説明

化学反応用カートリッジ駆動機構

【課題】 高精度で高再現性を有する化学反応用カートリッジ駆動機構を実現する。
【解決手段】 少なくとも一部が弾性体で形成された容器から構成され、
前記容器内には、流路で連結または連結可能に配置された複数の室が形成され、
前記容器外から前記弾性体に外力を加えることにより前記流路または前記室あるいは両者にある流体状物質を移動させて化学的反応を行う化学反応用カートリッジ駆動機構であって、
前記化学反応用カートリッジを押圧する複数の押圧部と、
これら押圧部を有するベース部と、
から構成されることを特徴とする化学反応用カートリッジ駆動機構。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学反応用カートリッジおよびその作製方法および化学反応用カートリッジ駆動機構に関し、特に溶液の合成や溶解、検出、分離などに係る送液構造の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、溶液の合成や溶解、検出、分離などの処理においては、通常試験管やビーカー、ピペットなどが利用されていた。例えば、物質Aと物質Bを試験管あるいはビーカーなどに採取しておき、これを他の試験管あるいはビーカーなどの容器に注入し、混合・攪拌などして物質Cを作る。このようにして合成された物質Cについては、例えば発光、発熱、呈色、比色などの観察が行われる。
あるいは、混合した物質をろ過あるいは遠心分離などして、目的の物質を分離抽出することもある。
【0003】
また、溶解の処理、例えば有機溶剤で溶かすなどの処理においても試験管あるいはビーカーなどのガラス器具を用いて行われる。検出処理の場合も同様に、被試験物質Aと試薬を容器に入れてその反応結果を観察する。
他方、バイオアナライザなどでは、可撓性の材料で偏平な袋状に形成されたバイオチップと呼ばれるバッグが使用される。(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−365299号公報
【0005】
図27は、特許文献1に記載されたバイオチップの構成図である。図27(a)は断面図、図27(b)は平面図である。周辺が密封された偏平な採血バッグ41は、その中央部が魚形状の袋になっている。魚形状の袋の開口部にはゴム状の栓42で密封されている。
【0006】
採血バッグ41はこの栓42から奥に向かって順に、採取部43、前処理部44、結合部45、廃液収容部47が形成されている。採血時、栓42を注射器(図示せず)内に差込む。注射器内部には注射針が突出していて栓42を貫通するようになっている。
【0007】
採血時は、注射器から外に出ている針先を被験者に突刺し、採血バッグ41のフック431を外側に引張って、採取部43内に血液を採取する。採血後は採血バッグから注射器を抜き去る。その後、図28に示すように採血バッグ41を回転ローラ61、62に挟んで採取部43から前処理部44の方へ押し潰して行く。採取血液は前処理部44へ送られる。
【0008】
ローラ61、62の位置が進み袋部48を押し潰し始めると、袋部48の溶液が弁49を破って前処理部44に流れ込んで来る。次に袋部50についても同様にその溶液が前処理部44に流れ込む。前処理部で所定の処理が終了すれば、ローラを回転させて、処理された血液を結合部45へ送る。
【0009】
結合部45にはDNAチップ46が配置されていて、ハイブリダイズが行われる。前処理部44から押し出された余分な血液や溶液は廃液収容部47に溜まる。ハイブリダイズの行われたDNAチップの状態は外部に配置された読出し装置により観察される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のビーカーやピペットなどを使用する方式では操作が煩雑であり、個人差も大きく、手間もかかるという課題があった。
また、採血バッグの場合には、弾性がないため溶液の移動が容易でないという問題があった。
【0011】
これを解決するためにカートリッジ化の試みがあり、上述のバイオチップと同様にカートリッジ内に設けられ、連結された室(以下ウェルという。)に溶液を送り、混合や化学反応などの処理を行う。しかし、カートリッジ化したときは、次のような課題がある。
【0012】
(1)溶液を次のウェルに送液する場合に、送りたいウェルに既に空気が入っており、その空気が溶液に混入してしまう。また、空気の背圧により溶液が戻されてしまう。
【0013】
(2)送液時に、次のウェルだけでなく、溶液がその先のウェルや流路まで流れていってしまう。
【0014】
(3)加熱、加振時に溶液が他のウェルへ流出してしまう。
【0015】
(4)単純なA液とB液の混合(A+B)は容易だが、例えばサンプルからシリカや磁性粒子などを用いたDNAの抽出や精製の構造(クロス構造)を実現することができない。
【0016】
本発明は、上述した問題を解決して、高精度で高再現性を有する化学反応用カートリッジ駆動機構を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は次の通りの構成になった化学反応用カートリッジ駆動機構である。
【0018】
(1)少なくとも一部が弾性体で形成された容器から構成され、
前記容器内には、流路で連結または連結可能に配置された複数の室が形成され、
前記容器外から前記弾性体に外力を加えることにより前記流路または前記室あるいは両者にある流体状物質を移動させて化学的反応を行う化学反応用カートリッジ駆動機構であって、
前記化学反応用カートリッジを押圧する複数の押圧部と、
これら押圧部を有するベース部と、
から構成されることを特徴とする化学反応用カートリッジ駆動機構。
【0019】
(2)前記複数の室は等間隔に設置され、前記押圧部は、これら複数の室と同一間隔で設けられていることを特徴とする(1)に記載の化学反応用カートリッジ駆動機構。
【0020】
(3)前記ベース部は、アクチュエータが挿入される開口部を有することを特徴とする(1)または(2)に記載の化学反応用カートリッジ駆動機構。
【0021】
(4)前記押圧部の進行方向と直角方向に移動する前記流体状物質を遮断するシャッタを設けたことを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の化学反応用カートリッジ駆動機構。
【0022】
(5)前記押圧部は、
前記化学反応用カートリッジを押圧する複数のローラと、
これらローラをそれぞれ支持する複数のローラ支持部と、
から構成されることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の化学反応用カートリッジ駆動機構。
【0023】
(6)前記ローラ支持部は、前記ローラが挿入される溝を有し、この溝は前記ローラを180°を越えて包み込んで保持することを特徴とする(5)に記載の化学反応用カートリッジ駆動機構。
【0024】
(7)前記ローラ支持部は、側面に前記ローラの抜け止め材を備えていることを特徴とする(5)または(6)に記載の化学反応用カートリッジ駆動機構。
【0025】
(8)前記押圧部は、前記化学反応用カートリッジを押圧する先端部が曲面であることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の化学反応用カートリッジ駆動機構。
【0026】
(9)前記曲面は、円形曲面または非円形曲面であることを特徴とする(8)に記載の化学反応用カートリッジ駆動機構。
【0027】
(10)前記化学反応用カートリッジと前記押圧部の間には摩擦を軽減する部材を有することを特徴とする(8)または(9)に記載の化学反応用カートリッジ駆動機構。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、以下のような効果がある。
【0029】
請求項1および請求項2に記載の発明によれば、カートリッジ駆動機構の押圧部により流体状物質を保持する室のすべての入力および出力用流路を同時に封止するので、送液時に次の室だけでなくその先の室にまで流れていくことを防ぐことができる。また、加熱、加振時の他の室への流出を防ぐことができる。さらに、空気の背圧により溶液が押しもどされることがない。加えて、サンプルからシリカや磁性粒子などを用いたDNAの抽出や精製の構造(クロス構造)を実現することができる。
【0030】
請求項3に記載の発明によれば、アクチュエータを挿入し、振動や加温などを与えることができる。
【0031】
請求項4に記載の発明によれば、シャッタにより、押圧部の進行方向と直角方向に移動する流体状物質を遮断することができる。
【0032】
請求項5乃至請求項10に記載の発明によれば、押圧部にローラを設けたり、先端を曲面にすることにより、カートリッジのとの摩擦を低減することができる。また、先端を曲面にした場合には、円形または非円形の曲面にすることにより、カートリッジの材質に適した形状となる。さらに、曲面とカートリッジとの間に摩擦を低減する部材でできたシートを設けたり、カートリッジ表面を同様の部材でコートすることにより、押圧部の移動が滑らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下図面を用いて本発明を詳細に説明する。図1は本発明に係る化学反応用カートリッジの一実施例を示す外観図である。
【0034】
図1において(a)は、カートリッジの斜視図、(b)は、カートリッジの平面図である。カートリッジ101は、気密状で弾力性のあるゴムなどの弾性体102と、硬質材料で形成された平板上の基板103より形成されている。なお、カートリッジの弾性体102としては、粘弾性体または塑性体を使用することもできる。ただし、本実施例では、弾性体を使用した場合を例にとって説明する。
【0035】
