説明

化合物及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】 有機EL素子用化合物として好適に使用し得る新規な化合物を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で示される化合物。
【化1】


(A、B、X、Y、Zは下記一般式を示し、X、Y、Zのフェニレン環上のCHはN原子に置き換えられても良い。a、b、x、y、zは、それぞれ独立に0〜5の整数を示し、a≧1かつy≧1かつa+b≧2である。
【化2】


1〜R14はそれぞれ独立に水素原子、直鎖状または分岐状のアルキル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,有機化合物を用いた発光素子に関するものであり,さらに詳しくは、特定の分子構造を有する新規な化合物、及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は,古くはアントラセン蒸着膜に電圧を印加して発光させた例(非特許文献1)等がある。しかし近年、無機発光素子に比べて大面積化が容易であることや、各種新材料の開発によって所望の発色が得られることや、また低電圧で駆動可能であるなどの利点や、さらには高速応答性や高効率の発光素子として、材料開発を含めて、デバイス化のための応用研究が精力的に行われている。
【0003】
例えば、非特許文献2に詳述されているように、一般に有機EL素子は透明基板上に形成された、上下2層の電極と、この間に発光層を含む有機物層が形成された構成を持つ。
【0004】
また最近では、従来の1重項励起子から基底状態に遷移するときの蛍光を利用した発光だけでなく、非特許文献3,4に代表される三重項励起子を経由した燐光発光を利用する素子の検討もなされている。これらの文献では4層構成の有機層が主に用いられている。それは、陽極側からホール輸送層、発光層、励起子拡散防止層、電子輸送層からなる。用いられている材料は、以下に示すキャリア輸送材料と燐光発光性材料Ir(ppy)3である。
【0005】
【化1】

【0006】
また、蛍光性有機化合物の種類を変えることにより、紫外から赤外までの発光が可能であり、最近では様々な化合物の研究が活発に行われている。
【0007】
さらに、上記のような低分子材料を用いた有機発光素子の他にも、共役系高分子を用いた有機発光素子が、ケンブリッジ大学のグループにより報告されている(非特許文献5)。この報告ではポリフェニレンビニレン(PPV)を塗工系で成膜することにより、単層で発光を確認している。
【0008】
このように有機発光素子における最近の進歩は著しく、その特徴は低印加電圧で高輝度、発光波長の多様性、高速応答性、薄型、軽量の発光デバイス化が可能であることから、広汎な用途への可能性を示唆している。
【0009】
しかしながら、現状では更なる高輝度の光出力あるいは高変換効率が必要である。また、長時間の使用による経時変化や酸素を含む雰囲気気体や湿気などによる劣化等の耐久性の面で未だ多くの問題がある。さらにはフルカラーディスプレイ等への応用を考えた場合の色純度の良い青、緑、赤の発光が必要となるが、これらの問題に関してもまだ十分でない。
【0010】
また、電子輸送層や発光層などに用いる蛍光性有機化合物として、芳香族化合物や縮合多環芳香族化合物が数多く研究されているが、発光輝度や耐久性が十分に満足できるものは得られているとは言いがたい。
【0011】
本発明に関連するフルオレン化合物の有機ELへの応用の特許文献として特許文献1〜3が挙げられるが、分子構造式にフルオレン環とフェニレン環を一直線上に含む部分構造を有することを特徴とする本発明の有機化合物の開示はない。また、レーザー色素への応用としてフルオレン化合物(非特許文献6)が報告されている。
【0012】
【特許文献1】特開2004−43349号公報
【特許文献2】国際公開第99/54385号パンフレット
【特許文献3】特開2003−229273号公報
【非特許文献1】Thin Solid Films,94(1982)171
【非特許文献2】Macromol.Symp.125,1〜48(1997)
【非特許文献3】Improved energy transfer in electrophosphorescent device(D.F.O’Brien他,Applied Physics Letters Vol74,No3 p422(1999))
【非特許文献4】Very high−efficiency green organic light−emitting devices basd on electrophosphorescence(M.A.Baldo他,Applied Physics Letters Vol 75,No1 p4(1999))
【非特許文献5】Nature,347,539(1990)
【非特許文献6】Journal of Fluorescence,Vol.5,No.3,295(1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
有機EL素子をディスプレイ等の表示装置に応用するためには、高効率で高輝度な光出力を有すると同時に高耐久性を十分に確保する必要がある。しかしながら、これらの問題に関して、まだ十分とは言えない。
【0014】
本発明の目的は、有機EL素子用化合物として好適に使用し得る新規な化合物を提供することにある。また、該化合物を用いた高効率で高輝度な光出力を有する有機EL素子を提供することにある。また、高耐久性の有機EL素子を提供することにある。さらには製造が容易でかつ比較的安価に作成可能な有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明の化合物は、下記一般式(1)で示されることを特徴とする。
【0016】
【化2】

