることができる。また、用いる式(I)で表されるイソフタル酸化合物や式(II)で表されるイミダゾール化合物の種類等によっては、同様の操作により析出させることによって、結晶化合物が得られる。
なお、溶媒への溶解のしやすさを考慮すると、式(I)で表されるイソフタル酸化合物及び式(II)で表されるイミダゾール化合物をそれぞれ溶媒に溶解後、溶解液同士を混合することが好ましい。溶媒としては、水、メタノール、エタノール、酢酸エチル、酢酸メチル、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル等を用いることができる。本発明の包接化合物の製造時における式(I)で表されるイソフタル酸化合物及び式(II)で表されるイミダゾール化合物の添加割合としては、式(I)で表されるイソフタル酸化合物(ホスト)1モルに対して、式(II)で表されるイミダゾール化合物(ゲスト)が、0.1〜5.0モルであることが好ましく、0.5〜3.0モルであることがより好ましい。
【0037】
また、本発明の化合物としては、少なくとも式(I)で表されるイソフタル酸化合物と、式(II)で表されるイミダゾール化合物とを溶媒に溶解又は懸濁して加熱した後、得られうる化合物であれば特に制限されるものではなく、溶媒等の第3成分を含んでもよく、該第3成分は、40モル%以下であることが好ましく、35モル%以下であることがより好ましく、20モル%以下であることがさらに好ましく、10モル%以下であることが特に好ましいが、第3成分を含まないことが最も好ましい。
【0038】
本発明の化合物は、少なくとも式(I)で表されるイソフタル酸化合物と、式(II)で表されるイミダゾール化合物とを溶媒に溶解又は懸濁して加熱した後、得られうる化合物であれば特に制限されないが、少なくとも式(I)で表されるイソフタル酸化合物と、式(II)で表されるイミダゾール化合物とを溶媒に溶解又は懸濁して加熱した後、析出させて得られうる化合物であることが好ましく、少なくとも式(I)で表されるイソフタル酸化合物と、式(II)で表されるイミダゾール化合物とを溶媒に溶解又は懸濁して加熱した後、結晶化させて得られうる結晶化合物であることがより好ましい。
【0039】
式(I)で表されるイソフタル酸化合物や、式(II)で表されるイミダゾール化合物については上述のとおりである。溶媒としては、式(I)で表されるイソフタル酸化合物と、式(II)で表されるイミダゾール化合物とを溶媒に溶解又は懸濁して加熱した後、本発明の化合物を得ることを妨げない限り特に制限はなく、実際に用いる式(I)で表されるイソフタル酸化合物や、式(II)で表されるイミダゾール化合物に合わせて適当な溶媒を選択することができる。具体的な溶媒は上述したとおりである。
【0040】
本発明の化合物の製造時における式(I)で表されるイソフタル酸化合物及び式(II)で表されるイミダゾール化合物の添加割合としては、式(I)で表されるイソフタル酸化合物1モルに対して、式(II)で表されるイミダゾール化合物が、0.1〜5.0モルであることが好ましく、0.5〜3.0モルであることがより好ましい。
【0041】
本発明の化合物を製造する際に、式(I)で表されるイソフタル酸化合物及び式(II)で表されるイミダゾール化合物を、溶媒に溶解又は懸濁するが、両化合物は溶媒に溶解することが好ましい。両化合物が溶媒に溶解する場合、両化合物はその全量が溶媒に溶解する必要はなく、少なくともごく一部が溶媒に溶解すればよい。
【0042】
本発明の化合物を製造する際の加熱条件は、少なくとも式(I)で表されるイソフタル酸化合物と、式(II)で表されるイミダゾール化合物とを溶媒に溶解して加熱した後、本発明の化合物が得られうる限り特に制限されるものではないが、例えば40〜120℃の範囲内に加熱することができ、より好ましくは50〜90℃の範囲内に加熱することができる。
また、本発明の化合物を製造する際の加熱は、式(I)で表されるイソフタル酸化合物と、式(II)で表されるイミダゾール化合物とを含有する溶液又は懸濁液を撹拌しながら行わなくてもよいが、該溶液又は懸濁液を撹拌しながら行うことが好ましく、加熱還流することがより好ましい。
【0043】
本発明の化合物の製造する際における、少なくとも式(I)で表されるイソフタル酸化合物と、式(II)で表されるイミダゾール化合物とを溶媒に溶解又は懸濁して加熱した後の工程は、少なくとも式(I)で表されるイソフタル酸化合物と、式(II)で表されるイミダゾール化合物とを構成要素として含む固体化合物が得られうる限り特に制限されず、例えば、式(I)で表されるイソフタル酸化合物と、式(II)で表されるイミダゾール化合物とを溶媒に溶解して加熱した後で、単に加熱を止めることにより固体化合物を析出させてもよいが、加熱した後、室温で一晩放置することが好ましい。固体化合物を析出させた後、例えばろ過して乾燥することにより、目的とする化合物が得られる。また、用いる式(I)で表されるイソフタル酸化合物や式(II)で表されるイミダゾール化合物の種類等によっては、固体化合物を得る前述の工程と同様の操作を行うことにより、本発明の結晶化合物が得られる。
