説明

化学免疫療法の方法

【課題】 疾患を治療または予防する方法を提供する。
【解決手段】 疾患の治療または予防で使用するための医薬の調製における抗原の使用であって、前記治療または予防が、1種または複数の化学療法薬および抗原を同時に、逐次的に、または別々に被験体に投与することを含み、被験体のCD4+CD25+Treg細胞カウントが低減し、またはCD4+CD25+Treg細胞の機能が低下している場合に抗原が投与される、上記使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個体を化学療法薬で処置するとともに、抗原特異的な免疫応答を誘発するための抗原で個体を処置するための併用療法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の進行した患者の治療は、一般的には化学療法による。しかし、特に固形癌には、化学療法の治効があることは稀であり、さらなる経路の治療が必要とされる。
【0003】
最近では、ヒトの免疫工学における進歩により、癌の治療に対する新しい取組みとして免疫療法の分野が切り開かれている。数々の様々な抗癌ワクチンでの標的の抗原に対する特異的な免疫化が実現している患者もあるが、長期の反応の改善が望ましい。
【0004】
したがって、治療レジメンを改善する必要が依然としてある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
化学療法では、免疫系に対する数々の有害な効果が観察されているので、化学療法と免疫療法は、非関連の、またはより一般的には拮抗的な形態の治療とみなされている。これは、殆どの化学療法では標的細胞をアポトーシスによって死滅させ、細胞が死滅するこの様式は、非刺激性であり、または免疫応答を開始することによって提示された抗原に対してT細胞がもはや反応することができない状態である免疫寛容を生成することができると、免疫学的に考えられていたからである。さらに、化学療法の一般的な副作用には、リンパ球減少症、すなわちリンパ球における減少の誘発があり、これは、あらゆる潜在的な免疫応答に有害であると想定されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、その抗原に特異的である免疫応答を誘発するための抗原、および1種または複数の化学療法薬の投与を含む併用処置に関する。特に、本発明は、抗原を投与することによって抗原に対する免疫応答を刺激する処置は、1種または複数の化学療法薬で処置することによって増強されるという驚くべき発見に基づくものである。
【0007】
したがって、本発明の第1の態様では、抗原および1種または複数の化学療法薬、および製薬上許容される担体、希釈剤または賦形剤を含む医薬組成物が提供される。
【0008】
好適には、このような組成物は、キットなどの形態で、別々に、同時に、または逐次的に投与するための二成分として提供される。
【0009】
好適には、抗原は、それに対して免疫応答を誘発するのが望ましい抗原である。このような抗原には;例えば、腸チフス、ポリオ、麻疹、流行性耳下腺炎、風疹、および結核などの病原体によって;花粉、および単離され患者を免疫化するのに用いられる他のアレルギー性材料からのアレルギー性タンパク質によって;ヘモフィルス属インフルエンザB、B型肝炎などの病原性生物の抗原成分によって引き起こされる疾患に対する免疫を誘発するための抗原として用いられる、不活性化の、弱毒化の、または非病原性の系統の病原体が含まれる。
【0010】
別の一実施形態では、抗原は、精子または卵子に特異的なタンパク質を産生する免疫応答を誘発するための方法などの、避妊のための方法で用いることができるものであってよい。例えば、抗原は透明帯のタンパク質であってよい。
【0011】
一実施形態では、抗原は腫瘍関連抗原である。好適な腫瘍関連抗原(TAA)には、5T4が含まれる。他の適切な抗原には以下のクラスにおけるTAAが含まれる:癌精巣抗原(例えば、HOM-MEL-40)、分化抗原(例えば、HOM-MEL-55)、過剰発現された遺伝子産物(HOM-MD-21)、突然変異した遺伝子産物(NY-COL-2)、スプライスバリアント(HOM-MD-397)、遺伝子増幅産物(HOM-NSCLC-11)、およびCancer Vaccines and Immunotherapy(2000年)、Stern、Beverley、およびCarroll編集、Cambridge University Press、Cambridgeに総説されている癌関連自己抗原(HOM-MEL-2.4)。さらなる例には、MART-1(T細胞によって認識されるメラノーマ抗原、MAGE-A(MAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A6、MAGE-A8、MAGE-A10、MAGE-A12)、MAGE B(MAGE-B1、MAGE-B24)、MAGE-C(MAGE-C1/CT7、CT10)、GAGE(GAGE-1、GAGE-8、PAGE-1、PAGE-4、XAGE-1、XAGE-3)、LAGE(LAGE-1a(1S)、-1b(1L)、NY-ESO-1)、SSX(SSX1-SSX-5)、BAGE、SCP-1、PRAME(MAPE)、SART-1、SART-3、CTp11、TSP50、CT9/BRDT、gp100、MART-1、TRP-1、TRP-2、MELAN-A/MART-1、癌胎児抗原(CEA)、前立腺特異抗原(PSA)、MUCIN(MUC-1)、およびチロシナーゼ。TAAは、Cancer Immunology(2001年)、Kluwer Academic Publishers、オランダに総説されている。さらなる腫瘍関連抗原には、Her2、サバイビン、およびTERTが含まれる。
【0012】
「抗原」には、個体中に導入すべきタンパク質またはペプチドを提供するための手段が含まれる。本明細書に記載するように、抗原は、ペプチドもしくはタンパク質を送達することにより、またはペプチドもしくはタンパク質をコードする核酸を送達することにより提供され得る。
【0013】
本発明の状況における「抗原」は、抗原に由来する抗原ペプチドも組み入れられることを意味する。特に、「腫瘍関連抗原」は、腫瘍関連抗原に由来するペプチドを包含することが企図される。
【0014】
腫瘍関連抗原などの抗原は、数々の異なる方法で薬物として使用するために提供され得る。これをウイルスのベクターの一部分として投与することができる。当業者であれば、数々の適切なウイルスのベクターに精通しており、本明細書に記載する数々のベクターが含まれる。
【0015】
TroVax(登録商標)ワクチン(Tro Vaxは、Oxford Biomedica plcの、登録済みの、米国、および欧州連合の登録商標である)は、腫瘍関連抗原である5T4を発現するように修飾されている、MVAに由来するウイルスのベクターを含んでいる。一実施形態では、本発明の組合せで用いるための腫瘍抗原は5T4であり、Tro Vax(登録商標)ワクチンによって提供される。
【0016】
適切な化学療法薬には、あらゆる従来の薬剤が含まれる。一実施形態では、化学療法薬は、イリノテカン、フルオロウラシル、ロイコボリン、およびオキサリプラチンから選択される。別の一実施形態では、「化学療法薬」は、FOLFOXまたはIFLなどの治療における化学療法薬の組合せを含み得る。
【0017】
別の一態様では、疾患を治療するための医薬の製造における、本発明による組成物の使用が提供される。適切には、抗原が腫瘍関連抗原である場合、疾患は癌である。
【0018】
さらなる一態様では、治療で、同時に、逐次的に、または別々に使用するための抗原および1種または複数の化学療法薬を含む薬剤製品が提供される。
【0019】
「同時に」は、2つの薬剤を同時に投与することを意味する。「逐次的に」は、2つの薬剤が同じ時間枠内で治療的に作用するのに両方とも有用であるように、1つの時間枠内で次々に投与することを意味する。2つの薬剤を投与する間の最適な時間間隔は、腫瘍抗原を送達するための方法の厳密な性質に応じて変化する。
【0020】
「別々に」の語は、第1の薬剤の投与と第2の薬剤の投与との間の間隙が十分であることを意味するように用いられる。
【0021】
一実施形態では、化学療法を施した後に抗原を投与する。化学療法を施して10週間後に抗原を投与し、好ましくは10週間未満、より好ましくは約2週間後に抗原を投与するのが好適である。好ましい一実施形態では、化学療法を施して2週間後に抗原を投与する。
【0022】
一実施形態では、抗原を、化学療法の開始に先立って投与し、次いで再び化学療法を続ける。別の一実施形態では、抗原を化学療法の間に、ならびに化学療法の前および/または後に投与する。
【0023】
一実施形態では、化学療法の少なくとも24時間後、好ましくは48時間後に、抗原を投与する。好ましくは、抗原の投与は、化学療法後8週間以内、好ましくは6週間以内、さらにより好ましくは4週間から6週間の間に行う。
【0024】
一実施形態では、治療すべき被験体の、CD4+CD25+Treg細胞カウントが低減し、またはCD4+CD25+Treg細胞の機能が低下した場合に抗原を投与する。
【0025】
「CD4+CD25+Treg細胞カウントの低減」は、1種または複数の化学療法薬、またはOntakなどのCD4+CD25+Treg細胞カウント低減薬を投与する前に測定したCD4+CD25+Treg細胞カウントよりも低いCD4+CD25+Treg細胞カウントを意味する。好ましくは、CD4+CD25+Treg細胞レベルは、CD4+CD25+Treg細胞カウント低減薬(例えば、1種または複数の化学療法薬、またはOntak)を投与する前に測定したCD4+CD25+Treg細胞レベルよりも、少なくとも15%、30%、50%、70%、90%低い。最も好ましくは、ワクチン接種は、化学療法がCD4+CD25+Treg細胞の最大の枯渇を引き起こした場合の期間に一致する。
【0026】
「CD4+CD25+Treg細胞の機能の低下」は、化学療法薬またはOntakなどのCD4+CD25+Treg細胞機能低減薬を投与する前に測定したCD4+CD25+Treg細胞の機能よりも低いCD4+CD25+Treg細胞の機能を意味する。好ましくは、CD4+CD25+Treg細胞の機能は、CD4+CD25+Treg細胞機能低減薬(例えば、1種または複数の化学療法薬、またはOntak)を投与する前に測定したCD4+CD25+Treg細胞の機能よりも、少なくとも15%、30%、50%、70%、90%低い。最も好ましくは、ワクチン接種は、化学療法がCD4+CD25+Treg細胞の機能の最大の低下を引き起こした場合の期間に一致する。
【0027】
一実施形態では、製薬上許容される担体、希釈剤または賦形剤を含む医薬組成物の形態の、本発明による医薬生成物が提供される。
【0028】
別の一態様では、疾患を治療または予防する方法が提供され、前記方法は、抗原および化学療法薬を同時に、逐次的に、または別々に被験体に投与することを含む。
【0029】
個体を処置する方法が、
a)化学療法を施すステップと、
b)抗原を投与するステップと
を含むのが適切である。
【0030】
一実施形態では、方法は、抗原を投与した後に化学療法を施すことをさらに含む。別の一実施形態では、方法は、化学療法を施すのと同じ時間枠の間に抗原を投与することをさらに含む。
【0031】
別の一態様では、癌を治療する方法が提供され、前記方法は、腫瘍関連抗原および化学療法薬を同時に、逐次的に、または別々に被験体に投与することを含む。
【0032】
適切には、個体を処置する方法は、
a)抗腫瘍反応を誘発するために腫瘍抗原を投与するステップと、
b)化学療法を施すステップと、
c)腫瘍抗原を投与するステップと
を含む。
【0033】
一実施形態では、方法は、CD4+CD25+Treg細胞カウントまたはCD4+CD25+Treg細胞機能を測定するステップをさらに含む。別の一実施形態では、方法は、化学療法の前、および/または間、および/または後に、CD4+CD25+Treg細胞カウント、またはCD4+CD25+Treg細胞機能の低減を測定することを含む。
【0034】
さらなる一態様では、疾患の治療または予防において使用するための医薬の調製における抗原の使用が提供され、前記治療は、1種または複数の化学療法薬、および抗原を同時に、逐次的に、または別々に被験体に投与することを含む。
【0035】
別の一態様では、疾患の治療または予防において使用するための医薬の調製における抗原、および1種または複数の化学療法薬の使用が提供される。
【0036】
別の一態様では、疾患の治療または予防において使用するための医薬の調製における抗原の使用が提供され、前記治療は、化学療法薬との併用療法で用いるためのものである。
【0037】
別の一態様では、疾患の治療または予防において使用するための医薬の調製における、1種または複数の化学療法薬の使用が提供され、前記治療は、抗原との併用療法で使用するためのものである。
【0038】
さらなる一態様では、疾患の治療または予防において同時に、別々に、または逐次的に用いるための医薬の製造における抗原および1種または複数の化学療法薬の使用が提供され、投与パターンは、抗原を投与した後に化学療法を施すこと、および化学療法の後に抗原を投与することを含む。
【0039】
別の一実施形態では、抗原に対する免疫応答を誘発するために、哺乳動物に投与するための医薬の調製における抗原の使用が提供され、抗原の投与は、疾患の治療または予防において、化学療法薬の投与の前、および/または間、および/または後に抗原を投与することを含む。
【0040】
あらゆる上記の態様の一実施形態において、抗原は、腫瘍関連抗原であり、疾患は癌であるのが好適である。
【0041】
本発明のさらなる一態様では、抗原に対して感作する前、および/またはその間、および/またはその後に、化学療法で処置することによって、抗原に対する免疫応答を増強する方法が提供される。
【0042】
別の一態様では、投与のための1種または複数の化学療法薬と組み合わせて抗原を投与するための手段を含むキットが提供される。
【0043】
本発明の他の態様を、添付の特許請求の範囲に、ならびに以下の記載および考察に示す。これらの態様を、別々のセクションの表題の下に示す。しかし、各セクションの表題の下の教示は、その特定のセクションの表題に必ずしも限定されないことを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例に記載するワクチン接種およびモニタリングレジメンのダイアグラムを示す図である。
【図2】TV2-FOLFOX試験:臨床試験期間全体における腫瘍の様相を示す図である。図は、3つのCTスキャン時点(TroVaxワクチン接種以前(スクリーニング時)、ならびに第14週および第X+8週)における評価可能患者の標的腫瘍病変の総数を示す。
【図3】TV2-IFL試験:臨床試験期間全体における腫瘍の様相を示す図である。図は、以下の3つの時点における標的腫瘍病変の総数を示す:TroVaxワクチン接種以前(スクリーニング時)、ならびに第X週および第X+14週。
【図4】図4aは、TV2-IFL試験における5T4反応、図4bは、TV2-FOLFOX試験における5T4反応、図4cは、TV2-IFL試験におけるMVA反応、図4dは、TV2-FOLFOX試験におけるMVA反応、図4eは、TV2-IFL試験におけるTT反応、図4fは、TV2-FOLFOX試験におけるTT反応をそれぞれ示す図である。
【図5】TV2試験期間中の各時点における患者TV2-016のCD4+CD25+ Treg百分率(右側の四分の一領域)を示す図である。結果は、CD4+ T細胞数に対する百分率として示す。
【図6】細胞内FoxP3発現の染色により、CD4+CD25+ Treg表現型を確認する図である。CD4+T細胞をゲートし(A)、そのCD25発現を確認した(B)。四分の一領域の厳密な設定(B;右上の四分の一領域)により、CD25+hi発現細胞を選定した。この右側四分の一領域における細胞、および最も発現度の高いFoxP3(C;右上の四分の一領域)をゲートした。
【図7】TV2-IFL患者(黒:n=7)およびTV2-FOLFOX患者(灰色:n=6)のCD4+ T細胞母集団内における平均CD4+CD25+ Treg百分率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
抗原
腫瘍関連抗原(TAA)
TAAは、膜タンパク質、または糖タンパク質および糖脂質の改変された炭水化物分子と特徴付けられているが、その機能はあまり分かっていない。1つのTAAファミリーである、トランスメンブレン4スーパーファミリー(TM4SF)は、通常、4個のよく保存されている膜貫通領域、ある種のシステイン残基、および短い配列モチーフを有する。TM4SF抗原は、T細胞のCD4およびCD8をはじめとする、他の重要な膜受容体と緊密に関連して存在するという証拠がある(ImaiおよびYoshie(1993年)J.Immunol.、151巻、6470〜6481頁)。TM4SF抗原は、次に細胞の発達、活性化、および運動性に影響を及ぼすシグナル伝達において役割を果たすことがあるとも示唆されている。TM4SF抗原の例には、ヒトメラノーマ関連抗原ME491、ヒトおよびマウス白血球表面抗原CD37、およびヒトリンパ芽球性白血病関連TALLA-1が含まれる(Hotta,Hら(1988年)Cancer Res.、48巻、2955〜2962頁;Classon,B.J.ら(1989年)J.Exp.Med.、169巻、1497〜1502頁;Tomlinson,M.G.ら(1996年)Mol.Immun.、33巻、867〜872頁;Takagi,S.ら(1995年)Int.J.Cancer、61巻、706〜715頁)。
【0046】
TAAのさらなる例には、また、それだけには限定されないが、以下のクラスにおけるTAAが含まれる:癌精巣抗原(HOM-MEL-40)、分化抗原(HOM-MEL-55)、過剰発現された遺伝子産物(HOM-MD-21)、突然変異した遺伝子産物(NY-COL-2)、スプライスバリアント(HOM-MD-397)、遺伝子増幅産物(HOM-NSCLC-11)、およびCancer Vaccines and Immunotherapy(2000年)、Stern、Beverley、およびCarroll編集、Cambridge University Press、Cambridgeに総説されている癌関連自己抗原(HOM-MEL-2.4)。さらなる例には、MART-1(T細胞によって認識されるメラノーマ抗原-1)、MAGE-A(MAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A6、MAGE-A8、MAGE-A10、MAGE-A12)、MAGE B(MAGE-B1、MAGE-B24)、MAGE-C(MAGE-C1/CT7、CT10)、GAGE(GAGE-1、GAGE-8、PAGE-1、PAGE-4、XAGE-1、XAGE-3)、LAGE(LAGE-1a(1S)、-1b(1L)、NY-ESO-1)、SSX(SSX1-SSX-5)、BAGE、SCP-1、PRAME(MAPE)、SART-1、SART-3、CTp11、TSP50、CT9/BRDT、gp100、MART-1、TRP-1、TRP-2、MELAN-A/MART-1、癌胎児抗原(CEA)、前立腺特異抗原(PSA)、MUCIN(MUC-1)、およびチロシナーゼ。TAAは、Cancer Immunology(2001年)、Kluwer Academic Publishers、オランダに総説されている。
【0047】
一実施形態では、腫瘍関連抗原は5T4である。
【0048】
5T4
5T4は、以前に、例えばWO89/07947で特徴付けられた。ヒト5T4の配列は、GenBankに登録番号Z29083号で示される。5T4抗原は、ネズミ科動物5T4(WO00/29428)、イヌ科動物5T4(WO01/36486)、またはネコ科動物5T4など、様々な生物種に由来し得る。抗原は、特定の動物種、好ましくは哺乳動物にみられる天然に存在する5T4の変異体に由来していてよい。このような変異体は、同じ遺伝子ファミリーの関連の遺伝子によって、特定の遺伝子の対立形質の変異体によってコードされていてもよく、または5T4遺伝子の代替のスプライシングバリアントを表していてもよい。5T4およびその使用は、EP1036091にも記載されている。
【0049】
異なる生物種またはスプライスバリアントからの5T4に由来するペプチドのエピトープは、類似のヒト野生型5T4ペプチドのエピトープからの異なるアミノ酸配列を有することがある。しかし、ペプチドが、ヒトのペプチドと同じ定性的な結合特異性を保持する限り(すなわち、同じハプロタイプのMHC分子のペプチド収容溝で結合する限り)、それは依然として本発明によるエピトープである。
【0050】
抗原に由来する免疫原性ペプチド
「抗原」は、腫瘍関連抗原を含む、特異的な抗原タンパク質に由来するペプチドのエピトープを含む。適切なエピトープには、T細胞のエピトープが含まれる。前記ペプチドは「免疫原性ペプチド」であるのが適切であり、すなわち、これは抗腫瘍関連抗原の免疫応答を刺激することができる。このような免疫応答には、ペプチドに対する細胞性T細胞反応、および一般的にタンパク質抗原に対する細胞性T細胞反応および/または抗体反応が含まれる。
【0051】
この点では「ペプチド」は通常の意味では、一連の残基、典型的には、α-アミノ基と、隣接するアミノ酸のカルボキシル基との間のペプチド結合によって一方から他方に接続されている、典型的にはL-アミノ酸を意味するために用いられる。この語は、修飾されているペプチドおよび合成のペプチド類似体を含む。
【0052】
T細胞のエピトープは、タンパク質抗原に由来することができる短いペプチドである。抗原提示細胞は、抗原を内在化し、それを処理してMHC分子に結合することができる短いフラグメントにすることができる。MHCに対するペプチド結合の特異性は、特定のMHC分子の、ペプチドとペプチド収容溝との間の特異的な相互作用によるものである。
【0053】
MHCクラスI分子に結合する(そして、CD8+T細胞によって認識される)ペプチドは、通常、アミノ酸の長さが6個と12個の間であり、より通常には8個と12個の、または8個と10個の間である。典型的には、ペプチドは、アミノ酸の長さ9個である。ペプチドのアミノ末端のアミノ基は、ペプチド溝の1終端で不変部位(invariant site)と接触し、カルボキシ末端のカルボキシル基は、溝の他の終端で不変部位に結合している。このように、典型的にはこのようなペプチドは疎水性または塩基性のカルボキシ末端を有し、一番端のアミノ末端ではプロリンは非存在である。ペプチドは、溝に沿って伸長した立体配座にあり、溝を裏打ちする主鎖原子と保存されているアミノ酸側鎖との間にさらに接触している。ペプチド長における変異体は、ペプチドバックボーンにおいて、しばしばプロリンまたはグリシン残基でねじれることを含む。
【0054】
MHCクラスII分子に結合するペプチドは、通常少なくとも長さ10個のアミノ酸、例えば、約13〜18個のアミノ酸であり、ずっと長くてもよい。これらのペプチドは、両終端で開放しているMHCIIのペプチド結合性の溝に沿って伸長した立体配座で位置する。ペプチドは、主に、ペプチド結合性の溝を裏打ちする保存されている残基との主鎖原子の接触によって位置が保たれる。
【0055】
本発明の抗原ペプチドは、化学的方法を用いて作成してもよい(Peptide Chemistry,A practical Textbook.、Mikos Bodansky、Springer-Verlag、ベルリン)。例えば、固相技術により(Roberge JYら(1995年)Science、269巻、202〜204頁)、樹脂から切断し、分離用高速液体クロマトグラフィーによって精製してペプチドを合成することができる(例えば、Creighton(1983年)Proteins Structures And Molecular Principles、WH Freeman and Co、New York、NY)。例えば、ABI 43 1 A Peptide Synthesizer(Perkin Elmer)を用いて、製造元が提供する指示に従って、自動化の合成を実現することができる。
