説明

化学反応用装置

【課題】送液エラーや空送りを確実に防止でき、信頼性の高い送液及び送液の自動化を実現することのできる化学反応用装置を提供する。
【解決手段】溶液X,Yを送ることによって溶液X,Yの化学的な反応を行う化学反応用装置100は、基板1と、基板1に重ねて設けられた弾性体2との間に、溶液X,Yが収容される複数の室21〜25及び複数の室21〜25を連結する流路26a,26b,27a,27bを有するカートリッジ3と、カートリッジ3に対して互いに独立して移動自在であり、弾性体2の表面に接触しながら移動することにより、弾性体2に外力を加えて流路26a,26b,27a,27b又は室21〜25にある溶液X,Yを封止又は移動させる複数のスキージ41〜43と、流路26a,26b,27a,27b又は室21〜25にある溶液溜まりの状態を検出する検出センサ71,72とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液の混合、合成、溶解、分離などの化学反応を自動的に行うことのできる化学反応用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶液の合成や溶解、検出、分離などの処理においては、通常、試験管やビーカー、ピペットなどが利用されていた。例えば、物質Aと物質Bを試験管あるいはビーカーなどに採取しておき、これを他の試験管あるいはビーカーなどの容器に注入し、混合・攪拌などして物質Cを作る。このようにして合成された物質Cについては、例えば発光、発熱、呈色、比色などの観察が行われる。あるいは、混合した物質をろ過あるいは遠心分離などして、目的の物質を分離抽出することもある。
【0003】
また、溶解の処理、例えば有機溶剤で溶かすなどの処理においても試験管あるいはビーカーなどのガラス器具を用いて行っており、検出処理の場合も同様に、被試験物質と試薬を容器に入れてその反応結果を観察している。
このような化学反応用カートリッジとして、例えば、弾性体の裏面に表面側に膨らむことが可能な複数の反応室と、これら複数の反応室を繋ぐ流路が形成され、弾性体の裏面に、反応室及び流路を密閉するように基板を設けたものがある(例えば、特許文献1参照)。この化学反応用カートリッジにおいては、予め反応室内に溶液を注入しておき、弾性体の表面側からローラを押し付けることにより、流路又は反応室あるいは両者が部分的に塞がれて、その流路又は反応室内にある溶液が移動し、これによって溶液が反応する。
【特許文献1】特開2005−037368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した特許文献1では、弾性体の表面側からローラで圧力を加えることにより容器内の溶液を送る方法が提案されているが、一方で送液の自動化が試みられており、その場合に溶液室や流路から溶液を確実に移動させて空送りや送液エラーを防止することが要求されている。特に貴重なサンプルや稀少なサンプルを測定検査する場合には、送液エラーによる失敗は許されない。そのため、送液エラーや空送りを防止して、信頼性の高い送液駆動機構が要求されている。また、外力を与えるために、ローラでカートリッジを押すことで加圧しているが、変位で加圧すると、カートリッジ表面の凹凸やカートリッジの厚さむらで外力が変化してしまう。その結果、送液エラーや空送りが生じるという問題があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、送液エラーや空送りを確実に防止でき、信頼性の高い送液及び送液の自動化を実現することのできる化学反応用装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、溶液を送ることによって溶液の化学的な反応を行う化学反応用装置であって、
容器の少なくとも一部が弾性体で形成されており、前記溶液が収容される複数の室及び複数の室を連結する流路を有するカートリッジに対して、互いに独立して移動自在であり、前記弾性体の表面に接触しながら移動することにより、前記弾性体に外力を加えて前記流路又は室にある溶液を封止又は移動させる移動手段と、
前記流路又は室にある溶液溜まりの状態を検出する検出手段とを備えることを特徴とする。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載の化学反応用装置において、
