説明

化学分析装置

【目的】 液量が様々に異なる分析液を分析すること、充填液に対して比重が小さい分析液を分析すること、精度の高い分注を実現すること、及び混合精度の高い化学分析を実現することができる化学分析装置を提供する。
【解決手段】 開口部を有する分析部と、その開口部よりサンプル及び試薬を供給する手段と、該サンプル及び試薬を液滴として合体・混合して被測定液とする手段と、反応中あるいは反応が終了した該被測定液の物性を計測する計測手段とを備えた化学分析装置において、該分析部に対向して配置された板状部材を有し、各々の板状部材の向かい合う面に複数の電極が設けられ、該サンプル及び試薬の液滴に対して該複数の電極より電圧を印加する機構を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体中に含まれる微量物質の分析に好適な化学分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、1枚の共通電極板に対向して、複数の互いに絶縁された電極列を有する板状部材を設け、2枚の板の隙間に満たされた充填液の中の微量な液滴を、電極列に順次電圧を印加することにより、電極面と液滴間に引力を発生させて、電極列に沿って搬送する方法が記載されている。
【特許文献1】米国特許第6565727号明細書
【非特許文献1】「データの取り方とまとめ方」 J.C.Miller等著、共立出版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示された技術を生体中に含まれる微量物質を分析する化学分析装置に適用するためには、以下の課題を有する。
【0004】
第1に、微量液(サンプルや試薬などの分析液)の液量範囲が、2枚の板状部材間の隙間と、電極列を構成する時の電極寸法によって決まってしまうために、広い液量範囲にわたる分析液のハンドリングが困難である。
【0005】
第2に、分析液は各々比重が異なり、充填液に対する分析液の比重の大小により、液滴が一方の電極板に偏る。電極面と液滴間の引力は、液の親水性・撥水性の変化によって得られるが、親水性・撥水性は2枚の電極のうち片側のみしか制御できないために、ハンドリングすることが困難となる場合がある。
【0006】
第3に、分析液の液溜めに一時的に保持した液を分注する際は、液溜めから液を切って液滴を形成するが、液切れの状態は様々な液の物性によって異なってしまうため、液滴の液量の差が大きくなり、分注精度が低下する恐れがある。
【0007】
第4に、サンプルと試薬の混合が、液滴を移動して衝突、遥動するだけのために混合効率が悪い恐れがある。
【0008】
上記課題に鑑み、本発明は、液量が様々に異なる分析液を分析すること、充填液に対して比重が小さい分析液を分析すること、精度の高い分注を実現すること、及び混合精度の高い化学分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために本発明は、開口部を有する分析部と、その開口部よりサンプル及び試薬を供給する手段と、該サンプル及び試薬を液滴として合体・混合して被測定液とする手段と、反応中あるいは反応が終了した該被測定液の物性を計測する計測手段とを備えた化学分析装置において、該分析部が対向して配置された板状部材から構成され、各々の板状部材の向かい合う面に複数の電極が設けられ、該液滴の濡れ性を制御するために該サンプル及び試薬の液滴に対して該複数の電極より電圧を印加する。
【0010】
サンプル及び試薬が液滴となって対向して配置された板状部材間に挟まれており、電極に電界を印加することによって液滴の接触角が変化し、複数の電極上を移動することが可能となる。又、分析部の開口部より供給されたサンプル及び試薬が開口部付近における容量より小さい液滴として移動することが可能となる。
【0011】
更に、具体的には、電極板に段差を付ける、あるいは電極を突起状にして小容量の液にも触れるようにする、あるいはドット状電極を分配して配置することによって、電極が常に液に触れるようになり、容量が小さくても液の親水性・撥水性を制御できるようになるため、液量が小さいときでも分析できる装置を提供することができる。
【0012】
