説明

化学レジスタセンサの感度及び/又は選択性を変える方法

【課題】センサ/センサアレイを組み立てた後で化学レジスタセンサの感度及び/又は選択性を変えるための方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、化学レジスタセンサの感度及び/又は選択性を変える方法と、このような方法により製造されるセンサおよびセンサアレイに関する。化学レジスタセンサは、電気的に非導電性のマトリックス中に埋め込まれた複数の導電性粒子又は半導体性粒子を有する感知層を含み、感知層が複数の被酸化性化学官能基を含んでおり、この方法は、上記感知層を酸化反応させる段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学レジスタセンサの感度及び/又は選択性を変える方法と、かかる方法により製造されるセンサおよびセンサアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
導電性ナノコンポジット材料に基づいて流体相(例えば、ガスおよび蒸気)中で検体を検出するための化学レジスタ(chemiresistor)センサは、非導電性もしくは半導性媒体に分散される導電性成分を含む。導電性成分として金属ナノ粒子、カーボンブラックナノ粒子または導電性ナノファイバーが使用されてもよい。非導電性成分は、典型的には有機材料であり、導電性粒子が分布される連続相として作用する。非導電性材料は、金属ナノ粒子のキャッピングリガンド(capping ligand)として機能する機能化された有機分子、又は、三次元網目(three−dimensional network)中の粒子を相互連結するように機能する機能化された有機分子を更に含んでも良い。
【0003】
これらのセンサの動作原理は、複合材料中での検体の収着により引き起こされる膜抵抗の変化を測定することを含む。化学レジスタの感度は、この複合材料が検体の存在において容積変化を行う能力に依存すると考えられる。化学レジスタの化学選択性は、ある程度、ナノコンポジット材料の有機成分中の化学組成および特定の官能基の存在に依存する。典型的には、これらの化学レジスタの検体に対する検出限界は、低パーツ・パー・ミリオン(ppm)の濃度範囲にある。
【0004】
感知層の化学組成を変更することで検体に対する無機/有機複合体化学レジスタの感度および化学選択性を改善することに関して、多数の研究が行われている[1]。
【0005】
加えて、複数の異なるセンサをアレイに組み合わせることは、素子の認識能を増進する。時には「e−ノーズ」とも呼ばれるこのようなアレイの例は、[2]で述べられている。
【0006】
[1]特許文献1は、連結体分子中に選択性増進ユニットを導入することにより高選択性のナノ粒子/有機相互連結センサを作製する方法を述べている。選択性増進官能基の極めて近傍に更なる微調整ユニットを導入することによって、選択性の微調整を得ることができる。特許文献2は、リガンドシェル(ligand shell)に官能基を導入し、ターゲット検体を収着する活性点をもたらすことによりセンサの選択性が特別に調整されている、チオールでカプセル化されたAu−ナノ粒子の膜をベースとするセンサについて述べている。特許文献3は、ポリマー及び/又はポリマー/モノマー混合物のブレンドを用いて有機成分の組成を変えることにより、カーボンブラック/ポリマー化学レジスタの選択性を調整する方法を開示している。
【0007】
[2]特許文献4は、検体を検出するための技術およびシステムを開示している。ここでは、センサアレイ、電気的読み出し、パターン認識と組み合わされた電気信号のプリプロサッサーを含むセンサシステム(e−ノーズ)が詳述されている。
【0008】
【特許文献1】EP1215485号公報
【特許文献2】W09927357号パンフレット
【特許文献3】US6,290,911号明細書
【特許文献4】WO9908105号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の複合化学レジスタセンサの選択性を特別に調整することにおいて成果を収めたことは、希望を与えるものであるが、改善の必要性がなお存在する。現在のところ、化学レジスタの感度および選択性は、所望の化学組成と官能基を持つ新しい有機材料を設計することにより増進される。これは広範で複雑な化学合成作業を必要とする。異なる感応性材料を一つの素子中で組み合わせて、化学レジスタアレイを作製することは、各個別感応性材料のパターン形成段階を伴うために、更に困難で高コストである。