前記検出手段によって溶液溜まりの状態が検出されることにより、前記移動手段を駆動させて前記溶液溜まりが検出された前記弾性体の表面を前記移動手段により再度移動させて送液する制御手段を備えていることを特徴とする。
【0007】
請求項3の発明は、請求項2に記載の化学反応用装置において、
前記検出手段が、前記複数の室又は流路内の溶液に光を照射する光照射手段と、光が照射されることによって前記溶液から反射する反射光、透過光又は蛍光を受光する受光手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
請求項4の発明は、請求項2に記載の化学反応用装置において、
前記検出手段が、前記複数の室又は流路内の溶液に光を照射する光照射手段と、光が照射されることによって形成される前記溶液の画像を、画像信号として検出する画像検出手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
請求項5の発明は、請求項4に記載の化学反応用装置において、
前記カートリッジに、前記複数の室又は流路内に連通する光導波路が形成され、
前記光照射手段によって照射された光が前記光導波路を通って前記複数の室又は流路内に導かれた後、前記画像検出手段で検出されることを特徴とする。
【0010】
請求項6の発明は、請求項2に記載の化学反応用装置において、
前記検出手段が、前記複数の室又は流路内の溶液に超音波を発振する超音波発振手段と、超音波が発振されることによって前記溶液から発振される超音波信号を受信する超音波受信手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
請求項7の発明は、溶液を送ることによって溶液の化学反応を行う化学反応用装置であって、
容器の少なくとも一部が弾性体で形成されており、前記溶液が収容される複数の室及び複数の室を連結する流路を有するカートリッジに対して、前記弾性体の表面に接触しながら移動することにより、前記弾性体に外力を加えて前記流路又は室にある溶液を移動させる外力引加手段を有し、
前記外力印加手段は、前記カートリッジに外力を加える方向の弾性率が、対応するカートリッジ側の弾性率より低いことを特徴とする。
【0012】
請求項8の発明は、請求項7に記載の化学反応用装置において、
前記カートリッジの弾性率が前記外力印加手段の1.1倍以上であることを特徴とする。
【0013】
請求項9の発明は、請求項7又は8に記載の化学反応用装置において、
前記外力印加手段が、前記弾性体の表面に接触しながら移動する移動手段と、前記移動手段を移動自在に支持する装置本体との間に介在されて、弾性率を確保するためのバネ、ゴム、エラストマ、磁気力、空気圧又は圧電素子のいずれかであることを特徴とする。
【0014】
請求項10の発明は、請求項9に記載の化学反応用装置において、
加圧力を圧力センサで測定し、前記圧電素子への印加電圧を変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、検出手段によって溶液溜まりの状態を検出し、溶液溜まりの状態が検出された箇所を移動手段によって再送液することにより、送液エラーや空送りを確実に防止でき、信頼性の高い送液及び送液の自動化を実現することができる。また、外力を与えて送液駆動する際に、カートリッジ表面の凹凸やカートリッジの厚さムラで外力が変化してしまうことを解決するために移動手段と装置本体との間にサスペンション機構を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[第一の実施の形態]
図1(a)は、カートリッジ3の斜視図、(b)は、カートリッジ3の上面図、(c)は、切断線I−Iに沿って切断した際の矢視断面図、図2は、化学反応用装置100を示したもので、カートリッジ3は切断線I−Iに沿って切断した際の矢視断面図である。
化学反応用装置100は、基板1上に弾性体2が重ねて設けられて容器が構成され、基板1と弾性体2との間に溶液X,Y(図4参照)が収容される複数の室21〜25及びこれら室21〜25を連結する流路26a,26b,27a,27bが形成されてなるカートリッジ3と、弾性体2の上面に接触しながら移動することにより、弾性体2に外力を加えて流路26a,26b,27a,27b又は室21〜25あるいは両者を部分的に塞いで、塞がれた流路26a,26b,27a,27b又は室21〜25にある溶液X,Yを移動させる複数のスキージ(以下、第一のスキージ41、第二のスキージ42、第三のスキージ43と言う)(移動手段)と、流路26a,26b,27a,27b又は室21〜25にある溶液X,Y,Zの溶液溜まりの状態を検出する検出センサ(検出手段)71,72とを備えている。また、検出センサ71,72によって溶液溜まりの状態が検出された場合に、第一〜第三のスキージ41〜43を駆動させて溶液溜まりの生じた箇所における弾性体2の表面を再度移動させて送液させる制御部(制御手段)を備えている。