【0017】
(A、B、X、Y、Zは下記一般式を示し、X、Y、Zのフェニレン環上のCHはN原子に置き換えられても良い。a、b、x、y、zは、それぞれ独立に0〜5の整数を示し、a≧1かつy≧1かつa+b≧2である。
【0018】
【化3】

【0019】
1〜R14はそれぞれ独立に水素原子、直鎖状または分岐状のアルキル基を示す。)
【0020】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、一対の電極間に、少なくとも一層の有機化合物を含む層を挟持してなる有機エレクトロルミネッセンス素子において、該有機化合物を含む層の少なくとも一層が上記一般式(1)で示される化合物を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の化合物は高いガラス転移温度を有し、また、本発明の化合物を発光層のホストに用いた本発明の発光素子は、高効率発光のみならず、従来用いられている化合物よりも長い期間高輝度を保ち、優れた素子である。また、同じ電圧値での電流値が大きく、低電圧駆動が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
まず、本発明の化合物について説明する。
【0023】
発光層が、キャリア輸送性のホスト材料とゲストからなる場合、発光にいたる主な過程は、以下のいくつかの過程からなる。
1.発光層内での電子・ホールの輸送。
2.ホストの励起子生成。
3.ホスト分子間の励起エネルギー伝達。
4.ホストからゲストへの励起エネルギー移動。
【0024】
それぞれの過程における所望のエネルギー移動や、発光はさまざまな失活過程と競争でおこる。
【0025】
EL素子の発光効率を高めるためには、発光中心材料そのものの発光量子収率が大きいことは言うまでもない。しかしながら、ホスト−ホスト間、あるいはホスト−ゲスト間のエネルギー移動が如何に効率的にできるかも大きな問題となる。また、通電による発光劣化は今のところ原因は明らかではないが、少なくとも発光中心材料そのもの、または、その周辺分子による発光材料の環境変化に関連したものと想定される。
【0026】
そこで本発明者らは種々の検討を行い、前記一般式(1)で表される化合物を発光層のホストに用いた素子が高効率発光し、長い期間高輝度を保ち、通電劣化が小さいことを見出した。
【0027】
通電による発光劣化の原因の一つとして、発光層の薄膜形状の劣化による発光劣化が考えられる。この薄膜形状の劣化は、駆動環境の温度、素子駆動時の発熱等による有機薄膜の結晶化に起因すると考えられている。これは、材料のガラス転移温度の低さに由来すると考えられ、有機EL材料は高いガラス転移温度を有する事が望まれている。本発明の前記一般式(1)で表される化合物は高いガラス転移温度を有し、有機EL素子の高耐久化を期待する事が出来る。
【0028】
これらのうちでも、下記一般式(2)、(3)、(4)または(5)で表される化合物が好ましい。
【0029】
【化4】

