化学分析用前処理装置
【課題】 化学分析において、分析妨害成分を、分析対象イオンの精度の良い分析が可能となる程度に除去することができ、また迅速に除去することのできる化学分析用前処理装置を提供すること。
【解決手段】 外管、前記外管内に収容される光触媒部、及び前記外管内に収容される紫外線照射部を有して成り、液体試料に含有される分析妨害成分を光触媒反応により分解することのできる光触媒反応分解手段と、該光触媒反応分解手段により得られた分解処理済み試料の供給を受けることができ、供給された液体に含有される揮発性分析妨害成分を蒸発除去することのできる蒸発除去手段とを有して成ることを特徴とする化学分析用前処理装置。
【解決手段】 外管、前記外管内に収容される光触媒部、及び前記外管内に収容される紫外線照射部を有して成り、液体試料に含有される分析妨害成分を光触媒反応により分解することのできる光触媒反応分解手段と、該光触媒反応分解手段により得られた分解処理済み試料の供給を受けることができ、供給された液体に含有される揮発性分析妨害成分を蒸発除去することのできる蒸発除去手段とを有して成ることを特徴とする化学分析用前処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
この発明は、化学分析用前処理装置に関し、さらに詳しくはイオンクロマト分析等の化学分析における分析妨害成分を効率的に除去する化学分析用前処理装置に関する。
【背景技術】
【０００２】
発電所で使用される冷却水等の水には、通常水質調整のためにアンモニア及びヒドラジンが例えば１０〜２０ｐｐｍという高濃度で添加されている。また最近ではヒドラジンに発癌性がある等の理由から、ヒドラジンの代わりにエタノールアミンが使用される場合が多い。
【０００３】
発電所においては前記のような水の水質管理の目的で、前記水中の微量成分の分析を行っている。この分析には、手分析と工業計器による自動分析とがあり、自動分析においては、微量成分濃度が変化したときに変動する水の導電率を測定する導電率分析装置、及びイオンクロマトグラフィーによりイオンを連続測定するオンラインイオンクロマト装置等が使用される。
【０００４】
オンラインイオンクロマト装置による分析においては、例えばＮａ、Ｍｇ、Ｃａ及びＫイオン等の陽イオンが分析対象イオンとなる。前述のような水に添加されるアンモニア及びエタノールアミンも陽イオンを生成するので、これらが前記水中に高濃度で存在すると、クロマトグラム上には、これらから生成された陽イオンに基づく巨大なピークが現れ、前記分析対象イオンの測定を困難にする場合がある。したがってこのような水は、そのままの状態でオンラインイオンクロマト装置に供することはできず、分析前に、分析妨害成分の影響を排除する前処理を行うことが必要となる。
【０００５】
発電所における前記水質管理分析においては、その分析結果を直ちに発電所プラントの運転にフィードバックする必要があり、また前述のような水の採取後直ちに分析を行わないと、分析精度が低下するので、前記水の前処理に時間をかけることができない。
【０００６】
このような事情から従来のオンラインイオンクロマト装置による分析においては、アンモニア等の分析妨害成分の影響を排除するための手段として、発電所で使用される水の濃縮方法を調整する手段を採用していた。すなわちイオン交換樹脂等を用いた前記水の濃縮において、前記水の中に残存する前記妨害物質の濃度を低減させ、その妨害物質に基づくピークを小さくして、前記分析対象イオンのピークの測定が可能になるようにしていた。
【０００７】
しかし従来のこの方法では、前記妨害物質がなおも前記水の中に相当量存在するので、精度の良い前記分析対象イオンの分析は不可能であり、発電所における前記水質管理分析本来の目的を達成することは困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００８】
この発明は、イオンクロマト分析等の化学分析におけるこのような不都合を解消するためになされたものである。すなわちこの発明の目的は、化学分析において、分析妨害成分を、分析対象イオンの精度の良い分析が可能となる程度に除去することができ、また迅速に除去することのできる化学分析用前処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【０００９】
前記目的を達成するためのこの発明は、外管、前記外管内に収容される光触媒部、及び前記外管内に収容される紫外線照射部を有して成り、液体試料に含有される分析妨害成分を光触媒反応により分解することのできる光触媒反応分解手段と、該光触媒反応分解手段により得られた分解処理済み試料の供給を受けることができ、供給された液体に含有される揮発性分析妨害成分を蒸発除去することのできる蒸発除去手段とを有して成ることを特徴とする化学分析用前処理装置であり、
また化学分析用前処理装置の好適な態様として、前記光触媒反応分解手段に液体試料を供給することのできる第１流路と、前記光触媒反応分解手段により得られた分解処理済み試料を前記蒸発除去手段に送ることのできる第２流路とを有し、
前記第１流路を流通する液体試料を、前記光触媒反応分解手段に流通させることなく、前記蒸発除去手段に送ることのできる迂回流路形成手段を備え、
前記迂回流路形成手段は、前記第１流路に設けられた第１三方切り替えバルブと、前記第２流路に設けられた第２三方切り替えバルブと、前記第１三方切り替えバルブから延び、第２三方切り替えバルブに至る迂回流路とを有して成り、
前記蒸発除去手段は、液体を加熱して、その液体中の揮発性成分を蒸発除去することのできる加熱手段と、液体を脱気して、その液体中の揮発性成分を蒸発除去することのできる脱気手段とを有して成り、
前記光触媒反応分解手段は、光触媒として二酸化チタンを有する。
【発明の効果】
【００１０】
この発明に係る化学分析用前処理装置は、光触媒反応分解手段及び蒸発除去手段を有することにより、分析妨害成分を効果的に除去することができる。すなわちこの発明に係る化学分析用前処理装置は、蒸発除去処理のみで除去することができず、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分と、蒸発除去処理のみで除去することができる分析妨害成分との両方を除去することができる。
【００１１】
この発明に係る化学分析用前処理装置は、迂回流路形成手段を設けることにより、発電所で使用される水が光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含まない場合には、前記水を光触媒反応分解手段に通すことなく直接加熱手段に導入することができる。すなわちこの発明に係る化学分析用前処理装置は、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含有する水と、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含有しない水との両方に対して好適に使用することができる。
【００１２】
またこのことによりこの発明に係る化学分析用前処理装置は、発電所で使用される水の迅速的な、効率の良い前処理が可能になり、また光触媒反応分解手段に加わる負担を軽減して、光触媒反応分解手段の寿命を延長することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【００１３】
