説明

化合物プロファイリング法

本発明は、生物体の表現型変化に必須の成分の上流または下流の成分を上流または下流の成分を導き出すための方法を提供し、この方法は、以下の工程を包含する:表現型変化に関連する目的の経路と、目的の経路とは異なる参照経路とを特定し、そして、目的の経路を刺激する目的の刺激因子および参照経路を刺激する参照刺激因子を特定する工程;目的の刺激因子を該生物体に与えて、表現型変化に必須である目的の成分の集合を同定する工程;参照刺激因子を該生物体に与えて、表現型変化に必須である参照成分の集合を同定する工程;目的の成分の集合と、参照成分の集合との間の共通部分を計算する工程;ならびに、目的の成分の集合から共通部分を減じることによって、差集合を計算する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
発明の分野:
本発明は、化合物を分類する技術に関する。より具体的には、本発明は、生物学的機能に基づいて化合物をプロファイリングするための方法およびその関連の発明に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術の説明
医薬品、化粧品および食品添加物のような、我々の日常生活に必須の化合物の生物学的作用は、常に完全に理解されているわけではない。予想外の毒性が社会問題へと発展したり、予想外の薬理学的効果が発見されたり、などのケースは多数存在する。代表例として、抗てんかん薬「サリドマイド」は、催奇形性という薬物により誘発される社会問題へと発展したが、この薬はまた、ハンセン病または骨髄腫に対して効果を呈することが示されている。このように、市場に出る新規化合物の数は減っているものの、化合物のプロファイリング(または、生物学的活性の解析)を、化合物の用途の開発および確かな安全性に役立たせるという需要は依然として存在する。
【0003】
Bowers,P.M.ら(非特許文献1)は、ゲノムにおける遺伝子の発現を経路と相関させ、したがって、相対的ゲノム法を用いて経路を解析することが可能であると提唱した。しかしながら、本発明者らが動物細胞を用いてこの方法を検討したところ、この方法は、使用できないことが分かった。
【0004】
Dan,S.ら(非特許文献2)は、種々の細胞種に薬物を添加した際の、増殖阻害効果または遺伝子発現パターンの類似性から、類似の生物学的活性を有する薬物をスクリーニングするための方法を提唱した。この方法は、本発明によって達成される、薬物の生物学的活性に関連する経路を導き出すことを可能にはしない。それゆえ、この方法は、薬物、または薬物の多剤組み合わせ設計の標的解析には使用され得ない。
【0005】
Perlman,Z.E.ら(非特許文献3)は、複数の遺伝子発現レポーターの経時的な(time−lapsed)変化パターンによって、単一の細胞に対する薬物の効果を評価するための方法を開示する。この方法は、薬物の類似性の予測は可能にするが、薬物または薬物の多剤組み合わせ設計の標的解析には使用され得ない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Bowers,P.M.et al.,Use of logic relationships to decipher protein network organization.Science 306,2246−2249(2004)
【非特許文献2】Dan,S.et al.,Cancer Res.62;1139−1147(2002)
【非特許文献3】Perlman,Z.E.et al.,Science 306;1194−1198(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明の開示
発明の要旨
(発明が解決しようとする課題)
本発明は、生物学的実体に対する化合物の有用性または副作用(毒性)を解析して、社会からの上述の需要に応えるための有効な情報として、化合物の生物学的活性に用いられる細胞内経路を明らかにし、そして、研究するための新規な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(課題を解決するための手段)
ヒトの細胞のアポトーシスは、カスパーゼ活性に起因して全ての組織に由来する全ての細胞において生じる。さらに、動物細胞が成長するとき、RbおよびE2Fの活性が必要とされる。したがって、ある問題(issue)における生物学的実体が同じである場合、同じ成分が、同じ細胞機能をもたらすために使用されていることが分かる。本発明者らは、同じ生物学的実体に由来する細胞を標的とすることによって、組織における細胞機能に必須の細胞内成分の発現の出現から、組織における細胞の機能に関連する経路を明らかにするための方法を見出した。
【0009】
よって、本発明は、以下の項目を提供する:
項目1 生物体の表現型変化に必須の成分の上流または下流の成分を導き出すための方法であって、該方法は、以下の工程:
A)該表現型変化に関連する目的の経路と、該目的の経路とは異なる参照経路とを特定し、そして、該目的の経路を刺激する目的の刺激因子および該参照経路を刺激する参照刺激因子を特定する工程;
B)該目的の刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である目的の成分の集合を同定する工程;
C)該参照刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である参照成分の集合を同定する工程;
D)該目的の成分の集合と、該参照成分の集合との間の共通部分を計算する工程;ならびに
E)該目的の成分の集合から該共通部分を減じることによって、差集合を計算する工程であって、該差集合に属する成分が、該共通部分の上流または下流に存在するものと決定される、工程
を包含する、方法。
【0010】
項目2 前記生物体が細胞である、項目1に記載の方法。
【0011】
項目3 前記生物体は、2以上の異なる条件下で増殖される、項目1に記載の方法。
【0012】
項目4 前記成分は、細胞、組織または個体を表す機能的アッセイデータから帰納される、項目1に記載の方法。
【0013】
項目5 前記成分は、miRNAを含む有限数の候補遺伝子からの機能的アッセイに基づいて選択される、項目1に記載の方法。
【0014】
項目6 前記成分は、前記刺激因子の標的集合からの機能的アッセイデータに基づいて計算される標的である、項目1に記載の方法。
【0015】
項目7 前記成分は、目的の表現型に対して影響を有するタンパク質、核酸、またはこの両方である、項目1に記載の方法。
【0016】
項目8 前記成分は、有限数の機能的核酸ライブラリーからの機能的スクリーニングの結果から導き出される、項目1に記載の方法。
【0017】
項目9 前記刺激因子は、抗体、RNA干渉因子、または、分子標的インヒビターである、項目1に記載の方法。
【0018】
項目10 項目1に記載の方法を繰り返し適用する工程を包含する、化合物をプロファイリングするための方法。
【0019】
項目11 表現型変化の達成に使用するために組み合され得る化合物をプロファイリングするためのプロセスであって、該プロセスは、項目1に記載の方法を繰り返し適用する工程を包含し、該プロセスはさらに、以下の工程:
A)該化合物が加えられる培養条件下で生物体において想定される表現型変化を増加させる目的の成分の集合を計算する工程;
B)該化合物が存在しない培養条件下で生物体において想定される表現型変化を増加させる目的の成分の集合を計算する工程;
C)前記目的の成分の集合と前記参照成分の集合との差集合を計算することによって、該化合物が加えられる培養条件下で発現する特定の成分集合を計算する工程;
D)該特定の成分集合に含まれる成分の共通経路を計算する工程;ならびに
E)該共通経路を標的とする化合物を選択する工程
を包含する、方法。
【0020】
項目12 項目1に記載の方法を包含する、化合物の標的を探索するためのプロセスであって、該プロセスはさらに、以下の工程:
A)前記表現型変化の達成に使用するために組み合され得る化合物が加えられる培養条件下で生物体において想定される表現型変化を増加させる目的の成分の集合を計算する工程;
B)該表現型変化の達成に使用するために組み合され得る化合物が存在しない培養条件下で生物体において想定される表現型変化を増加させる目的の成分の集合を計算する工程;
C)前記目的の成分の集合と前記参照成分の集合との差集合を計算することによって、該化合物が加えられる培養条件下で発現する特定の成分集合を計算する工程;
D)該特定の成分集合に含まれる成分の共通経路を計算する工程;ならびに
E)該共通経路を標的とする化合物を選択する工程
を包含する、方法。
【0021】
項目13 項目1に記載の方法を包含する、類似化合物の標的を探索するためのプロセスであって、該プロセスは、以下の工程:
A)前記表現型変化の達成に使用するために組み合され得る化合物が加えられる培養条件下で、生物体において想定される表現型変化を増加させる目的の成分の集合を計算する工程;
B)該表現型変化の達成に使用するために組み合され得る化合物が存在しない培養条件下で、生物体において想定される表現型変化を増加させる目的の成分の集合を計算する工程;
C)前記目的の成分の集合と前記参照成分の集合との差集合を計算することによって、該化合物が加えられる培養条件下で発現する特定の成分集合を計算する工程;
D)該特定の成分集合に含まれる成分の共通経路を計算する工程;ならびに
E)該共通経路から類似化合物の標的を選択する工程
を包含する、方法。
【0022】
項目14 ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のEphAファミリーのインヒビターとの組み合わせを用いる、乳がんを抑制するための方法。
【0023】
項目15 ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のEphBファミリーのインヒビターとの組み合わせを用いる、乳がんを抑制するための方法。
【0024】
項目16 ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のc−KITのインヒビターとの組み合わせを用いる、乳がんを抑制するための方法。
【0025】
項目17 ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のALKのインヒビターとの組み合わせを用いる、乳がんを抑制するための方法。
【0026】
項目18 生物体の表現型変化に必須の上流または下流の成分を導き出すためのシステムであって、該システムは、以下:
A)該表現型変化に関連する目的の経路と、該目的の経路とは異なる参照経路とを特定し、そして、該目的の経路を刺激する目的の刺激因子および該参照経路を刺激する参照刺激因子を特定するためのコンピュータ;
B)該目的の刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である目的の成分の集合を同定するためのアッセイシステム;
C)該参照刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である参照成分の集合を同定するためのアッセイシステム;
D)該目的の成分の集合と、該参照成分の集合との間の共通部分を計算するためのコンピュータ;ならびに
E)該目的の成分の集合から該共通部分を減じることによって、差集合を計算するためのコンピュータであって、該差集合に属する成分が、該共通部分の上流または下流に存在するものと決定される、コンピュータ
を備える、システム。
【0027】
項目19 生物体の表現型変化に必須の上流または下流の成分を導き出すための方法を実行するための、コンピュータによる実行のためのプログラムであって、該方法は、以下の工程:
A)該表現型変化に関連する目的の経路と、該目的の経路とは異なる参照経路とを特定し、そして、該目的の経路を刺激する目的の刺激因子および該参照経路を刺激する参照刺激因子を特定する工程;
B)該目的の刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である目的の成分の集合を同定する工程;
C)該参照刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である参照成分の集合を同定する工程;
D)該目的の成分の集合と、該参照成分の集合との間の共通部分を計算する工程;ならびに
E)該目的の成分の集合から該共通部分を減じることによって、差集合を計算する工程であって、該差集合に属する成分が、該共通部分の上流または下流に存在するものと決定される、工程
を包含する、プログラム。
【0028】
項目20 生物体の表現型変化に必須の成分の上流または下流の成分を導き出すための方法を実行するための、コンピュータによる実行のためのプログラムが格納された記憶媒体であって、該方法は、以下の工程:
A)該表現型変化に関連する目的の経路と、該目的の経路とは異なる参照経路とを特定し、そして、該目的の経路を刺激する目的の刺激因子および該参照経路を刺激する参照刺激因子を特定する工程;
B)該目的の刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である目的の成分の集合を同定する工程;
C)該参照刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である参照成分の集合を同定する工程;
D)該目的の成分の集合と、該参照成分の集合との間の共通部分を計算する工程;ならびに
E)該目的の成分の集合から該共通部分を減じることによって、差集合を計算する工程であって、該差集合に属する成分が、該共通部分の上流または下流に存在するものと決定される、工程
を包含する、記憶媒体。
【0029】
項目21 ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のEphAファミリーのインヒビターとを含む、乳がんを抑制するための組成物。
【0030】
項目22 ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のEphBファミリーのインヒビターとを含む、乳がんを抑制するための組成物。
【0031】
項目23 ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のc−KITのインヒビターとを含む、乳がんを抑制するための組成物。
【0032】
項目24 ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のALKのインヒビターとを含む、乳がんを抑制するための組成物。
【0033】
本発明は、本明細書において以下に、好ましい実施形態によって記載される。本発明のこれらの実施形態は、本明細書および添付の図面の記載、ならびに、当該分野で周知の慣用的に使用される技術に基づいて適切になされ得るか、または実施され得ることが当業者によって理解される。本発明の機能および効果は、当業者により容易に認識され得る。
【発明の効果】
【0034】
発明の効果
本発明は、化合物をプロファイリングするための方法を提供し、それによって、生物学的実体におけるその生物学的機能に関するその化合物の研究を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、神経突起伸長に関する成分の発現の例示的な定量化アルゴリズムを図示する。レチノイン酸(RA)により誘発される神経突起伸長を必要とする経路の成分が、機能的スクリーニングによって得られたヒットsiRNAから明らかとなった。同様に、NGFにより誘発される神経突起伸長を必要とする経路の成分が、機能的スクリーニングによって得られたヒットsiRNAから明らかとなった。次のステップとして、成分の共通部分の部分集合をこれらの経路の成分の集合から得た。RAにより誘発される神経突起伸長に特有の経路の成分が、RAにより誘発される神経突起伸長を必要とする経路の成分から、共通部分の部分集合を差し引くことによって明らかとなった。同様に、NGFにより誘発される神経突起伸長に特有の経路の成分が、NGFにより誘発される神経突起伸長を必要とする経路の成分から、共通部分の部分集合を差し引くことによって明らかとなった。次に、集合の各々における成分間の全ての既知の分子の関係を加え、その後、神経突起伸長の加速に対して、矛盾する関係のデータを差し引いた。最後に、残った分子の関係を全て統合した。
【図2】図2は、例示的な分子関係抽出アルゴリズムを図示する。第1のステップは、経路のエンドポイント分子を定義する。第2のステップは、ヒット成分の各々からエンドポイント分子までの全ての既知の分子関係のデータを明らかにすることである。第3のステップは、表現型の変化に対して矛盾する関係の差し引きである。全てのヒット成分についてのこのプロセスの後に、全ての分子関係のデータを重ね合わせ、そして、重なり合った分子関係を除く。その後、残りの成分と関係とを得る。
【図3A】図3Aは、レチノイン酸(RA)による突起伸長に関する成分および経路の例を図示する。出力グラフは、ヒット分子(RAR、JAK1およびJAK3)と、エンドポイント分子(RORおよびRET)との間の分子関係を示す。
【図3B】図3Bは、神経成長因子(NGF)による突起伸長に関する成分および経路の例を図示する。出力グラフは、ヒット分子(IRS、PDGFR、NTRK1およびRPHB2)と、エンドポイント分子(RORおよびRET)との間の分子関係を示す。
【図4】図4は、レチノイン酸(RA)および神経成長因子(NGF)による突起伸長に関する成分および経路の例を図示する。出力グラフは、レチノイン酸(RA)についてのヒット分子(RAR、JAK1およびJAK3)、神経成長因子(NGF)についてのヒット分子(IRS、PDGFR、NTRK1およびRPHB2)と、エンドポイント分子(RORおよびRET)との間の分子関係を示す。
【図5A】図5Aは、DXR感度に関する成分の発現の例示的な定量化アルゴリズムを図示する。DXRにより増強されるSKBR−3細胞株の経路の候補を明らかにするために、DXRの存在下またはDXRの非存在下でのヒット成分の共通部分の部分集合を差し引くことによって、ヒット成分を明らかにした。次に、図2に記載したアルゴリズムを用いて、上で明らかにしたヒット分子と、定義されたエンドポイント分子(RB)との間の分子関係を明らかにした。DXRにより抑制されるSK−BR−3細胞株の経路の候補を明らかにするために、DXRの存在下またはDXRの非存在下でのヒット成分の共通部分の部分集合を差し引くことによって、ヒット成分を明らかにした。次に、図2に記載したアルゴリズムを用いて、上で明らかにしたヒット成分と、定義されたエンドポイント分子(RB)との間の分子関係を明らかにした。乳がん細胞株の中心経路の候補を明らかにするために、SK−BR−3およびT47Dの培養条件において、DXRの存在下またはDXRの非存在下での共通部分の部分集合から、共通部分の部分集合を明らかにした。次に、図2に記載したアルゴリズムを用いて、上で明らかにした共通部分の部分集合における分子と、定義されたエンドポイント分子(RB)との間の分子関係を明らかにした。図2に記載したアルゴリズムを用いて、DXR抵抗性細胞株であるMCF7におけるヒット分子から、DXR抵抗性の成長経路の候補を明らかにした。全ての経路の候補を統合した。
【図5B】図5Bは、図5Aに示されるDXR感度に関する成分の発現の例示的な定量化アルゴリズムから抽出した中心経路の解明を図示する。
【図5C】図5Cは、図5Aに示されるDXR感度に関する成分の発現の例示的な定量化アルゴリズムから抽出したDXR増強経路の解明を図示する。
【図5D】図5Dは、図5Aに示されるDXR感度に関する成分の発現の例示的な定量化アルゴリズムから抽出したDXR抑制経路の解明を図示する。
【図5E】図5Eは、図5Aに示されるDXR感度に関する成分の発現の例示的な定量化アルゴリズムから抽出したDCR抵抗性成長経路の解明を図示する。
【図5F】図5Fは、図5Aに示されるDXR感度に関する成分の発現の例示的な定量化アルゴリズムの統合したデータを図示する。
【図6】図6は、SK−BR−3におけるDXR独立経路についての共通経路の抽出例を図示する。実験により明らかとなった共通分子FER、EPHB6およびTYK2は、グラフに記載される分子関係を介して、定義されたエンドポイントRBへと結び付けられている。影付きの囲み罫は、DXR感受性細胞株についての実験から得られたヒットを示す。
【図7】図7は、SK−BR−3における、DXRによって阻害される経路(すなわち、DXR抑制経路)の抽出例を図示する。DXR抑制経路の成分として明らかにされた分子Tie−1、Tie−2、ERBB2、CSF−1、BLKおよびBTKは、グラフに記載される分子関係を介して定義されたエンドポイントRBへと結び付けられている。影付きの囲み罫は、DXR感受性細胞株についての実験から得られたヒットを示す。
【図8】図8は、SK−BR−3における、DXRによって増大される経路(すなわち、DXR増強経路)の抽出例を図示する。DXR増強経路の成分として明らかにされた分子EPHB4、DDR1、EPHA3、EPHA4およびEPHA7は、グラフに記載される分子関係を介して定義されたエンドポイントRBへと結び付けられている。影付きの囲み罫は、DXR感受性細胞株についての実験から得られたヒットを示す。
【図9】図9は、MCF7における、DXR抵抗性を有する細胞の成長(すなわち、DCR抵抗性成長)経路の抽出例を図示する。DXR抵抗性経路の成分として明らかにされた分子C−KITおよびALKは、グラフに記載される分子関係を介して定義されたエンドポイントRBへと結び付けられている。
【図10】図10は、SK−BR−3におけるDXR依存性経路およびDXR独立経路の抽出例を図示する。黒い太線/矢印は、DXR独立経路を示す。影付きの中太線/矢印は、DXR増強経路を示す。黒い細線/矢印は、DXR抑制経路を示す。図10に示されるように、本発明は、既知の抗がん剤が細胞においていかに機能するかを明らかにした。したがって、HerceptinおよびXL647(PI)はErbB2に作用して、DXRの抑制をもたらす。EphB6、VEFGR、Tyk2、EphA3、EphA4およびEphA7は、抗がん剤をスクリーニングするための有望な標的であることが分かった(BBRC(2004)318:882,Mol.Pharmacol.(2004)66:635,Cancer & Metastasis 22,423−434(2003),Cytokine&Growth Factor Reviews(2004)15:419)。近年、VEGFRは、DXRを増強する標的であることが臨床的に決定されている。よって、本発明は明らかに、効率的なスクリーニング法を提供することを実証している。
