説明

化学修飾が施された有機高分子材料、その製造方法及び装置

有機高分子基材にラジカルによって誘起される化学反応を行い、目的物質を導入して機能性材料を合成する際に、目的物質導入量などから期待される機能が得られない原因となる現象を明らかにし、さらにそのような現象が回避された機能性材料およびその合成方法ならびに装置を提供する。
本発明の一態様は、有機高分子材料からなる基材に化学修飾が施された有機高分子材料であって、基材の表面層においてX線光電子分光法(XPS)による前記化学修飾に基づく応答が検出されることを特徴とする有機高分子材料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型済み有機高分子基材に対し、ラジカルにより誘起される化学反応を行い、化学物質を導入する方法及び装置、および該化学物質を導入した後の製品に対して、導入された該目的物質の存在量分布を該製品の表面から内部方向に向かって深さ方向に、該目的物質を構成する原子あるいは原子団を分析できる手段によって測定することにより、必要な機能を該基材に対して導入したことを確認する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
成型済みの有機高分子材料に種々の機能を持たせる方法としては、プラズマ照射やスルホン化などによって材料表面に官能基を直接導入する方法や、架橋重合法によって機能性官能基を含むポリマーで表面を化学修飾する方法や、あるいはポリオレフィン基材などにモノマーをグラフト重合させる方法などがあり、種々の方法が試みられている。
【0003】
これらのうち、特公平6−55995号公報に示されているように、有機高分子基材に電離性放射線を照射してラジカルを生成させ、そのラジカルによって誘起される化学反応を行うことにより種々の機能を基材に導入する方法は、様々な形状の基材に適用することができ、しかも反応後も基材の形状が維持出来るため、非常に汎用性の高い方法といえる。そして、所望の機能を発現する官能基は基材と化学結合しているので、それらが基材から拡散あるいは解離することは殆どない。特公平6−55995号公報の記載は参照として本明細書に包含される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、本発明者らの研究の過程で、上記のようにラジカルによって誘起される化学反応に基づいて基材に所望の機能を導入した有機高分子材料において、基材に導入された目的物質量から期待される機能(理論値)に比べ、実際に観測された機能が不充分であるか、あるいは殆ど機能を発現しない場合がいくつかみられた。例えば、親水性官能基を導入した薄膜材料(フィルム)における表面のぬれ性(接触角);イオン交換基を導入した薄膜材料(フィルム)における膜厚方向のイオン伝導(拡散)速度;親水性官能基を導入した不織布における吸水速度;カチオン交換基を導入した不織布における金属イオン吸着速度;などの機能に関して上記の現象がみられた。
【0005】
そして、何故上述のような現象が起こるのか、官能基導入後の材料の状態がどうなっているのか、そして上述のような現象を回避しながら機能性材料を合成するにはどうすれば良いのかについては、いずれも明確になっていないのが現状である。
【0006】
本発明の目的は、有機高分子基材にラジカルによって誘起される化学反応を行い、目的物質を導入して機能性材料を合成する際に、目的物質導入量などから期待される機能が得られない原因となる現象を明らかにし、さらにそのような現象が回避された機能性材料およびその合成方法ならびに装置を提供することにある。なお、本発明でいう「化学修飾」とは、目的物質を、基材に対して、共有結合、イオン結合、配位結合などの化学結合を形成することによって導入することを指す。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、まず期待(理論値)通りの機能が得られていない材料の表面から深さ方向にして1nm〜100nmという領域において目的物質導入量が極端に低い、あるいは導入されていない領域が存在していることを初めて見出した。本発明者らはさらに、化学修飾されていない領域がこのような深さに存在する場合、走査型電子顕微鏡(SEM−XMA)や赤外分光法(IR)では、これらが1nm〜100nmの領域のみを分析することができないため、その存在を確認することは極めて困難であり、X線光電子分光法(XPS)や透過型電子顕微鏡(TEM)などによる表面の分析によって初めてその存在が確認できることを見出した。そして、本発明者らは、更なる研究の結果、このような領域が生じる原因が反応の際に系内に微量存在する酸素分子にあることを見出した。さらに、電離性放射線照射の過程から反応が終了するまでの過程において、酸素濃度を従来よりもさらに低い濃度に制御することにより、上述の問題が解決出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
従来、有機高分子基材に対し、例えばラジカルによって誘起されるグラフト重合反応を行う場合では、酸素濃度が通常1000ppm未満であれば、基材上のラジカルの一部が酸素分子によって消費されることがあっても、基材の結晶質部分に残存しているラジカルが基材内部でマイグレーションを起こした後、それが開始点となって重合反応が進行するので基本的に問題はないと考えられてきた。例えば、ポリエチレン繊維にメタクリル酸グリシジルを含浸気相法でグラフト重合させた後スルホン化処理することにより、ポリエチレン繊維にスルホン酸基を導入するような場合、気相中の酸素濃度が1000ppmであっても100ppmであっても、導入されたスルホン酸基量やSEM−XMAによる元素分布の分析結果において、両者の違いは殆ど認められなかった。
【0009】
本発明者らは、期待(理論値)通りの機能が得られていない材料について、詳細な分析を行った。そして、XPS又はTEMによる材料表面の元素分布の分析結果から、深さ方向にして1nm〜100nmという極めて狭い領域において、目的物質由来の元素分布が少ないか、あるいは存在しない領域があることを初めて見出した。そして特に、そのような領域の深さが1μm以下の場合は、SEM−XMAによる元素分布の分析では見つけるのが極めて困難である。
【0010】
更に、本発明者らは、上記のような領域が存在するのは、所望の反応がその領域においてのみ進行していないためと考え、その原因は従来問題とされていなかった微量の酸素分子にあると考えた。酸素濃度が従来のように1000ppm未満であってもこのような現象が起こる背景には、酸素分子と高分子基材上のラジカルとの反応速度が極めて高いためと考えられる。
【0011】
そこで、本発明者らは、ラジカル発生工程およびラジカルによって誘起される反応工程のうち少なくともいずれか一方の酸素濃度を従来よりもさらに低く制御しながら、目的物質の導入を行い、得られた高分子材料をXPS(又はTEM)により分析したところ、そのように酸素濃度を制御することで、上記のような領域が存在しなくなることを見出した。さらに、このようにして得られた高分子材料に関して、親水性官能基を導入した薄膜材料(フィルム)における表面のぬれ性(接触角);イオン交換基を導入した薄膜材料(フィルム)における膜厚方向のイオン伝導(拡散)速度;親水性官能基を導入した不織布における吸水速度;カチオン交換基を導入した不織布における金属イオン吸着速度;などの機能を評価したところ、従来の方法による場合に比べて良好な結果を示すことも判明した。
【0012】
上記のような所望の機能が良好に導入されることにより、本発明に係る有機高分子材料は、様々な用途に好適に用いることが出来る。例えば、導入したい目的物質がカチオン交換基の場合、基材の深さ20nm以下の領域にもカチオン交換基が導入されていることにより、本発明に係る有機高分子材料は固体高分子型燃料電池(PEFC)用電解質膜として好適に用いることが出来る。また、深さ50nm以下の領域にもカチオン交換基が導入されていることにより、本発明に係る有機高分子材料は2次電池用セパレータや電気透析用電解質膜として好適に用いることが出来る。さらに、導入したい目的物質がイオン交換基やキレート基の場合、深さ50nm以下の領域にもそれらの官能基が導入されていることにより、本発明に係る有機高分子材料は金属イオン除去用材料として好適に用いることができる。
【0013】
以下に本発明の各種態様について詳細に説明する。
本発明は、有機高分子基材に対してラジカルによって誘起される化学反応を行い、化学物質を導入する方法、および導入した後の製品に対して、導入された目的物質の存在量分布を該製品の表面から内部方向に向かって深さ方向に、該目的物質を構成する原子あるいは原子団を分析できる手段によって測定することにより、必要な機能を該基材に対して導入したことを確認した製品ならびに製造方法ならびに装置に関する。
【0014】