【図１】図１は、この発明に係る化学分析用前処理装置の一具体例であるイオンクロマト分析用前処理装置１の概念図である。
【図２】図２は、光触媒反応分解装置３の部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【００１４】
図１は、この発明に係る化学分析用前処理装置の一具体例であるイオンクロマト分析用前処理装置１の概念図である。
【００１５】
イオンクロマト分析用前処理装置１は、ポンプ２と、光触媒反応分解装置３と、加熱装置４と、脱気装置５と、第１流路６と、第２流路７と、第３流路８と、第１三方切り替えバルブ９と、第２三方切り替えバルブ１０と、迂回流路１１とを有して成る。なお、光触媒反応分解装置３は光触媒反応分解手段の一例であり、加熱装置４は加熱手段の一例であり、脱気装置５は脱気手段の一例である。
【００１６】
第１流路６は、水の供給流路であり、発電所で使用される水を光触媒反応分解装置３に供給する流路である。第１流路６は、その一端が光触媒反応分解装置３に結合し、その他端が例えば前記水を収容する槽等に結合する。ポンプ２は、第１流路６に設けられ、前記水を所定の流量で第１流路６に送液することができる。
【００１７】
光触媒反応分解装置３は、第１流路６により送液されてきた前記水を受容し、その水に含有される分析妨害成分を光触媒反応により分解することのできる装置である。光触媒反応分解装置３に供給された水は、光触媒反応分解装置３による光触媒反応を受けて分解処理済みの水となる。
【００１８】
光触媒反応分解装置３は、発電所で使用される水に含有される分析妨害成分を分解することのできる光触媒を備える。前記光触媒としては、目的とする分析妨害成分を好適に分解することができれば特に制限はなく、例えば分析妨害成分がエタノールアミンである場合には、二酸化チタンを使用することができる。
【００１９】
図２は、光触媒反応分解装置３の部分縦断面図である。光触媒反応分解装置３は、外管１６と、光触媒部１７と、紫外線照射部１８とを有して成る。外管１６は、光触媒反応分解装置３の外殻を成す部材である。
【００２０】
光触媒部１７は、Ｕ字型の形状を有する線状体であり、平行に形成されたその両端直線部が外管１６の周面に平行になるように、外管１６内に収容されている。光触媒部１７は、管状に形成されてなる管状体と、その表面に形成された光触媒被膜とを有して成る。光触媒部１７における光触媒被膜は、例えばゾルゲル法により製造することができる。光触媒として二酸化チタンを用いる場合には、光触媒被膜は、ゾルゲル法により、例えば次のようにして作成することできる。二酸チタンを溶剤、例えばテトラブトキサイドに分散させ、濃度が３〜６％である二酸化チタン分散液を調製し、これをＳｉＯ２等の管状体に塗付し、乾燥後、例えば５００℃で燒結する。
【００２１】
紫外線照射部１８は、外管１６内に収容され、光触媒部１７の両端部の間に、これらに平行になるように配置されている。紫外線照射部１８は、光触媒反応に必要な紫外線を照射する。紫外線照射部１８としては、光触媒反応に必要な紫外線を照射することのできる公知の紫外線照射手段例えば紫外線ランプを使用することができる。
【００２２】
なお、この発明に係る光触媒反応分解装置の構造は、図２に示される構造に制限されることはなく、発電所で使用される水に含有される分析妨害成分を前記光触媒により連続的に分解することができれば、どのような構造であってもかまわない。
【００２３】
第２流路７は、光触媒反応分解装置３と加熱装置４とを結ぶ流路であり、光触媒反応分解装置３で生成された分解処理済みの水を加熱装置４に供給することができる。したがって第２流路７は、分解処理済みの水の供給流路として機能することができる。
【００２４】
第１三方切り替えバルブ９は、第１流路６に設けられている。したがって第１流路６は、第１三方切り替えバルブ９からポンプ２側に延びる第１流路前半部１２と、第１三方切り替えバルブ９から光触媒反応分解装置３側に延びる第１流路後半部１３とに分けることができる。
【００２５】
第２三方切り替えバルブ１０は、第２流路７に設けられている。したがって第２流路７は、第２三方切り替えバルブ１０から光触媒反応分解装置３側に延びる第２流路前半部１４と、第２三方切り替えバルブ１０から加熱装置４側に延びる第２流路後半部１５とに分けることができる。
【００２６】
迂回流路１１は、第１三方切り替えバルブ９と第２三方切り替えバルブ１０とを結ぶ流路である。
【００２７】
したがって第１三方切り替えバルブ９は、第１流路前半部１２を通って第１三方切り替えバルブ９に至った水を、第１流路後半部１３と迂回流路１１とのいずれか一方に流通させることができる。また第２三方切り替えバルブ１０は、第２流路前半部１３を通って第２三方切り替えバルブ１０に至った水と迂回流路１１を通って第２三方切り替えバルブ１０に至った水とのいずれか一方を、第２流路後半部１５に流通させることができる。
【００２８】
このように第１三方切り替えバルブ９、第２三方切り替えバルブ１０及び迂回流路１１は、迂回路形成手段を形成する。
【００２９】
なお、この発明に係る迂回路形成手段としては、水の供給流路を流通する発電所で使用される水を、前記光触媒反応分解手段に流通させることなく、前記蒸発除去手段に送ることができれば、前記のような迂回路形成手段に制限されることはない。
【００３０】
加熱装置４は、第２流路後半部１５を通って供給された水を加熱処理して、その水に含有される揮発性成分を連続的に蒸発除去することのできる装置である。加熱装置４は、第２流路７により光触媒反応分解装置３と連通するので、光触媒反応分解装置３で生成された分解処理済みの水を受容し、これを加熱処理することができる。また加熱装置４は、迂回流路１１及び第２流路後半部１５により第１流路前半部１２と連通するので、光触媒反応分解装置３で処理されていない水を受容し、これを加熱処理することもできる。加熱装置４に供給された水は、加熱装置４で前記のように加熱処理されて加熱処理済みの水となる。
【００３１】
加熱装置４としては、前記機能を有していれば特に制限されることはなく、例えば公知の加熱装置を使用することができる。
【００３２】
第３流路８は、加熱装置４と脱気装置５とを結ぶ流路であり、加熱装置４で生成された加熱処理済みの水を脱気装置５に供給することができる。したがって第３流路８は、加熱処理済みの水の供給流路として機能する。
【００３３】
脱気装置５は、第３流路８を通って供給された加熱処理済みの水を脱気処理して、その水に含有される揮発性成分を連続的に蒸発除去することのできる装置である。脱気装置５に供給された加熱処理済みの水は、前記のように加熱処理されて前処理済みの水となる。
【００３４】
脱気装置５としては、前記機能を有していれば特に制限されることはなく、例えば公知の脱気装置を使用することができる。
【００３５】
このように加熱装置４及び脱気装置５は、加熱除去手段を形成する。
【００３６】
イオンクロマト分析用前処理装置１は、以上の構成を有することにより、次のように作用する。
【００３７】
まず発電所で使用される水中に、加熱処理及び脱気処理のみでは除去することができず、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分と、加熱処理及び脱気処理のみで除去することのできる揮発性分析妨害成分とが含有されている場合について説明する。