【0030】
(b≧1、x≧1、z≧1である。)
【0031】
本発明の化合物において、フルオレン基の9位のアルキル鎖を長くすると、ガラス転移温度が低下すると考えられ、フルオレン基の9位がメチル基の場合が、より高いガラス転移温度を有し、耐熱性が高いため、有機EL素子の高耐久化を期待する事が出来る。また、置換基のR1〜R14は、同様にガラス転移点の観点から、水素原子またはメチル基が好ましい。
【0032】
また、通電による発光劣化の原因として、不純物の混入が挙げられる。高分子化合物を素子に用いた場合は、高分子中の不純物の除去が難しいため、素子に不純物が混入しやすく、素子の短寿命化を引き起こす。本発明の化合物は、単一化合物であるため、再結晶法、カラムクロマトグラフィー法、昇華精製法等の精製法を適宜用いる事により、不純物の除去が容易であり、有機EL素子の高耐久化を期待する事が出来る。
【0033】
また、高効率発光の素子を得る為には、駆動電圧を低くする必要がある。その為には、ホストが電荷の導電性を有することが重要になる。導電性の観点においても、上記一般式(1)のフルオレン基の9位のアルキル鎖を長くすると、電荷導電性低下すると考えられ、フルオレン基の9位がメチル基の場合が、より高い電荷導電性を有し、素子の駆動電圧を低下する事が出来、有機EL素子の高効率化を期待する事が出来る。また、置換基のR1〜R14は、同様に電荷導電性の観点から、水素原子またはメチル基が好ましい。
【0034】
また、本発明の化合物を発光層のホストとして使用する場合のゲスト分子は、一般的に知られている蛍光材料及び燐光材料を使用する事が出来る。高効率の発光素子を得る為には、好ましくは、燐光を発する事が知られているIr錯体、Pt錯体、Re錯体、Cu錯体、Eu錯体、Rh錯体等の金属錯体が好ましい。より好ましくは、強い燐光を発する事が知られているIr錯体が好ましい。さらに、発光層からの複数色の発光、及び、励起子や電荷伝達の補助を目的として発光層に複数の燐光発光材料を含有させる事も出来る。
【0035】
本発明の化合物を含む有機層を作製する場合は、真空蒸着法、キャスト法、塗布法、スピンコート法、インクジェット法などにより製膜することができる。
【0036】
以下本発明に用いられる有機化合物の具体的な構造式を下記に示す。但し、これらは、代表例を例示しただけで、本発明は、これに限定されるものではない。
【0037】
【化5】

【0038】
【化6】

【0039】
【化7】

【0040】
【化8】

【0041】
次に、本発明の発光素子について説明する。
【0042】
本発明の基本的な素子構成を図1に示した。
【0043】
図1に示したように、一般に有機EL素子は透明基板15上に、50〜200nmの膜厚を持つ透明電極14と、複数層の有機膜層と、及びこれを挟持するように金属電極11が形成される。
【0044】
図1(a)では,有機層が発光層12とホール輸送層13からなる例を示した。透明電極14としては、仕事関数が大きなITOなどが用いられ、透明電極14からホール輸送層13へホール注入しやすくしている。金属電極11には、アルミニウム、マグネシウムあるいはそれらを用いた合金など、仕事関数の小さな金属材料を用い、有機層への電子注入をしやすくしている。
【0045】
発光層12には、本発明の化合物を用いているが、ホール輸送層13には,例えばトリフェニルジアミン誘導体、代表例としてはα−NPDなど、電子供与性を有する材料も適宜用いることができる。
【0046】
以上の構成した素子は電気的整流性を示し、金属電極11を陰極に透明電極14を陽極になるように電界を印加すると、金属電極11から電子が発光層12に注入され、透明電極15からはホールが注入される。
【0047】
注入されたホールと電子は、発光層12内で再結合して励起子が生じ、発光する。この時ホール輸送層13は電子のブロッキング層の役割を果たし,発光層12とホール輸送層13の間の界面における再結合効率が上がり,発光効率が上がる。
【0048】
さらに図1(b)では、図1(a)の金属電極11と発光層12の間に、電子輸送層16が設けられている。発光機能と電子及びホール輸送機能を分離して、より効果的なキャリアブロッキング構成にすることで、発光効率を上げている。電子輸送層16としては、例えばオキサジアゾール誘導体などを用いることができる。
【0049】
また図1(c)に示すように、陽極である透明電極14側から、ホール輸送層13、発光層12、励起子拡散防止層17、電子輸送層16、及び金属電極11からなる4層構成とすることも望ましい形態である。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
まず、下記反応中間体を合成した。
【0052】
【化9】

