説明

化学分析用液体試料処理装置

【課題】 割れやすいガラス及び電源が必要なポンプを使用することなく、簡単なプロセスで、しかも安価に、紫外線照射による液体試料の酸化等が行われることが可能な化学分析用液体処理装置を提供することを課題とする。
【解決手段】 紫外線照射ランプの外周部に透光性のあるチューブを巻設した化学分析用液体試料処理装置である。すなわち、発光体と、発光体の外周部に設けられたチューブとを備え、上記チューブが液体試料を大気圧によって保持する内径に形成され、前記発光体によりチューブ内の液体試料が酸化処理されることを特徴とする装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
水質等の化学分析における前処理、特に酸化反応を行う液体試料処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水質の化学分析において、窒素化合物、又はリン化合物の定量分析は、環境化学、海洋化学などの分野において要求されている。このとき、窒素化合物は、硝酸イオン、亜硝酸イオンなどの酸化物、アンモニウムイオン、及び有機体窒素など複数の化合物が分析対象とされる。また、リン化合物にもパラリン酸、メタリン酸、オルトリン酸などの複数の酸化物、及び有機態リンなどの複数の化合物が分析対象とされる。
【0003】
液体試料中の全窒素の定量分析には、液体試料中の窒素化合物を最終酸化物の硝酸イオンまで酸化させた試料が用いられる。一例としては、液体試料の窒素化合物中の窒素が硝酸態窒素(NO3−N)に酸化された後、液体試料のpHを2〜3に調整し、硝酸イオンの波長220nmでの紫外吸光度が測定される。上記紫外吸光度は、窒素の化学的状態により変化するため、測定試料は最終酸化物質の硝酸イオンまで酸化する必要がある。
【0004】
また、液体試料中の全リンの定量分析には、液体試料中のリン化合物が最終酸化物のオルトリン酸まで酸化された試料が用いられる。一例としては、液体試料のリン化合物中のリンがオルトリン酸態リン(PO4-P)の状態に酸化された後、オルトリン酸をモリブデンイエロー、またはモリブデンブルー吸光光度法により発色定量される。このとき、リンの化学的状態により吸光度が変化するため、測定試料は最終酸化物のオルトリン酸まで酸化する必要がある。(特許文献1、2)。
【0005】
しかしながら、全窒素又は全リンの定量分析をするために、窒素化合物やリン化合物が酸化される作業は、通常、強酸性または強アルカリ性にした液体試料を、密閉した容器に入れて行われる。密閉された容器は、ブロックヒーター等で120℃まで高温加熱される。液体試料は、強酸、または強アルカリであるか、さらに強酸化剤が添加されているため、上記容器には、耐久性のある材料として、一般的にガラス、セラミックス、特殊金属等が用いられる。
【0006】
この液体試料は密閉容器内での加熱により、内部気圧が高くなる。よって、ガラス製又はセラミックス製容器に傷がついているときには、傷が微小であってもガラス又はセラミックス容器が破裂されることがある。このとき強酸性、または強アルカリ性の液体試料は周囲に飛散し、危険となる。また、セラミックスや特殊金属が容器に用いられた場合には、容器内の液体試料が外部から視認されないため、酸化反応の様子が観察できないという欠点がある。加えて、ヒーター自身の加熱による火傷に対する注意も必要となる。ヒーターの代わりにオートクレーブが用いられることもあるが、装置が高価になる。
【0007】
上記装置には、液体試料の加熱用ヒーターのためにAC100V相当の電源が必要とされる。このヒーターは出力が大きく、電池などの使用もできないので、現場でのいわゆるオンサイト作業には不向きである。さらに、酸化加熱前の予備加熱が必要になり、かつ、酸化加熱終了後の液体試料が分析可能な温度に冷えるまでの冷却時間も必要となる。
【0008】
上記の問題を解決する方法として、紫外線による窒素化合物及びリン化合物の酸化方法が提案されている(特許文献1、2)。
【0009】
しかしながら、紫外線による酸化装置が分析器に組み込まれる場合には、液体試料をポンプにより一定の流量を保った状態で、液体試料の酸化分解が行われる。このときポンプを稼動するための電源が必要となるため、前記ポンプを用いた装置は、現場でオンサイト作業する用途には不向きである。また、液体試料の流量を調節するため、もしくは液体試料の流路を切替えるために、液体試料の流量の調節バルブ、流路の切り替えバルブなどが必要となる。現場でのオンサイト作業のためには、装置ができるだけコンパクトであるほうが望ましく、バルブのない装置が望まれる。また、バルブの破損、閉め忘れ等による漏液も防止することが望まれる。