【0010】
したがって、本発明の目的は、化学レジスタセンサの感度及び/又は選択性を、センサ/センサアレイを組み立てた後で変えるための方法を提供することであった。更には、本発明の目的は、実施が容易であり、組み立てコストを低下させる、感度及び/又は選択性を変えるこのような方法を提供することであった。更には、本発明の目的は、多様であり、かつ化学レジスタセンサの使用者が使用者の用途の特定のニーズにセンサを適用することにより使用し得る方法を提供することであった。更には、本発明の目的は、個別のセンサの異なる選択性及び/又は感度が達成され得るように、化学レジスタセンサアレイ中で化学レジスタセンサの感度及び/又は選択性を変えることを可能とする方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、化学レジスタセンサの感度及び/又は選択性を変える方法であって、前記化学レジスタセンサが電気的に非導電性のマトリックス中に埋め込まれた複数の導電性粒子もしくは半導体性粒子を有する感知層を含み、前記感知層が複数の被酸化性化学官能基を含み、前記方法が前記感知層を酸化反応させる段階を含む方法により解決される。
【0012】
好ましくは、前記酸化反応は、制御された酸化反応であり、前記センサを空気に定義されていない形で暴露することはでない。
【0013】
一実施形態においては、前記酸化反応は、気相による反応及び/又は液相による反応である。
【0014】
好ましくは、前記反応は、以下に示す気相反応のいずれか一つまたはいくつかを含む。
―前記感知層を定義された空気の温度で定義された時間空気に暴露すること(ここで、好ましくは前記定義された時間は、1分から300分の範囲にあり、前記定義された空気の温度は、0℃から500℃の範囲にある。)
―前記感知層をオゾンに暴露すること
―前記感知層を酸素プラズマに暴露すること
―前記感知層をSOに暴露すること
―前記感知層を窒素酸化物に暴露すること
【0015】
好ましくは、前記酸化反応は、以下に示す得気相反応のいずれか一つまたはいくつかを含む。
―前記感知層を過酸化水素の水溶液に暴露すること
―前記感知層をKMnOの水溶液に暴露すること
【0016】
好ましくは、前記暴露は、180〜1200nmの範囲の波長の電磁波を用いて、前記感知層を照射しながら行われる。
【0017】
一実施形態においては、前記オゾンへの暴露、酸素プラズマへの暴露、SOへの暴露、窒素酸化物への暴露は、1秒から600秒の範囲の時間行われる。
【0018】
好ましくは、前記被酸化性化学官能基は、前記感知層内で、前記酸化反応により酸化され、更に好ましくは、前記複数の被酸化性化学官能基のある比率のみが前記酸化反応により酸化され、ここで更により好ましくは、前記比率は≧20%(20%以上)、更に好ましくは≧40%(40%以上)、更に好ましくは≧60%(60%以上)および最も好ましくは≧80%(80%以上)である。
【0019】
一実施形態においては、前記導電性粒子もしくは半導体性粒子は、<1μm(1μm未満)、好ましくは<500nm(500nm未満)、更に好ましくは<300nm(300nm未満)および最も好ましくは<100nm(100nm未満)の平均直径を有する粒子である。ここで好ましくは、前記粒子は、金属粒子または半導体粒子であり、更に好ましくは、前記粒子は、金属粒子、すなわち、Au、Pt、Ag、Pdなどの貴金属粒子、Cu、Ni、Feなどの貨幣金属粒子、単一ナノ粒子におけるこれらの金属の組み合わせ、例えば合金あるいはコア/シェル金属ナノ粒子、半導体ナノ粒子、例えば、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、HgS、HgSe、HgTeなどのII/VI半導体、あるいはGaAs、InPなどのIII/V半導体、導電性ポリマーなどの有機材料から導電性または半導体性のナノ粒子、カーボンブラック粒子または金属装飾されたカーボンブラック粒子、例えば、Pt/カーボンブラックまたはPtRu/カーボンブラックナノ粒子などの導電性粒子からなる群から選択される粒子である。
【0020】
一実施形態においては、前記電気的に非導電性のマトリックスは、二官能性又は多官能性の連結体分子(linker molecule)の網目(network)であり、前記粒子は前記連結体分子により相互連結されているか、又は、前記電気的に非導電性のマトリックスは、単官能性、二官能性もしくは多官能性リガンド分子(ligand molecule)の網目であり、前記粒子が前記リガンド分子によりキャップされている。
