説明

化学分析装置

【課題】
酵素を添加直後の反応液の温度低下などの反応特性を阻害することを抑制した安定した検出ができる化学分析装置を提供する。
【解決手段】
試料が導入され、前記試料と反応させる試薬を保持する構造体が収容され、前記試薬と反応した後の前記試料の検出機構を備えた化学分析装置において、前記構造体での試料中の生体物質の抽出後、または、抽出の途中より前記構造体の周囲空間内の流体を酵素の至適温度に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料中の特定の化学物質を抽出し検出する化学分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の化学物質を含む試料から核酸等の特定の化学物質を抽出し分析する化学分析装置としては、特表2001−527220号公報に、一体型流体操作カートリッジが記載されている。この装置では、一体型カートリッジ内部に溶解液や洗浄液や溶離液等の試薬、及び核酸を捕獲する捕獲構成部品を備え、核酸を含む試料をカートリッジ内部に注入した後、前記試料と溶離液を混合させて前記捕獲構成部品に通過させ、さらに捕獲構成部品に洗浄液を通過させ、さらに捕獲構成部品に溶離液を通過させ、捕獲構成部品を通過した後の溶離液をPCR試薬に接触させ反応チャンバへと流している。そして、温度制御手段としては薄膜ヒータを用いた加熱の内容が開示されている。
【0003】
また、特表2003−502656号公報では回転ディスクを備え向心力を用いて試料を定量し、核酸のPCR増幅法を用いる装置が提案されている。回転ディスク内には、PCR増幅法における変性温度、アニーリング温度、伸長温度に設定するための温度制御手段を用いた構造が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特表2001−527220号公報
【特許文献2】特表2003−502656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特表2003−502656号公報と特表2003−502656号公報に記載の従来技術はどちらも、温度サイクルを繰返すPCR増幅法での核酸増幅法を用いている。PCR増幅法では、温度サイクル、一例として95、55、72℃を繰返すことによりその回数に応じて核酸が増幅される。先行文献においては、これに基づいて所望の温度に反応液を温度制御することが開示されているに過ぎない。反応特性を向上させるための温度制御或は、その温度制御システム構成などについて考慮されていない。また、増幅中における反応特性を向上させるための温度制御についても考慮されていない。
【0006】
そこで本発明は、前記課題の少なくともいずれかを解決する化学分析装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明は、以下の形態を有するものである。
(1)生体物質を含む試料が導入され、前記試料と反応させる試薬を保持する構造体が収容され、前記試薬と反応した後の前記試料の検出機構を備えた化学分析装置であって、前記構造体での試料中の生体物質の抽出後、または、抽出の途中より前記構造体の周囲流体を反応試薬の適正な反応温度に制御するものである。具体的には、前記試薬の少なくとも一つは酵素を含む試薬であり、前記試料中から生体物質を抽出する機構と、前記抽出した生体物資に前記酵素を含む試薬を供給する機構と、前記構造体の温度を制御する温度制御機構を有し、前記生体物質を抽出する工程が開始された後であって前記酵素を含む試薬を反応させる前までの間に前記温度制御機構により前記酵素を含む試薬を昇温するよう制御されることを特徴とする分析装置である。
【0008】
生体物質は例えば核酸である。他には、DNA、RNA、或はタンパク等の生物試料中に含まれるものが考えられる。
(2)前記(1)の化学分析装置において、前記酵素が供給された生体物質を、所定温度
に所定時間保温し、保温した後の前記生体物質を前記検出機構で検出するよう制御され、前記昇温する工程では前記酵素を含む試薬を前記保温温度に近づくように制御されることを特徴とする化学分析装置である。
【0009】
例えば、所定温度は至適温度などの保温温度である。室温より高い温度であることが一般的である。前記保温温度に近い温度に加熱する。例えば、保温温度との差が5度以内程度であることが考えられる。或は、例えば、温度制御機構による前記加熱温度は、室温よりも前記保温温度に近い温度に制御する。
【0010】
前記温度は、適正な反応温度は用いる定温核酸増幅法の反応温度とすることが好ましい。前記適正な反応温度は酵素の至適温度に近い範囲であることが好ましい。例えば、−5℃〜0℃程度の範囲である。より好ましくは、酵素の至適温度−3℃〜0℃程度の範囲である。
(3)生体物質を含む試料が導入され、前記試料と反応させる試薬を保持する構造体が収容され、前記試薬と反応した後の前記試料の検出機構を備えた化学分析装置であって、前記構造体を回転駆動する駆動機構と、前記試料中から生体物質を抽出する機構とを有し、前記試薬の少なくとも一つは酵素を含む試薬であり、前記抽出した生体物資に酵素を含む試薬を供給する機構と、前記構造体の温度を制御する温度制御機構を有し、前記構造体の収容部と、前記収容部が設置された槽と、前記槽を収納し、開閉機構を備えた容器と、を備え、前記構造体が収容された領域に対応して設置され、前記構造体の前記抽出した生体物質が位置する領域の温度を制御する第一の温度制御機構と、前記槽内空間に充填された流体の温度を制御する第二の温度制御機構有することを特徴とする化学分析装置である。
【0011】
前記槽内空間に充填された流体は気体である。例えば、空気などであってもよい。酸化などを抑制する観点からは窒素等の酸化を抑制する気体であってもよい。
(4)前記(3)の化学分析装置において、前記生体物質は核酸であり、前記生体物質と前記酵素を含む試薬を混合する前までに、前記生体物質と前記槽内の前記流体の温度を前記装置の外部よりも前記所定温度に近い温度に制御することを特徴とする化学分析装置である。
(5)前記(3)の化学分析装置において、前記生体物質は核酸であり、前記生体物質と前記酵素を含む試薬を混合する前までに、前記生体物質と前記酵素を含む試薬温度を前記装置の外部よりも前記所定温度に近い温度に制御することを特徴とする化学分析装置である。
