説明

化合物を分析するための方法及びシステム

【課題】化合物、特に、ヘルスケア、医薬品、化粧品、及び環境部門に用いられる化学化
合物の分析に関する技術を提供する。
【解決手段】細胞ネットワークの物理的応答を用いる化合物の分析を説明する。一般的に
細胞ネットワークの電気的特性がモニタされるが、蛍光のような他の特性をモニタするこ
ともできる。いずれにしても、分析は、信号処理技術を利用して、既知の応答のライブラ
リに対して評価することができる特徴の組を導出する。この技術は、未知の化合物の検出
及び識別と既知の化合物の濃度の検出の両方に適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、特に、網羅的ではないがヘルスケア、医薬品、化粧品、及び環境部
門に用いられる化学化合物の分析に関する。
【背景技術】
【0002】
より有効な製薬化合物を判断して、恩典をもたらす可能性のある化学化合物を識別して
単離することに益々多くの時間、労力、及びリソースが注がれる現状になっている。従来
的には、その手法は、化合物によるターゲットとの相互作用が疾病を治療する変化をもた
らすことができると考えられる酵素又は受容体のような、生化学的経路内の分子ターゲッ
トを選択することであった。一般的に、相互作用は、経路を阻害又は活性化する化合物の
形態を取るであろう。一度に常に多くのターゲットが調査されることになることは明らか
である。有用な可能性がある化合物に対するターゲットを評価するために、典型的にはク
ローニング処理を通して、試験用のターゲットのサンプルを生成することが必要である。
次に、不適切な化合物を除去して潜在的に価値がある化合物を識別するために、これらの
化合物に対する一連の試験でターゲットがスクリーニングされる。場合によっては、潜在
的に価値のある化合物の設計を示唆する分子ターゲットに関する十分な生物構造的情報が
あることがある。それでも、ほとんどの場合に、ロボット技術を用いて何十万の化合物が
一般的にスクリーニングされる。一般的に、ターゲットの初期選択から候補化合物の識別
までの全工程には数年掛かる可能性がある。
【0003】
この最初のスクリーニング相で潜在的に価値があると識別された状態で、適切な活性を
示す化合物には、ターゲットに対する可能性及び選択性のレベルを判断するために更にス
クリーニングが行われる。これらのデータから、手掛かりが識別されることになる。
潜在的な候補化合物が識別された状態で、それは、次に、臨床的及び非臨床的研究の両
方の様々な研究の必要性を満たすための更なるスクリーニングを含む更なる開発が行われ
る。化合物の生物学的影響は、可能な限り安全性試験に動物を用いることを避けて評価さ
れることになる。すなわち、培養液中の細胞は、このような調査の基礎になるものに対す
る魅力的な代替物である。このような評価は次第に自動化されてきており、ほとんどの場
合に従来の検定技術が用いられるが、自動化技術を用いる初期の試みもいくつか為されて
いる。
【0004】
化合物に応答する細胞培養液の分析に用いられてきたこのような技術の1つは、米国特
許第6,377,057号に詳述されたものであり、これは、細胞電位に誘起された変化
のスペクトル密度サインに従って生物学的作用物質を分類するための技術及び装置を説明
している。この特許では、それが教示する手法が細胞電位を測定する従来の試みを超える
ことを意図していることが示唆されている。このような初期の試みでは、経験を積んだ神
経科学者によって解釈されるのにより適する結果が生成されることが示唆される。実際に
、このようなツールは、1970年台初め以来、心臓内科医のような研究者及び熟練した
施術者に利用可能であったが、この特許に開示された発明は、より一般的に用いられるこ
とを意図していることが示唆されている。従って、この特許は、細胞応答のパワースペク
トル密度(PSD)の解釈に基づく比較的精緻でない分析機構を開示するものである。す
なわち、この特許は、この技術が未知の化合物を識別して化合物の特性を判断することが
できることを教示しているが、このような誘発された膜電位又は活動電位の純粋にスペク
トル密度変化に基づく分析は、分析の複雑さを低減する目的で得られる結果の価値を制限
すると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,377,057号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、化合物分析方法が提供され、本方法は、電気活性細胞ネ
ットワークの電気出力から得られる特徴の数に等しい次元数を有するベクトル量を判断す
る段階を含み、このベクトルの各成分は、化合物を上述の電気活性細胞ネットワークに適
用し、所定のクラスター分析法によりこのベクトルを分類することからもたらされる上述
の特徴の変化を表している。
細胞活性は、刺激される時に変化する場合がある。信号の変化を分析し、所定の挙動特
徴のライブラリに比較することにより、刺激の特徴付けを行い、及び/又は細胞ネットワ
ークに対する影響を数量化することができる。ソナー信号処理に現在用いられるものに基
づく処理アルゴリズムを用いて、信号の特徴は、細胞構造内で起こる分子的イベントに関
連させることができる。このような特徴は、電気的、化学的、又は蛍光性の性質とするこ
とができ、適切な変換器を設けることが必要である。
【0007】
本発明の別の態様によれば、化合物分析システムが提供され、このシステムは、複数の
電極が置かれた生体適合性基板により設けられた微小電極アレイを含み、この電極は、基
板上での使用時に使い捨て可能な電気活性細胞ネットワークのものに実質的に対応する基
板上の配列と、電極に連結されたマルチチャンネル増幅器と、上述の電気活性細胞ネット
ワークの電気出力から得られる特徴の数に等しい次元数を有し、各成分がこの特徴の変化
を表すベクトル量を各活性チャンネルに対して判断するために上述の増幅器に作動的に連
結された分析装置とを有する。
便利な態様においては、このシステムは、薬物に対する血液/尿サンプルの試験に用い
ることができるものである。特定の用途は、運動選手の能力向上薬又は患者の遵守に対す
る試験とすることができる。
【0008】
化合物のシステムへの送出は、潅流システムの制御下に置くことができる。このような
潅流システムを用いることにより、薬物のような化合物の正確な送出が行われることを更
に確信することができる。潅流システムにより、薬物の正確かつ変化する可能性がある投
