説明

化学劣化評価方法

【課題】本発明は、樹脂の化学劣化を高精度に評価することができる化学劣化評価方法を提供することを主目的とするものである。
【解決手段】本発明は、フェントン溶液に樹脂を含侵させる化学劣化評価方法であって、評価時間経過以後にフェントン溶液中の過酸化水素を水にし得る触媒をフェントン溶液に浸して劣化反応を停止させるフェントン反応停止工程を有することを特徴とする化学劣化評価方法を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の化学劣化を高精度に評価することができる化学劣化評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、樹脂の一例である燃料電池に用いられる高分子電解質膜はプロトンの移動媒体、及び水素ガスや酸素ガスの隔膜として機能している。従って、高分子電解質膜としては高いプロトン伝導性、強度、化学的安定性が要求される。しかし、燃料電池においては、電池反応によって高分子電解質膜と電極の界面に形成された触媒層において過酸化物が生成し、生成した過酸化物が拡散しながら過酸化物ラジカルとなって高分子電解質膜を劣化させる。その代表的なものが過酸化水素(H)の生成である。この電極上で発生した過酸化水素は、電極から拡散等のため離れ、高分子電解質膜中に移動する。この過酸化水素は酸化力の強い物質で、高分子電解質膜を構成する多くの有機物を酸化する。その詳しいメカニズムは必ずしも明らかになっていないが、多くの場合、過酸化水素がラジカル化し、生成した過酸化水素ラジカルが酸化反応の直接の反応物質になっていると考えられる。すなわち、発生したラジカルが、高分子電解質膜の有機物から水素を引き抜いたり、他の結合を切断したりすると考えられる。
【0003】
また、例えば、屋外で使用されるものに塗装された塗膜は、日光や雨等にさらされるために次第に劣化し、この劣化は長期にわたって徐々に進行する。しかし、塗膜の設計開発において、長期にわたる暴露試験を実施していたのでは、開発に要する期間の長期化につながる。
【0004】
このような技術的背景にあって、高分子電解質膜の上述したようなラジカルによる劣化(過酸化物ラジカルによる酸化反応)、すなわち、高分子電解質膜の耐酸化性は、高分子電解質膜の性能評価の重要な指針の一つであり、高分子電解質膜を形成している高分子電解質材料を高精度に分析、評価することが望ましい。また、自動車の外板塗膜等の劣化、例えばその耐酸化性の評価に対しても、短時間で、高精度に分析、評価することが望ましい。このように、化学劣化に対する性能評価は、高分子電解質材料(高分子電解質膜など)や塗膜などの樹脂全般において重要な技術的課題である。すなわち、上述したような劣化した樹脂がどの程度劣化しているか、どのような要因により劣化したのか、そしてどの程度の強度を有しているのか等をできるだけ短時間で、高精度に把握することは、例えば、樹脂材料の耐久性等の評価、樹脂の劣化のメカニズムの解明等のために非常に重要である。
【0005】
上記の樹脂(高分子電解質材料、塗膜等)の劣化を短時間で評価するための評価方法の一つとして、具体的には、フェントン溶液、すなわち過酸化水素に塩化鉄等を添加した水溶液に樹脂を含侵して過酸化水素に対する耐久性評価を行う方法(フェントン試験)がある。
【0006】
例えば、特許文献1では、上述したような従来のフェントン試験による高分子電解質膜の耐久性評価を行っている。しかしながら、このような従来の評価方法では、フェントン溶液の揮発を防止するため密閉容器を用い、密閉容器中で加熱して評価を行う場合に、フェントン溶液中に浸漬させた高分子電解質膜サンプル(高分子電解質材料)を所定の評価時間経過以後、密閉容器内の温度および圧力を充分に下げ、安全に取り出すために、加熱したフェントン溶液を水冷などして降温してから、サンプルを通常取り出す。このため、例えば、図3(b)で示すように、所定の温度(反応温度)でのフェントン試験の評価時間経過と同時に温度を下げ始め、試料が取り出せる安全な温度(試料取り出し可能温度、例えば室温等)まで温度を下げ、試料を取り出すまでの間にフェントン溶液中でサンプルの化学劣化反応が進んでしまう。したがって、フェントン反応の反応時間に対する高分子電解質材料の高精度な化学劣化の測定、分析、評価等をすることが非常に困難なものとなっていた。
【0007】
【特許文献1】特開2001−118591公報