なお、本発明の化合物と同様の化合物である限り、少なくとも式(I)で表されるイソフタル酸化合物と、式(II)で表されるイミダゾール化合物とを溶媒に溶解して加熱した後、得られた化合物以外の化合物も、本発明の化合物に含まれる。
【0044】
本発明のエポキシ樹脂用硬化触媒は、本発明の包接化合物又は本発明の化合物を含有している限り特に制限はされず、例えば、他のエポキシ樹脂用硬化触媒をさらに含有してもよい。
【0045】
また、本発明のエポキシ硬化樹脂形成用組成物としては、エポキシ樹脂(成分(A))と、上記本発明の包接化合物又は本発明の化合物(成分(B))とを含有するものあれば特に制限されるものではなく、成分(B)については上述した通りである。
【0046】
成分(A)のエポキシ樹脂としては、従来公知の各種ポリエポキシ 化合物が使用でき、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパンジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、フロログリシノールトリグリシジルエーテル、トリヒドロキシビフェニルトリグリシジルエーテル、テトラグリシジルベンゾフェノン、ビスレゾルシノールテトラグリシジルエーテル、テトラメチルビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールCジグリシジルエーテル、ビスフェノールヘキサフルオロプロパンジグリシジルエーテル、1,3−ビス〔1−(2,3−エポキシプロポキシ)−1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチル〕ベンゼン、1,4−ビス〔1−(2,3−エポキシプロポキシ)−1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロメチル〕ベンゼン、4,4′−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)オクタフルオロビフェニル、フェノールノボラック型ビスエポキシ化合物等の芳香族系グリシジルエーテル化合物、アリサイクリックジエポキシアセタール、アリサイクリックジエポキシアジペート、アリサイクリックジエポキシカルボキシレート、ビニルシクロヘキセンジオキシド等の脂環式ポリエポキシ化合物、ジグリシジルフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、ジメチルグリシジルフタレート、ジメチルグリシジルヘキサヒドロフタレート、ジグリシジル−p−オキシベンゾエート、ジグリシジルシクロペンタン−1,3−ジカルボキシレート、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル化合物、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、トリグリシジルアミノフェノール、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ジグリシジルトリブロモアニリン等のグリシジルアミン化合物、ジグリシジルヒダントイン、グリシジルグリシドオキシアルキルヒダントイン、トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環式エポキシ化合物等を挙げることができる。
【0047】
本発明のエポキシ硬化樹脂形成用組成物における(A)成分及び(B)成分中の式(II)で表されるイミダゾール化合物の割合は、(A)成分であるエポキシ樹脂のエポキシ環1モルに対して、(B)成分中の式(II)で表されるイミダゾール化合物を0.01〜1.0モル含有することが好ましく、0.1〜1.0モル含有することがより好ましく、0.3〜1.0モル含有することがさらに好ましい。
【0048】
また、本発明のエポキシ硬化樹脂形成用組成物は、(A)成分及び(B)成分を混合することにより製造することができるが、十分な混合状態が形成されるよう、通常、60〜100℃程度に加熱して混合する。エポキシ硬化樹脂の製造においては、このときの温度での一液安定性が重要となる。
【0049】