与を既知の時間に送出することができる。更に、潅流システムは、薬物が制御された円滑
な送出で正確な温度で添加されることを保証することができる。
すなわち、このシステムは、外部刺激に露出された時の細胞構造の挙動的変化を識別し
て数量化することができるという点で医薬品市場の必要性に対して特に適するものである
。便利な態様においては、後処理活動には、所定の応答ライブラリと比較して刺激物を識
別すること、又は単純に出力して反応が許容範囲に含まれるか否かを判断することを含む
ことができる。
【0009】
本発明の更に別の態様によれば、プロセッサ及びメモリを含む化合物分析装置が提供さ
れ、プロセッサは、使用時にそれに連結された微小電極アレイから得られる信号に応答し
て、この微小電極アレイの電気出力から得られる特徴の数に等しい次元数を有し、各成分
がこの特徴の変化を表すベクトル量を判断するように作動可能であり、メモリは、統計的
信頼度の所定の尺度に従って上述のベクトルの分類が使用時に上述のアレイ上に堆積する
化合物の識別を可能にするように既知の化合物を特徴付けする特徴ライブラリを収容して
いる。
【0010】
微小電極アレイから得られる信号は、性質は電気的であるが、電気的活動だけでなく、
使用時にアレイ上に堆積する細胞ネットワークの物理的特性の他の変化からも発生する場
合がある。明らかに、アレイ上又はその近くの変換器がモニタされている特性を表す電気
信号を提供することができるという要件が存在する。
本発明の更に別の態様によれば、化合物検出のためのセンサが提供され、センサは、微
小電極アレイに対する受容器を含み、この受容器は、受容器に収容された時のこのアレイ
から電気信号を受信するためのコネクタを有し、センサは、この信号を増幅するための増
幅器と、この信号に応答して、微小電極アレイの電気出力から得られる特徴の数に等しい
次元数を有し、各成分がこの特徴の変化を表すベクトル量を判断するように作動可能なプ
ロセッサとを更に含む。
このようなセンサは、網羅的ではないが、水質分析、環境モニタリング、及び、例えば
、医薬品、化粧品、及び食料品等の生産における工程制御のような様々な用途に適するよ
うにパッケージ化することができる。
一般的に、アレイからのベースライン測定値の組が記録された状態で、細胞挙動のあら
ゆる変化を識別して数量化することができる。このような変化は、刺激物に露出すること
により誘発することができる。以下に詳述する本発明の実施形態では、刺激物は、化学化
合物の形態を取ると考えられる。
任意的に、自動潅流システムは、円滑で制御された方法で薬物化合物の細胞ネットワー
クへの送出を容易にすることができる。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
電気活性細胞ネットワークの電気出力から得られる特徴の数に等しい次元数を有し、各
成分が化合物の該電気活性細胞ネットワークへの付加から生じる該特徴の変化を表すベク
トル量を判断する段階と、
所定のクラスター分析法に従って前記ベクトルを分類する段階と、
を含むことを特徴とする化合物分析方法。
(項目2)
前記ベクトルの分類が統計的信頼度の所定の尺度による前記化合物の識別を可能にする
ような既知の化合物を特徴付ける特徴のライブラリを準備する段階を含むことを特徴とす
る項目1に記載の方法。
(項目3)
複数の電極が配置された生体適合性基板により設けられた微小電極アレイ、
を含み、
前記電極は、前記基板上で使用時に使い捨て可能な電気活性細胞ネットワークのものに
実質的に対応する該基板上の配列と、該電極に連結されたマルチチャンネル増幅器と、該
電気活性細胞ネットワークの電気出力から得られる特徴の数に等しい次元数を有し、各成
分が該特徴の変化を表すベクトル量を各活性チャンネルに対して判断する、該増幅器に作
動的に接続された分析装置とを有する、
ことを特徴とする化合物分析システム。
(項目4)
プロセッサ及びメモリ、
を含み、
前記プロセッサは、使用時に該プロセッサに接続されたる微小電極アレイから得られる
信号に応答して、該微小電極アレイの電気出力から得られる特徴の数に等しい次元数を有
し、各成分が該特徴の変化を表すベクトル量を判断するように作動可能であり、
前記メモリは、前記ベクトルの分類が統計的信頼度の所定の尺度による前記アレイ上に
使用時に堆積する化合物の識別を可能にするように、既知の化合物を特徴付けする特徴の
ライブラリを収容する、
ことを特徴とする化合物分析装置。
(項目5)
前記アレイから得られる信号が保持されるような記憶装置を含むことを特徴とする請求
項4に記載の装置。
(項目6)
微小電極アレイのための受容器、
を含み、
前記受容器は、該受容器に収容された時の前記アレイから電気信号を受信するためのコ
ネクタを有し、
前記信号を増幅するための増幅器と、
前記信号に応答して、前記微小電極アレイの電気出力から得られる特徴の数に等しい次
元数を有し、各成分が該特徴の変化を表すベクトル量を判断するように作動可能なプロセ
ッサと、
を更に含むことを特徴とする、化合物検出のためのセンサ。
(項目7)
メモリを更に含み、
前記メモリは、前記ベクトルの分類が前記アレイ上に使用時に堆積する化合物の識別を
可能にするような既知の化合物を特徴付けする特徴のライブラリを収容する、
ことを特徴とする項目6に記載のセンサ。
(項目8)
前記メモリは、センサと一体化していることを特徴とする項目6又は項目7に記載
のセンサ。
(項目9)
複数の電極を配置した生体適合性基板、
を含み、
前記電極は、使用時に分析装置への電気接続性をもたらすコネクタに連結され、
前記コネクタに連結されて使用時に前記分析装置によりアクセス可能なメモリ、
を更に含む、
ことを特徴とする、化合物分析に用いるための微小電極アレイ。
(項目10)
化合物分析装置に用いるためのコンピュータ可読媒体内のコンピュータプログラム製品
であって、
微小電極アレイの電気出力から得られる特徴の数に等しい次元数を有し、各成分が該特
徴の変化を表すベクトル量を判断し、
既知の化合物を特徴付ける特徴のライブラリを収容したメモリにアクセスし、
前記アレイ上に使用時に堆積する化合物を識別するために前記ベクトルを分類する、
ことを特徴とする製品。
(項目11)
前記化合物の前記識別に適用可能な統計的信頼度のレベルを判断することを特徴とする
項目10に記載のコンピュータプログラム製品。
(項目12)
実質的に添付図面の図1を参照して上述したような化合物分析システム。
