説明

化合物及び前記化合物を有する造影剤

【課題】診断および治療のための医用イメージング技術において、標的結合部と信号発生部からなる化合物が造影に用いられる。しかし造影のための化合物は生体内に存在するプロテアーゼによって切断される場合がある。切断によって、信号発生部が遊離すれば、病変部位に局在せず生体内に分散し、その結果、バックグラウンドノイズが大きくなり問題であった。本発明は生体内での安定性を向上させた化合物、およびそれを用いた腫瘍の検出方法を提供することを課題とする。
【解決手段】抗体部と、アルブミン結合部と、信号発生部を有することを特徴とする化合物を提供する。本発明の化合物は、アルブミン結合部にアルブミンが結合し、分子が安定し、プロテアーゼによって切断されることを防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
化合物及び前記化合物を有する造影剤に関する。
【背景技術】
【0002】
診断、治療などを目的とし、生体、臓器、あるいはそれらに含まれる病変部位等を画像化する技術を医用イメージングという。医用イメージングにおいては、造影剤を用いることで、病変部位等の有無、存在量、あるいは生理活性を画像として表示する(造影)ことができる。造影剤は病変部位(腫瘍または感染性病変など)に局在して、信号を発する。
【0003】
高コントラストに病変部位を造影するために、信号発生部のシグナルをできるだけ特異的に病変部位へ局在させ、その他の部位のバックグラウンドノイズを低下させることが求められる。このため、信号発生部に病変のマーカーと結合する標的結合部位を結合した化合物(このような構造をとる化合物を本明細書中でコンジュゲート分子という場合がある)が造影剤として用いられる。コンジュゲート分子の標的結合部位は病変部位に関連するマーカーなどの分子を特異的に認識する。
【0004】
コンジュゲート分子において、信号発生部を標的結合部に直接結合すると標的結合部の結合能が妨げられる場合がある。この点を改善するために、信号発生部と標的結合部の間にリンカーを設けたコンジュゲート分子が知られる。一方、リンカー部は、二次構造をとらないため、プロテアーゼによって切断され易いという問題があった。
【0005】
血清タンパク質の中で最も多く含まれるのはアルブミンである。血清アルブミンは生体内の特定の物質に結合して保持や運搬といった機能を果たす。生物学的に活性なタンパク質を生体内に投与すると、免疫反応を生じることがあるが、そのタンパク質にアルブミンを結合していると、免疫反応が減るということが知られている。
【0006】
特許文献1は、生体内に投与する、生物学的に活性なタンパク質と血清アルブミンが結合した分子を記載する。ただし、アルブミンを結合させることで、リンカー部の切断を抑制することについては開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2007−531788号公報
【特許文献2】特表2004−535373号公報
【特許文献3】特表2008−515889号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Andreas Jonsson, et. al., Protein Eng. Des. Sel., 21, 515−527, 2008
【非特許文献2】Mark S. Dennis, et. al., Journal of Biological Chemistry, 277, 35035−35043, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
診断および治療のための医用イメージング技術において、標的結合部と信号発生部からなる化合物を生体内へ投与した場合、特に分子内のリンカー部が生体内に存在するプロテアーゼによって切断される場合がある。切断によって、信号発生部が遊離すれば、病変部位に局在せず生体内に分散し、その結果、バックグラウンドノイズが大きくなり問題であった。
【0010】
本願は生体内での安定性を向上させた化合物、およびそれを用いた腫瘍の検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、抗体部と、アルブミン結合部と、信号発生部を有することを特徴とする化合物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の化合物は、血中等において、そのアルブミン結合部にアルブミンが結合し、分子が安定し、プロテアーゼによって切断されることを防ぐ。その結果、切断された状態の信号発生部が非特異的に局在することがなく、バックグラウンドを低減することができる。また、本発明の化合物は、アルブミンと結合することで分子量が増大し、その滞留性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の化合物の模式図を示す。
