説明

化学兵器又は有毒化学物質を含む容器の発掘作業用構造物

【課題】 地中から化学兵器等を除去する工事において、給排気設備を含む諸設備の省コスト化と省スペース化とを図り、周辺環境への安全性を充分に確保することができる構造物を提供する。
【解決手段】 化学兵器等が地中に遺棄されていると推測される範囲を覆うべく移動可能に設けられた外部遮蔽構造物10と、化学兵器等を除去するために掘削作業を行なう範囲を覆うべく外部遮蔽構造物内に設けられた内部遮蔽構造物20と、内部遮蔽構造物内の空気を吸気して浄化するための浄化装置30とを備え、内部遮蔽構造物は外部遮蔽構造物と伴に移動可能且つ外部遮蔽構造物に対する相対位置を変えるべく移動可能に設けられ、内部遮蔽構造物の内部体積は外部遮蔽構造物よりも小さく形成されたものであり、外部遮蔽構造物の内部は外気圧よりも低い負圧になるべく調整され、内部遮蔽構造物は外部遮蔽構造物よりも内圧が低い負圧になるべく調整されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に遺棄された化学兵器又は有毒化学物質を含む容器を除去するために使用される構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に遺棄された化学兵器あるいは有毒化学物質を含む容器が、建設工事における掘削作業中などに発見されたことが、近年、世界各地で報告されており、それを地中から安全に除去する技術に対する需要が高まっている。例えば、日本国内においては、第二次世界大戦終了時に、旧日本軍が遺棄したと推測される化学兵器あるいは有毒化学物質を含む容器が相次いで発見されており、各地で遺棄化学兵器の調査、発掘作業あるいは除去作業が進められている。発掘作業や除去作業では、有毒ガスが発生する虞があるため、作業員は防護服とガスマスクを着用して作業を行なうが、化学物質が容器から漏れ出てしまった場合には、漏出地点周辺に悪影響を及ぼすことが予想されるため、一般的にはテントなどの密閉構造物で作業区域を覆うことが行なわれている。しかしながら、密閉構造物の内部が高濃度の有毒ガスに満たされた場合には、作業員も緊急避難する必要があり、そのときの密閉構造物の開閉により有毒ガスが外部に漏れる可能性がある。
【0003】
また密閉構造物の内部の空気は排気除染装置によって浄化した後に一般環境に排出するが、作業予定区域全体を覆うと密閉空間の体積が大きくなり、密閉構造の負圧管理と空気浄化効果を考慮すると、大型の排気除染装置を設置する必要がある。逆に、小型の密閉構造物を移動しながら、作業を進める方法は、密閉構造物を頻繁に移動する必要があり、リスク管理で問題が多く、またコスト面でメリットも少ない。
【0004】
化学兵器あるいは有毒化学物質を含む容器の除去作業を対象としたものではないが、例えば、特開2002−310600号公報(特許文献1)には、有毒ガスを発生する可能性のある特殊砲弾を処理するための遮蔽構造物が記載されている。この遮蔽構造物は外気と遮断可能に形成されたものであり、その内部には汚染空気を清浄化して外部に放出する空気清浄装置、作業状況を監視する監視モニターが配置されている。
【0005】
また特開2003−147976号公報(特許文献2)には、解体工事における粉塵の飛散を防止するための構造物が記載されており、この解体工事用構造物は、解体対象物を覆う内側防塵建屋と、この内側防塵建屋を覆い囲むように設けられた外側防塵建屋と、内側防塵建屋の内部を負圧に圧力調整する吸引ブロワと、内側防塵建屋と外側防塵建屋との間を陽圧に圧力調整する押込みブロワとを備えるものである。
【特許文献1】特開2002−310600号公報
【特許文献2】特開2003−147976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
化学兵器又は有毒化学物質を含む容器の発掘作業では、掘削した土壌から化学兵器等を篩い分けなければならず、このとき篩い分けた土壌は遮蔽構造物内から搬出する必要がある。したがって、特許文献1に記載された遮蔽構造物を適用した場合には、この搬出作業時に遮蔽構造物の扉を開閉する必要があり、この扉の開閉により有毒ガスが外部に漏れる可能性がある。
【0007】
また特許文献2の解体工事用構造物では、内側防塵建屋と外側防塵建屋との間を陽圧に圧力調整しているため、この陽圧スペースに内側防塵建屋から有毒ガスが漏出した場合には、ここから外側防塵建屋外にも容易に漏出してしまうため、この解体工事用構造物も本願のような用途には適用できるものではない。