(項目13)
実質的に添付図面の図4を参照して上述したような、化合物検出のためのセンサ。
ここで本発明を更に完全に理解するために、そのいくつかの実施形態を例示的に添付図
面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一態様による分析システムの線図である。
【図2】図1のシステムの一部を形成する微小電極アレイ(MEA)の平面図である。
【図3】本発明の更に別の態様による分析の方法を示す流れ図である。
【図4】本発明の更に別の態様によるセンサの線図である。
【図5】図4のセンサの化合物出力に対する応答を示すグラフである。
【図6】本発明と共に用いるために選択した特徴の組を示す表である。
【図7】例えば本発明による化合物である特徴の組に亘る応答の組を示すマトリックスである。
【図8】図7の応答に基づくベクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面、特に図1を参照すると、細胞ネットワークが存在する部位にMEA3(図2参照
)が設けられた分析システム1が示されている。細胞ネットワークの性質は、以下の特定
の例、すなわち、複数の心筋細胞で作られるネットワークに関して説明する。しかし、細
胞ネットワークのこの特定の例は純粋に例示的であり、細胞ネットワークへの言及は何れ
も本明細書に挙げた例5を純粋に意味するように解釈すべきでないことを当業者は最初に
認めるであろう。
【0013】
MEA3には、各々がトレース9によりエッジコネクタ11に連結された複数の電極7
が表面に装着された生体適合性基板5が含まれる。MEA3は、壁15の底部に形成され
た受容器13に挿入可能である。受容器13は、エッジコネクタ11に接触するように設
けられる。壁15は密封的に封入され、化合物が内部で分析される環境又はチャンバ17
を形成する。チャンバ自体は、リボンコネクタ19を通じて増幅器ユニット21の入力に
連結される。エッジコネクタ11及び受容器13を組み合わせると、異なる化合物を分析
するためのMEA3の挿入及び除去が容易になる。図2は、等距離電極で作られる正方形
アレイを示すが、例えば、非均質な電極ピッチ及びレイアウトを有する代替的アレイレイ
アウトも考えられている。電極7がMEA3上に配列される場合は、ネットワークの信号
細胞から電気活動を検出することができるべきであるという要件に対して、特定のレイア
ウトの使用が予測される。明らかに、MEA3のパッキング又は形状係数は、それを壁1
5内の受容器13から正確かつ容易に挿入及び除去することができるようなものであるべ
きである。
【0014】
各電極7の出力は、上述のケーブル相互接続19を通じて増幅器ユニット21に渡され
、そこで出力が増幅される。増幅器ユニット21は、各チャンネルに対して利得をほぼ1
000にすることができるマルチチャンネル装置である。一般的に、MEA3の各電極7
をチャンネルにマップすることができるように十分なチャンネルが利用可能である。ME
A3の構成に応じて、十分にデータを収集するためにそれよりも多いか又は少ないチャン
ネルが必要となることもある。増幅器ユニット21自体は、PCベースのデータ取得シス
テム23に連結される。PCシステム23は、PCIバスを通じて中央演算処理装置に連
結された「アナログ/デジタル」変換カード25を組み込んでいる。カード25は、増幅
器21アナログ出力を取得システム23に接合するのに必要な外部接続となる。カード2
5は、50キロヘルツ/チャンネルまでの増幅器ユニット21からの増幅チャンネルデー
タをサンプリングすることができる。中央演算処理装置は、デジタルデータを分析するの
に必要なソフトウエア及び/又はファームウエアにより与えられる指示を実行する。デー
タは、イベントがMEA3に起こった時に実時間で分析することができ、又はハードディ
スクのような記憶装置27から後に取り出すことができる。前者の場合には、記憶装置2
7を用いてデータを後の反復分析又は更なる分析のために依然として記憶することができ
る。実時間で処理する機能は、オフライン分析と対照的に、ある程度はデータを生成する
速度及びシステム23の記憶容量に依存することになる。MEA3上に配置された細胞ネ
ットワークの性質により、サンプリング速度が決まる。従って、ソフトウエア及び/又は
ファームウエアには、プロセッサ速度及び記憶容量のあらゆる制限を考慮し、システム2
3が特定の細胞ネットワークに最適なサンプリング速度で作動することができる論理が設
けられる。従って、心筋細胞から成る細胞ネットワークの場合には、活動は、100mS
窓に亘って比較的ゆっくり起こる可能性があるが、神経の場合には、活動は、ほぼ15〜
25mSという遥かに短い窓に存在することができる。前者の場合、システム23には、
関連制御信号が「アナログ/デジタル変換器」25に供給されると、神経ネットワークか
らのデータで細部を同等の解像度にするのに必要なサンプリング速度よりも比較的ゆっく
りとしたサンプリング速度を使用することができる。PCシステム23には、結果を示す
ためのVDU29及びプリンタが備えられる。
【0015】
使用時には、特に図3を参照すると、再び1000程度の数字が各アナログチャンネル
に適用され、これは、以下に説明する例、すなわち、心筋細胞の細胞ネットワークでは、
前置増幅値がほぼ100マイクロボルト〜2ミリボルトである。この段階で、MEA3上
の電極7からの出力はアナログ信号である。デジタル信号処理を行えるようにするには、
信号をデジタル化する必要があることは明らかである。アナログ信号をサンプリングする
速度は、MEA3上に置かれた細胞ネットワークの電気活動での関連の全ての特徴がデジ
タル信号処理ユニットに確実に利用可能であるほど十分に大きいものを選択すべきである
。第1の段階として、信号が増幅され(31)、各電極7からのアナログ信号は、この場
合はローパスフィルタリングにより望まない高周波成分を除去して調整される(33)。
各チャンネルの濾過したアナログ信号は、50kHz程の大きさとすることができる速度
でサンプリングし(35)、実際の速度37は、MEA3上に配置された細胞ネットワー
クの性質によって決まる(39)。心筋細胞ネットワークの場合には、有効なサンプリン
グ速度は、10kHzであることが見出されている。
【0016】
心筋細胞の細胞ネットワークの例においてサンプリング速度を10kHzに選択するこ
とにより、過剰にデータを収集することなく十分な解像度が達成される。1分よりも長い
