化学分析のための被分析物の濃縮と分画のための方法と装置
マルチウェルカセット構成と、このカセットを収容可能な装置であり、カセットを収容後、続いてマトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析(MALDI−MS)によって分析するために、カセットのウェルに保持されたヒト血清等の生物学的な試料から被分析物を前濃縮し精製する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析(MS)に関し、特に、マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析(MALDI−MS)によって分析される、ヒト血清等の生物学的な試料からの被分析物の前濃縮および精製に関する。
【背景技術】
【0002】
一度に1つのみ、または多くても数種類の分子だけを定量する他のほとんどの分析技術と比べると、質量分析では多数の被分析物が同時に観察可能である。より低コストな装置化、操作性の向上、および高速処理MALDI法等、最近の質量分析の進歩は臨床研究に、その結果、保健医療の業界全体に革命をもたらすと期待されている。しかし、この非常に大きな可能性を実現させるには、複雑な生物学的な試料を質量分析用に迅速にかつ再現性よく前処理可能な新たな試料前処理技術の開発が鍵となる。このような技術は、全血、血漿、血清、髄液、唾液、尿等の液体試料に加え、ホモジェネートされた組織、全組織薄片または他の固体組織の前処理物を含み、固体物も含んだ広範囲で多様な試料に対応する必要がある。血清は、おそらく臨床的に最も重要な生物学的な液体であり、医療診断用に毎年何億もの試料が真空採血管に採取されている。血液およびリンパ液中に循環する自然の血液感染性のタンパク質およびポリペプチドに加え、生体組織は他の細胞成分を血液およびリンパ液の流れの中に放出するため、血液およびリンパ液は疾病バイオマーカに富んでいる。したがって、これらの循環液は、細胞過形成、ネクローシス、アポトーシス、または新生物組織からの抗原の放出等、病理学的な状態の示唆に富むタンパク質およびポリペプチド(PP)を含む疾病バイオマーカを含有する。用語PPは、2つまたはそれ以上のアミノ酸(すなわち、約200ダルトン)から高分子量タンパク質(100万ダルトン、またはそれを越える)を含む広範囲な分子量のオリゴペプチドまたはタンパク質を指すために使用される。
【0003】
血清中の疾病マーカの特に有望なクラスは、低分子量(LMW)のPP断片であり、その存在量および構造変化は、ほとんどではないにしても、多くのヒトの疾病について、多くの意味で示唆に富んだものである。LMW血清プロテオームは、大きなタンパク質のタンパク質分解断片に加え、サイトカイン、ケモキネシス、ペプチドホルモン等の生理学的に重要なポリペプチドのいくつかのクラスから成る。これらのタンパク分解によって誘導されたペプチドは、癌、糖尿病、心臓血管疾病、および感染症等の病理学的な状態に相関性があると分かっている。しかし、LMW血清プロテオームの分析は多大な試料前処理が必要で、大きなタンパク質のアルブミン(〜55%)が血清タンパク質の全量の多くを占めるため、分析が困難であることが広く知られている。他のLMW−PP分子の存在量のダイナミックレンジが広いこと、および、多くを占める糖タンパク質では異性分性が非常に強いことを含み、他にも問題がある。例えば、現在臨床的に測定される微量タンパク質は、アルブミンよりも10桁以上少ない濃度で存在する。しかし、これらの微量タンパク質およびペプチドは、感度と選択性が非常に高い疾病マーカであり、薬の潜在的な標的物質である可能性がある。
【0004】
従来、液体クロマトグラフィー(LC)すなわち親和性に基づく方法が、血清成分用の好適な分離過程として一般に使用されている。LC法による精製は、LCカラム中の固定相にリンカー分子を化学的に付着させる(官能化された固定相を生成する)ことを伴う。カラムに試料が加えられると、移動相が固定相を通して流れる。各被分析物は、わずかな時間、移動相の中ではなく固定相に結合され経過し、LCカラムを通して種々の被分析物(同様に混入物質や妨害物質も)の相対的な移動率が決まり、被分析物が精製される。例えば、ペプチドやタンパク質等の目的の被分析物分子は官能化された固定化相に吸着され
得る一方で、混入物はカラムから流出する。次に、移動相は、官能化された固定相から目的の分子を解放するようになされる。しばしば、この行程では、アセトニトリル/水混合物等のMALDI−MSに適合する揮発性バッファが移動相として使用される。この方法では、精製された目的の分子はLCカラムから流出し、MALDI−MS分析用に採集される。この段階では、試料には分析の妨害または感度を制限し得る塩および他の混入物は比較的存在しない。しかし、これらの方法は時間を要し、高速処理の方法には不向きである。
【0005】
したがって、高速処理方法で分析中を行う際に、試料の分析に必要な分離、濃縮、および試薬の添加のための改良型の装置および手法に対する要求がある。最近の質量分析用の試料前処理技術を調査しても、これらの方法は時間を要し、扱いにくく、技能の高い要員を必要としており、自動化は困難なままである。その結果、どのような臨床研究の1つにおいても分析可能な試料の数は極端に限られてしまい、このため、統計的有意差の水準、したがって、これらの研究の臨床的な妥当性を著しく損なってしまっている。その結果、高速処置の試料前処理システムが存在しないがために、LMW血清プロテオームは、ヒトの疾病、疾病治療、および遺伝子発現分析のためのバイオマーカ(質量分析で検出可能)の供給源として大部分は探求されておらず、他の動物についても同様である。
【0006】
MALDIターゲットプレート上に堆積された試料のマトリックス支援レーザ脱離イオン化/イオン化質量分析(MS)は、急速に、タンパク質、ペプチド、および他の生物学的な分子を分析するための方法の選択肢となってきている。MALDI−MS手法は非常に高感度な分析方法であり、MS手法が、おそらく、生物学的な塩およびpHバッファと最も適合する。さらに、ピコモル未満の量の生物学的な巨大分子から高効率で高質量イオンを発生させるその能力は、巨大分子の分析でこの技術を非常に有用なものとしている。しかし、血液、血漿、または血清等の精製前の生物学的な試料中のペプチドの被分析物の分析は、以下に記述するように質量分析に特別な問題をもたらす。
【0007】
克服すべき第1の問題は、生物学的な試料は高濃度の塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、塩化物、燐酸塩および炭酸塩)を含有することである。特に陰イオンは通常のMALDI分析手法によるペプチド試料のイオン化を抑制する。陽イオンもまた、最初のタンパク質の質量ピークが多数の付加的な質量ピークに分割した付加生成物のスペクトルを発生させ、それぞれのピークで1つの陽イオンが追加された質量を有するために問題がある。また、MALDI−MSの成否は、質量分析機に注入する前に、被分析物と互いに混合されたMALDIマトリックス基質を効果的に結晶化させる分析技術者の能力に大きく依存する。MALDIマトリックス基質は、分析される試料中の吸着された被分析物の物質と伴にマトリックスを原子化およびイオン化するレーザ光を吸収するために必要である。次に、イオン化された被分析物の分子は、質量分析機内の陽極と陰極上の高電圧によって与えられる高電界によって質量分析機のイオン検出器へと加速される。比較的少量の混入物(塩またはグリセロール等)が存在しているだけで、MALDIマトリックスがタンパク質やペプチドなどの被分析物を効率的に脱着しイオン化する能力が劇的に減少する。さらに、高濃度の塩は、MALDI−MSに必要なレーザ強度の閾値、および塩が付加されたペプチドのピークの強度の両方を増加させる(自由なペプチドのピークの犠牲の上に)。
【0008】
第2に、ヒト血清等の試料中では、妨害タンパク質(例えば、アルブミン、免疫グロブリン、およびトランスフェリン)に比べ、多くの場合、被分析物のペプチドは非常に少ないコピー数でしか存在しない。目的のペプチドは、1マイクロモル/リットルから1ピコモル/リットルしか存在しない場合が多い(例えば、1マイクログラムから1ピコグラム/ml)。これに比べ、アルブミンおよびIgG、IgM等のガンマグロブリンの総量は、0.01から0.1グラム/mlの範囲のレベルで存在する(すなわち、質量で最大11桁多い)。したがって、多量に存在するタンパク質は混合物のMALDIスペクトルの圧倒的多くを占める。低強度のピークはより大きいピークによって覆い隠されるため、少量成分はほとんど観察できない。桁数違いに多いモル濃度の妨害タンパク質(例えば、アルブミン、免疫グロブリン、およびトランスフェリン)および塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、塩化物、燐酸塩、および炭酸塩)の存在下で、このような低いコピー数の分子の検出が求められるヒト血清などの生物学的な試料においては、この問題は一層困難である。
【0009】
第3に、被分析物のペプチドの多くは疎水性であり、血液、血漿、または血清中にある主要なタンパク質に結合している。特に、アルブミンは非特異的に疎水性分子と結合しやすい。したがって、アルブミン等の望ましくないタンパク質の除去の結果、被分析物のペプチドが消失する。塩および洗剤等の化学的に破壊性の薬剤は、アルブミンから被分析物のペプチドの解離を補助することが知られている。しかし、これらの薬剤は能動的にMALDI過程を抑制する。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)およびトリトンは、ペプチドおよびタンパク質と同様にMALDIによって効率的にイオン化および脱着する。その結果、これらの物質は、タンパク質およびペプチドのイオン化と競合することが多く、このため、タンパク質およびペプチドからのMALDI−MS信号を抑制する。したがって、分析者は、アルブミンから被分析物のペプチドを解離させる化学的に破壊性の薬剤の添加の後に、破壊性の薬剤、アルブミンおよび他の混入タンパク質の双方から被分析物のペプチドを分離しなければならない。さらに、この分離は、分離過程の間に少量成分のペプチド被分析物が消失しないように実施しなければならない。この分離は、被分析物が疎水性で疎水性の表面に付着傾向のある場合には、特に困難である。望ましくないことに、LC法による生体高分子の精製は、30%かそれを越える試料の消失をもたらすと伴に、混入物を付加し得る(すなわち、試料から試料へのクロストーク)ことが多い。ほとんどのMALDI−MSの使用者にとって、この試料の消失量は容認できるものではない。第4に、被分析物のペプチドがこのように低レベルで存在するために、これらはMALDI−MS分析に先立ち濃縮しなければならない。先行技術の方法によって、ペプチドの解離を最初に実施し、成分の分離を行い、次に濃縮を行うことは単調で多数の行程を要し、時間消費的かつ労働集約的の両方である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の1つの目的は生物学的な試料から塩を除去する方法と装置を提供することである。
【0011】
本発明の第2の目的は、生物学的な試料からタンパク質等の多量に存在する分子を分離し、これによって、残りの少量で存在する分子で再現性があり高感度の分析を可能とすることである。
【0012】
本発明の第3の目的は、被分析物のペプチドをアルブミンおよび他の疎水性タンパク質から解離させることである。
【0013】
本発明の第4の目的は、目的の被分析物のペプチドおよびタンパク質をMALDI質量分析用に濃縮することである。
【0014】
本発明の第5の目的は、本発明の初めの4つの目的を快適で効果的な態様で提供し、高速な試料処理を実現することである。
【0015】
本発明の第6の目的は、多数の試料を同時に処理し、複数の試料を並列に分析可能とすることである。したがって本発明の他の目的と組み合わせると、分析者は本発明を即座に
利用して快適で効果的な態様で生物学的な組織試料中のペプチドおよびタンパク質の分析を実施でき、これによって、検出感度を増加させ、試料の処理量を増加させ、さらに分析のコストが減少させる。最後に、分離された被分析物のペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質(被分析物)の分析が再現性よく定量的に実施できる分析に対して要望がある。したがって、本発明の第7の目的は、生物学的な試料中のペプチドおよびタンパク質を再現性よく定量的にMALDI−MS分析を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の他の態様はカートリッジであり、このカートリッジは、複数のウェルと少なくとも1つの下貯蔵口とを含むカートリッジウェルフレームと、複数の穴を含むカートリッジゲルプレートと、複数の穴を含むカートリッジ捕捉スライドと、複数の穴を含み穴のそれぞれが多孔質材料で少なくとも部分的に充填されたスペーサと、カートリッジバッファ貯蔵フレームとを含み、カートリッジウェルフレーム中の複数のウェルが、カートリッジゲルプレートとカートリッジ捕捉スライドとスペーサのそれぞれの中で複数の穴に実質的に整列している。
【0017】
本発明のさらに他の態様は装置であり、この装置は、筐体と、筐体中に配置された試験室であって、(i)複数の試料電極と少なくとも1つの戻り電極とを含む電極アレーと、(ii)カートリッジを保持するためのトレイであって、カートリッジは複数の試料ウェルと少なくとも1つの下貯蔵口とを含み、電極アレーは少なくとも複数の試料電極が試料ウェル中に配置されるようにカートリッジに向かって可動であり、少なくとも1つの戻り電極が少なくとも1つの下貯蔵口に配置されるトレイと、複数の試料電極および/または少なくとも1つの戻り電極に対して電圧および/または電流の印可を制御するための制御系とをさらに含む試験室とを含む。
【0018】
オリゴペプチドを参照するための用語PPは、2つの小さな大きさから、もっと大きなアミノ酸や、100万ダルトンの大きなタンパク質、さらに大きなものまでの範囲で使用しており、本発明の8番目の目的は、ヒト血清中のPPのLMW断片を質量分析(MS)によって検査する分析システムを提供することである。本発明の9番目の目的は、このような広範囲のPP、例えば500ダルトンから500,000ダルトンまで、さらに大きなものも質量分析(MS)によって分析可能で十分な多様性を備えるPP分析システム(PPAS)を提供することである。本発明の10番目の目的は、PPASを改良して検出感度をさらに増加させ、1ナノモルから0.1アトモルまでの量のPP、または一層小さな量まで、MSによって検出し、定量し、モル重量を測定可能とすることである。本発明の11番目の目的は、ヒト血清中のPPの分画および分離を増加させ、MS分析に先立って、少量で存在するPPを多量に存在するPPから分離できるようにし、これによって、少量で存在するPPの検出感度を増加させることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の1つの態様は、血清(または他の組織からの)中に少量で存在するタンパク質およびポリペプチドを電気泳動的に分離、濃縮し、固相の捕捉スライド上に捕捉する、ペプチドおよびタンパク質分析システム(PPAS)である。短い洗浄行程に続き、塩および他の妨害分子が洗浄除去される。次に、MALDIマトリックス溶液が捕捉スライドに添加される。マトリックス溶液はタンパク質を解放してMALDIマトリックス結晶中に取り込み、これが乾燥するとスライド表面上に堆積する。次に、スライドはMALDI−MS装置に直接挿入され、捕捉されたタンパク質の質量と相対的な存在量の両方が定量される。
【0020】
本発明のPPASは2つの主要な部品である、カートリッジ捕捉スライド(「カートリッジ」)とワークステーション装置とを含む。カートリッジは、ワークステーション装置に接続されると複数の独立した電気泳動回路が形成するように設計される。1つの電気泳動回路の略図を図1に示す。
【0021】
