説明

化合物、液晶組成物及び異方性材料

【課題】Δnが逆波長分散性を示す新規な化合物の提供。
【解決手段】下記一般式(I)で表される化合物。式中、A1及びA2は各々独立に、−S−等からなる基;Zは炭素原子等を表し、式中記載のC−C=C−C又はC=C−C=Cと共に5又は6員環を形成し;R1等は置換基;mは0〜4の整数;L1及びL2は単結合又は二価の連結基;B1及びB2は−NR−、−CO−、=CR−等からなる群から選ばれる基;Yは炭素原子等を表し、B1−C−B2と共に5〜7員環を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な化合物、及びそれを含有する液晶組成物ならびに該液晶組成物の配向を固定化して得られる異方性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる位相差板としては、方解石、雲母、水晶などの無機材料から構成される薄板、又は固有複屈折性の高い高分子の延伸フィルムなどが知られている。この位相差板の種類には、直線偏光を円偏光に変換する1/4波長板(以下、「1/4λ板」と略す)、及び直線偏光の偏光振動面を90°変換する1/2波長板(以下、「1/2λ板」と略す)等がある。しかし、従来の位相差板は、単色光に対しては、光線波長の1/4λ又は1/2λの位相差に調整可能であるが、可視光域の光線が混在している合成波である白色光に対しては、各波長での偏光状態に分布が生じ、有色の偏光に変換されるという問題がある。これは、位相差板を構成する材料が、位相差について波長分散性を有することに起因する。
【0003】
この様な問題を解決するため、広い波長域の光に対して均一な位相差を与え得る広帯域位相差板が種々検討されている(特許文献1〜6参照)。
近年、反射型液晶表示装置に用いる位相差板の薄層化が求められており、広帯域のλ/4板を目論み、逆波長分散性の液晶組成物も提案されている(例えば、特許文献7〜13参照)。特に低分子液晶性化合物を含有する組成物を用いて作製する方法が位相差板の薄膜化には有用であり、そのような目的で用いられる低分子液晶性化合物としては、分子長軸のラテラル方向に、より長波長側で光を吸収する分子構造を有するものが多い。従来は位相差板が着色している場合には用途が大幅に制限されてきたが、近年は位相差板をパターニングできるようになったので、たとえば黄色く着色している位相差板をパターニングすることによって緑又は赤の表示領域に用いることができる。従来の逆波長分散性の液晶組成物を用いた広帯域のλ/4板では特に長波長側での逆波長分散性が十分ではなく改善が求められていた。
【特許文献1】特開平10−68816号公報
【特許文献2】特開平10−90521号公報
【特許文献3】特開平11−52131号公報
【特許文献4】特開2000−284126号公報
【特許文献5】特開2001−4837号公報
【特許文献6】国際公開第00/2675号パンフレット
【特許文献7】特開2002−267838号公報
【特許文献8】特開2003−160540号公報
【特許文献9】特開2005−208414号公報
【特許文献10】特開2005−208415号公報
【特許文献11】特開2005−208416号公報
【特許文献12】特開2005−289980号公報
【特許文献13】特開2006−330710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前記諸問題に鑑みなされたものであって、Δnが逆波長分散性を示す、特にΔnの長波長側での逆波長分散性が改善された、新規な化合物を提供すること、該化合物を含有する液晶組成物を提供すること、及びは該液晶組成物を用いた光学異方性材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 下記一般式(I)で表される化合物。
【化1】

(式中、A1及びA2は各々独立に、−O−、−NR−(Rは水素原子又は置換基を表す。)、−S−及び−CO−からなる群から選ばれる基を表す。Zは、炭素原子及び第14〜16族の非金属原子からなる群から選択される1又は2個の原子を表し、式中記載のC−C=C−C又はC=C−C=Cと共に5又は6員環を形成する。R1、R2及びR3は各々独立に置換基を表す。mは0〜4の整数である。L1及びL2は各々独立に単結合又は二価の連結基を表す。B1及びB2は各々独立に、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−NR−(Rは水素原子又は置換基を表す。)、=N−、=N(+)R−(Rは水素原子又は置換基を表す。)、−CO−、−CS−、及び=CR−(Rは水素原子又は置換基を表す。)からなる群から選ばれる基を表す。Yは、炭素原子及び第14〜16族の非金属原子からなる群から選択される2〜4個の原子を表し、式中記載のB1−C−B2と共に5〜7員環を形成する。(ただし、置換基R4が結合してもよい。)ただし、A1とB1及びA2とB2が同じ置換基である場合、ならびにA1とB2及びA2とB1が同じ置換基である場合は除く。)
【0006】
[2] 下記式(I)’で表される[1]の化合物。
【化2】

前記式(I)’中、Sは硫黄原子を表し、それ以外の符号については、前記式(I)中のそれぞれと同義である。
【0007】
[3] 式中の環Yが、下記Y−1〜Y−24のいずれかである[1]又は[2]の化合物。
【化3】

式中、Rは水素原子または置換基であり、複数存在するRは互いに同一でも異なっていてもよく、mは0〜4の整数である。
【0008】
[4] 下記式(I−a)〜(I−e)のいずれかで表される[1]の化合物。
【化4】

前記式(I−a)〜(I−e)中、Sは硫黄原子を表し、それ以外の符号については、前記式(I)中のそれぞれと同義であり、Rは水素原子又は置換基を表し、複数存在するRは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0009】
[5] 前記一般式(I)中、L1及びL2の少なくとも1つが、−OCO−であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかの化合物。
[6] 前記一般式(I)中、R、R1、R2、R3及びR4の少なくとも1つが、重合性基を含む置換基であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかの化合物。
[7] R2及びR3がそれぞれ、下記式のいずれかで表される[1]〜[6]のいずれかの化合物。
【化5】

式中、L11は、単結合もしくは連結基であり、R11は置換基である。
【0010】
[8] R2及びR3がそれぞれ、下記式のいずれかで表される[1]〜[7]のいずれかの化合物。
【化6】

式中、L11は、上記定義と同様であり、R12は、アルキル基(但し、隣接しない炭素原子の一方が酸素原子もしくは硫黄原子に置換されていてもよい)を表し、P11は重合性基を表す。
【0011】
[9] [1]〜[8]のいずれかの化合物を少なくとも1種含有することを特徴とする液晶組成物。
[10] [9]の組成物からなる光学異方性材料。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Δnが逆波長分散性を示す、特にΔnの長波長側での逆波長分散性が改善された新規な化合物、該化合物を含有する液晶組成物、及びは該液晶組成物からなる光学異方性材料を提供することができる。
【発明の実施の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
[Re(λ)及びRth(λ)の定義]
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーション(nm)及び厚さ方向のレターデーション(nm)を表す。Re(λ)はKOBRA 21ADH又はWR(商品名、王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
測定されるフィルムが1軸又は2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は、前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRにおいて算出される。
【0014】
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADH又はWRにおいて算出される。
尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の数式(1)及び数式(2)によりRthを算出することもできる。
【0015】
【数1】

