説明

化合物、光電変換素子及び光電気化学電池

【課題】化合物、光電変換素子及び光電気化学電池を提供すること。
【解決手段】式(II)で表される化合物[化合物(II)と略す。]を金属原子に配位させて得られる錯体化合物(I)。


[式中、R1、R2、R3及びR4は、酸性基の塩、酸性基、水素原子叉は置換基を表し、少なくとも一つは酸性基又はその塩を表す。R3及びR4は互いに結合していてもよく、Aは、窒素原子、酸素原子、炭素原子、ケイ素原子、硫黄原子、又はセレン原子を含む基を表し、mは1又は2の整数であり、a、b、c及びdは、それぞれ独立に、0〜2の整数を表し、a+b+c+d≧1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、該化合物を含む光増感色素、該色素を含む光電変換素子、及び該光電変換素子を含む太陽電池などの光電気化学電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止のために大気中に放出されるCOの削減が求められている。COの削減の有力な手段として、例えば、家屋の屋根にpn接合型のシリコン系太陽電池などの光電気化学電池を用いるソーラーシステムへの切り替えが提唱されている。しかしながら、上記シリコン系光電気化学電池に用いられる単結晶、多結晶及びアモルファスシリコンは、その製造過程において高温、高真空条件が必要なために高価であるという問題があった。
一方、特許文献1には、製造が容易な光増感色素を酸化チタンなどの半導体微粒子の表面に吸着させた光電変換素子を含む光電気化学電池が提案され、具体的には式(1)で表される化合物が優れた光電変換効率を示すことが報告されている。

【0003】
【特許文献1】特表平7−500630号公報、適用例A
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らが光増感色素(1)を含む光電気化学電池について検討したところ、可視光領域から長波長領域、特に750nm以上の長波長領域における光電変換効率が十分ではないことが明らかになった。
本発明の目的は、可視光領域から長波長領域の広い領域での光電変換効率の高い光電変換素子を与える化合物、該化合物を含む光電変換素子用色素、該色素を含む光電変換素子、及び、該素子を含む光電気化学電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、式(II)で表される化合物[化合物(II)と略す。]を金属原子に配位させて得られる錯体化合物(I);該錯体化合物(I)を含む光増感色素;該色素を含む光電変換素子;並びに該素子を含む光電気化学電池である。


[式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に、酸性基の塩、酸性基、水素原子、叉は置換基を表し、少なくとも一つは酸性基叉はその塩を表す。R3及びR4は互いに結合していてもよく、Aは、窒素原子、酸素原子、炭素原子、ケイ素原子、硫黄原子、又はセレン原子を含む基を表し、mは1〜2の整数であり、a、b、c及びdは、それぞれ独立に、0〜2の整数を表し、a+b+c+d≧1である。]
【発明の効果】
【0006】
本発明の錯体化合物(I)は、可視光領域から長波長領域において光電変換効率の高い光電変換素子を与える化合物である。中でも、750nm以上の長波長領域における光電変換効率に著しく優れる。さらに、かかる錯体化合物は製造が容易で、光電気化学電池用などの光電変換素子に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は金属原子と、前記式(II)で表される化合物を含む錯体化合物(I)である。
金属原子としては、第4族のTi、Zr、第8族のFe、Ru、Os、第9族のCo、Rh、Ir、第10族のNi、Pd、Pt、第11族のCu、第12族のZnなどが挙げられるが、好ましくは第8族の金属原子、より好ましくはRuである。
【0008】
式(I)及び(II)中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に、酸性基の塩、酸性基、水素原子、叉は置換基を表し、少なくとも一つは酸性基又はその塩を表す。酸性基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基(−SO3H)、スクアリン酸基、リン酸基(−PO3H2)、ホウ酸基(−B(OH)2)、ケイ酸基(−Si(OH)2)等が挙げられる。特にカルボキシル基が好適である。

塩としては、有機塩基との塩が挙げられ、具体的にはテトラアルキルアンモニウム塩、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩などが挙げられる。
【0009】
a、b、c及びdはそれぞれ独立に0〜2の整数を表し、a+b+c+d≧1である。特に好ましくはR1及びR2に少なくとも1つの酸性基又はその塩が含まれる。
【0010】
式(I)及び(II)中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に、酸性基の塩、酸性基、水素原子、置換基を表し、少なくとも一つは酸性基又はその塩を表す。置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数7〜20のアリールアルキルオキシ基、炭素数7〜20のアリールオキシアルキル基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数2〜20のアルキルチオアルキル基、炭素数6〜20のアリールチオ基、炭素数7〜20のアリールアルキルチオ基、炭素数7〜20のアリールチオアルキル基、炭素数1〜20のアルキルスルホニル基、炭素数6〜20のアリールスルホニル基、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で2置換されたアミノ基、シアノ基、式(III)及び式(IV)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基が挙げられる。

[式中、Arは置換基を有していてもよいアリール基を表し、Q及びQが、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、叉はシアノ基を表し、pは1〜3の整数を表す。]
【0011】
式(III)又は式(IV)中、Arは以下に示す芳香族基を表す。
Arの具体例を下記式で示した。尚、下記例示は、炭素原子上に置換される水素原子の中で2つの水素原子が結合部位となることを表す。