【図11】図11は、本発明の概念の一例を図示しており、細胞種(例えば、試験細胞種に対して、より大きい〜より小さい類似性を有する細胞1、2、3、4および5)の試験および参照のための、細胞種に対する化合物の反応性が分析され、そして、化合物の生物学的活性に必須の成分の集合が決定される。その後、本発明の方法によって、細胞種ごとに異なる成分が上流から下流まで決定され、そして、成分の作用に必須の成分が決定される。
【図12】図12は、本発明の化合物プロファイリング法を実行するための、コンピュータ500の例示的な構成を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
発明を実施するための最良の形態
本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。したがって、単数形の冠詞または形容詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など、他の言語の場合は、冠詞または形容詞など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。よって、用語「a」または「an」、「1以上(one or more)」および「少なくとも1」は、本明細書において交換可能に使用され得る。また、用語「含む、包含する、備える(comprising)」、「含む、包含する、備える(including)」および「有する、持つ(having)」も交換可能に使用され得ることに注意すべきである。さらに、〜からなる群より選択される化合物、とは、2以上の化合物の混合物(すなわち、組み合わせ)を含む、後ろに続くリスト内の1以上の化合物をいう。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0037】
本発明の化合物、組成物、システム、デバイスおよび/または方法が開示および記載される前に、本発明は、特定の合成方法、特定の試薬、または研究室の技術もしくは製造技術に限定されず、したがって、当然のことながら、他にそうでないと示されない限り、変化し得ることが理解されるべきである。また、本明細書中で使用される専門用語は、特定の実施形態を記載する目的のみのためのものであり、限定的であることは意図されないことも理解されるべきである。
【0038】
(用語の定義)
以下に、本明細書中で具体的に使用される用語が定義される。
【0039】
(生物学的機能)
本明細書中で使用される場合、用語「生物学的機能のネットワーク」とは、遺伝子、転写因子、構造遺伝子、細胞マーカー、細胞表面マーカー、細胞の形状、細胞小器官の形状、細胞の移動性、酵素活性、代謝産物の濃度および細胞成分の局在などのような生物学的実体のパラメータのあらゆるネットワークをいう。このようなネットワークは、遺伝子、シグナル伝達経路などのようなパラメータの経路であり得るがこれらに限定されない。
【0040】
本明細書中で使用される場合、「経路」とは、生物学的実体のパラメータのあらゆる経路をいう。このような経路は、薬物刺激の経路などであり得るが、これらに限定されない。
【0041】
本明細書中で使用される場合、用語「生物学的機能」とは、細胞のような生物学的実体の生存状態に関連するか、そして/または、このような生存状態を反映するあらゆるパラメータをいう。このような生物学的機能としては、転写因子、構造遺伝子、細胞マーカー、細胞表面マーカー、細胞の形状、細胞小器官の形状、細胞の移動性、酵素活性、代謝産物の濃度および細胞成分の局在が挙げられるがこれらに限定されない。このような生物学的機能は、その機能に特異的な機能的レポーターを用いることによって測定され得る。本明細書中で使用される場合、生物学的機能に関する用語「特異的」は、機能的レポーターにおける変化が、生物学的機能の状態における変化に関連している生物学的機能と機能的レポーターとの間の関係をいう。
【0042】
本明細書中で使用される場合、用語「摂動因子」または「刺激因子」は、生物学的実体における摂動を引き起こすあらゆる因子をいう。このような摂動因子または刺激因子としては、例えば、RNA(例えば、siRNA、shRNA、miRNA、リボザイム)、化合物、cDNA、抗体、ポリペプチド、光、音、圧力変化、放射線、熱、気体などが挙げられるがこれらに限定されず、特に、上記機能的レポーターの機能を特異的に調節し得るsiRNAが好ましい。なぜなら、このようなsiRNAは、細胞のような生物学的実体における機能を特異的に標的とするからである。
【0043】
本明細書中で使用される場合、用語「機能的レポーター」とは、光、タンパク質の発現、代謝産物の生成、色の変化、蛍光、化学発光などのような測定可能な信号へと生物学的機能の信号を変化させる因子をいう。
【0044】
<数学的解析>
本明細書中で使用される場合、用語「集合論」は、当該分野において使用および理解される理論をいい、集合の性質および関係を扱う純粋数学の一部門である。対象(「要素(element)」または「元(member)」)の「集合(set)」(集合体(aggregate)または集合(collection))の理論の数学的公式化。多くの数学者は、全ての他の数学の基礎として集合論を使用する。このような集合論としては、元の集合への解析、および、包含、独立および共通部分への集合の分類などが挙げられる。
【0045】
本明細書中で使用される場合、用語「集合」は、集合論の分野において使用されるのと同様に使用され、そして、要素または元の群をいう。
【0046】
本明細書中で使用される場合、用語「要素」、「濃度(cardinality)」または「元」は、集合の基本単位をいうために交換可能に使用される。本願発明では、機能的レポーターは、集合とみなされ得、そして、摂動因子またはそこから導き出された情報/データ/結果は、元とみなされ得る。
【0047】
本明細書中で使用される場合、用語「包含(inclusion)」とは、一方の集合の全ての元がもう一方の集合に含まれる場合の2つの集合間の関係をいう。
【0048】
本明細書中で使用される場合、用語「独立(independent)」とは、一方の集合の全ての元がもう一方の集合に含まれない場合、および、その逆の場合の2つの群間の関係をいう。
【0049】
本明細書中で使用される場合、用語「共通部分(intersection)」とは、一方の集合の一部の元が含まれ、一部が含まれず、したがって、2つの集合間に重なり集合(overlap set)が存在する場合、およびその逆の場合の2つの集合間の関係をいう。
【0050】
本明細書中で使用される場合、用語「ネットワーク関係(network relationship)」とは、ネットワークの構成要素の間の関係をいう。このような関係は、ある構成要素の他の構成要素に対する影響の方向を示す構成要素マップにおいて矢印で示され得る。
【0051】
本明細書中で使用される場合、用語「平行(parallel)」は、2つのパラメータがネットワーク内の異なる経路に位置する状態をいう、2つのパラメータ間の関係について使用される。
【0052】
本明細書中で使用される場合、用語「下流」は、経路またはネットワークにおいて、2つのパラメータのうちの一方が、もう一方の下流に位置する状態をいう、2つのパラメータ間の関係について使用される。
【0053】
本明細書中で使用される場合、用語「上流」は、経路またはネットワークにおいて、2つのパラメータのうちの一方が、もう一方の上流に位置する状態をいう、2つのパラメータ間の関係について使用される。
【0054】
本明細書中で使用される場合、用語「共通」とは、2つのパラメータが、生物学的実体の機能またはあらゆる他のパラメータについて同じ関係にある状態をいう。
【0055】
本明細書中で使用される場合、語句「一様に標的化する(equally targeting)」とは、導入される摂動因子または刺激因子が目的の標的に対して実質的に同じ作用を有する、摂動因子または刺激因子を分配する条件をいう。本発明では、通常、細胞のような生物学的実体のネットワーク構造を変化させるために2以上の摂動因子が使用されるが、このような一様に標的化する摂動因子または刺激因子を使用することが好ましい。
【0056】
本明細書中で使用される場合、用語「閾値」とは、機能が活性化されているか、または抑制されているかを評価するための特定の値をいう。このような閾値は、実験的、経験的または理論的に決定され得る。特定の場合、閾値は、特定の場合について自由裁量で選択され得る。
【0057】
(生物学)
本明細書中で使用される場合、用語「生物学的実体」とは、生物学的に生きているあらゆる実体をいう。このような生物学的実体の例としては、生物体、器官、組織、細胞、微生物(例えば、細菌、ウイルス)などが挙げられる。
【0058】
用語「細胞」は、当該分野におけるその最も広い意味で使用され、自己複製可能な多細胞生物の組織の構造単位をいい、そして、遺伝情報と、遺伝情報を発現するための機構とを有し、そして、外部から細胞を隔離する膜構造によって取り囲まれている。本明細書中で使用される細胞は、天然に存在する細胞、または、人工的に改変された細胞(例えば、融合細胞、遺伝的に改変された細胞など)のいずれかであり得る。細胞供給源の例としては、単細胞培養物;正常に成長したトランスジェニック動物の胚、血液、または身体組織;正常に成長した細胞株由来の細胞の混合物などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0059】
本明細書中で使用される細胞は、あらゆる生物(例えば、あらゆる単細胞生物(例えば、細菌および酵母)またはあらゆる多細胞生物(例えば、動物(例えば、脊椎動物および無脊椎動物)および植物(例えば、単子葉植物および双子葉植物など)))に由来するものであり得る。例えば、本明細書中で使用される細胞は、脊椎動物(例えば、メクラウナギ目、ヤツメウナギ目、軟骨魚綱、硬骨魚綱、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳動物など)、より好ましくは、哺乳動物(例えば、単孔目、有袋目、貧歯目、皮翼目、翼手目、食肉目、食虫動物、長鼻目、奇蹄目、偶蹄目、管歯目、有鱗目、海牛目、クジラ目、霊長目、げっ歯目、ウサギ目など)に由来するものである。一実施形態では、霊長類(例えば、チンパンジー、ニホンザル、ヒト)由来の細胞が使用される。上記の細胞は、幹細胞または体細胞のいずれかであり得る。また、細胞は、接着細胞、懸濁細胞、組織形成細胞およびこれらの混合物であり得る。細胞は、移植のために使用され得る。
【0060】
あらゆる器官が本発明によって標的とされ得る。本発明によって標的とされる組織または細胞のような生物学的実体は、あらゆる器官に由来するものであり得る。本明細書中で使用される場合、用語「器官」は、特定の機能が行われる個々の生物の特定の部分に限局された、形態学的に独立した構造をいう。多細胞生物(例えば、動物、植物)では、器官は、特定の様式で空間的に整列されたいくつかの組織からなり、各組織が、多数の細胞から構成されている。このような器官の例としては、血管系に関する器官が挙げられる。一実施形態では、本発明によって標的とされる器官としては、皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、臍帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、四肢、網膜などが挙げられるがこれらに限定されない。多能性細胞から分化される細胞の例としては、表皮細胞、膵臓実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋原細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。
【0061】
本明細書中で使用される場合、用語「組織」とは、多細胞生物において実質的に同じ機能および/または形態を有する細胞の集合体をいう。「組織」は、代表的には、同じ起源の細胞の集合であるが、細胞が同じ機能および/または形態を有する限り、異なる起源の細胞の集合であってもよい。したがって、本明細書中で使用される組織は、2以上の異なる起源の細胞の集合から構成され得る。代表的には、組織は、器官の一部を構成する。動物組織は、形態学、機能、または発生を基準に、上皮組織、結合組織、筋肉組織、神経組織などへと分けられる。植物組織は大まかに、組織を構成する細胞の発生段階によって、分裂組織性の組織と永久組織へと分けられる。あるいは、組織は、組織を構成する細胞のタイプによって、単一組織および複合組織へと分けられ得る。このように、組織は種々のカテゴリーに分けられる。
【0062】
本明細書中で使用される場合、用語「単離された」とは、通常の環境において、自然状態で付随する物質が少なくとも低減されているか、または好ましくは、実質的に完全に排除されることを意味する。本明細書中で使用される場合、単離された生物学的実体は、本発明によって標的とされ得る。したがって、用語「単離された細胞」は、自然な環境において、他の付随する物質(例えば、他の細胞、タンパク質、核酸など)を実質的に含まない細胞をいう。核酸またはポリペプチドに関する用語「単離された」は、例えば、核酸またはポリペプチドが組換えDNA技術によって生成される場合には、その核酸またはポリペプチドが細胞の物質もしくは培養培地を実質的に含まないこと;または、核酸またはポリペプチドが化学合成される場合には、その核酸またはポリペプチドが前駆体化学物質もしくは他の化学物質を含まないことを意味する。単離された核酸は、好ましくは、その核酸が由来する生物において、自然状態でその核酸の両側に位置する配列(すなわち、核酸の5’末端および3’末端に位置する配列)を含まない。好ましくは、単離された細胞は、本発明の解析のために使用される。
【0063】
本明細書中で使用される場合、細胞に関する用語「樹立された」とは、細胞の特定の特性(例えば、多能性)が維持され、そして、その細胞が培養条件下で安定した増殖を受ける、細胞の状態をいう。本発明では、このような樹立された細胞が使用され得る。
【0064】
本明細書中で使用される場合、用語「状態」は、細胞のような生物学的実体の種々のパラメータに関する状態(例えば、細胞周期、外部因子に対する応答、シグナル伝達、遺伝子発現、遺伝子の転写など)をいう。このような状態の例としては、分化状態、未分化状態、外部因子に対する応答、細胞周期、増殖状態などが挙げられるがこれらに限定されない。本明細書中で使用される場合、用語「遺伝子状態」とは、遺伝子に関連するあらゆる状態(例えば、発現状態、転写状態など)をいう。
【0065】
本明細書中で使用される場合、用語「分化」または「細胞分化」とは、娘細胞集団において生じる形態および/または機能の定量的変化を有する2以上のタイプの細胞が、単一細胞の分裂から由来するような現象をいう。それゆえ、「分化」は、元々は特定の検出可能な特徴を持っていない細胞の集団(系統樹)が特定のタンパク質の生成のような特徴を獲得するプロセスなどを含む。現在、細胞分化は、遺伝学的にゲノム内の特定の群の遺伝子が発現された細胞の状態であると考えられている。細胞分化は、遺伝子発現の上記の状態を誘発する細胞内または細胞外の因子または条件を探索することによって同定され得る。分化細胞は原則的に安定である。特に、動物細胞がいったん分化されると、動物細胞が他のタイプの細胞へと分化されることは稀である。
【0066】
本明細書中で使用される場合、用語「多能性」とは、細胞の性質、すなわち、1以上(好ましくは2以上)の組織または器官へと分化する能力をいう。したがって、用語「多能性の」および「未分化の」は、そうでないと言及されない限り、本明細書において、交換可能に使用される。代表的には、細胞の多能性は発生の間に限られており、そして、成体では、組織または器官を構成する細胞が異なる細胞へと変化することは稀であり、すなわち、多能性は通常失われる。特に、上皮細胞は、他のタイプの上皮細胞への変化に抵抗する。このような変化は代表的に病的な状態において生じ、そして、化生と呼ばれる。しかし、間葉系細胞は、比較的単純な刺激により容易に化生を受ける、すなわち、他の間葉系細胞へと変化する傾向がある。したがって、間葉系細胞は、高いレベルの多能性を有する。胚性幹細胞は多能性を有し、そして、組織幹細胞は多能性を有する。このように、用語「多能性」は分化全能性の概念を包含し得る。細胞が多能性を有するか否かを決定するためのインビトロアッセイの例としては、胚葉体の形成および分化を誘導するための条件下での培養が挙げられるがこれらに限定されない。多能性の存在または欠如を決定するためのインビボアッセイの例としては、免疫不全マウスへと細胞を移植して奇形腫を形成させること、胚盤胞に細胞を注入してキメラ胚を形成すること、生物の組織へと細胞を移植(例えば、腹水への細胞の注入)して増殖させること、などが挙げられるがこれらに限定されない。本明細書中で使用される場合、多能性の1つのタイプは「分化全能性」であり、これは、生物を構成する全種類の細胞へと分化される能力をいう。多能性の概念は分化全能性を包含する。分化全能性細胞の一例は受精卵である。1つのタイプの細胞へと分化する能力は、「単能性」と呼ばれる。
【0067】
本明細書中で使用される場合、用語「遺伝子」とは、生物学的実体の生物学的機能である遺伝的形質を規定する構成要素をいう。遺伝子は代表的には、染色体または他の染色体外因子上の所与の配列に並べられる。タンパク質の一次構造を規定する遺伝子は構造遺伝子と呼ばれる。構造遺伝子の発現を調節する遺伝子は調節遺伝子(例えば、プロモーター)と呼ばれる。本明細書における遺伝子は、そうでないと特定されない限り、構造遺伝子および調節遺伝子を含む。したがって、例えば、用語「サイクリン遺伝子」は代表的には、サイクリンの構造遺伝子とサイクリンのプロモーターとを含む。本明細書中で使用される場合、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」および「核酸分子」ならびに/または「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を指し得る。本明細書中で使用される場合、「遺伝子産物」は、遺伝子によって発現される「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸」および「核酸分子」ならびに/または「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を含む。当業者は、文脈によって遺伝子産物が何であるかを理解する。
【0068】
本明細書中で使用される場合、配列(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)に関連する用語「相同性」とは、2以上の遺伝子配列間の同一性の割合をいう。したがって、2つの所与の遺伝子間の相同性が高ければ高いほど、これらの配列間の同一性または類似性も高くなる。2つの遺伝子が相同性を有するか否かは、これらの配列を直接比較することによって、または、ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって決定される。2つの遺伝子配列が互いに直接比較されるとき、遺伝子のDNA配列が互いに少なくとも50%の同一性、好ましくは少なくとも70%の同一性、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を提示する場合にこれらの遺伝子は相同性を有する。本明細書中で使用される場合、配列(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)に関連する用語「類似性」は、保存的置換が上記の相同性においてポジティブ(同一)とみなされる場合の、2以上の配列間の同一性の割合をいう。したがって、相同性と類似性は、保存的置換が存在する場合には互いに異なる。保存的置換が存在しない場合には、相同性と類似性とは同じ値を有する。このような相同な遺伝子などは、利用可能な場合、ネットワークにおいて同じ機能を果たすものとして使用され得、そして、利用可能な場合、異なる摂動因子などとして使用され得る。
【0069】
本明細書中で使用される場合、用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、同じ意味を有し、そして、あらゆる長さのアミノ酸ポリマーをいう。このポリマーは、直鎖ポリマーであっても分枝鎖ポリマーであっても環状鎖ポリマーであってもよい。アミノ酸は、天然に存在するアミノ酸であっても、天然に存在しないアミノ酸であっても、改変体アミノ酸であってもよい。この用語は、複数のポリペプチド鎖の複合物へと組み立てられたものを含み得る。この用語はまた、天然に存在するアミノ酸ポリマーまたは人工的に修飾されたアミノ酸ポリマーを含む。このような修飾としては、例えば、ジスルフィド結合の形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化、または、あらゆる他の操作もしくは修飾(例えば、標識部分の結合)が挙げられる。この定義は、例えば、少なくとも1つのアミノ酸アナログ(例えば、天然に存在しないアミノ酸など)を含むポリペプチド、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)、および他の当該分野において公知の改変体を包含する。細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチンなど)のような遺伝子産物は通常、ポリペプチドの形態である。本発明において使用されるポリペプチドは、例えば、ペプチドを産生する初代培養細胞またはその細胞株を培養し、その後、培養上清からペプチドを分離または精製することによって生成され得る。あるいは、適切な発現ベクターに目的のポリペプチドをコードする遺伝子を組み込み、このベクターを用いて発現宿主を形質転換し、形質転換された細胞の培養上清から組換えポリペプチドを回収するために、遺伝子操作技術が使用される。上記の宿主細胞は、ペプチドの生理学的活性を維持する一方で、目的のポリペプチドを発現し得る限り、遺伝子操作技術において慣習的に使用されるあらゆる宿主細胞(例えば、E.coli、酵母、動物細胞など)であり得る。このようにして得られた細胞に由来するポリペプチドは、天然に存在するポリペプチドの機能と実質的に同じ機能を有する限り、少なくとも1つのアミノ酸の置換、付加および/もしくは欠失、または、少なくとも1つの糖鎖の置換、付加および/もしくは欠失を有し得る。