【0016】
【数2】

【0017】
式中、Re(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表す。dはフィルムの膜厚を表す。
【0018】
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)が算出される。
Rth(λ)は、前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRにより算出される。
【0019】
上記の測定において、平均屈折率の仮定値は、ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADH又はWRにおいてnx、ny、nzが算出される。この算出されたnx、ny、nzによりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0020】
[Δnの定義]
Δnは、偏光に対する異方性を示すもので、詳しくは「液晶便覧」(丸善(株)、2000年)第2章 2.3物性などに記載されているが、一軸異方性を示す物体を直線偏光が通過するときに、偏光方向が異方軸に垂直である場合の屈折率(no)と偏光方向が異方軸に平行である場合の屈折率(ne)の差をΔnと表す。
【0021】
[Δnの波長分散の定義]
Δnは、一般に測定波長によって異なる。これは前述のno及びneが波長によって異なることに起因しており、Δnの波長分散はnoとneの屈折率差の波長依存性を示す。詳しくは「液晶便覧」(丸善(株)、2000年)第2章 2.4.13に記載されている。本発明では、Δn(450)、Δn(550)及びΔn(650)と表記する場合があるが、それぞれ、450nm、550nm及び650nmにおけるΔnを表す。ただし、それぞれの測定波長は、±10nmの誤差を含む。
【0022】
液晶のΔnの測定方法は、例えば「液晶便覧」2.4.13(丸善(株)、2000年)に記載されているようなくさび型の液晶セルを用いる方法を挙げることができる。この方法において、450nm、550nm、650nmの3種類のバンドパスフィルターを用いることで、それぞれの波長のΔnを求める。
液晶化合物が重合性基を有する場合には、くさび型の液晶セル中で重合反応が起こることがあり、測定が困難な場合が生じやすい。このような場合は、重合禁止剤を添加して測定することが好ましい。また、液晶を均一に配向させた状態で、例えばKOBRA(商品名、王子計測機器(株)製)のような位相差を測定できる装置で測定することにより、それぞれの波長におけるReを求め、膜厚を別途測定することで、Δnを求めることができる(Δn=Re/d(膜厚)の式より)。
【0023】
[Δnの波長分散における順及び逆の定義]
一般に物質は波長が短くなるに従って屈折率も大きくなる。液晶化合物もこれに従い、no及びneも測定波長が短いほど屈折率は大きくなる。しかしながらΔnはnoとneの差であるのでnoとneの波長分散が異なる場合には、Δnの波長分散は短波長側が大きい場合と、短波長側が小さい場合がある。一般には短波長側が大きい場合が多く、短波長側が大きい場合を順分散という。Δnの波長分散において、短波長側が小さい場合を逆分散という。
【0024】
[光学異方性材料での波長分散の定義]
光学補償材料などでは、光学異方性をRe又はRthで表し、これらの定義は前述の通りである。Δnの波長分散、ならびにΔnの波長分散における順分散及び逆分散に準じ、Re(λ)又はRth(λ)において、Re又はRthの波長依存性を波長分散と呼び、波長分散において短波長側が大きい場合を順分散といい、短波長側が小さい場合を逆分散という。
【0025】
まず、一般式(I)で表される本発明の化合物について説明する。
【化7】

【0026】
式中、A1及びA2は各々独立に、−O−、−NR−(Rは水素原子又は置換基を表す。)、−S−及び−CO−からなる群から選ばれる基を表す。Zは、炭素原子及び第14〜16族の非金属原子からなる群から選択される1又は2個の原子を表し、式中記載のC−C=C−C又はC=C−C=Cと共に5又は6員環を形成する。R1、R2及びR3は各々独立に置換基を表す。mは0〜4の整数である。L1及びL2は各々独立に単結合又は二価の連結基を表す。B1及びB2は各々独立に、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−NR−(Rは水素原子又は置換基を表す。)、=N−、=N(+)R−(Rは水素原子又は置換基を表す。)、−CO−、−CS−、及び=CR−(Rは水素原子又は置換基を表す。)からなる群から選ばれる基を表す。Yは、炭素原子及び第14〜16族の非金属原子からなる群から選択される2〜4個の原子を表し、式中記載のB1−C−B2と共に5〜7員環を形成する。(ただし、置換基R4が結合してもよい。)ただし、A1とB1及びA2とB2が同じ置換基である場合、ならびにA1とB2及びA2とB1が同じ置換基である場合は除く。
【0027】
前記一般式(I)において、L1及びL2が表す二価の連結基としては、特に限定されるものではないが、好ましくは下記の例が挙げられる。なお、結合位置に関して、前記のZとC−C=C−C又はC=C−C=Cとによって形成される5〜6員環との結合位置が下記に例示した連結基の左側にあるものとする。
【0028】
【化8】

【0029】
さらに好ましくは−O−、−COO−、−OCO−である。
【0030】
前記一般式(I)において、Zは、炭素原子及び第14〜16族の非金属原子からなる群から選択される1又は2個の原子を表し、式中記載のC−C=C−C又はC=C−C=Cと共に5又は6員環を形成する。ZとC−C=C−C又はC=C−C=Cとによって形成される5〜6員環としては、特に限定されるものではないが、下記の例が好適に挙げられる。なお、下記の例において、点線はL1又はL2と結合することを表す。
【0031】
【化9】