【図2】マウス血清アルブミン溶液(灰色線)、および分子Aとマウス血清アルブミンとの混合溶液(黒線)のゲルろ過クロマトグラムを示す。
【図3】分子BのMMP2基質配列の残存率を示す。黒はアルブミン非存在下、白はアルブミン存在下を示す。
【図4】アルブミン存在下での、分子Bと分子CのMMP2基質配列の残存率を示す。黒は分子C、白は分子Bを示す。
【図5】分子DのMMP2基質切断率の経時変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、抗体部と、信号発生部と、アルブミン結合部を有し、アルブミン結合部が化合物の切断を阻害することを特徴とする化合物を提供する。本発明の化合物においては、アルブミン結合部に、アルブミンが結合することで、プロテアーゼによって切断されることを妨げる。その結果、切断された状態の信号発生部が非特異的に局在することがなく、バックグラウンドを低減することができる。
【0015】
図1に、本発明の化合物の模式図を示す。図1中1は抗体部、2はアルブミン結合部、3は信号発生部、4はリンカー部、5はアルブミンを示す。アルブミン結合部2に、5で示すアルブミンが結合することで、抗体部2および、信号発生部3および、リンカー部4の近傍は立体的に混み合った状態となる。これによって大きな流体力学的半径を持つプロテアーゼの接近を妨げ、特にリンカー部がプロテアーゼにより切断されることを阻害する効果を奏する。
【0016】
なお、図1に示した模式図は本発明の化合物の1例であり、本発明の範囲はこの分子形態に限定されない。
【0017】
(抗体部)
本発明の化合物において、抗体部は、抗体または人工抗体、あるいはその誘導体である。抗体とは、特定の抗原又は物質に応答して免疫系により誘発されるイムノグロブリンファミリーのタンパク質の総称であり、特定の標的分子を認識し、かつこの標的分子に結合することが可能である。抗体は、マウス抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、もしくはキメラ抗体であり得、または他の種から由来し得る。抗体は、可変ドメインと定常ドメインから成り、可変ドメインは、抗体の結合特異性を決定するものであり、一方、定常ドメインは様々な生理活性機能をもたらす。
【0018】
人工抗体とは、抗体の一部分であり、標的分子結合能を有するそれらの誘導体のことをいう。人工抗体の例としては、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)、重鎖可変(VH)ドメイン単独、軽鎖可変(VL)ドメイン単独、VHとVLの複合体、あるいはラクダ化VHドメイン等であり、特に好ましくはペプチドリンカーで重鎖可変領域と軽鎖可変領域を連結した一本鎖抗体(scfv)が挙げられる。人工抗体は、抗体に比べ、分子サイズが小さくなる結果、高い組織浸透性や早いクリアランス速度を有する事から造影剤としての応用が期待されている。一方、抗体に比べると、人工抗体は生体内安定性が低いことが知られている。本発明の化合物においては、人工抗体を用いた場合であっても、実施例で後述するように、抗体部として、人工抗体を用いた場合、本発明の分子安定性、人工抗体の長所を生かした優れた造影剤として機能する。
【0019】
標的分子としては、例えば癌関連抗原であるVascular Endothelial Growth Factor(VEGF)ファミリー、Vascular Endothelial Growth Factor Receptor(VEGFR)ファミリー、Prostate Specific Antigen(PSA)、Carcinoembryonic Antigen(CEA)、Matrix Metalloproteinase(MMP)ファミリー、Epidermal Growth Factor Receptor(EGFR)ファミリー、Epidermal Growth Factor(EGF)、インテグリンファミリー、セレクチンファミリー、エンドグリン、MUCファミリーなどが例示される。標的となる抗原に応じた抗体を用いる事で、その標的に結合する本発明にかかる化合物を調製することができる。特に好ましくは、HER2、VEGF−Aであり、実施例で後述するように、本発明の化合物は、これらの標的に対して高い結合性を有する。