1つの実施形態では、カートリッジは、それぞれが24ウェルの4つの四分割域に分割される。四分割域中のウェルはそれぞれ専用の試料電極を有する。したがって、1つの四分割域中当たり24の試料電極があり、カートリッジ当たり96の試料電極がある。各四分割域は24の試料電極のそれぞれと対向する単一の共通電極を有する。したがって、各カートリッジについて4つの共通電極がある。
【0022】
電気泳動の間、試料中のタンパク質はゲル中を移動しカートリッジ捕捉スライド中に捕捉される。電気泳動が完了すると、カートリッジ捕捉プレートは分解され、カートリッジ捕捉スライドは、捕捉されたタンパク質の分析を行う質量分析用にMALDIのスレッド中に設置される。
【0023】
カートリッジ(10)の部品の1つの実施形態を図2に示す。組み立てられたカートリッジ(10)(任意選択的なカバー12が取り外された)を図3Aに示す。断面を図3Bに示す。カートリッジ(10)は、任意選択的なカートリッジカバー(図示せず)、カートリッジウェルフレーム(CWF、20)、スペーサ(62)、カートリッジゲルプレート(CGP、70)、カートリッジ捕捉スライド(CCS、90)、カートリッジバッファ貯蔵フレーム(CBRF、100)を含む。図2に示されるカートリッジ実施形態の要素は組み立てられ、ステンレス鋼のネジが、カートリッジウェルフレーム(20)中の穴(95)とカートリッジバッファ貯蔵フレーム(100)中の穴(95’)とを通り、カートリッジ(10)の要素を固定するために使用される。
【0024】
カートリッジの他の実施形態を図4に示す。上述の特徴に加え、代替えのカートリッジはガスケット(60)を含みスペーサを含まない。さらに、この代替えの実施形態では、ガスケット(60)およびカートリッジゲルプレート(70)は配向が異なる。さらに、この代替えのカートリッジ任意選択的な押し込み留め具(PIF、120)と、任意選択的なバネ(130)とを含む。各カートリッジ部品は以下に詳細に説明する。
【0025】
カートリッジカバー
本発明のカートリッジ捕捉スライドは、任意選択的なカバー(12)を含んでよい。使用する場合には、カートリッジカバー(12)は、使用者によって保存のためにカートリッジ上に設置可能な透明な材料が好ましい。好ましくは、96ウェルのマイクロプレート用に標準で販売されている既製のカバーがこの部品に使用される。
【0026】
カートリッジウェルフレーム(CWF)
カートリッジウェルフレーム(20)は複数の試料ウェル(22)を含み、マルチウェルのマイクロプレートと同一の設置面積とウェル間ピッチを有するように設計される。好ましくは、CWFは96ウェルを含む。これよりウェルが多いまたは少ない他の構成を使用してもよいが、96ウェルを使用すると、使用者は、市販されている既存の処理ロボットを利用して試料ウェル(22)に液体を充填することができる。好適な実施形態の中の96ウェルに加え、4つの下貯蔵口(42、図4および5参照)がある。下貯蔵口(42)は、電解質バッファ溶液で充填され、それぞれが共通電極(本明細書では戻り電極、または共通対電極とも称する)を収容するように設計され、以下に詳述する。
【0027】
好適な実施形態として図5に示すように、各ウェルは、上開口部(26)と、試料穴(28)である底開口部と、円筒部(32)を含む側壁(30)と、円錐部(34)とを含む。この設計は、上の直径6.86mmから底の直径約1.8mmまで円滑な変化を確保しつつ、CWFの高さを最小にする。ウェルの容量は約360μLである。好ましくは、各ウェルは識別体(36)で表示される。
【0028】
CWFは、また、1つまたは複数の下貯蔵口(42)を含む。図示した実施形態では、CWFは4つの貯蔵口を含む。各貯蔵口(42)は上で開口した利用穴(44)、底開口部(46)、および側壁(48)を有する。貯蔵口(42)は、好ましくは、断面が長方形である。
【0029】
図5に示すように、96ウェルのそれぞれ、および4つの下貯蔵口(42)は約2mmの高さの縁(38)を含む。縁(38)は、カートリッジ(10)の準備および組み立ての間に発生するどのようなわずかな飛び散り、および操作の間に発生し得るどのような泡立ちも、隣接するウェルを汚染しないことを確保する。
【0030】
各下貯蔵口の開口部(44)は、直径が約5から7mm、好ましくは、6.5mmである。この直径は十分に大きく、電気泳動の間に発生する気泡が「まきちらし」なしに大気中に排気されることが可能となる。図6に示すように、貯蔵口(42)の主要部は、好ましくは、断面が長方形である。しかし、他の断面形状も有用であろう。しかし、長方形の断面図は貯蔵口の容量を最大化させ、これによって、カートリッジ四分割域のそれぞれの中のバッファ量を最大化する。これはバッファの加熱を最小にすると伴に、戻り電極でバッファの電気分解による消失を補うために十分なバッファが確実に利用可能とすることに役立つ。カートリッジ中での4つの四分割域の間の分離が図6に破線(52)で示される。
【0031】
図6に示すように、カートリッジウェルフレーム(10)中の各試料ウェル(22)の底開口部(28)の周りに任意選択的な隆起口密閉特徴物(50)を含んでもよい。隆起口密閉特徴物(50)は、試料ウェル(22)の開口部(28)の周りに、および図2のカートリッジゲルプレート(70)または図4のガスケット(60)に対して負荷を集中しやすくさせウェルを密閉する。
【0032】
CWFは、好ましくは非伝導性で多様な材料で製作可能である。有用な材料は、ポリプロピレン等の非導線性の剛性のある高分子である。特に有用な材料の1つは、非導線性でガラスファイバを充填したポリプロピレンである。
【0033】
カートリッジゲルプレート(CGP)
CGP(70)は上表面(74)と、下表面(76)と、複数の穴(72)とを有する。好ましくは、CGP(70)はカートリッジウェルフレームのウェル底開口部(28)と実質的に整列した96の穴(72)を有する。穴(72)のそれぞれは被分析物分離層(78)で充填される。好適な被分析物分離層(78)はポリアクリルアミドゲルである。例えば、6〜12%(好ましくは、約8%)のポリアクリルアミドゲルで、好ましくは直径約1.8mmでCWFおよびCCS中の穴に適合する。CGPは厚さ約2.38mmである。
【0034】
特に好適な実施形態では、CGPの下表面は、各CCSの穴の周囲を囲む密閉要素と底密閉要素とを含む。この密閉要素は、例えば、Oリング、またはリブ、または隆起部、またはCGPの他の隆起したモールドの特徴物でもよい。
【0035】
CGPは、ポリプロピレン、ポリエチレン、または密閉に適した硬度を与えるシリコンゴムで製作してよい。1つの実施形態では、CGPは射出成形可能なエラストマー材料(商標がサントロプレン(Santroprene))から製作される。この材料はポリプロピレンとゴム材料の混合物である。CGP材料の硬度(硬度測定計でショアA硬さが60)が選択されており、カートリッジ捕捉スライドを適切に密閉し、またCGPに適切な寸法的安定性を与える。
【0036】
カートリッジ捕捉スライド(CCS)
カートリッジは、同心でCWF、CGPおよびスペーサの穴と整列した複数の穴(92)を含むカートリッジ捕捉スライド(CCS)(90)を含む。好適な実施形態では、CCSは96の捕捉スライド穴(92)を収容し、好ましくは、破壊可能な爪(94)(図7参照)によって接続された4つの四分割域(93)(それぞれが24の捕捉スライド穴を収容する)を含む。この四分割域によって、使用者は任意選択的にCCSの大きさを減少でき、質量分析機の中に容易に挿入できるようになる。4つの四分割域は単一部品として射出成形される。電気泳動の完了に続き、使用者は四分割域を折って別々にしてMALDIスレッドに設置する。
【0037】
1つの実施形態では、各CCSは、CWF、CGPおよびスペーサの中の穴と整列した96の穴を有する。CCSの穴のそれぞれは、電気泳動の間にタンパク質を捕捉可能な任意の多孔質材料で充填される。CCSの穴は、好ましくは、CGPの穴よりも小さい。これによって、2つの層が完全に整列していなくてもCGP上のゲル層が完全にCCS中の穴を覆い、MALDI質量分析による分析のための非常に小さな試料領域中に被分析物が容易に濃縮される。好ましくは、CCSの穴は直径約1mmか、またはそれよりも小さい。
【0038】
CCSの製作にさまざまな材料を使用可能である。好ましくは、以下の要件を満たす材料が選択される。(1)平坦度−CCSは質量分析の間に正確な結果が得られることを確実とするために平坦である必要がある。一般に、表面は、プラスまたはマイナス25ミクロン以内の平坦度である必要がある。(2)伝導度−質量分析で正確な結果を得るために、各試料部位は、CCSが設置される質量分析機のスレッドに電気的に接続されていなければならない。伝導経路を与えるために使用される方法は、試料部位間の漏れ電流を制限し、電気泳動過程を阻害し得る気泡の生成を起こさないものでなければならない。材料の体積抵抗率は、好ましくは、約5×106から約5×108オームセンチメートルであり、さらに好ましくは、約5.5×107オームセンチメートルである。
【0039】
任意選択的なCCS材料は、ミネソタ州ウィノナ(Winona)のRTP社から発売されているポリプロピレンのホモポリマをベースとしたパーマスタット(Permastat)107黒である。代替えとして、導電性粒子またはファイバを添加したピーク(PEEK)プラスチック(例えば、炭素繊維充填のポリエーテルエーテルケトン(ペンシルバニア州アストン(Aston)のTPコンポジット(Composites)社から発売されているポリエーテルエーテルケトンCAS#29658−26−2、炭素繊維CAS#007782−42−5、PTFE潤滑剤CAS#009002−84−0)を使用してもよい。上記のガイドラインを実質的に満たす他の材料も使用可能である。
【0040】
CCSの穴(92)のそれぞれは、目的のタンパク質等の分子を捕捉するための捕捉材料(96)を含んでよい。有用な捕捉材料の例には、これらだけに限定されないが、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(2−メタクリル酸エチレン)、ポリ(メタクリル酸ベンジル)、またはメタクリル酸ブチルと2−メタクリル酸エチレンのコポリマ等のこれらの高分子の混合物等、疎水性多孔質ポリメタクリル酸エステルを含む。代替えとして、捕捉材料は、親水性多孔質ポリメタクリル酸エステルでもよく、ポリ(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル)、ポリ(メタクリル酸グリシジル)、ポリ(ジメタクリル酸ジエチレングリコール)、またはこれらの混合物等がある。さらに、捕捉材料は、疎水性が疎水性物質郡の範囲から正確に選択されているような疎水性高分子と親水性高分子との混合物から形成することも利点があり、よい。
【0041】
スペーサ
図2のカートリッジはスペーサ(62)を含む。スペーサ(62)はカートリッジ捕捉スライド(90)とカートリッジバッファ貯蔵フレーム(100)との間に位置する。各スペーサ(62)は、実質的にCGPおよびCCS中の穴に整列した96の穴(63)を有する。各穴は導電性電解質(67)で充填される。好ましくは、導電性電解質(67)はアガロースゲル等のゲルであり、各穴(63)は、好ましくは、直径が3mmであるが、基本的にカートリッジ捕捉スライド(90)と同じ直径で、カートリッジウェルフレーム(20)中の底開口部(28)よりも小さい。スペーサ(62)は、標準的なポリプロピレンシート等の、または、射出成形によってスペーサ(62)を製造可能な、標準的な高分子で製作可能とするに十分な厚さを有する。1つの実施形態では、スペーサ(62)は、厚さ1.59mm(1/16インチ)である。
【0042】
カートリッジバッファ貯蔵フレーム(CBRF)
1つの実施形態では、CBRF(100)は4つの独立した貯蔵部(102)を収容し、これらはアガロースゲル(103)で充填されCCSの底の穴を電気的に下貯蔵口(42)中の電解質バッファ溶液に電気的に接続する。
【0043】
図示するように、CCS(90)およびスペーサ(26)は、好ましくは、その周辺部がCBRF(100)上の隆起部(104)によって支持される。さらに、柱特徴物(106)がCBRFの底から隆起しており穴と穴の間を支持する。これらの支持部は、CCSがたわみ、CCS中の密閉要素で十分に密閉できないこと防止するために使用される。
【0044】
柱特徴物を接続するリブ特徴物(108)が設計に含まれCBRFの剛性を上げる。これらの特徴物は単にCBRFの底の一部を筋状に隆起させる。これによって、アガロースゲル中の電子の流れが制限されずに、この特徴物で剛性を加えることが可能になる。CBFR設計には4つの内部留め具穴(95)が含まれる。これらの穴および組み立て体留め具は、CCS、CGPおよびスペーサを整列させる。CBFRは、また、平坦化特徴物(110)を含む。
【0045】
図10に示す空洞(109)がCBRFの側方に設計され下貯蔵口に繋がる。図10に示すように、下貯蔵口(42)はアガロースゲルの高さ(49)の下に延在する。組み立ての間に、下貯蔵口(42)の底の口(45)がアガロースゲル中に押し込まれ下貯蔵口(42)中の電解質バッファ溶液(47)とCBRF中の好適なアガロースゲルとの間を密閉する。
【0046】
組み立て
カートリッジ(10)は8つのステンレス鋼のソケット頭部のキャップネジ(4−40、1.91mm(0.75インチ)長)を使用して組み立てられる。ステンレス鋼のナットがCBRFの底に圧入される。キャップネジはCWFの上部から挿入され、圧入されたナットに組み付けられる。
【0047】
以下に説明するガスケット、圧入留め具、およびバネは、全て図4に示す代替えのカートリッジ捕捉スライドの特徴物である。図4のカートリッジ捕捉スライド中で、ガスケット(60)はカートリッジウェルフレーム(20)とカートリッジゲルプレート(70)との間に位置する。
【0048】
ガスケット
ガスケット(60)は、CWF(20)中の試料穴(28)に整列した穴(63)を有する。ガスケット(60)は、好ましくは、厚さ約1〜2mmであり、さらに好ましくは、厚さ約2mmであり、ゲル層の深さを最小化しつつ十分な剛性を与える。
【0049】
ガスケット(60)は、好ましくは、柔軟で、無孔質で、タンパク質で汚染されておらず、電気絶縁性のある材料で製作される。好適な材料は、エラストマーまたは適する任意の粘弾性高分子である。適するガスケット材料の例には、これらに限定されないが、シリコン、ソボタン(sorbothane)、ポリウレタン、ラテックスゴム、ネオプレンが含まれる。特に好適な材料はシリコンエラストマーである。ガスケット材料は、好ましくは、以下の機能に役立つように選択される。(1)ガスケットが圧縮されると自身が変形し、CWFの底にある密閉する隆起口の周りを密閉する。(2)カートリッジが組み立てられると、独立した試料チャネル全てに渡り均一な負荷を発生させる利点がある。ガスケットは、カートリッジ中の他の材料と比べて柔軟で、この系でバネとして作用するような材料で製作される。このバネは負荷を分散させ、CGPおよびCCSを一層均一に圧縮する。
【0050】
圧入留め具(PIF)
カートリッジは、CWFをCBRFに接続するために留め具または同様な物体を任意選択的に含む。好適なものは、圧入留め具(PIF)(図参照)で、CWFをCBRFに接続するコスト面で効果的な手段を提供し(PIFは既製品として販売されている)、分解も容易である。好ましくは、使用者が1回の行程でPIFを取り外し可能な工具が各装置に付いている。
【0051】
任意選択的バネ
ガスケット、CGPおよびCCSの全てを積層した高さは組み立て体毎に異なることが予想される(これらの部品許容差の範囲で)。CWFをCBRFに留める留め具は、ガスケット、CGPおよびCCSの圧縮量を大きく変化させずに、これらの部品の変動を吸収できなければならない。PIFと伴に任意選択的なバネの埋め込み体(130)で柔軟性が得られる。このバネは、好ましくは、10Kg/cm(55.98ポンド/インチ)の剛性を有し、留め具当たり約1.36Kg(3ポンド)の力を与えるように設計される(計8.16Kg(18ポンド))。
【0052】
前述の説明は、96ウェルを含む好適なカートリッジ組み立て体についての記述であることに留意されたい。しかし、本発明は96ウェル系に限定されず、事実、任意のウェル数を含む他の系、例えば384ウェルを含む系に対応する。