【0012】
式(III)又は式(IV)中、pは1〜3の整数を表し、好ましくはp=1である。
E体、Z体のいずれでもよく、E体とZ体の混合物であってもよい。
式(III)又は式(IV)で表される基において、Arの結合部位は、置換基と結合していても不飽和炭化水素基と結合していてもよい。
*印は置換基及び不飽和炭化水素基との結合部位を表す。ヘテロ原子を含むArの場合は、ヘテロ原子に近い部位(窒素原子よりも硫黄原子、酸素原子を優先)又は、両隣にヘテロ原子を有する部位で置換基と結合している。
Arの置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数7〜20のアリールアルキルオキシ基、炭素数7〜20のアリールオキシアルキル基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数2〜20のアルキルチオアルキル基、炭素数6〜20のアリールチオ基、炭素数7〜20のアリールアルキルチオ基、炭素数7〜20のアリールチオアルキル基、炭素数1〜20のアルキルスルホニル基、炭素数6〜20のアリールスルホニル基、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で2置換されたアミノ基、シアノ基等が挙げられる。
【0013】
アルキル基は、炭素数1〜20、好ましくは1〜12である。具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、n−ペンチル基、n−オクチル基、n−ノニル基などの直鎖状アルキル基;i−プロピル基、t−ブチル基、2−エチル−ヘキシル基などの分枝状アルキル基;シクロプロピル基、シクロヘキシル基などの脂環式アルキル基等が挙げられる。
アリール基は、炭素数6〜20であり、具体例としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
アルキル基又はアリール基に含まれる炭素原子は、酸素原子、硫黄原子、窒素原子に置換されていてもよい。
【0014】
アルキル基又はアリール基で2置換されたアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、メチルエチルアミノ基、メチルヘキシルアミノ基、メチルオクチルアミノ基などの直鎖状又は分枝状のアルキル基を含むジアルキルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジナフチルアミノ基などのジアリールアミノ基などが挙げられる。
【0015】
3及びR4は互いに結合していてもよい。また、例えば、c=2(又はd=2)の場合にはR3同士が(又はR同士が)結合していてもよい。
c及びdはそれぞれ独立に0〜2の整数を表す。
1、R2、R3及びR4が置換基の場合、中でも、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、式(III)で表される基が好ましく、特に、炭素数1〜20のアルキル基、式(III)で表される基が好ましい。
さらに好適には、R3及びR4の少なくとも一方に上記基を有することが好ましい。
【0016】
式(I)及び(II)において、Aは、窒素原子、酸素原子、炭素原子、ケイ素原子、硫黄原子、又はセレン原子を含む基を表す。
mは、1〜2の整数であり、好ましくは、m=1である。
−(A)−の具体例としては、−N(Y)−、−O−、−C(Y1)(Y2)−、−Si(Y)(Y)−[ここで、Y及びYはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基を表す。])、−S−、−SO−、−SO−、−Se−等が挙げられ、好ましくは−S−が挙げられる。
炭素数1〜20のアルキル基は、具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、n−ペンチル基、n−オクチル基、n−ノニル基などの直鎖状アルキル基;i−プロピル基、t−ブチル基、2−エチル−ヘキシル基などの分枝状アルキル基;シクロプロピル基、シクロヘキシル基などの脂環式アルキル基等が挙げられる。
炭素数6〜20のアリール基は、具体例としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0017】
化合物(II)の製造方法としては、Aが硫黄原子の場合は、一方のハロゲン原子をSHに置換し、塩基存在下で反応させることで、硫黄原子で架橋された目的化合物(m=1、2、以下S架橋体という場合がある)を得ることができる(化合物(II)の場合、式(2)の下式で表すことができる)。また、AがSO、SOの場合はS架橋体をm−クロロ過安息香酸等で酸化することにより得ることができる。

【0018】
化合物(II)の製造方法において、酸性基がカルボキシル基である場合にはエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル)等にして保護してからカップリング反応したのち、加水分解してカルボキシル基に戻してもよい。
【0019】
化合物(II)の具体例としては、下式及び表1で表される化合物(II-1)〜(II-62)が挙げられる。

【0020】
【表1】

【0021】
本発明の錯体化合物(I)は、金属原子に、前記式(II)で表される化合物を配位させて得られる。
また、本発明の錯体化合物(I)は、中心原子が金属原子であり、配位子の1つが前記式(II)で表される化合物である。
前記式(II)で表される化合物以外の補助配位子が配位していてもよく、錯体化合物(I)に含まれる補助配位子としては、例えば、イソチオシアネート(−N=C=S、以下、NCSという場合がある)、チオシアネート(−S−C≡N、以下、SCNという場合がある)、ジケトナート、クロロ、ブロモ、ヨード、シアノ、水酸基等が挙げられ、好ましくはNCSもしくはSCNである。ハロゲンアニオンなどのカウンターアニオンを伴い
【0022】
、電荷を中和した形で存在する場合もある。
以下に、錯体化合物(I)の製造方法としては、金属原子がRuである場合を例にとって説明する。
Ru試薬をN,N-ジメチルホルムアミドやアルコール溶媒に溶解し、化合物(II)を40〜180℃程度で混合させたのち、必要に応じて、補助配位子を与える塩を混合させ、得られた反応溶液から再結晶、クロマトグラフィーなどで精製して得る方法などが挙げられる。ここで、Ru試薬としては、2価及び3価のRu試薬が用いられ、具体的には、RuCl3、[RuCl2(p-cymene)]2やRuCl2(DMSO)4などが例示される。錯体化合物(I)の具体例としては、下式、表2、表3、表4及び表5で表される化合物(I-1)〜(I-159)が挙げられる。