【0020】
抗体部として、好ましい配列の例は配列番号5で示される次の配列である。
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDVNTAVAWYQQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSRSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQHYTTPPTFGQGTKVEIKGGGGSGGGGSGGGGSEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFNIKDTYIHWVRQAPGKGLEWVARIYPTNGYTRYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCSRWGGDGFYAMDYWGQGTLVTVSS(配列番号5)
【0021】
(アルブミン結合部)
アルブミン結合部は、少なくとも下記のいずれかのアミノ酸配列を有するポリペプチドであることが好ましい。なお、配列番号6から9は非特許文献1を参照することができる。また、配列番号10から47は特許文献2、3あるいは非特許文献2を参照することができる。
【0022】
LAEAKVLANRELDKYGVSDYYKNLINKAKTVEGVKALIDEILAALP(配列番号6)
LAEAKVLANRELDKYGVSDYYKNIINRAKTVEGVRALKLHILAALP(配列番号7)
LAEAKVLANRELDKYGVSDYYKNLINKAKTVEGVEALTLHILAALP(配列番号8)
LAEAKVLANRELDKYGVSDFYKRLINKAKTVEGVEALKLHILAALP(配列番号9)
RLIEDICLPRWGCLWEDD(配列番号10)
QRLMEDICLPRWGCLWEDDF(配列番号11)
QGLIGDICLPRWGCLWGDSVK(配列番号12)
GEWWEDICLPRWGCLWEEED(配列番号13)
QRQMVDFCLPQWGCLWGDGF(配列番号14)
QRHPEDICLPRWGCLWGDDD(配列番号15)
NRQMEDICLPQWGCLWGDDF(配列番号16)
QRLMEDICLPRWGCLWGDRF(配列番号17)
QWHMEDICLPQWGCLWQDVL(配列番号18)
QWQMENVCLPKWGCLWEELD(配列番号19)
LWAMEDICLPKWGCLWEDDF(配列番号20)
LRLMDNICLPRWGCLWDDGF(配列番号21)
HSQMEDICLPRWGCLWGDEL(配列番号22)
QWQVMDICLPRWGCLWADEY(配列番号23)
QGLIGDICLPRWGCLWGDSV(配列番号24)
HRLVEDICLPRWGCLWGNDF(配列番号25)
QMHMMDICLPKWGCLWGDTS(配列番号26)
LRIFEDICLPKWGCLWGEGF(配列番号27)
QSYMEDICLPRWGCLSDDAS(配列番号28)
QGDFWDICLPRWGCLSGEGY(配列番号29)
RWQTEDVCLPKWGCLFGDGV(配列番号30)
QGLIGDICLPRWGCLWGDSV(配列番号31)
LIFMEDVCLPQWGCLWEDGV(配列番号32)
QRDMGDICLPRWGCLWEDGV(配列番号33)
QRHMMDFCLPLWGCLWGDGY(配列番号34)
QRPIMDFCLPKWGCLWEDGF(配列番号35)
ERQMVDFCLPKWGCLWGDGF(配列番号36)
QGYMVDFCLPRWGCLWGDAN(配列番号37)
KMGRVDFCLPKWGCLWGDEL(配列番号38)
QSQLEDFCLPKWGCLWGDGF(配列番号39)
QGGMGDFCLPQWGCLWGEDL(配列番号40)
QRLMWEICLPLWGCLWGDGL(配列番号41)
QRQIMDFCLPHWGCLWGDGF(配列番号42)
GRQVVDFCLPKWGCLWEEGL(配列番号43)
QMQMSDFCLPQWGCLWGDGY(配列番号44)
KSRMGDFCLPEWGCLWGDEL(配列番号45)
ERQMEDFCLPQWGCLWGDGV(配列番号46)
QRQVVDFCLPQWGCLWGDGS(配列番号47)