【0053】
(X、Yはそれぞれ独立に上記の基を表す。nは1〜5の整数を表す。)
【0054】
まず、2−ハロゲノ−9H−フルオレン、2,7−ジハロゲノ−9H−フルオレンをBull.Chem.Soc.Jpn.62(1989)439を参考にして合成した。得られた化合物をDMF中、CH3Cl、NaOCH3を用いてフルオレンの9位のジメチル化を行った。さらに、得られた2−ハロゲノ−9−ジメチルフルオレン、2,7−ジハロゲノ−9−ジメチルフルオレンを、ORGANIC SYNTYHESES VIA BORANES Volume3を参考に、ボロン酸またはボロン酸ピナコールエステル体の合成を行った。得られたこれらの化合物を鈴木カップリング(ORGANIC SYNTYHESES VIA BORANES Volume3)、ハロゲン化(Bull.Chem.Soc.Jpn.62(1989)439)、ボロン酸合成を適宜組み合わせ、上記反応中間体を合成した。
【0055】
本発明の化合物は、上記フルオレン誘導体とハロゲン化ベンゼン誘導体及びベンゼンボロン酸誘導体を適宜組み合わせ、鈴木カップリング反応によって、合成する事が出来る。
【0056】
<実施例1(例示化合物No.H−52の合成)>
【0057】
【化10】

【0058】
化合物A512mg(1mmole)、1,4−ジヨードベンゼン165mg(0.5mmole)、Pd(PPh34 0.1g、トルエン10ml、エタノール5ml、2M−炭酸ナトリウム水溶液10mlを100mlナスフラスコに仕込み、窒素気流下、80℃で8時間攪拌を行った。反応終了後、結晶をろ別し、水、エタノール、トルエンで洗浄を行った。得られた結晶を120℃で真空乾燥後、昇華精製を行い例示化合物No.H−52を200mg(収率:47.2%)得た。
【0059】
MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)によりこの化合物のM+である846.2を確認した。
【0060】
また、NMR測定によりこの化合物の構造を確認した。
1H NMR(CDCl3,400MHz) σ(ppm):7.65−7.83(m,22H),7.47(m,2H),7.30−7.37(m,4H),1.68(s,12H),1.60(s,12H)
【0061】
<実施例2>
本実施例では、素子構成として、図1(b)に示す有機層が3層の素子を使用した。
【0062】
ガラス基板(透明基板15)上に100nmのITO(透明電極14)をパターニングした。そのITO基板上に、以下の有機層と電極層を10-5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着して連続製膜し、対向する電極面積が3mm2になるようにした。
ホール輸送層13(20nm):化合物B
発光層12(50nm):例示化合物No.H−52:Ir(piq)3(重量比10%)
電子輸送層16(30nm):Bphen(同仁化学研究所製)
金属電極層1(1nm):KF
金属電極層2(100nm):Al
【0063】
EL素子の特性は、電流電圧特性をヒューレッドパッカード社製・微小電流計4140Bで測定し、発光輝度は、トプコン社製BM7で測定した。
【0064】
本実施例の素子は6.0cd/A、5.2lm/W(600cd/m2)の効率であった。また、電圧8V印加時に、251mA/cm2の電流値を示した。また、この素子に100mA/cm2の連続通電を行ったところ初期輝度4015cd/m2で輝度半減までの時間は、413時間であった。
【0065】
<実施例3(例示化合物No.H−47の合成)>
【0066】
【化11】