【0010】
また、別の分析方法として、紫外線により窒素化合物が還元される方法も提案されている。この場合には、硝酸イオンを亜硝酸イオンに還元するため、液体試料にエチレンジアミン四酢酸、クエン酸等の還元剤として働く化合物を添加し、紫外線照射により還元反応の速度が高められている(特許文献3)。
【0011】
しかしながら、紫外線により硝酸を還元するための分析装置においてもポンプが使用されており、前記紫外線による酸化装置を分析器に組み込む場合と同じ問題点が残されている。
【0012】
【特許文献1】特開2001−188045号公報
【特許文献2】特開2004−257916号公報
【特許文献3】特開平7−151767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、割れやすいガラス、及び電源が必要なポンプを使用することなく、簡単なプロセスで、しかも安価に、紫外線照射による液体試料の酸化等が可能な液体処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意検討を進めてきたが、紫外線照射ランプの外周部に透光性のあるチューブを巻設した液体試料処理装置が、小型軽量化による携帯性を有し、かつ安価に実現されることを発見し、本発明に至った。
【0015】
すなわち本発明の化学分析用液体試料処理装置は、請求項1として、発光体と、発光体の外部に設けられたチューブとを備え、上記チューブが液体試料を大気圧によって保持する内径に形成され、前記発光体によりチューブ内の液体試料が処理されることを特徴とする。
【0016】
上記構成によれば、発光体がチューブ外に設置されており、チューブ内にシリンジ等で注入された液体試料は、大気圧、液体試料の表面張力、及びチューブの内壁によって保持されるため、上記発光体の発する光による液体試料の酸化処理等が可能になる。
【0017】
また、上記化学分析用液体試料処理装置は、請求項2では、請求項1記載の化学分析用液体試料処理装置において、発光体が円筒状を呈して、横置きに設置され、チューブが合成樹脂で形成され、発光体の外周に前記チューブが巻設されることを特徴とする。
【0018】
上記構成によれば、発光体が円筒状を呈しているため、発光体の外周に合成樹脂製のチューブが樹脂弾性によって巻設されることにより、発光体に長いチューブが容易に巻設される。
【0019】
また、発光体が横置きに設置されることにより、発光体の外周に巻設されたチューブ内の液体試料は、自重による液体試料の排出が抑えられ、チューブ内に注入した液体試料の全量が保持される。
【0020】
また、請求項3では、請求項2記載の化学分析用液体試料処理装置において、前記チューブは複数本が並設して巻設されていることを特徴とする。
【0021】
上記構成によれば、同時に複数の液体試料が処理される。
【0022】
また、請求項4として、請求項1〜3のいずれか記載の化学分析用液体処理装置において、チューブの内径が1〜3mm、好ましくは1.2〜1.8mmであることを特徴とする。
【0023】
上記構成によれば、本発明の化学分析用液体試料処理装置に適したチューブの内径が選択される。
【0024】
また、請求項5は、請求項1〜4のいずれか記載の化学分析用液体試料処理装置において、チューブが透光性のあることを特徴とする。
【0025】
上記構成によれば、チューブが透光性であるため、発光体から照射された光は液体試料に効率良く到達する。よって、液体試料の処理が短時間に行われることが可能となる。
【0026】
また、請求項6は、請求項1〜5のいずれか記載の化学分析用液体試料処理装置において、発光体が、紫外線照射ランプであることを特徴とする。
【0027】
上記構成によれば、化学分析用液体試料処理装置として最適な発光体が選択される。
【0028】
また、請求項7は、請求項1〜6のいずれか記載の化学分析用液体試料処理装置において、チューブの両端もしくは片方の端に栓を設けることを特徴とする。
【0029】