【0017】
基板1は、弾性体2からの外力に対する抗力を持たせるため硬質な材料からなり、反応プロトコルを実現するための室21〜25や流路26a,26b,27a,27bを収容するためと、位置決め及び形状維持のための長尺な平板状をなしている。
弾性体2は、気密状で弾力性のあるPDMS(ポリジメチルシロキサン)などのシリコンゴムや高分子材料からなり、基板1と同様の大きさで長尺な平板状をなしている。なお、弾性体2は、ゴム以外にも粘弾性体や塑性体を使用することができる。弾性体2の基板1との接触面である下面には、それぞれ上面側に凹んで膨らむことができる溶液用の複数の凹部が形成されており、これら複数の凹部は、溶液が注入される注入用の注入室21,22と、注入室21,22内の溶液が反応する反応部用の反応室23と、反応室23で反応した溶液が分注される分注用の分注室24,25となる。また、弾性体2の下面には、注入室21,22と反応室23とがそれぞれ繋がる流路26a,26bと、反応室23と分注室24,25とがそれぞれ繋がる流路27a,27bとが形成されている。注入室21,22及び分注室24,25は平面視円形状で、反応室23は平面視楕円形状である。そして、弾性体2の下面で、注入室21,22、反応室23及び分注室24,25及び流路26a,26b,27a,27bを除く接着領域が、基板1の上面に接着されている。これによって注入室21,22、反応室23、分注室24,25及び流路26a,26b,27a,27bが弾性体2と基板1とにより密閉されて、後述する溶液X,Y,Zの外部漏れが防止される構造となっている。
【0018】
図3(a)は、第一のスキージ41の外観斜視図である。第一〜第三のスキージ41〜43は、上面の大きさが下面よりも大きく、側面視台形状をなした角柱であり、カートリッジ3の短手方向に沿って延在している。また、これらスキージ41〜43は、弾性体2への接触抵抗を軽減するため面取りしたR部を持っても良い。第一〜第三のスキージ41〜43は、カートリッジ3の長手方向において複数列設けられており(図2参照)、これら第一〜第三のスキージ41〜43が弾性体2の上面に接触しながら独立して移動するようになっている。第一〜第三のスキージ41〜43の上方には、各スキージ41〜43を弾性体2の上面でそれぞれ移動自在に支持する第一〜第三のステージ51〜53が設けられている。これら第一〜第三のステージ51〜53は、装置本体(図示しない)に取り付けられている。
第一〜第三のステージ51〜53は、各スキージ41〜43に沿って延在している。カートリッジ3に凹凸や厚さむらがあってもカートリッジ3に適切な外力を安定して与えるために、第一〜第三のスキージ41〜43と第一〜第三のステージ51〜53とは上下に伸縮自在なバネ(外力印加手段)61〜63によってそれぞれ連結されている。バネ61〜63は、その上端部が各ステージ51〜53の下面両端部にそれぞれ固定され、バネ61〜63の下端部に各スキージ41〜43の上面両端部が固定されている。このようにしてバネ61〜63により第一〜第三のスキージ41〜43を弾性体2の上面に所定加圧により接触しながら移動できる構造となっている。バネ61〜63はカートリッジ3に外力を与える方向の弾性率がカートリッジ3側の弾性率より低いことが好ましく、カートリッジ3の弾性率がバネ61〜63の弾性率の1.1倍以上であることが望ましい。これによって、弾性体2の凹凸を吸収して圧力を適切に加えることができるからである。
また、バネ61〜63は、コイル状バネ以外にも、図3(b)に示すようなスキージ41の長手方向に沿って延在した板バネ64を使用しても良い。
【0019】
検出センサ71,72は、流路26a,26b,27a,27b又は複数の室21〜25のうち、例えば、重要な反応がなされる箇所もしくはその箇所の上流部分又は下流部分に配置され、溶液溜まりの状態を検出する。本実施形態では、図2に示すように、第一のスキージ41と第二のスキージ42との間及び第二のスキージ42と第三のスキージ43との間に設けられている。