又、グランド電極と印加電極の配置を天板と底板で逆にすることで、充填液に対して比重が小さい分析液を分析する装置を提供することができる。更に、多数の小滴に分割し多数回に分けて分注する、電極形状を液滴形状にする、画像処理によって補正する、分注ノズルを電極にすること等によって高精度分注を実現した化学分析装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の化学分析装置は、液量が様々に異なる分析液を分析すること、充填液に対して比重が小さい分析液を分析すること、精度の高い分注を実現すること、及び混合精度の高い化学分析を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、本発明は本明細書に開示した内容に限定されるのではなく、現在及び今後の周知事項に基づく変更を阻止するものではない。
【実施例1】
【0015】
図1〜7を用いて実施例を説明する。図1は、システム全体の斜視概略図、図2は分析基板の上面図を示す。図3はサンプル分注部であり、図2のB−B’断面図を示す。図4は、試薬分注部であり、図2のC−B’断面図を示す。図5は、検出部であり、図2のD−D’断面図を示す。図6は、廃液部であり、図2のE−E’断面図を示す。
【0016】
本化学分析装置は、図1に示すような、血清などの生体試料を入れたサンプルカップ101と、サンプルカップ101を回転移動するサンプルディスク102と、分析ディスク103上に乗ったサンプルを分析する分析基板104と、サンプルをサンプルカップから分析基板に分注するサンプル分注プローブ105と、分析が終わった液などを吸引して外部に捨てるための廃液シッパ106で構成される。分析基板104には、保冷機能つきボトルテーブル107に乗った試薬ボトル108とオイルボトル109から、チューブ110を介して、電磁バルブ付き配管コネクタ111によって分析基板104に配管されている。分析基板104上面には、検出ユニット114が設けられている。分析基板104は、サンプルポート112と廃液ポート113の二つの開口部により、外界に開放されている。
【0017】
以下、分析手順を示す。サンプルカップ101からサンプル分注プローブ105によってサンプルを分析基板104に分注し、試薬ボトル108から試薬を、チューブ110を介して分注する。分析基板104では、2つの液を混合し、吸光度分析などが行われる。分析が終わった液は、廃液シッパ106により外界に排出される。
【0018】
分析基板は、図2、3に示すように、上面基板201と下面基板202の2枚の基板からなる。下面基板202の一部には、1辺の長さが数ミリメートルから数マイクロメートル程度の多数の電極がサンプル電極列115や試薬電極列116などとして配列され、撥水・絶縁膜208で覆われている。電極は、それぞれスイッチング回路204により接続されている。ここでは、サンプルと試薬の混合液量比が、サンプルに対して試薬が大きい場合を示している。液量比に応じて、電極の大きさが異なっている。2つの基板のギャップはスペーサ205により一定間隔となっており、オイルポート206からオイルが必要に応じて供給される。撥水・絶縁膜は、撥水膜と絶縁膜とに分けても良い。
【0019】
下面基板202の作成方法としては、例えば、ガラスや石英などの絶縁された基板上に、CrやTi、Al、ITOなどの導電性を有する薄膜電極を蒸着、スパッタ、CVD等により作成し、電極とする。その上に、スリーボンド社のパリレン(商品名)などの有機絶縁膜やSiOなどの無機絶縁膜を、蒸着、スパッタ、CVD等により作成する。この絶縁膜上に、フッ素系ベースの撥水膜をコーティングし、形成することによって作成する。撥水膜の材料としては、デュポン社のテフロンAF1600(商品名)や、旭ガラス社のCytop(商品名)などを用いることができる。また、上面基板201は、対電極211としてITOなどの透明導電膜を一面に形成し、その上に上記撥水膜をコーティングして作成する。
【0020】
分析基板104の基板間には、例えばシリコンオイル、フォンブリン(商品名)やクライトックスオイル(商品名)などの耐薬品性が高い不活性オイル207が供給されている。このとき、オイル207による膜が上面、下面基板上を覆うことになり、サンプル液滴213などが接触しにくくなる。オイル207が満たされるべき分析基板104は平板上に乗っているため、オイル207は自然流出せず、ヘッド差による比較的安価な供給が可能で、補充を毎分析ごとにする必要はない。このとき、液が接する箇所での液残りが発生しにくくなるため、従来の分析装置で問題となっていたキャリーオーバの問題が解決され、高精度な分析が可能となる。