【0023】
【表1】















【0024】
【表2】













【0025】
【表3】













【0026】
【表4】

【0027】
本発明の光増感色素は、前記の錯体化合物(I)を含む色素である。色素としては、錯体化合物(I)のみであっても、さらに錯体化合物(I)とは異なる種類の化合物が含有されていてもよい。
錯体化合物(I)と混合してもよい色素としては、波長 300〜700nm付近に吸収を持つ金属錯体や有機色素などを挙げることができる。
混合してもよい金属錯体の具体例としては、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニンなどの金属フタロシアニン、クロロフィル、ヘミン、特開平1−220380号や特表平5−504023号に記載のルテニウム、オスミウム、鉄、亜鉛の錯体などが挙げられる。
ルテニウム錯体をさらに詳しく例示すれば、cis-ビス(イソチオシアネート)ビス(2,2'-ビピリジル-4,4'-ジカルボキシレート)-ルテニウム(II) ビス-テトラブチルアンモニウム、cis-ビス(イソチオシアネート)ビス(2,2'-ビピリジル-4,4'-ジカルボキシレート)-ルテニウム(II)、トリス(イソチオシアネート)−ルテニウム(II)-2,2':6',2"-テーピリジン-4,4',4"-トリカルボン酸トリス−テトラブチルアンモニウム、cis-ビス(イソチオシアネート)(2,2'-ビピリジル-4,4'-ジカルボキシレート)(2,2'-ビピリジル-4,4'-ジノニル)ルテニウム(II)などが挙げられる。
【0028】
有機色素としては、例えば、メタルフリーフタロシアニン、シアニン系色素、メロシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン色素、クマリン系色素、インドリン系等の有機色素、スクアリリウム系色素などが挙げられる。
シアニン系色素としては、具体的には、NK1194、NK3422(いずれも日本感光色素研究所製)などが例示される。
メロシアニン系色素としては、具体的には、NK2426、NK2501(いずれも日本感光色素研究所製)が挙げられる。
キサンテン系色素としては、例えば、ウラニン、エオシン、ローズベンガル、ローダミンB、ジブロムフルオレセインなどが挙げられる。
トリフェニルメタン色素としては、例えば、マラカイトグリーン、クリスタルバイオレットが挙げられる。
クマリン系色素としては、NKX−2677(林原生物化学研究所製)等の以下に示した構造部位を含む化合物が挙げられる。
インドリン系等の有機色素として、具体的には以下に示した構造部位を含む化合物などが例示される。
スクアリリウム系等の有機色素として、具体的には以下に示した構造部位を含む化合物などが例示される。
【0029】