期間の長期記録のために、心筋細胞からの電気活動の一連の「切り抜き」としてデータを
記憶することができる。「切り抜き」として記憶された各細胞のイベントは、ベースライ
ンよりも大きいノイズの少なくとも2つの二乗平均平方根値の閾値レベル(通常正の値)
を設定する(41)ことにより判断される。各イベントに対して、閾値レベルを超した時
点(43)で時刻印を記録する。また、閾値レベルに交差する15ミリ秒前及び85ミリ
秒後の電極生データを記憶する。データは、「.mcd」フィルフォーマット(60秒記
録に対してほぼ10Mb/電極)のハードディスクのファイルに記憶する。
【0017】
ハードディスクに記憶されたデータは、細胞ネットワーク内で起こり、一般的に活動電
位又はスパイクの形態である電気活動の変化を表している。以下に更に説明するように、
この変化は、化合物が細胞ネットワークに導入される時にスパイクの形状及びその時間的
及び空間的パターンに起こる。細胞ネットワークからの電気活動データは、電極アレイの
モデルに時間的及び空間的情報を課すことによりソフトウエアで分析される。従って、組
織サンプルに亘る電気活動の局所的及び全体的特性の両方を識別して数量化することがで
きる。局所的特性の例は、個々の電極で検出された活動電位のピーク高さ、振幅、又は脱
分極時間である。全体的特性の例は、拍動周波数及び培養物に亘る活動電位の伝播速度で
ある。これらの様々な特質は、特徴と呼ばれる。次に、このデジタルデータに特徴抽出4
7処理を行うことができる。
【0018】
本実施形態の変形では、データがデータファイルに記憶される前に、特徴自体を用いて
データストレージに対する要件を低減することができる。従って、スパイクは、最初に閾
値検出装置を用いて識別し、カタログ化して記憶し、残りのデータは無視することができ
る。スパイクの時間的長さは、一般的にスパイク間の時間分離よりも遥かに短いために、
この手順で必要な記憶容量は小さいものである。
分析システム23により識別可能な非網羅的な特徴の組を以下に列挙する。
【0019】
特徴の例
「平均スパイク率」−チャンネルに観察されるスパイクの数を記録した長さで割ったも
の。平均スパイク率の特徴は、実験の全過程に亘ってではなく、毎分又は数分毎に更新す
ることができる。
「スパイク率変動性」−全てのチャンネルに亘って平均した連続スパイク間の時間差か
ら計算する。
「スパイク速度」−MEA板に亘るスパイクパルスの伝播速度。単一平面パルス波が一
定速度で伝播すると仮定し、データに最小自乗法当て嵌めを用いて各選択チャンネルに到
達するスパイク時間から各パルスに対して計算する。
「到達角度」−スパイクパルスの伝播の方向。
【0020】
「ピークレベルの増加」−全てのスパイク及び全ての選択したチャンネルに亘って平均
したスパイクプロフィールの最大レベルの対照データと試験データの間の相対的増加。
「トラフレベルの増加」−全てのスパイク及び全ての選択したチャンネルに亘って平均
したスパイクプロフィールの最小レベルの対照データと試験データの間の相対的増加。
「ピークからトラフまでのレベルの増加」−全てのスパイク及び全ての選択したチャン
ネルに亘って平均したスパイクプロフィールの範囲の相対的増加。
「絶対ピークレベルの増加」−全てのスパイク及び全ての選択したチャンネルに亘って
平均したスパイクプロフィールの最大絶対レベルの相対的増加。
【0021】
「10%からの立ち上がり時間の増加」−スパイクが、全てのスパイク及び全ての選択
したチャンネルに亘って平均した最大値の10%レベルから開始して最大レベルを達成す
るまで時間の相対的増加。
「20%からの立ち上がり時間の増加」−スパイクが、全てのスパイク及び全ての選択
したチャンネルに亘って平均した最大値の20%レベルから開始して最大レベルを達成す
るまで時間の相対的増加。
「10%までの回復時間の増加」−スパイクが、全てのスパイク及び全ての選択したチ
ャンネルに亘って平均した最小値から開始して最小値の10%まで回復するための時間の
相対的増加。
「20%までの回復時間の増加」−スパイクが、全てのスパイク及び全ての選択したチ
ャンネルに亘って平均した最小値から開始して最小値の20%まで回復するための時間の
相対的増加。
【0022】
「ピークからトラフまでの時間の増加」−全てのスパイク及全ての選択したチャンネル
に亘って平均したスパイクプロフィールの最大レベルと最小レベルの間の時間の相対的増
加。
「絶対プロフィール面積の増加」−全てのスパイク及び全ての選択したチャンネルに亘
って平均した絶対値プロフィール下の面積の相対的増加。
「プロフィール立ち上がり面積の増加」−全てのスパイク及び全ての選択したチャンネ
ルに亘って平均した開始時と最大値の間のプロフィール下の面積の相対的増加。
「プロフィール回復面積の増加」−全てのスパイク及び全ての選択したチャンネルに亘
って平均した最小値と終了時の間のプロフィール下の面積の相対的増加。
「絶対プロフィール回復面積の増加」−全てのスパイク及び全ての選択したチャンネル
に亘って平均した最小値と終了時の間の絶対値プロフィール下の面積の相対的増加。
【0023】
「プロフィール相関係数の増加」−全てのスパイク及び全ての選択したチャンネルに亘
って平均した対照プロフィールと試験スパイクプロフィールの間の正規化された相互相関

「プロフィール分散の増加」−全てのスパイク及び全ての選択したチャンネルに亘って
平均したスパイクプロフィールの分散の相対的増加。
「プロフィール歪度の増加」−全てのスパイク及び全ての選択したチャンネルに亘って
平均したスパイクプロフィールの歪度の相対的増加。
「プロフィール尖度の増加」−全てのスパイク及び全ての選択したチャンネルに亘って
平均したスパイクプロフィールの尖度の相対的増加。
【0024】
「ウェーブレット変換の最大値の増加」−全てのスパイク及び全ての選択したチャンネ
ルに亘って平均した、例えばここで及び以下で2次の「Daubechies」ウェーブ
レットを用いたスパイクプロフィールのウェーブレット変換のスケール及び時間遅延に亘
る最大値の相対的増加。
「ウェーブレット変換の分散の増加」−スケール及び時間遅延に亘って合計し、全ての
スパイク及び全ての選択したチャンネルに亘って平均したスパイクプロフィールのウェー
ブレット変換値の分散の相対的増加。
「ウェーブレット相互相関係数」−全てのスパイク及び全ての選択したチャンネルに亘
って平均した対照プロフィールと試験スパイクプロフィールのウェーブレット変換の間の