【0032】
ZとC−C=C−C又はC=C−C=Cとによって形成される環は、6員環であることが好ましい。6員環とすることにより、より高い配向秩序度で配向させることが可能となる。また、同様の理由により、芳香環であることも好ましく、より好ましくは芳香環かつ6員環である。
これらの観点及び合成上の観点から、ZとC−C=C−C又はC=C−C=Cとによって形成される環は、チオフェン環、ベンゼン環、ピリジン環が好ましく、ベンゼン環が最も好ましい。
【0033】
一般式(I)において、R1は置換基であり、複数存在する場合は同じでも異なっていてもよく、環を形成していてもよい。置換基の例として下記のものが挙げられる。
ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(好ましくは炭素数1〜30の直鎖、分岐の置換もしくは無置換のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基)、シクロアルキル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換又は無置換のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基)、ビシクロアルキル基(好ましくは、炭素数5〜30の置換又は無置換のビシクロアルキル基、つまり、炭素数5〜30のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン−2−イル基、ビシクロ[2,2,2]オクタン−3−イル基)、
【0034】
アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30の置換又は無置換のアルケニル基、例えば、ビニル基、アリル基)、シクロアルケニル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換又は無置換のシクロアルケニル基、つまり、炭素数3〜30のシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル基)、ビシクロアルケニル基(置換又は無置換のビシクロアルケニル基、好ましくは、炭素数5〜30の置換又は無置換のビシクロアルケニル基、つまり二重結合を一個持つビシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−1−イル基、ビシクロ[2,2,2]オクト−2−エン−4−イル基)、アルキニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のアルキニル基、例えば、エチニル基、プロパルギル基)、
【0035】
アリール基(好ましくは炭素数6〜30の置換又は無置換のアリール基、例えばフェニル基、p−トリル基、ナフチル基)、ヘテロ環基(好ましくは5又は6員の置換又は無置換の、芳香族又は非芳香族のヘテロ環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、さらに好ましくは、炭素数3〜30の5又は6員の芳香族のヘテロ環基である。例えば、2−フリル基、2−チエニル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基)、アリールオキシ基(好ましくは、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ基)、
【0036】
シリルオキシ基(好ましくは、炭素数3〜20のシリルオキシ基、例えば、トリメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のヘテロ環オキシ基、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ基、2−テトラヒドロピラニルオキシ基)、アシルオキシ基(好ましくはホルミルオキシ基、炭素数2〜30の置換又は無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールカルボニルオキシ基、例えば、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基)、カルバモイルオキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のカルバモイルオキシ基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ基、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ基、モルホリノカルボニルオキシ基、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ基、N−n−オクチルカルバモイルオキシ基)、アルコキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換アルコキシカルボニルオキシ基、例えばメトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、tert−ブトキシカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基)、アリールオキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換又は無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基、例えば、フェノキシカルボニルオキシ基、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ基、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ基)、
【0037】
アミノ基(好ましくは、アミノ基、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルアミノ基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアニリノ基、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基)、アシルアミノ基(好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールカルボニルアミノ基、例えば、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基)、アミノカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアミノカルボニルアミノ基、例えば、カルバモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ基、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ基、モルホリノカルボニルアミノ基)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30の置換又は無置換アルコキシカルボニルアミノ基、例えば、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ基、N−メチル−メトキシカルボニルアミノ基)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換又は無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基、例えば、フェノキシカルボニルアミノ基、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ基、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ基)、
【0038】
スルファモイルアミノ基(好ましくは、炭素数0〜30の置換又は無置換のスルファモイルアミノ基、例えば、スルファモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ基、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ基)、アルキル又はアリールスルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルスルホニルアミノ基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールスルホニルアミノ基、例えば、メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p−メチルフェニルスルホニルアミノ基)、メルカプト基、アルキルチオ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルチオ基、例えばメチルチオ基、エチルチオ基、n−ヘキサデシルチオ基)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、m−メトキシフェニルチオ基)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数2〜30の置換又は無置換のヘテロ環チオ基、例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ基、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ基)、
【0039】
スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜30の置換又は無置換のスルファモイル基、例えば、N−エチルスルファモイル基、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−アセチルスルファモイル基、N−ベンゾイルスルファモイル基、N−(N’−フェニルカルバモイル)スルファモイル基)、スルホ基、アルキル又はアリールスルフィニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルスルフィニル基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールスルフィニル基、例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、p−メチルフェニルスルフィニル基)、アルキル又はアリールスルホニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルスルホニル基、炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、フェニルスルホニル基、p−メチルフェニルスルホニル基)、
【0040】
アシル基(好ましくはホルミル基、炭素数2〜30の置換又は無置換のアルキルカルボニル基、炭素数7〜30の置換又は無置換のアリールカルボニル基、例えば、アセチル基、ピバロイルベンゾイル基)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは、炭素数7〜30の置換又は無置換のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル基、o−クロロフェノキシカルボニル基、m−ニトロフェノキシカルボニル基、p−tert−ブチルフェノキシカルボニル基)、アルコキシカルボニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換アルコキシカルボニル基、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、n−オクタデシルオキシカルボニル基)、カルバモイル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のカルバモイル基、例えば、カルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル基、N−(メチルスルホニル)カルバモイル基)、
【0041】
アリール又はヘテロ環アゾ基(好ましくは炭素数6〜30の置換又は無置換のアリールアゾ基、炭素数3〜30の置換又は無置換のヘテロ環アゾ基、例えば、フェニルアゾ基、p−クロロフェニルアゾ基、5−エチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−2−イルアゾ基)、イミド基(好ましくは、N−スクシンイミド基、N−フタルイミド基)、ホスフィノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のホスフィノ基、例えば、ジメチルホスフィノ基、ジフェニルホスフィノ基、メチルフェノキシホスフィノ基)、ホスフィニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のホスフィニル基、例えば、ホスフィニル基、ジオクチルオキシホスフィニル基、ジエトキシホスフィニル基)、ホスフィニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のホスフィニルオキシ基、例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ基、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ基)、ホスフィニルアミノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のホスフィニルアミノ基、例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ基、ジメチルアミノホスフィニルアミノ基)、及びシリル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換又は無置換のシリル基、例えば、トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、フェニルジメチルシリル基)。
【0042】
上記の置換基の中で水素原子を有するものは、これを取り去りさらに上記の基で置換されていてもよい。そのような官能基の例としては、アルキルカルボニルアミノスルホニル基、アリールカルボニルアミノスルホニル基、アルキルスルホニルアミノカルボニル基、アリールスルホニルアミノカルボニル基が挙げられる。その具体例としては、メチルスルホニルアミノカルボニル基、p−メチルフェニルスルホニルアミノカルボニル基、アセチルアミノスルホニル基、ベンゾイルアミノスルホニル基が挙げられる。
【0043】
1は好ましくは、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、シアノ基又はアミノ基であり、さらに好ましくはハロゲン原子、アルキル基、シアノ基又はアルコキシ基である。
【0044】
1が複数存在し、互いに環を形成する場合、その環は5〜8員環が好ましく、5又は6員環がさらに好ましい。
【0045】
前記一般式(I)において、mはR1の置換数を表し、ZとC−C=C−C又はC=C−C=Cとによって形成される環の構造によって取り得る数は変化する。mは0が最小であり、Zが二つの炭素原子を表し、かつ、ZとC−C=C−C又はC=C−C=Cとによって形成される環が芳香族性を有しない場合に最大4である。mは好ましくは0又は1であり、より好ましくは0である。
【0046】
前記一般式(I)において、R2及びR3は各々独立に置換基を表す。例としては上記R1の例が挙げられる。本発明の化合物がΔnについてより強い逆分散性を示すためには、R2及びR3がそれぞれ分子の長軸方向となるのが好ましい。そのためには、鎖状構造及び/又は環状構造を含むある程度の長さの置換基であるのが好ましい。また、前記一般式(I)で表される化合物は液晶性を示すことが好ましい。液晶性を発現させるための要素としては、「液晶便覧」(丸善)第3章「分子構造と液晶性」に記載されているように、コアと呼ばれる剛直部と側鎖と呼ばれる柔軟部が必要である。そのため、R2及びR3の置換基として、少なくとも1つの剛直部、つまり環状部分が存在することが好ましく、2つ以上の環状構造を含むことが好ましい、また、R2−L1−とR3−L2−とが同一の基であると、化合物を製造する上でコストを抑えられるメリットがあるので好ましい。
【0047】
前記式(I)中、R2及びR3は、好ましくは置換もしくは無置換のフェニル基、置換もしくは無置換のシクロヘキシル基である。より好ましくは、置換基を有するフェニル基、置換基を有するシクロヘキシル基であり、さらに好ましくは4位に置換基を有するフェニル基、及び4位に置換基を有するシクロヘキシル基である。よりさらに好ましくは4位に置換基を有するフェニレン基が直接もしくは連結基を介して4位に結合したフェニル基、4位に置換基を有するシクロヘキシル基が直接もしくは連結基を介して4位に結合したフェニル基、4位に置換基を有するフェニル基が直接もしくは連結基を介して4位に結合したシクロヘキシル基、及び4位に置換基を有するシクロヘキシル基が直接もしくは連結基を介して結合したシクロへキシル基である。即ち、以下の基である。
【0048】
【化10】

【0049】
式中、L11は、単結合もしくは連結基であり、R11は置換基である。L11が表す連結基の例は、L1及びL2がそれぞれ表す連結基の例と同様である。中でも、単結合、オキシカルボニル基(−O−C(=O)−)及びカルボニルオキシ基(−C(=O)O−)が好ましい。R11が表す置換基の例は、R1が表す置換基の例と同様である。中でも、置換又は無置換の炭素数1〜10のアルキルカルボニルオキシ基(シクロアルキルカルボニルオキシ基も含む意味である)、置換又は無置換の炭素数1〜10のアルコキシ基、及び置換又は無置換の炭素数6〜16のアリールカルボニルオキシ基が好ましく、置換もしくは無置換の炭素数1〜8のアルキルカルボニルオキシ基、置換又は無置換の炭素数1〜10のアルコキシ基がより好ましい。当該アルキルカルボニルオキシ基またはアルコキシ基中のアルキル部分において、隣接しない炭素原子の一方が酸素原子もしくは硫黄原子、−CH=CH−、−C≡C−に置換されていてもよい。また、当該アルキル部分の末端が、後述する重合性基、例えばP3で置換された以下の基などが好ましい例として挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
【化11】

【0051】
式中、L11は、上記定義と同様である。R12は、アルキル基(但し、隣接しない炭素原子の一方が酸素原子もしくは硫黄原子に置換されていてもよく、好ましくはC1〜C10程度のアルキル基である)を表す。P11は重合性基を表し、その具体例には、下記のP1〜P4が含まれる。
【0052】
なお、4位に置換基を有するシクロヘキシル基にはシス体及びトランス体の立体異性体が存在するが、本発明においてはいずれかに限定されるものではない。シス体でもトランス体でもよく、両者の混合物でもよい。好ましくはトランス−シクロヘキシル基である。
【0053】
前記一般式(I)において、A1及びA2は各々独立に、−O−、−NR−(Rは水素原子又は置換基)、−S−及び−CO−からなる群から選ばれる基を表す。好ましくは−O−、−NR−(Rは置換基を表し、例としては上記R1の例が挙げられる。)又は−S−である。
【0054】
1及びB2は各々独立に、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−NR−(Rは水素原子又は置換基を表し、例としては上記R1の例が挙げられる。)、=N−、=N(+)R−(Rは水素原子又は置換基を表し、例としては上記R1の例が挙げられる。)、−CO−、−CS−、及び=CR−(Rは水素原子又は置換基を表し、例としては上記R1の例が挙げられる。)からなる群から選ばれる基を表す。Yは、炭素原子及び第14〜16族の非金属原子からなる群から選択される2〜4個の原子を表し、式中記載のB1−C−B2と共に5〜7員環を形成する。環Yを構成している原子が置換可能な水素原子を有する場合は、該水素原子が置換基R4によって置換されていてもよく、R4の例としては上記R1の例が挙げられる。YとB1−C−B2とによって形成される環は、5又は6員環であることが好ましい。以下に好ましい具体的な環構造の例を示す。構造式において=Cは、A1及びA2を含有する5員環と連結する部位を表す。
【0055】
【化12】

