説明

包装用多層フィルム構造体及び該構造体で形成した袋

【発明の詳細な説明】
本発明は、包装に有用な可撓性で熱可塑性の多層収縮性フィルム構造体と、該フィルム構造体で形成した袋類とに係わる。本発明は特に、より優れた加工性を有する前記タイプのフィルム構造体に係わる。
多層フィルムは、選れたヒートシール適性、優れたシール耐性、十分な熱収縮性といった望ましい性質を合わせもち、時には腐敗し易い食糧品の包装及び保存に使用できるように優れた酸素遮断性も有する包装用フィルムを形成するために、現在広く使用されている。
この種の多層フィルムは基本的に、使用時に一番内側に配置されるヒートシール層と、心の酸素遮断層と、外側の熱可塑性層とを含むのが普通であり、場合によっては更に1つ又は複数の熱可塑性層をも含み得る。この熱可塑性層は通常、前記した外側熱可塑性層と協働して、フィルムに機械的強度と使用時の乱暴な取り扱いに対する耐性とを与える構造層の役割を果たす。
公知の包装用フィルムには、例えばEP−A−217252に開示されているものがある。この先行技術のフィルムは基本的に、密度の極めて低いポリエチレン(VLDPE)の層と、心の酸素遮断層と、1つ又は複数の熱可塑性ポリマー、特にオレフィンポモポリマーもしくはコポリマーの層とを含む。このタイプのフィルムは、収縮率及び許容収縮温度の面から見て優れた収縮特性を有する。
米国特許第4,640,856号に記載の公知の多層フィルムは、ヒートシールVLDPE層及び酸素遮断層の他に、少なくとも1つの外側VLDPE層を含む。
EPA−217 252に開示されているフィルムは極めて有利な収縮特性を有するものの、加工性に難点があることが判明した。特に、一般的な方法でチューブ状フィルム構造体の形態に製造した場合にはカール現象を起こすため、側方をシールして袋を形成する時に問題が生じる。この先行技術のフィルムに見られるカール現象は次のような事実に起因すると考えられる。即ち、驚くべきことに、VLDPEは融点が約120〜125℃であるにも拘わらず90〜95℃で熱水から配向することができる。他の大部分のポリオレフィン(例えばEVA)はそれより遥かに融点に近い温度で、即ち融点より5℃程度低い温度で配向される。VLDPEと別のポリオレフィン層とを含み且つ熱水から配向される多層フィルムは、異なる材料の配向エネルギー(orientationenergy)が不均衡であることに起因すると思われるカール(curling)現象を起こす。このカール現象は、例えばチューブを横断方向又は長手方向で切断した場合に、切断点で内側にカールする傾向を見せて生起する。
一方、外側VLDPE熱可塑性層を有する米国特許第4,640,856号に記載のフィルムは、特に単位重量の小さい(例えば1kg未満)製品を包装する場合に、(顧客により)包装時に使用される密封装置のジョーに付着し易いという主な欠点を有するため、加工面で問題がある。
本発明の目的は、より良い加工性を有する多層フィルム構造体、特にカール現象を起こさず(カールフリー)、従って側方でシールされた袋を容易に形成できる多層フィルム構造体を提供することにある。
本発明の別の目的は、包装時にヒートシール装置のジョーに付着する傾向を全く示さず、従って高速自動包装装置での使用が簡単なカールフリー多層フィルムを提供することにある。
本発明の更に別の目的は、優れた加工性と優れた熱収縮性とを合わせもつ多層フィルム及び袋を提供することにある。
本発明ではこれらの目的及び他の目的を達成すべく、密度の極めて低いポリエチレン(VLDPE)からなるヒートシール層と心の酸素遮断層と外側の熱可塑性層とを基本層として含む熱可塑性包装用多層フィルムであって、更に、前記酸素遮断層と前記外側熱可塑性層との間に挿入された中間VLDPE層も含むことを特徴とする加工特性が改良された多層フィルムを提供する。
本発明の多層フィルムに使用し得るVLDPEポリマーは前出のEPA−217 252に記載のものと類似しており、炭素原子数4〜8のα−オレフィンを約10〜25重量%含むエチレンコポリマーからなる。この種のコポリマーは密度が極めて低く、920kg/m3以下である。
本発明で有用なVLDPE層は、前述のごときVLDPEポリマーか、又はこのポリマーにVLDPEと相容性の別のポリマーを夫々の層50重量%までの割合で混合したものからなり得る。前記別のポリマーは、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、線状高密度ポリエチレン(LHDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレン/酢酸ビニル(EVA)コポリマー、酸改質EVA、ポリプロピレン、エチレン/プロピレンコポリマー、イオノマー及びエチレン/C1〜C8アルキルアクリレートコポリマーから選択し得る。この種のVLDPEポリマーは、EPA−120 503又はPlastics Technology,September 1984,113ページもしくはOctober 1984,13ページにも開示されている。
