説明

化学処理用カートリッジの使用方法

【課題】磁性粒子を確実に保持することができる化学処理用カートリッジの使用方法を提供する。
【解決手段】内部にウェルおよびウェル間を接続する流路が形成され、外部から与えられた力による変形により、流路を介して内容物を前記ウェル間で移動させて化学処理を行わせる化学処理用カートリッジの使用方法に関する。生体高分子を捕捉するための磁性粒子5を磁力によりウェル11または流路の側壁近傍に凝集させるステップと、磁性粒子5をウェル11または流路の側壁近傍に凝集させた状態で、外部から力を加えて溶液を移動させることで、磁性粒子5と溶液とを分離するステップと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部から与えられた力による変形により内容物を移動させて化学処理を行わせる化学処理用カートリッジの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外部から力を加えることにより内容物を移動させて化学処理を行わせる化学処理用カートリッジが知られている。この化学処理用カートリッジには、所望の化学処理の手順に即した形状、配置でウェルや流路が形成されており、カートリッジに押し付けたローラを移動させることなどにより内容物を移動させることで、容易に上記手順に従った化学処理を実行できるものである。
【0003】
このような化学処理用カートリッジは、平板状のベースと、弾性体からなるシートとを接着することにより作製することができ、作製時に非接着領域の形状を制御することによりウェルや流路が所定の形状、配置で形成される。
【0004】
このような化学処理用カートリッジを用いて、DNA解析の工程の1つである磁性粒子と溶液の分離を行うこともできる。DNAをアビジンやビオチンによる電荷と親和力を利用して一旦、磁性粒子に固定し、その後、溶液を分離するものである。この分離作業は、カートリッジ内の溶液と磁性粒子を混合して反応させた後に行われ、反応後のウェル内の溶液をローラで次のウェルへ送る際に、磁石を用いて磁性粒子を元のウェルに保持することで両者を分離している。
【0005】
磁性粒子と反応溶液をカートリッジ内で分離する作業としては、
(1)ステップ1:ウェルに磁石を密着させ、ウェル内で磁性粒子を凝集させる。
(2)ステップ2:送り機構により駆動されるローラにより上記ウェル内の溶液を次のウェルへ送る。
(3)ステップ3:磁性粒子は元のウェルに留まり、溶液のみが次のウェルに送液される。これにより、磁性粒子と溶液とが分離される。
【特許文献1】特開2005−313065号公報
【特許文献2】特開2006−26452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記分離作業において、ローラの走行の際に生じる液体の移動時に与えられる力が磁界により生じる力よりも強いと、凝集した磁性粒子の一部が次のウェルへ流出してしまう。これを避けるため、強い磁界の及ばない位置へ磁性粒子が移動する前にローラの駆動を停止して溶液と磁性粒子が元のウェルに残留した状態で送液を停止することで、磁性粒子の流出を防いでいる。
【0007】
しかし、この場合には、例えば20〜30%程度の溶液残りが生じてしまうという問題がある。溶液の全量が送られない場合、元のウェルに残ってしまった溶液は反応に利用できないため、反応効率の低下を招く。
【0008】
また、ウェルにおいてDNAの増幅や洗浄を行う際に、磁性粒子の保持が不十分であると、磁性粒子が次のウェルに漏れ出してしまう。
【0009】
本発明の目的は、磁性粒子を確実に保持することができる化学処理用カートリッジの使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の化学処理用カートリッジの使用方法は、内部にウェルおよび前記ウェル間を接続する流路が形成され、外部から与えられた力による変形により、前記流路を介して内容物を前記ウェル間で移動させて化学処理を行わせる化学処理用カートリッジの使用方法において、生体高分子を捕捉するための磁性粒子を磁力により前記ウェルまたは前記流路の側壁近傍に凝集させるステップと、前記磁性粒子を前記ウェルまたは前記流路の側壁に凝集させた状態で、前記外部から力を加えて溶液を移動させることで、前記磁性粒子と前記溶液とを分離するステップと、を備えることを特徴とする。
この化学処理用カートリッジの使用方法によれば、磁性粒子をウェルまたは流路の側壁に凝集させた状態で、外部から力を加えて溶液を移動させるので、磁性粒子を確実に保持することができる。
【0011】
前記磁性粒子を凝集させるステップでは、前記ウェルまたは前記流路の中心からずらされた位置に設けられた磁石により磁性粒子を前記ウェルまたは前記流路の側壁近傍に凝集させてもよい。
【0012】
前記磁性粒子を凝集させるステップの前に、前記磁性粒子を磁力によりウェルの中央に凝集させるステップを備えてもよい。