【００３８】
第１三方バルブ９は、第１流路前半部１２から第１流路後半部１３への流通を可能にし、第１流路前半部１２から迂回流路１１への流通を不能にするように調整され、第２三方バルブ１０は、第２流路前半部１４から第２流路後半部１５への流通を可能にし、迂回流路１１から第２流路後半部１５への流通を不能にするように調整される（以下、この状態を「光触媒反応分解装置経由状態」という。）。
【００３９】
発電所で使用される水は、ポンプ２の作用によって、第１流路前半部１２及び第１流路後半部１３を通って光触媒反応分解装置３に供給される。光触媒反応分解装置３に供給された前記水は、光触媒部１７と接触しながら外管１６内を通過する。その間に前記水に含まれる分解対象成分は、紫外線照射部１８から照射された紫外線を受けながら光触媒部１７の光触媒の作用を受け、光触媒反応を起こして分解される。その結果光触媒反応分解装置３により、前記水に含有される光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分が分解される。そして前記分析妨害成分が分解することにより生成された分解生成物を含有する光触媒反応処理済みの水が得られる。
【００４０】
この光触媒反応処理済みの水は、第２流路前半部１４及び第２流路後半部１５を通って、加熱装置４に供給される。加熱装置４に供給された前記光触媒反応処理済みの水は、加熱装置４によって加熱処理がなされ、その光触媒反応処理済みの水に含有される揮発性分析妨害成分は蒸発除去される。前記光触媒反応処理済みの水に含有される前記分解生成物が揮発性である場合には、その分解生成物も加熱装置４によって蒸発除去される。その結果加熱装置４により、前記光触媒反応処理済みの水から揮発性成分が蒸発除去されて生成された加熱処理済みの水が得られる。
【００４１】
前記加熱処理済みの水は、第３流路８を通って、脱気装置５に供給される。脱気装置５に供給された前記加熱処理済みの水は、脱気装置５によって脱気処理がなされ、その加熱処理済みの水に含有される揮発性分析妨害成分が蒸発除去される。揮発性の前記分解生成物についても同様に蒸発除去される。このことにより加熱装置４の前記加熱処理によっても除去しきれず、なおも前記加熱処理済みの水の中に残存する揮発性分析妨害成分を除去することができる。その結果脱気装置５により、前記加熱処理済みの水から揮発性成分が蒸発除去されて生成された前処理済みの水が得られる。
【００４２】
以上により発電所で使用される水に含まれるところの、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分は分解され、揮発性分析妨害成分は蒸発除去される。光触媒反応により生成された分解生成物が揮発性である場合には、その分解生成物も蒸発除去される。つまり前記水に含有されていた、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分、及び加熱処理及び脱気処理のみで除去することのできる揮発性分析妨害成分の両方が、イオンクロマト分析用前処理装置１により除去される。その結果、得られた前処理済みの水を使用してイオン分析を行えば、分析対象イオンの精度の良い分析が可能になる。
【００４３】
例えば発電所において水質調整のためにアンモニア及びエタノールアミンが添加された冷却水等の水に含有されるＮａイオン等の陽イオンを、オンラインイオンクロマト装置により分析する場合には、アンモニア及びエタノールアミンはイオンクロマト分析において分析妨害物質となるので、精度の良い分析を行うためには、発電所で使用される水からこれらの成分を事前に除去しておく必要がある。アンモニアは、蒸発除去処理だけでは除去することができるが、エタノールアミンは、蒸発除去処理だけでは除去することはできない。またエタノールアミンは、光触媒反応により分解することができ、蒸発除去可能な分解生成物を生じる。
【００４４】
この水をイオンクロマト分析用前処理装置１によって前記のように処理すると、エタノールアミンが光触媒反応分解装置３により分解され、揮発性のメタン、二酸化炭素、アンモニア等の分解生成物が生じ、この分解生成物と発電所で使用される水に最初から含まれていたアンモニアとが加熱装置４及び脱気装置５によって蒸発除去される。このようにして分析妨害物質であるアンモニア及びエタノールアミン、並びにエタノールアミンから生じた分解生成物が除去された前処理済みの水が得られる。この前処理済みの水を使用して、Ｎａ及びＭｇイオン等の分析対象成分の効果的な分析を行うことが可能である。
【００４５】
なお、アンモニアについては、一般的にその濃度が約３ｐｐｍ以上であると、Ｎａ及びＭｇイオン等のイオンクロマト分析は困難になり、約１ｐｐｍ以下であると、これらのイオンクロマト分析は精度良く行うことができる。またエタノールアミンについても、一般的にその濃度が約３ｐｐｍ以上であると、Ｎａ及びＭｇイオン等のイオンクロマト分析は困難になり、約１ｐｐｍ以下であると、これらのイオンクロマト分析は精度良く行うことができる。
【００４６】
発電所で使用される水が、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含まず、加熱処理及び脱気処理のみで除去することのできる揮発性分析妨害成分のみを含有する場合には、イオンクロマト分析用前処理装置１は次のように作用する。
【００４７】
第１三方バルブ９は、第１流路前半部１２から迂回流路１１への流通を可能にし、第１流路前半部１２から第１流路後半部１３への流通を不能にするように調整され、第２三方バルブ１０は、迂回流路１１から第２流路後半部１５への流通を可能にし、第２流路前半部１４から第２流路後半部１５への流通を不能にするように調整される（以下この状態を「迂回路経由状態」という）。
【００４８】
発電所で使用される水は、ポンプ２の作用によって、第１流路前半部１２、迂回流路１１及び第２流路後半部１５を通って、加熱装置４に供給される。加熱装置４に供給された水は、加熱装置４によって加熱処理がなされ、前記水に含有される揮発性分析妨害成分は蒸発除去される。その結果加熱装置４により、前記水から揮発性成分が蒸発除去されて生成された加熱処理済みの水が得られる。
【００４９】
前記加熱処理済みの水は、第３流路８を通って、脱気装置５に供給される。脱気装置５に供給された前記加熱処理済みの水は、脱気装置５によって脱気処理がなされ、その加熱処理済みの水に含有される揮発性分析妨害成分が蒸発除去される。このことにより加熱装置４の前記加熱処理によっても除去しきれず、なおも前記加熱処理済みの水に残存する揮発性分析妨害成分を脱気装置５によって除去することができる。その結果脱気装置５により、前記加熱処理済みの水から揮発性成分が蒸発除去されて生成された前処理済みの水が得られる。
【００５０】
以上により前記水に含まれる揮発性分析妨害成分は蒸発除去される。イオンクロマト分析用前処理装置１は、このように、発電所で使用される水が光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含まない場合には、その水を迂回流路１１に流通させて、光触媒反応分解装置３に通すことなく直接加熱装置４に導入することができる。このことにより前記水の迅速的な、効率の良い前処理が可能になり、また光触媒反応分解装置３に加わる負担を軽減して、光触媒反応分解装置３の寿命を延長することが可能になる。