【0030】
ここで、光電変換素子に用いられる半導体微粒子の一次粒径は、通常、1〜5000nm程度、好ましくは5〜300nm程度である。反射による光電変換効率の向上を目的として、一次粒径の異なる半導体微粒子を混入させてもよい。また、チューブや中空形状の微粒子を用いてもよい。
【0031】
ここで、光電変換素子に用いられる半導体微粒子の一次粒径は、通常、1〜5000nm程度、好ましくは5〜300nm程度である。反射による光電変換効率の向上を目的として、一次粒径の異なる半導体粒子を混入させてもよい。また、チューブや中空形状の微粒子を用いてもよい。
【0032】
半導体微粒子を構成する材料化合物としては、例えば、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ストロンチウム、酸化インジウム、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ガリウム、酸化ニッケル、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸ナトリウム等の金属酸化物;
ヨウ化銀、臭化銀、ヨウ化銅、臭化銅等の金属ハロゲン化物;
硫化亜鉛、硫化チタン、硫化インジウム、硫化ビスマス、硫化カドミウム、硫化ジルコニウム、硫化タンタル、硫化モリブデン、硫化銀、硫化銅、硫化スズ、硫化タングステン、硫化アンチモン等の金属硫化物;
セレン化カドミウム、セレン化ジルコニウム、セレン化亜鉛、セレン化チタン、セレン化インジウム、セレン化タングステン、セレン化モリブデン、セレン化ビスマス、セレン化鉛等の金属セレン化物;
テルル化カドミウム、テルル化タングステン、テルル化モリブデン、テルル化亜鉛、テルル化ビスマス等の金属テルル化物;
リン化亜鉛、リン化ガリウム、リン化インジウム、リン化カドミウム等の金属リン化物;
ガリウム砒素、銅−インジウム−セレン化物、銅−インジウム−硫化物、シリコン、ゲルマニウム等の材料化合物が挙げられる。
さらに、酸化亜鉛/酸化スズ、酸化スズ/酸化チタンのような二種以上の材料化合物の混合物であってもよい。
【0033】
中でも、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ストロンチウム、酸化インジウム、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ガリウム、酸化ニッケル、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸ナトリウム、酸化亜鉛/酸化スズ、酸化スズ/酸化チタン等の金属酸化物が、比較的安価で入手しやすく、色素にも染色されやすいことから好ましく、特に、酸化チタンが好適である。
【0034】
本発明の光電変換素子に用いられる導電性基板(図1における8及び9)としては、導電性物質そのもの、又は、基板に導電性物質を重ねたものなどを用いることができる。導電性物質としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム、チタン、パラジウム又は鉄等の金属や、該金属のアロイ、或いはインジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの等の導電性金属酸化物、炭素、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリアニリン等の導電性高分子などが挙げられる。導電性高分子は、例えば、パラトルエンスルフォン酸等がドープされていてもよい。
入射した光を閉じ込め、有効に利用するために、導電性基板は、その表面にテクスチャー構造を有するものが好ましい。導電層(図1における2及び6)は抵抗が低いほどよく、高透過性(350nmより長波長側で、透過率が80%以上)であることが好ましい。導電性基板(図1における)8及び9としては、ガラス又はプラスチックに導電性の金属酸化物を塗布したものが好ましい。中でも、フッ素をドーピングした二酸化スズからなる導電層を積層した導電性ガラスが特に好ましい。プラスチック基板とする場合は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)、トリアセチルセルロース(TAC)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリアリレート(PAR);アートン(JSRの登録商標)、ゼオノア(日本ゼオンの登録商標)、アペル(三井化学の登録商標)やトーパス(Ticona社の登録商標)等の環状ポリオレフィン(COP);ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルフォン(PSF)、ポリアミド(PA)等が用いられる。
これらの中でも、インジウム−スズ複合酸化物からなる導電層を堆積した導電性PETが、抵抗が低く、透過性も良く、入手もしやすいことから特に好ましい。
【0035】
導電性基板上に半導体微粒子層を形成する方法としては、半導体微粒子をスプレー噴霧等で直接、導電性基板上に薄膜として形成する方法;導電性基板を電極として電気的に半導体微粒子薄膜を析出させる方法;半導体微粒子のスラリーを導電性基板上に塗布した後、乾燥、硬化又は焼成することによって製造する方法などが例示される。
半導体微粒子のスラリーを導電性基板上に塗布する方法として、例えば、ドクターブレード、スキージ、スピンコート、ディップコートやスクリーン印刷等の手法が挙げられる。この方法の場合、スラリー中の半導体微粒子の分散状態における平均粒径は、0.01μm〜100μmであることが好ましい。スラリーを分散させる分散媒としては半導体微粒子を分散させ得るものであればよく、水、又はエタノール、イソプロパノール、t−ブタノールやテルピネオール等のアルコール溶媒;アセトン等のケトン溶媒等の有機溶媒が用いられる。これらの水や有機溶媒は混合物であってもよい。分散液には、ポリエチレングリコール等のポリマー;Triton−X等の界面活性剤;酢酸、蟻酸、硝酸や塩酸等の有機酸又は無機酸;アセチルアセトン等のキレート剤を含んでいてもよい。
スラリーを塗布した導電性基板は焼成されるが、該焼成温度は熱可塑性樹脂等の基材の融点(又は軟化点)未満であり、通常は、焼成温度の上限は900℃であり、好ましくは600℃以下である。また、焼成時間は、通常、10時間以内である。導電性基板上の半導体微粒子層の厚みは、通常は1〜200μmであり、好ましくは5〜50μmである。
【0036】
導電性基板上に比較的低温で半導体微粒子層を形成する方法としては、水熱処理を施してポーラスな半導体微粒子層を形成するHydrothermal法(実用化に向けた色素増感光電気化学電池、第2講(箕浦秀樹)第63〜65頁、NTS社発行(2003))、分散された半導体粒子の分散液を基板に電着する泳動電着法(T.Miyasaka et al.,Chem.Lett.,1250(2002))、半導体ペーストを基板に塗布、乾燥後にプレスするプレス法(実用化に向けた色素増感光電気化学電池、第12講(萬 雄彦)第312〜313頁、NTS社発行(2003))等が挙げられる。
【0037】
半導体微粒子層の表面に、四塩化チタン水溶液を用いた化学メッキや三塩化チタン水溶液を用いた電気化学的メッキ処理を行ってもよい。このことにより、半導体微粒子の表面積を増大させたり、半導体微粒子近傍の純度を高めたり、半導体微粒子表面に存在する鉄等の不純物を覆い隠したり、又は、半導体微粒子の連結性、結合性を高めたりすることができる。
半導体微粒子は多くの光増感色素を吸着することができるように表面積の大きいものが好ましい。このため、半導体微粒子層を基板上に塗布した状態での表面積は、投影面積に対して10倍以上であることが好ましく、さらに100倍以上であることが好ましい。この上限は、通常、1000倍程度である。
半導体微粒子層は、微粒子1個の単層に限らず、粒径の異なる層等を複数重ねてもよい。
【0038】