【0021】
分析基板104での動作を詳細に説明する。まず、図2では図示しないサンプル分注プローブ105によってサンプルポート112に分注されたサンプルは、サンプルポート112に貯蓄されたような状態となる。このとき、サンプル電極A209上の分注サンプル210は、撥水・絶縁膜上にあるために、上下基板表面からはじかれて丸くなっている。次に、スイッチング回路204を操作して、サンプル分注電極A209と対電極211の間に電圧を印加すると、濡れの状態が変化し、展延して、サンプル電極B212に接触するようになる。次に、スイッチング回路を操作してサンプル電極A209への電界を切って、サンプル電極B212と対電極211の間に電圧を印加すると、分注サンプル210の一部が適当な位置でくびれるようになり、サンプル分注電極A209から離れ、サンプル分注電極B212まで展延する。次に、スイッチング回路204によってサンプル分注電極B212への電界を切ってサンプル分注電極C214に電圧を印加すると、適当な位置で液がちぎれ、サンプル液滴213になって、サンプル分注電極C214上に移動する。このようにして、次々にスイッチング回路204を切り換えることによって、サンプル液滴213がサンプル電極列115に沿って分析基板104中を搬送されていく。また、次々にサンプルポート112からサンプル液滴213をちぎり出して、多数のサンプル液滴213としてトータルのサンプルを分注する。
【0022】
サンプル液の粘度が大きかったり、表面張力が小さかったりすると、電界切り替えによる濡れ性変化の影響が小さくなるため、次の電極に液が展延しにくくなって液のくびれが発生しにくく、分注サンプルからサンプル液滴をちぎり出すことが難しくなる。このとき、液のちぎれる箇所が、ちぎる度に異なってしまうため、サンプル液滴の大きさが異なってしまうので、サンプル分注精度が低下する恐れがある。そこで図7(A)のように、液がくびれる箇所221の電極、例えばサンプル電極B212を、液のくびれ221に沿った凹部を持つ形状にすることで、液のくびれ221を大きくし、液をちぎりやすくすることができる。あるいは図7(B)のように、サンプル液滴213を形成する電極、例えばサンプル電極C214を、液滴の大きさに沿った形状にすることで、サンプル液滴213の形成を促進することができる。このようにすることで分注サンプル210から液をちぎり易くなるため、サンプル分注精度は向上することができる。この液滴形状の電極の曲線部分は、例えば、曲率半径の寸法が、該開口部に最も近い電極である電極112の持つ曲率半径より小さいほうが、液のくびれの曲線に沿うことが可能となるとなるので、望ましい。逆に、小さすぎると液滴の変形度の裕度を超えてしまうので、その隣接する電極の寸法より大きな曲率半径を持つ曲線部になっていることが望ましい。
【0023】
本発明では、このように、サンプル分注プローブからの分注サンプルを小分けにして分注する。一般に、小分けに分注すると分注精度は向上する。例えば、非特許文献1によると、同じ分注精度で同容量を分注するとき、N回に分けて分注すると、Nの平方根に反比例して精度は向上する。従来の分析装置の分注では、1μL程度が最小分注量だったため、1μL以下を小分けにして分注することは不可能であった。しかし、本発明では電極寸法を小さくすることにより、さらに小さな液滴として分注することが可能であり、小分けに分注して分注精度を向上することができる。
【0024】
既に述べたように、図3に示す様に、サンプル分注プローブ105にも、基板同様、撥水・絶縁膜208が施されて撥水性が得られるようになっている。また、スイッチング回路204を通じて電界が印加され、濡れ性を制御できるようになっている。まず、サンプル分注プローブ105から分注サンプル210を分析基板104の基板間に、分注する。次に、サンプル分注プローブ105を引き上げるが、従来の分析装置の場合、サンプル分注プローブを引き上げる際に、サンプル液210をいっしょに持ち去ってしまうため、その持ち去りを考慮した液の分注をしなければならず、使用容量が大きくなってしまう課題があった。また、持ち去られる量も不安定だった為に、分析精度も低下する課題があった。しかし、図3のような構成にすることによって、サンプル分注プローブ105を引き上げる際に、サンプル分注プローブ105の対電極211と、サンプル電極Aとの間で電圧制御を行い、上面基板201の対電極211と同等の役割を果たすことができる。したがって、分注サンプル液の濡れ性が制御され液切れがよくなるため、サンプル分注ノズルに付着するサンプル液がなくなるため持ち去りの課題は解決され、使用容量の低減、分析精度の向上が可能となる。また、サンプル分注プローブ105とサンプル電極A209の間で図示しない電流計を設けて電流をモニタリングすると、液滴がある場合は電流が非常に極わずかながら流れるため、液滴が付着しているかどうか確認することができ、分注精度向上に大きく貢献する。