本発明は、有機高分子基材に対して、あるいは有機高分子基材と導入したい目的物質との双方に対して同時に、あるいは導入したい目的物質に対して、ラジカル発生手段によってラジカルを発生させ、ラジカルを開始点とする反応によって、様々な追加機能をもつ目的物質を有機高分子基材に対して、共有結合、イオン性結合、配位結合などの化学結合を形成することにより導入する方法において、ラジカル発生工程またはラジカルにより誘起される化学反応工程での酸素濃度を制御することを特徴とする。前記各工程における酸素濃度を、ラジカル発生工程においては1〜200ppm、ラジカルにより誘起される化学反応工程においては1〜100ppmに保持することによって、基材の表面から内部方向に向かって深さ方向にして1〜100nmの範囲にも、目的物質を導入することができる。
【0015】
さらに、本発明の他の態様は、上記方法によって製造された製品に対して導入された、機能性を有する目的物質を構成する原子団について、X線光電子分光法(XPS)を用いて、該製品表面から内部へ向かって深さ方向に導入された該原子団を構成する原子の量を測定することにより該原子団の存在を確認し、目的の用途に対して該有機高分子基材に対し、該反応前と比較して充分な量の原子団が存在することを測定することを特徴とする。
【0016】
本発明における、ラジカル発生手段としては、加熱、紫外線、電離性放射線、レーザー、イオンビームなど、いかなる励起手段を用いてもよいが、加熱、紫外線の使用においては励起源として、エネルギーレベルが加熱では10−eV以下、市販の紫外線照射装置では3〜10eVの範囲のものが多く、本発明における該製品表面から内部方向に向かって深さ方向に導入するためには、与えることの出来るエネルギーレベルが低く、また開始剤などのラジカル発生を補助する薬剤を必要とする場合もあり、あまり好ましくない。またレーザー、イオンビームにおいては、充分なエネルギーレベルを有するが、装置が複雑かつ高価であること、照射面積及び深さが狭く構造上の制限を受けること、また構成材料などを放射化する恐れがあることなどからあまり好ましくない。電離性放射線の使用においては、付与できるエネルギーレベルが10〜10eVと該有機高分子基材または該目的物質の有する共有結合のもつ結合エネルギーと比較して充分に高く、現在においては広く工業的に利用されており、開始剤の使用も必要がないため好適である。
【0017】
本発明の一態様に係る、有機高分子材料からなる基材に化学修飾を施すことによって有機高分子材料を製造する方法は、基材を外部環境から隔離し且つ酸素濃度を外部より低く保持することが可能な容器に入れ、該容器内の一部で前記基材にラジカルを発生させた後、前記基材を前記容器内の別の一部に移動させてラジカルによって誘起される反応によって化学修飾させることを含み、該化学修飾させる雰囲気の酸素濃度を1ppm以上100ppm以下にすることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の他の態様に係る、有機高分子材料からなる基材に化学修飾を施すことによって有機高分子材料を製造する方法は、基材を外部環境から隔離しかつ酸素濃度を外部より低く保持することが可能な容器に入れ、該容器内の一部で前記基材にラジカルを発生させた後、前記基材を前記容器内の別の一部に移動させてラジカルによって誘起される反応によって化学修飾させることを含み、前記ラジカルを発生させる雰囲気の酸素濃度を1ppm以上200ppm以下にすることを特徴とする。
【0019】
更に、本発明の他の態様に係る、有機高分子材料からなる基材に化学修飾を施すことによって有機高分子材料を製造する方法は、基材を外部環境から隔離しかつ酸素濃度を外部より低く保持することが可能な容器に入れ、該容器内の一部で前記基材にラジカルを発生させた後、前記基材を前記容器内の別の一部に移動させてラジカルによって誘起される反応によって化学修飾させることを含み、該化学修飾させる雰囲気の酸素濃度を1ppm以上100ppm以下にし、かつ前記ラジカルを発生させる雰囲気の酸素濃度を1ppm以上200ppm以下にすることを特徴とする。
【0020】
なお、前記容器としては、一つの容器内において基材にラジカルを発生させる部分と化学修飾させる部分が区画されているものを用いることができる。また、前記容器が、基材にラジカルを発生させる容器及び化学修飾させる別個の容器を含み、且つ、基材を、外部環境から隔離し雰囲気中の酸素濃度を1ppm以上100ppm以下に保持したまま移動させることが可能な接続部を有する装置を用いることもできる。
【0021】
即ち、上記の有機高分子材料の製造方法においては、前記容器が、基材にラジカルを発生させる容器及び化学修飾させる別個の容器を含み、且つ、基材を、外部環境から隔離し雰囲気中の酸素濃度を1ppm以上100ppm以下に保持したまま移動させることが可能な接続部を通って、基材をラジカルを発生させる容器から化学修飾させる容器に移動させることをさらに含むことができる。
【0022】
更に、本発明方法においては、ラジカルの発生と化学修飾とを同時に行うことができる。即ち、本発明の他の態様に係る、有機高分子材料からなる基材に化学修飾を施すことによって有機高分子材料を製造する方法は、基材を外部環境から隔離しかつ酸素濃度を外部より低く保持することが可能な容器に入れ、該容器の一部で基材と化学修飾用反応物質とを接触させながら基材にラジカルを発生させることを含み、該化学修飾させる雰囲気の酸素濃度を1ppm以上100ppm以下にすることを特徴とする。
【0023】
ラジカルによって誘起される化学反応としては、例えばグラフト重合を挙げることができる。
化学修飾が行なわれる雰囲気の酸素濃度は、好ましくは1ppm以上80ppm以下、より好ましくは1ppm以上50ppm以下、さらに好ましくは1ppm以上30ppm以下、である。ラジカルの発生が行なわれる雰囲気の酸素濃度は、好ましくは1ppm以上100ppm以下、より好ましくは1ppm以上80ppm以下、さらに好ましくは1ppm以上50ppm以下、である。
【0024】
基材として膜状又は織布又は不織布のような繊維の集合体のシート状材料を用いて、前記反応を行う空間へ基材を供給する工程、基材にラジカルを発生させる工程、基材を化学修飾させる工程、及び製造物を排出する工程から選択される少なくとも1つ以上を連続的に行うことができる。
【0025】
化学反応によって化学修飾を行う反応空間或いはラジカルを発生させる空間を所定の酸素濃度に保持する方法としては、当該空間に、酸素濃度が1ppb以上100ppm以下の範囲の上記の所定酸素濃度或いはこれよりも低い酸素濃度の不活性ガスを供給して当該空間の内部気体を置換する方法を採用することができる。また、他の方法としては、当該空間に、酸素濃度が0.1ppm以上100ppm以下の範囲の上記所定酸素濃度或いはこれよりも低い酸素濃度の不活性ガスを供給し、当該空間の内部気体を排出して脱酸素化処理を行った後、当該空間に戻すことで内部気体を循環置換する方法を採用することもできる。ここで、脱酸素化処理としては、酸素吸着塔への通ガス、電子線照射などの方法を採用することができる。なお、上述のガスの置換又は循環置換は、ラジカル照射及び化学反応の実施中は連続して行うことが好ましい。不活性ガスとしては、純度が99.99%以上の窒素ガスを用いることができる。
【0026】
本発明において用いることのできる電離性放射線としては、中性子線、α線、β線、γ線、X線、電子線などを挙げることができる。しかしながら、中性子線、α線、β線もしくはγ線においては放射性同位元素の使用が必要であり、照射装置の構造に制約があり、また法律上、その使用においては強い制約を受けている。X線、電子線については広く工業的に利用されており、照射室形状の自由度が高いためプロセス設計しやすく、従ってラジカル発生工程での酸素濃度も制御しやすいため好ましく、その線質からエネルギーの付与効率が高い電子線がもっとも好ましい。線量としては10〜500kGyが好ましく、50〜200kGyがより好ましい。
【0027】
本発明における放射線によるラジカル発生の方法においては、有機高分子基材に予めラジカルを発生させ、有機高分子基材内部に発生したラジカルを保存したのちに、目的物質とラジカル発生済みの有機高分子基材とを接触させて反応させる前照射法と、有機高分子基材と目的物質の共存下においてラジカルを発生させる同時照射法とがあるが、本発明においてはいずれの方法も用いることができ、また同時照射法と前照射法とを組み合わせて連続的に行うこともできる。前照射法におけるラジカル発生済み有機高分子基材の保存温度としてはラジカルの減衰を抑制するため40℃以上では好ましくなく、−196℃〜40℃の範囲が好適であり、−80℃〜30℃がより望ましい。また保存時間としては、保存温度が低いほど長期に保存が可能であるが、2分から6ヶ月が望ましく、15〜30℃の室温付近においては1〜30分が望ましい。また保存時の酸素濃度に関しては、大気中の酸素濃度よりも低いことが望ましく、0.1〜5%が好適であり、好ましくは1〜200ppm、より好ましくは1〜100ppm、さらに好ましくは1〜80ppm、そしてさらに好ましくは1〜50ppm、である。
【0028】
本発明における、ラジカルによって誘起される化学反応を行う際の有機高分子基材と化学物質との接触方法は、化学物質の溶液に有機高分子基材を浸漬させて反応を行う液相法、化学物質の蒸気に有機高分子基材を接触させて反応を行う気相法、有機高分子基材を化学物質の溶液に浸漬した後、溶液から取り出して、有機高分子基材中に残存した化学物質溶液を利用して、気相中で反応を行わせる含浸気相法、有機高分子基材表面に化学物質を含む溶液あるいは該化学物質を含む固体を塗布して反応を行わせる塗布法などが挙げられるが、いずれの方法も好適に用いることができる。