【0056】
ペプチドを、代わりに、組換えの手段によって、またはより長いポリペプチドからの切断によって作成してもよい。例えば、全長の5T4などの全長のタンパク質から切断することによって、ペプチドを得てもよい。ペプチドの組成を、アミノ酸分析または配列決定(例えば、エドマン分解の手順)によって確認する。
【0057】
「ペプチドのエピトープ」の語は、修飾したペプチドを包含する。例えば、野生型の腫瘍関連抗原ペプチドのMHC結合特異性が保持されるのであれば、腫瘍関連抗原のペプチドを、アミノ酸の挿入、欠失、または置換によって突然変異させてもよい。好ましい一実施形態では、修飾されているエピトープは、ペプチド収容溝に対する親和性がより高い。好ましくは、ペプチドは、野生型の配列から5個またはそれより少ない突然変異、より好ましくは3個またはそれより少ない突然変異、最も好ましくは1個または0個の突然変異を含んでいる。
【0058】
あるいは(または、さらに)、ペプチドのアミノ酸配列を変更せずに、修飾を行うことができる。例えば、D-アミノ酸、または他の非天然のアミノ酸が含まれてもよく、通常のアミド結合を、エステルまたはアルキルのバックボーンの結合によって、N-またはC-アルキルの置換基によって、側鎖の修飾によって置き換えてもよく、ジスルフィド架橋および側鎖のアミドまたはエステルの連結などの制約が含まれてもよい。このような変更により、ペプチドのin vivoでのより大きな安定性、およびより長い生物学的寿命がもたらされることがある。
【0059】
他の形態の修飾には、ペプチドのリン酸化およびグリコシル化などの翻訳後修飾が含まれる。翻訳後修飾されたペプチドは、本発明による他のペプチドと実質的に同じ免疫応答を誘発する。ある修飾は誘導された免疫応答における増大をもたらすことがあり、一方で、他の修飾は反応を低減する。他の修飾には、これらのペプチドが刺激する免疫応答を変更または変調するための、グリコシル化またはリン酸化部位の付加または除去が含まれる。
【0060】
エピトープの修飾は、http://www-bimas.dcrt.nih.gov/cgi-bin/molbio/ken_parker_comboformにみることができるK.Parker(NIH)が考案したプログラムである「Peptide Binding Predictions」を用いて引き出される、より有効なT細胞誘導に対する予測をもとに行うことができる(Parker,K.Cら、1994年、J.Immunol.、152巻163頁も参照されたい)。
【0061】
「修飾されている」抗原ペプチドのエピトープには、免疫応答を誘発するその能力を増大するために、トランスポーターペプチドまたはアジュバントに結合、またはその他の方法で関連しているペプチドが含まれる。例えば、ペプチドは、HLAに効率的に輸送するための、およびCTLエピトープを増強するためにHLA分子と相互作用するための、TAP非依存性のトランスポーターペプチドに融合していてよい(総説には、Yewdellら、1998年、J Immunother、21巻、127〜31頁;Fuら、(1998年)J Virol、72巻:1469〜81頁を参照されたい)。
【0062】
さらなる一実施形態では、このような抗原に由来する抗原またはペプチドは、ヘルパーTおよび抗体の反応を増強するために、B型肝炎コア抗原に融合していることがある(Schodelら、1996年、Intervirology、39巻、104〜10頁)。
【0063】
エピトープであるために、ペプチドは、MHCクラスIまたはII分子のペプチド収容溝に結合することができなければならず、T細胞によって認識されなければならない。
【0064】
所与の抗原に由来するペプチドの細胞表面の提示は、ランダムではなく、少数の頻繁に生じるエピトープが優性である傾向がある。特定のペプチドの優性は、MHC分子に結合するための相対的な親和性、APC内の産生の時空間点、および分解に対する耐性など、多くの要因による。抗原に対するエピトープの階層は、免疫応答の進行とともに変化すると考えられている。免疫優性のペプチドに対する主要な免疫応答の後、エピトープの「拡散」が準優性な決定要因に生じることがある(Lehmannら(1992年)Nature、358巻、155〜157頁)。
【0065】
あらゆる所与の抗原に対して、クリプティックエピトープが存在することもある。クリプティックエピトープは、ペプチドとして投与した場合はT細胞の反応を刺激することができるが、抗原全体として投与した場合はそのような反応を生成することができないものである。APCにおいて抗原をペプチドにプロセシングする間にクリプティックエピトープが破壊されることがある。
【0066】
本発明で使用するためのペプチドは、免疫優性のエピトープ、準優性のエピトープ、またはクリプティックエピトープであってよい。
【0067】
抗原に対するエピトープは、APCによって提示される場合には、抗原の一部分にまたがる重複するペプチドに対するT細胞の反応を測定することによって同定してもよい。このような研究により、ペプチドの「入れ子型セット」が通常もたらされ、切断したペプチドに対する反応を測定することによって、特定のT細胞系/クローンに対する最小のエピトープを評価することができる。
【0068】
抗原に対する最小のエピトープは、実際的な目的では最善のエピトープではないことがある。MHCに対する最適の結合に、最小のエピトープに隣接するアミノ酸が必要とされることがあり得る。
【0069】
ペプチドを、抗原提示細胞およびT細胞を含む抗原提示系で試験する。例えば、抗原提示系は、ネズミ科動物脾細胞調製物、扁桃またはPBMCからのヒト細胞の調製物であってよい。あるいは、抗原提示系は、特定のT細胞系/クローン、および/または特定の抗原提示細胞型を含んでいてよい。
【0070】
T細胞の活性化を、T細胞の増殖(例えば、3H-チミジンの組込みを用いて)、またはサイトカインの生成により測定してもよい。TH1型のCD4+ T細胞の活性化は、例えば、ELISPOTアッセイなどの標準の技術によって検出することができるIFNγの生成により検出することができる。
【0071】
ポリエピトープストリング
抗原に対する免疫応答を誘発する特に有効な方法は、一緒に連結している1つまたは複数の抗原からの複数の抗原性エピトープを含む、ポリエピトープストリングを使用することによる。例えば、マラリアに対して、破傷風トキソイドからの、ならびに結核菌(M.tuberculosis)およびウシ型結核菌(M.bovis)の様々な系統の38Kdマイコバクテリウム抗原からのCD4 T細胞のエピトープも発現する、主にマラリア(熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum))のCD8 T細胞のペプチドのエピトープのポリエピトープストリングが記載されている。
【0072】
したがって、本発明で使用するための腫瘍関連抗原は、腫瘍関連抗原からの少なくとも1つのペプチドを含むポリエピトープストリングであってよい。
【0073】
適切には、ポリエピトープストリングは、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、またはそれを超えるペプチドのエピトープからできている。ストリングは、5T4抗原、または別の抗原からのエピトープ(例えば、別のTAA)、またはそれらの組合せなどの抗原に由来し得る別のエピトープも含んでいてよい。ポリエピトープストリングは、異なる腫瘍抗原のエピトープ間に、さらなる介在性のアミノ酸を、場合により含んでいてよい。適切には、エピトープは、全長のタンパク質に存在しないさらなる配列によって連結されている。
【0074】
細胞透過物質
本発明は、細胞透過物質に関連している抗原もしくはそのペプチドエピトープ、またはポリエピトープストリングの使用も提供する。
【0075】
ペプチドでパルスした抗原提示細胞(例えば、樹状細胞)は、抗腫瘍の免疫を増強するのに有効であることが証明されている(Celluzziら(1996年)J.Exp.Med.、183巻、283〜287頁;Youngら(1996年)J.Exp.Med.、183巻、7〜11頁)。樹状細胞によって(および、したがって抗腫瘍の免疫を増強することによって)、それを細胞膜透過性ペプチド(CPP)と連結することによって、ペプチドの提示を延長するのが可能であることが示されている(WangおよびWang(2002年)Nature Biotechnology、20巻、149〜154頁)。
【0076】
細胞透過物質は、ペプチド/ポリエピトープストリングの抗原提示細胞への細胞内送達を増強するあらゆる実存物であってよい。例えば、細胞透過物質は、ペプチドと関連している場合は、それが原形質膜を横切る能力を増強する脂質であってよい。あるいは、細胞透過物質は、ペプチドであってよい。HIVのTatタンパク質(FrankelおよびPabo(1988年)Cell、55巻、1189〜1193頁)、HSVのVP22タンパク質(ElliottおよびO'Hare(1997年)Cell、88巻、223〜233頁)および線維芽細胞増殖因子(Linら(1995年)J.Biol.Chem.、270巻、14255〜14258頁)を含めた、いくつかの細胞膜透過性ペプチド(CPP)が、タンパク質から同定されている。
【0077】
「と関連している」の語は、共有結合など、直接の連結を含むことが企図される。アミノ酸を連結するための共有結合の例には、ジスルフィド架橋およびペプチド結合が含まれる。好ましい一実施形態では、ペプチド/ポリエピトープストリング、およびCPPがペプチド結合によって連結して、融合タンパク質を作り出している。
【0078】
この語は、静電気的な結合、水素結合、およびファンデルワールス力による関連などの、非共有結合も含む。細胞透過物質およびペプチド/ポリエピトープストリングは、共有結合または非共有結合なしに関連していてよい。例えば、細胞透過物質は、ペプチド/ポリエピトープストリングをカプセル化する脂質(例えば、リポソーム)であってよい。
【0079】
腫瘍関連抗原を投与するための組成物
ベクター系
本発明で使用するための抗原をコードする核酸配列を、ベクター系によりヒト患者などの哺乳動物に送達または投与してもよい。
【0080】
本明細書で用いられる「ベクター」は、宿主細胞において核酸を送達または維持することができるあらゆる物質であってよく、ウイルスのベクター、プラスミド、裸の核酸、ポリペプチドまたは他の分子と複合している核酸、および固相粒子上に固定化されている核酸を含む。このようなベクターを、下記に詳しく記載する。本発明は、その最も広範な形態では、腫瘍関連抗原をコードする核酸を送達するためのあらゆる特定のベクターに限定されないことが理解されよう。
【0081】
本発明による、抗原、エピトープ、およびポリエピトープストリングをコードする核酸を、ウイルスの、または非ウイルスの技術によって送達または投与することができる。
【0082】
非ウイルスの送達系には、それだけには限定されないが、DNAトランスフェクション法が含まれる。ここで、トランスフェクションには、抗原をコードする遺伝子を標的の哺乳動物の細胞に送達するための非ウイルスのベクターを用いた過程が含まれる。
【0083】
典型的なトランスフェクションの方法には、電気穿孔、核酸微粒子銃、脂質媒介トランスフェクション、短縮した核酸が媒介するトランスフェクション、リポソーム、免疫リポソーム、リポフェクチン、陽イオン性物質が媒介する、陽イオン性の表面性両親媒性物質(CFA)(Nature Biotechnology、1996年、14巻、556頁)、スペルミンなどの多価陽イオン、陽イオン性脂質またはポリリジン、1,2,-ビス(オレオイロキシ)-3-(トリメチルアンモニオ)プロパン(DOTAP)-コレステロール複合体(WolffおよびTrubetskoy、1998年、Nature Biotechnology、16巻、421頁)、およびこれらの組合せが含まれる。
【0084】
非ウイルスの送達系には、それだけには限定されないが、細菌の送達系も含まれ得る。抗癌剤として、および抗癌剤のための送達物質としての細菌の使用は、Expert Opin Biol Ther、2001年3月、1巻(2)、291〜300頁に総説されている。
【0085】
適切な細菌には、それだけには限定されないが、細菌の病原体、および非病原性の市販の細菌が含まれる。例示によるものでは、適切な属を、サルモネラ(Salmonella)、マイコバクテリウム(Mycobacterium)、エルシニア(Yersinia)、赤痢菌(Shigella)、リステリア(Listeria)、およびブルセラ(Brucella)から選択してもよい。これらの細菌の病原性および分子生物学における最近の進歩により、新規な、かつ改善された細菌の担体、およびより有効な遺伝子発現系の合理的な開発が可能になっている。これらの進歩により、これらの送達系の性能および多用途性が改善されている。
【0086】
細菌は、真核生物の発現プラスミドを、in vitroおよびin vivoで哺乳動物の宿主細胞中に伝達することができる、侵入性の細胞内細菌であってよい。プラスミドの伝達は、組換えの細菌が、代謝の減弱または自己融解の誘導のいずれかにより宿主細胞内で死滅した場合に起こり得る。あるいは、抗生物質を用いてもよく、自発的な伝達がやはり観察されており、この現象が生理学的条件下でも起こり得ることを示している。プラスミドの伝達は、フレクスネリ赤痢菌(Shigella flexneri)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、チフス菌(S.typhi)、リステリア・モノサイトジェネス(Listeria monocytogenes)、および組換えの大腸菌(Escherichia coli)に対して報告されているが、他の侵入性の細菌も用いてもよい。
【0087】
DNAワクチンの送達に、細菌を用いてもよい。このような細菌、例えば赤痢菌およびリステリアは、ファゴサイトーシスの後宿主細胞のサイトゾルに入ることができ、または、サルモネラなどは、ファゴソームのコンパートメントに残存する。両方の細胞内局在化が、DNAワクチンベクターの上首尾な送達に適していることがある。
【0088】
細菌の送達系は、非病原性のマイコバクテリウム系統の形態のマイコバクテリウム;クローニングベクターおよび発現ベクターの形態の遺伝子伝達系;ならびに、例えば、非毒性の免疫調製性マイコバクテリウムアジュバント、様々な疾患に特異的な非毒性の免疫刺激性の外来抗原、およびTH-1経路を追加免疫する非毒性量のサイトカインを含む生成物を提供するための関連技術を利用することができる(Tunis、Med、2001年2月、79巻(2)、65〜81頁)。
【0089】
規定されている遺伝子の欠失を含むサルモネラ系統、例えば、弱毒化した系統を、抗原の送達などの、適切な送達系として用いてもよい。これらの系統による送達のための数々の戦略が、プラスミドベースから、染色体組込み系の範囲で試みられている。例示によるものでは、Rosenkranzら、Vaccine、2003年、21巻(7〜8)、798〜801頁に、サイトカインをコードする真核生物の発現プラスミドが記載されており、様々な実験モデルにおいて免疫応答を変調するその能力が評価された。サイトメガロウイルス(cytomegalovirus)のプロモーターの下でマウスのIL-4およびIL-8をコードするプラスミドを構築し、生の弱毒化したチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)CVD 908-htrA株、およびネズミチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhimurium)SL3261株中に形質転換した。
【0090】
潜在的な遺伝子送達ベクターとしての弱毒化したネズミチフス菌の使用は、Anticancer Res、2002年、22巻(6A)、3261〜6頁に総説されている。
【0091】
Vemulapalliら、Infect Immun、(2000年)68巻(6)、3290〜6頁によって記載されているように、ウシ流産菌(Brucella abortus)を適切な送達系として用いてもよい。ウシ流産菌RB51株は、ウシブルセラ症に対する生ワクチンとして広く用いられている、安定な、ラフ型の、弱毒化された突然変異体である。この系統は、例えば、強力なTh1型の免疫応答の誘導が、有効な防御に必要とされている他の細胞内病原体の防御抗原の送達において、送達ベクターとして用いることができる。
【0092】
Boydら、Eur J Cell Biol(2000年)79巻(10)、659〜71頁には、広範囲の細胞型中にタンパク質を送達するためのエルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)の使用が記載されている。エルシニア・エンテロコリチカは、Yopエフェクターと呼ばれる病原性タンパク質を、真核細胞のサイトゾル中に転座させる。エルシニアエンテロコリチカがその中にYopを転座させることができる真核細胞の範囲に対する限界は報告されていない。Yopエフェクターである、YopE、YopH、およびYopTは、各々、試験した粘着性の細胞型に対して細胞毒性であり、エルシニア・エンテロコリチカが特定のYopエフェクターを各細胞型中に転座させるのは選択的であるだけでなく、これらのYopエフェクターの作用は細胞型特異的ではないことも示されていた。エルシニアの転座系を広範な応用に用いるために、エルシニアエンテロコリチカの転座系、および異種性のタンパク質を真核細胞中に送達するためのベクターを構築した。この系統とベクターとの組合せは、転座されたYopのエフェクターを欠いており、YopEの最小のN末端分泌/転座シグナルに融合している異種性のタンパク質の、真核細胞中への送達を可能にしている。
【0093】
米国特許第5965381号は、真核細胞中にタンパク質を送達するための組換えのエルシニアを記載している。このようなエルシニアは、機能的なエフェクタータンパク質の生成を欠くが、機能的な分泌系および転座系が付与されている。
【0094】
細胞接着分子は、様々な細胞対細胞、および細胞対細胞外マトリックス(ECM)の相互作用に関わる大きなグループの分子であり、細胞が侵入するための受容体として数々の病原性微生物によって活用されている。これらの分子を、ターゲティング、ならびに遺伝子および薬物送達系両者の取り込みに用いてもよい。細胞接着分子、および遺伝子伝達におけるその使用については、Adv Drug Deliv Rev、2000年11月15日、44巻(2-3)、135〜52頁に総説されている。
【0095】
遺伝子銃の送達系は、DNAの送達にも用いることができ、筋肉内接種に比べて信頼の高い方法である(Jpn J Pharmacol、2000年7月、83巻(3)、167〜74頁)。
【0096】
ウイルスの送達系には、それだけには限定されないが、アデノウイルスのベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)のベクター、ヘルペスウイルスのベクター、レトロウイルスのベクター、レンチウイルスのベクター、またはバキュロウイルスのベクター、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEE)、ポックスウイルス、例えば、カナリア痘瘡ウイルス(Taylorら、1995年、Vaccine、13巻、539〜549頁)、エントモポックスウイルス(Li Yら、1998年、第12回International Poxvirus Symposium、要旨144頁)、ペンギンポックス(penguine pox)(Standardら、J Gen Virol.、1998年、79巻、1637〜46)アルファウイルス、およびDNAベクターをベースとしたアルファウイルスが含まれる。
【0097】
レトロウイルスの例には、それだけには限定されないが、マウス白血病ウイルス(MLV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、マウス乳癌ウイルス(MMTV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、フジナミ肉腫ウイルス(FuSV)、モロニーマウス白血病ウイルス(Mo-MLV)、FBRネズミ骨肉腫ウイルス(FBR MSV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(Mo-MSV)、アベルソンマウス白血病ウイルス(A-MLV)、トリ骨髄芽球症ウイルス-29(MC29)、およびトリ赤芽球症ウイルス(AEV)が含まれる。
【0098】
レトロウイルスの詳しいリストは、Coffinら(「Retroviruses」1997年、Cold Spring Harbour Laboratory Press、JM Coffin、SM Hughes、HE Varmus編集、758〜763頁)にみることができる。
【0099】
レンチウイルスは、霊長動物および非霊長動物のグループに分けることができる。霊長動物のレンチウイルスの例には、それだけには限定されないが、ヒト自己免疫不全症候群(AIDS)の原因物質であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびサル免疫不全ウイルス(SIV)が含まれる。非霊長動物のレンチウイルスのグループには、「スローウイルス」の原型であるビスナ/マエディウイルス(VMV)、ならびに関連のヤギ関節炎-脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、およびさらに最近記載されているネコ免疫不全ウイルス(FIV)、およびウシ免疫不全ウイルス(BIV)が含まれる。
【0100】
レンチウイルスのファミリーと他の型のレトロウイルスとの間の相違は、レンチウイルスは、分裂細胞および非分裂細胞の両方に感染する可能性があることである(Lewisら、1992年、EMBO.J、11巻、3053〜3058頁;LewisおよびEmerman、1994年、J.Virol.、68巻、510〜516頁)。それとは対照的に、MLVなどの他のレトロウイルスは、例えば、筋肉、脳、肺、および肝臓の組織を構成するものなどの非分裂細胞に感染することができない。
【0101】
本発明で使用するためのベクターは、スプリットイントロンベクターとして形成してもよい。スプリットイントロンベクターは、PCT特許出願WO99/15683およびWO99/15684に記載されている。
【0102】
アデノウイルスの特徴がレトロウイルス/レンチウイルスの遺伝的安定性と組み合わさった場合は、本質的にアデノウイルスを用いて、付近の細胞に安定して感染することができる一過性のレトロウイルスの産生細胞にするように標的細胞を形質導入することができる。5T4抗原を発現するように操作された、このようなレトロウイルス産生細胞を、血管新生および/または癌の処置において用いるために動物またはヒトなどの生物体に移植することができる。
【0103】
本発明で用いるためのベクターは、シュードタイプのベクターとして形成してもよい。
【0104】
レトロウイルスのベクターのデザインでは、拡張または改変された範囲の細胞型に遺伝材料を送達することができるように、天然のウイルスに対する標的細胞の特異性が異なる粒子を操作するのが望ましいことがある。これを実現するための一様式は、ウイルスのエンベロープタンパク質を操作してその特異性を改変することによる。別の取組みは、異種性のエンベロープタンパク質をベクター粒子中に導入して、ウイルスの天然のエンベロープタンパク質を置き換え、またはそれに付加することである。
【0105】
シュードタイピングは、ウイルスのゲノムのenv遺伝子の少なくとも一部分に組み入れ、またはウイルスのゲノムを異種性のenv遺伝子、例えば、別のウイルスからのenv遺伝子で一部分で置換し、もしくはそのすべてを置き換えることを意味する。シュードタイピングは新しい現象ではなく、WO99/61639、WO-A-98/05759、WO-A-98/05754、WO-A-97/17457、WO-A-96/09400、WO-A-91/00047、およびMebatsionら、1997年、Cell、90巻、841〜847頁に例をみることができる。
【0106】