【0008】
本発明の課題は、地中に遺棄された化学兵器あるいは有毒化学物質を含む容器を除去する工事において、給排気設備を含む諸設備の省コスト化と省スペース化とを図り、周辺環境への安全性を充分に確保することができる構造物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、化学兵器又は有毒化学物質を含む容器が地中に遺棄されていると推測される範囲を覆うべく移動可能に設けられた外部遮蔽構造物と、前記化学兵器又は前記容器を除去するために掘削作業を行なう範囲を覆うべく前記外部遮蔽構造物内に設けられた内部遮蔽構造物と、該内部遮蔽構造物内の空気を吸気して浄化するための浄化装置とを備え、内部遮蔽構造物は外部遮蔽構造物と伴に移動可能且つ外部遮蔽構造物に対する相対位置を変えるべく移動可能に設けられ、内部遮蔽構造物の内部容量は外部遮蔽構造物よりも小さく形成されたものであり、外部遮蔽構造物の内部は外気圧よりも低い負圧になるべく調整され、内部遮蔽構造物は外部遮蔽構造物よりも内圧が低い負圧になるべく調整されたものである地中埋設化学兵器又は容器の発掘作業用構造物が提供される。
本発明の発掘作業用構造物は、前記外部遮蔽構造物内に内部遮蔽構造物が設けられた二重構造になっており、両方の遮蔽構造物内は負圧になるべく調整され、この負圧は内部遮蔽構造物内のほうが大きく維持されており、内部遮蔽構造物内で有毒ガスが発生した場合には、この有毒ガスは内部遮蔽構造物の内部空気により希釈されつつ浄化装置により排出され、しかも、空気は外部遮蔽構造物内から内部遮蔽構造物内へ流入するように負圧が作用しているので、有毒ガスが外部遮蔽構造物内へ漏出する可能性は低く抑えられる。また、たとえ、外部遮蔽構造物内へ有毒ガスが流出した場合でも、外部遮蔽構造物内でも同様に空気により希釈されるので、有毒ガス濃度は著しく低下する。そのため外部遮蔽構造物から外側に有毒ガスが漏れ出ても、周囲環境における安全性は充分に確保できる。
また本発明では、化学兵器又は容器を除去するために掘削作業を行なう範囲は内部遮蔽構造物で覆われているため、有毒ガスが発生した場合にも、外部遮蔽構造物で覆われた全ての空間を浄化する必要がなく、浄化を要する空間を比較的狭い範囲、すなわち内部遮蔽構造物内のみに限定することが可能になり、浄化装置を比較的小型にすることができる。
【0010】
本発明の発掘作業用構造物では、内部遮蔽構造物内に無人作業区画と有人作業区画とを設け、該無人作業区画と有人作業区画との間には、掘削した土壌から前記化学兵器又は前記容器を篩い分けて除去するために複数の土壌篩い分け区画を設け、この複数の土壌篩い分け区画間は隔壁により仕切られ、無人作業区画と有人作業区画と土壌篩い分け区画との間には開閉可能な隔壁をそれぞれ設けたものとすることができる。
以上のような構成にすることにより、有毒ガスが発生した場合における浄化対象範囲を更に、狭い範囲、すなわち無人作業区画に限定することが可能になる。また無人作業区画と有人作業区画と土壌篩い分け区画との間には開閉可能な隔壁が設けられているので、複数の土壌篩い分け区画の一部で無人作業区画側の隔壁を開けて有人作業区画側の隔壁を閉じ、他の土壌篩い分け区画では、無人作業区画側の隔壁を閉じて有人作業区画側の隔壁を開ければ、無人作業区画から有人作業区画への有毒ガスの流入を抑制することが可能になり、両方の作業区画では同時に比較的安全に作業を進めることができる。つまり、無人作業区画では掘削した土壌から化学兵器や容器の篩い分け作業を行い、同時に、有人作業区画では既に篩い分けられた土壌を搬出する作業を行なうことが可能になる。
【0011】
本発明の発掘作業用構造物では、前記外部遮蔽構造物は、地上に敷設した地上軌道上を移動可能に設けたものであり、前記内部遮蔽構造物は、前記外部遮蔽構造物の天井に敷設した天井軌道に沿って移動可能に吊り下げられたものとすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の発掘作業用構造物では、地中に遺棄された化学兵器あるいは有毒化学物質を含む容器を除去する工事を、省スペース且つ省コストで実施することが可能になり、周辺環境への安全性も充分に確保することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。図1は本発明の発掘作業用構造物における構成を説明するための簡略平面配置図であり、図2は図1のII−II線に沿った断面図である。図1において、発掘作業用構造物1は、外部遮蔽構造物10と、その内側に設けられた内部遮蔽構造物20と、内部遮蔽構造物内の空気を吸気して浄化するための浄化装置30とを主要な構成として備えている。