上記構成によれば、液体試料が処理時に有臭なガス等を発生する場合に、前記チューブ内の液体試料からの拡散された有臭なガスはチューブに設けられた栓により防止される。また、振動のある場所等での液体試料処理時には、チューブに設けられた栓によりチューブからの漏液が予防される。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、チューブ内の液体試料が大気圧によって保持されるため、ガラス器具、及びポンプ等を使用することなく、簡易に、しかも安価に、発光体によりチューブ内の液体試料が処理される化学分析用液体試料処理装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の化学分析用液体処理装置1は、発光体6とチューブ2A,2Bを備え,チューブ2A,2Bの内部には液体試料3A,3Bが保持され,発光体6により液体試料3A,3Bが処理されるように構成されている。
【0032】
上記発光体6は、光を発するものをいい、この発光体6には、ランプ、蛍光灯、放電管、蓄光体などの蛍光体、及び燐光体などが用いられるが、この実施の形態では紫外線照射ランプが用いられる。
【0033】
上記発光体6において、紫外線照射ランプは、液体試料3A,3Bが酸化処理される場合に最適である。また、紫外線ランプは、還元剤を含むキャリアー溶液を添加された液体試料が還元処理される場合にも最適である。上記紫外線ランプは、通常の50もしくは60Hzの交流100V電源でも良いが、インバーター方式による高周波低電圧で駆動されることにより、高効率で安定な紫外線が発生される。上記紫外線ランプの中でも、酸化力の強い波長例えば254nmのランプが主に用いられる。
【0034】
上記チューブ2A,2Bは、複数本が並設して巻設されていることにより、複数の液体試料3A,3Bを同時に処理することができる。上記チューブを2本用いたときには、酸化状態の異なる窒素定量用液体試料、若しくはリン定量用液体試料を同時に処理することができる。また、窒素定量試料とリン定量用液体試料を同時に使用することも可能である。
【0035】
上記チューブを3本を巻設する構造にすることもできる。上記チューブを3本用いたときには,酸化状態の異なる窒素定量用液体試料、若しくはリン定量用液体試料を同時に処理することも可能であるし,窒素定量試料とリン定量用液体試料など種類の異なる液体試料を同時に処理することもできる。例としては、亜硝酸イオンを含む液体試料、アデノシン二リン酸イオンを含む液体試料、及びピロリン酸イオンを含む液体試料の同時処理が挙げられる。上記チューブを4本以上用いたときも同様である。
【0036】
上記チューブ2A,2Bの内径は1〜3mmとされている。上記内径が1mmより細いときには、毛細管現象などにより水位が安定せず、液体試料の保持が難しくなる。また、内径が3mmより太いチューブは、つぶされずに発光体に巻設することが難しくなる。
【0037】
上記チューブ2A,2Bには、発光体の発する光がチューブ内の液体試料に到達するように、透光性材料が用いられる。上記透光性のあるチューブ2A,2Bの材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す)、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの樹脂を用いることができるが、耐熱性を有し、水系液体試料との濡れ性が低いPTFEにより最適な材料が選択される。また、上記チューブ2A,2Bは透明でなくても,液体試料3A,3
Bを処理する光を透過する合成樹脂であれば良い。
【0038】
次に、発光体6が円筒状を呈しているときには、外周に長いチューブ2A,2Bが容易に巻設可能とされる。液体試料3A,3Bはシリンジ等により注入される。上記シリンジの着脱などによりチューブ内の液体試料3A,3Bの位置が変動するため、チューブの両端部4A,4B,5A,5Bから所定の長さに液体試料3A,3Bを注入することは好ましくない。上記より、長いチューブ2A,2Bでは一本当たりに使用できるチューブ2A,2Bの部分が相対的に増加する。このため、発光体6の外周に長いチューブ2A,2Bを巻設することによりチューブ2A,2Bの使用効率が高められる。
【0039】
また、発光体6を横置きにすることにより、発光体6にチューブ2A,2Bが固定されない状態であっても、発光体6により巻設されたチューブ2A,2Bが支持される。さらに、発光体6が横置きに設置されることにより、発光体6の外周に巻設されたチューブ内の液体試料3A,3Bは、自重による排出が抑えられる。よって、チューブ内に注入可能な液体試料3A,3Bの量が保持される。
【0040】
