説明

化学分析のための導電性導管およびこのような導管の製造方法

流体処理装置の製造方法は、コロイド懸濁液とマトリックス材料とを混合すること、該混合物を導管表面へ塗布すること、および塗布された混合物を硬化し導電性被膜を提供することを包含する。流体処理装置は、導管および導管表面に隣接した導電層を含む。該導電層は、マトリックスに包埋された黒鉛粒子を含む。該流体処理装置は、例えば、質量分析のためのエレクトロスプレーイオン化、キャピラリー電気泳動またはキャピラリー電気クロマトグラフィーを支える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般に化合物の分析に関し、より詳しくは、化合物の分析に使用する導管および導管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
さまざまな化学分析機器が、化合物の分離および/または流体の送達のために、チューブ、カラムまたはキャピラリーなどの導管を利用している。例えば、液体クロマトグラフィー(LC)、キャピラリー電気泳動(CE)およびキャピラリー電気クロマトグラフィー(CEC)などの技術は、化合物に導管を通過させて、該化合物を分離する。対照的に、例えばエレクトロスプレーイオン化法(ESI)インターフェースは、通常、クロマトグラフィー的に分離された溶離液が通過するエミッタ導管を含み、質量分析法のためのイオン化エアロゾルを作り出す。
【0003】
導管の中を通って、および/または導管から抜け出て。例えばCECは、電気浸透流(EOF)を利用して、クロマトグラフィーカラムの中を通して移動相を進ませる。これに対し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、加えられた流体の圧力に依存して、クロマトグラフィーカラムの中を通して移動相を進ませる。
【0004】
LC、CEおよびCECのために、例えば、しばしばESIが使用されて、クロマトグラフィーの導管と質量分析計との間のインターフェースを提供する。ESIインターフェースにおいて、エミッタキャピラリーと、エミッタキャピラリーの出口オリフィスから距離を開けて配置された対極との間に、約3keVから4keVの電圧が通常印加される。これに反し、例えばCEおよびCEC機器に関して、電圧は通常、導管のそれぞれの末端に配置された電極の間に印加される。電圧の印加を可能にするために、導管は通常、導電性材料で形成されるか、または導電性の成分を含んでいる。
【0005】
ESIにおいて、例えば、検体および溶媒を含むクロマトグラフィーの溶離液は、しばしば、金属性キャピラリーの中をキャリアガスによって押し進められる。電荷が、キャピラリーから、キャピラリーの出口オリフィスよりスプレーされた検体および溶媒のエアロゾルに移動する。通常、中性のキャリアガスは、溶媒の蒸発、および質量分析に適した、分離されイオン化された検体分子の形成を促進するために、該エアロゾルと混合される。
【0006】
多様なキャピラリー直径が、ESIインターフェース内のエミッタにおいて使用されている。例えば、比較的細いキャピラリーは、「ナノスプレー」ESIにしばしば使用され、例えばより小さいサイズの試料に対応し、および/または試料のより穏やかなイオン化を提供する。
【0007】
いくつかの事例において、ESIエミッタは、金属製キャピラリーの代わりに絶縁チューブおよび導電性電極層を含む。例えば、いくつかのESIエミッタは、非導電性のガラスまたはフューズドシリカのキャピラリーから作製される。このようなエミッタの先端は、しばしば非常に小さく、キャピラリーの先端を引き伸ばすことにより、例えば、数マイクロメーターの直径に製造される。例えば、液体がエミッタの先端から離れて配置された電極に接触することによって、または例えば、非導電性キャピラリー上の金の被膜を経て、電圧がエミッタに印加される。しかしこのような取り組みは、作製または制御がしばしば難しく、ならびに時として、望ましい化学的および機械的な安定性または耐久性を下回る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、一つには、化学分析に使用される導管のための堅牢な導電性被膜を、黒鉛のコロイド懸濁液とシロキサン化学グループの化合物などの硬化性化合物との混合物を利用して製造できることの具現化から生まれた。さまざまな実施形態において、この被膜は、優れた均一性、導電性、耐久性および/または再生能力を有する。