【0070】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「核酸分子」および「核酸」は同じ意味を有し、そして、任意の長さを有するヌクレオチドポリマーをいう。これらの用語はまた、「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」を含む。「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」は、ヌクレオチド誘導体を含むか、または、代表的な結合とは異なる結合をヌクレオチド間に有するオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドをいい、これらは交換可能に使用される。このようなオリゴヌクレオチドの例としては、具体的には、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド内のホスホジエステル結合がホスホチオエート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド内のホスホジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド内のリボースおよびホスホジエステル結合がペプチド−核酸結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド内のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置き換えられたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド内のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置き換えられたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド内のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置き換えられたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド内のシトシンがフェノキサジン修飾シトシンで置き換えられたオリゴヌクレオチド誘導体、DNA内のリボースが2’−O−プロピルリボースで置き換えられたオリゴヌクレオチド誘導体、および、オリゴヌクレオチド内のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置き換えられたオリゴヌクレオチド誘導体が挙げられる。そうでないと示されない限り、特定の核酸配列はまた、事実上、保存的修飾されたその改変体(例えば、縮重コドン置換)および相補的な配列ならびに明確に示された配列を包含する。特に、縮重コドン置換は、1以上の選択された(または全ての)コドンの3番目の位置が、混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置き換えられた配列を作製することによって生成され得る(Batzerら,Nucleic Acids Res.19:5081(1991);Ohtsukaら,J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら,Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。細胞外マトリクスタンパク質(例えば、フィブロネクチンなど)などをコードする遺伝子は通常、ポリヌクレオチドの形態である。トランスフェクトされる分子はポリヌクレオチドの形態である。
【0071】
本明細書中で使用される場合、用語「対応する」は、機能的レポーターと機能との間の関係について使用され、目的の機能的レポーターから誘導されるシグナルが機能の状態を反映する状態をいう。したがって、機能に対応する機能的レポーターのシグナルに基づいてこのような機能の状態を決定し得る。例えば、転写因子下に連結された蛍光タンパク質を発現する遺伝子は、転写因子に対応する機能的レポーターであると言える、などである。
【0072】
本明細書中で使用される場合、用語「対応する」アミノ酸または核酸とは、比較のための参照としてのポリペプチドもしくはポリヌクレオチド内の予め決定されたアミノ酸もしくはヌクレオチドの機能と同様の機能を有するかまたは有することが予想される、所与のポリペプチドもしくはポリヌクレオチド分子内のアミノ酸もしくはヌクレオチドをいう。特に、酵素分子の場合、この用語は、活性部位と同様の位置に存在し、そして、同様に触媒活性に寄与するアミノ酸をいう。例えば、特定のポリヌクレオチドに対するアンチセンス分子の場合、この用語は、アンチセンス分子の特定の部分に対応するオルソログ内の同様の部分をいう。
【0073】
本明細書中で使用される場合、用語「対応する」遺伝子(例えば、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド分子)とは、比較のための参照としてのある種における予め決定された遺伝子の機能と同様の機能を有するかまたは有することが予想される、所与の種の遺伝子をいう。このような機能を持つ遺伝子が複数存在する場合、この用語は、同じ進化の起源を持つ遺伝子をいう。したがって、所与の遺伝子に対応する遺伝子は、所与の遺伝子のオルソログであり得る。したがって、マウスサイクリン遺伝子に対応する遺伝子は、他の動物において見出され得る。このような対応する遺伝子は、当該分野で周知の技術によって同定され得る。したがって、例えば、所与の動物における対応する遺伝子は、クエリ配列として参照遺伝子(例えば、マウスサイクリン遺伝子など)の配列を用いて、動物(例えば、ヒト、ラット)の配列データベースを検索することによって見出され得る。
【0074】
本明細書中で使用される場合、用語「フラグメント」とは、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドに関して、参照ポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さn)の全長に関して、1〜n−1の範囲の配列の長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。このフラグメントの長さは、目的に従って適切に変更され得る。例えば、ポリペプチドの場合、フラグメントの長さの下限は、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50またはそれより多いアミノ酸を含む。整数によって表されるが、本明細書において特定されない整数(例えば、11など)によって表される長さは、下限として適当であり得る。例えば、ポリヌクレオチドの場合、フラグメントの長さの下限は、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100またはそれより多いヌクレオチドを含む。本明細書において特定されない整数(例えば、11など)によって表される長さは、下限として適当であり得る。本明細書中で使用される場合、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの長さは、それぞれ、アミノ酸または核酸の数で表され得る。しかし、上記の数は絶対的なものではない。下限または上限としての上記の数は、同じ機能が維持される限り、いくらかより大きい数またはより小さい数(例えば、±10%)を含むことが意図される。この目的のために、本明細書では「約」が数の前に置かれ得る。しかし、本明細書における数の解釈は、「約」の存在または不在によって影響を受けないことが理解されるべきである。
【0075】
本明細書中で使用される場合、用語「生物学的活性」とは、生物において因子(例えば、ポリヌクレオチド、タンパク質など)によって保有される活性をいい、種々の機能を示す活性(例えば、転写促進活性など)を含む。例えば、特定の因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を含む。別の例では、特定の因子がリガンドである場合、その生物学的活性は、リガンドの、そのリガンドに対応するレセプターへの結合を含む。上記の生物学的活性は、当該分野で周知の技術によって測定され得る。
【0076】
本明細書中で使用される場合、用語「検索」とは、所与の核酸配列が、電子的、生物学的のいずれかで、または、他の方法を用いることによって、特定の機能および/もしくは特性を有する他の核酸塩基配列を見出すために利用されることを示す。電子的検索の例としては、BLAST(Altschulら,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))、FASTA(Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444−2448(1988))、SmithおよびWatermanの方法(Smith and Waterman,J.Mol.Biol.147:195−197(1981))、ならびに、NeedlemanおよびWunschの方法(Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443−453(1970))などが挙げられるがこれらに限定されない。生物学的検索の例としては、ゲノムDNAがナイロンメンブレンなどに結合されたマクロアレイ、または、ゲノムDNAがストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でガラスプレートに結合されたマイクロアレイ(マイクロアッセイ)、PCR、および、インサイチュハイブリダイゼーションなどが挙げられるがこれらに限定されない。このような検索は、本発明の方法またはシステムを用いることによって実行され得る。
【0077】
本明細書中で使用される場合、用語「プローブ」とは、インビトロおよび/もしくはインビボでのスクリーニングなどのような生物学的実験において使用される、検索に使用する物質をいい、例えば、特定の塩基配列を有する核酸分子、または、特定のアミノ酸配列を含むペプチドが挙げられるがこれらに限定されない。
【0078】
一般的なプローブとしての核酸分子の例としては、目的の遺伝子の核酸配列に対して相同もしくは相補的である、少なくとも8の長さの連続したヌクレオチドを有する核酸配列を有するものが挙げられる。このような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の長さの連続したヌクレオチドを有する核酸配列、より好ましくは、少なくとも10の長さの連続したヌクレオチドを有する核酸配列、なおより好ましくは、少なくとも11の長さの連続したヌクレオチド、少なくとも12の長さの連続したヌクレオチド、少なくとも13の長さの連続したヌクレオチド、少なくとも14の長さの連続したヌクレオチド、少なくとも15の長さの連続したヌクレオチド、少なくとも20の長さの連続したヌクレオチド、少なくとも25の長さの連続したヌクレオチド、少なくとも30の長さの連続したヌクレオチド、少なくとも40の長さの連続したヌクレオチド、または少なくとも50の長さの連続したヌクレオチドを有する核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列としては、上記配列に対して少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、なおより好ましくは少なくとも90%または少なくとも95%の相同性を有する核酸配列が挙げられる。
【0079】
本明細書中で使用される場合、用語「プライマー」は、酵素反応において合成される高分子化合物の反応を開始させるために必要とされる物質をいう。核酸分子を合成するための反応では、合成される予定の高分子化合物の一部に対して相補的な核酸分子(例えば、DNA、RNAなど)が使用され得る。
【0080】
元々プライマーとして使用される核酸分子としては、目的の遺伝子の核酸配列に対して相補的である、少なくとも8の長さの連続したヌクレオチドを有する核酸配列を有するものが挙げられる。このような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の長さの連続したヌクレオチド、より好ましくは、少なくとも10の長さの連続したヌクレオチド、なおより好ましくは、少なくとも11の長さの連続したヌクレオチド、少なくとも12の長さの連続したヌクレオチド、少なくとも13の長さの連続したヌクレオチド、少なくとも14の長さの連続したヌクレオチド、少なくとも15の長さの連続したヌクレオチド、少なくとも20の長さの連続したヌクレオチド、少なくとも25の長さの連続したヌクレオチド、少なくとも30の長さの連続したヌクレオチド、少なくとも40の長さの連続したヌクレオチド、および少なくとも50の長さの連続したヌクレオチドを有する。プライマーとして使用される核酸配列としては、上記配列に対して少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、なおより好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の相同性を有する核酸配列が挙げられる。プライマーとして適切な配列は、合成(増幅)される予定の配列の特性に依存して変化し得る。当業者は、目的の配列に従って適切なプライマーを設計し得る。このようなプライマー設計は当該分野で周知であり、そして、人間の手によって、または、コンピュータプログラム(例えば、LASERGENE、Primer Select、DNAStar)を用いて行われ得る。
【0081】
本明細書中で使用される場合、用語「エピトープ」は、抗原決定基をいう。したがって、用語「エピトープ」は、特定の免疫グロブリンの認識に関与する一連のアミノ酸残基、また、T細胞の文脈では、T細胞レセプタータンパク質および/もしくは主要組織適合遺伝子複合体(MHC)レセプターによる認識に必要とされる残基を含む。この用語はまた、「抗原決定基」または「抗原決定部位」と交換可能に使用される。免疫学の分野では、インビボまたはインビトロにおいて、エピトープは、免疫グロブリン、T細胞レセプターまたはHLA分子によって認識される部位を形成する分子の特徴(例えば、一次構造、二次構造および三次構造、ならびに、電荷)である。ペプチドを含むエピトープは、エピトープに対して固有の空間的立体配座における3以上のアミノ酸を含む。一般に、エピトープは、少なくとも5つのこのようなアミノ酸からなり、そしてより通常は、少なくとも6つ、7つ、8つ、9つもしくは10のこのようなアミノ酸からなる。エピトープの長さが長ければ長いほど、エピトープが元々のペプチドに対してより類似し、すなわち、一般には、より長いエピトープが好ましい。これは、立体配座が考慮される場合に限らない。アミノ酸の空間的立体配座を決定する方法は、当該分野で公知であり、そして例えば、X線結晶学および2次元核磁気共鳴分光学が挙げられる。さらに、所与のタンパク質におけるエピトープの同定は、当該分野において周知の技術を用いて容易に達成される。Geysenら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1984)81:3998(所与の抗原における免疫原性エピトープの位置を決定するためのペプチドを迅速に合成する一般的な方法);米国特許第4,708,871号(抗原のエピトープを同定し、化学合成するための手順);およびGeysenら,Molecular immunology(1986)23:709(所与の抗体に対して高い親和性を有するペプチドを同定するための技術)もまた参照のこと。同じエピトープを認識する抗体は、単純な免疫アッセイにおいて同定され得る。したがって、ペプチドを含むエピトープを決定するための方法は当該分野で周知である。このようなエピトープは、エピトープの核酸またはアミノ酸の一次配列が提供されている場合、当業者に周知の一般的な技術を用いることによって決定され得る。
【0082】
したがって、ペプチドを含むエピトープは、少なくとも3アミノ酸、好ましくは少なくとも4アミノ酸、より好ましくは少なくとも5アミノ酸、少なくとも6アミノ酸、少なくとも7アミノ酸、少なくとも8アミノ酸、少なくとも9アミノ酸、少なくとも10アミノ酸、少なくとも15アミノ酸、少なくとも20アミノ酸、および少なくとも25アミノ酸の長さを有する配列を必要とする。エピトープは、直鎖状であっても立体的(conformational)であってもよい。
【0083】
本明細書中で使用される場合、用語「生物学的分子」とは、生物および生物の集合体に関する分子または分子の集合体をいう。本明細書中で使用される場合、用語「生物学的」または「生物」とは、生物学的な生物をいい、動物、植物、真菌、ウイルスなどが挙げられるがこれらに限定されない。生物学的分子としては、生物およびその集合体から抽出された分子が挙げられるが、本発明はこれに限定されない。生物および生物の集合体に関するあらゆる分子または分子の集合体が生物学的分子の定義内に含まれる。したがって、医薬として使用され得る低分子量の分子(例えば、低分子量の分子リガンドなど)は、生物に対する効果が意図される限り、生物学的分子の定義内に含まれる。このような生物学的分子の例としては、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNAおよびゲノムDNAのようなDNA;mRNAのようなRNA)、多糖類、オリゴサッカリド、脂質、低分子量分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、低分子量有機分子など)ならびにこれらの複合分子およびこれらの集合体(例えば、糖脂質、糖タンパク質、リポタンパク質など)などが挙げられるがこれらに限定されない。生物学的分子は、細胞への導入が意図される限り、細胞自体または組織の一部を含み得る。代表的には、生物学的分子は、核酸、タンパク質、脂質、糖、タンパク脂質、リポタンパク質、糖タンパク質、プロテオグリカンなどであり得る。好ましくは、生物学的分子は核酸(DNAまたはRNA)またはタンパク質を含み得る。ある実施形態では、生物学的分子は核酸(例えば、ゲノムDNAもしくはcDNA、またはPCRによって合成されたDNAなど)である。別の実施形態では、生物学的分子はタンパク質であり得る。このような生物学的分子はホルモンまたはサイトカインであり得る。
【0084】
本明細書中で使用される場合、用語「レセプター」は、核内など細胞上に存在し、細胞外もしくは細胞内の因子に結合し得る分子をいい、この結合がシグナル伝達を媒介する。レセプターは代表的にはタンパク質の形態である。レセプターの結合パートナーは通常リガンドと呼ばれる。
【0085】
本明細書中で使用される場合、用語「アゴニスト」は、特定の生物学的に作用する物質(例えば、リガンドなど)のレセプターに結合し、そして、この物質の機能と同じかもしくは類似の機能を有する因子をいう。
【0086】
本明細書中で使用される場合、用語「アンタゴニスト」は、特定の生物学的に作用する物質(リガンド)のレセプターに競合的に結合するが、レセプターを介して生理学的作用を生じない因子をいう。アンタゴニストは、アンタゴニスト薬物、ブロッカー、阻害薬などを含む。
【0087】
本明細書中で使用される場合、用語「因子」は、意図される目的が達成され得る限り、あらゆる物質または他の実体(例えば、光、放射線、熱、電気などのようなエネルギー)であり得る。このような物質の例としては、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAなどのようなDNA、およびmRNAのようなRNA)、多糖類、オリゴサッカリド、脂質、低分子量有機分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、コンビナトリアル化学によって合成された分子、低分子量の分子(例えば、薬学的に受容可能な低分子量リガンドなど)など)およびこれらの分子の組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。ポリヌクレオチドに特異的な因子の例としては、代表的には、所定の配列相同性(例えば、70%以上の配列同一性)でそのポリヌクレオチドの配列に対して相補的な配列を有するポリヌクレオチド、プロモーター領域に結合する転写因子のようなポリペプチドなどが挙げられるがこれらに限定されない。ポリペプチドに特異的な因子の例としては、代表的には、ポリペプチドまたはその誘導体もしくはアナログに対して特異的に指向される抗体(例えば、単鎖抗体)、ポリペプチドがレセプターもしくはリガンドである場合の特異的なリガンドもしくはレセプター、ポリペプチドが酵素である場合の基質などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0088】
本明細書中で使用される場合、用語特定の因子(例えば、核酸分子またはポリペプチド)「に対して特異的に結合する因子」とは、他の核酸分子もしくはポリペプチドへの結合レベルと同等もしくはこれより高い、その核酸分子もしくはポリペプチドへの結合レベルを有する因子をいう。このような因子の例としては、標的が核酸分子である場合には、目的の核酸分子に相補的な配列を有する核酸分子、目的の核酸配列に結合し得るポリペプチド(例えば、転写因子など)など、そして、標的がポリペプチドである場合には、抗体、単鎖抗体、レセプター・リガンド対のいずれか、酵素・基質対のいずれか、などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0089】
本明細書中で使用される場合、用語「化合物」は、あらゆる識別可能な化学物質もしくは分子をいい、低分子量分子、ペプチド、タンパク質、糖、ヌクレオチドもしくは核酸が挙げられるがこれらに限定されない。このような化合物は、天然に存在する生成物であっても、合成生成物であってもよい。
【0090】