本発明の好ましい実施態様による多層フィルムは、前記した基本層の他に、ヒートシール層と酸素遮断層との間に配置された少なくとも1つの別の熱可塑性層を含む。
本発明のフィルムに含まれる1つ又は複数の熱可塑性層は、密度920kg/m3以下の線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、線状高密度ポリエチレン(LHDPE)のようなポリエチレン;エチレン/酢酸ビニル(EVA)及びエチレン/アルキルアクリレート[アルキル部分の炭素原子数が1〜8]コポリマー、例えばエチレン/アクリル酸ブチル(EBA)コポリマー、並びにエチレン/アクリル酸(EAA)コポリマーのようなエチレンコポリマー;又はイオノマーポリマーで形成し得る。
外側熱可塑性層及び少なくとも1つの別の熱可塑性層が互いに同じでも異なっていてもよく、好ましくは、酢酸ビニルをコポリマーの4〜30重量%含むEVAコポリマーから選択する。
本発明で有用な酸素遮断層は、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)又はエチレン/ビニルアルコール(EVOH)コポリマーを含み得るが、好ましくはPVDCからなる。
PVDCからなる好ましい酸素遮断層を使用すると、PVDCと中間VLDPE層とが驚くほど良く結合し(平均40g/25mm以上)一貫して、EVAの酢酸ビニル公称含量が8〜10重量%である従来の多層フィルムのPVDC/EVA間の結合力を凌駕する。
従って、本発明の好ましい実施態様による多層フィルムは、VLDPEヒートシール層と、熱可塑性層と、PVDC酸素遮断層と、VLDPE中間層と、外側熱可塑性層を含む。
本発明の別の実施態様によるフィルムは、VLDPEシール層と、熱可塑性層と、一般的接着剤層と、EVOH酸素遮断層と、接着剤層と、VLDPE中間層と、外側熱可塑性層とを含む。変形例として、VLDPEとEVOHに良く結合するポリマーとのブレンドをEVOHと外側熱可塑性層との間に使用してもよい。
接着剤層として使用されるか、又はEVOHに対する結合性を大きくすべくVLDPEにブレンドして使用されるポリマーは、公知のように、エチレンとカルボン酸ビニル(例えば酢酸ビニル)もしくはアクリル酸エステルのコポリマー(例えばEVAもしくはEAAコポリマー)をエチレン系不飽和カルボン酸もしくはその無水物で改質することによって得られる改質コポリマー、又はこの改質コポリマーを更に金属化合物で改質することによって得られるポリマー材料を含み得る。
本発明の多層フィルムは一般的な同時押出し法によって製造できる。本発明の実施態様の1つでは、シール層を構成するエチレンコポリマーを化学的又は物理的手段によって架橋させることにより、その収縮特性及び機械的特性を改善し得る。但し、架橋させなくても極めて良質の包装用フィルムが得られるため、このような架橋は必ずしも必要ではない。高エネルギー電子のような物理的手段によって架橋を生起させ且つ酸素遮断層としてPVDCを使用する場合には、PVDCが高エネルギー電子への暴露によって劣化し得るため、心層をシール層(又はシール層及び熱可塑性中間層)に重ねる前に架橋を行う必要がある。PVDCではなくEVOHを酸素遮断層として使用する場合には、多層フィルム全体を架橋処理し得る。
同時押出し又は積層後のフィルムは通常、所望の収縮性を得るべく、長手方向及び横断方向に配向される。チューブ状フィルムを押出しによって製造する場合には、公知の気泡(ブロー)技術を用いて配向を行い、更に引張りによってフィルムを延伸し得る。あるいは、平面状フィルムを深絞り(deep drawing)にかけることによって配向を行ってもよい。
このようにして形成したフィルムはそのままで包装に使用でき、又は適当な長さに切断してVLDPEヒートシール層を向かい合わせにした状態で少なくとも2つの部分に沿ってシールすることにより袋状にすることもできる。
本発明の種々の多層フィルム構造体の具体例を下記の表に示す。この表には、これらのフィルムの加工性も2つの先行技術による参考フィルムと比較して示した。
実施例 表に示したフィルム構造体を下記の方法で製造する。
ヒートシール層と別の(補足的)熱可塑性層とからなる予め形成しておいた多層基板上に押出しを行い、事前に架橋処理してから、夫々の多層コーティングを二軸延伸(配向)にかけて熱収縮性チューブを形成する。


前記表から明らかなように、本発明の多層フィルムは加工性が著しく改善されており、カール現象を起こさず、製造時及び顧客のシール及び包装装置で行われるヒートシール時の付着の問題も生じない。また、PVDC酸素遮断層と中間VLDPE層とが驚くほど良く結合するため、乱暴な取り扱いに対する耐性(耐酷使性)及び離層強さが多層構造対全体にわたって改善される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】密度の極めて低いポリエチレ(VLDPE)からなるヒートシール層と、心の酸素遮断層と、外側の熱可塑性層とを含む包装用熱可塑性多層フィルムであって、更に、前記酸素遮断層と前記外側熱可塑性層との間に挿入された中間VLDPE層、及び、前記ヒートシール層と前記遮断層との間に配置された少なくとも1つの別の熱可塑性層をも含むことを特徴とする加工性が改良された包装用熱可塑性多層フィルム。