シュードタイピングは、レトロウイルスのベクターの安定性および形質導入の効率を改善することができる。リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)とパッケージングされたシュードタイプマウスの白血病ウイルスは記載されており(Mileticら(1999年)J.Virol.、73巻、6114〜6116頁)、超遠心分離の間安定であり、様々な生物種からのいくつかの細胞系に感染することができることが示されている。
【0107】
ポックスウイルスのベクター
TAAなどの抗原はわずかに免疫原性であり、免疫系によって「自己」として認識され、したがって広範囲に耐性がある。ポックスウイルスのベクターの使用により、時としてこの耐性が少なくとも部分的に克服され得るように抗原を提示させることができ(特に、免疫回避遺伝子が削除される場合は、以下を参照されたい)、したがって宿主が免疫応答を生じることができるようにする。
【0108】
本発明で使用するには、ポックスウイルスのベクターが好ましい。ポックスウイルスを、組換えの遺伝子発現のために、および組換えの生ワクチンとして使用するために操作する。これは外来の抗原をコードする核酸をポックスウイルスのゲノム中に導入するための組換え技術の使用を必要とする。ウイルスの生活環に不必要であるウイルスDNAにおける部位に核酸が組み込まれる場合、新規に生成された組換えのポックスウイルスが感染性である、つまり外来の細胞に感染し、したがって組み込まれたDNA配列を発現することはあり得ることである。この方法で調製された組換えのポックスウイルスを、病原性および感染性の疾患の予防および/または治療のための生ワクチンとして用いることができる。
【0109】
ワクシニアウイルスなどの組換えのポックスウイルスにおける抗原ペプチドの発現は、ワクシニアのプロモーターの、5T4ペプチドをコードする核酸へのライゲーションを必要とする。プラスミドベクター(挿入ベクターとも呼ばれる)が、ドナーのプラスミドにおいて核酸に隣接するウイルスの配列と、親のウイルスに存在する相同の配列との間の相同組換えにより、核酸をワクシニアウイルス中に挿入するために構築されている(Mackettら(1982年)PNAS、79巻、7415〜7419頁)。挿入ベクターの1タイプは、(a)転写開始部位を含むワクシニアウイルスのプロモーター、(b)核酸を挿入するための転写開始部位から下流に位置する、いくつかの独特な制限エンドヌクレアーゼクローニング部位、(c)プロモーター、およびウイルスのゲノムの相同の不必要な領域中に核酸を直接挿入するクローニング部位に隣接する、不必要なワクシニアウイルスの配列(例えば、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子)、ならびに(d)大腸菌における複製および選択のための、細菌の複製開始点、および抗生物質耐性マーカーから構成されている。このようなベクターの例は、Mackett(Mackettら、1984年、J.Virol.、49巻、857〜864頁)によって記載されている。
【0110】
挿入すべき核酸を含む単離されたプラスミドを、ポックスウイルスなどの親のウイルスとともに、ニワトリ胚線維芽細胞などの細胞培養物中にトランスフェクションする。プラスミドにおける相同のポックスDNAと、ウイルスのゲノムとの間の組換えにより、それぞれ、ウイルスの生存性に影響を及ぼさない部位で、そのゲノムにおけるプロモーター-遺伝子構築物の存在によって修飾された組換えのポックスウイルスがもたらされる。
【0111】
上記に記載したように、得られた組換えのウイルスの、ウイルスの生存性に影響を及ぼさないウイルスにおいて、核酸を領域(挿入領域)中に挿入する。このような領域は、例えば、組換えのウイルスの生存性に著しく影響を及ぼさずに組換えの形成を可能にする領域に対して、ウイルスDNAのセグメントをランダムに試験することによって、ウイルスにおいて容易に同定することができる。容易に用いることができ、多くのウイルスに存在する1領域は、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子である。例えば、TK遺伝子は、試験したポックスウイルス[レポリポックスウイルス:Uptonら、J.Virology、60巻、920頁(1986年)(ショープ線維腫ウイルス);カプリポックスウイルス:Gershonら、J.Gen.Virol.、70巻、525頁(1989年)(ケニヤヒツジ-1);オルソポックスウイルス:Weirら、J.Virol、46巻、530頁(1983年)(ワクシニア);Espositoら、Virology、135巻、561頁(1984年)(サル痘および痘瘡ウイルス);Hrubyら、PNAS、80巻、3411頁(1983年)(ワクシニア);Kilpatrickら、Virology、143巻、399頁(1985年)(ヤバサル腫瘍ウイルス);アビポックスウイルス:Binnsら、J.Gen.Virol、69巻、1275頁(1988年)(鶏痘);Boyleら、Virology、156巻、355頁(1987年)(鶏痘);Schnitzleinら、J.Virological Method、20巻、341頁(1988年)(鶏痘、クエイルポックス(quailpox));エントモポックス(Lytvynら、J.Gen.Virol、73巻、3235〜3240頁(1992年)]のゲノムすべてに見出されている。
【0112】
ワクシニアでは、TK領域の他に、他の挿入領域には、例えば、HindIII Mが含まれる。
【0113】
鶏痘では、TK領域の他に、他の挿入領域には、例えば、BamHI J[Jenkinsら、AIDS Research and Human Retroviruses、7巻、991〜998頁(1991年)]、EcoRI-HindIIIフラグメント、BamHIフラグメント、EcoRV-HindIIIフラグメント、BamHIフラグメント、およびEPO出願第0308220A1号に記載されているHindIIIフラグメント[Calvertら、J.of Virol、67巻、3069〜3076頁(1993年);Taylorら、Vaccine、6巻、497〜503頁(1988年);Spehnerら、(1990年)、およびBoursnellら、J.of Gen.Virol、71巻、621〜628頁(1990年)]が含まれる。
【0114】
豚痘では、好ましい挿入部位には、チミジンキナーゼ遺伝子の領域が含まれる。
【0115】
プロモーターを、宿主細胞および標的細胞の型に応じて、容易に選択することができる。例えば、ポックスウイルスでは、ワクシニア7.5Kもしくは40K、または鶏痘C1など、ポックスウイルスのプロモーターを用いなければならない。好適なポックスの配列を含む人工構築物も用いることができる。発現のレベルを増大するために、エンハンサーエレメントも、組み合わせて用いることができる。さらに、いくつかの実施形態では、当技術分野ではやはりよく知られている誘導可能なプロモーターの使用が好ましい。
【0116】
外来の遺伝子の発現を、酵素的または免疫学的アッセイ(例えば、免疫沈降、ラジオイムノアッセイ、または免疫ブロット)によって検出することができる。組換えのワクシニアが感染した細胞から生成される、天然に存在する膜の糖タンパク質をグリコシル化し、細胞表面に輸送してもよい。強力なプロモーターを用いることにより、高い発現レベルを得ることができる。
【0117】
ワクチンで使用するためのウイルスのベクターに対する他の必要条件には、良好な免疫原性および安全性が含まれる。MVAは安全記録の良好な、複製障害性のワクシニア系統である。殆どの細胞型および正常ヒト組織では、MVAは複製しない。MVAの複製は、BHK21細胞などの少数の形質転換された細胞型で観察される。Carrollら(1997年)は、組換えのMVAは、CD8+T細胞の防御反応を産生する点で従来の組換えのワクシニアベクターと等しく良好であり、より一般的に用いられる複製コンピテントなワクシニアウイルスの効果的な代替であることを示している。MVAに由来するワクシニアウイルス系統、またはMVAをワクチンにおける使用に特に適切にする、MVAの特徴を有する独立に発達した系統は、本発明における使用に、やはり適している。
【0118】
好ましくは、ベクターは、MVAまたはNYVACなどのワクシニアウイルスのベクターである。ワクシニア系統の修飾ウイルスアンカラ(MVA)、またはそれに由来する系統が最も好ましい。ワクシニアのベクターの代替には、鶏痘、またはALVACで知られるカナリア痘瘡などのアビポックスのベクター、およびヒト細胞に感染し組換えのタンパク質を発現することができるが複製することができない、それに由来する系統が含まれる。
【0119】
本発明の一態様では、少なくとも1つの免疫回避遺伝子が、ポックスウイルスのベクターから欠失している。
【0120】
ウイルス、特に、ポックスウイルスなどの大型ウイルスには、大規模なコード容量があり、したがって、様々な遺伝子をコードすることができ、その宿主の免疫系を回避するための数々の技術を発展させてきた。例えば、これらは、補体、インターフェロン、および炎症反応などの非特異的な防御を回避し、サイトカインの機能を妨害し、または阻止することができる。数々のこれらの免疫回避ポリペプチドがMVAから削除されているが、左末端領域におけるインターフェロン耐性タンパク質の例外がある。
【0121】
ポックスウイルスは、一般には、潜伏性というよりも急性の感染を確立する、大型のDNAウイルスである。これらは、抗原性の変異が困難である抗原タンパク質を非常に多くコードし、したがって、哺乳動物の免疫系からそれらを守るために、能動的な免疫回避に頼っている。これらは、免疫系の数々の局面の干渉を担うポリペプチドをコードする数々の遺伝子を所有しており、これらは、インターフェロンの作用を撹乱し、補体、サイトカイン活性、炎症反応、およびCTLの認識に干渉する(総説には、Smithら(1997年)Immunol Rev、159巻、137〜154頁)。これらのタンパク質を除去することは、対象における免疫応答を誘発するために、ポックスウイルスのベクター上にコードされている弱い免疫原の能力を促進するのに有益である。
【0122】
免疫回避遺伝子またはポリペプチドは、ウイルスが哺乳動物の免疫系を回避するのを助ける遺伝子、またはその生成物である。好ましくは、遺伝子または遺伝子生成物は、少なくとも1レベルで、免疫系の作用に干渉する。これは、シグナリング分子に対する競合物質を提供することによりシグナル経路において干渉することによって、可溶性のサイトカイン受容体模倣体などを提供することによってなど、数々の方法で実現することができる。
【0123】
免疫回避遺伝子には、それだけには限定されないが、以下のものが含まれる:
インターフェロン回避遺伝子。ワクシニアは、IFN作用に干渉する少なくとも3個の遺伝子を所有している。E3L遺伝子は、P1の活性化、eIF2αのリン酸化、および翻訳開始複合体アセンブリーの結果として生じる失敗をもたらす事象である、dsRNAへの結合に対するP1タンパク質キナーゼと競合する25Kdのポリペプチドを発現する。この経路は、通常はIFNの活性化を担っているが、E3Lの発現により妨害され、したがって、翻訳開始が妨害されずに進行するのを可能にする。
【0124】
K3L遺伝子は、実質上eIF2αの模倣体であり、P1タンパク質キナーゼに対する競合物質として作用するので、やはりP1活性に干渉する10.5Kdのポリペプチドを発現する。その作用様式は、したがってE3Lに類似している。
【0125】
A18R遺伝子は、今度は、IFN反応性である2',5'-オリゴアデニレート経路に干渉すると考えられているヘリカーゼをコードすると予測されている。2',5'-AはRNAse Lを活性化し、これはウイルスの翻訳を妨げるように働く。A18Rの発現は、感染した細胞において2',5'-Aのレベルを低減すると考えられている。
【0126】
補体。ワクシニアのB5R遺伝子の生成物は、代替の補体経路のレギュレーターであるH因子に高度に関連していることが知られている。この経路は、古典的な経路と異なり、抗原単独によって活性化され得る。B5R遺伝子生成物は、したがって、代替の補体系路に干渉することがある。
【0127】
C21L遺伝子は、今度は、ヒトにおけるC4b-結合性タンパク質に関連し、表面上のC4bを担う細胞と相互作用してCR1補体受容体への結合を妨害する。
【0128】
可溶性サイトカイン受容体。ワクシニアWR B15R(コペンハーゲン系統のワクシニアにおけるB16R)遺伝子の生成物は、IL 1-Rに関連している。
【0129】
コペンハーゲン系統ワクシニアにおけるWR遺伝子ORF Sa1F19R、A53Rは、TNF受容体をコードしている。しかし、野生型のウイルスでは、これらの遺伝子は両方とも、ORFのフラグメント化により不活性であると考えられている。
【0130】
B8R遺伝子は、可溶性IFN-γ受容体をコードすると考えられており、さらに別のIFN回避の機序をウイルスに提供している。
【0131】
炎症。数々の遺伝子が、ウイルス感染に対する炎症反応の防止に関わると考えられている。これらには、A44L、K2L、B13R、およびB22Rが含まれる。
【0132】
本発明の一態様では、免疫回避遺伝子の大多数は、組換えのポックスウイルスのベクターから削除される。免疫回避遺伝子がすべて削除されるのが好ましい。したがって、本発明の一態様では、組換えのポックスウイルスのベクターは、K3Lインターフェロン耐性タンパク質遺伝子が撹乱または削除されている組換えのMVAベクターである。
【0133】
意図された対象に無害であるポックスウイルスが好ましい。したがって、例えば、ヒトで使用するには、アビポックスウイルスなど宿主範囲で制限されているポックスウイルス、またはワクシニアの弱毒化されている系統(NYVACおよびMVAを含む)など他の方法で弱毒化されているもののいずれかが好ましい。弱毒化されているワクシニアウイルス系統が最も好ましいが、天然痘の免疫が予め存在する対象では非ワクシニア系統が通常使用される。
【0134】
MVAゲノム内の、欠失IIなどの天然に存在する欠失に隣接するMVA DNA配列が近接する腫瘍関連抗原のエピトープをコードする少なくとも1つの核酸を含む構築物を、MVAに感染した細胞中に導入して、相同の組み換えを可能にする。
【0135】
構築物を真核細胞中に導入し、腫瘍関連抗原のエピトープDNAがウイルスのDNAと組換えされたら、好ましくはマーカーの助けで、望ましい組換えのワクシニアウイルスを単離することができる(Nakanoら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、79巻、1593〜1596頁(1982年)、Frankeら、Mol.Cell.Biol.、1918〜1924頁(1985年)、Chakrabartiら、Mol.Cell.Biol.、3403〜3409頁(1985年)、Fathiら、Virology、97〜105頁(1986年))。
【0136】
挿入する構築物は、線状でもよく、または環状でもよい。環状のDNA、特にプラスミドが好ましい。構築物は、MVAゲノム内の、欠失IIなど、天然に存在する欠失の左側および右側の側面に位置する配列を含む(Altenburger,W.、Suter,C.P.、およびAltenburger J.(1989年)Arch.Virol.、105巻、15〜27頁)。天然に存在する欠失に近接する配列の間に、外来のDNA配列を挿入する。
【0137】
少なくとも1つの核酸を発現させるためには、核酸の転写が必要とされる制御配列が核酸の上流に存在することが必要である。このような制御配列は当業者には知られており、EP-A-198,328に記載されているようなワクシニア11kDaのもの、および7.5kDaの遺伝子のもの(EP-A-110,385)が含まれる。
【0138】
構築物を、トランスフェクションにより、例えば、リン酸カルシウム沈降により(Grahamら、Virol.、52巻、456〜467頁(1973年);Wiglerら、Cell、777〜785頁(1979年)、電気穿孔により(Neumannら、EMBO J.、1巻、841〜845頁(1982年))、マイクロインジェクションにより(Graessmannら、Meth.Enzymology、101巻、482〜492頁(1983年))、リポソームにより(Straubingerら、Methods in Enzymology、101巻、512〜527頁(1983年))、スフェロプラストにより(Schaffner、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、77巻、2163〜2167頁(1980年))、または当業者には知られている他の方法により、MVA感染細胞中に導入することができる。リポソームによるトランスフェクションが好ましい。
【0139】
本発明で用いるための組換えベクターには、哺乳動物における特定の細胞型に対する向性があり得る。例示によるものでは、本発明の組換えベクターを操作して、樹状細胞およびマクロファージなどのプロフェッショナルAPCに感染させることができる。樹状細胞は、上首尾な免疫応答を組織化するもの、特に細胞が媒介する反応を組織化するものであることが知られている。樹状細胞を、抗原、またはこのような標的抗原を含むウイルスのベクターでex vivo処置すると、同系の動物またはヒト中に融合する場合に効果的な免疫応答を誘発することが知られている(Nestle FOら、「Vaccination of melanoma patients with peptide-or tumor lysate-pulsed dendritic cells」、Nat Med.、1998年3月、4巻(3)、328〜32、およびKim CJらを参照されたい)。MART-1/MelanAをコードするポックスウイルスを感染させた樹状細胞は、in vitroでTリンパ球を感作する。J Immunother、1997年7月、20巻(4)、276〜86頁。組換えのベクターは、腫瘍細胞にも感染することができる。あるいは、組換えのベクターは、哺乳動物におけるあらゆる細胞に感染することができる。
【0140】
ベクターの他の例には、ex vivoの送達系が含まれ、これには、それだけには限定されないが、電気穿孔、DNA微粒子銃、脂質媒介のトランスフェクション、および短縮したDNA媒介性のトランスフェクションなどのDNAトランスフェクション方法が含まれる。
【0141】
ベクターはプラスミドDNAベクターであってよい。本明細書で用いられる「プラスミド」は、その発現または複製いずれかのために異種性のDNAを細胞中に導入するために用いられる別個のエレメントを意味する。このようなビヒクルの選択および使用は、十分に当業者の範囲内にある。
【0142】
適切には、腫瘍関連抗原を投与するためのベクター系は、弱毒化したワクシニアウイルスのベクター(MVA)を用いて5T4を送達するために臨床的に開発中の癌ワクチンである、TroVax(登録商標)ワクチンである。TroVax(登録商標)は、現在、後期の結腸直腸癌、腎臓癌、および前立腺癌の患者の、第II相臨床試験で評価されている。TroVaxを用いた試験は、例えば、PCT/GB2005/000026に記載されている。さらに、腫瘍関連抗原を投与するためのTroVaxをベースにした変異および修飾も想定されている。
【0143】
パルスした細胞
本発明は、腫瘍関連抗原またはペプチドでパルスした細胞を用いた抗原の投与も提供する。
【0144】
パルスすべき細胞が、MHCクラスIまたはクラスII分子を発現できることが好ましい。
【0145】
MHCクラスI分子は、殆どすべての細胞型上で発現され得るが、MHCクラスII分子の発現は、いわゆる「プロフェッショナルの」抗原提示細胞(APC)、B細胞、樹状細胞、およびマクロファージに限定されている。しかし、MHCクラスIIの発現は、IFNγで処置することによって、他の細胞型上に誘導することができる。
【0146】
MHCクラスIまたはMHCクラスII分子の発現は、遺伝子操作により実現することもできる(すなわち、関連のMHC分子をコードする遺伝子の、パルスすべき細胞への提供)。この取組みには、ペプチドに特異的に結合する好適なMHCのハプロタイプを選択することができるという利点がある。
【0147】
好ましくは、パルスすべき細胞は抗原提示細胞であり、すなわち、正常の免疫応答が抗原を処理することができ、MHC分子と複合して細胞表面でそれを提示することができる。抗原提示細胞には、B細胞、マクロファージ、および樹状細胞が含まれる。特に好ましい一実施形態では、細胞は樹状細胞である。
【0148】
好ましくは、細胞は、そのペプチド収容溝において、本発明の第1の態様によりペプチドに結合するMHC分子を発現することができる。例えば、細胞は、以下のHLA制限エレメントの1つを発現することができる:B8、Cw7、またはA2(MHCクラスIに対して)。
【0149】
ペプチドをパルスするプロトコルは、当技術分野では知られている(例えば、RedchenkoおよびRickinson(1999年)J.Virol.、334〜342頁;Nestleら(1998年)Nat.Med.、4巻、328〜332頁;Tjandrawanら(1998年)J.Immunotherapy、21巻、149〜157を参照されたい)。例えば、樹状細胞をペプチドで負荷するための標準のプロトコルでは、細胞を、無血清培地で2時間、β-2ミクログロブリン3μg/mlを加えたペプチド50μg/mlでインキュベートする。次いで、非結合のペプチドを洗い流す。
【0150】
パルスした本発明の細胞を、例えば、特定の腫瘍関連抗原に対して予防的または治療的な免疫応答を刺激するための、ワクチンとして用いてもよい。
【0151】
したがって、本発明は、ペプチドでパルスした細胞を、それを必要とする対象に、化学療法薬と組み合わせて投与するステップを含む、疾患を治療および/または予防するための方法も提供する。
【0152】
核酸
組成物もしくは医薬において使用するための抗原、または本発明に従って組み合わせて投与するための抗原を、前記腫瘍関連抗原をコードする核酸分子により提供してもよい。
【0153】
本明細書で言及する「核酸」は、DNAでもRNAでもよく、天然に存在しても合成でもよく、またはそれらのあらゆる組合せでもよい。本発明による核酸は、それが宿主生物体の細胞の機構が翻訳できる方法で腫瘍関連抗原のペプチドをコードする機能を提供する点だけに限られている。したがって、天然の核酸を、例えば、その安定性を増大するために修飾してもよい。DNAおよび/またはRNAを、しかし特にRNAを、メンバーのヌクレアーゼ耐性を改善するために修飾してもよい。例えば、リボヌクレオチドに対する知られている修飾には、2'-O-メチル、2'-フルオロ、2'-NH2、および2'-O-アリルが含まれる。本発明による修飾されている核酸は、核酸のin vivoの安定性を増大し、その送達を増強もしくは媒介し、または身体からのクリアランス速度を低減するためになされる化学修飾を含んでいてよい。そのような修飾の例には、所与のRNA配列の、リボース、および/またはリン酸、および/または塩基の位置での化学的置換が含まれる。例えば、その各々が参照として本明細書に特に組み入れられる、WO92/03568;米国特許第5,118,672号;Hobbsら(1973年)Biochemistry、12巻、5138頁;Guschlbauerら(1977年)Nucleic Acids Res.、4巻、1933頁;Schibaharuら(1987年)Nucleic Acids Res.、15巻、4403頁;Piekenら(1991年)Science、253巻、314頁を参照されたい。
【0154】
それらに由来する適切な抗原またはペプチドをコードする核酸は、当業者であれば精通しており、または当業者には標準的である方法を用いて引き出すことができる。例えば、本発明で使用するためのDNAは、化学合成により、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて、または腫瘍関連抗原をコードする配列すべて、もしくはそのフラグメントなどのより長いポリヌクレオチドからの直接の切断を用いて得ることができる。
【0155】