例えばシリカキャピラリーと組み合わせたこのような被膜は、例えば優れた付着性、優れた疎水性および/またはアーク放電に対する低い感受率を提供する。さらに、本発明のいくつかの実施形態は、クロマトグラフィーカラムと統合されたESIエミッタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって本発明の一実施形態は、化学分析のための流体処理装置を製造するための方法を特徴とする。該方法は、コロイド懸濁液とマトリックス材料とを混合し、混合物を導管表面に塗布し、および塗布された混合物を硬化させることを含む。硬化した混合物は、導管を通過する流体に電圧を印加する、導電性の被膜を提供する。コロイド懸濁液は、例えば黒鉛粒子を適切に含む。流体処理装置は、例えばESIインターフェース、CE装置、CEC装置または動電ポンプとして、さまざまに実現される。ある実例において、導管はキャピラリーであり、比較的少量の流体の処理に対応する。
【0010】
本発明の第二の実施形態は、分析機器の製造のための方法を特徴とする。該機器は、クロマトグラフィーモジュール、質量分析モジュール、および、前記クロマトグラフィーモジュールと前記質量分析モジュールとに流体連通しているESIインターフェースを含む。
【0011】
本発明の他の実施形態は、化合物を分析するための方法を特徴とする。該方法は、エミッタ導管の詰まった部分を除去するためにエミッタ導管を分割または切断することにより、エミッタ導管の先端の詰まりを取ることを含む。
【0012】
さらに本発明の他の実施形態は、分析機器を特徴とする。該機器は、クロマトグラフィーモジュール、質量分析モジュール、および、前記クロマトグラフィーモジュールと前記質量分析モジュールとに流体連通している、前記クロマトグラフィーモジュールから受けた溶離液を前記質量分析モジュールに送達するためにエレクトロスプレーエアロゾルに変換するための、ESIインターフェースを含む。
【0013】
本発明のさらなる実施形態は、導管以外の被膜された要素を特徴とする。このような実施形態は、例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(matrix−assisted laser desorption/ionization(MARDI))のプレートおよびポーラスシリコンを用いた脱離イオン化法(desorption/ionization on silicon(DIOS))のチップを含む。
【0014】
本明細書中の「クロマトグラフィー系」、「クロマトグラフィーモジュール」、「クロマトグラフィー機器」などの語句は、化学的分離を実施するために使用する器具を指す。このような器具は、他の構成要素を含む機器の一部または独立型のユニットである。クロマトグラフィーの器具は、通常、圧力および/または電気的な力により流体を移動させる。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態は、クロマトグラフィー構成要素および質量分析構成要素の両方を含む機器に関する。これらの実施形態のいくつかにおいて、クロマトグラフィー構成要素は、ESIインターフェースなどの適切なインターフェースを使用することにより、質量分析構成要素に流体連通して配置されている。いくつかの適切なインターフェースは、時として、イオン状の分離された材料を作り出すかまたは保持し、および通常、イオンを含む流体の流れは大気の中に出されて気化され、イオンは質量分析のためのオリフィスに受け取られる。本明細書中に示される本発明のいくつかの例示的実施形態の説明は、文脈に応じ、例えば「キャピラリー」、「チューブ」および/または「パイプ」を指す、「導管」という言葉を使用する。
【0016】
説明を明快にするために、「インターフェース」、「エミッタ」および/または「導管」に関し、本発明の例示的実施形態をいくつか本明細書中に記載する。これらの用語の使用は、本発明の範囲を、ESIインターフェース、ESIインターフェースに含まれるエミッタまたは特定の導管に限定することを意図していないことが、理解されるべきである。したがって、本明細書中に記載された実施形態により例示された特徴は、例えば、ESIインターフェース、LC、CE、およびCECの器具、動電ポンプならびに他の導管を基にした化学分析関連構成要素に関連する本発明の実施形態に対し、適用可能である。
【0017】