【0025】
上面基板201の材質をガラスなどにし、対電極211をITOなどの透明電極にして、分析基板104の上側に図示しないカメラを設けることにより、サンプルポート112から分注されるサンプル液滴213の形状をモニタリングし、2次元的に広がるサンプル液滴を画像取得することができる。このとき、板状部材間に挟まれた液滴の断面は一様となるので、取得された画像から求めた液滴像の面積を断面積とみなし、板状部材間の距離を掛けることにより容易かつ高精度に液滴体積を求めることが出きる。したがって、従来の分析装置のモニタリングで問題となっていた、液滴を3次元的に画像取得するために悪化していたモニタリング精度低下の問題が解決され、高精度な分注が可能となり、精度の高い分析が可能となる。また、サンプル分注電極を数μmにすることによって、サンプル液滴の容積をナノリットルオーダにすることが可能となる。したがって、モニタリングして過不足が発生しているときに精度の高い調整が可能となっている。
【0026】
一方、試薬は、図4に示すように、チューブ110によって上面基板201に配管されている。図1に示すように、試薬ボトル108は分析基板104より上側に設置されているため、ヘッド差による供給が可能で、コネクタユニット111内の電磁バルブを介して撥水性の配管コネクタ219によって試薬ポート121に接続される。電磁バルブの開閉の間隔によって必要量を分析基板に供給する。試薬ポート121はサンプルポート112と同様、スイッチング回路204(図1、4中には示さない)から接続された試薬電極列116が設けられており、分注試薬190から試薬液滴122を複数回切り出し、搬送する。その後、混合電極A216で合体させ必要量とする。
【0027】
サンプル液と試薬の混合は、以下のようにして行う。まず、ここで、試薬液滴122が、あらかじめ混合電極Aに搬送されている。次に、混合電極上で待機する試薬液滴122、あるいは既にある程度混合されている混合液滴123に、サンプル液滴213を搬送して混合電極A216で衝突させる。さらに、混合電極B217、混合電極C218にスイッチング回路204を切り換えて、混合液滴123を分析基板104と平行な水平方向に往復搬送し、液滴内に流動を発生させ混合を促進する。衝突させるサンプル液滴の量、すなわちサンプルポートからサンプル液をちぎりだす回数は、分析プロトコルに定められた混合比によって決まる。
【0028】
一般に、混合したい2液の容量が大きくなると内部の流動が生じにくくなり混合が困難になる。例えば従来の分析装置では、混合時間を長くすることで解決しようとしたり、それでも不十分な混合しかできないために分析精度が低下する問題があった。しかし、上述したように、本発明では、液滴レベルで十分に混合するため、混合は非常に容易となっている。したがって混合効率が向上するため、分析時間を短縮し、分析精度を向上することが可能となる。
【0029】
液体の比重が分析基板内に満たされた不活性オイル207より軽い場合、液滴は上面基板側に浮いて張り付く。このとき、図3のサンプル電極Aなどのように、液滴の下面基板202側に電極を設けてスイッチングしても、大きな濡れ性の変化は起きない。そこで、反対に、上側基板201側に分断された電極を設け、下面基板202側を対電極にすることによって、上述と同様な、精度の高い液滴ハンドリングが可能となる。また、液滴体積が増加すると、分析基板断面の水平方向と深さ方向のアスペクト比が大きくなるので移動のときの抵抗が増加するため、電界印加による表面張力の制御のみでハンドリングすることが困難となる。さらに、図3、4のように、段差部215を設け、深さ方向を変えてアスペクト比を小さくすることによって移動の抵抗が減少するので、表面張力の変化が及ぼす影響が大きくなり、比較的大きな容量の混合液滴123をハンドリングすることが可能となる。この深さ方向の変化は、例えば電極寸法より大きな場合、液滴が天板と底面の両方に接しにくくなるため、液滴間に電界を印加することが難しくなる。逆に、電極間に比較して半分程度より小さくなると、段差部の効果は殆ど望めなくなる。