本明細書中で使用される場合、用語「低分子量有機分子」とは、比較的小さな分子量を有する有機分子をいう。有機分子の低分子量とは、通常、約1,000以下の分子量をいうか、あるいは、1,000より大きい分子量をいう場合もある。低分子量有機分子は通常、当該分野で公知の方法またはその組み合わせによって合成され得る。これらの低分子量有機分子は、生物によって産生されてもよい。低分子量有機分子の例としては、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、コンビナトリアル化学によって合成されたもの、薬学的に受容可能な低分子量分子(例えば、低分子量リガンドなど)などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0091】
本明細書中で使用される場合、用語「接触」とは、本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドに対して物理的に接近した、化合物の直接的もしくは間接的な配置をいう。ポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、多数の緩衝液、塩、溶液などの中に存在し得る。用語「接触」は、核酸もしくはそのフラグメントによってコードされるポリペプチドを含むビーカー、マイクロプレート、細胞培養フラスコ、マイクロアレイ(例えば、ジーンチップ)などにおける化合物の配置を含む。
【0092】
本明細書中で使用される場合、用語「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、多官能性抗体、キメラ抗体、抗イディオタイプ抗体、これらのフラグメント(例えば、F(ab’)フラグメントおよびFabフラグメント)および他の組換え結合体を包含する。これらの抗体は、共有結合を介してまたは組換えによって、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、α−ガラクトシダーゼなど)と融合され得る。抗体は、本発明における摂動因子として使用され得る。
【0093】
本明細書中で使用される場合、用語「抗原」とは、ある抗体分子が特異的に結合し得るあらゆる基質をいう。本明細書中で使用される場合、用語「免疫原」とは、リンパ球の抗原特異的な免疫応答の活性化を開始し得る抗原をいう。抗原は、本発明における摂動因子として使用され得る。
【0094】
所与のタンパク質分子において、所与のアミノ酸は、構造的に重要な領域(例えば、カチオン性領域または基質分子の結合部位)において、相互作用による結合能の明らかな低下も喪失もなく、別のアミノ酸で置き換えられ得る。タンパク質の所与の生物学的機能は、タンパク質の相互作用能または他の特性によって規定される。したがって、特定のアミノ酸置換は、アミノ酸配列において、または、DNA配列レベルで、置換後にもとの特性を維持するタンパク質を生成するように行われ得る。このように、本明細書中に開示されるようなペプチド、およびこのようなペプチドをコードするDNAのこれらの種々の修飾は、生物学的活性の明らかな喪失なしに行われ得る。
【0095】
上記の修飾が設計されるとき、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。疎水性アミノ酸指数は、相互作用による生物学的機能を持つタンパク質を提供する際に重要な役割を果たし、これは、当該分野で一般に認識されていることである(Kyte,J.and Doolittle,R.F.,J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水性特性は、タンパク質の二次構造に寄与し、さらに、タンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との間の相互作用を調節する。各アミノ酸には、以下のように、疎水性および荷電特性に基づいて、疎水性指数が与えられている:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5)。
【0096】
所与のアミノ酸が、類似の疎水性指数を有する別のアミノ酸で置き換えられる場合、そのタンパク質は、依然としてもとのタンパク質の生物学的機能と類似する生物学的機能を有し得る(例えば、等価な酵素活性を有するタンパク質)ことは周知である。このようなアミノ酸置換に関して、疎水性指数は好ましくは±2以内、より好ましくは±1以内、なおより好ましくは±0.5以内である。当該分野ではこのような疎水性に基づいたアミノ酸置換が十分であることが理解される。米国特許第4,554,101号に記載されるように、アミノ酸残基には、以下の親水性指数が与えられる:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸は、類似の疎水性指数を有し、依然として生物学的な等価なものを提供し得る別のアミノ酸で置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換に関して、親水性指数は好ましくは±2以内、より好ましくは±1以内、なおより好ましくは±0.5以内である。
【0097】
(デバイスおよび固相支持体)
本明細書中で使用される場合、用語「デバイス」とは、装置の全体もしくは一部を構成し、そして、支持体(好ましくは、固相支持体)と、その上に担持される標的物質とを備えるパーツをいう。このようなデバイスの例としては、チップ、アレイ、マイクロタイタープレート、細胞培養プレート、ペトリ皿、ビーズなどが挙げられるがこれらに限定されない。このようなデバイスは、本発明のシステムを構成し得る。特に、このようなデバイスは、上記生物学的実体における少なくとも2つの機能的レポーターに関する情報を得るための手段として使用され得、ここで、機能的レポーターは、生物学的機能を反映するものである。
【0098】
本明細書中で使用される場合、用語「支持体」とは、生物学的分子のような物質を固定し得る材料をいう。このような支持体は、共有結合もしくは非共有結合を介して本明細書中で使用されるような生物学的分子を結合する能力を有するか、または、このような能力を有するように誘導され得るあらゆる固定材料から作製され得る。
【0099】
支持体に使用される材料の例としては、固体表面を形成し得るあらゆる材料が挙げられ、例えば、ガラス、シリカ、ケイ素、セラミクス、二酸化ケイ素、プラスチック、金属(合金を含む)、天然に存在するポリマーおよび合成ポリマー(例えば、ポリスチレン、セルロース、キトサン、デキストランおよびナイロン)などが挙げられるがこれらに限定されない。支持体は、複数の材料から作製された層から形成され得る。例えば、支持体は、無機の絶縁材料(例えば、ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイヤ、フォルステライト、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素など)から作製され得る。支持体は、有機材料(例えば、ポリエチレン、エチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、フッ素含有樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレンアクリロニトリルコポリマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー、シリコーン樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホンなど)から作製され得る。本発明においてはまた、ブロッティングにおいて使用されるニトロセルロース膜、ナイロン膜、PVDF膜などが、支持体のための材料として使用され得る。支持体を構成する材料が固相である場合、このような支持体は本明細書において特に「固相支持体」と称される。固相支持体は、本明細書において、プレート、マイクロウェルプレート、チップ、ガラススライド、フィルム、ビーズ、金属(表面)などの形態であり得る。支持体は、コーティングされていなくてもコーティングされていてもよい。
【0100】
本明細書中で使用される場合、用語「液相」は、当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有し、代表的には、溶液の状態をいう。
【0101】
本明細書中で使用される場合、用語「固相」は、当業者によって通常理解されるものと同じ意味を有し、代表的には、固体の状態をいう。本明細書中で使用される場合、液体および固体は、まとめて「流体」と称され得る。
【0102】
本明細書中で使用される場合、用語「基材」とは、本発明に従ってチップまたはアレイを構築するために使用される材料(好ましくは、固体)をいう。したがって、基材は、プレートの概念に含まれる。このような基材は、共有結合もしくは非共有結合を介して、本明細書において使用されるような生物学的分子に結合する能力を有するあらゆる固体材料から作製され得る。基材はまた、このような能力を有するように誘導され得る。
【0103】
プレートおよび基材に使用される材料の例としては、固体表面を形成し得るあらゆる材料が挙げられ、例えば、ガラス、シリカ、ケイ素、セラミクス、二酸化ケイ素、プラスチック、金属(合金を含む)、天然に存在するポリマーおよび合成ポリマー(例えば、ポリスチレン、セルロース、キトサン、デキストランおよびナイロン)などであるがこれらに限定されない。基材は、複数の材料から作製された層から形成され得る。例えば、基材は、無機の絶縁材料(例えば、ガラス、石英ガラス、アルミナ、サファイヤ、フォルステライト、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素など)から作製され得る。基材は、有機材料(例えば、ポリエチレン、エチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、不飽和ポリエステル、フッ素含有樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、アクリル樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、アセタール樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、スチレンアクリロニトリルコポリマー、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマー、シリコーン樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホンなど)から作製され得る。基材として好ましい材料は、測定デバイスのような種々のパラメータに依存して変化し、そして、当業者によって適切なように上記の種々の材料から選択され得る。トランスフェクションアレイでは、ガラススライドが好ましい。好ましくは、このような基材はコーティングを有し得る。
【0104】
本明細書中で使用される場合、固相支持体または基材に関する用語「コーティング」は、固相支持体もしくは基材の表面上に材料の膜を形成する行為をいい、また、膜自体もいう。コーティングは、固相支持体および基材の品質の改良(例えば、寿命の延長、厳しい環境に対する抵抗性(例えば、酸に対する抵抗性)の改良など)、固相支持体もしくは基材と一体成形された基材に対する親和性の改良などのような種々の目的のために行われる。種々の材料がこのようなコーティングに使用され得、上記の固相支持体および基材に加えて、生物学的物質(例えば、DNA、RNA、タンパク質、脂質など)、ポリマー(例えば、ポリ−L−リジン、MAS(Matsunami Glass,Kishiwada,Japanから入手可能)および疎水性フッ素樹脂)、シラン(APS(例えば、γ−アミノプロピルシランなど))、金属(例えば、金など)が挙げられるがこれらに限定されない。このような材料の選択は、当業者の技術範囲内であり、したがって、当該分野で周知の技術を用いて行われ得る。1つの好ましい実施形態では、このようなコーティングは、ポリ−L−リジン、シラン(例えば、エポキシシランまたはメルカプトシラン、APS(γ−アミノプロピルシラン)など)、MAS、疎水性フッ素樹脂および金属(例えば、金など)から作製されるのが好都合であり得る。このような材料は、好ましくは、細胞または細胞を含む対象物(例えば、生物、器官など)に適した物質であり得る。
【0105】
本明細書中で使用される場合、用語「チップ」または「マイクロチップ」は、万能な機能を有し、システムの一部を構成する微小な集積回路をいうために交換可能に使用される。チップの例としては、DNAチップ、タンパク質チップなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0106】
本明細書中で使用される場合、用語「アレイ」とは、少なくとも1つ(例えば、1000以上など)の標的物質(例えば、DNA、タンパク質、トランスフェクション混合物など)を含む組成物の整列されたパターンを有する基材(例えば、チップなど)をいう。アレイの中でも、小さなサイズ(例えば、10×10mmなど)を有するパターン形成された基材は特に、マイクロアレイと呼ばれる。用語「マイクロアレイ」および「アレイ」は、交換可能に使用される。したがって、上記のものよりも大きなサイズを有するパターン形成された基材がマイクロアレイと呼ばれる場合もある。例えば、アレイは、固相表面またはその膜に固定された一連の所望のトランスフェクション混合物を含む。アレイは、好ましくは、同じかもしくは異なるタイプの少なくとも10個の抗体、より好ましくは少なくとも10個の抗体、なおより好ましくは少なくとも10個の抗体、なおさらにより好ましくは少なくとも10個の抗体を含む。これらの抗体は、125×80mmまで、より好ましくは10×10mmまでの表面上に配置される。アレイとしては、96ウェルマイクロタイタープレート、384ウェルマイクロタイタープレート、ガラススライドの大きさのマイクロタイタープレートなどが挙げられるがこれらに限定されない。固定される組成物は、1または複数のタイプの標的物質を含み得る。このような標的物質のタイプの数は、1〜多数のスポットの範囲であり得、約10、約100、約500および約1000を含むがこれらに限定されない。
【0107】
本明細書中で使用される場合、用語「トランスフェクションアレイ」とは、アレイ上のスポットまたはアドレスの各々においてトランスフェクションを行うアレイをいう。このようなトランスフェクションは、本明細書において記載され、かつ実施例において例証された技術を用いて行われ得る。
【0108】
上述のように、任意の数の標的物質(例えば、抗体のようなタンパク質)が固相表面または膜上に提供され得、代表的には、基材あたり10個以下の生物学的分子、別の実施形態では、10個以下の生物学的分子、10個以下の生物学的分子、10個以下の生物学的分子、10個以下の生物学的分子、10個以下の生物学的分子、または10個以下の生物学的分子を含む。10個より多くの生物学的分子標的物質を含む組成物が基材上に提供され得る。これらの場合、基材のサイズは好ましくは小さい。特に、標的物質(例えば、抗体のようなタンパク質)を含む組成物のスポットのサイズは、単一の生物学的分子のサイズ(例えば、1〜2nmのオーダー)ほど小さい場合がある。ある場合には、基材の最小面積は、基材上の生物学的分子の数に基づいて決定され得る。細胞に導入されることが意図される標的物質を含む組成物は、本明細書では、代表的に、0.01mm〜10mmのサイズを有するスポットの形態で、基材に対する共有結合または物理的相互作用を介して配置もしくは固定される。
【0109】
生物学的分子の「スポット」はアレイ上に提供され得る。本明細書中で使用される場合、用語「スポット」とは、標的物質を含む組成物の特定のセットをいう。本明細書中で使用される場合、用語「スポッティング」とは、基材またはプレート上に、特定の標的物質を含む組成物のスポットを準備する行為のことをいう。スポッティングは、あらゆる方法、例えば、ピペッティングなどによって、あるいは、自動デバイスを用いることによって行われ得る。これらの方法は当該分野で周知である。
【0110】
本明細書中で使用される場合、用語「アドレス」とは、他の独特の位置と区別され得る基材上の独特の位置をいう。アドレスは適切にスポットと関連付けられる。アドレスは、識別可能な形状を有し得、その結果、各アドレスにおける物質は、他のアドレスにおける物質から区別され得る(例えば、光学的に)。アドレスを画定する形状は、例えば、円形、楕円形、正方形、矩形または不規則な形状であり得るがこれらに限定されない。したがって、用語「アドレス」は、抽象的な概念を示すために用いられるが、用語「スポット」は、明確な概念を示すために用いられる。互いに区別する必要がない限り、用語「アドレス」および「スポット」は、本明細書において交換可能に使用され得る。
【0111】
各アドレスのサイズは、特に、基材のサイズ、基材上のアドレスの数、標的物質を含む組成物および/または利用可能な試薬の量、微小粒子のサイズ、ならびに、アレイに使用される任意の方法に必要とされる解像度のレベルに依存する。各アドレスのサイズは、例えば、1〜nmから数cmの範囲であり得るが、アドレスは、アレイに適したあらゆるサイズを有し得る。
【0112】
アドレスを画定する空間的な配置および形状は、マイクロアレイが特定の用途に適するものとなるように設計される。アドレスは、密に配置されても、間隔を空けて分配されても、解析される特定のタイプの物質に適切な所望のパターンへと部分集団へと分けられてもよい。
【0113】
マイクロアレイは、例えば、ゲノム機能研究プロトコール(実験医学別冊)、ポストゲノム時代の実験講座1、「ゲノム医学とこれからのゲノム医療」(実験医学増刊)などにおいて広く概説されている。
【0114】
莫大な量のデータがマイクロアレイから得られ得る。したがって、データ解析ソフトウェアは、クローンとスポット、データ解析などとの間の対応の管理に重要である。このようなソフトウェアは、種々の検出システムに付属され得る(例えば、Ermolaeva O.ら,(1998)Nat.Genet.,20:19−23)。データベースの形式としては、例えば、Affymetrixによって提案されるGATC(遺伝子解析技術コンソーシアム)が挙げられる。
【0115】
アレイのための微細機械加工は、例えば、Campbell,S.A.(1996)、「The Science and Engineering of Microelectronic Fabrication」、Oxford University Press;Zaut,P.V.(1996)、「Microarray Fabrication:a Practical Guide to Semiconductor Processing」、Semiconductor Services;Madou,M.J.(1997)、「Fundamentals of Microfabrication」、CRC1 5 Press;Rai−Choudhury,P.(1997)、「Handbook of Microlithography,Micromachining,& Microfabrication:Microlithography」などに記載されており、これらの文献の関連する部分は本明細書中に参考として援用される。
【0116】
(検出)
本発明における細胞の解析または決定では、細胞またはそれと相互作用する物質の属性と考えられる情報を検出するために使用され得る限り、種々の検出方法および手段が使用され得る。このような検出方法および手段の例としては、目視、光学顕微鏡、共焦点顕微鏡、レーザ光源を用いる読み取りデバイス、表面プラズモン共鳴(SPR)法、電気信号、化学もしくは生化学のマーカーが挙げられるがこれらに限定されず、これらは、単独もしくは組み合わせで使用され得る。このような検出デバイスの例としては、蛍光解析デバイス、分光光度計、シンチレーションカウンター、CCD、ルミノメーターなどが挙げられるがこれらに限定されない。生物学的分子を検出し得るあらゆる手段が使用され得る。
【0117】
本明細書中で使用される場合、用語「マーカー」または「バイオマーカー」は、交換可能であり、目的の物質または状態のレベルまたは頻度を示すための生物学的因子をいうために使用される。このようなマーカーの例としては、遺伝子をコードする核酸、遺伝子産物、代謝産物、レセプター、リガンド、抗体などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0118】
したがって、本明細書中で使用される場合、細胞の状態に関連する用語「マーカー」とは、細胞の状態を示す細胞内因子(例えば、遺伝子をコードする核酸、遺伝子産物(例えば、mRNA、タンパク質、翻訳後修飾を受けたタンパク質など)、代謝産物、レセプターなど)と相互作用する因子(例えば、リガンド、抗体、相補的な核酸など)をいい、これらに加え、転写制御因子をいう。本発明では、このようなマーカーは、情報を生成するために使用され得、この情報は、次いで解析される。このようなマーカーは好ましくは、目的の因子と相互作用し得る。本明細書中で使用される場合、マーカーに関連する用語「特異性」とは、他の類似分子との相互作用よりも有意に高い程度まで、目的の分子と相互作用するマーカーの特性をいう。このようなマーカーは、本明細書では、好ましくは細胞内に存在し得るが、また、細胞の外側に存在することもある。
【0119】
本明細書中で使用される場合、用語「標識」とは、目的の分子もしくは物質を他のもの(例えば、物質、エネルギー、電磁波など)から区別する因子をいう。標識方法の例としては、RI(放射性同位体)法、蛍光法、ビオチン化法、化学発光法などが挙げられるがこれらに限定されない。上記の核酸フラグメントと相補的なオリゴヌクレオチドとが蛍光法によって標識される場合、異なる蛍光発光最大波長を有する蛍光物質が標識に使用される。各蛍光発光間の最大波長の差は、好ましくは10nm以上であり得る。核酸の塩基部分に結合し得るあらゆる蛍光物質が使用され得、好ましくは、シアニン色素(例えば、Cy DyeTMシリーズのCy3およびCy5など)、ローダミン6G試薬、N−アセトキシ−N2−アセチルアミノフルオレン(AAF)、AAIF(AAFのヨウ素誘導体)などが挙げられる。例えば、蛍光発光において10nm以上の最大波長の差を有する蛍光物質としては、Cy5とローダミン6G試薬との組み合わせ、Cy3とフルオレセインとの組み合わせ、ローダミン6G試薬とフルオレセインとの組み合わせなどが挙げられる。本発明では、このような標識は、目的のサンプルが検出手段により検出され得るように、このサンプルを変更するために使用され得る。これらの変更は当該分野で公知である。したがって、当業者は、標識および目的のサンプルに適切な方法を用いてこのような変更を行い得る。