【請求項2】前記外側熱可塑性層及び少なくとも1つの別の熱可塑性層が夫々独立して、低密度及び高密度線状ポリエチレン;エチレンコポリマー、例えばエチレン/酢酸ビニル(EVA)及びエチレン/アルキルアクリレート[アルキル基の炭素原子数が1〜8]コポリマー並びにエチレン/アクリル酸コポリマー;イオノマーポリマーから選択される請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】エチレン/アルキルアクリレートコポリマーがエチレン/アクリル酸ブチル(EBA)コポリマーである請求項2に記載のフィルム。
【請求項4】前記酸素遮断層がポリ塩化ビニリデン(PVDC)及びエチレン/ビニルアルコール(EVOH)コポリマーから選択される請求項1から3のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項5】前記酸素遮断層がPVDCからなる請求項4に記載のフィルム。
【請求項6】前記外側熱可塑性層及び少なくとも1つの別の熱可塑性層が夫々独立して、酢酸ビニル含量4〜30重量%のエチレン/酢酸ビニルコポリマーから選択される請求項1から5のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項7】基本的に、VLDPEヒートシール層と、心のPVDC酸素遮断層と、VLDPE中間層と、外側EVA層とを含む請求項1に記載のフィルム。
【請求項8】基本的に、VLDPEヒートシール層と、心のEVOH酸素遮断層と、VLDPE中間層と、外側EVA層と、前記EVOH層及びその隣接層の間に挿入された接着剤層とを含む請求項1に記載のフィルム。
【請求項9】基本的に、VLDPEヒートシール層と、接着剤層と、心のEVOH酸素遮断層と、VLDPE及び接着剤ポリマーのブレンドからなる中間層と、外側EVA層とを含む請求項1に記載のフィルム。
【請求項10】前記接着剤ポリマー及び前記接着剤層が、エチレンとカルボン酸ビニルもしくはアクリル酸エステルとのコポリマーをエチレン系不飽和カルボン酸もしくはその無水物で改質することによって得られる改質コポリマー、又はこの改質コポリマーを更に金属化合物で改質することによって得られるポリマー材料からなる請求項8又は9に記載のフィルム。
【請求項11】VLDPE層が、分子当たり炭素原子数4〜8の少なくとも1種類のα−オレフィンを10〜25重量%含み、0.920kg/m3未満の密度を有するエチレン/α−オレフィンコポリマーから選択したVLDPEポリマーである請求項1から10のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項12】前記VLDPE層が、前記VLDPEポリマーとこれに相容性の別のポリマーとのブレンドからなり、このブレンドの前記別のポリマーの含量が当該VLDPE層の50重量%以下であり、この別のポリマーが線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、線状高密度ポリエチレン(LHDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレン/酢酸ビニル(EVA)コポリマー、酸改質EVA、ポリプロピレン、エチレン/プロピレンコポリマー、イオノマー及びエチレン/C1〜C8アルキルアクリレートコポリマーから選択される請求項11に記載のフィルム。
【請求項13】二軸延伸によって熱収縮性を得た請求項1に記載のフィルム。
【請求項14】前記VLDPEヒートシール層を向かい合わせにしてフィルムの少なくとも2つの部分をシールすることにより請求項1から13のいずれか一項に記載のフィルムから形成した袋。

【特許番号】第2870886号
【登録日】平成11年(1999)1月8日
【発行日】平成11年(1999)3月17日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−299445
【出願日】平成1年(1989)11月17日
【公開番号】特開平2−182453
【公開日】平成2年(1990)7月17日
【審査請求日】平成8年(1996)11月7日
【出願人】(999999999)ダブリユ・アール・グレイス・アンド・カンパニー−コネテイカツト
【参考文献】
【文献】特開 昭63−92451(JP,A)
【文献】特開 昭61−233537(JP,A)
【文献】特開 昭62−234930(JP,A)
【文献】特開 昭63−309440(JP,A)