【0067】
2−(9,9−ジメチル)−フルオレンボロン酸476mg(2mmole)、4,4‘−ジヨードビフェニル406mg(1mmole)、Pd(PPh34 0.2g、トルエン12ml、エタノール6ml、2M−炭酸ナトリウム水溶液12mlを100mlナスフラスコに仕込み、窒素気流下、80℃で8時間攪拌を行った。反応終了後、反応液をトルエンで抽出した。有機層を水洗し、硫酸マグネシウムで乾燥後に減圧乾固し、シリカゲルカラムクロマト(溶離液:ヘキサン/トルエン=10/1)で精製後、トルエン/ヘキサンで再結晶を行った。得られた結晶を120℃で真空乾燥後、昇華精製を行い例示化合物No.H−47を377mg(収率:70.0%)得た。
【0068】
MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)によりこの化合物のM+である538.3を確認した。
【0069】
また、NMR測定によりこの化合物の構造を確認した。
1H NMR(CDCl3,400MHz) σ(ppm):7.75(d,2H),7.69−7.73(m,10H),7.65(d,2H),7.59(m,2H),7.41(m,2H),7.25−7.34(m,4H),1.50(s,12H)
【0070】
また、この化合物のガラス転移温度は182℃であった。
【0071】
<実施例4>
例示化合物No.H−52の代わりに例示化合物No.H−47を用いる以外は実施例2と同様の方法により素子を作成した。
【0072】
本実施例の素子は5.0cd/A、4.0lm/W(600cd/m2)の効率であった。また、電圧8V印加時に、155mA/cm2の電流値を示した。また、この素子に100mA/cm2の連続通電を行ったところ初期輝度3015cd/m2で輝度半減までの時間は、258時間であった。
【0073】
<比較例1>
例示化合物No.H−52の代わりにCBPを用いる以外は実施例2と同様の方法により素子を作成した。
【0074】
【化12】

【0075】
本実施例の素子は6.2cd/A、4.2lm/W(600cd/m2)の効率であった。また、電圧8V印加時に、116mA/cm2の電流値を示した。また、この素子に100mA/cm2の連続通電を行ったところ初期輝度4022cd/m2で輝度半減までの時間は、156時間であった。
【0076】
実施例2,4,比較例1の素子特性を表1にまとめた。
【0077】
【表1】

【0078】
表1に示すように、本発明の化合物は、従来発光層のホストと用いられているCBPよりも、高いガラス転移温度を有する。また、本発明の化合物を発光層のホストとして用いた有機EL素子は、CBPを用いた素子よりも、電力効率が同等または高く、半減寿命が2〜3倍程度長い優れた素子である。また、同じ電圧値での電流値が1.5〜2倍程度大きく、低電圧駆動が可能である点でも、非常に優れている。
【0079】
<実施例5(例示化合物No.H−24の合成)>
【0080】
【化13】

【0081】
化合物C 1g(1.36mmole)、フェニルボロン酸331mg(2.72mmole)、Pd(PPh34 0.13g、トルエン10ml、エタノール5ml、2M−炭酸ナトリウム水溶液10mlを100mlナスフラスコに仕込み、窒素気流下、80℃で8時間攪拌を行った。反応終了後、反応液をトルエンで抽出した。有機層を水洗し、硫酸マグネシウムで乾燥後に減圧乾固し、シリカゲルカラムクロマト(溶離液:ヘキサン/トルエン=10/1)で精製後、トルエン/ヘキサンで再結晶を行った。得られた結晶を120℃で真空乾燥後、昇華精製を行い例示化合物No.H−24を0.75g(収率:75.4%)得た。
【0082】
MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)によりこの化合物のM+である730.4を確認した。
【0083】
また、NMR測定によりこの化合物の構造を確認した。
1H NMR(CDCl3,400MHz) σ(ppm):7.85(m,6H),7.66−7.76(m,14H),7.62(m,2H),7.48(t,4H),7.37(t,2H),1.66(s,6H),1.63(s,12H)
【0084】
また、この化合物のガラス転移温度は138℃であった。
【0085】
<実施例6>
例示化合物No.H−52の代わりにNo.H−24を、Ir(piq)3(重量比10%)の代わりにIr(4mopiq)3(重量比4%)とIr(bq)3(重量比8%)の2化合物ドープを用いる以外は実施例1と同様の方法により素子を作成した。
【0086】
本実施例の素子は14.3cd/A、14.0lm/W(600cd/m2)の効率であった。また、電圧8V印加時に、720mA/cm2の電流値を示した。また、この素子に100mA/cm2の連続通電を行ったところ初期輝度7953cd/m2で輝度半減までの時間は、265時間であった。
【0087】
<比較例2>
例示化合物No.H−24の代わりにCBPを用いる以外は実施例6と同様の方法により素子を作成した。
【0088】
本実施例の素子は17.2cd/A、12.2lm/W(600cd/m2)の効率であった。また、電圧8V印加時に、140mA/cm2の電流値を示した。また、この素子に100mA/cm2の連続通電を行ったところ初期輝度8010cd/m2で輝度半減までの時間は、113時間であった。
【0089】
実施例6,比較例2の素子特性を表2にまとめた。
【0090】
【表2】