【0120】
本明細書中で使用される場合、用語「相互作用」とは、疎水性相互作用、親水性相互作用、水素結合、ファンデルワールス力、イオン性相互作用、非イオン性相互作用、静電性相互作用などをいうが、これらに限定されない。
【0121】
本明細書中で使用される場合、2つの物質(例えば、細胞など)の間の相互作用に関連する用語「相互作用レベル」とは、この2つの物質間の相互作用の程度または頻度をいう。このような相互作用レベルは、当該分野で周知の方法によって測定され得る。例えば、固定され、そして実際に相互作用を行う細胞の数は、例えば、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、位相差顕微鏡などを用いて、あるいは、細胞に対して特異的なマーカー、抗体、蛍光標識などで細胞を染色し、その強度を測定することによって、直接的もしくは間接的(例えば、反射光の強度)にカウントされるがこれらに限定されない。このようなレベルは、マーカーから直接的に、または、標識を介して間接的に表示され得る。このようなレベルの測定値に基づいて、特定のスポットにおいて実際に転写もしくは発現される遺伝子の数または頻度が計算され得る。
【0122】
(提示および表示)
本明細書中で使用される場合、用語「表示」および「提示(presentation)」とは、本発明の方法によって得られる情報またはそこから導き出される情報を、直接的もしくは間接的に、または、情報処理済みの形態で提供する行為をいうために交換可能に使用される。このような表示される形態の例としては、グラフ、写真、表、アニメーションなどのような種々の方法が挙げられるがこれらに限定されない。このような技術は、例えば、本明細書において使用され得る、顕微鏡を自動化し、カメラを制御するためのアプリケーションソフトウェア、ならびに、自動光学顕微鏡とカメラとZ軸焦点合わせデバイスとを備えるハードウェアデバイスの設計について考察している、METHODS IN CELL BIOLOGY,VOL.56,ed.1998,pp:185−215,A High−Resolution Multimode Digital Microscope System(Sluder & Wolf,Salmon)に記載されている。カメラによる画像取得は、例えば、InoueおよびSpring,Video Miroscopy,2d.Edition,1997において詳述されており、この文献は本明細書中に参考として援用される。リアルタイムディスプレイもまた、当該分野で周知の技術を用いて行われ得る。例えば、全ての画像が得られ、そして、半永久的メモリに保存された後、または、画像が得られたのと実質的に同時に、画像が適切なアプリケーションソフトウェアで処理され、処理済のデータが得られ得る。例えば、データは、中断なしに一連の画像を再生するための方法、画像をリアルタイムで表示するための方法、または、焦点平面上の変化もしくは継続として照射光を示す「ムービー」として画像を表示するための方法によって処理され得る。
【0123】
別の実施形態では、測定および提示のためのアプリケーションソフトウェアは、代表的に、刺激を加えるための条件、または、検出された信号を記録するための条件を設定するためのソフトウェアを含む。このような測定および提示のアプリケーションにより、コンピュータは、細胞に刺激を加えるための手段、信号を処理するための手段(SITカメラおよび画像ファイリングデバイス)および/または、細胞を培養する手段を有し得る。
【0124】
キーボード、タッチパネル、マウスなどを用いてパラメータ設定スクリーン上で刺激についての条件を入力することによって、刺激についての所望でかつ複雑な条件を設定することが可能である。さらに、細胞培養の温度、pHなどのような種々の条件は、キーボード、マウスなどを用いて設定され得る。ディスプレイスクリーンは、細胞から検出されたネットワークに関する情報、または、そこから導き出された情報を、リアルタイムで、または、記録した後に表示する。さらに、細胞の顕微鏡画像と重ね合わされつつ、細胞の他の記録された情報またはそこから導き出された情報が表示され得る。記録された情報に加え、記録時の測定パラメータ(刺激条件、記録条件、表示条件、処理条件、細胞についての種々の条件、温度、pHなど)がリアルタイムで表示され得る。本発明は、温度またはpHが許容範囲から逸脱する際にアラームを発する機能を備え得る。
【0125】
データ解析スクリーン上では、本発明において使用されるような集合論に加えて、フーリエ変換、クラスター解析、FFT解析、干渉性解析、相関性解析などのような種々の数学的解析についての条件を設定することが可能である。本発明は、ネットワークに関する情報を一時的に表示する機能、トポグラフィー(topography)を表示する機能などを備え得る。これらの解析の結果は、記憶媒体に保存された顕微鏡画像と重ね合わされつつ表示され得る。
【0126】
(遺伝子導入)
核酸分子を細胞に導入するためのあらゆる技術(例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる)が本明細書において使用され得る。本発明においては、トランスフェクションが好ましい。
【0127】
本明細書中で使用される場合、用語「トランスフェクション」とは、実質的にむき出しの形態(ウイルス粒子を除く)の遺伝子DNA、プラスミドDNA、ウイルスDNA、ウイルスRNAなどと共に細胞を培養するか、または、このような遺伝子物質を細胞懸濁液に加え、細胞に遺伝子物質を取り込ませることによって、遺伝子導入またはトランスフェクションを行う行為をいう。トランスフェクションによって導入される遺伝子は、代表的には、一過性の様式で細胞内で発現されるか、または、永続的な様式で細胞に組み込まれ得る。
【0128】
このような核酸分子導入技術は、当該分野で周知であり、かつ、一般に使用され、そして、例えば、Ausubel F.A.et al.編(1988),Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,New York,NY;Sambrook J.et al.(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版およびその第3版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY;実験医学[Experimental Medicine]別冊、「遺伝子導入&発現解析実験法」、羊土社、1997などに記載される。遺伝子導入は、ノザンブロッティング解析およびウェスタンブロッティング解析のような本明細書中に記載されるような方法、または、他の周知の一般的な技術によって確認され得る。
【0129】
遺伝子が本明細書において言及される場合、用語「ベクター」または「組換えベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を標的細胞へと運ぶ媒介物をいう。このようなベクターは、このようなベクターは、自己複製または宿主細胞(例えば、原核生物細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、個々の動物および個々の植物など)の染色体への組み込みが可能であり、かつ、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した部位にプロモーターを含む。クローニングを行うのに適したベクターは、「クローニングベクター」と呼ばれる。このようなクローニングベクターは通常、複数の制限部位を含むマルチプルクローニングサイトを含む。制限酵素部位およびマルチプルクローニングサイトは、上述のように、当該分野で周知であり、そして、目的に応じて、本明細書中に記載される刊行物(例えば、Sambrookら、上掲)にしたがって当業者によって適切なように使用され得る。
【0130】
本明細書中で使用される場合、用語「発現ベクター」とは、構造遺伝子およびその発現を調節するためのプロモーター、そしてさらに種々の調節エレメントを、宿主細胞内で作動させることが可能な状態で含む核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬物耐性遺伝子のような選択マーカー、およびエンハンサーを含み得る。
【0131】
原核生物細胞のための「組換えベクター」の例としては、pcDNA3(+)、pBluescript−SK(+/−)、pGEM−T、pEF−BOS、pEGFP、pHAT、pUC18、pFT−DESTTM42GATEWAY(Invitrogen)などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0132】
動物細胞のための「組換えベクター」の例としては、pcDNAI/Amp、pcDNAI、pCDM8(全てフナコシから市販されている)、pAGE107[特開平3−229号公報(Invitrogen)]、pAGE103[J.Biochem.,101,1307(1987)]、pAMo、pAMoA[J.Biol.Chem.,268,22782−22787(1993)]、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)をベースとしたレトロウイルス発現ベクター、pEF−BOS、pEGFPなどが挙げられるがこれらに限定されない。
【0133】
植物細胞のための組換えベクターの例としては、pPCVICEn4HPT、pCGN1548、pCGN1549、pBI221、pBI121などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0134】
例えば、トランスフェクション、形質導入、形質転換など(例えば、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)法など)、リポフェクション法、スフェロプラスト法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,1929(1978))、酢酸リチウム法(J.Bacteriol.,153,163(1983);およびProc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1929(1978))などを含むDNAを細胞に導入するための上記方法のいずれもが、ベクター導入法として使用され得る。
【0135】
本明細書中で使用される場合、用語「遺伝子導入試薬」とは、導入効率を高めるために遺伝子導入法において使用される試薬をいう。このような遺伝子導入試薬の例としては、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質、ポリアミンベースの試薬、ポリイミンベースの試薬、リン酸カルシウムなどが挙げられるがこれらに限定されない。トランスフェクションにおいて使用される試薬の具体的な例としては、種々の供給元から入手可能な試薬が挙げられ、例えば、Effectene Transfection Reagent(カタログ番号301425,Qiagen,CA)、TransFastTMTransfection Reagent(E2431,Promega,WI)、TfxTM−20 Reagent(E2391,Promega,WI)、SuperFect Transfection Reagent(301305,Qiagen,CA)、PolyFect Transfection Reagent(301105,Qiagen,CA)、LipofectAMINE 2000 Reagent(11668−019,Invitrogen corporation,CA)、JetPEI(’4)conc.(101−30,Polyplus−transfection,France)およびExGen 500(R0511,Fermentas Inc.,MD)などであるがこれらに限定されない。
【0136】
遺伝子の発現(例えば、mRNAの発現、ポリペプチドの発現)は、mRNA測定および免疫学的測定法を含む適切な方法によって、「検出」または「定量」され得る。分子生物学的測定法の例としては、ノザンブロッティング法、ドットブロッティング法、PCR法などが挙げられる。免疫学的測定法の例としては、ELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロッティング法、免疫組織化学染色法などが挙げられ、ここでは、マイクロタイタープレートが使用され得る。定量法の例としては、ELISA法、RIA法などが挙げられる。アレイ(例えば、DNAアレイ、タンパク質アレイなど)を用いる遺伝子解析法が使用され得る。DNAアレイは、細胞工学[Cell Engineering]別冊、「DNAマイクロアレイと最新PCR法」、秀潤社編において広く概説されている。タンパク質アレイは、Nat Genet.2002 Dec;32 補遺:526−32に詳述される。遺伝子の発現を解析するための方法の例としては、上記の技術に加えて、RT−PCR法、RACE法、SSCP法、免疫沈降法、2−ハイブリッドシステム、インビトロ翻訳法などが挙げられるがこれらに限定されない。他の解析法は、例えば、「ゲノム解析実験法 中村祐輔ラボ・マニュアル」、中村祐輔編、羊土社(2002)などに記載される。上記の刊行物は全て、本明細書中に参考として援用される。
【0137】
本明細書中で使用される場合、用語「発現レベル」とは、被験細胞において発現されるポリペプチドまたはmRNAの量をいう。用語「発現レベル」は、抗体を用いて、免疫学的測定法(例えば、ELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロッティング法、免疫組織化学染色法など)を含むあらゆる適切な方法によって評価されるポリペプチドのタンパク質発現のレベル、または、分子生物学的測定法(例えば、ノザンブロッティング法、ドットブロッティング法、PCR法など)を含むあらゆる適切な方法によって評価されるポリペプチドの発現のmRNAレベルを含む。用語「発現レベルの変化」は、上記の免疫学的測定法または分子生物学的測定法を含む適切な方法によって評価されたポリペプチドの発現のタンパク質またはmRNAレベルにおける増加または減少を示す。
【0138】
(RNAi)
本明細書中で使用される場合、用語「RNAi」は、RNA干渉の略称であり、そして、二本鎖RNA(また、dsRNAとも呼ばれる)のようなRNAiを引き起こすための因子が細胞内に導入され、これに対して相同なmRNAが特異的に分解され、その結果、遺伝子産物の合成が抑制される現象、および、この現象を使用する技術をいう。本明細書中で使用される場合、RNAiは、RNAiを引き起こす因子と同じ意味を有し得る。
【0139】
本明細書中で使用される場合、用語「RNAiを引き起こす因子」とは、RNAiを引き起こし得るあらゆる因子をいう。本明細書中で使用される場合、「遺伝子のRNAiを引き起こす因子」とは、その因子が、その遺伝子に関連するRNAiを引き起こし、そして、RNAiの効果(例えば、遺伝子の発現抑制など)が達成されることを示す。このようなRNAiを引き起こす因子の例としては、標的遺伝子の核酸配列に対して少なくとも約70%の相同性を有する配列、もしくは、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能な配列、少なくとも10ヌクレオチドの長さを有する二本鎖部分を含むRNA、またはこれらの改変体が挙げられるがこれらに限定されない。本明細書では、この因子は好ましくは、3’突出末端を含むDNAであり得、そしてより好ましくは、3’突出末端は、2以上のヌクレオチドの長さ(例えば、長さ2〜4ヌクレオチド)を有する。
【0140】
いかなる理論にも束縛されることは望まないが、RNAiを引き起こす機構は、以下のようなものであると考えられる。RNAiを引き起こす分子(例えば、dsRNA)が細胞に導入されると、RNAが比較的長い(例えば、40塩基対以上)場合、ヘリカーゼドメイン(ダイサーと呼ばれる)を有するRNaseIII様のヌクレアーゼが、ATPの存在下で3’末端から約20塩基対においてこの分子を切断する。本明細書中で使用される場合、用語「siRNA」は、短鎖干渉性RNAの略称であり、人工的に化学合成もしくは生化学合成されるか、生体内で合成されるか、または、約40塩基対以上の二本鎖RNAが生物内で分解されることによって生成される、10塩基対以上の短い二本鎖RNAをいう。siRNAは代表的には、5’−リン酸および3’−OHを有する構造を有し、3’末端は、約2塩基だけ突出している。特異的なタンパク質がsiRNAに結合してRISC(RNA−誘導性−サイレンシング−複合体)を形成する。この複合体は、siRNAと同じ配列を有するmRNAを認識してこれに結合し、そして、RNaseIII様の酵素活性に起因して、siRNAの中央部においてこのmRNAを切断する。siRNAの配列と標的として切断されるべきmRNAの配列との間の関係は100%の適合であることが好ましい。しかしながら、siRNAの中央部から離れた部位における塩基の変異は、RNAiによる切断活性を完全にはなくさず、部分的な活性を残すが、siRNAの中央部の塩基の変異は大きな影響を有し、そのRNAiによるmRNA切断活性はかなり低下する。このような性質を利用することによって、変異を有するmRNAのみが特異的に分解され得る。具体的には、その中央部に変異が提供されたsiRNAが合成され、そして細胞に導入される。それゆえ、本発明では、siRNA自体も、siRNAを生成し得る因子(例えば、代表的には、約40塩基対以上のdsRNA)と同様に、RNAiを誘発させ得る因子として使用され得る。
【0141】
また、いかなる理論にも束縛されることは望まないが、上記の経路は別として、siRNAのアンチセンス鎖がmRNAに結合することで、siRNAがRNA依存性のRNAポリメラーゼ(RdRP)のためのプライマーとして機能し、その結果、dsRNAが合成される。このdsRNAはダイサーの基質であり、新しいsiRNAの生成につながる。このような行為が増幅されることが意図される。したがって、本発明では、siRNA自体、およびsiRNAを生成し得る因子が有用である。実際、昆虫などでは、例えば、35 dsRNA分子が1000以上の細胞内mRNAのコピーを完全に分解させ得、したがって、siRNA自体が、siRNAを生成し得る因子と同様に有用であることが理解される。
【0142】
本発明では、約20塩基(例えば、代表的には約21〜23塩基)の長さまたは約20塩基未満の長さ(これはsiRNAと呼ばれる)を有する二本鎖RNAが使用され得る。細胞におけるsiRNAの発現は、siRNAによって標的とされる病原遺伝子の発現を抑制し得る。したがって、siRNAは、疾患の処置、予防、予後などに使用され得る。
【0143】
本発明のsiRNAは、RNAiを誘発し得る限り、あらゆる形態であり得る。
【0144】
別の実施形態では、RNAiを引き起こし得る因子は、3’末端に粘着部分を有する短いヘアピン構造を有し得る(shRNA;短いヘアピンRNA)。本明細書中で使用される場合、用語「shRNA」とは、一本鎖RNAが部分的にパリンドローム塩基配列を含み、そして、その内部で二本鎖構造(すなわち、ヘアピン構造)を形成する、約20塩基対以上の分子をいう。shRNAは、人工的に化学合成され得る。あるいは、shRNAは、DNA配列のセンス鎖とアンチセンス鎖とを逆方向に連結し、そして、このDNAを鋳型として用い、T7 RNAポリメラーゼによりインビトロでRNAを合成することによって生成され得る。いかなる理論にも束縛されることは望まないが、shRNAが細胞に導入された後、shRNAは細胞内で約20塩基(例えば、代表的には、21、22、23塩基)の長さへと分解され、そして、siRNAと同じ様式でRNAiを引き起こし、本発明の治療効果をもたらす。このような効果は、広範囲の生物(例えば、昆虫、植物、動物(哺乳動物を含む)など)において示されることが理解されるはずである。したがって、shRNAは、siRNAと同じ様式でRNAiを誘発し、そしてそれゆえに、本発明の有効成分として使用され得る。shRNAは、好ましくは3’突出末端を有し得る。二本鎖部分の長さは、特に制限されないが、好ましくは約10ヌクレオチド以上であり、そしてより好ましくは約20ヌクレオチド以上である。本明細書では、3’突出末端は好ましくはDNAであり得、より好ましくは、少なくとも2ヌクレオチドの長さのDNAであり、なおより好ましくは、2〜4ヌクレオチドの長さのDNAである。
【0145】
本発明において使用されるRNAiを引き起こし得る因子は、人工的に合成(科学的または生化学的に)されても、天然に存在するものであってもよい。本発明の交換の点では、これらの間に実質的な差はない。化学合成された因子は好ましくは、液体クロマトグラフィーなどによって精製される。
【0146】
本発明において使用されるRNAiを引き起こし得る因子は、インビトロで生成され得る。この合成系では、鋳型DNAからアンチセンスRNAおよびセンスRNAを合成するためにT7 RNAポリメラーゼおよびT7プロモーターが使用される。これらのRNAはアニーリングされ、その後、細胞へと導入される。この場合、RNAiは、上記の機構を介して引き起こされ、それによって、本発明の効果を達成する。本明細書では、例えば、RNAの細胞への導入は、リン酸カルシウム法によって行われ得る。
【0147】
本発明に従うRNAiを引き起こし得る因子の別の例は、mRNAまたはその全ての核酸アナログにハイブリダイズ可能な一本鎖核酸である。このような因子は、本発明の方法および組成物に有用である。
【0148】
(成分の計算)
本明細書中で使用される場合、用語「成分」とは、生物体または生物学的実体の表現型変化に必須のあらゆる成分をいう。よって、成分は、あらゆる生物学的因子であり得る。それゆえ、複数の成分が経路を構成する。例えば、このような生物学的因子は、核酸、タンパク質、広い意味での遺伝子(miRNAなどを含む)などを含み得ることが理解されるべきである。一実施形態では、成分として、細胞、組織または個体の表現型を指標として用いて機能的アッセイのデータから導き出されるものである。成分は、機能的アッセイのデータに基づいて、刺激因子の標的集合から計算された標的として選択され得る。成分は、目的の表現型に影響を及ぼすタンパク質もしくは核酸またはこの両方であり得、好ましくは、成分は、miRNAを含み得る有限数の候補遺伝子から機能的アッセイにより選択され得る。このような成分は、表現型変化を担っていることが公知のものであってもそうでなくてもよい。これは、構成遺伝子もまた成分となり得るからである。