【0053】
操作においては、前述のカートリッジの1つまたは複数のウェル(22)が液体試料(21)で充填され、次にカートリッジは、本明細書でタンパク質プロファイラシステム装置、またはPPS装置と称されるワークステーション中に挿入される。PPS装置は電気泳動に必要な試料および共通電極を含む。さまざまな側面からみたPPSを図11〜20に示す。図11を参照すると、PPS装置(200)はカートリッジ組み立て体(10)を受け入れ、また、第1の中央処理ユニット(CPU)(210)を収容する。図20は、本発明の実施形態のPPS装置の、電気および装置制御系の一層詳細な配線略図である。
【0054】
ワークステーション装置は第1のCPU中のファームウェアによって制御され、さらに、外部コンピュータ(220)に接続され、このコンピュータは、第2のCPUと、キーボードおよびモニタを含むユーザインタフェース(240)とを有し、制御とワークステーションの操作者にフィードバックを行う。外部コンピュータ(220)の第2のCPUは、また、命令の入力を容易にし、ワークステーションの動作を監視するために従来のソフトウェアを含む。
【0055】
PPS装置(200)は以下の1つまたは複数の目的を実行するに必要な部品を収容す
る筐体を提供する。(i)タンパク質試料を収容するカートリッジを収納すること、(ii)カートリッジ中の各試料に(電極を介して)流される電流または、各試料に渡り印可される電圧を制御すること、(iii)電極および装置内部の部品への電源を調節すること、(iv)データ保存のためにフィードバックを提供すること、および電圧または電流のフィードバック制御を行うこと、(v)96ウェルのそれぞれに適切に電極を配列すること、(vi)バーコードリーダを介してカートリッジを識別すること、(vii)システムの故障や異常に対して警報を発生させ対応すること(例えば、蓋が適切に閉じていない場合に警報を発する)、(viii)複数の試料ウェル(例えば96)のデータを十分な速度で測定しサンプルリングを行い、全ての時間を実行すること、(ix)適用される安全規則を遵守すること、(x)米国、欧州および日本の壁コンセントに接続可能な電源装置を提供すること、(xi)PPS装置を操作するために設計されたグラフィックユーザインタフェース(GUI)を備えるマイクロソフトウィンドウズ(Microsoft
Windows)をベースとしたネットワークPCによって、システムを制御かつ駆動可能であること。
【0056】
PPS装置の筐体(250)全体を図12Aおよび12Bに示す。図12Aおよび12Bに示された装置の筐体は、高さ約51センチメートル(20インチ)、幅28センチメートル(11インチ)、奥行き66センチメートル(26インチ)である。装置の筐体(250)の寸法は重要ではなく、寸法は変化してよく、例えば、装置が実験室の作業台上で使用されることを意図した場合には、装置はより短くて正方形でもよい。装置の前パネルはオン/オフ押しボタン(202)、2つのLED表示器(203、204)、および試験室のカバー(206)を開くための取っ手(205)を含む。裏パネルは、電源コネクタ(207)とイサーネットポート(208)の2つの口を含む。使用では、電源コネクタは標準的な壁の電気コンセントに接続される。イサーネットポートは、例えば、ウィンドウズオペレーティングシステムを使用して、パーソナルコンピュータ(PC)に接続される。PCでは、グラフィックユーザインタフェース(GUI)プログラムが稼働しており、装置の設定、実行、監視を行う。
【0057】
PPS装置(200)を使用して、マルチウェルのカートリッジの各ウェルに電荷を印可し、カートリッジ中のゲルを通して各ウェル中の試料のタンパク質および他の成分を電気泳動的に駆動して、これらをカートリッジ捕捉スライド中に捕捉する。処理後、マルチウェルカートリッジはPPS装置から取り外されて分解され、カートリッジ捕捉スライドが取り出され、捕捉されたタンパク質および他の生物学的な物質を分析する質量分析のために、このカートリッジスライドがMALDIスレッドに設置される。
【0058】
PPS装置は主要部(電気、機械、ソフトウェア)に分割される。シングルボードコンピュータ(SBC)は装置のホストコンピュータとして働く。埋め込み型のウィンドウズXPオペレーティングシステム(XPe OS)等のオペレーティングシステムがSBCを稼働させるために使用される。SBCは、シリアルポートインタフェースで外部接続される。SBCはイサーネットインタフェースを介してPCから試験特性情報を受信する。アナログ回路基板は、制御された電圧または電流を電極アレーを通して各試料に与える。このシステムは、電圧制御、または電流制御の2つの内の1つで動作する。電極アレーは複数の試料電極(230)を備える印刷回路基板(PCB)(234)および少なくとも1つの戻り電極(232)より成る。
【0059】
SBCは4つのアナログ回路基板を監視して制御を行い、動作を監視し故障状態を検出する。各アナログ回路基板はマイクロコントローラを使用し、基板上で24チャンネルを設定、測定、および調節する。この設計では、柔軟性がもたらされ、ファームウェアの開発コストを最小限にする。
【0060】
各アナログ回路PCBはワイヤハーネス組み立て体を通して電極アレーPCBに接続される。この設計により、通常の使用で万一電極が消耗または破損した場合には、電極アレーの交換が容易になる。
【0061】
図13〜15に、マルチウェルカートリッジの各ウェルで電気泳動処理を実行するために使用されるPPS装置試験室(220)の特徴物を示す。試験室はカートリッジおよび電極アレー(225)を保持する。試験室の底は、トレイ(227)と収容部固定具(222)である。カバー(206)は試験室の上を覆い、蓋の後ろに沿った蝶番(210)はこの蓋が回転して開くことを可能にする。
【0062】
マルチウェルカートリッジは、収容部固定具(222)を使用してPPS装置中に支持される。収容部固定具(222)は正確に再現性よくマルチウェルカートリッジを位置決めし、動作中にマルチウェルカートリッジの中で発生した熱の放熱器としての役割を果たす。PPS装置中に使用されるマルチウェルカートリッジは、少なくとも2つのウェルを有する必要がある。好ましくは、マルチウェルカートリッジは前に説明した96ウェルのカートリッジである。
【0063】
1つまたは複数の電気冷却器(233)(TEC)および/または放熱器(図17参照)を使用して、必要に応じ、収容部固定具(222)の温度を調節してよい。試験室に見られる他の電子部品には、カートリッジのラベル情報を記録する任意選択的なバーコードスキャナ(230)、およびラッチ(237)に関連づけられ、試験室の扉が開かれると常に扉の位置を検出し、リレー(図示せず)伴に使用されて高電圧電源を安全にする安全インターロックスイッチ(235)が含まれる。好ましくは、図17に示すように2つの熱電気冷却器(TEC)がカートリッジの収容部の底に装着されており、装置の処理室の温度を調節する。熱電気冷却器の有用なものの1つは、メルコア(Melcor)の熱電気冷却器(TEC)CP1.0−254−06Lである。
【0064】
TECのそれぞれはSBC上の汎用I/Oピンによって駆動されるリレーによって調節される。SBCのソフトウェアは温度を監視し調節する。さらに、放熱器とファン(236)をTECと伴に使用して熱を周囲の大気に逃がしてもよい。
【0065】
任意選択的な安全インターロックスイッチは、試験室のカバー(206)とトレイ(212)に装着された2つの対をなす半体を有する。安全インターロックスイッチはカバー(206)が開くと常に電極アレーへの電源を遮断する。電極アレーは試験室(220)の蝶番付きのカバー(206)に装着される。カバー(206)を開くと、マルチウェルカートリッジの収容部固定具(222)への設置および取り外しが可能となる。蝶番付きのカバーはカバーが開閉されると、電極はカートリッジ中で開口部から外れるように設計されている。底にトレイ(212)がある試験室(220)は飛散防止になっており、ガスケットが収容部とトレイの間に配置され、試験室と装置電装部との間を密閉する。マルチウェルカートリッジの収容部は、マルチウェルカートリッジが収容部中に正しく挿入され、電極アレー(225)と整列することを確保するために使用される2つの整列ピン(229)をさらに含む。
【0066】
PPS装置には3つの電源が含まれる。低電圧電源(270)は、装置内のコンピュータ部品にDC5V、+12Vおよび−12Vを供給するために備えられる。DC24V電源(275)は装置で使用されるTECおよびリレーに電源を供給するために使用される。DC±225V電源はシステムの他の部分と絶縁され、試料チャネルの電力電子素子を駆動するために使用される。低電圧電源はATX標準と互換性があり、シングルボードコンピュータ(SBC)と伴に作動する。装置筐体の前にある押しボタン(202)はATX電源に通電するために使用される。電源225Vおよび24V電源に商用電源を供給するためにソリッドステートリレーが使用される。ソリッドステートリレーのコイルはATX電源の+12Vに接続され、ソリッドステート接点はLI(入力電源の活線)に接続される。運転停止の際に使用者が装置筐体の前の押しボタンを押すと、ATX電源からの信号がXPe OSに電源運転停止を命令し、OSの運転停止の後、ATX電源はオフ状態に入る。最後に、ATX電源(+12V)の電力がなくなってソリッドステートリレーの接点が開くと、225Vおよび24V電源が切断される。図16に装置筐体の中の電気システム部品の位置を示す。
【0067】
電極アレーPCBは装置の電気系を試験中の試料に接続する。電極アレー(225)は少なくとも2つの試料作用電極(230)と少なくとも1つの戻り電極(232)とを有する。作用電極(230)の数はマルチウェルカセット中のウェル数によって変わり得る。好適な96ウェルカセットが使用される場合、PPS装置は96の作用電極(230)と4つの戻り電極(232)を含むことになる。
【0068】
電極(230)および(232)はどのような導電性の材料から製作してもよい。1つの実施例では、電極は白金で被覆されたステンレス鋼である。他の実施形態では、電極は固体の白金である。さらに他の実施形態では、電極は高分子などの不活性な材料の上に被覆された白金である。1つの好適な実施形態では、電極はスパッタで白金が被覆されたナイロンピンである。電極(230)および(232)は回路基板の中に押し込んで半田付けされる。電極アレーPCB(234)は留め具を使用してユニットに装着され、電気コネクタ(236)を使用して電極をアナログ回路PCBに接続する。1つの実施形態では、全部で8つのコネクタが使用される。4つの24ピンコネクタが使用され、電源電圧(すなわちDC±225V)、電極、各アナログ回路PCB間を接続する。戻り電極(すなわち、DCのコモン)から、各アナログ回路PCBまでを接続するために4つの2ピンコネクタが使用される。電極アレーPCB込み立て体(234)は、万一電極アレーが消耗または破損したした場合に時々取り外しできるように設計される。
【0069】
各作用電極(230)に供給する電流量を制御するためにアナログ回路基板(280)が使用される。アトメル(Atmel)のATMega128シリーズのマイクロコントローラが使用され、アナログ基板の動作の主要な各部を管理し、ホストインタフェースを介してシングルボードコンピュータ(SBC)に実際の実行結果を報告する。マイクロコントローラは設定値に適合するように出力を監視し、必要であれば、電圧/電流を調節して出力がシステムの許容内に入るように保証する。アナログ基板は、最大2Hzの間隔で、シングルボードコンピュータに各出力チャンネルの現在の電圧/電流の読み出し値を更新する。アナログ回路の各チャンネルは、デジタルアナログ変換(DAC)を通して低レベル(すなわち、最大DC±5V)のアナログ制御電圧を使用し、マイクロコントローラによって制御される。この電圧レベルはサンプルホールド(S/H)アナログ出力レジスタ中に保持される。(出力ピン当たり1つの、すなわち基板当たり24のアナログS/Hチャンネル出力がある。)各アナログ出力は、次に、信号条件づけられ、電圧レベルがシフトされて、当該チャンネルに出力するために正または負のいずれかを通過させるトランジスタを駆動する。マイクロコントローラは、シーケンス行程の間を通して出力電圧/電流が設定値を維持するように、必要な頻度で監視および調節を行う。S/Hの各アナログ出力は1秒間に4回を越えてリフレッシュされ、S/Hの出力が下降または減衰することを防止する。負荷による出力電圧の変動すなわち変化への調節が、この連続した調節過程の結果、速やかになされる。
【0070】
マイクロコントローラはアナログマルチプレクサを介してチャンネル当たり2つのアナログ入力を通して出力を監視する。アナログマルチプレクサによって、マイクロコントローラはどちらのアナログ読み出し値をADCで変換するか選択でき、必要なADCのチャンネル数が減少する。ADCは低電圧のみ変換可能なため、これらの監視される信号は、0.1%許容差の抵抗器網を介して適正な範囲にまで大きさを下げられる。これらの結合された抵抗器網は開路抵抗が1MΩを越える。図18の電圧Vsenseは、当該チャンネルに供給される電圧を正確に測定したものである。各チャンネルの電圧Vsenseの読み出し値は、デジタル値に変換されシングルボードコンピュータに伝送される。検知抵抗器(図18のRsense)の両端の差動電圧の読み出し値は、チャンネルに対する電流に直接変換される。この差動変換は各チャンネルの電流に計算され、シングルボードコンピュータに伝送される。
【0071】
マイクロコントローラは、温度プローブを任意選択的に含んだ設計である。この温度プローブを使って動作温度がフィードバックされる。この読み出し値はシングルボードコンピュータに報告される。他の入力は、アナログ基板で使用される低電圧電源と同様に、正負のDC225V電源を監視する。確定された許容値に対して適合させるために、これらの電源それぞれを監視する。
【0072】
シングルボードコンピュータ(SBC)は、装置の中でアナログ回路基板用の監視の役割を担う。好適な実施形態では、PPS装置は4つのアナログ回路基板を有する。SBCは使用者のPCから試験特性を受信する。シングルボードコンピュータは、次に、アナログ基板を動作可能にし、設定値を読み込み、時系列を制御する。シングルボードコンピュータは、現在の行程が終了する前に、次のシーケンスに更新し、「開始」命令で新たな行程を始動する。シングルボードコンピュータが次の行程へと更新に失敗すると、前の行程は時間切れになり、出力電圧は安全モードに復帰する。シングルボードコンピュータは、また、測定された電流および電圧を通してこの過程を監視し、起こり得るいかなる故障状態をもチェックする。アナログ基板は、シングルボードコンピュータから受信した設定値に各出力を調節する。SBCインタフェースはEIA−232のシリアル接続でなされ、ハードウェアのハンドシェイク信号線(CTS/RTS)にも対応する。この接続は、標準的なD−sub9ピン(PCの形式と類似)である。
【0073】
各アナログ基板は24のアナログ出力を発生させ、共通で戻し点を1つ備える。各アナログ出力は、制御され、独立して設定され、連続的に調節される。1セットのDC225V電源が、各アナログ基板に正(+)負(−)のDC電源を供給する。装置当たり1セットの大容量電源(電源セット当たり4つのアナログ基板)がある。
【0074】
電圧調整モード
電圧調整モードでは、マイクロコントローラは、シングルボードコンピュータから出力電極への目標電圧レベルを規定する設定値を受信する。この出力電圧は、負荷に流れる電流から影響されず、目標電圧レベルで発生され維持される。電極当たりの出力電力は100mWに制限される。実際の出力電圧は、出力チャンネル当たりの最大電力の100mW内に収まるように自動的に減少させることができる。
【0075】
電流調整モード