【0013】
前記化学処理用カートリッジは、2つの部材を前記ウェルおよび前記流路の領域を非接着領域とする接着パターンで互いに接着することで形成されてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の化学処理用カートリッジの使用方法によれば、磁性粒子をウェルまたは流路の側壁近傍に凝集させた状態で、外部から力を加えて溶液を移動させるので、磁性粒子を確実に保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明による化学処理用カートリッジの使用方法の実施形態について説明する。
【0016】
図1(a)および図1(b)は化学処理用カートリッジの斜視図、図1(c)は図1(a)におけるIc−Ic線断面図である。
【0017】
図1(a)〜図1(c)に示すように、化学処理用カートリッジ1は、シリコンゴムあるいは樹脂などからなる基板1Aと、シリコンゴム等の弾性体からなるシート1Bとから構成される。基板1Aおよびシート1Bは所定の接着パターンで互いに接着され、非接着部分における基板1Aおよびシート1B間の密閉された内部空間として、後述するウェルおよび流路が形成される。
【0018】
図1(a)に示すように、化学処理用カートリッジ1には、ウェル11およびウェル12などが形成されるとともに、ウェル間は流路14およびその他の流路を介して互いに接続されている。なお、図1(a)〜図1(c)ではカートリッジ1の一部構成のみを示している。
【0019】
図1(b)および図1(c)に示すように、一定間隔で取り付けられたローラ21およびローラ22をカートリッジ1に対して押し付けつつ、ローラ21,22を移動させることで、カートリッジ1の内容物を移動させることができる。内容物はローラ21,22間に保持されつつ移動する。
【0020】
化学処理用カートリッジ1の内部空間に内容物が存在する領域では、内容物による内圧によりシート1Bが弾性変形し、図1(c)に示すようにシート1Bが基板1Aから離れる。例えば、図1(c)では、ウェル11の領域に内容物が存在する場合を示している。内容物がなくなるとシート1Bが元の形状に戻り、シート1Bが基板1Aに密着する。図1(c)は送液を行っている状態を示しており、ウェル11に液体が存在しているため、その領域でシート1Bが基板1Aから離れている。
【0021】
次に、化学処理用カートリッジ1の使用方法を説明する。
【0022】
図2(a)はカートリッジ1の一部構成を示す平面図、図2(b)はカートリッジ1の断面図である。
【0023】
図2(a)および図2(b)に示すように、カートリッジ1内には磁性粒子5が収容されており、磁性粒子5を磁石41および磁石42で制御しつつ、ローラ21,22により溶液を液送することにより、磁性粒子5と溶液とを分離する。
【0024】
図2(b)に示すように、磁石41および磁石42はいずれも図2(b)において上下方向に駆動可能とされている。磁石41をカートリッジ1に接触させると、図2(a)に示すように、磁性粒子5は磁石41の磁力によりウェル11の側壁近傍に凝集する。このように磁石41は磁性粒子5をウェル11の側壁近傍に凝集させる機能を有する。
【0025】
磁石41として、例えば、円柱形状でウェル11と同程度の直径(例えば8mm程度)のもので、表面磁束密度4000〜5000ガウスのネオジウム磁石などを使用できる。
【0026】
図3(a)〜図3(c)は、磁性粒子5と溶液とを分離させる手順(ステップ1〜3)を示す図である。以下、分離手順を説明する。
【0027】
(1)ステップ1:図3(a)に示すように、磁石42を上昇させてカートリッジ1に接近させることで、ウェル11の中央に磁性粒子5を凝集させる。
【0028】
(2)ステップ2:次に、図3(b)に示すように、磁石42を下降させてカートリッジ1から引き離し、磁石41を下降させてカートリッジ1に接近させる。磁石41の磁力はウェル11の側壁部分で最も強くなるように位置決めされているため、磁性粒子5はウェル11の側壁近傍に向かって移動し、凝集する。
【0029】
図4(a)は、磁石41の磁力線41aの様子を示す図である。図4(a)に示すように、磁石41はウェル11の側壁で最もその磁力が強くなる位置にあるため、ステップ2では、磁性粒子5はウェル11の側壁近傍に集まる。
【0030】
(3)ステップ3:次に、図3(c)に示すように、この状態でローラ21,22を右方向に移動させると、ウェル11内の溶液は流路14を介してウェル12に移動する。磁性粒子5はウェル11の側壁近傍に凝集しているため、溶液のみがウェル12に移動し、両者が分離される。このとき、ローラ21,22の送り速度を遅くすることにより流路14を通過する溶液の速度を低下させることで、磁性粒子5の移動を確実に防止できる。
【0031】