適切な抗原、およびそれに由来するペプチドまたはポリエピトープストリングをコードする核酸は、最適化されたコドンであってよい。コドンの最適化は、以前に、WO99/41397およびWO01/79518に記載されている。異なる細胞は、特定のコドンのその使用において異なる。このコドンバイアスは、細胞型における特定のtRNAの相対的な存在量における偏りに対応する。配列におけるコドンを、対応するtRNAの相対的な存在量に見合うように誂えるために変更することによって、タンパク質の発現を増大させることは可能である。同様の理由で、対応するtRNAが特定の細胞型では稀であることが知られているコドンを故意に選択することによって、発現を低減させることは可能である。したがって、さらなる程度の翻訳の制御が利用可能である。哺乳動物の細胞に対する、および様々な他の生物体に対するコドン使用表は、当技術分野では知られている。
【0156】
変異体/フラグメント/相同体/誘導体
本発明は、抗原、および変異体、相同体、誘導体、ならびにそれらのフラグメントをコードする、ヌクレオチドおよびアミノ酸配列の使用を包含する。
【0157】
「変異体」の語は、野生型の配列とは異なる、天然に存在するポリペプチドまたはヌクレオチド配列を意味するように用いられる。
【0158】
「フラグメント」の語は、ポリペプチドまたはヌクレオチドの配列が、対象の配列の断片を含むことを示す。好ましくは、配列は、対象の配列の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも90%を含む。フラグメントがアミノ酸のフラグメントである場合は、好ましくはフラグメントはアミノ酸の長さが6〜12個である。より好ましくは、フラグメントはアミノ酸の長さが8、9、または10個である。
【0159】
「相同体」の語は、対象のアミノ酸配列、および対象のヌクレオチド配列とある種の相同性を有する実体を意味する。ここでは、「相同性」の語は「同一性」と等しくてよい。
【0160】
本発明の状況では、相同の配列は、対象の配列に、少なくとも75、85、または90%同一、好ましくは少なくとも95または98%同一であることがあるアミノ酸配列を含むものと解釈される。典型的には、相同体は、対象のアミノ酸配列と同じ活性を含む。相同性は類似性に関して考えられることもあるが(すなわち、類似の化学的性質/機能を有するアミノ酸残基)、本発明の状況では、相同性を配列同一性に関して表すのが好ましい。
【0161】
本発明の状況では、相同の配列は、対象の配列に、少なくとも75、85、または90%同一、好ましくは少なくとも95または98%同一であってよいヌクレオチド配列を含むものと解釈される。典型的には、相同体は、対象の配列と同じ活性を含む。相同性は類似性に関して考えることもできるが(すなわち、類似の化学的性質/機能を有するアミノ酸残基)、本発明の状況では、相同性を配列同一性に関して表すのが好ましい。
【0162】
配列同一性を決定するための方法は、当業者であれば精通している。
【0163】
5T4の適切な相同体の1つは、本明細書に参照として組み入れられるGB0615655.8に記載されている。
【0164】
ワクチン/医薬組成物
本発明は、1種または複数の化学療法薬と組み合わせて使用するために上記に記載した、抗原、腫瘍関連抗原に由来するペプチドエピトープ、ポリエピトープストリング、核酸配列、ベクター系、および/または細胞を含むワクチン/医薬組成物を提供する。
【0165】
上記に記載したように抗原または誘導体を投与するためには、ワクチンを注射可能な、液体の溶液または懸濁液のいずれかとして調製してもよく、注射前の液体における溶液または懸濁液に適切な固形の形態を調製してもよい。調製物を乳化してもよく、またはタンパク質をリポソームにカプセル化してもよい。免疫原性の有効成分を、製薬上許容され、有効成分と相容性である賦形剤と混合することが多い。適切な賦形剤は、例えば、水、食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、およびそれらの組合せである。
【0166】
さらに、所望により、ワクチンは、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤、および/またはワクチンの有効性を増強するアジュバントなどの、補助的な物質を少量含むことができる。有効であり得るアジュバントの例には、それだけには限定されないが、水酸化アルミニウム、N-アセチル-ムラミル-L-スレオニル-D-イソグルタミン(thr-MDP)、N-アセチル-nor-ムラミル-L-アラニル-L-イソグルタミン(CGP 11637、nor-MDPと呼ばれる)、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミニル-L-アラニン-2-(1'-2'-ジアルミトイル-sn-グリセロ-3-ヒドロキシホスホリロキシ)-エチルアミン(CGP 19835A、MTP-PEと呼ばれる)、ならびに、細菌、モノホスホリルリピドA、トレハロースジミコレート、および細胞壁骨格から抽出した3成分(MPL+TDM+CWS)を2%スクアレン/Tween80乳剤中に含むRIBIが含まれる。
【0167】
アジュバントおよび他の物質のさらなる例には、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム(ミョウバン)、硫酸ベリリウム、シリカ、カオリン、炭素、油中水型乳剤、水中油型乳剤、ムラミルジペプチド、細菌の内毒素、脂質X、コリネバクテリウムパルブム(Corynebacterium parvum)(プロピオノバクテリウムアクネス(Propionobacterium acnes))、百日咳菌(Bordetella pertussis)、ポリリボヌクレオチド、アルギン酸ナトリウム、ラノリン、リゾレシチン、ビタミンA、サポニン、リポソーム、レバミソール、DEAE-デキストラン、ブロック共重合体、または他の合成のアジュバントが含まれる。このようなアジュバントは、様々な供給源、例えば、Merck Adjuvant 65(Merck and Company,Inc.、Rahway、ニュージャージー州)、またはフロイント不完全アジュバントおよび完全アジュバント(Difco Laboratories、Detroit、ミシガン州)から市販されている。
【0168】
典型的には、Amphigen(水中油型)、Alhydrogel(水酸化アルミニウム)、またはAmphigennとAlhydrogelとの混合物などのアジュバントが用いられる。水酸化アルミニウムだけが、ヒトでの使用に認可されている。
【0169】
免疫原とアジュバントとの比率は、両方とも有効な量で存在する限り、広範な範囲にわたって変化することができる。例えば、水酸化アルミニウムは、ワクチン混合物の約0.5%(Al2O3ベースで)の量で存在することができる。好都合には、ワクチンを、最終濃度0.2から200μg/mlまでの範囲、好ましくは5から50μg/mlまでの範囲、最も好ましくは15μg/mlの免疫原を含むように調合する。
【0170】
調合後、ワクチンを滅菌の容器中に組み入れてよく、次いで、それを密封し、低温、例えば4℃で貯蔵し、またはそれを凍結乾燥してもよい。凍結乾燥により、安定化した形態で長期間の貯蔵が可能になる。
【0171】
ワクチンを、経口、静脈内(水溶性の場合)、筋肉内、皮下、鼻腔内、皮内、もしくは坐剤の経路、または埋め込み(例えば、徐放分子を用いて)によるなど、従来の様式で投与してもよい。
【0172】
ワクチンを、非経口に、皮下または筋肉内のいずれかなどの注射により従来的に投与する。他の投与様式に適するさらなる製剤には、坐剤、およびいくつかの場合では経口の製剤が含まれる。坐剤に対しては、伝統的な結合剤および担体には、例えば、ポリアルキレングリコール、またはトリグリセリドが含まれることがあり、このような坐剤は、0.5%から10%、好ましくは1%から2%の範囲の有効成分を含む混合物から形成することができる。経口の製剤には、このように通常使用される賦形剤、例えば、製剤用グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどが含まれる。このような組成物は、溶液剤、懸濁液剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、持続放出製剤、または粉末剤の形態をとり、有効成分を10%から95%、好ましくは25%から70%含む。ワクチン組成物を凍結乾燥する場合は、凍結乾燥した材料を再構成した後に、例えば懸濁液剤として投与することができる。再構成はバッファーで行うのが好ましい。
【0173】
患者に経口投与するためのカプセル剤、錠剤、および丸剤を、例えば、Eudragit「S」、Eudragit「L」、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、またはヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む腸溶コーティングで提供してもよい。
【0174】
ペプチドおよびポリペプチドを、中性の形態または塩の形態としてワクチン中に調合してもよい。製薬上許容される塩類には、酸付加塩(ペプチドの遊離のアミノ基と形成される)が含まれ、これは、例えば、塩酸もしくはリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、およびマレイン酸などの有機酸と形成される。また、遊離のカルボキシル基と形成される塩は、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化鉄などの、ならびにイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、およびプロカインなどの有機塩基に由来していてよい。
【0175】
5T4ペプチドを、抗原提示細胞およびT細胞の表面上に発現された受容体-リガンド対間の相互作用に関わるものなどの、同時刺激性分子と一緒に投与してもよい。このような同時刺激性分子は、タンパク質分子の、またはタンパク質分子をコードする対応する核酸を投与することによって投与することができる。適切な同時刺激性分子には、CD40、B7-1、B7-2、CD54、ICAMファミリーのメンバー(例えば、ICAM-1、-2、または-3)、CD58、SLAMリガンド、熱に安定な抗原に結合するポリペプチド、TNF受容体ファミリーのメンバーに結合するポリペプチド(例えば、4-1BBL、TRAF-1、TRAF-2、TRAF-3、OX40L、TRAF-5、CD70)、およびCD154が含まれる。ペプチドを、例えば、IL-2、IL-3、IL4、SCF、IL-6、IL7、IL-12、IL15、IL16、IL18、G-CSF、GM-CSF、IL-1α、IL-11、MIP-11、LIF、c-kitリガンド、トロンボポエチンおよびflt3リガンド、TNF-α、ならびにIFN-αまたはIFN-γなどのインターフェロンを含む、刺激性のケモカインまたはサイトカインと組み合わせて投与してもよい。ケモカインを、CCL3もしくはCCL5などの抗原もしくはペプチドと組み合わせて用いてもよく、または本発明のペプチド(例えば、CXCL10およびCCL7)と融合してもよい。ペプチドをコードする核酸を投与することによって抗原またはペプチドを投与する場合は、同時刺激性分子をコードする対応する核酸を投与することによって、同時刺激性分子を投与してもよい。
【0176】
例えば、抗CTLA-4、抗CD25、抗CD4、融合タンパク質IL13Ra2-Fc、およびこれらの組合せ(例えば、抗CTLA-4と抗CD25と)での処置は、抗腫瘍の免疫応答をアップレギュレートし、本発明のペプチドと組み合わせて用いるのに適切であることが示されている。調節性T細胞(Treg)阻害薬ONTAK(IL-2ジフテリア毒素複合体DAB389IL2)は、ワクチン媒介性の抗腫瘍を増強することも示されており、したがってTregの阻害薬は、本発明のワクチンと使用するのにやはり適している。
【0177】
異種性のワクチン接種レジメン
本発明によるワクチン/医薬組成物を投与するためのレジメンは、従来の有効性の試験によって決定することができる。しかし、初回および追加免疫の連続的なステップを含むレジメンが特に好ましい。このようなレジメンは、免疫寛容およびT細胞反応の誘導の上位の破壊(Schneiderら、1998年、Nat Med、4巻、397〜402頁を参照されたい)、ならびにB細胞および抗体の反応の誘導を実現することが観察されている。
【0178】
初回/追加免疫のレジメンは、相同性でも(同じ組成物を引き続いた投与量で投与する場合)、または非相同でも(抗原刺激と追加刺激との組成物が異なる)よい。例えば、抗原刺激の組成物は、腫瘍関連抗原をコードする非ウイルスのベクター(例えばプラスミド)であってよく、追加刺激の組成物は、腫瘍関連抗原をコードするウイルスのベクター(例えば、ポックスウイルスのベクター)であってよく、この場合、前記「腫瘍関連抗原」の一方または両方は、本発明のエピトープまたはポリエピトープストリングである。
【0179】
予防/治療方法
本発明は、疾患の予防および/または治療において使用するための医薬の製造における、本発明による組合せの使用も提供する。
【0180】
本発明による組合せの有効量を投与するステップを含む、被験体における疾患を治療および/または予防するための方法も提供する。
【0181】
本明細書で用いられる「処置」、「処置する」、および「治療」の語には、治療的効果、緩和効果、軽減効果、進行の防止、予防的効果、および患者の生存を改善するあらゆる効果が含まれる。
【0182】
ワクチンが、クラスIペプチドのエピトープであり、またはクラスIペプチドのエピトープを含む場合は、誘発される免疫応答は、5T4特異的な細胞毒性Tリンパ球の活性化を伴うことがある。ワクチンが、クラスIIエピトープであり、またはクラスIIエピトープを含む場合は、誘発される免疫応答は、TH1および/またはTH2細胞の活性化を伴うことがある。
【0183】
反応が、対象における腫瘍の発達を阻害し、抑止し、または逆行させるのに有効である、抗腫瘍の免疫療法の反応であるのが、有利である。
【0184】
化学療法薬
本発明の組合せで用いるための「化学療法薬」は、抗癌または抗腫瘍の治療に適する薬剤である物質である。
【0185】
適切な化学療法薬には、例えば、化学療法で用いられる標準の化合物、挿入剤、および白金含有化合物が含まれる。適切な薬剤には、それだけには限定されないが、オールトランスレチノイン酸、アクチミド(actimide)、アザシチジン、アザチオプリン、ブレオマイシン、カルボプラチン、カペシタビン、シスプラチン、クロラムブシル、シクロホスファミド、シタラビン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキシフルリジン、ドキソルビシン、エピルビシン、エトポシド、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、イリノテカン、レナリドマイド、ロイコボリン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキセート、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、レブリミド、テモゾロマイド、テニポシド、チオグアニン、バルルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、およびビノレルビンが含まれる。
【0186】
一実施形態では、本発明の薬剤と組み合わせて用いるための化学療法薬は、それ自体、様々な化学療法薬の組合せであってよい。適切な組合せには、FOLFOXおよびIFLが含まれる。FOLFOXは、5-フルオロウラシル(5-FU)、ロイコボリン、およびオキサリプラチンを含む組合せである。IFL処置には、イリノテカン、5-FU、およびロイコボリンが含まれる。
【0187】
一実施形態では、化学療法薬はシクロホスファミドである。この実施形態では、シクロホスファミドを、好ましくは低投与量形態で投与することができる。低投与量のシクロホスファミドは、養子細胞移植の免疫療法の取組みにおいて、抗腫瘍の反応を増強することが観察されている(Dudleyら、J.Clin.Oncol.(2005年)23巻、2346〜2357頁を参照されたい)。
【0188】
別の一実施形態では、組成物は、腫瘍の治療において、別々に、同時に別々に、または組み合わせて使用するためのキナーゼ阻害薬をさらに含むことがある。適切なキナーゼ阻害薬には、抗腫瘍活性を有することが示されているもの(例えば、ゲフィチニブ(Iressa)およびエルロチニブ(Tarceva))、およびペプチドと組み合わせて用いることができるものが含まれる。受容体チロシンキナーゼ阻害薬、例えば、腎細胞癌の治療で有効であることが示されているリンゴ酸スニチニブ、およびソラフェニブは、組成物で使用するのにも適している。
【0189】
他の併用療法
本発明は、抗腫瘍抗原抗体、例えば抗5T4 scFvsなどの、腫瘍抗原を標的とする分子の使用にさらに関する。腫瘍抗原を標的とする分子には、WO2004/033695およびWO99/60119に記載されている合成TCRを含む、T細胞受容体(TCR)も含まれる。これらの抗体は、(i)in situで天然または外来の5T4を標的とし、かつ/または(ii)B7.1などの免疫増強分子を、in situで天然または外来の5T4に送達するのに用いることができる(Carrollら(1998年)J.Natl Cancer Inst、90巻(24)、1881〜7頁)。これは、被験体における5T4の免疫原性を増強する。
【0190】
本発明は、患者から単離した腫瘍浸潤性リンパ球の養子移植でも用いることができる(Dudleyら、J.Clin.Oncol.(2005年)23巻、2346〜2357頁)。
【0191】
疾患
本発明に従って治療および/または予防することができる疾患には、抗原特異的な免疫応答が予防および/または治療に寄与することができるあらゆるものを含む。
【0192】
好ましい一実施形態では、(本発明による組合せを用いて予防可能/治療可能である)疾患は、癌である。特に、疾患は、例えば、乳房、肺、胃、膵臓、子宮内膜、子宮頸部、直腸結腸、腎臓、または前立腺の癌腫、およびメラノーマであってよい。
【0193】
好ましくは、疾患は、組合せで提示される腫瘍関連抗原に対してポジティブであることを示すことができるものである。
【0194】
例えば、WO89/07947は、抗5T4モノクローナル抗体を用いた新生物組織の免疫組織学的スクリーニングを記載している。したがって、腫瘍関連抗原が5T4である場合には、疾患は、診断検査により(例えば、抗5T4抗体で)5T4ポジティブであることを示すことができる癌:例えば、ファーター膨大部、乳房、結腸、子宮内膜、膵臓、または胃の浸潤癌;膀胱、子宮頸部、肺、または食道の扁平上皮癌;結腸の腺管絨毛腺腫;子宮内膜の悪性の混合性ミュラー腫瘍;腎臓の明細胞癌;肺癌(大細胞性未分化性巨細胞癌、気管支肺胞癌、転移性平滑筋肉腫);卵巣癌(ブレンナー腫瘍、嚢胞腺癌、固形奇形腫);精巣の癌(精上皮腫、成熟した嚢胞性奇形腫);軟部組織線維肉腫;奇形腫(未分化胚細胞腫瘍);または絨毛性癌((例えば、子宮、肺、または脳における)絨毛癌、胎盤部位の腫瘍、胞状奇胎であることが好ましい。
【0195】
投与量および投与
投与およびCD4+CD25+Treg細胞カウント/CD4+CD25+Treg細胞機能
本発明のいくつかの実施形態では、本発明の抗原およびワクチンを、CD4+CD25+Treg細胞カウントが低減したかまたはCD4+CD25+Treg細胞の機能が低下した際に投与する。ワクチン接種の最適のタイミングは、1種または複数の化学療法薬、またはOntakなどの、CD4+CD25+Treg細胞カウント低減薬、またはCD4+CD25+Treg細胞機能低減薬が、Tregの最大の枯渇/機能の低減を引き起こした時期と一致するのが好ましい。
【0196】
CD4+CD25+Treg細胞カウントの測定
枯渇の程度は、化学療法の1投与量後24時間から化学療法の次の投与量まで、または化学療法の最終の投与後6週間以内に採取した患者の血液から単離した、末梢血単核球(PBMC)の分析によって決定することができる。Treg細胞は、CD4ネガティブ細胞よりも高いレベルでCD25を発現するCD4+ T細胞の特定のサブセットであり、したがって、Tregレベルは、CD4+ T細胞すべてのうちのCD4+CD25+であるパーセント値を決定することによって評価される。すべてのCD4+ T細胞レベルに対するCD4+CD25+hi(Treg)T細胞のレベルを、Treg低減薬投与の前および後に決定する。
【0197】
シクロホスファミドの場合は、CD4+CD25+Tregの最大の枯渇は、CY投与4日後に起こった(Lutsiakら、2005年、Blood、105巻、2862〜2868頁)。
【0198】
TGF-β産生性TH3細胞、IL-10産生性Tr1細胞、およびCD8+CD28-T細胞など、他のタイプのT調節性細胞のレベルを、サイトカインの分泌、いくつかの細胞表面マーカーに対する染色性、および免疫応答を抑制する能力によって決定してもよい(Marshallら、2004年、Blood、103巻、1755〜1762頁;Weiら、2005年、Cancer Res、65巻、5020〜6頁;Leongら、2006年、Immunol.Lett.、15巻、229〜236頁;総説には、LevingsおよびRoncarlo、2005年、CTMI、292巻、303〜326頁;Huehn、Siegmund、およびHamann、2005年、CITR、293巻、89〜114頁;FariaおよびWeiner、2005年、Immunol.Rev.、206巻、232〜259頁;Weiner、2001年、Immunol.Rev.、182巻、207〜214頁;Weinerら、2001年、Microbes infect.、3巻、947〜954頁;Roncarloら、2001年、Immunol.Rev.、182巻、68〜79を参照されたい)。
【0199】
CD4+CD25+Treg細胞機能の測定
CD4+CD25+Treg細胞機能の低下は、増殖アッセイおよびELISPOTアッセイを含む、数々のin vitroのアッセイにおけるこれらの細胞の抑制性の活性の喪失を測定することによって決定される。
【0200】
アッセイは、CD4+CD25+Treg細胞の非枯渇の、または枯渇したPBMCで設定することができる。CD4+CD25+Treg細胞を、例えば、磁性ビーズまたはフローサイトメトリーを用いてCD4+およびCD25+分離技術によって、PBMCから精製することができる。機能性のCD4+CD25+Treg細胞の存在下では、Tregが引き起こす抑制のために免疫応答が検出されないことがある。機能性のCD4+CD25+Treg細胞の非存在下では、免疫応答が検出されることがある。枯渇したPBMCに戻して加えられた、精製されたCD4+CD25+Treg細胞は、これらの免疫応答の抑制をもたらす。機能の低下した細胞の場合は、前記細胞がアッセイに存在する場合でも免疫応答が検出され得る。Treg機能の喪失を、CD4+CD25+Treg細胞機能低減薬の投与の前後に取ったPBMCに対してそのようなアッセイを行うことによって決定する。
【0201】
化学療法のサイクル
本発明の組成物、方法、および使用を、不必要な実験を行わずに、本発明の範囲内で用いられる特定の化学療法薬および抗原に適応することができることは、当業者には明らかである。特に、本発明で用いられる1種または複数の化学療法薬は、特定の投与および投与量のスケジュールを必要とすることがある。これらの投与および投与量のスケジュールは、様々な化学療法薬に対して変化することがある。一般には、1種または複数の化学療法薬を、短期の高頻度の間隔で(例えば、1または2時間ごと)投与し、その後長期間投与しない(例えば、2週間間隔)ことがある。この投与および非投与の連続で、化学療法のサイクルを構成する。化学療法の処置は、用いる薬剤に応じて、数々のサイクルを構成することができる。化学療法のサイクル間の期間は、休息期間を構成する。休息期間は、様々な化学療法薬および処置間で異なる。このような化学療法薬および推奨される休息期間の例を、以下の表に示す。
【表1】