本明細書中で使用される用語「ナノスプレー」および「ナノエレクトロスプレー」は、比較的低流速の、通常、およそ1000ナノリットル/分より遅い(即ち、およそ1.0マイクロリットル/分より遅い)ESIインターフェースを指す。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態による流体処理装置100の一部の断面図を示している。この装置100は、導管120および導管120に隣接した導電性被膜110を含む。導管120は、任意の適した導管、例えば質量分析またはクロマトグラフィーにおいて通常の性能を有するとして公知のキャピラリーである。
【0019】
導管120は、例えば金属材料および/または絶縁材料から形成可能である。適した材料は、鋼鉄、フューズドシリカまたは裏打ちされた材料などの、公知の材料を含む。導管120は、複数のチューブを含み得る。例えば、導管120は、1つまたはそれ以上のキャピラリーを含み得る。いくつかの従来のESIエミッタと対照的に、該導管は、引き伸ばされた先端を形成せずに、ガラスまたはフューズドシリカで形成できる。本発明のいくつかのより詳細な実施形態において、装置100は、例えばESIエミッタインターフェース、CEカラムまたはCECカラムである。
【0020】
導電性被膜110は、導管120の外部表面の全てまたは一部に隣接している。被膜110は、導管120中の流体に対し電圧を印加する電極として機能する。本発明の代替的実施形態において、導電性被膜110は、物理的に分散された1箇所または2箇所もしくはそれ以上の部分を含む。例えば、CEまたはCECを実施するために、本発明のいくつかの実施形態は、導管120の末端に対向して配置された導電性被膜110の部分を含む。
【0021】
本発明の代替的実施形態において、被膜110は均一でない。例えばいくつかの実施形態において、被膜110は複数の層を有する。このような一実施形態において、被膜110は、導管120に接触するマトリックス材料の層、ならびにマトリックス材料の層上の、マトリックス材料および導電性粒子を含有する複合材料の層を含む。
【0022】
いくつかの実施形態は、導電性被膜110と導管120との間に配置された1層または複数の付加的な層を含む。いくつかの任意選択の被膜は、例えば、導管110に対する被膜120の付着を促進する。同様に、本発明のいくつかの代替的実施形態は、導電性層110の上に配置された1層または複数の付加的な層を含み、例えば、導電性の層110を化学的および/または機械的損傷から保護する。上記のマトリックス材料などのマトリックス材料の層(1つまたは複数)は、付着層および/または保護被膜層を提供できる。いくつかの実施形態において、このような層は、導電性層110のいくつかの実施形態における粒子密度より低い密度の導電性粒子を含む。
【0023】
導電性層110は、硬化したポリマー材料を含むマトリックス材料に包埋された黒鉛粒子を含む。本発明のいくつかの実施形態において、該材料は熱硬化性ポリマーである。さまざまな実施形態において、該ポリマーは、有機ポリマーおよび/または無機ポリマーを含む。1つの好ましいマトリックス材料は、シロキサンベースの熱硬化性ポリマー、例えばポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)である。エレクトロスプレー用途のために、導電性被膜110が疎水性表面を有することが好ましい。
【0024】
例えば、本発明のいくつかの実施形態におけるマトリックス材料は、
【0025】
【化2】

(式中、各Rは、場合によりH、CH、CH、CH=CH、CH=CH、CH≡CH、CHOH、アミノアルキルおよびヒドロキシアルキルを含む群より独立して選択される。)
の化学構造を有する化合物を含む。
【0026】
導電性層110は、場合により、実質的に均一な厚みを有する。この厚みは、場合によりおよそ20μmより厚くなるように選択される。この厚みは、所望のレベルの機械的耐久性などの、1つまたはそれ以上の望ましい特徴を提供するように選択される。均一な厚みを有しおよび/または特定の厚み値を有する層を作製するためのいくつかの例示的方法は、図3a、3bおよび3cを参照して以下に記載する。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態は、ESIエミッタを有するESIインターフェースである。このようなエミッタは、図1を参照して記載された装置100の特徴を有するキャピラリーおよび導電性被膜を、場合により含む。本明細書中の説明を考慮して、質量分析分野の技術者は、ESIのいくつかの実例が、例えばLC、CEおよび/またはCEC器具から得た液体試料をイオン化に対応することを理解するであろう。