【００５１】
得られた前処理済みの水を使用してイオン分析を行えば、分析対象イオンの精度の良い分析が可能になる。
【００５２】
例えば発電所において水質調整のためにアンモニア及びヒドラジンが添加された冷却水等の水に含有されたＮａイオン等の陽イオンを、オンラインイオンクロマト装置により分析する場合には、アンモニア及びヒドラジンはイオンクロマト分析において分析妨害物質となるので、精度の良い分析を行うためには、発電所で使用される水からこれらの成分を事前に除去しておく必要がある。アンモニア及びヒドラジンは、蒸発除去処理のみにより除去することができる物質である。
【００５３】
この水をイオンクロマト分析用前処理装置１によって前記のように処理すると、前記水に含有されていたアンモニア及びヒドラジンが加熱装置４及び脱気装置５によって蒸発除去される。このようにして分析妨害物質であるアンモニア及びヒドラジンが除去された前処理済みの水が得られる。この前処理済みの水を使用して、Ｎａ及びＭｇイオン等の分析対象成分の効果的な分析を行うことが可能である。
【００５４】
以上からわかるように、イオンクロマト分析用前処理装置１は、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含有する水と、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含有しない水との両方に対して好適に使用することができる。
【００５５】
発電所においては、水質調整のために冷却水等にアンモニア及びエタノールアミンを添加する場合と、アンモニア及びヒドラジンを添加する場合とがあるが、そのどちらの場合であっても、前述のように、その水質検査のためのイオンクロマト分析に対する前処理にイオンクロマト分析用前処理装置１を使用することが可能である。
【００５６】
光触媒反応分解装置３における処理条件としては、光触媒反応により分解対象成分を効果的に分解することができれば特に制限はないが、処理温度が１０〜６０℃であり、処理時間が１５〜６０分間であると、好適な分解処理をすることができる。
【００５７】
加熱装置４における処理条件としては、加熱処理により対象成分を効果的に除去することができれば特に制限はないが、処理温度が８０〜１２０℃であり、処理時間が１０〜３０分間であると、好適な除去をすることができる。
【００５８】
脱気装置５における処理条件としては、加熱処理により対象成分を効果的に除去することができれば特に制限はないが、処理温度が４０〜６０℃であり、処理時間が１０〜３０分間であり、処理圧力が５０〜７６０ｍｍＨｇであると、好適な除去をすることができる。
【００５９】
イオンクロマト分析用前処理装置１は、発電所等を初めとする、イオンクロマト分析を行う広範囲の分野において使用することができ、中でも発電所の水質検査用として好適に使用することができる。
【００６０】
また、この発明に係る化学分析用前処理装置は、イオンクロマト分析に限らず、前処理として分析妨害成分の除去が必要な化学分析に広く適用することができる。
【実施例】
【００６１】
以下、実施例により、より具体的にこの発明にかかる化学分析用前処理装置を説明する。
（１）装置
図１に示した構造を有する化学分析用前処理装置を使用した。
光触媒反応分解装置は、ＳｉＯ２で形成された管状体にＴｉＯ２を被膜して成る、全長４５０ｍｍの光触媒部を有する。紫外線照射部は、１８５〜３５６ｎｍの紫外線を照射する。処理温度は４０℃であった。
【００６２】
加熱装置の構造は、電気ヒータ加熱部にＰＥＥＫ製配管（外径１．６ｍｍ、内径０．５ｍｍ）を均一に巻きつけて成る構造である。処理温度は８０℃であった。
【００６３】
脱気装置の構造は、脱気装置内部に中空糸膜を装填して成る構造である。処理温度は、６０℃であり、処理圧力は７６０ｍｍＨｇであった。
【００６４】
（２）試料
アンモニウムを１０ｐｐｍ含有する水溶液（試料１）と、エタノールアミンを２０ｐｐｍ含有する水溶液（試料２）とを使用した。
【００６５】
（３）試験方法及び結果
試料１については、化学分析用前処理装置を迂回路経由状態にし、光触媒反応分解装置を流通させることなく、加熱装置及び脱気装置に５ｍＬ／ｍｉｎの流速で流通させた。脱気装置通過後のアンモニア濃度を日機装（株）製７３１０−２０型イオンクロマトグラム分析装置により測定した。その結果をアンモニア最終濃度として、表１に示した。
【００６６】
試料２については、化学分析用前処理装置を光触媒反応分解装置経由状態にし、光触媒反応分解装置、加熱装置及び脱気装置に３ｍＬ／ｍｉｎ、７ｍＬ／ｍｉｎ、８ｍＬ／ｍｉｎ及び１０ｍＬ／ｍｉｎの流速で流通させた。脱気装置通過後のアンモニア濃度及びエタノールアミン濃度を日機装（株）製７３１０−２０型イオンクロマトグラム分析装置により測定した。その結果をアンモニア最終濃度及びエタノールアミン最終濃度として、表１に示した。
【００６７】
【表１】
【符号の説明】
【００６８】
１・・化学分析用前処理装置、２・・ポンプ、３・・光触媒反応分解装置、４・・加熱装置、５・・脱気装置、６・・第１流路、７・・第２流路、８・・第３流路、９・・第１三方切り替えバルブ、１０・・第２三方切り替えバルブ、１１・・迂回流路、１２・・第１流路前半部、１３・・第１流路後半部、１４・・第２流路前半部、１５・・第２流路後半部、１６・・外管１６、１７・・光触媒部、１８・・紫外線照射部
【技術分野】
【０００１】
この発明は、化学分析用前処理装置に関し、さらに詳しくはイオンクロマト分析等の化学分析における分析妨害成分を効率的に除去する化学分析用前処理装置に関する。
【背景技術】
【０００２】
発電所で使用される冷却水等の水には、通常水質調整のためにアンモニア及びヒドラジンが例えば１０〜２０ｐｐｍという高濃度で添加されている。また最近ではヒドラジンに発癌性がある等の理由から、ヒドラジンの代わりにエタノールアミンが使用される場合が多い。
【０００３】
発電所においては前記のような水の水質管理の目的で、前記水中の微量成分の分析を行っている。この分析には、手分析と工業計器による自動分析とがあり、自動分析においては、微量成分濃度が変化したときに変動する水の導電率を測定する導電率分析装置、及びイオンクロマトグラフィーによりイオンを連続測定するオンラインイオンクロマト装置等が使用される。
【０００４】
オンラインイオンクロマト装置による分析においては、例えばＮａ、Ｍｇ、Ｃａ及びＫイオン等の陽イオンが分析対象イオンとなる。前述のような水に添加されるアンモニア及びエタノールアミンも陽イオンを生成するので、これらが前記水中に高濃度で存在すると、クロマトグラム上には、これらから生成された陽イオンに基づく巨大なピークが現れ、前記分析対象イオンの測定を困難にする場合がある。したがってこのような水は、そのままの状態でオンラインイオンクロマト装置に供することはできず、分析前に、分析妨害成分の影響を排除する前処理を行うことが必要となる。
【０００５】