【特許文献2】特開2002−210495公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、樹脂の化学劣化を高精度に評価することができる化学劣化評価方法を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明においては、フェントン溶液に樹脂を含侵させる化学劣化評価方法であって、評価時間経過以後にフェントン溶液中の過酸化水素を水にし得る触媒をフェントン溶液に浸して劣化反応を停止させるフェントン反応停止工程を有することを特徴とする化学劣化評価方法を提供する。
【0010】
本発明によれば、所定の評価時間経過以後に、フェントン溶液中の過酸化水素を水に分解することにより反応を停止させることができる。このため、フェントン反応の反応時間に対する定量性を向上させることができ、化学劣化させた樹脂の高精度な測定、分析、評価等をすることができるという利点を有する。
【0011】
上記発明において、上記触媒が、フェントン溶液中においてイオン化しない触媒であることが好ましい。上記触媒がイオン化しない触媒であれば、フェントン溶液中の反応系はイオン汚染されない反応形を保つことができる。すなわち、上記触媒の金属イオン等が発生しないため、劣化試験後の樹脂(高分子電解質材料、塗膜等)中や、フェントン溶液中にコンタミネーションとして金属イオンが存在することはない。このため、フェントン反応による劣化試験後の樹脂およびフェントン溶液の、より高精度な測定、分析、評価をすることができるからである。
【0012】
また、上記発明においては、上記樹脂が燃料電池に用いられる高分子電解質材料であることが好ましい。上記樹脂が高分子電解質材料の場合には、劣化試験後の高分子電解質材料の耐酸化性、耐久性など、高分子電解質材料の性能の評価に関して重要な評価を、高精度に評価することができるからである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、樹脂の化学劣化を高精度に評価することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の化学劣化評価方法について、以下詳細に説明する。
本発明の化学劣化評価方法は、フェントン溶液に樹脂を含侵させる化学劣化評価方法であって、評価時間経過以後にフェントン溶液中の過酸化水素を水にし得る触媒をフェントン溶液に浸して劣化反応を停止させるフェントン反応停止工程を有することを特徴とするものである。
【0015】
本発明によれば、所定の評価時間経過以後に、フェントン溶液中の過酸化水素を水に分解することにより反応を停止させることができる。フェントン溶液とは、過酸化水素に鉄イオンが含まれたものである。フェントン溶液中では、次の化1に示した下記式(1)
【0016】
【化1】

【0017】
のように、過酸化水素が分解されて、ラジカル生成反応が起き、過酸化水素ラジカルHOO・が生成する。この過酸化水素ラジカルHOO・によって、次の化2に示した下記式(2)
【0018】
【化2】

【0019】
のように、樹脂サンプルの分解反応が進行する。上記式(1)、式(2)で表される反応は、一般的にフェントン試験といわれるもので、例えば、樹脂サンプルの分解度などから、樹脂の耐酸化性を評価することができる。
本発明においては、所定の評価時間経過以後に、フェントン溶液中の上記の過酸化水素を、次の化3に示した下記式(3)
【0020】
【化3】

【0021】
に示すように、水にし得る触媒をフェントン溶液に浸すことにより、過酸化水素を完全分解できるため、樹脂サンプルの劣化反応を、例えば、上記評価時間経過と同時のタイミングなど、任意のタイミングで停止することができる。したがって、フェントン反応の反応時間に対する定量性を向上させることができ、化学劣化させた樹脂の高精度な測定、分析、評価等をすることができる。
【0022】
本発明の化学劣化評価方法を、図を用いて説明する。図1は本発明の化学劣化評価方法の流れ(化学劣化評価フロー図)の一例を示したものである。図1に示すように、通常、上記フェントン反応停止工程の前にフェントン試験準備工程、フェントン試験工程を有し、上記フェントン反応停止工程の後に、試験サンプル取り出し工程を有する。試験終了後の樹脂サンプルを所望の分析、評価法によって評価することによって、フェントン反応の反応時間に対する定量性が向上した、測定、分析、評価等をすることができる。
このような本発明の化学劣化評価方法においては、少なくとも上記フェントン反応停止工程を有するものであれば、特に限定されるものではなく、他の工程を有していても良い。
以下、本発明の化学劣化評価方法について、各工程について、詳細に説明する。
【0023】
1.フェントン反応停止工程