【0028】
これらのESIインターフェースのいくつかは、ナノスプレーESIに適宜対応する。ナノスプレーESIに対応するために、キャピラリーは、任意の適した内径、例えばおよそ100μmより小さい内径、例えばおよそ1μmからおよそ50μmの範囲の直径、例えばおよそ20μmの直径を有する。本発明のさまざまな実施形態において、キャピラリーが引き伸ばされた先端を有する必要はない。すなわち、1つの好ましい実施形態において、キャピラリーは、実質的に均一な内径および実質的に均一な外径を有する。
【0029】
いくつかの実施形態によるESIエミッタにおいて、導電性被膜は、キャピラリーの末端のエミッタの先端に沿って、すなわちキャピラリーの出口オリフィスに隣接して配置される。場合により、被膜はキャピラリーの外部表面全体を覆う。
【0030】
動電マイクロポンプ(EKポンプ)は、帯電した多孔質媒体中の電気浸透を使用して、微小デバイスにおける圧力および流れを発生させる。EKポンプは、多孔質層、通常モノシリック多孔質ポリマーまたはシリカ粒子を充填した層にわたって電圧を印加することにより実現される。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態は、動電ポンプを有し、そのいくつかはキャピラリーを含み、流体がそこを通してくみ上げられる。これらの実施形態のいくつかは、不可動部分、良好な周波数特性、および/または高圧力、低流速において流れを正確に制御する能力を含む。これらの実施形態のいくつかは、小型化された液体クロマトグラフィーならびに小型化された触媒反応器に対応する。
【0032】
次に図2a、図2bおよび図2cを参照し、装置100などの流体処理インターフェースの製造方法および再生方法を、本発明のさらなる実施形態に従って記載する。該方法は再生可能な製造方法に対応する。
【0033】
図2aは、導管220および導管220に塗布するための被膜材料の未硬化混合物210が通って流れるハウジング290aの部分の断面図である。この図は、本発明の一実施形態による化学分析のための流体処理装置を製造する方法を例示している。該方法は、例えば、図1に関して記載された流体処理装置100の作製に適している。
【0034】
該方法は、未硬化混合物210を形成するためにコロイド懸濁液をマトリックス材料と混合すること、混合物210を導管220表面の少なくとも一部に塗布すること、および塗布された混合物210を硬化させることを含む。硬化した被膜215は、電圧を導管220を通過する流体に印加するための導電性材料を提供し、流体の処理に対応する。例えば、導管は、次いでESIエミッタとして場合により使用される。あるいは例えば、導管は、流体中に存在する化合物の分離のために使用される。
【0035】
未硬化混合物210は、任意の適した方法で導管220に対し塗布される。例えば、図2aに示されるように、導管220はハウジング290aのオリフィスの内に位置付けされ、および混合物がハウジング290aを通って流れ、導管220と接触するようになる。この方法での混合物210の塗布は、しばしば、例えばはけ塗りによる混合物210の塗布によって提供された被膜よりもより均一な被膜を提供する。
【0036】
ハウジング290aは、任意の適したハウジング、例えばチューブである。再生可能な製造を促進するために、流速および/または他の流れに関連するパラメータの調節を場合により提供する方法で、混合物はハウジングへ導かれる。例えば、混合物210は場合により、手動ポンプなどのポンプから、ハウジング290aを通してくみ上げられる。
【0037】
1つの代替的実施形態において、ハウジング290aは、tコネクタの一部であるかまたはtコネクタに連結している。混合物210は、tコネクタの第一のオリフィスを通して導かれ、導管220は、上記のようにハウジング290aのオリフィス内に位置する。
【0038】
コロイド懸濁液およびマトリックス材料は、それぞれ任意の適した材料を含む。例えば、コロイド懸濁液はコロイド状黒鉛であるか、またはコロイド状黒鉛を含んでいる。適した市販のコロイド状黒鉛の1つは、PELCO(登録商標)コロイド状黒鉛であり、これは黒鉛およびイソプロパノールを含む(Ted Pella, Inc., Redding, CAより入手可能)。
【0039】
いくつかの適したマトリックス材料は、例えば熱硬化性ポリマーを含む。いくつかの適した熱硬化性ポリマーは、図1を参照して上に記載したようにシロキサン材料の化学物質群の部材、例えばPDMSを含む。上記の方法の実現の一例示的実施例において、PDMSベースの未硬化マトリックス材料は、基材と硬化剤とを混合することにより調製される。