発電所における前記水質管理分析においては、その分析結果を直ちに発電所プラントの運転にフィードバックする必要があり、また前述のような水の採取後直ちに分析を行わないと、分析精度が低下するので、前記水の前処理に時間をかけることができない。
【０００６】
このような事情から従来のオンラインイオンクロマト装置による分析においては、アンモニア等の分析妨害成分の影響を排除するための手段として、発電所で使用される水の濃縮方法を調整する手段を採用していた。すなわちイオン交換樹脂等を用いた前記水の濃縮において、前記水の中に残存する前記妨害物質の濃度を低減させ、その妨害物質に基づくピークを小さくして、前記分析対象イオンのピークの測定が可能になるようにしていた。
【０００７】
しかし従来のこの方法では、前記妨害物質がなおも前記水の中に相当量存在するので、精度の良い前記分析対象イオンの分析は不可能であり、発電所における前記水質管理分析本来の目的を達成することは困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００８】
この発明は、イオンクロマト分析等の化学分析におけるこのような不都合を解消するためになされたものである。すなわちこの発明の目的は、化学分析において、分析妨害成分を、分析対象イオンの精度の良い分析が可能となる程度に除去することができ、また迅速に除去することのできる化学分析用前処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【０００９】
前記目的を達成するためのこの発明は、外管、前記外管内に収容される光触媒部、及び前記外管内に収容される紫外線照射部を有して成り、液体試料に含有される分析妨害成分を光触媒反応により分解することのできる光触媒反応分解手段と、該光触媒反応分解手段により得られた分解処理済み試料の供給を受けることができ、供給された液体に含有される揮発性分析妨害成分を蒸発除去することのできる蒸発除去手段とを有して成ることを特徴とする化学分析用前処理装置であり、
また化学分析用前処理装置の好適な態様として、前記光触媒反応分解手段に液体試料を供給することのできる第１流路と、前記光触媒反応分解手段により得られた分解処理済み試料を前記蒸発除去手段に送ることのできる第２流路とを有し、
前記第１流路を流通する液体試料を、前記光触媒反応分解手段に流通させることなく、前記蒸発除去手段に送ることのできる迂回流路形成手段を備え、
前記迂回流路形成手段は、前記第１流路に設けられた第１三方切り替えバルブと、前記第２流路に設けられた第２三方切り替えバルブと、前記第１三方切り替えバルブから延び、第２三方切り替えバルブに至る迂回流路とを有して成り、
前記蒸発除去手段は、液体を加熱して、その液体中の揮発性成分を蒸発除去することのできる加熱手段と、液体を脱気して、その液体中の揮発性成分を蒸発除去することのできる脱気手段とを有して成り、
前記光触媒反応分解手段は、光触媒として二酸化チタンを有する。
【発明の効果】
【００１０】
この発明に係る化学分析用前処理装置は、光触媒反応分解手段及び蒸発除去手段を有することにより、分析妨害成分を効果的に除去することができる。すなわちこの発明に係る化学分析用前処理装置は、蒸発除去処理のみで除去することができず、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分と、蒸発除去処理のみで除去することができる分析妨害成分との両方を除去することができる。
【００１１】
この発明に係る化学分析用前処理装置は、迂回流路形成手段を設けることにより、発電所で使用される水が光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含まない場合には、前記水を光触媒反応分解手段に通すことなく直接加熱手段に導入することができる。すなわちこの発明に係る化学分析用前処理装置は、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含有する水と、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含有しない水との両方に対して好適に使用することができる。
【００１２】
またこのことによりこの発明に係る化学分析用前処理装置は、発電所で使用される水の迅速的な、効率の良い前処理が可能になり、また光触媒反応分解手段に加わる負担を軽減して、光触媒反応分解手段の寿命を延長することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【００１３】
【図１】図１は、この発明に係る化学分析用前処理装置の一具体例であるイオンクロマト分析用前処理装置１の概念図である。
【図２】図２は、光触媒反応分解装置３の部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【００１４】
図１は、この発明に係る化学分析用前処理装置の一具体例であるイオンクロマト分析用前処理装置１の概念図である。
【００１５】
イオンクロマト分析用前処理装置１は、ポンプ２と、光触媒反応分解装置３と、加熱装置４と、脱気装置５と、第１流路６と、第２流路７と、第３流路８と、第１三方切り替えバルブ９と、第２三方切り替えバルブ１０と、迂回流路１１とを有して成る。なお、光触媒反応分解装置３は光触媒反応分解手段の一例であり、加熱装置４は加熱手段の一例であり、脱気装置５は脱気手段の一例である。
【００１６】
第１流路６は、水の供給流路であり、発電所で使用される水を光触媒反応分解装置３に供給する流路である。第１流路６は、その一端が光触媒反応分解装置３に結合し、その他端が例えば前記水を収容する槽等に結合する。ポンプ２は、第１流路６に設けられ、前記水を所定の流量で第１流路６に送液することができる。
【００１７】
光触媒反応分解装置３は、第１流路６により送液されてきた前記水を受容し、その水に含有される分析妨害成分を光触媒反応により分解することのできる装置である。光触媒反応分解装置３に供給された水は、光触媒反応分解装置３による光触媒反応を受けて分解処理済みの水となる。
【００１８】
光触媒反応分解装置３は、発電所で使用される水に含有される分析妨害成分を分解することのできる光触媒を備える。前記光触媒としては、目的とする分析妨害成分を好適に分解することができれば特に制限はなく、例えば分析妨害成分がエタノールアミンである場合には、二酸化チタンを使用することができる。
【００１９】
図２は、光触媒反応分解装置３の部分縦断面図である。光触媒反応分解装置３は、外管１６と、光触媒部１７と、紫外線照射部１８とを有して成る。外管１６は、光触媒反応分解装置３の外殻を成す部材である。
【００２０】
光触媒部１７は、Ｕ字型の形状を有する線状体であり、平行に形成されたその両端直線部が外管１６の周面に平行になるように、外管１６内に収容されている。光触媒部１７は、管状に形成されてなる管状体と、その表面に形成された光触媒被膜とを有して成る。光触媒部１７における光触媒被膜は、例えばゾルゲル法により製造することができる。光触媒として二酸化チタンを用いる場合には、光触媒被膜は、ゾルゲル法により、例えば次のようにして作成することできる。二酸チタンを溶剤、例えばテトラブトキサイドに分散させ、濃度が３〜６％である二酸化チタン分散液を調製し、これをＳｉＯ２等の管状体に塗付し、乾燥後、例えば５００℃で燒結する。
【００２１】