【0056】
なお、式中、Rは同一もしくは異なる置換基又は水素原子を表す。mは0〜4の整数である。置換基の例は、R1が表す置換基の例と同様である。Y−1中のRの例としては、−N(Ph)2(但し、Phはフェニル基)が挙げられる。Y−2中のNに結合しているRの例には、エチル基等のC1-3程度のアルキル基が含まれ、C=に結合している2個のRの例には、CNが含まれる。Y−3中のNに置換しているRの例には、置換もしくは無置換のフェニル基が含まれ、Cに結合しているRの例には、メチル基等のC1-3程度のアルキル基が含まれる。Y−4中の2個のNに結合しているRの例には、エチル基等のC1-3程度のアルキル基及び置換もしくは無置換のフェニル基が挙げられる。Y−5及びY−8中のNに結合しているRの例には、エチル基等のC1-3程度のアルキル基が含まれる。Y−10中のNに結合しているRの例には、置換もしくは無置換のフェニル基が含まれる。Y−11、Y−12及びY−13中のNに結合しているRの例には、エチル基等のC1-3程度のアルキル基が含まれる。Y−14中のNに結合しているRの例には、置換もしくは無置換のフェニル基が含まれる。Y−15中の2個のNに結合しているRの例には、メチル基等のC1-3程度のアルキル基及び置換もしくは無置換のフェニル基が含まれる。Y−16中のNに結合しているRの例には、エチル基等のC1-3程度のアルキル基が含まれる。Y−18及びY−20中のNに結合しているRの例には、置換もしくは無置換のフェニル基が含まれる。Y−21及びY−22中のNに結合しているRの例には、メチル基及びエチル基等のC1-3程度のアルキル基が含まれる。Y−23中のNに結合しているRの例には、置換もしくは無置換のフェニル基が含まれ、Cに結合しているRの例には、水素原子、OH及びエステル基(COOR:Rはエチル基等のC1-3程度のアルキル基)が含まれる。Y−24中のNに結合しているRの例には、メチル基等のC1-3程度のアルキル基が含まれる。
【0057】
前記例の中でも、環Yとしては、Y−1、Y−3、Y−5、Y−8、Y−9、Y−12、Y−13、Y−15、Y−21、Y−23が好ましい。特に好ましいのはY−5、Y−9、Y−13、Y−15、Y−23である。
【0058】
前記一般式(I)で表される化合物の例には、A1及びA2が、−S−である下記式(I)’で表される化合物が含まれる。
【化13】

【0059】
前記式(I)’中、Sは硫黄原子を表し、それ以外の符号については、前記式(I)中のそれぞれと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0060】
また、前記一般式(I)で表される化合物の例には、A1及びA2が−S−であり、且つ環Yが、Y−9、Y−13、Y−15、Y−23及びY−5のいずれかである下記式(I−a)〜(I−e)で表される化合物が含まれる。
【0061】
【化14】

【0062】
前記式(I−a)〜(I−e)中、Sは硫黄原子を表し、それ以外の符号については、前記式(I)中のそれぞれ、及び前記Y−9、Y−13、Y−15、Y−23及びY−5のそれぞれと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0063】
本発明者は、本発明の化合物(特に式(I−a)〜(I−e)のいずれ)も、そのΔnが逆波長分散性を示すことの理由については、本発明の化合物が、R2−L1およびR3―L2が置換した芳香族環がラテラル方向に双極子モーメントが大きくなるような環構造を有することに一因があると考えている。本発明の化合物は液晶層において、R2−L1、芳香族環、及びR3−L2からなる分子長軸方向を揃えるように分子が配向し、それによって屈折率異方性(Δn)が発現する。その際に双極子モーメントが分子長軸のラテラル方向に向くために、屈折率異方性(Δn)が逆波長分散を発現するものと考えている。
【0064】
本発明の化合物は重合性基を有していてもよい。重合性基を有する化合物を位相差板等の光学材料の製造に用いると、製造される当該光学材料の熱などによる光学特性(位相差)の変動を防ぐことができる。重合性基は、化合物の分子末端にあるのが好ましい。この観点では、前記一般式(I)において、R、R1、R2、R3、及びR4の少なくとも1つが、その末端に重合性基を有するのが好ましい。前記化合物は、一分子中に、重合性を1〜6個有するのが好ましく、1〜4個有するのがより好ましく、2〜3個有するのがさらに好ましい。中でも、R2、R3、及びR4のいずれか少なくとも1つが重合性基を有するのが好ましく、さらにR2及びR3のいずれか少なくとも1つが重合性基を有するのがより好ましく、R2及びR3の双方が重合性基を有するのがさらに好ましい。
【0065】
本発明の化合物が有する重合性基については特に制限はない。重合性基の好ましい例には、付加重合反応又は縮合重合反応が可能な基が含まれる。このような重合性基としては、重合性エチレン性不飽和基又は開環重合性基が好ましい。以下に重合性基の例を示す。
【0066】
【化15】

【0067】
さらに、重合性基は付加重合反応が可能な官能基であることが特に好ましい。そのような重合性基としては、重合性エチレン性不飽和基又は開環重合性基が好ましい。
重合性基は、下記の一般式P1、P2、P3又はP4のいずれかで表される基であることが好ましい。
【0068】
【化16】

【0069】
式中、R511、R512、R513、R521、R522、R523、R531、R532、R533、R541、R542、R543、R544、及びR545はそれぞれ各々独立に水素原子又はアルキル基を表す。nは0又は1を表す。
【0070】
重合性基P1のR511、R512、R513は各々独立に水素原子又はアルキル基を表す。
重合性基P1は、例えば、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルオキシ基残基に結合することができる。当該アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルオキシ基残基の例には、アルキレンオキシ基(例えばエチレンオキシ、プロピレンオキシ、ブチレンオキシ、ペンチレンオキシ、ヘキシレンオキシ、ヘプチレンオキシなどのアルキレンオキシ基、またエチレンオキシエトキシなどのエーテル結合を含む置換アルキレンオキシ基)、アルキレンオキシカルボニルオキシ基(例えばエチレンオキシカルボニルオキシ、プロピレンオキシカルボニルオキシ、ブチレンオキシカルボニルオキシ、ペンチレンオキシカルボニルオキシ、ヘキシレンオキシカルボニルオキシ、ヘプチレンオキシカルボニルオキシなどのアルキレンオキシカルボニルオキシ基、またエチレンオキシエトキシカルボニルオキシなどのエーテル結合を含む置換アルキレンオキシカルボニルオキシ基)、アルキレンオキシカルボニル基(例えばエチレンオキシカルボニル基、プロピレンオキシカルボニル基、ブチレンオキシカルボニル基、ペンチレンオキシカルボニル基、ヘキシレンオキシカルボニル基、ヘプチレンオキシカルボニル基などのアルキレンオキシカルボニル基、又はエチレンオキシエトキシカルボニル基などのエーテル結合を含む置換アルキレンオキシカルボニル基)が含まれる。重合性基P1が、L1及びL2、ならびに環Z及びYのそれぞれの構成原子に直接結合してもよい。
【0071】
nは0又は1の整数を表し、nが1であることが好ましく、nが1の時は、重合性基P1は置換もしくは無置換のビニルエーテル基を表す。R511及びR513は、各々独立に水素原子、アルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニルが挙げられ、メチル、エチルなどの低級アルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい)を表し、R511がメチル基でR513が水素原子、又はR511及びR513が共に水素原子の組み合わせが好ましい。
【0072】
512は水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、2−クロロエチル、3−メトキシエチル、メトキシエトキシエチルが挙げられ、メチル、エチルなどの低級アルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい)を表し、水素原子、低級アルキル基が好ましく、さらに水素原子が好ましい。従って、重合性基P1としては、一般には重合活性の高い官能基である無置換のビニルオキシ基が好ましい。
【0073】
重合性基P2は置換もしくは無置換のオキシラン基を表す。R521及びR522は、各々独立に水素原子、アルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニルが挙げられ、メチル、エチルなどの低級アルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい)を表し、R521及びR522が共に水素原子が好ましい。
【0074】
523は水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、2−クロロエチル、3−メトキシエチル、メトキシエトキシエチルが挙げられ、メチル、エチルなどの低級アルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい)を表し、水素原子又はメチル、エチル、n−プロピルなどの低級アルキル基が好ましい。
【0075】
重合性基P3は置換もしくは無置換のアクリル基を表す。置換基R531及びR533は、各々独立に水素原子、アルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニルが挙げられ、メチル、エチルなどの低級アルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい)を表し、R531がメチルでR533が水素原子、又はR531及びR533が共に水素原子の組み合わせが好ましい。
【0076】
532は水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、2−クロロエチル、3−メトキシエチル、メトキシエトキシエチルが挙げられ、メチル、エチルなどの低級アルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい)を表し、水素原子が好ましい。従って、重合性基P3としては、一般には無置換のアクリルオキシ基、メタクリルオキシ基、クロトニルオキシなどの重合活性の高い官能基が好ましく用いられる。
【0077】
重合性基P4は置換もしくは無置換のオキセタン基を表す。R542、R543、R544及びR545は各々独立に水素原子、アルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニルが挙げられ、メチル、エチルなどの低級アルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい)を表し、R542、R543、R544及びR545が共に水素原子が好ましい。
【0078】
541は水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、2−クロロエチル、3−メトキシエチル、メトキシエトキシエチルが挙げられ、メチル、エチルなどの低級アルキル基が好ましく、さらにメチルが好ましい)を表し、水素原子又はメチル、エチル、n−プロピルなどの低級アルキル基が好ましい。
【0079】
以下に、前記一般式(I)で表される化合物の具体例を示すが、本発明は以下の具体例によって何ら限定されることはない。
【0080】
【化17】