【0040】
基材と硬化剤とを、例えば、10:1の体積比で混合する。次に、例えば、未硬化マトリックス材料とコロイド状黒鉛とを1:3の体積比で混合する。あるいは、基材、硬化剤およびコロイド懸濁液を、任意の適した順番で互いに混合する。
【0041】
いくつかの代替的実施形態において、マトリックス材料のコロイド懸濁液に対する比は、例えば、導管に塗布するための混合物の所望の粘度を提供するために選択される。該粘度は、例えば、被膜の所望の厚みおよび/または均一性を提供するために選択される。あるいは、該比は、硬化後の被膜の導電性の所望のレベルを提供するために選択される。いくつかの代替において、該比は、機械的耐久性と被膜の導電性との間の、選択された均衡に応じて選択される。例えば、いくつかの実例において、硬化された被膜中の黒鉛の体積組成は、十分な導電性を満たすほどに大きく、および導管に対して十分に付着するほどに小さくなるよう選択される。
【0042】
未硬化の混合物を塗布した後、混合物を硬化する。混合物を、例えば加熱により硬化する。加熱による硬化の一例は、PDMSコロイド状黒鉛混合物に関しては、およそ110℃の温度に、およそ12時間加熱することである。
【0043】
硬化の温度および時間は、例えば、実質的に完全に硬化するが、過剰に硬化しないように、適宜選択される。硬化が不十分な場合、被膜は、時として完全に硬化した被膜より柔らかくなる。硬化が過剰である場合、被膜は、時として適切に硬化された被膜より脆くなる。
【0044】
図2bは、導管220の一部および導管220に塗布するための未硬化混合物210を含む容器290bの断面図である。この図は、本発明の一実施形態による、化学分析のための流体処理インターフェースの別の製造方法を示している。この例示的実施形態において、ハウジング、この場合には容器290aに保持された未硬化混合物210に、導管220を浸す。
【0045】
上記のおよびいくつかの他の代替的実施形態において、導管(例示のような)は、密閉された末端を有する。密閉された末端は、導管220内に混合物210が入ることを避けるために、有利に利用される。導管220の末端は、例えばレーザーまたは他の適した手段の使用により密閉される。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態は、図1を参照して上に記載したように、同一の被膜混合物および/または異なる被膜混合物の2つ以上の被膜に関する。例えば、付加的な被膜が上記の技術により塗布される。したがって、例えば、所望の多層被膜を作製するために、導管を複数回浸すことができる。例えば、第一の層はPDMSであり得、次の層は、導電性の所望のレベルを提供するために、PDMSに包埋された黒鉛粒子を含んでよい。
【0047】
図2cは、導電性硬化被膜215を有する導管220の断面図である。導管220の末端を開くために、導管220の先端の一部を、例えば分割または切断により除去する。導管220は、例えば、セラミック、ダイアモンドもしくはサファイアの切断用具または分割用具により切断される。
【0048】
さらに、導管220の開いた先端が、例えばESIインターフェースにおける使用により詰まった、破損したおよび/または損傷した場合、導管220の一部を同様にして除去することにより、導管を開くかまたは再生することができる。本発明のいくつかの実施形態により、ESIエミッタを再生できることは、引き伸ばしたガラスを基にしたエミッタなどのいくつかの従来のエミッタより有利である。
【0049】
本発明のさまざまな実施形態による多様な装置が、上記の方法に関するさまざまな代替的実施形態により製造される。このような装置は、上記のような1つまたはそれ以上の導管、および/または被膜が施された他の基材を含む。
【0050】
例えば、いくつかの実施形態において、基材は、例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)プレート、脱離イオン化法(DIOS)のシリコンチップまたは他の実例に関連のある基材を伴う。したがって、本明細書中のいくつかの実施形態は導管を含むが、本発明はチューブ形状でない基材を含む実施形態も包含する。
【0051】