【0091】
表2に示すように、本発明の化合物は、CBPよりも、高いガラス転移温度を有する。また、本発明の化合物を発光層のホストとして用いた有機EL素子は、CBPを用いた素子よりも、電力効率が高く、半減寿命が2倍程度長い優れた素子である。また、同じ電圧値での電流値が6倍程度大きく、低電圧駆動が可能である点でも、非常に優れている。
【0092】
<実施例7(例示化合物No.H−45の合成)>
【0093】
【化14】

【0094】
2−(9,9−ジメチル)−フルオレン−2−イルボロン酸476mg(2mmole)、1,4−ジヨードベンゼン330mg(1mmole)、Pd(PPh34 0.2g、トルエン12ml、エタノール6ml、2M−炭酸ナトリウム水溶液12mlを100mlナスフラスコに仕込み、窒素気流下、80℃で8時間攪拌を行った。反応終了後、反応液をトルエンで抽出した。有機層を水洗し、硫酸マグネシウムで乾燥後に減圧乾固し、シリカゲルカラムクロマト(溶離液:ヘキサン/トルエン=10/1)で精製後、トルエン/ヘキサンで再結晶を行った。得られた結晶を120℃で真空乾燥後、昇華精製を行い例示化合物No.H−45を339mg(収率:73.3%)得た。
【0095】
MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)によりこの化合物のM+である462.2を確認した。
【0096】
また、NMR測定によりこの化合物の構造を確認した。
1H NMR(CDCl3,400MHz) σ(ppm):7.81(d,2H),7.77(m,6H),7.71(d,2H),7.65(m,2H),7.47(m,2H),7.31−7.39(m,4H),1.57(s,12H)
【0097】
<実施例8(例示化合物No.H−25の合成)>
実施例5のフェニルボロン酸の代わりに、4−メチルフェニルボロン酸を用いる以外は実施例5と同様の方法で例示化合物No.H−25を合成する事が出来る。
【0098】
<実施例9(例示化合物No.H−27の合成)>
実施例5のフェニルボロン酸の代わりに、3−メチルフェニルボロン酸を用いる以外は実施例5と同様の方法で例示化合物No.H−27を合成する事が出来る。
【0099】
<実施例10(例示化合物No.H−54の合成)>
実施例1の1,4−ジヨードベンゼンの代わりに、1,4−ジヨード−2,3,5,6,−テトラメチルベンゼンを用いる以外は実施例1と同様の方法で例示化合物No.H−54を合成する事が出来る。
【0100】
<実施例11(例示化合物No.H−29の合成)>
実施例5の化合物Cの代わりに化合物Dを、フェニルボロン酸の代わりに、2−クロロピリジンを化合物Dに対して2等量用いる以外は実施例5と同様の方法で例示化合物No.H−29を合成する事が出来る。
【0101】
【化15】

【0102】
<実施例12(例示化合物No.H−28の合成)>
実施例11の2−クロロピリジンの代わりに、3−ヨードピリジンを用いる以外は実施例11と同様の方法で例示化合物No.H−28を合成する事が出来る。
【0103】
<実施例13(例示化合物No.H−6の合成)>
実施例5の化合物Cの代わりに化合物Eを、フェニルボロン酸を化合物Eに対して1等量用いる以外は実施例5と同様の方法で例示化合物No.H−6を合成する事が出来る。
【0104】
【化16】