【0202】

【0203】
数々のサイクルおよび規定された休息期間からなる処置は、異なる患者間でも変化することがあることが理解される。さらに、このような処置は、化学療法薬の様々な組合せおよび混合物に対して変化することがある。当業者であれば、各患者に適するサイクルおよび休息期間の数、ならびに化学療法薬、または化学療法薬の組合せを選択するであろう。
【0204】
本発明による抗原、および1種または複数の化学療法薬の投与のレジメンは、用いる特定の薬剤および薬剤の組合せに適合される。本発明の組成物、方法、および使用を用いる完全な処置は、数々の別々の化学療法のサイクルにまたがり得ることが理解される。処置のパターンは、必要に応じて、あらゆる回数繰り返すことができることがさらに理解される。特に、本発明の組成物、方法、および使用は、化学療法薬の投与の前、および/または間、および/または後のワクチン接種を網羅し、選択された化学療法薬/ワクチンの組合せに従って数サイクルの、化学療法のサイクルまたは化学療法処置全体を網羅する。本発明による組成物、方法、および使用は、外科手術および/または放射線治療などの他の処置も含む処置レジメン内で用いられることがさらに理解される。
【0205】
抗原を、化学療法のサイクル内またはサイクル後の休息期間中に投与するのが好ましい。各化学療法処置の間のTregレベルまたはTreg機能の低減を測定することにより、タイミングを最適化することができる。
【0206】
投与量
当業者であれば、不必要な実験を行わずに、被験体に投与するための、本組成物の1つの好適な投与量を容易に決定することができる。典型的には、医師が、個々の患者に最も適する実際の投与量を決定し、それは、使用する特定の化合物の活性、その化合物の代謝上の安定性および作用の長さ、年齢、体重、全体的な健康状態、性別、食餌、投与の様式および時間、排出速度、薬物の組合せ、特定の病状の重症度、および治療を受ける個体を含めた様々な要因に依存する。本明細書に開示する投与量は、平均的な症例の例示である。より高い、またはより低い投与量範囲が値する個々の場合は当然存在し得るものであり、そのようなものは本発明で範囲内にある。
【0207】
例えば、化学療法のレジメンであるFOLFOXおよびIFLを投与するための適切な投与量を、本明細書の実施例のセクションに記載する。さらに、これらのレジメンを、腫瘍抗原の投与と組み合わせて投与するのに適するレジメンを、本明細書に記載する。
【0208】
本発明を、以下の図を参考にする以下の実施例において、説明だけを目的としてさらに記載する。
【実施例】
【0209】
概要
以下の実施例では、TV2 IFLおよびTV2 FOLFOXの両試験で検出される免疫応答の動態を概説し、臨床効果と免疫応答との関係を探索する。
【0210】
免疫応答と動態
TV2 IFL(n=12)およびTV2 FOLFOX(n=11)の両臨床試験における全評価可能患者は、以下に示す5T4特異的な細胞性および/または体液性免疫応答を呈した:
【表2】

【0211】
・いずれの試験においても、平均抗体力価が、6回のワクチン接種で回を追うごとに上昇した(前回試料採取時点との比較)。
【0212】
・FOLFOX試験では、化学療法中(第4〜19週)の平均抗体力価が、化学療法後(第X+2〜X+10週)と同等であった。一方、IFL試験では、化学療法中の平均抗体力価が化学療法後より著明に低かったことは、IFL化学療法レジメンが抗体反応に影響を及ぼしうることを示唆する。
【0213】
・いずれの試験においても、平均抗体力価の最大値が、第X+8週、すなわち6回目の免疫投与後に生じた。
【0214】
・5T4増殖反応は、患者個別的には上昇を示す場合がみられたが、6回のワクチン接種のどの回の後の平均値も、ほとんどまたはまったく増加しなかった。
【0215】
・いずれの試験においても、増殖反応は、化学療法中と比べ、化学療法完了後に最大となった。
【0216】
・いずれの試験においても、5T4特異的増殖反応は、第19〜X+2週の間に著明に増大した。同様の増大がMVAまたはTT反応の場合に生じなかったことは、いずれの化学療法レジメンも、ex vivoの自己抗原に対する増殖反応の検出には影響を及ぼすが、外来抗原の場合は影響を及ぼさないことを示唆する。
【0217】
・総じて、TV2試験に組み入れた患者の方が、TroVax投与以前のある時期に化学療法を前もって受けていた患者をTroVax(登録商標)単剤療法に組み入れた早期試験(TV1)の場合よりも、5T4特異的な細胞性および/または体液性免疫応答の規模が大きくかつ長期的であった。
【0218】
臨床効果
免疫応答の大きさを、各患者で報告された腫瘍縮小効果と並べて順位付けすることにより、5T4特異的免疫応答を臨床効果と関連付けると予測される傾向を探索した。
【0219】
・TV2-FOLFOX試験:提示したデータは、5T4特異的抗体力価およびELISPOT法(増殖法ではない)反応の高値が、安定または進行疾患よりも完全奏効および部分奏効と関連する頻度の方が高いことを示す。
【0220】
この観察結果は、免疫応答を、全モニタリング期間である化学療法中および化学療法後にわたって解析する場合の結果と矛盾しない。ELISA法およびELISPOT法双方からのデータを統合し、統合反応の大きさを臨床効果と並べて表にすれば、より高いスコアほど、より高頻度で良好な腫瘍縮小効果(CR+PR)とクラスターをなす。第14週または第X+8週にSDまたはPDと分類される患者が、最も低い統合スコアを示す。ELISA法およびELISPOT法のデータを統合すると、各アッセイを個々に解析する場合よりも、著明な傾向が得られる。
【0221】
・TV2-IFL試験:IFL試験における著明な免疫応答は、初めは化学療法完了後に生じた。生存数のモニタリングにより臨床的有益性を評価し、データが得られたら免疫応答および全生存数の比較を詳しく行う。
【0222】
データ解析:免疫応答動態の解析
a.各試験において、評価可能(プロトコルあたり)患者からのデータのみを解析している。
【0223】
b.すべてのデータを同様のやり方で提示する。各評価可能患者ごとに各分析時点での抗原特異反応を表にまとめる。さらに、以下の時点において、抗原特異的免疫応答の平均を母集団ベースの表にまとめる:
1.各時点
2.ワクチン接種以前(第-2〜0週)
3.化学療法中(第4〜19週)
4.化学療法後(第X+2〜X+14週(IFL試験)または第X+2〜X+10週(FOLFOX試験))。
【0224】
以下の点を明確にしておくべきだろう。化学療法期間中、化学療法完了後にそれぞれ2度ずつのTroVax注射を行う。また、化学療法中の15週間に、6回の血液試料採取時点を含める。化学療法完了後、IFL患者は、さらに6回の血液試料採取時点を含む14週間にわたりモニタリングする。FOLFOX患者は、化学療法完了後10週間にわたりモニタリングし、この間に5回の血液試料採取時点を含める。
【0225】
c.各ワクチン接種後における免疫応答の増加倍数を、表にまとめる。さらに、第19〜X+2週(すなわち、化学療法終了時〜化学療法完了後の間)における増加倍数にも注意した。
【0226】
データ解析:免疫応答と腫瘍縮小効果との相関の解析
3種類の中心的免疫モニタリングアッセイ(ELISA法、増殖法およびELISPOT法)のそれぞれにつき、全評価可能患者の平均5T4特異的免疫応答を測定した。反応値を昇順に並べ、該当する腫瘍縮小効果(CTスキャンが未判定の場合あり)と対比した。平均5T4特異的免疫応答は、以下の3期間にわたって測定した:(i)TroVax投与後の全時点、すなわち、FOLFOX患者では第2〜X+10週、およびIFL患者では第2〜X+14週、(ii)TroVax投与後全時点のうち化学療法期間中(第4〜19週)にあたる時点、ならびに(iii)TroVax投与後全時点のうち化学療法完了後(FOLFOX試験では第X+2〜X+10週、またはIFL試験では第X+2〜X+14週)にあたる時点。
【0227】
さらに、5T4特異ELISPOT、増殖および抗体の各反応を統合し、報告された臨床効果と対比した。
【0228】
以上の遂行にあたり、各評価可能患者を、検出された最大免疫応答の大きさとの関連でのみ評定した。例えば、特定のモニタリング時点(すなわち、TroVax投与後時点、化学療法中、化学療法後)において平均5T4抗体力価が最高であった患者に100%のスコアを与え、他の全患者を最大反応に対する百分率で評定する。アッセイを統合するため、患者ごとにアッセイあたりのスコアを単純加算した。以上の解析は、患者の免疫応答の大きさを考慮に入れるとともに、すべてのアッセイに均等の「重み」を与えることになる。
【0229】
方法とプロトコル
Trovax+FOLFOX試験
化学療法前、化学療法中、化学療法後における安全性および免疫原性を判定するため、5-フルオロウラシル/ロイコボリン/オキサリプラチン(FOLFOX)との併用によるTroVaxオープンラベル試験として第II相臨床試験を実施した。
【0230】
a)試験デザイン
本試験は、進行結腸直腸癌患者における、5-FU/オキサリプラチン/ロイコボリン標準投与法との併用による、最大6回のオープンラベルTroVax注射投与試験である。評価可能な10人の患者を得るため、全15人の患者を組み入れた。投与レジメンは、注射2回を化学療法前、2回を化学療法中(最長6カ月続くと想定)、および2回を化学療法後にそれぞれ投与する。患者を、最長40週間にわたり調べ、投与レジメンの耐容性、5T4細胞表面抗原に対する体液性および細胞性免疫の誘発、およびワクチンベクターに対する免疫応答について評価する。
【0231】
b)治療
Trovax
0、2、11、17週後、ならびに化学療法最終投与の2週および6週後におけるTrovax 10倍希釈剤(Trovax 10x)の単回筋内注射により、患者に免疫投与する。
【0232】
オキサリプラチン/5-FU/ロイコボリン
患者は、第4週に化学療法を開始する。化学療法は、2週間隔で12週間にわたり(第4、6、8、10、12、14週における6サイクル)投与する。効果の評価は、第6サイクル完了後の週(第14週、CT/MRIスキャン時)に行う。治験責任医師が患者の利益になると判断すれば、追加の化学療法サイクル(第16、18、20、22、24、26週における最大6サイクル)を投与する。
【0233】
c)併用療法
オキサリプラチンレジメン(OxMdG)と併行して、de Gramont変法(MdG)による5-FU/ロイコボリン化学療法を併用した。
【0234】
リーズティーチングホスピタルNHSトラストにおいて行った標準レジメンは、以下の通りである:
1. 5%デキストロース250mlによるロイコボリン175mg(または同葉酸製剤のラセミ体350mg)の2時間注入
2. 5%デキストロース250mlによるオキサリプラチン85mg/m2の2時間注入
3. 5-フルオロウラシル400mg/m2の5分間ボーラス注射
4. Baxter社製LV5型ポンプによる5-フルオロウラシル2400mg/m2の46時間注入。
【0235】
化学療法各サイクルの前に、静脈内5HT-3拮抗薬およびデキサメタゾンなどの制吐剤を投与する。必要であれば、デキサメタゾンおよびドンペリドンの3日間用量漸減法からなる経口制吐療法を患者に投与する。必要とされた制吐療法は、すべてCRFに記録する。
【0236】
TroVax+IFL試験
a)投与計画と投与法
組み入れ基準を満たす患者を、試験に組み入れる。十分なインフォームドコンセントの後に、患者は、身体検査を受け、試験を進めるための全般的な適性を文書に記録する。可能ならば、5T4状態の判定のために、組織を採取する。その際、該当部位のCTスキャンにより転移および/または局所再発について記録し、血中CEA表面抗原値(5ml中)を点検する。血液学および臨床化学検査用(10ml)、下垂体ホルモンスクリーニング検査用(ACTH、TSH、LH、FSHについて、10ml)、自己抗体検査用(10ml)および免疫学的検査用(5T4およびベクターに対する抗体、5T4およびその他の抗体に対する細胞性反応について、100ml)に、血液を採取する。以上のスクリーニングは、免疫投与法開始前2週間以内に行う。
【0237】
第0週および第2週に、TroVaxの単回筋内注射により、患者に免疫投与する。2回の注射前に、CEAの測定および免疫学的検査のために、再度血液を採取する(100ml)。
【0238】
患者は、第4週に化学療法を開始する。化学療法は、6カ月が通常の治療期間であるが、患者に効果があれば2週間隔で最長12カ月間にわたり継続する。CEAおよび免疫学的検査のため、第4週および第6週の化学療法投与前に、血液を採取する(100ml)。化学療法の各回投与前にも、血液学的検査用に血液を採取する(5ml)。
【0239】
第11週および第17週(すなわち、化学療法の投与間期)にも、TroVaxの追加注射を行う。各回の追加注射前および2週間後(第13週および第19週)に、CEAおよび免疫学的検査のため、血液を採取する(100ml)。
【0240】
こうして、患者の主治医が適切と判断する期間にわたり、化学療法を継続する。化学療法終了時に、CTスキャンによる病態の再提示を得る。化学療法終了の2週間後(第X+2週)に、単回筋内注射により再度TroVaxを投与する。同注射前およびその2週間後(第X+4週)に、CEAおよび免疫学的検査のため、血液を採取する(100ml)。前回注射の4週間後(第X+6週)に、最終回の注射を行う。同注射前ならびにその2週間後(第X+8週)および4週間後(第X+10週)に、CEAおよび免疫学的検査のため、血液を採取する(100ml)。4週間後(第X+14週)に、最終の追跡調査来院を行う。
【0241】
b)併用療法
de Gramontレジメン:2日間連続の反復投与として、2時間静脈内注入によりロイコボリン(200mg/m2/日)を投与した後、5-FUを、まず400mg/m2/日の静脈内ボーラス、次いで600mg/m2/日の22時間連続注入により投与する。第1日のロイコボリン投与と同時に、イリノテカン(180mg/m2、30分間の静脈内注入)を投与する。このサイクルを2週間ごとに繰り返す。
【0242】
de Gramont変法:第1日のロイコボリンおよびボーラス5-FU投与の後、46時間にわたる注入により5-FUを投与する。
【0243】
本試験への組み入れ患者には、試験期間中、他の抗癌治療を行ってはならない。こうした治療が必要な場合、当該患者を試験から除外することになる。
【0244】
治験責任医師の判断で、症状緩和を目的とする薬剤を処方し、症例記録用紙(CRF)に記録する。患者も、OTC(over the counter)薬を服用することがあれば記録し、これらの記録もCRFに記載する。
【0245】
免疫モニタリング
免疫モニタリングの実施に用いるアッセイは、細胞性反応測定用または体液性反応測定用のいずれかに分類でき、これを以下に述べる。
【0246】
細胞性反応の測定
1.増殖アッセイ
本アッセイは、新鮮血液から調製するPBMCにより行い、血液試料採取日に準備する。
【0247】
増殖アッセイは、特定のタンパク質に対する免疫細胞(特にCD4+ T細胞)の応答能に基づく。標的タンパク質との相互作用後にT細胞がとる応答様式の1つが、急速な細胞分裂である。こうした刺激に対する反応は、刺激剤添加前後の培養中に存在する細胞数をカウントすることにより、容易に測定することができる。ただし、反応細胞が全細胞集団のごく小部分を占めるに過ぎない場合もあるため、測定が、労力を要しかつ困難なものとなることもある。したがって、実際上は、どのような細胞分裂の増大であれ、背後で生じる細胞数の変化と密接に関連する過程である、3H-チミジンの細胞内DNAへの取り込みにより測定する。試験タンパク質が誘発する増殖反応は、培地のみ(無刺激対照)が誘発する増殖反応と比較することができる。データを変換して、以下のように定義する刺激指数(S.I.)を得る:「試験抗原でインキュベートしたPBMCの平均CPM値を、培地のみでインキュベートしたPBMCの平均CPM値で除する」。この細胞活性の相対測定値は、長期にわたる試験期間中に採取する試料(臨床試験に組み入れる患者など)間の比較を可能にし、培地のみに対するバックグラウンド増殖の差に対処するために広く用いられる。
【0248】
全血からの血漿およびPBMCの調製、ならびに臨床試料における抗原特異的増殖反応の測定は、細胞採取器およびTopCountを用いる標準的技法に準拠した。例えば、JP Braybrooke、A Slade、G Deplanqueら:Phase I study of MetXia-P450 gene therapy and oral cyclophosphamide for patients with advanced breast cancer or melanoma.Clin Cancer Res、11巻:1512〜1520頁(2005年)およびR Harrop、MG Ryan、H Goldingら:Monitoring of human immunological responses to vaccinia virus.Methods Mol Biol、269巻:243〜266頁(2004年)に、方法について記載されていている。
【0249】
2.ELISPOT法
酵素結合免疫スポット(ELISPOT)アッセイは、13年以上前に、単一細胞レベルにおける特定の免疫細胞の検出法として記述された。ELISPOTアッセイは、免疫療法を受けている癌患者における細胞反応のモニタリングを含む、広範な適用範囲に用いられている。IFNγ ELISPOTアッセイは、100万PBMCあたり<10の反応細胞検出が可能な高感度を示す。このアッセイにより、抗原刺激に対しサイトカインIFNγの分泌を介して機能的に反応するメモリーT細胞を検出することができる。さらに、IFNγ ELISPOTアッセイは、新鮮な細胞または放射性物質の使用を必要としないので、従来T細胞反応測定のためのワクチン試験で用いられてきたクロム放出アッセイなど他のアッセイよりもより簡易かつ転換可能な技法となっている。
【0250】
IFNγ ELISPOT法の重要な利点は、それがTh1細胞媒介免疫応答の直接的な測定法であるということである。直接的測定法として、IFNγ ELISPOT法は、細胞媒介免疫を誘導するワクチンの有効性をモニタリングする際に有用である。さらに、IFNγ ELISPOT法では、採取したばかりか、または凍結のいずれのPBMCも評価に用いることができる。これは、臨床試験プログラム全体にわたる複数の時点において患者から採取した試料を解析する場合、際立った利点となる。凍結PBMCを用いると、試料を1回分にまとめることが可能となるので、アッセイの全体的なばらつきが低減される。さらに、試験試料の凍結は、アッセイの反復が可能であることを意味する。
【0251】
PBMCをコーティングしたウェルにまき、該当する抗原とともに、5%CO2、37℃で一晩インキュベートする。約6時間の共培養後、該抗原特異的なメモリー細胞がIFNγの分泌を開始し、次いでIFNγが膜に結合した抗体により捕捉される。こうして、サイトカイン分泌細胞を取り巻く直接の環境において、IFNγ結合が生じる。約20時間後、細胞を洗浄する。次いで、アッセイは、同じサイトカイン分子上の異なるエピトープに対する、2種類の高親和性サイトカイン特異的抗体を用いる。可溶性基質を開裂させ反応部位に不溶性沈殿物を残す比色法反応により、スポットが生じる。得られるスポットが、もとのサイトカイン産生細胞のフットプリントを表す。スポット数が、サイトカイン産生T細胞発現頻度の直接的な測定値であり、免疫応答の強度に比例してスポット数が増加する。活性化CD8+ T細胞、CD4+ヘルパーT細胞およびNK細胞が、このサイトカインを分泌する。免疫投与サイクル前、サイクル中およびサイクル後の抗原特異的T細胞発現頻度の比較が、評価対象となるワクチンの相対的免疫原性を反映するはずである。
【0252】
例えば、JP Braybrooke、A Slade、G Deplanqueら:Phase I study of MetXia-P450 gene therapy and oral cyclophosphamide for patients with advanced breast cancer or melanoma.Clin Cancer Res、11巻:1512〜1520頁(2005年)およびR Harrop、MG Ryan、H Goldingら:Monitoring of human immunological responses to vaccinia virus.Methods Mol Biol、269巻:243〜266頁(2004年)に記載された標準的プロトコールに従い、臨床試験試料を対象として、自動式ELISPOT法用プレートリーダーを用いるELISPOT法により、全血からの血漿およびPBMCの調製ならびに細胞性免疫応答の測定を行った。
【0253】
体液性反応の測定(ELISA法)
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA法)は、抗体の高度に特異的な標的タンパク質への結合能に基づく。ELISA法による抗原特異的抗体反応の解析は、広範に用いられ、十分に確立した技法である。ELISA法を用いることで、血清(または他の体液)中の抗原特異的抗体濃度の相対的測定値を得ることができる。ELISA法の数多くの適用のうちの1つが、ワクチン接種後の抗体値をモニタリングし、ワクチン接種が対象となる抗体濃度を上昇させるかどうかを判定することである。
【0254】
抗原特異的抗体反応を測定するため、標的タンパク質を96ウェルELISA用プレート表面に結合させる。ブロッキング手順(抗体のプラスチックへの直接的な非特異的結合を最小化する)に従い、血漿をプレートに添加し、室温でインキュベートする。次いで、抗体の非特異的結合をさらに最小化するため、各ウェルを洗浄する。試験血清の動物種に特異的な二次抗体(例えば、抗ヒト)を各ウェルに添加する。発色性基質(例えば、OPD)でインキュベートしたときに、分光光度計により定量できる有色、可溶性産物への転換を触媒する酵素(例えば、ペルオキシダーゼ)に、二次抗体をコンジュゲートする。一般に、色変化が大きいほど、試験血清中に存在する抗体濃度が大きい。
【0255】
全血からの血漿およびPBMCの調製、ならびに抗原特異的抗体力価の測定は、標準的技法に従い、製造元の指示書に準拠して免疫学的アッセイ用Dynex MRXプレートリーダーをDynexプレート洗浄機と併用するELISA法により行った。適切な方法については、例えば、JP Braybrooke、A Slade、G Deplanqueら:Phase I study of MetXia-P450 gene therapy and oral cyclophosphamide for patients with advanced breast cancer or melanoma.Clin Cancer Res、11巻:1512〜1520頁(2005年)およびR Harrop、MG Ryan、H Goldingら:Monitoring of human immunological responses to vaccinia virus.Methods Mol Biol、269巻:243〜266頁(2004年)に記載されている。
【0256】
アッセイ対照
ELISA法による抗体反応の測定に際し、健康なドナー5人から採取してプールしたヒト血漿を、陰性対照として用いる。陽性対照としては、以前の臨床試験に組み入れられた患者(それぞれ、TV1またはBC2臨床試験からの患者TV1-102(第10週)または患者BC2-102)から採取した血漿を用いる。すべてのアッセイプレートには、陰性および陽性対照のいずれをも含有し、「合/否」の適合基準を各プレートに適用する。
【0257】
使用する適合基準/統計学的方法
アッセイ適合基準およびデータ処理法を以下に述べる。ワクチン接種による陽性免疫応答は、以下に詳細を示すように、各アッセイごとに別個に定義する。
【0258】
ELISA法
抗体力価を、試験血漿の平均光学密度(O.D.)が、同じ希釈率での陰性対照(正常ヒト血清;NHS)の平均O.D.の2倍となる最大希釈率と定義する。
【0259】
以下の場合を、ワクチン接種が誘発する5T4特異的抗体陽性反応と記録する:
a.抗体力価がNHSと比較して10であり、かつ
b.注射後抗体力価が、いずれの注射前時点において測定した抗体力価に対しても2倍である場合。
【0260】
増殖アッセイ
増殖アッセイからの結果は、以下に定義する刺激指数(S.I.)として記録する:
S.I.=試験抗原とともに培養したPBMCによる3H-チミジン取り込み量/培地のみで培養したPBMCによる3H-チミジン取り込み量。
【0261】
以下の場合を、ワクチン接種が誘発する5T4増殖陽性反応と記録する:
a.5T4抗原(タンパク質またはペプチド)に対する刺激指数(S.I.)が2であり、かつ
b.5T4抗原を含有する反復のC.V.が<100%であり、かつ
c.免疫投与後に5T4抗原が誘発するS.I.が、いずれの注射前時点において同抗原が誘発するS.I.の最高値よりも2倍大きい場合。
【0262】
ELISPOT
以下の場合を、ワクチン接種が誘発する5T4 ELISPOT陽性反応と記録する:
a.5T4抗原(タンパク質またはペプチド)に対する平均スポット形成ユニット(SFU)/ウェルが、培地のみを含有するウェルにおける平均SFU/ウェルの3倍であり、かつ
b.5T4抗原に対する平均SFU/ウェルが10であり、かつ
c.免疫投与後における5T4抗原特異的前駆体発現頻度(全106 PBMCあたりの抗原特異的細胞数)が、いずれの注射前時点における同前駆体発現頻度よりも2倍大きい場合。
【0263】
結果
1.TV2-FOLFOX試験
1.1 臨床および患者原データ
TV2-FOLFOX試験に組み入れた患者17人のうち、11人を、免疫応答の評価に関して評価可能とした(表1)。
【表3】