図3は、本発明の一実施形態による、分析機器内に包含するための流体処理インターフェース300の実施形態の構成図である。インターフェース300は、ESIエミッタ310(例えば、導電性被膜を有する第1のキャピラリーを含んでいる)、クロマトグラフィー用の導管371(第2のキャピラリーなど)、導管371に充填された固定相372、および導管371をエミッタ310に固定する接着剤350を含む。インターフェース300は、例えば、LC/質量分析系における統合されたカラム‐エミッタとして使用される。ESIエミッタ310は、例えば、図1を参照して記載された装置100と同類である。
【0052】
導管371は、例えば、クロマトグラフィーにおける技術者に公知のキャピラリーおよびカラムを含む、クロマトグラフィー分離に適した任意のカラムである。導管371は、例えば金属材料または絶縁材料から形成される。適した材料は、鋼鉄、フューズドシリカ、または裏打ちされた材料などの、クロマトグラフィー分野の技術者に公知の材料を含む。いくつかの代替的実施形態において、導管371は、複数のチューブを含む。導管371は、場合によりキャピラリーカラムであり、場合により複数のキャピラリーチューブを含む。
【0053】
接着剤350は、クロマトグラフィーのカラムをエミッタキャピラリーに取り付けるために適した公知の接着剤を含む、任意の接着剤である。該接着剤は例えば、PDMSを含む。
【0054】
インターフェース300は、例えば、好都合に統合されたカラム‐エミッタを提供する。エミッタの先端は、図2cを参照して上に記載したように、破損した、および/または詰まった先端部分を除去することによって、場合により再生される。
【0055】
図4は、本発明の一実施形態による分析機器400の実施形態の構成図である。機器400は、クロマトグラフィーモジュール470、質量分析モジュール480およびESIインターフェース420を含む。インターフェース420は、クロマトグラフィーモジュール470からの溶離剤を受け、溶離剤のイオン化された部分を質量分析モジュール480へ導く。いくつかの代替的実施形態において、インターフェース420は、図1、図2および/または図3を参照して上に記載した実施形態と類似の特徴を有する。
【0056】
クロマトグラフィーモジュール470は、カラムに基づく機器などの公知の機器を含む、任意の適したクロマトグラフィー機器を含む。適したカラムは、クロマトグラフィー分野の技術者に公知のカラムを含む。カラムは、例えば金属材料または絶縁材料から形成できる。適した材料は、鋼鉄、フューズドシリカ、または裏打ちされた材料などの、公知の材料を含む。カラムは、直列および/または並列配置で配列される複数のカラムを含み得る。例えば、カラムは、キャピラリーカラムであり得、複数のキャピラリーチューブを含み得る。
【0057】
機器400は、モジュール470、480からのデータを受け取りおよびモジュール470、480に調節シグナルを提供する、パーソナルコンピュータまたはワークステーションなどの調節ユニットを、場合により含む。該調節ユニットは、例えば自動試料分析に対応する。さまざまな代替的実施形態において、該調節ユニットは、ソフトウェア、ファームウェア、および/またはハードウェア(例えば、アプリケーション特有の集積回路として)において実現され、所望の場合、ユーザーのインターフェースを含む。
【0058】
本明細書中に記載されたものの変形、改良および他の実現については、特許請求した本発明の精神および範囲を逸脱すること無く、当業者は思い付くであろう。例えば、本発明のいくつかの実施形態は、化学処理のラボオンチップの研究を包含する。したがって、本発明は、前記の例示的説明によってでなく、上記の特許請求の精神および範囲により、規定される。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図面において、参照番号は全般に、異なる図面を通して同じ部分を指す。さらに、図面は必ずしも縮小、拡大したものではなく、むしろ全般に本発明の原理を例示するために示してある。
【図1】本発明の一実施形態による、流体処理インターフェースの一部の断面図である。
【図2a】本発明の一実施形態による、導管の一部および導管に塗布するための被膜材料の未硬化混合物が通って流れるハウジングの断面図である。
【図2b】本発明の一実施形態による、ハウジング中に保持された未硬化混合物に浸された、図3aと同様の導管の一部の断面図である。
【図2c】図2aおよび図2cbに従った、導電性被膜の塗布および先端除去の後の導管の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態による、分析機器に内在する流体処理インターフェースの構成図である。