また、上記チューブ2A,2Bは、液体試料3A,3Bを大気圧7によって保持する内径に形成されている。液体試料は、大気圧7、液体試料の表面張力、チューブ2A,2Bの内壁により保持される。さらに、液体試料3A,3Bに酸化反応等による気体発生がある場合などに、液体試料3A,3Bには、上記発生したガスによる気泡が形成される場合がある。チューブ2A,2Bが前記内径に形成されることにより、液体試料3A,3Bはシリンジ等により注入された後、液体試料3A,3Bはチューブ内に保持される。液体試料3A,3Bの注入にモーター等の駆動は必要としない。
【0041】
上記チューブ2A,2Bの内径が3mmより太い場合には、チューブ2A,2Bの断面積が増加するため、液体試料3A,3Bへの発光体6の発する光の受容照射量のばらつきが増大する。また、上記照射量のばらつきが緩和されるように紫外線の照射ランプの出力が高くされると、発光体6の近くに保持された液体試料3A,3Bは高温にされ、さらには沸騰により蒸気となる。このとき、流路から高温の液体試料3A,3Bが排出される可能性が生じる。
【0042】
上記チューブ2A,2Bに保持される液体試料3A,3Bの位置は、注入部は図1の8より排出部側のチューブ内、排出部は図1の9より注入部側のチューブ内で、液体試料3A,3Bは8と9の内部に保持されることが望ましい。上記液体試料3A,3Bが図1の外部まで注入されると、チューブの端部4A,4B,5A,5Bがチューブ巻きつけ部より下部に保持された場合に、サイフォン作用により液体試料3A,3Bが排出される可能性があるためである。
【0043】
前記チューブの両端4A,4B,5A,5Bもしくは片方の端4A,4B,5A,5Bに栓を設けることにより、液体試料3A,3Bから処理時に有臭ガス等が発生する場合には、チューブ2A,2Bに設けられた栓により、チューブ端4A,4B,5A,5Bからの有臭ガスの拡散が防止される。また、振動のある場所等での液体試料処理時には、チューブ2A,2Bに設けられた栓によりチューブの端部4A,4B,5A,5Bからの漏液が予防される。
【0044】
上記チューブ2A,2Bにより保持される液体試料3A,3Bの粘度は、0.5 〜10mPa・sとされることが好ましい。上記粘度が0.5mPa・s以下では、液体試料3A,3Bの注入時に空気が入りやすく、10mPa・s以上では液体試料3A,3Bがシリンジ等により注入されなくなる。
【0045】
液体試料3A,3Bが上記粘度であれば、液体試料注入口4A,4Bがランプに巻きつけられた部分より高い位置に保持される状態で、液体試料注入後にシリンジが外されるときに、液体試料3A,3Bの液面に大気圧がかかり、液体試料3A,3Bの液面は紫外線照射ランプの注入口まで下がる。また、液体試料3A,3Bの粘度が上記範囲であるときには、シリンジ等による気体の注入により、チューブ中の液体試料3A,3Bが排出される。
【0046】
上記液体試料3A,3Bに酸化剤が添加されると、紫外線による酸化効果に酸化剤による酸化力が付加される。さらに、窒素化合物の定量分析において、硝酸イオンが亜硝酸イオンに還元される場合にも用いられる。前記分析においては、液体試料3A,3Bにエチレンジアミン四酢酸、クエン酸等の還元剤を添加すると、紫外線照射により還元反応が起こる。また、液体試料中の金属錯体の分解によるフリーの金属の定量分析、着色水の無色化による比色分析向けの前処理、又はタンパク質又は有機物の分解による生体中の元素分析などにも前記液体試料処理装置は使用される。
【0047】
上記チューブ2A,2Bは透明であるため、液体試料3A,3Bの酸化反応による色の変化を視認することができる。複数の液体試料3A,3Bがある場合には、上記液体試料間で酸化反応速度が異なる場合がある。上記においても、反応状態を外部から視認できるため、試料ごとに取り扱うことが可能となる。また、上記発光体の発する紫外線等の外部漏洩を防ぐ場合には、上記チューブ上からアルミ箔等で覆い、紫外線等の外部漏洩を防ぐこともできる。この場合には,液体試料の処理途中で発光を中断し、もしくは発光量を減少し、あるいは発光させた状態で,チューブ上の全部若しくは一部のアルミ箔を取り外すことにより、容易に上記液体試料の反応状態を確認することが可能となる。
【0048】
上記の通り作製された化学分析用液体試料処理装置1は、紫外線照射ランプなどの発光体6の外周部にチューブが巻設されることで、液体試料の酸化等の処理を行う装置として使用することができる。また、化学分析用液体処理装置全体が、樹脂コーティングしたアルミケースに設置されると、反射光を有効に利用することが可能となる。