【0081】
【化18】

【0082】
【化19】

【0083】
【化20】

【0084】
【化21】

【0085】
なお、上記例には、R2及びR3が末端に重合性基P3を有する化合物例を列挙したが、重合性基P3を、重合性基P1、P2及びP4のいずれかに置き換えた構造を有する化合物も本発明の化合物の例に含まれる。また、R2及びR3が末端に重合性基を有さない化合物、例えば、重合性基P3を、水素原子、ハロゲン原子等の置換基に置き換えた構造を有する化合物も、勿論本発明の化合物の例に含まれる。
【0086】
本発明の化合物のΔnの波長分散性は、その用途により好ましい範囲が異なるため、一義的に範囲を限定することができないが、例えば、広帯域λ/4板の作製に利用する場合は、そのΔnが、下記数式(4)及び(5)を満足することが好ましい。
数式(4) 0.60<Δn(450nm)/Δn(550nm)<0.99
数式(5) 1.01<Δn(650nm)/Δn(550nm)<1.35
【0087】
本発明の液晶化合物は、正又は負の複屈折性のどちらの複屈折性を有していてもよいが、正の複屈折性を有することが好ましい。
正の複屈折性を有する液晶相としては、詳しくは「液晶便覧」(丸善(株)、2000年)第2章などに記載されており、例えば、ネマチック相、コレステリック相、スメクチック相(例えば、スメクチックA相、スメクチックC相)を挙げることができる。
【0088】
本発明の化合物を光学異方性層に用いる場合には、均一な欠陥のない配向のために、良好なモノドメイン性を示すものが好ましい。モノドメイン性が悪い場合には、得られる構造がポリドメインとなり、ドメイン同士の境界に配向欠陥が生じ、光を散乱するようになる。これは、光学異方性層の透過率低下にもつながるので好ましくない。良好なモノドメイン性を示すために、本発明の液晶化合物は、ネマチック相(N相)もしくはスメクチックA相(SA相)を発現することが好ましい。特にネマチック相を発現することが好ましい。
【0089】
本発明の化合物は、低分子化合物でもよいし、高分子化合物でもよいが、液晶の配向の容易性を考慮すると、低分子化合物の方が好ましい。
【0090】
[光学異方性材料]
本発明は、本発明の化合物を含有する液晶性組成物からなる光学異方性材料にも関する。当該光学異方性材料の一態様は、光学異方性膜である。以下、光学異方性膜の態様について詳細に説明する。
本発明の光学異方性膜は、本発明の化合物の少なくとも一種を含有する液晶組成物を、表面(好ましくは配向膜の表面)に適用して、ある配向状態をとらせた後に、その配向状態に固定して形成することができる。前記化合物は、単独で又は他の添加剤の存在下でネマチック相又はスメクチック相を発現することが好ましい。
本発明の化合物は単独で用いてもよいし、ほかの重合性化合物の複数種を組み合わせて用いてもよい。また、非重合性化合物と組み合わせて用いてもよい。単独又は併用で用いる個々の化合物についてはネマチック液晶相、スメクチック液晶相、又はコレステリック液晶相を形成してもよいが、本発明の光学異方性膜を形成する際に用いる添加剤等を含有する液晶組成物として(例えば、溶媒を含む塗布液の形態では加熱乾燥の過程で溶媒が揮散した状態で)、配向固定させる温度範囲で、ネマチック相、スメクチック相、又はコレステリック相を示すことが好ましい。
【0091】
《添加剤》
本発明の光学異方性膜を形成するのに用いる組成物中には、本発明の化合物の分子の配向を促進する添加剤を添加してもよい。配向を促進する添加剤の組成物中における含有量は、本発明の化合物(所望により他の液晶化合物も含む態様では、本発明の化合物及び他の液晶化合物の合計含有量)に対し0.01〜10質量%であるのが好ましく、0.05〜5質量%であるのがより好ましく、0.05〜4質量%であるのが更に好ましい。配向を促進する添加剤は、空気界面あるいは配向膜界面においてその排除体積効果や静電気的な効果によって本発明の化合物の分子を配向させるのに寄与する。特開2002−20363号公報、特開2002−129162号公報に記載されている化合物を用いることができる。また、特開2004−53981号明細書の段落番号[0072]〜[0075]、特開2004−4688号明細書の段落番号[0071]〜[0078]、特開2004−139015号明細書の段落番号[0052]〜[0054]、[0065]〜[0066]、[0092]〜[0094]に記載される事項も本発明に適宜適用することができる。
【0092】
《連鎖移動剤》
本発明の光学異方性膜を形成するのに用いる組成物中には、連鎖移動剤を添加してもよい。組成物中における含有量は、本発明の化合物(所望により他の液晶化合物も含む態様では、本発明の化合物及び他の液晶化合物の合計含有量)に対し、0.01〜10質量%であるのが好ましく、0.05〜5質量%であるのがより好ましく、0.05〜4質量%であるのがさらに好ましい。具体的な連鎖移動剤としては一般に知られているものが用いることができるが、好ましくはメルカプト基を有する化合物(チオール化合物、例えばドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、トリメチロールプロパン トリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトール テトラキス(3−メルカプトプロピオネート)など)やジスルフィド化合物(例えばジフェニルジスルフィドなど)である。本発明の化合物や所望により添加される他の液晶性化合物との相溶性も必要であり、相溶性の観点から液晶性を示すチオール化合物がより好ましい。液晶性を示すチオール化合物としては、米国特許6096241号に記載の化合物などが挙げられる。
【0093】
《光学異方性膜形成用組成物中の他の材料》
本発明の光学異方性膜を形成する際に用いる塗布液等の組成物中には、本発明の化合物、及び所望により他の液晶性化合物、及び所望により添加される前記の配向促進剤及び連鎖移動剤の他に、重合開始剤、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー等を含有していてもよい。これらの材料は、種々の目的、例えば、配向の固定化、塗工膜の均一性、膜の強度、本発明の化合物や所望により添加される他の液晶性化合物の配向性の向上等を目的として添加される。これらの材料は、併用する本発明の化合物や所望により添加される他の液晶性化合物と相溶性を有し、配向を阻害しないことが好ましい。
【0094】
重合開始剤としては、熱重合開始剤及び光重合開始剤のいずれを用いてもよい。光重合開始剤が好ましい。光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許3549367号明細書記載)、アクリジン及びフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許4239850号明細書記載)及びオキサジアゾール化合物(米国特許4212970号明細書記載)が含まれる。光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがさらに好ましい。
【0095】
重合性モノマーとしては、ラジカル重合性もしくはカチオン重合性の化合物が挙げられる。好ましくは、多官能性ラジカル重合性モノマーであり、上記の重合性基含有の液晶化合物と共重合性のものが好ましい。例えば、特開2002−296423号公報明細書中の段落番号[0018]〜[0020]記載のものが挙げられる。上記化合物の添加量は、本発明の化合物(所望により他の液晶化合物も含む態様では、本発明の化合物及び他の液晶化合物の合計含有量)に対して一般に1〜50質量%の範囲にあり、1〜30質量%の範囲にあることが好ましい。
【0096】
界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、特にフッ素系化合物が好ましい。具体的には、例えば特開2001−330725号公報中の段落番号[0028]〜[0056]記載の化合物が挙げられる。
【0097】
本発明の化合物とともに使用するポリマーは、塗布液を増粘できることが好ましい。当該ポリマーの例には、セルロースエステルが含まれる。セルロースエステルの好ましい例としては、特開2000−155216号公報中の段落番号[0178]記載のものが挙げられる。本発明の化合物(所望により他の液晶化合物も含む態様では、本発明の化合物及び他の液晶化合物)の配向を阻害しないように、上記ポリマーの添加量は、本発明の化合物(所望により他の液晶化合物も含む態様では、本発明の化合物及び他の液晶化合物の合計含有量)に対して0.1〜10質量%の範囲にあることが好ましく、0.1〜8質量%の範囲にあることがより好ましい。
【0098】
《溶媒》
前記組成物は、塗布液として調製することができる。塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例、ピリジン)、炭化水素(例、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例、クロロホルム、ジクロロメタン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライド、エステル及びケトンが好ましく、特にエステル及びケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0099】
塗布液の塗布は、公知の方法(例、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
【0100】
前記塗布液を、配向膜等の表面に塗布した後、本発明の化合物の分子を所望の配向状態とし、その配向状態に固定して、膜を形成する。配向状態の固定化は、重合性化合物の重合反応により実施することができる。固定化のために実施する重合反応には、光重合開始剤を用いた光重合反応を利用するのが好ましい。液晶性分子の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。照射エネルギーは、20mJ/cm2〜50J/cm2であることが好ましく、100〜800mJ/cm2であることがさらに好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。また酸素濃度を低減した雰囲気下で重合反応を進行させてもよい。
【0101】
前記光学異方性膜の厚さは、0.1〜10μmであることが好ましく、0.2〜5μmであることがさらに好ましく、0.5〜5μmであることがよりさらに好ましい。
【0102】
重合する前の配向の均一性を詳細に検討したところ、前記組成物を塗布した後、ネマチック相又は等方性相の一旦した後、冷却してスメクチック相に転移させて、固定化を実施するのが好ましい。ネマチック相又は等方性相に一旦するためには、スメクチック相への転移温度Tsc以上の温度で保持する。Tsc以上の温度としては、Tsc+0.1℃以上が好ましいが、より好ましくはTsc+1℃以上であり、さらに好ましくはTsc+5℃以上Tsc+20℃度以下である。ネマチック相又は等方性相で熱処理する時間として10秒以上保持することが好ましく、より好ましくは20秒以上で、さらに好ましくは30秒以上3分以内である。
【0103】
《配向膜》
本発明の光学異方性膜の作製には、配向膜を用いるのが好ましい。配向膜は、液晶性分子の配向方向を規制する機能を有する。さらには、配向膜は、配向の均一性の向上及び支持体として用いられるポリマー基材と光学異方性膜との間の密着性を向上させる目的で用いられる。なお、液晶性化合物を配向後にその配向状態を固定してしまえば、配向膜はその役割を果たしているために、除去することも可能である。即ち、配向状態が固定された配向膜上の光学異方性膜のみを、他の支持体上や、偏光子上に転写してもよい。
【0104】
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
【0105】
本発明では、液晶性分子を配向させる機能に加えて、架橋性官能基(例、二重結合)を有する側鎖を主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する架橋性官能基を側鎖に導入することが好ましい。
配向膜に使用されるポリマーは、それ自体架橋可能なポリマー及び架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができし、これらの組み合わせを複数使用することもできる。
【0106】
ポリマーの例には、例えば特開平8−338913号公報明細書中段落番号[0022]記載のメタクリレート系重合体、スチレン系重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。水溶性ポリマー(例、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコール及び変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコール又は変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。
【0107】
ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。
【0108】