【図4】本発明の一実施形態による、分析機器の構成図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学分析のための流体処理装置の製造方法であり、
コロイド懸濁液と未硬化状態を有するマトリックス材料との混合物を提供すること、
前記混合物の少なくとも一部を導管表面の少なくとも一部に塗布すること、および
塗布した前記混合物を硬化して、前記導管を通過する流体に電圧を印加するための硬化導電性被膜を形成すること、
を含む方法。
【請求項2】
コロイド懸濁液が黒鉛粒子を含む、請求項1の方法。
【請求項3】
マトリックス材料が、シロキサンベースの熱硬化性ポリマーの化学物質群から選択される少なくとも1つの化学物質を含む、請求項1の方法。
【請求項4】
マトリックス材料が、ポリ(ジメチルシロキサン)を含む、請求項3の方法。
【請求項5】
硬化することが、約90℃より高く約130℃より低い範囲の温度で加熱することを含む、請求項3の方法。
【請求項6】
硬化することが、約6時間より長く約24時間より短い範囲の時間長で加熱することを含む、請求項5の方法。
【請求項7】
導管が、キャピラリーを含む、請求項1の方法。
【請求項8】
塗布することが、混合物を導管の長さに実質的に平行な方向に流れさせることを含む、請求項1の方法。
【請求項9】
塗布することが、導管の少なくとも一部をハウジング内に配置すること、および前記導管に接触するように前記ハウジングを通して混合物を流すことを含む、請求項1の方法。
【請求項10】
塗布することが、ハウジングに流体連通するポンプからハウジング内に混合物を流入させることをさらに含む、請求項9の方法。
【請求項11】
塗布することが、導管の少なくとも一部を混合物に浸すことを含む、請求項1の方法。
【請求項12】
塗布することが、混合物に、導管表面の少なくとも一部の上へ、実質的に均一な層を形成させることを含む、請求項1の方法。
【請求項13】
導管表面の一部が、少なくとも導管の放出末端に近接している、請求項1の方法。
【請求項14】
硬化導電性被膜が、実質的に疎水性である、請求項1の方法。
【請求項15】
硬化導電性被膜が、約20μmより大きい厚みを有する、請求項1の方法。
【請求項16】
導管が、密閉された末端を有するキャピラリーを含む、請求項1の方法。
【請求項17】
前記密閉された末端が、レーザーで密閉された末端である、請求項16の方法。
【請求項18】
密閉された末端を含む導管の一部を除去するために、被覆された導管を分割または切断することをさらに含む、請求項16の方法。
【請求項19】
未硬化状態のマトリックス材料が、基材および硬化剤を含む、請求項1の方法。
【請求項20】
混合物を提供することが、約8:1から約12:1の範囲から選択される比の体積の基材料と硬化剤とを混合することにより、未硬化状態のマトリックス材料を提供することを含む、請求項19の方法。
【請求項21】
混合物を提供することが、マトリックス材料の体積のコロイド懸濁液の体積に対する比を約1:2から約1:4の範囲で選択することを含む、請求項1の方法。
【請求項22】
未硬化状態のマトリックス材料が、本質的に酢酸エチルを含まない、請求項1の方法。
【請求項23】
導管が電気的に絶縁性の材料を含む、請求項1の方法。
【請求項24】
電気的に絶縁性の材料が、シリカを含む、請求項23の方法。
【請求項25】
流体処理装置が、エレクトロスプレーイオン化インターフェース、キャピラリー電気泳動装置、キャピラリー電気クロマトグラフィー装置または動電ポンプを含む、請求項1の方法。
【請求項26】
請求項25の方法により製造される、エレクトロスプレーイオン化インターフェース。
【請求項27】
クロマトグラフィーモジュール、質量分析モジュール、および、前記クロマトグラフィーモジュールと前記質量分析モジュールとに流体連通している、前記クロマトグラフィーモジュールから受けた溶離液を前記質量分析モジュールに送達するためにエレクトロスプレーエアロゾルに変換するための、請求項25のエレクトロスプレーイオン化インターフェースを含む分析機器。
【請求項28】
化合物を分析する方法であり、
コロイド懸濁液と未硬化状態を有するマトリックス材料とを混合すること
前記混合物の少なくとも一部を、エミッタ導管表面の少なくとも一部に塗布すること、および
塗布された混合物を硬化して、前記エミッタ導管からエレクトロスプレーエアロゾルを放出させるために、前記エミッタ導管を通過する流体に電圧を印加するための硬化導電性被膜を形成すること、
