説明

化学品の製造装置および化学品の製造方法

【課題】 分離膜モジュールが繰り返しの蒸気滅菌処理への耐久性を有することで、長期間にわたり高い生産性を維持でき、かつモジュールを交換する際にも廃棄量が少なくなる化学品の製造用装置を提供する。
【解決手段】微生物の発酵培養により発酵原料から化学品を含有する発酵培養液への変換を行う発酵槽と、発酵培養液から濾過液として化学品を回収するための分離膜モジュールとを備えた化学品の製造装置であって、分離膜モジュールが、筒状ケース、分離膜カートリッジおよびシール部材を備えたカートリッジ式の分離膜モジュールであり、分離膜カートリッジは筒状ケースと接着固定されない状態で筒状ケース内に収められ、シール部材は、分離膜モジュール内において発酵培養液が通液される空間と、濾過液が通液される空間との間を気密かつ液密に封止するように配されることを特徴とする化学品の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養を行いながら、微生物または培養細胞の発酵培養液から、分離膜モジュールを通して化学品を含む液を濾過・回収し、発酵原料を発酵培養液に追加し、かつ、未濾過液がある場合は発酵培養液に戻す連続発酵法による化学品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物や培養細胞の培養を伴う物質生産方法である発酵法は、大きく(1)回分発酵法(Batch発酵法)および流加発酵法(Fed−Batch発酵法)と、(2)連続発酵法とに分類することができる。
【0003】
上記(1)の回分発酵法および流加発酵法は、設備的には簡素であり、短時間で培養が終了し雑菌汚染による被害が少ないという利点がある。しかしながら、時間経過と共に発酵培養液中の化学品濃度が高くなり、浸透圧あるいは化学品阻害等の影響により生産性および収率が低下してくる。そのため、長時間にわたり安定して高収率かつ高生産性を維持することが困難である。
【0004】
また、上記(2)の連続発酵法は、発酵槽内で目的化学品が高濃度に蓄積することを回避することによって、長時間にわたって高収率かつ高生産性を維持できるという特徴がある。この連続発酵法については、L−グルタミン酸やL−リジンの発酵についての連続培養法が開示されている(非特許文献1参照)。しかしながら、この例では、発酵培養液に原料の連続的な供給を行うと共に、微生物や培養細胞を含んだ発酵培養液を抜き出すために、発酵培養液中の微生物や培養細胞が希釈されることから、生産効率の向上は限定されたものであった。
【0005】
この連続発酵法において、微生物や培養細胞を分離膜で濾過し、濾液から化学品を回収すると同時に濃縮液中の微生物や培養細胞を発酵培養液に保持または還流させることにより、発酵培養液中の微生物や培養細胞濃度を高く維持する方法が提案されている。
【0006】
例えば、分離膜として有機高分子からなる中空糸膜を用いた連続発酵装置において、連続発酵する技術が提案されている(特許文献1参照)。ここで、連続発酵による化学品の生産では、基本的に雑菌混入(コンタミネーション)を防いだ状態で培養を行う必要があり、分離膜モジュールを滅菌することが必要となる。滅菌手段は、火炎滅菌、乾熱滅菌、煮沸滅菌、蒸気滅菌、紫外線滅菌、ガンマ線滅菌、ガス滅菌等の方法が例示できるが、有機膜は乾燥すると濾過性能が損なわれてしまうため、蒸気滅菌(通常は121℃、15分間から20分間)が適した滅菌方法である。分離膜モジュールはこの蒸気滅菌条件に耐えられることが要求される。さらに高い蒸気滅菌耐性を有する分離膜モジュールであれば、より長期間の使用も可能になるといえる。しかし、特許文献1に記載の分離膜モジュールは構成する部材が前述の滅菌条件に対する耐久性を十分に満たしておらず、分離膜モジュールを長期間使用することは困難であった。また、分離膜モジュールを交換する際に、モジュールごと廃棄しなくてはならないため、廃棄される分離膜モジュールの量が多くなってしまう。前述の滅菌条件に耐えうるような分離膜モジュールの場合は、ケース部材もステンレスやスーパーエンプラなどの耐熱性を有し、かつ高価な部材が必要となるため、分離膜モジュール交換、廃棄の頻度が高いと、分離膜モジュールのコストもそれに応じて高くなってしまう。
【0007】
また、分離膜モジュールを長期間使用するために、分離膜に付着した濁質などを水や薬液などで洗浄し、分離膜モジュールを再生する方法がとられることもある。しかし、濁質などによる汚れには洗浄でも落としきれないものも含まれているため、分離膜モジュールの再生使用には限界がある。
【0008】
特許文献2には、水処理プロセス等において使用される濾過モジュールにおいて、広い使用温度範囲でポッティング剤との接着界面の破断が起こらず、かつ、高い圧力をかけてもリークが発生しない濾過モジュールが開示されている。しかし、特許文献2に記載の中空糸膜濾過モジュールは、10〜80℃の範囲において好適に使用できると記載されているものの、121℃の蒸気滅菌処理を数十回繰り返すと、部材の熱劣化が起きてしまい、中空糸膜を集束する部材が割れたり、筒状ケースや中空糸膜との接着界面が剥がれたりしてしまうといった懸念がある。
【0009】
そこで、分離膜モジュールが繰り返しの蒸気滅菌処理への耐久性を有し、かつモジュールを交換する際にも廃棄量が少なくなるような化学品の製造装置の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−237101号公報
【特許文献2】特開2001−300265号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Toshihiko Hirao et al.(ヒラノ・トシヒコ ら)、 Appl. Microbiol. Biotechnol.(アプライド マイクロバイアル アンド マイクロバイオロジー),32,269−273(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、発酵原料を微生物の発酵培養により化学品を含有する発酵培養液への変換を行う発酵槽と、該発酵培養液から濾過液として化学品を回収するための分離膜とを備えた化学品の製造装置であって、分離膜モジュールが繰り返しの蒸気滅菌処理への耐久性を有し、かつモジュールを交換する際にも廃棄量が少なくなる化学品の製造用装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記目標を達成するために、次のような構成をとる。
【0014】
(1)微生物の発酵培養により発酵原料から化学品を含有する発酵培養液への変換を行う発酵槽と、発酵培養液から濾過液として化学品を回収するための分離膜モジュールとを備えた化学品の製造装置であって、分離膜モジュールが、筒状ケース、分離膜カートリッジおよびシール部材を備えたカートリッジ式の分離膜モジュールであり、分離膜カートリッジは筒状ケースと接着固定されない状態で筒状ケース内に収められ、シール部材は、分離膜モジュール内において発酵培養液が通液される空間と、濾過液が通液される空間との間を気密かつ液密に封止するように配されることを特徴とする化学品の製造装置。
【0015】
(2)分離膜カートリッジが多数本の有機高分子化合物からなる中空糸膜束を備え、中空糸膜束の少なくとも一方の端面が開口された状態で集束部材により集束固定されていることを特徴とする(1)に記載の化学品の製造装置。
【0016】
(3)中空糸膜束の一方の端面が開口された状態で集束部材により集束固定され、他方の端面が閉塞されていることを特徴とする(2)に記載の化学品の製造装置。
【0017】
(4)(1)から(3)のいずれかに記載の化学品の製造装置において、筒状ケース内に壁面に整流孔または整流溝を有する整流筒をさらに備え、筒状ケースは側面に1つ以上の通液可能な通液口を備え、筒状ケース側面の通液口が整流筒の整流孔または整流溝の外側に位置するように配されていることを特徴とする化学品の製造装置。
【0018】
(5)(1)から(4)のいずれかに記載の化学品の製造装置を用いて化学品を得る化学品の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、上述の化学品の製造装置を使用することで、長時間にわたり安定して高生産性を維持し、かつ繰り返し滅菌処理可能な連続発酵が可能となり、広く発酵工業において、発酵生産物である化学品を低コストで安定に生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】