(6)前記(3)の化学分析装置において、前記生体物質は核酸であり、前記生体物質と前記酵素を含む試薬を混合した後に、前記生体物質と前記酵素を含む試薬との反応液と前記槽内の前記流体の温度とを、少なくとも前記第二の温度制御手段を稼動させて保温制御することを特徴とする化学分析装置である。
【0012】
試料に酵素を含む試薬を添加した際に温度低下が生じると、温度低下による核酸の増幅に影響を与えることになる。これにより、効果的に、酵素を含む試薬の特性の劣化を抑制しつつ、試料と試薬混合後の反応特性が低下することを抑制した安定した増幅工程を有することができるシステムを構築することができる。
【0013】
また、温度制御をする際に反応液の蒸発に関しても、前記従来技術のように局所的な加熱をした場合のように反応液が蒸発し減量する問題が生じる恐れを抑制することができ、安定した検出をすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、反応特性を向上させた化学分析装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図面を引用して本発明一形態の遺伝子検査装置を詳細に説明する。なお、本発明は、本明細書或は特許請求の範囲に開示された内容に限定する意図ではなく、他の公知技術に基づいた変形を許容するものである。
【0016】
図1は、本発明の一実施例による遺伝子検査装置の構成を示す縦断面図である。遺伝子検査装置1は、円形の遠心槽10内に高速回転モータ11により回転可能に支持された保持ディスク12と保持ディスク12上に配置された複数の検査モジュール2と、液体の流動を制御する穿孔機13と、モジュールの検査液温度制御装置16と保持ディスクを内蔵した遠心槽の温度制御装置18と増幅検出装置15を備えている。検査液温度制御装置16は、検査ポート390内の検査液温を制御可能にする装置で電気ヒータで構成される。遠心槽温度制御装置18は、加熱用電気ヒータ181と、循環用ファン182とこれらをコントロールする温度制御装置(本実施例ではPID制御装置)183で構成される。
【0017】
図2は、図1における遠心槽の蓋9を開け、遠心槽10を上方から見た図である。遠心槽10と同心円状に検査モジュール2を収納した保持ディスク12で構成される。検査モジュール2を、保持ディスク12に多数放射状に配置するために、各検査モジュール2の内周側の側面は、保持ディスク12の半径方向の線から傾いた線でカットされた形状となっている。これにより、検査モジュール2を密に保持ディスク12に配置でき、検査能率が向上する。
【0018】
操作者は、各検査項目ごとに検査モジュール2を用意し、保持ディスク12に装着する。図2では、6個の検査モジュールを装着でき、同時に6つの検体の検査が可能な形態を一例として示している。次に、遺伝子検査装置1を起動させる。
【0019】
図3は検査モジュール2の構成図である。検査モジュール2は、試薬カートリッジ本体21に透明な試薬カートリッジカバー22を接合した試薬カートリッジ20を、検査カートリッジ本体31に透明検査カートリッジカバー32を接合した検査カートリッジ30に装着して構成している。各試薬は各試薬容器220、230、240、250、260、270、280、290に予め所定量だけ分注されている。
【0020】
図4に示す試薬カートリッジ20の裏面には、各試薬容器に連通する試薬流出口221、231、241、251、261、271が設けてあり、検査カートリッジ30に装着することで、図5に示す検査カートリッジ30の各試薬流入口321、331、341、351、361、371に接続する。試薬カートリッジ20を検査カートリッジ30に装
着した時点で、各試薬容器は各試薬流出口および対応する各試薬流入口を通して検査カートリッジ内で連通する。
【0021】
図6に、図3および図5に示したA−A部における試薬カートリッジ20および検査カートリッジ30の縦断面図の主要部を、図7に、試薬カートリッジ20を検査カートリッジ30に装着した状態の上記A−A部に対応する縦断面図を示す。試薬カートリッジ20の下面には、試薬カートリッジ20内に予め貯蔵されている試薬の漏れや蒸発を防ぐため、試薬カートリッジ保護シート23が接着されており、検査カートリッジ30の上面には、検査カートリッジ30内部の汚染を防ぐため、検査カートリッジ保護シート33が接着されている。
【0022】
操作者は、試薬カートリッジ保護シート23および検査カートリッジ保護シート33をはがし、試薬カートリッジ20を検査カートリッジ30に装着する。試薬流出口を構成する突起部(例えば図6の269)は試薬流入口と嵌め合うことで両カートリッジを位置決めし、かつ試薬が検査カートリッジの外に漏れ出すことはない。あるいは、検査カートリッジ保護シートの接着している検査カートリッジカバー32に接着剤が添付することで、試薬カートリッジの接合面を接着し、試薬の漏れを防いでもよい。
【0023】
尚、上記試薬カートリッジに設けた突起部(例えば図6の269)は、検査カートリッジ側に設けてもよい。
【0024】
以下全血を試料として用いた場合のウイルス核酸の抽出及び検出動作を図3から図5を用いて説明する。
【0025】
操作者は、真空採血管等で採血した全血を、検査カートリッジ30の試料注入口301より試料容器310に注入し、図6に示した試薬カートリッジ保護シート23および検査カートリッジ保護シート33をはがした後、試薬カートリッジ20を検査カートリッジ30に装着する(図3)。このとき検査カートリッジ30の試料注入口301は試薬カートリッジ20により塞がれるため、以後試料が検査カートリッジ30より漏れ出ることはない。あるいは試薬カートリッジ20に試料通気孔313を貫通させておき(図2および図3)、空気は通すが試料およびそのミストは通さないフィルタを装着しておき、試料の流動時に通気が可能な状態にしてもよい。
【0026】
このようにして組上げた検査モジュール2を図1の保持ディスク12に必要な数だけ装着し、遺伝子検査装置1を稼動させれば、全血からウイルスの遺伝子が抽出され、その後の増幅工程を経て最終的に遺伝子が検出される。
【0027】
以下に、遺伝子検査装置1内部での各動作における液の流動状態を図8と図9を用いて示す。
【0028】