【0023】
(信号発生部)
信号発生部は、放射性ハロゲン、放射性同位元素、常磁性金属イオン、酸化鉄粒子、金ナノ粒子、マイクロバブル、蛍光性化合物、燐光性化合物から選択される。信号発生部の具体例として、123I、124I、125I、131I、75Br、76Br、77Brおよび82Brなどの放射性ハロゲンが挙げられる。また、99mTc、111In、203Pb、66Ga、67Ga、68Ga、161Tb、72As、113mIn、97Ru、62Cu、64Cu、67Cu、52Fe、52mMn、51Cr、186Re、188Re、77As、90Y、169Er、121Sn、127Te、142Pr、143Pr、198Au、199Au、109Pd、165Dy、149Pm、151Pm、153Sm、157Gd、159Gd、166Ho、172Tm、169Yb、175Yb、177Lu、105Rh、111Ag、47Sc、140La、211At、212Bi、213Bi、212Pb、225Ac、223Ra、224Ra、227Thなどの放射性同位元素も使用できる。常磁性金属の例として、Gd3+、Fe3+、Eu3+、Dy3+、La3+、Yb3+、Mn2+などを用いることができる。近赤外蛍光化合物の例としては、Alexa Fluor(invitrogen社登録商標)750、Alexa Fluor790、Vivotag(invitrogen社商標)680(Invitrogen)、Vivotag−S(VisEn Medical社商標)680、Vivotag−S750、AminoSPARK(VisEn Medical社商標)680、AminoSPARK750(VisEn Medical, Inc.)、DyLight(Thermo Fisher Scientific社商標)680、DyLight750、Dylight800(Thermo Fisher Scientific, Inc.)、IRDye(LI−COR Biosciences社登録商標)700DX、IRDye800CW、IRDye800RS(LI−COR Biosciences, Inc.)、Cy(GE Healthcare UK社商標)5.5(GE Healthcare UK Ltd.)などが使用できる。
【0024】
信号発生部は、リンカー部を介して、あるいは直接アルブミン結合部に結合する。なお、それ以外のところに追加的に結合しても本発明を妨げるものではない。信号発生部とリンカー部あるいはアルブミン結合部との結合方法は限定されず、間に結合のための分子を介して結合してもよい。結合の方法としては、カルボキシル基とアミノ基、チオール基あるいはヒドロキシル基とのカップリング、あるいは、アミノ基と、スルホン酸基、ヒドロキシスクシンイミド基、アルデヒド基、チオール基、イソチオシアネート基、グリシジル基とのカップリングカップリング、あるいは、ヒドロキシル基またはチオール基とカルボキシル基、スルホン酸基、ハロゲン、ジスルヒド、マレイミド基とのカップリングなどを挙げることができる。また、信号発生部が金属または同位元素の場合は、カルボキシル、ホスホン酸またはスルホン酸基を有する残基で置換された、ジエチレントリアミンもしくはポリアミン大員環からキレート基を誘導し、これを介して結合することができる。
【0025】
なお、信号発生部としては近赤外波長領域において吸収および発光する近赤外蛍光化合物が特に好ましい。
【0026】
信号発生部として好ましい構造は、以下で示す化学式1の構造あるいはその誘導体、および化学式2の構造あるいはその誘導体である。
【化1】

【化2】

【0027】
(リンカー部)
リンカー部は存在してもしなくてもよいが存在する場合はアルブミン結合部と信号発生部の間、あるいは抗体部とアルブミン結合部の間、あるいはその両方に存在する。図1で示されるのは、両方に存在する場合である。リンカー部の配列は任意のポリペプチドであってよい。リンカー部の配列の例として、本実施例で用いたアミノ酸配列AAA、アミノ酸配列HHHHHHGGC(配列番号48)を含むポリペプチドを挙げることができる。
【0028】
(リンカー部の長さ)
ヒト血清アルブミンと、Finegoldia magnaのアルブミン結合部であるGAモジュールとの複合体の結晶構造はProtein Data Bank(http://www.pdb.org/pdb/home/home.do)のPDB ID:1TF0で示される。配列番号6乃至9は上記GAモジュールと相同性があり、この構造に基づき、本発明の化合物の構造を推定することができる。本発明の化合物に対してアルブミンが結合した際に、プロテアーゼの切断からリンカー部が保護されるためには、リンカー部の長さが6nm以下であることが望ましく、そのためには、リンカー部は0残基以上15残基以下のアミノ酸配列であることが望ましい。