本発明におけるフェントン反応停止工程について説明する。図2はフェントン反応停止工程における、反応停止方法の一例を模式的に示した図である。図2(a)は、後述するフェントン試験工程で用いられるフェントン試験中の密閉された円柱状の耐圧容器の概略断面図である。耐圧容器4は容器部4aと蓋部4bとからなるものである。図2(a)に示されるように、耐圧容器4中にはフェントン溶液2が所定の量注入されており、試験用の樹脂サンプル3がフェントン溶液2中に浸漬されている。また、触媒1が耐圧容器4中のフェントン溶液2に触れないような位置に設置されている。本発明におけるフェントン反応停止工程とは、後述するフェントン試験工程で、フェントン試験を行い、所定の評価時間経過以後に、図2(a)で示されているフェントン試験中の耐圧容器4を図2(b)で示されるように傾け、フェントン溶液2中の過酸化水素を上記式(3)に示すように水にし得る触媒1をフェントン溶液に浸すことにより、過酸化水素を完全分解し、樹脂サンプル3の劣化反応を停止させる工程である。
【0024】
本工程を有することによって、所定の温度(反応温度)で、所定の評価時間経過以後、任意のタイミングで劣化反応を停止させることができる。例えば、図3(a)に示されるように、評価時間経過時に降温を始めるのと同時に劣化反応を停止させることができる。したがって、図3(b)に示されるような従来の、降温中に進行する余分な反応を完全に除去できる。これにより、試験終了後の樹脂サンプルを所望の分析、評価法によって評価する際に、フェントン反応の反応時間に対する定量性が向上した高精度な測定、分析、評価等をすることができる。
【0025】
劣化反応を停止させる上記任意のタイミングとしては、所定の評価時間経過以後であればよいが、好ましくは、評価時間経過直後、さらに好ましくは、評価時間経過と同時であることが好ましい。
【0026】
本発明に用いられる触媒としては、上記式(3)に示すように、過酸化水素(H)を水にして劣化反応を停止させることができる触媒であれば特に限定されるものではない。例えば、Pt、Pd、Ni、Ir、Rh、Co、Os、Ru、Fe等を挙げることができる。本発明においては、劣化試験後の測定、分析、評価等に悪影響を及ぼさないものがより好ましい。例えば、フェントン溶液を汚染しないようなイオン化しないものが良く、Pt、Pdが好ましく、特にPtが好ましい。特に上記樹脂が高分子電解質材料の場合は、イオン化する金属を用いると、フェントン溶液中の反応系をイオン汚染してしまう。すなわち、金属イオンが発生して、劣化試験後の高分子電解質材料中や、フェントン溶液中にコンタミネーションとして存在することになってしまう。このような場合、上記金属イオンは電解質膜中のスルホン酸基と新たなイオンを形成するなどの可能性があるため、スルホン酸基等の官能基の量など、劣化試験後の電解質膜を高精度に分析、評価をすることができないおそれがあるからである。
【0027】
また、上記触媒の形状としては、過酸化水素を水にして劣化反応を停止させることができる形状であれば、特に限定されるものではないが、触媒活性を高めるため、表面積が大きいものが好ましい。例えば、メッシュ状のもの等を挙げることができる。
【0028】
また、上記触媒の量としては、所定の評価時間経過以後に、過酸化水素を水にして劣化反応を停止させることができる量であればよく、触媒の種類、反応に用いる容器の大きさ、フェントン溶液の量などにより変化するものであり、特に限定されるものではない。
【0029】
本工程において、上記触媒をフェントン溶液に浸す方法としては、過酸化水素を水にして評価時間経過以後の劣化反応を停止させたい任意のタイミングで、上記触媒をフェントン溶液に浸すことができる方法であれば、特に限定されるものではない。本発明においては、例えば、上述したように図2(b)で示される耐圧容器を傾ける方法、予めフェントン溶液中に水没させた、触媒を挿入したガラスチューブ等を、耐圧容器を振ること等により、割ることで、フェントン溶液に触媒を浸す方法等を挙げることができる。
【0030】
上記耐圧容器を傾ける方法を用いる場合、上記触媒を設置する容器内の場所としては、後述するフェントン試験工程中には、フェントン溶液に触れず、フェントン反応停止工程においてフェントン溶液に浸されるなどして、過酸化水素を水にして劣化反応を停止させることができる場所であれば、特に限定されるものではない。具体的には、フェントン試験中に、触媒がフェントン溶液に触れないような容器内側の上部側面などに設置することができる。
【0031】
2.その他の工程
(1)フェントン試験準備工程
本発明におけるフェントン反応停止工程の前には、図1の化学劣化評価フロー図に示したように、通常、フェントン試験準備工程を行う。このようなフェントン試験準備工程について、以下に説明する。