スケール及び時間遅延の正規化相互相関。
【0025】
「ウェーブレット変換の変換係数の増加」−対照データのウェーブレット変換の自己相
関及び試験データのウェーブレット変換の自己相関の積の平方根による代わりに対照デー
タのウェーブレット変換の自己相関により正規化されることを除き、ウェーブレット相互
相関係数と同様のもの。
「プロフィールエントロピーの増加」−全てのスパイク及び全ての選択したチャンネル
に亘って平均したそのヒストグラムから判断されるようなスパイクプロフィールのエント
ロピーの相対的増加。
【0026】
分析のための基礎を形成するのに特に有効であると考えられている別の特徴の組が以下
に詳述され、かつ図面の図6として表の形で繰り返されている。この特徴の組は、薬物が
投与された時の心拍プロフィールの様々な変化を数値的に説明するものである。
「瞬間スパイク率」−全ての選択したチャンネルに亘って平均した瞬間スパイク率の対
照データと試験データの間の相対的増加。
「瞬間スパイク率変動性」−瞬間スパイク率の時間的変動性の対照データと試験データ
の間の相対的増加。
「スパイク速度」−各選択した各チャンネルに記録されたスパイク時間到達からの各パ
ルスに対して計算したMEA板を横切るスパイクパルスの伝播速度の対照データと試験デ
ータの間の相対的増加。
「スパイク速度変動性」−スパイク速度の時間的変動性の対照データと試験データの間
の相対的増加。
【0027】
「ピークレベル」−各選択したチャンネルの全てのスパイクのプロフィールを平均する
ことにより得られた平均スパイクプロフィールの最大値の対照データと試験データの間の
相対的増加。
「トラフレベル」−各選択したチャンネルの全てのスパイクのプロフィールを平均する
ことにより得られる平均スパイクプロフィールの最小値の対照データと試験データの間の
相対的増加。
「ピークからトラフまでのレベル」−各選択したチャンネルの全てのスパイクのプロフ
ィールを平均することにより得られる平均スパイクプロフィールの最大値と最小値の間の
差の対照データと試験データの間の相対的増加。
「絶対ピークレベル」−各選択したチャンネルの全てのスパイクのプロフィールを平均
することにより得られる絶対平均スパイクプロフィールの最大値の対照データと試験デー
タの間の相対的増加。
【0028】
「10%までの立ち上がり時間」−平均スパイクが最大値の10%のレベルから開始し
て最大レベルに到達するための時間の対照データと試験データの間の増加。
「20%までの立ち上がり時間」−平均スパイクが最大値の20%のレベルから開始し
てその最大レベルに到達するための時間の対照データと試験データの間の増加。
「10%までの回復時間」−平均スパイクがその最小レベルの10%まで回復するため
の時間の対照データと試験データの間の増加。
「20%までの回復時間」−平均スパイクがその最小レベルの20%まで回復するため
の時間の対照データと試験データの間の増加。
【0029】
「ピークからトラフまでの時間」−平均スパイクプロフィールの最大レベルと最小レベ
ルの間の時間の対照データと試験データの間の増加。
「QT時間」−平均スパイクプロフィール下の絶対面積の3%と97%累積点の間の時
間の対照データと試験データの間の増加。
「プロフィール遅延率」−平均プロフィールの尾部の遅延率の対照データと試験データ
の間の増加。
「絶対プロフィール面積」−平均プロフィールの絶対値下での面積の対照データと試験
データの間の相対的増加。
「プロフィール立ち上がり面積」−開始時と最大値の間の平均プロフィールの下での面
積の対照データと試験データの間の相対的増加。
【0030】
「絶対プロフィール回復面積」−最小値と終端部の間の平均プロフィールの絶対値下で
の面積の対照データと試験データの間の相対的増加。
「プロフィール回転モーメント」−平均プロフィールの時間的回転モーメントの対照デ
ータと試験データの間の相対的増加。
「絶対プロフィール重心」−絶対平均プロフィールの重心の対照データと試験データの
間の相対的増加。
「絶対プロフィール旋回半径」−重心の周りに測定した絶対平均プロフィールの旋回半
径の対照データと試験データの間の相対的増加。
「振幅分散」−平均スパイクプロフィールの分散の対照データと試験データの間の相対
的増加。
【0031】
「最大スペクトル値」−平均スパイクプロフィールのパワースペクトルの最大値の対照
データと試験データの間の相対的増加。
「最大スペクトル値の周波数」−平均スパイクプロフィールのパワースペクトルの最大
値の周波数の対照データと試験データの間の相対的増加。
「周波数帯域1での振幅分散」−周波数帯域0〜250Hzの全分散により正規化した
平均スパイクプロフィールの分散の対照データと試験データの間の相対的増加。
【0032】
「周波数帯域2での振幅分散」−周波数帯域250〜500Hzの全分散により正規化
した平均スパイクプロフィールの分散の対照データと試験データの間の相対的増加。
「周波数帯域3での振幅分散」−周波数帯域500〜750Hzの全分散により正規化
した平均スパイクプロフィールの分散の対照データと試験データの間の相対的増加。
「周波数帯域4での振幅分散」−周波数帯750〜1000Hzの全分散により正規化
した平均スパイクプロフィールの分散の対照データと試験データの間の相対的増加。
「帯域2/帯域1での振幅分散」−平均スパイクプロフィールのスペクトルの帯域2及
び帯域1の分散比の対照データと試験データの間の相対的増加。
「帯域3/帯域2での振幅分散」−平均スパイクプロフィールのスペクトルの帯域3及
び帯域2の分散比の対照データと試験データの間の相対的増加。
【0033】
「振幅相関係数」−平均対照プロフィールと平均試験スパイクプロフィールの間の正規
化相互相関。
「振幅歪度(正規化)」−平均スパイクプロフィールの全分散に関して正規化した歪度
の対照データと試験データの間の相対的増加。
「振幅尖度(正規化)」−平均スパイクプロフィールの全分散に関して正規化した尖度
の対照データと試験データの間の相対的増加。
「プロフィールのエントロピー」−そのヒストグラムから判断した平均スパイクプロフ
ィールのエントロピーの対照データと試験データの間の相対的増加。
「絶対プロフィールのエントロピー」−そのヒストグラムから判断した絶対平均スパイ
クプロフィールのエントロピーの対照データと試験データの間の相対的増加。
【0034】
「最大ウェーブレット変換係数」−ここで及び以下で2次の「Daubechies」