検出センサ71,72は、例えば、LED(発光ダイオード)やLD(半導体レーザ)などの流路26a,26b,27a,27b又は複数の室21〜25に光を照射する光源(光照射手段)711,721と、光が照射されることによって、流路26a,26b,27a,27b又は室21〜25内の溶液からの反射光を受光するフォトダイオード(受光手段)712,722とから構成されたものが挙げられる。そして、その反射光量の変化を検出することにより、溶液の残留状態を検出する。
また、図示しないが、LEDやLDによって光を照射する光源(光照射手段)と、光が照射されることによって、流路又は室内の溶液によって形成されたその画像パターンを検出するCCDアレイセンサやCMOSアレイセンサ(画像検出手段)とから構成されたものでも良い。この場合、その画像パターンの変化から溶液の残留状態を検出する。また、光源で使用する光は、可視光でも良いし、可視光域に対して不透明な材料である弾性体2や基板1を使用している場合には、近赤外線領域や赤外線領域で発光する光を使用しても良い。
さらに、圧電素子などの流路又は室内の溶液に超音波を照射する超音波発振素子(超音波発振手段)と、溶液からの反射信号を検出する超音波受信素子(超音波受信手段)とから構成されたものでも良く、この場合も、その反射信号の変化から溶液の残留状態を検出することができる。
【0020】
図4は、その他の検出手段の一例であり、(a)は、カートリッジ3とスキージ41,42とを示した平面図、(b)は、切断線IV−IVに沿って切断した際の矢視断面図である。図3に示すように、弾性体2や基板1を透明材料で構成し、弾性体2又は基板1の一部を屈折率の異なる材料で光導波路73を形成し、光導波路73の光の入射側に光源(例えば、LEDやLDなど)74を設け、光導波路73の出射側に光検出器(例えば、CCDアレイやPDなどの受光素子)75を設け、光源74からの光を光導波路73に入射して光導波路73を通った光の光量変化を光検出器75で検出するように構成する。この場合、光導波路73間に溶液溜まりがある場合に、その溶液を透過する光量が異なるため、その光量変化によって溶液溜まりの状態を検出できる。図4の場合は、光導波路73を、反応室23に連通するようにカートリッジ3の短手方向に沿って形成したものであり、光導波路73を形成する箇所は反応室23に限らず流路26a,26bや流路27a,27bに連通するようにカートリッジ3の短手方向に沿って形成しても良い。
また、光導波路73を形成することが困難な場合は、図示しないが光ファイバを弾性体2や基板1内に埋め込み、上記と同様にして光量変化を検出するように構成しても良い。
【0021】
制御部は、化学反応用装置100の全体を制御しており、具体的には第一〜第三のステージ51〜53の駆動を開始させ、第一〜第三のステージ51〜53の移動によって第一〜第三のスキージ41〜43を移動させて送液させ、送液が終了した場合に第一〜第三のステージ51〜53の駆動を停止させる。また、送液中に随時、検出センサ71,72による検出信号により送液エラーによる溶液溜まりが生じているか否かを検出し、溶液溜まりが生じた場合に、第一〜第三のステージ51〜52の移動を停止させて送液を停止する。そして、溶液溜まりが生じた箇所にあるステージを元の位置に移動させた後、再度、送液方向に移動させてスキージによる再送液を行う。このとき、その他のスキージが弾性体2の上面を押さえ込むようスキージの駆動を制御する。
【0022】
次に、化学反応用装置100における送液動作について説明する。
図5、図6は、本発明に係る化学反応用カートリッジの一実施例を示す構成図である。複数のスキージが所定の間隔で配置され、同期して順次移動して送液していく動作の一部を説明するものである。図5(a)〜(c)は、第一〜第三のスキージ41〜43の動作を示した図で、カートリッジ3は図1(b)の切断線I−Iに沿って切断した際の矢視断面図であり、図6(a)〜(c)は、第一〜第三のスキージ41〜43の動作を示した平面図である。なお、図5及び図6は図面の関係上、検出センサ71,72の図示を省略している。
まず、カートリッジ3に形成された図1(b)の注入室21,22に予め溶液Xと溶液Yをそれぞれ注入しておく。注入は、図1(c)に示すように弾性体2に例えば直接ニードル32を突き刺してニードル32により注入室21,22内に注入する。弾性体2が弾性材料で形成されているので、ニードル32を抜くと針穴は自然に塞がる。なお、完全に密閉するためには溶液注入後に針穴を接着剤などで埋めるか、あるいは加熱溶解で封止しても良い。