【0021】
好ましくは、前記電気的に非導電性のマトリックスは、少なくとも1つのポリマーで形成されており、更に好ましくは、前記ポリマーは、ポリ(アミド)、ポリ(アミドアミン)、ポリ(プロピレンイミン)、ポリ(フェニレン)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンイミン)、超分岐ポリ(エチレンイミン)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(スチレン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(4−ビニルフェノール)、ポリ(エピクロロヒドリン)、ポリ(イソブチレン)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(カプロラクトン)フルオロポリオール、ポリシロキサン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、または、エチレンオキシド−アミドアミン共重合体、エチレン−ビニルアセテート共重合体、スチレン−アリルアルコール共重合体、ビニルクロリド−ビニルアセテート共重合体、スチレン−マレイン酸無水物共重合体、ビニルメチルエステル−マレイン酸無水物共重合体のようなコポリマーおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0022】
一実施形態においては、前記方法は、上記に定義されているような複数の化学レジスタセンサの化学レジスタセンサアレイに適用され、各センサは上記に定義されているような感知層を有し、異なるセンサの前記感知層は、種々の程度まで酸化反応にかけられ、好ましくは、一部の感知層は前記酸化反応から保護され、前記酸化反応にかけられないようになり、更に好ましくは、一部の感知層は、マスクを使用して、感知層を覆うこと、例えば前記感知層を酸化溶液の中に浸さないこと、前記感知層を酸化性ガスに暴露しないことにより感知層を酸化条件に暴露しないこと、のいずれか一つまたはいずれかの組み合わせにより保護される。
【0023】
一実施形態においては、前記化学レジスタセンサアレイ内で異なる感知層は、種々の程度まで酸化を受けるようになり、異なる感知層は、酸化反応の結果として異なる比率の酸化された被酸化性化学官能基を有し、好ましくは、前記化学レジスタセンサアレイ内で、ある比率の感知層が0%の酸化された被酸化性基を有し、ある比率の感知層が≧20%(20%以上)の酸化された被酸化性基を有し、ある比率の感知層が≧40%(40%以上)の酸化された被酸化性基を有し、ある比率の感知層が≧60%(60%以上)の酸化された被酸化性基を有し、ある比率の感知層が≧80%(80%以上)の酸化された被酸化性基を有し、ならびにある比率の感知層がすべての酸化された被酸化性基を有する。
【0024】
本発明の目的は、本発明に従った方法により製造される化学レジスタセンサによっても解決される。
【0025】
本発明の目的は、本発明に従った方法により製造され、すべての個別のセンサが同一の方法で処理されるか、もしくは個別のセンサの少なくとも一部が異なる処理を受けた、すなわち異なる程度まで酸化を受けた化学レジスタセンサアレイによっても解決される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、化学レジスタセンサの感度及び/又は選択性を、センサ/センサアレイを組み立てた後で変更することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0028】
驚くべきことには、本発明者らは、化学レジスタセンサの感知層上で酸化反応を行うことにより、このようなセンサの感度及び/又は選択性が劇的に変えられ得るということを見出した。例えば、このようなセンサ上で酸化反応を行うことにより、疎水性検体に対する感度が減少し、親水性検体に対する感度が増加するようになり得る。これらの結果として、それぞれのセンサの選択性は変化する。このような酸化反応を行うことは、通常、実施が簡単であり、化学実験室で普通に入手し得る標準的な装置を用いて行うことができる。酸化反応を行うことは、酸化可能な化学官能基(「被酸化性基」)の存在に依存するので、単一のセンサ中のすべての被酸化性基の比率のみが酸化されるようになるか、もしくは化学レジスタセンサアレイ内で異なるセンサが異なる程度まで酸化を受けるようになり、異なる感度及び/又は選択性を有する異なる化学レジスタセンサを提供するように、酸化反応を本発明に従って特別に調整および制御することができる。