【0029】
(検出方法)
本発明の化合物は、生体分子、例えば腫瘍関連抗原のイメージングに用いることができ、さらに、腫瘍に関連した分子の異常な発現のイメージング方法に用いることができる。
本発明の化合物は、培養された細胞や組織を対象として使用することができ、あるいは、動物、ヒトなどの生体を対象として用いることもできる。それぞれ対象の大きさなどを考慮し、測定方法を決定し、それに応じた信号発生部を選択することができる。
本発明の化合物の検出は、信号発生部に応じた検出系を用いる。検出系の例として、蛍光検出系あるいは光音響信号検出系などを挙げることができる。本発明の化合物を用いた検出は、本発明は本発明にかかる化合物を対象の標的分子と接触させる工程と、信号発生部由来の信号から生体分子の存在あるいは量、あるいは位置を検出する工程により行うことができる。
また、本発明の化合物を用いた検出は、化合物を培養細胞、生体から採取した細胞もしくは組織、又は生体に作用させる工程と、疾病に関連した抗原分子を検出することにより疾病の位置と状態をモニタリングする工程により行うことができる。
【0030】
(造影剤)
本発明の化合物は、疾病に関連した標的分子を検出することが出来る診断用組成物、特に造影剤として用いることが出来る。
より具体的には、本発明の造影剤は腫瘍の部位で高発現している抗原分子を捕捉可能とする造影剤であり、より好ましくは、HER2陽性の腫瘍部位あるいはVEGF陽性腫瘍部位の検出を可能とする造影剤である。本発明の造影剤は、疾病の診断を高感度に実施することができる低侵襲性の手段を可能とする。
本発明の造影剤は、上記化合物のほかに分散媒を含むことができる。分散媒は、本発明の化合物を分散させるための液状の物質であり、例えば生理食塩水、注射用蒸留水などが挙げられる。本発明の造影剤は、あらかじめ本発明の化合物を分散媒に予め分散させておいてもよいし、あるいは本発明の化合物と分散媒とを生体内に投与する前に化合物を分散媒に分散させて使用してもよい。
【実施例】
【0031】
以下の実施例では具体的な試薬や反応条件を挙げてはいるが、種々の変更が可能であり、それらもまた本発明の範囲に包摂されるものとする。従って以下の実施例は、本発明の理解を助けることが目的であり、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0032】
(実施例1 抗体部とアルブミン結合部からなる化合物)
始めに、HER2へ結合するscFv(抗体部)と、プロテインG由来のアルブミン結合部からなる化合物(以下分子Aと呼ぶ)を大腸菌発現系にて作製した(配列番号1)。金属キレートアフィニティークロマトグラフィーによる粗精製の後、ゲルろ過によってマウス血清アルブミンとの結合を確認した(図2)。マウス血清アルブミンのみをゲルろ過した場合(灰色線)、14mL(70kDa)付近に溶出が確認された。一方で分子Aとマウス血清アルブミンを混合しゲルろ過した場合(黒線)、13mL付近(110kDa)に両者の複合体の溶出が確認された。この図より、分子Aはアルブミンと結合することが示された。
【0033】
(実施例2 本発明の化合物)
HER2へ結合するscFv(抗体部)と、アルブミン結合部およびMatrix Metalloproteinase 2(MMP2)の基質配列からなるリンカー部を有する化合物を大腸菌発現系にて作製した(配列番号2)。更にこの化合物のMMP2基質配列の末端に信号発生部としてAlexa Fluor(invitrogen社登録商標)750をコンジュゲートした。この化合物を以下では分子Bと呼ぶ。分子Bを、2倍量のヒト血清アルブミン存在下、または非存在下で、分子Bに対して4000分の1量のMMP2と共に37℃で4時間インキュベートした。反応後の溶液をゲルろ過し、Alexa Fluor 750に由来する吸収プロファイルを観察した。吸収プロファイルから、全蛍光色素吸収強度に対する、MMP2によって切断されなかった蛍光色素吸収強度の割合を、基質配列の残存率としてグラフにまとめた(図3)。その結果、血清アルブミン非存在下(黒)の場合と比較して、存在下(白)ではMMP2による酵素的切断が抑制されていることが確認できた。
【0034】
(比較例1 アルブミン結合部を持たない化合物)