全血501を試料注入口301に注入後、モータ11で保持ディスク12を回転する。試料容器310に注入された全血は、保持ディスク12の回転により発生する遠心力の作用で外周側に流動し、血球貯蔵容器311および血清定量容器312を満たし、余分な全血はオーバーフロー細管流路313からオーバーフロー太管流路314を通って全血廃棄容器315へ流れる。全血廃棄容器315には全血廃棄用通気流路318が設けてあり、検査カートリッジ通気孔302を通して試薬カートリッジ通気孔202から、空気が自由に出入り可能である。オーバーフロー細管流路313からオーバーフロー太管流路314にかけての接続部は急拡大しておりかつオーバーフロー細管流路313の最内周側(半径位置601)にあるため、全血はオーバーフロー細管流路313を満たした状態で前記接続部で切れる。したがって半径位置601より内周側に液は存在できないので、血清定量容器312の液面も半径位置601になる。また、血清定量容器312から分岐している血清毛細管316にも全血が流れ込み、ここでも全血の最内周部は半径位置601になる。
【0029】
さらに回転を続けると全血501は血球と血清あるいは血漿(以下血清と呼ぶ)に分離し(遠心分離)、血球502は外周側の血球貯蔵容器311へ移動し、血清定量容器312内は血清503だけになる。
【0030】
上記一連の血清分離動作時に、図8の試薬カートリッジ20にある各試薬容器の通気孔222、232、242、252、262、272は試薬カートリッジカバー22(図5)で蓋をされていて空気が入らない状態になっている。遠心力により各試薬は試薬容器外周側より流出しようとするが、容器内に空気が入らないため試薬容器内の圧力が低下し、遠心力と釣り合って試薬は流出することができない。しかし回転数が増加し遠心力が大きくなると、試薬容器内の圧力は徐々に低下し、試薬の飽和蒸気圧以下になると気泡が発生する。そこで、図9に示すように、各試薬容器外周側から流出する試薬を一旦内周側に戻すような流路構造(戻り流路例えば223)とすることで、試薬容器内の圧力低下を抑制し、気泡の発生を防ぐ。このように血清分離動作時には、各試薬は試薬容器に保持されたまま流動しない。
【0031】
所定の時間回転させ血清分離動作が終了すると検査モジュール2は停止し、血清定量容器312内の血清503の一部が血清毛細管316内部に表面張力により毛細管流動し、混合部410と血清毛細管316との接続部である混合部入り口411まで流動し、血清毛細管316を満たす。
【0032】
以下穿孔機13が各試薬容器上流部の通気孔にひとつづつ穴をあけてはモータ11を回転し、各試薬を遠心力で流動させる。
【0033】
以下に血清分離終了後の動作を示す。溶解液容器220には血清中のウイルスの膜蛋白を溶解するための溶解液521が分注してある。穿孔機13が溶解液通気孔222に穴をあけた後、モータ11を回転させると、遠心力の作用により溶解液521は溶解液容器220より溶解液戻り流路223を経て、吸湿材291を経て、内部コントロール容器290に流れ込み、溶解液は内部コントロール590と混合しながら混合部410に流れ込む。内部コントロールは核酸あるいは核酸を含む合成物で、長期間保存できるよう凍結乾燥状態が望ましい。そのため、溶解液が内部コントロール容器290に流れ込むと、内部コントロール590を溶かしながら混合し流出する。
【0034】
吸湿材291は溶解液容器220と内部コントロール容器290の間に設けてあり、内部コントロール590が溶解液521の湿気を吸収しないようにしてある。吸湿材としては、シリカゲルの構造体や、他の材質を用いた多孔性あるいは繊維フィルタ等の微細流路を構成する構造体や、エッチングや機械加工等で製作したシリコンや金属等の突起物を用いればよい。
【0035】
また、血清定量容器312内の血清の最内周側(血清分離終了時には半径位置601)が混合部入り口411(半径位置602)より内周側にあるため、遠心力によるヘッド差で血清定量容器312および血清毛細管316内の血清は、混合部入り口411から混合部410に流れ込み、同時に流入する内部コントロールを溶かした溶解液と混合部410で混合する。混合部410は血清と溶解液を混合する部材で構成してある。例えば樹脂やガラス、紙等の多孔性フィルタや繊維、或いはエッチングや機械加工等で製作したシリコンや金属等の突起物などである。
【0036】
血清と溶解液は混合部410で混合し反応容器420へ流れ込む。反応容器420には反応容器用通気流路423が設けてあり、検査カートリッジ通気孔302を通して試薬カートリッジ通気孔202から、空気が自由に出入り可能である。血清定量容器312から血清毛細管316への分岐部317(半径位置603)は混合部入り口411(半径位置602)より内周側にあるため、サイホン効果により血清毛細管316内の血清はすべて混合部410に流れ出る。一方血清定量容器312の血清は遠心力で血清毛細管316に流れ込むから、血清定量容器312内での血清の液面が分岐部317(半径位置603)に到達するまで血清は混合部410に流出し続け、血清の液面が分岐部317に到達した時点で、血清毛細管316に空気が混入し空になって流動は終了する。すなわち血清分離終了時点での半径位置601から半径位置603までの血清定量容器312、オーバーフロー細管流路313および血清毛細管流路316内の血清が混合部410に流出し溶解液と混合する。
【0037】
このように、半径位置601から半径位置603までの血清定量容器312、オーバーフロー細管流路313および血清毛細管流路316を所定の容積(必要血清量)になるよう設計すれば、全血に対する血清の比率が全血試料ごとに異なっても、分析に使用する血清を定量することができる。例えば、血球貯蔵容器の容積を250マイクロリットルとし、必要血清量を200マイクロリットルに設計したとき、全血を500マイクロリットル分注すれば、全血廃棄容器315へ50マイクロリットルの全血がオーバーフローし、残りの450マイクロリットルが血清と血球に分離し、分離した血清のうち200マイクロリットルが混合部410へ流出する。すなわち450マイクロリットルの全血に対して、血清の量が200マイクロリットル以上の全血試料については本実施例のデバイスで分析が可能になる。血清の比率が小さい全血に対しては、血球貯蔵容器の容積を大きくし全血試料を多くすればよい。
【0038】
反応容器420では混合した血清と溶解液が反応する。血清と溶解液の混合液が反応容器420に流入した後の反応容器420内の液面は、反応液流路421の最内周部(半径位置604)よりも外周側にあるため、反応液流路421の最内周部を越えることができず、回転中は混合液が反応容器420に保持される。
【0039】