【図1】本発明で用いられる化学品の製造装置を例示するための概略フロー図である。
【図2】本発明で用いられる分離膜モジュールの一態様を示す側面図である。
【図3】本発明で用いられる分離膜モジュールの別の一態様を示す側面図である。
【図4】本発明で用いられる分離膜モジュールのさらに別の一態様を示す側面図、断面図および部材の上面図である。
【図5】本発明で用いられる中空糸膜カートリッジの一態様を示す上方図および側面図である。
【図6】本発明で用いられる中空糸膜カートリッジの別の一態様を示す側面図である。
【図7】本発明で用いられる整流筒の一態様を示した斜視図である。
【図8】本発明で用いられる中空糸膜モジュールのさらに別の一態様を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明で使用される微生物や培養細胞の発酵原料は、発酵培養する微生物や培養細胞の生育を促し、目的とする発酵生産物である化学品を良好に生産させ得るものであればよい。発酵原料としては、例えば、炭素源、窒素源、無機塩類、および必要に応じてアミノ酸、およびビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する通常の液体培地等が好ましく用いられる。前記発酵培養する微生物や培養細胞の生育を促し、目的とする発酵生産物である化学品を良好に生産させ得るものを一部含む液体であれば、例えば廃水または下水も、そのまま、または発酵原料を添加して使用してもよい。
【0022】
上記の炭素源としては、例えば、グルコース、シュークロース、フラクトース、ガラクトースおよびラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉、澱粉加水分解物、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ケーンジュース、甜菜糖蜜またはケーンジュースからの抽出物もしくは濃縮液、甜菜糖蜜またはケーンジュースの濾過液、シラップ(ハイテストモラセス)、甜菜糖蜜またはケーンジュースからの精製もしくは結晶化された原料糖、菜糖蜜またはケーンジュースからの精製もしくは結晶化された精製糖、更には酢酸やフマル酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類、およびグリセリンなどが使用される。ここで糖類とは、多価アルコールの最初の酸化生成物であり、アルデヒド基またはケトン基をひとつ持ち、アルデヒド基を持つ糖をアルドース、ケトン基を持つ糖をケトースと分類される炭水化物のことを指す。
【0023】
また、上記の窒素源としては、例えば、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば、油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。
【0024】
また、上記の無機塩類としては、例えば、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩およびマンガン塩等を適宜使用することができる。
【0025】
本発明において、微生物の発酵は、通常、pHが3〜8で温度が20〜65℃の範囲で行うことができる。発酵培養液のpHは、無機の酸あるいは有機の酸、アルカリ性物質、さらには尿素、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムおよびアンモニアガスなどによって、上記範囲内のあらかじめ定められた値に調節される。
【0026】
発酵生産能力のあるフレッシュな菌体を増殖させつつ行う連続発酵法は、管理上は、通常、単一の発酵槽で行うことが好ましい。しかしながら、菌体を増殖しつつ生産物を生成する連続発酵法であれば、発酵槽の数は問わない。発酵槽の容量が小さい等の理由から、複数の発酵槽を用いることもあり得る。その場合、複数の発酵槽を配管で並列または直列に接続して連続発酵を行っても、発酵生産物の高生産性は得られる。
【0027】
また、発酵槽は耐圧性、耐熱性、耐汚れ性のいずれも有する素材で作られていることが好ましい。発酵槽の形状は円筒型、多角筒型などが例示されるが、発酵原料、微生物、その他発酵に必要な固体・液体・気体を注入して撹拌することができ、必要に応じて滅菌でき、密閉することが可能な形状であれば良い。発酵原料と発酵培養液や微生物の撹拌効率などを考慮すると、円筒型が好ましい。本発明で使用される発酵槽は、発酵槽の外部から発酵槽内部に雑菌が入り増殖することを防ぐため、発酵槽に圧力計を設け、常に発酵槽中の圧力を加圧状態に維持することが好ましい。
【0028】
本発明で使用される微生物や培養細胞としては、真核細胞または原核細胞が用いられ、例えば、発酵工業においてよく使用されるパン酵母などの酵母、大腸菌、乳酸菌、コリネ型細菌などのバクテリア、糸状菌、放線菌、動物細胞および昆虫細胞などが挙げられる。使用する微生物や細胞は、自然環境から単離されたものでもよく、また、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。
【0029】
本発明で用いられる真核細胞の最も際立った特徴は、細胞内に細胞核(核)と呼ばれる構造を持ち、細胞核(核)を有さない原核生物とは明確に区別される。本発明では、その真核細胞のうちで更に好ましくは酵母を好ましく用いることができる。本発明において好適な酵母としては、例えば、サッカロミセス属(Genus Saccharomyces)に属する酵母とサッカロミセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisiae)に属する酵母が挙げられる。
【0030】
本発明で用いられる原核細胞の最も際立った特徴は、細胞内に細胞核(核)と呼ばれる構造をもたないことであり、細胞核(核)を有する真核生物とは明確に区別される。本発明では、その真核細胞のうちで乳酸菌を好ましく用いることができる。
【0031】
本発明の製造方法で得られる化学品は、上記の微生物や培養細胞が発酵培養液中に生産する物質である。化学品としては、例えば、アルコール、有機酸、アミノ酸および核酸など発酵工業において大量生産されている物質を挙げることができる。また、本発明は、酵素、抗生物質および組換えタンパク質のような物質の生産に適用することも可能である。例えば、アルコールとしては、エタノール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、カダベリンおよびグリセロール等が挙げられる。また、有機酸としては、酢酸、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、イタコン酸およびクエン酸等を挙げることができ、核酸であればイノシン、グアノシンおよびシチジン等を挙げることができる。
【0032】
また、本発明の製造装置または製造方法で得られる化学品は、化成品、乳製品、医薬品、食品または醸造品のうち、少なくとも1種を含む流体物、または排水であることが好ましい。ここで化成品としては、例えば、有機酸、アミノ酸および核酸のように、膜分離濾過後の工程により化学製品を作ることに適用可能な物質、乳製品としては、例えば、低脂肪牛乳など、膜分離濾過後の工程により乳製品として適用可能な物質、医薬品としては、例えば、酵素、抗生物質、組み換えタンパク質のように、膜分離濾過後の工程により医薬品を作ることに適用可能な物質、食品としては、例えば、乳酸飲料など、膜分離濾過後の工程により食品として適用可能な物質、醸造品としては、例えば、ビール、焼酎など、膜分離濾過後の工程によりアルコールを含む飲料として適用可能な物質、排水としては、例えば、食品洗浄排水、乳製品洗浄排水などの生産品洗浄後の排水や、有機物を豊富に含む家庭排水などが挙げられる。
【0033】