液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖は、一般に疎水性基を官能基として有する。具体的な官能基の種類は、液晶性分子の種類及び必要とする配向状態に応じて決定する。例えば、変性ポリビニルアルコールの変性基としては、共重合変性、連鎖移動変性又はブロック重合変性により導入できる。変性基の例には、親水性基(カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、チオール基等)、炭素数10〜100個の炭化水素基、フッ素原子置換の炭化水素基、チオエーテル基、重合性(不飽和重合性基、エポキシ基、アジリニジル基等)、アルコキシシリル基(トリアルコキシ、ジアルコキシ、モノアルコキシ)等が挙げられる。これらの変性ポリビニルアルコール化合物の具体例として、例えば特開2000−155216号公報明細書中の段落番号[0022]〜[0145]、同2002−62426号公報明細書中の段落番号[0018]〜[0022]に記載のもの等が挙げられる。
【0109】
架橋性官能基を有する側鎖を配向膜ポリマーの主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖に架橋性官能基を導入すると、配向膜のポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを共重合させることができる。その結果、多官能モノマーと多官能モノマーとの間だけではなく、配向膜ポリマーと配向膜ポリマーとの間、そして多官能モノマーと配向膜ポリマーとの間も共有結合で強固に結合される。従って、架橋性官能基を配向膜ポリマーに導入することで、光学補償シートの強度を著しく改善することができる。
配向膜ポリマーの架橋性官能基は、多官能モノマーと同様に、重合性基を含むことが好ましい。具体的には、例えば特開2000−155216号公報明細書中段落番号[0080]〜[0100]記載のもの等が挙げられる。
【0110】
配向膜ポリマーは、上記の架橋性官能基とは別に、架橋剤を用いて架橋させることもできる。
架橋剤としては、アルデヒド、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、イソオキサゾール及びジアルデヒド澱粉が含まれる。2種類以上の架橋剤を併用してもよい。具体的には、例えば特開2002−62426号公報明細書中の段落番号[0023]〜[024]記載の化合物等が挙げられる。反応活性の高いアルデヒド、特にグルタルアルデヒドが好ましい。
【0111】
架橋剤の添加量は、ポリマーに対して0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がさらに好ましい。配向膜に残存する未反応の架橋剤の量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このように調節することで、配向膜を液晶表示装置に長期使用、或は高温高湿の雰囲気下に長期間放置しても、レチキュレーション発生のない充分な耐久性が得られる。
【0112】
配向膜は、基本的に、配向膜形成材料である上記ポリマー、架橋剤を含む透明支持体上に塗布した後、加熱乾燥(架橋させ)し、必要であればラビング処理することにより形成することができる。架橋反応は、前記のように、透明支持体上に塗布した後、任意の時期に行なって良い。ポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーを配向膜形成材料として用いる場合には、塗布液は消泡作用のある有機溶媒(例、メタノール)と水の混合溶媒とすることが好ましい。その比率は質量比で、水:メタノールが0より大きく99以下:100未満1以上が好ましく、0より大きく91以下:100未満9以上であることがさらに好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、更には光学異方層の層表面の欠陥が著しく減少する。
【0113】
配向膜を形成する際の塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法又はロールコーティング法が好ましい。特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は0.1〜10μmが好ましい。加熱乾燥は、20度〜110度で行なうことができる。充分な架橋を形成するためには60度〜100度が好ましく、特に80度〜100度が好ましい。乾燥時間は1分〜36時間で行なうことができるが、好ましくは1分〜30分である。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、pH4.5〜5.5で、特に4.8〜5.2が好ましい。
【0114】
配向膜は、透明支持体上又は上記下塗層上に設けられる。配向膜は、上記のようにポリマー層を架橋したのち、必要であれば表面をラビング処理することにより得ることができる。あるいは光照射によって配向規制力を付与することができる。
【0115】
前記ラビング処理は、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を適用することができる。即ち、配向膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムあるいはナイロン、ポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより、配向を得る方法を用いることができる。一般的には、長さ及び太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。
【0116】
前記光照射による配向処理は、基板上に設けられた膜に何らかの異方性を有する光を照射することで液晶組成物に配向性を付与するものであり、『液晶』、第11巻、1号 16ページ(2007年)、同、第8巻、4号、216ページ(2004年)、『光機能性高分子材料の新展開』、シーエムシー出版、167ページ(1996年発行)、特開2007−156439号などに記載の材料ならびに手法によって実施される。
【0117】
なお、配向膜は液晶組成物を配向させるために必要であるが、液晶組成物を配向させてその配向を固定化した後には不要であり、剥離してもかまわない。
【0118】
[支持体]
本発明の光学異方性膜を、支持体上に形成してもよい。支持体は透明であるのが好ましく、具体的には、光透過率が80%以上であるのが好ましい。支持体の一例は、ポリマーフィルムである。支持体となるポリマーフィルムの例には、セルロースエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリレート及びポリメタクリレートのフィルムが含まれる。セルロースエステルフィルムが好ましく、アセチルセルロースフィルムがさらに好ましく、トリアセチルセルロースフィルムが最も好ましい。ポリマーフィルムは、ソルベントキャスト法により形成することが好ましい。透明支持体の厚さは、20〜500μmであることが好ましく、40〜200μmであることがさらに好ましい。
また、支持体や長尺の支持体には、搬送工程でのすべり性を付与したり、巻き取った後の裏面と表面の貼り付きを防止するために、平均粒径が10〜100nm程度の無機粒子を固形分重量比で5%〜40%混合したポリマー層を支持体の片側に塗布や支持体との共流延によって形成したものを用いることが好ましい。
【0119】
本発明の光学異方性膜は、塗布及び硬化により形成されることによって、ガラス基板やガラス基板上に設けられたカラーフィルタ、配向膜、OC層、反射板等に対して十分な密着性を有するが、目的に応じて密着力を調整する必要がある場合は、下記の方法により密着力を調整することができる。具体的には、表面活性化、表面修飾、及び光学異方性膜形成用塗布液に密着力促進剤を混合させる方法である。
表面活性化による方法には、支持体等の表面を酸やアルカリによる化学処理、機械処理、コロナ放電処理、火焔処理、UV処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、及びオゾン酸化処理を挙げることができる。ここでいうグロー放電処理とは、10−3〜20Torrの低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、さらにまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類及びそれらの混合物などが挙げられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて30頁〜32頁に詳細に記載されており、本発明において好ましく用いることができる。なお、近年注目されている大気圧でのプラズマ処理は、例えば10〜1000Kev下で20〜500Kgyの照射エネルギーが用いられ、より好ましくは30〜500Kev下で20〜300Kgyの照射エネルギーが用いられる。
表面修飾による方法には、支持体等の表面に下塗り層を形成する、支持体等の表面を後述のシランカップリング剤を用いたシランカップリング処理、アンカーコート層形成などである。下塗層についての詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載されている。
【0120】
光学異方性膜形成用塗布液に密着力促進剤を混合させて密着力を調整する方法に利用可能な剤としては、例えば、特開平5−11439号公報、特開平5−341532号公報、及び特開平6−43638号公報等に記載の密着促進剤が例示される。具体的には、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズオキサゾール、2−メルカプトベンズチアゾール、3−モルホリノメチル−1−フェニル−トリアゾール−2−チオン、3−モルホリノメチル−5−フェニル−オキサジアゾール−2−チオン、5−アミノ−3−モルホリノメチル−チアジアゾール−2−チオン、及び2−メルカプト−5−メチルチオ−チアジアゾール、トリアゾール、テトラゾール、ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、アミノ基含有ベンゾトリアゾール、加水分解性基又はラジカル重合性基等を有する重合性有機金属化合物、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル、シランカップリング剤、チタンカップリング剤などが挙げられる。
前記シランカップリング剤としては例えば、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン、γ−アミノプロピルトリブトキシシラン、γ−アミノエチルトリエトキシシラン、γ−アミノエチルトリメトキシシラン、γ−アミノエチルトリプロポキシシラン、γ−アミノエチルトリブトキシシラン、γ−アミノブチルトリエトキシシラン、γ−アミノブチルトリメトキシシラン、γ−アミノブチルトリプロポキシシラン、γ−アミノブチルトリブトキシシランなどが挙げられ、また上記チタンカップリング剤としては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシチタン、γ−アミノプロピルトリメトキシチタン、γ−アミノプロピルトリプロポキシチタン、γ−アミノプロピルトリブトキシチタン、γ−アミノエチルトリエトキシチタン、γ−アミノエチルトリメトキシチタン、γ−アミノエチルトリプロポキシチタン、γ−アミノエチルトリブトキシチタン、γ−アミノブチルトリエトキシチタン、γ−アミノブチルトリメトキシチタン、γ−アミノブチルトリプロポキシチタン、γ−アミノブチルトリブトキシチタンなどが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
前記密着促進剤の含有量としては、前記光学異方性膜形成用の全成分(固形分)に対して0.001質量%〜20質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましく、0.1質量%〜5質量%が特に好ましい。
【0121】
また、重合開始剤によっても密着性を調整することができる。重合開始剤としては、例えば、ハロゲン化炭化水素誘導体(例えば、トリアジン骨格を有するもの、オキサジアゾール骨格を有するもの等)、ヘキサアリールビイミダゾール、オキシム誘導体、有機過酸化物、チオ化合物、ケトン化合物、アシルホスフィンオキシド化合物、芳香族オニウム塩、メタロセン類などが挙げられる。これらの中でも、感度、保存性、及び密着性等の観点から、トリアジン骨格を有するハロゲン化炭化水素、オキシム誘導体、ケトン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール系化合物が好ましい。
【0122】
本発明の光学異方性膜は、本発明の化合物を利用して作製されているので、そのレターデーションが、可視光域において逆分散性を示すことが期待できる。特に、従来困難であった、長波長側(例えば、波長650nm近傍)においても逆分散性を示すことが期待できる。その結果、広帯域λ/4板として特に有用である。
【0123】
本発明の新規な化合物ならびにそれを含有する液晶組成物を用いた光学異方性膜は、位相差板、及び位相差のあるカラーフィルタの作製に有用である。
また、本発明の化合物は、二色性色素としても利用可能であり、ゲスト−ホスト方式の液晶表示素子の液晶セルの作製や、偏光素子の作製にも利用することできる。
【実施例】
【0124】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1:例示化合物(I−2)の合成例]
例示化合物(I−2)を、以下の経路にて合成した。
【0125】
【化22】