電流調整モードでは、マイクロコントローラは、シングルボードコンピュータから出力電極への目標電流レベルを規定する電流設定値を受信する。この場合、電流が監視され、各電極に対して所望の電流になるように出力電圧が調節される。さらに、各電極の出力電力は100mWに制限されるので、実際の出力電流は、出力チャンネル当たりの最大電力の100mW内に収まるように自動的に減少させることができる。両方の動作モードにおいて、電流と電圧が監視されてシングルボードコンピュータに報告される。このモードは、どちらの検知測定値を使用して電極の出力を調節するかを決めるのみである。
【0076】
1つのアナログチャンネルを図19に示す。部品番号LM398Fはこのチャンネルのサンプルホールド部品である。この部品に印可される電圧は1秒間に4回リフレッシュさ
れる。次の部品のLM324Nはオペアンプである。
【0077】
この部品は、正(+)と負(−)の入力ピンの電圧を比較する。このオペアンプの出力電圧は2つの端子間の差に大きな利得を乗じたものである。オペアンプはボルテージフォロワとして構成され、これは出力電圧がオペアンプの正の入力(すなわち、サンプルホールド出力電圧)に印可された電圧と等しいことを意味する。ボルテージフォロア構成はオペアンプの出力を負の入力に直接接続して得られる。
【0078】
トランジスタU121およびU122はどちらの系列をチャンネルに供給するかを決める。+225V系列はU121によって、−225V系列はU122によって制御される。両部品はオフの状態を取り得るため、これによって、正と負の両方の系列を回路の出力から遮断できる。これらそれぞれのトランジスタのベースは回路のコモンに接続される。この構成によって、サンプルホールド電圧はベースからエミッタへのトランジスタの屈曲点電圧(典型的には0.65V)よりも大きい場合には、U122が活性領域に入る。サンプルホールド電圧はベースからエミッタへの屈曲点電圧よりも小さい場合には、U121が活性領域に入る。図19の回路を参照すると、560オームの抵抗器(U121用のR398とU122用のR397)がトランジスタのベースへの電圧に対して直列に入っていることが分かる。したがって、トランジスタのコレクタ電流とサンプルホールドの出力電圧(Vsh)との間の関係を次のように決定できる。
【0079】
【数1】
【0080】
式1は、トランジスタの利得は十分に高くベース電流の寄与は無視し得ると仮定しており、近似値であることを留意されたい。
【0081】
アナログ回路の次の段階は、正の系列上のU140とU139、および負の系列上のU141とU135とを使用した電流ミラーである。各系列上の2つの電流ミラートランジスタ(すなわちU139とU140、またはU135とU141)はほぼ同じ特性を有するように製造されており、それらのベースエミッタ電圧が等しくなるように接続される。したがって、2つのトランジスタのベース電流はほぼ同じである。コレクタがベース電流の流れる唯一の経路であるため、両方の電流ミラートランジスタ(U139とU140、またはU135とU141)のベース電流は必ずU121(またはU122)のコレクタ電流と等しくなる(1Mオームの抵抗器を通る経路は例外であるが、これは相対的に無視し得る)。さらに、U140とU141のベースコレクタ接合は短絡している。これにより、トランジスタが活性領域で動作し、出力コレクタ電流がベース電流に比例することが保証される。2つの電流ミラートランジスタのベース電流が等しく、かつ、2つのベース電流はU121(またはU122)を通過するので、U129(またはU135)のベース電流は式1で計算されるコレクタ電流の二分の一に等しい。
【0082】
サンプルホールド電圧(Vsh)が±2.5Vの範囲にあるとすれば、出力電流の範囲は以下の結果となる。
【0083】
【表1】
【0084】
PPS装置(200)を操作するために、使用者は前パネル上のオン/オフ押しボタン(202)を使用して装置の電源を入れる。前面の緑のLED(203)が発光し、装置の電源が入っていることを示す。装置の電源が入ると、3つの内部電源が通電され内部の処理プログラムがブートされる。
【0085】
装置は、外部PCおよびGUIソフトウェアを使用して設定するまでは、動作しない。GUIソフトウェアを使用して試験運転の設定および準備を行う。試料ウェル郡が識別され試験特性が指定されるが、電圧制御特性または電流制御特性のいずれかである。試験運転の設定が行われると、使用者は試験室のカバーを開き、適当な試料が搭載されたカートリッジを挿入し、装置のカバーを閉じる。装置は、任意選択的なバーコードスキャナ(260)を含み、これでカートリッジ上のラベルを読み取り、このカートリッジが適正なものであり、正しく設置されていることを確認する。有用なバーコードスキャナの一例が、シンボルコーポレーション(Symbol Corporation)のバーコードスキャナMSl207WAである。バーコードスキャナはカートリッジに貼り付けられた印刷バーコードラベルを読み取るように配置される。バーコードスキャナ(260)はUSBポートを通してSBCと通信する。
【0086】
マルチウェルのカートリッジが設置されると、使用者はGUIソフトウェアから試験運転を開始する。試験特性命令が装置に読み込まれ、試験運転が開始する。試験運転の間、前面上の黄色のLED(204)が発光する。印可電圧と電流を含む試験運転からのデータは、装置からGUIソフトウェアに通信される。使用者はGUIソフトウェアを使用して試験運転を監視できる。試験運転の最後では、GUIソフトウェアは試験運転が完了したことを表示、記録データをファイルに保存し、使用者に報告する。使用者は試験室のカバーを開き、カートリッジを取り外し、必要な分解および捕捉スライドに対して後処理行程を実施する。
【0087】
ファームウェアおよびソフトウェアは、第1と第2のCPUを協調して動作させワークステーションの動作を制御する。一般に、各ウェルに印可される電流または電圧は操作者すなわち使用者によって制御可能である。好ましくは、各ウェルに印可される電流または電圧は個別に制御可能であり、電流または電圧が各試料ウェルで同じ、または異なる、いずれかに設定可能である。試料運転の終了迄に各試料ウェルを通過する所定の電気泳動電荷の値を操作者が選択可能なように、好ましくは、選択された電流または電圧を各ウェルに印可する時間が選択可能である。
【0088】
代替えとして、ワークステーションは手動で制御可能で、電流、電圧、および試料運転の時間を選択できる。この実施形態では、制御装置はワークステーション装置の外部に配置される。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】分析システムの単一ウェルの略断面図である。この分析システムの好適な実施形態では、1カートリッジ中に収容された8×12配列の96試料ウェルを有する。
【図2】カートリッジ実施形態の部品を示す図である。
【図3A】組み立てられた図2のカートリッジの斜視図である。
【図3B】組み立てられた図2のカートリッジの側面断面図である。
【図4】代替えのカートリッジ実施形態を示す図である。
【図5】図2のカートリッジのカートリッジウェルフレーム部品の上面図である。
【図6】図2のカートリッジのカートリッジウェルフレーム部品の底面図である。
【図7】カートリッジ捕捉スライドを示す図である。
【図8】図2のカートリッジのバッファ貯蔵フレーム部品を示す図である。
【図9】スペーサを含むバッファ貯蔵フレーム部品を示す図である。
【図10】ゲルレベルの表示を含む、図2の組み立てられたカートリッジの一部の側面断面図である。
【図11】ワークステーション装置、CPU、およびユーザインタフェースのブロック図である。
【図12A−12B】本発明のPPS装置の筐体の実施形態を示す図である。
【図13】蓋が開き、カートリッジが設置されていないPPS装置試験室を示す図である。
【図14】試験室の内部を見ることができるように蓋が透明に図示されている、PPS装置試験室を示す図である。
【図15】蓋が開いた試験室で、試験室カバーの中に設置された電極アレーを見上げたところを示す図である。
【図16】本発明のPPS装置の側面内部を示す図である。
【図17】熱電気冷却器と放熱器を含む本発明のPPS装置の内部を示す図である。
【図18】PPS装置に有用なアナログ回路基板マイクロコントローラの設計実施形態を示す図である。
【図19】本発明のPPS装置に有用なアナログ回路チャネル設計の実施形態を示す図である。
【図20】本発明のPPS装置実施形態のための計測と制御の配線略図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析(MS)に関し、特に、マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析(MALDI−MS)によって分析される、ヒト血清等の生物学的な試料からの被分析物の前濃縮および精製に関する。
【背景技術】
【0002】
一度に1つのみ、または多くても数種類の分子だけを定量する他のほとんどの分析技術と比べると、質量分析では多数の被分析物が同時に観察可能である。より低コストな装置化、操作性の向上、および高速処理MALDI法等、最近の質量分析の進歩は臨床研究に、その結果、保健医療の業界全体に革命をもたらすと期待されている。しかし、この非常に大きな可能性を実現させるには、複雑な生物学的な試料を質量分析用に迅速にかつ再現性よく前処理可能な新たな試料前処理技術の開発が鍵となる。このような技術は、全血、血漿、血清、髄液、唾液、尿等の液体試料に加え、ホモジェネートされた組織、全組織薄片または他の固体組織の前処理物を含み、固体物も含んだ広範囲で多様な試料に対応する必要がある。血清は、おそらく臨床的に最も重要な生物学的な液体であり、医療診断用に毎年何億もの試料が真空採血管に採取されている。血液およびリンパ液中に循環する自然の血液感染性のタンパク質およびポリペプチドに加え、生体組織は他の細胞成分を血液およびリンパ液の流れの中に放出するため、血液およびリンパ液は疾病バイオマーカに富んでいる。したがって、これらの循環液は、細胞過形成、ネクローシス、アポトーシス、または新生物組織からの抗原の放出等、病理学的な状態の示唆に富むタンパク質およびポリペプチド(PP)を含む疾病バイオマーカを含有する。用語PPは、2つまたはそれ以上のアミノ酸(すなわち、約200ダルトン)から高分子量タンパク質(100万ダルトン、またはそれを越える)を含む広範囲な分子量のオリゴペプチドまたはタンパク質を指すために使用される。
【0003】
血清中の疾病マーカの特に有望なクラスは、低分子量(LMW)のPP断片であり、その存在量および構造変化は、ほとんどではないにしても、多くのヒトの疾病について、多くの意味で示唆に富んだものである。LMW血清プロテオームは、大きなタンパク質のタンパク質分解断片に加え、サイトカイン、ケモキネシス、ペプチドホルモン等の生理学的に重要なポリペプチドのいくつかのクラスから成る。これらのタンパク分解によって誘導されたペプチドは、癌、糖尿病、心臓血管疾病、および感染症等の病理学的な状態に相関性があると分かっている。しかし、LMW血清プロテオームの分析は多大な試料前処理が必要で、大きなタンパク質のアルブミン(〜55%)が血清タンパク質の全量の多くを占めるため、分析が困難であることが広く知られている。他のLMW−PP分子の存在量のダイナミックレンジが広いこと、および、多くを占める糖タンパク質では異性分性が非常に強いことを含み、他にも問題がある。例えば、現在臨床的に測定される微量タンパク質は、アルブミンよりも10桁以上少ない濃度で存在する。しかし、これらの微量タンパク質およびペプチドは、感度と選択性が非常に高い疾病マーカであり、薬の潜在的な標的物質である可能性がある。
【0004】
従来、液体クロマトグラフィー(LC)すなわち親和性に基づく方法が、血清成分用の好適な分離過程として一般に使用されている。LC法による精製は、LCカラム中の固定相にリンカー分子を化学的に付着させる(官能化された固定相を生成する)ことを伴う。カラムに試料が加えられると、移動相が固定相を通して流れる。各被分析物は、わずかな時間、移動相の中ではなく固定相に結合され経過し、LCカラムを通して種々の被分析物(同様に混入物質や妨害物質も)の相対的な移動率が決まり、被分析物が精製される。例えば、ペプチドやタンパク質等の目的の被分析物分子は官能化された固定化相に吸着され
得る一方で、混入物はカラムから流出する。次に、移動相は、官能化された固定相から目的の分子を解放するようになされる。しばしば、この行程では、アセトニトリル/水混合物等のMALDI−MSに適合する揮発性バッファが移動相として使用される。この方法では、精製された目的の分子はLCカラムから流出し、MALDI−MS分析用に採集される。この段階では、試料には分析の妨害または感度を制限し得る塩および他の混入物は比較的存在しない。しかし、これらの方法は時間を要し、高速処理の方法には不向きである。
【0005】
したがって、高速処理方法で分析中を行う際に、試料の分析に必要な分離、濃縮、および試薬の添加のための改良型の装置および手法に対する要求がある。最近の質量分析用の試料前処理技術を調査しても、これらの方法は時間を要し、扱いにくく、技能の高い要員を必要としており、自動化は困難なままである。その結果、どのような臨床研究の1つにおいても分析可能な試料の数は極端に限られてしまい、このため、統計的有意差の水準、したがって、これらの研究の臨床的な妥当性を著しく損なってしまっている。その結果、高速処置の試料前処理システムが存在しないがために、LMW血清プロテオームは、ヒトの疾病、疾病治療、および遺伝子発現分析のためのバイオマーカ(質量分析で検出可能)の供給源として大部分は探求されておらず、他の動物についても同様である。
【0006】
MALDIターゲットプレート上に堆積された試料のマトリックス支援レーザ脱離イオン化/イオン化質量分析(MS)は、急速に、タンパク質、ペプチド、および他の生物学的な分子を分析するための方法の選択肢となってきている。MALDI−MS手法は非常に高感度な分析方法であり、MS手法が、おそらく、生物学的な塩およびpHバッファと最も適合する。さらに、ピコモル未満の量の生物学的な巨大分子から高効率で高質量イオンを発生させるその能力は、巨大分子の分析でこの技術を非常に有用なものとしている。しかし、血液、血漿、または血清等の精製前の生物学的な試料中のペプチドの被分析物の分析は、以下に記述するように質量分析に特別な問題をもたらす。
【0007】
克服すべき第1の問題は、生物学的な試料は高濃度の塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、塩化物、燐酸塩および炭酸塩)を含有することである。特に陰イオンは通常のMALDI分析手法によるペプチド試料のイオン化を抑制する。陽イオンもまた、最初のタンパク質の質量ピークが多数の付加的な質量ピークに分割した付加生成物のスペクトルを発生させ、それぞれのピークで1つの陽イオンが追加された質量を有するために問題がある。また、MALDI−MSの成否は、質量分析機に注入する前に、被分析物と互いに混合されたMALDIマトリックス基質を効果的に結晶化させる分析技術者の能力に大きく依存する。MALDIマトリックス基質は、分析される試料中の吸着された被分析物の物質と伴にマトリックスを原子化およびイオン化するレーザ光を吸収するために必要である。次に、イオン化された被分析物の分子は、質量分析機内の陽極と陰極上の高電圧によって与えられる高電界によって質量分析機のイオン検出器へと加速される。比較的少量の混入物(塩またはグリセロール等)が存在しているだけで、MALDIマトリックスがタンパク質やペプチドなどの被分析物を効率的に脱着しイオン化する能力が劇的に減少する。さらに、高濃度の塩は、MALDI−MSに必要なレーザ強度の閾値、および塩が付加されたペプチドのピークの強度の両方を増加させる(自由なペプチドのピークの犠牲の上に)。
【0008】