本発明で乳酸を製造する場合、真核細胞であれば酵母、原核細胞であれば乳酸菌を用いることが好ましい。このうち酵母は、乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子を細胞に導入した酵母が好ましい。このうち乳酸菌は、消費したグルコースに対して対糖収率として50%以上の乳酸を産生する乳酸菌を用いることが好ましく、更に好ましくは対糖収率として80%以上の乳酸菌であることが好適である。
【0034】
本発明で乳酸を製造する場合に好ましく用いられる乳酸菌としては、例えば、野生型株では、乳酸を合成する能力を有するラクトバチラス属(Lactobacillus)、バチラス属(Bacillus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)、テトラゲノコッカス属(Genus Tetragenococcus)、カルノバクテリウム属(Genus Carnobacterium)、カルノバクテリウム属(Genus Carnobacterium)、カルノバクテリウム属(Genus Carnobacterium)、カルノバクテリウム属(Genus Carnobacterium)、バゴコッカス属(Genus Vagococcus)、ロイコノストック属(Genus Leuconostoc)、オエノコッカス属(Genus Oenococcus)、アトポビウム属(Genus Atopobium)、ストレプトコッカス属(Genus Streptococcus)、エンテロコッカス属(Genus Enterococcus)、ラクトコッカス属(Genus Lactococcus)およびスポロラクトバチルス属(Genus Sporolactobacillus)に属する細菌が挙げられる。
【0035】
また、乳酸の対糖収率や光学純度が高い乳酸菌を選択して用いることができ、例えば、D−乳酸を選択して生産する能力を有する乳酸菌としてはスポロラクトバチルス属に属するD−乳酸生産菌が挙げられ、好ましい具体例として、スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス(Sporolactobacillus laevolacticus)またはスポロラクトバチルス・イヌリナス(Sporolactobacillus inulinus)が使用できる。さらに好ましくは、スポロラクトバチルス・ラエボラクティカス ATCC 23492、ATCC 23493、ATCC 23494、ATCC 23495、ATCC 23496、ATCC 223549、IAM12326、IAM 12327、IAM 12328、IAM 12329、IAM 12330、IAM 12331、IAM 12379、DSM 2315、DSM 6477、DSM 6510、DSM 6511、DSM 6763、DSM 6764、DSM 6771などとスポロラクトバチルス・イヌリナスJCM 6014などが挙げられる。
【0036】
L−乳酸の対糖収率が高い乳酸菌としては、例えば、ラクトバシラス・ヤマナシエンシス(Lactobacillus yamanashiensis)、ラクトバシラス・アニマリス(Lactobacillus animalis)、ラクトバシラス・アジリス(Lactobacillus agilis)、ラクトバシラス・アビアリエス(Lactobacillus aviaries)、ラクトバシラス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシラス・デルブレッキ(Lactobacillus delbruekii)、ラクトバシラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバシラス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバシラス・ルミニス(Lactobacillus ruminis)、ラクトバシラス・サリバリス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバシラス・シャーピイ(Lactobacillus sharpeae)、ラクトバシラス・デクストリニクス(Pediococcus dextrinicus)、およびラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)などが挙げられ、これらを選択して、L−乳酸の生産に用いることが可能である。
【0037】
次に、本発明において用いられる分離膜モジュールについて説明する。
【0038】
本発明における分離膜モジュールは、少なくとも筒状ケース、分離膜カートリッジ、シール部材を備えた、カートリッジ式の分離膜モジュールである。分離膜カートリッジは交換可能であることが要求されるため、分離膜カートリッジと筒状ケースの間は接着固定されないが、分離膜モジュールを介して発酵培養液から化学品を含んだ濾過液を得るため、分離膜モジュール内において発酵培養液が通液される空間と濾過液が通液される空間の間は、シール部材を配することで気密かつ液密に封止されていることが要求される。なお、これ以降、発酵培養液が通液される空間を分離膜モジュールにおける1次側、同様に濾過液が通液される空間を分離膜モジュールにおける2次側と呼ぶこととする。
【0039】
分離膜カートリッジは、筒状ケースに接着固定されないが、シール部材を配することにより1次側と2次側が気密かつ液密になるようにして筒状ケース内に収められる形状のものであれば、分離膜カートリッジの様式は特に限定されない。たとえば平膜のスパイラル型エレメントや、中空糸膜を集束部材により束ねたモジュール、セラミック製のモノリス膜などを用いることが可能である。
【0040】
分離膜カートリッジ30は、図2のように筒状ケース40に収められて用いられる。分離膜カートリッジ30を介して発酵培養液から化学品を含む濾過液を分離するため、筒状ケース40は液体の出入り口となる通液口41を2つ以上有していることが要求される。通液口は、1次側に1つ以上配され、2次側にも1つ以上配される。筒状ケース40にキャップ43を装着する場合は、キャップ43に貫通孔を設けて通液口41として用いてもよい。シール部材44は、1次側と2次側の境界に位置するように配される。シール部材44を保持するためには、シール部材44が配される場所に溝などの段差を設けてもよいし、図2に示したように、分離膜カートリッジ30とキャップ43の間に挟まる形で設けられてもよい。
【0041】
筒状ケース40の形状は、円筒や多角筒が例示可能である。中でも、円筒状の筒状ケースは、加工、成型のしやすさや、筒状ケース内の液体や気体の流れが均一になりやすいなどのメリットがあるため好適に用いられる。
【0042】
筒状ケース40を構成する部材は、繰り返しの蒸気滅菌処理で劣化しにくいような部材であることが好ましく、ポリスルホンに例示されるような耐熱性樹脂や、アルミニウム、ステンレス鋼などの金属、さらに、樹脂と金属の複合体や、ガラス繊維強化樹脂、炭素繊維強化樹脂などの複合材料などから適切なものを選択して使用できる。
【0043】
筒状ケース40の内部に中空糸膜カートリッジ30を収める際に、濾過運転を行う最中においても中空糸膜カートリッジ30が筒状ケース40内に保持されることが重要である。保持の方法としては、図3に例示するように、筒状ケース40内に筒状ケース内段差42または凸部を設け、分離膜カートリッジ30が筒状ケース内段差42または凸部おいて懸垂されるように保持する方法が挙げられ、構造が単純になることや、交換が容易になるなどの理由から好適に用いることが可能である。
【0044】
他にも、図4a)のように筒状ケース40の端部よりも外側に分離膜カートリッジ30が出ており、かつその一部にストッパー45を設けることで懸垂および保持する方法も採用できる。ストッパー45の一例を上面から見たものを図4b)に示す。このストッパー45は、ドーナツ型の板に切込みを設けたものであり、適切な大きさの切込みを設けることで、ストッパー45の装着が容易になる。分離膜カートリッジ30には溝が設けられていると、ドーナツ型の空洞部と分離膜カートリッジ30の嵌合がより強固なものになり好ましい。ストッパー45が分離膜カートリッジ30に嵌合した状態を軸方向に切ったときの断面は、図4c)のように例示される。ストッパー45の素材は特に限定されないが、図4b)のように切込みを有する場合は、切り込みを広げてカートリッジ30に装着させることを考えると、フッ素ゴム、シリコンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などのゴム状素材であることが好ましい。分離膜カートリッジが大きく重い場合は、ストッパーの厚みを増すことで分離膜カートリッジをより確実に保持できるようにしてもよい。