【0029】
本発明において、ラジカル発生を行う工程で酸素濃度を制御する方法としては、例えば、有機高分子基材片を酸素透過係数にして10−5mol・cm/m・sec・Pa以下の素材製の容器(以下、照射容器)に入れ、内部ガスを窒素やアルゴン等の不活性ガスと置換する方法や、放射線照射装置の照射室を大気と隔離できる壁によって覆われた構造とし、不活性ガスを照射室内に導入および排気することにより照射室内の空気を不活性ガスに置換する方法、或いは照射容器内を排気して照射容器の内圧を減圧することにより照射容器内の酸素分圧を下げる方法などを採用することができる。なお、酸素濃度を測定する方法としては、例えば、照射容器の内部ガスを置換する際に、不活性ガスを導入したグローブボックス内において置換を行い、酸素濃度測定手段を用いてグローブボックス内の酸素濃度を測定する方法や、照射容器内の圧力を測定して酸素分圧から算定する方法や、照射室内の酸素濃度を、酸素透過係数にして10−5mol・cm/m・sec・Pa以下の素材製のサンプリング配管(ステンレス、テフロン(登録商標)、ナイロンなど)によって接続した酸素濃度測定手段でモニタリングする方法などを採用できる。このモニタリングは、照射の実施中に連続的に測定してもよい。ラジカル発生工程における酸素濃度として、本発明では1〜200ppmが望ましく、1〜100ppmが好適であり、1〜80ppmがより好ましく、更に望ましくは1〜50ppmである。
【0030】
ラジカル発生工程において、上記の酸素濃度を維持するためには、照射の実施中に照射容器内の酸素濃度を上記の酸素濃度測定手段で連続的にモニタリングし、照射容器内の酸素濃度が任意の設定値(所定の濃度範囲の上限値)付近へ近づいた際に、その近づき方に応じて、容器内へ導入する不活性ガス流量を電磁弁の開閉などを用いて増加させることにより、酸素濃度範囲を任意の設定値内に保つことができる。
【0031】
ラジカルによって誘起される化学反応工程において酸素濃度を制御する方法としては、
ラジカル発生を行う工程と同様の方法を使用することができる。例えば、前述のグローブボックス内において、酸素濃度測定下で、反応容器中に照射済有機高分子基材並びに化学物質の溶液を導入して封緘する方法を使用することができる。化学反応工程における酸素濃度として、1〜100ppmが望ましく、1〜80ppmが好適であり、さらに好ましくは1〜50ppm、そしてさらに好ましくは1〜30ppm、である。
【0032】
化学反応工程において、上記の酸素濃度を維持するためには、例えば、ラジカル発生を行う工程と同様の方法を使用することができる。
工業的に大量生産プロセスを構築する場合には、例えば、本発明者らによる連続搬送式反応プロセス(米国特許6,659,751号)などを用いることができる。米国特許6,659,751号の記載は参照として本明細書に包含される。かかる連続搬送式反応プロセスの構成例を図1に示す。この連続搬送式反応プロセスは、前照射法によるラジカル発生を行い、含浸気相法によりロール状の有機高分子基材と化学物質とを接触させて反応を行うためのものであるが、他の方式にも採用されうる中心要素として4つの工程から構成される。第1にロール状の有機高分子基材を巻き出すことにより、連続的に供給する巻き出し工程、第2に巻き出された有機高分子基材に電離性放射線を照射してラジカルを発生させる電離性放射線照射工程、第3に電離性放射線照射された有機高分子基材と化学物質とを接触させてラジカルに誘起される化学反応を行う化学反応工程、第4に反応した製品を巻き取りロール状に仕上げる巻き取り工程である。なお、図1に示されるように、化学反応工程は、基材に化学物質を含浸させる含浸工程と、ラジカルに誘起される化学反応を進行させる反応工程とに分けることができる。ラジカルを発生するための電離性放射線照射を行う照射工程を行う装置からラジカルに誘起される化学反応を行う反応工程を行う装置に至る経路ならびに装置は、有機高分子基材の搬送経路並びに装置内部の酸素濃度を制御するため、大気から遮断する壁によって覆われた容器状の構造とし、その内部へ不活性ガスを導入・排気して内部ガスの置換を行う。この際、内部ガスの置換効率を上げるために、ファン等の内部循環装置を装置内に取り付けてもよい。内部ガスの置換は連続的に行うことが好ましい。また、上記各工程を行う装置(図1においては、放射線照射装置、含浸装置、反応装置)には、装置内の酸素濃度を測定する酸素濃度計を取り付けて装置内の酸素濃度を連続的にモニタリングし、装置内の酸素濃度が任意の設定値(所定の濃度範囲の上限値)付近へ近づいた際に、その近づき方に応じて、装置内へ導入する不活性ガス流量を電磁弁の開閉などを用いて増加させることにより、酸素濃度範囲を任意の設定値内に保つことができる。
【0033】
装置に関して、各工程を行う装置間の接続部は、大気から遮断する壁によって覆われた構造としてもよく、接続部分にシール構造等を設けることにより、各工程を行う装置をそれぞれ別々の気密状態として、不活性ガスの使用量を減少させると共に、各工程における所定の酸素濃度を維持する効果を期待することもできる。シール構造に関するより具体的な例示には、発明者らによる先行特許例として、特願2004−203507号がある。特願2004−203507号の記載は参照として本明細書に包含される。本発明における装置内部の酸素濃度測定方法としては、照射室と同様に、酸素透過係数にして10−5mol・cm/m・sec・Pa以下の素材製のサンプリング配管(ステンレス、テフロン(登録商標)、ナイロンなど)を用いて接続した酸素濃度測定手段でモニタリングする方法を採用できる。また酸素濃度の測定は該照射工程と同様に、連続的にモニタリングしてもよい。
【0034】
本発明は、上述の本発明の方法を実施して化学修飾された有機高分子材料を製造するための装置にも関する。
すなわち、本発明の他の態様は、有機高分子材料からなる基材に化学修飾が施された膜状有機高分子材料を製造する装置であって、
基材を外部環境から隔離しかつ酸素濃度を外部より低く保持することが可能な第1の容器内に配置されている、有機高分子材料からなる基材にラジカルを発生させる電離性放射線照射部;
基材を外部環境から隔離しかつ酸素濃度を外部より低く保持することが可能な第2の容器内に配置されている、前記ラジカルに誘起される反応によって化学修飾させる化学修飾部;
基材を外部環境から隔離しかつ酸素濃度を外部より低く保持することが可能な第3の容器内に配置されている、前記電離性放射線照射部が配置された容器と前記化学修飾部が配置された容器とを接続し且つ前記基材が移動可能な接続部;とを有し、
前記電離性放射線照射部が配置されている第1の容器、前記化学修飾部が配置されている第2の容器、及び前記接続部が配置されている第3の容器のいずれかの内部に、容器内に不活性気体を供給する1つ以上の不活性気体供給口と、容器の内部気体を排気する1つ以上の排気口とを備え、前記電離性放射線照射部が配置されている第1の容器の内部気体の酸素濃度を1ppm以上200ppm以下に保持し、及び/又は、前記化学修飾部が配置されている第2の容器の内部気体の酸素濃度を0.1ppm以上100ppm以下に保持する機能を有することを特徴とする有機高分子材料の化学修飾装置。
【0035】
化学修飾部を含浸部と反応部とに分けて、それぞれを別々の容器内に配置して、両者を接続部で接続することもできる。この場合、含浸部が配置された容器と反応部が配置された容器の両方が、内部気体の酸素濃度を1ppm以上100ppm以下に保持する機構を有する。
【0036】
また、電離性放射線照射部、化学修飾部、搬送部を一つの容器内に配置することもできる。すなわち、本発明の他の態様は、有機高分子材料からなる基材に化学修飾が施された膜状有機高分子材料を製造する装置であって、基材を外部環境から隔離しかつ酸素濃度を外部より低く保持することが可能な容器と;該容器内に配置されている、有機高分子材料からなる基材にラジカルを発生させる電離性放射線照射部と;該容器内に配置されている、前記基材に前記ラジカルに誘起される反応によって化学修飾させる化学修飾部と;該容器内に配置されている、前記基材を前記電離性放射線照射部から前記化学修飾部へ搬送する搬送部と;を有し、前記容器の内部に不活性気体を供給する不活性気体供給口及び前記容器の内部気体を排気する排気口とを備え、前記容器の内部気体の酸素濃度を0.1ppm以上100ppm以下に保持する機構を有することを特徴とする有機高分子材料の化学修飾装置にも関する。
【0037】
上記の装置において、容器の内部気体の酸素濃度を所定範囲未満に保持する機構としては、例えば、それぞれの容器に、内部気体の酸素濃度を連続的にモニターする酸素濃度計を取り付けて容器内の酸素濃度を連続的にモニタリングし、容器内の酸素濃度が任意の設定値(所定の濃度範囲の上限値)付近へ近づいた際に、その近づき方に応じて、容器内へ導入する不活性ガス流量を電磁弁の開閉などを用いて増加させるという機構を採用することができる。
【0038】