本発明におけるフェントン試験準備工程とは、図1で示す化学劣化評価フロー図において、後述するフェントン試験工程を行うための準備をする工程である。上記の準備としては、具体的には、容器の内側の所定の位置に触媒を設置する。次に、フェントン溶液を調整して、触媒に触れないように容器に入れ、さらに、評価する樹脂サンプルをフェントン溶液中に浸漬させ、容器のふたを閉めて密閉する方法等が挙げられる。
【0032】
本発明に用いられる上記フェントン溶液とは、樹脂等の化学劣化を評価するフェントン試験にて用いられる溶液で、通常、過酸化水素と鉄イオンとからなる溶液である。上記溶液中に評価したい樹脂サンプルを所望の条件にて浸漬させることにより、上記式(1)、(2)によって示されるラジカル生成反応と樹脂サンプルの分解反応、すなわち、フェントン反応が起こり、樹脂サンプルが劣化される。上記フェントン溶液としては、フェントン溶液としての機能を有するものであれば特に限定されるものではなく、通常用いられるフェントン溶液を用いることができる。具体的には、所望の濃度の過酸化水素(H)水に塩化第二鉄(Fe2+)を所望の量添加した水溶液を用いることができる。
【0033】
上記フェントン溶液で劣化され、評価される樹脂としては、フェントン溶液によって劣化することのできるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、燃料電池に用いられる高分子電解質材料、また、屋外で使用されるものに塗装された塗膜等を挙げることができる。中でも、燃料電池に用いられる高分子電解質材料であることが好ましい。燃料電池に用いられる高分子電解質材料は、燃料電池中では高分子電解質膜を形成して、プロトンの移動媒体、及び水素ガスや酸素ガスの隔膜として機能している。従って、上記高分子電解質材料としては高いプロトン伝導性、強度、化学的安定性が要求される。しかしながら、燃料電池においては、電池反応によって高分子電解質膜と電極の界面に形成された触媒層において過酸化物が生成し、生成した過酸化物が拡散しながら過酸化物ラジカルとなって高分子電解質膜を劣化させてしまう。この電極上で発生した過酸化水素は、電極から拡散等のため離れ、高分子電解質膜中に移動する。この過酸化水素は酸化力の強い物質で、高分子電解質膜を構成する多くの有機物を酸化する。
したがって、フェントン試験によって、過酸化水素による劣化に対する高分子電解質材料の性能を評価することは重要な技術的課題である。すなわち、過酸化物によって劣化した樹脂がどの程度劣化しているか、どのような要因により劣化したのか、そしてどの程度の強度を有しているのか等を把握することは、燃料電池の耐久性に関連する樹脂材料の耐酸化性、耐久性等の評価、樹脂の劣化のメカニズムの解明等のために非常に重要だからである。
【0034】
上記容器としては、後述するフェントン試験工程において、所望の試験を行うことができ、その後に通常行うサンプル評価において、所望の高精度な測定、分析、評価等ができるものであれば特に限定されるものではなく、通常用いられるものを用いることができる。具体的には、後述するフェントン試験工程中にフェントン溶液と反応せず、安全な容器等が好ましい。中でも、フェントン溶液の揮発が容器外に漏れ出るのを防止するため、密閉した耐圧容器等が好ましい。
【0035】
(2)フェントン試験工程
本工程は、上記化学劣化評価フロー図に示したように、通常、本発明におけるフェントン反応停止工程の前、上記フェントン試験準備工程の後に行う。このようなフェントン試験工程について、以下に説明する。
本発明における上記フェントン試験工程とは、上記フェントン試験準備工程で準備した、密閉した耐圧容器中のフェントン溶液中に浸漬させた樹脂サンプルを、所望の条件で劣化させる工程である。具体的には、評価する樹脂サンプルをフェントン溶液中に浸漬させ、密閉された耐圧容器を加熱して昇温し、所定の温度(反応温度)で、一定時間劣化反応させる方法等が挙げられる。
【0036】
本工程を経ることにより、上記式(1)で示されるように、過酸化水素が分解されて、ラジカル生成反応が起き、過酸化水素ラジカルHOO・が生成する。この過酸化水素ラジカルHOO・によって上記式(2)のように、樹脂サンプルの分解反応が進行して、評価する樹脂サンプルを劣化させることができる。
【0037】
上記の所定の温度(反応温度)としては、所望の条件の違いによって、大きく変化するものであるが、酸化に強い材料を劣化させる場合は、高い温度での試験が好ましい。特に、本発明においては、上述したフェントン反応停止工程において、任意のタイミングで化学劣化反応を止めることができる。このため、反応停止後、試料を取り出すまでの時間が長く、より劣化が進行してしまうような高い温度でのフェントン試験の場合に、有効である。このような温度としては、具体的には、50℃以上、中でも、60〜140℃の範囲内、特に、80〜120℃の範囲内であることが好ましい。