【0029】
「検体感知層」または「感知層」という用語は、本明細書中で使用される場合、検体の存在に応答して、慣用の手段により、例えばこの層の化学抵抗を測定することにより測定可能な信号を生じる層を指定するように意図されている。
【0030】
「ナノ粒子」という用語は、本明細書中で使用される場合、<1μm(1μm未満)の特性的な寸法を有する粒子を指定するように意図されている。更には、このようなナノ粒子は、異なる形状、すなわち、多面体(球状)、棒状、円盤状もしくはフラクタル状、例えばマルチポッド状、星状、先端の尖った形状を有することができる。典型的には、これらのナノ粒子の特性的な直径は、平均で<1μm(1μm未満)、好ましくは≦500nm(500nm以下)、更に好ましくは≦300nm(300nm以下)である。好ましい実施形態においては、前記粒子は、1nmから100nmの範囲の平均直径を有し、最も好ましくは1nmから50nmの範囲の平均直径を有する。しかしながら、ナノ粒子のサイズは、特定の検体に対する化学選択性を決定及び/又は特定の検体に対する化学選択性に影響することもあるので、それぞれのナノ粒子の実際のサイズは、検出対象のそれぞれの検体にも依存する。しかしながら、どの場合にも、前記ナノ粒子の寸法が>1μm(1μm超過)であることはない。翻って、前述の寸法要件に合致する粒子は、本出願内で「ナノ粒子」とも呼ばれ得る。
【0031】
「前記被酸化性化学官能基のある比率が酸化を受ける」という表記は、このような感知層上に存在するすべての被酸化性化学官能基を100%と考えるならば、この比率はこのような100%の分率であるということを意味すると意図されており、本発明に従った反応により酸化を受けるようになるのは、このような分率である。例えば、センサ中で本発明に従って酸化を受ける化学官能基の比率は≧20%(20%以上)であってもよく、これはこのようなセンサの感知層中に存在するすべての被酸化性化学官能基の少なくとも20%が本発明に従った方法により酸化を受けるようになるということを意味する。同様に、アレイ内の1つのセンサが≧10%(10%以上)の酸化された被酸化性基を有し、同一のアレイ内の別のセンサが0%の酸化された被酸化性基を有し、ならびに同一のアレイ内の更に別のセンサが≧80%の酸化された被酸化性基を有するように、異なるセンサおよびこれらのそれぞれの感知層は、化学レジスタセンサアレイ中で異なる酸化反応または異なる程度まで酸化反応にかけられ得る。このようにして、アレイ中に存在するすべてのセンサ中で元々同一の感度を有するアレイは、各センサが異なる感応性を有するセンサのアレイに変化可能である。
【0032】
「酸化」という用語は、本明細書中で使用される場合、酸化を受けるようになる実体が電子を放出する工程を示すと意図される。更に特定の意味では、「酸化」という用語は、酸素が関与し、酸化物が生成される反応を指すと意図される。
【0033】
本発明に従った化学レジスタにおいては、導電性もしくは半導体性粒子は、非導電性のマトリックス中に埋め込まれる。このような非導電性のマトリックスは、一実施形態においては、好ましくはポリマー型である。別の一実施形態においては、前記非導電性のマトリックスは、導電性又は半導体性粒子を相互に連結する有機連結体分子により形成されるか、もしくは前記導電性もしくは半導体性粒子へのキャッピング基(被覆基)として機能する有機リガンド分子により形成される。好適な有機連結体分子および有機リガンド分子は、例えば、参照により全体で組み込まれている、欧州特許出願第00127149.3号および欧州特許出願第05025558.7号で開示されている。
【0034】
「導電性」という用語は、本明細書中で使用される場合、電子または正孔の輸送能を指す。「電気的に非導電性」のポリマーはこのような輸送能を持たないポリマーである。
【0035】
検体感知層を作製することができる方法は、当業者には既知であり、例えば欧州特許第1215485Al号公報でも述べられている。これらは、例えば基板をナノ粒子/ナノファイバーの分散液および有機構成成分(例えば、ポリマーは、有機ポリマー型マトリックスまたは連結体分子を構成する)の溶液の中に繰り返し順次浸漬し、その後に乾燥することを伴う、層ごとの堆積により作製され得る。検体感知層を作製する他の可能な方法は、スピンコート法、ドロップキャスト法、スプレーコート法、インクジェット印刷、スタンプ法、溶液からのリガンド交換沈殿、ラングミュア−ブロジェット法およびラングミュア−シェファー法を含む。