【0264】
図2は、TV2-FOLFOX試験:臨床試験期間全体における腫瘍の様相を示す図である。図は、3つのCTスキャン時点(TroVaxワクチン接種以前(スクリーニング時)、ならびに第14週および第X+8週)における評価可能患者の標的腫瘍病変の総数を示す。
【0265】
評価可能な11人の患者のうち、全員が、第14週に腫瘍量の低下を示した。第X+8週においてCTスキャンは4人の患者のみ実施可能であり、全員が、第14週と比べさらなる腫瘍量の低下を示した。
【0266】
1.2 免疫応答
1.2.1 抗体反応
全モニタリング期間における各評価可能患者の5T4特異的抗体力価を、表2に示す。
【0267】
表2:5T4特異的抗体反応についての表である。結果は、各試料採取時点における5T4特異的抗体力価(試験試料の平均O.D.(490nm)が、陰性対照試料(正常ヒト血清;NHS)の2倍となる最大血清希釈率)として表す。太字で示した10の結果が、陽性抗体反応を表す。各試料採取時点の他、ワクチン接種前、化学療法中および化学療法後の複数の時点でも、全患者の平均力価を記録する。さらに、各ワクチン接種後に、前回測定時点と比べた平均抗体力価の増加倍数を示す。
【表4】

【0268】
TroVax投与後の全免疫モニタリング期間における平均5T4特異的抗体力価を100とした。患者の大半が、第4週(すなわち、2度のTroVaxワクチン接種後)までに血清転換した。FOLFOX試験における平均抗体力価は、化学療法期間中には高く(平均力価103)、化学療法完了後(第19〜X+2週)に低下し、化学療法完了後にやや上昇した(平均力価115)。6回のワクチン接種の各回後に、平均抗体力価の上昇がみられた。
【0269】
1.2.2 増殖反応
表3a〜bに、全モニタリング期間における各評価可能患者の抗原特異的増殖反応の詳細を示す。5T4(3a)およびMVA(3b)に対する反応を解析した。5T4は、強力かつ長期持続性の免疫応答を誘発することが望まれる重要な標的抗原を表す。5T4を送達するためのベクターであるMVAは、反応の「基準設定」を可能とする、きわめて有用な「内部対照」を表す。患者は、MVA(複雑かつ外来の病原体)に対して強い免疫応答を示すと予測され、そうした反応の大きさおよび動態を、5T4に対して誘発された反応と比較することができる。
【0270】
表3a-b:患者から採取したPBMCをin vitroで5T4(a)およびMVA(b)により再刺激した後の増殖反応を概括する表である。結果を、刺激指数(培地のみが誘発する増殖/試験抗原が誘発する増殖)として表す。刺激指数2(太字で示す)を、当該時点での陽性反応と考える。陽性の増殖反応(S.I.2)および注射前(第-2週または第0週)の少なくとも2倍である反応を、太字で示す。
【表5】

【表6】

【0271】
5T4およびMVAに対する平均増殖反応は、反応の大きさおよび持続性のいずれにおいても差を示す。各抗原を以下の順に述べる:
A.5T4
FOLFOX試験の全評価可能患者で、TroVaxワクチン接種後の平均5T4特異的増殖反応が、注射前に比べて上昇した(3.6に対して6.8)。こうした反応は、化学療法期間中に比べて、化学療法完了後の方が強力であった(それぞれ4.3に対して10.5)。この差は、第19〜X+2週の間、すなわち、大半の患者が化学療法を受け続けていた最終時点と化学療法完了後の最初の時点との間で最も著明である。この観察結果は、患者がこの期間内にワクチン接種を受けなかった(最終のワクチン接種は第17週であった)ため、とりわけ予測外であった。FOLFOX患者は、第19〜X+2週の間における平均増殖反応が2.5倍上昇し、これは連続時点間で観察された最大の上昇幅であり、6回のワクチン接種いずれの後におけるよりも大きかった。第1、5、6回のワクチン接種後のFOLFOX試験では、平均5T4増殖反応のきわめて小さな上昇が検出されたが、化学療法中のワクチン接種では検出されなかった。
【0272】
B.MVA
予測通り、MVAに対する平均増殖反応は、対応する5T4反応よりも大きかった。TroVaxワクチン接種後の平均MVA特異的増殖反応は、2.9の注射前SIに対して35であった。MVA特異的増殖反応は、化学療法期間中よりも化学療法完了後の方が大きく(それぞれ18.2に対して57.8)、5T4の場合と同様の上昇がみられた。ただし、5T4とは異なり、第19〜X+2週における増殖反応には、わずかな差しかみられなかった。
【0273】
1.3 免疫応答と臨床効果の比較
1.3.1 全アッセイにおける免疫応答の概要
【表7】

【0274】

【0275】
1.3.2 抗体反応と臨床効果の比較解析
全評価可能患者における平均5T4抗体力価を、報告された臨床効果と対比した。平均5T4抗体力価は、以下の3つの時点にわたり測定した:(i)TroVax投与後の全時点、すなわち第2〜X+10週(または記録可能な最終データ時点)、(ii)TroVax投与後で化学療法期間中にあたるすべての時点(第4〜19週)、および(iii)TroVax投与後で化学療法完了後にあたるすべての時点(第X+2〜X+10週)。
【0276】
表5a-5c:全モニタリング期間(第2〜X+10週;表5a)、化学療法期間中(第4〜19週;表5b)、および化学療法完了後(第X+2〜X+10週;表5c)における平均5T4抗体力価を示す表である。平均力価を、最低から最高の順に、第14週および第X+8週の当該患者に帰属する臨床効果と対比して並べる。
【表8】

【表9】

【表10】

【0277】
CR患者(および多くのPR患者)が、表の下半分に分布する、すなわち、SDまたはPD患者よりも高い平均5T4抗体力価を示すことがわかる。表14cは、化学療法後の5T4力価を、第X+8週における腫瘍縮小効果と対比して示す。第X+8週のCTスキャンの多くが未判定であるが、CRおよびPR患者は、表の下方でクラスターをなす(すなわち、化学療法後の抗体力価が高い)ことがわかる。このパターンにあてはまらない主な患者は、5T4に対する抗体反応または増殖反応を示さなかったものの、化学療法後の5T4タンパク質に対する強いELISPOT反応およびクラスIペプチドに対する中程度の反応を示した患者101である。
【0278】
1.3.3 増殖反応と臨床効果の比較解析
全評価可能患者における平均5T4増殖反応(SI)を、報告された臨床効果(未判定のCTスキャンあり)と対比した。平均増殖反応を、3期間(全モニタリング期間、化学療法期間中および化学療法完了後)において測定し、表6a〜cに示す。
【0279】
表6a-6c:以下の3つの異なる時点における平均5T4増殖反応を示す表である:表6aが全モニタリング期間(第2〜X+10週)、表6bが化学療法期間中(第4〜19週)、および表6cが化学療法完了後(第X〜X+10週)。平均増殖反応を、最低から最高の順に、第14週および第X+8週における当該患者に帰属する臨床効果と対比して並べる。
【表11】

【表12】

【表13】

【0280】
この患者群における増殖反応は、化学療法後に比べ、化学療法中の方が低かった(10.4に対して4.3の平均SI)。さらに、最大平均増殖反応が、第X+10週にみられた。この時点における強力な増殖反応は、第X+8週に検出された腫瘍縮小効果には影響を及ぼさないであろうが、患者の生存期間には良好な影響を及ぼすと考えられる。データが入手可能となれば、こうした計算を行う。
【0281】
1.3.4 ELISPOT反応と臨床効果の比較解析
全評価可能患者における平均5T4 ELISPOT反応(106 PBMCあたりの抗原特異的細胞数)を、報告された臨床効果と対比した。平均ELISPOT反応を、全モニタリング期間中の特定の時点において測定し、表7a〜cに示す。
【0282】
表7a-7c:全期間(7a)、化学療法期間中(7b)、または化学療法完了後(7c)における平均5T4特異的ELISPOT反応(すべての5T4タンパク質およびペプチド抗原)を示す表である。平均ELISPOT反応を、最低から最高の順に、第14週および第X+8週における当該患者に帰属する臨床効果と対比して並べる。
【表14】

【表15】

【表16】

【0283】
良好な臨床効果が、高値の平均ELISPOT反応とクラスターをなすことが観察される。特に、全時点および化学療法期間後における全5T4抗原に対する反応の大きさが、報告された腫瘍縮小効果と良好に相関する。
【0284】
1.3.5 免疫応答と臨床効果の統合解析
5T4特異的ELISPOT、増殖反応および抗体反応を統合し、報告された臨床効果と対比した。以上の遂行にあたり、各評価可能患者を、検出された最大免疫応答の大きさとの関連でのみ評定した。例えば、特定のモニタリング時点(すなわち、TroVax投与後の全時点、化学療法中、化学療法後)において平均5T4抗体力価が最高であった患者に100%のスコアを与え、他の全患者を最大反応に対する百分率で評定した。アッセイを統合するため、患者ごとにアッセイあたりのスコアを単純加算した。以上の解析は、患者の免疫応答の大きさを考慮に入れるとともに、すべてのアッセイに均等の「重み」を与えることになる。表8aおよびbは、統合免疫応答を統合階層別に(表8aにおける抗体反応+ELISPOT法および表8bにおける抗体反応+ELISPOT法+増殖反応)、報告された臨床効果と対比して示す。
【表17】

【表18】

【0285】
1.3.6 免疫応答と臨床効果の比較:予備的結論
以上の予備的解析は、ある程度高値の5T4特異的免疫応答が、良好な臨床効果とクラスターをなすことを示す。こうした傾向について、以下で個々に考察する:
A.ELISA法
高値の5T4特異的抗体力価は、安定または進行疾患よりも高頻度に完全奏効および部分奏効と対応する。この観察結果は、全モニタリング期間、化学療法中および後の別を問わず、反応の解析において一貫している。化学療法後の抗体反応を解析する場合、高力価は、第X+8週のCTスキャン時点におけるCRおよびPRとクラスターをなす。以上の傾向に対する主な例外は、血清転換を示さない一方で、強いELISPOT反応を示した患者101である。
【0286】
B.増殖反応
5T4特異的増殖反応の大きさは、良好な腫瘍縮小効果(CRおよびPR)とクラスターをなさないと思われる。一方、増殖反応は、化学療法完了後の方が大きく、全体の最大反応が第X+10週、すなわち腫瘍縮小効果に影響を及ぼすには遅すぎる時点で生じた。以上の反応は、生存期間に良好に反映すると考えられる。
【0287】
C.ELISPOT法
5T4特異的ELISPOT反応の大きさは、良好な腫瘍縮小効果とクラスターをなすと思われる。この傾向は、全モニタリング期間、化学療法中および後の別を問わず、ELISPOTデータの解析において明らかである。
【0288】
D.統合解析:ELISA法+ELISPOT法
ELISA法およびELISPOT法からのデータを統合し、統合反応の大きさを臨床効果と並べて表にすると、より高いスコアが、より高頻度で良好な腫瘍縮小効果とクラスターをなす。第14週または第X+8週にSDまたはPDと分類される患者が、最低の統合スコアを示す。
【0289】
E.統合解析:ELISA法+ELISPOT法+増殖反応
ELISA法、ELISPOT法および増殖反応からのデータを統合し、統合反応の大きさを臨床効果と並べて表にすると、やはり高いスコアが、より高頻度に良好な腫瘍縮小効果とクラスターをなす。
【0290】
2.TV2 IFL試験
2.1 臨床および患者原データ
TV2-FOLFOX試験に組み入れた患者19人のうち、12人を、免疫応答の評価に関して評価可能とした(表9)。
【表19】

【0291】
図3は、TV2-IFL試験:臨床試験期間全体における腫瘍の様相を示す図である。図は、以下の3つの時点における標的腫瘍病変の総数を示す:TroVaxワクチン接種以前(スクリーニング時)、ならびに第X週および第X+14週。
【0292】
評価可能な12患者について入手可能なCTスキャンデータセット11件のうち、全件が、第X週に標的病変総数の低下を示した。第X+14週までに、5人の患者(スキャン7件が入手可能)が、スクリーニング時よりも低いままの標的腫瘍量を示した。
【0293】
2.2 免疫応答
2.2.1 抗体反応
TV2-IFL試験の全モニタリング期間における、各評価可能患者の5T4特異的抗体力価を、表10に示す。
【0294】
表10:5T4特異的抗体反応についての表である。結果は、各試料採取時点における5T4特異的抗体力価(試験試料の平均O.D.(490nm)が、陰性対照試料(正常ヒト血清;[NHS])の2倍となる最大血清希釈率)として表す。太字で示した10の結果が、陽性抗体反応を表す。各試料採取時点の他、ワクチン接種前、化学療法中および化学療法後の複数の時点でも、全例の平均力価を記録する。さらに、各ワクチン接種後に前回測定時点と比べた平均抗体力価の増加倍数を示す。
【表20】