【0023】
図5(a)、図6(a)は、溶液X,Yの注入後、送液前の状態であり、弾性体2の上面左端部に第一のスキージ41が位置しており、第一のスキージ41の下面が弾性体2の上面に所定加圧で接触して弾性体2を押し潰している。この状態から第一のステージ51が左側から右側に移動することにより同時に第一のスキージ41が弾性体2の上面に沿って右側へ移動する。このとき、バネ61の作用により所定加圧の状態で第一のスキージ41の下面で弾性体2の上面が押し潰されながら、注入室21,22に収容されている溶液X,Yが右方向へと押し出されて、流路26a,26bを通って反応室23へと移動する。
【0024】
図5(b),図6(b)に示すように、第一のステージ51が所定距離移動し、第二のステージ52のあった位置まで来るとともに、第二のステージ52が右側に移動して第三のステージ53の位置まで移動することによって、第二のスキージ42も同様に弾性体2の上面に沿って移動する。そして、反応室23内に送られた溶液X,Yが混合して反応する。ここで言う反応とは、例えば、混合、合成、溶解、分離などである。なお、このようにカートリッジ3を利用することにより、例えばダイオキシンやDNAなどの検出が可能である。また、このとき第一のスキージ41は弾性体2の上面を押圧しており、これによって送液された溶液の逆流が防止される。
【0025】
図5(c),図6(c)に示すように、第一のステージ51が所定距離移動し、第三のステージ53があった位置まで来ると、反応室23で反応した反応後の溶液Zが流路27a,27bへとそれぞれ分離して移動する。さらに、第三のステージ53が駆動して右側へと移動するとともに第三のスキージ43が弾性体2の上面に沿って移動し、流路27a,27bから分注室24,25へと反応後の溶液Zが移動する。このとき、第一のスキージ41は弾性体2の上面を押圧しており、これによって送液された溶液の逆流が防止される。
【0026】
一方、上述した一連の送液動作の際に、検出センサ71,72によって溶液溜まりが生じているか否かが随時検出され、溶液溜まりが生じた場合は、第一〜第三のステージ51〜53の移動が停止する。そして、溶液溜まりが生じた箇所にあるスキージがカートリッジ3から離れて、ステージとともに元の位置に移動した後、再度、送液方向に移動することによりスキージによる再送液を行う。このとき、両脇のスキージは弾性体2の上面を押さえ込み、液体が対象領域外へ流出することを防ぐ。
具体的には、図7に示すように、例えば、第二のスキージ42の位置で溶液溜まりが生じた場合、第二のスキージ42の両側にある第一のスキージ41と第三のスキージ43とが弾性体2の上面を押圧することにより、溶液X,Yが逆戻りしたり先送りされないように押さえ込んだ状態で第二のスキージ42が弾性体2の上面を移動して再送液が行われる。第一のスキージ41と第三のスキージ43とは逆止弁として機能する。
【0027】
以上のように、弾性体2の上面に接触しながら互いに独立して移動自在な複数のスキージ41〜42及び複数のステージ51〜53と、流路26a,26b,27a,27b又は室21〜25内に生じた溶液溜まりの状態を検出する検出センサ71,72とを備え、溶液溜まりが生じた場合に検出センサ71,72によって自動的に検出されて、溶液溜まりが検出された箇所の弾性体2の上面をスキージ42で移動させて再送液を行うので、送液エラーや空送りを防止することができ、確実に送液して溶液を反応させることができる。その結果、信頼性の高い送液を実現することができる。また、溶液溜まりの検出及び再送液が、手動ではなく自動的に行われるため効率が良い。
また、第一〜第三のスキージ41〜43と第一〜第三のステージ51〜53との間にバネ61〜63がそれぞれ設けられているので、弾性体2の撓みや凹凸、厚みが不均一で押圧面の力加減が不均一となる場合であっても、バネ61〜63によって弾性体2の撓みや凹凸を吸収して、各スキージ41〜43を弾性体2の上面に適切な圧力で押し付けて移動させることができる。よって、この点においても信頼性の高い送液とすることができる。
【0028】
[第二の実施の形態]
図8は、第一〜第三のスキージ41A〜43Aが動作する前の状態を示した概略側断面図である。