図4(b)は、ウェル11における流体の流れの分布を示す図である。図4(b)において、矢印の長さはウェル11の中央部11aにおける流体速度を示している。図4(b)に示すように、流体の流れはウェル11の中央部で早く、側壁近傍では遅い。また、磁性粒子5のサイズは1μm径以下と極めて小さいため、磁性粒子5を側壁近傍に集めることにより、磁性粒子5が溶液の移動に伴って受ける力が極めて小さくなる。この状態では、磁界により磁性粒子4を留める力が溶液による押し流そうとする力に容易に勝るため、磁性粒子5を確実にウェル11の側壁近傍に保持することができる。
【0032】
以上のように、本実施形態によれば、ウェルの側壁近傍に磁性粒子を凝集させるので、磁性粒子が流体による力をほとんど受けることがない。このため、電磁石などにより強力な磁界を作用させなくても、磁性粒子の流出を防ぐことができる。例えばウェル11においてDNAの増幅や洗浄を行う際に、磁性粒子の捕捉が不十分であると磁性粒子がウェル12に漏れ出すおそれがある。しかし、上記実施形態によれば、磁性粒子をウェル11に保持したままDNAを増幅、洗浄し、DNAのみを次の工程に送ることが可能になり、後工程におけるDNAの収率を飛躍的に向上させることができる。
【0033】
図5は流路において磁性粒子を保持する例を示している。
【0034】
ウェルと流路の配置関係やそのサイズによっては、図5に示すように、磁石の最大磁界部分が流路の脇になるような位置関係を構成することができる。図5の例では、ウェル11とウェル12が長い流路14Aを介して接続されている。また、磁石41は、磁石41の一部が流路14Aにかかり、かつ、磁石41の中心が流路14Aの中心からずれた位置に配置される。この場合には、流路14Aの側壁近傍に最大磁界となる場所が現れるため、この場所に磁性粒子5が凝集する。この状態で、溶液を送液することで、磁性粒子5を流路14Aの側壁近傍に保持したまま、溶液のみを次のウェル12に送り込むことができる。
【0035】
本発明の適用範囲は上記実施形態に限定されることはない。本発明は、外部から与えられた力による変形により内容物を移動させて化学処理を行わせる化学処理用カートリッジの使用方法に対し、広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】化学処理用カートリッジの構成を示す図であり、(a)および(b)は化学処理用カートリッジの斜視図、(c)は(a)におけるIc−Ic線断面図。
【図2】化学処理用カートリッジの構成を示す図であり、(a)はカートリッジの一部構成を示す平面図、(b)はカートリッジの断面図。
【図3】磁性粒子と溶液とを分離させる作業手順を示す図であり、(a)〜(c)は各ステップを示す図。
【図4】本発明の原理を示す図であり、(a)は磁石の磁力線の様子を示す図、(b)はウェルにおける流体の流れの分布を示す図。
【図5】流路において磁性粒子を保持する例を示す図。
【符号の説明】
【0037】
1 化学処理用カートリッジ
5 磁性粒子
11 ウェル
14A 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にウェルおよび前記ウェル間を接続する流路が形成され、外部から与えられた力による変形により、前記流路を介して内容物を前記ウェル間で移動させて化学処理を行わせる化学処理用カートリッジの使用方法において、
生体高分子を捕捉するための磁性粒子を磁力により前記ウェルまたは前記流路の側壁近傍に凝集させるステップと、
前記磁性粒子を前記ウェルまたは前記流路の側壁近傍に凝集させた状態で、前記外部から力を加えて溶液を移動させることで、前記磁性粒子と前記溶液とを分離するステップと、
を備えることを特徴とする化学処理用カートリッジの使用方法。
【請求項2】
前記磁性粒子を凝集させるステップでは、前記ウェルまたは前記流路の中心からずらされた位置に設けられた磁石により磁性粒子を前記ウェルまたは前記流路の側壁近傍に凝集させることを特徴とする請求項1に記載の化学処理用カートリッジの使用方法。
【請求項3】
前記磁性粒子を凝集させるステップの前に、前記磁性粒子を磁力によりウェルの中央に凝集させるステップを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の化学処理用カートリッジの使用方法。
【請求項4】
前記化学処理用カートリッジは、2つの部材を前記ウェルおよび前記流路の領域を非接着領域とする接着パターンで互いに接着することで形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の化学処理用カートリッジの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−145269(P2010−145269A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323628(P2008−323628)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】