半導体微粒子への本発明の光増感色素の吸着方法としては、本発明の光増感色素の溶液中に、よく乾燥した半導体微粒子を1分〜24時間程度、浸漬する方法が用いられる。光増感色素の吸着は室温で行ってもよいし、加熱還流下に行ってもよい。光増感色素の吸着は、半導体微粒子の塗布前に行ってもよく、塗布後に行ってもよく、半導体微粒子と光増感色素を同時に塗布して吸着させてもよいが、塗布後の半導体微粒子膜に光増感色素を吸着させるのがより好ましい。半導体微粒子層を加熱処理する場合の光増感色素吸着は加熱処理後に行うことが好ましく、加熱処理後、微粒子層表面に水が吸着する前に、すばやく光増感色素を吸着させる方法が特に好ましい。
半導体微粒子に付着していない光増感色素が浮遊することによる増感効果の低減を抑制するため、未吸着の光増感色素は洗浄によって除去することが望ましい。
吸着する光増感色素は1種類でもよいし、数種混合して用いてもよい。用途が光電気化学電池である場合、太陽光などの照射光の光電変換の波長域をできるだけ広くするように、混合する光増感色素を選ぶことが好ましい。また、光増感色素の半導体微粒子に対する吸着量は、半導体微粒子1gに対して0.01〜1ミリモルが好ましい。このような色素量とすると、半導体微粒子における増感効果が十分に得られ、半導体微粒子に付着していない光増感色素が浮遊することによる増感効果の低減を抑制する傾向にあることから好ましい。
【0039】
光増感色素同士が会合や凝集等の相互作用することを抑制する目的で、無色の化合物を共吸着させてもよい。共吸着させる疎水性化合物としてはカルボキシル基を有するステロイド化合物(例えばケノデオキシコール酸)等が挙げられる。また、余分な光増感色素の除去を促進する目的で、色素を吸着させた後、アミン類を用いて半導体微粒子の表面を処理してもよい。好ましいアミン類としては、ピリジン、4−tert−ブチルピリジンやポリビニルピリジン等が挙げられる。これらが液体の場合はそのまま用いてもよいし、固体の場合は有機溶媒に溶解して用いてもよい。
【0040】
本発明の光電気化学電池とは、光電変換素子、電荷移動層及び対極を含み、光を電気に変換することができるものである。光電気化学電池は、光電変換素子、電荷移動層及び対極が順次、積層され、光電変換素子の導電性基板と対極とが連結されて、電荷が移動して、すなわち、発電する。
他の光電気化学電池としては、例えば、光電変換素子及び電荷移動層からなる積層部が複数と1つの対極からなる光電気化学電池、例えば、複数の光電変換素子、1つの電荷移動層及び1つの対極が積層されてなる光電気化学電池などが例示される。
光電気化学電池は、湿式光電気化学電池及び乾式光電気化学電池に大別される。湿式光電気化学電池は、含まれる電荷移動層が電解液から構成される層であり、通常、電荷移動層は光電変換素子と対極の間に電解液が充填される。
乾式光電気化学電池としては、例えば、光電変換素子と対極との間の電荷移動層が固体のホール輸送材料である電池などが挙げられる。
【0041】
光電気化学電池の一実施態様を図1に示した。導電性基板8と、該導電性基板8に対向する対極(導電性基板)9と、これらの間に、光電変換素子用色素4が吸着された半導体微粒子層3が存在する。湿式光電変換素子とする場合は、半導体粒子層3は電解液5で満たされ、封止材10で封止されている。
上記の導電性基板8は、上から順に基板1と導電層2で構成されている。対極9は、下から順に基板7と導電層6で構成されている。
【0042】
本発明の光電気化学電池が湿式光電気化学電池である場合、湿式光電気化学電池に含まれる電解液に用いられる電解質としては、例えば、Iと各種ヨウ化物との組合せ、Brと各種の臭化物との組合せ、フェロシアン酸塩−フェリシアン酸塩の金属錯体の組合せ、フェロセン−フェリシニウムイオンの金属錯体の組合せ、アルキルチオール−アルキルジスルフィドのイオウ化合物の組合せ、アルキルビオローゲンとその還元体の組合せ、ポリヒドロキシベンゼン類とその酸化体の組合せ等が挙げられる。
ここで、Iと組合せ得るヨウ化物としては、例えば、LiI、NaI、KI、CsIやCaI等の金属ヨウ化物;1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムアイオダイド、1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムアイドダイド等の4価のイミダゾリウム化合物のヨウ素塩;4価のピリジニウム化合物のヨウ素塩;テトラアルキルアンモニウム化合物のヨウ素塩等が挙げられる。
Brと組合せ得る臭化物としては、例えば、LiBr、NaBr、KBr、CsBrやCaBr等の金属臭化物;テトラアルキルアンモニウムブロマイドやピリジニウムブロマイド等の4価のアンモニウム化合物の臭素塩等が挙げられる。
アルキルビオローゲンとしては、例えば、メチルビオローゲンクロリド、ヘキシルビオローゲンブロミド、ベンジルビオローゲンテトラフルオロボレートなどが挙げられ、ポリヒドロキシベンゼン類としては、例えばハイドロキノンやナフトハイドロキノン等が挙げられる。
電解質としては中でも、金属ヨウ化物、4価のイミダゾリウム化合物のヨウ素塩や4価のピリジニウム化合物のヨウ素塩、及びテトラアルキルアンモニウム化合物のヨウ素塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のヨウ化物とIとの組合せが好ましい。
【0043】
上記の電解液に用いる有機溶媒としては、アセトニトリル、メトキシアセトニトリルやプロピオニトリル等のニトリル系溶媒;エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイドや1−メチル−3−ヘキシルイミダゾリウムアイオダイド;1−エチル−3−メチルイミダゾリウム−ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミド等のイオン性液体が挙げられる。また、γ−ブチロラクトン等のラクトン系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンフルオライド、ポリ4−ビニルピリジンやChemistry Letters,1241(1998)に示される低分子ゲル化剤でゲル化されていてもよい。
【0044】
本発明の光電気化学電池では、電解液の代わりに、固体のホール輸送材料を用いることができる。
ホール輸送材料としては、CuIやCuSCN等の一価の銅を含むp型無機半導体や、Synthetic Metal,89,215(1997)及びNature,395,583(1998)で示されるようなアリールアミン類;ポリチオフェン及びその誘導体;ポリピロール及びその誘導体;ポリアニリン及びその誘導体;ポリ(p−フェニレン)及びその誘導体;ポリ(p−フェニレンビニレン)及びその誘導体等の導電性高分子等が挙げられる。
【0045】
本発明の光電変換素子を構成する対極とは、導電性を有する電極であり、強度を維持したり密閉性を向上させるため前記導電性基板と同様の基板を用いてもよい。
光増感色素が吸着された半導体微粒子層に光が到達するため、前述の導電性基板と対極の少なくとも一方は通常、実質的に透明である。本発明の光電変換素子においては、半導体微粒子層を有する導電性基板が透明で、照射光を導電性基板の側から入射させるものが好ましい。この場合、対極9は光を反射する性質を有することがさらに好ましい。
光電変換素子の対極9としては、例えば、金属、カーボン、導電性の酸化物などを蒸着したガラスやプラスチックを使用することができる。また、導電層を、1mm以下、好ましくは5nm〜100μmの範囲の膜厚になるように、蒸着やスパッタリング等の方法により形成して作製することもできる。本発明では白金やカーボンを蒸着したガラス、又は、蒸着やスパッタリングによって導電層を形成した対極とすることが好ましい。
【0046】
電解液の漏洩や蒸散を防ぐため、封止材を使用して封止してもよい。該封止材としては、ハイミラン(三井デュポンポリケミカル製)等のアイオノマー樹脂;ガラスフリット;SX1170(Solaronix製)等のホットメルト接着剤;Amosil 4(Solaronix製)のような接着剤;BYNEL(デュポン製)を使用することができる。
【実施例】
【0047】
次に、実施例等を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例により限定されるものではない。
【0048】