紫外線照射部１８は、外管１６内に収容され、光触媒部１７の両端部の間に、これらに平行になるように配置されている。紫外線照射部１８は、光触媒反応に必要な紫外線を照射する。紫外線照射部１８としては、光触媒反応に必要な紫外線を照射することのできる公知の紫外線照射手段例えば紫外線ランプを使用することができる。
【００２２】
なお、この発明に係る光触媒反応分解装置の構造は、図２に示される構造に制限されることはなく、発電所で使用される水に含有される分析妨害成分を前記光触媒により連続的に分解することができれば、どのような構造であってもかまわない。
【００２３】
第２流路７は、光触媒反応分解装置３と加熱装置４とを結ぶ流路であり、光触媒反応分解装置３で生成された分解処理済みの水を加熱装置４に供給することができる。したがって第２流路７は、分解処理済みの水の供給流路として機能することができる。
【００２４】
第１三方切り替えバルブ９は、第１流路６に設けられている。したがって第１流路６は、第１三方切り替えバルブ９からポンプ２側に延びる第１流路前半部１２と、第１三方切り替えバルブ９から光触媒反応分解装置３側に延びる第１流路後半部１３とに分けることができる。
【００２５】
第２三方切り替えバルブ１０は、第２流路７に設けられている。したがって第２流路７は、第２三方切り替えバルブ１０から光触媒反応分解装置３側に延びる第２流路前半部１４と、第２三方切り替えバルブ１０から加熱装置４側に延びる第２流路後半部１５とに分けることができる。
【００２６】
迂回流路１１は、第１三方切り替えバルブ９と第２三方切り替えバルブ１０とを結ぶ流路である。
【００２７】
したがって第１三方切り替えバルブ９は、第１流路前半部１２を通って第１三方切り替えバルブ９に至った水を、第１流路後半部１３と迂回流路１１とのいずれか一方に流通させることができる。また第２三方切り替えバルブ１０は、第２流路前半部１３を通って第２三方切り替えバルブ１０に至った水と迂回流路１１を通って第２三方切り替えバルブ１０に至った水とのいずれか一方を、第２流路後半部１５に流通させることができる。
【００２８】
このように第１三方切り替えバルブ９、第２三方切り替えバルブ１０及び迂回流路１１は、迂回路形成手段を形成する。
【００２９】
なお、この発明に係る迂回路形成手段としては、水の供給流路を流通する発電所で使用される水を、前記光触媒反応分解手段に流通させることなく、前記蒸発除去手段に送ることができれば、前記のような迂回路形成手段に制限されることはない。
【００３０】
加熱装置４は、第２流路後半部１５を通って供給された水を加熱処理して、その水に含有される揮発性成分を連続的に蒸発除去することのできる装置である。加熱装置４は、第２流路７により光触媒反応分解装置３と連通するので、光触媒反応分解装置３で生成された分解処理済みの水を受容し、これを加熱処理することができる。また加熱装置４は、迂回流路１１及び第２流路後半部１５により第１流路前半部１２と連通するので、光触媒反応分解装置３で処理されていない水を受容し、これを加熱処理することもできる。加熱装置４に供給された水は、加熱装置４で前記のように加熱処理されて加熱処理済みの水となる。
【００３１】
加熱装置４としては、前記機能を有していれば特に制限されることはなく、例えば公知の加熱装置を使用することができる。
【００３２】
第３流路８は、加熱装置４と脱気装置５とを結ぶ流路であり、加熱装置４で生成された加熱処理済みの水を脱気装置５に供給することができる。したがって第３流路８は、加熱処理済みの水の供給流路として機能する。
【００３３】
脱気装置５は、第３流路８を通って供給された加熱処理済みの水を脱気処理して、その水に含有される揮発性成分を連続的に蒸発除去することのできる装置である。脱気装置５に供給された加熱処理済みの水は、前記のように加熱処理されて前処理済みの水となる。
【００３４】
脱気装置５としては、前記機能を有していれば特に制限されることはなく、例えば公知の脱気装置を使用することができる。
【００３５】
このように加熱装置４及び脱気装置５は、加熱除去手段を形成する。
【００３６】
イオンクロマト分析用前処理装置１は、以上の構成を有することにより、次のように作用する。
【００３７】
まず発電所で使用される水中に、加熱処理及び脱気処理のみでは除去することができず、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分と、加熱処理及び脱気処理のみで除去することのできる揮発性分析妨害成分とが含有されている場合について説明する。
【００３８】
第１三方バルブ９は、第１流路前半部１２から第１流路後半部１３への流通を可能にし、第１流路前半部１２から迂回流路１１への流通を不能にするように調整され、第２三方バルブ１０は、第２流路前半部１４から第２流路後半部１５への流通を可能にし、迂回流路１１から第２流路後半部１５への流通を不能にするように調整される（以下、この状態を「光触媒反応分解装置経由状態」という。）。
【００３９】
発電所で使用される水は、ポンプ２の作用によって、第１流路前半部１２及び第１流路後半部１３を通って光触媒反応分解装置３に供給される。光触媒反応分解装置３に供給された前記水は、光触媒部１７と接触しながら外管１６内を通過する。その間に前記水に含まれる分解対象成分は、紫外線照射部１８から照射された紫外線を受けながら光触媒部１７の光触媒の作用を受け、光触媒反応を起こして分解される。その結果光触媒反応分解装置３により、前記水に含有される光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分が分解される。そして前記分析妨害成分が分解することにより生成された分解生成物を含有する光触媒反応処理済みの水が得られる。
【００４０】
この光触媒反応処理済みの水は、第２流路前半部１４及び第２流路後半部１５を通って、加熱装置４に供給される。加熱装置４に供給された前記光触媒反応処理済みの水は、加熱装置４によって加熱処理がなされ、その光触媒反応処理済みの水に含有される揮発性分析妨害成分は蒸発除去される。前記光触媒反応処理済みの水に含有される前記分解生成物が揮発性である場合には、その分解生成物も加熱装置４によって蒸発除去される。その結果加熱装置４により、前記光触媒反応処理済みの水から揮発性成分が蒸発除去されて生成された加熱処理済みの水が得られる。
【００４１】
前記加熱処理済みの水は、第３流路８を通って、脱気装置５に供給される。脱気装置５に供給された前記加熱処理済みの水は、脱気装置５によって脱気処理がなされ、その加熱処理済みの水に含有される揮発性分析妨害成分が蒸発除去される。揮発性の前記分解生成物についても同様に蒸発除去される。このことにより加熱装置４の前記加熱処理によっても除去しきれず、なおも前記加熱処理済みの水の中に残存する揮発性分析妨害成分を除去することができる。その結果脱気装置５により、前記加熱処理済みの水から揮発性成分が蒸発除去されて生成された前処理済みの水が得られる。
【００４２】