基板103の材質としては、ガラス、金属、硬質樹脂あるいは弾性体を用いることができる。弾性体102と基板103の接合は、接着の他、吸着(PDMS(PolyDiMethylSiloxane)とガラスの場合など)、あるいは超音波または加熱またはプラズマ処理あるいは振動などによる溶着であってもよい。
【0036】
弾性体102の裏面には、溶液の溜まる穴であるウェルA1からA7と、ウェル間を連結する流路105aから105fと、ウェルA1,A2,A4に空気を送る吸気路104aから104cと、各吸気路が連結された共通吸気路104と、ウェルA3,A5,A7から空気を排出する排気路106aから106cと、各排気路が連結された共通排気路106とが上面方向に凹んだ状態で形成され、対応する領域は弾性体102の上面側に凸状に浮き出ている。弾性体102の裏面の各ウェル、流路、吸気路および排気路以外の平面部は基板103の表面に接着される。これにより各ウェル、流路、吸気路および排気路は弾性体102と基板103で密閉され、溶液の外部漏れが防止できる構造となっている。
【0037】
このように構成されたカートリッジにおける溶液移送の動作を次に説明する。
図2は、本発明に係る液送および排気を説明する説明図である。
図2において、ウェルB1,B2は流路107aで連結されており、ウェルB1,B2の出口付近の流路107a,107bの開口面積は、排気路108a,108bよりも狭くして絞りを形成している(例えば、1/3〜1/5程度の開口面積)。これにより、空気の排出に対しては、流路107a,107aへの排出抵抗が増加するため、排気路108a,108bへ流出していくこととなる。具体的には次の通りである。
【0038】
ローラ109でカートリッジ表面の凸部が押しつぶされる程度に上から押し付ける。この状態で、ローラ109を実線矢印方向に回転移動させて右方へ移動させると、ウェルB1内の溶液が右方向に押し出される。その結果、溶液は、流路107aを通ってウェルB2に流入する。このとき、溶液の流入に押されてウェルB2の空気110は、破線矢印で示すように排気路108bを通って排気される。
【0039】
また、ローラ109により、送液側の排気路108aが遮断されるため、溶液が排気路側に漏れず、排気路108aの残液は、ローラ109移動で次のウェルB2に送られる。
以上により、押し出された溶液や空気の背圧で戻ることが無く、溶液に空気が混合することの無いカートリッジが実現できる。
【0040】
図3は、本発明に係る化学反応用カートリッジの他の実施例(ゼロ容積構造)を示す説明図である。
図3(a)は、カートリッジの平面図であり、カートリッジ111は、図3(b)に示すように、前出の実施例と同様、気密状で弾力性のある弾性体117と、平板上の基板118より形成されている。これらは、例えばPDMS(PolyDiMethylSiloxane)により作製することができる。弾性体117の裏面には、溶液の溜まる穴であるウェルC1と、このウェルC1に溶液を流入させるための流路112,113が設けられている。
【0041】
また、ウェルC1の他にウェルC2,C3が設けられ、流路114を介してウェルC1にウェルC2が連結され、流路115を介してウェルC2にウェルC3が連結されている。ここで、流路114,115およびウェルC2,C3は、その部分の弾性体117と基板118とを接着せずに密着させることにより、溶液が流入される前や溶液の通過後の容積がゼロとなるようにしている。このようにすることで流路やウェル内に空気が無くなるので、空気抜きが不要になる。
【0042】
見た目としては、図3(a)の実線で示したこれらウェルC1および流路112,113は、カートリッジ111の表面に凸状に浮き出ていて視認できるが、破線で示した流路114,115およびウェルC2,C3は、視認できない。
【0043】
このようなカートリッジの液送時の動作は、以下のようになる。
図3(a)に示すようにローラ116でカートリッジ111表面(流路112,113およびウェルC1)が押しつぶされる程度に上から押し付ける。矢印の示す方向にローラ116を回転移動させて右方向に移動させると、ウェルC1に溜まっていた溶液も移動し、流路114をとおってウェルC2へ流入する。このとき容積がゼロであった流路114およびウェルC2は、図3(c)に示すように溶液の流入により、流路114およびウェルC2の基板118に面していた部分の弾性体117が押し上げられ、溶液の通り道(流路114)や溜まり(ウェルC2)ができる。溶液の通過後は、弾性体117の復元力により再び容積がゼロになる。
【0044】
同様に、流路115やウェルC3は、図3(d)に示すように、ローラ116の移動により、ウェルC2から溶液が流路115を通ってウェルC3に流入する。流路115およびウェルC3は溶液の流入前は容積がゼロであり、溶液の流入に伴い通り道(流路115)や溜まり(ウェルC3)ができる。このような構造は、容器が弾性体117であるために可能になった。
【0045】
次に、このようなゼロ容積構造のカートリッジの作製方法の実施例について説明する。
図4はカートリッジの作製方法の第1の実施例を説明する説明図である。図4を用いて以下にカートリッジの作製方法の工程を記載する。
【0046】
(1)マスク119と基板120を用意する(図4(a))。
【0047】
(2)基板120にマスク119を乗せてプラズマ処理を行う(図4(b))。
これにより、マスク119以外の部分(斜線部)がプラズマ処理され、その部分のみ接着可能となる(図4(c))。
【0048】
(3)マスク119を取り除き、基板120と図示しない弾性体とを接着する。
なお、マスク119の替わりにプラズマで活性化しない物質をプラズマ処理前に基板120の非接着部121に塗布しておいてもよい。
また、PDMSに係るプラズマ処理は、周知技術(例えば、プラズマ材料科学ハンドブック、オーム社、1992)であるため説明は省略する。
【0049】
図5は化学反応用カートリッジの作製方法の第2の実施例を説明する説明図である。図5を用いて以下にカートリッジの作製方法の工程を記載する。
【0050】
(1)基板122の非接着部125の周囲に切り欠きを設け、その部分を埋めるように接着剤124を塗布する。切り欠きは、図5(a)のように非接着部以外を切り落とすようにしてもよいし、図5(b)のように非接着部の周囲に溝を切るようにしてもよい。
【0051】
(2)基板122と弾性体123とを接着する。
なお、基板122に切り欠きを設けたのは、接着剤124の非接着部への流出を防ぐためであり、非接着部125に非接着性物質を接着前に塗布しておけば、基板122に切り欠きを設けなくともよい。
【0052】
図6は化学反応用カートリッジの作製方法の第3の実施例を説明する説明図である。図6を用いて以下にカートリッジの作製方法の工程を記載する。
【0053】
(1)弾性体127の非接着部129に非接着性の表面を有する埋め込み材128を置く。
【0054】
(2)その上から基板126の原料を流し込み硬化させる(例えばキャスティング成形)。
【0055】
これにより、弾性体127と基板126は、埋め込み材128以外の部分で接着される。
なお、埋め込み材128も例えばPDMSで作製することができる。
【0056】
次に、化学反応用カートリッジの構成と、そのカートリッジにおける送液を行う場合の駆動機構について説明する。
図7は、化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第1の実施例を示す説明図である。
図7(a)において、ローラ130aは、カートリッジに押し付けられ、ウェルD1の溶液の入路である流路131aを遮蔽する。ローラ130bは出路である流路131bを遮蔽する。このように、複数のローラでウェルのすべての入出路を同時に遮蔽することにより、送液時に溶液が次のウェルだけでなく、その先の流路やウェルまで流れていってしまうのを防ぐことができる。
【0057】
また、図7(b)に示すように、ウェルD1の溶液の出口付近をローラ130bで遮蔽してローラ130bが動かないようにロックする。この状態で、ローラ130aを矢印方向に回転移動させてウェルD1を挟み込むようにすると、ウェルD1内の溶液に加圧することができる。
【0058】
さらに、図7(c)に示すように、ウェルD1の溶液の入口付近をローラ130aで遮蔽してローラ130aが動かないようにロックする。ローラ130bを矢印方向に回転移動してウェルD1から遠ざけるようにすると、ウェルD1内の溶液を減圧することができる。
【0059】
図8は、化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第2の実施例を示す説明図である。
図8(a),図8(b),図8(c)は、ローラ132a,132b,132cの矢印方向への移動により、状態が移り変わっていく様子を示している。また、斜線部は溶液の存在を示している。なお、本実施例では、ウェルの構造をゼロ容積構造としているが、排気路を設けた構造であってもよい。
【0060】
図8(a)おいて、ウェルE1,E2には、溶液の入路である流路133a,133bそれぞれ設けられ、ウェルE1,E3は流路133cで連結され、ウェルE2,E3は流路133dで連結されている。また、ウェルE3には、溶液の出路である流路133eが設けられている。ここでウェルE1,E2は1つのローラで同時に送液できるように位置合わせされている。
【0061】
ローラ132aは、流路133a、133bを遮蔽し、ローラ132bは、流路133c,133dを遮蔽する。これにより、ウェルE1,E2の溶液がウェルE3に流入するのを防ぐ。
【0062】
図8(b)は、ローラ132a,132b,132cが移動し、ローラ132aが、ウェルE1,E2上に位置し、ローラ132bがウェルE3上に位置した状態を示している。ウェルE1,E2の溶液は、ローラ132aで押し出され、斜線で示すようにローラ132aとローラ132bの間のウェルおよび流路にある。