上記の有機高分子材料の化学修飾装置においては、前記電離放射線照射部及び/又は前記化学修飾部の内部気体の酸素濃度を連続的にモニターする酸素濃度計を備え、該酸素濃度が所定濃度範囲から逸脱した際に警報を発する機能をさらに具備することができる。更には、該装置は、前記電離放射線照射部及び/又は前記化学修飾部の内部気体の酸素濃度を連続的にモニターする酸素濃度計を備え、該酸素濃度が所定濃度範囲から逸脱した際に電離性放射線照射の停止及び/又は化学修飾反応の停止機能をさらに有することができる。更に、該装置は、前記電離放射線照射部及び前記化学修飾部の内部気体の酸素濃度をモニターする酸素濃度計を備え、化学修飾装置の運転を開始する際に前記電離放射線照射部及び前記化学修飾部の内部気体の酸素濃度がそれぞれ所定濃度範囲にあるときに始動可能とする制御機能をさらに有することができる。
【0039】
本発明は、上述の装置を運転するためのプログラムにも関する。即ち、本発明の他の態様は、上記の有機高分子材料の化学修飾装置のコンピュータ読み取り可能な運転プログラムであって、前記電離放射線照射部、前記化学修飾部及び接続部の各内部気体を酸素濃度が所定濃度範囲の不活性気体で置換させることにより該各内部気体の酸素濃度を所定濃度範囲以下とし、基材供給部から搬入された基材を電離放射線照射部に移動させて照射源と照射時間の調整により所定量の電離性放射線を照射させ、基材にラジカルを発生させ、ラジカルが発生した基材を化学修飾部に移動させラジカルによって誘起される化学修飾に必要な化学種を含む所定の反応液と接触させ所定の反応温度及び時間によって化学修飾を行い、化学修飾された製造物を製造し、化学修飾された製造物を製造物搬送部によって搬出する、各工程を実行するためのコンピュータ読み取り可能な装置運転プログラムに関する。上記プログラムにおいては、更に、酸素濃度が所定濃度範囲から逸脱した際に警報を発する工程を実行するためのプログラムを組み込むことができる。更に、酸素濃度が所定濃度範囲から逸脱した際に電離性放射線の停止及び/又は化学修飾装置の停止を行う工程を実行するためのプログラムを組み込むこともできる。更には、化学修飾装置の運転を開始する際に前記電離放射線照射部及び前記化学修飾部の内部気体の酸素濃度がそれぞれ所定濃度範囲にあるときに始動可能とするためのプログラムを組み込むこともできる。
【0040】
ラジカルに誘起される化学反応工程で利用される反応時間としては、有機高分子基材と化学物質との組み合わせ方によって異なるが、5分から24時間がよく、望ましくは10分から6時間であり、さらに望ましくは15分から2時間である。また当該工程で利用される反応温度としては、−20℃から該化学物質の分解温度まで利用できるが、20℃から120℃がよく、望ましくは30℃から80℃であり、さらに望ましくは40℃から70℃である。
【0041】
本発明において使用する酸素濃度測定手段としては、市販のいずれの酸素濃度計でもよいが、100ppm以下の酸素濃度範囲を測定できる必要がある。形式としては磁気式(ジャパン・エア・ガシズPOM6E、富士電気インスツルメンツZKGなど)、ジルコニア式(東レエンジニアリングLC−750、飯島電子工業IS−700など)、ガルバニ式(飯島電子工業MC−7G、ジャパン・エア・ガシズMKI−50など)などがある。しかしながら、本発明において必要な酸素濃度測定範囲からすると磁気式では感度が不足している。また、化学反応工程からのサンプルガス内には可燃性ガスが混入することがあり、その場合にはジルコニア式では正確に酸素濃度を測定することができない。したがって、本発明においては、酸素濃度測定範囲が充分であり、かつサンプルガス内に可燃性ガスが混入することがあっても測定に支障を来すことのないガルバニ式が好適である。さらに、化学反応装置の監視を行う場合には、化学物質の蒸発や飛散による汚染を防ぐため、ガスサンプリング配管の途中に、コールドトラップやミストセパレータなどを設置すると、酸素濃度計の寿命を延長することができる。
【0042】
本発明に使用する反応溶液は、使用前に溶媒の不活性ガスによる曝気を実施して溶媒中の溶存酸素濃度を低くすることが必要であり、酸素濃度測定手段で溶存酸素濃度の測定を行うことが望ましい。本発明において用いられる反応溶媒の溶存酸素は、濃度として0.1〜8ppmが望ましく、0.1〜4ppmが好適であり、さらに望ましくは0.1〜1ppmである。また、反応溶液を保管して大気から遮断する機能を持つ容器から反応を行う装置内へ反応溶液を移送する際の配管内から装置内への酸素混入を防ぐため、当該配管内に不活性ガス曝気済の反応溶液を送り込むことによって配管内に滞留するガスを追い出し、配管内から装置内への酸素の混入を防ぐことができる。さらに望ましくは、当該配管内を不活性ガスによってガス置換し、しかる後に反応溶液を送液する方法を採用することもできる。
【0043】
本発明に使用することのできる有機高分子基材としては、ラジカルを発生することができるいかなる有機高分子材料を使用することもできるが、例えば、形状を加工しやすく、一般に多く流通されているポリオレフィン系樹脂、ハロゲン化ポリオレフィン系樹脂などが好適であり、汎用プラスチックであるポリエチレン、ポリプロピレンやエンジニアリングプラスチックであるフッ素系樹脂(三井・デュポンフロロケミカル製テフロン(登録商標)、ダイキン製ネオフロンシリーズなど)が用いやすい。また、ポリビニルアルコール樹脂(日本合成化学製ボブロンなど)、ポリビニルアルコール−エチレン共重合体樹脂(クラレ製エバール等など)、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂なども同様に用いることができる。形状としては、粒状、棒状、織布・不織布状、フィルム・シート状、繊維・ヤーン状、中空糸状、ストロー状、発泡体状などいかなる形状のものも用いることができるが、前述の連続搬送式プロセスを採用する場合には、ロール状にできる形状が最適である。
【0044】
本発明において使用される、ラジカルに誘起される有機高分子基材との化学反応を行うことのできる化学物質としては、例えば、炭素−炭素二重結合を有する任意の重合性単量体を用いることができる。例えば、イオン交換基や親水基などの機能性原子団を有する重合性単量体である、(メタ)アクリル酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ジエチルアミノエチルメタクリレート、アクリルアミド、ヒドロキシエチルメタクリレート、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドンなどを挙げることができる。これらの化学物質を用いた場合には化学反応工程のみで目的物質を有機高分子基材に導入することができる。また、それ自体は目的の機能性原子団を有しないが、後工程を追加することにより目的物質へ変換させることのできる前駆体としての原子団を有する重合性単量体を用いて、本発明に係るラジカルに誘起される化学反応を行い、次に所定の薬剤を作用させることによって、目的物質を有する製品を形成することができる。この方法を用いることのできる重合性単量体としては、例えば、メタクリル酸グリシジル、スチレン、クロロメチルスチレン、酢酸ビニルなどを挙げることができる。例えば、ラジカルに誘起される化学反応によってメタクリル酸グリシジルを有機高分子基材に重合体側鎖として導入した後、例えば、ジメチルアミンやイミノジエタノールを反応させることによって、弱塩基性のアミノ基を重合体側鎖上に有する製品を形成することができる。同様にスチレンを有機高分子基材に重合体側鎖として導入した後、クロロ硫酸溶液等でスルホン化反応をすることによってカチオン交換基を導入することができる。さらにクロロメチルスチレンを有機高分子基材に重合体側鎖として導入した後、トリメチルアミン等で4級化することによってアニオン交換基を導入させることができる。また、ラジカルに誘起される化学反応を行った後にイミノジ酢酸などのキレート化剤を作用させるとイミノジ酢酸基などのキレート基を導入することができる。また前記重合性単量体を重合して得られる高分子を溶液状もしくは固体状態で有機高分子基材に塗布法によって接触させ、同時照射法でラジカルを発生することにより基材の表面に化学物質もしくは目的物質を導入することもできる。
【0045】
本発明に係る方法を連続搬送式反応プロセスに適用するための酸素濃度測定値を用いた運転制御の方法としては、例えば、フローチャートとして図2に、適用例として概念図を図3に示す方法を挙げることができる。図2および図3に示す例は、維持したい酸素濃度範囲の任意の限界値を設定値として酸素濃度計本体に入力し、酸素濃度が当該設定値以上を示したときに信号を出力させ、放射線照射装置および反応装置の制御盤で信号を受け取り、警報を発報したり、あるいは装置の運転を停止するというものである。また、本方法においては、酸素濃度計からは酸素濃度の実測値だけを制御盤に送り、制御盤内へ予め入力された任意の設定値と比較して、設定値を越えた際に警報を発報あるいは運転停止を行うという手法を採用してもよく、いずれの形式も選択できる。運転停止する際には、照射を停止し、放射線照射が停止したことを確認してから、反応装置の運転を停止した方がよい。これは、電離性放射線の過剰照射による有機高分子基材の変形又は切断を防ぐためである。さらに、酸素濃度が任意の設定値を下回るときに限って装置の運転開始ができるように設定すると、操作ミスを防止することができる。また、酸素濃度実測値を用いて、装置内の酸素濃度を一定に保持する事もできる。酸素濃度範囲が任意の設定値付近へ近づいた際に、その近づき方に応じて、各々の装置内へ導入する不活性ガス流量を電磁弁の開閉などを用いて予め設定した流量へ変化させることにより、酸素濃度範囲を任意の設定値内に保つことができる。