【0126】
化合物(I−2)−Bの合成:
ベンゾキノン(化合物(I−2)−A)を出発物質にJ.Org.Chem.,69巻、2164〜2177ページ(2004年)に記載の方法で化合物(I−2)−Bを得た。
【0127】
化合物(I−2)−Cの合成:
化合物(I−2)−Bを4.2g(12.8mmol)、1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン−3−カルボン酸エチル2.9g(12.5mmol)をN−メチル−ピロリジノン50mLに加えて95℃にて2時間攪拌した。室温まで冷却した後、酢酸エチル100mL、及び水100mLを加えて抽出し、有機層を希塩酸100mL、ついで水100mLで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。得られた有機層を濃縮した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液は酢酸エチル)で精製し、目的物の化合物(I−2)−Cを3.2g得た。1H−NMRスペクトルから目的物であることを確認した。
【0128】
化合物(I−2)−Kの合成:
trans−4−ヒドロキシ−シクロヘキサンカルボン酸7.2g(50mmol)、ベンジルブロミド10.2g(60mmol)をN−メチル−ピロリジノン90mLに加えて攪拌し、炭酸水素ナトリウム8.2g(100mmol)を添加して90℃にて3時間攪拌した。室温まで冷却した後、内容物に酢酸エチル400mL、及び水300mLを加えて抽出した。有機層を希塩酸、水で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮した。濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、目的物の化合物(I−2)−K 9.2gを得た。1H−NMRから目的物であることを確認した。
【0129】
化合物(I−2)−Eの合成:
化合物(I−2)−D 54g(0.5mol)をトルエン500mLに加えて攪拌し、室温にて1,3−プロパンジオール 38g(0.5mol)、硫酸0.5mLを加え、共沸する水を除きながら2時間加熱還流した。室温まで冷却した後、内容物に水500mL、酢酸エチル500mLを加えて抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮した。濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(I−2)−E41gを得た。1H−NMRから目的物であることを確認した。
【0130】
化合物(I−2)−Gの合成
trans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(化合物(I−2)−F) 30g(0.17mol)をトルエン100mLに加え、室温にてN,N−ジメチルホルムアミド 0.5mL、及び塩化チオニル 30mLを加えて油温70℃のオイルバスにて3時間加熱攪拌した。溶媒を留去した後、テトラヒドロフラン200mLを加え、室温にて化合物(I−2)−E 28.3g(0.17mol)を加え、0℃以下に冷却しながらピリジン14mL(0.175mol)を滴下した。室温で2時間攪拌した後、ピリジン10mL、水400mL、及び酢酸エチル400mLを加えて抽出し、有機層硫酸ナトリウムで乾燥して、濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物(I−2)−G 20g(0.062mol)を得た。1H−NMRから目的物であることを確認した。
【0131】
化合物(I−2)−Hの合成:
化合物(I−2)−G 20g(62mmol)をトルエン60mLに溶解し、N,N−ジメチルホルムアミド 0.2mL、及び塩化チオニル7.1mLを加え、70℃にて3時間攪拌した。溶媒を減圧留去した後、残渣にテトラヒドロフラン100mLを加えて攪拌し、化合物(I−2)−K 14.0g(60mol)を加え、5℃以下に冷却した。冷却化にピリジン5mL、次いで4−N,N−ジメチルアミノピリジン100mgを順次加えたのち、5℃以下にて30分間攪拌した後、室温で2時間攪拌した。反応液に酢酸エチル200mL希塩酸200mLを加えて抽出し、有機層を水で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥し、濃縮した。濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、目的物の化合物(I−2)−H 27.3g(51mmol)を得た。1H−NMRから目的物であることを確認した。
【0132】
化合物(I−2)−Iの合成:
化合物(I−2)−H 22.7g(42mmol)を、テトラヒドロフラン60mL、及びエチルアルコール60mLに溶解し、10%Pd−Cを2g加えて、水素雰囲気下(5Mpa)にて、室温で3時間攪拌した。触媒を濾過した後、溶媒を留去して目的の化合物(I−2)−I 17.7g(40mmol)を得た。1H−NMRから目的物であることを確認した。
【0133】
化合物(I−2)−Jの合成:
化合物(I−2)−I 5.2g(12mmol)をトルエン20mLに溶解し、N,N−ジメチルホルムアミド 0.1mL、及び塩化チオニル1.3mLを加え、70℃にて3時間攪拌した。溶媒を減圧留去した後、残渣にN−メチル−ピロリジノン20mLに加えて攪拌し、化合物(I−2)−C 2g(4.8mol)を加え、5℃以下に冷却した。冷却下にピリジン1mL、次いで4−N,N−ジメチルアミノピリジン100mgを順次加えたのち、5℃以下にて30分攪拌した後、室温で2時間攪拌した。反応液に酢酸エチル200mL及び希塩酸200mLを加えて抽出し、有機層を水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮した。濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、目的物の化合物(I−2)−J 2.8g( 2.2mmol)を得た。1H−NMRから目的物であることを確認した。
また、合成した化合物(I−2)−Jの相転移温度は以下の通りであった。
結晶−140℃→ネマチック相−178℃→等方相
【0134】
化合物(I−2)の合成:
化合物(I−2)−J 2.54g(2mmol)をアセトニトリル20mLに溶解し、トリエチルアミン0.7mLを加え、80℃にて3時間攪拌した。溶媒を減圧留去した後、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、目的物の化合物(I−2) 1.9g(1.6mmol)を得た。1H−NMRから目的物であることを確認した。
以下に、測定したNMRデータを示す。
1H−NMR(300MHz,CDCl3):8.01ppm(2H,d)、7.45ppm(2H、t)、7.28ppm(1H,d)、7.26ppm(2H、d)、6.43ppm(2H、d)、6.14ppm(2H,dd)、5.85(2H,dd)、4.80ppm(2H、m)、4.51ppm(2H,q)、4.20ppm(4H,t)、4.15ppm(4H、t)、2.70ppm(2H,m)、1.4〜2.4ppm(39H,m)
また、合成した化合物(I−2)の相転移温度は以下の通りであった。
結晶−145℃→ネマチック相−185℃→等方相
【0135】
[実施例2]
上記実施例1の合成経路において、(I−2)−Iを下記に示す対応するI体に、(I−2)−Cを下記に示す対応するC体に置き換えることで、化合物(I−1)、(I−3)〜(I−5)、(I−11)、(I−13)、及び(I−16)をそれぞれ合成した。
【0136】
【化23】