【0063】
図8(c)は、さらにローラ132a,132b,132c(132cは図示せず)が移動し、ローラ132aは、流路133c,133d上に位置し、ローラ132bは流路133e上に位置した状態を示している。斜線で示したように、ローラ132aでウェルE1,E2の溶液が全て押し出され、ウェルE3に移動している。
【0064】
ウェルE3の溶液は、ローラ132aの流路133c,133dの遮蔽により逆流することなく、ローラ132bの流路133eの遮蔽により図示しない次のウェルにまで流れていくことがない。
【0065】
また、ウェルにおける溶液の入路および出路を遮蔽する構造であるため、ウェルに溜まった溶液に対し、カートリッジ外部より加熱や振動を与えるような場合でも、ウェルからの溶液の流出を防ぐことができる。
【0066】
なお、本実施例では、2つのウェルの溶液を1つのウェルに移動させて混合する場合を示したが、当然1つのウェルから1つのウェルへの液送にも適用できるし、混合させたい溶液を入れるウェルを2以上設けることで2種類以上の溶液の混合が可能である。
【0067】
また、図8(d)に示すように1つのウェルの溶液を2つのウェルに分けるような場合にも適用できる。図8(d)において、各ローラの動作は図8(a),(b),(c)で示したものと同様である。
【0068】
図8(d)において、ローラ132eの移動でウェルE4の溶液が押し出され、流路133f,133gを通ってウェルE5,E6に分かれる。流路133f,133gは、ローラ132eで遮蔽され、流路133h,133iはローラ132fで遮蔽されるので、ウェルE5,E6から溶液が流出することはない。
【0069】
さらに、本実施例では、溶液の流出をカートリッジの表側と平行に移動するローラにより遮蔽しているが、流路の遮蔽はカートリッジの表側に対して垂直に移動して流路を遮蔽するシャッタのような遮蔽手段を用いてもよい。
【0070】
図9は、化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第3の実施例を示す説明図である。本実施例では、DNA(deoxyribonucleic acid)、RNA(ribonucleic acid)、タンパク、糖鎖などの生体高分子の抽出を例にとって説明する。
【0071】
図9において、カートリッジに設けられたウェルF1からF13は、ウェルF9を共通ウェルとし、このウェルF9にウェルF6からF8が連結され、ウェルF9の左縦1列に配置している。また、ウェルF6を共通ウェルとして、これにウェルF1,F2が連結され、左縦1列に配置されている。これと同じ縦の並びにウェルF3,F5が配置され、ウェルF3はウェルF7に、ウェルF5はウェルF8に連結されている。ウェルF5にはウェルF4が連結され、その左に位置している。
【0072】
また、ウェルF9にはウェルF10が連結され、ウェル9の右に位置し、これに横一列でウェルF11からウェル13がカスケードに連結し配置される。
【0073】
これらのウェルは横方向(ローラの進行方向)には等間隔で配置され、複数のローラ(便宜上、符号は134a,134b,134cのみを付している。)は、ウェルの横方向の間隔に一致する間隔で配置される。
【0074】
なお、ウェルに示したパターンが同様のものは同様の内容物であることを示している。
また、本実施例ではウェルの構造をゼロ容積構造としているが、排気路を設けた構造であってもよい。また、加圧手段としてローラを用いているが、ピストン型のアクチュエータでもよい。
【0075】
図9(a)は、各ウェル入出路とローラの位置を一致させてセットした状態を示している。ウェルF1にはサンプル溶液、ウェルF2には溶解液、ウェルF3にはDNAトラップ剤(表面修飾済みの磁性粒子)、ウェルF4には洗浄液が予め入っている。他のウェルは容積ゼロの状態である。
【0076】
各ローラは、実線矢印の方向に回転移動する。ローラ134a,134b,134cは、ウェルF1からF5までの入出路を押さえてサンプル溶液などの流体が流出するのを防いでいる。
【0077】
図9(b)は、各ローラが回転移動して、1ウェル分、矢印方向に移動した状態を示している。従って、ローラ134bの移動により、ウェルF1のサンプル溶液とウェルF2の溶解液がウェルF6で混合され、ウェルF3のトラップ剤は、ウェルF7に移動する。
【0078】
また、ローラ134aの移動により、ウェルF4の洗浄液はウェルF5に移動する。ここで、ウェルF7,F5,F8は、もともとは空のウェルであり、ウェルF9にトラップ剤や洗浄液を送液するタイミングを調整するためのダミーウェルである。これがあるために、ローラの1軸上の移動のみで、任意のタイミングで目的のウェルに送液できる。
ウェルF6では、混合液が加温され、反応させる工程が加えられる。加温には、例えばペルチェ素子が用いられる。
なお、ダミーウェルは、最初に溶液等が保持されていたウェルと同等の容積にしておくようにする。
【0079】
図9(c)は、図9(b)の状態から各ローラが回転移動して、1ウェル分、矢印方向に移動した状態を示している。従って、ローラ134bの移動により、ウェルF6混合液とF7のDNAトラップ剤が、ウェルF9で混合される。また、ローラ134aの移動により、ウェルF5の洗浄液がウェルF8へ移動する。
ウェルF9では、DNAトラップ剤にDNAがトラップされ、トラップ剤である磁性粒子自身も磁場の印加でウェルF9にトラップされる。
【0080】
図9(d)は、図9(c)の状態から各ローラが回転移動して、1ウェル分、矢印方向に移動した状態を示している。従って、ローラ134bの移動により、ウェルF9のDNAトラップ後の廃液がウェルF10に移動する。また、ローラ134aの移動により、ウェルF8の洗浄液がウェルF9に移動する。ウェルF9では、磁性粒子が洗浄液で洗浄される。
【0081】
図9(e)は、図9(d)の状態から各ローラが回転移動して、1ウェル分、矢印の方向に移動した状態を示している。従って、ローラ134bの移動により、ウェルF10の廃液はウェルF11に移動する。また、ローラ134aの移動により、ウェルF9の洗浄後の洗浄液はウェルF10に移動する。
【0082】
以上により、ウェルF9には、磁性粒子にトラップされたDNAが留まるので、DNAの抽出を行うことができる。
なお、DNAのトラップには、ビーズ、フィルタまたはカラムなどを用いる。また、ビーズは、シリカ、磁性ビーズ、金属ビーズまたは樹脂ビーズなどである。
ここで述べた送液の仕組みは、デジタル回路のシフトレジスタの動きに類似するものであり、このような送液構造は、クロック形送液構造といえる。電気系と異なるのは、溶解液と洗浄液とのコンタミネーション(混合)を防ぐ必要があるため、流路を独立してあることである。
【0083】
図10は、化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第4の実施例を示す説明図である。
図10は、カートリッジ135における溶液の導入口部分を示している。図10(a)において、導入口137は、カートリッジ135の外部からカートリッジ内部を通過して、再び容器の外部に通じるU形の通路のようになっている。このU形の導入口137は、カートリッジ135内部の処理用の流路138と連結している。導入口137は、溶液の有無に関わらず所定の容積を持っており、流路138は前出のゼロ容積構造の流路である。
【0084】
この導入口137の一方の注入部140aに注射器136で溶液を注入する。はじめから導入口137にある空気は、溶液に押されて実線矢印で示すように他の注入部140bから外へ排出される。
次に、図10(b)に示すように、図の上面からローラ139aと139bをカートリッジ135へ押し付けることで、ローラ139aで注入部140a,140bを同時に塞ぎ、ローラ139bで流路138を遮蔽しておく。この2つのローラが破線矢印方向に回転移動して、導入口137の溶液を実線矢印で示すように流路138へ押し出す。
【0085】
以上により、溶液に空気が混入することを防ぐことができる。また、U形部分の一定量の溶液をカートリッジ内に送ることができる。
さらに、導入口137のカートリッジ表面の形状は、図10(c)に示すように、入口に向かって先細になったテーパ加工を施すことにより、ローラ139aにより塞ぎやすくなり、空気の混入を防ぐことができる。
【0086】
図11は、カートリッジおよび駆動機構に係る第5の実施例を示す説明図である。
図11は、カートリッジにおける導入口部分を示している。図11(a)において、導入口141は流路144aを介してドーム型のウェルG1に連結され、ウェルG1にはさらにカートリッジ内部へ溶液を送る流路144bが連結されている。
【0087】
なお、本実施例では流路の構造をゼロ容積構造としているが、排気路を設けた構造であってもよい。また、加圧手段としてローラを用いているが、ピストン型のアクチュエータでもよい。
【0088】
ローラ143aは、ウェルG1上を予め右から左へ移動してドーム内の空気を導入口141側から排出しておく。ローラ143aは、流路144aを押さえて封止し、この状態で導入口141にはサンプル溶液142を多めに注入する。次にローラ143aが矢印方向に移動することにより、ウェルG1が潰れる。ローラ143aの通過でウェルG1が元に戻ろうとするため、溶液142がウェルG1に吸い込まれていく。これにより、溶液の一定量だけ吸い込まれる。ローラ144aがウェルG1の上を通過し、流路144bを押さえて封止したら、ローラ143bで流路144aを押さえて封止する。
【0089】
以上により、空気と混在した部分の溶液は、導入口141に残るため、溶液に空気までは巻き込むことがない。また、一定量を反応の出発量にできる。
なお、導入口には、前出のU形の導入口と併用しても良い。また、導入口のカートリッジ表面の構造も前出のU形同様テーパ状であっても良い。