【0014】
上記構成をさらに説明すれば、前記外部遮蔽構造物10は、化学兵器又は有毒化学物質を含む容器が地中に遺棄されていると推測される範囲で移動可能なように形成されたものであり、この発掘作業対象範囲には地上軌道11が敷設されている。外部遮蔽構造物10は、図2に示したように、鉄骨、鋼管或いは鋼棒などの金属材料により骨組12が形成され、この骨組12が防炎シート材13により覆われ、骨組12の下端には地上軌道11上を走行し得る車輪14が設けられている。このような構成により、外部遮蔽構造物10は図1の矢印A方向に移動可能になっている。防炎シート材12は、図2に示したように、下端12aの所定長が地面上まで延長するように形成され、これにより外部遮蔽構造物10の内側空間の遮蔽性が高められている。この防炎シート材12の下端12aよりも深く掘削された場合には、この下端12aに着脱式の補助シート(図示せず)を取り付けることにより、内側空間の遮蔽性を確保する。なお、外部遮蔽構造物10には、三角印29で示した位置に作業員や掘削機械などのための出入り口が設けられる。
【0015】
次に、前記内部遮蔽構造物20は、骨組(図示せず)を帯電防止シート材21で覆って形成されたものであり、この内部遮蔽構造物20を外部遮蔽構造物10の内部で移動させるため、外部遮蔽構造物10の天井には天井軌道22が設けられている。天井軌道22は、図1に示したように、地上軌道11にほぼ直交する方向に延設されている。一方、内部遮蔽構造物20の上面からは軸部材23が突出しており、これら軸部材23の先端には、天井軌道22に沿って走行可能なように車輪(図示せず)が設けられている。このような構成により、内部遮蔽構造物20は矢印B方向に移動可能とされ、外部遮蔽構造物10の移動方向Aにほぼ直交するように移動する。帯電防止シート材21は、図2に示したように、下端21aの所定長が地面上まで延長するように形成され、これにより内部遮蔽構造物20の内側空間の遮蔽性が高められている。また帯電防止シート材21の下端21aよりも深く掘削された場合には、この下端21aに着脱式の補助シート(図示せず)を取り付けることにより、内側空間の遮蔽性を確保する。
なお、内部遮蔽構造物20には、三角印29で示した位置に作業員や掘削機械などのための出入り口が設けられる。また内部遮蔽構造物20の帯電防止シート材21には、外部遮蔽構造物10から空気を取り込むための取込口(図示せず)が設けられている。
【0016】
また内部遮蔽構造物20には、内部空間を無人作業区画24と有人作業区画25と土壌篩い分け区画26a,26bとに仕切るため、帯電防止シート材からなる隔壁27a〜27eが設けられている。隔壁27a〜27dは、これらを構成するシート材の両側にファスナーなどの開閉手段28(図2)が設けられ、これらファスナー等を開いてシート材を巻き上げれば各隔壁27a〜27dが開放状態にできる。一方、複数の土壌篩い分け区画26a,26b間には、開閉されない隔壁27eが設けられる。これら無人作業区画24と有人作業区画25とからは、吸気管31,32が浄化装置30まで延設され、これら吸気管31,32の所定位置に開閉バルブ33,34が取り付けられている。内部遮蔽構造物20の所定位置には監視カメラ28が設置され、各監視カメラ28からはケーブル(図示せず)が管理室(図示せず)まで延長され、内部遮蔽構造物20の内部が管理室で確認できるようになっている。
なお、内部遮蔽構造物20は、バックホウ等の掘削装置により掘削作業を行うことができる程度の大きさ、且つダンプトラックによる土壌搬出作業を行うことができる程度の大きさの必要最小限にすれば良い。また外部遮蔽構造物10の大きさは、内部遮蔽構造物20の容積のほぼ3倍程度に設定することができる。この程度の大きさに設定した場合、下記のシミュレーションにて説明する効果が得られる。或いは、外部遮蔽構造物10の大きさは、浄化装置30により1時間に0.5回程度の換気を可能にする容量に設定できる。
【0017】