溶解液は、血清中のウイルスや細菌等からその膜を溶解して核酸を溶出させる働きをするが、さらに核酸結合部材301への核酸の吸着を促進させる。同様に、溶解した内部コントロール590に対しても、核酸結合部材301への吸着を促進させる。このような試薬としては、DNAの溶出及び吸着には塩酸グアニジンを、RNAにはグアニジンチオシアネートを用いればよく、核酸結合部材としては石英やガラスの多孔質材や繊維フィルタ等を用いればよい。
【0040】
血清と溶解液が反応容器420に保持された後、モータ11を停止し、穿孔機13で追加液容器230に空気を供給するための追加液通気孔232に穴をあけ、再びモータ11を回転させると、遠心力の作用により追加液531は追加液容器230より追加液戻り流路233を経て、反応容器420に流れ込み、反応容器内の混合液の液面を内周側に移動させる。液面が反応液流路421の最内周部(半径位置604)に達すると、混合液は反応液流路の最内周部を越えて流れ出し、合流流路701を経て核酸結合部材301へ流れ込む。追加液としては、たとえば上述の溶解液を使用すればよい。
【0041】
尚、試料によっては混合液の壁面に対する濡れ性がよく、停止状態では反応液流路421内を毛細管現象で混合液が流動する場合もあり、このときは追加液531を必要としない。
【0042】
このようにして溶解液と血清の混合液が核酸結合部材を通過すると、血清中の標的核酸および内部コントロールとしての核酸が核酸結合部材301に吸着し、液は溶離液回収容器となる検査ポート390へと流れ込む。
【0043】
検査ポート390には、溶離液回収容器用通気流路394が設けてあり、検査カートリッジ通気孔302を通して試薬カートリッジ通気孔202から、空気が自由に出入り可能である。核酸結合部材301通過後の廃液391は、混合容器420のときと同様、廃液戻り流路393のために、一旦溶離液回収容器390に保持されるが、廃液量に比べて溶離液回収容器390の容積が十分小さいため、廃液は廃液戻り流路393の最内周側を越え、廃液流出流路399を経て廃液貯蔵容器402へと流出する。
【0044】
次にモータ11を停止し、穿孔機13で第一洗浄液容器240に空気を供給するための第一洗浄液通気孔242に穴をあけた後、再びモータ11を回転させると、遠心力の作用により第一洗浄液は第一洗浄液容器240より第一洗浄液戻り流路243および合流流路701を経て、核酸結合部材301に流れ込み、核酸結合部材301に付着した蛋白等の不要成分を洗浄する。第一洗浄液としては、たとえば上述の溶解液或いは溶解液の塩濃度を低減した液を使用すればよい。
【0045】
洗浄後の廃液は、上述の混合液同様、溶離液回収容器390を経て、廃液貯蔵容器402へと流出する。
【0046】
同様の洗浄動作を複数回繰り返す。たとえば、第一洗浄液に引き続き、モータ停止の状態で、穿孔機13で第二洗浄液容器250に空気を供給するための第二洗浄液通気孔252に穴をあけ再びモータ11を回転させ、核酸結合部材301に付着した塩等の不要成分を洗浄する。第二洗浄液としては、たとえばエタノール或いはエタノール水溶液を用いればよい。
【0047】
同様に第三洗浄液容器260に空気を供給するための第三洗浄液通気孔262の蓋に穴をあける。第三洗浄液は溶離液回収容器390に直接流入し、溶離液回収容器390に付着した塩等の成分を洗浄する。第三洗浄液としては、たとえば滅菌水やpHを7から9に調整した水溶液を用いればよい。
【0048】
このように核酸結合部材301および溶離液回収容器390を洗浄した後、核酸の溶離工程に移行する。
【0049】
すなわちモータ停止の状態で、穿孔機13で溶離液容器270に空気を供給するための溶離液通気孔272の蓋に穴をあけ再びモータ11を回転させ、核酸結合部材301に溶離液571を流す。溶離液は、核酸を核酸結合部材301から溶離する液で、水或いはpHを7から9に調整した水溶液を用いればよい。
【0050】
このように核酸結合部材301および溶離液回収容器390を洗浄した後、核酸の溶離工程に移行する。
【0051】
すなわち、モータ停止の状態で、穿孔機13で溶離液容器270に空気を供給するための溶離液通気孔272に穴をあけ再びモータ11を回転させ、溶離液571を流す。溶離液は、核酸を核酸結合部材301から溶離する液で、水或いはpHを7から9に調整した水溶液を用いればよい。核酸を溶離した液は液量が溶離液回収容器390の容積より小さく廃液戻り流路393の最内周側を越えることができず、溶離液回収容器内に保持される。
【0052】
次に、核酸増幅・検出工程に移行する。
【0053】
図12に定温核酸増幅方法の一つの Nucleic AcidSequence−Based Amprification(NASBA)法を本遺伝子検査装置に用いた場合の検査工程を示す。検出・増幅工程では、検査ポート390内の検体試料が入った検査液に増幅液と酵素を添加し、所定の温度で、所定の時間保持することにより核酸が増幅される。同時に検出は、検出装置15の検出光学筒151を検査ポート390内の検査液が観察可能な位置に移動させ、標的核酸および内部コントロール核酸の蛍光発光量を検出することにより行われる。
【0054】
内部コントロールは、予め定量された核酸あるいは核酸を含む合成物であり、血清中の標的核酸の抽出・増幅・検出と全く同じ試薬・カートリッジ・検査装置を使用して抽出・増幅・検出を行う。そのため、抽出・増幅・検出の工程が正常に機能していれば内部コントロールからは、所定の蛍光や吸光等の信号を検出できる。逆に、信号強度が低かったり全く検出されない場合は、試薬・カートリッジ・検査装置等の不具合により、抽出・増幅・検出いずれかの工程に異常があったことが分かる。あるいは、標的核酸の検出信号を予め定量している内部コントロールの検出信号と比較することで、標的核酸の濃度を定量評価することができる。
【0055】
核酸の抽出が終わった時点から、遠心槽10の温度制御を開始して遠心槽10内の空気が第二の反応温度となる酵素至適温度、例えば41℃への制御を開始するがすぐに温度が至適温度に到達しなくとも構わない。
【0056】
次に、検査ポート390内には抽出された核酸が入っているので、予め検査カートリッジ30に封入されている増幅液580を、増幅液容器395に穴を空けモータを回転させることにより、増幅液580が検査ポート390に入る。増幅液は、核酸を増幅して検出するための試薬で、デオキシヌクレオシド三リン酸に加えて及び蛍光試薬等を含んでいることが好ましい。
【0057】