【0045】
筒状ケース40の上にキャップ43を設けると、分離膜カートリッジ30が筒状ケース40内にて懸垂保持される場合において、鉛直上向きに力がかかっても分離膜カートリッジ30が保持されるため好ましい。
【0046】
シール部材44は、前述のとおり分離膜モジュール内にて1次側と2次側を気密かつ液密に封止するために配される。分離膜モジュール内に設けられるシール部材44の数については特に限定されないが、シール部材44は分離膜カートリッジ同様に交換するものであることを考えると、なるべく少ないほうが好ましい。シール部材はO−リング、パッキン、ガスケット、シールテープなどが例示でき、繰り返しの蒸気滅菌で劣化しにくい部材からなるものであればよく、酸、アルカリ、塩素などへの耐性も強い部材であればより好ましく用いられる。素材の例としては、フッ素ゴム、シリコンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などが例示できる。
【0047】
分離膜モジュールに用いられる分離膜カートリッジを交換する頻度については特に限定されるものではないが、濾過を行う際に、分離膜の1次側と2次側の差圧が一定値以上で推移するようになれば交換するのが1つの指標となる。分離膜カートリッジを交換する目安の差圧については、用いる微生物および培養細胞の種類や濃度にもよるが、膜間差圧が0.1kPa以上20kPa以下という範囲を目安として用いることが可能である。この範囲を外れた場合、微生物、培養細胞や培地成分の目詰まりが急速に発生し、濾過量の低下を招き、連続発酵運転に不具合を生じることがある。
【0048】
分離膜カートリッジは、なるべく長期間にわたり前述の膜間差圧を維持できるようなものであることが望ましく、少なくとも、1回の連続発酵運転が完了するまでの時間以上は、分離膜モジュールとしての膜間差圧が前述の範囲を維持できることが好ましい。交換頻度が高い場合はカートリッジのコストがかさむことや、本発明における装置のメリットである長期間の連続発酵運転が途中で終了してしまい、化学品の生産性が高くなった状態を長時間維持できないため好ましくない。
【0049】
ただし、分離膜カートリッジの交換頻度があまりに低くなると、分離膜そのものの性能が低下することや、分離膜を洗浄した際に膜性能が回復しにくくなるといった弊害もあるため好ましくない。よって、分離膜カートリッジはある程度の交換サイクルの通りに交換することを前提とし、なるべくコストが安く、かつ耐用期間が長いものであることが好ましい。
【0050】
さらに分離膜カートリッジは、単位体積あたりの膜面積が大きいもののほうが、単位時間あたりの濾過効率がよくなるため好ましい。
【0051】
以上のことから、分離膜カートリッジに使用される膜は中空糸膜が好ましく、かつコストの観点からは安価である有機高分子化合物からなる膜を用いることが好ましい。
【0052】
この有機高分子化合物からなる中空糸膜を構成する有機高分子化合物は、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、セルロース系樹脂およびセルローストリアセテート系樹脂などが例示できる。とりわけ、溶液による製膜が容易で物理的耐久性や耐薬品性にも優れているポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂およびポリアクリロニトリル系樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはそれを主成分とする樹脂が最も好ましく用いられる。ここで主成分とは、その成分が50重量%以上、好ましくは60重量%以上含有することをいう。
【0053】
さらに、ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体が好ましく用いられる。さらに、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体も好ましく用いられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよび三塩化フッ化エチレンなどが例示される。
【0054】
本発明で用いられる中空糸膜においては、発酵培養液への目詰まりのしにくさ、すなわち耐汚れ性(耐ファウリング性)が重要な性能の一つである。このため中空糸膜の平均細孔径と純水透過性能のバランスが重要である。つまり平均細孔径は、膜の汚れ物質が細孔内部に入らない程度に小さい方が好ましいが、一方で、細孔が小さくなると透水性能が小さくなるので、濾過運転時の膜間差圧が大きくなって安定運転ができなくなる。そこである程度透水性能が高い方がよいが、その透水性能の指標として、使用前の中空糸膜の純水透過係数を用いることができる。本発明において、中空糸膜の純水透過係数は、逆浸透膜濾過による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで透水量を測定し算出したときの純水透過係数が、5.6×10−10/m/s/Pa以上1.6×10−8/m/s/Pa以下、好ましくは1.1×10−9/m/s/Pa以上1.3×10−8/m/s/Pa以下、さらに好ましくは1.7×10−9/m/s/Pa以上1.1×10−8/m/s/Pa以下である。
【0055】
また平均細孔径は、透水性能が上述の範囲にあれば使用する目的や状況に応じて適宜決定することができるが、ある程度小さい方が好ましく、通常は0.01μm以上1μm以下であることが良い。中空糸膜の平均細孔径が0.01μm未満であると、糖や蛋白質などの成分やその凝集体などの膜汚れ成分が細孔を閉塞して、安定運転ができなくなる。透水性能とのバランスを考慮した場合、好ましくは0.02μm以上であり、さらに好ましくは0.03μm以上である。また、1μmを超える場合、膜表面の平滑性と膜面の流れによる剪断力や、逆洗やエアースクラビングなどの物理洗浄による細孔からの汚れの成分の剥離が不十分となり、安定運転ができなくなる。さらに中空糸膜の平均細孔径が微生物もしくは培養細胞の大きさに近づくと、これらが直接孔を塞いでしまう場合がある。また発酵培養液中の微生物もしくは培養細胞の一部が死滅することにより細胞の破砕物が生成する場合があり、これらの破砕物によって中空糸膜の閉塞することから回避するために、平均細孔径は0.4μm以下が好ましく、0.2μm以下であれば、より好適に実施することができる。
【0056】
ここで、平均細孔径は、倍率10,000倍以上の走査型電子顕微鏡観察で観察される複数の細孔の直径を測定し、平均することにより求めることができる。10個以上、好ましくは20個以上の細孔を無作為に選び、それら細孔の直径を測定し、数平均して求めることが好ましい。細孔が円状でない場合などは画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円、すなわち等価円を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求めることも好ましく採用できる。
【0057】
本発明で用いられる中空糸膜の外径は、好ましくは0.6mm以上2.0mm以下であり、更に好ましくは0.8mm以上1.8mm以下である。0.6mm未満の細い中空糸膜を用いる場合、有効膜面積が大きくなるため化学品をより多く濾過することが可能となるが、筒状ケースに収める際や、筒状ケース内で発酵培養液を循環させる際に、外力によって中空糸膜が折れたり、中空糸膜が破断したりすることによって発酵培養液が濾液に混入するといった点から好ましくない。さらに、細い中空糸膜を用いる場合には、微生物が中空糸膜束の中に入り込み排出しにくくなる現象が起こるため好ましくない。2.0mmよりも太い中空糸膜を用いる場合、中空糸膜が折れる、破断するといったリスクが少なくて済むが、同じ大きさの中空糸膜カートリッジを製作する際に有効膜面積が小さくなり、単位体積あたりの濾過量が減ることから好ましくない。また、中空糸膜の揺動性が悪くなるため中空糸膜カートリッジ内部からの微生物や汚れ成分の排出性が悪化するので好ましくない。