以上により発電所で使用される水に含まれるところの、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分は分解され、揮発性分析妨害成分は蒸発除去される。光触媒反応により生成された分解生成物が揮発性である場合には、その分解生成物も蒸発除去される。つまり前記水に含有されていた、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分、及び加熱処理及び脱気処理のみで除去することのできる揮発性分析妨害成分の両方が、イオンクロマト分析用前処理装置１により除去される。その結果、得られた前処理済みの水を使用してイオン分析を行えば、分析対象イオンの精度の良い分析が可能になる。
【００４３】
例えば発電所において水質調整のためにアンモニア及びエタノールアミンが添加された冷却水等の水に含有されるＮａイオン等の陽イオンを、オンラインイオンクロマト装置により分析する場合には、アンモニア及びエタノールアミンはイオンクロマト分析において分析妨害物質となるので、精度の良い分析を行うためには、発電所で使用される水からこれらの成分を事前に除去しておく必要がある。アンモニアは、蒸発除去処理だけでは除去することができるが、エタノールアミンは、蒸発除去処理だけでは除去することはできない。またエタノールアミンは、光触媒反応により分解することができ、蒸発除去可能な分解生成物を生じる。
【００４４】
この水をイオンクロマト分析用前処理装置１によって前記のように処理すると、エタノールアミンが光触媒反応分解装置３により分解され、揮発性のメタン、二酸化炭素、アンモニア等の分解生成物が生じ、この分解生成物と発電所で使用される水に最初から含まれていたアンモニアとが加熱装置４及び脱気装置５によって蒸発除去される。このようにして分析妨害物質であるアンモニア及びエタノールアミン、並びにエタノールアミンから生じた分解生成物が除去された前処理済みの水が得られる。この前処理済みの水を使用して、Ｎａ及びＭｇイオン等の分析対象成分の効果的な分析を行うことが可能である。
【００４５】
なお、アンモニアについては、一般的にその濃度が約３ｐｐｍ以上であると、Ｎａ及びＭｇイオン等のイオンクロマト分析は困難になり、約１ｐｐｍ以下であると、これらのイオンクロマト分析は精度良く行うことができる。またエタノールアミンについても、一般的にその濃度が約３ｐｐｍ以上であると、Ｎａ及びＭｇイオン等のイオンクロマト分析は困難になり、約１ｐｐｍ以下であると、これらのイオンクロマト分析は精度良く行うことができる。
【００４６】
発電所で使用される水が、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含まず、加熱処理及び脱気処理のみで除去することのできる揮発性分析妨害成分のみを含有する場合には、イオンクロマト分析用前処理装置１は次のように作用する。
【００４７】
第１三方バルブ９は、第１流路前半部１２から迂回流路１１への流通を可能にし、第１流路前半部１２から第１流路後半部１３への流通を不能にするように調整され、第２三方バルブ１０は、迂回流路１１から第２流路後半部１５への流通を可能にし、第２流路前半部１４から第２流路後半部１５への流通を不能にするように調整される（以下この状態を「迂回路経由状態」という）。
【００４８】
発電所で使用される水は、ポンプ２の作用によって、第１流路前半部１２、迂回流路１１及び第２流路後半部１５を通って、加熱装置４に供給される。加熱装置４に供給された水は、加熱装置４によって加熱処理がなされ、前記水に含有される揮発性分析妨害成分は蒸発除去される。その結果加熱装置４により、前記水から揮発性成分が蒸発除去されて生成された加熱処理済みの水が得られる。
【００４９】
前記加熱処理済みの水は、第３流路８を通って、脱気装置５に供給される。脱気装置５に供給された前記加熱処理済みの水は、脱気装置５によって脱気処理がなされ、その加熱処理済みの水に含有される揮発性分析妨害成分が蒸発除去される。このことにより加熱装置４の前記加熱処理によっても除去しきれず、なおも前記加熱処理済みの水に残存する揮発性分析妨害成分を脱気装置５によって除去することができる。その結果脱気装置５により、前記加熱処理済みの水から揮発性成分が蒸発除去されて生成された前処理済みの水が得られる。
【００５０】
以上により前記水に含まれる揮発性分析妨害成分は蒸発除去される。イオンクロマト分析用前処理装置１は、このように、発電所で使用される水が光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含まない場合には、その水を迂回流路１１に流通させて、光触媒反応分解装置３に通すことなく直接加熱装置４に導入することができる。このことにより前記水の迅速的な、効率の良い前処理が可能になり、また光触媒反応分解装置３に加わる負担を軽減して、光触媒反応分解装置３の寿命を延長することが可能になる。
【００５１】
得られた前処理済みの水を使用してイオン分析を行えば、分析対象イオンの精度の良い分析が可能になる。
【００５２】
例えば発電所において水質調整のためにアンモニア及びヒドラジンが添加された冷却水等の水に含有されたＮａイオン等の陽イオンを、オンラインイオンクロマト装置により分析する場合には、アンモニア及びヒドラジンはイオンクロマト分析において分析妨害物質となるので、精度の良い分析を行うためには、発電所で使用される水からこれらの成分を事前に除去しておく必要がある。アンモニア及びヒドラジンは、蒸発除去処理のみにより除去することができる物質である。
【００５３】
この水をイオンクロマト分析用前処理装置１によって前記のように処理すると、前記水に含有されていたアンモニア及びヒドラジンが加熱装置４及び脱気装置５によって蒸発除去される。このようにして分析妨害物質であるアンモニア及びヒドラジンが除去された前処理済みの水が得られる。この前処理済みの水を使用して、Ｎａ及びＭｇイオン等の分析対象成分の効果的な分析を行うことが可能である。
【００５４】
以上からわかるように、イオンクロマト分析用前処理装置１は、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含有する水と、光触媒反応により分解する必要がある分析妨害成分を含有しない水との両方に対して好適に使用することができる。
【００５５】
発電所においては、水質調整のために冷却水等にアンモニア及びエタノールアミンを添加する場合と、アンモニア及びヒドラジンを添加する場合とがあるが、そのどちらの場合であっても、前述のように、その水質検査のためのイオンクロマト分析に対する前処理にイオンクロマト分析用前処理装置１を使用することが可能である。
【００５６】
光触媒反応分解装置３における処理条件としては、光触媒反応により分解対象成分を効果的に分解することができれば特に制限はないが、処理温度が１０〜６０℃であり、処理時間が１５〜６０分間であると、好適な分解処理をすることができる。
【００５７】
加熱装置４における処理条件としては、加熱処理により対象成分を効果的に除去することができれば特に制限はないが、処理温度が８０〜１２０℃であり、処理時間が１０〜３０分間であると、好適な除去をすることができる。
【００５８】
脱気装置５における処理条件としては、加熱処理により対象成分を効果的に除去することができれば特に制限はないが、処理温度が４０〜６０℃であり、処理時間が１０〜３０分間であり、処理圧力が５０〜７６０ｍｍＨｇであると、好適な除去をすることができる。
【００５９】