【0295】
TroVax投与後の全免疫モニタリング期間において、平均5T4特異的抗体力価を観察した。患者の大半が、第4週(すなわち、2度のTroVaxワクチン接種後)までに血清転換した。IFL試験における平均抗体力価は、化学療法中にはきわめて低く(平均力価7.4)、化学療法完了後(第19〜X+2週)に低下し、化学療法完了後に劇的に上昇した(平均力価158.3)。6回のワクチン接種の各回後に、平均抗体力価の上昇がみられた。
【0296】
2.2.2 増殖反応
表11a〜bは、全モニタリング期間にわたる、各評価可能患者の抗原特異的増殖反応の詳細を示す。5T4(11a)およびMVA(11b)に対する反応を解析した。
【0297】
表11aおよびb:患者から採取したPBMCをin vitroで5T4(a)およびMVA(b)により再刺激した後の増殖反応を概括する表である。結果を、刺激指数(培地のみが誘発する増殖/試験抗原が誘発する増殖)として表す。刺激指数2(太字で示す)を、当該時点での陽性反応と考える。陽性の増殖反応(S.I.2)および注射前(第-2週または第0週)の少なくとも2倍である反応を赤字で示す。
【表21】

【表22】

【0298】
5T4およびMVAに対する平均増殖反応は、反応の大きさおよび持続性のいずれにおいても差を示す。各抗原を以下の順に述べる。
【0299】
A.5T4
総じて、5T4に対する平均増殖反応は、TroVaxワクチン接種後に注射前と比べて上昇を示さなかった(いずれも4.9の平均SI)。したがって、母集団レベルおよび全測定時点において、IFL試験患者は、TroVaxワクチン接種後の5T4に対する平均増殖反応の上昇を示さなかった。ただし、特定の時点では、個々の患者において反応が上昇した。反応は、化学療法後に上昇し(化学療法中の3.8に対して化学療法後に5.8のSI)、この差は、第19〜X+2週の間、すなわち、大半の患者が化学療法を受け続けていた最終時点と化学療法完了後の最初の時点との間で最も著明であった。この観察結果は、患者がこの期間内にワクチン接種を受けなかった、すなわち、最終のワクチン接種は第17週であったため、予測外であった。IFL試験患者は、第19〜X+2週における平均増殖反応が6倍上昇し(それぞれ1.6に対して9.2のSI)、これは観察された最大の上昇幅であり、6回のワクチン接種いずれの後におけるよりも大きかった。
【0300】
B.MVA
MVAに対する平均増殖反応は、TroVaxワクチン接種後に注射前と比べて6倍(それぞれ2.2に対して13.2の平均SI)であった。MVA特異的増殖反応は、化学療法中よりも化学療法完了後の方が大きく、5T4で観察されたパターンと同様であった。ただし、5T4とは異なり、第19〜X+2週で検出された増殖反応には、差がみられなかった(それぞれ10.5に対して10.1のSI)。
【0301】
2.3 免疫応答と臨床効果の比較
2.3.1 全アッセイにおける免疫応答の概要
【表23】

【0302】

【0303】
2.3.2 抗体反応と臨床効果の比較解析
全評価可能患者における平均5T4抗体力価を、報告された臨床効果(未判定のCTスキャンあり)と対比した。平均5T4抗体力価は、以下の3つの時点にわたり測定した:(i)TroVax投与後の全時点、すなわち第2〜X+10週(または記録可能な最終データ時点)、(ii)TroVax投与後で化学療法中にあたるすべての時点(第4〜19週)、および(iii)TroVax投与後で化学療法完了後にあたるすべての時点(第X+2〜X+14週)。表13a〜13cは、平均抗体力価を、当該患者の臨床効果と対比して順に並べる。
【0304】
表13a-13c:全モニタリング期間(第2〜X+14週;表13a)、化学療法中(第4〜19週;表13b)、および化学療法完了後(第X〜X+14週;表13c)における平均5T4抗体力価を示す表である。平均力価を、最低から最高の順に、第X週および第X+14週の当該患者に帰属する臨床効果と対比して並べる。
【表24】

【表25】

【表26】

【0305】
この患者群における抗体反応は、化学療法後と比べ、化学療法中にきわめて低かった(158に対して7の平均力価)。さらに、平均抗体力価の最大値は、第X+8週にみられた。この時点における強力な抗体反応は、第X+14週に検出される腫瘍縮小効果に対して影響を及ぼさないものの、患者生存期間には良好な影響を及ぼすと考えられる。
【0306】
2.3.3 増殖反応と臨床効果の比較解析
全評価可能患者における平均5T4増殖反応(SI)を、報告された臨床効果(未判定のCTスキャンあり)と対比した。平均増殖反応を、3期間(全モニタリング期間、化学療法中および化学療法完了後)において測定し、表14a〜cに示す。
【0307】
表14a-14c:以下の3つの異なる時点における平均5T4増殖反応を示す表である:表14aが全モニタリング期間(第2〜X+14週)、表14bが化学療法中(第4〜19週)、および表14cが化学療法完了後(第X〜X+14週)。平均増殖反応を、最低から最高の順に、第X週および第X+14週の当該患者に帰属する臨床効果と対比して並べる。
【表27】

【表28】

【表29】

【0308】
2.3.4 ELISPOT反応と臨床効果の比較解析
全評価可能患者における平均5T4 ELISPOT反応(106 PBMCあたりの抗原特異的細胞数)を、報告された臨床効果(未判定のCTスキャンあり)と対比した。平均ELISPOT反応を、全モニタリング期間中の特定の時点において測定し、表15a〜cに示す。
【0309】
表15a-15c:全投与期間(15a)、化学療法中(15b)、または化学療法後(15c)における平均5T4 ELISPOT反応を示す表である。平均ELISPOT反応を、最低から最高の順に、第X週および第X+14週の当該患者に帰属する臨床効果と対比して並べる。
【表30】

【表31】

【表32】

【0310】
5T4 ELISPOT反応の解析は、高値の5T4反応が有益な臨床効果とクラスターをなすことを、変数として増殖を用いる同じ計算よりも明瞭に示した。
【0311】
2.3.5 免疫応答と臨床効果の統合解析
5T4特異的ELISPOT、増殖および抗体の各反応を統合し、報告された臨床効果と対比した。以上の遂行にあたり、各評価可能患者を、検出された最大免疫応答の大きさとの関連でのみ評定した。例えば、特定のモニタリング時点(すなわち、TroVax投与後の全時点、化学療法中、化学療法後)において平均5T4抗体力価が最高であった患者に100%のスコアを与え、他の全患者を最大反応に対する百分率で評定した。アッセイを統合するため、患者ごとにアッセイあたりのスコアを単純加算した。以上の解析は、患者の免疫応答の大きさを考慮に入れるとともに、すべてのアッセイに均等の「重み」を与えることになる。表16aおよびbは、統合免疫応答を統合階層別に(表16aでは抗体反応+ELISPOT法および表16bでは抗体反応+ELISPOT法+増殖反応)、報告された臨床効果と対比して示す。
【表33】

【表34】

【0312】
IFL試験における強い免疫応答は、主に化学療法完了後に生じた。したがって、免疫応答が、第X週のCTスキャンまで、およびおそらくX+14週までに、腫瘍への有益な影響を及ぼすとは考えにくい。
【0313】
3.FOLFOX試験およびIFL試験において生じる免疫応答の比較
3.1 抗体反応
全免疫モニタリング期間において、両試験の平均5T4特異的抗体力価(同時期)は、TV2-IFL試験が76およびTV2-FOLFOX試験が100と同様であった(表17)。ただし、抗体反応の動態は、試験ごとに異なった。IFL試験では、化学療法中の抗体反応がきわめて低かった(第4〜19週における平均力価7)が、化学療法完了後に劇的に(>20倍)上昇した(第X+2〜X+14週における平均力価158)。これに対して、FOLFOX試験における平均抗体力価は、化学療法中に高く(平均力価103)、化学療法完了後もやや上昇した(平均力価115)。いずれの試験においても、平均抗体力価は、第19〜X+2週に低下した。両試験ともに、6回のワクチン接種後のいずれにおいても抗体力価の上昇がみられた。
【表35】

【0314】
3.1.1 TV2-IFL試験およびTV2-FOLFOX試験における5T4特異的抗体反応の統計学的解析
データの統計学的解析は、Wilcoxon検定を用いて、「試験ごとに」行った。結果は以下の通りである:
(a)化学療法中(第2〜19週)の反応
IFL群:平均スコア(力価)=0.44(<10)
FOLFOX群:平均スコア(力価)=1.73(17)
群間差:P=0.011(P<2%)
結論:患者が化学療法を受ける期間内にIFLおよびFOLFOX群で検出される抗体力価には、有意差がみられる。
【0315】
(b)化学療法後(第X+2〜X+10週)の反応
IFL群:平均スコア(力価)=1.85(18)
FOLFOX群:平均スコア(力価)=2.29(24)
群間差:P=0.53(NS)
結論:化学療法完了後の期間内にIFLおよびFOLFOX群で検出される抗体力価には、有意差がみられない。
【0316】
(c)化学療法中〜後の変化(第2〜19週と第X+2〜X+10週の対比)
IFL群:期間中の平均スコア(力価)=0.44(<10)、化学療法後の平均スコア(力価)=1.85(18)、変化=1.41(2.7倍)、P=0.020(P<2%)
FOLFOX群:期間中の平均スコア(力価)=1.73(17)、化学療法後の平均スコア(力価)=2.29(24)、変化=0.56(1.5倍)、P=0.16(NS)
結論:IFL群で検出される抗体力価には、化学療法中と化学療法後で有意差がみられる。これに対し、FOLFOX群では有意差がみられない。
【0317】
(d)第19〜X+2週における変化
IFL群:
第19週における平均スコア(力価)=0.67(<10)
第X+2週における平均スコア(力価)=0.00(<10)
変化=-0.67(0.62倍)、P=0.13(NS)
FOLFOX群:
第19週における平均スコア(力価)=2.27(24)
第X+2週における平均スコア(力価)=0.36(<10)
変化=-1.91(0.27倍)、P=0.016(P<2%)
群間差:P=0.10(NS)
結論:第19〜X+2週において、IFL群で検出される抗体力価には有意差がみられないが、FOLFOX群の力価には有意な低下がみられる。
【0318】
3.2 増殖反応
5T4特異的増殖反応は、IFL試験よりもFOLFOX試験の方が高かった(表18)。いずれの試験においても、増殖反応は化学療法完了後の方が高かった。その差は、図4a〜bに示すように、第19〜X+2週において最も大きかった。一方、こうした差は、MVAまたはTTに対する反応を解析した場合、それほど明らかではなかった(図4c〜4f)。
【表36】

【0319】
図4aは、TV2-IFL試験における5T4反応、図4bは、TV2-FOLFOX試験における5T4反応、図4cは、TV2-IFL試験におけるMVA反応、図4dは、TV2-FOLFOX試験におけるMVA反応、図4eは、TV2-IFL試験におけるTT反応、図4fは、TV2-FOLFOX試験におけるTT反応をそれぞれ示す図である。
【0320】
3.2.1 TV2 IFL試験およびTV2 FOLFOX試験において検出される5T4特異的増殖反応の統計学的解析
TV2 FOLFOX試験およびTV2 IFL試験において検出される抗原特異的免疫応答の有意性を評価するため、統計学的解析(Wilcoxon検定)を行った。
【0321】
(a)ベースライン時〜ワクチン接種後(第-2週および第0週に対する第2〜X+14週(IFL群)または第2〜X+10週(FOLFOX群))における増殖反応の変化
5T4
IFL群:ベースライン時の平均log(S.I.)=1.05(2.9)、ワクチン接種後=1.02(2.8)、変化=-0.03(0.97倍)、P=0.96(NS)
FOLFOX群:ベースライン時の平均log(S.I.)=0.69(2.0)、ワクチン接種後=1.25(3.5)、変化=0.56(1.8倍)、P=0.10(NS)
MVA
IFL群:ベースライン時の平均log(S.I.)=0.17(1.2)、ワクチン接種後=1.62(5.1)、変化=1.45(4.3倍)、P=0.002(P<0.5%)
FOLFOX群:ベースライン時の平均log(S.I.)=0.18(1.2)、ワクチン接種後=2.37(10)、変化=2.19(8.9倍)、P=0.002(P<0.5%)
TT
IFL群:ベースライン時の平均log(S.I.)=0.90(2.5)、ワクチン接種後=1.06(2.9)、変化=0.17(1.2倍)、P=0.52(NS)
FOLFOX群:ベースライン時の平均log(S.I.)=1.42(4.1)、ワクチン接種後=1.50(4.5)、変化=0.08(1.1倍)、P=1.00(NS)
結論:5T4およびTTに対する増殖反応は、ベースライン時〜TroVaxワクチン接種後において有意な変化を示さない。一方、MVAに対する反応は有意に上昇する。
【0322】
(b)ベースライン時〜化学療法中(第-2週および第0週に対する第4〜19週)における増殖反応の変化
5T4
IFL群:ベースライン時の平均log(S.I.)=1.05(2.9)、化学療法中=0.76(2.2)、変化=-0.29(0.75倍)、P=0.11(NS)
FOLFOX群:ベースライン時の平均log(S.I.)=0.69(2.0)、化学療法中=0.94(2.6)、変化=0.25(1.3倍)、P=0.64(NS)
MVA
IFL群:ベースライン時の平均log(S.I.)=0.17(1.2)、化学療法中=1.17(3.2)、変化=1.00(2.7倍)、P=0.03(P<5%)
FOLFOX群:ベースライン時の平均log(S.I.)=0.18(1.2)、化学療法中=1.99(7.3)、変化=1.81(6.1倍)、P=0.003(P<0.5%)
TT
IFL群:ベースライン時の平均log(S.I.)=0.90(2.5)、化学療法中=0.98(2.7)、変化=0.09(1.1倍)、P=0.79(NS)
FOLFOX群:ベースライン時の平均log(S.I.)=1.42(4.1)、化学療法中=1.47(4.3)、変化=0.04(1.04倍)、P=0.89(NS)
結論:5T4およびTTに対する増殖反応は、ベースライン時〜TroVaxワクチン接種後で化学療法中にあたる時点において有意な変化を示さない。一方、MVAに対する反応は有意に上昇する。
【0323】
(c)ベースライン時〜化学療法後(第-2週および第0週に対する第2〜X+14週(IFL群)または第2〜X+10週(FOLFOX群))における増殖反応の変化
5T4
IFL群:ベースライン時の平均log(S.I.)=1.05(2.9)、化学療法後=1.18(3.3)、変化=-0.13(1.1倍)、P=0.79(NS)
FOLFOX群:ベースライン時の平均log(S.I.)=0.69(2.0)、化学療法後=1.82(6.2)、変化=1.13(3.1倍)、P=0.04(P<5%)
MVA
IFL群:ベースライン時の平均log(S.I.)=0.17(1.2)、化学療法後=2.05(7.8)、変化=1.88(6.6倍)、P=0.001(P<0.2%)
FOLFOX群:ベースライン時の平均log(S.I.)=0.18(1.2)、化学療法後=2.84(17)、変化=2.66(14倍)、P=0.003(P<0.5%)
TT
IFL群:ベースライン時の平均log(S.I.)=0.90(2.5)、化学療法後=1.16(3.2)、変化=0.27(1.3倍)、P=0.27(NS)
FOLFOX群:ベースライン時の平均log(S.I.)=1.42(4.1)、化学療法後=1.58(4.9)、変化=0.16(1.2倍)、P=0.90(NS)
結論:5T4(IFL群のみ)およびTTに対する増殖反応は、ベースライン時〜TroVaxワクチン接種後で化学療法完了後にあたる時点において有意な変化を示さない。一方、MVAおよび5T4(FOLFOX群のみ)に対する反応は有意に上昇する。
【0324】
(d)第19〜X+2週における増殖反応の変化
5T4
IFL群:第19週における平均log(S.I.)=0.33(1.4)、第X+2週=1.49(4.4)、変化=1.16(3.2倍)、P=0.04(P<5%)
FOLFOX群:第19週における平均log(S.I.)=0.75(2.1)、第X+2週=1.64(5.2)、変化=0.89(2.4倍)、P=0.04(P<5%)
MVA
IFL群:第19週における平均log(S.I.)=1.24(3.5)、第X+2週=1.37(3.9)、変化=0.13(1.1倍)、P=0.68(NS)
FOLFOX群:第19週における平均log(S.I.)=2.02(7.5)、第X+2週=2.33(10)、変化=0.31(1.4倍)、P=0.64(NS)
TT
IFL群:第19週における平均log(S.I.)=1.42(4.1)、第X+2週=1.13(3.1)、変化=-0.29(0.75倍)、P=0.34(NS)
FOLFOX群:第19週における平均log(S.I.)=1.48(4.4)、第X+2週=1.47(4.3)、変化=-0.02(0.98倍)、P=0.90(NS)
結論:MVAおよびTTに対する増殖反応は、第19〜X+2週において有意な変化を示さない。一方、5T4に対する反応は有意に上昇する。
【0325】
概要
IFL群における抗体反応は、FOLFOX群と比べ、化学療法レジメンにより抑制される。ただし、いずれの群でも、第5回および第6回のワクチン接種後の多くの患者においてブースト効果がみられる。これは、以前のTV1試験ではほとんどみられないことであった。実際、平均5T4抗体力価は、IFLおよびFOLFOXのいずれの試験でも、6回のワクチン接種後にブーストされた。
【0326】
細胞レベルでは、5T4およびTTに対する平均増殖反応は、ベースライン時と比べ、TroVaxワクチン接種後に有意な上昇を示さなかった。しかし、FOLFOX試験では、化学療法完了後に検出される平均増殖反応が、ベースライン時と比べ、有意に上昇した。第19〜X+2週における5T4に対する増殖反応の増大は、興味深い。これら2つの時点間(約8週間)においてはワクチン接種が行われなかったにもかかわらず、この期間中に5T4に対する反応が有意に上昇する一方、MVAおよびTTに対する反応は上昇しなかった。末梢血中の調節性T細胞値の解析が、この観察結果の理解をさらに深めると考えられる。
【0327】
4.調節性T細胞
T細胞には、免疫寛容誘発能ゆえに1970年代当初は抑制性T細胞と呼ばれ、現在では調節性T細胞と呼ばれるサブセットがある[GershonおよびKondo(1970年):Immunology、18巻:723〜737頁;Gershon(1975年):Transplant Rev.、26巻:170〜185頁;TaamsおよびAkbar(2005年):Curr.Top.Microbiol.Immunol.、293巻:115〜131頁]。調節性T(Tr)細胞は、外来抗原および自己抗原に対する免疫寛容の誘発および維持において不可欠の役割を果たす。CD4+CD25+ T細胞、TGF-βを産生するTH3細胞、IL-10を産生するTr1細胞およびCD8+CD28-T細胞を含む、各種の調節性/抑制性細胞が記述されている[総説として、LevingsおよびRoncarlo(2005年):CTMI.、292巻:303〜326頁;Huehn、SiegmundおよびHamann(2005年):CITR、293巻:89〜114頁;FariaおよびWeiner(2005年):Immunol.Rev.、206巻:232〜259頁;Weiner(2001年):Immunol.Rev.、182巻:207〜214頁;Weinerら(2001年):Microbes Infect.、3巻:947〜954頁;Roncaroloら(2001):Immunol.Rev.、182巻:68〜79頁を参照のこと]。
【0328】
4.1.CD4+CD25+ Treg:序説
CD4+CD25+調節性T細胞は、ヒト末梢血中で検出でき、バイスタンダーT細胞を抗原非特異的および接触依存的に抑制することができる。これらTregは、構成的高濃度のIL-2受容体α鎖(CD25)発現を特徴とするので、CD4+CD25hi+ Tregと呼ばれることが多い。CD4+CD25+ Tregは、細胞内転写因子FoxP3ならびにCTLA-4、GITR(グルココルチコイド誘発TGFRスーパーフィミリーメンバー18)、CD45RO、CD45RB、ICOSおよびニューロピリン1を含む他の細胞受容体を高レベルで発現する。マウスCD4+CD25+ Tregと対照的に、ヒトの該細胞は、高レベルインテグリンCD103を発現しない。レベルおよび組合せは異なるものの、CD4+CD25+細胞の同定に用いることのできるすべてのマーカーが、他のT細胞サブセットにより発現可能なため、CD4+CD25+ Treg細胞を特徴付ける単一のマーカーは存在しない。
【0329】
CD4+CD25+ Tregがその抑制機能を及ぼす正確な分子的機構は不明なままであるが、細胞接触を必要とし、サイトカイン自体を分泌するTregには依存しないことが明らかである[Takahashiら(1998年):Int.Immunol.、10巻:1969〜1980頁;ThortonおよびShevach(1998年):J.Exp.Med.、188巻:287〜296頁]。CD4+CD25+ Tregは、T細胞、B細胞、樹状細胞、NK細胞[Shimuzuら(1999年):J.Immunol.、163巻:5211〜5218頁]、好中球、単球およびマクロファージ[Maloyら(2003年):J.Exp.Med.、197巻:111〜119頁;Taamsら(2005年):Hum.Immunol.、66巻:222〜230頁]に対する抑制作用を及ぼす。
【0330】
CD4+CD25+ Tregは、CD4+およびCD8+両者の誘導およびエフェクター活性を阻害すると考えられる[総説として、Van Boehmer(2005年):Nat.Immunol.、6巻:338〜344頁を参照のこと]。これらTregの作用様態は多岐にわたり、エフェクターT細胞からのサイトカイン分泌(例えば、IL-2およびIFN-γ)の制御、CD8+ T細胞による細胞溶解性殺傷の抑制[Chenら:PNAS、102巻:419〜424頁]、受容体シグナル伝達の阻害、perforin依存的機構によるエフェクターT細胞の殺傷[PiccirilloおよびShevach(2004年):Semin.Immunol.、16巻:81〜88頁]およびIL-10およびTGF-βを分泌するT細胞の誘導[Jonuleitら(2002年):J.Exp.Med.、196巻:255〜260頁]を含むと考えられる。最後に挙げた細胞の一部がTr1 Tregであると考えられる[Levingsら(2002年):Int.Arch.Allergy Immunol.、129巻:262〜276頁]ことは、CD4+CD25+ Tregが他のTreg分化を促進することを示唆する。
【0331】
B細胞活性も、CD4+CD25+ Tregにより調節される。CD4+CD25+ Tregは、自己抗体反応の成熟[Fieldsら(2005年):J.Immunol.、175巻:4255〜4264頁]、B細胞の活性化および抗体分泌[Sakaguchiら(1995年):J.Immunol.、155巻:1151〜1164頁;Bystryら(2001年):Nat.Immunol.、2巻:1126〜1132頁]を抑制することが判明している。抗原提示に関与するB細胞のTregによるFas/FasL相互作用を介した殺傷についても、報告されている[Janssensら(2003年):J.Immunol.、171巻:4604〜4612頁]。
【0332】
CD4+CD25+ Tregは、抗原提示細胞の作用を制御することにより、バイスタンダー細胞への抑制作用を及ぼすと考えられる。CD4+CD25+ Tregは、CD80およびCD86などの共刺激分子の細胞表面における発現をダウンレギュレートする、ならびに/あるいは成熟化を阻止することにより、APCの刺激能を制限すると考えられる[Cederbornら(2000年):Eur.J.Immunol.、30巻:1538〜1543頁;Grundstormら(2003年):J.Immunol.、170巻:5008〜5017頁;Taamsら(2005年):Hum.Immunol.、66巻:222〜230頁;Misraら(2004年):J.Immunol.、172巻:4676〜4680頁]。別の研究では、Tregが、共刺激分子のアップレギュレーションの遮断およびサイトカイン分泌の阻害の双方によりミエロイドDCの成熟化を抑制し、抗原提示能の低下をもたらした[Houtら(2006年):J.Immunol.、176巻:5293〜5298頁]。ただし、TH2発現を促進する形質細胞様DCは、Tregの作用に対して非感受性であった。Treg存在下に置いた単球[Taamsら(2005年):Hum.Immunol.、66巻:222〜230頁]および単球由来DC[Misraら(2004年):J.Immunol.、172巻:4676〜4680頁]による抗原提示の低下も、記述されている。Tregは、成熟DCが誘発するTh1型反応に対するネガティブフィードバック機構をもたらし、それによりTH1反応を阻害すると考えられる[Oldenhoveら(2003年):J.Exp.Med.、198巻:259〜266頁]。さらにTregは、T細胞増殖を阻害し活性化T細胞の選択的アポトーシスを促進するキヌレニンの産生を増進し、必須アミノ酸トリプトファン枯渇を触媒する酵素である、インドレアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)のDCによる分泌能を制御すると考えられる[Ternessら(2002年):J.Exp.Med.、196巻:447〜457頁]。高濃度のIDOは、T細胞からのトリプトファン剥奪および後続のアポトーシスをもたらす[Fallarinoら(2003年):Nat.Immunol.、4巻:1206〜1212頁]。Tregが、DCおよびCD4+ヘルパー細胞の間の接触を制限することも示されている[TandおよびKrummel(2006年):Cuur.Opin.Immun.、18巻:496〜502頁]。
【0333】
CD4+CD25+ Tregが、胸腺由来であり、末梢血におけるCD4+CD25-T細胞から分化しうることを示唆する証拠がある[総説として、Huehn、SiegmunおよびHamann(2005年):CTMI、293巻:89〜114頁;TaamsおよびAkbar(2005年):CTMI、293巻:115〜131頁;Akbarら(2003年):Immunology、109巻:319〜325頁;BluestoneおよびAbbas(2003年)を参照のこと]。FoxP3発現が、CD4+CD25+ Tregの発現および機能にとってきわめて重要である[総説として、NomuraおよびSakaguchi(2005年):CTMI、293巻:287〜302頁を参照のこと]。さらに多数の研究が、Tregの発現および機能には、CD4+CD25+ TregおよびAPC間の種々の相互作用が必要であることを明らかにしている[RutellaおよびLemoli(2004年):Immunol.Lett.、94巻:11〜26頁;Zhengら(2004年):J.I.、173巻:2428頁;Hermanら(2004年):J.Exp.Med.、199巻:1479頁;Minら(2003年):J.Immunol.、170巻:1304〜1312頁;Kumanogohら(2001年):J.I.、166巻:353頁;Salomomら(2000年)]。例えば、Tregは、CD28/B7相互作用を欠損するマウスにおいては発現しない。一方、CD4+CD25+ Tregは、DC分化にも影響を及ぼすと考えられる[Minら(2003年):J.Immunol.、170巻:1304〜1312頁]。
【0334】
CD4+CD25+ Tregの抗原レパートリーは、ナイーブT細胞の場合と同様の幅をもち、広範にわたる自己抗原および非自己抗原を認識できるため、各種免疫応答の制御が可能であると考えられる。その抑制能を及ぼすためには、TCRの活性化が必要となる。ただし、ひとたび活性化すると、非特異的に抗原を抑制することができる[Jonuleitら(1999年):J.Immunol.、193巻:1285頁;ThorntonおよびShevach(2000年):J.Immunol.、164巻:183〜190頁;Levings、SangregorioおよびRoncarolo(2001年):J.Exp.Med.、193巻:1295頁;Yamagiwaら(2001年):J.Immunol.、166巻:7282頁]。TCR媒介刺激の後、同じTregが、同種抗原およびマイトジェンにより活性化するナイーブCD4+CD25-T細胞の活性化を抑制した[Levings(2001年)]。Tregの一部が、発現、維持、または増殖に末梢抗原を要することを示唆する証拠もある[Mastellar、TangおよびBluestone(2006年):Semin.Immunol.、18巻:103〜110頁]。
【0335】
4.2.TV2患者からのPBMC中におけるCD4+CD25+ Tregの解析
CD4+CD25+ Tregレベルは、CD4+CD25hi+細胞のみを計測値陽性として算入するために、抗CD4および抗CD25抗体を用いるPBMCの染色、CD4+細胞のゲーティング、ならびに厳密な四分の一領域の画定により推定した。全患者の評価に同じ四分の一領域を用いた。染色例を図5に示す。
【0336】
CD4+CD25hi+細胞が転写因子FoxP3を発現することを確認するため、細胞内染色も実施した(図6)。
【0337】
文献では、CD4+CD25+ Tregレベルが、総CD4+ T細胞集団の百分率として表されると、一般に認められている。議論の余地はあるが、CD4+CD25+ Treg細胞が、健康者末梢血中に存在するCD4+ T細胞の最大2〜10%までを占める[MaloyおよびPowrie(2001年):Nat.Immunol.、2巻:816〜822頁;Sakaguchiら(2001年):Immunl.Rev.、182巻:18〜32頁;GavinおよびRudensky(2003年):Curr.Opin.Immunol.、15巻:690〜696頁;PiccirilloおよびShevach(2004年):Semin.Immunol.、16巻:81〜88頁;Mastellar、TangおよびBluestone(2006年):Semin.Immunol.、18巻:103〜110頁]。
【0338】
TV2-IFL患者およびTV2-FOLFOX患者のデータを、表1に示す。患者は、化学療法以前の末梢血CD4+ T細胞内に、CD4+CD25+ Tregの正常レベル(最大2〜10%)を含有すると思われた。
【表37】