【0137】
【化24】

【0138】
[実施例3:溶液吸収の測定]
化合物(I−2)5mgをクロロホルム250mLに溶解して紫外−可視領域の吸収スペクトルを測定した。λmaxは427nmでモル吸光係数は2×104であった。
【0139】
[実施例4:一軸配向]
化合物(I−2)20mgをクロロホルム40mLに溶解して、ラビング処理をしたガラス基板にスピンコートした。170℃で1分間乾燥した後、偏光顕微鏡で観察すると、化合物(I−2)の分子は均一に配向していた。遅相軸はラビング方向と一致し、45度ステージを回転するたびに明暗を繰り返した
【0140】
[実施例5:複屈折の波長分散特性]
化合物(I−2)をくさびセルに導入し、加熱下で複屈折(Δn)を調べた。その結果を表1に示す。参考として下記構造の参考化合物−1について同様に調べた結果を示す。
【0141】
【表1】

【0142】
測定によって得られた各波長での複屈折から、複屈折の波長分散特性を求め、下記表にまとめた。なお、表2には広帯域性を示す理想的な波長分散特性の値を参考値として示している。この理想値は、測定波長の比から求めた値である。即ち、Δn(450nm)/Δn(550nm)では、一方の測定波長である450nmを、他方の測定波長である550nmで割った値(450/550=0.82)を理想値とした。
【0143】
【表2】

【0144】
表2に示す結果から、本発明の化合物は、参考化合物1と比較して、長波長域において、理想的な波長分散により近い値を示すことが理解できる。
【0145】
【化25】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物。
【化1】

(式中、A1及びA2は各々独立に、−O−、−NR−(Rは水素原子又は置換基を表す。)、−S−及び−CO−からなる群から選ばれる基を表す。Zは、炭素原子及び第14〜16族の非金属原子からなる群から選択される1又は2個の原子を表し、式中記載のC−C=C−C又はC=C−C=Cと共に5又は6員環を形成する。R1、R2及びR3は各々独立に置換基を表す。mは0〜4の整数である。L1及びL2は各々独立に単結合又は二価の連結基を表す。B1及びB2は各々独立に、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−NR−(Rは水素原子又は置換基を表す。)、=N−、=N(+)R−(Rは水素原子又は置換基を表す。)、−CO−、−CS−、及び=CR−(Rは水素原子又は置換基を表す。)からなる群から選ばれる基を表す。Yは、炭素原子及び第14〜16族の非金属原子からなる群から選択される2〜4個の原子を表し、式中記載のB1−C−B2と共に5〜7員環を形成する。(ただし、置換基R4が結合してもよい。)ただし、A1とB1及びA2とB2が同じ置換基である場合、ならびにA1とB2及びA2とB1が同じ置換基である場合は除く。)
【請求項2】
下記式(I)’で表される請求項1に記載の化合物。
【化2】

前記式(I)’中、Sは硫黄原子を表し、それ以外の符号については、前記式(I)中のそれぞれと同義である。
【請求項3】
式中の環Yが、下記Y−1〜Y−24のいずれかである請求項1又は2に記載の化合物。
【化3】

式中、Rは水素原子または置換基であり、複数存在するRは互いに同一でも異なっていてもよく、mは0〜4の整数である。
【請求項4】
下記式(I−a)〜(I−e)のいずれかで表される請求項1に記載の化合物。
【化4】

前記式(I−a)〜(I−e)中、Sは硫黄原子を表し、それ以外の符号については、前記式(I)中のそれぞれと同義であり、Rは水素原子又は置換基を表し、複数存在するRは互いに同一でも異なっていてもよい。
【請求項5】
前記一般式(I)中、L1及びL2の少なくとも1つが、−OCO−であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
前記一般式(I)中、R、R1、R2、R3及びR4の少なくとも1つが、重合性基を含む置換基であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
2及びR3がそれぞれ、下記式のいずれかで表される請求項1〜6のいずれか1項に記載の化合物。
【化5】

式中、L11は、単結合もしくは連結基であり、R11は置換基である。
【請求項8】
2及びR3がそれぞれ、下記式のいずれかで表される請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物。
【化6】

式中、L11は、上記定義と同様であり、R12は、アルキル基(但し、隣接しない炭素原子の一方が酸素原子もしくは硫黄原子に置換されていてもよい)を表し、P11は重合性基を表す。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の化合物を少なくとも1種含有することを特徴とする液晶組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の組成物からなる光学異方性材料。

【公開番号】特開2009−179563(P2009−179563A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17125(P2008−17125)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】