【0090】
図12は、化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第6の実施例を示す説明図である。
本実施例では、DNA、RNA、タンパク、糖鎖などの生体高分子の抽出を例にとって説明する。
図12において、ウェルH1は、血液などのサンプルと溶解液の溶液を入れたウェルである。ウェルH2は、シリカ、アミノ磁性粒子(表面修飾済みの磁性粒子)などのDNAのトラップ剤を入れたウェルである。ウェルH3は、廃液止めのウェルである。ウェルH4は、抽出用溶媒をいれたウェルである。ウェルH5は、DNA抽出液が入るウェルである。
【0091】
これらのウェルは、少なくとも2つの排出用流路を持つ共通ウェルへ、少なくとも2種類以上の異なる溶液がそれぞれ異なる流路から流入する交差配置である。この様な共通ウェルを中心に放射状に他のウェルが配置され流路で連結されたクロス構造のカートリッジは、次の過程で駆動される。
【0092】
(1)トラップ過程
ウェルH1に含まれるDNAは、マイナスに荷電している。ウェルH2に設置してあるシリカやアミノ磁性粒子はプラスに荷電している。このため、ウェルH1からウェルH3に送液すると、DNAはウェルH2でトラップ(キャプチャ)される。残りの液は、ウェルH3に廃液として送られる。
【0093】
(2)リリース過程
トラップ過程の後、ウェルH4の抽出用溶媒をウェルH2に送り、pHや温度を調整すると、DNAはトラップ剤から離脱する。これをウェルH5に送り、DNA抽出液を得る。
【0094】
このような過程において、ウェルH1からH3への液送では、ウェルH4,H5へ送ってはならない。同様に、ウェルH4からH5への液送では、ウェルH1,H3へ送ってはならない。
【0095】
このために、ウェルH1からH3への液送時は、図12(a)に示したように、シャッタ145a,145bでウェルH4,H5への流路を遮断する。また、ウェルH4からH5への液送時は、図12(b)に示したように、シャッタ145c,145dでウェルH1,H3への流路を遮断する。なお、シャッタは液送用のローラであっても良い。
【0096】
なお、本実施例ではウェルや流路の構造をゼロ容積構造としているが、排気路を設けた構造であってもよい。また、送液する加圧手段として図示しないローラを用いているが、ピストン型のアクチュエータでもよい。
さらに、磁性粒子には、ビーズ、フィルタまたはカラムなどを用いる。また、ビーズは、シリカ、磁性ビーズ、金属ビーズまたは樹脂ビーズなどである。
以上により、例えば、サンプルからシリカや磁性粒子などを用いた核酸の抽出や、PCR(Polymerase Chain Reaction)増幅後の精製(未反応物質と生成物との分離等)の構造(クロス構造)を実現することができる。
【0097】
図13は、カートリッジおよび駆動機構に係る第7の実施例を示す説明図である。
本実施例も前出のトラップ過程とリリース過程を実現するものである。
図13において、ウェルI1は、血液などのサンプルと溶解液の溶液を入れたウェルである。ウェルI2は、シリカ、アミノ磁性粒子(表面修飾済みの磁性粒子)などのDNAのトラップ剤を入れたウェルである。ウェルI3は、廃液止めのウェルである。ウェルI4は、抽出用溶媒をいれたウェルである。ウェルI5は、DNA抽出液が入るウェルである。ウェルI1,I3,I4,I5は、流路を介してウェルI2に連結されていて、外力を与えるローラが、特定のウェルまたは流路の送液を行うと同時に、送液を行わない流路を封止するように配置されている。このようなウェルは、少なくとも2つの排出用流路を持つ共通ウェルへ、少なくとも2種類以上の異なる溶液がそれぞれ異なる流路から流入する交差配置である。
【0098】
具体的には、図13(a)に示すように、ローラ146aは、矢印方向に回転移動しウェルI1の溶液を押し出し、ウェルI2に送る。斜線で示した部分が溶液の送られるパスを示している。このとき、ローラ146bは、ウェルI2とウェルI4,I5とを連結する流路を封止している。従って、ウェルI2に送られた溶液は、ウェルI2で、サンプル中の生体高分子がトラップされた後、ウェルI3に廃液として送られる。
【0099】
さらに、ローラ146a,146bが移動して図13(b)に示す位置に来ると、ローラ146aは、ウェルI3の抽出溶媒を押し出すと同時に、ウェルI2とウェルI1,I3を連結する流路を封止するため、ウェルI4の抽出溶媒は、ウェルI2に送られ、ウェルI2でDNAがトラップ剤から離脱し、DNA抽出液がウェルI5に送られる。
なお、本実施例ではウェルの構造をゼロ容積構造としているが、排気路を設けた構造であってもよい。また、加圧手段としてローラを用いているが、ピストン型のアクチュエータでもよい。
【0100】
以上により、シンプルな構造で、例えば、サンプルからシリカや磁性粒子などを用いた核酸の抽出や、PCR増幅後の精製(未反応物質と生成物との分離等)の構造(クロス構造)を実現することができる。
【0101】
図14は、化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第8の実施例を示す説明図である。
本実施例も前出の生体高分子のトラップ過程とリリース過程を実現するものである。
図14において、ウェルJ1は、血液などのサンプルと溶解液の溶液を入れたウェルである。ウェルJ2は、シリカ、アミノ磁性粒子(表面修飾済みの磁性粒子)などのDNAのトラップ剤を入れたウェルである。ウェルJ3は、廃液止めのウェルである。ウェルJ4は、抽出用溶媒をいれたウェルである。ウェルJ5は、DNA抽出液が入るウェルである。ウェルJ1,J3,J4,J5は、流路を介してウェルJ2に連結されていて、外力を与えるローラの1つが、特定のウェルまたは流路の送液を行うと同時に、他のローラが送液を行わない流路を封止するように配置されている。このようなウェルは、少なくとも2つの排出用流路を持つ共通ウェルへ、少なくとも2種類以上の異なる溶液がそれぞれ異なる流路から流入する交差配置である。
【0102】
また、各ウェルは、カートリッジの容器外から外力を与えるローラが接する部分に凸部176aから176hを持ち、2つのウェルつなぐ流路は、この2つの凸部の間にある凹部に形成されている。
なお、凸部は、カートリッジ、ローラのどちらにあっても良く、2つのウェルをローラで押さえる場合に、流路を跨いで封止いない構造であれば良い。
なお、本実施例ではウェルの構造をゼロ容積構造としているが、排気路を設けた構造であってもよい。また、加圧手段としてローラを用いているが、ピストン型のアクチュエータでもよい。
【0103】
具体的には、図14(a)に示すように、ローラ147aは、凸部176a,176bを押しながら矢印方向に回転移動しウェルJ1の溶液を押し出し、ウェルJ2に送る。流路はS字状を呈し、斜線で示した部分が溶液の送られるパスを示している。このとき、ローラ147bは、凸部176c下にあるウェルJ2とウェルJ4,J5とを連結する流路を封止している。従って、ウェルJ2に送られたサンプル溶液は、ウェルJ2で、サンプル中の生体高分子がトラップされた後、ウェルJ3に廃液として送られる。
【0104】
さらに、ローラ147a,147bが移動して図14(b)に示す位置に来ると、ローラ147bは、ウェルJ4の抽出溶媒を押し出す。このときローラ147aは、凸部176a下にあるウェルJ2とウェルJ1,J3を連結する流路を封止するため、ウェルJ4の抽出溶媒は、ウェルJ2に送られ、ウェルJ2でDNAがトラップ剤から離脱し、DNA抽出液がウェルJ5に送られる。
【0105】
なお、図14(c)に示すように流路をウェルの間を通すS字経路ではなく、ウェルの外側を回る経路であっても良い。
以上により、例えば、サンプルからシリカや磁性粒子などを用いた核酸の抽出や、PCR増幅後の精製(未反応物質と生成物との分離等)の構造(クロス構造)を実現することができる。
【0106】
図15は、化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第9の実施例を示す説明図である。
本実施例も前出の生体高分子のトラップ過程とリリース過程を実現するものである。
図15において、ウェルK1は、血液などのサンプルと溶解液の溶液を入れたウェルである。ウェルK2は、シリカ、アミノ磁性粒子(表面修飾済みの磁性粒子)などのDNAのトラップ剤を入れたウェルである。ウェルK3は、廃液止めのウェルである。ウェルK4は、抽出用溶媒をいれたウェルである。ウェルK5は、DNA抽出液が入るウェルである。
【0107】
なお、本実施例ではウェルの構造をゼロ容積構造としているが、排気路を設けた構造であってもよい。また、加圧手段としてローラを用いているが、ピストン型のアクチュエータでもよい。
ウェルK1,K3,K4,K5は、流路を介してウェルK2に連結されていて、少なくとも2つの排出用流路を持つ共通ウェルへ、少なくとも2種類以上の異なる溶液がそれぞれ異なる流路から流入する交差配置であり、共通ウェルを通過する流路以外の流路の共通ウェルへの入力側と出力側を同時に同一のローラで封止する配置である。
【0108】
具体的には、図15(a)に示すように、ローラ148aは、矢印方向に回転移動しウェルK1の溶液を押し出し、ウェルK2に送る。斜線で示した部分が溶液の送られるパスを示している。このとき、ローラ148cは、車輪型で両端で加圧する構造であり、ウェルK2を跨いでウェルK4,K5とを連結する流路を封止している。従って、ウェルK2に送られたサンプル溶液は、ウェルK2で、サンプル中の生体高分子がトラップされた後、ウェルK3に廃液として送られる。
【0109】
次に、ローラ148cが、ローラ148a,148bと同一軸(X軸)上を逆方向に移動し、ウェルK2とウェルK1,K3を連結する流路を封止する。さらに、ローラ148a,148bが移動して図15(b)に示す位置に来ると、ローラ148a、ウェルK4の抽出溶媒を押し出す。従って、ウェルK4の抽出溶媒は、ウェルK2に送られ、ウェルK2でDNAがトラップ剤から離脱し、DNA抽出液がウェルK5に送られる。