HER2へ結合するscFv(抗体部)と、Matrix Metalloproteinase 2(MMP2)の基質配列からなるリンカー部を有する化合物を大腸菌発現系にて作製した(配列番号3)。更にこの化合物のリンカー部に相当するMMP2基質配列の末端に信号発生部としてAlexa Fluor 750をコンジュゲートした。この化合物を以下では分子Cと呼ぶ。同濃度の分子Bおよび分子Cを、2倍量のヒト血清アルブミン存在下で、4000分の1量のMMP2と共に37℃で4時間インキュベートした。反応後の溶液をゲルろ過し、Alexa Fluor 750に由来する吸収プロファイルを観察した。ゲルろ過の結果から、全蛍光色素吸収強度に対する、MMP2によって切断されなかった蛍光色素吸収強度の割合を、基質配列の残存率としてグラフにまとめた(図4)。その結果分子C(黒)と比較して、分子B(白)はMMP2による酵素的切断が抑制されていることが確認できた。
【0035】
(実施例3 アルブミン結合部と信号発生部からなる化合物)
アルブミン結合部にMatrix Metalloproteinase 2(MMP2)の基質配列からなるリンカー部を結合した配列番号4からなる配列に信号発生部としてFluorescein isothiocianate(FITC)を結合した分子を作製した(以下では分子Dと呼ぶ)。分子Dを、2倍量のマウス血清アルブミン存在下、または非存在下で、分子Dに対して4000分の1量のMMP2と共に37℃でインキュベートした。インキュベート開始時を0時間として、7時間後まで適宜反応溶液を回収しゲルろ過によってFITCの吸収プロファイルを観察した。ゲルろ過の結果から、全FITC吸収強度に対する、MMP2によって切断されたFITCの吸収強度の割合を、基質配列の切断率としてグラフにまとめた(図5)。その結果、血清アルブミン非存在下(黒丸)の場合と比較して、存在下(白丸)ではMMP2による酵素的切断が抑制されていることが確認できた。
【0036】
更に、アルブミン結合部を持たない化合物を用いて同様の実験をおこなった結果、血清アルブミンの有無に関わらず、MMP2によるリンカーの切断が観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体部と、アルブミン結合部と、信号発生部を有することを特徴とする化合物。
【請求項2】
抗体部と、信号発生部とが、アルブミン結合部を介して結合していることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
抗体部とアルブミン結合部の間、あるいは信号発生部とアルブミン結合部の間、あるいはその両方にリンカー部を有することを特徴とする請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
抗体部が一本鎖抗体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
抗体部がHER2に結合することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
抗体部が、以下の配列番号5の下記のアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の化合物。
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDVNTAVAWYQQKPGKAPKLLIYSASFLYSGVPSRFSGSRSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQQHYTTPPTFGQGTKVEIKGGGGSGGGGSGGGGSEVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFNIKDTYIHWVRQAPGKGLEWVARIYPTNGYTRYADSVKGRFTISADTSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCSRWGGDGFYAMDYWGQGTLVTVSS(配列番号5)
【請求項7】
アルブミン結合部が、以下の配列番号6から47のいずれかのアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の化合物。
LAEAKVLANRELDKYGVSDYYKNLINKAKTVEGVKALIDEILAALP(配列番号6)