本実施の形態の化学反応用装置100Aは、上記第一の実施の形態の化学反応用装置100と異なり、カートリッジ3Aが下向きに取り付けられており、カートリッジ3Aの下面を第一〜第三のスキージ41A〜43Aが移動するように構成されている。なお、カートリッジ3A、第一〜第三のスキージ41A〜43A、第一〜第三のステージ51A〜53Aは、第一の実施の形態のカートリッジ3、第一〜第三のスキージ41〜43、第一〜第三のステージ51〜53と同様のものであるため、同様の構成部分については同様の数字に英字Aを付してその説明を省略する。
【0029】
図8に示すように、天板81Aと底板82Aとが互いに対向し、天板81A及び底板82Aの左右両端部にそれぞれ立設された側板83A,83Aによって天板81A及び底板82Aが支持されている。天板81Aの下面には、カートリッジ3Aが取り付けられており、底板82Aの上面には、第一〜第三のステージ51A〜53Aが独立して左右に移動自在に設けられている。第一〜第三のスキージ41A〜43Aと第一〜第三のステージ51A〜53Aとは二つのバネ61A〜63Aによってそれぞれ連結されている。バネ61A〜63Aにより第一〜第三のスキージ41A〜43Aを弾性体2Aの下面に所定の加圧により接触しながら移動できる構造となっている。また、バネ61A〜63Aはカートリッジ3Aに外力を与える方向の弾性率がカートリッジ3A側の弾性率より低いことが好ましく、カートリッジ3Aの弾性率がバネ61A〜63Aの弾性率の1.1倍以上であることが望ましい。これによって、弾性体2Aの凹凸を吸収して圧力を適切に加えることができるからである。
【0030】
また、第一の実施の形態の検出センサ71,72と同様に、検出センサ71A,72Aが所定位置に設けられている。
さらに、第一〜第三のステージ51A〜53Aの駆動の開始及び停止を制御したり、送液中に検出センサ71A,72Aによる検出結果から溶液溜まりが生じているか否かを検出して溶液溜まりが生じた場合に、第一〜第三のスキージ41A〜43Aによる再送液を行うよう制御する制御部を備えている。
【0031】
そして、第一の実施の形態と同様の手順で送液が行われる。なお、第一〜第三のスキージ41A〜43Aの動作を示した平面図は図面の関係上、省略しているが、基本的に図6と同様である。
第一のステージ51Aが右側に移動することにより、弾性体2Aの下面左端部に位置している第一のスキージ41Aを弾性体2Aの下面に接触させて右側へ移動させる。このとき、バネ61Aの作用により所定加圧の状態で第一のスキージ41Aの上面で弾性体2Aの下面が押し潰されながら、注入室に収容されている溶液X,Yが右方向へと押し出される。
【0032】
第一のステージ51Aが所定距離移動し第二のステージ52Aの位置に移動してくると、同時に第二のステージ52Aが駆動して右側に移動する。同時に第一のスキージ41Aが弾性体2Aの下面に沿って移動する。この場合にもバネ61Aの作用により所定加圧状態で第一のスキージ41Aの上面で弾性体2Aの下面が押し潰されながら、溶液X,Yが右方向へと押し出されるとともに溶液X,Yによる反応が行われる。さらに、同様にして第一のステージ51Aが所定距離移動し第三のステージ53Aのあった位置まで移動してくると、第一のスキージ41Aが弾性体2Aの下面に沿って移動し、溶液が右方向へと押し出される。
【0033】
一方、上述した一連の送液動作の際に、検出センサ71A,72Aによって溶液溜まりが生じているか否かが検出されて、溶液溜まりが生じた場合は、第一〜第三のステージ51A〜53Aの移動が停止する。そして、溶液溜まりが生じた箇所にあるステージが図示しない手段でカートリッジ3Aから離れて元の位置に移動した後、再度、送液方向に移動することによりスキージによる再送液を行う。このとき、その他のスキージは弾性体2Aの上面を押さえ込む。
【0034】
以上のように、弾性体2Aの上面に接触しながら互いに独立して移動自在な複数のスキージ41A〜42A及び複数のステージ51A〜53Aと、流路又は室内に生じた溶液溜まりの状態を検出する検出センサ71A,72Aとを備え、溶液溜まりが生じた場合に検出センサ71A,72Aによって自動的に検出されて、溶液溜まりが検出された箇所の弾性体2Aの上面をスキージ42Aで移動させて再送液を行うので、送液エラーや空送りを防止することができ、確実に送液して溶液を反応させることができる。その結果、信頼性の高い送液を実現することができる。また、溶液溜まりの検出及び再送液が、手動ではなく自動的に行われるため効率が良い。