そして、検査液温度制御装置16を起動させ検査液が第一の反応である変性温度、例えば65℃になるように制御を開始する。65℃で約5分保持した後に第二の反応温度の酵素至適温度の41℃の制御に移る。この温度でも5分間保持した後、酵素容器396に穴を空け保持ディスク12を回転させ酵素595を検査ポート390に入れる。酵素添加直後の液温の低下は後の核酸の増幅に影響するため、温度低下は極力防止する必要がある。そこで、前記した通り、遠心槽10内の温度制御装置によって予め、酵素添加時のカートリッジ周囲の温度を高めておくことにより検査液と試薬がほぼ第一の反応液温度41℃に保持された状態になり混合され温度低下がない。
【0058】
そして、41℃で90分の定常状態において核酸の増幅が進行するので同時に蛍光量を検出することにより核酸の増幅量が検出できる。蛍光試薬を波長の異なる2種類用いることにより検体の核酸と内部コントロールの蛍光発光量を比較することによりリアルタイムで定量化ができる。
【0059】
また、検査ポートの温度制御装置で65℃に制御できるようにすることによる個別の加熱手段により短時間で、しかも精度の高い温度制御が可能となる。検査カートリッジの装着までは、手動操作であるがその後の核酸抽出から増幅までの工程は全自動化できる。
【0060】
そのため、図1の形態では検査ポートの温度制御16と遠心槽温度制御装置18を備えている。
【0061】
図13から図22は、検査ポート内の液温制御手段について説明し、図13は図14から図22の実施形態における保持ディスク12と検査カートリッジ2のA−A断面矢視部を示す。
【0062】
図14の実施形態は、検査液550の温度制御に加熱用のヒータ162を備えた検査カートリッジ2を用いたものであり、図示しない給電線により通電し発熱させる。カートリッジに加熱手段を持たせることにより、加熱部と検査ポート390の外壁との接触熱抵抗によるばらつきを防ぎ安定な温度制御ができる。なおこの場合、検出光学筒151で検査ポート390内の蛍光発光量を測定するため、ヒータ162と保持ディスクにはそれぞれ検査ポート390内部を光学的に観察できる孔162b、12bを設ける必要がある。
【0063】
さらに、図15は本実施形態の他の実施形態例を示す。この実施形態では、回転する保持ディスク2側に加熱手段となるヒータ162を内蔵したものである。このような構成により、加熱部をカートリッジ側から分離できるため使い捨ての検査カートリッジ2において安価な構成ができる。
【0064】
図16の実施形態は、さらに他の実施例を示す。この実施形態では検査液550の温度制御にペルチェ素子164を用いたものである。検査液550の入った検査ポート390外壁とヒートブロック163を熱的に接続する。ペルチェ素子164への引加電流の大小を変えることにより加熱量の制御が行え、正逆を変えることにより温度の上昇だけでなく降下させることも可能となる。それにより、65℃から41℃への温度の降下する際に短時間の温度制御ができる。なお、164bがペルチェ素子の吸熱部となる
図17の実施形態は、さらに他の実施例を示し、温度モニタ素子165を検査液550中に入れた状態を示す。遺伝子増幅に阻害とならない物質を感温部表面にコーティングした熱電対、サーミスタ、白金抵抗体を検査液550に直接入れ測定することにより精度の高い検査液温度の測定と制御が可能となる。また、検査装置本体に温度センサ素子165の洗浄装置を備え、検査ごとに測定と洗浄を繰返して使用しても本実施形態の目的は達成される。
【0065】
図18の実施形態は、さらに他の実施例を示し、検査液容器を包むヒートブロック163中に上記の温度センサ165を内蔵した構成を示す。このような構成により、温度センサ165を取替えずに温度測定が可能となり安価な構造を実現できる。
【0066】
図19の実施形態は、さらに他の実施例を示し、赤外線放射温度計166を用いてカートリッジ2の表面温度を測定している。このような構成により、回転する保持ディスク12と非接触で液測定が可能となる。この場合、事前に検査液温度とカートリッジ表面温度との差を測定し把握することが必要となる。
【0067】
図20の実施形態は、さらに他の実施例を示し、図19と同じ赤外線放射温度計166を用いて検査ポート390を包むヒートブロック163の温度をモニタしている。この構成により、ヒートブロック163に放射率が高い黒体塗料等を事前に塗布することにより放射率を規定できるため、赤外線温度測定における比較的精度の高い測定が可能となる。また、図19と図20の実施形態では赤外線放射温度計の例で示したが、カートリッジに感温液晶を塗布しCCDカメラ等で撮影した画像を処理することによる温度測定方法であっても温度測定は可能である。
【0068】
図21の実施形態では、さらに他の実施例を示す。加熱方法として赤外線ランプ167を用いている。この場合も、回転する保持ディスク12と非接触での加熱が可能となる。なお、赤外線ランプ照射中は、光学検出筒151で行う蛍光計測の際には、ランプ加熱を止めることによって蛍光検出には影響を及ぼさない。
【0069】
図22の実施形態では、さらに他の実施例を示す。加熱方法として電磁伝導を用いたものである。検査ポート390の周囲に所定の電気抵抗をもつ金属製のヒートブロック163を配置する。交流発生源168に接続したコイル169に通電することによって、電磁誘導によりヒートブロック163内にうず電流が流れ、ジュール発熱により加熱できる。交流電流の強さと、コイル169とヒートブロック163間の距離によって加熱量を可変でき、保持ディスク12と非接触での加熱制御が可能となる。この場合、保持ディスク12は非通電材料で構成することが望ましい。また、図22の実施形態においてコイル169をマイクロ波発振デバイス(マグネトロン)に置換えて、検査液550の水分子の振動を誘発し直接加熱する方法でも、本実施形態の効果は達成される。
【0070】
次に、図23には一般的な大気圧下の湿り空気の水蒸気分圧の温度変化を示す。検査ポート390内は、核酸の増幅工程中は制御により酵素至適温度の41℃で蒸発現象が生じているため相対湿度は100%と考えられる。そのため、検査カートリッジ2に開いている空気の通気孔から周囲空気への水蒸気分圧の差を駆動源とする拡散現象である蒸発が生じやすい。蒸発が生じると、検査液の不足により蛍光発光量の検出が困難となることや、検査液の気液界面での温度平衡により検査液内での温度分布が生じやすくなる。また、蒸発した検査液蒸気が検査カートリッジカバー32の内面に凝縮することによる検査液の濃度変化などが生じる。
【0071】