【実施例】
【0049】
直径14mm、長さ134mmの紫外線照射ランプ6に、外径2.5mm、内径1.5mmのPTFE製チューブ2A,2Bが巻設された。上記紫外線照射ランプ6の発光部(10cm長)に、207cmのチューブ2A,2Bが巻設された。図1において、PTFEは水系液体試料3A,3Bとの濡れ性が悪いため、液体試料表面のフィレット部がPTFEチューブ2A,2Bをはじき、液体試料3A,3Bが排出されにくい表面状態が形成されている。
【0050】
また、上記ランプ6の外周部に、2本のPTFEチューブ2A,2Bが巻設された装置を図1に示す。2本のPTFEチューブ2A,2Bは、103cm/本の長さで巻設された。上記チューブ内85cmには液体試料1.5cm3が注入される。よって、液体試料が1.5cm3のとき、残部18cmのチューブ内が、大気により液体試料の排出を防ぐための不使用域として使用される。
【0051】
液体試料3A及び3Bが注入されるチューブの注入口4A,4Bは、上記チューブ2A,2Bより高い位置に設置される。注入口4A,4Bにはルアーコックを用いた。
【0052】
上記液体試料の排出口5A,5Bは、上記チューブ2A,2Bより低い位置に設置される。排出口5A,5Bにも、ルアーコックを用いた。
【0053】
酸化剤及び触媒が添加された1.5cm3の液体試料3A,3Bが、チューブの注入口4A,4Bに接続されたシリンジにより、チューブ内に注入された。上記液体試料3A,3Bの注入後、チューブ内に空気が入らないように注意しながら、シリンジを注入口4A,4Bから取り外した。液体試料中に気泡が入るのを防ぐためである。
【0054】
上記シリンジをチューブ2A,2Bの注入口から外すと、大気圧7により、チューブ内に空気が入った。注入された液体試料3A,3Bの液面は、前記ランプ6への巻設部近くまで下がった。
【0055】
上記ランプ6には、ソケットから電源が供給され、紫外線が液体試料3A,3Bに照射される。電源には、4kHzのインバーターシステムが使用された。また、電源部に可変タイマーを設置することにより、照射時間を一定にした。
【0056】
上記ランプ6の照射中、液体試料3A,3Bが加熱され、液体試料3A,3Bは対流、部分的な沸騰などにより動く。また、上記ランプ照射後も、液体試料3A,3Bは動き続けるが、空気を注入したシリンジを用い、チューブ2A,2Bに約5cm3の空気を注入することにより、液体試料は前記排出口から排出される。
【0057】
排出された液体試料3A,3Bは、酸化処理が行われているため、後工程の定量分析で使用することができる。
【0058】
(実施例1)
まず、液体試料3A,3Bの過熱試験を行った。液体試料1.5cm3を、シリンジを用い前記チューブ内に注入した。室温30℃でランプ照射し、液体処理試験を開始した。ランプ照射の開始直後からチューブ2A,2Bの外壁温度は上昇し、15分後に約60度、30分後には65℃に上昇した。このとき、上記チューブの排出口5A,5Bから液体試料3A,3Bの排出は認められなかった。30分後にランプ照射を終了した。ランプ照射終了後、5分後には、チューブ2A,2Bの外壁温度は約50℃まで下がった。上記試験時の反応コイルの温度変化を図2に示す。
【0059】
上記試験時における化学分析用液体試料処理装置1の酸化能力を、2ppmアデノシン二リン酸水溶液、及び2ppmピロリン酸水溶液の分解率により測定した。分解率は、リンモリブデン吸光光度法により測定した。その結果を図3に示す。アデノシン二リン酸及びピロリン酸は、リン化合物中では比較的分解されにくい縮合リン酸結合を有する。上記分解率は、アデノシン二リン酸、ピロリン酸ともに約5分の反応時間で約0.5、約10分後には約1であった。
【0060】
上記化学分析用液体処理装置1を用いて、リン化合物を含む液体試料の酸化試験を行った。処理対象として、アデノシン一リン酸、アデノシン二リン酸、グルコース六リン酸、ピロリン酸、ホスフィン酸を用いた。液体試料3A,3Bとして、上記試薬が各75mg、触媒として二酸化チタン2.85mgが添加された水溶液1.5cm3を用いた。
【0061】
上記化学分析用液体処理装置1を用いて、各液体試料3A,3Bを30分間処理した後の分解率を表1に示す。ここで、アデノシン一リン酸はエステル結合を有し、アデノシン二リン酸及びピロリン酸は縮合リン酸結合を有する。上記に加え、リンの酸化状態が異なるホスフィン酸を選択した。上記リン化合物全てが分解されると、自然界に存在するリン化合物はほぼ完全に分解されると考えられる。