【0105】
<実施例14(例示化合物No.H−31の合成)>
実施例11の2−クロロピリジンの代わりに、2−クロロピリミジンを用いる以外は実施例11と同様の方法で例示化合物No.H−31を合成する事が出来る。
【0106】
<実施例15(例示化合物No.H−32の合成)>
実施例14の2−クロロピリジンの代わりに、2−クロロピラジンを用いる以外は実施例14と同様の方法で例示化合物No.H−32を合成する事が出来る。
【0107】
<実施例16(例示化合物No.H−53の合成)>
実施例1の1,4−ジヨードベンゼンの代わりに、4,4‘−ジヨードビフェニルを用いる以外は実施例1と同様の方法で例示化合物No.H−53を合成する事が出来る。
【0108】
<実施例17(例示化合物No.H−5の合成)>
実施例5の化合物Cの代わりに化合物Fを、1,4−ジヨードベンゼンの代わりに、2−クロロピリジンを化合物Fに対して1等量用いる以外は実施例5と同様の方法で例示化合物No.H−6を合成する事が出来る。
【0109】
【化17】

【0110】
<実施例18(例示化合物No.H−7の合成)>
実施例17の2−クロロピリジンの代わりに、3−ヨードピリジン用いる以外は実施例17と同様の方法で例示化合物No.H−7を合成する事が出来る。
【0111】
<実施例19(例示化合物No.H−8の合成)>
実施例13のフェニルボロン酸の代わりに、3−メチルフェニルボロン酸用いる以外は実施例13と同様の方法で例示化合物No.H−8を合成する事が出来る。
【0112】
<実施例20(例示化合物No.H−9の合成)>
実施例13のフェニルボロン酸の代わりに、4−メチルフェニルボロン酸用いる以外は実施例13と同様の方法で例示化合物No.H−9を合成する事が出来る。
【0113】
<実施例21(例示化合物No.H−35の合成)>
実施例11の2−クロロピリジンの代わりに、4−ヨードビフェニルを用いる以外は実施例11と同様の方法で例示化合物No.H−35を合成する事が出来る。
【0114】
<実施例22(例示化合物No.H−41の合成)>
実施例11の2−クロロピリジンの代わりに、2−(4−ブロモフェニル)ピリジンを用いる以外は実施例11と同様の方法で例示化合物No.H−41を合成する事が出来る。
【0115】
<実施例23(例示化合物No.H−42の合成)>
実施例11の2−クロロピリジンの代わりに、3−(4−ブロモフェニル)ピリジンを用いる以外は実施例11と同様の方法で例示化合物No.H−42を合成する事が出来る。
【0116】
<実施例24(例示化合物No.H−13の合成)>
実施例5の化合物Cの代わりに、化合物Gを用いる以外は実施例5と同様の方法で例示化合物No.H−13を合成する事が出来る。
【0117】
【化18】

【0118】
<実施例25(例示化合物No.H−16の合成)>
実施例24のフェニルボロン酸の代わりに、4−メチルフェニルボロン酸を用いる以外は実施例24と同様の方法で例示化合物No.H−16を合成する事が出来る。
【0119】
<実施例26(例示化合物No.H−17の合成)>
実施例24のフェニルボロン酸の代わりに、3−メチルフェニルボロン酸を用いる以外は実施例24と同様の方法で例示化合物No.H−17を合成する事が出来る。
【0120】
<実施例27(例示化合物No.H−18の合成)>
実施例24のフェニルボロン酸の代わりに、2−メチルフェニルボロン酸を用いる以外は実施例24と同様の方法で例示化合物No.H−18を合成する事が出来る。
【0121】
<実施例28(例示化合物No.H−19の合成)>
実施例11の化合物Dの代わりに化合物Hを用いる以外は実施例11と同様の方法で例示化合物No.H−19を合成する事が出来る。
【0122】
【化19】

【0123】
<実施例29(例示化合物No.H−20の合成)>
実施例28の2−クロロピリジンの代わりに、3−ヨードピリジンを用いる以外は実施例28と同様の方法で例示化合物No.H−20を合成する事が出来る。
【0124】
<実施例30(例示化合物No.H−21の合成)>
実施例28の2−クロロピリジンの代わりに、2−クロロピリミジンを用いる以外は実施例28と同様の方法で例示化合物No.H−21を合成する事が出来る。
【0125】
<実施例31(例示化合物No.H−22の合成)>
実施例28の2−クロロピリジンの代わりに、2−クロロピラジンを用いる以外は実施例28と同様の方法で例示化合物No.H−22を合成する事が出来る。
【0126】
<実施例32(例示化合物No.H−23の合成)>
実施例28の2−クロロピリジンの代わりに、4−ヨードビフェニルを用いる以外は実施例28と同様の方法で例示化合物No.H−23を合成する事が出来る。
【0127】
<実施例33(例示化合物No.H−26の合成)>
実施例28の2−クロロピリジンの代わりに、2−(4−ブロモフェニル)ピリジンを用いる以外は実施例28と同様の方法で例示化合物No.H−26を合成する事が出来る。
【0128】
<実施例34(例示化合物No.H−33の合成)>
実施例5の化合物Cの代わりに、化合物Iを用いる以外は実施例5と同様の方法で例示化合物No.H−33を合成する事が出来る。
【0129】
【化20】