【0036】
本発明に従った化学レジスタセンサは、本明細書中で使用される場合には、液相および気相の両方を含むように意図されている「流体相」中での検体の検出能を有する。
【0037】
いかなる理論によっても拘束されるように望むことなく、本発明者らは、本発明にしたがった方法が成功したことを化学レジスタセンサの検体感知層内の被酸化性化学官能基の存在に帰する。
【0038】
化学酸化処理により変えることが可能な、有機物でカプセル化された伝導性粒子(例えば、ポリマー中に埋め込まれたカーボンブラックまたは有機マトリックス中で相互連結された金属ナノ粒子など)をベースとする感応性被膜は、炭素、酸素、硫黄または窒素を含有する官能基を暴露しなければならない。このような種類の被酸化性の官能基のよく知られた例は、
R−SH−−−>−−−>R−SO
R−CH−R−−−−−−>R−CHOH−R
R−CH−OH−−−−−>R−CO−H−−−−−>R−CO−OH
R−NH−−−−>R−NO−−−−−>R−NO
である。
【0039】
官能基の可能な変換または詳細な反応手順の他の例は、これらに参照することにより全体で組み込まれている、有機化学の既知の教科書(例えば、「Organic Chemistry」,Salomons,4th ed.,1988,Wiley;「Advanced Organic Chemistry」,March,3rd ed.,1985,Wiley,「Organische Chemie」,Vollhardt,1.ed.,1988,VCH,Verlagsgesellschaft)に示されている。
【0040】
本発明に従った酸化反応は、気相反応または液相を含む反応であることができる。酸化するための可能な気相法は、限定ではないが、材料を空気、オゾン、酸素プラズマ、SOまたは窒素酸化物に暴露することを含む。センサを液体中に入れる(例えば、浸漬する)ことにより、又は液体をセンサ上に載せることにより(例えば、インクジェット印刷、スプレーなどによる液滴)、液相反応を行うことができる。湿式の化学酸化は、限定ではないが、過酸化水素との反応を含む。センサ材料を変えるために、一つの酸化を排他的に適用することができるのみならず、種々の反応を一つずつ適用することができる。また、処理の時間、温度または化学量論(ストイキオメトリー)を変えることにより、酸化処理の強さを変えることができる。
【0041】
酸化可能な特に好ましい材料は、二官能性もしくは多官能性有機分子により相互連結された金属ナノ粒子を含み、層ごとの自己集合により作製される感応性被膜である(下記の図1およびEP1022560号を比較のこと。)。
【0042】
更には、次の実施例を参照するが、これは本発明の限定でなく、例示のために示される。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
種々の材料のうちで、有機ポリチオールもしくはジチオールにより相互連結された金ナノ粒子が特に適している。EP00 127 149号およびEP05 0255 58.7号で述べられているように、これらを作製した。相互連結性アルキレンジチオールの最も単純な場合には、官能基のSH基を例えばオゾン処理により酸化することができる。
【0044】
層ごとの自己集合により作製されるノナンジチオールで相互連結された金ナノ粒子のX線光電子スペクトル(図2に示す。)は、処理前には大部分Au−S−RおよびR−S−Hを示し、オゾンによる処理(UVO−Cleaner,Model no.42−220(Jelight Company Inc.,CA,USA)中での1分のオゾン暴露)の後にはAu−SOを示した。この処理により、センサの感度および選択性は変化した(図3を比較。)。
【0045】
図2は、オゾン処理での、およびオゾン処理なしでの化学レジスタ被膜の硫黄(2p)のX線光電子スペクトルを示す。オゾンをその場で(in−situ)で発生させることにより、オゾン処理を行った。
【0046】
オゾン処理(オゾン発生器)での、およびオゾン処理(オゾン発生器)なしでのノナンジチオールで相互連結された金ナノ粒子の表記の検体に対する応答軌跡を示す図3で分かるように、疎水性検体に対する感度は減少し、親水性検体に対する感度は増加した。このように、選択性は変化する。