【0110】
ここで、送液したい流路が図15(a),(b)のように平行ではなく、クロスさせたい場合は、ローラ148cは、平行移動ではなく図15(c)に示すように、回転して封止する流路を替えるようにしてもよい。
以上により、例えば、サンプルからシリカや磁性粒子などを用いた核酸の抽出や、PCR増幅後の精製(未反応物質と生成物との分離等)の構造(クロス構造)を実現することができる。
【0111】
図16は、化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第10の実施例を示す説明図である。
本実施例もまた前出の生体高分子のトラップ過程とリリース過程を実現するものである。
図16において、ウェルL1は、血液などのサンプルと溶解液の溶液を入れたウェルである。ウェルL2は、シリカ、アミノ磁性粒子(表面修飾済みの磁性粒子)などのDNAのトラップ剤を入れたウェルである。ウェルL3は、廃液止めのウェルである。ウェルL4は、抽出用溶媒をいれたウェルである。ウェルL5は、DNA抽出液が入るウェルである。
【0112】
なお、本実施例ではウェルの構造をゼロ容積構造としているが、排気路を設けた構造であってもよい。また、加圧手段としてローラを用いているが、ピストン型のアクチュエータでもよい。
【0113】
ウェルL1,L3,L4,L5は、流路を介してウェルL2に連結されていて、少なくとも2つの排出用流路を持つ共通ウェルへ、少なくとも2種類以上の異なる溶液がそれぞれ異なる流路から流入する交差配置であり、共通ウェルを通過する流路以外の流路の共通ウェルへの入力側と出力側を同時に同一のローラで封止する配置である。この様な共通ウェルを中心に放射状に他のウェルが配置され流路で連結されたクロス構造である。
【0114】
また、それぞれの流路に送液するためのローラは、カートリッジの面内において、縦(Y)横(X)など、それぞれ異なる軸方向に移動する。
具体的には、図16(a)に示すように、ローラ149a,149bは、矢印方向に回転移動しウェルL1の溶液を押し出し、ウェルL2に送る。斜線で示した部分が溶液の送られるパスを示している。このとき、ローラ149cは、ウェルL2とウェルL4とを連結する流路を封止し、ローラ149dは、ウェルL2とウェルL5とを連結する流路を封止している。従って、ウェルL2に送られたサンプル溶液は、ウェルL2で、サンプル中の生体高分子がトラップされた後、ウェルL3に廃液として送られる。
【0115】
次に、ローラ149cが、ウェルL4の抽出溶媒を押し出すためにウェルL4の入口付近(図示せず)に移動する。また、ローラ149a,149bは、ウェルL1とウェルL2とを連結する流路とウェルL3とウェルL2とを連結する流路を封止するめにその流路上に移動する。
【0116】
そして、ローラ149c,149dが、図16(b)に示すように矢印方向に移動すると、ウェルL4の抽出溶媒は、ウェルL2に送られ、ウェルL2でDNAがトラップ剤から離脱し、DNA抽出液がウェルL5に送られる。このとき、ローラ149cは必要に応じてカートリッジ表面から一度離れ移動を行う。
また、図16(c)に示すように、ローラ149e,149fでウェルL6からウェルL4,L7へ送った溶液をローラ149c,149dでウェルL4からウェルL2へ送るような多段で構成してもよい。
【0117】
さらに、図16(d)に示すように、交差する流路は3流路以上であっても良いし、各流路の成す角度は直角でなくとも良い。
加えて、本実施例において、ローラ同士がぶつかる場合は、図16(e)に示すように片方を反対側(カートリッジの裏面)に設ける構造にしてもよい。
図16(e)において、カートリッジ150は、気密状で弾力性のあるゴムなどの弾性体151a,151bと、硬質材料で形成された平板上の基板152より形成されている。基板152は、弾性体151a,151bに挟まれて接着されていて、双方の弾性体と基板間には、流路156a,156bが設けられている。これらの流路は、前述の共通ウェルを通過する流路である。
【0118】
基板152には、スルーホール153が設けられ、流路156aと流路156bとを連結させる。
ローラ149mは、カートリッジ150の表面154側に設けられ、流路156aの送液を行う。ローラ149nは、カートリッジ150の裏面155側に設けられ、流路156bの送液を行う。従って、ローラ149m,149nがぶつかることがない。
【0119】
なお、カートリッジの弾性体151a,151bとしては、粘弾性体または塑性体を使用することもできる。
また、基板152の材質としては、ガラス、金属、硬質樹脂あるいは弾性体を用いることができる。弾性体151a,151bと基板152の接合は、接着の他、吸着(PDMSとガラスの場合など)、あるいは超音波または加熱またはプラズマ処理あるいは振動などによる溶着であってもよい。
【0120】
以上により、例えば、サンプルからシリカや磁性粒子などを用いた核酸の抽出や、PCR増幅後の精製(未反応物質と生成物との分離等)の構造(クロス構造)を実現することができる。
【0121】
図17は、化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第11の実施例を示す説明図である。
本実施例も、生体高分子のトラップ過程とリリース過程を実現するものである。なお、本実施例では、DNAの抽出を例にとり説明する。
【0122】
図17において、ウェルM1は、血液などのサンプルと溶解液の溶液である試料158を入れたウェルである。ウェルM2は、シリカ、アミノ磁性粒子(表面修飾済みの磁性粒子)などのDNAのトラップ剤159を入れたウェルであり、トラップ剤は、外部の磁石の磁力でウェルM2内に固定されている。ウェルM3は、抽出用バッファ溶液160をいれたウェルである。ウェルM1,M3は、流路を介してウェルM2に連結されていて、外力を与えるローラの1つが、特定のウェルまたは流路の送液を行うと同時に、他のローラが送液を行わない流路を封止するように配置されている。このようなウェルは、送液する流路と封止する流路は共に同じ共通ウェルを通過する交差配置であって、共通ウェルを通過する複数の流路は、共通ウェルを中心に一直線状に隣接して配置されており、かつそれぞれの流路を送液するための複数の加圧手段は、カートリッジの面内において、流路が配置された一直線状の方向に移動する。
【0123】
また、図示しないが、ウェルM1には試料を注入する流路が設けられ、ウェルM3には抽出産物の出口となる流路が設けられている。
具体的には、図17(a)から図17(g)へと状態が移り変わる。図17(a)に示すように、ローラ157aは、ウェルM1の入口を封止し、ローラ157bは、ウェルM1とウェルM2とを連結する流路を封止し、ローラ157cはウェルM3の出口を封止している。
【0124】
ローラ157a,157bは、矢印方向に回転移動する。ローラ157aはウェルM1の試料158を押し出した後、ウェルM1とウェルM2とを連結する流路を封止する。ローラ157bは、ウェルM1とウェルM2とを連結する流路上から移動し、ウェルM2とウェルM3とを連結する流路を封止する。これにより、ウェルM1の試料158はウェルM2まで送られる。
【0125】
次に、図17(b)に示すようにローラ157aは、矢印方向(逆方向)に移動して元の位置まで戻る。この往復移動を繰り返すとウェルM2内での試料158とトラップ剤との混合が効率よく行われ、磁性粒子へのDNAの補足が完了する。トラップ工程の完了時は、ローラ157aは、初めの位置に戻り、ローラ157bはウェルM2とウェルM3とを連結する流路を封止する。(図17(c))
【0126】
今度は、図17(d)に示すように、ローラ157b,157cが矢印方向に移動する。ローラ157bは、ウェルM2を押しながら元の位置(図17(a)の位置)まで戻り、ウェルM2に多少残っている試料158を取り除く。ローラ157cは、ウェルM3にある抽出用バッファ溶液160を押し出してウェルM2に送り、ウェルM2とウェルM3とを連結する流路を封止する(図17(e))。この状態でウェルM2を保持してDNA分離処理を行う。
【0127】
DNA分離処理が完了すると、図17(f)に示すように、ローラ157b,157cが矢印方向(図(17(d)とは逆方向)に移動する。ローラ157bは、ウェルM2の抽出産物を押し出した後、ウェルM2とウェルM3とを連結する流路を封止する。ローラ157cは、ウェルM2とウェルM3とを連結する流路から移動し、初めの位置に戻る。(図17(g))。これにより、抽出産物は、ウェルM3に送られてDNA抽出処理が完了する。
【0128】
図18は、化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第12の実施例を示す説明図である。
本実施例も、生体高分子のトラップ過程とリリース過程を実現するものである。なお、本実施例では、第11の実施例同様、DNA抽出を例にとり説明する。
【0129】
図18において、ウェルN1は、血液などのサンプルと溶解液の溶液である試料162を入れたウェルである。ウェルN2は、シリカ、アミノ磁性粒子(表面修飾済みの磁性粒子)などのDNAのトラップ剤163を入れたウェルであり、トラップ剤は、外部の磁石の磁力でウェルN2内に固定されている。ウェルN3は、抽出用バッファ溶液164をいれたウェルである。ウェルN1,N3は、流路を介してウェルN2に連結されていて、外力を与えるローラの1つが、特定のウェルまたは流路の送液を行うと同時に、他のローラが送液を行わない流路を封止するように配置されている。このようなウェルは、送液する流路と封止する流路は共に同じ共通ウェルを通過する交差配置であって、共通ウェルを通過する複数の流路は、共通ウェルを中心に一直線状に隣接して配置されており、かつそれぞれの流路を送液するための複数の加圧手段は、カートリッジの面内において、流路が配置された一直線状の方向に移動する。