【0049】
(実施例1)
<製造例1:化合物(I-1)の製造例>
Q-1(25.0g, 145mmol)をN,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMF)112mLに溶解した。これに氷冷下、カリウム t-ブトキシド(16.3g, 145mmol)を添加して氷冷バスをとり、室温下1時間反応した。一方、別途準備したp-メトキシベンズアルデヒド(19.7g, 145mmoL)のDMF112mL溶液に硫酸マグネシウム 56.2gを添加、氷冷して撹拌下上記Q-1のアニオン溶液を滴下した。次いで、氷バスを外し、室温下22時間反応した。反応後水を注入して酢酸エチルで抽出、抽出酢酸エチル層を水、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥した。溶媒を減圧留去後、カラムクロマトグラフィーにより精製してHPLC純度91.9%のQ-2 10.8gを収率25.7%で得た。
次いで得られたQ-2を常法で硫化ナトリウムと反応させQ-3を収率30.5%で得た。次いで
Q-3(150.2mg,0.62mmol)とQ-4(157.6mg,0.67mmol)をN,N-ジメチルスルホキシド(以下、DMSO)70mlに溶解し、炭酸カリウム(394.4mg,2.85mmol)を仕込んで120℃に加熱した。30分後、ほぼ原料が消失したことを確認し、150mlの氷水中に注ぎ、酢酸エチルで抽出、抽出酢酸エチル層を水、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥した。溶媒を減圧留去後、カラムクロマトグラフィーにより精製してHPLC純度98.0%のQ-5(88.6mg)を収率32.6%で得た。
同様の反応を実施し、得られたQ-5(150.2mg,0.38mmol)をテトラヒドロフラン(以下、THF)に溶解し、-78℃に冷却した。別途、ヘキサブチルニスズ(1196.1mg,2.06mmol)をTHFに溶解し、-10℃に冷却後、1.6M n-ブチルリチウムのヘキサン溶液(2.08ml,1.30mmol)を約1分かけて滴下した。得られたスズリチウム試薬を-10℃に保ちながらQ-5のTHF溶液に4回に分けて-78℃で滴下した。-78℃で攪拌したところ、原料はすぐに消失し、自然昇温後、水100ml中にクエンチして、酢酸エチルで抽出した。抽出酢酸エチル層を飽和塩化アンモニウム水溶液、飽和食塩水で順次洗浄し、硫酸マグネシウム上で乾燥した。溶媒を減圧留去後、カラムクロマトグラフィーにより精製してHPLC純度84.1%のQ-6(53.8mg)を収率31.0%で得た。
次いで得られたQ-6(42.7mg,70.1μmol)と公知の方法で合成したQ-7(25.6mg,67.5μmol)をトルエン25mlに溶解し、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(18.4mg,15.9μmol)を添加した後、還流条件下、7.5時間攪拌した。冷却後、溶媒を減圧留去し、カラムクロマトグラフィーにより精製してQ-9(17.0mg)を収率39.0%で得た。
次いで得られたQ-9(12.7mg,20.5μmol)をエタノール10mlに溶解して、水酸化リチウム(15.2mg,634.7μmol)と水2mlを加えて、室温で1時間攪拌した。反応終了を確認後、
2N塩酸で中和してエタノールとともに共沸脱水することでII-1を得た。得られた固形物はESI-MSにより目的化合物(II-1、分子量563)であることを確認した。
化合物(II-1) ESI-MS(m/z)
m/z=564 [M+H]+
得られたII-1にエタノールを加え、さらに塩化ルテニウム3水和物5.2mg(19.9μmol)を仕込み還流条件下、2時間攪拌し、放冷後、減圧濃縮し黒紫色結晶を得た。得られた結晶をDMF 10mlに溶解し、チオシアン酸カリウム(34.3mg,353.0μmol)と水1mlを加え、150℃で4.5時間加熱攪拌した。反応溶液をエバポレータで濃縮し、濃縮残査から主成分を高速液体クロマトグラフィにより分取し、紫色の固形物を得た。得られた固形物はESI-MSにより目的化合物(I-1、分子量780)であることを確認した。
化合物(I-1) ESI-MS(m/z)
m/z=780 [M]+
m/z=722 [M-NCS]脱NCS体
【0050】
<化合物(I-1)を含む光電気化学電池の調製>
導電性基板である、フッ素をドープした酸化スズ膜付き導電性ガラス(日本板硝子製、10Ω/□)の導電性面に、酸化チタン分散液であるTi−Nanoxide T/SP(商品名、Solaronix社製)をスクリーン印刷機を用いて塗布後、500℃で焼成し、ガラスを冷却して、導電性基板に半導体粒子層を積層させた。続いて、化合物(I-1)の溶液(濃度は0.0003モル/リットル、溶媒はN,N-ジメチルアセトアミド、ケノデオキシコール酸を0.12モル/リットル添加)に16時間浸漬し、溶液から取り出したのち、アセトニトリルで洗浄後、自然乾燥させ、導電性基板及び光増感色素を吸着させた半導体微粒子層の積層体(酸化チタン電極の面積は24mm)を得た。次に、該層の周りに、スペーサーとして25μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムを設置後、該層に電解液(溶媒はアセトニトリル;溶媒中の沃素濃度は0.05モル/リットル、同じくヨウ化リチウム濃度は0.1モル/リットル、同じく4−t−ブチルピリジン濃度は0.5モル/リットル、同じく1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムアイオダイド濃度は0.6モル/リットル)を含浸させた。最後に、対極である白金蒸着ガラスを重ね合わせ、導電性基板、光増感色素を吸着させた半導体微粒子層、並びに該導電性基板の対極が積層され、導電性基板と対極との間に電解液が含浸された、光電気化学電池を得た。このようにして作製した光電気化学電池について、IPCE(incident photon-to-current efficiency)測定装置(分光計器製)を用いてIPCEを測定した。結果を表6に示す。
【0051】
(実施例2)
<化合物(I-43)の合成例>
実施例1のQ-2の代わりにQ-8を用いて下記反応式に示すように、同様に反応し、II-43を得た。
化合物(II-43) ESI-MS(m/z)
m/z=445 [M+H]+
得られたII-43を用いて、実施例1と同様に反応し、I-43を得た。
化合物(I-43) ESI-MS(m/z)
m/z=662 [M]+
m/z=604 [M-NCS]脱NCS体