【0058】
中空糸膜カートリッジ30の構造は、図5に例示されるように、多数本の中空糸膜31が少なくとも一方の端面が開口された状態で集束部材32により集束固定されていると、モジュールの1次側と2次側が気密かつ液密に封止されるようにしながらのカートリッジの交換が容易となるため好ましい。また、集束部材32において中空糸膜31が開口された状態となっている面を開口端面33と呼ぶ。中空糸膜カートリッジ30における集束部材はエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂などから、硬度や接着対象部材との親和性を考慮して任意に選択することが可能である。また、開口端面33を得る方法としては、一度中空糸膜31の端面が埋没するように集束部材32を形成し、後から集束部材32を、中空糸膜31の端面が表面に出るように切る方法が例示できる。
【0059】
中空糸膜カートリッジを懸垂させて筒状ケース内に保持させる場合は、中空糸膜カートリッジの片端のみが集束部材により開口された状態であると、交換がより容易になるため好ましい。このとき、中空糸膜カートリッジのもう片端は中空糸膜端面が封止された状態で用いられる。封止状態を得る方法としては、図6のように中空糸膜31をU字型に曲げて端面を揃えた状態で、集束部材32を形成させた後に中空糸膜端面が表に出るように切る方法や、中空糸膜の端面が埋没するように集束部材を形成させたのちに開口せずに用いる方法が例示できる。また、中空糸膜をU字型に曲げた上で、曲げた箇所にも集束部材を形成すると、集束部材内には中空糸膜の端面がないため、集束部材が劣化しても閉塞部からのリークがおきにくくなるため好ましい。また、カートリッジ下部にも集束部材を有することで、集束部材が錘の役割をするため、筒状ケースにカートリッジを入れやすくなるなど、ハンドリング性が向上するため好ましい。
【0060】
なお、中空糸膜が閉塞している側における集束部材は、すべての中空糸膜を1つの集束部材で集束してもよく、2つ以上の集束部材に分割して集束してもよいが、エアースクラビングによる膜面洗浄を行う場合や、後述するクロスフロー運転の際の流れ性を考慮すると、中空糸膜カートリッジの封止端は2つ以上の集束部材により分割された、小束状で集束されていることが好ましい。
【0061】
本発明におけるカートリッジ式の中空糸膜モジュールについては、整流筒を備えていることが好ましい。整流筒50は、図7a)のように壁面に整流孔51が設けられたものや、図7b)のように整流溝53が設けられたものが例示でき、どちらも筒状ケース内部に収められて用いられる。このとき、筒状ケース側面の通液口が整流筒の整流孔または整流溝の外側に位置するように配されることが好ましい。以下、整流筒を備えるモジュールの利点について説明する。
【0062】
分離膜モジュールは主に、全量濾過またはクロスフロー濾過のいずれかの運転形式により用いられる。全量濾過を行う際は、原液をモジュール外に排出するための通液口が必要ないため、筒状ケースの通液口は原液の供給口と濾過液の排出口の2つがあればよい。しかし、クロスフロー濾過を行うことで、原液である発酵培養液中に含まれる微生物および培養細胞を発酵槽へ戻すことにより、モジュール内に濁質がたまりにくくなるだけでなく、発酵槽内での微生物および培養細胞の濃度が高まり、発酵効率を高めることも可能となる。よって、本発明の化学品の製造方法においては、全量濾過よりもクロスフロー濾過のほうが運転形式としてメリットがある。
【0063】
このとき、クロスフロー濾過を行うには、筒状ケースの通液口が濾過液の排出口1つおよび原液の供給口と排出口が1つずつ、合計3つ必要となる。筒状ケースはその両端に通液口を設けることが出来るとしてもその数は2つにしかならないため、筒状ケースの壁面に3つ目の通液口を設けることが必要となる。
【0064】
壁面に通液口を設けた筒状ケースによるカートリッジ式中空糸膜モジュールの一例を図8に示す。ここで、筒状ケース40の壁面に通液口41aを設けると、通液口41aを介して発酵培養液または濾過液が筒状ケース40内に出入りする際に通液口41a近傍にて圧損が大きくなってしまう。また、通液口41aからクロスフロー運転時や、中空糸膜の逆洗時に液が排出される際に、通液口41aへ中空糸膜が引き込まれることによる中空糸膜の折れなどの破損が懸念される。そこで整流筒50を設けることにより、筒状ケースの壁面40に通液口41aを設けた場合であっても、圧損、中空糸膜の折れ、破損を抑制することができる。ひいては、クロスフロー濾過を行う際の懸念が減り、発酵効率を高めることにもつながるといえる。
【0065】
整流筒に設けられる壁面の整流孔または整流溝の配置について、整流筒のほぼ全面にわたって所定間隔で均一に配置されていてもよいが、図7に示したように、側面の一部(図7のA)には整流孔51または整流溝53を設けず、他の部分に所定間隔で均一に整流孔51または整流溝53を配置することが好ましい。この図7のAのさらに軸方向外周に、筒状ケース壁面に設けた通液口を配することにより、通液口から液を排出する際に生じる中空糸膜の引き込まれや、中空糸膜が引き込まれることに起因する損傷を抑制できる。また、通液口における偏流を小さくする効果もある。なお、図7b)のように、整流筒50に整流溝53を設ける場合は、整流溝53の方向が斜めになっていることが好ましい。これは、整流溝53の向きが中空糸膜と平行になっていると、中空糸膜が整流溝53に引き込まれて破断してしまう懸念が高まるためである。
【0066】
また、筒状ケース内にて整流筒を嵌め込むための機構を設けるなどして、整流筒の位置が固定されることも好ましい。さらに、整流筒内壁に畝を設けることにより、中空糸膜が整流筒に張り付いて整流孔または整流溝が閉塞してしまうことによる通液抵抗の上昇を防いでもよい。また、図7a)のように整流筒50に設けられているのが整流孔51の場合は、複数の整流孔51を連通するように内壁溝52が設けられていてもよい。内壁溝52を設けることにより、中空糸膜が整流筒50の壁面に張りついて整流孔51を閉塞してしまったときにも、閉塞してしまった整流孔51から排出されるべき液体や気体は内壁溝52を介して他の閉塞されてない整流孔51に流れていくため、モジュール全体としての通液抵抗の上昇を抑制することが可能となる。
【0067】
整流筒を形成する部材は、筒状ケースの構成部材と同様に、繰り返しの蒸気滅菌処理で劣化しにくいような部材から選ばれることが好ましい。
【0068】
本発明において、微生物や培養細胞の発酵培養液を分離膜モジュール中の分離膜で濾過処理する際の膜間差圧は、微生物や培養細胞および培地成分が容易に目詰まりしない条件であればよいが、膜間差圧を0.1kPa以上20kPa以下の範囲にして濾過処理することが重要である。膜間差圧は、好ましくは0.1kPa以上10kPa以下の範囲であり、さらに好ましくは0.1kPa以上5kPaの範囲である。上記膜間差圧の範囲を外れた場合、原核微生物および培地成分の目詰まりが急速に発生し、透過水量の低下を招き、連続発酵運転に不具合を生じることがある。
【0069】
濾過の駆動力としては、発酵培養液と多孔性膜処理水の液位差(水頭差)を利用したサイホン、またはクロスフロー循環ポンプにより分離膜に膜間差圧を発生させることができる。また、濾過の駆動力として分離膜処理水側に吸引ポンプを設置してもよい。また、クロスフロー循環ポンプを使用する場合には、吸引圧力により膜間差圧を制御することができる。更に、発酵培養液側の圧力を導入する気体または液体の圧力によっても膜間差圧を制御することができる。これら圧力制御を行う場合には、発酵培養液側の圧力と多孔性膜処理水側の圧力差をもって膜間差圧とし、膜間差圧の制御に用いることができる。
【0070】
また連続発酵における化学品の製造において、分離膜の洗浄に逆圧洗浄や薬液浸漬による洗浄などを行う。例えば逆圧洗浄液には、水や濾過液を用いる他、発酵に大きく阻害しない範囲で、アルカリ、酸または酸化剤を使用することができる。ここで、アルカリは、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液などを挙げることができる。酸は、シュウ酸、クエン酸、塩酸、硝酸などを挙げることができる。また酸化剤は、次亜塩素酸塩水溶液、過酸化水素水などを挙げることができる。この逆圧洗浄液は100℃未満の高温で使用することもできる。ここで、逆圧洗浄とは、分離膜の2次側である濾過液側から、1次側である発酵培養液側へ液体を送ることにより、膜面の汚れ物質を除去する方法である。