上記以外の構成としては、無人作業区画24にて掘削作業を行う掘削装置40にも監視カメラを搭載し、この監視カメラから得られた画像を管理室で確認できるように構成しても良い。また図示はしないが、遠隔式の化学剤検知機の試料取入れ口を、内部遮蔽構造物20の内部及び浄化装置30の排気口に設置し、これも管理室で確認できるようになっている。さらに、内部遮蔽構造物20の無人作業区画24と有人作業区画25には、シャワー等の水噴射手段を天井の複数箇所に設け、これを外部遮蔽構造物10の外側から操作可能にする。有毒ガスの発生時には、このような水噴射手段により天井から水を噴射すれば、有毒ガスが水に溶け込んで、内部空気中の有毒ガス濃度を極めて迅速に低下させることが可能になる。
【0018】
次に、本発明の発掘作業用構造物1における作業手順について説明する。
発掘作業に際し、外部遮蔽構造物10を地上軌道11に沿って走行させて所定位置まで移動し、内部遮蔽構造物20を天井軌道22に沿って走行させて所定位置まで移動させる。これにより、化学兵器又は有毒化学物質を含む容器の発掘作業箇所を、無人作業区画24で正確に覆うことができる。発掘作業箇所を移すときには、これら両遮蔽構造物10,20の走行移動を適宜選択的に実施する。
また浄化装置30は常に稼動させ、内部遮蔽構造物20の内部空気を排出する。これにより外部遮蔽構造物10の内部空気が、取込口を通って内部遮蔽構造物20の内部に取り込まれ、外部遮蔽構造物10の内圧は発掘作業用構造物1の外部より低い負圧になり、内部遮蔽構造物20の内圧は、外部遮蔽構造物10の内部より更に低い負圧に維持される。
【0019】
また発掘作業に際して、土壌篩い分け区画26a,26bはいずれか一方を、無人作業区画24に向かって開放状態で有人作業区画25に向かって閉鎖状態にし、他方の区画は、これとは逆に無人作業区画24に向かって閉鎖状態で有人作業区画25に向かって開放状態にする。例えば、隔壁27a,27dを開き、隔壁27b,27cは閉鎖した場合には、土壌篩い分け区画26aは無人作業区画24に向かって開放状態、有人作業区画25に向かって閉鎖状態になり、逆に、土壌篩い分け区画26bは、無人作業区画24に向かって閉鎖状態、有人作業区画25に向かって開放状態になる。
【0020】
以上のように内部遮蔽構造物20を負圧状態にし、遠隔式化学剤検知機により無人作業区画24における有毒ガスの発生状況について監視しながら、無人掘削装置40により無人作業区画24の土壌を掘削する。無人掘削装置40のバケットは篩になっているので、この土壌を土壌篩い分け区画26aの上方まで移動させて篩分けをすると、化学兵器又は有毒化学物質を含む容器は篩上に残り、土壌のみが下方に落下する。これら土壌篩い分け区画26a,26bには、あらかじめ土壌を受けるための皿状の鋼製容器を設置する。これにより、土壌が汚染されていた場合であっても、その廃液が下の地盤に染み込むことを防止できて、廃液の回収も容易になる。化学兵器又は有毒化学物質を含む容器が発見された場合には、防護服を着用した作業員が無人作業区画24に入って回収し、篩分けられた土壌の汚染の有無を検知器により確認する。
【0021】
以上のようにして、土壌篩い分け区画26aの皿状鋼製容器が、篩い分けられた土壌で満たされたら、隔壁27b,27cを開き、隔壁27a,27dを閉鎖する。このとき、土壌篩い分け区画26aは有人作業区画25に向かって開放状態、無人作業区画24に向かって閉鎖状態になり、逆に、土壌篩い分け区画26bは、無人作業区画24に向かって開放状態、有人作業区画25に向かって閉鎖状態になる。
【0022】
次に、有人作業区画25では、有人バケット装置41により土壌篩い分け区画26aの土壌をダンプトラック42に積載し、このダンプトラック42により場外の残土保管区画に搬出される。このような有人作業区画25における作業と同時に、無人作業区画24では、無人掘削装置40により土壌の篩い分けを引き続き行い、土壌篩い分け区画26bの皿状鋼製容器に土壌を溜める。このような有人、無人の両作業区画24,25における同時進行的な作業は、隔壁27a〜27dの選択的開閉操作により可能になるものである。
【0023】
次に、発掘作業用構造物1における有毒ガス発生時のシミュレーションによる検討結果について説明する。
【0024】
<前提条件>
例えば、外部遮蔽構造物を縦27m、横20m、高さ6.9m、体積3726m3と仮定し、内部遮蔽構造物を縦10m、横13m、高さ5m、体積650m3と仮定する。また排気及び浄化装置の能力は1700m3/時間、有毒ガス(青酸ガス)の管理基準濃度は、作業環境基準(5mg/m3)の十分の一である0.5mg/m3とする。また土壌には、液体青酸の入った瓶(旧日本軍の茶瓶)が埋まっており、瓶1本には120mlの青酸が入っているものとする。
【0025】
<周囲環境に漏洩するガス濃度>