【0339】
IFL処置およびFOLFOX処置のいずれもがTreg枯渇をもたらした
IFL患者(n=7)では、化学療法中に、化学療法以前の時点と比べ15〜83%の範囲でTregが低下した。FOLFOX患者(n=5)では、観察された低下範囲が31〜52%(化学療法以前の検査時点がなかったため、患者TV2-108を除外したことに注意)であった。
【0340】
化学療法後、Tregレベルが化学療法段階と比べ上昇したことは、IFLおよびFOLFOXいずれの効果も一過性であることを示す。Tregレベルが試験前の値に戻る患者もみられた。
【0341】
試験の各段階におけるCD4+母集団中のCD4+CD25+ Treg百分率の平均を、図7に示した。総じて、被験者のうち、TV2-FOLFOX患者集団の方が、TV2-IFL患者よりも高いCD4+CD25+ Tregレベルを示した。Tregレベルは、TV2-IFL患者よりもTV2-FOLFOX患者の方が高値(ただし、健康者に予測される範囲内)であったが、試験期間を通じ、CD4+母集団において観察された平均変化量は、いずれの試験ともに同様であった。化学療法中のTregは、試験前段階と比べ約30%低下した。化学療法後、これら細胞レベルは上昇したが、CD4+CD25+ Tregに予測される正常範囲内にとどまる。
【0342】
データの統計学的解析は、CD4+ T細胞母集団におけるCD4+CD25+ Tregの百分率が、いずれの試験においても、化学療法前と比べ化学療法中に有意に低下したことを明らかにした。Tregの幾何平均は、化学療法前の1.36からIFL処置期間中の0.68に低下した(p=0.001)。Tregの幾何平均は、化学療法前の2.31からFOLFOX処置期間中の1.75に低下した(p=0.0093)。
【0343】
ただし、化学療法後のTregレベルは、化学療法前のレベルに対する有意差を示さなかった。化学療法後におけるTregの幾何平均は、IFLおよびFOLFOXの両試験について、それぞれ1.06(p=0.2629)および2.17(p=0.4923)であった。このデータは、IFLまたはFOLFOXいずれの処置期間中においても、CD4+CD25+ Treg枯渇後にTregレベルが上昇しうることを示唆する。本試験による測定が示すように、IFLおよびFOLFOX患者におけるTregレベルは、それぞれ化学療法後14週間および10週間以内に回復した。
【0344】
4.3.結論
・IFLおよびFOLFOX処置のいずれもが、Tregを低下させた。
【0345】
・IFL群よりもFOLFOX群の患者の方がCD4+CD25+ Tregレベルはやや高いが、総CD4+ T細胞母集団中のCD4+CD25+ Treg百分率は、いずれのTV2試験においても、化学療法中に30%低下した。
【0346】
4.4.考察
広範にわたる各種癌患者が、末梢血、リンパ節、腫瘍腹水および腫瘍組織におけるCD4+CD25+ Tregの上昇を示している[総説として、NomuraおよびSakaguchi(2005年):Curr.Top.Microbiol.Immunol.、293巻:287頁を参照のこと]。腫瘍量の増大が、Treg比率の上昇と関連することも示されている[Liyanageら(2002年):J.Immunol.、169巻:2756〜2761頁;Wooら(2001年):Cancer Res.、61巻:4766〜4772頁]。TV2患者を対象とする本試験では、CD4+CD25+ Tregが、大半の患者の末梢血において、期待される正常範囲内(総末梢血の最大2〜10%)で存在すると思われる。ただし、本試験は、これら患者における腫瘍近傍でTregが増加し、不適切に発現した自己抗原または腫瘍関連抗原に対する反応を他の免疫細胞が開始または維持する能力を局所的に抑制する可能性を扱うものではない。
【0347】
IFLおよびFOLFOXのいずれの化学療法とも、化学療法の1週間後に測定した末梢血における総CD4+ T細胞母集団中のCD4+CD25+ Treg百分率を低下(30%)させた。ヒト末梢血におけるCD4+CD25+ Tregレベルの低下が観察される治療として、シクロホスファミド[Ghirighelliら(2004年):Eur.J.Immunol.、34巻:336〜344頁;Lutsiakら(2005年):Blood、105巻:2862〜2868頁]、GOLF[ゲムシタビン(GEM)、オキサリプラチン、LFおよびFU;Correaleら(2005年):J.Clin.Oncol.、23巻:147〜162頁]およびテモゾロミド[Suら(2004年):J.Clin.Oncol.、4巻:610〜616頁]を含む他の多数の化学療法が記述されている。ONTAK(組み換えIL-2ジフテリア毒素コンジュゲートDAB389IL-2)も、ヒトPBMCからCD4+CD25+ Tregを枯渇させ、RNAを導入したDCによる免疫応答のプライミング/ブーストを可能とすることが示されている[Dannullら(2005):J.Clin.Invest.、115巻:3623〜3633頁]。
【0348】
TV2患者を対象とする本試験では、末梢血で観察されるCD4+CD25+ Tregの減少が、アポトーシス/細胞死による喪失、あるいは末梢血Tregが組織またはリンパ節に動員される部位の変化を反映しうると考えられる。CD4+CD25+ Treg細胞は細胞接触を介してその抑制作用を及ぼすので、該当部位に遊走しなければならない。二次リンパ組織内では、免疫応答および記憶反応のプライミングを抑制するために、Tregが存在しなければならない。炎症部位内では、各種免疫応答の可能性を阻止するために、CD4+CD25+ Tregが遊走できなければならない。
【0349】
さらに重要な点は、Tregの絶対数喪失よりもむしろ、CD4+CD25+ Tregの機能喪失の方が、自己抗原および腫瘍関連抗原に対する免疫応答の開始能または維持能を有するためには決定的に重要な因子だと考えられることである[CoulieおよびConnerotte(2005年):Curr.Opin.Immunol.、17巻:320〜325頁]。シクロホスファミド(CY)がTregに影響を及ぼすことで免疫応答の促進を可能とする機構が、近年解明された[Lutsiakら(2005年):Blood、105巻:2862〜2868頁]。Treg数が減少するだけでなく、CYがアポトーシスを増強することによりTregの抑制能を阻害し、恒常的増殖を低下させる。さらにCYは、遺伝子発現を変化させ、GITRおよびFoxP3をダウンレギュレートする。CYのTregへの影響は一過性であり、Tregの絶対数は、CY曝露の10日後には投与前のレベルに回復する。自己免疫性に対する一定の防御を維持する一方で、Tregが一過性の減少を示すことが免疫療法の成功には不可欠である。IFLおよびFOLFOXがTreg機能に影響を及ぼす方式が同様であるか否かを判定することも、興味深いであろう。
【0350】
Treg細胞の分化、成熟および維持に関わる、FoxP3といった分子のインヒビターも、腫瘍抗原に対する免疫応答を促進するために活用できると考えられる。FoxP3のインヒビターには、FoxP3 mRNAのアンチセンス処置[Veldmanら(2006年):J.Immunol.、176巻:3215〜3222頁]および転写因子NFATを介してFoxP3の転写を中断させるシクロスポリンAなどの因子[Mantelら(2006年):J.Immunol.、3593〜360頁]がある。FoxP3タンパク質の標的遺伝子との相互作用にも、NFATが関与する[Wuら(2006年):Cell、126巻:375〜387頁]。ドーパミンも、Tregの抑制活性を阻害することが示されている[Kipnis他:(2004年):J.Neurosci.、24巻:6133〜6143頁]。
【0351】
Treg細胞の枯渇が腫瘍免疫応答を促進するとはいえ、Treg細胞の完全な欠如は、自己抗原を発現する形成された腫瘍の治療には十分でない[AntonyおよびRestifo(2002年):J.Immunother.、25巻:202;Antonyら(2005年):J.Immunol.、174巻:2591〜2601頁]。このことは、腫瘍の退縮が、理想的には、エフェクターT細胞の産生と同時にTregの減少を必要とすることを示唆する。したがって、ワクチン接種をTregおよび/またはTreg機能の喪失をもたらす因子と組み合わせる戦略が、腫瘍の免疫療法には理想的であると考えられる。
【0352】
TV2患者からの凍結PBMCを対象とする試験では、調節性T細胞の一類型であるCD4+CD25+ Tregのみについて測定した。いずれの試験においても、化学療法中に30%の低下が観察された。CD4+CD25hi+ Tregは、胸腺(自然Treg)または末梢(適応Treg)[BluestoneおよびAbbas(2003年)]に由来すると考えられる。自己抗原に対する免疫応答を抑制するTregが、胸腺のみまたは末梢のみに由来することを示唆する証拠はみられない。胸腺由来Tregを除去しても、数週間にわたるTregの減少が生じた後、Tregは該当する骨髄前駆体から再生可能である。
【0353】
付録1:患者の人口学的特性
【表38】

【表39】

【0354】
以上の明細書において言及したすべての公表論文を、参照文献としてここに収載する。本発明に記載された方法および試験系に対する各種の改良および変更は、本発明の適用範囲および意図から逸脱しない専門的研究者には明らかであろう。特殊かつ好適な実施形態との関連で本発明を記載してきたが、特許請求の対象となる本発明をこうした特殊な実施形態に不当に限定すべきでないことを理解されたい。実際、本発明を実施するにあたり、記載された様態に各種の改良を施すことは、分子生物学または関連領域の専門家にとっては自明のことであり、以下の請求項の適用範囲内に属するものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患の治療または予防で使用するための医薬の調製における抗原の使用であって、前記治療または予防が、1種または複数の化学療法薬および抗原を同時に、逐次的に、または別々に被験体に投与することを含み、被験体のCD4+CD25+Treg細胞カウントが低減し、またはCD4+CD25+Treg細胞の機能が低下している場合に抗原が投与される、上記使用。
【請求項2】
疾患の治療または予防で使用するための医薬の調製における抗原および1種または複数の化学療法薬の使用であって、CD4+CD25+Treg細胞カウントが低減したか、またはCD4+CD25+Treg細胞の機能が低下した際に抗原が投与される、上記使用。
【請求項3】
疾患の治療または予防で使用するための医薬の調製における抗原の使用であって、前記治療が1種または複数の化学療法薬との併用療法で使用するためのものであり、CD4+CD25+Treg細胞カウントが低減したか、またはCD4+CD25+Treg細胞の機能が低下した際に抗原が投与される、上記使用。
【請求項4】
疾患の治療または予防で使用するための医薬の調製における1種または複数の化学療法薬の使用であって、前記治療が抗原との併用療法で使用するためのものであり、CD4+CD25+Treg細胞カウントが低減したか、またはCD4+CD25+Treg細胞の機能が低下した際に抗原が投与される、上記使用。
【請求項5】
疾患の治療または予防において同時に、別々に、または逐次的に用いるための医薬の製造における抗原および1種または複数の化学療法薬の使用であって、化学療法を施す前に、CD4+CD25+Treg細胞カウントが低減したか、またはCD4+CD25+Treg細胞の機能が低下した際に、抗原が投与される、上記使用。
【請求項6】
抗原に対する免疫応答を誘発するために、哺乳動物に投与するための医薬の調製における抗原の使用であって、抗原の投与が、化学療法薬の投与の前、および/または間、および/または後に抗原を投与することを含み、哺乳動物のCD4+CD25+Treg細胞カウントが低減したか、またはCD4+CD25+Treg細胞の機能が低下している場合に抗原が投与される、上記使用。
【請求項7】
抗原が腫瘍関連抗原であり、疾患が癌である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
腫瘍関連抗原が5T4である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
抗原が、5T4、癌精巣抗原(HOM-MEL-40)、分化抗原(HOM-MEL-55)、過剰発現された遺伝子産物(HOM-MD-21)、突然変異した遺伝子産物(NY-COL-2)、スプライスバリアント(HOM-MD-397)、遺伝子増幅産物(HOM-NSCLC-11)、癌関連自己抗原(HOM-MEL-2.4)、MART-1(T細胞によって認識されるメラノーマ抗原-1)、MAGE-A(MAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A6、MAGE-A8、MAGE-A10、MAGE-A12)、MAGE B(MAGE-B1、MAGE-B24)、MAGE-C(MAGE-C1/CT7、CT10)、GAGE(GAGE-1、GAGE-8、PAGE-1、PAGE-4、XAGE-1、XAGE-3)、LAGE(LAGE-1a(1S)、-1b(1L)、NY-ESO-1)、SSX(SSX1-SSX-5)、BAGE、SCP-1、PRAME(MAPE)、SART-1、SART-3、CTp11、TSP50、CT9/BRDT、gp100、MART-1、TRP-1、TRP-2、MELAN-A/MART-1、癌胎児抗原(CEA)、前立腺特異抗原(PSA)、MUCIN(MUC-1)、チロシナーゼ、Her2、サバイビン、およびTERTから選択される腫瘍関連抗原(TAA)である、請求項7に記載の使用。
【請求項10】
抗原が発現ベクターによって提示される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
発現ベクターがウイルスベクターである、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
ウイルスベクターがMVA由来である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
1種または複数の化学療法薬が、イリノテカン、フルオロウラシル、ロイコボリン、およびオキサリプラチンから選択される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−144563(P2012−144563A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−93710(P2012−93710)
【出願日】平成24年4月17日(2012.4.17)
【分割の表示】特願2008−531780(P2008−531780)の分割
【原出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(306034996)オックスフォード バイオメディカ(ユーケー)リミテッド (8)
【Fターム(参考)】