また、図示しないが、ウェルN1には試料を注入する流路が設けられ、ウェルN3には抽出産物の出口となる流路が設けられている。
【0130】
具体的には、図18(a)から図17(f)へと状態が移り変わる。図18(a)に示すように、ローラ161aは、ウェルN1の入口を封止し、ローラ161bは、ウェルN1とウェルN2とを連結する流路を封止し、ローラ161cはウェルN3の出口を封止している。
【0131】
ローラ161a,161bは、矢印方向に回転移動する。ローラ161aはウェルN1の試料162を押し出した後、ウェルN1とウェルN2とを連結する流路を封止する。ローラ161bは、ウェルN1とウェルN2とを連結する流路上から移動し、ウェルN2とウェルN3とを連結する流路を封止する。これにより、ウェルN1の試料162はウェルN2まで送られる。
【0132】
次に、図18(b)に示すようにローラ161a,161bは、矢印方向(逆方向)に移動して元の位置まで戻る。この往復移動を繰り返すとウェルN2内での試料162とトラップ剤163との混合が効率よく行われ、磁性粒子へのDNAの補足が完了する。トラップ工程の完了時は、ローラ161a,161bは、初めの位置に戻る(図18(c))。これにより、ウェルN2に残った試料も除去済みでドライ状態である。
【0133】
今度は、図18(c)に示すように、ローラ161cが矢印方向に移動する。ローラ161cは、ウェルN3にあるDNAバッファ溶液164を押し出してウェルN2に送り、ウェルN2とウェルN3とを連結する流路を封止する(図17(d))。この状態でウェルN2を保持して磁性粒子からのDNA分離処理を行う。
【0134】
処理が完了すると、図18(e)に示すように、ローラ161b,161cが矢印方向(図(18(c)とは逆方向)に移動する。ローラ161bは、ウェルN2の抽出産物を押し出した後、ウェルN2とウェルN3とを連結する流路を封止する。ローラ161cは、ウェルN2とウェルN3とを連結する流路から移動し、初めの位置に戻る。(図17(f))。これにより、抽出産物は、ウェルN3に送られてDNAの抽出処理が完了する。
【0135】
図19は、化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第13の実施例を示す説明図である。本実施例では、DNA、RNA、タンパク、糖鎖などの生体高分子の抽出を例にとって説明する。
図19において、カートリッジに設けられたウェルO1からO23は、上段P1にウェルO1からO14が設けられ、ウェルO10を共通ウェルとし、このウェルO10にウェルO7からO9が連結され、ウェルO10の左縦1列に配置している。また、ウェルO7を共通ウェルとして、これにウェルO1,O2が連結され、左縦1列に配置されている。これと同じ縦の並びにウェルO3,O6が配置され、ウェルO3はウェルO8に、ウェルO6はウェルO9に連結されている。ウェルO6にはウェルO5,ウェルO4がカスケードに連結され、その左1列に位置している。
【0136】
また、ウェルO10にはウェルO11が連結され、ウェルO10の右に位置し、これに横一列でウェルO12からウェルO14がカスケードに連結し配置される。
これらのウェルは横方向(ローラの進行方向)には等間隔で配置され、斜線で示した複数のローラは、ウェル横方向の間隔に一致する間隔で配置される。
下段P2にウェルO15からO23は上段のウェルと縦位置が一致するように横一列に等間隔で配置されていて、ウェルO10にはウェルO19とウェルO20は連結され、ウェルO19は、ウェルO7からO9の縦の並びにあって、ウェルO20はウェルO11の縦の並びにあって、ウェルO10の下を空けて左にウェルO19からO15がカスケードに連結されて配置され、右にウェルO20からO23がカスケードに連結されて配置される。
【0137】
上段P1,下段P2の複数のローラは、ウェル横方向の間隔に一致する間隔で配置され各ウェル間を連結する流路を封止する。
また、本実施例ではウェルの構造をゼロ容積構造としているが、排気路を設けた構造であってもよい。また、加圧手段としてローラを用いているが、ピストン型のアクチュエータでもよい。
【0138】
図19(a)のウェルO1にはサンプル溶液、ウェルO2には溶解液、ウェルO3にはDNAトラップ剤(表面修飾済みの磁性粒子)、ウェルO4,O5には洗浄液、ウェルO15には、抽出用バッファ液が予め入っている。他のウェルは容積ゼロの状態である。
図19(a)上段P1の各ローラは、実線矢印の方向に回転移動する。この動作によるウェル内の各内容物の動きは、前出の図9で説明したものと同様であるため以下に簡単に説明する。だだし、洗浄液は、ウェルO4,O5に入っているのでウェルO10の洗浄が2回行われる。
【0139】
上段P1において、各ローラが回転移動して、1ウェル分、矢印方向に移動すると、ウェルO1のサンプル溶液とウェルO2の溶解液がウェルO7で混合され、ウェルO3のトラップ剤は、ウェルF8に移動し、ウェルO4,O5の洗浄液はウェルO5,O6に移動する。
ウェルO7では、混合液が加温され、反応させる工程が加えられる。加温には、例えばペルチェ素子が用いられる。
さらに各ローラが回転移動して、1ウェル分、矢印方向に移動すると、ウェルO7の混合液とウェルO8のDNAトラップ剤が、ウェルO10で混合される。また、ウェルO5,O6の洗浄液がウェルO6,O9へ移動する。
【0140】
ウェルO10では、DNAトラップ剤にDNAがトラップされ、トラップ剤である磁性粒子自身も磁場の印加でウェルO10にトラップされる。
さらに各ローラが回転移動して、1ウェル分、実線矢印方向に移動すると、ウェルO10のDNAトラップ後の廃液がウェルO11に移動する。また、ウェルO9の洗浄液がウェルO10に移動し、ウェルO6の洗浄液はウェルO9に移動する。ウェルO10では、磁性粒子の洗浄液による1度目の洗浄が行われる。
【0141】
さらに各ローラが回転移動して、1ウェル分、矢印の方向に移動すると、ウェルO11の廃液はウェルO12に移動する。ウェルO10の洗浄後の洗浄液はウェルO11に移動する。2度目の洗浄液がウェルO10に送られ、次のローラの移動でウェルO10から除去され、ウェルO12に1度目の洗浄液167aが、ウェルO11に2度目の洗浄液167bが送られる。
【0142】
この結果、ウェルO10には、DNAトッラプ済み磁性粒子166が残り、DNAの抽出を行うことができる。
上述の動作と平行して、下段P2の各ローラは、上段P1のローラと同期して実線矢印方向に進み、抽出用バッファ液165が破線矢印で示したようにウェルO19まで進む。 なお、ウェルO16からO18は、もともとは空のウェルであり、抽出用バッファ液165のウェルO10への送液タイミングを調整するダミーウェルである。このダミーウェルがあるために、ローラの1軸方向の動きのみで送液のタイミングを任意に調整することができる。
【0143】
この時点で、ウェルO10の2回の洗浄が完了しており、洗浄液がウェルO10から除去されている。
次に、上段P1のローラ群はロックされ、下段のローラ群のみが移動することにより、
下段P2のウェルO19の抽出用バッファ液が破線矢印に示すようにウェルO10に送られ、ウェルO10でDNAのリリースが行われる(図19(b))。
【0144】
ここで、上下段のP1,P2のローラ群が同時に移動することにより、ウェルO10のDNA抽出液168(成果物)がウェルO20に送られてDNAの抽出作業が完了する(図19(c))。
ここで述べた送液の仕組みは、デジタル回路のシフトレジスタなど動作に類似するものである。従って、ローラ群の動きはクロック形と言える。
【0145】
図20は、化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第14の実施例を示す説明図である。本実施例は、第13の実施例(図19)の斜線で示したローラの配置を2段構成から3段構成にし、中段P3に同じピッチでローラ群を追加し、横方向の位置関係はそのままに、ウェルO10の縦の位置を中段P3に配置した。上段P1,下段P2の複数のローラは、ウェル横方向の間隔に一致する間隔で配置され各ウェル間を連結する流路を封止する。
図20において、ウェルO1にはサンプル溶液、ウェルO2には溶解液、ウェルO3にはDNAトラップ剤(表面修飾済みの磁性粒子)、ウェルO4,O5には洗浄液、ウェルO15には、抽出用バッファ液が予め入っている。他のウェルは容積ゼロの状態である。
【0146】
なお、本実施例ではウェルの構造をゼロ容積構造としているが、排気路を設けた構造であってもよい。また、加圧手段としてローラを用いているが、ピストン型のアクチュエータでもよい。
各段のローラが実線矢印方向に5ウェル分移動することにより、ウェルO10に、サンプル溶液と溶解液の混合液と、DNAトラップ剤が送られDNAが磁性粒子にトラップされ、洗浄液167a,167bが送られ洗浄後の洗浄液167a,167bがウェルO11,O12に送られる。この結果、ウェルO10には、DNAトラップ済み磁性粒子166が存在している。
【0147】
このとき、下段P2のローラも同様に移動しているため、ウェルO15の抽出用バッファ液165も破線矢印で示すように、ウェルO19に移動している。
次に、上段P1のローラ群は停止したままで、中段P3,下段P2のローラ群が実線矢印方向に1ウェル分移動し、ウェルO19の抽出用バッファ液165はウェルO10に送られて、DNAをトラップ剤からリリースする。そして、再び中段P3,下段P2のローラ群が1ウェル分移動して、ウェルO10からウェルO20へDNA抽出液(成果物)が送られる。
【0148】