また、本発明のエポキシ硬化樹脂の製造方法としては、上記エポキシ硬化樹脂形成用組成物を加熱処理して硬化させる方法であれば特に制限されるものではなく、通常、加熱処理の加熱温度としては、60〜250℃であり、好ましくは、100〜200℃であり、かかる温度において短時間で硬化することが好ましい。
【0050】
本発明の包接化合物用ホスト化合物は、式(I)で表されるイソフタル酸化合物(式中、Rは、ニトロ基又はC4のアルキル基を表す。)であれば特に制限はされず、C4のアルキル基としてはt−ブチル基が好ましい。
本発明において、包接化合物用ホスト化合物とは、1種又は2種以上の他の分子(ゲストや溶媒等)と共有結合以外の結合により結合して化合物を形成し、かつ該化合物において包接格子を形成しうる化合物をいい、より好ましくは、1種又は2種以上の他の分子(ゲストや溶媒等)と共有結合以外の結合により結合して結晶性化合物を形成し、かつ該結晶性化合物において包接格子を形成しうる化合物をいう。ここで包接格子とは、ホスト化合物同士が共有結合以外の結合により結合し、結合したホスト化合物の2分子又は3分子以上の隙間に、他の分子(ゲストや溶媒等)、又は、他の分子及びホスト化合物を共有結合以外の結合により包接しているものや、ホスト化合物と他の分子(ゲストや溶媒等)とが共有結合以外の結合により結合し、他の分子と結合したホスト化合物の2分子又は3分子以上の隙間に、ホスト化合物及び/又は他の分子(ゲストや溶媒等)を共有結合以外の結合により包接しているものをいう。なお、本発明のホスト化合物を用いて包接化合物を作製した場合、ゲスト化合物の種類等によっては、ゲスト化合物同士が共有結合以外の結合により結合する場合もありうるが、そのような事情は、本発明のホスト化合物がホスト化合物であることに影響を与えない。
包接格子の形状は、特に制限はされず、トンネル形、層状、網状等を例示することができる。
なお、本発明のホスト化合物は、包接化合物の少なくとも一部で包接格子を形成すればよく、包接格子を形成しないホスト化合物が包接化合物内に含まれていてもよいが、包接化合物の全体で包接格子を形成することが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0052】
〔実施例1〕
5−ニトロイソフタル酸 5mmol(1.05g)のメタノール溶液 20mlに、2−エチル−4−メチルイミダゾール 10mmol(1.10g)のメタノール溶液 20mlを加熱還流下、攪拌しながら加えていった。その後、加熱を止めるとすぐに結晶が析出するが、室温で一晩放置した後、ろ過・真空乾燥することによって包接体を得た(0.5g,33%)。得られた包接体をNMRで分析したところ、1:1の包接結晶であった。得られた包接結晶の熱分析(TG/DTA)チャートを図1に示す。また、得られた包接結晶の温度変化による熱分析(DSC)チャートを図2に示し、温度固定(80℃)での熱分析(DSC)チャートを図3に示す。
【0053】
〔実施例2〕
5−t−ブチルイソフタル酸 15mmol(3.33g)及び2−エチル−4−メチルイミダゾール 18mmol(1.98g,1.2eq.)をメタノール 60mlに添加し、ナスフラスコ中で攪拌して、加熱還流を30分行い、結晶を溶解させた。その後、室温で放置し析出してきた結晶をろ過し、真空乾燥することによって、包接体を得た(2.34g,47%)。得られた包接体をNMRで分析したところ、1:1の包接結晶であった。得られた包接結晶の熱分析(TG/DTA)チャートを図4に示す。また、得られた包接結晶の温度変化による熱分析(DSC)チャートを図5に示し、温度固定(80℃)での熱分析(DSC)チャートを図6に示す。
【0054】
〔実施例3〕
2−エチル−4−メチルイミダゾールを16.5mmol(1.81g,1.1eq.)とした以外は、実施例2と同様に行った(2.08g,42%)。得られた包接体をNMRで分析したところ、1:1の包接結晶であり、熱分析(TG/DTA)チャートも実施例2より得られたものと一致していた。
【0055】
〔実施例4〕
5−ニトロイソフタル酸 5mmol(1.05g)のメタノール溶液 20mlに、2−メチルイミダゾール 10mmol(0.82g)のメタノール溶液 20mlを加熱還流下、攪拌しながら加えていった。その後、加熱を止めるとすぐに結晶が析出するが、室温で一晩放置した後、ろ過・真空乾燥することによって包接体を得た(1.2g,64%)。得られた包接体をNMRで分析したところ、1:1の包接結晶であった。得られた包接結晶の熱分析(TG/DTA)チャートを図7に示す。また、得られた包接結晶の温度変化による熱分析(DSC)チャートを図8に示し、温度固定(80℃)での熱分析(DSC)チャートを図9に示す。
【0056】