【0149】
本明細書中で使用される場合、用語「目的の成分」とは、その成分について分析が行われる成分をいう。
【0150】
本明細書中で使用される場合、用語「参照成分」とは、分析が比較として参照する任意の成分をいう。特定の値を取ることが既知の成分が使用され得る。あるいは、正常値をとるか、または、その値が変化しない成分が、参照成分として使用され得ることに注意すべきである。
【0151】
本明細書中で使用される場合、用語「上流(成分)」とは、複数の成分が先行および後続の関係を有する経路の成分のうち、先行する成分に対応する成分をいう。
【0152】
本明細書中で使用される場合、用語「下流(成分)」とは、複数の成分が先行および後続の関係を有する経路の、後続の成分に対応する成分をいう。
【0153】
当業者が、当該分野で公知であるかまたは本明細書において例証されるあらゆる技術を用いることによって、表現型変化に関連する目的の経路および目的の経路とは異なる参照経路を特定し得、そして、目的の刺激因子および参照刺激因子(それぞれ、目的の経路および参照経路を刺激する)を特定し得ることが理解されるはずである。例えば、湿式実験技術を用いることによって、目的の経路を刺激する刺激因子を特定し得る。あるいは、インシリコの方法、または、公知のデータベースを用いるソフトウェアを用いることによって、刺激因子を特定し得る。
【0154】
目的の成分の集合は、生物体に対して目的の刺激因子を与え、観察し、そして、所望の表現型変化を同定することによって特定され得る。この様式において、この目的を達成するためにあらゆる生物学的アッセイが使用され得ることが理解される。
【0155】
同様に、参照成分の集合は、生物体に対して参照刺激因子を与え、観察し、そして、所望の表現型変化を同定することによって特定され得る。この様式において、この目的を達成するためにあらゆる生物学的アッセイが使用され得ることが同様に理解される。
【0156】
目的の成分の集合および参照成分の集合の共通部分は、集合論を用いることによって計算され得る。
【0157】
目的の成分の集合と参照成分の集合との間の差集合は、集合論を用いることによって計算され得る。さらに、差集合に属する成分が、共通部分の上流または下流に存在することが決定されるかどうかを決定することが可能である。このような決定は、WO 2006/046217に詳細に記載されており、この文献は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0158】
(集合論)
上述のように、用語「集合論」とは、当該分野において使用および理解される理論をいい、集合の性質および関係を扱う純粋数学の一部門である。多くの数学者は、全ての他の数学の基礎として集合論を使用する。このような集合論としては、対象(「要素」または「元」)の集合(集合体または集合(collection))への解析、包含、独立および共通部分へのこれらの集合の分類などが挙げられる。集合論は当該分野で周知であり、そして、当業者は、Cantor,G.,1932,Gesammelte Abhandlungen,Berlin:Springer−Verlag;Ulam,S.,1930、「Zur Masstheorie in der allgemeinen Mengenlehre」、Fund.Math.,16,140−150;Godel,K.,1940、「The consistency of the axiom of choice and the generalized continuum hypothesis」、Ann.Math.Studies,3;Scott,D.,1961、「Measurable cardinals and constructible sets」、Bull.Acad.Pol.Sci.,9,521−524;Cohen,P.,1966,Set theory and the continuum hypothesis,New York:Benjamin;Jensen,R.,1972、「The fine structure of the constructible hierarchy」、Ann.Math.Logic,4,229−308;Martin,D.and Steel,J.,1989、「A proof of projective determinacy」、J.Amer.Math.Soc.,2,71−125;Hrbacek,K.and Jech,T.,1999,Introduction to Set Theory,New York:Marcel Dekker,Inc,http://plato.stanford.edu/entries/set−theory/primer.htmlなど(これらは、その全体が本明細書中に参考として援用される)を参照し得る。
【0159】
集合論の用語は、メンバーシップ(membership)と呼ばれる唯一の基本的な関係(single fundamental relation)に基づいている。本明細書中で使用される場合、AはBの元である(記号では、A∈B)、または、集合Bはその要素としてAを含む、ということができる。集合は、その要素によって決定されるものと理解される。言い換えると、2つの集合が全く同じ要素を有する場合、その2つの集合は同一であると考えられる。実際には、数集合、点集合、関数の集合、他の集合の集合などを考慮する。理論上、対象間を区別する必要はない。集合のみを考慮すればよい。
【0160】
メンバーシップの関係を用いて、集合の合併(union)および共通部分のような、通常、集合と関連付けられる他の概念を導き出し得る。例えば、集合Cの元がまさに、集合Aの元または集合Bの元のいずれかである対象である場合、集合Cは2つの集合AおよびBの合併である。集合Cは独自に決定される。なぜなら、集合Cは、その要素が何であるかを特定しているからである。集合には、集合論の用語において(すなわち、関係∈のみを用いて)定義され得るより複雑な演算が存在するが、これらは、本明細書には記載されない。別の演算について言及されると仮定する:(非順序)対{A,B}は、その要素として、集合Aおよび集合Bと全く同じ要素を有する。たまたまA=Bである場合、この「対」は、厳密には1つの元を有し、そして、単集合{A}と呼ばれる。合併の演算と対にする演算とを組み合わせることにより、任意の有限集合のリストから、元としてこれらの集合を含む集合:{A,B,C,D,...,K,L,M}を生成し得る。要素を持たない集合である空集合もまた言及されるべきである。空集合は、この特性によって独自に決定される。というのも、空集合は要素を持たない唯一の集合であるからである−これは、集合がその要素によって決定されるという理解の結果である。略式で集合を扱う場合、集合に関するこのような演算は自明である;自明のアプローチでは、このような演算が当てはめられ得るものと仮定される:例えば、任意の集合AおよびBについて、集合{A,B}が存在すると仮定する。十分な表現能力を持つ集合論を与えるためには、上に述べたものよりも一般的な構成原理を仮定する必要がある。誘導原理は、選択され得る任意の対象がある集合に集められ得ることである。
【0161】
aおよびbが集合である場合、非順序対{a,b}は、その要素が厳密にaおよびbの集合である。aとbとがまとめられる「順序」は何の役割も果たさない;{a,b}={b,a}である。多数の用途にとって、どの集合が「一番目」に来て、どの集合が「二番目」に来るのかを読み取ることができるように、aとbとを対にすることが必要である。この(a,b)によって順序aとbの対では;aが対(a,b)の第1の座標であり、bが第2の座標であることが意味される。
【0162】
一実施形態では、順序対は、1つの集合内になければならない。その第1の座標が等しく、かつその第2の座標が等しい場合、そしてこのような場合にのみ、2つの順序対が等しい、となるように定義づけられるべきである。このことは、特に、a≠bである場合に、(a,b)≠(b,a)であることを保証する。
【0163】
定義。(a,b)={{a},{a,b}}である。
【0164】
a≠bである場合、(a,b)は、2つの要素と、単集合{a}と、非順序対{a,b}とを有する。第1の座標は、{a}の要素に注目することによって見出され得る。それゆえ、第2の座標は、{a,b}のうちのもう一方の要素である。a=bである場合、(a,a)={{a},{a,a}}={{a}}は、ただ1つの要素を有する。あらゆる場合において、両方の座標は、独自に集合(a,b)から「読み取られ」得ることは明らかなようである。この命題は、以下の定理において正確なものとされる。
【0165】
定理。a=a’でありかつb=b’である場合、そしてこのような場合にのみ、(a,b)=(a’,b’)である。
【0166】
証明。a=a’でありかつb=b’である場合、当然のことながら、(a,b)={{a},{a,b}}={{a’},{a’,b’}}=(a’,b’)である。他の伴立はより複雑である。{{a},{a,b}}={{a′},{a′,b′}}であると仮定しよう。a≠bである場合、{a}={a’}でありかつ{a,b}={a’,b’}である。したがって、まず、a=a’であり、その場合、{a,b}={a,b’}は、b=b’であることを意味する。a=bである場合、{{a},{a,a}}={{a}}である。したがって、{a}={a′}であり、{a}={a’,b’}であり、そして、a=a’=b’となり、このように、a=a’およびb=b’は、この場合にも当てはまる。
【0167】
我々の処理における順序対では、順序付けられた三者は、以下のように定義され得る:
(a,b,c)=((a,b),c)、
順序付けられた四者は、以下のように定義され得る:
(a,b,c,d)=((a,b,c),d)、
などである。また、順序付けられた「一者」が定義付けられ得る。
【0168】
(a)=a。
【0169】
2項関係は、その関係における対象の順序対全てを特定することによって決定される;これらの順序対の集合がどの特性によって記述されたかは問題ではない。その場合、以下の定義が導かれる。
【0170】
定義。Rの要素全てが順序対である場合、すなわち、任意のz∈Rについて、z=(x,y)であるようなxおよびyが存在する場合、集合Rは2項関係である。
【0171】
従来技術に従い、本明細書中で使用されるように、(x,y)∈Rの代わりにxRyと記述するのが慣習的である。本明細書中で使用されるように、xRyが成立する場合、xは関係Rにあると記述される。
【0172】
いくらかのyと関係Rにある全てのxの集合は、Rの定義域と呼ばれ、そして、「dom R」で示される。つまり、dom R={x|xRyとなるようなyが存在する}である。dom Rは、Rにおける順序対の第1の座標全ての集合である。
【0173】
一部のxについて、xがyと関係Rにあるような全てのyの集合は、Rの限域と呼ばれ、「ran R」で示される。つまり、ran R={y|xRyとなるようなxが存在する}である。
【0174】
数学において理解されるように、関数は、関数の定義域からの任意の対象aに、独特の対象b(aにおける関数の値)を割り当てる手順または規則である。したがって、関数は、定義域からの全ての対象aが、限域における正確に1つの対象、すなわち、aにおける関数の値と関連付けられる関係の特別なタイプを表す。
【0175】
定義。任意のa、b1およびb2についてaFb1およびaFb2がb1=b2を意味する場合、2項関係Fは関数(またはマッピング、対応)と呼ばれる。言い換えると、dom Fからの全てのaについて、aFbとなるような厳密に1つのbが存在する場合、そしてこのような場合にのみ、2項関係Fは関数である。この独特のbは、aにおけるFの値と呼ばれ、F(a)またはFaと示される。[a dom Fである場合、F(a)は定義されない]。Fが、dom F=AおよびranF⊆Bと関数である場合、関数Fについて、表記F:A B、<F(a)|a∈A>、<Fa|a∈A>、<Fa>a∈Aを用いることが慣例である。この場合、関数Fの限域は、{F(a)|a∈A}または{Fa}a∈Aと示され得る。
【0176】
拡張の公理は、以下のようにして関数に当てはめられ得る。
【0177】
補助定理。FとGとが関数であるとする。全てのx∈dom Fについてdom F=dom GでありかつF(x)=G(x)である場合、そしてこのような場合にのみF=Gである。
【0178】
a1∈dom fであり、a2∈dom fでありかつa1≠a2であるが、f(a1)≠f(a2)である、を意味する場合、関数fは一対一対応または単射的であるといわれる。言い換えると、a1∈dom fであり、a2∈dom fでありかつf(a1)=f(a2)である場合、a1=a2である。
【0179】
公理的集合論の枠内で数学を発展させるためには、自然数を定義することが必要である。自然数は、直感的に:0、1、2、3、...、15、...、30、...、115、...、515などとして知られており、そして、0、1、2、または3の要素を有する集合の例は、容易に与えられ得る。
【0180】
数0を定義するために、要素を持たない全集合の代表が選択される。しかし、これは容易なことである。なぜならば、このような集合は1つしかないからである。
【0181】
【数1】

【0182】
が定義される。ここで、1つの要素を持つ集合(単集合)は、以下:
【0183】
【数2】

【0184】
;一般に{x}と定義される。代表は、以下のようにして選択され得る:1つの特定の対象は既に定義されている(すなわち、0)ので、自然な選択は{0}である。したがって、以下のように定義される:
【0185】
【数3】

【0186】
次に、2つの要素を持つ集合:
【0187】
【数4】

【0188】
などを検討する。これまでに、0および1は定義されており、そして、0≠1である。特定の2要素集合(その要素が先に定義された数0および1である集合)が選択される:
【0189】
【数5】

【0190】
このプロセスがどのように続いていくかは明らかになり始めている:
【0191】
【数6】

【0192】
など。
【0193】
この概念は、単純に、自然数nを、全てのより小さな整数の集合:{0,1,...,n−1}として定義するためのものである。このように、nは、n個の要素の特定の集合である。
【0194】
この概念は、なおも根本的な欠点を有する。0、1、2、3、4および5が定義され、そして、15または30は容易に定義し得るが、115または515はそう簡単ではない。しかし、このような定義のリストは、自然数が一般に何であるかを教示しない。「…である場合、集合nは自然数である」といった、形式の命題が必要である。その要素が全てより小さな自然数である場合に集合nが自然数である、とは単純に決定できない。なぜならば、このような「定義」は、今まさに定義された概念に影響を与えるからである。
【0195】
最初の2〜3の数の構造が再び観察される。我々は、2={0,1}を定義した。3を得るためには、2に第三の要素、すなわち、2自体を付け加える必要があった:
3=2∪{2}={0,1}∪{2}。
【0196】
同様に、
4=3∪{3}={0,1,2}∪{3}、
5=4∪{4}など。
【0197】
自然数nを仮定すると、「次」の数は、nに1つのさらなる要素、すなわち、n自体を付け加えることによって得られる。この手順は、1および2についてさえも機能する:1=0∪{0}、2=1∪{1}。しかしながら、当然のことながら、最小の自然数である0については機能しない。
【0198】
これらの考察は、以下のことを示唆する。
【0199】
定義。集合xの後者(successor)は、集合S(x)=x∪{x}である。
【0200】
直感的に、自然数nの後者S(n)は、「1つだけ大きい」数n+1である。ここで、S(n)についてのより示唆に富む表記n+1は、以下のように使用される。(後に来るものの表記を用いた)自然数の付加は、続いて、n+1が実際にnと1との和に等しくなるような方法で定義され得る。そのときまで、n+1は単なる表記にすぎず、そして、付加の特性は、この表記によって推定も意味もされない。
【0201】
ここで、自然数の直感的な理解は以下のように要約され得る:
1.0は自然数である。
【0202】
2.nが自然数である場合、その後者n+1もまた自然数である。
【0203】
3.全自然数は、1.および2.を当てはめることによって、すなわち、0から開始し、そして、後者演算を繰り返し当てはめることによって得られる:0、0+1=1、1+1=2、2+1=3、3+1=4、4+1=5、…など。
【0204】
定義。集合Iは、以下である場合、帰納的であるといわれる:
1.0∈Iである。
【0205】
2.n∈Iである場合、(n+1)∈Iである。
【0206】
帰納的集合は、0と、各要素と共に、その後者もまた含む。3.によれば、帰納的集合は全自然数を含む。3.の正確な意味は、自然数の集合は、自然数以外の他の要素を含まない帰納的集合であり、すなわち、最小の帰納的集合である、というものである。これは、以下の定義につながる。
【0207】
定義。全自然数の集合は、集合
={x|全ての帰納的集合Iについてx∈I}、である。
【0208】
この集合の要素は、自然数と呼ばれる。このように、集合xが全ての帰納的集合に属する場合、そしてこのような場合にのみ、集合xは自然数である。
【0209】
純粋な集合論の観点から、集合についての最も基本的な質問は、「いかに多くの要素を有しているか?」というものである。命題が、「集合Aと集合Bとは、同じ数の要素を有するが、その数については何も分からない」と定義され得るというのが、基本的な所見である。
【0210】
定義。定義域Aおよび限域Bと一対一対応の関数fが存在する場合、集合Aと集合Bとは、同じ濃度を有する。これは、|A|=|B|で示される。
【0211】
定義。Bに対するAの一対一対応のマッピングが存在する場合、Aの濃度は、Bの濃度以下である(表記:|A|≦|B|)。
【0212】
|A|≦|B|は、Bのある部分集合Cについて|A|=|C|であることを意味することに注意すべきである。|A|<|B|もまた、|A|=|B|ではなく|A|≦|B|を意味する、すなわち、Bの部分集合に対するAの一対一対応のマッピングは存在するが、Bに対するAの一対一対応のマッピングは存在しないことを意味するために記述される。
【0213】
補助定理。
【0214】
1.|A|≦|B|でありかつ|A|=|C|である場合、|C|≦|B|である。
【0215】
2.|A|≦|B|でありかつ|B|=|C|である場合、|A|≦|C|である。
【0216】
3.|A|≦|A|。
【0217】
4.|A|≦|B|でありかつ|B|≦|C|である場合、|A|≦|C|である。
【0218】
カントール−ベルンシュタインの定理。|X|≦|Y|でありかつ|Y|≦|X|である場合、|X|=|Y|である。
【0219】
有限集合は、そのサイズ(size)が自然数である集合として定義され得る。
【0220】
定義。集合Sがある自然数nと同じ濃度を有する場合、集合Sは有限である。この場合、|S|=nが定義され、そして、|S|=nは、Sがn個の要素を有すると記述され得る。集合が有限でない場合、集合は無限である。
【0221】
上述のように、集合論は、本発明の解析に応用され得る。
【0222】
例えば、試験結果は、転写因子レポーターのような機能的レポーターと、siRNAのような摂動因子とがx−y形式でプロットされ、その各々の組み合わせに対応する値が埋められている、Excel(登録商標)形式のファイルにまとめられ得る。実際の値は、標準値、または、スクランブルsiRNAを用いて得られた結果のような目的の閾値と比較され得る。この値は、+、0および−のような3つの値に正規化され得る。値が評価され、例えば、閾値の80%以下である場合、「−1」に正規化され、そして、閾値の80%と120%との間である場合、「0」に正規化され、そして、閾値の120%以上である場合、「+1」に正規化される。レポーターに対する摂動因子(例えば、siRNA)の作用を単純な様式で解析し、そして、レポーターの各々に対して作用を与える摂動因子の集合を得るために、正規化、または、退化されたマトリックスが使用され得る。例示的な表が以下に示される。
【0223】
(正規化前)
[表1]
【0224】
【表1】

【0225】
(正規化後)
[表2]
【0226】
【表2】

【0227】
(好ましい実施形態の説明)
本明細書において以降、本発明は実施形態として記載される。以下に記載される実施形態は、例示目的のみのために提供される。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって制限される場合を除き、実施形態によっては制限されない。
【0228】
本発明の概念を示す図11に示されるように、試験細胞種および参照細胞種(例えば、試験細胞種に対してより大きな〜より小さな類似性を有する細胞1、2、3、4および5)についての細胞種に対する化合物の反応性が解析され、そして、化合物の生物学的活性に必須の成分集合が決定される。その後、細胞種ごとに異なる成分が、本発明の方法によって上流から下流へと決定され、そして、成分の作用に必須の成分が決定される。
【0229】
一局面では、本発明は、生物体の表現型変化に必須の成分の上流または下流の成分を導き出すための方法を提供し、この方法は、以下の工程を包含する:
A)該表現型変化に関連する目的の経路と、該目的の経路とは異なる参照経路とを特定し、そして、該目的の経路を刺激する目的の刺激因子および該参照経路を刺激する参照刺激因子を特定する工程;
B)該目的の刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である目的の成分の集合を同定する工程;
C)該参照刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である参照成分の集合を同定する工程;
D)該目的の成分の集合と、該参照成分の集合との間の共通部分を計算する工程;ならびに、
E)該目的の成分の集合から該共通部分を減じることによって、差集合を計算する工程であって、該差集合に属する成分が、該共通部分の上流または下流に存在するものと決定される、工程。生物学的実体を刺激因子に供する工程は、摂動因子が実体に対して実施され、そして、目的の作用を達成し、なおかつ、使用される刺激因子の型に依存する限りは、あらゆる様式で行われ得る。集合論が実施され得る限り、データを集合論に供する工程が実施され得る。好ましくは、本発明において使用される生物学的実体は細胞である。