【0046】
本発明の方法によって得ることができる化学修飾が施された有機高分子材料は以下の態様を含む。
1.有機高分子材料からなる基材に化学修飾が施された有機高分子材料であって、基材の表面層においてX線光電子分光法(XPS)による前記化学修飾に基づく応答が検出されることを特徴とする有機高分子材料。
2.基材の表面層の深さ方向で1nm以上100nm以下の領域が化学修飾されていることを特徴とする、前記1に記載の有機高分子材料。
3.前記基材は、ポリオレフィン及び/又はハロゲン化ポリオレフィンを含むものであることを特徴とする前記1又は2に記載の有機高分子材料。
4.前記有機高分子材料は、有機高分子材料からなる膜状基材に化学修飾が施された膜状の有機高分子材料であることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の有機高分子材料。
5.有機高分子材料からなる膜状基材に化学修飾が施された膜状の有機高分子材料であって、基材の表面層の深さ方向で膜厚の0.02%以上0.5%以下の領域が化学修飾されていることを特徴とする、前記4に記載の有機高分子材料。
6.前記表面層は、両表面の層であることを特徴とする前記4又は5に記載の有機高分子材料。
7.前記膜状基材は、ポリオレフィン及び/又はハロゲン化ポリオレフィンを含むものであることを特徴とする前記4〜6のいずれかに記載の有機高分子材料。
8.繊維又は繊維の集合体状の有機高分子材料からなる基材に化学修飾が施された繊維又は繊維の集合体の有機高分子材料であって、基材の表面層においてX線光電子分光法(XPS)による前記化学修飾に基づく応答が検出されることを特徴とする有機高分子材料。
9.繊維基材表面層の深さ方向で1nm以上100nm以下の領域が化学修飾されていることを特徴とする前記8に記載の有機高分子材料。
10.繊維又は繊維の集合体状の有機高分子材料からなる基材に化学修飾が施された繊維又は繊維の集合体の有機高分子材料であって、繊維基材表面層の深さ方向で繊維径の0.02%以上0.5%以下が化学修飾されていることを特徴とする、前記8又は9に記載の有機高分子材料。
11.前記基材が、ポリオレフィン及び/又はハロゲン化ポリオレフィンを含むことを特徴とする前記8〜10のいずれかに記載の有機高分子材料。
12.前記化学修飾が施された有機高分子材料において、該化学修飾がラジカルによって誘起される化学反応を含むものであることを特徴とする前記1〜11のいずれかに記載の有機高分子材料。
13.前記ラジカルを発生させる手段が、電離性放射線の照射であることを特徴とする前記12に記載の有機高分子材料。
14.前記ラジカルによって誘起される化学反応が、グラフト重合であることを特徴とする前記12又は13に記載の有機高分子材料。
15.グラフト重合によって基材に導入されたグラフト側鎖に化学修飾が施されていることを特徴とする前記14に記載の有機高分子材料。
16.前記化学修飾が施された有機高分子材料において、該化学修飾がイオン交換基の導入を含むことを特徴とする、前記1〜15のいずれかに記載の有機高分子材料。
17.前記化学修飾が施された有機高分子材料において、該化学修飾が配位子の導入を含むことを特徴とする、前記1〜15のいずれかに記載の有機高分子材料。
18.有機高分子材料からなる基材にイオン交換基が導入されている前記1〜16のいずれかに記載の有機高分子材料からなる電解質膜であって、前記イオン交換基がラジカルによって誘起される化学反応を含む反応により導入されている、前記電解質膜。
19.有機高分子材料からなる基材にイオン交換基が導入されている電解質膜であって、基材の表面層において、X線光電子分光法(XPS)による前記イオン交換基導入に基づく応答が検出されることを特徴とする電解質膜。
20.基材の表面層の深さ方向で1nm以上10nm以下の領域にイオン交換基が導入されていることを特徴とする前記19に記載の電解質膜。
21.有機高分子材料からなる基材にイオン交換基が導入されている電解質膜であって、基材の表面層の深さ方向で膜厚の0.003%以上0.05%以下の領域にイオン交換基が導入されていることを特徴とする前記19又は20に記載の電解質膜。
22.前記表面層は、両表面の層であることを特徴とする前記19〜21のいずれかに記載の電解質膜。
23.前記有機高分子からなる基材は、ポリオレフィン及び/又はハロゲン化ポリオレフィンを含むものであることを特徴とする前記19〜22のいずれかに記載の電解質膜。
24.有機高分子材料からなる基材にイオン交換基が導入されている前記1〜16のいずれかに記載の有機高分子材料からなる2次電池用セパレータであって、前記イオン交換基がラジカルによって誘起される化学反応を含む反応により導入されている、前記2次電池用セパレータ。
25.有機高分子材料からなる基材にイオン交換基が導入されている2次電池用セパレータであって、基材の表面層において、X線光電子分光法(XPS)による前記イオン交換基導入に基づく応答が検出されることを特徴とする2次電池用セパレータ。
26.基材の表面層の深さ方向で1nm以上50nm以下の領域においてイオン交換基が導入されていることを特徴とする前記25に記載の2次電池用セパレータ。
27.基材の表面層の深さ方向で膜厚の0.003%以上0.25%以下の領域にイオン交換基が導入されていることを特徴とする前記25に記載の2次電池用セパレータ。
28.前記表面層は、両表面の層であることを特徴とする前記25〜27のいずれかに記載の2次電池用セパレータ。
29.前記基材は、ポリオレフィン及び/又はハロゲン化ポリオレフィンを含むものであることを特徴とする前記25〜28のいずれかに記載の2次電池用セパレータ。
【0047】
基材が織布又は不織布のような繊維の集合体状の場合、「基材の表面層」は、基材を形成する繊維の表面層を意味する。
本発明において、基材に対してラジカル発生ならびにラジカルに誘起される化学反応を施して作製した製品について、導入された目的物質を構成する原子団もしくは一部の原子を表面から内部方向に向かって深さ方向に対して測定する手段としては、例えば、フーリエ変換赤外線分光法の全反射測定法において、赤外線の入射角度を変化させて測定を行う方法、透過型電子顕微鏡を用いる方法、X線光電子分光法による方法などがあるが、目的物質を構成する一部の原子の分布について、本発明にかかる製品の表面から内部に向かって深さ方向に1〜100nmの範囲において分析するためには、X線光電子分光法が好適である。X線光電子分光法は、例えば、有機高分子などの測定において、Arイオンなどを用いたエッチングを施し、表面から切削しながら切削位置近傍に存在する原子の定性的あるいは定量的な情報を得ることができる方法である。例えば、スルホン酸基を機能性原子団として導入した場合には、スルホン酸基に含まれる硫黄原子の存在量に関する測定を、製品の表面から内部へ深さ方向に向かってX線を照射し、励起されて飛び出した二次電子のエネルギーおよびエネルギー毎の個数を測定することによって、表面から内部に至る当該範囲の硫黄原子の存在量あるいは他の原子との結合状態を得ることができる。このようにして測定した結果を、目的用途に応じた機能性原子団の必要量と比較し、製品の品質管理に用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明する。以下の記載は本発明の具体例を示すものであり、本発明はこれらの記載によって限定されるものではない。
実施例1
図4に示すグローブボックス内を窒素雰囲気下とし、酸素濃度測定手段としてガルバニ電池式酸素濃度計(飯島電子工業製、型番:MC7G−L)を用いて連続測定を行い酸素濃度5〜30ppmに保持したまま、ポリ(クロロトリフロロエチレン)樹脂からなるフィルム(ダイキン製ネオフロン、平均膜厚25μm、平均目付55g/m)0.87g(100mm×150mm)をポリエチレン袋に入れた。次に、フィルムをポリエチレン袋に入れたまま、グローブボックスから取り出し、電子線を200kGy照射した。スチレンモノマー(70ml)及びトルエン(30ml)の混合液に対して、上記グローブボックス内で酸素濃度10ppmにおいて窒素ガスによる曝気を30分間実施した。この照射済フィルムと曝気済み混合液を、グローブボックス内で酸素濃度5〜10ppmにおいてガラス容器内に入れて封緘し、60℃で2時間グラフト重合を行った。しかる後に、グラフト反応済フィルムを取り出し、アセトンを抽出溶媒としてソックスレー抽出器によって2時間ホモポリマーの除去を行った後、70℃で30分間乾燥することによって、スチレングラフトフィルム1.15gを得た。重量変化量から求めたグラフト率は32.2%であった。
【0049】
得られたグラフト反応済フィルムを、クロロスルホン酸/ジクロロメタン=2/98(重量%)の混合液に浸漬し、5℃で2時間スルホン化反応を行った。フィルムを取り出し、メタノール/ジクロロメタン=10/90(重量%)の混合液、メタノール、純水で順次洗浄し、乾燥することによりイオン交換容量170meq/mのスルホン酸型フィルムAを得た。
【0050】
比較例1