LAEAKVLANRELDKYGVSDYYKNIINRAKTVEGVRALKLHILAALP(配列番号7)
LAEAKVLANRELDKYGVSDYYKNLINKAKTVEGVEALTLHILAALP(配列番号8)
LAEAKVLANRELDKYGVSDFYKRLINKAKTVEGVEALKLHILAALP(配列番号9)
RLIEDICLPRWGCLWEDD(配列番号10)
QRLMEDICLPRWGCLWEDDF(配列番号11)
QGLIGDICLPRWGCLWGDSVK(配列番号12)
GEWWEDICLPRWGCLWEEED(配列番号13)
QRQMVDFCLPQWGCLWGDGF(配列番号14)
QRHPEDICLPRWGCLWGDDD(配列番号15)
NRQMEDICLPQWGCLWGDDF(配列番号16)
QRLMEDICLPRWGCLWGDRF(配列番号17)
QWHMEDICLPQWGCLWQDVL(配列番号18)
QWQMENVCLPKWGCLWEELD(配列番号19)
LWAMEDICLPKWGCLWEDDF(配列番号20)
LRLMDNICLPRWGCLWDDGF(配列番号21)
HSQMEDICLPRWGCLWGDEL(配列番号22)
QWQVMDICLPRWGCLWADEY(配列番号23)
QGLIGDICLPRWGCLWGDSV(配列番号24)
HRLVEDICLPRWGCLWGNDF(配列番号25)
QMHMMDICLPKWGCLWGDTS(配列番号26)
LRIFEDICLPKWGCLWGEGF(配列番号27)
QSYMEDICLPRWGCLSDDAS(配列番号28)
QGDFWDICLPRWGCLSGEGY(配列番号29)
RWQTEDVCLPKWGCLFGDGV(配列番号30)
QGLIGDICLPRWGCLWGDSV(配列番号31)
LIFMEDVCLPQWGCLWEDGV(配列番号32)
QRDMGDICLPRWGCLWEDGV(配列番号33)
QRHMMDFCLPLWGCLWGDGY(配列番号34)
QRPIMDFCLPKWGCLWEDGF(配列番号35)
ERQMVDFCLPKWGCLWGDGF(配列番号36)
QGYMVDFCLPRWGCLWGDAN(配列番号37)
KMGRVDFCLPKWGCLWGDEL(配列番号38)
QSQLEDFCLPKWGCLWGDGF(配列番号39)
QGGMGDFCLPQWGCLWGEDL(配列番号40)
QRLMWEICLPLWGCLWGDGL(配列番号41)
QRQIMDFCLPHWGCLWGDGF(配列番号42)
GRQVVDFCLPKWGCLWEEGL(配列番号43)
QMQMSDFCLPQWGCLWGDGY(配列番号44)
KSRMGDFCLPEWGCLWGDEL(配列番号45)
ERQMEDFCLPQWGCLWGDGV(配列番号46)
QRQVVDFCLPQWGCLWGDGS(配列番号47)
【請求項8】
リンカー部が、以下の配列番号48または以下に示す配列のいずれかのアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の化合物。
HHHHHHGGC(配列番号48)
AAA
【請求項9】
信号発生部が、放射性ハロゲン、放射性同位元素、常磁性金属イオン、酸化鉄粒子、金ナノ粒子、マイクロバブル、蛍光性化合物、燐光性化合物を少なくとも1つ以上含んでいる請求項1乃至8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項10】
信号発生部が次の化学式1で表される構造またはその誘導体であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の化合物。
【化1】

【請求項11】
信号発生部が次の化学式2で表される構造またはその誘導体であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の化合物。
【化2】

【請求項12】
前記請求項1乃至11のいずれか1項に記載の化合物と、分散媒とを有することを特徴とする造影剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−17281(P2012−17281A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154827(P2010−154827)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】