【0030】
混合液滴123は、混合電極列118に設置された検出部へ搬送される。例えば吸光度分析によって検出する場合、分析基板の深さ方向が非常に狭いので、液滴を通過するように光線を照射することが難しい。また、液滴の水平方向も短いためにライトパスが短くなり、分析精度が低下する。分析基板垂直方向は電極があり困難であり、また深さ方向が浅いためライトパスが短く、分析精度が低下する。そこで、本発明では、図5に示すように、LEDなどの光源119を斜め方向に照射することによって、上面基板201の混合電極118と、下面基板202の対電極211間で複数回反射させてライトパスを長くして分析精度低下を防ぐ。分析部の電極は不透明で反射性の良い材質である、CrやAuが望ましい。また、光源119と受光部120が分析基板の同じ上面側に設置することができるので、光学的アライメントを容易にすることが可能となる。
【0031】
一般に、吸光度分析の場合、液滴の容量は多い方が、ライトパスが長くなるために、検出精度は向上する。そこで、本発明では、液滴を混合電極118上で合流させ、容量を大きくしてから検出部に搬送している。この場合、事前に小液滴でマイクロレベルの混合がいずれも適切にバラツキなくすんでいるため、最後のこのマクロレベルの混合も比較的たやすい。また、容量の大きな液滴を表面張力の制御によってハンドリングする場合、搬送速度が遅くなる。しかし、本発明の場合、必要な場所以外は小液滴でハンドリングするので、分析時間の低下を防ぐことができる。
【0032】
図6に示すように、検出の終わった液滴125は、混合電極列118の切り換えによって廃液ポート113に搬送され、廃液プローブ220によって分析基板104外に排出される。ギャップ間に満たされた不活性オイル207の比重が分析液より大きい場合、液滴125は上に浮くため、廃液ポート113上部にプローブの先端を静置するのみで容易に吸引することが可能となる。あるいは図に示すように、液滴がギャップ間にとどまってしまう場合は、廃液プローブ220をL字に屈曲させることによって吸い出すことが可能となる。この場合、廃液プローブ220にも撥水・絶縁膜と電極を付けることにより、分析電極から廃液プローブに液滴を搬送することが可能となる。また、分注時と同様に電流モニタリングすれば、不活性オイル中に廃液プローブ先端があれば電流は流れないが、液滴に触れれば電流が極わずかに流れるため、それをトリガにして吸引を開始することができる。廃液の中には、分析液も不活性オイルも含まれるが、これらは廃液プローブの配管から後ろで容易に分離することができる。これらは、トータル分析時間の短縮に繋がる。
【実施例2】
【0033】
図8〜10を用いて実施例2を説明する。図8、9は、分析基板の拡大上面図、図10は拡大側面図である。
【0034】
サンプルと試薬を混合するときの配分率は分析プロトコルによって異なるため、混合液滴の大きさが分析プロトコルによって大きく異なる場合がある。このとき、同じ大きさの電極を並べると、液滴が小さすぎて隣の液滴に触れられなかったり、大きすぎて複数の電極にまたがってしまって電界を印加できなくなり、表面張力の制御ができなくなり、液のハンドリングが困難になる。そこで、図8に示すように、電極をさらに小さく、例えば1片が数ナノメートルから数マイクロメートル程度のドット状の微小電極300にして多数配置することで、小さなサイズの小容量混合液303でも、大きなサイズの大容量混合液304でも、常に電極に触れることができるようになる。どの電極にスイッチングすべきかは、あらかじめ量が決まっていればバリデーションしておけばよいし、実施例1に方法を記したような画像モニタリング、電流モニタリングによっても可能である。電界印加すべき電極群302は、液滴下面及びその周りの電極で、これらに電界を印加することで表面張力を制御し、如何なる小液滴でも電極に接するようにすることができる。小液滴は効果的に液滴の表面張力を制御することができ、液滴の搬送が容易となり、分析時間の短縮に貢献できる。このドット状電極の寸法としては、液滴の濡れ性が変化する程度の形状を持たせるために、例えばこれら複数の電極間の隙間程度であることが望ましい。