【0062】
表1に示されるように、全ての化合物がほぼ100%分解された。ここで、100%以上の値が認められるが、使用試薬中に含有される水分量、前記試験中の水分の揮発などによる誤差であると考えられる。
【0063】
(表1)リン化合物の分解率

【0064】
(実施例2)
次に、金属錯体を含有する液体試料3A,3Bを用いた場合の試験を行った。金属錯体には、エチレンジアミン四酢酸(以下、EDTAと記す)の亜鉛、ニッケル、鉄、銅塩を用いた。液体試料は、5ppmの金属イオン、及び酸化剤として75mgのペルオキソ二硫酸カリウムを添加した水溶液1.5cm3とした。試験は処理時間を10分とし、実施例1と同様に行った。
【0065】
上記試験後の分解率を表2に示す。一般に金属−EDTA錯体はその結合が強固で、安定な錯体を形成している。よって、他の有色な錯体形成剤では、金属−EDTA錯体の結合を切ることができないため、金属−EDTA錯体の吸光光度測定をすることはできない。しかし、前処理により上記金属−EDTA錯体の結合を切ることができれば、他の錯体形成剤による定量分析が可能となる。表2に示されるように、全ての錯体において、ほぼ100%の分解率が得られた。上記化学分析用液体処理装置1により、結合が強固な金属−EDTA錯体の分解が可能となることがわかった。
【0066】
(表2)

【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】液体試料処理装置
【図2】反応コイルの温度変化
【図3】反応時間の分解率に及ぼす影響
【符号の説明】
【0068】
1 化学分析用紫外線照射装置
2A PTFEチューブA
2B PTFEチューブB
3A 液体試料A
3B 液体試料B
4A 注入口A
4B 注入口B
5A 排出口A
5B 排出口B
6 紫外線照射ランプ
7 大気
8 液体試料の上限
9 液体試料の下限

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光体と、発光体の外部に設けられたチューブとを備え、上記チューブが液体試料を大気圧によって保持する内径に形成され、前記発光体によりチューブ内の液体試料が処理される化学分析用液体試料処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の化学分析用液体試料処理装置において、発光体が円筒状を呈して、横置きに設置され、チューブが合成樹脂で形成され、発光体の外周に前記チューブが巻設されることを特徴とする化学分析用液体試料処理装置。
【請求項3】
請求項2記載の化学分析用液体試料処理装置において、前記チューブは複数本が並設して巻設されていることを特徴とする化学分析用液体試料処理装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の化学分析用液体試料処理装置において、チューブの内径が1〜3mm、好ましくは1.2〜1.8mmであることを特徴とする化学分析用液体試料処理装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の化学分析用液体試料処理装置において、チューブが透光性のあることを特徴とする化学分析用液体試料処理装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の化学分析用液体試料処理装置において、発光体が、紫外線照射ランプであることを特徴とする化学分析用液体試料処理装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載の化学分析用液体試料処理装置において、チューブの両端もしくは片方の端に栓を設けることを特徴とする化学分析用液体試料処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−58038(P2008−58038A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232750(P2006−232750)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(595111538)株式会社共立理化学研究所 (2)
【Fターム(参考)】