【0071】
そのため、本発明の中空糸膜モジュールについては、通常、pHでは2〜12、アルカリ、酸または酸化剤、さらには高温水への耐久性が要求される。
【0072】
なお、逆圧洗浄液の逆圧洗浄速度は、膜濾過速度の0.5倍以上5倍以下の範囲であり、より好ましくは1倍以上3倍以下の範囲である。逆圧洗浄速度がこの範囲より高いと、分離膜に損傷を与える可能性があり、またこの範囲より低いと洗浄効果が充分に得られないことがある。
【0073】
逆圧洗浄液の逆圧洗浄周期は、膜差圧および膜差圧の変化により決定することができる。逆圧洗浄周期は、時間あたり0.5回以上12回以下の範囲であり、より好ましくは時間あたり1回以上6回以下の範囲である。逆圧洗浄周期がこの範囲より多いと、分離膜に損傷を与える可能性があり、またこの範囲より少ないと、洗浄効果が充分に得られないことがある。
【0074】
逆圧洗浄液の逆圧洗浄時間は、逆圧洗浄周期、膜差圧および膜差圧の変化により決定することができる。逆圧洗浄時間は、1回あたり5秒以上300秒以下の範囲であり、より好ましくは1回あたり30秒以上120秒以下の範囲である。逆圧洗浄時間がこの範囲より長いと、分離膜に損傷を与える可能性があり、またこの範囲より短いと、洗浄効果が充分に得られないことがある。
【0075】
また逆圧洗浄をする際に、一旦濾過を停止し、逆圧洗浄液で分離膜を浸漬することができる。浸漬時間は、浸漬洗浄周期、膜差圧および膜差圧の変化により決定することができる。浸漬時間は、好ましくは1回あたり1分以上24時間以下、より好ましくは1回あたり10分以上12時間以下の範囲である。
【0076】
分離膜を複数系列とし、分離膜を逆圧洗浄液で浸漬洗浄する際に、系列を切り替えて、濾過が全停止しないようにすることも好ましく採用できる。
【0077】
連続発酵による化学品の製造では、培養初期にBatch培養またはFed−Batch培養を行って、微生物濃度を高くした後に、連続発酵(引き抜き)を開始しても良い。または、微生物濃度を高くした後に、高濃度の菌体をシードし、培養開始とともに連続発酵を行っても良い。連続発酵による化学品の製造では、適当な時期から原料培養液の供給および培養物の引き抜きを行うことが可能である。原料培養液供給と培養物の引き抜きの開始時期は必ずしも同じである必要はない。また、原料培養液の供給と培養物の引き抜きは連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。
【0078】
原料培養液には菌体増殖に必要な栄養素を添加し、菌体増殖が連続的に行われるようにすればよい。発酵培養液中の微生物または培養細胞の濃度は、発酵培養液の環境が微生物または培養細胞の増殖にとって不適切となって死滅する比率が高くならない範囲で、高い状態で維持することが、効率よい生産性を得る上で好ましい態様である。発酵培養液中の微生物または培養細胞の濃度は、一例として、SL乳酸菌を用いたD−乳酸発酵では、乾燥重量として、微生物濃度を5g/L以上に維持することにより良好な生産効率が得られる。
【0079】
連続発酵による化学品の製造では、必要に応じて発酵槽内から微生物または培養細胞を引き抜くことができる。例えば、発酵槽内の微生物または培養細胞濃度が高くなりすぎると、分離膜の閉塞が発生しやすくなることから、引き抜くことで、閉塞から回避することができる。また、発酵槽内の微生物または培養細胞濃度によって化学品の生産性能が変化することがあり、生産性能を指標として微生物または培養細胞を引き抜くことで生産性能を維持させることも可能である。
【0080】
連続発酵による化学品の製造では、発酵生産能力のあるフレッシュな菌体を増殖させつつ行う連続培養操作は、菌体を増殖させつつ生産物を生成する連続培養法であれば、発酵反応槽の数は問わない。連続発酵による化学品の製造では、連続培養操作は、通常、培養管理上単一の発酵反応槽で行うことが好ましい。発酵反応槽の容量が小さい等の理由から、複数の発酵反応槽を用いることも可能である。この場合、複数の発酵反応槽を配管で並列または直列に接続して連続培養を行っても発酵生産物の高生産性は得られる。
【0081】
以下、本発明の化学品の製造装置について、図を用いて説明する。
【0082】
図1は、本発明で用いられる化学品の製造装置を例示するための概略フロー図である。図1において、化学品の製造装置は発酵槽1と分離膜モジュール2で基本的に構成されている。ここで、分離膜モジュール2は、筒状ケース、分離膜カートリッジ、シール部材を備え、筒状ケースに、分離膜カートリッジを収め、シール部材により1次側と2次側が気密かつ液密になるように封止された、カートリッジ式の分離膜モジュールである。分離膜モジュール2は、循環ポンプ8を介して発酵槽1に接続されている。
【0083】
発酵槽1内での連続発酵は、培地供給ポンプ9によって培地を発酵槽1に投入し、必要に応じて、撹拌装置4で発酵槽1の中の発酵培養液を撹拌し、また、必要に応じて、発酵槽気体供給装置17によって適切な気体を供給することや、必要に応じてpH、pHセンサー・制御装置5および中和剤供給ポンプ10によって中和剤を供給し、発酵培養液のpHを調節することにより、高い生産性を維持しながら行われる。
【0084】
また、発酵の進行に伴い、発酵槽1内の内圧が上昇することがある。気体を供給する場合を考えると発酵槽1の内部は陽圧であることが好ましいが、過度な陽圧になると発酵槽1が破損するため、内圧を発酵槽圧力調整バルブ18および発酵槽圧力計19により制御できる。
【0085】
さらに、装置内の発酵培養液は、循環ポンプ8によって発酵槽1と分離膜モジュール2の間を循環する。化学品を含む発酵培養液は、分離膜モジュール2によって微生物と化学品を含む濾過液に濾過・分離され、装置系から取り出すことができる。また、濾過・分離された微生物は装置系内にとどまるため、装置系内の微生物濃度を高く維持することができ、生産速度の高い発酵生産が可能となる。ここで、分離膜モジュール2による濾過・分離には、循環ポンプ8による圧力によって、特別な動力を使用することなく実施可能であるが、必要に応じて濾過ポンプ11を設け、差圧センサー・制御装置7によって発酵培養液量を適当に調整することができる。必要に応じて、温度制御装置3によって、発酵槽1の温度を微生物/培養細胞が活性化する温度に維持することができるため、微生物濃度を高く維持することができる。
【0086】
さらに、分離膜モジュール2の2次側に逆洗用配管を設け、必要に応じて、逆洗ポンプ13を用いて逆洗液を投入することができる。この際、必要に応じて、濾過ポンプ11、濾過バルブ12、逆洗ポンプ13および逆洗バルブ14を、制御装置を用いて、分離膜濾過が行う際には逆洗バルブ14を閉め、逆洗ポンプ13を止めるとともに、濾過バルブ12を開け、濾過ポンプ11を作動させ、分離膜濾過を行わないときには、濾過バルブ12を閉め、濾過ポンプ11を止めるとともに、逆洗バルブ14を開け、逆洗ポンプ13を作動させることで逆洗を行うこともできる。また、配管気体供給制御バルブ15と配管スクラビング気体供給装置16を用いることにより、分離膜モジュール内部に気体を供給して、分離膜表面に堆積した詰まり物質の洗浄を行うこともできる。配管気体供給制御バルブ15と配管スクラビング気体供給装置16は必要に応じてタイマーや制御装置によって制御され、スクラビング気体の供給を制御する。また必要に応じて、差圧センサー7によって分離膜モジュール2の差圧を測定し、必要に応じて、配管気体供給制御バルブ15を調整することができる。
【0087】
図2は、本発明で用いられる分離膜モジュールの好ましい一態様を側面から見た図である。
【0088】
分離膜モジュール2は分離膜カートリッジ30と筒状ケース40を備え、分離膜カートリッジ30は筒状ケース40と接着固定されない状態で筒状ケース40内に収められて用いられる。筒状ケース40には液体の出入り口となる通液口41が2つ備えられ、それぞれの外側にキャップ43が配されている。キャップ43はそれぞれ貫通孔を有しており、1つが1次側の通液口として使用され、もう1つが、2次側の通液口として用いられる。さらに、1次側と2次側が気密かつ液密に封止されるためにシール部材44が配されている。