【0035】
余剰となった液は、分注ポートに接続した余剰液排出電極列301によって、図示しないが分析基板に設けられた余剰液排出ポートまで搬送され、外部に排出される。このように、本発明に実施例においては分析に不要な液を排出することが容易となっており、上記のようなヘッド差の利用のような、送液量の精度は悪くても、比較的安価な送液方法を選択することが可能となる。
【0036】
多数配置された微小電極300上を液滴が移動するとき、通常は液が触れる複数の電極に電圧を印加しなければ、液全体が移動するほどの表面張力の変化を発生することができない。しかし、図9(A)のように、液滴が触れる電極の一部、例えば図面上下一個ずつの縦方向変形電極305のみに電界を印加すると、その部分のみの表面張力が変化して液滴の一部が変形し、縦方向に伸びる。次に、左右一個ずつの横方向変形電極306のみにスイッチングすると、横方向に伸びる。このような液滴の伸縮運動を起こすと、液滴内部に流動を発生することができるため、液滴内部を均一にすることが可能となり、混合を大きく促進する。この運動は、液滴を停止しているときに行っても良い。あるいは図9(B)のように、液滴搬送中に横方向変形電極に電界を印加して、横方向に変形させながら混合流動を発生しても良い。このようにすることで、高い混合効率を得られるようになるので、分析時間の短縮や、分析精度の向上が可能となる。
【0037】
分析プロトコルの違いから生じる液滴の大きさの違いによって、分析基板水平方向だけではなく、深さ方向に異なる場合がある。このとき、小容量混合液滴303は一方の基板に接触しないので、電界を印加できなくなる。そこで図10に示すように、微小電極を基板に対して垂直に立った形状である、突起状微小電極307に加工する。図10(A)は液滴搬送方向から見た縦方向断面図、図10(B)は、液滴搬送垂直方向から見た横方向断面図である。この突起の大きさとしては、例えば、該複数電極間に設けられた隙間よりも大きく、対向して配置された板状部材のどちらにも接触しないように小さい程度に、その周囲よりも突き出していることが望ましい。このようにすることにより、小容量混合液滴303にも突起状微小電極307が接し、電界を印加することが可能となる。この突起状微小電極307は、構造上、大容量混合液304にも接するため、大きな液滴に対しても問題なく電界印加が可能である。このようにすることで小液滴のハンドリングが可能となり、分析精度の向上、分析時間の短縮に貢献できる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明により、液量が様々に異なる分析液を分析すること、充填液に対して比重が小さい分析液を分析すること、精度の高い分注を実現すること、及び混合精度の高い化学分析を実現することができるようになった。特に、生体中に含まれる微量物質の分析に好適な化学分析装置が実現した。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本化学分析装置全体の概略図である。
【図2】本化学分析装置の分析基板の拡大図である。
【図3】図2のB−B’断面図である。
【図4】図2のC−B’断面図である。
【図5】図2のD−D’断面図である。
【図6】図2のE−E’断面図である。
【図7】本化学分析装置のサンプル電極Bの変形例の拡大図である。
【図8】本化学分析装置の電極列例である。
【図9】本化学分析装置における電極列と液滴の変形を示す図である。
【図10】本化学分析装置における突起を有する電極列と液滴の変形を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
101:サンプルカップ、102:サンプルディスク、103:分析ディスク、104:分析基板、105:サンプル分注プローブ、106:廃液シッパ、107:ボトルテーブル、108:試薬ボトル、109:オイルボトル、110:チューブ、111:電磁バルブ付き配管コネクタ、113:廃液ポート、114:検出ユニット、115:サンプル電極列、116試薬電極列、118:混合電極列、119:光源、120:受光部、121:試薬ポート、122:試薬液滴、123:混合液滴、124、125:液滴、190:分注試薬、201:上面基板、202:下面基板、204:スイッチング回路、205:スペーサ、206:オイルポート、207:不活性オイル、208:撥水・絶縁膜