ウェーブレットを用いることによる平均スパイクプロフィールのウェーブレット変換のス
ケール及び時間遅延に亘る最大値の対照データと試験データの間の相対的増加。
「ウェーブレット変換係数のスケール変更」−ここで及び以下で2次の「Daubec
hies」ウェーブレットを用いることによる平均スパイクプロフィールのウェーブレッ
ト変換のスケール及び時間遅延に亘る最大値のスケールの対照データと試験データの間の
相対的増加。
【0035】
「ウェーブレット変換の分散」−スケール及び時間遅延に亘って合計した平均スパイク
プロフィールのウェーブレット変換値の分散の対照データと試験データの間の相対的増加

「ウェーブレット変換の変換係数」−対照データのウェーブレット変換の自己相関によ
り正規化されたウェーブレット相互相関係数。
「ウェーブレット変換リッジ値の分散」−各スケールでの最大値を取ることにより得ら
れる平均スパイクプロフィールのウェーブレット変換値のベクトルの分散の対照データと
試験データの間の相対的増加。
「ウェーブレット変換の変換係数のリッジ値」−対照データの対応するベクトルの自己
相関により正規化した、上に定義した最大ベクトルのウェーブレット相互相関係数。
【0036】
上の全ての特徴が振幅依存というわけではないことに注意すべきである。従って、細胞
ネットワークの回復率に依存する特徴を用いて検出及び分類に役立てることができる。更
に、上の特徴は、細胞ネットワークの電気活性にこれよりも大きいか又は小さい範囲で存
在することも又はそうでないことも可能であるが、蛍光活性及び/又は発光活性に関する
ネットワークの化学的挙動から同様の特徴を識別することができると考えられる。
【0037】
図7は、以下の例に示す活動を行うことで生じると考えられるような異なる化合物アセ
チルコリン(I)、カフェイン(II)、ピナシディール(III)、サルブタモール(
IV)、及び薬物C(V)の組に対するマトリックスフォーマットでの特徴の組の分析の
結果を例示するものである。列の下の数字100は、特徴の組のそれぞれの特徴を示し、
箱の陰影のレベルは、反応の性質を示している。対照(VI)から得た結果は別々に示し
ている。
【0038】
図8は、特徴の組の結果を図7の化合物に対して三次元空間のベクトル量としてプロッ
トした結果を示しており、結果のクラスター化は、それぞれの参照数字により、識別され
た化合物の各々に対して明らかである。
化合物を分析するのに必要な活動のシーケンスを以下に詳述する。これらの活動は、P
Cベースのシステム23を用いて行われる信号処理活動と共に、MEA上への細胞ネット
ワークの堆積物及び試験される化合物に関して取られる物理的処理の組合せである。最初
に、細胞ネットワークを培養してMEA3上に堆積させる。この点に関して必要な心筋細
胞を用いる段階の実施例は以下の通りである。
【実施例】
【0039】
(a)ラット胎児(E15〜E18)又は新生児から心臓組織を単離する。
(b)円刃刀を用いて心臓組織を細分化し、低温(4℃)Ca2+/Mg2+非含有「
Hanks」平衡塩溶液(HBSS)に入れる。
(c)組織を新しいHBSSで(3回)洗い、0.05%−トリプシンのHBSS液で
置換する。
(d)37℃で10分培養し、上清を捨てる。
(e)新しいデオキシリボヌクレアーゼ11型溶液(10,000単位/ml)を2分
間加える。
(f)新しいトリプシンを加え、37℃で8分間培養する。
(g)上清を除去し、36%FCS、0.5%インシュリン/トランスフェリン/セレ
ナイト、6mMのL−グルタミン、及び2%ペニシリン/ストレプトマイシン(200m
M原液)を含有する「HAMS F10」に入れる。
(h)懸濁液から細胞を収集し(1500rpm、5分)、10%FCS、0.5%イ
ンシュリン/トランスフェリン/セレナイト、6mMのL−グルタミン、及び2%ペニシ
リン/ストレプトマイシン(200mM原液)を含有する「HAMS F10」に再懸濁
する。
(i)段階(e)〜(h)を5〜8回繰り返す。
(j)処理した組織培養フラスコ内に貯めた細胞懸濁液を2時間37℃で培養すること
により異なる接着を行う。
(k)最終的な細胞懸濁液を計数し、50K/板、100μl容量でフィブロネクチン
処理MEA板上に播種する。
細胞懸濁液は、各電極7がそれぞれの細胞に接触するようにMEA3上に堆積させる。
【0040】
細胞ネットワークがMEA3上に配置された状態で、ベースライン測定値の組を記録す
ることができるように壁15の受容器13内にMEA3を挿入する。従って、上述の機器
及び方法を用いて、電極7からのアナログ出力が増幅され(31)、濾過され(33)、
記憶される(45)。このベースライン評価段階を通して及びその後の化合物の分析中に
は、細胞培養条件を実質的に維持することが望ましい。従って、MEAを取り囲む細胞培
養チャンバ17に配置したセンサを用いて環境をモニタする。センサ出力は、PCベース
のデータ取得システム23上で実行されるソフトウエアモジュール18によりモニタする
か、又は独立にモニタすることができる。いずれにしても、センサから受け取られる信号
を用いて、環境制御を調節する。モニタされる可能性があるパラメータには、培養媒体の
温度、pH、及び溶解酸素濃度を含むことができる。
【0041】
ベースライン測定値の記録処理は、電極7に対応する各データチャンネルに対して実行
される。所定の記録(一般的に100秒の長さ)に対して、いわゆる健全チャンネルの組
は、最も頻繁に起こる非ゼロの数のスパイクを有するチャンネルの組を識別することによ
り次のように識別される。
分析される化合物を次にMEA3を覆う細胞ネットワークに導入する。これは、ベース
ライン評価に用いられるMEA3上のネットワークに直接付加することができ、又は培養
したネットワークの更に別の同等のサンプルを別のMEA3上に調製して壁15の受容器
13の所定位置に挿入することもできる。ここでもまた、所定の記録に対して(一般的に
継続時間が100秒、しかし、これよりも長いか又は短い期間も選択することができる)
、最も頻繁に起こる非ゼロの数のスパイクを有するチャンネルの組を識別することにより
いわゆる健全チャンネルの組を選択する。次に、各組、すなわち化合物存在下でのベース
ライン測定値及びそれに続く測定値の健全チャンネルを比較し、更に、両方の組に共通の
チャンネルを識別する。これらの共通のチャンネルは、次に、特徴を抽出して特徴の組を
形成する。
【0042】