【0047】
(実施例2)
この化学レジスタを、例えば5%過酸化水素溶液中に1〜60秒間浸漬することによるセンサの酸化処理により、匹敵する効果を達成することができる。
【0048】
(実施例3)
単一のセンサ素子に対しては、この作製後の処理によって、センサ組み立て場所とは異なる場所および最初の製造から明らかに後の時間においてセンサの選択性の調整が可能となる。このことは、おそらく、顧客または技術者または任意の最終使用者が最終使用者のサイトにおいて特定のニーズにセンサを適用することができるということを意味する(図4を比較。)。
【0049】
異なる薬品を含む特別な処理キットを使用して、調整を容易とすることができる。
【0050】
(実施例4)
選択性を調整する方法は、1つのセンサを含む素子に限定されず、多センサ素子を処理および調整して、「e−ノーズ」での使用に好適なセンサアレイも得ることができる。
【0051】
この場合には、すべてのセンサ中で同一の感応性材料を含むセンサアレイを、異なる感応性の材料からなるセンサアレイに、上述のように酸化処理により変換することができる。ここでは、同一の多センサ素子上で反応条件から一部のセンサを除外することにより(例えば、単純にこれらの一部をマスクにより覆うか、もしくはこれらの全部を反応溶液中に浸漬しないことにより)、センサアレイを容易に変えることができる。これらを図5Aおよび図5Bに示す。
【0052】
得られるセンサアレイを、図6に示す。図6は、最初は1つの材料のみを含むセンサアレイを作製した後の酸化により形成され、1つのセンサが0%の酸化を受けた基を有し、もう1つのセンサが10%の酸化を受けた基を有し、もう1つのセンサが20%の酸化を受けた基を有し、・・・ならびにセンサnが100%の酸化を受けた基を有するように、異なるセンサが異なる程度まで酸化を受け、数字1、2、3、・・・、nにより表示されている異なるセンサ材料を備えたセンサアレイを示す。ここでは、アレイのすべてのセンサは、それぞれの感知層中で同一の材料を有するものであった。あるセンサに対しては、この材料を異なる酸化条件により変えた。これは、異なる濃度の酸化された官能基を含む化学的感応性被膜付のセンサを含むセンサアレイを生じる。これは、図6からも明らかなように、材料1のみを含むセンサアレイを作製した後に酸化することにより形成される、異なるセンサ材料「1」〜「n」を付けたセンサアレイである。これは、例えばセンサ/感応性材料1=0%の酸化を受けた基、センサ/感応性材料2=10%の酸化を受けた基、センサ/感応性材料3=・・・、センサ/感応性材料n=100%の酸化を受けた基を意味する。
【0053】
この方法においては、このように1つのセンサアレイ中に作製され得る異なるセンサ材料の数は、理論的には無限である。また、コンビナトリアル法も適用可能である。リソグラフィ法がコンビナトリアル法を支援し得る。本明細書、特許請求の範囲及び/又は添付の図面中で開示されている本発明の特徴は、個別で、ならびにこれらのいかなる組み合わせでもこれらの種々の形で本発明を実現するための材料であり得る。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】薄い化学的感応性膜(感知層)がトランスデューサ上に被覆された有機物により相互連結された金属ナノ粒子をベースとする、化学レジスタセンサを示す。
【図2】オゾン処理の有無に伴う化学レジスタの硫黄(2p)のX線光電子スペクトルを示す。
【図3】オゾン処理(オゾン発生器)の有無に伴うノナンジチオールで相互連結された金ナノ粒子の検体に対する応答軌跡を示す。
【図4】最終使用者側での組み立て後の処理(酸化)によるセンサの形成/変成を示す。
【図5A】センサの一方をマスクにより覆い気相処理から保護することで、同一の材料のセンサアレイから2つの異なるセンサ材料のセンサアレイを気相処理により組み立てる例を示す。
【図5B】適切な処理溶液中への浸漬、または、液滴に暴露することにより一方のみのセンサを処理に暴露し、他方のセンサを処理に暴露しないことで、2つの異なるセンサ材料のセンサアレイを同一の材料のセンサアレイから液相処理により組み立てる例を示す。
【図6】異なるセンサ材料を備えたセンサアレイを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学レジスタセンサの感度及び/又は選択性を変更する方法であって、