IPCEを実施例1と同様にして測定した。
下記比較例1で得た光電気化学電池について、実施例2で得た光電変換素子のIPCEを表6に示す。
【0052】
(比較例1)
光増感色素として、cis-ビス(イソチオシアネート)ビス(2,2'-ビピリジル-4,4'-ジカルボキシレート)-ルテニウム(II)(化合物(1))を用い、溶解溶媒にエタノールを用いた以外は実施例1と同様にして光電気化学電池を得た。次いで、IPCEを実施例1と同様にして測定した。結果を表6にまとめた。
【0053】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の錯体化合物は可視光のみならず750nm以上の長波長領域においても光電変換特性に優れ、光増感色素として好適に用いられる。また、該錯体化合物を含む光電変換素子は光電変換効率に優れることから、太陽光による太陽電池、トンネルや屋内での人工光による光電気化学電池に用いることができる。また、該光電変換素子は、光の照射を受けて電流が流れることから、光センサーとして用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の光電気化学電池の断面模式図である。
【符号の説明】
【0056】
1 基板
2 導電層
3 半導体粒子層
4 光増感色素
5 電解液
6 導電層
7 基板
8 導電性基板
9 対極(導電性基板)
10 封止剤


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(II)で表される化合物[化合物(II)と略す。]を金属原子に配位させて得られる錯体化合物(I)。