その後の検出及び分類の段階に有用なように、特徴は、データから容易に抽出可能であ
り、かつ数値的に定量化可能であるべきである。様々な処理アルゴリズムを用いて、この
要件を満たす特徴を抽出する。できるだけ多くのデータの情報内容を含むように、できる
だけ多くのこのような特徴が組に含まれる。組に重複する特徴が存在しても許容される。
更に、処理のできるだけ遅い時点で平均することにより、特徴の感受性が向上することが
見出されている。また、測定した特徴の有意性は、全選択チャンネルに亘って測定した特
徴の標準偏差を計算することにより推定することができる。
【0043】
特徴の組は、次に、特徴の数に等しい次元のベクトル量としてみることができ、各成分
は、ベースラインと続く測定値の間の差に等しい問題の特徴に対する数的変化を表すもの
である。検出及び分類は、応答ベクトルに対する操作を実行することに帰することになる
。検出処理は、上述の通りである。分類処理は、標準クラスター分類を用いることにより
達成され、これによって、変数、例えば、成分の範囲に亘る類似性の基準に関して場合分
けするのに用いることができる数学的クラスター化及び区分化技術が理解される。多くの
クラスター化アルゴリズムが利用可能であり、これらは、類似性(又は非類似性)を測定
するのに用いられる方法及び距離が測定されるポイントに関して異なっている。従って、
クラスター化アルゴリズムは客観的であるが、アルゴリズムの選択には主観的な余地があ
る。最も一般的なクラスター化アルゴリズムは、多元集塊性であり、すなわち、1つより
も多い変数に基づく小さなクラスターを融合することにより、一連の次第に大きくなるク
ラスターが形成される。この階層的手法は、分析されることになる大きなデータの組を考
えると、コンピュータベースの分析に特に適切である。しかし、あまり計算集中的でなく
、従ってより速い手法は、非階層的k平均又は反復性再配置アルゴリズムである。各ケー
スは、最初にkクラスターの1つに配置され、その後、クラスター内のケース間の差が最
小になるならばクラスター間で移動される。PC取得システムの計算機能に応じて、かつ
実時間分析に対するあらゆる要件により、上述の処理の1つを使用することができる。
【0044】
上述の実施形態に加えて、異なるMEA3配列を有する更に別の変形も考えられており
、そのうちのいくつかは以下の通りである。
(1)「単一ウェル、複数チャンバ環境測定」−同時測定及び培養環境の制御を含むた
めのチャンバ装置に組み込まれたセンサを有する(制御された潅流、温度、pHセンサ)

(2)「単一ウェル、複数チャンバ環境測定、複数細胞生理機能測定」−細胞内カルシ
ウムレベル、乳酸生成などのような他の細胞機能の測定を可能にする一体型センサを備え
た(1)のようなもの。
(3)「マルチウェル、マルチチャンネルシステム」−単一ウェルフォーマットの代わ
りに、96ウェルを形成し、各ウェルの複数の微小電極からデータを読み取る。
(4)「マルチウェル、マルチパラメータシステム」−薬物スクリーニング装置を生成
する(1)及び(3)の組合せ。薬物の制御した送出及び完全自動化データ捕捉及び分析
が可能な完全に制御されたマルチウェル検定システム。
(5)「マルチウェル、マルチパラメータシステム、複数細胞生理機能測定」−多くの
異なる検定で多くの細胞機能の統括的分析を可能にする(2)及び(3)の組合せ。
【0045】
本発明の更に別の実施形態によれば、環境毒のような化合物を検出するためのセンサが
提供される。図4は、脅威に曝されている種、又は毒素への応答が例えばヒトのような他
の種に外挿することができる種から得られる細胞の培養物により細胞ネットワークが提供
されるセンサの概略図を示すものである。例えば、細胞ネットワークには、ホタテ貝心臓
細胞を含むことができる。
センサ101には、各々MEA103を収容することができる複数のチャンバ117が
含まれる。潅流システム118により、試験するサンプル、例えば河川水から得た試験サ
ンプルを各MEA103に送出することができる。MEA103は、使用時には細胞ネッ
トワークに接触するように配列された複数の電極107を有するという点で第1の実施形
態に関して上述したようなものである。電極107からの電気信号出力は、相互接続11
9を通じて増幅器ユニット121に渡され、そこで出力が増幅される。増幅器ユニット1
21は、ほぼ1000の利得を各チャンネルに与えることができるマルチチャンネル装置
である。一般的に、MEA103の各電極107をチャンネルにマップさせるのに十分な
チャンネルが利用可能である。MEA103の構成によっては、満足にデータを収集する
ためにこれよりも多いか又は少ないチャンネルが必要なこともある。増幅器ユニット自体
は、PCベースのデータ取得システム123に接続される。PCシステム123には、P
CIバスを通じて中央演算処理装置126に連結された「アナログ/デジタル」変換カー
ド125が組み込まれる。カード125により、増幅器121のアナログ出力を取得シス
テム123に接続するのに必要な外部連結が得られる。カード125は、50キロヘルツ
/チャンネルまで増幅器ユニット121から増幅チャンネルデータをサンプリングするこ
とができる。実際の速度は、細胞ネットワークの性質及び関連の特徴を識別するのに必要
な解像度を参照して判断される。中央演算処理装置126は、デジタルデータを分析する
のに必要なソフトウエア及び/又はファームウエアにより与えられる指令を実行する。デ
ータは、MEA103にイベントが起こる時に実時間で分析することができ、ハードディ
スクのような記憶装置127から読み取ることができる。前者の場合には、記憶装置12
7を用いて、依然としてデータをアーカイブに保管することができる。実時間で進行させ
ることができるか又は逆にオフライン分析することができる機能は、ある程度はデータが
生成される速度及びシステム123の記憶容量によって決まることになる。
【0046】
ソフトウエア及び/又はファームウエアには、脅威に曝されている特定の細胞ネットワ
ークに対する特定の1つ又は複数の毒への応答を実験的に又は他の方法で得たものに対応
する特徴の組のライブラリ128が含まれる。従って、センサ101は、一般的に、所定
の組の特徴の組に関して識別及び好ましくは分類機能を行うことが要求され、すなわち、
センサ101は、脅威に曝されている種に毒の作用がある可能性があるものだけで、サン
プルに存在する全ての化合物を識別する必要はない。検査している特定の種により、特徴