【0230】
本発明において使用される刺激は、生物学的実体またはシステムに摂動または変化を与えるあらゆる因子(例えば、siRNA、shRNA、miRNAおよびリボザイムを含むRNA、化合物、cDNA、抗体、ポリペプチド、光、音、圧力変化、放射線、熱、ガスなど)であり得る。好ましくは、上記機能的レポーターの機能を特異的に調節可能なsiRNAである。本発明において使用される機能的レポーターとしては、転写因子、調節遺伝子、構造遺伝子、細胞マーカー、細胞表面マーカー、細胞の形状、生物の形状、細胞の移動性、酵素活性、代謝産物の濃度、および細胞成分の局在化が挙げられるがこれらに限定されない。
【0231】
特定の実施形態では、本発明において使用される集合論の処理は、少なくとも2つの前記機能的レポーターのうちの2つの特定の機能的レポーターを、a)独立、b)包含およびc)共通部分からなる群より選択される関係に分類することによって行われ得、ここで、その関係が独立であると決定されると、この2つの特定の機能的レポーターは、ネットワークにおいて関係がないと決定され;その関係が包含であると決定されると、この2つの特定の機能的レポーターのうちの一方がこの2つの特定の機能的レポーターのうちのもう一方に含まれ、かつこのもう一方の下流に位置すると決定され;その関係が共通部分であると決定されると、この2つの特定の機能的レポーターは、別の共通機能から分岐した下流に位置すると決定される。
【0232】
本発明では、集合が集合論に従って解析され得る限り、集合論のあらゆる数学的処理が使用され得る。本発明の特定の実施形態では、集合論の処理は、前記機能的レポーター毎に前記刺激因子による応答の不在または存在をマッピングする工程を包含する。本発明の特定の実施形態では、集合論の処理は、独立、包含および共通部分へと分類された各機能的レポーター間の相関性を含む、レポーター間の関係を計算して、相関性のまとめを生成することを含み得る。この計算は、マトリクスを用いることにより行われ得る。特定の実施形態では、使用された刺激因子によって得られる効果は、閾値の点で以下の3つの群に分類され得る:正の効果=+(好ましくは、+1);効果なし=0;および負の効果=−(好ましくは、−1)。
【0233】
一実施形態では、生物体または生物学的実体は細胞である。別の実施形態では、生物体は、2以上の異なる条件下で増殖される。
【0234】
好ましい実施形態では、成分は、細胞、組織または個体を表す機能的アッセイデータから帰納される。
【0235】
別の実施形態では、成分はmiRNAを含む有限数の候補遺伝子からの機能的アッセイに基づいて選択される。
【0236】
別の実施形態では、成分は、刺激因子の標的集合からの機能的アッセイデータに基づいて計算される標的である。
【0237】
別の実施形態では、成分は、目的の表現型に対して影響を有するタンパク質、核酸、またはこの両方である。
【0238】
別の実施形態では、成分は、有限数の機能的核酸ライブラリーからの機能的スクリーニングの結果から導き出される。
【0239】
別の実施形態では、刺激因子は、抗体、RNA干渉因子、または、分子標的インヒビターである。
【0240】
本発明の好ましい実施形態では、少なくとも2つの機能的レポーターに関する情報は、所望の時点の後の刺激因子の効果に基づくものであり;ここで、集合論の処理は、以下の工程を包含する:
a)効果を機能的レポーターについての閾値と比較して情報を3つのカテゴリーに分類し、そして、これらを以下の3つの群:正の効果=+(好ましくは、+1);効果なし=0;および負の効果=−(好ましくは−1)に分類する工程;
b)機能的レポーターのうち2つが共通の刺激因子を有するかどうかを決定する工程であって、この共通の刺激因子は同じタイプの効果を有し、そして、このような共通の刺激因子が存在しない場合、2つの機能的レポーターに対応する2つの機能は異なる刺激因子の下に配置され、そして、このような共通の刺激因子が存在する場合、以下の工程c)が行われる、工程;
c)2つの機能のうちの一方の機能についての刺激因子の集合が2つの機能のうちのもう一方の機能についての刺激因子の集合に完全に包含されるかどうかを決定し、これが当てはまる場合、大きい方の集合を有する一方の機能が、小さい方の集合を有するもう一方の機能の下流に配置され、そして、これが当てはまらない場合、2つの機能が同じ刺激因子の下に平行に配置される、工程;
d)機能的レポーターの組み合わせ全てが調べられたかどうかを決定し、これが当てはまる場合、機能の関係全てを統合して全体的な摂動作用ネットワークを提示し、そして、これが当てはまらない場合、工程a)〜c)を繰り返す工程。これらの工程は、目的のプロセスおよび工程を実行するコンピュータプログラムを備えるコンピュータにて行われ得る。
【0241】
本発明のさらなる実施形態では、実際の生物学的実験を行うことによって、作成されたネットワークを解析する工程を包含し得る。好ましくは、このような解析は、siRNA、抗体、アンチセンスオリゴヌクレオチド、インヒビター、アクチベーター、リガンド、レセプターなどのような、機能に対して特異的な調節因子の使用を包含する。好ましくはsiRNAが使用される。
【0242】
本発明は、シグナル伝達経路、細胞経路などのようなネットワークを解析するために使用され得る。
【0243】
本発明は、バイオマーカーの同定、薬物標的の解析、副作用の解析、細胞機能の診断、細胞経路の解析、化合物の生物学的作用の評価、および感染病の診断などに有用である。
【0244】
別の局面では、本発明は、本発明の方法を繰り返し適用する工程を包含する、化合物をプロファイリングするための方法を提供する。本明細書中で使用される場合、あらゆる好ましい実施形態もしくは他の実施形態が、化合物をプロファイリングするためのこの方法に使用され得る。
【0245】
別の局面では、本発明は、表現型変化の達成に使用するために組み合され得る化合物をプロファイリングするためのプロセスを提供し、このプロセスは、本発明の方法を繰り返し適用する工程を包含し、このプロセスはさらに、以下の工程を包含する:
A)該化合物が加えられる培養条件下で生物体において想定される表現型変化を増加させる目的の成分の集合を計算する工程;
B)該化合物が存在しない培養条件下で生物体において想定される表現型変化を増加させる目的の成分の集合を計算する工程;
C)前記目的の成分の集合と前記参照成分の集合との差集合を計算することによって、該化合物が加えられる培養条件下で発現する特定の成分集合を計算する工程;
D)該特定の成分集合に含まれる成分の共通経路を計算する工程;ならびに
E)該共通経路を標的とする化合物を選択する工程。本明細書中で使用される場合、あらゆる好ましい実施形態もしくは他の実施形態が、化合物をプロファイリングするためのこの方法に使用され得る。
【0246】
別の局面では、本発明は、本発明の方法を包含する化合物の標的を探索するためのプロセスを提供し、このプロセスはさらに、以下の工程を包含する:
A)前記表現型変化の達成に使用するために組み合され得る化合物が加えられる培養条件下で生物体において想定される表現型変化を増加させる目的の成分の集合を計算する工程;
B)該表現型変化の達成に使用するために組み合され得る化合物が存在しない培養条件下で生物体において想定される表現型変化を増加させる目的の成分の集合を計算する工程;
C)前記目的の成分の集合と前記参照成分の集合との差集合を計算することによって、該化合物が加えられる培養条件下で発現する特定の成分集合を計算する工程;
D)該特定の成分集合に含まれる成分の共通経路を計算する工程;ならびに
E)該共通経路を標的とする化合物を選択する工程。本明細書中で使用される場合、あらゆる好ましい実施形態もしくは他の実施形態が、この方法に使用され得る。
【0247】
別の局面では、本発明は、本発明方法を包含する類似化合物の標的を探索するためのプロセスを提供し、このプロセスは以下の工程を包含する:
A)前記表現型変化の達成に使用するために組み合され得る化合物が加えられる培養条件下で、生物体において想定される表現型変化を増加させる目的の成分の集合を計算する工程;
B)該表現型変化の達成に使用するために組み合され得る化合物が存在しない培養条件下で、生物体において想定される表現型変化を増加させる目的の成分の集合を計算する工程;
C)前記目的の成分の集合と前記参照成分の集合との差集合を計算することによって、該化合物が加えられる培養条件下で発現する特定の成分集合を計算する工程;
D)該特定の成分集合に含まれる成分の共通経路を計算する工程;ならびに
E)該共通経路から類似化合物の標的を選択する工程。本明細書中で使用される場合、あらゆる好ましい実施形態もしくは他の実施形態が、この方法に使用され得る。
【0248】
本発明の好ましい局面では、本発明は、ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のEphAファミリーのインヒビターとの組み合わせを用いる、乳がんを抑制するための方法を提供する。EphAファミリーのインヒビターの例としては、そのRNAi分子が挙げられる。
【0249】
本発明の好ましい局面では、本発明は、ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のEphBファミリーのインヒビターとの組み合わせを用いる、乳がんを抑制するための方法を提供する。EphBファミリーのインヒビターの例としては、そのRNAi分子が挙げられる。
【0250】
本発明の好ましい局面では、本発明は、ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のc−KITのインヒビターとの組み合わせを用いる、乳がんを抑制するための方法を提供する。c−KITファミリーのインヒビターの例としては、そのRNAi分子が挙げられる。
【0251】
本発明の好ましい局面では、本発明は、ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のALKのインヒビターとの組み合わせを用いる、乳がんを抑制するための方法を提供する。ALKファミリーのインヒビターの例としては、そのRNAi分子が挙げられる。
【0252】
本発明の好ましい局面では、本発明は、生物体の表現型変化に必須の上流または下流の成分を導き出すためのシステムを提供し、このシステムは以下を備える:
A)該表現型変化に関連する目的の経路と、該目的の経路とは異なる参照経路とを特定し、そして、該目的の経路を刺激する目的の刺激因子および該参照経路を刺激する参照刺激因子を特定するためのコンピュータ;
B)該目的の刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である目的の成分の集合を同定するためのアッセイシステム;
C)該参照刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である参照成分の集合を同定するためのアッセイシステム;
D)該目的の成分の集合と、該参照成分の集合との間の共通部分を計算するためのコンピュータ;ならびに
E)該目的の成分の集合から該共通部分を減じることによって、差集合を計算するためのコンピュータであって、該差集合に属する成分が、該共通部分の上流または下流に存在するものと決定される、コンピュータ。本明細書中で使用される場合、あらゆる好ましい実施形態もしくは他の実施形態が、このシステムに使用され得る。
【0253】
前記生物学的実体における少なくとも2つの機能的レポーターに関する情報を得るための手段は、トランスフェクションアレイとして提供され得るが、本発明はこれに限定されない。ここで、機能的レポーターは、生物学的機能を反映するものである。このようなトランスフェクションアレイは、本明細書の他の箇所に包括的に記載され、かつ実施例において例証される。
【0254】
機能的レポーター間の関係を計算して、生物学的機能のネットワーク関係を作成するための集合論の処理に得られた情報を供する手段は、コンピュータプログラムとして提供され得るが、本発明はこれに限定されない。集合論は当該分野で公知であるので、集合論に基づいてこのような計算を実行するあらゆるコンピュータプログラムが本発明において使用され得ることが理解される。
【0255】
本発明の好ましい局面では、本発明は、生物体の表現型変化に必須の上流または下流の成分を導き出すための方法を実行するための、コンピュータによる実行のためのプログラムを提供し、この方法は、以下の工程を包含する:
A)該表現型変化に関連する目的の経路と、該目的の経路とは異なる参照経路とを特定し、そして、該目的の経路を刺激する目的の刺激因子および該参照経路を刺激する参照刺激因子を特定する工程;
B)該目的の刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である目的の成分の集合を同定する工程;
C)該参照刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である参照成分の集合を同定する工程;
D)該目的の成分の集合と、該参照成分の集合との間の共通部分を計算する工程;ならびに
E)該目的の成分の集合から該共通部分を減じることによって、差集合を計算する工程であって、該差集合に属する成分が、該共通部分の上流または下流に存在するものと決定される、工程。本明細書中で使用される場合、あらゆる好ましい実施形態もしくは他の実施形態が、この方法に使用され得る。
【0256】
当業者は、本明細書において上述される方法およびシステムのあらゆる他の特定の実施形態が用いられ得、そして、必要な場合本発明のコンピュータプログラムに適用可能であることを理解することに留意すべきである。
【0257】
生物学的実体における生物学的機能のネットワークを解析するための本発明の方法を実行するためのコンピュータまたはシステムの構成は、図12に示される。図12は、本発明の化合物プロファイリング法を実行するためのコンピュータ500の例示的な構成を示す。
【0258】
コンピュータ500は、入力セクション501、CPU 502、出力セクション503、メモリ504およびバス505を備える。入力セクション501、CPU 502、出力セクション503およびメモリ504は、バス505を介して接続される。入力セクション501および出力セクション503は、I/Oデバイス506に接続される。
【0259】
コンピュータ500によって実行される、細胞の状態を示すためのプロセスのアウトラインは以下に記載される。
【0260】
生物学的実体における生物学的機能のネットワークを解析するための方法を実行するためのプログラムは、例えば、メモリ502に格納される。あるいは、この方法のために必要な情報は、フロッピー(登録商標)ディスク、MO、CD−ROM、CD−R、DVD−ROMなどのようなあらゆるタイプの記録媒体に、別々に、または、一緒に格納され得る。あるいは、プログラムは、アプリケーションサーバ内に格納され得る。このような記録媒体に格納された情報またはデータは、I/Oデバイス506(例えば、ディスクドライブ、ネットワーク(例えば、インターネット))を介してコンピュータ500のメモリ504へとロードされる。CPU 502は、細胞の状態を表すプログラムを実行し、その結果、コンピュータ500は、生物学的実体における生物学的機能のネットワークを解析するための本発明の方法を実行するためのデバイスとして機能する。
【0261】
細胞などに関する情報ならびに得られたデータは、入力セクション501を介して入力される。適切である場合、公知の情報が入力され得る。
【0262】
CPU 502は、入力セクション501を介したデータおよび細胞に関する情報に基づいて表示データを作成し、そして、この表示データをメモリ504に格納する。その後、CPU 502は、メモリ504に情報を格納し得る。その後、出力セクション503は、CPU 502によって解析されたネットワークを表示データとして出力する。この出力データは、I/Oデバイス506を介して出力される。
【0263】
本発明の好ましい局面では、本発明は、生物体の表現型変化に必須の成分の上流または下流の成分を導き出すための方法を実行するための、コンピュータによる実行のためのプログラムが格納された記憶媒体を提供し、この方法は以下の工程を包含する:
A)該表現型変化に関連する目的の経路と、該目的の経路とは異なる参照経路とを特定し、そして、該目的の経路を刺激する目的の刺激因子および該参照経路を刺激する参照刺激因子を特定する工程;
B)該目的の刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である目的の成分の集合を同定する工程;
C)該参照刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である参照成分の集合を同定する工程;
D)該目的の成分の集合と、該参照成分の集合との間の共通部分を計算する工程;ならびに
E)該目的の成分の集合から該共通部分を減じることによって、差集合を計算する工程であって、該差集合に属する成分が、該共通部分の上流または下流に存在するものと決定される、工程。本明細書中で使用される場合、あらゆる好ましい実施形態もしくは他の実施形態が、この方法に使用され得る。当業者は、本明細書において上述される方法、システムおよびコンピュータプログラムのあらゆる他の特定の実施形態が用いられ得、そして、必要な場合本発明の記憶媒体に適用可能であることを理解することに留意すべきである。このような記憶媒体としては、CD−ROM、フレキシブルディスク、CD−R、CD−RW、MO、ミニディスク、DVD−ROM、DVD−R、メモリスティック、ハードディスクなどのようなあらゆるタイプの記憶媒体であり得る。
【0264】
本発明の好ましい局面では、本発明は、ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のEphAファミリーのインヒビターとを含む、乳がんを抑制するための組成物を提供する。EphAファミリーのインヒビターの例としては、そのRNAi分子が挙げられる。
【0265】
本発明の好ましい局面では、本発明は、ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のEphBファミリーのインヒビターとを含む、乳がんを抑制するための組成物を提供する。EphBファミリーのインヒビターの例としては、そのRNAi分子が挙げられる。
【0266】
本発明の好ましい局面では、本発明は、ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のc−KITのインヒビターとを含む、乳がんを抑制するための組成物を提供する。c−KITファミリーのインヒビターの例としては、そのRNAi分子が挙げられる。
【0267】
本発明の好ましい局面では、本発明は、ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のALKのインヒビターとを含む、乳がんを抑制するための組成物を提供する。ALKファミリーのインヒビターの例としては、そのRNAi分子が挙げられる。
【0268】
Ephファミリー:このファミリーは、14のレセプターチロシンキナーゼを含む。このファミリーは、以下の2つのクラスに細分される:EphA(配列番号1〜12)およびEphB(配列番号13〜20)。このファミリーは、発生中および成体において、神経系で発現される。このファミリーは、軸索誘導プロセスを担っているものと考えられる。このファミリーはまた、乳がん細胞においても発現される。このファミリーに対する特異的なインヒビターは知られていない。
【0269】
C−Kit:幹細胞因子−c−kitは、これまでに造血系の回復に関連付けられているレセプターチロシンキナーゼである(例えば、Homo sapiens v−kit Hardy−Zuckerman 4ネコ肉腫ウイルスオンコジーンホモログ(KIT)(配列番号21〜22))。このチロシンキナーゼは、いくつかのがんにおいて発現される。抗がん薬「イマチニブ」は、有名なc−kitインヒビターの1つである。
【0270】
ALK:ALKは、レセプターチロシンキナーゼである(例えば、Homo sapiens v−kit Hardy−Zuckerman 4ネコ肉腫ウイルスオンコジーンホモログ(KIT)(配列番号23〜24))。このタンパク質は、神経系の発生を担う。この分子機構は不明である。具体的なインヒビターはまだ知られていない。
【0271】
当業者は、本明細書において上述される方法、システム、コンピュータプログラムおよび記憶媒体のあらゆる他の特定の実施形態が用いられ得、そして、必要な場合本発明の伝送媒体に適用可能であることを理解することに留意すべきである。このような伝送媒体の例としては、イントラネット、インターネットなどのようなネットワークが挙げられるがこれらに限定されない。
【0272】
本発明の好ましい実施形態は、これまでに、本発明をより良く理解するために記載されてきた。これ以降、本発明は、一例として記載される。以下に記載される実施例は、例示の目的のためだけに提供される。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって限定される場合を除き、限定されない。以下の実施例によれば、当業者は、細胞、支持体、生物学的因子、塩、正に荷電した物質、負に荷電した物質、アクチン作用物質などを適切なように選択し得、そして、本発明を作製または実施し得ることが理解される。
【実施例】
【0273】
これ以降、本発明は、一例としてより詳細に記載されるが、本発明は以下の実施例に限定されない。試薬、支持体などは、そうでないと特定されない限り、Sigma(St.Louis,USA)、和光純薬(大阪、日本)、松浪硝子(岸和田、日本)から市販のものであった。
【0274】
実施例1:突起が神経系前駆細胞から伸長する経路
具体例として、突起が神経系前駆細胞から伸長する経路を検討し、そして以下に記載する。この実施例で用いた手順は、図1および2に示す。
【0275】