第2に、ヒト血清等の試料中では、妨害タンパク質(例えば、アルブミン、免疫グロブリン、およびトランスフェリン)に比べ、多くの場合、被分析物のペプチドは非常に少ないコピー数でしか存在しない。目的のペプチドは、1マイクロモル/リットルから1ピコモル/リットルしか存在しない場合が多い(例えば、1マイクログラムから1ピコグラム/ml)。これに比べ、アルブミンおよびIgG、IgM等のガンマグロブリンの総量は、0.01から0.1グラム/mlの範囲のレベルで存在する(すなわち、質量で最大11桁多い)。したがって、多量に存在するタンパク質は混合物のMALDIスペクトルの圧倒的多くを占める。低強度のピークはより大きいピークによって覆い隠されるため、少量成分はほとんど観察できない。桁数違いに多いモル濃度の妨害タンパク質(例えば、アルブミン、免疫グロブリン、およびトランスフェリン)および塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、塩化物、燐酸塩、および炭酸塩)の存在下で、このような低いコピー数の分子の検出が求められるヒト血清などの生物学的な試料においては、この問題は一層困難である。
【0009】
第3に、被分析物のペプチドの多くは疎水性であり、血液、血漿、または血清中にある主要なタンパク質に結合している。特に、アルブミンは非特異的に疎水性分子と結合しやすい。したがって、アルブミン等の望ましくないタンパク質の除去の結果、被分析物のペプチドが消失する。塩および洗剤等の化学的に破壊性の薬剤は、アルブミンから被分析物のペプチドの解離を補助することが知られている。しかし、これらの薬剤は能動的にMALDI過程を抑制する。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)およびトリトンは、ペプチドおよびタンパク質と同様にMALDIによって効率的にイオン化および脱着する。その結果、これらの物質は、タンパク質およびペプチドのイオン化と競合することが多く、このため、タンパク質およびペプチドからのMALDI−MS信号を抑制する。したがって、分析者は、アルブミンから被分析物のペプチドを解離させる化学的に破壊性の薬剤の添加の後に、破壊性の薬剤、アルブミンおよび他の混入タンパク質の双方から被分析物のペプチドを分離しなければならない。さらに、この分離は、分離過程の間に少量成分のペプチド被分析物が消失しないように実施しなければならない。この分離は、被分析物が疎水性で疎水性の表面に付着傾向のある場合には、特に困難である。望ましくないことに、LC法による生体高分子の精製は、30%かそれを越える試料の消失をもたらすと伴に、混入物を付加し得る(すなわち、試料から試料へのクロストーク)ことが多い。ほとんどのMALDI−MSの使用者にとって、この試料の消失量は容認できるものではない。第4に、被分析物のペプチドがこのように低レベルで存在するために、これらはMALDI−MS分析に先立ち濃縮しなければならない。先行技術の方法によって、ペプチドの解離を最初に実施し、成分の分離を行い、次に濃縮を行うことは単調で多数の行程を要し、時間消費的かつ労働集約的の両方である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の1つの目的は生物学的な試料から塩を除去する方法と装置を提供することである。
【0011】
本発明の第2の目的は、生物学的な試料からタンパク質等の多量に存在する分子を分離し、これによって、残りの少量で存在する分子で再現性があり高感度の分析を可能とすることである。
【0012】
本発明の第3の目的は、被分析物のペプチドをアルブミンおよび他の疎水性タンパク質から解離させることである。
【0013】
本発明の第4の目的は、目的の被分析物のペプチドおよびタンパク質をMALDI質量分析用に濃縮することである。
【0014】
本発明の第5の目的は、本発明の初めの4つの目的を快適で効果的な態様で提供し、高速な試料処理を実現することである。
【0015】
本発明の第6の目的は、多数の試料を同時に処理し、複数の試料を並列に分析可能とすることである。したがって本発明の他の目的と組み合わせると、分析者は本発明を即座に
利用して快適で効果的な態様で生物学的な組織試料中のペプチドおよびタンパク質の分析を実施でき、これによって、検出感度を増加させ、試料の処理量を増加させ、さらに分析のコストが減少させる。最後に、分離された被分析物のペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質(被分析物)の分析が再現性よく定量的に実施できる分析に対して要望がある。したがって、本発明の第7の目的は、生物学的な試料中のペプチドおよびタンパク質を再現性よく定量的にMALDI−MS分析を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の他の態様はカートリッジであり、このカートリッジは、複数のウェルと少なくとも1つの下貯蔵口とを含むカートリッジウェルフレームと、複数の穴を含むカートリッジゲルプレートと、複数の穴を含むカートリッジ捕捉スライドと、複数の穴を含み穴のそれぞれが多孔質材料で少なくとも部分的に充填されたスペーサと、カートリッジバッファ貯蔵フレームとを含み、カートリッジウェルフレーム中の複数のウェルが、カートリッジゲルプレートとカートリッジ捕捉スライドとスペーサのそれぞれの中で複数の穴に実質的に整列している。
【0017】
本発明のさらに他の態様は装置であり、この装置は、筐体と、筐体中に配置された試験室であって、(i)複数の試料電極と少なくとも1つの戻り電極とを含む電極アレーと、(ii)カートリッジを保持するためのトレイであって、カートリッジは複数の試料ウェルと少なくとも1つの下貯蔵口とを含み、電極アレーは少なくとも複数の試料電極が試料ウェル中に配置されるようにカートリッジに向かって可動であり、少なくとも1つの戻り電極が少なくとも1つの下貯蔵口に配置されるトレイと、複数の試料電極および/または少なくとも1つの戻り電極に対して電圧および/または電流の印可を制御するための制御系とをさらに含む試験室とを含む。
【0018】
オリゴペプチドを参照するための用語PPは、2つの小さな大きさから、もっと大きなアミノ酸や、100万ダルトンの大きなタンパク質、さらに大きなものまでの範囲で使用しており、本発明の8番目の目的は、ヒト血清中のPPのLMW断片を質量分析(MS)によって検査する分析システムを提供することである。本発明の9番目の目的は、このような広範囲のPP、例えば500ダルトンから500,000ダルトンまで、さらに大きなものも質量分析(MS)によって分析可能で十分な多様性を備えるPP分析システム(PPAS)を提供することである。本発明の10番目の目的は、PPASを改良して検出感度をさらに増加させ、1ナノモルから0.1アトモルまでの量のPP、または一層小さな量まで、MSによって検出し、定量し、モル重量を測定可能とすることである。本発明の11番目の目的は、ヒト血清中のPPの分画および分離を増加させ、MS分析に先立って、少量で存在するPPを多量に存在するPPから分離できるようにし、これによって、少量で存在するPPの検出感度を増加させることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の1つの態様は、血清(または他の組織からの)中に少量で存在するタンパク質およびポリペプチドを電気泳動的に分離、濃縮し、固相の捕捉スライド上に捕捉する、ペプチドおよびタンパク質分析システム(PPAS)である。短い洗浄行程に続き、塩および他の妨害分子が洗浄除去される。次に、MALDIマトリックス溶液が捕捉スライドに添加される。マトリックス溶液はタンパク質を解放してMALDIマトリックス結晶中に取り込み、これが乾燥するとスライド表面上に堆積する。次に、スライドはMALDI−MS装置に直接挿入され、捕捉されたタンパク質の質量と相対的な存在量の両方が定量される。
【0020】
本発明のPPASは2つの主要な部品である、カートリッジ捕捉スライド(「カートリッジ」)とワークステーション装置とを含む。カートリッジは、ワークステーション装置に接続されると複数の独立した電気泳動回路が形成するように設計される。1つの電気泳動回路の略図を図1に示す。
【0021】
1つの実施形態では、カートリッジは、それぞれが24ウェルの4つの四分割域に分割される。四分割域中のウェルはそれぞれ専用の試料電極を有する。したがって、1つの四分割域中当たり24の試料電極があり、カートリッジ当たり96の試料電極がある。各四分割域は24の試料電極のそれぞれと対向する単一の共通電極を有する。したがって、各カートリッジについて4つの共通電極がある。
【0022】
電気泳動の間、試料中のタンパク質はゲル中を移動しカートリッジ捕捉スライド中に捕捉される。電気泳動が完了すると、カートリッジ捕捉プレートは分解され、カートリッジ捕捉スライドは、捕捉されたタンパク質の分析を行う質量分析用にMALDIのスレッド中に設置される。
【0023】
カートリッジ(10)の部品の1つの実施形態を図2に示す。組み立てられたカートリッジ(10)(任意選択的なカバー12が取り外された)を図3Aに示す。断面を図3Bに示す。カートリッジ(10)は、任意選択的なカートリッジカバー(図示せず)、カートリッジウェルフレーム(CWF、20)、スペーサ(62)、カートリッジゲルプレート(CGP、70)、カートリッジ捕捉スライド(CCS、90)、カートリッジバッファ貯蔵フレーム(CBRF、100)を含む。図2に示されるカートリッジ実施形態の要素は組み立てられ、ステンレス鋼のネジが、カートリッジウェルフレーム(20)中の穴(95)とカートリッジバッファ貯蔵フレーム(100)中の穴(95’)とを通り、カートリッジ(10)の要素を固定するために使用される。
【0024】
カートリッジの他の実施形態を図4に示す。上述の特徴に加え、代替えのカートリッジはガスケット(60)を含みスペーサを含まない。さらに、この代替えの実施形態では、ガスケット(60)およびカートリッジゲルプレート(70)は配向が異なる。さらに、この代替えのカートリッジ任意選択的な押し込み留め具(PIF、120)と、任意選択的なバネ(130)とを含む。各カートリッジ部品は以下に詳細に説明する。
【0025】
カートリッジカバー
本発明のカートリッジ捕捉スライドは、任意選択的なカバー(12)を含んでよい。使用する場合には、カートリッジカバー(12)は、使用者によって保存のためにカートリッジ上に設置可能な透明な材料が好ましい。好ましくは、96ウェルのマイクロプレート用に標準で販売されている既製のカバーがこの部品に使用される。
【0026】
カートリッジウェルフレーム(CWF)
カートリッジウェルフレーム(20)は複数の試料ウェル(22)を含み、マルチウェルのマイクロプレートと同一の設置面積とウェル間ピッチを有するように設計される。好ましくは、CWFは96ウェルを含む。これよりウェルが多いまたは少ない他の構成を使用してもよいが、96ウェルを使用すると、使用者は、市販されている既存の処理ロボットを利用して試料ウェル(22)に液体を充填することができる。好適な実施形態の中の96ウェルに加え、4つの下貯蔵口(42、図4および5参照)がある。下貯蔵口(42)は、電解質バッファ溶液で充填され、それぞれが共通電極(本明細書では戻り電極、または共通対電極とも称する)を収容するように設計され、以下に詳述する。
【0027】
好適な実施形態として図5に示すように、各ウェルは、上開口部(26)と、試料穴(28)である底開口部と、円筒部(32)を含む側壁(30)と、円錐部(34)とを含む。この設計は、上の直径6.86mmから底の直径約1.8mmまで円滑な変化を確保しつつ、CWFの高さを最小にする。ウェルの容量は約360μLである。好ましくは、各ウェルは識別体(36)で表示される。
【0028】
CWFは、また、1つまたは複数の下貯蔵口(42)を含む。図示した実施形態では、CWFは4つの貯蔵口を含む。各貯蔵口(42)は上で開口した利用穴(44)、底開口部(46)、および側壁(48)を有する。貯蔵口(42)は、好ましくは、断面が長方形である。
【0029】
図5に示すように、96ウェルのそれぞれ、および4つの下貯蔵口(42)は約2mmの高さの縁(38)を含む。縁(38)は、カートリッジ(10)の準備および組み立ての間に発生するどのようなわずかな飛び散り、および操作の間に発生し得るどのような泡立ちも、隣接するウェルを汚染しないことを確保する。
【0030】
各下貯蔵口の開口部(44)は、直径が約5から7mm、好ましくは、6.5mmである。この直径は十分に大きく、電気泳動の間に発生する気泡が「まきちらし」なしに大気中に排気されることが可能となる。図6に示すように、貯蔵口(42)の主要部は、好ましくは、断面が長方形である。しかし、他の断面形状も有用であろう。しかし、長方形の断面図は貯蔵口の容量を最大化させ、これによって、カートリッジ四分割域のそれぞれの中のバッファ量を最大化する。これはバッファの加熱を最小にすると伴に、戻り電極でバッファの電気分解による消失を補うために十分なバッファが確実に利用可能とすることに役立つ。カートリッジ中での4つの四分割域の間の分離が図6に破線(52)で示される。
【0031】
図6に示すように、カートリッジウェルフレーム(10)中の各試料ウェル(22)の底開口部(28)の周りに任意選択的な隆起口密閉特徴物(50)を含んでもよい。隆起口密閉特徴物(50)は、試料ウェル(22)の開口部(28)の周りに、および図2のカートリッジゲルプレート(70)または図4のガスケット(60)に対して負荷を集中しやすくさせウェルを密閉する。
【0032】
CWFは、好ましくは非伝導性で多様な材料で製作可能である。有用な材料は、ポリプロピレン等の非導線性の剛性のある高分子である。特に有用な材料の1つは、非導線性でガラスファイバを充填したポリプロピレンである。
【0033】
カートリッジゲルプレート(CGP)
CGP(70)は上表面(74)と、下表面(76)と、複数の穴(72)とを有する。好ましくは、CGP(70)はカートリッジウェルフレームのウェル底開口部(28)と実質的に整列した96の穴(72)を有する。穴(72)のそれぞれは被分析物分離層(78)で充填される。好適な被分析物分離層(78)はポリアクリルアミドゲルである。例えば、6〜12%(好ましくは、約8%)のポリアクリルアミドゲルで、好ましくは直径約1.8mmでCWFおよびCCS中の穴に適合する。CGPは厚さ約2.38mmである。
【0034】
特に好適な実施形態では、CGPの下表面は、各CCSの穴の周囲を囲む密閉要素と底密閉要素とを含む。この密閉要素は、例えば、Oリング、またはリブ、または隆起部、またはCGPの他の隆起したモールドの特徴物でもよい。
【0035】
CGPは、ポリプロピレン、ポリエチレン、または密閉に適した硬度を与えるシリコンゴムで製作してよい。1つの実施形態では、CGPは射出成形可能なエラストマー材料(商標がサントロプレン(Santroprene))から製作される。この材料はポリプロピレンとゴム材料の混合物である。CGP材料の硬度(硬度測定計でショアA硬さが60)が選択されており、カートリッジ捕捉スライドを適切に密閉し、またCGPに適切な寸法的安定性を与える。
【0036】
カートリッジ捕捉スライド(CCS)
カートリッジは、同心でCWF、CGPおよびスペーサの穴と整列した複数の穴(92)を含むカートリッジ捕捉スライド(CCS)(90)を含む。好適な実施形態では、CCSは96の捕捉スライド穴(92)を収容し、好ましくは、破壊可能な爪(94)(図7参照)によって接続された4つの四分割域(93)(それぞれが24の捕捉スライド穴を収容する)を含む。この四分割域によって、使用者は任意選択的にCCSの大きさを減少でき、質量分析機の中に容易に挿入できるようになる。4つの四分割域は単一部品として射出成形される。電気泳動の完了に続き、使用者は四分割域を折って別々にしてMALDIスレッドに設置する。
【0037】
1つの実施形態では、各CCSは、CWF、CGPおよびスペーサの中の穴と整列した96の穴を有する。CCSの穴のそれぞれは、電気泳動の間にタンパク質を捕捉可能な任意の多孔質材料で充填される。CCSの穴は、好ましくは、CGPの穴よりも小さい。これによって、2つの層が完全に整列していなくてもCGP上のゲル層が完全にCCS中の穴を覆い、MALDI質量分析による分析のための非常に小さな試料領域中に被分析物が容易に濃縮される。好ましくは、CCSの穴は直径約1mmか、またはそれよりも小さい。
【0038】