上記実施例1と同様にグローブボックス内で、窒素雰囲気下、酸素濃度10〜25ppmにおいて、実施例1で用いたものと同じポリ(クロロトリフロロエチレン)樹脂からなるフィルム0.88g(100mm×150mm)をポリエチレン袋に入れ、袋に入れたままで、グローブボックスから取り出して電子線を200kGy照射した。この照射済フィルムと窒素ガスによる曝気を30分間実施したスチレンモノマー(70ml)及びトルエン(30ml)の混合液を、上記実施例1のグローブボックス内で、酸素濃度100〜110ppmにおいてガラス容器内に入れて封緘した後、60℃で2時間グラフト重合を行った。グラフト反応済フィルムを取り出し、アセトンを抽出溶媒としてソックスレー抽出器において2時間ホモポリマーの除去を行った後、70℃で30分間乾燥することによって、スチレングラフトフィルム1.12gを得た。重量変化量から得たグラフト率は27.3%であった。
【0051】
得られたグラフト反応済フィルムを、クロロスルホン酸/ジクロロメタン=2/98(重量%)の混合液に浸漬し、5℃で2時間スルホン化反応を行った。フィルムを取り出し、メタノール/ジクロロメタン=10/90(重量%)の混合液、メタノール、純水で順次洗浄し、乾燥することによりイオン交換容量168meq/mのスルホン酸型フィルムBを得た。
【0052】
実施例2
ポリエチレン繊維からなる不織布(旭・デュポンフラッシュスパンプロダクツ社製、商品名タイベック:平均繊維径0.5〜10μm、目付65g/m、厚さ0.17mm、300mm幅×200m長さのロール状)に、図1で示す連続搬送式反応装置を用いて、含浸気相グラフト重合反応を実施した。放射線照射室内を窒素雰囲気下とし、酸素濃度測定手段としてガルバニ電池式酸素濃度計(ジャパン・エア・ガシズ製、型番:MKI−50)を用いて連続測定を行い、酸素濃度を25〜50ppmに保持したまま、不織布に電子線を150kGy照射した。クロロメチルスチレン(セイミケミカル製CMS−AM)を塩基性アルミナで処理することにより重合禁止剤を吸着除去させた後、トルエンを加えてクロロメチルスチレン/トルエン=80/20(重量%)の溶液を調製し、30分間窒素曝気後に含浸装置内へ導入した。含浸装置および反応装置内の酸素濃度を酸素濃度計(飯島電子工業製MC7G−L)で連続測定しながら、含浸装置内の酸素濃度を5〜15ppm、反応装置内の酸素濃度を15〜25ppmに保持したまま、上記で得られた照射済不織布を、0.6m/minの搬送速度で含浸装置内に搬送して不織布に溶液を含浸させ、続いて反応装置内に搬送して60℃で40分間グラフト重合を行った。製造されたグラフト済不織布(製品長=162m)の長さ方向に、80m間隔で3点、製品幅×300mmの大きさのサンプルを切り出し、トルエン中60℃で3時間処理してホモポリマーの除去を行った。更に不織布をアセトンで洗浄した後、60℃で2時間乾燥することにより、クロロメチルスチレングラフト不織布を得た。得られたサンプルの目付重量の変化によるグラフト率を表1に示す。グラフト率は平均47.6%であった。
【0053】
【表1】

【0054】
得られたクロロメチルスチレングラフト不織布を、イソプロパノール/30%トリメチルアミン水溶液/純水=30/30/40(体積%)の混合液に浸漬し、60℃で6時間4級アンモニウム化反応を行った。不織布を取り出し、40℃の純水で3回洗浄し、50℃で1時間乾燥することによりアニオン交換型不織布Cを得た。得られた不織布Cのイオン交換容量を表2に示す。平均イオン交換容量は184meq/mであった。
【0055】
【表2】

【0056】
比較例2
実施例2で用いたものと同じポリエチレン繊維からなる不織布に、実施例2と同様の含浸気相グラフト重合反応を実施した。放射線照射装置酸素濃度を250ppmに保持したまま、不織布に電子線を150kGy照射した。精製クロロメチルスチレン(セイミケミカル製CMS−AM)/トルエン=80/20(重量%)溶液を30分間窒素曝気した後に含浸装置内へ導入した。含浸装置内酸素濃度を5〜14ppm、反応装置内酸素濃度を9〜37ppmに保持した状態で、上記の照射済不織布を0.6m/minで含浸装置内に搬送して溶液を不織布に含浸させ、引き続き反応装置に搬送して60℃で40分間グラフト重合を行った。製造されたグラフト済不織布の長さ方向に、80m間隔で3点、製品幅×300mmの大きさのサンプルを切り出し、トルエン中60℃で3時間処理してホモポリマーの除去を行った。更に不織布をアセトンで洗浄した後、60℃で2時間乾燥することによって、クロロメチルスチレングラフト不織布を得た。表3に得られたグラフト不織布の目付重量の変化によるグラフト率を示す。グラフト率は平均45.6%であった。
【0057】
【表3】

【0058】
得られたクロロメチルスチレングラフト不織布を、実施例2と同様にイソプロパノール/30%トリメチルアミン水溶液/純水=30/30/40(体積%)の混合液に浸漬し、60℃で6時間、4級アンモニウム化反応を行った。不織布を取り出し、40℃の純水で3回洗浄し、50℃で1時間乾燥することによりアニオン交換型不織布Dを得た。得られた不織布Dのイオン交換容量を表4に示す。平均イオン交換容量は176meq/mであった。
【0059】
【表4】

【0060】
実施例3
図4に示すグローブボックス内を窒素雰囲気下とし、酸素濃度測定手段としてガルバニ電池式酸素濃度計(飯島電子工業製、型番:MC7G−L)を用いて連続測定を行い酸素濃度5〜30ppmに保持したまま、ポリエチレン繊維からなる不織布(旭・デュポンフラッシュスパンプロダクツ社製、商品名タイベック:平均繊維径0.5〜10μm、目付65g/m、厚さ0.17mm)3.94g(200mm×300mm)をポリエチレン袋に入れた。不織布をポリエチレン袋に入れたまま、グローブボックスから取り出し、電子線を150kGy照射した。p−スチレンスルホン酸リチウム(東ソー社製、商品名LiSS)のエタノール溶液(重量比:1/19)に対し、上記グローブボックス内で、酸素濃度10ppmにおいて窒素ガスによる曝気を30分間実施した。この曝気済みの溶液に、上記で得られた照射済不織布を浸漬した後、不織布から液を拭取って総重量を7.80gとし、該グローブボックス内で、酸素濃度5〜10ppmにおいてガラス容器内に入れて封緘し、60℃で3時間グラフト重合を行った。しかる後に、グラフト反応済不織布を取り出し、60℃の純水で洗浄することによりホモポリマーの除去を行い、水を拭取った後、50℃で1時間乾燥することによって、スチレンスルホン酸リチウムグラフト不織布4.22gを得た。重量変化量から求めたグラフト率は7.1%であった。
【0061】
得られたグラフト反応済不織布を、0.5mol/Lの塩酸(500ml)で2回洗浄し、さらに60℃の純水(500ml)で2回洗浄して拭取った後、50℃で1時間乾燥することによって、4.19gのカチオン交換型不織布Eを得た。得られた不織布Eのイオン交換容量は10.1meq/mであった。
【0062】
比較例3
上記実施例1と同様に、グローブボックス内で、窒素雰囲気下、酸素濃度10〜25ppmにおいて、ポリエチレン繊維からなる不織布(旭・デュポンフラッシュスパンプロダクツ社製、商品名タイベック:平均繊維径0.5〜10μm、目付65g/m、厚さ0.17mm)3.89g(200mm×300mm)をポリエチレン袋に導入し、当該袋に入れたまま、電子線を150kGy照射した。この照射済不織布を、窒素ガスによる曝気を30分間実施したp−スチレンスルホン酸リチウムのエタノール溶液(重量比:1/19)に浸漬した後、拭取って総重量を7.80gとし、上記実施例1で使用したものと同じグローブボックス内で、酸素濃度100〜110ppmにおいてガラス容器内に入れて封緘した後、60℃で3時間グラフト重合を行った。グラフト反応済不織布を取り出し、60℃の純水で洗浄することによりホモポリマーの除去を行い拭取った後、50℃で1時間乾燥することによって、スチレンスルホン酸リチウムグラフト不織布4.16gを得た。重量変化量から求めたグラフト率は6.9%であった。
【0063】
得られたグラフト反応済不織布を、0.5mol/Lの塩酸(500ml)で2回洗浄しさらに60℃の純水(500ml)で2回洗浄して拭取った後、50℃で1時間乾燥することによって、4.13gのカチオン交換型不織布Fを得た。得られた不織布Fのイオン交換容量は9.8meq/mであった。
【0064】
実施例4
実施例1により作られたスルホン酸型フィルムAと、比較例1により作られたスルホン酸型フィルムBについてXPSにより表面の元素分布を測定した。
【0065】
フィルム表面をアセトンにより洗浄後、入射X線としてAlのKα線(1,486.6eV)を、およそ長径200μm、幅20〜30μmの楕円形状で照射した。これにより発生する光電子をワイドスキャンにより測定し、表面から深さ10nmの範囲に存在する元素の原子%を求めたところ、スルホン酸型フィルムAでSの存在割合が1〜2原子%であった。一方、スルホン酸型フィルムBでは、Sに基づく応答は検出されなかった。
【0066】
実施例5
実施例1ならびに比較例1で得られたスルホン酸型フィルムA、B及びデュポン社製ナフィオンN115に対し、図5で示すイオン透過性測定装置を用いて、定電流化での電圧を測定することにより、イオン透過性を測定した。結果について横軸を電流、縦軸にイオン透過性を示す定電流下での必要電圧をとり、グラフ化したものを図6に示す。この結果より、反応時の酸素濃度が低い方が、イオン透過性がよい結果が得られた。