そこで、図23に示した通り至適温度制御中は検査カートリッジ2周囲の空気温度を室温に比べて増加させる程、水蒸気分圧の差を小さくでき検査液550の蒸発を防止できる。そこで、図1に示したように遠心槽10内の加熱制御手段を備える。
【0072】
遠心槽内を第二の反応液温に近い温度に制御することによって、上記した通り、酵素の失活防止と検査モジュールからの検査液の蒸発を防止できる。さらに、検査液を周囲から温度制御することにより温度分布が小さく濃度分布も小さくできる。さらに、検査液温の位置ずれに起因する測定誤差も小さくできる。
【0073】
次に、遠心槽10内の空気の温度制御について説明する。
【0074】
図1の実施形態では遠心槽10の加熱手段として膜状のラバーヒータ181を用いて示した。遠心槽の金属部分を伝熱面積として用い広い面積により熱交換効率を高めたものである。なお、ヒータはコイル状で遠心槽の外周または内周に巻きつけても良い。
【0075】
図24の実施形態では、図1の実施例に加えて固定の定温ディスク197を内蔵している。保持ディスク12とは所定の間隙を設け設置する。定温ディスク197を図示しないヒータ等の方法で所定の温度に加熱しておき、回転可能な保持ディスク12を回転させると遠心槽10内の空気に対流が生じ熱伝達が促進され、定温ディスクから保持ディスク12に熱が伝わる。このような構成によりディスクの回転動作により温度制御が素早く行われる。また、両ディスクの温度の高低が逆で定温ディスク内に冷水を循環させるなど低い温度に設定しておけば短時間に保持ディスクの温度を下げることが可能となる。
【0076】
図25の実施形態では、遠心槽10内の温度制御手段として、遠心槽10の外部に送風路184を設け、遠心槽10内の空気を流動させ、加熱器185により加熱し循環を繰り返すようにした構造である。このような構成により加熱器近傍での空気の風速を大きくでき、強制対流熱伝達が高められ熱交換効率が高いのでヒータ容量が小さくても良い。
【0077】
図26の実施形態では他の実施例を示し、図25の構造に加え加湿器186による加湿機能を付加したものである。このような構成により、遠心槽内の湿度を高めより図23の水蒸気分圧の特性で示した通り、検査液の蒸発をなお一層防止できる。
【0078】
図27の実施形態は、さらに他の実施例を示す。遠心槽10の加熱手段として温水循環方式を採ったものである。遠心槽10の外側に内部に温水が流動可能な温水コイル191を巻いたものである。コイル191内に恒温水槽188により一定温度に保たれた温水をポンプ189の運転により循環させることにより遠心槽10内を一定温度に精度良く安定化することができる。
【0079】
図28は、冷凍サイクルによって遠心槽10を加熱する場合を示す。構成部品として、遠心槽10に取り付けた凝縮器パイプ192aと蒸発器コイル192b、及び圧縮機、四方弁、膨張弁により冷凍サイクルを構成する。内部にフロンが封入された状態で圧縮機を回転させ膨張弁を適度な開度にすることにより圧縮機から吐出された高温の過熱ガス及び、凝縮液で遠心槽10を加熱できる。なお、四方弁の切替えにより冷媒の流動方向を切替えることにより192aを低温の蒸発コイル、192bを高温の凝縮コイルとすることも可能である。この場合、圧縮機回転数と膨張弁開度の組合せによって温度を自由に変化させることができる。
【0080】
図29の実施例では、図1の実施例に加え遠心槽蓋9の上部送風機196を備えた構造である。このような構成により内部での空気の循環を促進し遠心槽10内の空気の温度分布を小さくできる。なお、図29では送風機196は遠心槽10内に露出した構造で示したが、カバーを施すことによって保持ディスク12の高速回転によって発生する空気の対流による風乱を防止できる。なお、ヒータ181の熱を効果的に滞留させることが好ましい。
【0081】
図30は、本実施形態の他の実施例を示す。検査工程の核酸検出工程の中で酵素を添加する直前に保持ディスク12を高速で回転させる動作を入れたものである。このような動作によって遠心槽10内の空気と保持ディスク12との間で摩擦熱が生じ、短時間に遠心槽10内の空気温度を高めることができる。また、保持ディスクの回転動作により遠心槽10内部の空気が混合されさらに温度を均一化できる作用がある。
【0082】
図31は、検査ポート390の温度制御と遠心槽10の温度制御のONとOFFの時間的な変化を示した図である。(a)には検査ポートの温度制御を示す。抽出工程の終了と同時に第一の至適温度の一例として65℃に制御を開始して、その約5分から10分後に第二の至適温度の一例として41℃に制御した場合を示す。(a)の条件下で(b)から(e)は遠心槽10の温度制御のON・OFFの状態を示す。まず、(b)は抽出工程の終了と同時に遠心槽10の温度制御を開始するものである。(c)は、抽出工程の途中で制御を開始するものである。(d)は、抽出工程が完全に終了してから検出工程の途中で行うものである。(e)は、検出工程の途中で終了するものである。この制御では、次の検査モジュールでの抽出工程での温度が高いことによる影響を防止できる。
【0083】
次に、図32には図31の温度制御結果による検査液温度の時間変化を示す。図32(a)は、図31における(c)に該当し、抽出工程の途中より制御を開始して抽出工程の終了時に第二の反応温度41℃に到達している。この温度制御では、第一の反応温度65℃の制御時の反応液の蒸発量を少なくできる効果がある。図32(b)では、第一の反応温度制御の途中で第二の反応温度に到達する。(c)では、第二の反応温度に合わせて達成している。この温度制御では、添加する酵素の温度による失活の影響を最も少なくできる効果がある。
【0084】
図33では、検査液の昇温の時間傾向を示す。図33では抽出の開始より同時に遠心槽の温度制御を開始しているが、(a),(b),(c)では、温度が一定になるまでの時間を比較して示している。(a)では、抽出と検出工程の間に第二の反応液温度に到達している。この場合、第一の反応温度制御時に水蒸気分圧差が小さいので検査液の蒸発量を最小にできる。(b)では、第一の反応液温度の制御の途中で達成している。さらに(c)では、第二の反応液温度の検出開始時間に合わせて温度が到達している。(c)の場合、比較的高い温度での時間が短時間であり酵素失活の影響を最小にできる。
【0085】
なお、本実施形態中では酵素至適温度を示したが、酵素が反応する温度範囲であれば問題なく、例えば下限は至適温度−5℃から至適温度等の範囲であっても本実施形態の効果は達成される。
【0086】