前記化学レジスタセンサは、電気的に非導電性のマトリックス中に埋め込まれた複数の導電性粒子又は半導体性粒子を有する感知層を含み、前記感知層が複数の被酸化性化学官能基を含み、
前記方法は、前記感知層を酸化反応させる段階を含む、方法。
【請求項2】
前記酸化反応は、制御された酸化反応であり、前記センサを定義されていない形で空気に暴露することではないことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化反応は、気相による反応及び/又は液相による反応であることを特徴とする、請求項1又は2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記反応は、
前記感知層を定義された空気の温度で定義された時間空気に暴露すること(ここで、好ましくは前記定義された時間は、1分から300分の範囲にあり、前記定義された空気の温度は、0℃から500℃の範囲にある。)、
前記感知層をオゾンに暴露すること、
前記感知層を酸素プラズマに暴露すること、
前記感知層をSOに暴露すること、
前記感知層を窒素酸化物に暴露すること、
の気相反応のいずれか一つまたはいくつかを含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化反応は、
前記感知層を過酸化水素の水溶液に暴露すること、
前記感知層をKMnOの水溶液に暴露すること、
の液相反応のいずれか一つまたはいくつかを含むことを特徴とする、請求項3又は4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記暴露は、180〜1200nmの範囲の波長の電磁波を用いて、前記感知層を照射しながら行われることを特徴とする、請求項4又は5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記オゾンへの暴露、前記酸素プラズマへの暴露、前記SOへの暴露、前記窒素酸化物への暴露が、1秒から600秒の範囲の時間行われることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記被酸化性化学官能基は、前記感知層内で、前記酸化反応により酸化されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記複数の被酸化性化学官能基のある比率のみが前記酸化反応により酸化され、
好ましくは前記比率が≧20%、更に好ましくは≧40%、更に好ましくは≧60%、及び、最も好ましくは≧80%であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記導電性粒子又は半導体性粒子は、<1μm、好ましくは<500nm、更に好ましくは<300nm、及び、最も好ましくは<100nmの平均直径を有する粒子であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記粒子は、金属粒子又は半導体粒子であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記粒子は、金属粒子、すなわち、Au、Pt、Ag、Pdなどの貴金属粒子、Cu、Ni、Feなどの貨幣金属粒子、単一ナノ粒子におけるこれらの金属の組み合わせ、例えば合金あるいはコア/ シェル金属ナノ粒子、半導体ナノ粒子、例えば、CdS、CdSe、CdTe、ZnS、ZnSe、ZnTe、HgS、HgSe、HgTeなどのII/VI半導体、あるいはGaAs、InPなどのIII/V半導体、導電性ポリマーなどの有機材料から導電性または半導体性のナノ粒子、カーボンブラック粒子または金属装飾されたカーボンブラック粒子、例えば、Pt/カーボンブラックまたはPtRu/カーボンブラックナノ粒子などの導電性粒子を含む群から選択されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記電気的に非導電性のマトリックスが二官能性又は多官能性の連結体分子の網目であり、前記粒子が前記連結体分子により相互連結されている、または、
前記電気的に非導電性のマトリックスが単官能性、二官能性又は多官能性リガンド分子の網目であり、前記粒子が前記リガンド分子によりキャップされている
ことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記電気的に非導電性のマトリックスは、少なくとも1つのポリマーでできていることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリマーは、ポリ(アミド)、ポリ(アミドアミン)、ポリ(プロピレンイミン)、ポリ(フェニレン)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンイミン)、超分岐ポリ(エチレンイミン)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(4−エチレングリコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(スチレン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(4−ビニルフェノール)、ポリ(エピクロロヒドリン)、ポリ(イソブチレン)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(カプロラクトン)フルオロポリオール、ポリシロキサン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、または、エチレンオキシド−アミドアミン共重合体、エチレン−ビニルアセテート共重合体、スチレン−アリルアルコール共重合体、ビニルクロリド−ビニルアセテート共重合体、スチレン−マレイン酸無水物共重合体、ビニルメチルエステル−マレイン酸無水物共重合体のようなコポリマーおよびこれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記方法が請求項1〜15のいずれか一項に記載の化学レジスタセンサを複数有する化学レジスタセンサアレイに適用され、
各センサが請求項1〜15のいずれか一項に記載の各感知層を有し、
異なるセンサの前記感知層が、種々の程度に酸化反応にかけられることを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
一部の感知層が前記酸化反応から保護され、前記酸化反応されないようになっていることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
一部の感知層が、
マスクを使用して、前記感知層を覆うこと、
例えば前記前記感知層を酸化溶液の中に浸さないこと、前記感知層を酸化性ガスに暴露しないことにより、前記感知層を酸化条件に暴露しないこと
のいずれか一つまたはいずれかの組み合わせにより保護されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記化学レジスタセンサアレイ内では、異なる感知層が種々の程度まで酸化され、異なる感知層が酸化反応の結果として異なる比率の酸化された被酸化性化学官能基を有することを特徴とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記化学レジスタセンサアレイ内では、
ある比率の感知層は、0%の酸化された被酸化性基を有し、
ある比率の感知層は、≧20%の酸化された被酸化性基を有し、
ある比率の感知層は、≧40%の酸化された被酸化性基を有し、
ある比率の感知層は、≧60%の酸化された被酸化性基を有し、
ある比率の感知層は、≧80%の酸化された被酸化性基を有し、及び、
ある比率の感知層は、すべての酸化された被酸化性基を有する
ことを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
請求項1から15のいずれか一項に記載の方法により製造される、化学レジスタセンサ。
【請求項22】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法により、又は、請求項16〜20のいずれか一項に記載の方法により製造される、化学レジスタセンサ。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−256690(P2008−256690A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87943(P2008−87943)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(397051508)ソニー ドイチュラント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (140)
【Fターム(参考)】