【0067】
実施例6
実施例2ならびに比較例2で得られたアニオン交換型不織布C及びD、また実施例3ならびに比較例3で得られたカチオン交換型不織布E及びFを、それぞれ4mm×25mmの短冊状に8枚ずつ切出した。次に、これらを純水に浸漬して洗浄し拭取った後、温風乾燥機中、50℃で2時間乾燥させた。図7に示す吸水速度の測定方法により、深さ1mmの溝に純水を入れ、乾燥機から取り出したサンプルを、長辺を縦にして、下端が溝に配置されるようにしてすばやく立てかけ、純水が到達した高さの経時変化を測定した。なお、このときの室温は25℃、相対湿度は55%であった。結果の平均値を表5に示す。なお、アニオン交換型不織布Dの中に純水を10mm以上吸液したサンプルは1つもなかった。以上のことから、電子線照射時の酸素濃度を低く制御することにより、純水の吸液速度が高いイオン交換型不織布が得られることが確認された。
【0068】
【表5】

【0069】
実施例7
図2に示した酸素濃度の制御方法フローチャートに基づいて設置した連続搬送式グラフト反応装置への適用例概念図を図3に示す。当該装置を用いて、酸素濃度設定値を、放射線照射装置側200ppm、反応装置側50ppmとして運転試験を行ったところ、設定値以上では運転開始できず、設定値以下になった後に模擬運転を開始し、酸素濃度を上昇させたところブザーならびにパトライト(登録商標)点灯による警報が発報し、制御盤内タッチパネル上には警告メッセージが表示された。その際に放射線照射を停止し、しかる後に搬送が停止することを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、連続搬送方式によるグラフト反応装置の構成例を示す図である。
【図2】図2は、本発明に係る方法を連続搬送式反応プロセスに適用するための酸素濃度測定値を用いた運転制御方法のフローチャートである。
【図3】図3は、本発明に係る方法を連続搬送式反応プロセスに適用するための酸素濃度測定値を用いた運転制御方法の概念図である。
【図4】図4は、実施例で用いたグローブボックスの形態を示す図である。
【図5】図5は、実施例で用いたイオン透過性測定装置の構成を示す図である。
【図6】図6は、実施例5のイオン透過性試験結果を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例で用いた吸水速度測定方法の概要を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機高分子材料からなる基材に化学修飾が施された有機高分子材料であって、基材の表面層においてX線光電子分光法(XPS)による前記化学修飾に基づく応答が検出されることを特徴とする有機高分子材料。
【請求項2】
基材の表面層の深さ方向で1ppm以上100nm以下の領域が化学修飾されていることを特徴とする、請求項1に記載の有機高分子材料。
【請求項3】
前記基材は、ポリオレフィン及び/又はハロゲン化ポリオレフィンを含むものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機高分子材料。
【請求項4】
前記有機高分子材料は、有機高分子材料からなる膜状基材に化学修飾が施された膜状の有機高分子材料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機高分子材料。
【請求項5】
有機高分子材料からなる膜状基材に化学修飾が施された膜状の有機高分子材料であって、基材の表面層の深さ方向で膜厚の0.02%以上0.5%以下の領域が化学修飾されていることを特徴とする、請求項4に記載の有機高分子材料。
【請求項6】
前記表面層は、両表面の層であることを特徴とする請求項4又は5に記載の有機高分子材料。
【請求項7】
前記膜状基材は、ポリオレフィン及び/又はハロゲン化ポリオレフィンを含むものであることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の有機高分子材料。
【請求項8】
繊維又は繊維の集合体状の有機高分子材料からなる基材に化学修飾が施された繊維又は繊維の集合体の有機高分子材料であって、基材の表面層においてX線光電子分光法(XPS)による前記化学修飾に基づく応答が検出されることを特徴とする有機高分子材料。
【請求項9】
繊維基材表面層の深さ方向で1nm以上100nm以下の領域が化学修飾されていることを特徴とする請求項8に記載の有機高分子材料。
【請求項10】
繊維又は繊維の集合体状の有機高分子材料からなる基材に化学修飾が施された繊維又は繊維の集合体の有機高分子材料であって、繊維基材表面層の深さ方向で繊維径の0.02%以上0.5%以下が化学修飾されていることを特徴とする、請求項8又は9に記載の有機高分子材料。
【請求項11】
前記基材が、ポリオレフィン及び/又はハロゲン化ポリオレフィンを含むことを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の有機高分子材料。
【請求項12】
前記化学修飾が施された有機高分子材料において、該化学修飾がラジカルによって誘起される化学反応を含むものであることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の有機高分子材料。
【請求項13】
前記ラジカルを発生させる手段が、電離性放射線の照射であることを特徴とする請求項12に記載の有機高分子材料。
【請求項14】
前記ラジカルによって誘起される化学反応が、グラフト重合であることを特徴とする請求項12又は13に記載の有機高分子材料。
【請求項15】
グラフト重合によって基材に導入されたグラフト側鎖に化学修飾が施されていることを特徴とする請求項14に記載の有機高分子材料。
【請求項16】
前記化学修飾が施された有機高分子材料において、該化学修飾がイオン交換基の導入を含むことを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の有機高分子材料。
【請求項17】
前記化学修飾が施された有機高分子材料において、該化学修飾が配位子の導入を含むことを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の有機高分子材料。
【請求項18】
有機高分子材料からなる基材にイオン交換基が導入されている請求項1〜16のいずれかに記載の有機高分子材料からなる電解質膜であって、前記イオン交換基がラジカルによって誘起される化学反応を含む反応により導入されている、前記電解質膜。
【請求項19】
有機高分子材料からなる基材にイオン交換基が導入されている電解質膜であって、基材の表面層において、X線光電子分光法(XPS)による前記イオン交換基導入に基づく応答が検出されることを特徴とする電解質膜。
【請求項20】
基材の表面層の深さ方向で1nm以上10nm以下の領域にイオン交換基が導入されていることを特徴とする請求項19に記載の電解質膜。
【請求項21】
有機高分子材料からなる基材にイオン交換基が導入されている電解質膜であって、基材の表面層の深さ方向で膜厚の0.003%以上0.05%以下の領域にイオン交換基が導入されていることを特徴とする請求項19又は20に記載の電解質膜。
【請求項22】
前記表面層は、両表面の層であることを特徴とする請求項19〜21のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項23】
前記有機高分子からなる基材は、ポリオレフィン及び/又はハロゲン化ポリオレフィンを含むものであることを特徴とする請求項19〜22のいずれかに記載の電解質膜。
【請求項24】
有機高分子材料からなる基材にイオン交換基が導入されている請求項1〜16のいずれかに記載の有機高分子材料からなる2次電池用セパレータであって、前記イオン交換基がラジカルによって誘起される化学反応を含む反応により導入されている、前記2次電池用セパレータ。
【請求項25】
有機高分子材料からなる基材にイオン交換基が導入されている2次電池用セパレータであって、基材の表面層において、X線光電子分光法(XPS)による前記イオン交換基導入に基づく応答が検出されることを特徴とする2次電池用セパレータ。
【請求項26】
基材の表面層の深さ方向で1nm以上50nm以下の領域においてイオン交換基が導入されていることを特徴とする請求項25に記載の2次電池用セパレータ。
【請求項27】
基材の表面層の深さ方向で膜厚の0.003%以上0.25%以下の領域にイオン交換基が導入されていることを特徴とする請求項25に記載の2次電池用セパレータ。
【請求項28】
前記表面層は、両表面の層であることを特徴とする請求項25〜27のいずれかに記載の2次電池用セパレータ。
【請求項29】
前記基材は、ポリオレフィン及び/又はハロゲン化ポリオレフィンを含むものであることを特徴とする請求項25〜28のいずれかに記載の2次電池用セパレータ。
【請求項30】