また、検査対象や使う試薬ごとに酵素の至適温度を考慮した温度の制御幅を事前に入力し動作可能な検査装置であっても良い。この場合、検査時間の短縮が実現できる。
【0087】
これまで、説明してきた本実施形態においては、以下の形態を有するものである。
(1)生体物質を含む試料が導入され、前記試料と反応させる試薬を保持する構造体が収容され、前記試薬と反応した後の前記試料の検出機構を備えた化学分析装置であって、前記構造体での試料中の生体物質の抽出後、または、抽出の途中より前記構造体の周囲流体を反応試薬の適正な反応温度に制御するものである。具体的には、前記試薬の少なくとも一つは酵素を含む試薬であり、前記試料中から生体物質を抽出する機構と、前記抽出した生体物資に酵素を含む試薬を供給する機構と、前記構造体の温度を制御する温度制御機構を有し、前記生体物質を抽出する工程が開始された後であって前記生体物質に前記酵素を含む試薬を反応させる前までの間に前記温度制御機構により前記酵素を含む試薬を昇温するよう制御されることを特徴とする。前記構造体は検査差モジュール2(図2や図3)を用いることができる。
【0088】
前記構造体での試料中の生体物質の抽出後、または、抽出の途中より前記構造体の周囲流体を反応試薬の適正な反応温度に制御することを特徴とする。
【0089】
なお、生体物質は例えば実施例において説明した核酸であることができる。或はDNA、RNA、或はタンパク等であることができる。
(2)または、前記(1)の化学分析装置において、前記酵素が供給された生体物質を、所定温度に所定時間保温し、前記保温した前記生体物質を前記検出機構で検出するよう制御され、前記昇温する工程では前記酵素を含む試薬を前記保温温度に近づくように制御されることを特徴とする。
【0090】
例えば、実施例において例示したように、所定温度は至適温度などの保温温度である。室温より高い温度であることが一般的である。前記保温温度に近い温度に加熱する。例えば、保温温度との差が5度以内程度であることが考えられる。或は、例えば、温度制御機構による前記加熱温度は、室温よりも前記保温温度に近い温度に制御するものである。ここで室温とは10−30℃程度を想定している。
【0091】
なお、前記温度は、適正な反応温度は用いる定温核酸増幅法の反応温度とすることが好ましい。前記適正な反応温度は酵素の至適温度に近い範囲であることが好ましい。例えば、−5℃〜0℃程度の範囲である。より好ましくは、酵素の至適温度−3℃〜0℃程度の範囲である。
(3)又は、化学分析装置であって、前記構造体を回転駆動する駆動機構と、前記試料中から生体物質を抽出する機構とを備え、前記試薬の少なくとも一つは酵素を含む試薬であり、前記抽出した生体物資に酵素を供給する機構と、前記構造体の温度を制御する温度制御機構を有し、前記構造体の収容部と、前記収容部が設置された槽と、前記槽を収納し、開閉機構を備えた容器と、を備え、前記構造体が収容された領域に対応して設置され、前記構造体の前記抽出した生体物質が位置する領域の温度を制御する第一の温度制御機構と、前記槽内空間に充填された流体の温度を制御する第二の温度制御機構有することを特徴とする。
【0092】
前記構造体での生体物質と、反応に用いる試薬を、遠心力の作用で混合させている。
【0093】
なお、前記第一の温度制御機構は、構造体の収容部である回転ディスク部に設けることができる。これにより、構造体の流路のうち特定領域の温度制御を行うことができる。或は、収容部の検査モジュール2に対向して前記ディスクとは間隔を介して配置することもできる。
【0094】
前記槽内空間に充填された流体は気体である。例えば、空気などであってもよい。酸化などを抑制する観点からは窒素等の酸化を抑制する気体であってもよい。
(4)又は、前記(3)の化学分析装置において、前記生体物質の抽出工程を開始してから前記生体物質に前記酵素を含む試薬を供給する前の間に、前記第二の温度制御機構を稼動させて前記槽内の温度を昇温する制御を含むことを特徴とする。
【0095】
なお、例えば、前記抽出工程は生体試料から遠心分離する工程の開始から、標的核酸を取出す工程の範囲である。
(5)又は、前記(3)の化学分析装置において、前記生体物質の抽出工程を開始してから前記生体物質に前記酵素を含む試薬を供給する前の間に、前記第一の温度制御機構及び前記第二の温度制御機構を稼動させて前記槽内の温度を昇温する制御を含むことを特徴とする。
(6)又は、前記(3)の化学分析装置において、前記第二の温度制御機構は、槽内にある気体を攪拌する攪拌機構を有することを特徴とする。
(7)前記(3)の化学分析装置において、前記生体物質は核酸であり、前記生体物質と前記酵素を含む試薬を混合する前までに、A:前記生体物質と前記槽内の前記流体の温度を前記装置の外部よりも前記所定温度に近い温度に制御する、又は、B:前記生体物質と前記酵素を含む試薬温度を前記装置の外部よりも前記所定温度に近い温度に制御する。
【0096】
このようにすることで酵素と試料核酸を含む検査液との混合時の温度低下を防止でき酵素失活を防止する効果が得られる。
【0097】
または、C:前記生体物質と前記酵素を含む試薬を混合した後に、前記生体物質と前記酵素を含む試薬との反応液と前記槽内の前記流体の温度とを、少なくとも前記第二の温度制御手段を稼動させて保温制御する。このようにすることで、検査ポート内と遠心槽内の水蒸気分圧の差を小さくできるため検査液の蒸発を抑制できる。また、検査液の温度を均一化に寄与でき増幅・検出中の検査液の蒸発や凝縮による濃度分布を均一化できる。さらに、検査液の温度分布が小さくなるために、温度制御位置での温度の測定精度の向上が図れる。
【0098】
なお、前記流体を反応温度に制御するために、電気ヒータ、温水循環、冷凍サイクルの凝縮器の少なくともいずれを用いる。
【0099】
PCR増幅法では前述したように、所定の温度間を繰り返す温度制御が行われるが、サイクルの途中で試薬を分注する必要がない。一方、定温核酸増幅法のNucleic Acid Sequence−Based Amprification(NASBA)法では一定温度条件下で酵素を添加する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の一実施例の遺伝子検査装置の縦断面図である。
【図2】図1の遠心槽の上方矢視図である。
【図3】検査カートリッジの外観図である。
【図4】試薬カートリッジの非装着の裏面外観図である。
【図5】試薬カートリッジ非装着の検査カートリッジの外観図である。
【図6】検査カートリッジと試薬カートリッジの非接続時の断面図である。