、209:サンプル電極A、210:分注サンプル、211:対電極、212:サンプル電極B、213:サンプル液滴、214:サンプル電極C、215:段差部、216:混合電極A、217:混合電極B、218:混合電極C、219:配管コネクタ、220:廃液プローブ、221:液のくびれ、300:微小電極、301:余剰電極排出列、302:電界印加すべき電極群、303:小容量混合液、304:大容量混合液、305:縦方向変形電極、306:横方向変形電極、307:突起状微小電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する分析部と、その開口部よりサンプル及び試薬を供給する手段と、該サンプル及び試薬を液滴として合体・混合して被測定液とする手段と、反応中あるいは反応が終了した該被測定液の物性を計測する計測手段とを備えた化学分析装置において、
該分析部に対向して配置された板状部材を有し、各々の板状部材の向かい合う面に複数の電極が設けられ、該サンプル及び試薬の液滴に対して該複数の電極より電圧を印加する機構を有することを特徴とする化学分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の化学分析装置において、
該分析部が、該各々の板状部材の向かい合う面に複数の電極の上に絶縁効果及び/又は撥水効果を持つ膜を備えることを特徴とする化学分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の化学分析装置において、
サンプル及び試薬供給手段及び/又は液排出手段の先端が導電性材質で、その上に絶縁効果及び/又は撥水効果を持つ膜が設けられ、先端が板状部材上の電極と配線されていることを特徴とする化学分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の化学分析装置において、
該分析部における板状部材に、該複数電極の間に設けられた隙間の半分より大きく、該複数電極の寸法より小さな寸法の段差部を設けたことを特徴とする化学分析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の化学分析装置において、
該分析部における対向して配置された板状部材のどちらにも複数の電極を設けたことを特徴とする化学分析装置。
【請求項6】
請求項1に記載の化学分析装置において、
該分析部における複数の電極が、開口部付近における電極形状と、計測手段を設けた場所付近における電極形状が異なることを特徴とする化学分析装置。
【請求項7】
請求項1に記載の化学分析装置において、
該分析部における複数の電極が、該複数電極間に設けられた隙間よりも大きく、該対向して配置された板状部材のどちらにも接触しないように小さい程度に、その周囲よりも突きだした突起状の電極であることを特徴とする化学分析装置。
【請求項8】
請求項1に記載の化学分析装置において、
該分析部における複数の電極の寸法が、該複数電極間に設けられた隙間と同じ程度の寸法を持つドット状の電極であることを特徴とする化学分析装置。
【請求項9】
請求項1に記載の化学分析装置において、
該分析部における複数の電極のグランド電極と印加電極の配置を、分析部中で天板と底板で逆であることを特徴とする化学分析装置。
【請求項10】
請求項1に記載の化学分析装置において、
該分析部における複数の電極が、曲率半径の寸法が、該開口部に最も近い電極の持つ曲率半径より小さく、その隣接する電極の寸法より大きな曲線部をもつ電極であることを特徴とする化学分析装置。
【請求項11】
請求項1に記載の化学分析装置において、
画像処理によって液滴の体積を求め、液滴計測時に補正する手段を有することを特徴とする化学分析装置。
【請求項12】
請求項1に記載の化学分析装置において、
サンプル及び試薬が該分析部の開口部より多数の小滴に分割し多数回に分けて分注される手段を有することを特徴とする化学分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−58031(P2006−58031A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237479(P2004−237479)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】