レチノイン酸を、ヒト由来の神経芽細胞腫であるSHSY5Y細胞に曝露させて、アセチルコリントランスフェラーゼの発現を引き起こし、そして、コリン作動性ニューロン細胞(1)を形成させた。一方、神経成長因子(NGF)を同じ細胞に曝露させた場合、チロシンヒドロキシラーゼが発現し、そして、ニューロンの突起の伸長を引き起こし、ドパミン作動性ニューロン細胞(2)を形成させた。(1)および(2)の機能は異なるが、ニューロンの突起の伸長という観点では同じ特性を共有している。したがって、これらの2つの細胞内での変化に必須の細胞成分を、RNA干渉法によって実験的に特定した。このようにして、SHSY5Yから(1)への変化に必須の成分集合(3)は、{JAK1,JAK3,RORおよびRET}であるということに到達した。一方で、SHSY5Y細胞から(2)への変化に必須の成分集合(4)は、{NTRK1,EPHB2,INSR,RDGFRA,RORおよびRET}である。(3)および(4)について共通部分の比較および計算を行うと、共通部分(5)は{RORおよびRET}と読み取ることに成功した。次に、(3)−(5)の引き算による集合(6){JAK1およびJAK3}と、集合(5)とを、分子間相互作用の観点から解析し、そして、(6)から(5)への分子シグナルの経路の存在を決定した(図3A)。さらに、(4)−(5)の引き算によって得られた集合(7)と、集合(5)とを、分子間相互作用の観点から解析し、そして、(7)から(5)への分子シグナルの経路の存在をさらに決定した(図3B)。レチノイン酸(RA)および神経成長因子(NGF)による突起伸長に関する共通成分および経路を図4に示す。図4に見られるように、出力グラフは、レチノイン酸(RA)についてのヒット分子(RAR、JAK1およびJAK3)と、神経成長因子(NGF)についてのヒット分子(IRS、PDGFR、NTRK1およびRPHB2)と、エンドポイントの分子(RORおよびRET)との間の分子関係を示す。このように、集合の構造は、経路の上流と下流とを反映することが実証された。
【0276】
実施例2:ヒト由来の乳がん細胞の経路解析
実施例1に示すような上述の経路解析はまた、ヒト由来の乳がん細胞の増殖経路の解析においても有効であった。この実施例で用いた方法は、図2および図5A〜Bに示す。乳がん細胞SK−BR−3は、抗がん剤ドキソルビシン(DXR)による増殖阻害の対象であることは公知であった。SK−BR−3のDXR感度を増大させる成分集合(8)をRNA干渉を用いて特定し、そして、集合{EPHA3,EPHA4,EPHB4,DDR1,EPHB6,FER,TYK2}を得た。次に、DXRの非存在下で、SK−BR−3の増殖を阻害する成分集合(9)をRNA干渉法を用いて特定し、そして、集合{BTK,BLK,ERBB2,CSF1,EPHB6,FER,TYK2}を得た。T−47D細胞のDXR感度を増大させる成分集合(10)と、DXRの非存在下でT−47D細胞の増殖を阻害する成分集合(11)とを検出するために、参照細胞として、SK−BR−3と同じDXR感度を有する、ヒト由来の乳がん細胞株であるT−47D細胞を使用し、そして、成分集合(10)と成分集合(11)との共通部分(12)を得た。さらに、集合(8)と(9)との共通部分(13)を得た。2つの共通部分(12)と(13)との共通部分(14)は、{EPHB6,FER,TYK2}であった。共通部分(14)と、細胞増殖を直接制御するRbとは、共通の経路成分集合(15){PI3K,SRC,STAT5,GR,PPARg}を共有することが分かった(図6)。図6は、SK−BR−3におけるDXR独立経路についての共通経路の抽出例を図示する。実験により明らかにされた共通する分子FER、EPHB6およびTYK2は、グラフに記載される分子の関係により、定義されたエンドポイントRBへと結び付けられる。影付きの四角は、DXR感受性細胞株についての実験上のヒットを示す。
【0277】
さらに、DXRの作用の対象となる成分集合(8)および(9)は、経路の上流に位置することも分かった(図7および8)。図7は、SK−BR−3におけるDXRによって阻害される経路、すなわち、DXR抑制経路の抽出例を図示する。実験により、DXR抑制経路成分として明らかにされた分子Tie−1、Tie−2、ERBB2、CSF−1、BLKおよびBTKは、グラフに記載される分子の関係により、定義のエンドポイントRBへと接続される。影付きの四角は、DXR感受性細胞株についての実験上のヒットを示す。図8は、SK−BR−3におけるDXRによって増加される経路、すなわち、DXR増強経路の抽出例を図示する。実験により、DXR増強経路成分として明らかにされた分子EPHB4、DDR1、EPHA3、EPHA4およびEPHA7は、グラフに記載される分子の関係により、定義されたエンドポイントRBへと結び付けられる。影付きの四角は、DXR感受性細胞株についての実験上のヒットを示す。
【0278】
さらに、DXR抵抗性を有する乳がん細胞MCF7の増殖に寄与する成分集合(16)をRN干渉実験により抽出し、それによって、{KIT,ALK}を得た。この集合はまた、集合(15)の上流に位置することが分かった(図9)。図9は、MCF7における、DXR抵抗性を有する細胞の増殖、すなわち、DXR抵抗性増殖経路の例示的な抽出を図示する。DXR抵抗性経路成分として明らかにされた分子C−KITおよびALKは、グラフに記載される分子の関係により、定義されたエンドポイントRBへと結び付けられる。
【0279】
SK−BR−3におけるDXR依存性経路およびDXR独立経路の全体を図10に示す。図10に示されるように、本発明は、既知の抗がん剤がこの細胞においていかに機能するかを明らかにした。したがって、HerceptinおよびXL647(PI)はErbB2に作用してDXR抑制をもたらす。EphB6、VEFGR、Tyk2、EphA3、EphA4およびEphA7は、抗がん剤のスクリーニングのための潜在的な標的であることが分かった(BBRC(2004)318:882,Mol.Pharmacol.(2004)66:635,Cancer & Metastasis 22,423−434(2003),Cytokine&Growth Factor Reviews(2004)15:419)。近年、VEGFRは、DXR増強標的であると臨床的に決定された。したがって、本発明は明らかに、有効なスクリーニング法を提供することを実証している。
【0280】
特定の好ましい実施形態が本明細書中に記載されてきたが、添付の特許請求の範囲に示される場合を除いて、このような実施形態が本発明の範囲についての制限とみなされることは意図されない。種々の他の改変および等価物は明らかであり、そして、本明細書中の説明を読めば、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、当業者によって容易になされ得る。本明細書中に引用される全ての特許、公開特許出願および刊行物は、全体が本明細書中に示されているかのように、参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0281】
産業上の利用可能性
本発明によれば、驚くべき少数の因子を観察することによって、生物体の表現型変化に必須の成分の上流または下流の成分を効率的に決定することが可能である。したがって、本発明は、診断、予防および処置に応用可能である。本発明はまた、食品、化粧品、農業、環境工学などの分野にも応用可能である。
【配列表フリーテキスト】
【0282】
配列表の簡単な説明
配列番号1:Homo sapiens EPHレセプターA1(EPHA1),mRNAの核酸配列。アクセッション NM_005232
配列番号2:Homo sapiens EPHレセプターA1(EPHA1)のアミノ酸配列
配列番号3:Homo sapiens EPHレセプターA2(EPHA2),mRNAの核酸配列。アクセッション NM_004431
配列番号4:Homo sapiens EPHレセプターA2(EPHA2),mRNAのアミノ酸配列。アクセッション NM_004431
配列番号5:Homo sapiens EPHレセプターA3(EPHA3),転写改変体1,mRNAの核酸配列。アクセッション NM_005233
配列番号6:Homo sapiens EPHレセプターA3(EPHA3),転写改変体1,mRNAのアミノ酸配列。アクセッション NM_005233
配列番号7:Homo sapiens EPHレセプターA4(EPHA4),mRNAの核酸配列。アクセッション NM_004438 XM_379155
配列番号8:Homo sapiens EPHレセプターA4(EPHA4),mRNAのアミノ酸配列。アクセッション NM_004438 XM_379155
配列番号9:Homo sapiens EPHレセプターA7(EPHA7),mRNAの核酸配列。アクセッション NM_004440
配列番号10:Homo sapiens EPHレセプターA7(EPHA7),mRNAのアミノ酸配列。アクセッション NM_004440
配列番号11:Homo sapiens EPHレセプターA8(EPHA8),転写改変体1,mRNAの核酸配列。アクセッション NM_020526
配列番号12:Homo sapiens EPHレセプターA8(EPHA8),転写改変体1,mRNAのアミノ酸配列。アクセッション NM_020526
配列番号13:Homo sapiens EPHレセプターB1(EPHB1),mRNAの核酸配列。アクセッション NM_004441
配列番号14:Homo sapiens EPHレセプターB1(EPHB1),mRNAのアミノ酸配列。アクセッション NM_004441
配列番号15:Homo sapiens EPHレセプターB2(EPHB2),転写改変体2,mRNAの核酸配列。アクセッション NM_004442
配列番号16:Homo sapiens EPHレセプターB2(EPHB2),転写改変体2,mRNAのアミノ酸配列。アクセッション NM_004442
配列番号17:Homo sapiens EPHレセプターB3(EPHB3),mRNAの核酸配列。アクセッション NM_004443
配列番号18:Homo sapiens EPHレセプターB3(EPHB3),mRNAのアミノ酸配列。アクセッション NM_004443
配列番号19:Homo sapiens EPHレセプターB4(EPHB4),mRNAの核酸配列。アクセッション NM_004444
配列番号20:Homo sapiens EPHレセプターB4(EPHB4),mRNAのアミノ酸配列。アクセッション NM_004444
配列番号21:Homo sapiens EPHレセプターB6(EPHB6),mRNAの核酸配列。アクセッション NM_004445
配列番号22:Homo sapiens EPHレセプターB6(EPHB6),mRNAのアミノ酸配列。アクセッション NM_004445
配列番号23:Homo sapiens v−kit Hardy−Zuckerman 4ネコ肉腫ウイルスオンコジーンホモログ(KIT),mRNAの核酸配列。アクセッション NM_000222
配列番号24:Homo sapiens v−kit Hardy−Zuckerman 4ネコ肉腫ウイルスオンコジーンホモログ(KIT),mRNAのアミノ酸配列。アクセッション NM_000222
配列番号25:Homo sapiens未分化リンパ腫キナーゼ(Ki−1)(ALK),mRNAの核酸配列。アクセッション NM_004304
配列番号26:Homo sapiens未分化リンパ腫キナーゼ(Ki−1)(ALK),mRNAのアミノ酸配列。アクセッション NM_004304

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物体の表現型変化に必須の成分の上流または下流の成分を導き出すための方法であって、該方法は、以下の工程:
A)該表現型変化に関連する目的の経路と、該目的の経路とは異なる参照経路とを特定し、そして、該目的の経路を刺激する目的の刺激因子および該参照経路を刺激する参照刺激因子を特定する工程;
B)該目的の刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である目的の成分の集合を同定する工程;
C)該参照刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である参照成分の集合を同定する工程;
D)該目的の成分の集合と、該参照成分の集合との間の共通部分を計算する工程;ならびに
E)該目的の成分の集合から該共通部分を減じることによって、差集合を計算する工程であって、該差集合に属する成分が、該共通部分の上流または下流に存在するものと決定される、工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記生物体が細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生物体は、2以上の異なる条件下で増殖される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記成分は、細胞、組織または個体を表す機能的アッセイデータから帰納される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記成分は、miRNAを含む有限数の候補遺伝子からの機能的アッセイに基づいて選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記成分は、前記刺激因子の標的集合からの機能的アッセイデータに基づいて計算される標的である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記成分は、目的の表現型に対して影響を有するタンパク質、核酸、またはこの両方である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記成分は、有限数の機能的核酸ライブラリーからの機能的スクリーニングの結果から導き出される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記刺激因子は、抗体、RNA干渉因子、または、分子標的インヒビターである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法を繰り返し適用する工程を包含する、化合物をプロファイリングするための方法。
【請求項11】
表現型変化の達成に使用するために組み合され得る化合物をプロファイリングするためのプロセスであって、該プロセスは、請求項1に記載の方法を繰り返し適用する工程を包含し、該プロセスはさらに、以下の工程:
A)該化合物が加えられる培養条件下で生物体において想定される表現型変化を増加させる目的の成分の集合を計算する工程;
B)該化合物が存在しない培養条件下で生物体において想定される表現型変化を増加させる目的の成分の集合を計算する工程;
C)前記目的の成分の集合および前記参照成分の集合の差集合を計算することによって、該化合物が加えられる培養条件下で発現する特定の成分集合を計算する工程;
D)該特定の成分集合に含まれる成分の共通経路を計算する工程;ならびに
E)該共通経路を標的とする化合物を選択する工程
を包含する、方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法を包含する、化合物の標的を探索するためのプロセスであって、該プロセスはさらに、以下の工程:
A)前記表現型変化の達成に使用するために組み合され得る化合物が加えられる培養条件下で生物体において想定される表現型変化を増加させる目的の成分の集合を計算する工程;
B)該表現型変化の達成に使用するために組み合され得る化合物が存在しない培養条件下で生物体において想定される表現型変化を増加させる目的の成分の集合を計算する工程;
C)前記目的の成分の集合および前記参照成分の集合の差集合を計算することによって、該化合物が加えられる培養条件下で発現する特定の成分集合を計算する工程;
D)該特定の成分集合に含まれる成分の共通経路を計算する工程;ならびに
E)該共通経路を標的とする化合物を選択する工程
を包含する、方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法を包含する、類似化合物の標的を探索するためのプロセスであって、該プロセスは、以下の工程:
A)前記表現型変化の達成に使用するために組み合され得る化合物が加えられる培養条件下で、生物体において想定される表現型変化を増加させる目的の成分の集合を計算する工程;
B)該表現型変化の達成に使用するために組み合され得る化合物が存在しない培養条件下で、生物体において想定される表現型変化を増加させる目的の成分の集合を計算する工程;
C)前記目的の成分の集合および前記参照成分の集合の差集合を計算することによって、該化合物が加えられる培養条件下で発現する特定の成分集合を計算する工程;
D)該特定の成分集合に含まれる成分の共通経路を計算する工程;ならびに
E)該共通経路から類似化合物の標的を選択する工程
を包含する、方法。
【請求項14】
ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のEphAファミリーのインヒビターとの組み合わせを用いる、乳がんを抑制するための方法。
【請求項15】
ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のEphBファミリーのインヒビターとの組み合わせを用いる、乳がんを抑制するための方法。
【請求項16】
ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のc−KITのインヒビターとの組み合わせを用いる、乳がんを抑制するための方法。
【請求項17】
ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のALKのインヒビターとの組み合わせを用いる、乳がんを抑制するための方法。
【請求項18】
生物体の表現型変化に必須の上流または下流の成分を導き出すためのシステムであって、該システムは、以下:
A)該表現型変化に関連する目的の経路と、該目的の経路とは異なる参照経路とを特定し、そして、該目的の経路を刺激する目的の刺激因子および該参照経路を刺激する参照刺激因子を特定するためのコンピュータ;
B)該目的の刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である目的の成分の集合を同定するためのアッセイシステム;
C)該参照刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である参照成分の集合を同定するためのアッセイシステム;
D)該目的の成分の集合と、該参照成分の集合との間の共通部分を計算するためのコンピュータ;ならびに
E)該目的の成分の集合から該共通部分を減じることによって、差集合を計算するためのコンピュータであって、該差集合に属する成分が、該共通部分の上流または下流に存在するものと決定される、コンピュータ
を備える、システム。
【請求項19】
生物体の表現型変化に必須の上流または下流の成分を導き出すための方法を実行するための、コンピュータによる実行のためのプログラムであって、該方法は、以下の工程:
A)該表現型変化に関連する目的の経路と、該目的の経路とは異なる参照経路とを特定し、そして、該目的の経路を刺激する目的の刺激因子および該参照経路を刺激する参照刺激因子を特定する工程;
B)該目的の刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である目的の成分の集合を同定する工程;
C)該参照刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である参照成分の集合を同定する工程;
D)該目的の成分の集合と、該参照成分の集合との間の共通部分を計算する工程;ならびに
E)該目的の成分の集合から該共通部分を減じることによって、差集合を計算する工程であって、該差集合に属する成分が、該共通部分の上流または下流に存在するものと決定される、工程
を包含する、プログラム。
【請求項20】
生物体の表現型変化に必須の成分の上流または下流の成分を導き出すための方法を実行するための、コンピュータによる実行のためのプログラムが格納された記憶媒体であって、該方法は、以下の工程:
A)該表現型変化に関連する目的の経路と、該目的の経路とは異なる参照経路とを特定し、そして、該目的の経路を刺激する目的の刺激因子および該参照経路を刺激する参照刺激因子を特定する工程;
B)該目的の刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である目的の成分の集合を同定する工程;
C)該参照刺激因子を該生物体に与えて、該表現型変化に必須である参照成分の集合を同定する工程;
D)該目的の成分の集合と、該参照成分の集合との間の共通部分を計算する工程;ならびに
E)該目的の成分の集合から該共通部分を減じることによって、差集合を計算する工程であって、該差集合に属する成分が、該共通部分の上流または下流に存在するものと決定される、工程
を包含する、記憶媒体。
【請求項21】
ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のEphAファミリーのインヒビターとを含む、乳がんを抑制するための組成物。
【請求項22】
ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のEphBファミリーのインヒビターとを含む、乳がんを抑制するための組成物。
【請求項23】
ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のc−KITのインヒビターとを含む、乳がんを抑制するための組成物。
【請求項24】
ドキソルビシン(DXR)と、少なくとも1種のALKのインヒビターとを含む、乳がんを抑制するための組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2010−523139(P2010−523139A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−502614(P2010−502614)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【国際出願番号】PCT/IB2008/051308
【国際公開番号】WO2008/126002
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(505380692)株式会社サイトパスファインダー (11)
【Fターム(参考)】