[式中、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立に、酸性基の塩、酸性基、水素原子叉は置換基を表し、少なくとも一つは酸性基又はその塩を表す。R3及びR4は互いに結合していてもよく、Aは、窒素原子、酸素原子、炭素原子、ケイ素原子、硫黄原子、又はセレン原子を含む基を表し、mは1又は2の整数であり、a、b、c及びdは、それぞれ独立に、0〜2の整数を表し、a+b+c+d≧1である。
ここで、上記置換基は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数7〜20のアリールアルキルオキシ基、炭素数7〜20のアリールオキシアルキル基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数2〜20のアルキルチオアルキル基、炭素数6〜20のアリールチオ基、炭素数7〜20のアリールアルキルチオ基、炭素数7〜20のアリールチオアルキル基、炭素数1〜20のアルキルスルホニル基、炭素数6〜20のアリールスルホニル基、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で2置換されたアミノ基、シアノ基、下記式(III)及び式(IV)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基である。

(式中、Arは置換基を有していてもよいアリール基を表し、Q及びQは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、叉はシアノ基を表し、pは1〜3の整数を表す。)]
【請求項2】
請求項1に記載の式(II)で表される化合物を金属原子に配位させて得られる錯体化合物(I)。
[式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、酸性基の塩、酸性基、水素原子、叉は置換基を表し、少なくとも一つは酸性基又はその塩を表し、R3及びR4は、それぞれ独立に、水素原子、叉は置換基を表し、R3及びR4は互いに結合していてもよい。A、m、a、b、c及びdは、請求項1と同じ意味を表し、a+b≧1である。]
【請求項3】
請求項1に記載の式(II)で表される化合物。
[式中、R1、R2、R3、R4、A、m、a、b、c及びdは、請求項1と同じ意味を表す。]
【請求項4】
請求項1に記載の式(II)で表される化合物。
[式中、R1、R2、R3、R4、A、m、a、b、c及びdは、請求項2と同じ意味を表す。]
【請求項5】
酸性基が、カルボキシル基、スルホン酸基、スクアリン酸基、リン酸基、ホウ酸基、ケイ酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基である請求項1〜4のいずれかに記載の化合物(I)又は(II)。
【請求項6】
酸性基が、カルボキシル基である請求項1〜5のいずれかに記載の化合物(I)又は(II)。
【請求項7】
酸性基の塩が、有機塩基との塩である請求項1〜6のいずれかに記載の化合物(I)又は(II)。
【請求項8】
3及びR4が、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数7〜20のアリールアルキルオキシ基、炭素数7〜20のアリールオキシアルキル基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数2〜20のアルキルチオアルキル基、炭素数6〜20のアリールチオ基、炭素数7〜20のアリールアルキルチオ基、炭素数7〜20のアリールチオアルキル基、炭素数1〜20のアルキルスルホニル基、炭素数6〜20のアリールスルホニル基、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で2置換されたアミノ基、シアノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基である請求項1〜7のいずれかに記載の化合物(I)又は(II)。
【請求項9】
3及びR4が、それぞれ独立に、下記式(III)又は式(IV)で表される基であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の化合物(I)又は(II)。

[式中、Arは置換基を有していてもよいアリール基を表し、Q及びQが、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、叉はシアノ基を表し、pは1〜3の整数を表す。]
【請求項10】
3及びR4が、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基である請求項1〜8のいずれかに記載の化合物(I)又は(II)。
【請求項11】
及びQが、水素原子で、Arが置換基を有するベンゼン環である請求項1〜7及び9のいずれかに記載の化合物(I)又は(II)。
【請求項12】
−(A)m−が、−N(Y1)−、−O−、−C(Y1)(Y2)−、−Si(Y1)(Y2)−、−S−、−SO−、−SO2−、−Se−からなる群から選ばれる少なくとも1種の基である請求項1〜11のいずれかに記載の化合物(I)又は(II)。[但し、Y1及びY2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、又は炭素数6〜20のアリール基を表す。]
【請求項13】
−(A)m−が、−S−である請求項1〜12のいずれかに記載の化合物(I)又は(II)。
【請求項14】
a+b=2である請求項1〜13のいずれかに記載の化合物(I)又は(II)。
【請求項15】
m=1である請求項1〜14のいずれかに記載の化合物(I)叉は(II)。
【請求項16】
1及びR2が、それぞれ独立にカルボキシル基又はその塩で、R3及びR4が、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基叉は請求項9に記載の式(III)で表される基で、Aが、−S−である請求項1〜15のいずれかに記載の化合物(I)又は(II)。
【請求項17】
金属原子がFe、Ru又はOsである請求項1〜2及び5〜16のいずれかに記載の化合物(I)。
【請求項18】
請求項1〜2及び5〜17のいずれかに記載の化合物(I)を含む光増感色素。
【請求項19】
導電性基板、及び請求項18に記載の光増感色素を吸着させた半導体微粒子層を含む光電変換素子。
【請求項20】
請求項19に記載の光電変換素子、電荷移動層及び対極を含む光電気化学電池。





【図1】
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【公開番号】特開2008−105967(P2008−105967A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288482(P2006−288482)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】