イオンクロマト分析用前処理装置１は、発電所等を初めとする、イオンクロマト分析を行う広範囲の分野において使用することができ、中でも発電所の水質検査用として好適に使用することができる。
【００６０】
また、この発明に係る化学分析用前処理装置は、イオンクロマト分析に限らず、前処理として分析妨害成分の除去が必要な化学分析に広く適用することができる。
【実施例】
【００６１】
以下、実施例により、より具体的にこの発明にかかる化学分析用前処理装置を説明する。
（１）装置
図１に示した構造を有する化学分析用前処理装置を使用した。
光触媒反応分解装置は、ＳｉＯ２で形成された管状体にＴｉＯ２を被膜して成る、全長４５０ｍｍの光触媒部を有する。紫外線照射部は、１８５〜３５６ｎｍの紫外線を照射する。処理温度は４０℃であった。
【００６２】
加熱装置の構造は、電気ヒータ加熱部にＰＥＥＫ製配管（外径１．６ｍｍ、内径０．５ｍｍ）を均一に巻きつけて成る構造である。処理温度は８０℃であった。
【００６３】
脱気装置の構造は、脱気装置内部に中空糸膜を装填して成る構造である。処理温度は、６０℃であり、処理圧力は７６０ｍｍＨｇであった。
【００６４】
（２）試料
アンモニウムを１０ｐｐｍ含有する水溶液（試料１）と、エタノールアミンを２０ｐｐｍ含有する水溶液（試料２）とを使用した。
【００６５】
（３）試験方法及び結果
試料１については、化学分析用前処理装置を迂回路経由状態にし、光触媒反応分解装置を流通させることなく、加熱装置及び脱気装置に５ｍＬ／ｍｉｎの流速で流通させた。脱気装置通過後のアンモニア濃度を日機装（株）製７３１０−２０型イオンクロマトグラム分析装置により測定した。その結果をアンモニア最終濃度として、表１に示した。
【００６６】
試料２については、化学分析用前処理装置を光触媒反応分解装置経由状態にし、光触媒反応分解装置、加熱装置及び脱気装置に３ｍＬ／ｍｉｎ、７ｍＬ／ｍｉｎ、８ｍＬ／ｍｉｎ及び１０ｍＬ／ｍｉｎの流速で流通させた。脱気装置通過後のアンモニア濃度及びエタノールアミン濃度を日機装（株）製７３１０−２０型イオンクロマトグラム分析装置により測定した。その結果をアンモニア最終濃度及びエタノールアミン最終濃度として、表１に示した。
【００６７】
【表１】
【符号の説明】
【００６８】
１・・化学分析用前処理装置、２・・ポンプ、３・・光触媒反応分解装置、４・・加熱装置、５・・脱気装置、６・・第１流路、７・・第２流路、８・・第３流路、９・・第１三方切り替えバルブ、１０・・第２三方切り替えバルブ、１１・・迂回流路、１２・・第１流路前半部、１３・・第１流路後半部、１４・・第２流路前半部、１５・・第２流路後半部、１６・・外管１６、１７・・光触媒部、１８・・紫外線照射部
【特許請求の範囲】
【請求項１】
外管、前記外管内に収容される光触媒部、及び前記外管内に収容される紫外線照射部を有して成り、液体試料に含有される分析妨害成分を光触媒反応により分解することのできる光触媒反応分解手段と、該光触媒反応分解手段により得られた分解処理済み試料の供給を受けることができ、供給された液体に含有される揮発性分析妨害成分を蒸発除去することのできる蒸発除去手段とを有して成ることを特徴とする化学分析用前処理装置。
【請求項２】
前記光触媒反応分解手段に液体試料を供給することのできる第１流路と、前記光触媒反応分解手段により得られた分解処理済み試料を前記蒸発除去手段に送ることのできる第２流路とを有する請求項１に記載の化学分析用前処理装置。
【請求項３】
前記第１流路を流通する液体試料を、前記光触媒反応分解手段に流通させることなく、前記蒸発除去手段に送ることのできる迂回流路形成手段を備えることを特徴とする請求項２に記載の化学分析用前処理装置。
【請求項４】
前記迂回流路形成手段は、前記第１流路に設けられた第１三方切り替えバルブと、前記第２流路に設けられた第２三方切り替えバルブと、前記第１三方切り替えバルブから延び、第２三方切り替えバルブに至る迂回流路とを有して成る請求項３に記載の化学分析用前処理装置。
【請求項５】
前記蒸発除去手段は、液体を加熱して、その液体中の揮発性成分を蒸発除去することのできる加熱手段と、液体を脱気して、その液体中の揮発性成分を蒸発除去することのできる脱気手段とを有して成る請求項１〜４のいずれか１項に記載の化学分析用前処理装置。
【請求項６】
前記光触媒反応分解手段は、光触媒として二酸化チタンを有する請求項１〜５のいずれか１項に記載の化学分析用前処理装置。
【請求項１】
外管、前記外管内に収容される光触媒部、及び前記外管内に収容される紫外線照射部を有して成り、液体試料に含有される分析妨害成分を光触媒反応により分解することのできる光触媒反応分解手段と、該光触媒反応分解手段により得られた分解処理済み試料の供給を受けることができ、供給された液体に含有される揮発性分析妨害成分を蒸発除去することのできる蒸発除去手段とを有して成ることを特徴とする化学分析用前処理装置。
【請求項２】
前記光触媒反応分解手段に液体試料を供給することのできる第１流路と、前記光触媒反応分解手段により得られた分解処理済み試料を前記蒸発除去手段に送ることのできる第２流路とを有する請求項１に記載の化学分析用前処理装置。
【請求項３】
前記第１流路を流通する液体試料を、前記光触媒反応分解手段に流通させることなく、前記蒸発除去手段に送ることのできる迂回流路形成手段を備えることを特徴とする請求項２に記載の化学分析用前処理装置。
【請求項４】
前記迂回流路形成手段は、前記第１流路に設けられた第１三方切り替えバルブと、前記第２流路に設けられた第２三方切り替えバルブと、前記第１三方切り替えバルブから延び、第２三方切り替えバルブに至る迂回流路とを有して成る請求項３に記載の化学分析用前処理装置。
【請求項５】
前記蒸発除去手段は、液体を加熱して、その液体中の揮発性成分を蒸発除去することのできる加熱手段と、液体を脱気して、その液体中の揮発性成分を蒸発除去することのできる脱気手段とを有して成る請求項１〜４のいずれか１項に記載の化学分析用前処理装置。
【請求項６】
前記光触媒反応分解手段は、光触媒として二酸化チタンを有する請求項１〜５のいずれか１項に記載の化学分析用前処理装置。
【図１】
【図２】
【図２】
【公開番号】特開２０１０−１２２２４０（Ｐ２０１０−１２２２４０Ａ）
【公開日】平成２２年６月３日（２０１０．６．３）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２０１０−５４９７８（Ｐ２０１０−５４９７８）
【出願日】平成２２年３月１１日（２０１０．３．１１）
【分割の表示】特願２００４−３０２８９１（Ｐ２００４−３０２８９１）の分割
【原出願日】平成１６年１０月１８日（２００４．１０．１８）
【出願人】（０００２２６２４２）日機装株式会社 (383)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２２年６月３日（２０１０．６．３）
【国際特許分類】
【出願日】平成２２年３月１１日（２０１０．３．１１）
【分割の表示】特願２００４−３０２８９１（Ｐ２００４−３０２８９１）の分割
【原出願日】平成１６年１０月１８日（２００４．１０．１８）
【出願人】（０００２２６２４２）日機装株式会社 (383)
【Ｆターム（参考）】
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