有機高分子材料からなる基材に化学修飾を施すことによって有機高分子材料を製造する方法であって、基材を外部環境から隔離し且つ酸素濃度を外部より低く保持することが可能な容器に入れ、該容器内の一部で前記基材にラジカルを発生させた後、前記基材を前記容器内の別の一部に移動させてラジカルによって誘起される反応によって化学修飾させることを含み、該化学修飾させる雰囲気の酸素濃度を1ppm以上100ppm以下にすることを特徴とする有機高分子材料の製造方法。
【請求項31】
有機高分子材料からなる基材に化学修飾を施すことによって有機高分子材料を製造する方法であって、基材を外部環境から隔離しかつ酸素濃度を外部より低く保持することが可能な容器に入れ、該容器内の一部で前記基材にラジカルを発生させた後、前記基材を前記容器内の別の一部に移動させてラジカルによって誘起される反応によって化学修飾させることを含み、前記ラジカルを発生させる雰囲気の酸素濃度を1ppm以上200ppm以下にすることを特徴とする有機高分子材料の製造方法。
【請求項32】
有機高分子材料からなる基材に化学修飾を施すことによって有機高分子材料を製造する方法であって、基材を外部環境から隔離しかつ酸素濃度を外部より低く保持することが可能な容器に入れ、該容器内の一部で前記基材にラジカルを発生させた後、前記基材を前記容器内の別の一部に移動させてラジカルによって誘起される反応によって化学修飾させることを含み、該化学修飾させる雰囲気の酸素濃度を1ppm以上100ppm以下にし、かつ前記ラジカルを発生させる雰囲気の酸素濃度を1ppm以上200ppm以下にすることを特徴とする有機高分子材料の製造方法。
【請求項33】
前記容器は、基材にラジカルを発生させる部分と化学修飾させる部分が区画されていることを特徴とする請求項30〜32のいずれかに記載の有機高分子材料の製造方法。
【請求項34】
前記容器が、基材にラジカルを発生させる容器及び化学修飾させる別個の容器を含み、且つ、基材を、外部環境から隔離し雰囲気中の酸素濃度を1ppm以上100ppm以下に保持したまま移動させることが可能な接続部を通って、基材をラジカルを発生させる容器から化学修飾させる容器に移動させることをさらに含むことを特徴とする請求項30〜32のいずれかに記載の有機高分子材料の製造方法。
【請求項35】
有機高分子材料からなる基材に化学修飾を施すことによって有機高分子材料を製造する方法であって、基材を外部環境から隔離しかつ酸素濃度を外部より低く保持することが可能な容器に入れ、該容器の一部で基材と化学修飾用反応物質とを接触させながら基材にラジカルを発生させることを含み、該化学修飾させる雰囲気の酸素濃度を1ppm以上100ppm以下にすることを特徴とする有機高分子材料の製造方法。
【請求項36】
前記ラジカルを発生させる手段は、電離性放射線の照射であることを特徴とする請求項30〜35のいずれかに記載の有機高分子材料の製造方法。
【請求項37】
前記化学修飾はグラフト重合を含むものであることを特徴とする請求項30〜36のいずれかに記載の有機高分子材料の製造方法。
【請求項38】
前記基材がポリオレフィン及び/又はハロゲン化ポリオレフィンを含むことを特徴とする請求項30〜37のいずれかに記載の有機高分子材料の製造方法。
【請求項39】
前記基材は膜状又は繊維の集合体のシート状材料であって、前記反応を行う空間へ基材を供給する工程、ラジカルを発生させる工程、化学修飾させる工程、及び製造物を排出する工程から選択される少なくとも1つ以上が連続的に行われることを特徴とする、請求項30〜38のいずれかに記載の有機高分子材料の製造方法。
【請求項40】
前記反応を行う空間に酸素濃度が1ppb以上100ppm以下の不活性ガスを供給して反応空間の内部気体を置換することによって反応を行う空間の酸素濃度を外部より低く保持する請求項30〜39のいずれかに記載の有機高分子材料の製造方法。
【請求項41】
前記反応を行う空間に酸素濃度が0.1ppm以上100ppm以下の不活性ガスを供給し、反応空間の内部気体を排出して脱酸素化処理を行った後、前記反応空間に戻すことにより、内部気体を循環置換することによって反応を行う空間の酸素濃度を外部より低く保持する請求項30〜40のいずれかに記載の有機高分子材料の製造方法。
【請求項42】
前記不活性ガスは、純度が99.99%以上の窒素ガスであることを特徴とする請求項
40又は41に記載の有機高分子材料の製造方法。
【請求項43】
有機高分子材料からなる基材に化学修飾が施されている膜状有機高分子材料の検査方法であって、製造された膜状有機高分子材料の表面層において深さ方向で1nm以上100nm以下の領域が化学修飾されていることをX線光電子分光法(XPS)によって測定することを特徴とする膜状有機高分子材料の検査方法。
【請求項44】
有機高分子材料からなる基材に化学修飾が施された膜状有機高分子材料を製造する装置であって、基材を外部環境から隔離しかつ酸素濃度を外部より低く保持することが可能な第1の容器内に配置されている、有機高分子材料からなる基材にラジカルを発生させる電離性放射線照射部;基材を外部環境から隔離しかつ酸素濃度を外部より低く保持することが可能な第2の容器内に配置されている、前記ラジカルに誘起される反応によって化学修飾させる化学修飾部;基材を外部環境から隔離しかつ酸素濃度を外部より低く保持することが可能な第3の容器内に配置されている、前記電離性放射線照射部が配置された容器と前記化学修飾部が配置された容器とを接続し且つ前記基材が移動可能な接続部;とを有し、前記電離性放射線照射部が配置されている第1の容器、前記化学修飾部が配置されている第2の容器、及び前記接続部が配置されている第3の容器のいずれかの内部に、容器内に不活性気体を供給する1つ以上の不活性気体供給口と、容器の内部気体を排気する1つ以上の排気口とを備え、前記電離性放射線照射部が配置されている第1の容器の内部気体の酸素濃度を0.1ppm以上200ppm以下に保持し、及び/又は、前記化学修飾部が配置されている第2の容器の内部気体の酸素濃度を0.1ppm以上100ppm以下に保持する機能を有することを特徴とする有機高分子材料の化学修飾装置。
【請求項45】
有機高分子材料からなる基材に化学修飾が施された膜状有機高分子材料を製造する装置であって、基材を外部環境から隔離しかつ酸素濃度を外部より低く保持することが可能な容器と;該容器内に配置されている、有機高分子材料からなる基材にラジカルを発生させる電離性放射線照射部と;該容器内に配置されている、前記基材に前記ラジカルに誘起される反応によって化学修飾させる化学修飾部と;該容器内に配置されている、前記基材を前記電離性放射線照射部から前記化学修飾部へ搬送する搬送部と;を有し、前記容器の内部に不活性気体を供給する不活性気体供給口及び前記容器の内部気体を排気する排気口とを備え、前記容器の内部気体の酸素濃度を0.1ppm以上100ppm以下に保持する
機能を有することを特徴とする有機高分子材料の化学修飾装置。
【請求項46】
前記電離放射線照射部及び/又は前記化学修飾部の内部気体の酸素濃度を連続的にモニターする酸素濃度計を備え、該酸素濃度が所定濃度範囲から逸脱した際に警報を発する機能をさらに有する請求項44又は45に記載の有機高分子材料の化学修飾装置。
【請求項47】
前記電離放射線照射部及び/又は前記化学修飾部の内部気体の酸素濃度を連続的にモニターする酸素濃度計を備え、該酸素濃度が所定濃度範囲から逸脱した際に電離性放射線照射の停止及び/又は化学修飾反応の停止機能をさらに有する請求項44〜46のいずれかに記載の有機高分子材料の化学修飾装置。
【請求項48】
前記電離放射線照射部及び/又は前記化学修飾部の内部気体の酸素濃度をモニターする酸素濃度計を備え、化学修飾装置の運転を開始する際に前記電離放射線照射部及び前記化学修飾部の内部気体の酸素濃度がそれぞれ所定濃度範囲にあるときに始動可能とする制御機能をさらに有することを特徴とする請求項44〜47のいずれかに記載の有機高分子材料の化学修飾装置。
【請求項49】
請求項44〜48のいずれかに記載の有機高分子材料の化学修飾装置において、前記電離放射線照射部、前記化学修飾部及び接続部の各内部気体を酸素濃度が所定濃度範囲の不活性気体で置換させることにより該各内部気体の酸素濃度を所定濃度範囲以下とし、基材供給部から搬入された基材を電離放射線照射部に移動させて照射源と照射時間の調整により所定量の電離性放射線を照射させ、基材上にラジカルを発生させ、ラジカルが発生した基材を化学修飾部に移動させラジカルによって誘起される化学修飾に必要な化学種を含む所定の反応液と接触させ所定の反応温度及び時間によって化学修飾を行い、化学修飾された製造物を製造し、化学修飾された製造物を製造物搬送部によって搬出する各工程を実行するためのコンピュータ読み取り可能な装置運転プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−525566(P2008−525566A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−547846(P2007−547846)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【国際出願番号】PCT/JP2005/024284
【国際公開番号】WO2006/070945
【国際公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】