の組の異なるライブラリをセンサ101に読み取ることができる。便利な態様においては
、センサ101は、使用者が活動しようとする種に特定のソフトウエアを備えている。こ
のようなソフトウエアには、ソフトウエアに一体化された部分として又はユーザにより可
読のソフトウエアモジュールとしてのライブラリが含まれることになる。例えば、貝に毒
が蓄積されることは次第に大きな問題となっている。ヒトの神経系へのその深刻な影響の
ために、2つの毒が特に重要である。これらは、記憶喪失性貝毒(ASP)及び麻痺性貝
毒(PSP)の毒である。これらの毒を大量に摂取すれば死に至る可能性がある。
【0047】
ASP毒をセンサ101の利用の例として取り上げると、ASPに主に関わる毒素は、
ドウモイ酸であることが公知である。従って、センサ101を用いて特定の毒素が存在す
るか否かを検出する前に、その後センサで用いるようにライブラリ128に含むための特
徴の組を用意することが必要である。このような特徴の組又はベクトルの作成は、第1の
実施形態で説明したシステムを用いて実行することができる。上述のように、ASPの場
合は、主な毒素はドウモイ酸である。従って、マウスの皮質神経細胞のネットワークをM
EAに付加する。次に、上述のように、ウェル115内にMEAを入れ、化合物、この場
合はドウモイ酸を付加したことに対するネットワークの電気的応答を電極107で抽出し
て増幅し、活性チャンネルを識別して関連データを捕捉する。次に、これも上述のように
このデータを分析し、ドウモイ酸の場合には、ドウモイ酸を示す特に有用な特徴の1つが
「平均スパイク率(MSR)」であることが見出されている。図5は、100nM濃度の
ドウモイ酸に太線Tで示されるデータの開始から10分間露出した時のラット皮質神経培
養物からの平均スパイク率を示すグラフである。次に、特徴のソフトウエアライブラリに
含めるために、この反応をパラメータ化してファイルに記憶する。
【0048】
次に、センサ101を用いて、貝サンプルにASPが存在するか否かを判断する。セン
サ101は、特定の種により認められる特定の毒への応答を示す特徴の組又はベクトルの
ライブラリのための記憶装置を組み込んでいる。ライブラリは、ハードディスク又は他の
記憶媒体127に保持されるようにセンサにダウンロードすることができ、ネットワーク
接続を通じてデータベースにアクセス可能である。1つの特定的な変形では、ライブラリ
は、MEA103自体に形成された集積回路に記憶される。すなわち、カラーコーディン
グ又は他の表示により、研究中の特定の種に利用可能な特徴の組又はベクトルの必須の予
め記憶されたライブラリを有する適切なMEA103が選択される。集積回路には、カー
ドエッジコネクタへの適切な接続部が設けられ、ウェル115の受容器に取り付けられた
時にセンサによるライブラリへのアクセスを可能にする。
【0049】
受容器113へ取り付ける前又は後の何れかに、ラットからの皮質神経細胞物質の細胞
ネットワークをMEA103上に堆積させる。MEA103をセンサ101のウェル11
5内の受容器113に入れて、MEA103上に貝サンプルを載せる。化合物(この場合
は貝サンプル)の付加に対するネットワークの電気的応答を電極107で抽出して増幅し
、活性チャンネルを識別して関連データを捕捉する。次に、このデータをMSR特徴に関
してASPに得られるものを含む特徴の組のライブラリに対して分析する。統計的信頼性
の所定の限度内でライブラリ応答との一致が見つかれば、正の結果にフラグが立てられ、
センサ101により、視覚的、聴覚的、又はその組合せとすることができる適切な警告指
示が出される。ここでもまた特定の統計的信頼度を用いてこのような応答が識別されない
場合には、このような警告は出されず、サンプルに毒がないように見えるという信頼度の
レベルの指示だけである。特定の毒が存在するか否かに強く相関することが見出されてい
る更に別の特徴が存在する場合があることは明らかである。このような特徴の組は、未知
の化合物の分析に用いることができ、1以上の一致があればセンサに警告指示を生成させ
るのに十分とすることができる。
【0050】
本発明の更に別の実施形態では、PCシステム23は、測定ツールとして用いることが
できる。すなわち、システム23を用いて、既知の化合物の物理的及び/又は化学的特性
を評価することができる。例えば、システム23の特定の化合物に対する応答は、その化
合物の濃度に依存する場合があることが認識されている。所定のレベルの統計的信頼度で
特定の濃度レベルを示す特徴又は特徴の組のライブラリを確立することにより、特定の既
知の化合物の濃度を識別することができる。更に、測定ツールは、最初は未知である化合
物をその物理的/化学的特性に関して識別しかつ詳細に説明することができるように、識
別及び分類機能と一体化することができることが認められるであろう。
【0051】
ユーザが本発明の方法及び装置を用いて分析した結果に有することができる統計的信頼
度に対して、いくつかの因子が影響を及ぼすことになることを当業者は認識するであろう
。このような因子が有する影響の数量化は、特定の分析の結果に適用される統計的信頼度
のレベルに組み込むことができる。このような影響を最小限にするために、対照に対して
正規化した特徴を用いる手段を取ることができる。代替的に、有意な応答を生成する最小
濃度を用いることもできるであろう。更に、システムの応答は、各細胞のその最も近い電
極に対する近接性に依存する場合がある。これは、脈拍速度のような絶対振幅に無関係な
特徴を用いることを必要とすることになる。
【符号の説明】
【0052】
13 受容器
17 チャンバ
19 リボンコネクタ
21 増幅器ユニット
23 PCベースのデータ取得システム
27 記憶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−53056(P2012−53056A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−235495(P2011−235495)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【分割の表示】特願2006−505994(P2006−505994)の分割
【原出願日】平成16年3月23日(2004.3.23)
【出願人】(511259681)ミダス メディサイエンス リミテッド (1)
【Fターム(参考)】