この様にDNA抽出工程で、ウェルO10とウェルO7,O8,O9,O11を繋ぐ流路を上段P1のローラが封止しているので、DNAトラップ剤や洗浄液の残りの液のコンタミネーション(混交)をより防止できる。
【0149】
図21は、化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第15の実施例を示す説明図である。
図21(a)において縦線で示したウェルは縦と横に並べて配置され、縦横に隣り合うウェルは流路で連結されている。このような配置において、斜線で示したローラは、ウェルの行や列ごとにウェルを挟むように独立して配置される。縦(X軸)と横(Y軸)のローラ群をそれぞれ順次動かすことで、任意の位置のウェルに液を移動することができる。
【0150】
XとYのローラの干渉を防ぐには、同一面からX,Yのローラ群で加圧して送液する場合は、Xが移動する時は、Yはカートリッジから離す。または、XとYをそれぞれ裏面と表面に配置すればよい。この場合のカートリッジは、図16eに示したような基板を弾性体で挟んで基板の両面に流路を設けスルーホールで連結した構造のカートリッジを用いる。
ローラ群の構成は、行全体や列全体が一体で動いたり、行や列の中の数本ずつが一体で動くようにする。
なお、流路は、図21のように縦横の網目状に限らず、ウェル間流路のない領域があってもよいし、図21(b)のように斜めに設けられていてもよい。また、ウェルの大きさや深さはそれぞれ異なっていても良い。
【0151】
図21(b)において、流路を斜めに設置することで、1方向のローラでもXYの任意の方向へ液を移動させることができる。
例えば、図21(b)のようにローラ群を3段にして、上段R1のローラ群と中段R2のローラ群と、下段R3のローラ群を同期させて移動させると、ウェルQ1の液体は、ウェルQ2,Q3へ移動し、上段R1のローラ群と中段のローラ群を同期させて移動させると、ウェルQ3の溶液は、ウェルQ4,Q5,Q6に移動する。さらに、中段R2のローラ群と下段R3のローラ群を移動させると液体は、ウェルQ7に移動する。
【0152】
なお、このような、XY軸にローラを設ける構造では、ローラ間の流路に液体が残り易い。この場合は、図21(c)のように、弾性体171と基板172の間の流路の部分に剛体170を設けて、ローラ169により加圧することで流路全体を封止することができる。この剛体170は、例えば、弾性体171に埋め込むか、弾性体171の一部を硬化させて形成することができる。
【0153】
図22は、化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第16の実施例を示す説明図である。
これまでの実施例において加圧手段として、ローラまたはピストン型のアクチュエータを例示したが、図22のように、加圧手段173はウェル175などの容器との接触面に曲率を持つ2次元状の板あるいはキャタピラ(登録商標)を用いて、カートリッジ174に押し当て矢印方向に移動させるものであっても良い。これによれば、流路やウェルを、面で押すので背圧による溶液や空気の戻りを防止することができる。
【0154】
図23は本発明に係る化学反応用カートリッジおよび駆動機構の第17の実施例を示す構成図である。
【0155】
図23(a)は第17の実施例の斜視図である。図23(a)において、ローラ201a,201b,201cは、ローラ支持部であるアーム202a,202b,202cにそれぞれ支持されアーム202a,202b,202cは、平板状で各アームを保持する土台となるベース部203に取り付けられている。或いはベース部203とアーム202a,202b,202cは一体成形されていてもよい。ローラ、アームおよびベース部の材質は、例えば金属、フッ素樹脂あるいはこれらの組み合わせである。ローラとアームがカートリッジに圧力を加える押圧部を構成する。
【0156】
ベース部203は、XYZ軸方向に移動可能なメカステージ(図示せず)に取り付けられ、この上下方向の移動により、ローラ201aがカートリッジ205に圧力を印加する。カートリッジはメカステージ内で固定されていて、ローラ201a,201b,201cは、ステージの制御によりベース部203が左右に移動することで、カートリッジを押圧したまま回転して移動し、カートリッジ205内の溶液を水平方向に移動させる。
【0157】
ベース部203は、開口部204a,204bを有し、この開口部から図23(b)に示すようにアクチュエータ206aが挿入される。図23(b)は第17の実施例の側面図である。
アクチュエータ206aは、例えば金属できた棒状のものでカートリッジ205に加圧、振動、加熱、冷却などを与えてカートリッジ205内の化学反応を促進させる。加圧や振動は例えばピエゾ素子で、加熱や冷却は例えばペルチェ素子を用いる。
【0158】
図23(c)は、アームへのローラ取り付け構造を示した図である。ローラ201aは、アーム202aの先端に設けられた溝207aに挿入される。アーム202aの溝207aは、一点鎖線で示すようにローラ201aに対して180°を越えて覆うようにしてローラ201aを支持する。つまり溝207aの開口よりもローラの径が太いので、ボールペンのボールと同様の状態でローラ201aはアーム202aの溝207a内で引っかかって下に落ちることはない。
【0159】
抜け止め材208aは、例えばフッ素樹脂でできた薄いフィルム状のもので、ローラ201aを溝207aに挿入後に溝207aの両側面に接着され、ローラ201aの抜け止めを行う。なお、ローラ201aはアーム202aに磁気により吸着するようにしてもよい。
このような構成によれば、ローラを支持するために側面に余分なスペースを必要とせず、2列以上にローラ群を隣接させて、カートリッジ上に設置することができる。
【0160】
図24は本発明に係る化学反応用カートリッジおよび駆動機構の第18の実施例を示す構成図である。図24(a)は、アーム202aと202bの間の側面にシャッタ209aを、アーム202bと202cの間の側面にシャッタ209bを設けた構造を示す斜視図である。このシャッタ209a,209bでカートリッジを押圧して、カートリッジ内の流路を封止することができる。このシャッタもピエゾ素子で駆動すればよい。
【0161】
図24(b)は、前述のようにローラ201aから201dの群とローラ201eから201hの群を2列隣接した状態を示した平面図である。カートリッジ駆動機構はラダー形状を呈している。破線がローラを示し、ローラ201aから201dがベース部225に、ローラ201eから201hがベース部226に、アームを介して取り付けられている。ベース部225に設けられた開口部204aから204cと、ベース部226に設けられた開口部204dから204fには図示しないアクチュエータが挿入される。また、ベース部225,226の側面にはシャッタ209aから209lが設けられている。これらのシャッタは、ローラの進行方向と直角方向の溶液を遮断する。
【0162】
図25は本発明に係る化学反応用カートリッジおよび駆動機構の第19の実施例を示す構成図である。
図25において、カートリッジの上下から前述のローラ群で押圧した状態を示している。
ローラ212a,212bは、アーム213a,213bにそれぞれ支持されアーム213a,213b,は、平板状のベース部214に取り付けられている。
【0163】
ローラ212a,212bは、メカステージ(図示ぜず)に取り付けられたベース部214の上下方向の移動により、カートリッジ210の上部から押圧する。ステージの制御によりベース部214が左右に移動することで、ローラがカートリッジを押圧したまま回転して移動し、カートリッジ210内の溶液を水平方向に移動させる。
【0164】
ローラ216a,216bは、アーム217a,217bにそれぞれ支持されアーム217a,217b,は、平板状のベース部218に取り付けられている。
ローラ216a,216bは、メカステージ(図示ぜず)に取り付けられたベース部218の上下方向の移動により、カートリッジ210の下部から押圧する。ステージの制御によりベース部218が左右に移動することで、ローラがカートリッジを押圧したまま回転して移動し、カートリッジ210内の溶液を水平方向に移動させる。
【0165】
アクチュエータ215は上部からカートリッジ210の上面に対して、アクチュエータ219は下部からカートリッジ210の下面に対して、加圧、振動、加熱、冷却などを与えてカートリッジ210内の化学反応を促進させる。
【0166】
カートリッジ210は、内部に硬質材(ガラスや樹脂など)の基板211を備えており、上下からの押圧に耐え得るようになっている。このような構成によれば、カートリッジ210内で基板211を挟んで存在する流路やウェル内の液体が独立して移動する。また図16(e)に示すようにウェルが位置する部分の基板に小さな穴を開けておけば基板211を挟んで上下の溶液の移動も可能となる。なお、本実施例でも側面にシャッタを設けても良い。
【0167】
図26は、本発明に係る化学反応用カートリッジおよび駆動機構の第20の実施例を示す構成図である。
ベース部220は、前述同様アクチュエータ用の開口部223a,223bと、ローラのないアーム221aから221cを有した構成であり、押圧部の他の形態である。アーム221aから221cの先端は、曲面222a,222b,222cを呈している。この曲面により、ローラの替わりにカートリッジ224に対する摩擦を押さえてカートリッジを押圧した状態であっても水平方向の移動を容易にし、ローラ無しでもカートリッジの送液を実現できる。
【0168】
アームは、例えばフッ素樹脂からなり、カートリッジにおいても表面にフッ素樹脂のシートを設けるか、フッ素樹脂コーティングを行うなどをすれば摩擦をより低減することができる。
【0169】