【0038】
また、上記の所定の温度(反応温度)で、劣化反応させる時間(評価時間)としては、所望の条件の違いによって、大きく変化するものであり、所望の試験条件に合わせて変化させれば良く、特に限定されるものではない。
【0039】
上記の、加熱して昇温する方法としては、所定の温度(反応温度)まで加熱して昇温できる方法であればよく、特に限定されるものではない。また、昇温させる場合の昇温速度、試験時間としては、所望の試験条件の違いによって、大きく変化するものであり、所望の試験条件に合わせて変化させれば良く、特に限定されるものではない。
【0040】
(3)試験サンプル取り出し工程
本工程は、上記化学劣化反応評価フロー図に示したように、通常、本発明におけるフェントン反応停止工程の後、評価の前に行う。このような試験サンプル取り出し工程について、以下に説明する。
本発明における上記試験サンプル取り出し工程とは、上記フェントン反応停止工程で反応を停止させた以後、樹脂サンプルを取り出す工程である。具体的には、フェントン反応を停止させた以後、安全に取り出せる温度(試料取り出し可能温度)まで、温度を充分に降温させ、容器を開けるなどして、フェントン試験により劣化させた樹脂サンプルを取り出す方法等が挙げられる。
【0041】
上記降温を始めるタイミングとしては、反応を停止させた以降であれば良く、特に限定されるものではない。例えば、反応を停止させるのと同時に降温を始めることができる。
【0042】
上記の降温させる方法としては、樹脂サンプルを安全に取り出せる温度(試料取り出し可能温度)まで降温できる方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、水冷、放冷等によって、降温する方法等を挙げることができる。また、上記降温させる場合の降温速度は、所望の速さで降温すれば良く、特に限定されるものではない。
【0043】
(4)評価
上述した、試験サンプル取り出し工程が終わった後、フェントン試験により劣化させた樹脂サンプルを乾燥等させたものを評価することができる。例えば、燃料電池に用いられる高分子電解質材料を化学劣化させた場合、フェントン試験反応の後のフェントン溶液側のコンタミネーション、高分子電解質材料の化学構造、強度、分子量、また、高分子電解質材料の側鎖のスルホン酸基の量等を測定、分析、評価等して、高分子電解質材料の耐酸化性、耐久性等の性能を評価することができる。具体的には、劣化試験後の高分子電解質材料のスルホン酸基の量からプロトン伝導度の評価を行うことができ、劣化試験による高分子電解質材料の重量変化を測定することにより耐酸化性の評価を行うことなどができる。本発明においては、上記フェントン反応停止工程を有するため、フェントン反応の反応時間に対する定量性が向上した高精度な評価をすることができる。
【0044】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の化学劣化評価方法の一例を示す化学劣化評価フロー図である。
【図2】本発明におけるフェントン反応停止工程における、反応停止方法の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明および従来の化学劣化反応について、温度、劣化、時間の関係の一例を模式的に表した図である。
【符号の説明】
【0046】
1 … 触媒
2 … フェントン溶液
3 … 樹脂サンプル
4 … 容器
4a … 容器部
4b … 蓋部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェントン溶液に樹脂を含侵させる化学劣化評価方法であって、評価時間経過以後にフェントン溶液中の過酸化水素を水にし得る触媒をフェントン溶液に浸して劣化反応を停止させるフェントン反応停止工程を有することを特徴とする化学劣化評価方法。
【請求項2】
前記触媒が、フェントン溶液中においてイオン化しない触媒であることを特徴とする請求項1に記載の化学劣化評価方法。
【請求項3】
前記樹脂が燃料電池に用いられる高分子電解質材料であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の化学劣化評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−190903(P2008−190903A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23282(P2007−23282)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】