青酸入りガラス瓶5本が同時に割れて気化し、周囲環境に漏洩したときのガス濃度について、外部遮蔽構造物のみの一重密閉構造の場合と、外部遮蔽構造物と内部遮蔽構造物との二重密閉構造の場合について比較する。一重密閉構造において、有毒ガスの初期濃度は112mg/m3となる。二重密閉構造において、内部遮蔽構造物内の有毒ガスの初期濃度は646mg/m3となるが、ガス膨張分が外部遮蔽構造物内に漏れ出して均一になると0.08mg/m3になり、上記の管理基準濃度以下まで低下する。つまり、一重密閉構造では、青酸入りガラス瓶1本が割れただけで管理基準濃度を超過するが、二重密閉構造では、青酸入りガラス瓶13本以下であれば、外部遮蔽構造物内の有毒ガス濃度は管理基準濃度を超過しない。
【0026】
<排気及び浄化装置による浄化効率>
排気除染による密閉空間内の有毒ガス濃度の低下は換気効果によって起こり、この有毒ガス濃度の低下は、初期濃度と換気量から次の式によりシミュレーションされ得るものである。
【0027】
(式)Xt=Xo×exp[(−A/V)×t]
Xt:t分後の有毒ガス濃度
Xo:有毒ガスの初期濃度
A :換気速度(m3/分)
V :対象空間体積(m3
t :経過時間
【0028】
上記シミュレーションの結果は、図3に示す。青酸ガス濃度の初期値は、二重密閉構造における内部遮蔽構造物内では646mg/m3であり、これは一重密閉構造の112mg/m3よりも6倍程度高いものである。しかしながら、浄化装置により排気除染を行なうと、二重密閉構造の内部遮蔽構造物内では約2時間半で管理基準濃度以下まで浄化される一方で、一重密閉構造では約12時間を要することから、本願発明のように外部遮蔽構造物と内部遮蔽構造物とで二重密閉構造を構成することにより、浄化効率を大幅に向上させることが可能であることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の発掘作業用構造物における構成を説明するための簡略平面配置図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】浄化装置による浄化効率をシミュレーションした結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1 発掘作業用構造物
10 外部遮蔽構造物
11 地上軌道
20 内部遮蔽構造物
22 天井軌道
24 無人作業区画
25 有人作業区画
26a,26b 土壌篩い分け区画
27a〜27e 隔壁
30 浄化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学兵器又は有毒化学物質を含む容器が地中に遺棄されていると推測される範囲を覆うべく移動可能に設けられた外部遮蔽構造物と、前記化学兵器又は前記容器を除去するために掘削作業を行なう範囲を覆うべく前記外部遮蔽構造物内に設けられた内部遮蔽構造物と、該内部遮蔽構造物内の空気を吸気して浄化するための浄化装置とを備え、内部遮蔽構造物は外部遮蔽構造物と伴に移動可能且つ外部遮蔽構造物に対する相対位置を変えるべく移動可能に設けられ、内部遮蔽構造物の内部容量は外部遮蔽構造物よりも小さく形成されたものであり、外部遮蔽構造物の内部は外気圧よりも低い負圧になるべく調整され、内部遮蔽構造物は外部遮蔽構造物よりも内圧が低い負圧になるべく調整されたものである地中埋設化学兵器又は容器の発掘作業用構造物。
【請求項2】
内部遮蔽構造物内に無人作業区画と有人作業区画とを設け、該無人作業区画と有人作業区画との間には、掘削した土壌から前記化学兵器又は前記容器を篩い分けて除去するために複数の土壌篩い分け区画を設け、この複数の土壌篩い分け区画間は隔壁により仕切られ、無人作業区画と有人作業区画と土壌篩い分け区画との間には開閉可能な隔壁をそれぞれ設けたものである請求項1に記載の発掘作業用構造物。
【請求項3】
前記外部遮蔽構造物は、地上に敷設した地上軌道上を移動可能に設けたものであり、前記内部遮蔽構造物は、前記外部遮蔽構造物の天井に敷設した天井軌道に沿って移動可能に吊り下げられたものである請求項1に記載の発掘作業用構造物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−10108(P2006−10108A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184050(P2004−184050)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)