この場合において、アーム先端部はローラではできない曲面にすることも可能であるため、放物面、双曲面、sin形などの非円形曲面とすることにより、カートリッジの材質に適した形状とすることができ、効果的な押圧が可能となる。
【0170】
なお、アーム、ローラ、シャッタおよびアクチェータ等の数はこれまで図示した数に限定するものではなく、必要に応じて増減させれば良い。
【0171】
以上説明したカートリッジの駆動機構は、例えば前述した図9,図19,図20,図21(b)などに記載のカートリッジ駆動機構として適用される。この場合のローラの取り付けピッチは、カートリッジのウェルと同一の等間隔ピッチである。
【0172】
例えば図9に記載のカートリッジでは、複数のローラは、ウェルの横方向の間隔に一致する間隔で配置される。図9ではローラのみを図示しているがこの部分が上述した図23に記載の駆動機構であって、これらのローラはアームで支持され、アームはベース部に取り付けられ、ベース部はメカステージに取り付けられる。これによりカートリッジ駆動機構は、上下左右に駆動可能となっている。また、ベース部には各ウェルに対応する位置に開口を設け、アクチュエータを挿入し、振動,加温等を与える。
【0173】
このような構成によれば、カートリッジ駆動機構の押圧部により流体状物質を保持する室のすべての入力および出力用流路を同時に封止するので、送液時に次の室だけでなくその先の室にまで流れていくことを防ぐことができる。また、加熱、加振時の他の室への流出を防ぐことができる。さらに、空気の背圧により溶液が押しもどされることがない。加えて、サンプルからシリカや磁性粒子などを用いたDNAの抽出や精製の構造(クロス構造)を実現することができる。
【0174】
なお、本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形をも含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0175】
【図1】本発明に係る化学反応用カートリッジの一実施例を示す外観図である。
【図2】本発明に係る液送および排気を説明する説明図である。
【図3】本発明に係る化学反応用カートリッジの他の実施例(ゼロ容積構造)を示す説明図である。
【図4】化学反応用カートリッジの作製方法の第1の実施例を説明する説明図である。
【図5】化学反応用カートリッジの作製方法の第2の実施例を説明する説明図である。
【図6】化学反応用カートリッジの作製方法の第3の実施例を説明する説明図である。
【図7】化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第1の実施例を示す説明図である。
【図8】化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第2の実施例を示す説明図である。
【図9】化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第3の実施例を示す説明図である。
【図10】化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第4の実施例を示す説明図である。
【図11】化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第5の実施例を示す説明図である。
【図12】化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第6の実施例を示す説明図である。
【図13】化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第7の実施例を示す説明図である。
【図14】化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第8の実施例を示す説明図である。
【図15】化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第9の実施例を示す説明図である。
【図16】化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第10の実施例を示す説明図である。
【図17】化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第11の実施例を示す説明図である。
【図18】化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第12の実施例を示す説明図である。
【図19】化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第13の実施例を示す説明図である。
【図20】化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第14の実施例を示す説明図である。
【図21】化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第15の実施例を示す説明図である。
【図22】化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第16の実施例を示す説明図である。
【図23】化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第17の実施例を示す説明図である。
【図24】化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第18の実施例を示す説明図である。
【図25】化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第19の実施例を示す説明図である。
【図26】化学反応用カートリッジおよび駆動機構に係る第20の実施例を示す説明図である。
【図27】従来のバイオチップの構成図である。
【図28】従来のバイオチップの操作方法を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0176】
201a〜201h ローラ
202a〜202c アーム
203 ベース部
204〜204f 開口部
205 カートリッジ
206a アクチュエータ
207a 溝
208a 抜け止め材
209a〜209l シャッタ
210 カートリッジ
211 基板
212a、212b ローラ
213a、213b アーム
214 ベース部
215 アクチュエータ
216a、216b ローラ
217a、217b アーム
218 ベース部
219 アクチュエータ
220 ベース部
221a〜221c アーム
222a〜222c 曲面
223a、223b 開口部
224 カートリッジ
225、226 ベース部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が弾性体で形成された容器から構成され、
前記容器内には、流路で連結または連結可能に配置された複数の室が形成され、
前記容器外から前記弾性体に外力を加えることにより前記流路または前記室あるいは両者にある流体状物質を移動させて化学的反応を行う化学反応用カートリッジ駆動機構であって、
前記化学反応用カートリッジを押圧する複数の押圧部と、
これら押圧部を有するベース部と、
から構成されることを特徴とする化学反応用カートリッジ駆動機構。
【請求項2】
前記複数の室は等間隔に設置され、前記押圧部は、これら複数の室と同一間隔で設けられていることを特徴とする請求項1に記載の化学反応用カートリッジ駆動機構。
【請求項3】
前記ベース部は、アクチュエータが挿入される開口部を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の化学反応用カートリッジ駆動機構。
【請求項4】
前記押圧部の進行方向と直角方向に移動する前記流体状物質を遮断するシャッタを設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の化学反応用カートリッジ駆動機構。
【請求項5】
前記押圧部は、
前記化学反応用カートリッジを押圧する複数のローラと、
これらローラをそれぞれ支持する複数のローラ支持部と、
から構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の化学反応用カートリッジ駆動機構。
【請求項6】
前記ローラ支持部は、前記ローラが挿入される溝を有し、この溝は前記ローラを180°を越えて包み込んで保持することを特徴とする請求項5に記載の化学反応用カートリッジ駆動機構。
【請求項7】
前記ローラ支持部は、側面に前記ローラの抜け止め材を備えていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の化学反応用カートリッジ駆動機構。
【請求項8】
前記押圧部は、前記化学反応用カートリッジを押圧する先端部が曲面であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の化学反応用カートリッジ駆動機構。
【請求項9】
前記曲面は、円形曲面または非円形曲面であることを特徴とする請求項8に記載の化学反応用カートリッジ駆動機構。
【請求項10】
前記化学反応用カートリッジと前記押圧部の間には摩擦を軽減する部材を有することを特徴とする請求項8または請求項9に記載の化学反応用カートリッジ駆動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2006−26452(P2006−26452A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204085(P2004−204085)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】