CCSの製作にさまざまな材料を使用可能である。好ましくは、以下の要件を満たす材料が選択される。(1)平坦度−CCSは質量分析の間に正確な結果が得られることを確実とするために平坦である必要がある。一般に、表面は、プラスまたはマイナス25ミクロン以内の平坦度である必要がある。(2)伝導度−質量分析で正確な結果を得るために、各試料部位は、CCSが設置される質量分析機のスレッドに電気的に接続されていなければならない。伝導経路を与えるために使用される方法は、試料部位間の漏れ電流を制限し、電気泳動過程を阻害し得る気泡の生成を起こさないものでなければならない。材料の体積抵抗率は、好ましくは、約5×106から約5×108オームセンチメートルであり、さらに好ましくは、約5.5×107オームセンチメートルである。
【0039】
任意選択的なCCS材料は、ミネソタ州ウィノナ(Winona)のRTP社から発売されているポリプロピレンのホモポリマをベースとしたパーマスタット(Permastat)107黒である。代替えとして、導電性粒子またはファイバを添加したピーク(PEEK)プラスチック(例えば、炭素繊維充填のポリエーテルエーテルケトン(ペンシルバニア州アストン(Aston)のTPコンポジット(Composites)社から発売されているポリエーテルエーテルケトンCAS#29658−26−2、炭素繊維CAS#007782−42−5、PTFE潤滑剤CAS#009002−84−0)を使用してもよい。上記のガイドラインを実質的に満たす他の材料も使用可能である。
【0040】
CCSの穴(92)のそれぞれは、目的のタンパク質等の分子を捕捉するための捕捉材料(96)を含んでよい。有用な捕捉材料の例には、これらだけに限定されないが、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(2−メタクリル酸エチレン)、ポリ(メタクリル酸ベンジル)、またはメタクリル酸ブチルと2−メタクリル酸エチレンのコポリマ等のこれらの高分子の混合物等、疎水性多孔質ポリメタクリル酸エステルを含む。代替えとして、捕捉材料は、親水性多孔質ポリメタクリル酸エステルでもよく、ポリ(メタクリル酸2−ヒドロキシエチル)、ポリ(メタクリル酸グリシジル)、ポリ(ジメタクリル酸ジエチレングリコール)、またはこれらの混合物等がある。さらに、捕捉材料は、疎水性が疎水性物質郡の範囲から正確に選択されているような疎水性高分子と親水性高分子との混合物から形成することも利点があり、よい。
【0041】
スペーサ
図2のカートリッジはスペーサ(62)を含む。スペーサ(62)はカートリッジ捕捉スライド(90)とカートリッジバッファ貯蔵フレーム(100)との間に位置する。各スペーサ(62)は、実質的にCGPおよびCCS中の穴に整列した96の穴(63)を有する。各穴は導電性電解質(67)で充填される。好ましくは、導電性電解質(67)はアガロースゲル等のゲルであり、各穴(63)は、好ましくは、直径が3mmであるが、基本的にカートリッジ捕捉スライド(90)と同じ直径で、カートリッジウェルフレーム(20)中の底開口部(28)よりも小さい。スペーサ(62)は、標準的なポリプロピレンシート等の、または、射出成形によってスペーサ(62)を製造可能な、標準的な高分子で製作可能とするに十分な厚さを有する。1つの実施形態では、スペーサ(62)は、厚さ1.59mm(1/16インチ)である。
【0042】
カートリッジバッファ貯蔵フレーム(CBRF)
1つの実施形態では、CBRF(100)は4つの独立した貯蔵部(102)を収容し、これらはアガロースゲル(103)で充填されCCSの底の穴を電気的に下貯蔵口(42)中の電解質バッファ溶液に電気的に接続する。
【0043】
図示するように、CCS(90)およびスペーサ(26)は、好ましくは、その周辺部がCBRF(100)上の隆起部(104)によって支持される。さらに、柱特徴物(106)がCBRFの底から隆起しており穴と穴の間を支持する。これらの支持部は、CCSがたわみ、CCS中の密閉要素で十分に密閉できないこと防止するために使用される。
【0044】
柱特徴物を接続するリブ特徴物(108)が設計に含まれCBRFの剛性を上げる。これらの特徴物は単にCBRFの底の一部を筋状に隆起させる。これによって、アガロースゲル中の電子の流れが制限されずに、この特徴物で剛性を加えることが可能になる。CBFR設計には4つの内部留め具穴(95)が含まれる。これらの穴および組み立て体留め具は、CCS、CGPおよびスペーサを整列させる。CBFRは、また、平坦化特徴物(110)を含む。
【0045】
図10に示す空洞(109)がCBRFの側方に設計され下貯蔵口に繋がる。図10に示すように、下貯蔵口(42)はアガロースゲルの高さ(49)の下に延在する。組み立ての間に、下貯蔵口(42)の底の口(45)がアガロースゲル中に押し込まれ下貯蔵口(42)中の電解質バッファ溶液(47)とCBRF中の好適なアガロースゲルとの間を密閉する。
【0046】
組み立て
カートリッジ(10)は8つのステンレス鋼のソケット頭部のキャップネジ(4−40、1.91mm(0.75インチ)長)を使用して組み立てられる。ステンレス鋼のナットがCBRFの底に圧入される。キャップネジはCWFの上部から挿入され、圧入されたナットに組み付けられる。
【0047】
以下に説明するガスケット、圧入留め具、およびバネは、全て図4に示す代替えのカートリッジ捕捉スライドの特徴物である。図4のカートリッジ捕捉スライド中で、ガスケット(60)はカートリッジウェルフレーム(20)とカートリッジゲルプレート(70)との間に位置する。
【0048】
ガスケット
ガスケット(60)は、CWF(20)中の試料穴(28)に整列した穴(63)を有する。ガスケット(60)は、好ましくは、厚さ約1〜2mmであり、さらに好ましくは、厚さ約2mmであり、ゲル層の深さを最小化しつつ十分な剛性を与える。
【0049】
ガスケット(60)は、好ましくは、柔軟で、無孔質で、タンパク質で汚染されておらず、電気絶縁性のある材料で製作される。好適な材料は、エラストマーまたは適する任意の粘弾性高分子である。適するガスケット材料の例には、これらに限定されないが、シリコン、ソボタン(sorbothane)、ポリウレタン、ラテックスゴム、ネオプレンが含まれる。特に好適な材料はシリコンエラストマーである。ガスケット材料は、好ましくは、以下の機能に役立つように選択される。(1)ガスケットが圧縮されると自身が変形し、CWFの底にある密閉する隆起口の周りを密閉する。(2)カートリッジが組み立てられると、独立した試料チャネル全てに渡り均一な負荷を発生させる利点がある。ガスケットは、カートリッジ中の他の材料と比べて柔軟で、この系でバネとして作用するような材料で製作される。このバネは負荷を分散させ、CGPおよびCCSを一層均一に圧縮する。
【0050】
圧入留め具(PIF)
カートリッジは、CWFをCBRFに接続するために留め具または同様な物体を任意選択的に含む。好適なものは、圧入留め具(PIF)(図参照)で、CWFをCBRFに接続するコスト面で効果的な手段を提供し(PIFは既製品として販売されている)、分解も容易である。好ましくは、使用者が1回の行程でPIFを取り外し可能な工具が各装置に付いている。
【0051】
任意選択的バネ
ガスケット、CGPおよびCCSの全てを積層した高さは組み立て体毎に異なることが予想される(これらの部品許容差の範囲で)。CWFをCBRFに留める留め具は、ガスケット、CGPおよびCCSの圧縮量を大きく変化させずに、これらの部品の変動を吸収できなければならない。PIFと伴に任意選択的なバネの埋め込み体(130)で柔軟性が得られる。このバネは、好ましくは、10Kg/cm(55.98ポンド/インチ)の剛性を有し、留め具当たり約1.36Kg(3ポンド)の力を与えるように設計される(計8.16Kg(18ポンド))。
【0052】
前述の説明は、96ウェルを含む好適なカートリッジ組み立て体についての記述であることに留意されたい。しかし、本発明は96ウェル系に限定されず、事実、任意のウェル数を含む他の系、例えば384ウェルを含む系に対応する。
【0053】
操作においては、前述のカートリッジの1つまたは複数のウェル(22)が液体試料(21)で充填され、次にカートリッジは、本明細書でタンパク質プロファイラシステム装置、またはPPS装置と称されるワークステーション中に挿入される。PPS装置は電気泳動に必要な試料および共通電極を含む。さまざまな側面からみたPPSを図11〜20に示す。図11を参照すると、PPS装置(200)はカートリッジ組み立て体(10)を受け入れ、また、第1の中央処理ユニット(CPU)(210)を収容する。図20は、本発明の実施形態のPPS装置の、電気および装置制御系の一層詳細な配線略図である。
【0054】
ワークステーション装置は第1のCPU中のファームウェアによって制御され、さらに、外部コンピュータ(220)に接続され、このコンピュータは、第2のCPUと、キーボードおよびモニタを含むユーザインタフェース(240)とを有し、制御とワークステーションの操作者にフィードバックを行う。外部コンピュータ(220)の第2のCPUは、また、命令の入力を容易にし、ワークステーションの動作を監視するために従来のソフトウェアを含む。
【0055】
PPS装置(200)は以下の1つまたは複数の目的を実行するに必要な部品を収容す
る筐体を提供する。(i)タンパク質試料を収容するカートリッジを収納すること、(ii)カートリッジ中の各試料に(電極を介して)流される電流または、各試料に渡り印可される電圧を制御すること、(iii)電極および装置内部の部品への電源を調節すること、(iv)データ保存のためにフィードバックを提供すること、および電圧または電流のフィードバック制御を行うこと、(v)96ウェルのそれぞれに適切に電極を配列すること、(vi)バーコードリーダを介してカートリッジを識別すること、(vii)システムの故障や異常に対して警報を発生させ対応すること(例えば、蓋が適切に閉じていない場合に警報を発する)、(viii)複数の試料ウェル(例えば96)のデータを十分な速度で測定しサンプルリングを行い、全ての時間を実行すること、(ix)適用される安全規則を遵守すること、(x)米国、欧州および日本の壁コンセントに接続可能な電源装置を提供すること、(xi)PPS装置を操作するために設計されたグラフィックユーザインタフェース(GUI)を備えるマイクロソフトウィンドウズ(Microsoft
Windows)をベースとしたネットワークPCによって、システムを制御かつ駆動可能であること。
【0056】
PPS装置の筐体(250)全体を図12Aおよび12Bに示す。図12Aおよび12Bに示された装置の筐体は、高さ約51センチメートル(20インチ)、幅28センチメートル(11インチ)、奥行き66センチメートル(26インチ)である。装置の筐体(250)の寸法は重要ではなく、寸法は変化してよく、例えば、装置が実験室の作業台上で使用されることを意図した場合には、装置はより短くて正方形でもよい。装置の前パネルはオン/オフ押しボタン(202)、2つのLED表示器(203、204)、および試験室のカバー(206)を開くための取っ手(205)を含む。裏パネルは、電源コネクタ(207)とイサーネットポート(208)の2つの口を含む。使用では、電源コネクタは標準的な壁の電気コンセントに接続される。イサーネットポートは、例えば、ウィンドウズオペレーティングシステムを使用して、パーソナルコンピュータ(PC)に接続される。PCでは、グラフィックユーザインタフェース(GUI)プログラムが稼働しており、装置の設定、実行、監視を行う。
【0057】
PPS装置(200)を使用して、マルチウェルのカートリッジの各ウェルに電荷を印可し、カートリッジ中のゲルを通して各ウェル中の試料のタンパク質および他の成分を電気泳動的に駆動して、これらをカートリッジ捕捉スライド中に捕捉する。処理後、マルチウェルカートリッジはPPS装置から取り外されて分解され、カートリッジ捕捉スライドが取り出され、捕捉されたタンパク質および他の生物学的な物質を分析する質量分析のために、このカートリッジスライドがMALDIスレッドに設置される。
【0058】
PPS装置は主要部(電気、機械、ソフトウェア)に分割される。シングルボードコンピュータ(SBC)は装置のホストコンピュータとして働く。埋め込み型のウィンドウズXPオペレーティングシステム(XPe OS)等のオペレーティングシステムがSBCを稼働させるために使用される。SBCは、シリアルポートインタフェースで外部接続される。SBCはイサーネットインタフェースを介してPCから試験特性情報を受信する。アナログ回路基板は、制御された電圧または電流を電極アレーを通して各試料に与える。このシステムは、電圧制御、または電流制御の2つの内の1つで動作する。電極アレーは複数の試料電極(230)を備える印刷回路基板(PCB)(234)および少なくとも1つの戻り電極(232)より成る。
【0059】
SBCは4つのアナログ回路基板を監視して制御を行い、動作を監視し故障状態を検出する。各アナログ回路基板はマイクロコントローラを使用し、基板上で24チャンネルを設定、測定、および調節する。この設計では、柔軟性がもたらされ、ファームウェアの開発コストを最小限にする。
【0060】
各アナログ回路PCBはワイヤハーネス組み立て体を通して電極アレーPCBに接続される。この設計により、通常の使用で万一電極が消耗または破損した場合には、電極アレーの交換が容易になる。
【0061】
図13〜15に、マルチウェルカートリッジの各ウェルで電気泳動処理を実行するために使用されるPPS装置試験室(220)の特徴物を示す。試験室はカートリッジおよび電極アレー(225)を保持する。試験室の底は、トレイ(227)と収容部固定具(222)である。カバー(206)は試験室の上を覆い、蓋の後ろに沿った蝶番(210)はこの蓋が回転して開くことを可能にする。
【0062】
マルチウェルカートリッジは、収容部固定具(222)を使用してPPS装置中に支持される。収容部固定具(222)は正確に再現性よくマルチウェルカートリッジを位置決めし、動作中にマルチウェルカートリッジの中で発生した熱の放熱器としての役割を果たす。PPS装置中に使用されるマルチウェルカートリッジは、少なくとも2つのウェルを有する必要がある。好ましくは、マルチウェルカートリッジは前に説明した96ウェルのカートリッジである。
【0063】
1つまたは複数の電気冷却器(233)(TEC)および/または放熱器(図17参照)を使用して、必要に応じ、収容部固定具(222)の温度を調節してよい。試験室に見られる他の電子部品には、カートリッジのラベル情報を記録する任意選択的なバーコードスキャナ(230)、およびラッチ(237)に関連づけられ、試験室の扉が開かれると常に扉の位置を検出し、リレー(図示せず)伴に使用されて高電圧電源を安全にする安全インターロックスイッチ(235)が含まれる。好ましくは、図17に示すように2つの熱電気冷却器(TEC)がカートリッジの収容部の底に装着されており、装置の処理室の温度を調節する。熱電気冷却器の有用なものの1つは、メルコア(Melcor)の熱電気冷却器(TEC)CP1.0−254−06Lである。
【0064】
TECのそれぞれはSBC上の汎用I/Oピンによって駆動されるリレーによって調節される。SBCのソフトウェアは温度を監視し調節する。さらに、放熱器とファン(236)をTECと伴に使用して熱を周囲の大気に逃がしてもよい。
【0065】
任意選択的な安全インターロックスイッチは、試験室のカバー(206)とトレイ(212)に装着された2つの対をなす半体を有する。安全インターロックスイッチはカバー(206)が開くと常に電極アレーへの電源を遮断する。電極アレーは試験室(220)の蝶番付きのカバー(206)に装着される。カバー(206)を開くと、マルチウェルカートリッジの収容部固定具(222)への設置および取り外しが可能となる。蝶番付きのカバーはカバーが開閉されると、電極はカートリッジ中で開口部から外れるように設計されている。底にトレイ(212)がある試験室(220)は飛散防止になっており、ガスケットが収容部とトレイの間に配置され、試験室と装置電装部との間を密閉する。マルチウェルカートリッジの収容部は、マルチウェルカートリッジが収容部中に正しく挿入され、電極アレー(225)と整列することを確保するために使用される2つの整列ピン(229)をさらに含む。
【0066】