【0130】
<実施例35(例示化合物No.H−34の合成)>
実施例34のフェニルボロン酸の代わりに、4−メチルフェニルボロン酸を用いる以外は実施例34と同様の方法で例示化合物No.H−34を合成する事が出来る。
【0131】
<実施例36(例示化合物No.H−37の合成)>
実施例34のフェニルボロン酸の代わりに、3−メチルフェニルボロン酸を用いる以外は実施例34と同様の方法で例示化合物No.H−37を合成する事が出来る。
【0132】
<実施例37(例示化合物No.H−36の合成)>
実施例11の化合物Dの代わりに化合物Jを用いる以外は実施例11と同様の方法で例示化合物No.H−36を合成する事が出来る。
【0133】
【化21】

【0134】
<実施例38(例示化合物No.H−40の合成)>
実施例37の2−クロロピリジンの代わりに、3−ヨードピリジンを用いる以外は実施例37と同様の方法で例示化合物No.H−40を合成する事が出来る。
【0135】
<実施例39(例示化合物No.H−43の合成)>
実施例37の2−クロロピリジンの代わりに、2−(4−ブロモフェニル)ピリジンを用いる以外は実施例37と同様の方法で例示化合物No.H−43を合成する事が出来る。
【0136】
<実施例40(例示化合物No.H−44の合成)>
実施例37の2−クロロピリジンの代わりに、3−(4−ブロモフェニル)ピリジンを用いる以外は実施例37と同様の方法で例示化合物No.H−44を合成する事が出来る。
【0137】
<実施例41(例示化合物No.H−49の合成)>
実施例7の1,4−ジヨードベンゼンの代わりに、1−ブロモ−4−ヨードベンゼンを2−(9,9−ジメチル)−フルオレン−2−イルボロン酸に対して1等量用いる以外は実施例7と同様の方法で化合物Kを合成する事が出来る。化合物Kと化合物Lの鈴木カップリングを実施例7と同様に行い、例示化合物No.H−49の合成を合成する事が出来る。
【0138】
【化22】

【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明の発光素子の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とする化合物。
【化1】

(A、B、X、Y、Zは下記一般式を示し、X、Y、Zのフェニレン環上のCHはN原子に置き換えられても良い。a、b、x、y、zは、それぞれ独立に0〜5の整数を示し、a≧1かつy≧1かつa+b≧2である。
【化2】

1〜R14はそれぞれ独立に水素原子、直鎖状または分岐状のアルキル基を示す。)
【請求項2】
下記一般式(2)、(3)、(4)または(5)で表されることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化3】

(b≧1、x≧1、z≧1である。)
【請求項3】
一対の電極間に、少なくとも一層の有機化合物を含む層を挟持してなる有機エレクトロルミネッセンス素子において、該有機化合物を含む層の少なくとも一層が請求項1または2に記載の一般式(1)で示される化合物を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記一般式(1)で示される化合物を含む層が発光層であることを特徴とする請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記発光層が、ホストとゲストの2つ以上の化合物からなり、該ホストが前記一般式(1)で示される化合物であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記ゲストが燐光発光材料であることを特徴とする請求項5に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記燐光発光材料が金属配位化合物であることを特徴とする請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記金属配位化合物がイリジウム配位化合物であることを特徴とする請求項7に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記発光層が複数の燐光発光材料を含有することを特徴とする請求項4乃至8の何れかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【公開番号】特開2006−1842(P2006−1842A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176556(P2004−176556)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】