また、第一〜第三のスキージ41A〜43Aと第一〜第三のステージ51A〜53Aとの間にバネ61A〜63Aがそれぞれ設けられているので、弾性体2Aの撓みや凹凸、厚みが不均一で押圧面の力加減が不均一となる場合であっても、バネ61A〜63Aによって弾性体2Aの撓みや凹凸を吸収して、各スキージ41A〜43Aを弾性体2Aの下面に適切な圧力で押し付けて移動させることができる。よって、この点においても信頼性の高い送液とすることができる。
【0035】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記第一及び第二の実施の形態では、送液する手段としてスキージ41〜43、41A〜43Aを使用したが、スキージ以外にも図9に示すような側面視円形状のローラ141〜143を使用することができる。なお、図9(a)〜(c)は、第一〜第三のローラ141〜143の動作を示した側断面図であり、図10(a)は、第一のローラ141の外観斜視図である。図中、カートリッジ143は、第一の実施の形態のカートリッジ3と同様のものであり、バネ146〜148は、ローラ軸の両端部に取り付けられている。また、バネ146〜148としてコイル状のバネ以外にも、図10(b)に示すようなローラ141の長手方向に沿って延在した板バネ149を使用しても良い。
【0036】
また、スキージ41〜43、41A〜43Aやローラ141〜143を弾性体2,2Aの上面に所定の加圧で押し付ける手段として、バネ61〜63、61A〜63、146〜148以外にも弾性を有するゴムやエラストマとしても良く、また、空気圧、磁気力や圧力センサを持つ圧電素子などで最適にかつ自動的に所定の加圧で押し付けることができるように制御した構成としても良い。また、加圧力を圧力センサで測定し、前記空気圧や磁気力、圧電素子への印加電圧を変化させても良い。また、スキージ41〜43、41A〜43Aやローラ141〜143などの押圧部材にバネや弾性体を設けたが、例えば、81Aのようなカートリッジ3Aを支持する天板にバネや弾性体を設けても良い。
【0037】
さらに、スキージ41〜43、41A〜43Aやローラ141〜143の個数は複数であれば適宜変更可能であり、これに伴ってステージ51〜53、51A〜53Aの個数も変更しても良い。なお、上記第一の実施の形態では、第一のスキージ41に対して第一のステージ51を設けて、第二のスキージ42に対して第二のステージ52に設け、さらに第三のスキージ43に対して第三のステージ53を設け、一つのスキージに対して一つのステージを設けて、各スキージ毎に独立して移動できる構成としたが、複数のスキージが独立して移動できる構成であれば、例えば、三つのスキージのうち、二つのスキージを駆動させるステージを一つのステージで共通化し、残りの一つのスキージは独立したステージで駆動できるようにしても構わない。あるいは、バネのみの構成としても良く、スキージは一つだけであっても良い。
また、カートリッジ3,3Aに形成された複数の室21〜25、流路26a,26b,27a,27bの形状や個数等も上述したものに限られない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(a)は、カートリッジ3の斜視図、(b)は、カートリッジ3の上面図、(c)は、切断線I−Iに沿って切断した際の矢視断面図である。
【図2】化学反応用装置100を示したもので、カートリッジ3は切断線I−Iに沿って切断した際の矢視断面図である。
【図3】(a)は、コイルバネ61を使用した場合の第一のスキージ41の外観斜視図、(b)は、板バネ64を使用した場合の第一のスキージ41の外観斜視図である。
【図4】検出手段の変形例であり、(a)は、カートリッジ3とスキージ41,42とを示した平面図、(b)は、切断線IV−IVに沿って切断した際の矢視断面図である。
【図5】(a)〜(c)は、第一〜第三のスキージ41〜43の動作を示した図で、カートリッジ3は切断線I−Iに沿って切断した際の矢視断面図である。
【図6】(a)〜(c)は、第一〜第三のスキージ41〜43の動作を示した平面図である。
【図7】溶液溜まりが生じた場合の第一〜第三のスキージ41〜43の動作を示した側断面図である。
【図8】第一〜第三のスキージ41A〜43Aが動作する前の状態を示した側断面図である。
【図9】(a)〜(c)は、第一〜第三のローラ141〜143の動作を示した図で、カートリッジ143は切断線I−Iに沿って切断した際の矢視断面図である。