PPS装置には3つの電源が含まれる。低電圧電源(270)は、装置内のコンピュータ部品にDC5V、+12Vおよび−12Vを供給するために備えられる。DC24V電源(275)は装置で使用されるTECおよびリレーに電源を供給するために使用される。DC±225V電源はシステムの他の部分と絶縁され、試料チャネルの電力電子素子を駆動するために使用される。低電圧電源はATX標準と互換性があり、シングルボードコンピュータ(SBC)と伴に作動する。装置筐体の前にある押しボタン(202)はATX電源に通電するために使用される。電源225Vおよび24V電源に商用電源を供給するためにソリッドステートリレーが使用される。ソリッドステートリレーのコイルはATX電源の+12Vに接続され、ソリッドステート接点はLI(入力電源の活線)に接続される。運転停止の際に使用者が装置筐体の前の押しボタンを押すと、ATX電源からの信号がXPe OSに電源運転停止を命令し、OSの運転停止の後、ATX電源はオフ状態に入る。最後に、ATX電源(+12V)の電力がなくなってソリッドステートリレーの接点が開くと、225Vおよび24V電源が切断される。図16に装置筐体の中の電気システム部品の位置を示す。
【0067】
電極アレーPCBは装置の電気系を試験中の試料に接続する。電極アレー(225)は少なくとも2つの試料作用電極(230)と少なくとも1つの戻り電極(232)とを有する。作用電極(230)の数はマルチウェルカセット中のウェル数によって変わり得る。好適な96ウェルカセットが使用される場合、PPS装置は96の作用電極(230)と4つの戻り電極(232)を含むことになる。
【0068】
電極(230)および(232)はどのような導電性の材料から製作してもよい。1つの実施例では、電極は白金で被覆されたステンレス鋼である。他の実施形態では、電極は固体の白金である。さらに他の実施形態では、電極は高分子などの不活性な材料の上に被覆された白金である。1つの好適な実施形態では、電極はスパッタで白金が被覆されたナイロンピンである。電極(230)および(232)は回路基板の中に押し込んで半田付けされる。電極アレーPCB(234)は留め具を使用してユニットに装着され、電気コネクタ(236)を使用して電極をアナログ回路PCBに接続する。1つの実施形態では、全部で8つのコネクタが使用される。4つの24ピンコネクタが使用され、電源電圧(すなわちDC±225V)、電極、各アナログ回路PCB間を接続する。戻り電極(すなわち、DCのコモン)から、各アナログ回路PCBまでを接続するために4つの2ピンコネクタが使用される。電極アレーPCB込み立て体(234)は、万一電極アレーが消耗または破損したした場合に時々取り外しできるように設計される。
【0069】
各作用電極(230)に供給する電流量を制御するためにアナログ回路基板(280)が使用される。アトメル(Atmel)のATMega128シリーズのマイクロコントローラが使用され、アナログ基板の動作の主要な各部を管理し、ホストインタフェースを介してシングルボードコンピュータ(SBC)に実際の実行結果を報告する。マイクロコントローラは設定値に適合するように出力を監視し、必要であれば、電圧/電流を調節して出力がシステムの許容内に入るように保証する。アナログ基板は、最大2Hzの間隔で、シングルボードコンピュータに各出力チャンネルの現在の電圧/電流の読み出し値を更新する。アナログ回路の各チャンネルは、デジタルアナログ変換(DAC)を通して低レベル(すなわち、最大DC±5V)のアナログ制御電圧を使用し、マイクロコントローラによって制御される。この電圧レベルはサンプルホールド(S/H)アナログ出力レジスタ中に保持される。(出力ピン当たり1つの、すなわち基板当たり24のアナログS/Hチャンネル出力がある。)各アナログ出力は、次に、信号条件づけられ、電圧レベルがシフトされて、当該チャンネルに出力するために正または負のいずれかを通過させるトランジスタを駆動する。マイクロコントローラは、シーケンス行程の間を通して出力電圧/電流が設定値を維持するように、必要な頻度で監視および調節を行う。S/Hの各アナログ出力は1秒間に4回を越えてリフレッシュされ、S/Hの出力が下降または減衰することを防止する。負荷による出力電圧の変動すなわち変化への調節が、この連続した調節過程の結果、速やかになされる。
【0070】
マイクロコントローラはアナログマルチプレクサを介してチャンネル当たり2つのアナログ入力を通して出力を監視する。アナログマルチプレクサによって、マイクロコントローラはどちらのアナログ読み出し値をADCで変換するか選択でき、必要なADCのチャンネル数が減少する。ADCは低電圧のみ変換可能なため、これらの監視される信号は、0.1%許容差の抵抗器網を介して適正な範囲にまで大きさを下げられる。これらの結合された抵抗器網は開路抵抗が1MΩを越える。図18の電圧Vsenseは、当該チャンネルに供給される電圧を正確に測定したものである。各チャンネルの電圧Vsenseの読み出し値は、デジタル値に変換されシングルボードコンピュータに伝送される。検知抵抗器(図18のRsense)の両端の差動電圧の読み出し値は、チャンネルに対する電流に直接変換される。この差動変換は各チャンネルの電流に計算され、シングルボードコンピュータに伝送される。
【0071】
マイクロコントローラは、温度プローブを任意選択的に含んだ設計である。この温度プローブを使って動作温度がフィードバックされる。この読み出し値はシングルボードコンピュータに報告される。他の入力は、アナログ基板で使用される低電圧電源と同様に、正負のDC225V電源を監視する。確定された許容値に対して適合させるために、これらの電源それぞれを監視する。
【0072】
シングルボードコンピュータ(SBC)は、装置の中でアナログ回路基板用の監視の役割を担う。好適な実施形態では、PPS装置は4つのアナログ回路基板を有する。SBCは使用者のPCから試験特性を受信する。シングルボードコンピュータは、次に、アナログ基板を動作可能にし、設定値を読み込み、時系列を制御する。シングルボードコンピュータは、現在の行程が終了する前に、次のシーケンスに更新し、「開始」命令で新たな行程を始動する。シングルボードコンピュータが次の行程へと更新に失敗すると、前の行程は時間切れになり、出力電圧は安全モードに復帰する。シングルボードコンピュータは、また、測定された電流および電圧を通してこの過程を監視し、起こり得るいかなる故障状態をもチェックする。アナログ基板は、シングルボードコンピュータから受信した設定値に各出力を調節する。SBCインタフェースはEIA−232のシリアル接続でなされ、ハードウェアのハンドシェイク信号線(CTS/RTS)にも対応する。この接続は、標準的なD−sub9ピン(PCの形式と類似)である。
【0073】
各アナログ基板は24のアナログ出力を発生させ、共通で戻し点を1つ備える。各アナログ出力は、制御され、独立して設定され、連続的に調節される。1セットのDC225V電源が、各アナログ基板に正(+)負(−)のDC電源を供給する。装置当たり1セットの大容量電源(電源セット当たり4つのアナログ基板)がある。
【0074】
電圧調整モード
電圧調整モードでは、マイクロコントローラは、シングルボードコンピュータから出力電極への目標電圧レベルを規定する設定値を受信する。この出力電圧は、負荷に流れる電流から影響されず、目標電圧レベルで発生され維持される。電極当たりの出力電力は100mWに制限される。実際の出力電圧は、出力チャンネル当たりの最大電力の100mW内に収まるように自動的に減少させることができる。
【0075】
電流調整モード
電流調整モードでは、マイクロコントローラは、シングルボードコンピュータから出力電極への目標電流レベルを規定する電流設定値を受信する。この場合、電流が監視され、各電極に対して所望の電流になるように出力電圧が調節される。さらに、各電極の出力電力は100mWに制限されるので、実際の出力電流は、出力チャンネル当たりの最大電力の100mW内に収まるように自動的に減少させることができる。両方の動作モードにおいて、電流と電圧が監視されてシングルボードコンピュータに報告される。このモードは、どちらの検知測定値を使用して電極の出力を調節するかを決めるのみである。
【0076】
1つのアナログチャンネルを図19に示す。部品番号LM398Fはこのチャンネルのサンプルホールド部品である。この部品に印可される電圧は1秒間に4回リフレッシュさ
れる。次の部品のLM324Nはオペアンプである。
【0077】
この部品は、正(+)と負(−)の入力ピンの電圧を比較する。このオペアンプの出力電圧は2つの端子間の差に大きな利得を乗じたものである。オペアンプはボルテージフォロワとして構成され、これは出力電圧がオペアンプの正の入力(すなわち、サンプルホールド出力電圧)に印可された電圧と等しいことを意味する。ボルテージフォロア構成はオペアンプの出力を負の入力に直接接続して得られる。
【0078】
トランジスタU121およびU122はどちらの系列をチャンネルに供給するかを決める。+225V系列はU121によって、−225V系列はU122によって制御される。両部品はオフの状態を取り得るため、これによって、正と負の両方の系列を回路の出力から遮断できる。これらそれぞれのトランジスタのベースは回路のコモンに接続される。この構成によって、サンプルホールド電圧はベースからエミッタへのトランジスタの屈曲点電圧(典型的には0.65V)よりも大きい場合には、U122が活性領域に入る。サンプルホールド電圧はベースからエミッタへの屈曲点電圧よりも小さい場合には、U121が活性領域に入る。図19の回路を参照すると、560オームの抵抗器(U121用のR398とU122用のR397)がトランジスタのベースへの電圧に対して直列に入っていることが分かる。したがって、トランジスタのコレクタ電流とサンプルホールドの出力電圧(Vsh)との間の関係を次のように決定できる。
【0079】
【数1】
【0080】
式1は、トランジスタの利得は十分に高くベース電流の寄与は無視し得ると仮定しており、近似値であることを留意されたい。
【0081】
アナログ回路の次の段階は、正の系列上のU140とU139、および負の系列上のU141とU135とを使用した電流ミラーである。各系列上の2つの電流ミラートランジスタ(すなわちU139とU140、またはU135とU141)はほぼ同じ特性を有するように製造されており、それらのベースエミッタ電圧が等しくなるように接続される。したがって、2つのトランジスタのベース電流はほぼ同じである。コレクタがベース電流の流れる唯一の経路であるため、両方の電流ミラートランジスタ(U139とU140、またはU135とU141)のベース電流は必ずU121(またはU122)のコレクタ電流と等しくなる(1Mオームの抵抗器を通る経路は例外であるが、これは相対的に無視し得る)。さらに、U140とU141のベースコレクタ接合は短絡している。これにより、トランジスタが活性領域で動作し、出力コレクタ電流がベース電流に比例することが保証される。2つの電流ミラートランジスタのベース電流が等しく、かつ、2つのベース電流はU121(またはU122)を通過するので、U129(またはU135)のベース電流は式1で計算されるコレクタ電流の二分の一に等しい。
【0082】
サンプルホールド電圧(Vsh)が±2.5Vの範囲にあるとすれば、出力電流の範囲は以下の結果となる。
【0083】
【表1】
【0084】
PPS装置(200)を操作するために、使用者は前パネル上のオン/オフ押しボタン(202)を使用して装置の電源を入れる。前面の緑のLED(203)が発光し、装置の電源が入っていることを示す。装置の電源が入ると、3つの内部電源が通電され内部の処理プログラムがブートされる。
【0085】
装置は、外部PCおよびGUIソフトウェアを使用して設定するまでは、動作しない。GUIソフトウェアを使用して試験運転の設定および準備を行う。試料ウェル郡が識別され試験特性が指定されるが、電圧制御特性または電流制御特性のいずれかである。試験運転の設定が行われると、使用者は試験室のカバーを開き、適当な試料が搭載されたカートリッジを挿入し、装置のカバーを閉じる。装置は、任意選択的なバーコードスキャナ(260)を含み、これでカートリッジ上のラベルを読み取り、このカートリッジが適正なものであり、正しく設置されていることを確認する。有用なバーコードスキャナの一例が、シンボルコーポレーション(Symbol Corporation)のバーコードスキャナMSl207WAである。バーコードスキャナはカートリッジに貼り付けられた印刷バーコードラベルを読み取るように配置される。バーコードスキャナ(260)はUSBポートを通してSBCと通信する。
【0086】
マルチウェルのカートリッジが設置されると、使用者はGUIソフトウェアから試験運転を開始する。試験特性命令が装置に読み込まれ、試験運転が開始する。試験運転の間、前面上の黄色のLED(204)が発光する。印可電圧と電流を含む試験運転からのデータは、装置からGUIソフトウェアに通信される。使用者はGUIソフトウェアを使用して試験運転を監視できる。試験運転の最後では、GUIソフトウェアは試験運転が完了したことを表示、記録データをファイルに保存し、使用者に報告する。使用者は試験室のカバーを開き、カートリッジを取り外し、必要な分解および捕捉スライドに対して後処理行程を実施する。
【0087】
ファームウェアおよびソフトウェアは、第1と第2のCPUを協調して動作させワークステーションの動作を制御する。一般に、各ウェルに印可される電流または電圧は操作者すなわち使用者によって制御可能である。好ましくは、各ウェルに印可される電流または電圧は個別に制御可能であり、電流または電圧が各試料ウェルで同じ、または異なる、いずれかに設定可能である。試料運転の終了迄に各試料ウェルを通過する所定の電気泳動電荷の値を操作者が選択可能なように、好ましくは、選択された電流または電圧を各ウェルに印可する時間が選択可能である。
【0088】
代替えとして、ワークステーションは手動で制御可能で、電流、電圧、および試料運転の時間を選択できる。この実施形態では、制御装置はワークステーション装置の外部に配置される。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】分析システムの単一ウェルの略断面図である。この分析システムの好適な実施形態では、1カートリッジ中に収容された8×12配列の96試料ウェルを有する。
【図2】カートリッジ実施形態の部品を示す図である。
【図3A】組み立てられた図2のカートリッジの斜視図である。
【図3B】組み立てられた図2のカートリッジの側面断面図である。
【図4】代替えのカートリッジ実施形態を示す図である。
【図5】図2のカートリッジのカートリッジウェルフレーム部品の上面図である。
【図6】図2のカートリッジのカートリッジウェルフレーム部品の底面図である。
【図7】カートリッジ捕捉スライドを示す図である。
【図8】図2のカートリッジのバッファ貯蔵フレーム部品を示す図である。
【図9】スペーサを含むバッファ貯蔵フレーム部品を示す図である。
【図10】ゲルレベルの表示を含む、図2の組み立てられたカートリッジの一部の側面断面図である。
【図11】ワークステーション装置、CPU、およびユーザインタフェースのブロック図である。
【図12A−12B】本発明のPPS装置の筐体の実施形態を示す図である。
【図13】蓋が開き、カートリッジが設置されていないPPS装置試験室を示す図である。
【図14】試験室の内部を見ることができるように蓋が透明に図示されている、PPS装置試験室を示す図である。
【図15】蓋が開いた試験室で、試験室カバーの中に設置された電極アレーを見上げたところを示す図である。
【図16】本発明のPPS装置の側面内部を示す図である。
【図17】熱電気冷却器と放熱器を含む本発明のPPS装置の内部を示す図である。
【図18】PPS装置に有用なアナログ回路基板マイクロコントローラの設計実施形態を示す図である。
【図19】本発明のPPS装置に有用なアナログ回路チャネル設計の実施形態を示す図である。
【図20】本発明のPPS装置実施形態のための計測と制御の配線略図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のウェルと少なくとも1つの下貯蔵口とを有するカートリッジウェルフレームと、
複数の穴を有するカートリッジゲルプレートと、
複数の穴を有するカートリッジ捕捉スライドと、