【0089】
図3は、本発明で用いられる中空糸膜モジュールの別の一態様を示した図である。
【0090】
分離膜カートリッジ30は、筒状ケース40内に設けられた筒状ケース内段差42において、筒状ケース40内に懸垂するように保持されている。さらに、筒状ケース40の上部には、分離膜カートリッジ30に鉛直上向きに力がかかっても分離膜カートリッジ30が保持されるように、キャップ43を設けている。キャップ43の上部には貫通孔が備えられており、これが2次側の通液口として用いられる。なお、筒状ケース40の下部にも通液口41を設けたキャップ43が配されており、これが1次側の通液口として用いられる。
【0091】
図4は、本発明で用いられる中空糸膜モジュールのさらに別の一態様を示した図である。図4a)は分離膜カートリッジ30が筒状ケース40に保持された状態を側面から見た図であり、図4b)は分離膜カートリッジ30を保持するためのストッパー45の一態様を上面から見た図であり、図4c)は分離膜カートリッジ30にストッパー45が嵌合した状態を、分離膜カートリッジ30の軸に沿って切ったときの断面図である。
【0092】
分離膜カートリッジ30の全長は筒状ケース40よりも長く、分離膜カートリッジ30を筒状ケース40に収めた際に、分離膜カートリッジ30が筒状ケース40よりも外に出る。分離膜カートリッジ30にストッパー45を装着することで、分離膜カートリッジ30が保持される。分離膜カートリッジ30にはストッパー45を保持するための機構、たとえば溝などが設けられている。ストッパー45よりもさらに外側には、図3に示された中空糸膜モジュールと同様に、通液口41を設けたキャップ43が配されてもよい。
【0093】
図5は、本発明で用いられる中空糸膜カートリッジの好ましい一態様を示した図である。図5a)は中空糸膜カートリッジ30aを、開口端面33から見た図であり、図2b)は中空糸膜カートリッジ30aを側面から見た図である。
【0094】
中空糸膜カートリッジ30aは、多数本の中空糸膜31が集束部材32により集束固定されてなる。また、少なくとも一方の端部において、集束部材の端面が開口端面33となっている。
【0095】
図6は、本発明で用いられる中空糸膜カートリッジの別の一態様を側面から見た図である。
【0096】
中空糸膜カートリッジ30aは、多数本の中空糸膜31が集束部材32により集束固定されてなる。また、一方の端部において、集束部材32の端面が開口端面33となっており、他方の端部は封止された中空糸膜閉塞部34となっている。
【0097】
中空糸膜閉塞部34は、図6のように中空糸膜31がU字になるように曲げられている状態でもよく、中空糸膜集束部材32により複数本の中空糸膜31の端面が埋没するようにした状態のものでもよい。
【0098】
図7は、本発明で用いられる整流筒の一態様を示した図である。
【0099】
図7a)は整流筒50の壁面に複数の整流孔51が設けられ、整流筒50の内壁に複数の整流孔51どうしを連結するように1本以上の内壁溝52が設けられている。また、図7b)は整流筒50の壁面に複数の整流溝53が設けられている。なお、整流筒50が筒状ケースに収められる場合は、図7a)、図7b)どちらの場合でも、図中Aの軸方向外周に、筒状ケース側面の通液口が位置するように配されることが好ましい。
【0100】
図8は、本発明で用いられる中空糸膜モジュールのさらに別の一態様を示した図である。
【0101】
筒状ケース40の中には、中空糸膜カートリッジ30aおよび整流筒50が収められている。整流筒50は筒状ケース40内の筒状ケース内段差42bにて保持され、かつその上に中空糸膜カートリッジ30が配されるため、より強固に保持される。筒状ケース40側面に設けられた通液口41と整流筒50の位置関係は、整流筒50の図6Aで示される箇所の外側に、筒状ケース側面の通液口41が位置するものとする。中空糸膜カートリッジ30aは、同様に筒状ケース40内の、筒状ケース内段差42aにて懸垂、保持される。2つの筒状ケース内段差42a、42bは、中空糸膜カートリッジ30aを保持するための筒状ケース内段差42aのほうがより筒状ケース40の開口部に近いほうに位置するよう配される。
【0102】
筒状ケース40の上下には、通液口41を設けたキャップ43がそれぞれ配される。キャップ43と中空糸膜カートリッジ30aの開口端面33の間には、シール部材44が配され、1次側と2次側の間を気密かつ液密に封止している。キャップ43または中空糸膜カートリッジ30aの開口端面33のいずれかには、シール部材44がずれにくいように溝などの機構が設けられていても良い。
【0103】
このようにして組み立てられた中空糸膜モジュール2は、2箇所の通液口41aにおいてそれぞれ発酵槽1と連通するように接続され、通液口41bにおいて濾過ポンプ11や逆洗ポンプ13などに連通するよう接続されて用いられる。
【実施例】
【0104】
(実施例1)加圧式ポリフッ化ビニリデン中空糸膜モジュール(HFU2020 東レ製)を解体し、中空糸膜束から接着固定されていない部分のみを切り出し、ポリフッ化ビニリデン中空糸膜を分離膜として得たのち、これを長さが900mmになるように切り揃えた。内径φ100mmの円筒状容器の中に集束部材として用いるポリウレタン樹脂、SA−7068A(サンユレック製)64質量とSA−7068B(サンユレック製)100質量を混合、脱泡させたものを流し込み、束状中空糸膜の片端を入れたのちに硬化させて集束部材を形成した。同様にして、内径φ90mmの円筒状容器を用いて中空糸膜のもう一端も集束させたのち、φ100mmの集束部材のみスライスして開口させ、中空糸膜カートリッジを得た。
【0105】
これを、内径φ105mm、長さ1000mmのポリスルホン製筒状ケース内に収めて、カートリッジ式中空糸膜モジュールとした。なお、筒状ケース内には段差が設けられ、段差を境にして筒状ケースの内径はφ95mmとなっている。筒状ケースの上下にはそれぞれキャップを配し、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)製のO−リング2本を、中空糸膜カートリッジ閉塞部材の端面とキャップとの間に配することで1次側と2次側が気密かつ液密になるように封止した。
【0106】
この中空糸膜モジュールの通液口を1次側、2次側をすべて蒸気が漏れないように封止したのち、1次側を1箇所だけ開放して蒸気供給源を漏れがない様に接続し、121℃の飽和水蒸気を20分間、モジュール内に供給して蒸気滅菌処理を行った。滅菌処理後は室温まで自然冷却させ、再度121℃、20分蒸気滅菌処理を行う耐久性試験を実施した。121℃、20分の蒸気滅菌処理を15サイクル実施する(累計処理時間が5時間となる)ごとに、カートリッジ式中空糸膜モジュールの通液口から100kPaの圧縮空気を導入し、エアリークがないかどうかを確認した。
【0107】
このカートリッジ式中空糸膜モジュールは、150サイクル(累計処理時間50時間)の蒸気滅菌処理を行ってもエアリークがないことを確認した。
【0108】
(実施例2)実施例1と同様の方法で中空糸膜を得たのち、長さが1800mmになるように切り揃えた。実施例1と同様に、内径φ100mmの円筒状容器内にポリウレタン樹脂を流し込み、U字型になるように折り曲げた中空糸膜の開口端を入れて硬化させ、集束部材を形成した。その後、集束部材をスライスして開口させて中空糸膜カートリッジを得た。
【0109】
これを実施例1と同じポリスルホン製筒状ケースに収め、筒状ケース上下にそれぞれキャップを配し、中空糸膜カートリッジの開口端面とキャップの間にEPDM製のO−リング1本を配してカートリッジ式モジュールとした。その後、実施例1と同様の方法で繰り返し蒸気滅菌処理を行い、エアリークがないかどうかを確認した。
【0110】
このカートリッジ式中空糸は、150サイクルの蒸気滅菌処理を行ってもエアリークがないことを確認した。
【0111】
(比較例1)実施例1と同様の方法で中空糸膜を得たのち、長さが1100mmになるように切り揃えた。これを実施例1と同じ筒状ケース内に収め、集束部材に用いたポリウレタン樹脂と同じものを用いて筒状ケースに接着させた。その後、筒状ケース端面でスライスし、筒状ケース上下にそれぞれキャップを配して中空糸膜モジュールとした。さらに、実施例1と同様の方法で繰り返し蒸気滅菌処理を行い、エアリークがないかどうかを確認した。