〔実施例5〕
5−ニトロイソフタル酸 5mmol(1.06g)及び2−ウンデシルイミダゾール 5mmol(1.11g)をアセトン40mlに添加して加熱混合した後、一晩放置した。一晩放置した混合液をろ過・真空乾燥することによって包接体(1:1包接体)を得た(1.98g)。
2−ウンデシルイミダゾールのみの熱分析(TG−DTA)チャートを図10に示し、得られた包接結晶の熱分析(TG−DTA)チャートを図11に示す。図11のチャートにおいて2−ウンデシルイミダゾールの融点が観測されなかったので、得られた物質は包接体であると考えられる。
また、2−ウンデシルイミダゾールとエポキシ樹脂の温度変化による熱分析(DSC)チャートを図12に示し、得られた包接体とエポキシ樹脂の温度変化による熱分析(DSC)チャートを図13に示す。図12における硬化温度よりも、図13における硬化温度が高くなっており、包接することによる一液安定性の向上が伺えた。
なお、DSCは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(YD−128)に対し、イミダゾールが4%となるように混合し測定したものである。
【0057】
〔実施例6〕
5−ニトロイソフタル酸 5mmol(1.06g)及び2−ヘプタデシルイミダゾール10mmol(3.06g)をメタノール30mlに添加して加熱混合した後、一晩放置した。一晩放置した混合液をろ過・真空乾燥することによって包接体(1:2包接体)を得た(3.16g)。
2−ヘプタデシルイミダゾールのみの熱分析(TG−DTA)チャートを図14に示し、得られた包接結晶の熱分析(TG−DTA)チャートを図15に示す。図15のチャートにおいて2−ウンデシルイミダゾールの融点が観測されなかったので、得られた物質は包接体であると考えられる。
また、2−ヘプタデシルイミダゾールとエポキシ樹脂の温度変化による熱分析(DSC)チャートを図16に示し、得られた包接体とエポキシ樹脂の温度変化による熱分析(DSC)チャートを図17に示す。図16と図17では、明らかにピークが異なり、包接されたことによる差が確認できた。
なお、DSCは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(YD−128)に対し、イミダゾールが4%となるように混合し測定したものである。
【0058】
以下、図2(実施例1)、図5(実施例2)、及び図8(実施例4)に示されたチャートから反応開始温度、ピークトップ、反応終了温度を読み取ってグラフにしたもの、及び比較例の同様のグラフを表1に示す。なお、比較例の包接体は、実施例と同様に、メタノールに溶解し、再結晶して得たものである。
【0059】
【表1】

【0060】
図及び表1から、実施例に係る包接体は、反応開始温度が高くなっていることが確認でき、これにより、一液安定性が向上していることがわかる。また、実施例に係る包接体は、反応開始からピークトップまでの温度差が小さく、これにより、エポキシ環の反応性が高くなっているものと考えられる。
【0061】
また、図3(実施例1)、図6(実施例2)、及び図9(実施例4)に示されたチャートから反応開始時間、ピークトップ、反応終了時間を読み取ってグラフにしたもの、及び比較例の同様のグラフを表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
温度固定した80℃は、エポキシ樹脂と包接体との混合の際の一般的な温度であり、この温度での反応の進行を抑えることが極めて重要になる。図及び表2から、実施例に係る包接体は、反応開始及び反応ピークまでの時間が極めて長くなっており、一液安定性は極めて高いものであることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】




[式中、Rは、C1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基、ニトロ基又は水酸基を表す。]で表されるイソフタル酸化合物からなる包接化合物用ホスト化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−232994(P2012−232994A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−157213(P2012−157213)
【出願日】平成24年7月13日(2012.7.13)
【分割の表示】特願2006−187278(P2006−187278)の分割
【原出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】