複数の穴を有し穴のそれぞれが多孔質材料で少なくとも部分的に充填されたスペーサと、
前記カートリッジウェルフレーム中の複数のウェルが、前記カートリッジゲルプレートと前記カートリッジ捕捉スライドと前記スペーサのそれぞれの中で複数の穴に実質的に整列しているカートリッジバッファ貯蔵フレームとを具備するカートリッジ。
【請求項2】
前記カートリッジウェルフレームの前記複数のウェルのそれぞれが、上円筒部と下円錐部とを有する請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項3】
前記カートリッジウェルフレームの前記複数のウェルが、導入口の縁を有する請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項4】
前記カートリッジウェルフレームが、96ウェルの配列と4つの下貯蔵口とを有する請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項5】
前記複数のウェルのそれぞれが導出口を有し、ウェルの導出口のそれぞれが隆起口密閉材を有する請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項6】
前記カートリッジが電解質溶液で充填されている請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項7】
前記カートリッジゲルプレート中の前記複数の穴が、被分析物分離層で実質的に充填されている請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項8】
前記被分析物分離層がポリアクリルアミドゲルである請求項7に記載のカートリッジ。
【請求項9】
前記カートリッジゲルプレートが前記カートリッジウェルフレームに関連づけられた上側と、前記カートリッジ捕捉スライドに関連づけられた底側とを有し、前記カートリッジゲルプレートが底側に密閉リブをさらに有する請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項10】
前記カートリッジ捕捉スライドが4つの捕捉スライド要素を有する請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項11】
前記4つの捕捉スライド要素が切断分離コネクタで接続されている請求項10に記載のカートリッジ。
【請求項12】
前記カートリッジ捕捉スライド中の前記複数の穴は前記カートリッジゲルプレート中の穴よりも直径が小さい請求項10に記載のカートリッジ。
【請求項13】
前記スペーサの穴が実質的に導電性電解質で充填されている請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項14】
前記スペーサの穴が実質的にアガロースゲルで充填されている請求項13に記載のカートリッジ。
【請求項15】
前記カートリッジバッファ貯蔵フレームが、前記下貯蔵口中の電解質溶液を前記スペー
サの穴の中の前記透過性材料に電気的に一体化させる電気的に導電性の材料を有する請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項16】
前記カートリッジバッファ貯蔵フレームが、前記スペーサを所定の位置に固定するような隆起部を有する請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項17】
前記カートリッジバッファ貯蔵フレームが、複数の補強柱を有する請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項18】
複数のウェルと少なくとも1つの下貯蔵口とを有するカートリッジウェルフレームであって、前記複数のウェルのそれぞれが上円筒部および下円錐部と、導入口の縁と、隆起口密閉材のあるウェル導出口とを有するカートリッジウェルフレームと、
前記カートリッジウェルフレームに関連づけられた上側と、底側と、底側に密閉リブとを有するカートリッジゲルプレートであって、前記カートリッジゲルプレート中の前記複数の穴のそれぞれが実質的にポリアクリルアミドゲルで充填されているカートリッジゲルプレートと、
前記カートリッジゲルプレート中の前記穴よりも直径が小さい複数の穴を有するカートリッジ捕捉スライドであって、前記カートリッジ捕捉スライドが4つの捕捉スライド要素をさらに有し、捕捉スライド要素が切断分離コネクタで接続されているカートリッジ捕捉スライドと、
複数の穴を有するスペーサであって、それぞれの穴がアガロースゲルで少なくとも部分的に充填されているスペーサと、
カートリッジバッファ貯蔵フレームであって、下貯蔵口と、前記下貯蔵口中の電解質溶液を前記スペーサの穴の中の前記透過性材料に電気的に一体化させる電気的に導電性の材料と、複数の補強柱とを有しカートリッジバッファ貯蔵フレームとを具備し、
前記カートリッジウェルフレーム中の複数のウェルが、前記カートリッジゲルプレートと前記カートリッジ捕捉スライドと前記スペーサのそれぞれの中で複数の穴に実質的に整列しているカートリッジ。
【請求項19】
96ウェルの配列と4つの下貯蔵口とを有する請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項20】
筐体と、
前記筐体中に配置された試験室であって、
(i)複数の試料電極と少なくとも1つの戻り電極とを有する電極アレーと、
(ii)カートリッジを保持するためのトレイであって、前記カートリッジは複数の試料ウェルと少なくとも1つの下貯蔵口とを有し、前記電極アレーは少なくとも複数の前記試料電極が試料ウェル中に配置されるように前記カートリッジに向かって可動であり、前記少なくとも1つの戻り電極が前記少なくとも1つの下貯蔵口に配置されるトレイと、
前記複数の試料電極および/または前記少なくとも1つの戻り電極に対して電圧および/または電流の印可を制御するための制御系とをさらに有する試験室とを具備する装置。
【請求項21】
前記電極が白金で被覆されたナイロンピンである請求項20に記載の装置。
【請求項22】
少なくとも1つの熱電気冷却器が前記トレイの下に配置される請求項20に記載の装置。
【請求項23】
前記カートリッジを保持するために収容部固定具を有する請求項20に記載の装置。
【請求項24】
前記カートリッジを前記試験室中で整列させるために少なくとも2つのピンを有する請
求項20に記載の装置。
【請求項25】
前記筐体が前記装置の動作を制御するための第1の中央処理ユニットを有する請求項20に記載の装置。
【請求項26】
前記筐体の外部に配置され、前記第1の中央処理ユニットに接続され、ユーザインタフェースを含む第2の処理ユニットを有する請求項25に記載の装置。
【請求項27】
前記電極アレーが電極アレー印刷回路基板に取り付けられた請求項20に記載の装置。
【請求項28】
前記電極アレー印刷回路基板が、少なくとも1つのアナログ回路に電気的に関連づけられた請求項27に記載の装置。
【請求項29】
前記電極アレーが関連づけられたカバーを有する請求項20に記載の装置。
【請求項30】
前記第1の処理ユニットが、前記電極アレー中の一部の前記電極の電圧を制御する請求項26に記載の装置。
【請求項31】
前記第1の処理ユニットが、前記電極アレー中の全ての前記電極の電圧を制御する請求項26に記載の装置。
【請求項1】
複数のウェルと少なくとも1つの下貯蔵口とを有するカートリッジウェルフレームと、
複数の穴を有するカートリッジゲルプレートと、
複数の穴を有するカートリッジ捕捉スライドと、
複数の穴を有し穴のそれぞれが多孔質材料で少なくとも部分的に充填されたスペーサと、
前記カートリッジウェルフレーム中の複数のウェルが、前記カートリッジゲルプレートと前記カートリッジ捕捉スライドと前記スペーサのそれぞれの中で複数の穴に実質的に整列しているカートリッジバッファ貯蔵フレームとを具備するカートリッジ。
【請求項2】
前記カートリッジウェルフレームの前記複数のウェルのそれぞれが、上円筒部と下円錐部とを有する請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項3】
前記カートリッジウェルフレームの前記複数のウェルが、導入口の縁を有する請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項4】
前記カートリッジウェルフレームが、96ウェルの配列と4つの下貯蔵口とを有する請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項5】
前記複数のウェルのそれぞれが導出口を有し、ウェルの導出口のそれぞれが隆起口密閉材を有する請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項6】
前記カートリッジが電解質溶液で充填されている請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項7】
前記カートリッジゲルプレート中の前記複数の穴が、被分析物分離層で実質的に充填されている請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項8】
前記被分析物分離層がポリアクリルアミドゲルである請求項7に記載のカートリッジ。
【請求項9】
前記カートリッジゲルプレートが前記カートリッジウェルフレームに関連づけられた上側と、前記カートリッジ捕捉スライドに関連づけられた底側とを有し、前記カートリッジゲルプレートが底側に密閉リブをさらに有する請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項10】
前記カートリッジ捕捉スライドが4つの捕捉スライド要素を有する請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項11】
前記4つの捕捉スライド要素が切断分離コネクタで接続されている請求項10に記載のカートリッジ。
【請求項12】
前記カートリッジ捕捉スライド中の前記複数の穴は前記カートリッジゲルプレート中の穴よりも直径が小さい請求項10に記載のカートリッジ。
【請求項13】
前記スペーサの穴が実質的に導電性電解質で充填されている請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項14】
前記スペーサの穴が実質的にアガロースゲルで充填されている請求項13に記載のカートリッジ。
【請求項15】
前記カートリッジバッファ貯蔵フレームが、前記下貯蔵口中の電解質溶液を前記スペー
サの穴の中の前記透過性材料に電気的に一体化させる電気的に導電性の材料を有する請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項16】
前記カートリッジバッファ貯蔵フレームが、前記スペーサを所定の位置に固定するような隆起部を有する請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項17】
前記カートリッジバッファ貯蔵フレームが、複数の補強柱を有する請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項18】
複数のウェルと少なくとも1つの下貯蔵口とを有するカートリッジウェルフレームであって、前記複数のウェルのそれぞれが上円筒部および下円錐部と、導入口の縁と、隆起口密閉材のあるウェル導出口とを有するカートリッジウェルフレームと、
前記カートリッジウェルフレームに関連づけられた上側と、底側と、底側に密閉リブとを有するカートリッジゲルプレートであって、前記カートリッジゲルプレート中の前記複数の穴のそれぞれが実質的にポリアクリルアミドゲルで充填されているカートリッジゲルプレートと、
前記カートリッジゲルプレート中の前記穴よりも直径が小さい複数の穴を有するカートリッジ捕捉スライドであって、前記カートリッジ捕捉スライドが4つの捕捉スライド要素をさらに有し、捕捉スライド要素が切断分離コネクタで接続されているカートリッジ捕捉スライドと、
複数の穴を有するスペーサであって、それぞれの穴がアガロースゲルで少なくとも部分的に充填されているスペーサと、
カートリッジバッファ貯蔵フレームであって、下貯蔵口と、前記下貯蔵口中の電解質溶液を前記スペーサの穴の中の前記透過性材料に電気的に一体化させる電気的に導電性の材料と、複数の補強柱とを有しカートリッジバッファ貯蔵フレームとを具備し、
前記カートリッジウェルフレーム中の複数のウェルが、前記カートリッジゲルプレートと前記カートリッジ捕捉スライドと前記スペーサのそれぞれの中で複数の穴に実質的に整列しているカートリッジ。
【請求項19】
96ウェルの配列と4つの下貯蔵口とを有する請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項20】
筐体と、
前記筐体中に配置された試験室であって、
(i)複数の試料電極と少なくとも1つの戻り電極とを有する電極アレーと、
(ii)カートリッジを保持するためのトレイであって、前記カートリッジは複数の試料ウェルと少なくとも1つの下貯蔵口とを有し、前記電極アレーは少なくとも複数の前記試料電極が試料ウェル中に配置されるように前記カートリッジに向かって可動であり、前記少なくとも1つの戻り電極が前記少なくとも1つの下貯蔵口に配置されるトレイと、
前記複数の試料電極および/または前記少なくとも1つの戻り電極に対して電圧および/または電流の印可を制御するための制御系とをさらに有する試験室とを具備する装置。
【請求項21】
前記電極が白金で被覆されたナイロンピンである請求項20に記載の装置。
【請求項22】
少なくとも1つの熱電気冷却器が前記トレイの下に配置される請求項20に記載の装置。
【請求項23】
前記カートリッジを保持するために収容部固定具を有する請求項20に記載の装置。
【請求項24】
前記カートリッジを前記試験室中で整列させるために少なくとも2つのピンを有する請
求項20に記載の装置。
【請求項25】
前記筐体が前記装置の動作を制御するための第1の中央処理ユニットを有する請求項20に記載の装置。
【請求項26】
前記筐体の外部に配置され、前記第1の中央処理ユニットに接続され、ユーザインタフェースを含む第2の処理ユニットを有する請求項25に記載の装置。
【請求項27】
前記電極アレーが電極アレー印刷回路基板に取り付けられた請求項20に記載の装置。
【請求項28】
前記電極アレー印刷回路基板が、少なくとも1つのアナログ回路に電気的に関連づけられた請求項27に記載の装置。
【請求項29】
前記電極アレーが関連づけられたカバーを有する請求項20に記載の装置。
【請求項30】
前記第1の処理ユニットが、前記電極アレー中の一部の前記電極の電圧を制御する請求項26に記載の装置。
【請求項31】
前記第1の処理ユニットが、前記電極アレー中の全ての前記電極の電圧を制御する請求項26に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2009−531652(P2009−531652A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−544547(P2008−544547)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2006/047009
【国際公開番号】WO2007/067759
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(507330899)プロテイン・デイスカバリー・インコーポレーテツド (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2006/047009
【国際公開番号】WO2007/067759
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(507330899)プロテイン・デイスカバリー・インコーポレーテツド (3)
【Fターム(参考)】
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