【図10】(a)は、コイルバネ146を使用した場合の第一のローラ141の外観斜視図、(b)は、板バネ149を使用した場合の第一のローラ141の外観斜視図である。
【符号の説明】
【0039】
1 基板
2 弾性体
3 カートリッジ
61,62,63 バネ(外力印加手段)
71,72 検出センサ(検出手段)
21,22 注入室(室)
23 反応室(室)
24,25 分注室(室)
26a,26b,27a,27b 流路
41 第一のスキージ(移動手段)
42 第二のスキージ(移動手段)
43 第三のスキージ(移動手段)
51 第一のステージ
52 第二のステージ
53 第三のステージ
711,712 光源(光照射手段)
721,722 フォトダイオード(受光手段)
73 光導波路
100 化学反応用装置
X,Y,Z 溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液を送ることによって溶液の化学的な反応を行う化学反応用装置であって、
容器の少なくとも一部が弾性体で形成されており、前記溶液が収容される複数の室及び複数の室を連結する流路を有するカートリッジに対して、互いに独立して移動自在であり、前記弾性体の表面に接触しながら移動することにより、前記弾性体に外力を加えて前記流路又は室にある溶液を封止又は移動させる移動手段と、
前記流路又は室にある溶液溜まりの状態を検出する検出手段とを備えることを特徴とする化学反応用装置。
【請求項2】
前記検出手段によって溶液溜まりの状態が検出されることにより、前記移動手段を駆動させて前記溶液溜まりが検出された前記弾性体の表面を前記移動手段により再度移動させて送液する制御手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の化学反応用装置。
【請求項3】
前記検出手段が、前記複数の室又は流路内の溶液に光を照射する光照射手段と、光が照射されることによって前記溶液から反射する反射光、透過光又は蛍光を受光する受光手段とを備えることを特徴とする請求項2に記載の化学反応用装置。
【請求項4】
前記検出手段が、前記複数の室又は流路内の溶液に光を照射する光照射手段と、光が照射されることによって形成される前記溶液の画像を、画像信号として検出する画像検出手段とを備えることを特徴とする請求項2に記載の化学反応用装置。
【請求項5】
前記カートリッジに、前記複数の室又は流路内に連通する光導波路が形成され、
前記光照射手段によって照射された光が前記光導波路を通って前記複数の室又は流路内に導かれた後、前記画像検出手段で検出されることを特徴とする請求項4に記載の化学反応用装置。
【請求項6】
前記検出手段が、前記複数の室又は流路内の溶液に超音波を発振する超音波発振手段と、超音波が発振されることによって前記溶液から発振される超音波信号を受信する超音波受信手段とを備えることを特徴とする請求項2に記載の化学反応用装置。
【請求項7】
溶液を送ることによって溶液の化学反応を行う化学反応用装置であって、
容器の少なくとも一部が弾性体で形成されており、前記溶液が収容される複数の室及び複数の室を連結する流路を有するカートリッジに対して、前記弾性体の表面に接触しながら移動することにより、前記弾性体に外力を加えて前記流路又は室にある溶液を移動させる外力引加手段を有し、
前記外力印加手段は、前記カートリッジに外力を加える方向の弾性率が、対応するカートリッジ側の弾性率より低いことを特徴とする化学反応用装置。
【請求項8】
前記カートリッジの弾性率が前記外力印加手段の1.1倍以上であることを特徴とする請求項7に記載の化学反応用装置。
【請求項9】
前記外力印加手段が、前記弾性体の表面に接触しながら移動する移動手段と、前記移動手段を移動自在に支持する装置本体との間に介在されて、弾性率を確保するためのバネ、ゴム、エラストマ、磁気力、空気圧又は圧電素子のいずれかであることを特徴とする請求項7又は8に記載の化学反応用装置。
【請求項10】
加圧力を圧力センサで測定し、前記圧電素子への印加電圧を変化させることを特徴とする請求項9に記載の化学反応用装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−51544(P2008−51544A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225502(P2006−225502)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】