【0112】
この中空糸膜モジュールは、45サイクル(累計処理時間15時間)の蒸気滅菌処理まではエアリークがないことを確認したが、60サイクル(累計処理時間20時間)の蒸気滅菌処理後に筒状ケースと集束部材の間からエアリークが発生した。
【0113】
実施例1および2で作製したモジュールを、図1中の分離膜モジュール2として用いて、図1の連続発酵装置および表1に示す組成の乳酸発酵培地を用い、D−乳酸の製造を行った。分離膜モジュール2は、発酵槽1と接続し、使用前に121℃、20分飽和水蒸気と接触させて蒸気滅菌をした。
【0114】
運転条件は以下のとおりであった。
発酵槽容量:20(L)
発酵槽有効容積:15(L)
温度調整:37(℃)
発酵槽通気量:窒素ガス2(L/min)
発酵槽攪拌速度:600(rpm)
pH調整:3N Ca(OH)2によりpH6に調整
乳酸発酵培地供給:発酵槽液量が約15Lで一定になる様に制御して添加
発酵培養液循環装置による循環液量:20(L/min)
膜濾過流量制御:吸引ポンプによる流量制御
間欠的な濾過処理:濾過処理(9分間)〜濾過停止処理(1分間)の周期運転
膜濾過流束:0.01(m/day)以上5(m/day)以下の範囲で膜間差圧が20kPa以下となる様に可変。膜間差圧が範囲を超えて上昇し続けた場合は、連続発酵を終了した。
【0115】
微生物としてSporolactobacillus laevolacticus JCM2513(SL株)を用い、生産物である乳酸の濃度の評価には、下記に示したHPLCを用いて以下の条件下で行った。
【0116】
【表1】

【0117】
カラム:Shim-Pack SPR-H(島津社製)
移動相:5 mM p-トルエンスルホン酸(0.8 mL/min)
反応相:5 mM p-トルエンスルホン酸、20 mM ビストリス、0.1 mM EDTA・2Na(0.8 mL/min)
検出方法:電気伝導度
カラム温度:45℃
なお、乳酸の光学純度の分析は、以下の条件下で行った。
カラム:TSK-gel Enantio L1(東ソー社製)
移動相 :1 mM 硫酸銅水溶液
流束:1.0 mL/分
検出方法 :UV 254 nm
温度 :30℃
L-乳酸の光学純度は、次式(i)で計算される。
光学純度(%)=100×(L-D)/(D+L) ・・・(i)
また、D-乳酸の光学純度は、次式(ii)で計算される。
光学純度(%)=100×(D-L)/(D+L) ・・・(ii)
ここで、LはL-乳酸の濃度を表し、DはD-乳酸の濃度を表す。
【0118】
培養は、まずSL株を試験管で5mLの乳酸発酵培地で一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mLに植菌し、500mL容坂口フラスコで24時間、30℃で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、図1に示す連続発酵装置の1.5Lの発酵槽1に培地を入れて植菌し、発酵槽1を付属の攪拌機4によって攪拌し、発酵槽1の通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、発酵培養液循環ポンプ8を稼働させることなく、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、発酵培養液循環ポンプ8を稼働させ、前培養時の運転条件に加え、乳酸発酵培地の連続供給を行い、連続発酵装置の発酵培養液量を2Lとなるよう膜透過水量の制御を行いながら連続培養し、連続発酵によるD−乳酸の製造を行った。連続発酵試験を行うときの膜透過水量の制御は、定量濾過ポンプ11により濾過量が発酵培地供給流量と同一となるように制御した。適宜、膜透過発酵培養液中の生産されたD−乳酸濃度および残存グルコース濃度を測定した。
【0119】
連続発酵試験を行った結果を表2に示す。
【0120】
【表2】

【0121】
実施例1により得られたモジュールを用いた場合、安定したD−乳酸の連続発酵による製造が可能であった。連続発酵を550時間行うことができ、最大D−乳酸生産速度は5.3[g/L/hr]であった。
【0122】
また、実施例2により得られたモジュールを用いた場合は、安定したD−乳酸の連続発酵による製造が可能であった。連続発酵を550時間行うことができ、最大D−乳酸生産速度は5.5[g/L/hr]であった。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の分離膜モジュールを用いれば、簡便な操作条件で、長時間にわたり安定して高生産性を維持し、かつ滅菌処理可能な連続発酵が可能となり、広く発酵工業において、発酵生産物である化学品を低コストで安定に生産することが可能となる。
【符号の説明】
【0124】
1 発酵槽
2 分離膜モジュール
3 温度制御装置
4 攪拌装置
5 pHセンサー・制御装置
6 レベルセンサー・制御装置
7 差圧センサー
8 循環ポンプ
9 培地供給ポンプ
10 中和剤供給ポンプ
11 濾過ポンプ
12 濾過バルブ
13 逆洗ポンプ
14 逆洗バルブ
15 配管気体供給制御バルブ
16 配管スクラビング気体供給装置
17 発酵培養槽気体供給装置
18 発酵培養槽圧力調整バルブ
19 発酵培養槽圧力計
30 分離膜カートリッジ
30a 中空糸膜カートリッジ
31 中空糸膜
32 集束部材
33 開口端面
34 中空糸膜閉塞部
40 筒状ケース
41 通液口
41a 通液口(1次側・発酵培養液)
41b 通液口(2次側・濾液)
42 筒状ケース内段差
42a 筒状ケース内段差
42b 筒状ケース内段差
43 キャップ
44 シール部材
45 ストッパー
50 整流筒
51 整流孔
52 内壁溝
53 整流溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物の発酵培養により発酵原料から化学品を含有する発酵培養液への変換を行う発酵槽と、発酵培養液から濾過液として化学品を回収するための分離膜モジュールとを備えた化学品の製造装置であって、分離膜モジュールが、筒状ケース、分離膜カートリッジおよびシール部材を備えたカートリッジ式の分離膜モジュールであり、分離膜カートリッジは筒状ケースと接着固定されない状態で筒状ケース内に収められ、シール部材は、分離膜モジュール内において発酵培養液が通液される空間と、濾過液が通液される空間との間を気密かつ液密に封止するように配されることを特徴とする化学品の製造装置。
【請求項2】
分離膜カートリッジが多数本の有機高分子化合物からなる中空糸膜束を備え、中空糸膜束の少なくとも一方の端面が開口された状態で集束部材により集束固定されていることを特徴とする請求項1に記載の化学品の製造装置。
【請求項3】
中空糸膜束の一方の端面が開口された状態で集束部材により集束固定され、他方の端面が閉塞されていることを特徴とする請求項2に記載の化学品の製造装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の化学品の製造装置において、筒状ケース内に壁面に整流孔または整流溝を有する整流筒をさらに備え、筒状ケースは側面に1つ以上の通液可能な通液口を備え、筒状ケース側面の通液口が整流筒の整流孔または整流溝の外側に位置するように配されていることを特徴とする化学品の製造装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の化学品の製造装置を用いて化学品を得る化学品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−161288(P2012−161288A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24553(P2011−24553)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度新エネルギー・産業技術総合開発機構、「微生物機能を活用した環境調和型製造基盤技術開発/微生物機能を活用した高度製造基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】