を含む方法により作製されたエレクトロスプレーイオン化インターフェースを含む分析機器を提供すること、ならびに
前記エミッタ導管の詰まった部分を除去するために、前記エミッタ導管を分割または切断することにより、前記エミッタ導管の先端の詰まりを取ること、
の段階を含む、分析方法。
【請求項29】
エミッタ導管、ならびに
前記エミッタ導管中の流体に電圧を印加するための、前記エミッタ導管の外部表面の少なくとも一部に隣接した導電層を含み、前記導電層は硬化したシロキサンベースの熱硬化性ポリマーおよび黒鉛粒子を含有する、
エレクトロスプレーイオン化のための質量分析インターフェース。
【請求項30】
エミッタ導管がキャピラリーを含む、請求項29のインターフェース。
【請求項31】
キャピラリーが、約5μmより小さい内径を有する、請求項30のインターフェース。
【請求項32】
キャピラリーが、キャピラリーの長さに沿って実質的に一定である外径を有する、請求項30のインターフェース。
【請求項33】
キャピラリーに直接取り付けられたクロマトグラフィーカラムをさらに含む、請求項30のインターフェース。
【請求項34】
熱硬化性ポリマーが、ポリ(ジメチルシロキサン)を含む、請求項29のインターフェース。
【請求項35】
導電層が、実質的に疎水性の表面を有する、請求項29のインターフェース。
【請求項36】
導電層が、約20μmより大きく、実質的に均一な厚みを有する、請求項29のインターフェース。
【請求項37】
エミッタ導管と導電層との間に配置された層をさらに含む、請求項29のインターフェース。
【請求項38】
エミッタ導管が、電気的に絶縁性の材料を含む、請求項29のインターフェース。
【請求項39】
エミッタ導管が、引き伸ばされた先端を有さない、請求項38のインターフェース。
【請求項40】
硬化したシロキサンベースの熱硬化性ポリマーが
【化1】

(式中、各Rは、H、CH、CH、CH=CH、CH=CH、CH≡CH、CHOH、アミノアルキルおよびヒドロキシアルキルを含む群より選択される。)
の化学構造を有する化合物を含む、請求項29のインターフェース。
【請求項41】
さらに、少なくとも、導電層と電気的に伝達をする第一の電気的接触を含む、請求項29のインターフェース。
【請求項42】
クロマトグラフィーモジュール、
質量分析モジュール、および
前記クロマトグラフィーモジュールと前記質量分析モジュールとに流体連通している、前記クロマトグラフィーモジュールから受けた溶離液を前記質量分析モジュールに送達するためにエレクトロスプレーエアロゾルに変換するための、エレクトロスプレーイオン化インターフェースを含む分析機器であり、前記エレクトロスプレーイオン化インターフェースは
エミッタキャピラリー、ならびに
前記エミッタキャピラリー中の流体に電圧を印加するための、前記エミッタキャピラリーの外部表面の少なくとも一部に隣接した導電層を含み、前記導電層は、硬化したシロキサンベースの熱硬化性ポリマーおよび黒鉛粒子を含む、
分析機器。
【請求項43】
モノマー中に懸濁されたコロイド状材料を含む、組成物。
【請求項44】
硬化したポリマー中に黒鉛のコロイド懸濁液を含む、組成物。
【請求項45】
コロイド懸濁液と未硬化状態を有するマトリックス材料とを混合すること、
前記混合物の少なくとも一部を基材表面の少なくとも一部に塗布すること、および
塗布された混合物を硬化して、硬化導電性被膜を形成すること、
を含む、化学分析のための装置の製造方法。
【請求項46】
請求項45の方法により作成されるMALDIプレート。
【請求項47】
請求項45の方法により作成されるDIOSチップ。
【請求項48】
マトリックス材料が熱硬化性ポリマーを含む、請求項1の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−542754(P2008−542754A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−514696(P2008−514696)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【国際出願番号】PCT/US2006/020114
【国際公開番号】WO2006/130408
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(504438255)ウオーターズ・インベストメンツ・リミテツド (80)
【Fターム(参考)】