【図7】検査カートリッジと試薬カートリッジの接続時の断面図である。
【図8】試薬カートリッジの上方矢視図である。
【図9】検査カートリッジの上方矢視図である。
【図10】試薬カートリッジ一体型の検査モジュールの外観図である。
【図11】試薬カートリッジ一体型の検査モジュールの上方矢視図である。
【図12】検査工程の一例を示すフローチャートである。
【図13】検査液の温度制御手段を説明する断面を示す図である。
【図14】検査カートリッジの検査液温度制御手段を説明する縦断面図である。
【図15】検査カートリッジの検査液温度制御手段を説明する縦断面図である。
【図16】検査カートリッジの検査液温度制御手段を説明する縦断面図である。
【図17】検査カートリッジの検査液温度制御手段を説明する縦断面図である。
【図18】検査カートリッジの検査液温度制御手段を説明する縦断面図である。
【図19】検査カートリッジの検査液温度制御手段を説明する縦断面図である。
【図20】検査カートリッジの検査液温度制御手段を説明する縦断面図である。
【図21】検査カートリッジの検査液温度制御手段を説明する縦断面図である。
【図22】検査カートリッジの検査液温度制御手段を説明する縦断面図である。
【図23】本発明の効果を説明ずる大気圧下の水蒸気分圧の図である。
【図24】本発明の遠心槽の温度制御の実施例を説明する検査装置の縦断面図である。
【図25】本発明の遠心槽の温度制御の実施例を説明する検査装置の縦断面図である。
【図26】本発明の遠心槽の温度制御の実施例を説明する検査装置の縦断面図である。
【図27】本発明の遠心槽の温度制御の実施例を説明する検査装置の縦断面図である。
【図28】本発明の遠心槽の温度制御の実施例を説明する検査装置の縦断面図である。
【図29】本発明の遠心槽の温度制御の実施例を説明する検査装置の縦断面図である。
【図30】本発明の遠心槽の温度制御の実施例を説明する検査装置の縦断面図である。
【図31】検査液と遠心槽の温度制御タイミング図である。
【図32】検査液と遠心槽の温度制御タイミング図である。
【図33】検査液と遠心槽の温度制御タイミング図である。
【符号の説明】
【0101】
1…遺伝子検査装置、2…検査モジュール、10…遠心槽、12…保持ディスク、15…検出機構、16…検査ポート温度制御装置、18…遠心槽温度制御装置、20…検査カートリッジ、30…試薬カートリッジ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体物質を含む試料が導入され、前記試料と反応させる試薬を保持する構造体が収容され、前記試薬と反応した後の前記試料の検出機構を備えた化学分析装置であって、前記試薬の少なくとも一つは酵素を含む試薬であり、前記試料中から生体物質を抽出する機構と、前記抽出した生体物資に前記酵素を含む試薬供給する機構と、前記構造体の温度を制御する温度制御機構を有し、前記生体物質を抽出する工程が開始された後であって前記酵素を含む試薬を反応させる前までの間に、前記温度制御機構により前記酵素を含む試薬を昇温する制御を行うことを特徴とする化学分析装置。
【請求項2】
請求項1の化学分析装置において、前記酵素を含む試薬が供給された前記生体物質を、所定温度に所定時間保温して増幅し、保温した後の前記生体物質を前記検出機構で検出するよう制御され、前記昇温する工程では前記酵素を含む試薬を前記保温温度に近づくように制御されることを特徴とする化学分析装置。
【請求項3】
生体物質を含む試料が導入され、前記試料と反応させる試薬を保持する構造体が収容され、前記試薬と反応した後の前記試料の検出機構を備えた化学分析装置であって、前記構造体を回転駆動する駆動機構と、前記試料中から生体物質を抽出する機構とを有し、前記試薬の少なくとも一つは酵素を含む試薬であり、前記抽出した生体物資に酵素を含む試薬を供給する機構と、前記構造体の温度を制御する温度制御機構を有し、前記構造体の収容部と、前記収容部が設置された槽と、前記槽を収納し、開閉機構を備えた容器と、を備え、前記構造体が収容された領域に対応して設置され、前記構造体の前記抽出した生体物質が位置する領域の温度を制御する第一の温度制御機構と、前記槽内空間に充填された流体の温度を制御する第二の温度制御機構有することを特徴とする化学分析装置。
【請求項4】
請求項3の化学分析装置において、前記生体物質の抽出工程を開始してから前記生体物質に前記酵素を含む試薬を供給する前の間に、前記第二の温度制御機構を稼動させて前記槽内の温度を昇温する制御を含むことを特徴とする化学分析装置。
【請求項5】
請求項3の化学分析装置において、前記生体物質の抽出工程を開始してから前記生体物質に前記酵素を含む試薬を供給する前の間に、前記第一の温度制御機構及び前記第二の温度制御機構を稼動させて前記槽内の温度を昇温する制御を含むことを特徴とする化学分析装置。
【請求項6】
請求項3の化学分析装置において、前記第二の温度制御機構は、槽内にある気体を攪拌する攪拌機構を有することを特徴とする化学分析装置。
【請求項7】
請求項3の化学分析装置において、前記生体物質は核酸であり、前記生体物質と前記酵素を含む試薬を混合する前までに、前記生体物質と前記槽内の前記流体の温度を前記装置の外部よりも前記所定温度に近い温度に制御することを特徴とする化学分析装置。
【請求項8】
請求項3の化学分析装置において、前記生体物質は核酸であり、前記生体物質と前記酵素を含む試薬を混合する前までに、前記生体物質と前記酵素を含む試薬温度を前記装置の外部よりも前記所定温度に近い温度に制御することを特徴とする化学分析装置。
【請求項9】
請求項3の化学分析装置において、前記生体物質は核酸であり、前記生体物質と前記酵素を含む試薬を混合した後に、前記生体物質と前記酵素を含む試薬との反応液と前記槽内の前記流体の温度とを、少なくとも前記第二の温度制御手段を稼動させて保温制御することを特徴とする化学分析装置。
【請求項10】
請求項3の化学分析装置において、前記生体物質は核酸であることを特徴とする化学分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2006−122041(P2006−122041A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−241955(P2005−241955)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】